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講義レジュメNo.02
商法 II(会社法)講義資料 No.02 第2章 I 会社の意義と能力 会社の定義 1 定義 会社は商法または有限会社法に基づいて設立された「営利」を目的とする「社団」 「法人」 (§52、§54I。有§1)。 2 商人性と商行為性 会社はすべて商人であり、会社の行為はすべて商行為となる。 (1)商人性:商事会社は§4Iにより(固有の)商人とされ、民事会社は§4II により(擬制)商 人とされる(固有の商人と擬制商人とで法的な差異はない)。 (2)商行為性:商事会社の営業の目的たる行為は§501 又は§502 により商行為とされ、民 事会社の営業の目的たる行為は商行為でないが§523 により商行為の規定が準用される。そ してすべての会社につき営業のためにする行為は§503 により商行為となる(会社において、 営業の目的たる行為及び営業のためにする行為以外の行為は存在しない)。 Ⅱ 営利性 ここでいう営利とは、対外的な取引活動によって利益を上げることを目指すというだけ でなく、そうして上げた利益を構成員に分配することを目的とすることをいう((1)営利活動 と(2)利益の分配)。 ・商人となるための要件としての「営利性」は(1)のみを指す点で異なる ・ 団体の内部活動自体によって直接に構成員が利益を受ける相互会社や協同組合等との 区別の基準となる(これらは(1)(2)ともに目的としない→営利法人とはされず、商人性も 否定される)。 ※会社は営利活動を目的とするが、営利活動以外の活動(慈善事業など)を行うことはできる。 Ⅲ 社団性 1 社団・組合峻別論 社団という語は、民法上、組合と対比されるものとして使用されてきた(権利能力なき社 団の存在を認め、組合とは切り離して、社団法人に準じて取り扱う)。そこでは、社団と組 合を区別する基準を巡って議論がなされている。 ・会社法上、会社はすべて社団(一定の目的のために結合した人の集合)とされる(52)。 この社団とは民法上の組合と区別されるものとしての社団だとすると、社団であるはずの 合名会社および合資会社に組合の規定が準用される(68・147)理由の説明がつかない。 ・社団ならば、その内部関係は団体と構成員の関係となり、組合なら団体自体が独立した 存在ではないので、団体の内部関係は構成員相互の関係ということになるが、合名・合資 会社の内部関係はどうなるのか(組合・社団と法人格の関係)。 1 商法 II(会社法)講義資料 No.02 2 会社法のいう社団とは? 多数説は、52 条の社団とは、組合と区別されるものとしての社団ではなく、財団(一定 の目的のためにささげられた一団の財産)に対する概念であり、広く、共同の目的を有す る複数人の結合体としての団体を意味する、と理解する。→民法上の組合もここでいう社 団に該当する。:詳しくは教科書6p論点1参照。 社団は人の集まりであるが、ここでいう「人」には、法人も含む。自然人の社員がおら ず、法人のみを構成員とする会社その他の社団は数多く存在する(純粋持株会社の傘下に ある株式会社など)。 会社という社団の構成員を「社員」と呼ぶ。日常用語の従業員を意味する社員とは区別 する必要がある。株式会社では、社員のことを特に「株主」と呼ぶ。 3 一人会社 会社が人の集まりとしての団体であるとすれば、社員が一人の会社は社団性がないこと になるか? (1)合名会社・合資会社:合名会社では社員が一人になることは会社の解散原因となる(94)。 合資会社も同様(147)。 (2)株式会社・有限会社:株式会社では社員が一人になることは解散原因とされていない(404 参照)。かつて株式会社で一人会社が認められるか議論されていたが、経済的実態として存 在を否定できず(100%子会社の存在)、株式が他に譲渡されれば社員が複数になり得るので 潜在的社団性があるなどとして、これを認めるのが通説・判例だった。そして平成2年改 正で、有限会社につき社員が一人となることを解散原因から削除し(有 69 参照)、また株式 会社の設立の際の発起人の人数規制を撤廃し(165)、一人会社を間接的に容認するようにな った。 →合名・合資会社と異なり、株式会社・有限会社では社員数ではなく、会社財産が重要。 →現在では、一人会社が認められるかどうかよりも、一人会社に特有の問題の解釈、弊害 除去のための立法論が議論の中心となっている。 IV 1 法人性 法人性の意味 会社は法人であり(54I、有1II)、社員とは別個独立の権利義務の主体である。会社は自 分自身の財産をもち、会社の名で訴えまた訴えられる。このように法人とされることで団 体の法律関係の処理が簡明になる。 ★団体のうちどのような種類のものに法人格を認めるかは立法政策によって異なる。そし て法人とされることから当然に特定の属性をもつことにもならない。 ・法人の理想形として認められる属性は、 (1)権利義務の帰属主体となる。 (2)その名前で訴訟の当事者となる。 2 商法 II(会社法)講義資料 No.02 (3)その法人名義の債務名義によってのみ強制執行を受ける。 (4)法人財産が社員の債権者の責任財産とならず専ら法人債権者の責任財産となる。 (5)法人財産の充実維持のための規制がなされる。 (6)社員の有限責任。 →株式会社・有限会社はこれらすべての属性を満たす。 →合名・合資会社では、(4)は不完全(§91、§147 参照)で、(5)(6)はない。(1)∼(3)は法人で あることにより最低限有する属性(ただし、法人格のない権利能力なき社団にも(1)∼(3)は認 められるので、法人と非法人を区別する基準にはならない)。 ・ なお、会社は法人として、自己固有の商号、住所(=本店所在地 54II 、有 4)をもつ。 2 法人格否認の法理(教科書7p論点2参照) (1)意義と内容 法人格否認の法理とは、法人制度の目的に照らして、ある会社の形式的独立性を貫くこ とが正義・衡平の理念に反すると認められる場合、または会社という法形態が法人格の目 的をこえて不法に利用されている場合に、その会社の存在を全面的に否定するのではなく、 その法人としての存在を認めつつ、特定の事案の妥当な解決のために必要な範囲で、一時 相対的に、法人格の機能(会社と社員の分離)を否定して、会社と社員(支配株主等)を同一視 する法理。 ←小規模閉鎖会社や支配従属関係にある会社を巡るさまざまな法的問題の中で、特に会社 債権者保護に関して展開される。 →アメリカ法を参考にして学説上議論されていた。日本法において根拠は民§1III 又は民 §1II(多数説)。 (2)昭和44年最高裁判決(最判昭 44.2.27 民集 23.2.511 百選3事件) 事案:XはY会社と店舗の賃貸借契約を締結していた。Yは電器機器販売業をしていたが 実質的には代表取締役Aの個人企業であり、Xは電気屋のAと契約したつもりであった。 その後XはAを相手に賃貸家屋の明渡請求訴訟を提起し、賃貸借契約を解除する和解が成 立した。和解に基づきXはAに家屋の明渡しを求めたが、Aは和解の当事者はXAだから Aが使用していた部分は明け渡すがYが使用している部分は明渡しを拒否した。そこでX がYを相手に提訴した。 判旨:「…法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法の適用を回避するために濫 用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に 照らして許すべからざるものというべきであり、法人格を否認すべきことが要請される場 合を生じるのである。…会社という法的形態の背後に存在する実体たる個人に迫る必要を 生じるときは、会社名義でなされた取引であっても、相手方は会社という法人格を否認し てあたかも法人格がないのと同様、その取引を背後者たる個人の行為であると認めて、そ の責任を追及することを得、そして、また、個人名義でなされた行為であっても、相手方 3 商法 II(会社法)講義資料 No.02 は商法 504 条をまつまでもなく、直ちにその行為を会社の行為であると認め得る…」 (3)法人格否認の要件 (1)法人格の濫用事例 ①支配要件=法人格がその背後にあって支配している者により単なる道具として意のま まに支配されていること。 ②主観的要件(濫用目的)=法人格を違法・不当な目的のために利用するという目的。 →類型 a)法の潜脱(法定の競業避止義務の潜脱、会社を被保険者とする保険につき社員による故 意の事故招致、労働組合員解雇のための偽装解散) b)契約上の義務の潜脱(契約上の競業避止義務回避、会社債務の免脱のための別会社設立) c)過小資本会社の設立による不法行為責任の限定を目指す場合 (2)法人格の形骸化事例 「形骸」という語自体が比喩的で、必ずしも明らかでない。→法人とは名ばかりで実質的 には個人営業又は親会社の営業の一部門にすぎない場合。 ・以下の諸点等を勘案して判断される(必ずしもすべてが必要ではない)。 A全株式の所有(名義が別でも実質一人会社であること) B経営の実権 C主体の混同 D会社財産と個人財産の区分不分明 E会社法上の手続不遵守 F過小資本 G会社利益の搾取 (4)効果 会社の存在を全面的に否定するのではなく、特定のある局面で、会社の行為を株主個人 の行為と同視したり、有限責任を否定したりする。 ・なお、この法理は取引行為だけでなく、不法行為の場合にも適用される。 ・また会社・社員の側からこの法理の援用はできないと解されている。 (5)法人格否認の法理の役割 法人格否認の法理は一般条項であり、また特に形骸化事例では要件があいまいなことか ら、適用は慎重になされるべきといわれる。法人格否認の法理を持ち出さずに既存の法規 定や契約内容の解釈から妥当な解決が図られる場合が多々あり、それが不可能なときだけ、 最後のより所としてこの法理を用いるべき。 4 商法 II(会社法)講義資料 No.02 →例えば、実質的に個人営業の会社が破綻した際に会社債権者が会社の背後にある個人に 責任追及する手段として、取締役の第三者に対する責任(266 ノ 3)が法人格否認の法理に 代わり、一定の役割を果たしている。 Ⅴ 会社の能力 1 会社の権利能力 自然人である商人の権利能力には制限はないが、法人である会社の権利能力に関しては、 次のような制限が問題になる。 (1) 性質または法令による制限 a)自然人に特有の権利義務を有しない ex.身体、生命に関する権利や親族関係を前提とする権利義務 →名誉権のような人格権は有しうる b)法令による制限:他の会社の無限責任社員となることはできない(55、有 4) (2) 定款所定の目的による制限 ・民 43 は会社にも適用ないし類推適用され、会社の権利能力も定款所定の目的により 制限されると解されている(判例)→類推適用を否定する学説も有力 ・近時、取引の安全への配慮から、定款所定の目的の範囲を緩やかに解釈する。 ①定款所定の目的自体に含まれなくても、目的遂行に必要な行為は範囲に入る ②目的遂行に必要かどうかは、定款の記載自体から観察して客観的・抽象的に必要であ りうるかどうかの基準による ・取締役の目的の範囲外の行為に対する効果 ①株主(有:社員)または監査役は、行為の差し止め請求権を有する ②取締役の忠実義務違反となり、損害賠償責任を生じる→代表訴訟の対象となる ・会社の政治献金について(百選2事件参照) →最判昭 45・6・24 は、社会の期待・要請に応えるものであり、かつ、応分のものである 限り、取締役の忠実義務に違反しない、とした。 ※政治献金については、現在では公職選挙法 199 条や政治資金規制法 21~22 条によっ て規制されており、政治献金自体は違法・無効なものではないが、限度額規制や透明性 の確保が要請されている。 ※近時、企業が営利活動だけでなく、環境や社会問題などに対して積極的に社会に有益 な取り組みを行うべきであるとする CSR(企業の社会的責任)の考え方が注目されつ つある。 2 会社の行為能力・不法行為能力 ① 行為能力:会社は法人であり、権利義務の主体となりうるが、自ら実際に行為をす ることはできない。自然人によって構成される会社の機関(株式会社では株主総会、 5 商法 II(会社法)講義資料 No.02 取締役会、代表取締役、監査役)の意思決定と行為が会社自身の意思決定と行為と して法的に評価される。機関の対外的活動を代表といい、代理の規定が類推適用さ れる。 ② 不法行為能力:会社の代表機関がその職務を行う際に他人に損害を加えた場合は、 会社は不法行為に基づく損害賠償責任を負う(78II,135,147,261III,430II,有 32、 民 44I)→民事責任 代表機関を構成する自然人自身の不法行為責任(民 709)を排除するものではない。 ③ 法人の刑事責任 ・会社法上は、法人には犯罪能力がないとする刑法理論を前提とし、会社自体を処 罰せず、行為者である自然人(取締役・監査役・清算人・発起人・執行役等)を処 罰する。 ・不正競争防止法、独占禁止法、銀行法、保険業法、証券取引法、知的所有権法等 の分野では、行為者自身のほか法人も処罰する両罰規定が置かれる。法人には自由 刑ではなく罰金刑であるが近時法人に対する罰金刑の法定刑が高額化している。 6