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太平洋周縁地域における扇状地の分布と気候条件 - SUCRA

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太平洋周縁地域における扇状地の分布と気候条件 - SUCRA
埼玉大学教育学部地理学研究報告 33 号 2013
太平洋周縁地域における扇状地の分布と気候条件
斉藤享治(埼玉大学)
量)や起伏比が大きく,気候条件と相関関係も強
く,そもそも台湾の扇状地の存在・分布を有利に
Ⅰ.はじめに
している台湾の気候条件とはどのようなものであ
るのか明らかにされていない。
太平洋西縁の変動帯には,数多くの扇状地が分
そのようなことから,地形条件と相関関係の高
布するが,どこにでもあるわけではない。集水域
2
い台湾の気候条件を用いず,さらに太平洋東縁の
以上,平均勾配 2 ‰以上の扇状地(以下,この規
変動帯である熱帯のコスタリカを含めて,日本,
模・勾配の扇状地を「扇状地」とする)をもつ流
台湾,フィリピン,ニュージーランドにおける扇
域は,日本では 474 流域中 123 流域,台湾では 50
状地の存否・分布に対する各因子の関与の度合を
流域中 29 流域,フィリピンでは 266 流域中 32 流
求め,気候条件の関与の度合を明らかにすること
域,ニュージーランドでは 262 流域中 35 流域で
を,本論文の目的とする。
2
面積 100km 以上の大流域のなかで,面積 2km
ある(斉藤,2010)。
Ⅱ.方 法
日本,台湾,フィリピン,ニュージーランドで
は,9 因子(集水域面積,山間盆地の面積,起伏
比,集水域地質,火山の有無,気候条件,堆積場,
1.対象流域
起伏量(隆起量),断層の有無)のなかで,扇状
集水域面積 100km2 以上の流域を対象流域とし
地の存在に対して,とくに有利な条件は,起伏量
た。日本では 474 対象流域のうち 26%の 123 流
2,200m 以上(日本の隆起量 1,000m 以上に相当),
域,台湾では 50 流域のうち 58%の 29 流域,フ
気候条件が東北・中央日本,同台湾,同北海道,
ィリピンでは 266 流域のうち 12%の 32 流域,ニ
堆積場が平野,同盆地となっていることであり,
ュージーランドでは 262 流域のうち 13%の 35 流
とくに不利な条件は,気候条件がフィリピン東部,
域で扇状地をもつ。コスタリカでは 54 流域のう
同西部,ニュージーランド,堆積場が外海,同内
ち 17%の 9 流域で扇状地をもつ(斉藤,2011)。
2
湾,面積 100km 以上の山間盆地の存在であるこ
こ れ ら の 合 計 1,106 流 域 を 対 象 流 域 と し た
とが,判別分析により明らかになった(斉藤,
(Fig. 1)。対象流域全体のなかで扇状地をもつ流
2010)。また,カテゴリーの数も考慮した扇状地
域は 21%の 228 流域である。
の分布に対しては,9 因子のなかで,堆積場,気
2.取り上げた因子
候条件,起伏量(隆起量)が大きく関与し,つい
で,断層の有無,起伏比,集水域地質が関与して
太平洋西縁変動帯(日本,台湾,フィリピン,
いることも明らかになった。さらに,扇状地をも
ニュージーランド)での結果(斉藤,2010)と比
つ割合は,日本の 26%(123/474),フィリピンの
較できるように,同じ 9 因子(集水域面積,山間
12%(32/266),ニュージーランドの 13%(35/262)
盆地の面積,起伏比,集水域地質,火山の有無,
に対し,台湾では 58%(29/50)であり,台湾と
気候条件,堆積場,起伏量(隆起量の代替変数),
他地域の扇状地の分布の違いを大きく左右してい
断層の有無)を取り上げた(Table 1)。
る因子は,気候条件のほか,起伏量(隆起量),
堆積場,起伏比の順であることも明らかになった
(斉藤,2010)。しかし,台湾では起伏量(隆起
- 1 -
- 2 -
Table 1
Classification of factors and categories
Factor
Ⅰ Drainage basin area (km2)
2
Ⅱ Intermontane basin area(km )
Ⅲ Relief ratio (‰)
Ⅳ Geology of drainage basin
Ⅴ
Ⅵ
Ⅶ
Ⅷ
Existence of valcano
Climate type
Sedimentary environment
Relative relief (m)
Ⅸ Existence of fault
Table 2
1
100 ~ 251
0~ 9
0 ~ 15.8
252 ~ 630
10 ~ 99
15.9 ~ 25.1
pre-Neogene
Neogene
sedimentary r. sedimentary r.
absence
existence
Af
Am and Aw
Ocean
0 ~ 1,399
absence
Factor
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
Ⅵ
Ⅶ
Ⅷ
Ⅸ
1
108
443
201
764
0
42
19
117
159
739
10
120
18
285
46
479
113
663
Cfa
5
6
1,585 ~ 3,981 3,982 ~
1,000 ~
39.9 ~ 63.0 63.1 ~ 100 100 ~
Plutonic
Metamorphic mixed
rocks
rocks
type
Cfb
Df
Basin
existence
囲で最終氷期でも周氷河環境下になかった(斉藤,
1984a)という気候条件を反映した区分でもあっ
The upper row of each factor shows the number of
drainage basins where fans exist, and the low one shows
that of drainage basins where fans are absent. Roman and
Arabic numerals are common to those in Table 2.
ory
4
5
12
4
52
24
1
11
70
74
276 168
25
26
72
83
631 ~ 1,584
100 ~ 999
25.2 ~ 39.8
Volcanic
rocks
Bay
Alluvial plain
1,400 ~ 2,199 2,200 ~
Total of drainage basins for
each category
Categ
2
3
70
34
251 108
14
12
51
52
6
33
117 218
57
47
193 191
69
139
42 120
172 266
22 126
210 245
104
78
303
96
115
215
Category
3
4
2
たが,周氷河環境であったかどうかは地形条件も
関与している。台湾でも,西日本にくらべ,高山
に最終氷期に氷河が発達したという気候条件を反
映した区分であったが,気候条件というよりも,
6
地形条件を大きく反映したカテゴリーであった。
これに対し,フィリピン東部は熱帯雨林気候
Af,フィリピン西部は弱い乾季のある熱帯雨林
気候(以後,熱帯モンスーン気候 Am と呼ぶ),
45
57
54
162
ニュージーランドは西岸海洋性気候 Cfb という純
粋に気候条件のカテゴリー(ケッペンの気候区)
であった。このカテゴリーに合わせるように,北
海道(全体)は亜寒帯湿潤気候 Df,北海道以外
35
227
62
138
21
93
の日本を温暖湿潤気候 Cfa とした。台湾北部は温
帯の温暖湿潤気候,台湾南部を熱帯モンスーン気
候とした。ケッペンによる温帯と熱帯の区分は,
最寒月の平均気温 18 ℃にある。台湾西岸の台南
で 17.4 ℃,高雄で 18.8 ℃であり,台湾東岸の花
蓮で 17.8 ℃,台東で 19.2 ℃なので,それらの間
に温帯と熱帯の境界を引いた。その結果,熱帯モ
ンスーン気候下にある流域は,斉藤(1989)の
Table 1 の No. 7 ~ 12,25 ~ 31,37 ~ 42,46 ~ 50
3.気候条件の再定義
とした。
気候条件について,斉藤(2010)は,北海道(正
コ ス タ リ カ の 北 東 側 は 熱 帯モ ン ス ー ン 気 候
確には北海道胴体部),東北・中央日本,西日本,
台湾,フィリピン東部,フィリピン西部,ニュー
Am,南西側はサバナ気候 Aw である。斉藤(2011)
ジーランドの 7 カテゴリーに区分した。北海道胴
の Table 1 の No. 1 ~ 21 が熱帯モンスーン気候
体部では他の日本にくらべ降水量が少ない,東北
下,No. 22 ~ 54 がサバナ気候下にある。熱帯は,
・中央日本では山地域の広い範囲で最終氷期に周
ケッペンによると,熱帯雨林気候とサバナ気候に
氷河環境下にあった,西日本では山地域の広い範
大きく区分される。弱い乾季のある熱帯モンスー
- 3 -
した。
ン気候は熱帯雨林に含まれる。熱帯モンスーン気
候は,サバナ気候と同様に最少月降水量が 60mm
火山の有無については,集水域内に第四紀後半
であるが,年降水量 1,000mm 以上でそれ以下の
の火山体があるかどうかで,判定した。台湾につ
降水量となる。年降水量 2,500mm 以上では最少
いては,斉藤(2010)ではすべての流域で火山無
月降水量が 0mm でも熱帯モンスーン気候に分類
しとしたが,基隆河流域(斉藤,1989 の Table 1
される。本論文では,サバナ気候下の流域はコス
の No. 43)に大屯火山(最新では 20 万年前の活
タリカの南西側にある 33 流域に限定され,サバ
動)があるので,この流域だけ火山有りとした。
ナ気候のカテゴリーは地形条件も反映する可能性
堆積場については,外海,内湾,平野,盆地に
もあるので,それを避けるために,雨季・乾季が
区分した。外海・内湾と平野との区分については,
あり,最少月降水量 60mm 以下のサバナ気候と
谷口が海岸線より 10km 未満では外海・内湾と
熱帯モンスーン気候とを一括し,熱帯モンスーン
し,10km 以上では平野とした。
・サバナ気候とした。以上の結果,気候条件につ
起伏量(隆起量の代替変数)は,集水域内の最
いて,熱帯雨林気候(Af),熱帯モンスーン・サ
高点と最低点(谷口)との標高差とした。日本の
バナ気候(Am・Aw),温暖湿潤気候(Cfa),西
扇状地の存在条件・分布条件を明らかにするた
岸海洋性気候(Cfb),亜寒帯湿潤気候(Df)に
め,斉藤(1984a)は,隆起量を集水域内の第四
区分した(Table 1)。
紀地殻変動量(第四紀地殻変動研究グループ,
1968)の最大値と谷口のその値の差とした。日本
4.因子の定義と測定方法・結果
においてこの隆起量と起伏量との間には正の相関
関係がある(斉藤,2010 の Fig. 2)。この隆起量
集水域面積は渓口(谷口)より上流流域の面積
である。山間盆地の面積は,集水域のなかに山間
は 250 m 単位でしか読み取れないことなどから,
盆地や湖がある場合,その盆地や湖の合計面積と
日本での隆起量を 500m 未満,500 ~ 1,000m,
した。Schumm(1956)の定義による起伏比は,集
1,000m 以上の3カテゴリーに相当する,起伏量
水域内の最高点と最低点との標高差を流域最大辺
1,400m 未満,1,400 ~ 2,200m,2,200m 以上の3
長で割った値である。これらの変数の値は,日本
つに区分した。
の扇状地では斉藤(1984b)の Appendix 1・2 に,
台湾では斉藤(1989)の Table 1 に,フィリピン
断層の有無については,断層が谷口付近を通っ
ているかどうかで判断した。
では斉藤(1994)の表Ⅰ-2-1 に,ニュージーラ
ンドでは斉藤(2007)の Table 1,コスタリカで
5.判別分析法
は斉藤(2011)の Table 1 に掲載されている。
9 因子について,ある条件(カテゴリー)が同
集水域地質については,新第三紀堆積岩,先新
じであれば,扇状地の存在に対して,同一の関与
第三紀堆積岩,火山岩,深成岩,変成岩に区分し,
の度合を示すと仮定して,現実の扇状地の存否を
集水域内で最大の面積を占める地質とした。ただ
定量的に説明する方法に判別分析法がある。条件
し,集水域の 3 分の 1 以上を占める地質が無い場
をそろえるためにカテゴリー数を多くしすぎる
合には,混在型とした。日本,台湾,フィリピン,
と,カテゴリーに含まれるサンプル数が少なくな
ニュージーランドでの集水域地質の読み替えにつ
り,関与の度合を求めても,その値に信頼がおけ
いては,斉藤(2010)に記載されている。コスタ
ないカテゴリーとなる。このことを考慮にいれて,
リカでは,堆積岩類,火山岩類,貫入岩,オフィ
集水域面積については,対数変換した値(単位
オライト,混在型にカテゴリー区分していた(斉
km2)を 0.4 きざみで区分した(Table 1)。山間盆
藤,2011)。堆積岩類については,始新世~第四
地の面積については,対数変換した値(単位 km2)
紀の堆積岩を新第三紀堆積岩とし,白亜紀~第四
を 1 きざみで区分した。面積 10km2 未満の山間
紀の堆積岩を先新第三紀堆積岩として,読み直し
盆地では扇状地の存在に対する影響の度合が小さ
た。貫入岩は,斑糲岩~花崗岩と火山底流紋岩で
いと考え,そのような山間盆地をもつ流域を,山
あり,深成岩とした。オフィオライトは変成岩と
間盆地をもたない流域と同じカテゴリーに含め
- 4 -
た。面積 1,000km2 以上の山間盆地については一
Ⅲ.結 果
括した。起伏比については,対数変換した値(単
位‰)を 0.2 きざみで区分し,15.9 ‰未満を同一
1.扇状地の存否を決定する因子
カテゴリーとした。起伏量(隆起量)については,
1)扇状地の存否を決定する因子
「因子の重み」と「因子内カテゴリーの重み」
前述のように 1,400m と 2,200m で区分した。
扇状地をもつ 228 流域および扇状地をもたない
との積を,37 個の全カテゴリーの重み「総体的
878 流域のそれぞれについて,9 因子のどのカテ
カテゴリーの重み」として,Fig. 2 の縦軸に,ま
ゴリーに属するのか,読み取った(Table 2)。堆
た,全流域の扇状地をもつ割合(20.6%)に対す
積場が「外海」(Ⅶ・1)の流域については,扇状
る,各カテゴリーにおける扇状地をもつ流域の割
地をもつ流域が 18 カ所,扇状地をもたない流域
合の比を横軸に描いた。
が 285 カ所あり,扇状地をもつ流域の割合は 5.9%
扇状地をもつ流域の割合が高いカテゴリーに
2
(= 18/303)となっている。集水域面積 100km
は,一般に大きな値が与えられるので,各因子に
以上の流域全体では,扇状地をもつ流域の割合が
おいて一般に右肩上がりのグラフになる。集水域
20.6%(= 228/1106)なので,堆積場が「外海」
面積(Ⅰ)や集水域地質(Ⅳ)のように,必ずし
のカテゴリーは,扇状地の存在にとってふつう都
もそのようになっていない因子がある。それは,
合の悪いカテゴリーとなる。このようなカテゴリ
他の因子・条件との相関関係があり,その影響量
ーには一般に小さな値を与え,扇状地をもつ流域
を除いた結果,扇状地をもつ流域の割合が高いカ
の割合の高いカテゴリーに大きな値を与えて,扇
テゴリー(Ⅰ・3 とⅣ・5)にもかかわらず,そ
状地をもつ流域のグループと扇状地をもたない流
れほど大きな値が与えられていないためである。
域のグループとをできる限り離れた状態にする
扇状地の存在に有利な(グラフの上方に位置す
と,扇状地をもつのかもたないのかの説明がより
る)カテゴリーは,「起伏量(隆起量)2,200m 以
よくなる。カテゴリーに値を与えるに際して,数
上(Ⅷ・3)」>「温暖湿潤気候 Cfa(Ⅵ・3)」>
量化Ⅱ類(目的変数も分類データの場合に用いる
「堆積場;平野(Ⅶ・3)」>「亜寒帯湿潤気候 Df
手法)を用いた。因子(説明変数)間にも相関関
(Ⅵ・5)」>「断層有(Ⅸ・2)」>「起伏比 63.1
係があるので,その影響を除いた値を求めた。強
~ 99.9 ‰(Ⅲ・5)」>「起伏比 100 ‰以上(Ⅲ
い相関関係がある場合,扇状地が形成される割合
・6)」>「堆積場;盆地(Ⅶ・4)」>「集水域地
が高いカテゴリーでも小さな値になることがあ
質;先新第三紀堆積岩(Ⅳ・2)」の順であった。
る。
とくに有利な条件は,2,200m 以上の起伏量(隆
数量化Ⅱ類で与えられたカテゴリーの値(因子
起量),気候条件が温暖湿潤気候や亜寒帯湿潤気
内カテゴリーの重み)を用いて,扇状地をもつ流
候であること,堆積場が平野や盆地であること,
域のグループと扇状地をもたない流域のグループ
断層が渓口を横切っていること,63.1 ‰以上の起
とを最も離れた状態にする判別関数を求める判別
伏比となっている。
分析法を施した。因子についても,扇状地の存否
一方,不利なカテゴリーは,「熱帯雨林気候 Af
に大きくかかわる因子と,そうでもない因子があ
(Ⅵ・1)」<「熱帯モンスーン・サバナ気候 Am
る。それを表現するのが,各因子の単位当たりの
・Aw(Ⅵ・2)」<「集水域面積 3,982km2 以上(Ⅰ
関与の度合「因子の重み」(判別係数)である。
・5)」<「堆積場;外海(Ⅶ・1)」<「堆積場;
扇状地をもつ流域のグループと扇状地をもたない
内湾(Ⅶ・2)」<「起伏量(隆起量)1,400m 未
流域のグループとは,取り上げた 9 因子によって,
満(Ⅷ・1)」<「盆地面積 1,000km2 以上(Ⅱ・4)」
9 次元空間の密度分布をしている。この密度分布
<「盆地面積 100 ~ 1,000km2(Ⅱ・3)」<「起
上で,「因子の重み」となる軸の長さを決定する
伏比 0 ~ 15.8 ‰(Ⅲ・1)」<「集水域面積 1,585
ことによって,両グループを最も離れた状態にす
~ 3,981km2(Ⅰ・4)」の順であった。とくに不
ることができる。
利な条件は,気候条件が熱帯雨林気候,熱帯モン
スーン・サバナであること,1,585km2 以上の集
- 5 -
Fig. 2
Generalized weights of categories for existence of a fan
Generaliezed weights mean relative degrees of influences of categories upon existence of a fan among all categories.
The ratio is a divided value of the proportion of rivers with fans in each categories by the proportion (16.7%) of rivers
with fans in all. Roman and Arabic numerals show factors and categories respectively. (see Table 2)
水域面積,堆積場が外海・内湾であること,1,400
扇状地をもつ流域となる平均的な確率を算定する
m 未満の起伏量,面積 100km2 以上の盆地がある
ことができる。すなわち,扇状地の存在に対して
こととなっている。
有利な条件を多くもつ流域では,扇状地をもつ流
同じ因子のなかで,最も有利なカテゴリーと最
域となる確率が高く算定される。実際に扇状地を
も不利なカテゴリーの値の差が大きいのは,起伏
もつ 228 流域のなかで,確率的に 0.5 以上の値で
量(Ⅷ)である。次いで,気候条件(Ⅵ),堆積
扇状地をもつ流域と算定される流域数は 178 流域
場(Ⅶ),起伏比(Ⅲ),集水域面積(Ⅰ),断層
である。一方,扇状地をもたない 878 流域のなか
の有無(Ⅸ)の順となる。この順に扇状地の存否
の 685 流域は,確率 0.5 以上の値で扇状地をもた
を決定づけている。
ない流域と算定される。このことは,9 因子を用
太平洋西縁変動帯(日本,台湾,フィリピン,
い た 判 別 分 析 法 に よ り , 扇 状地 を も つ 流 域 の
ニュージーランド)の流域を対象とし,気候条件
78.1%(= 178/228)が,扇状地をもたない流域
を北海道,東北・中央日本,西日本,台湾,フィ
の 78.0%(= 685/878)が説明されることを意味
リピン東部,フィリピン西部,ニュージーランド
している。全体では,78.0%(= 863/1106)とな
に区分した場合では,気候条件,隆起量,堆積場,
っている。
起伏比,断層の有無,山間盆地の順であった(斉
ちなみに,扇状地をもつ流域のなかで,最も有
藤,2010)。このような地形条件と相関のあった
利な条件をかかえて扇状地をもつと判定された流
気候条件を用いた場合にくらべ,純粋の気候条件
域は,起伏量(隆起量)が 2,200m 以上(Ⅷ・3),
を用いた結果,気候条件の関与の度合が低くなり,
湿潤温暖気候(Ⅵ・3)下で,平野にあり(Ⅶ・3),
起伏量の関与の度合が高くなっている。
断層が存在し(Ⅸ・2),起伏比が 63.1 ~ 100 ‰
2)各流域の判別状況
(Ⅲ・5)の関川流域(高田平野)である。一方,
扇状地の存否に対する各因子の関与の度合を用
扇状地をもたない流域のなかで,最も不利な条件
いることによって,個々の流域の条件下における,
をかかえて扇状地をもたないと判定された流域
- 6 -
は,熱帯雨林気候(Ⅵ・1)下で,外海にあり(Ⅶ
・1),起伏量が 1,400m 未満(Ⅷ・1),集水域面
積 631 ~ 1,584km2(Ⅰ・3),起伏比 15.9 ~ 39.8
‰(Ⅲ・2),断層がない(Ⅸ・1)の Ulut 川流域
(サマル島)である。
2.扇状地の分布を決定する因子
扇状地をもつ各流域において,個々の扇状地の
存在に最も大きく寄与していると考えられる,総
体的カテゴリーの重みの最も大きいカテゴリーを
集計した(Fig. 3 の上側の黒塗り部分)。気候条
件(Ⅵ)や起伏量(Ⅷ)の頻度が高くなっている。
同様に,扇状地をもたない各流域において,総体
Fig. 3
合,絶対値の大きい)カテゴリーを集計した(Fig. 3
Histograms to show the dominant
factors for existence (above) or
absence (below) of fans
の下側の黒塗り部分)。両者を合わせたとき(Fig. 4
Roman numerals are common to those in Table 2.
的カテゴリーの重みの最も小さい(マイナスの場
の黒塗り部分が長いのは),気候条件(Ⅵ),堆積
場(Ⅶ),起伏量(Ⅷ),集水域面積(Ⅰ)の順と
なっている。このような扇状地をもつ,あるいは
に有利であり(Fig. 2 のⅠ・1,2),集水域面積 631
もたない流域となるのに最も大きく寄与している
km2 以上の流域では扇状地形成に不利である(同
カテゴリーを数多くもつ因子は,言いかえれば,
図Ⅰ・3 ~ 5)。日本の集水域面積 200km2 以上の
扇状地の分布を大きく決定する因子といえる。同
流域で検討した結果「集水域面積 252 ~ 1,584km2
様に第 2 位の因子や第 3 位の因子についても集計
の流域で扇状地ができやすく,集水域面積 200 ~
した。ただし,総体的カテゴリーの重みの絶対値
251km2 および 1,585km2 以上で扇状地ができにく
が 0.1 未満のカテゴリーについては,関与の度合
い」(斉藤,1984a)とは,若干異なっている。
が小さいとみなし,集計しなかった。第 2 位の因
太平洋周縁地域(日本,台湾,フィリピン,ニ
子や第 3 位の因子を含めた場合には,堆積場(Ⅶ),
ュージーランド,コスタリカ)でも,集水域面積
気候条件(Ⅵ),起伏量(Ⅷ),断層の有無(Ⅸ)
252 ~ 1,584km2 の流域での扇状地が形成される
の順となる。第 1 位のみの場合と同様の,気候条
割合は高い(Fig. 2 のⅠ・2,3)。とくに,集水
件と堆積場が扇状地の分布に強く関与している。
域面積 631 ~ 1,584km2 の流域では,扇状地が形
ついで起伏量(隆起量)が関与している。
成される割合は 23.9%(34/142)であり,全体の
太平洋西縁変動帯の流域を対象としたときに
20.6%(228/1106)よりも高いにもかかわらず,
は,堆積場,気候条件,起伏量の順に扇状地の分
扇状地形成に不利な条件になっている(Fig. 2 の
布に関与し(斉藤,2010),気候条件は堆積場に
Ⅰ・3)。それは,扇状地形成に有利な条件である
次ぐものであった。純粋な気候条件にした本論文
「堆積場が平野」(Fig. 2 のⅦ・3)の割合が,全
の結果では,気候条件と堆積場とは同等の関与の
体では 33.5%(371/1106)なのに対し,集水域面
度合なので,扇状地の分布に対して気候条件は若
積 631 ~ 1,584km2 の流域では 36.6%(52/142)と
干関与の度合を高めたといえる。
なっているためである。すなわち,扇状地が形成
される割合が若干高い集水域面積 631 ~ 1,584km2
Ⅳ.各因子の機能
の流域では,それよりも小さい流域にくらべ土砂
供給量が多いために堆積場が平野にある流域が多
1) 集水域面積
集水域面積 630km2 以下の流域では扇状地形成
く,その効果を差し引くと,この規模の流域は不
利な条件であることを意味する。
- 7 -
る粗粒の岩屑の生産が多く,扇状地形成に有利な
日本での検討では(斉藤,1984a),他因子(カ
テゴリー)との関係を考慮していなかった。した
ものと思われる。
がって,日本の扇状地についても,他因子との関
5) 火山の有無
火山があると扇状地形成に有利で(Fig. 2 のⅤ
係を考慮に入れた検討が求められる(斉藤,
2010)。
なお,太平洋周縁地域では大きい集水域のカテ
・2),火山がないと扇状地形成に不利である(Ⅴ
ゴリーほど小さい値を示すので(Fig. 2 のⅠ・1
・1)。火山がある流域では,粗粒の岩屑の生産が
~ 5),大きい集水域ほど扇状地形成に不利とい
多く,扇状地形成に有利なものと思われる。ただ
える。また,総体的カテゴリーの絶対値の差(Fig. 2
し , 総 体 的 カ テ ゴ リ ー の 絶 対値 の 差 が 小 さ く
のⅠ・1 とⅠ・5 の差)がそれほど大きくなく,
(Fig.
扇状地の存在を決定づけるものとはなっていな
ではなく,また扇状地の分布に対しても寄与の度
い。しかし,それは集水域面積 100km2 以上の流
合は小さい(Fig. 3 のⅤ)。
域を対象流域としているためで,集水域面積が小
6) 気候条件
2 のⅤ)
,扇状地の存在を決定づけるもの
さい流域も対象にすると,集水域面積の扇状地の
温暖湿潤気候 Cfa や亜寒帯湿潤気候 Df では扇
存在に対する関与の度合は大きくなるはずである
状地形成に有利で(Fig. 2 のⅥ・3,5),熱帯雨
(斉藤,1982)。
林気候 Af,熱帯モンスーン・サバナ気候 Am・
Aw,西岸海洋性気候 Cfb では扇状地形成に不利
2) 山間盆地の面積
山間盆地がない,あるいは面積 100km2 未満の
である(Ⅵ・1, 2, 4)。熱帯では,化学的風化に
山間盆地では(Fig. 2 のⅡ・1,2),扇状地形成
よる細粒物質の生産が盛んなため,扇状地を構成
に有利にも不利にもならない。一方,面積 100km2
する粗粒物質の供給が少なく,扇状地形成に不利
以上の山間盆地をかかえることは(Ⅱ・3,4),
になっていると思われる(斉藤,2006)。温暖湿
扇状地形成に不利となる。山間盆地がない場合の
潤気候が亜寒帯湿潤気候にくらべて特に有利な条
2
件となっているのは,降水量が多いため相対的に
未満の山間盆地の値(Ⅱ・2)とがほぼ同じで,
粗粒物質の供給が多くなっているものと推測され
2
また面積 100 ~ 1,000km の山間盆地の値(Ⅱ・3)
る(斉藤,1983, 1988)。降水量の少ない西岸海
と面積 1,000km2 以上の山間盆地の値(Ⅱ・4)と
洋性気候でも,扇状地形成に不利になっている。
総体的カテゴリーの値(Ⅱ・1)と面積 100km
この気候条件は,総体的カテゴリーの絶対値の
がほぼ同じことは,扇状地の存否に対する効果が,
山間盆地面積 100km2 で大きく変わることを示唆
差も大きく(Fig. 2 のⅥ),扇状地の有無に対す
3 の
している。
る頻度分布も堆積場と同様に大きい(Fig.
3) 起伏比
Ⅵ)
。日本のみ(斉藤,1984a)やフィリピンのみ
起伏比が 63.1 ‰以上の流域では扇状地形成に
(斉藤,1996)を対象とした検討よりも,寄与の
有利であり(Fig. 2 のⅢ・5,6),63.0 ‰以下の
度合が大きい。それは,対象地域が広がり,気候
流域では扇状地形成に不利である(Ⅲ・1 ~ 4)。
条件が大きく異なるため,気候条件の影響が大き
起伏比「63.1 ~ 100 ‰」
(Ⅲ・5)と「100 ‰以上」
くなっためである。
(Ⅲ・6)との間で総体的カテゴリーの値が逆転
7) 堆積場
するものの,大きい起伏比のカテゴリーほど大き
平野・盆地域では扇状地形成に有利で(Fig. 2
い値を示すので,起伏比が大きいほど扇状地形成
のⅦ・3,4),外海・内湾域では扇状地形成に不
に有利といえる。
利である(Ⅶ・1,2)。平野と外海との総体的カ
4) 集水域地質
テゴリーの値の差が大きく,扇状地の存否を大き
集水域地質が先新第三紀堆積岩では,扇状地形
く決定づける因子となっている(Fig. 2 のⅦ)。
成に有利で(Fig. 2 のⅣ・2),新第三紀堆積岩,
平野や外海のカテゴリーに含まれる流域も多く,
火山岩,変成岩では,扇状地形成に不利である(Ⅳ
扇状地の分布を大きく決定づける因子にもなって
・1,3,5)。先新第三紀堆積岩では新第三紀堆積
いる(Fig. 3 のⅦ)。
平野域であるのか,外海・内湾域であるかにつ
岩,火山岩,変成岩にくらべて,扇状地を構成す
- 8 -
いても,土砂供給量が左右する場所では,扇状地
の黒塗り部分)。集水域地質(Ⅳ)と起伏量(Ⅷ)
の存否・分布を決定づける因子が大きく関与す
とが同じ値で,断層の有無(Ⅸ),集水域面積(Ⅰ),
る。日本では,平野域であるのか,外海・内湾域
起伏比(Ⅲ)がそれにつぐ。第2位・第3位の因
であるのかについて,扇状地形成に関わる 10 因
子を含めた場合には,起伏量(Ⅷ),断層の有無
子(11 因子のなかから堆積場の 1 因子を除いた)
(Ⅸ),集水域面積(Ⅰ),集水域地質(Ⅳ)の順
の判別分析法により,起伏比の関与の度合が大き
になる。平野域となるのか外海・内湾域となるの
いことが明らかになっている(斉藤 1984a)。太
かについては,起伏量が最も大きく関与している
平洋周縁地域についても,8 因子(堆積場の 1 因
ことが明らかになった。
子を除いた)の判別分析法を用いて,同様に検討
8) 起伏量(隆起量)
した。総体的カテゴリーの絶対値の差が最も大き
起伏量が 2,200m 以上(日本では隆起量 1,000m
い因子は,集水域面積であり,ついで起伏比であ
以上に相当)の流域では扇状地形成に有利であり
った。外海・内湾域ではなく平野域となるのに都
(Fig. 2 のⅧ・3),1,400m 未満(日本では隆起量
合の良いカテゴリーは,集水域面積については,
500 m 未満に相当)の流域では扇状地形成に不利
1,585 ~ 3,981km2,631 ~ 1,584km2,3,982km2 以
である(Ⅷ・1)。起伏量が 2,200m 以上と 1,400m
上,252 ~ 630km2,100 ~ 251km2 の順となって
未満の総体的カテゴリーの値の差が大きく,扇状
いる。起伏比については,15.8 ‰以下,39.9 ~ 63.0
地の存否を大きく決定づける因子となっている
‰,100 ‰以上,
63.1 ~ 99.9 ‰,25.2 ~ 39.8 ‰,15.9
(Fig.
~ 25.1 ‰の順となっている。集水域面積につい
まれる流域も多く,堆積場や気候条件についで扇
ては,3,982km2 以上の流域で総体的カテゴリー
状地の分布を決定づける重要な因子となっている
の値が小さいという例外があるものの,大きい集
(Fig. 3 のⅧ)。
水域ほど,土砂供給量が多く,平野域が形成され
9) 断層の有無
2 のⅧ)
。また,それらのカテゴリーに含
やすい傾向が認められる。起伏比については,15.8
渓口(谷口)を断層が走らないことは,扇状地
‰以下の流域で相対的カテゴリーの値が大きいと
形成に不利であるのに対し(Fig. 2 のⅨ・1),断
いう例外があるものの,起伏比が大きい集水域ほ
層が走ることは,扇状地形成に有利な条件となっ
ど,土砂が運搬されやすく,平野が形成されやす
ている(Ⅸ・2)。総体的カテゴリーの値の差もや
い傾向が認められる。平野域となっている割合は,
起伏比 15.8 ‰以下の流域で 49%(18/37),集水
域面積 3,982km2 以上の流域で 50%(11/22)であ
り,全体では 41%(371/906)であるのに対し,
いずれも高い。しかも,集水域面積 3,982km2 以
上の 22 流域のうち起伏比 15.8 ‰以下の流域は 9
流域あり,その割合 41%(9/22)は,起伏比 15.8
‰以下の流域の全体の割合 4%(37/906)にくら
べ,かなり高く,集水域面積 3,982km2 以上と起
伏比 15.8 ‰以下のカテゴリーの相関関係は高い。
判別分析では,この相関関係も考慮して算定され
ているが,何らかの原因で,集水域面積 3,982km2
以上の値が抑えられ,起伏比 15.8 ‰の値が高く
算定された可能性がある。この点については,今
Fig. 4
扇状地の分布と同様に,平野域となるのか外海
Histograms to show the dominant
factors for existence (above) or
absence (below) of fans
・内湾域となるのか,個々の流域において最も大
Roman numerals are common to those in Table 2.
後の課題である。
きく寄与しているカテゴリーを集計した(Fig. 4
- 9 -
や大きく(Fig. 2 のⅨ),頻度分布もやや多く
気候条件を,北海道(胴体部),東北・中央日
(Fig. 3 のⅨ),扇状地の存否・分布に対し大き
本,西日本,台湾,フィリピン西部,フィリピン
く関わっているが,堆積場,気候条件,起伏量(隆
東部,ニュージーランドに区分した斉藤(2010)
起量)にくらべて,決定的な因子とはなっていな
では,台湾の気候条件が台湾の扇状地分布に最も
い。
関与の度合が強かった。台湾の気候条件は,起伏
量や起伏比とも相関関係が強いため,本論文では,
気候条件を,Af,Am・Aw,Cfa,Cfb,Df に区
2.各地域の扇状地の分布条件
2
集水域面積 100km 以上の流域における扇状地
分した。その結果,台湾の気候条件は,台湾の扇
をもつ割合は,日本の 26%(123/474),フィリピ
状地の分布に対し,有利にも不利にも働いていな
ンの 12%(32/266),ニュージーランドの 13%
いことが明らかになった(Fig. 4 の台湾のⅥが 0
(35/262),コスタリカの 17%(9/54)に対し,
に近い)。台湾では,起伏量(Ⅷ)の大きいこと
台湾では 58%(29/50)と高い。台湾が他地域に
が扇状地の分布に大きく関与し,ついで起伏比
くらべて扇状地形成に有利になっている条件を明
(Ⅲ)が大きいこと,堆積場(Ⅶ)が平野や盆地
らかにするために,日本,台湾,フィリピン,ニ
である割合が高いこと,渓谷部を断層を横切る
ュージーランド,コスタリカそれぞれにおいて,
(Ⅸ)の割合が高いことが,扇状地が形成される
因子ごとに各流域の総体的カテゴリーの平均値を
割合を高めている。
求めた(Fig. 5)。
Fig. 5
Conditons for existence of alluvial fans in Japan, Taiwan, the Philippines, New Zealand
and Costa Rica
Roman numerals are common to those in Table 1.
- 10 -
る。
Ⅴ.おわりに
4)堆積場が平野域となるのか外海・内湾域と
太平洋周縁地域(日本,台湾,フィリピン,ニ
ュージーランド,コスタリカ)では,集水域面積
なるのかについては,起伏量が最も大きく関与し
ている。
100km2 以上の 1,106 流域のなかで,228 流域が扇
5)扇状地をもつ割合は,日本の 26%(123/474),
状地をもっている。この扇状地の存否・分布に対
フィリピンの 12%(32/266),ニュージーランド
する 9 因子(集水域面積,山間盆地の面積,起伏
の 13%(35/262),コスタリカの 17%(9/54)に
比,集水域地質,火山の有無,気候条件,堆積場,
対し,台湾では 58%(29/50)である。台湾と他
起伏量(隆起量),断層の有無)の関与の度合を
地域の扇状地の分布の違いを最も大きく左右して
判別分析によって求めた。その結果,以下のこと
いる因子は,気候条件ではなく,起伏量(隆起量)
が明らかになった。
であり,ついで起伏比,堆積場,断層の有無とな
1)扇状地の存在に対して,とくに有利な条件
っている。
は,起伏量 2,200m 以上(日本の隆起量 1,000m
以上に相当),気候条件が温暖湿潤気候 Cfa や亜
謝辞:本研究の一部に平成 22 ~ 24 年度日本学術振興
寒帯湿潤気候 Df であること,堆積場が平野や盆
会科学研究費補助金基盤研究C(課題番号 22500984)
地であること,断層が渓口を横切っていること,
の補助金を使用した。
63.1 ‰以上の起伏比となっている。一方,とくに
引 用 文 献
不利な条件は,気候条件が熱帯雨林気候 Af,熱
帯モンスーン・サバナ気候 Am・Aw であること,
1,585km2 以上の集水域面積であること,堆積場
が外海・内湾であること,1,400m 未満の起伏量,
面積 100km2 以上の山間盆地の存在となっている。
2)最も有利なカテゴリーと最も不利なカテゴ
リーの値の差で判断した扇状地の存否に対して
は,起伏量(Ⅷ),気候条件(Ⅵ),堆積場(Ⅶ),
起伏比(Ⅲ),集水域面積(Ⅰ),断層の有無(Ⅸ)
の順に関与している。太平洋西縁変動帯(日本,
台湾,フィリピン,ニュージーランド)の流域を
対象とし,気候条件を北海道,東北・中央日本,
西日本,台湾,フィリピン東部,フィリピン西部,
ニュージーランドに区分した場合では,気候条件,
隆起量,堆積場,起伏比,断層の有無,山間盆地
の順であり,地形条件と相関のあった気候条件を
用いた場合にくらべ,純粋の気候条件を用いた結
果,気候条件の関与の度合が低くなり,起伏量の
関与の度合が高くなっている。
3)カテゴリーの数も考慮した扇状地の分布に
対しては,堆積場と気候条件が強く関与し,つい
で起伏量(隆起量)が関与している。太平洋西縁
変動帯の流域を対象としたときには,堆積場,気
候条件,起伏量の順だったので,扇状地の分布に
対して気候条件は若干関与の度合を高めたといえ
斉藤享治(1982)集水域の地形・地質条件による扇状
地の分類: 地理学評論,55,334-349.
斉藤享治(1983)扇状地の形態・構造の統計分析によ
る岩屑供給量と河床変化の時代変遷: 地理学評論,56,
61-80.
斉藤享治(1984a)扇状地の存否・分布を決定する因子:
東北地理,36,1-12.
斉藤享治(1984b)日本の扇状地の形成因子: 北海学園
大学学園論集,49,15-42.
斉藤享治(1988)『日本の扇状地』,古今書院,280p.
斉藤享治(1989)台湾島の扇状地の形成条件: 北海学園
大学学園論集,63,19-36.
斉藤享治(1994)『扇状地の発達に関する熱帯湿潤地域
と温帯湿潤地域の比較研究』(平成 4 年度~ 6 年度科
学研究費補助金一般研究C研究成果報告書),373p.
斉藤享治(1996)フィリピンの扇状地の分布に関する
一考察: 地理学研究報告(埼玉大学),15/16,1-11.
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斉藤享治(2007)ニュージーランドにおける扇状地の
分布と形態: 地理学研究報告(埼玉大学教育学部),27,
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斉藤享治(2010)太平洋西縁変動帯における扇状地の分
布条件: 埼玉大学紀要教育学部,59(1) 別冊 1, 85-98.
斉藤享治(2011)コスタリカにおける扇状地の形成条件:
地理学研究報告(埼玉大学教育学部)
,31, 20-28.
第四紀地殻変動研究グループ(1968)第四紀地殻変動
図: 第四紀研究,7,182-187.
Schumm, S. A. (1956) Evolution of drainage systems and
slopes in badlands at Perth Amboy, New Jersey:
Geolologicl Society of Ameica Bulletin,67,597-646.
- 11 -
Relation between Climatic Conditions and the Distribution
of Alluvial Fans in Circum-Pacific Regions
Kyoji SAITO
Faculty of Education, Saitama University
Japan, Taiwan, the Philippines, New Zealand and Costa Rica in circum-Pacific regions have 228 rivers
2
2
with alluvial fans of larger than 2 km among 1,106 drainage basins of areas larger than 100 km . By use of
discriminant analysis, the dominant factors for the distribution of alluvial fan were determined to be the
sedimentary environment, climatic type, relative relief indicating uplift rate among nine factors, that is drainage
basin area, intermontane basin area, relief ratio, geology of drainage basin, existence of volcano, climatic type,
sedimentary environment, relative relief, and existence of fault.
- 12 -
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