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ソフトウェアおよびネットワーク技術者育成プロジェクト
2009 年(平成 21 年)1 月 10 日 「ソフトウェア及びネットワーク技術者育成プロジェクト」 プロジェクト総括 玉置彰宏 1.初めに 「ソフトウェア及びネットワーク技術者育成プロジェクト」 (以下、ICTTI プロジェクト) はインヤ湖の北西にあるヤンゴン・コンピュータ大学ライン・キャンパスで、2006 年 12 月から行われています。このキャンパス内の1校舎を ICT Training Institute (ICTTI)とし て JICA の支援で改築修理し、プロジェクト・サイトとしています。 案件の開始以来、ソフトウェアの開発やデータベースの技術を教えるソフト系専門家 2 名、ネットワーク技術を教える専門家 2 名、プロジェクト開発のマネジメントや研修計画 等を教える専門家 3 名の合計7名を基本メンバーとして、日本とヤンゴンを行き来しなが ら活動しています。2008 年度はこの他に、2 名の無線インターネット技術専門家が短期で 参加する予定です。 具体的には、約 20 名のミャンマー人の講師達の技術的知識やスキル、講義能力などを高 め、彼女らが教える研修生たちが現地の IT 産業で、エンジニアとして活躍していくことを 目標としています。2007 年度上半期までは日本人専門家から講師スタッフ達へ直接技術移 転を行いましたが、その後は彼女らが実際に教室で生徒達に OJT で教えていくのをサポー トしつつ、必要な追加の技術指導を行っています。 2.ミャンマーの IT 産業事情 我々のプロジェクトに関するご紹介に際して、まずこの国の IT 産業の事情からお話しし た方が良いでしょう。 ヤンゴンで生活されている日本人会会員の皆さんは、電話回線やインターネット回線、 電力事情などの劣悪さについて、日々強くお感じになっていることだと思います。このよ うなインフラ環境の問題に加え、銀行制度や為替システムなど経済システムの問題、依然 として悪い国内景気など、どの業種でも問題になっているこの国の課題は、IT ビジネスの 市場でも国内企業の成長や外国投資を大きく阻害しています。 IT 関係の業界団体である Myanmar Computer Federation(MCF)傘下の企業はたった 300 社程度であり、スタッフの数も日本でいう中小企業レベルの規模です。IT 企業といっ てイメージされやすいソフトウェア開発事業だけで経営が成り立っている会社は極めて少 なく、コンピュータのハードを売る会社、IT スキルの教育事業会社、ウェブ・デザインの 会社などが、この 300 社の中に含まれています。ミャンマー第二の都市であるマンダレー 市内に本拠を置く企業の場合、ソフトウェア開発会社の数は数社レベルになってしまいま すから、この国の IT 産業の市場規模というのはご想像がつくと思います。更に、ここ数年 1 の不景気で、多くの会社がスクールを兼営したりして業態を多角化し、何とか生き残って いる状況です。 サイクロン以降、他国政府や国際支援団体などがミャンマー支援予算を増やした結果、 一部のハードウェア販売会社は売上を伸ばしていますが、やはりミャンマー全体の民間経 済が元気になって企業の IT 化が進まないと、中々IT 業界の本格的成長は難しいものがあり ます。 とはいえ、一部のソフトウェア会社は既にある水準の技術力を有し、シンガポールやタ イ等の周辺国から開発委託を受けて経営基盤を確立しています。また、国内需要でも政府 系の発注が拡大しているので、マーケット全体は小規模であっても、個々の企業では優秀 なエンジニアに対する雇用需要は底堅いといえます。経験を積んだ人間ほどシンガポール 等に流出してしまうという人材流出の問題はどの業界でもお馴染みだと思いますが、IT 産 業でもこの問題は深刻です。こういったことからも、スキルを持ったエンジニアの雇用需 要が堅調だということはご理解いただけるでしょう。 3.ミャンマーの IT 教育事情と ICTTI プロジェクト それでは、一般的なミャンマーの IT 教育のレベルはどうでしょうか。 現在、ミャンマーには科学技術省傘下だけで 26 の国立のコンピュータ大学があります。 この外に、教育省傘下の大学でもソフトウェア技術者を養成する学科は存在しますし、民 間が経営するコンピュータ学校もヤンゴンだけで約 100 校あると言われています。教育機 関の数だけは国内 IT 企業の数と較べた場合、十分な数が存在していると言えそうです。 しかし、エンジニアの教育には技術者としての十分な実務経験を踏まえた講師が不可欠 ですが、国内産業が未熟なためこのような教育者としての人材がミャンマー国内では深刻 に不足しています。 (これは、どこの途上国の IT 教育でも共通する問題です。)そもそも電 気・通信環境や機材面は既存の教育機関でも貧弱で、コンピュータ大学でさえ学生はコン ピュータを週に 1~2 時間しか使えません。そのため、黒板で行われる IT 理論の抽象的な勉 強ばかりで、実際にプログラムを書いたり、IT 機器を使ってネットワークを作ったりする 能力は、国内大学の博士号を取得した大学教員レベルでも全く期待できません。 民間企業側にしてみると、既存の教育機関で実践的な IT 教育が行われていないため質の 高い技術者を採用できず、採用した後に自社内で教育を行い、OJT を通して養成していく 必要が出ます。これは大きな経営負担です。 また、IT 市場が成長する時というのは、どこの国でも爆発的なスピードで市場が拡大す るものです。そのような成長機会を迎えた時には、それを支える Java プログラミングやデ ータベースの設計、Linux サーバ等の分野で実践的技術を身につけたエンジニアが往々にし て不足するわけですが、そのようなエンジニアの国内ストックが全くない現状では、今後 の IT 市場の拡大も期待できません。 このような現状を踏まえて、ICTTI プロジェクトでは実習形式のワークショップを長期 2 間取り入れたカリキュラムを特色としています。日本人の技術専門家は皆、途上国での IT 教育の経験のほか、国内外の企業でのエンジニア経験が豊富な者が選ばれています。まず 彼らが現場ニーズに即した基本カリキュラムを作り、これをミャンマー現地の事情やニー ズの下で頻繁に修正しながら使用しています。 ソフトウェア分野では、研修期間の最後に実際のアプリケーション開発を 2 ヶ月間行い ます。これには、実際の開発現場で行うようなチーム開発も含まれます。ネットワーク分 野の場合、マイクロソフト製の OS と比べて安価で、セキュリティの信頼度も高いために世 界中で急速にシェアを伸ばしている Linux という OS がありますが、それを組み込んだサ ーバを中心に位置づけたネットワーク構築とセキュリティに関するワークショップを、や はり1ヶ月行っています。このようなカリキュラムと機材、ハードとソフトの両面の環境 を整えた教育機関は、ミャンマー国内では ICTTI だけです。 一般的なミャンマー人の国民性として、他の東南アジア諸国と較べた場合に、労働者が 真面目で勤勉だということが言えると思います。エンジニア教育を受けた層は英語でのコ ミュニケーションも可能ですし、一般のエンジニアの技術力が底上げすることができれば、 外国企業にとっても低廉な人件費は直接投資先として魅力的になってくるはずです。 ただ、人材作りにはどうしても時間とコストがかかります。特にエンジニア教育の場合、 実際の講師達がソフトウェア開発やネットワーク設計の実務経験を地道に積んで、地力を 高めていくことが必要です。このプロジェクトは開始から丸 2 年を過ぎたところですが、 まだまだ講師達にもエンジニアとして見た場合に至らないところが多々見られます。しか し幸いなことに、講師達の取り組み姿勢は総じて非常に熱心ですし、関連する省庁も本案 件にとても協力的です。日々の地道な取り組みを通して、この国の IT 系人材育成の基盤を 作り上げている実感を持てるため、プロジェクトに参加している我々にとってもたいへん やりがいのある仕事です。 4.プロジェクトの今後 ICTTI は、毎年 5 月と 10 月に 2 回開講しています。ソフトウェア、ネットワークの両コ ースともに約 22 週間のカリキュラムで、1年で最大 200 名程度の研修生を受け入れること ができます。ミャンマー側の官民のニーズとしては、この「量」的キャパシティをもっと 高められないかという声が非常に強いです。一方で、講師達のキャパシティや学校の運営 体制といった「質」の面をどう継続的に強化していってミャンマー側のニーズに応えてい くのかという点が、常に日本側関係者の間で議論されています。 また、先ほども述べた通り、スキルのあるエンジニアに対する国内企業の人材ニーズは 旺盛ですが、修了生の雇用の受け皿である国内企業の絶対数がまだまだ少ないことは否め ません。 (その中で、日本同様若くて優秀なエンジニアが自分達で起業するケースも見られ、 喜ばしい限りです。)更に世界不況の煽りで、先進国から途上国に流れる委託開発のボリュ ームも一時期に較べると伸びが鈍化しています。多くのミャンマー人エンジニアが働くシ 3 ンガポール等の周辺国も含めた IT 市場が今後どういう状況になってくるのかということを、 我々は注意して見守る必要を感じます。ICTTI の修了証を得た研修生達は他のミャンマー 人求職者に較べると、求人現場で絶対的な競争力があることを我々も確信していますが、 こういった雇用マーケットの状況からも「量」と「質」のバランスの見極めを議論してい く必要性を日々感じています。 5.最後に これまでも、特に IT 関係企業にお勤めの日本人会会員の皆様には公私共々、情報共有や 現地調査等で色々とご相談に乗っていただいて参りました。末筆ながら、この場を借りて 御礼を申し上げます。 今後とも引き続き、宜しくお願い申し上げます。 以上 注)この原稿は、ヤンゴンの日本人会向けに私の同僚が書いた原稿に、若干加筆修正した ものです。私が今参画しているプロジェクトの活動を通して、ミャンマーの ICT 業界の 状況が述べられていますので、私のホームページの上に置くことにしました。 4