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改良型ウィムズハースト起電機による静電気の実験

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改良型ウィムズハースト起電機による静電気の実験
中学第 1 分野
改良型ウィムズハースト起電機による静電気の実験
湯 澤 光 男*
栃木県宇都宮市立若松原中学校
目
的
静電気の実験は、生徒にとって興味関心が高く、こ
れまでもさまざまな実験器具が開発されてきた。
筆者もこれまで、静電気の実験のために塩ビパイプ
を利用した摩擦型の手回し発電機などを自作してきた
が、大容量の静電気を発生させることはできなかった。
大容量の静電気発生装置あるいは高電圧発生装置と
しては、バンデグラーフ発電機や誘導コイルなどがある
が、両者はいずれも電源を用いるものであり、電気の初
学者である生徒にとっては
「電気を使って電気を起こす」
のは当たり前のことで、たいした驚きをもたらさない。
そのような時、筆者は米書『Homemade Lightning』
(R.A.Ford 著)という本と出会った。筆者は同書に掲
載の写真を見て驚いた。そこには、長さが 30cm 以上
はあろうかという、長い長い火花放電の写真が多数掲
載されていたからである。
「セクタレス・ウィムズハースト起電機」という改
良型のウィムズハースト起電機の存在を知った筆者
は、ぜひ作ってみたいと思ったが、同書の起電機もや
はりモーターを使用して円盤を回転させていた。
そこで、筆者はあくまで「手回し」にこだわって、
改良型のウィムズハースト起電機の製作を試みた。そ
の結果、当初の予想以上に、効率よく静電気を発生さ
せることができ、大容量の静電気実験が可能となった。
このことにより、静電気で豆電球を点灯させたり、
水の電気分解を行ったりすることが可能となり、静電
気と通常の電気が本質的には同じものであることを生
徒に示すことができる。
概
要
筆者が製作したセクタレス・ウィムズハースト起電
機は、手回しにもかかわらず、15 ∼ 20cm もの大きな
火花放電を起こすことができ、放電極の間に厚さ
10mm もの本を入れてもその放電により穴を開けるこ
とができる。
この発電機は、手回しにもかかわらず、効率よく大
容量の静電気を起こすことができるので、これを用い
*
ゆざわ みつお
て、通常の静電気実験以外に下記のような演示実験を
行うことができる。
・静電気で豆電球は点灯するかどうか。
・静電気で水は電気分解できるかどうか。
・離れたところに置いたネオンサインは点灯するか。
・ヘルツの電磁波の簡易検出実験
写真 1 改良型ウィムズハースト起電機
教材・教具の製作方法
Ⅰ.材料
円盤(2 枚):直径 30cm。DIY 店でアクリル円板を
購入。後にガラスエポキシ円板に変更
ゴムベルト:中村理科の「フリーサイズ・ベルト」
を使用
塩ビパイプ、シャフト、ベアリング、アクリルパイ
プ、木材等は DIY 店、その他は 100 円ショップを利用。
Ⅱ.起電機の構造
図 1 および写真 2 ∼ 5 を参照。円板はそれぞれ逆方
向に回転。
栃木県宇都宮市立若松原中学校 教諭 〒 321-0139 栃木県宇都宮市若松原 3-19-27
蕁
(028)
655-0679 E-mail [email protected]
7
Ⅲ.製作の留意点
円板と回転軸の取り付けには、木製の円板と円柱を
利用し、円板にねじ留めとした。回転軸は円板に垂直
となるよう、取り付け部の 3 本のねじで調整。2 枚の
円板の間隔は 2 ∼ 3mm になるように調整。
静電誘導棒は上下の 2 本が電気的につながるように
取り付け部で導線で接続。表裏の静電誘導棒の角度は
30 ∼ 90 度(ちなみに筆者の製作した起電機の場合、
アクリル板のときは 90 度、エポキシ板では 40 度ほど)。
大きな放電球は 100 円ショップで購入した仏具のお
輪を 2 個流用。ライデン瓶はタッパー容器で製作。
学習指導方法
Ⅰ.起電機による静電気の発生
1. 長さ 50cm ほどの塩ビパイプを紙(キッチンペー
パーがよい)で強くこすり、塩ビパイプを強く
帯電させる。
2. 起電機を回転させながら、帯電させた塩ビパイプを
起電機の静電誘導棒の反対側の円板に近づける。
すると、円板から「シャー」という音がして発電
が始まる。発電しない場合は、塩ビパイプの帯電
が弱いので、もう一度強くこすって近づける。数
度繰り返すと発電が始まる。
Ⅱ.実験方法
静電誘導棒
木の円板
円柱
アクリル板
アクリルパイプ
ベアリング
プーリー
シャフト留め
シャフト6mm
1. 大きな火花放電を見せる
放電電極間の間隔は、はじめは 10cm 程度。放電が
始まったら徐々に広げていく。ただし、間隔を開けす
ぎるとライデン瓶の耐圧以上に電荷がたまり、ライデ
ン瓶がパンクするので注意する。20cm 程度まで。
塩ビパイプ
ゴムベルト
塩ビパイプ
木の円板
長ねじ8mm
ベアリング
図 1 起電機の構造
写真 6 長さ 20cm もの長い長い火花放電
写真 2 回転軸
写真 3 放電電極
写真 4 集電部
写真 5 回転部
起電機の各部のつくり
8
2. 紙などを挟んで穴を開ける
放電電極間を 10cm ほどにし、間に紙を挟んで放電
させると、針で突いたような小さな穴が開く。2 枚、3
枚と増やしていく。数十枚、厚さ 1cm ほどの本にも穴
が開いてしまう。厚さ 3mm ほどのベニヤ板にも穴が
開いた。
3. 放電によるオゾンの発生
発電が始まると、起電機から生臭いにおいがただ
よってくる。大量の静電気が発生し、空気中に放電す
るため、空気中の酸素がオゾンに変化する。
4. 静電気で豆電球は点灯するか
使用した豆電球は、理科室にあった 2.5V ・ 0.3A 球。
図 2 のように配線し、放電電極の間隔で放電量を調節
し、電球が切れない程度に設定(間隔 2cm 程度)
。
豆電球
1mアルミパイプ
1mアルミパイプ
ネオン管
この間隔で
調整
0.5∼1m
図 2 豆電球の点灯
起 電 機
図 3 電磁波の確認実験
写真 7 豆電球の点灯
7. 通常の静電気実験
集電部に下がっている 2 個のライデン瓶をはずす
と、通常の静電気実験に最適な起電機となる。この場
合、発生した静電気がそのまま放電電極から放電し、
連続的な放電現象が観察できる。
5. 静電気で水の電気分解はできるか
写真 8、9 参照。細い管は、気体スプレーのノズル
利用。電極は 1mm ステンレス棒。水を注入し、水上
置換の要領で水上に立てる。電極間隔は 0.5 ∼ 1mm。
起電機との配線方法は、豆電球の場合と同じ。このよ
うにすると、水中で放電がおき、その火花の中から微
細な泡が発生する。水が静電気によって電気分解され、
細管上部にたまっていく。気体がある程度たまったら、
電極を上に引き上げ、たまった気体中で放電させると、
気体が反応し、水に戻ることが確認できる。
写真 10 ライデン瓶をはずすと連続的な放電が起きる
そこで、絶縁台に立たせた生徒に電気をためる「電
気人間」の実験や「E ・ T ごっこ」、手をつないで
「百人おどし」などの実験が簡単にできる。また、電
極の上に置いた放電車を回転させたり、放電電極につ
けた針金の先から放電にさせて、ろうそくの炎を吹き
消すなどの興味深い実験ができる(写真 11、12)
。
写真 8 水の電気分解
写真 9 水中放電により発生
する微細な泡
6. 電磁波の確認実験
夜、放電実験をしているとき、起電機のそばにおい
た 1m のネオンサインが放電の瞬間、かすかに点灯す
ることに気づいた。放電により強い電磁波が発生し、
そのためネオンサインが光るのであろうと推測し、図
3 のような電磁波の確認実験を行ったところ、起電機
から 50cm ∼ 1m 離れたところでもネオン管が光るこ
とが確認できた。
写真 11 放電車の回転
写真 12 炎を吹き消す
9
実践効果
その他補遺事項
学校での授業やサイエンス・ショーで、この起電機
を用いた各種の実験を行った。
授業では、生徒にもかわるがわる起電機を回しても
らい、電気が起きているときの手ごたえ(円板同士に
違う極の電気が誘導されるため、引き合って、円板の
回転が重く感じられる)や発生するオゾンのにおいな
どを体験してもらったり、ライデン瓶をはずした状態
で電極に触れて電気を感じてもらったりした。
また、静電気で豆電球を点灯させたり、水の電気分
解の演示を見せたりすることで、静電気も普通の電気も
本質的には同じものであることを示すことができた。
1.エポキシ円板の入手先
この起電機は当初はアクリル円板を用いていたが、
その後、ガラスエポキシの円板を入手することができ、
さらに性能が上がった。エポキシ円板は穴あけなどの
工作が容易で、エポキシ接着剤により他の材料との接
着も可能になるなど、工作上も都合がよかった。
エポキシ円板の入手先 相模ピーシーアイ(株)
http://www.s-pci.co.jp/eigyo.html
2.謝 辞
この起電機の製作および実験開発にあたり、栃木県
総合教育センター指導主事・阿久津浩氏から貴重なア
ドバイスをいただきました。氏からは、中村理科から
販売されているフリーサイズベルトを分けていただい
たり、静電気による水の電気分解のことがダンネマン
の大自然科学史に出ていることを教えていただき、さらに
はその資料をいただきました。深く感謝申し上げます。
参考文献
1)R.A.Ford : Homemade Lightning
2)ダンネマン、安田徳太郎訳:新訳ダンネマン大自然
科学史,三省堂
写真 13 授業の様子
これらにより、この起電機を用いた静電気の授業は、
生徒達はもちろん、大人の方々にもたいへん好評で、
たくさんのすばらしい感想や意見をいただいた。いく
つか紹介する。
・実験がとっても面白かったです。予想は外れっぱな
しだったけれど、結果を聞いたり、見たりしたとき
は、感動しました。今日はいろいろ勉強になりまし
た。またこのような機会があったら絶対に見たいで
す。(中 1)
・電気のすごさがわかった。ふだんできない実験が見
られておもしろかった。静電気もふつうの電気と同
じというのがよくわかった。
(中 2)
・電気についておもしろい実験でわかりやすく説明し
てくれたので、電気のことがよくわかりました。こ
れからもおもしろい実験を続けてください。
(中 3)
・電気の性質について非常によくわかったのでよかっ
たです。とっても楽しかった。最高∼!!(中 3)
・とてもわかりやすく楽しみながら電気の勉強をさせ
ていただきました。「電気を目で見る」ことができ
てすごく驚きました。今の便利な世の中になるまで
の昔の人の努力に頭が下がる思いでいっぱいです。
ありがとうございました。
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