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インド初の企業による無農薬野菜栽培農園、有機農家を訪問
「持続可能な農業の可能性を探る旅 2016 春」 報告書 特定非営利活動法人 地球の友と歩む会 法政大学大学院公共政策研究科 「持続可能な農業の可能性を探る旅」報告書 発行日:2016 年 5 月 14 日 編集・構成:法政大学公共政策研究科 吉田秀美 発行:特定非営利活動法人地球の友と歩む会 LIFE・法政大学大学院公共政策研究科 特定非営利活動法人 法政大学大学院公共政策研究科 地球の友と歩む会・LIFE 国際パートナーシップ・プログラム 〒102-0071 東京都千代田区富士見 2-2-2 (2016 年よりサステナビリティ学専攻) Phone : 03-3261-7855 〒162-0843 東京都新宿区市ヶ谷 2-15-2 Fax : 03-3261-9053 Phone : 03-5228-0551 Email: [email protected] Fax : 03-5228-0555 Web: http://www.earth-ngo.jp/index.html Email: [email protected] http://www.hosei.ac.jp/gs/kenkyuka/kokyoseisaku/ 目 次 はじめに 1 スケジュール 2 活動報告(日程順) 3 参加者所感(筆者名 五十音順) 23 はじめに 「持続可能な農業の可能性を探る旅(2016 春) 」は、特定非営利活動法人「地球の友と歩む会」 (LIFE:Live with Friends on the Earth)が企画・運営したツアーに、法政大学大学院公共政 策研究科の授業科目である「国際協力フィールドスタディ」の受講者と担当教員が一般の参加者 の方々とともに参加させていただく形で開催されました。 LIFE は、南インドとインドネシアのスンバ島で農村開発の活動に携わる NGO ですが、毎年 スタディーツアーを開催しており、参加者に新たな気づきの機会を提供しています。 法政大学の公共政策研究科国際パートナーシップ・プログラム(2016 年度より公共政策研究科 サステナビリティ学専攻に改編)は、途上国の支援にかかわりたいと考えている社会人を対象に 専門教育を行っています。 「国際協力フィールドスタディ」は、受講者が途上国でプロジェクトの 現場を視察しつつ、調査の手法などを身に付けることを目的として実施しています。これまでイ ンドやインドネシアで、現地の大学や企業の協力を得て開催してきましたが、昨年度は北インド のソーシャル・ビジネスをテーマとする LIFE のツアーに参加させていただきました。実りの多 い充実したツアーでしたので、今年度も引き続きお世話になることにしました。 今回は「持続可能な農業の可能性を探る旅」というチャレンジングな内容となりました。イン ドでは農薬の不適切な使用による健康被害が課題となっています。これに対し、LIFE では、流 水域開発を得意とする現地 NGO の CIRHEP と協力して、有機農業の推進活動を行っています。 ツアーでは、支援先の農家を訪問して活動内容や有機農業についての実践者の意見を聞くことに 多くの時間を割きました。事前に意見を出し合って準備した質問票をもとに、CIRHEP スタッフ の現地語通訳を交えたインタビューを行い、現地の人々の生の意見を聞くことができました。こ の活動を通じて、途上国の農村で調査を行うときの注意点なども気づくことができ、貴重な学習 機会になりました。 また、無農薬野菜の栽培・販売を手掛ける企業 First Agro の農園も訪問し、インドの伝統的な 有機農法や創意工夫にあふれた設備を取り入れつつ、野菜の栽培サイクルに合わせた生産計画・ 経営を行って急成長しているビジネスを目の当たりにすることができました。 First Agro の取引先であるリッツカールトンホテルも訪問し、エグゼクティブ・シェフからは 食材の調達や生産者への敬意といった哲学を伺いました。 農業をめぐる多様なステイクホルダーに会えたことで、インドの農業の将来に関して多面的な 考察をすることができたと思います。 本報告書は、参加者がそれぞれの担当機関について作成した報告書と感想で構成されています。 インドの農業についてご関心のある方、スタディーツアーへの参加を検討されている方のご参考 になれば幸いです。 法政大学大学院公共政策研究科 准教授 吉田秀美 1 2016 春「持続可能な農業の可能性を探る旅」日程表 2月 日程 主な活動・面談者 21 日(日) 深夜:バンガロール空港集合 活動・宿泊都市 バンガロール泊 22 日(月) 午前:リッツカールトンホテル訪問 マイソールへ移動 Mr. Anupam Banerjee, Executive Chef 夕方:マイソール宮殿見学 バンガロール市内 マイソール泊 23 日(火) 午前:First Agro の農園訪問 夜:バンガロール駅から夜行列車で ディンディグルへ移動 Mr. Nameet M.V. Co-Founder and Chief Production Head Ms. K. A. Chandra, President Mr. P. Jeyakumar, Project Manager 24 日(水) 午前:NGO CIRHEP 訪問 午後:PGS 認証取得有機農家訪問 25 日(木) 午前:NGO 連携無償資金プロジェク トの有機農家と交流 マイソール農村 列車泊 ディンディグル農村 グルンバパティ村女性 グループ デパトール村とコタヤ ディンディグル泊 ム村の農民グループ 一部参加者は農村 午後:同有機農家の農地訪問 ディンディグル農村 でホームステイ 26 日(金) 午前・午後:流水域開発委員会および モデル有機農家グループと交流 デパトール村の農民グ ディンディグル農村 ループ 夕方:ディンディグル空港から空路 チェンナイへ移動 チェンナイ泊 27 日(土) 終日:自由行動 日本料理店空島(First Agro の取引先)で食事 夜:帰国 2 機内 2 月 22 日活動報告(Ritz Carlton) 石井 絵梨子 Ritz Carlton Bangalore の Executive Chef である Anupam Banerjee 氏を訪問しインタビューを行った。 インタビュー内容 ・ Banerjee 氏略歴:シンガポールの Raffles Hotel、ロンドン、ジュネーブのレストラン、ワシントン DC の Mandarin Hotel での勤務を経て、2012 年 8 月に Ritz Carlton Bangarole の立ち上げのため に帰印。インド料理の他、ヨーロッパ料理や中華系シンガポール料理などをベースとし、既存のレ シピに依らず様々な料理を取り入れたメニューを作成している。 ・ 食の哲学:料理する食材が何処から調達されたかは非常に重要であると考えている。誠実(truthfull) で情熱的な生産者から調達する。例えばメッセンジャーアプリの What’s APP を通じて漁師と直接 遣り取りし、新鮮な魚介類を調達することもある。 ・ First Agro 社:最初はメールを通じて連絡を取り始めた。2013 年 3 月のことで、まだ同社は立ち上 げたてで規模は小さかったがビジョンが良かった。その後深く付き合うようになり、現在では家族 のような存在になっている。バンガロールからの距離は 1.5 時間で鮮度にも問題はない。Banergee 氏が Ritz Carlton Bangarole を去った後も、First Agro と Ritz Carlton Bangarole の関係は続いて いくと考えている、とのことであった。 ・ 有機農業:有機野菜は化学薬品を使っていないということだけではない。健康的な食品であると同 時に、CO2 を排出しない点で持続可能性が得られる。また土地で生産された野菜を購入してコミュ ニティを支援すること(いわゆる地産地消)も農業の持続可能性に繋がる。こうした考え方は海外 にいる時から持っていた。ワシントン DC でも地元の農家の支援や貧困家庭の子供の支援を行って いた。 (料理だけに留まらない)より大きな絵を描くことが大切。 ・ ホテルの食材調達:調達部が実際の調達や業者の選定を行うが、シェフはプロデューサーとして食 材の調達元を把握する必要がある。非有機野菜も仕入れることがあるが、あくまでもシェフがいか にその野菜が清潔でどのように栽培されたのかを知っていて、シェフの要求を理解する生産者によ って生産された野菜に限る。CO2 の観点から輸入は最小限に抑えている。メニューには Ritz の方針 で食材の調達元は記載しないが、有機野菜の場合有機野菜であることは記載する。 ・ 食中毒対策:生野菜が洗浄、カット、調理、サーブされるまでのプロセスの中での決定的な時点 (crucial point)を特定し、各ポイントで配慮すべきことをマニュアル化している。 ・ ホテル内有機菜園:トマトやニンジンなどを栽培して料理 に用いている。肥料には圧縮したゴミを使っている。菜園 を作った目的は、①他のシェフに、なぜ生産農家に敬意を 払い野菜を最大限活用する必要があるのかを教えるため (教育目的) 、および②ホテルの顧客に料理の哲学を知ら せるため。顧客や子供達を菜園に連れてくることもある。 またクリスマスやサンクスギビングのメニューに使う野 3 菜を、使用するタイミングに合わせて栽培することもある。 所感 一流ホテルのシェフとして立派なビジョンを持って仕事をされているという印象を受けた。First Agro 社の Nameet 氏の生産哲学と合致する点が感じられた。 以上 4 2 月 23 日活動報告(First Agro 社) 石井 梨紗子 First Agro 社に訪問し、共同創業者で生産局長である Nameet MV 氏にインタビューを行った後、畑 を案内してもらった。 Nameet 氏インタビュー ・ First Agro社はインドで最初の「商業的」無農薬農家。「商業的」であるゆえに、生産物は毎年同じ 時期に同じ品質で提供される。留農薬値を測る最高の基準であるCODEXを満たしている。最近で はインド政府もCODEX認証の推奨に取り組むようになった。 ・ 計1,500エーカーある本畑以外に、大都市から200km圏内に15箇所の土地を所有して栽培を行って いる。水量が減る夏期には水耕栽培も行うが今年は畑の拡張に力を入れたため行わなかった。 ・ First Agro社で採用している総合的害虫管理(integrated pest management)の5つのコンポーネン トは以下のとおり。 1) 有益な微生物:土壌の研究を重ねて有益な微生物を特定し、その土中含有率を高め、農場全体の土 の質が均一になるように移し替えた。 2) 益虫:益虫は休みなく畑の害虫を駆除してくれる有能なスタッフだが、近代農業の殺虫剤は益虫と 害虫双方を殺してしまうところに問題がある。益虫の卵を早朝に畑に吊るし孵化、成長させること で3日ばかりで害虫は駆除できる。益虫は老年の生産者から購入している。(昔は益虫生産者が一般 的に存在したが製薬会社に淘汰されてしまい今は殆どいない。) 3) トラップ・誘発:例えばフェロモン・トラップでは、雄を誘い出して殺すと雌も雄を探して畑から 出て行く。 4) 生物由来の液体: ニームオイル、チリとガーリック、トマトの葉など、植物から作る無料の害虫駆 除スプレーは、昔はインドでよく使われるものだったが長く忘れられていた。First Agro社が再度紹 介するようになった。 5) 混植:キャベツやカリフラワーにミント、人参にコリアンダー、キャベツにオレガノなど、隣り合 わせて植えることで害虫を防ぐことができる。 →これらの手法を用いることで害虫被害はほぼゼロにできる。生産物の18~20%程度は市場に出せず廃 棄されているが、これらは主に形状の問題によるもので、害虫によるものではない。 ・ 肥料も廃棄物等を土に返すことで賄っている。CO2の排出も控えることができ、自然にとって完全 なサイクルが生まれる。 ・ 種子バンクには様々な品種の種子を保管している。例えばトマトだけで490種類の種子を保有してお り、そのうち32%は絶滅品種である。元々母親の家庭菜園用に世界各地で見つけた野菜の種子を収 集したのが始まりだった。 ・ 安全な食品を食べることはすべての人の権利であると考えている。First Agroのビジネスは単なる商 売ではなく、人や自然への奉仕(SEWA)である。会社の経営は兄で共同創業者のNaveen氏が業務 プロセスの改善などを担当し、Nameet氏が研究開発と実務を担当している。兄弟はチームとしてそ 5 れぞれの強みを生かして働いている。First Agroが紹介した水菜やかぼちゃなどの日本野菜は今やイ ンドでも一般的になりつつある。 ・ 生産物は有機野菜を扱うデパート等の小売とその他の厳選したパートナーに卸している。パートナ ーのうち、ホテルのシェフの場合は彼らにとってのメリットが大きい。例えばRitzには鮨飯用の米 を卸している。輸入することを考えるとホテルにとってはコスト削減にもなる。パートナーの選択 には哲学的な部分で共鳴できるかどうかが非常に重要になる。有名大手デパートでもFirst Agroの理 念を理解せず、取引に至らなかった例もある。 ・ 輸出は全く考えていない。まずは自分たちの国の国民が最良の食べ物を食べることが重要。ただし Naveen・Nameet兄弟の父は外交官として1962年から日本に駐在しており、創業一家がルーツを持 っている日本だけは別格だと考えている。現在系列のSakura fresh companyでは、バンガロールで 日本野菜等を宅配販売しているが、同じビジネスを東京でも行う計画がある。千葉、静岡辺りで農 業放棄地を購入して有機野菜を生産し、東京の顧客に届ける予定。 ・ 畑の土地は少しずつ買い増して5年かけて現在の形になった。まだこの先も拡張の計画はある。土地 の購入はトラブルを避けるため直接交渉を行い、土地所有者のすべての親族(幼児を含む)からサ インを貰っている。その上で政府に登記する。それでも土地に関する苦情(金品の要求)は日常的 に生じる。社の保有地についてはGPSで管理している。なお次の計画ではマティア・プラディーシ ュ州に1,000エーカーの土地を入手してフルーツ栽培を行う予定であるが、当該地の政府は汚職が酷 いのが難点。 ・ Nameet氏は元パイロットだが、取得学位は計量経済学(学士)とMBA。農業の勉強は独学で行っ た。建築士で現在は社会福祉の仕事をしているカナダ人の夫人と息子はバンガロールに居住してい る。パイロット時代にはルワンダ、アンゴラ、シエラレオネなどの国連ミッションに参加した。 畑見学 ・ 月間計画の作成:ホテルの場合3ヶ月前にシェフの要望を聞いて計画を立てる。小売については、イ ンドの小売業は未熟で計画的な発注をしてこないため、注文量の半分ぐらいを目安に生産している。 (注文量分生産しても無駄が出るか値引きを要求されるだけのため。 ) ・ ビニールホース:詰まりが生じたときにわかりやすく、コストも安い。水は公共の水源からではな く地下水を掘って使っている。約20フィートで地下水が出る。 (注:ディンディグルのプロジェクト サイトの場合160フィートは掘る。水の豊富な土地だと言える。 ) ・ ビニールハウス:台風に強い形のハウスを自らデザインして作成した。 6 ・ 野菜洗浄の機械:日本、韓国、台湾などの機械はいずれも大企業用で規模が大きい。特注生産をし ようと見積もりを取ったところ600万円+材料費と言われたため自ら作成した。 総コストは約6万円。 ・ 規格外野菜:家族と従業員で消費する他、村人や孤児院にも提供している。 ・ レモンツリー:イタリアのポジターノで6ヶ月間ピザ屋で働くことを条件に譲り受けた種子から栽培。 所感 Nameet 氏の有機農業に対する強い情熱がよく伝わるインタビューだった。化学農薬の普及で失われ たインドの伝統的な農法を「再発見」した点こそが Nameet 氏の大きな功績であろう。自然のサイクル の中に身を置くことで人間にとって最良の農産物を生産するという Nameet 氏の哲学は、大手の農場で ありながら極めて伝統的な農法や道具をあえて用いている点にもよく表れている。現在の販路は主に富 裕層を対象としているが、Nameet 氏の哲学に照らせば、より多くの人々の食卓に届けられることが期 待されるところであろう。ただしこの点は、ビジネスとしての農業を追求する Naveet 氏の方針とは相 容れないようにも思われる。有機農業のモデルケースとしての First Agro 社の経験と知見がインド農業 全体にどのように波及していくのか否か、今後の展開が興味深い。 7 2 月 24 日(水) 活動報告 (NGO CIRHEP) 石坂 咲希子 奥村 由理 益子 太介 【概要】 1994 年に設立された NGO 団体で健康と環境保全の活動をしている。 設立当初はトイレなどの衛生分野を、2000 年からは流水域開発の活動を始めた。有機農業や女性のエン パワーメントの活動も行っている。 この団体の資金源は ・NABARD(National Bank for Agriculture and Rural Development) ・GIZ(ドイツ国際協力公社) ・LIFE(日本の NGO 団体) 上記3団体である。 ◎流水域開発 ミッション:人と環境の関係を持続可能にすること これまで使われてきた品種改良した作物は水をよく使い、次世代を考えずに水を使い果たした事による 枯渇で水の需要増加から流水域事業の必要性が唱えられた。 NABARD(インド政府ファンド)と TAWDEVA(タミルナード州政府ファンド)の資金援助を受けて いる。NABARD から TAWDEVA にお金が送られ、それを州政府が CIRHEP に送る仕組みで成り立っ ている。 現在はカーベリー川とワイガイ川沿いのディンディグルとテイニーとマドゥライで活動している。 また、スウェーデンのフレンズグループというボランティアも関わっている 1。 ・調査方法と事例 開発地を選ぶ際は、必ず村に行って話を聞く。その際に村長などの高齢者から話を聞き、以前との変化 を確かめる。 (例えば雨量が少なくなっていないか等)年齢層が上の人は、昔の状況を知っており、30 年前はもっと雨が降っていた、30年前はもっと色んな虫がいた、30年前と比較してどう変わったか 等の知見がある。 そして村にある雨量計を使って現状把握を行う。 また PRA(参加型農村調査)を行い、そこであがった問題をさらに調査すると、木や水をはじめとする 自然管理のずさんさが明らかになった。それにより農業が出来ない土地になり、それまで農業を暮らし 1 このフレンズグループは、CIRHEP と共にプロジェクトをしたい旨をファンド機関に伝え、国家から助成金を 出してもらう。その際にフレンズグループはファンド機関に 20%程度出資しなければならず、残りの 80%を 国家から出資されるという流れになる。スウェーデン独特の制度。 国際協力への市民参加が制度化されてい る。 8 ていた人々がその土地を離れるようになっていた。CIRHEP はその土地から出ていった人々を呼び戻す ことを目標に活動した。その結果、出稼ぎを0にすることは出来ないが、その土地で再び農業が出来る ように環境を改善した。 流水域開発 2の方法 ・Field band:水が流れ出さないように、畑の周囲に穴を掘ることで、地下の水位のレベルを上げる方 法。川の流れをゆっくりにすることで、土に水が滲みこむ。そのため流れの速いところはセメントの壁 を作って、水の流れをコントロールする。 ・政府からの許可をとる:タミルナード州政府の流水開発庁にその土地の抱える課題を説明し、権利書 をもらってから流水域開発を始める。自分たちで目を付けた流水域に政府を連れて行って活動許可と権 利書・証書を貰う。ここで重要なのは、Not objection certificate[NOC]という許可を貰う事で、これを 政府から貰うと他の団体が来れなくなる。実質他の NGO と早い者勝ちで政府から[NOC]を貰う状況と の事であった。 ・流水域開発の方法①川の流れを上流から見る、②支流を追いかける。③支流が最後まとまる所を流水 域開発する。開発時は上流から流水域開発をする。なので、いくら下流の人が開発を要請していても上 流地域の人が承認しなければ開発が始まらない。大体、活動を始めるのに1年かかり、1つの流水域開 発を終えるまでは5年はかかる。 なお、流水域開発の成果は井戸の水量を測る事で把握する。 ・流水域開発の課題:農家と交渉するのはプロジェクトの一年前からだが、資金を集めるのは流水域開 発プロジェクトが開始してかあらであるため、空白の一年間の資金のやりくりが難しい。 ◎有機農業 インドで有機農業への関心が高まった背景には、化学肥料を用いた農作物により2%の女性の母乳から 有毒物質が出る健康被害があった。有機農業は現在インドでトレンドとなっているが、流通や偽装の問 題を抱えている。政府も有機農業を推しているが、他方で欧米から農薬を買わなくてはならないので、 二枚舌外交のような現状もある。インドは州ごとに政策が異なるため、シッキム州では州全体で有機農 業への転換が行われている。 有機農業に転換するにはある程度のリスクを背負う覚悟が必要なので(初年度は土壌が化学肥料の汚染 から完全に回復していないため収穫量が減るなどのリスク)なかなか足を踏み入れづらいが、CIRHEP はそのような農家に対しても支援をしている。 2流水域開発には水だけでなく、土の保全も大切である。特に農業をするにはふかふかの土が必要。雨が少ないと土の表面 がパサパサになり、その後の大雨により表面の土が全て流れてしまう。このような流水域開発の総合的な知見をもとに CIRHEP は活動を行っている。 9 ◎その他の活動(女性のエンパワーメント) ・女子への衛生教育 ・SHG(Self Help Group) :女性へのマイクロファイナンス。 (土地をリースして、花を栽培し花の髪 飾りを生産するなど) 女性のマイクロファイナンスへの参加は、女性の社会進出というプラスの文脈で語られる事もあるが、 女性の仕事増加というマイナスの文脈で語られる事もあり、賛否両論である。 CIRHEP の事務所の様子 CIRHEP 訪問時のヒアリングの様子 10 2 月 24 日(水)活動報告 寺末 奈央 午後:インドの NGO 組織である CIRHEP の事業において PGS※認証を取得したグルンバパ ッティ村の農民に対するインタビューおよび農地見学を行った。 ※Participatory Guarantee System:参加型有機認証制度 グルンバパッティ村においては 4 グループ(1 グループ 10 人)が存在しているが、そのう ちの 1 グループに対してインタビューを実施した。 ソガンティ氏 (雑穀・花) リーダーはラジャマニ氏(女性 48 歳) ジョディ氏 モッカタイ氏 (雑穀) (雑穀) カラ氏 (トウモロコシ) グループ A のメンバーの方々 13:40~15:00(インタビュー)別表参照 当日の参加者は 10 人全員女性であった。スウェーデンとのプロジェクトにより PGS を取得し た。当該プロジェクトでは、女性のエンパワーメントも対象となっていたため、女性が率先し てこういった場に参加しているとのことであった。 質問④まではラジャマニ氏が代表して回答し、⑤からは他の参加者たちの意見も聴取するた め 2 グループに分けてインタビューを実施した。 2グループに分かれてインタビュー 11 15:00~15:30(農地見学) インタビュー後、ラジャマニ氏の農地を見学し、有機肥料の製作場所やため池の他、花、野 菜の生育状況を見学した。 1 農地の入り口に PGS 農家であることを示す看板 看板には写真とともに、氏名、PGS 認証 ID、証明書番号、村の名前が記載されている。 CIRHEP のチャンドラー氏 2 ヘビウリ(英 snake gourd) 12 3 花の栽培の様子と出荷前に袋詰めされた花(香料などに利用) 4 ジャスミン 5 農地のため池 6 有機肥料の作り方説明 ジャスミンの花は婚礼な 農地のため池には水が豊 殺虫剤は、ショウガとニン どに使用されるため、需要が 富に汲み上げられており、ポ ニクを使ったもの導入し、有 あり、また訪問時は婚礼の多 ンプでくみ上げされている 機肥料は牛の糞尿、ギーとい い時期であるため、よく売れ とのこと。 うミルクの脂肪分から作ら るということであった。 れている。 感 想 クルンバパッティ村の女性たちは、気さくで人懐こく、愛嬌のある女性ばかりであった。イン タビューは男性が来ると想定していたため、意表を突かれた。 ラジャマニ氏は強いリーダーシップを持っているが、一方でメンバーひとりひとりが思ってい ることを聞き取ることが難しかった。ラジャマニ氏の回答ばかり続いたため、途中、退席する女 性が現れた。吉田先生の提案で 2 グループにわけてお話ししやすい状態に変更し、話しやすくし た。インドの女性(女性全般かもしれないが)はお話が好きなので、みんなに話す機会を設ける 仕組みが必要であると感じた。 実際インタビューを行い、時間が足りなくなり質問票の内容すべて聞くことができなかったり、 上記のような参加者のモチベーションが下がってしまったり、自分一人ではパニックになってし まいそうな場面もあったが、吉田教授や他の参加者の機転によって何とかインタビューを実施す 13 ることができた。今後のカンボジアにおける研究にぜひ活用していきたい。 今回、インドにおける農業の課題について学び、インドへの国際協力についても興味を持った。 都市化が進む一方で、農村における気候変動の農作物への影響、若者の流出による跡継ぎ問題な ど、発展し終える前に衰退の影が忍び寄っていることを認識することができた。また、私が思う 以上に、インドの人々は農薬被害に対して強い懸念を持っていることを知ることができ、非常に 重要な経験となった。 以 14 上 別表 カテゴリ 質問内容 回答内容(グループ A) ① 有機農業についてどこで知り CIRHEP スタッフであるチンナタンビア氏から 導入 回答内容(グループ B) ましたか? 自分がやろうと思ったきっか 農薬の問題について関心があった。雑穀などは通常の食用であるため、口に け、理由はなんですか? 入るものに関心がある。 やろうと思ったとき、 だれかに 夫をはじめ、家族で決めた。CIRHEP にも相談をした。 相談しましたか? ② NGO どのようなサポートをしてく 最初にマイクロファイナンス事業(融資事業)で信頼関係を築いていたため、 れていますか? 有機農業についてもやってもいいかなと思えた。チンナタンビア氏が農業指 導(有機肥料の作り方など)をしてくれる。 頻度や内容はどのくらいで、 満 満足である。 足していますか? 【内容】3 日間の研修(CIRHEP の研修施設) 、別の NGO の研修が 2 日間 【その他】毎日スタッフが来て指導してくれる ③ 政府 行政はどのようなサポートを 種の購入に補助金を出してくれる(自分が購入するときに半額で購入できる) していますか? →豆類の種 バトラグンヌの政府の出張所までバスで行って購入→各自で行く ※利用できているのはラジャマニ氏のみ 頻度や内容はどのくらいで、 満 概ね満足である。 足していますか? 肥料をまくスプレーや、雑草を刈る道具などを支給してくれるのでそれなり に助かっている。 悪い点としては、政府は来てくれないのでわざわざいかないといけない。手 続きが煩雑で時間がかかることからあきらめてしまう。 ④ 有機 有機農業をやっている人たち ラジャマニ氏→ 6 エーカー 小作人は土地が小さいので、雇っ 農家 はどんな人たちですか? (土 他の参加者 →1~1.5 エーカー ていない。夫や息子が農業に従事 地面積) ラジャマニ氏→井戸を自己所有 している。(1 エーカー1 名、2 エ 他の参加者 →川を利用 ーカー2 名、4 エーカー1 名) やっていない人に薦めたいで 積極的に薦めていないが作物が大きく育つため、何が違うのか興味をもって すか? 見に来る。有機農法について教えてあげると『やってみようかな』という反 応がある。 ⑤ 有機 有機農業の良いところ、悪いと 農業 ころを教えてください ○良い点 ○良い点 虫の被害が今のところない(ただしミ レットはそもそも害虫が付きにくい。 収量が落ちると思ったが、思ったより も落ちなかった。 ○悪い点 収量が上がった。 健康な食品が作れる。 肥料代が減った。 土壌や水が健康になった(化学 肥料の時は、塩っぽい水だった) 。 特になし 害虫が減った。 ○悪い点 転換 1 年目は収量や収入が減る。 15 野菜が土になじむまで2年ほどか かるため、収入増まで3年かかる。 ⑥ お金 収量は前と比較して多くなり ミレットは 20 キロの増収(ただし天候 転換1年目は野菜の大きさが小さ ましたか?少なくなりました がよかった;モンスーンが 2 回あったこ くなったが、2年目以降は大きく か? とも理由の一つ) なった。サイズが大きくなり、見 た目が良くなったため、以前 10 ル ピーで売っていたものが 20 ルピ ーで売れるようになった。 支出は増えましたか?減りま 支出が減った(ジェアクマール氏はこの 以前は 1 エーカーあたり 2 万ルピ したか? 順番で通訳したが、村民はこれが最初に ーの化学肥料を使っていた。有機 回答した) 肥料に変えてから 30 ルピーの支 出になった。 収入は増えましたか?減りま 単価が上がった(1 キロ当たり) したか? 雑穀 42 ルピー→45 ルピー 豆 40 ルピー→45 ルピー 働く時間は増えたが、収入が増え たので満足している。 (苦笑しながら)夫と二人で働いてやっ と家計が成り立つ程度と回答 その他の収入源 政府の公共政策(100 日労働)か ら 140 ルピー/日もらっている。 村外に暮らしている家族はど 薬局で働いている。 んな仕事をしていますか? ⑦ 学歴 挙手にて確認 全員が小学校卒業レベル (小学校、中学校、高校、大学、 ラジャマニ氏でさえ、小学校であった なし) 通訳 署名ができる程度で、カードにコメントをもらおうとしたが無理だった 島田めぐみ氏(LIFE スタッフ)、ジェアクマール氏(CIRHEP スタッフ) インタビュー終了後 写真撮影 16 2 月 25 日(木) 活動報告 吉田 秀美 午前:外務省の日本 NGO 連携無償資金協力プロジェクト「有機農業推進基盤整備事業」に 参加している 2 つの村のモデル農家の農地を視察した。 午後:モデル農家にグループインタビューを行った。 1. デバトール村のモデル農家のリーダー、ドライサミーさんの農園を訪問 最初に見せてくれたのが堆肥づくりの様子。牛糞と草などを混ぜ、ミミズを入れて分解・ 発酵させる。牛も自家製の無農薬の餌(水草など)を食べている。続いて、ブリンジャー(イ ンドの長ナスの一種)、トマトの農場を視察。どちらも葉が青々として厚みがあり、立派な実 がなっている。葉が病気になりかかっても、自然素材の農薬(殺虫・消毒効果のあるニーム の液体)をかければ回復するそうだ。長ナスは、品質が良いため、今までよりも高く売れる そうだ。一方のトマトは、市場価格が下がってしまって、人件費の元が取れないので、収穫 せずに放置したままになっている。 有機栽培の農地として認証を得るためには、化学肥料や農薬、遺伝子組換品種などを 3 年 間使用してはいけないことになっている。認証機関に依頼すると検査や認証の費用がかかる ので、CIRHEP は、農民自身と外部モニターによる査察を活用する参加型有機認証の取得を 支援している。モデル農家は CIRHEP の作成したレコードブックに、野菜の作付マップや、 有機肥料・天然農薬の散布時期などを記録している。 2.コタヤム村のモデル農家を訪問 ここでも、まず最初に有機肥料について説明を受ける。 牛糞、牛乳、バター、ヨーグルト、牛の尿を混ぜた肥料を 見せてくれた。オーガニック化以前と以後で政府機関の 土壌分析検査を受けるが、次第にバランスの取れた土壌 になって、追加すべき化学肥料(窒素など)の量がゼロと いう結果が出るようになるとのことである。また、害虫 駆除用のフェロモントラップ(メスのフェロモンを使っ てオスをおびき寄せて捕まえる罠)も見せてくれた。 17 その後は、有機栽培のココナッツの実を一人一人にいただく。ココ ナッツジュースを飲み終わった後は斧で実を割って果肉もいただく。 完熟のトロンとした果肉が特に美味しかった。 隣地との境界線はココナッツの木が目印だそうで、石や柵は目につ かなかった。 3.モデル農家へのグループインタビュー コタヤム村から 5 人、デバドール村から 8 人が参加した。こちらが事前に用意した英文質 問リストに従って、CIRHEP のジェイクマールさんからタミル語で質問していただき、状況 に合わせて質問を変えたりした。 【有機農業を始めた経緯について】 ・20 年程前の親の世代までは有機農業が一般的だった。 ・緑の革命(新品種導入や化学肥料・化学農薬の使用)が推進されて以降はすたれていたが、 最近はテレビなどでも取り上げられている。CIRHEP とは、流水域開発で信頼関係がある ので、有機栽培を提案されたときに抵抗感なく始めた。 【参加農家の農地利用の状況】 参加モデル農家の所有農地面積と利用状況の聞き取り結果を以下の表にまとめた。 農家 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ 平均 所有農地面積( エーカー) 栽培している作物 有機栽培の 有機栽培 化学肥料 比率(% ) 有機栽培 化学肥料 全体 7 3 4 43% 豆類 ココナッツ 5 5 0 100% メイズ、ナス、豆 ― 10 5 5 50% トマト、ココナッツ スネークガート、ゴーヤー 6 3 3 50% 玉ねぎ、メイズ オクラ 7 1 6 14% ナス→玉ねぎ 綿花 5 2 5 40% 白ソルガム、スネークガート ナス 5 2 3 40% グアバ 綿花 5 5 0 100% メイズ、ソルガム ― 8 2 6 25% ナス オクラ、トマト 7 1 6 14% 豆類 メイズ 5 2 3 40% グアバ ココナッツ 10 4 6 40% 白ソルガム、メイズ ピーナッツ 5 1.5 3.5 30% カボチャ ドラムススティック、香草 6.5 2.8 3.9 45% 参加農家の所有農地面積は零細より少し上の規模で、平均 6.5 エーカーである。所有す るすべての農地で有機栽培を行っているわけではない。認証制度では、小さい面積で始め たのを広げるのは構わないが、逆は認められないからだとのことである。 また、有機栽培転換後の 1 年目は、化学肥料だけで疲弊した農地が地力を回復しておら ず収穫が減ってしまう場合が多いので、収入減のリスクを分散させる意味もあるだろう。 18 【有機農業の長所と短所について】 ・農作物の品質が良くなったため、仲買人の買い上げ価格が上がった。 (ナス 1 キロ当たり: 5 ルピーから 7 ルピー)。また、生産者の電話番号をつけているので、一度買った消費者が また買いたいと連絡してくることもある。 ・化学肥料に比べてコストがかからない。 ・転換して 1 年目は、周囲が殺虫剤を使っていたので、自分の農地に虫が集まってきて、収 穫が減ってしまった。今年はスネークガードを植えてまた頑張ってみようと思う。殺虫剤 は害虫に耐性ができるのではないかと不安を感じていた。 【今後について】 ・水があれば何でもできるが、限られているのでコメは作れない。人手も限られているので、 今後は果樹を植えておこうと思う。ココナッツは植えてから 2-30 年は持つ。 ・子供は教育を受けたら、仕事は何をしてもよい。 ・農地にはプライドや愛着があるので手放す気はない。将来的には、子供が外で働いた後、 農業に戻ってくるのもよいだろう。 4.インタビュー結果の考察 ・CIRHEP がすでに認証取得させた女性グループ(24 日の訪問先)と違い、LIFE との共同 プロジェクトのモデル農家は大部分が男性で、教育水準も高く、修士号取得者、大卒者、 高卒者が含まれていた。元警官だったり、別の職業をやめて農業に戻った人などもいて、 兼業化が進んでいることが伺えた。 ・前日の女性グループでは文字の書けない女性が多かったが、この日は CIRHEP のスタッ フがモデル農家の記入した有機栽培のレコードブックを見せてくれた。つまり、それなり に教育水準のある層が参加しているといえる。更に、有機肥料の原料となる牛を所有して いることが参加条件であること、ホームステイ先のモデル農家(グループインタビューに は参加せず)の農地は 75 エーカーもあったことから、本プロジェクトの目的は、零細農家 への直接支援ではなく、地域への有機栽培の技術浸透と認証取得の成功例を作ることだと 思われる。 ・当プロジェクトの参加モデル農家にとっての有機栽培とは、自前の肥料で品質の良い作物 を作ることであり、それによって生産コストを削減し、収入を増やすことだと言えよう。 有機認証をまだ取得できていないので、今後、認証のおかげで販路が広がるのか、また、 より高値で販売できるのかは、未知数である。 ・課題としては、(1)販路を仲買人に頼らざるを得ないこと、(2)市場価格の下落のため、せっ かく生産した作物を出荷できないことがあげられる。日本では安全な食べ物を求める消費 者が、有機栽培や減農薬に取り組む農家を買い支える仕組みがある(生協運動、らでぃっ しゅぼーやなど)。インドでもこうした仕組みを整備していく必要があるのではないか。 以上 19 2 月 26 日(金) 活動報告 澤津 直也 本報告は、外務省・日本 NGO 連携無償資金協力の「有機農業推進の基盤整備事業」とし て、地球の友と歩む会(LIFE)がインド・タミルナドゥ州ディンディグル県にて展開してい るサイトにおける見学・交流記録である。 流水域開発の基本は「水と土壌」であり、本報告前半ではファームポンド(農業用貯水池)、 井戸(電動モーター汲上式)、トレンチ・カム・バンド(畝)、チェック・ダムといった現地 の見学結果、後半では流水域開発委員会メンバーとの交流結果などを概括する。 1.流水域開発設備 現地見学(10:20~11:20) (1) ファームポンド(農業用貯水池) 本ポンドの設置目的は、雨期の降水を溜め ることで地下浸透を図ることにある。当初想 定規模 300 平方メートル(工費:15,000 ルピ ー)のところ、地主からの要請により 420 平 方メートルに拡張された(超過分コストは地 主が負担)。 ここでは 42 万リットルを貯水可能である が、訪問時点では 3 か月以上降水がなかった 影響から水が完全に干上がっていた。このよ うな比較的大型のポンドは人力での掘削に 3 か月かかるなど非効率であることから、2 日間で工事を完了できる建機(ショベルカー;JCB とも称される)が導入された。 また、本ポンドは貯水のみならず、表土として溜まった上澄み(良質の土)を畑地に戻る など副次効果も得られている。 なお、本プロジェクトの事前調査では、各農家から、ポンド造成効果について理解が得ら れず、 「ポンド分の土地があればトウモロコシが栽培できる」 など、造成を希望する手がなかなか挙がらなかったものの、 本事業の成果が徐々に確認されるに伴い、希望者が多数現れ つつある。 (2) 井戸(電動モーター汲上式) 上記ファームポンドの造成により、20 メートルほど脇に 隣接する井戸の水位が向上するなどの効果がみられた。井戸 掘削にあたっては、適当に掘るわけではなく、周縁井戸の位 置なども考慮。掘削の深さは約 700 フィート。 20 (3) トレンチ・カム・バンド(畝) 8 月(雨季)には凹みに水が溜まることで、地下水や土壌水分が潤う仕組み。貯水という よりも畑地土壌の保湿の役割が大きい。 建機による掘削では、1 平方メートルあたり のバンドの造成コストは 40 ルピー程度とされ る(これには、建機の燃料などの運転コストと オペレータの労賃などが含まれる)。 (4) チェック・ダム ディンディグル県パンチャヤート村落自治 会に所在。小川の水を一旦堰き止めダムの上 限水位ぎりぎりまで貯水することにより水分 の土壌浸透を図るもの。訪問時点では乾季の ため水が干上がっていた。 この造成コストは 13 万ルピーであるが、セメントを練るのに必要な水が得られず、その 水の調達でコスト増となってしまった。造成中に雨が降って造成中断になるなどトラブルも あった。 パンチャヤート村落自治会の公有地に造成するための許認可を得る手続きに通常 1 カ月か かるところ、許認可関係者に、本ダム造成の受益者が含まれていたため、1 週間程度で完了 した。予め州政府からの許認可を得ていたことも早期許認可の後押し要因なった。なお、許 認可期間は原則 5 年間である。 ディンディグル県内だけでも同種のサイトが 150 ほど存在するなか、CIRHEP(LIFE の 現地提携 NGO)が許認可を申請するに際して、同地で同じ取り組みを行っている政府や団体 がなかったことも功奏した(近隣には政府が同じような治水事業を行っている地域はあるが、 パンチャヤートには存在しなかった)。というのは、本案件のような治水事業には汚職などの 利権が絡みやすく、政府にも既得権侵害に対する抵抗が生まれやすい。一説では、同類事業 を政府が行うと、10 のプロジェクトのうち 1 つしか実施されず、残りの 9 プロジェクトの予 算は関係者が横領しているという声もある。さらに、CIRHEP のような NGO が実施するこ とで政府役人への「袖の下」が減益になるため、一般には許認可取得が困難な傾向がある模 様。 2.流水域開発委員会メンバーとの交流(11:30~12:00) 出席者:流水域開発委員会(Village Watershed Committee: VWC) 交流会場:ドゥライサミー委員長宅(ディンディ グル県オダンチャトラン郡デバートル村) 流水域開発委員会(VWC)は、2013 年に発足 21 した同地農家有志によるボランタリな組織。流水域を開発するうえで、ファームポンドやト レンチ・カム・バンド(これらは午前中の見学結果を参照)を造成する際などに、VWC メン バーが現場での建機のオペレーションやメンテナンスをはじめ、研修活動などにも従事して いる。これには、CIRHEP などには数名のスタッフしかおらず、要員が足りない事情もある。 VWC による月例ミーティングには、LIFE や CIRHEP スタッフも同席して議論に加わっ ている。これには、VWC だけでは細かい施設の運用にまで管理体制が整備されていない背 景がある。 また、VWC と CIRHEP の間には、相互に監督・監査を行う役割もある。例えば、プロジ ェクト当初のプロポーザルには苗木 3,000 本の支給がうたわれていたと仮定し、VWC 側は こうしたプロポーザルの内容の詳細までを把握しているわけではない。そこで、こうした情 報を相互にシェアすることにより、透明性の確保に努めている。他方、政府系プロジェクト にはこうした透明性が担保されていないとの問題点が現地では指摘されている。 現地農家の VWC への参加インセンティブとして、ドゥライサミー委員長以下の声では、 ①CIRHEP などの NGO が熱心に農業改善に取り組もうとする姿勢に共感し、ボランタリに 参加したいというソーシャルマインドに基づくもの、②単に苗木が欲しいという意図はなく、 プロジェクト推進上の仲立ち役を果たしたい、③それが村民のために良い役割を果たすこと に帰結する――などに集約され、プロジェクトに対する熱意が十分に感じられた。VWC メ ンバーが、あれもこれもと皆やらなければならないという積極的な姿勢が、この住民参加型 プロジェクトに対する関心の高さの表れである。 なお、2017 年 3 月の本プロジェクト終了後、VWC は継続して施設の維持管理を担うこと となっている。この活動コストは、農業用トラクタ(建機や耕運機などの多目的タイプ)の 供与を受け、このレンタル費(600 ルピー/時間)から捻出することを想定している。VWC で はこのための銀行口座も設けており、オペレータも村内から手当する(労賃水準は、70 ルピ ー/時間ほど)。レンタル費全般は、530 ルピー/時間で、燃料費や労賃など込みでバランスす ると見込んでいる。 以上 22 南インドツアーに参加して 石井 絵梨子 今回のツアーへの参加が、私にとって初インド訪問の機会となった。有機野菜という一つの切り口か らある国を観察することで、より多角的に国の実態を垣間見ることができ、観光旅行では得ることので きない貴重な体験となった。 まず、Ritz Carlton Bangalore と First Agro 社への訪問については、私のインドの食物に対するイメ ージを覆す洗練されたスタイルで野菜の生産、消費がなされているのを目の当たりにして相当な衝撃を 受けた。また、遠い異国の地で日本の野菜が栽培され、提供されている(そしておそらく消費者に満足 されている)姿は、日本人として誇らしいことであった。 農家訪問においては、観光旅行では中々触れ合うことのできない、観光地以外で生活する人々の暮ら しを見ることができたのが良かった。First Agro と農村の農家では、あまりにも実態が異なることも興 味深かった。自国の農業の実態についても深く知っているわけではないが、比較的すれば耕作地の規模 にかかわらす、手法は均質なように思われる。インドでは、国民性の問題か、農家の方々が農作業をす るのにオシャレをしていうように見えたのも驚きだった。 流水域開発のサイト訪問については、NGO による手助けが実際に地域住民に理解され、実践されて いる例として分かり安かったように思う。 今回のツアーでは、私は自分の専門分野とは全く異なる分野について学ぶこととなったが、冒頭に述 べたとおり、このツアーへの参加は、ある国を体験する方法として極めて有益であった。そして道中、 島田さんからインドでの様々な暮らしについてお話しして頂いたのも楽しかった。 次回スタディツアーに参加する機会があれば、よりツアーを実り多きものとするために、トピックに 関連するその国の歴史(例えばインドにおいては、緑の革命によって化学肥料を用いた農業が大々的に 導入され、当該政策は当時のインドにおいては実効的なものであったが、時を経てその副作用が顕在化 したことなど)をもう少し学んでから参加したいと思う。 今回のツアーについては、参加者全員が大きな事故もなく無事に帰国することができて、本当に良か ったと思う。細部に至るまで気を配ってアレンジしていただいた皆様に深く感謝している。 以上 23 南インドツアーに参加して 石井 梨紗子 今回初めて LIFE さん主催のツアーに参加させていただき、タミル・ナードゥ州にも初めて訪問して、 非常に充実した一週間を過ごさせていただきました。 有機農業については、政府が政策として推奨しているという点で、実際に農家がどのように有機農業 を捉えて参入しているのか関心を持っていました。政府推奨の背景には緑の革命以降の土地の枯渇や健 康への害悪があるわけですが、有機農業のメリットを正確に捉えて参入している農家がある一方で、多 くの農家はより金銭的インセンティブからポテンシャルのある有機農業に参入しているようでした。ま たチェンナイで有機野菜を扱うスーパーマーケットに立ち寄りましたが、見るからに富裕層の客をター ゲットにしており、都市部における購買層はまだまだ限定されているという現状も垣間見ることができ ました。富裕層向けの商売として有機農業が盛んになっていく場合、解決すべき課題の解消に繋がらな いばかりか、利潤を追求するあまり適正な基準の遵守が確保されないリスクも考えられます。この点、 やはり First Agro 社や Ritz Carlton のように一流の企業では掲げる理念も大きく、有機の基準にも厳格 に導入されていました。有機農業が理念を伴うものとして成長していって欲しいところですが、それが 途上国でどのような形で進められれば可能となるのか、今後もう少し勉強したいと思いました。 また今回のツアーでは、農家の方々と直接コミュニケーションを取ることができましたが、彼らは農 地の所有者であり、実際の農作業に従事する農業労働者は下位カーストの人々であるという点は、イン ドに特徴的な農村の社会構造だと思いました。都市化が進み就農者が減少していく中で、支え手である 農業労働者の地理的移動はどの程度生じるのか、それにより農村構造がどのように変化していくのか、 興味深いところです。 CIRHEP のスタッフからのヒアリング内容も大変興味深いものでした。地方行政を専門にしている関 係で、地方政府との関わりについて伺いましたが、詰まるところは”heavily corrupted”(汚職塗れ)で、 流水域開発では NGO と協働するどころか競合しているとのこと。政府の本来の機能を NGO が肩代わ りしている、南アジアの教科書的な開発状況で、スタッフの口ぶりからも政府に対する改善の期待とい うものが既に失われていることが窺い知れました。また CIRHEP 自体の経緯から、ドナー資金が NGO の活動内容に大きな影響を及ぼしていることも分かりました。持続性のある行政サービスを考えた時、 いつまでも介入できるわけではないドナーと NGO は政府の改革やキャパシティビルディングに貢献す ることが理想ではあるものの、実際の障壁の大きさを感じました。 最後に、食事が北インドと比べてさっぱりして美味しかったです。特に朝ごはんのドーサとサンバル にはハマりました。日本でも南インド料理店で試してみたいと思っています。 24 以上 南インドの感想 法政大学人間環境学部 石坂 咲希子 私にとって今回のスタディツアーが初めてのインドだったので、出発前はインドへの期待と不安に満 ち溢れていました。大学のゼミや授業で、経済成長の著しい国として、時には貧富の差が激しい国とし て常に話題にのぼるインドに一度は訪れてみたいと思ったのが、今回このツアーに参加したきっかけで す。 全体を振り返ると、スタディツアーという事もあり、観光では見たり聞いたりすることのできないイ ンドを体感することができました。特にリッツカールトンのシェフや、First Agro のナミートさんのよ うなプロフェッショナルとして働く方々のお話を聞くことが出来たのはとても貴重な経験でした。お話 自体も面白く勉強になりましたが、考え方や生き方そのものにも感銘を受けました。それぞれの専門分 野のプロとしての意識の高さはインドでも他の国でも変わらないものだと感じました。 また今回行った南インドはそれまで私が想像していたインドの姿とは異なり、人々が温かく、自然にも 恵まれ、街中も割と綺麗でそれほどゴミゴミした印象はありませんでした。そうは言ってもやはりイメ ージ通りの部分もあり、今回のツアー中に腹痛という名のインドの洗礼を受けたことも今となっては良 い思い出です。 現地で特に印象的だった事は、農村でホームステイをしたことです。私たちがホームステイしたお宅 は村の大地主だったようで、キッチンは日本の我が家より広々として手入れが行き届いており、村人が 集まって集会出来そうなほど広い部屋もありました。家には 3 歳の男の子と小学生の女の子の兄弟がい て、言葉が通じないながらも、一緒に折り紙をしたり畑を散歩したりしたことは忘れられない思い出に なりました。畑では育てているピーナッツをいくつか頂いたのですが、化学肥料を使って育てているピ ーナッツと有機栽培のものがあり、食べ比べることができました。食べた感想としては、なんとなく有 機栽培のピーナッツの方が、風味が豊かで味が濃いように感じました。採れたての生のピーナッツを食 べること自体が初めての経験で、日本ではなかなか味わえないものを頂くことができました。 このスタディツアーで体験した全てのことが刺激的で、短い滞在期間ながらも南インドを満喫すること が出来ました。今後機会があれば、北インドの方にも訪れてみたいです。 25 スタディツアー感想文 法政大学 人間環境学部 奥村 由理 1.今回の南インドスタディツアーに参加するにあたり期待していたことは、2 つあった。1 つは、イ ンドの文化「衣」 「食」 「住」を体験すること。もう一つは、自分の将来を考えるということである。 というのは、自分はこれから金融業界に就職をし、 「海外」や「国際協力」という言葉と疎遠になって しまう気がしたため、何かつながりを発見できないかと考えた。 2.7 日間の中で最も印象深いことは、 「ホームステイ」である。移動中のバスの中から眺める家々の外 見は、さほど差を感じることはなかった。ステイさせていただいた家は、広々とした立派な家だった。 子供のおもちゃやミネラルサーバーがあり、日本とさほど変わらないなと思った。また、到着後近く にある畑に連れて行っていただいたが、その大きさに驚いた。主にピーナツを栽培しており、奥には 有機肥料でつくられた畑があることや羊が 30 頭ほどおり、 どのように育てているのか疑問に思った。 また、ピーナツを歩きながら食べさせてもらったが、しっとりしていて柔らかかった。畑から帰ると、 娘の友達が何人か勉強をしにきていた。そこで折り紙を教えることや宿題を手伝うこと、一緒に遊ぶ ことは、私の中で楽しかった思い出となった。子供たちの興味津々な顔は、とても可愛く、言葉は通 じない中でコミュニケーションをとりながら、自分が何かを教えてあげられる環境が心地よく感じた。 将来何か人に教えることをしたいと思ったことや英語をしっかり勉強したいという想いが強まった。 そして、インドカレーの家庭料理をいただくことができた。1 日だけではあったが、南インドの上級 層の暮らしを体験でき、一時一時が濃く貴重なものとなった。 3.ツアーの中で、その他の時間もとても有意義なものとなった。 「衣」として、参加者の方々と一緒に サリーや布を見て着たことや、日本でも体験したことのない深夜列車に乗り街を移動したこと、新鮮 な野菜・グアバやココナッツなどその場で採れたての自然な食べ物をいただいたこと、また体調不良に なってしまったことなど思い返せば充実した 1 週間であった。共通して言えることは、協力や助け合 いなしに生きてはいけないことである。First Agro でも“日本のお米をインドから輸入する日がくる かもしれない”という話も印象深かった。正しい情報を取り入れながら、これからの社会に敏感にな っていかなければならないと強く感じた。 今回のツアーで関わってくださった全ての方々に感謝致します。ありがとうございました。 26 全体感想 法政大学 公共政策研究科 澤津 直也 私が地球の友と歩む会(LIFE)が主催するフィールドスタディに参加したのは、昨年に続いて 2 度目 である。昨年の北インドと比較して、南インド(バンガロール、ディンディグル、チェンナイ)にはど のような世界で、どのような人々が暮らしているのだろうか、そんな関心と期待を持って参加させてい ただいた。 今次テーマは、有機農業の推進に取り組む NGO などから、持続可能な農業の現状と課題を学ぶことに あるが、百聞は一見にしかず、ここには記しきれないほどたくさんの可能性を学ぶことができた。 FirstAgro では、アイデア豊富な経営者の強い個性とリーダーシップも印象深かったが、経営者と現 地ワーカーとのスクラム関係や、何より、有機農業が絵空事でなく、高付加価値化によってビジネスが 成立している現実に目を見張った。リッツカールトンなど、有機野菜を採用している消費サイドからも、 高い理念と誇りをうかがい知ることができた。 CIRHEP では、諸外国の NGO の知見や資金を柔軟に取り入れて生活を改善したいという意気込みが諸所 で感じられた。最も印象深かったのは、ディンディグル県内の LIFE や CIRHEP らが展開するプロジェク トサイトで聞いた話である。要は、農業用貯水池を造成し、溜まった水が地下に浸透することで井戸水 位の向上効果が得られるというもの。持続可能な農業を展開するうえでは、灌漑と土壌保全がキーであ るが、この貯水池はそれら両面にさまざまなメリットをもたらす。プロジェクトの事前調査の際には、 貯水池の造成について農民の理解が得られず、 「貯水池分の土地があればトウモロコシが栽培した方がよ い」など、希望者がなかなか現れなかった。それが、本事業の成果が徐々に確認されるに伴い、希望者 が殺到しているという。こうしたプロジェクトの前と後の変化に、 「何事も行動で示さなければ変わって いかない」ことを学ぶことができた。 結局、国際協力とは、人と人とのつながりが根幹であり、農業の効率化などの技術面よりも、現地の 人々が何を考え、どのように行動しているかをよく考えることが重要なのだと思った。ここから、日本 での生活や仕事で役立つ様々な示唆や教訓を得ることができる。それに気づくことができたのが、今回 フィールドスタディの最大の成果だったように思う。 以上 27 スタディツアー参加 感想 法政大学 公共政策研究科 寺末 奈央 <インドについて> 今回初めてインドという国に訪問しましたが、渡航には若干の不安がありました。というのも、日本で 報道されるインドの情報は女性の権利を侵害するような事件の報道ばかりで、自分自身も女性であったた めです。実際にインドに渡航した友人、知人、先生方にお話を聞き、渡航することを決意しましたが、そ れでもなお、実際に渡航するまでは不安はぬぐいきれませんでした。 今回のスタディツアーを通じて、インドの人々のおおらかさ、人懐こさを感じ、不安が解消されました。 農村を訪問したこともあり、どこか日本の田舎のような穏やかなのんびりとした印象を受けました。もち ろんテレビではインド国内でデモがあったという報道もあったのですが、実際にふれあうインドの人々か らはそういったものは感じませんでした。移動中に利用した寝台車でもフランクに会話を交わし、バナナ をおすそ分けしてもらいました。その時のバナナの味はおいしかったこともありますが、いい思い出とし て忘れられません。 水やトイレなど、生活インフラの未整備を感じる点がありましたが、それはアジア全般に言えることで あり、場合によってはアメリカやヨーロッパでもあることです。事前の情報によって想像以上のショック を受けることはありませんでした。 ツアーの勉強会において、事前にインド滞在における注意点を提供していただいたので、体調管理や事 前の予防対策が取れました。まずは体調が万全でなければ、調査・訪問ができなくなってしまうので、甘 く見ず、しっかり対応することが重要であると感じました。 自身の研究トピックである道路インフラについてですが、インドの道路インフラについては自分が思っ ていた以上に整備がされていました。しかし、交通マナーについては問題があると思いました。今後、経 済発展に伴い、交通事故が増加することが予想されるので、いかに交通事故を予防するかという点に自身 のキャリアが活かせるかもしれないと思いました。 <スタディツアーについて> 自身が英語は得意な方ではないので、スタッフの方に通訳をしていただいて自分は何とか現地調査が可 能でした。英語の勉強をもっとしなくては、と痛感しましたが、不得意ながら、積極的に話しかけていけ ば、相手も理解しようとしてくれたので、恐れずにどんどん質問をしていこうと思いました。 インタビューにおいては、現地語から英語に通訳してもらうとき、また英語から英語で聞き取るときに 本来の意図が意図せずにゆがめられるしまう恐れや意図的にゆがめようと思えばできてしまうことを実感 しました。そういったことからも英語のスキルをもっと向上させる必要があると思いました。 また、グループインタビューでは、発言力のある人ばかりが発言してしまう傾向があり、発言できない 人々の想いをいかにくみ取るか、いかに発言しやすい環境を作るかというところに研究者の力量が問われ てくるのだということを痛感しました。 今回のスタディツアーで、有機農業の収益性・流通性を高めるための課題、その課題に連動した経済的 な観点からの農業を継ぐか(あるいは継がせたいか)という、日本にも通じる課題があるのだと思いまし た。自身も実家が農家であるため、インドの農村でのインタビューは自身の今後についても考えさせられ る体験となりました。 今回のスタディツアーでお世話になった LIFE のスタッフの方々、現地 NGO の方々、インタビューに ご協力いただいた農村の方々に感謝申し上げます。また、ツアーで一緒になったメンバーの皆さまにもい ろいろな面でサポートいただきましたことを感謝申し上げます。 28 ドゥライサミーさんの家でのホームステイ 法政大学 人間環境学部 益子 太介 農村にホームステイをする事は初めての経験で、特に印象深い経験になりました。1日だけだったので、 詳しく知るには限界がありましたが、単なる旅行では見ることが難しい、インドの人の生活の様子を垣間 見ることが出来ました。以下に起こった事、見たこと感じた事の詳細を列記します。 ・折り紙(千代紙)は新鮮だったようで大人にも子供(ハリフィエーン君・一人っ子)にも食いつきが良 かった、特に飛行機はハリフィエーン君が喜び、様々な遊び方を編み出していた。その他にも3輪車遊び や木の棒で土に絵を描いたり、積み木をしたり、一人っ子の私も同じような遊びが好きで小さい頃の私と 同じ事をしていた事から、インドも日本も小さい頃に考える事は文化や習慣に関係なく同じなのかとも考 えた。 ・私が滞在した日は、ハリフィエーン君は数学を勉強していたが、教科書には100の段まで書いてあり、 数字や数学の教育の特殊さを垣間見る事が出来た。得意気に7の段を英語で披露してきたのがかわいかっ た。 ・ハリフィエーン君はタミル語を話してはいたが、要所要所でお母さんが英語を教えていて、英語教育は 生活と密接に関わっていると感じた。数学も英語も勉強を勉強だと思っていないように感じ楽しそうにし ていた。小さい頃の自分の感覚と大違いで、印象深かった。この感覚の違いは何から来るものなのか、何 がどう影響して感覚が分かれるのか、不思議に感じた。 ・家の食事は、一般的な南インドの料理だったと思われるが、食べる順番は男性が先だった。お母さんは 別の部屋で食べていた。 「ポードゥン」が通じないのが印象的で、沢山食べさせてもらった。ハリフィエー ン君はお母さんに食べさせてもらっていた。私には水が必要な辛めのカレーを美味しそうに食べていた。 ・総じて皆声が大きく、最初は怒られているのかと思うほどだった。特におばあさんの声がお腹からよく 出ていて、最初は怒っていると勘違いして萎縮しかけた。 ・トイレやシャワーは、いわゆる「インド式」のものだったが、清潔に保たれていた。気候や習慣等から、 インドではこの形式がベストなんだろうなと感じながら、インド式を体験してみた。案外清潔になった気 がして気持ちが良いものであった。やはり、見るだけでなく、実際にやってみる事が大切だと感じる。シ ャワーの棚には男性用下着、トイレの棚には女性用と思われる下着が置いてあった。この配置の違いも何 かインド社会の考え方があるのか、少し気になった。 ・早寝早起きを実践している家庭だった。というか、インドの街を見ていると、朝早くから店を開いて人 が集まっている所が多いように感じた。朝は、ドゥライサミーさんのバイクに乗ってレモンを摘みと、ミ ルクを貰いに行き、家に着いたらドゥライサミーさんとお父さんと私でホットミルクを飲んだ。砂糖が入 っていて皆美味しくすすりながら飲んだ。 ・作業をしてから、朝食だったが、昨夜の残りを揚げた物と入れ物に入っているカレーを食べた。朝カレ ーは一時期日本でも流行りかけたが、インドカレーの朝カレーは日本のそれと違い、スパイスで目が覚め て非常に良いと感じた。これも気だるい暑さが続くインドの人の長年の知恵の結晶なのかなとも考えた。 また、これは熱い中熱いチャイを飲む時にも考えた。同じ熱い国の旧仏領のベトナムではアイスコーヒー がよく飲まれるが、旧英領のインドでは違う。ヴェーダの影響なのかも知れない。 ・ハリフィエーン君の登校時はきちんと頭髪を整えて、制服のネクタイを着けていた。そのようなエチケ ットを小学校の時から当たり前のように行う環境は、良いと思った。この点に関しては日本より進んでい るかもしれないと思った。また、全体を通して日本と比較して流れる時間がゆったりしていたが、慣習、 制度、エチケットがきちんと存在し、かつ機能していた事も印象的であった。 29 以上 インドの田舎でホームステイして 吉田 秀美 昨年度の北インドに続き、今回も LIFE の皆さんに大変お世話になりました。これまで何度も北インド を訪れてきましたが、南インドは今回が初めてです。同じ国なのに、人も景観も植生もこんなに違う!と 改めてインドの奥深さを感じました。 そして、今回は初めて農村の家庭にホームステイさせていただきました。昼間の訪問だけでは見えてこ ない、朝や夕方の美しい景色や人々の暮らしぶりに触れることができ、今回のツアーで最も印象深い経験 になりました。以下、概要と気づきを列記します。 ・石坂さんと奥村さんが滞在した村長さんの家は 75 エーカーの大地主。奥様は大卒の先生で、8 歳の女の 子と 3 歳のやんちゃ坊主がいた。広々とした清潔なお宅には、ガス調理器や冷蔵庫など、きれいな台所 用品がそろっていた。 ・農場では、広大で昔ながらの大きな井戸やスプリングクラー、檻に戻ってきたおびただしい数のヤギな どを見ることができた。乗せてくれた車は、昭和 30 年代くらいに走っていたようなポンコツ車でライト も壊れていて、暗い道をバイクの明かりを頼りに走っていた。 ・夕食前、近所の子供が勉強しに集まっていたので、折り紙を教えたりして盛り上がる。 ・日本のお餅をゆでてふるまった。奥さんは興味津々で見ていたが、餠はご主人しか食べてくれなかった。 梅干しはタマリンドの味に似ているらしく、わりと口にあうようだった。女性同士は台所に入ると親近 感を感じるものだ。 ・夕食後、シャワーをお借りしてから、私だけ別宅へ CIRHEP スタッフのバイクで移動。 ・未亡人と息子のお宅を訪問。ご主人は警官だったらしく、制服を着た写真が飾ってあった。息子はまだ 帰宅しておらず、親類らしき女性と二人で迎えてくれた。こちらでも夕食を用意して待っていてくれた ので、頑張ってチャパティを食べる。夕食後は、 「早く寝ろ」と急かされ、温めた牛乳をいただいて歯を 磨く間もなく着替えもせずベッドに横にならされる。親類の女性と同じベッドで寝ることに。もう一つ の小さいベッドの女主人とおしゃべりをしているのを聞きながら眠りに落ちる。夜遅くに仕事から帰っ てきた息子は居間の床で毛布にくるまって寝ていた。 ・朝になると、チャイを入れてくれたり、庭のココナッツをとってくれたり。離れにあるトイレ・水浴び 用の小屋に、井戸から水を運んでくれたので、水浴びをする。朝食に用意してくれたタマリンド入りの ドーサが素朴でおいしかった。 ・身振り手振りでしか通じなかったけれど、適当に勘を働かせて受け答えをしていると、なんとかなるも のだった。台所にある食材を一つ一つ教えてくれる時は、単語をオウム返しに言ったら満足してくれて いた。日本のおばあちゃんと同様、 「もったいないからココナッツを残さず食べろ」とか、 「チャパティ たくさん用意していたのに、1 枚しか食べない」と言われたり(たぶん) 、一昔前の日本との共通点を見 出すのが楽しかった。また、家族の写真や鎌倉の大仏の写真などもコミュニケーションツールになった。 ・CIRHEP のセルバ君が朝食前の散歩に誘ってくれたので、バイクの後ろに乗って有機農場を見学。行く 途中の道には等間隔で人糞が落ちているところがあり、まさにトイレストリート。トイレがある家は限 られているのだな、と気が付く。これがフィールドワークの醍醐味だ。 ・ホームステイ時に便利なもの:長い巻きスカート(水浴びや着替えに便利) 、薄手の大判手ぬぐい(水浴 び用) 、日本の食材や折り紙、家族の写真 以上 30 持続可能な農業の可能性を探る旅 in 南インドを終えて 地球の友と歩む会 インド事務所駐在:島田めぐみ 今回のツアーの目的は、南インドにおける「持続可能な農業」について可能な限り幅広い知見を提供す る、というものでした。大都市バンガロールのスターホテルから、急成長中の農業会社、貧困率の高い農 村の女性農家、教育を受けた比較的裕福な農家など、地理的にも、社会経済的にもバリエーションに富ん だ訪問先を設定したのもそのためでした。 参加者の皆さんには、様々な場所・人から様々なことを学び、 「持続可能な農業」についての理解を深め ていただけたようで、一安心しております。また、当会が実施中のプロジェクト(日本 NGO 連携無償資 金協力による、 「有機農業推進の基盤整備事業」 )についても、あらためて客観的に見つめなおす大変貴重 な機会になりました。 インドでは、2016 年度の国家予算において農村部への支援強化が発表されました。その中でも、流水域 開発と有機農業の推進は大きなコンポーネントとなっています。南インドに限らず、今後、インドでは「持 続可能な農業」がひとつのキーワードとして注目されていくのではないでしょうか。当会も、引き続き活 動地域(南インド、Tamil Nadu 州 Dindigul 県)における有機農業の推進を目指して活動を続けていく予 定です。 短い期間ではありましたが、団体行動にご協力いただいた参加者のみなさんに感謝いたします。今回の ツアーが、これからのみなさんのご活躍に役立つよう願っております。 31