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3次元培養ヒト皮膚モデルを用いた化学物質の皮膚曝露試験法の確立
最終報告書 調査名 「3 次元培養ヒト皮膚モデルを用いた化学物質の皮膚曝露試験法の確立に関する研究」 城西大学 薬学部 杉林 堅次 埼玉県坂戸市けやき台 1-1 TEL. 049-271-7943 FAX. 049-271-8137 E-mail: [email protected] 実施体制 杉林 堅次: 皮膚を介した化学物質の定量的・速度論的評価手法の開発に関する研究 森本 一洋: 化学物質の定量的・速度論的評価手法の開発に関する研究 藤堂 浩明:コンピュータケミストリーを利用した化学物質の物理的パラメータの算 出および皮内動態解析 押坂 勇志:化学物質の皮内動態評価および解析 菊池 啓介:化学物質の皮内動態の解析 平井 綾乃:化学物質の角層中動態評価および解析、3 次元培養ヒト皮膚モデルの形態 学的観察および評価 1 Summary 【Purpose】動物福祉の観点から 3 次元培養ヒト皮膚モデルを用いた in vitro 皮膚刺激性試験が行われているが、いくつかの化学物質で偽陰性や偽陽性反 応が認められている。これらの原因には化学物質の培養皮膚とヒト皮膚の透 過性や、代謝能の違いによって生じる皮膚刺激強度や刺激性代謝物質量の違 いが関係していると示唆されている。そこで本研究では種々3 次元培養ヒト 皮膚モデルを用いて角層のバリア能および表皮エステラーゼ活性を比較、検 討した。 【Methods】角層のバリア能は極性の異なる化合物を用いて in vitro 皮膚透 過実験より得られた透過パラメータより算出した。また、偽陰性反応が認め られた物質にエステル類が多いことから、ethyl nicotinate を用いてヒト皮 膚、ヘアレスラット皮膚、および種々3 次元培養皮膚モデルを介した皮膚透 過性およびカルボキシエステラーゼ活性を測定した。また、 fluorescein-5-isothiocyanate diacetate を用いてこれら組織中の酵素分布を 観察した。 【Results and Discussion】皮膚のバリア能を比較・評価したところ三次元 培養皮膚モデルのバリア能は低く、このことから、特に水溶性物質の培養皮 膚モデル中濃度が高くなり、結果として偽陽性反応を引き起こしているもの と思われた。一方、種々3 次元培養皮膚モデルのカルボキシエステラーゼ活 性は、ヒト皮膚とヘアレスラット皮膚中の活性より低かった。さらに、化学 物質の培養皮膚モデル中の透過速度は、ヒトおよびラット皮膚より速く、こ のことから親化合物および代謝物の concentration-distance profile がラッ トおよびヒト皮膚と異なり、代謝物の皮膚中濃度が著しく低くなると考えら れた。以上の事より酵素活性の違いが、エステル結合を有する脂溶性物質の 偽陰性反応の原因となっていることが明らかとなった。 2 1. Theoretical 1.1 1 層膜モデル透過挙動の解析 種々化学物質の皮膚透過挙動から皮膚中濃度を解析するために、差分法を 用いて解析を行った。まず、ヘアレスラット皮膚および EpiDerm の stripped skin を 1 層膜モデルと仮定した(Fig. 3 (a))。本実験ではレシーバー側のシ ンク条件が成立していると仮定したため、次に示す Fick の拡散第 2 法則で 表すことができる。 ∂Cved ∂ 2Cved = Dved ∂t ∂x 2 (1) ここで、x は皮膚中の位置、t は時間、Dved は生きた表皮・真皮中の薬物拡 散係数を表す。 初期条件および境界条件は以下のように仮定した。 t = 0 0 < x < Lved Cved = 0 t > 0 x = 0 Cved = Kved ⋅ Cv x = Lved Cved = 0 ここで、Lved は生きた表皮・真皮の厚み、Kved は基剤‐生きた表皮・真皮間 薬物分配係数、Cv は基剤中薬物濃度である。Cved は初期条件と境界条件か ら Fick の拡散第 2 法則に従うので、差分法を用いて計算できる。さらに、 レシーバー側への薬物の stripped skin 透過速度 Fulxst は(2)式より表す ことができる。また、単位面積当たりの stripped skin 累積透過量 Qst は(3) 式で表すことができる。 ⎛ dC ⎞ Flux st = − Dved ⎜ ved ⎟ ⎝ dx ⎠ x = Lved (2) t ⎛ dC ⎞ Qst = − Dved ∫ ⎜ ved ⎟ dx 0 ⎝ dt ⎠ x = Lved (3) また、 (1)式は(4)式および(5)式に変換することができる。 dCved ,i , j +1 dt dC ved ,i , j dx 2 = = 1 (Cved ,i, j +1 − Cved ,i, j ) Δt (4) 1 (Cved ,i−1, j − 2Cved ,i, j + Cved ,i+1, j ) Δx 2 3 (5) ここで、Cved, i, j は i 番目の位置の j 時間目の薬物濃度を表す。Δx は xi+1-xi を、Δt は tj+1-tj を表す。 (4)式と(5)式を(1)式に代入すると次式が得られる。 Cved , i , j +1 = rDved Cved , i −1, j + (1 − 2rDved )Cved , i , j + rDved Cved , i +1, j (6) ここで、r は Δt/Δx2 を表す。差分式を使うと(2)式と(3)式はそれぞれ(7) 式と(8)式になる。 Flux st , j = − Dved Cved ,n+1, j − Cved ,n, j (7) Δx Qst , j = Qst , j −1 + J st , j ⋅ Δt (8) n を皮膚の区分数とした。そこで、Fluxst, j は n=10 にセットして Microsoft® Excel を用いて計算した。なお、この計算では、Δt は Dved Δt/Δx2 に対して 0.5 未満となるようにセットした。Qst, j は(8)式を使って Fluxst, j から計算 した。Dved と Kved は非線形最小二乗法を使って透過データにカーブフィッ ティングして得られた。なお、最小二乗法は Microsoft® Excel Solver を使 って行った。計算条件は制限時間 100 s、反復回数 100 回、精度 0.000001、 基本公差 5%、収束 0.0001 とした。Pseudo-Newtonian method をアルゴリ ズムとして用いた。 1.2 2 層膜モデル透過挙動の解析 次に、ヘアレスラット full-thickness skin および EpiDerm を角層と生き た表皮・真皮からなる 2 層膜モデルとして仮定した。角層中薬物濃度 Csc と 生きた表皮・真皮中薬物濃度 Cved は(9)式と(1)式で表される。 ∂Csc ∂ 2Csc = Dsc ∂t ∂x 2 (9) ∂Cved ∂ 2Cved = Dved ∂t ∂x 2 (1) ここで、Dsc は角層中の薬物拡散係数を表す。初期条件および境界条件は以 下のように仮定した。 t = 0 − Lsc < x < 0 Csc = 0 0 < x < Lved C ved = 0 4 t > 0 x = − Lsc Csc = K sc ⋅ Cv x = 0 C ved = K ved / sc ⋅ C sc および D sc dC sc dC ved = Dved dx dx x = Lved C ved = 0 ここで、Lsc は角層の厚み、Ksc は基剤‐角層間薬物分配係数、Kved/sc は角層 ‐生きた表皮・真皮間薬物分配係数を表す。Csc と Cved は初期条件と境界条 件から Fick の拡散第 2 法則に従って変化すると考えて、差分法を用いて計 算できる。レシーバー側への full-thickness skin 透過速度 Fluxfull は(10) 式より、単位面積当たりの full-thickness skin 累積透過量 Qfull は(11)式 で表すことができる。 ⎛ dC ⎞ Flux full = − Dved ⎜ ved ⎟ ⎝ dx ⎠ x = Lved (10) t ⎛ dC ⎞ Q full = − Dved ∫ ⎜ ved ⎟ dt 0 ⎝ dx ⎠ x = Lved (11) また、(9)式は(12)と(13)式に、(1)式は(4)と(5)式に変換する ことができる。 dCsc,i , j dt d 2Csc,i , j dx 2 = 1 (Csc,i, j +1 − Csc,i, j ) Δt (12) = 1 (Csc,i−1, j − 2Csc,i, j + Csc,i+1, j ) Δx 2 (13) dCved ,i , j +1 dt d 2 C ved ,i , j dx 2 = 1 (Cved ,i, j +1 − Cved ,i, j ) Δt (4) = 1 (Cved ,i −1, j − 2C ved ,i, j + C ved ,i +1, j ) Δx 2 (5) (12)式と(13)式を(9)式に、 (4)式と(5)式を(1)式に代入すると (14)式と(6)式が得られる。 C sc, i , j +1 = rD sc C sc, i −1, j + (1 − 2rD sc )C sc, i , j + rD sc C sc, i +1, j Cved , i , j +1 = rDved Cved , i −1, j + (1 − 2rDved )Cved , i , j + rDved Cved , i +1, j 5 (14) (6) ここで、r は∆t/∆x2 を表す。差分式を使うと(10)式、(11)式はそれぞれ (15)式、(16)式になる。 Flux full , j = − Dved Cved ,n+1, j − Cved ,n, j Δx (15) Q full , j = Q full , j −1 + Flux full , j ⋅ Δt (16) n を角層および生きた表皮・真皮の区分数とした。Fluxfull, j は n=10 にセ ットして Microsoft® Excel を用いて計算した。Dsc と Ksc は非線形最小二乗 法を用いて透過実験データにカーブフィッティングして算出した。また、 Dved と Kved には、stripped skin および stripped EpiDerm の 1 層膜モデル の透過挙動解析から算出した値を用いた。なお、計算は 1 層膜モデルの透過 挙動解析と同様の方法で行った。 2. Materials and Methods 2.1 試薬および実験材料 一硝酸イソソルビド(ISMN)は Sigma Aldrich(St. Louis, MO, U.S.A.)か ら購入した。二硝酸イソソルビド(ISDN)、ニコチン酸エチル(EN)、は東 京化成工業株式会社(東京、日本)、アンチピリン(ANP)、フルオレセイ ン-5-イソチオシアネートジアセテート(FID)は和光純薬工業(大阪、日本) から購入した。フルルビプロフェン(FP)はリードケミカル(富山、日本) から供与された。サリチル酸ヘキシル(HS)は Sigma Aldrich(St. Louis、 MO、U.S.A.)から購入した。サリチル酸(SA)は関東化学株式会社(東京、 日本)から購入した。その他の試薬および溶媒は市販の特級または HPLC 用 を用いた。これらの試薬は精製せずにそのまま使用した。Table 1 に本研究 で使用した種々物質の分子量および logKo/w を示す。 6 Table 1 Chemical structures and physicochemical properties of model substances Chemical (Abbreviation) log Ko/w M.W. Antipyrine (ANP) -1.51 188.23 Isosorbide-5-mononitrate (ISMN) -0.151 191.14 Isosorbide dinitrate (ISDN) 1.22 236.14 Flurbiprofen (FP) 2.17 224.27 Nicotinic acid (NA) 0.36 123.11 Ethyl nicotinate (EN) 1.32 141.11 Fluorescein-5-isothiocyanate diacetate (FID) 1.60 473.45 2.2 実験動物 雄性ヘアレスラット(WBM/ILA-Ht、体重:230-280 g)は、城西大学生 命科学研究センター(坂戸、埼玉、日本)および石川実験動物研究所(深谷、 埼玉、日本)より購入した。なお、動物実験は城西大学動物実験管理委員会 の承諾を得た後、城西大学動物実験規定に従い行った。 2.3 3 次元培養ヒト皮膚モデルおよびヒト皮膚 3 次元培養ヒト皮膚モデル LSE-high は東洋紡績株式会社(大阪、日本)、 EpiDermTM EPI 606X (EpiDerm)は倉敷紡績株式会社(大阪,日本)、 Episkin はニコダームリサーチ(大阪、日本)、Vitrolife-skin はグンゼ株式 会社(京都、日本)、LabCyte Epimodel (LabCyte) は株式会社ジャパン・ ティッシュ・エンジニアリング(蒲郡市、愛知、日本)より購入した。ヒト 皮膚は株式会社ケー・エー・シー(京都、日本)より購入した。 2.4 種々化学物質の in vitro 皮膚透過実験 ヘアレスラット摘出皮膚は、ペントバルビタールナトリウム(50 mg/kg、 i.p.)麻酔下のヘアレスラット腹部を剃毛処理後、左右から 2 枚ずつ皮膚を 摘出し、真皮側の脂肪を丁寧にハサミで取り除いたものを使用した。また、 EpiDerm はメスを用いてウェルプレートから取りはずし、pH7.4 リン酸緩 衝液(PBS)で洗浄後に使用した。ヘアレスラットの場合はセロハンテープ (セロテープ®、ニチバン株式会社、埼玉)を用いて 20 回テープストリッピ 7 ングしたもの、EpiDerm の場合はスタンドライトを用いて 15 分照射後、 乾燥させた角層を剥がしたものを stripped skin とした。ヘアレスラット摘 出皮膚、EpiDerm、およびそれぞれの stripped skin を side-by-side diffusion cell(有効透過面積 0.95 cm2)に挟み、PBS をドナーセルとレシーバーセ ルに適用し 1 時間水和させた。水和後、ドナーセルおよびレシーバーセルか ら PBS を除去し、水溶性物質の場合は PBS、脂溶性物質の場合は 40% polyethylene glycol 400 PBS 溶液をレシーバーセルに適用した。レシーバ ーセルから 0 時間目のサンプリングを行い、同量の溶液を補充した。ドナー セルには、種々物質を懸濁させた PBS 溶液を適用した。レシーバーセルか ら経時的にサンプリングし、その都度同量の溶液を補充した。採取した溶液 をサンプル溶液とした。サンプル溶液中の物質濃度は HPLC を用いて測定 した。 2.5 透過係数の算出 シンク条件下で時間 t における単位面積辺りの皮膚を介した薬物透過量 Q は、(17)式で表すことができる。ここで、K はドナー溶液から皮膚への薬 物の分配係数、D は皮膚中の薬物の拡散係数を示し、L は皮膚の厚みを示す。 ⎡D 1 2 Q = KLC v ⎢ 2 t − − 2 6 π ⎢L ⎣ ∞ ∑ n =1 (−1) n n2 ⎛ D 2 2 ⎞⎤ exp⎜⎜ − 2 n π t ⎟⎟⎥ (17) ⎝ L ⎠⎥⎦ 定常状態では(17)式の右辺第 2 項がゼロとなり、 (18)式に簡略化できる。 Q= KDCv L ⎡ L2 ⎤ ⎢t − ⎥ (18) ⎢⎣ 6 D ⎥⎦ (18)式より定常状態の透過速度(flux)は(19)式で示すことができる。 flux = KDC v = PCv (19) L 透過係数 P は in vitro 皮膚透過実験より得られた透過プロファイルの定常状 態での flux を算出し、ドナー側の濃度で除して算出した。 8 2.6 透過パラメータによる角層バリア能の解析 化学物質のヘアレスラット摘出皮膚および EpiDerm を介する透過抵抗は、 角層(stratum corneum: SC)と下層の生きた表皮・真皮(viable epidermis and dermis: Ved)の 2 層から構成されていると考えることができる。各層 の透過抵抗はその層を介した透過係数(permeability coefficient: P)の逆数 に等しい。全抵抗(Rtot) と全層透過係数(Ptot)は(20)式として表すこ とができる。 (20) ここで、Rsc、Rved は角層および生きた表皮・真皮層の抵抗を示す。 2.7 エステル結合を有する化学物質を用いた in vitro 皮膚透過実験 ヘアレスラット、EpiDerm および摘出ヒト皮膚はを side-by-side 拡散セ ルに挟んだ。それぞれの皮膚を挟んだドナーセルとレシーバーセルに PBS を適用し、へアレスラット摘出および EpiDerm は 1 時間、ヒト皮膚は 12 時間水和させた。水和後、ドナーセルから PBS 溶液を回収し、ドナーセル に EN 溶液を適用した。レシーバーセルには PBS を適用した。レシーバー セルより 500 µL サンプリングし同量の PBS を補充した。この時のサンプ ル溶液を 0 時間目のサンプル溶液とした。経時的にレシーバーセルより 500 µL サンプリングを行い、その都度同量の PBS を補充した。採取した溶液 をサンプル溶液とし、サンプル溶液中の EN および NA 濃度を HPLC を用 いて測定した。 2.8 種々皮膚ホモジネートを用いた代謝実験 ヘアレスラット皮膚、ヒト摘出皮膚、EpiDerm、LSE-high、Episkin、 Vitrolife-skin および LabCyte をハサミを用いて細断した後、ホモジナイザ ーを用いてホモジナイズし、PBS を用いて 10%皮膚懸濁液を調製した。調 製した懸濁液を遠心分離(9000 g、20 min、4˚C)を行った後、その上清を 採り酵素溶液とした。種々濃度に調製した EN 溶液に酵素溶液を適用し、 37˚C でインキュベートをしながら経時的にサンプリングを行った。サンプ 9 リングにより得られたサンプルは、アセトニトリル溶液と等量混合後、撹拌 した。サンプル中の EN および NA は HPLC を用いて定量し、NA の生成 速度を代謝速度として酵素パラメータ(Vmax、Km)を Hanes-Woolf plot を 用いて算出した。Hanes-Woolf plot は(21)式で示され、CEN は適用した EN 濃度、V は代謝速度を表す。なお、ホモジネート中のタンパク量は Lowry 法を用いて測定した。 CEN ⎛ 1 ⎞ Km = C EN + ⎜ ⎟ V V max ⎝ V max ⎠ (21) 2.9 共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いた皮膚中エステラーゼ分布の観察 ヒト摘出皮膚、EpiDerm、LSE-high、Episkin、Vitrolife-skin および LabCyte を川本法用凍結包埋剤(SCEM、ライカマイクロシステムズ、東 京、日本)に包埋し、ドライアイスで冷却したイソペンタン中で速やかに凍 結させ、凍結ブロックを作製した。凍結ブロックをクライオスタット (CM3050S、ライカマイクロシステムズ、東京、日本)を用いて薄切(厚 さ 10-20 µm)し、垂直方向の皮膚凍結切片を作製した。凍結切片に FID の 懸濁溶液を適用し 37˚C でインキュベートした。インキュベート後、懸濁液 を洗い流して PBS で洗浄したのち共焦点レーザー走査型顕微鏡 FV1000 (Olympus、東京、日本)で観察を行った。 2.10 HPLC 条件 化学物質を含む測定サンプルに同量の内部標準物質を含んだアセトニト リルを加えた。サンプルを攪拌し、遠心分離(15000 rpm,5 min,4°C) し,その上清 20 μL を HPLC に注入した。HPLC システムは、送液ポン プ(LC-10AD、島津製作所、京都、日本)、オートサンプラー(SCL-10A; 島 津製作所、京都、日本)、カラムオーブン(CTO-10A; 島津製作所、京都、 日本)、UV 検出器(SPD-10AV; 島津製作所、京都、日本)および解析ソ フト(Smart Chrom; KYA technology, 島津製作所、京都、日本)を用いた。 カラムは、ISMN、ISDN および FP の場合は Inertsil® ODS-3 4.6 mm × 250 mm、 (ジーエルサイエンス、東京、日本)EN および NA の場合は Wakopak wakosil-2 5C18HG,4.6 mm i.d.×250 mm(和光純薬工業、大阪、日本) 10 を用い、カラムオーブンは 40ºC に保った。移動相は、ISMN の場合は H2O : Acetonitrile = 90 : 10、ISDN の場合は H2O : Acetonitrile = 45 : 55、FP の 場合は 0.1% phosphoric acid : Acetonitrile = 1 : 1、EN および NA の場合は 0.1% phosphoric acid : Acetonitrile = 2 : 1 で行った。流速は、1.0 mL/min、 とし、それぞれの注入量は 20 µL とした。検出波長は、ISMN および ISDN の場合は 220 nm、FP の場合は 254 nm、EN および NA の場合は 260 nm とした。なお、ISDN の場合は p-hydroxy benzoic acid n-butyl、FP の場合 は p-hydroxy benzoic acid iso-propyl を内標準物質として用い、ISMN、EN および NA は絶対検量線法を用いて定量した。 2.11 皮膚中濃度予測モデルの作成 化合物構造と皮膚透過性データを入力データとして、構造データから数百 種類のパラメータを発生させ、膜透過性に寄与する統計的に有意なパラメー タ を 特 徴 抽 出 手 法 ( 遺 伝 的 ア ル ゴ リ ズ ム 、 PSO ( Particle Swarm Optimization)等を利用)により、選択した。最終的に残ったパラメータで 重みづけを行い重回帰分析手法により、皮膚透過性予測モデルを作成した。 皮 膚 透 過 性 予 測 モ デ ル は 、 富 士 通 九 州 シ ス テ ム ズ 製 の ADMEWORKS/ModelBuilder を利用して作成した。 3. Results and Discussion 3.1 種々皮膚の皮膚バリア機能での角層の寄与の比較 Table 2 にヘアレスラット摘出皮膚および EpiDerm を介した化学物質の 透過係数、各層の抵抗および全抵抗に対する角層のバリア比を示す。水溶性 の ISMN および中間の ISDN では、へアレスラット摘出皮膚と EpiDerm で 角層バリア比(Rsc/Rtot)に違いが認められた。一方で、脂溶性物質である FP では両皮膚間で差が認められなかった。したがって、EpiDerm の水溶性 および中間の極性の化学物質に対する角層バリア能が低いことが示された。 11 Table 2 Permeabilty coefficient of ISMN, ISDN and FP through each layer and the resistance to the drug permeation. Each values represents the mean ± S.E. (n = 3 or 4). a); hairless rat skin, b); EpiDerm. a) Hairless rat skin ISMN ISDN FP Ptot (×10-6 cm/s) 0.150 ± 0.00724 1.84 ± 0.370 13.9 ± 2.47 Pved (×10-5cm/s) 1.25 ± 0.120 3.80 ± 0.242 2.62 ± 0.382 Rtot (×105) 66.9 ± 3.20 5.95 ± 0.881 0.763 ± 0.120 Rved (×104) 8.23 ± 0.801 2.66 ± 0.247 4.00 ± 0.912 Rved/Rtot 0.0120 0.0486 0.528 Rsc/Rtot 0.987 0.951 0.472 ISMN ISDN FP Ptot (×10-6 cm/s) 0.155 ± 0.00990 4.42 ± 0.173 3.61 ± 0.141 Pved (×10-5 cm/s) 0.0923 ± 0.00471 2.18 ± 0.116 7.52 ± 0.319 Rtot (×105) 65.3 ± 4.46 2.26 ± 0.894 2.78 ± 0.110 Rved (×104) 112 ± 5.38 4.54 ± 0.287 13.3 ± 0.506 Rved/Rtot 0.167 0.203 0.480 Rsc/Rtot 0.832 0.797 0.520 b) EpiDerm 12 3.2 ニコチン酸エチルの皮膚透過性 Figure 1 にヘアレスラット皮膚、ヒト皮膚、および EpiDerm を介した EN と NA の透過プロファイルを示す。この結果より、それぞれの皮膚で、 代謝物の量の皮膚透過量が異なることがわかった。 Amount of EN and NA permeated (µmol/cm2) Hairless rat skin Human skin 30 EpiDerm 20 12 15 9 10 6 5 3 20 10 0 0 0 0 Figure 1 120 240 360 0 120 240 Time (min) 360 0 10 20 30 Time course of the cumulative amount of EN and NA that permeated through hairless rat skin, human skin and EpiDerm. Symbols: ○; EN, ■; NA. Each point represents the mean ± S.E. (n = 3 or 4). 3.3 種々3 次元培養ヒト皮膚モデルおよびヒト摘出皮膚中表皮カルボキシ エステラーゼ活性 Table 3 にヘアレスラット皮膚、ヒト皮膚および種々3 次元培養ヒト皮膚 モデルのエステラーゼ活性パラメータを示す。EpiDerm、LSE-high、 Episkin、Vitrolife-skin および LabCyte の Km および Vmax に差は認めら れなかったものの、それらの活性はヘアレスラット摘出およびヒト摘出皮膚 よりも著しく低かった。 13 Table 3 Enzymatic parameters for hairless rat skin, human skin and cultured human skin models Km (µmol/mL) Vmax (µmol/mL/min/mg protein) Hairless rat skin 1.41 2.23 ×10 Human skin 7.73 2.50 ×10 EpiDerm 12.1 1.81×10 Episkin 13.0 3.13×10 LSE-high 12.7 6.46×10 LabCyte 14.0 1.02×10 Vitrolife skin 12.0 1.07×10 -1 -2 -3 -3 -3 -3 -3 Vmax /Km (min/mg protein) 1.58×10 2.65×10 1.45×10 2.40×10 5.10×10 7.29×10 8.91×10 -1 -3 -4 -4 -4 -5 -5 3.4 皮膚中カルボキシエステラーゼ分布 Figure 2 にヒト摘出皮膚および種々3 次元培養ヒト皮膚モデル中のエス テラーゼ分布を示す。エステラーゼは、LSE-high、Episkin、EpiDerm で はヒト皮膚と同様に生きた表皮層にのみ酵素が分布していたが、 Vitrolife-skin、LabCyte では角層にも分布していることがわかった。 14 Excised human skin EpiDerm SC SC VED 50 µm DER VED 50 µm Polycarbonate membrane LSE-high Episkin SC SC VED VED 100 µm 50 µm DER Collagen layer Vitrolife-Skin LabCyte Epimodel SC SC VED VED 50 µm Figure 2 100 µm Confocal laser scanning microscopic images of excised human skin and cultured human skin models after application of FID. corneum, VED; viable epidermis, DER; dermis. 15 Abbreviation: SC; stratum これらのパラメータより算出される、それぞれの皮膚の定常状態時の concentration-distance profile を示す(Fig.3)。 Real skin Donor Stratum corneum Viable epidermis and dermis Cultured human skin model Receiver Donor Stratum corneum EN EN NA EN Figure 3 x = Lsc Receiver EN NA x =0 Viable epidermis and dermis x = Ltot x =0 x = Lsc x = Ltot A typical concentration-distance profile of EN and NA in excised human skin and cultured human skin models. 角層バリア比より算出した実皮膚と培養皮膚の生きた表皮・真皮のバリア 比(Rved/Rtot)は、水溶性の化学物質では 0.012 および 0.162、中間の極性 の化学物質では 0.049 および 0.200 となる。この値は、化学物質の全皮膚中 濃度に対する生きた表皮・真皮中濃度に対応する。すなわち、皮膚の厚みが 同程度ならば、培養皮膚の生きた表皮・真皮中の化学物質濃度はヘアレスラ ット皮膚に比べ脂溶性物質の FP ではほとんど変わらないものの、水溶性の ISMN では約 14 倍、中間の極性の ISDN では約 4 倍になると考えられた。 したがって、培養皮膚の低い角層バリア能が水溶性の化学物質を用いた皮膚 刺激性試験での偽陽性反応の原因となっていることが示唆された。 EN の 3 次元培養ヒト皮膚モデルを介した透過速度はへアレスラット摘出皮 膚およびヒト皮膚よりも著しく速かった。このことから、EN は EpiDerm に存在するエステラーゼで代謝を受けることなく透過していくと考えられ た。したがって、生きた表皮・真皮中の皮膚中濃度違いの要因は、エステル 結合を有する化学物質の皮膚透過性およびエステラーゼ活性の違いである 16 と思われた。すなわち、適用物質の EN ではなく、代謝物の NA が刺激性を 示す本体であれば、NA を生じる実皮膚では刺激性を示す可能性があるが、 NA をほとんど生じない培養皮膚では皮膚刺激性が現れないと考えられる。 3.5 培養皮膚モデルおよびヘアレスラット皮膚間での皮膚中濃度の違い Table 4 にヘアレスラットおよび EpiDerm 中の FP および ANP 濃度を示 す。両物質共に、EpiDerm の全層中濃度および生きた表皮・真皮中濃度は、 対応するヘアレスラット皮膚より高値を示した。生きた表皮・真皮中の物質 濃度は刺激性と強く関係する。したがって、培養皮膚モデルでは化学物質の 皮膚中濃度が著しく高くなることが分かる。培養皮膚モデルとヘアレスラッ ト皮膚の実測値の差は、角層の寄与(Rved/Rtot)より推測した化学物質の皮 膚中濃度の差より大きくなったが、培養皮膚モデルでの刺激性評価において false-positive が生じる原因は培養皮膚モデルの角層バリアの脆弱性が関与 していることが明らかとなった。 Table 4 Skin concentrations of FP and ANP in the hairless rat skin and EpiDerm after their topical application. Ctot,ss: total steady-state concentration. Cved,ss: concentration in the viable skin after stripping off the stratum corneum layers. Hairless rat skin EpiDerm Ctot, ss (mg/mL) 0.64 ± 0.00 11.18 ± 0.31 Cved, ss (mg/mL) 0.45 ± 0.00 6.79 ± 0.08 Ctot, ss (mg/mL) 1.05 ± 0.06 128.36 ± 4.20 Cved, ss (mg/mL) 0.50 ± 0.04 43.09 ± 16.14 FP ANP 17 Table 5 に EN を適用した時のヘアレスラットおよび EpiDerm の全層皮膚 および生きた表皮・真皮中濃度を示す。EN は皮内エステラーゼにより nicotinic acid (NA)を代謝産物として生じる。NA の EpiDerm 中濃度は、 ヘアレスラット皮膚の 0.05 倍の値を示した。皮内エステラーゼ活性の結果 より EpiDerm の皮内カルボキシエステラーゼ活性はヘアレスラット皮膚と 比べて著しく低いことから、これが EN および NA の EpiDerm の生きた表 皮・真皮中濃度がヘアレスラット皮膚と異なる理由と考えられた。エステル 結合を有する化学物質で false-negative が生じる原因は、代謝物の皮膚中濃 度が培養皮膚モデルでは低値となるためと考えられた。 Table 5 Skin concentrations of EN and NA in the hairless rat skin and EpiDerm. Cved,ss: concentration in the viable skin after stripping off the stratum corneum layers. Hairless rat skin EpiDerm EN Cved, ss (µmol/mL) 15.61 ± 2.69 46.52 ± 4.75 NA Cved, ss (µmol/mL) 20.42 ± 0.94 1.02 ± 0.02 Table 6 には、EpiDerm を用いた皮膚刺激性試験で false negative を示し た HS のヘアレスラットおよび EpiDerm の生きた表皮・真皮中濃度を示す。 HS は皮内エステラーゼにより salicylic acid(SA)を代謝産物として生じ る。SA の生きた表皮・真皮中濃度は Table 5 に示した NA とは異なり、 EpiDerm 中濃度がヘアレスラット皮膚よりも高値を示した。EpiDerm を用 いた皮膚刺激性試験で HS は false negative を生じるため、本結果は仮説と 一致しなかった。これは HS の皮膚刺激性評価に用いている家兎と EpiDerm の皮内カルボキシエステラーゼファミリーの違いが原因と考えられた。 18 Table 6 Skin concentrations of HS and SA in the hairless rat skin and EpiDerm. Cved,ss: concentration in the viable skin after stripping off the stratum corneum layers. Hairless rat skin EpiDerm HS Cved, ss (µmol/mL) 1.90 ± 0.01 16.28 ± 4.99 SA Cved, ss (µmol/mL) 0.25 ± 0.00 0.69 ± 0.05 3.6 皮膚透過性と化学物質の物理化学的パラメータの関係 皮膚を角層および生きた表皮・真皮からなる 2 層膜と仮定すると、生きた 表皮・真皮中の化学物質濃度は、𝐶!!,!"# = ! ! !"# ×!! × !"! ! !"# ! で表すことができる。この 右辺のパラメータの内、Ptot に関しては数多くの予測式が報告されている。 したがって、𝑃!"! 𝑃!"# や Kved の予測できれば、皮膚透過理論に基づいた生きた 表皮・真皮中の化学物質濃度の予測が可能であると考えられる。Figure 4 に ADMEWORKS/ModelBuilder により予測した化学物質の皮膚透過性と 実測値との関係を示す。Table 7 に示したパラメータを用いることで、Table 8 に示す化学物質の生きた表皮・真皮透過性を精度よく(r2=78.33)予測で -5 in P Predicted Pved (10in-5 cm/s Predicted P value value (P 10 cm/s) ved ) きることが分かった。 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 -5 Observed value(10 (P-5in 10 incm/s) Observed Pved Pvalue cm/s Pved) Figure 4 Relationship between Predicted Pved values and Observed Pved values 19 Table 7 Parameters of prediction model to estimate chemical compounds permeation through stripped skin Parameter Name Weight Average Relative negative charge (RNCG) 1.20102 Relative negative charged SA -1.16181 (RNCS) StdDev SdBeta t-statistic p-value 0.260049 0.074124 0.28 4.22 0 7.24358 3.99181 0.26 -4.4 0 -0.668878 0.594482 0.08909 0.13 -5.1 0 0.550602 0.105263 0.315302 0.1 5.69 0 Fractional positive charged partial SA (AM1) (FPSA1_AM1) Tertiary sp3 carbon count (C3SP3) CONSTANT 1.17116 次に、化学物質の生きた表皮・真皮への分配性 Kved と化学物質の油水分 配係数 Ko/w の関係について調べた。Figure 5 に Kved と Ko/w の関係を示す。 これらは、𝐿𝑜𝑔 𝐾!"# = 5.4 × 10!! ×(1 − 𝐾!!!.!! )で表すことができた。Pved と Kved が、化 ! 学物質の物理化学的性質から予測できたことから、ヒト皮膚や動物摘出皮膚 の生きた表皮・真皮中濃度が予測できる可能性が示唆された。 1.0 0.5 Log Kved 0.0 -0.5 -1.0 -1.5 -2.0 -2 -1 0 1 2 3 Log Ko/w Figure 5 Relationship between Ko/w values and Kved values 20 Table 8 Observed and predicted values of permeability coefficient of chemical compounds through stripped skin Molecule Observed value Predicted value Antipyrine-Phenazone 0.24 0.52 Ascorbic acid-Vitamin C 0.74 1.19 Benzoic acid 1.27 1.30 butylparaben 0.29 0.27 DIETHYL PHTHALATE 0.57 1.11 Dimethyl phthalate 1.40 1.15 Ethyl paraben-Ethyl 4-hydroxybenzoate 1.52 0.90 Flurbiprofen 2.20 2.42 Folic acid 0.52 0.73 indometacin 0.95 0.96 Isosorbide dinitrate 2.59 1.88 Isosorbide mononitrate-elan 1.31 1.58 Ketoprofen 2.54 2.32 Lidocaine-Lignocaine 0.58 0.43 Methylparaben 1.73 1.50 0.60 0.32 Monomethyl Phthalate 1.47 1.76 Phthalic acid 1.16 1.35 Propylparaben 0.59 0.57 Monoethyl phthalate -2-(Ethoxycarbonyl)benzoic acid 結論 水溶性化合物による false-positive は培養皮膚モデルの低い角層バリア能 に起因していることが明らかとなった。また、脂溶性エステル物質による false-negative は、培養皮膚モデル中の低い皮内カルボキシエステラーゼ活 性により、代謝物の皮膚中濃度が培養皮膚モデルでは低値となるためである と考えられた。化学物質の刺激性は、曝露時間と曝露濃度により決定される。 したがって、3 次元培養ヒト皮膚モデルを用いた評価では、3 次元培養ヒト 皮膚モデル毎の膜特性を理解する必要があると考えられた。 21 皮膚透過理論を基に、化学物質の物理化学的性質から生きた表皮・真皮中 の皮膚中濃度が予測できる可能性が示唆された。この結果は、種々化学物質 の有効性や安全性を in silico で予測できることを示唆しており、また、3 次 元培養皮膚モデルを用いた皮膚刺激性試験に応用することで、false-positive や false-negative が生じる率を低減出来ると考えられた。 本研究結果は、3 次元培養ヒト皮膚モデルを用いた化学物質の皮膚曝露試 験法の確立に非常に有用な情報を提供すると考えられた。 22