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Title 琉球列島におけるイノシシ猟の歴史的展開と生態的基盤

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Title 琉球列島におけるイノシシ猟の歴史的展開と生態的基盤
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琉球列島におけるイノシシ猟の歴史的展開と生態的基盤(
Abstract_要旨 )
蛯原, 一平
Kyoto University (京都大学)
2010-03-23
http://hdl.handle.net/2433/120392
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
( 続紙 1)
京都大学
論文題目
博士(地域研究)
氏名
蛯原
一平
琉球列島におけるイノシシ猟の歴史的展開と生態的基盤
(論文内容の要旨)
本論文は生 態環境およ び社会文化 の面で東南 アジア島嶼 部と強い関 連性を有す る、
琉球列島の 西表島にお いて、リュ ウキュウイ ノシシ(以 下、イノシ シ)の狩猟 を対象
とし、その 歴史的変遷 、現在にお ける実践の 具体的記載 、狩猟がイ ノシシの個 体群に
及ぼす影響 を論じ、狩 猟が持続的 に行われる ための条件 を考察した うえで、東 南アジ
ア島嶼部で 行われた先 行研究との 比較をとお して陸生哺 乳類の持続 的狩猟と個 体群管
理を行なっていく際の新たな分析枠を論考する。
第 1 章で はイノシシ属動物の野生動物資源としての有用性と東南アジア島嶼 部 を は
じめとする 分布域各所 での、狩猟 圧の増大や 生息環境の 悪化による 当該動物の 厳しい
生息状況を 指摘する。 そのうえで 、現在でも 多数の猟師 がイノシシ を罠猟で狩 猟して
いる西表島で研究を行う意義を述べ、本研究を行ううえでの視点と目的を提示する。
第 2 章では、多数の考古・歴史資料をもとに、先史時代から近代以前におけ る 琉 球
列島でのイ ノシシ猟を 記述する。 また、聞き とりと現地 調査から、 近代におい て使用
された罠の 復元を行う と同時に、 狩猟と農業 の複合形態 を具体的に 明らかにす る。さ
らに、罠猟 が主流とな る西表島の 、現在まで の狩猟の歴 史的変遷を 記述するこ とに加
えて、従来から行われてきた狩猟と現行の狩猟制度との関連を論じる。
第 3 章では、ひとりの 猟師が、11 年間、自 ら作成した狩猟記録図に基づき、捕獲 結
果の経年変 化、罠掛け や出猟スケ ジュール等 の狩猟実践 を分析する 。猟師がイ ノシシ
の予測困難 な行動やそ の年の罠を 掛ける場所 の状況に応 じて狩猟実 践を調整し つつ、
イノシシの 生態や猟場 の環境等に 関する知識 を深め、捕 獲数増加を 目指す一方 におい
て、新たな 罠をほとん ど追加しな いといった 捕獲努力量 を抑制する 行為も認め られる
ことを記述する。
第 4 章では、罠を掛ける場所を聞きとりと現地踏査によって全て記録し、猟 師 は 猟
場へのアク セスポイン トから遠方 には罠を掛 けないこと を明らかに する。さら にこれ
らの経年変 化を示すと ともに、罠 掛けと見廻 りを行う人 の単位(組 )があるこ とを述
べる。組の 間にはテリ トリー制が 存在し、各 組はその制 度のなかで 、年によっ て生じ
る自然環境の変化に応じて狩猟を実践していることを明示する。
第 5 章では、狩猟がイノシシの個体群に及ぼす影響を明らかにするため、胎 児 の 発
育段階と卵巣の観察をとおして交尾期や妊娠率を推定することに加えて、下顎の歯に
基づく齢査 定から、今 日における イノシシの 個体群動態 を把握する 。さらに、 罠効率
を指標とした個体数密度や総捕獲数を 30 年前の先行研究と比較して、捕獲圧に 大 き な
差異がない 可能性を示 すとともに 、若齢個体 の捕獲率の 減少、およ び罠効率の 不安定
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性を実証的に解明する。
第 6 章では、これまでの章で明らかにした研究結果をもとに総合考察を行う 。 捕 獲
数増加を目 指す一方で 必要以上の 猟果を望ま ず、限られ た罠本数と 狭い猟場面 積で罠
猟を行うと いった狩猟 実践の特徴 に起因する 狩猟効率の 不安定性と 、島中心部 に形成
される広大な狩猟空白域は、現在においても西表島で狩猟が継続して行われている要
因であると 考察する。 そしてイノ シシ肉が、 一部では商 品化されて いるものの 、今な
お、そのほ とんどが住 民の連係を 保つための 食物として 共食・無償 贈与される という
西表島社会 の狩猟実践 の背景に注 目する。つ づいて、西 表島におけ る持続的狩 猟を継
続するため に必要な事 項を具体的 に提言する ことに加え て、東南ア ジア各地の 事例と
比較考察を し、陸生哺 乳類の持続 的狩猟と個 体群管理を 行っていく 際には、前 述の提
言の応用と ともに、市 場経済化に 伴う商品的 価値だけで 野生動物資 源を計るの みでは
なく、狩猟 を行う社会 の特徴と当 該動物の文 化的価値を 含めた分析 枠から議論 するこ
とが必要であると結論づける。
第 7 章では、今までの章を要約して結論とする。
― 2 ―
(続紙 2)
(論文審査の結果の要旨)
陸生 哺 乳類 の多 く は生 息域 が 人間 の生 活 圏と 近く 、 古来 より 人 間の 諸活 動 によ っ て
個体 数 や生 息環 境 への 影響 を 受け てき た 。近 年で は 狩猟 圧の 増 大や 自然 環 境の 悪化 に
よる 個 体数 の減 少 が著 しい 種 類も 多い 。 一方 にお い て、 農林 業 の経 営形 態 や土 地利 用
の変化により、これらが害獣化し、人間社会への影響が深刻化する事態も生じてい る 。
陸生 哺 乳類 に関 わ る諸 処の 問 題は 単に 生 物多 様性 の 維持 とい っ た点 にと ど まら ず、 そ
れを取り巻く人間社会の在り方に関連した今日的課題である。
イノ シ シ属 動物 は ユー ラシ ア 大陸 、東 南 ・東 アジ ア 島嶼 部等 に 生息 し、 良 好な 肉 質
を持 ち 、高 い資 源 的価 値を 有 して いる た めに 狩猟 の 対象 や家 畜 化な ど、 様 々な 形で 人
間と 関 わり を持 つ 一方 で、 多 くの 地域 で 個体 数の 減 少や 害獣 化 が顕 著に 認 めら れ、 人
間社会との共存が重要な課題となっている。
本論 文 はこ のよ う な問 題意 識 に基 づき 、 生態 環境 お よび 社会 文 化の 面で 東 南ア ジ ア
島嶼 部 と強 い関 連 性を 有す る 、琉 球列 島 の西 表島 に おい て行 わ れて いる リ ュウ キュ ウ
イノ シ シ( 以下 、 イノ シシ ) の狩 猟実 践 を、 長期 間 のフ ィー ル ドワ ーク と 多数 の考 古
資料 ・ 歴史 資料 か ら得 られ た 情報 を駆 使 して 多角 的 に明 らか に した 優れ た 研究 成果 で
ある。
本論文の学術的貢献は以下の諸点である。
第一 に 、琉 球列 島 にお ける イ ノシ シ猟 を 、近 代に 使 用さ れた 罠 の復 元、 狩 猟・ 農 業
複合 形 態の 具体 的 な解 明な ど とも に、 西 表島 で罠 猟 が主 流と な る狩 猟の 変 遷を 含め て
歴史 的 に明 らか に し、 従来 か ら行 われ て きた 狩猟 と 現行 の狩 猟 制度 との 関 連を 論考 し
た。これにより、西表島における罠猟の歴史的背景を理解することが可能となった。
第二 に 、猟 師の 狩 猟行 為を 詳 細に 分析 し 、猟 果の 増 加を 目指 す 一方 にお い て、 限 ら
れた 猟 場面 積と 罠 本数 で狩 猟 を行 う抑 制 的行 為も 認 めら れる と いう 西表 島 の狩 猟実 践
の特 徴 を正 確に 捕 捉し た。 こ の内 容は 狩 猟文 化を 考 察す る際 に 大き な課 題 を提 供す る
ものとして価値を認める。
第三に、西表島全体における猟場の分布とそれらの経年変化から、罠掛けと見廻り
を行 う 人の 単位 ( 組) の間 に はテ リト リ ー制 が存 在 し、 各組 は その 制度 の なか で狩 猟
を実 践 し、 猟場 へ のア クセ ス ポイ ント か ら遠 方に は 罠を 掛け な いた め、 島 の中 心部 に
は広 大 な狩 猟空 白 域が 存在 す ると いう こ とを 明確 に 示し た。 こ の成 果は 狩 猟制 度や 生
物の個体群管理を考察する際に多大な貢献をなすものとして評価できる。
第四 に 、今 日に お ける イノ シ シの 個体 群 動態 を把 握 する こと に 加え て、 罠 効率 を 指
標として個体数密度や総捕獲数を 30 年前の先行研究と比較し、この間に捕獲圧に 大 き
な変 化 がな かっ た こと 示唆 す ると とも に 、若 齢個 体 の捕 獲率 の 減少 、お よ び罠 効率 の
不安 定 性を 実証 的 に解 明し た 。こ れら の 結果 は狩 猟 を持 続的 に 行う ため に 必要 な生 態
的基盤の情報として価値あるものと認める。
第五 に 、こ れま で 明ら かに し た研 究結 果 をも とに 総 合考 察を 行 い、 一定 の 範囲 内 で
捕獲 数 増加 を目 指 すも のの 、 狭い 猟場 面 積で 限ら れ た本 数の 罠 のみ を用 い て狩 猟を 行
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った り 、島 中心 部 に広 大な 狩 猟空 白域 を 残す とい っ た猟 師の 狩 猟実 践に よ って 、猟 場
内で の 短期 的な 狩 猟効 率は 不 安定 であ る もの の、 長 期的 には 、 持続 的狩 猟 が可 能に な
って い ると した 。 また 、西 表 島で は今 な お、 イノ シ シ肉 が商 品 価値 をも ち つつ も、 住
民の 儀 礼時 の食 物 、あ るい は 社会 関係 を 円滑 化す る 食物 とし て 共食 ・無 償 贈与 され る
とい う 、文 化的 、 社会 的背 景 がこ の地 域 の狩 猟実 践 を支 えて い るこ とを 指 摘し た。 さ
らに 、 これ らの 成 果に 基づ い て、 西表 島 にお ける 持 続的 狩猟 を 継続 する た めに 必要 な
事項 を 具体 的に 提 言す ると と もに 、こ の 例を 東南 ア ジア 各地 の 事例 と比 較 考察 をし 、
陸生 哺 乳類 の持 続 的狩 猟と 個 体群 管理 を 行っ てい く 際に は、 対 象動 物の 生 態や 狩猟 活
動と い った 生態 的 特徴 や、 市 場経 済化 に 伴う 商品 的 価値 だけ で 野生 動物 資 源を 計る だ
けで な く、 狩猟 を 行う 社会 の 特徴 と当 該 動物 の文 化 的価 値を 含 めた 分析 枠 から 議論 す
ることが必要であると結論づけた。
本研 究 は西 表島 の 事例 研究 に とど まら ず 、特 に東 南 アジ ア島 嶼 部に おけ る 地域 研 究
に資 す るこ とに 加 えて 、生 態 学、 保全 生 物学 、人 類 学な ど、 様 々な 学問 分 野に 貢献 す
るものであり、文理融合の研究成果として高く評価できる。
よって、本論文は博士(地域研究)の学位論文として価値あるものと認める。ま た 、
平成 22 年 1 月 19 日、論文内容とそれに関連した事項について試問した結果、 合 格 と
認めた。
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