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発電所構造物藻場ビオトープ実証調査
経済産業省原 子 力 安 全 ・ 保 安 院 委 託 平成 23 年度 火力・原子力関係環境審査調査 (発電所構造物藻場ビオトープ実証調査) 最終とりまとめ報告書 (平成19∼23年度) 平成24年 3 月 財団法人 海洋生物環境研究所 はじめに 近年,生態系や環境保全に対する国民の意識が高まる中,様々な事業を行うに際しては, 自然環境への配慮が強く求められている。発電所では,環境影響評価を行うにあたって, 選定項目の環境要素に影響が及ぶおそれがある場合,環境保全措置を検討することが求め られる。 発電所の立地に海岸工事が伴う場合は,藻場等のビオトープ(生物生息場)の消失が懸 念されるが,完成後の護岸等の海岸構造物に藻場が形成されることがあり,環境保全措置 の観点から注目される。 そこで,本調査では,海岸構造物を造成中の発電所周辺海域をモデル地点として,既往 知見の検討結果や現地調査の実施結果に基づき,発電所構造物に形成される藻場ビオトー プを環境保全に活用するための手順を取りまとめた。 この報告書は,経済産業省原子力安全・保安院から財団法人海洋生物環境研究所に委託 された「火力・原子関係環境審査調査」の一環として実施した「発電所構造物藻場ビオト ープ実証調査」の平成 19 年度から平成 23 年度の成果を取りまとめたものである。調査の 実施経緯を次頁に示した。 ここに,本調査の推進にあたり,ご指導,ご助言を賜った委員各位に感謝の意を表する とともに,資料提供および調査モデル地点確保等に多大なご協力をいただいた中国電力株 式会社,同社島根原子力建設所,漁業協同組合JFしまね恵曇支所に厚くお礼申し上げる。 平成 24 年3月 財団法人 海洋生物環境研究所 経済産業省原子力安全・保安院委託 火力・原子関係環境審査調査(発電所構造物藻場ビオトープ実証調査) 実施経緯(平成 19~23 年度) 項 目 H19 年 度 H21 H20 H22 H23 1)海域特性把握調査 工事計画から海岸構造物の選定 既往知見から藻場構成種の推定 既往知見から海域特性の把握 藻場分布の現地調査 水温現地連続観測 2)藻場適地評価モデル構築調査 水深・底質分布の現地測量 波浪・流況シミュレーション 既存データによるモデル構築試行 取得データによるモデル構築・精度向上 モデルの適合性検討・予測の実施 補強技術の既往知見収集 3)藻場群集形成経過調査 対照区調査 一期工事区調査 二期工事区調査 三期工事区調査 遷移過程・極相の評価 4)総合評価 活用手順の検討 活用手順書作成 5)検討委員会 検討委員会の開催 目 次 はじめに 目 次 Ⅰ.活用手順の目的(発電所構造物藻場ビオトープ形成の考え方) ・・・・・ 1 Ⅱ.発電所構造物藻場ビオトープ活用手順 1.目標の策定 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 2.藻場形成効果の予測 3.補強技術の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 4.予測結果の検証(藻場形成経過の追跡調査) Ⅲ.事例調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 1.目標の策定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 2.藻場形成効果の予測 3.補強技術の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59 4.予測結果の検証(藻場形成経過の追跡調査) 引用・参考文献 実施体制 ・・・・・・・・・・・・29 ・・・・・・・・・・・・60 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・79 参考1.藻場を構成する主要種の生態特性 ・・・・・・・・・・・・・・・・81 参考2.藻場を構成する主要種の生活史と成熟時期 参考3.藻場形成に係わる環境要因 ・・・・・・・・・・・・89 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93 参考4.数値モデルによる流れ場の算定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・97 Ⅰ.活用手順の目的(発電所構造物藻場ビオトープ形成の考え方) 発電所の立地に海岸工事が伴うと,藻場等のビオトープ(生物生息場)の消失が懸念さ れるが,工事完成後の海岸構造物には藻場が形成されることがあり,環境修復的な効果が 期待されることから,環境保全措置への活用とその手順を示す。 発電所の立地に際しては環境への配慮が求められ,環境影響評価を行うにあたっては, 選定項目の環境要素に影響が及ぶおそれがある場合,この影響をできる限り回避し,また は低減すること,必要に応じて損なわれる環境要素の価値を代償することを内容とする環 境保全措置を検討することが求められる(発電所の設置又は変更の工事の事業に係る環境 影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選 定するための指針、環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令,平成十年六月 十二日通商産業省令第五十四号 最終改正:平成二二年三月三〇日経済産業省令第一四号)。 臨海立地の発電所周辺の沿岸海域には,藻場が分布していることがあり,魚介類の生息 場,餌場,繁殖場等のビオトープ *として機能しているが,発電所立地に海岸工事が伴う と消失が懸念される。そこで,環境影響評価を行うにあたっては,環境保全措置が求めら れる。しかし,一方では,工事完成後の海岸構造物に藻場が形成されることがあり,環境 修復による影響の低減的な効果ないしは代償的な効果が期待される。 このことから,海岸構造物における藻場の形成効果を発電所の環境保全に活用するため の技術的検討を行い,活用手順としてまとめて示した。また,この手順の中では,より積 極的に藻場形成を促すような付帯構造物の造成や藻場形成を促進する技術も示した。 なお,ここでは,大型で多年生の海藻種を主体とした岩礁性の藻場(コンブ場,アラメ・ カジメ場,ガラモ場)を対象とする。 この活用手順は,最新の科学的知見および技術に基づくが,今後の科学の発展に伴って 随時見直されるものであると考える。 *1 ビオトープ:本来は景観生態学の用語,概念(横山,1995)であるが,ここでは,人工, 天然のいずれであるかは問わず,野生生物の生息に適した景観単位としての三次元空間 (海洋生物環境研究所,2007)を示す。 -1- Ⅱ.発電所構造物藻場ビオトープ活用手順 発電所立地に伴う海岸工事の計画に対して,環境保全に海岸構造物の藻場形成効果を活 用する手順を示す。 手順のフローを,第Ⅱ-1 図に示した。 (藻場形成効果を環境保全に活用) 1.目標の策定 工事計画・文献情報・聞き取り情報等 1)藻場が形成される海岸構造物の選定 2)藻場を構成する海藻種の推定 3)量的目標の設定 2.藻場形成効果の予測 1)現地調査の実施 2)藻場適地評価モデルの構築 発電所の情報 物理環境等の変化 3)予測の実施 不適 3.補強技術の検討 1)海岸構造物の付帯工事 2)大型海藻の入植促進 3)食害動物の除去および進入防止 適 (構造物の造成) 4.予測結果の検証 (藻場形成経過の追跡調査) 1)調査区の設定 2)調査項目の選定 3)調査結果の評価(頻度と期間) 第Ⅱ-1 図 発電所構造物藻場ビオトープを環境保全に活用するための手順 -3- 発電所立地に伴う海岸工事の計画に対して,環境保全に海岸構造物の藻場形成効果を活 用することになった場合,まず,目標の策定(藻場が形成される海岸構造物の選定,藻場 を構成する海藻種推定,量的目標の検討)を行い,次いで,藻場形成効果の予測(現地調 査の実施,藻場適地評価モデルの構築,予測の実施)を行う。この際,目標に対して予測 結果が充分でなかった場合は,補強技術の検討(海岸構造物の付帯工事,大型海藻類の入 植促進,食害生物の除去および進入防止対策)を行うことができる。そして,海岸構造物 の施工中ないしは完成後から,予測結果の検証(藻場形成経過の追跡調査;調査区の設定, 調査項目の選定,調査結果の評価)を実施する。 1.目標の策定 発電所立地の環境保全に海岸構造物の藻場形成効果を活用するために,藻場形成に適し た海岸構造物を選定し,対象海域に応じた海藻種を推定するとともに,量的目標を設定す る。 発電所立地に伴う海岸工事の計画に対して,海岸構造物の藻場形成効果を環境保全に活 用することになった場合,工事計画等から藻場形成に適した海岸構造物を選定し,文献情 報や現地の既往知見等から工事計画海域に形成される藻場を構成する海藻種を推定すると ともに,量的目標を設定する。なお,目標の策定にあたっては,専門家からの情報収集を 行うことが有効である。 1)藻場が形成される海岸構造物の選定 発電所海岸構造物の配置の例を,第Ⅱ-1-1 図に示した。 発電所の海岸構造物には,一般的な海岸保全施設や港湾施設に共通するものと,発電所 に特有のものがある。これらの海岸構造物の水中部分が藻場形成の基質となるが,藻場を 構成する大形多年生海藻類の生育には,直立面よりも緩傾斜面や水平面が適する。 -4- 放水口 (水中放流) 消波施設 (人工リーフ) 防波堤(離岸堤) 護岸(堤防) 防波堤(突堤) 3号機 岸壁 取水口 (水中取水) 透過堤 放水口 (表層放流) 1・2号機 第Ⅱ-1-1 図 発電所における海岸構造物の配置の一例 次に示す個々の海岸構造物を参照して,計画される海岸構造物から,より藻場形成の基 質に適するものを選定することが望ましい。 (1)護岸・堤防 護岸・堤防は,波浪等による浸食から海岸を保護するもので,海岸線に沿うように造成 される。海側の面の傾斜の有無によって,傾斜型護岸・堤防と直立型護岸・堤防に区別さ れる。傾斜型護岸・堤防の方が藻場の形成には適するが,直立型護岸・堤防の場合でも海 側の面に消波ブロック等を積み上げた緩傾斜面が造られることがある。 -5- (2)防波堤(突堤,離岸堤) 防波堤は,港湾水域等の静穏化を図るもので,捨石等で造成した基礎マウンドの上に方 塊やケーソン等のコンクリートブロックを置いた構造となっている。このうち,基礎マウ ンド部に水平面や緩傾斜面が造成される。コンクリートブロック側面は直立面となるため, 藻場の形成には適さないが,港湾の外側に面した船舶の航行に支障がない部分等には,消 波ブロック等を積み上げた緩傾斜面が造られることがある。 (3)岸壁 岸壁は,港湾内で船舶が着岸する係留施設で,ケーソン等のコンクリートブロックや矢 板で直立面が造成される。捨石基礎マウンドがある場合は,ここに水平面や緩傾斜面がみ られることがあるが,船舶の着岸,係留を妨げないように,むしろ藻場の形成は避けるべ きと考えられる。 (4)消波施設(人工リーフ,潜堤) 人工リーフ,潜堤等の消波施設は,海底面を嵩上げすることによって波を砕波,減衰さ せて海岸等を保護するもので,捨石等で形成されたマウンドの表面をコンクリートブロッ クが被覆している。この天端面が水中の水平面を形成することから,広い範囲での藻場の 形成が期待される。 (5)取水施設 冷却水の取水施設には,表層取水方式と水中取水方式がある。 表層取水方式の場合は,取水口の前面に消波ブロック等を積み上げた透過堤や導流堤が 造られることがあり,緩傾斜面の形成が期待される。しかし,このような取水口前面で海 藻類が繁茂すると,ちぎれた海藻片を取水口が吸い込むことになり,取水障害や特別な対 応措置の発生が懸念されることから,注意を要する。 水中取水方式の場合は,海岸から取水塔までの間の導水管を保護するための施設が造成 されることがあり,ここに緩傾斜面ないし水平面が形成される。しかし,表層取水方式の 場合と同様に,ちぎれた海藻片を取水口が吸い込むことには,注意を要する。 (6)放水施設 冷却水の放水施設には,表層放流方式と水中放流方式がある。 表層放流方式の場合は,取水口の前面に消波ブロック等を積み上げることによって透過 -6- 堤や導流堤が造られることがあり,緩傾斜面の形成が期待される。しかし,このような放 水口前面では,温排水によって海水温度が上昇していることから,この上昇した海水温度 を勘案して,生育を期待する海藻種を選定する必要がある(海洋生物環境研究所,2008)。 水中放流方式の場合は,海岸から放水口までの間をカルバート等のコンクリートブロッ クで繋ぐことがあり,この天端が水平面を提供する。また,このコンクリートブロックを 中心に,捨石等によるマウンドが造成されることがあり,ここに緩傾斜面等が形成される。 これらの,水中放流方式では,温排水による海水温度の上昇は放水口の極近傍に限られる ようにみられる。 2)藻場を構成する海藻種の推定 藻場を構成する海藻は,種によって,地理的分布特性,空間的(鉛直的,水平的)分布 特性を有している。 このことから,目標を策定するにあたっては,海岸工事が計画される海域の地理的位置, 藻場の形成基質とする海岸構造物の設置水深や形状に基づいて,形成される藻場の種類と 主要な海藻種を推定する。 当該海域において,藻場の種類や主要な構成種に関する文献情報や既往知見が入手可能 な場合は,それらを参照して推定する。そのような文献情報や既往知見が入手できない場 合は,大型多年生海藻の種ごとの一般的な生態特性から,形成される藻場の主要な海藻種 を推定する。 (1)藻場に関する既往知見 自然環境保全法第4条の規定に基づいて,昭和 48 年度からおおむね5年ごとに環境省が 実施している自然環境保全基礎調査では,第2回調査(昭和 53~54 年度),第4回調査(昭 和 63~平成4年度),第5回調査(平成5~10 年度),第6回調査(平成 11~16 年度),第 7回調査(平成 17~21 年度)で,全国的な観点から藻場分布等を調査した。これらの報告 書は,生物多様性センターのウェブサイト(http://www.biodic.go.jp/index.html,2011 年閲 覧)からダウンロードすることができる。 このうち,第5回調査(環境省自然環境局生物多様性センター,1999,2000,2001)は, 藻場の調査方法の全国的な統一を目指して実施され,モデル海域において現地調査が実施 -7- された。この調査が実施された海域(第Ⅱ-1-1 表)については,藻場を構成する海藻種の 鉛直分布や群落構造が示されているので,工事計画海域がこれらの調査海域の近傍であれ ば,形成が期待される藻場の状態を知る上で参照することができる。また,この報告書に は,それまでに各地で実施された藻場調査について,入手可能な既往文献・資料のリスト が示されているので,これらも参照することができる。 第Ⅱ-1-1 表 第5回自然環境保全基礎調査における調査地点 都道府県 地点名 藻場の種類 北海道 戸井町下海岸 コンブ場 秋田県 男鹿半島塩浜~門前地先 ガラモ場 千葉県 小湊地先(松ヶ鼻) アラメ・カジメ場,ガラモ場 神奈川県 小田和湾(佐島,大木根) アラメ・カジメ場,ガラモ場 静岡県 田牛海岸 アラメ・カジメ場 石川県 能登半島大川町地先 ガラモ場 愛媛県 伊予大島・地大島 アラメ・カジメ場 長崎県 志々伎湾 アラメ・カジメ場,ガラモ場 *大型多年生海藻の岩礁性藻場を対象とした海域のみを抜粋 さらに,第6・7回調査(環境省自然環境局生物多様性センター,2008)では,全国 120 ヵ所以上の藻場(第Ⅱ-1-2 表)で生態調査が実施されたので,より広範囲の海域で形成さ れる藻場の状態について,参照できる資料が整備された。 第Ⅱ-1-2 表 ブロック 北海道ブロック 東北ブロック 第6・7回自然環境保全基礎調査における調査地点(つづく) 都道府県 北海道 地点名 藻場の種類 利尻島・礼文島沿岸 コンブ場 知床半島東部沿岸 コンブ場 厚岸湾 コンブ場 襟裳岬周辺沿岸 コンブ場 塩首岬周辺沿岸 コンブ場 泊村杯地区地先沿岸 コンブ場 青森県 下北半島大間崎周辺沿岸 ガラモ場 岩手県 三陸海岸 コンブ場,ガラモ場 宮城県 志津川湾 アラメ・カジメ場 秋田県 男鹿半島沿岸 ガラモ場 山形県 飛島周辺沿岸 ガラモ場 *大型多年生海藻の岩礁性藻場を対象とした海域のみを抜粋 -8- 第Ⅱ-1-2 表 第6・7回自然環境保全基礎調査における調査地点(つづき~つづく) ブロック 関東ブロック 都道府県 東海ブロック 那珂湊地先沿岸 アラメ・カジメ場 千葉県 犬吠埼周辺沿岸 ガラモ場 館山湾 アラメ・カジメ場,ガラモ場 鵜原地先沿岸 アラメ・カジメ場 八丈島周辺沿岸 ガラモ場 神奈川県 毘沙門~剣崎沿岸 アラメ・カジメ場 新潟県 ガラモ場 佐渡島北部沿岸 佐渡島南部沿岸 アラメ・カジメ場,ガラモ場 柏崎沿岸(宮川~椎谷) ガラモ場 富山県 富山湾西部 ガラモ場 石川県 内浦町地先沿岸 ガラモ場 舳倉島・七ツ島周辺沿岸 アラメ・カジメ場,ガラモ場 能登半島西部沿岸 ガラモ場 福井県 丹後半島沿岸~若狭湾 ガラモ場 鳥取県 岩美地先沿岸 ガラモ場 島根県 隠岐島周辺沿岸 ガラモ場 山口県 青海島沿岸 ガラモ場 静岡県 初島沿岸 ガラモ場 伊豆半島東部沿岸 アラメ・カジメ場 逢ヶ浜 アラメ・カジメ場,ガラモ場 伊豆半島西部 ガラモ場 志摩半島南部沿岸 アラメ・カジメ場 三重県 瀬戸内・四国ブロック 藻場の種類 茨城県 東京都 日本海ブロック 地点名 和歌山県 白浜~田辺湾 アラメ・カジメ場 大阪府 大阪湾南部(紀淡海峡) ガラモ場 兵庫県 洲本地先沿岸 ガラモ場 家島周辺沿岸 アラメ・カジメ場,ガラモ場 広島湾東部 ガラモ場 広島湾西部 ガラモ場 伊島周辺沿岸 ガラモ場 橘湾 ガラモ場 宍喰地先沿岸 ガラモ場 鳴門海峡 ガラモ場 愛媛県 宇和海島嶼部周辺沿岸 アラメ・カジメ場,ガラモ場 高知県 帷子崎西沿岸 ガラモ場 浦ノ内湾 ガラモ場 室戸岬周辺沿岸 アラメ・カジメ場,ガラモ場 広島県 徳島県 *大型多年生海藻の岩礁性藻場を対象とした海域のみを抜粋 -9- 第Ⅱ-1-2 表 ブロック 九州ブロック 第6・7回自然環境保全基礎調査における調査地点(つづき) 都道府県 地点名 福岡県 筑前大島・地の島周辺沿岸 アラメ・カジメ場,ガラモ場 佐賀県 東松浦半島北部沿岸 アラメ・カジメ場,ガラモ場 長崎県 平戸海峡 アラメ・カジメ場,ガラモ場 平尾免地先沿岸 ガラモ場 天草灘通詞島周辺沿岸 アラメ・カジメ場,ガラモ場 苓北町富岡地先沿岸 アラメ・カジメ場,ガラモ場 大分県 姫島周辺沿岸 ガラモ場 宮崎県 門川湾・御鉾ヶ浦 アラメ・カジメ場,ガラモ場 島浦島 ガラモ場 青島周辺沿岸 ガラモ場 都井岬周辺沿岸 ガラモ場 熊本県 鹿児島県 長島周辺沿岸 沖縄ブロック 藻場の種類 沖縄県 ガラモ場 阿久根地先沿岸 ガラモ場 串木野市羽島地先沿岸 ガラモ場 上瓢島海鼠池 ガラモ場 藪地島周辺沿岸 ガラモ場 中城湾北部 ガラモ場 中城湾南部 ガラモ場 宮古島東部 ガラモ場 与那覇湾沖 ガラモ場 白保地先沿岸 ガラモ場 *大型多年生海藻の岩礁性藻場を対象とした海域のみを抜粋 (2)主要な海藻種の生態特性 岩礁性の大型多年生海藻を主体とする藻場としては,コンブ場,アラメ・カジメ場,ガ ラモ場(ホンダワラ類の藻場)が検討の対象となる。 このうち,コンブ場は,北海道沿岸から茨城県北部沿岸までの太平洋岸と青森県沿岸ま での日本海岸にみられる(水産庁,2007)。アラメ・カジメ場のうち,アラメ場は岩手県か ら高知県東部までの太平洋岸と京都府の日本海岸から長崎県の東シナ海岸まで,カジメ場 は千葉県から宮崎県までの太平洋岸と島根県の日本海岸から長崎県東シナ海岸までみられ る(水産庁,2007)。アラメ類とカジメ類が同所的に分布する場合は,基本的には,アラメ 類が浅所で,カジメ類が深所(寺脇・新井,2004)にみられる。ガラモ場は,日本各地の 沿岸でみられる(水産庁,2007)。 これらの藻場を構成する主要な海藻種について,生態特性を「参考1.藻場を構成する 主要種の生態特性」に示した。 - 10 - 3)量的目標の設定 量的目標として,藻場が形成される面積と主要な藻場構成種の生育量を設定する。藻場 が形成される面積は,基質として選定した海岸構造物の規模と形状から推定する。生育量 は,既往知見と後に実施する現地調査(「2.藻場形成効果の予測」において実施)の結果 から設定する。 4)その他の検討 (1)海岸構造物の造成時期の検討 コンクリートブロック等の藻場が形成される面が,主要な海藻類の入植時期に合わせて 設置されると,藻場形成がより速やかになされると考えられる。海藻類の入植時期は,種 ごとの生活史*や成熟・繁殖時期*によって決まるが,海域の地理的位置および環境条件に よって変化することがあるので,工事が計画される海域ごとに検討されねばならないこと から,専門家等からの知見の収集が必要となる。 コンブ類とアラメ・カジメ類では,藻体に形成された子嚢斑*から放出された遊走子*が 着底して入植する。コンブ類には,冬季発芽群と夏季発芽群がみられるが,いずれも前年 秋に放出され,着底した遊走子に由来する(川嶋,2004)。 アラメ・カジメ類のうち,アラメでは主として秋から冬にかけて,サガラメでは9~11 月頃,カジメでは主に夏から秋にかけて,クロメでは7~9月に子嚢斑が形成される(寺 脇・新井,2004)。 ガラモ場を構成するホンダワラ類では,生殖器床*から放出された幼胚*が着底して入植 する。ホンダワラ類の成熟期には,種によって,春季成熟型,夏季成熟型,秋季成熟型の 3型の大別があるとされているが,海域の地理的位置や環境条件によって,大きな変化が みられる。 * 生活史,成熟・繁殖時期,子嚢斑,遊走子,生殖器床,幼胚:「参考2.藻場を構成する 主要種の生活史と成熟時期」を参照。 - 11 - (2)海岸構造物の造成位置の検討 海岸構造物に形成される藻場は,天然岩礁域の藻場から移送されてくる遊走子*や幼胚* が起源となって成立することから,海岸構造物の造成位置は,天然の藻場との関係を海水 の流動特性とあわせて検討する必要がある。 コンブ類,アラメ・カジメ類の遊走子の移送範囲は広く,群落から 500m以上離れた砂 泥底域に実験的に設けられた基質で,アラメ・カジメの幼体が出現した例(電力中央研究 所,1991)が報告されている。ホンダワラ類の幼胚は,コンブ類,アラメ・カジメ類の遊 走子に比べると大きく,速く沈降するため,移送範囲は狭いと考えられることから,幼胚 そのものの移送によるよりも,幼胚を付けた流れ藻の移送による入植が重要と考えられる (海洋生物環境研究所,2007) このことから,コンブ類,アラメ・カジメ類では天然の藻場の位置との関係,ホンダワ ラ類では流れ藻の到達状況を検討する。 * 遊走子,幼胚:「参考2.藻場を構成する主要種の生活史と成熟時期」を参照。 5)目標の策定で留意すべき事項 前述のように,取水施設近傍では,ちぎれた海藻片が取水口に取り込まれないようにす る配慮が必要となる。放水施設近傍では,海水の温度上昇に注意が必要となるともに,温 排水の速やかな拡散を阻害しないように配慮する必要がある。港湾施設がある場合は,船 舶の入出港や着岸,係留を妨害しないように配慮する必要がある。 また,発電所関連以外の海面利用,海域利用がある場合は,それらに配慮する必要があ る。たとえば,周辺に海面養殖施設があるような場合には,流れ藻の発生,移送先に注意 して,事前に関係先と同意を形成しておくことが大切となる。 なお,海岸構造物に新たに形成される藻場の種類や主要な構成種は,工事が計画される 海域の地理的位置や,造成後に創出される場の条件によって決まるものであることから, これらに関する目標設定には,既往知見等による検討や,周辺海域における事前の観察, 専門家からの情報収集などが重要となる。 - 12 - 6)目標の策定のまとめ まず,工事計画を参照して,水平面や緩傾斜面を有する海岸構造物を,藻場形成の基質 として選定する。この時,船舶の係留・着岸施設や航路を避けるとともに,取放水口との 位置関係等に留意する。次に,工事計画海域の地理的位置や完成後に創出される環境条件 から,形成される藻場の種類と主要な構成種を推定する。あわせて,量的目標として,藻 場形成面積と主要な海藻類の生育量を設定する。 - 13 - 2.藻場形成効果の予測 現地調査によって海域の藻場分布と環境要因の関係を解析して,藻場適地評価モデルを 構築し,造成後の海岸構造物における藻場の形成効果を予測する。 1)現地調査の実施 (1)藻場調査 工事が計画される海域における藻場の分布調査と,各水深帯における繁茂状況を把握す るための測線調査を実施する。 分布調査は,既往知見や周辺の水産試験場へのききとり調査等で得られた情報を基に, 対象海域に優占する海藻種の繁茂期に実施する。調査範囲は,経済産業省原子力安全・保 安院の「発電所に係わる環境アセスメントの手引き」の中でも示されている発電所構造物 1km 範囲内を原則とする。対象海域に優占して出現する海藻種と水深ごとの分布傾向を把 握するため,ダイバーによる潜水目視観察か,水中カメラを用いた観察を行う。 測線調査は,分布調査と同時期に行い,測定範囲は,分布調査と同様の1km 範囲内に測 線を設定して行う。測線の位置や本数は,海域の環境要因の変化に応じて設定する必要が ある。測線の配置は,調査海域に均等に配置することを原則とするが,環境要因の変化が 見込まれる場所では測線を設定する必要がある。 また,分布調査から得られた藻場分布状況も勘案して測線を設定する必要があることか ら,測線の配置には専門家のアドバイスを受けることが望ましい。観察記録は,ベルトト ランセクト法*1(ライントランセクト法)によるダイバーの潜水目視観測を原則とし,方 形枠(コドラート)の大きさは1m×1m以上として,水深1mごとに行うことが望まし いが,優占して出現する海藻種の生態的特徴を勘案して,これらを変更することも可能で ある。測定水深は,藻場形成が期待される海岸構造物の天端面の水深および海藻が出現す る限界水深を考慮して設定する。 *1 ベルトトランセクト法:目盛り入りのラインに沿って方形枠(コドラート)を置き,枠 内の海藻類の生息状況(種類,被度など)を目視で記録する方法。 - 14 - (2)環境要因調査 藻場ビオトープ形成に係わる環境要因として,物理的要因,化学的要因および生物的要 因が挙げられる(徳田ら,1995)。第Ⅱ-2-1 表に藻場ビオトープ形成に係わる環境要因を まとめた。これらの環境要因について,測線調査で設定した方形枠(コドラート)内で測 定を行う。特に,工事が予定される海域において,既往知見の情報などを基に,藻場形成 に影響を与えると推察される環境要因について重点的に測定を行う。なお,水深は光や水 の動きなど様々な環境要因の影響を含むため,環境要因として使用する際にはこの点を留 意して用いる必要がある。 第Ⅱ-2-1 表 物理的要因 藻場形成に係わる環境要因 1) 光 2) 付着基質 3) 温度 4) 水の動き 5) その他(浮泥,漂砂など) 化学的要因 1) 塩分 2) その他(窒素・リン・その他の必須代謝物質の利用度,光合成 のための遊離二酸化炭素の利用度,pH など) 生物的要因 1) 藻食動物による食害 2) その他(種間の競合,繁茂による光の制限など) 藻場形成に係わる重要な環境要因と本手順書で取り扱う大型海藻類(コンブ類,アラメ・ カジメ類,ホンダワラ類)との係わりは「参考3.藻場形成に係わる環境要因」に示した。 2)藻場適地評価モデルの構築 造成後の海岸構造物における藻場形成効果を予測するため,海域の環境要因を用いて任 意の地点における藻場形成の適性を評価する藻場適地評価モデルを構築する。 本手順書では,経済産業省原子力安全・保安院の「発電所に係わる環境アセスメントの - 15 - 手引き」の中の「海域に生育する植物の調査」で一般的に測定される大型海藻類の被度*2 や現存量*3を予測する藻場適地評価モデルについて解説する。 *2 被度:ある植物種の海底面に対する投影面積であり,通常は百分率であらわす。 *3 現存量:ある時刻に一定面積内に存在する生物の総量のこと(西澤・千原,1979)。解 析には湿重量,乾燥重量の両方のデータを扱うことが可能である。 (1)藻場適地評価モデルで使用する環境要因の選択方法 海域の環境要因を用いて,任意の場所における藻場形成の適地性を評価するモデルを構 築する。海岸構造物の藻場形成の可否を予測する前に,まず発電所建設前の天然海域にお ける大型海藻類の被度を環境要因で把握するモデルを構築し,再現計算を行ってモデルの 適合性を検討する。藻場形成に関連する環境要因は数多く存在するが,すべての環境要因 を用いるよりも,対象海域の特徴を考慮し,必要最低限の環境要因を用いて効率的にモデ ルを構築する。そのため,ここではモデルに取り込む環境要因の選択方法について解説す る。 以下,水深,光,流速,基質粒径*4,浮泥量の5つの環境要因を用いた検討例を示す。 第Ⅱ-2-1 図にモデル構築を検討する海域の概念図を第Ⅱ-2-1 表に解析に用いるデータシ ートの記入例を示す。 『海』 ラインB ラインC ラインA 発電所 建設予定地 『陸』 第Ⅱ-2-1 図 モデル構築を検討する海域の概念図 - 16 - 第Ⅱ-2-1 表 解析に用いるデータシートの記入例 環 境 要 因 0 10 30 50 1 2 3 4 0.1 0.1 0.4 0.2 ・・・・・・ 5 10 10 30 20 1 2 3 2.5 0.2 0.1 0.1 ・・・・・・ 0.7 1.5 0.2 0.3 0.4 ・・・・・・ ラインC 10 15 7 8 9 ・・・・・・ ラインB 40 10 70 70 50 ・・・・・・ ラインA ・・・・・・ 浮泥量(g/㎝ ) ・・・・・・ 水深(m) ・・・・・・ 大型海藻類被度(%) ・・・・・・ 測線 2 流速(m/s) 光(μEm-2s-1) 基質粒径(㎜) その他 ① 散布図による検討 大型海藻類の被度に対する各環境要因の関係を明確化するため,第Ⅱ-2-2 図に示したよ うな散布図を作成する。この例では,水深,光,流速,基質粒径で被度との関連性が確認 できるが,浮泥量では被度との関連性が低いため,モデルに組み込む必要性が低いことが 予想される。 ただし,このような散布図は1つの要因に対する被度の傾向を見るものであるため,複 数の環境要因が関係しているような海域では明確な傾向が見えにくいこともあるので注意 が必要である。 - 17 - 被度( %) 被度( %) 被度( %) 水深(m) 流速(m/s) 光(Mμm-2s-1) 被度( %) 被度( %) 粒径(㎜) 第Ⅱ-2-2 図 浮泥量(g/cm2) 大型海藻類の被度と環境要因の関係 ② 相関係数による検討 モデルに用いる環境要因を選択するため,第Ⅱ-2-2 表に示したように,各環境要因間の 相関を求める。 この例では,水深と光に負の強い相関が認められ,その他の環境要因間には強い相関関 係が認められないことがわかる。この場合,水深と光は環境要因として同じ性質を持つこ とが予想されることから,モデルに組み込む際はどちらか一つの要因を選択する必要があ る。 第Ⅱ-2-2 表 各環境要因の相関係数 水 深 光 流 速 粒 径 浮泥量 水 深 1.0 -0.95 0.12 0.20 0.17 光 -0.95 1.0 0.15 0.19 0.11 流 速 0.12 0.15 1.0 0.05 0.21 粒 径 0.20 0.19 0.05 1.0 0.08 浮泥量 0.17 0.11 0.21 0.08 1.0 - 18 - *4 基質粒径:基質の大きさについては,粒径を計測する方法の他に基質階級を測定する方 法や,定性的に「岩盤」「砂」などに区分して表現する場合もある。このような順位デー タや質的データを扱う場合には,データの変換が必要となる場合があることに注意する。 本活用手順ではデータ変換が必要でない場合の解析例を示すこととする。 (2)藻場適地評価モデルの特徴 ① 重回帰分析モデル 重回帰分析モデルとは,統計学的モデルの一つで,目的変数と説明変数との関係を調べ て,関係式を導き出すことで,説明変数(ここでは海域の環境要因)が目的変数(ここで は大型海藻類の被度)におよぼす影響を定量的に表現することが可能となるモデルである。 このモデルでは,説明変数のみを用いて目的変数を予測することができるため,発電所 建設によって環境要因が変化したときの予測計算・評価が可能である。また,水産資源解 析等(大谷・大西,1995;庄野,2008)でも使用される手法である。 実際にモデル構築を行う場合には,大型海藻類の被度と環境要因との関係からモデル化 を行うが,モデル計算値の誤差が最小となる最適解を算出してモデル構築を行うため,環 境要因間の影響度を算出することができる。しかし,モデル構築の際に制約条件が多いた め,運用には注意が必要である。 第Ⅱ-2-3 図に藻場適地評価モデルの概念図を示した。 物理化学的要因 水温,塩分,栄養塩, 光,付着基質,温 度,水の 水深,光,基質,傾斜角, 動 き,そ の他 (浮泥 ,漂砂) 浮泥,波浪,etc 生物的要因 モデル化 藻食動 物に よる食 害,そ の ウニ類,植食性魚類, 発電所構造物が藻場 ビオトープとして機能す るか評価 第Ⅱ-2-3 図 種の供給,種間競合,etc 他(種間の競合,光の制 限) 藻場適地評価モデルの概念図 - 19 - 以下,水深,流速,基質粒径の3つの環境要因を用いた構築例を示す。大型海藻類の被 度は選択された環境要因を用いて,以下に示す式を用いて算出する。 yˆ ax1 bx2 cx3 d ・・・式-1 Q i2 ( yi yˆi ) 2 ・・・式-2 ここで, x1 , x2 , x3 は「水深」,「流速」,「基質粒径」の説明変数, a , b , c は「水深」, 「流速」,「基質粒径」の偏回帰係数, d は 定数項, yi は目的変数である大型海藻類の被 度, ŷ は重回帰分析によって求められた大型海藻類の被度計算値,εi はモデルによる計算 予測値と観測値の誤差である。 また,被度は特定の範囲の値(この場合 0~100%)を取る データであるため,重回帰分析モデルを構築する際は,被度データをロジット変換*した上 でモデル構築する必要がある。 この計算結果を用いて,ある任意の地点(水深 A m,流速 B m/s,基質粒径 C mm)での 大型海藻類の被度は式-2,式-3 を用いて以下のように表現できる。 yˆ Aa Bb Cc ・・・式-3 また,環境要因間の影響度を比較したい場合には,基準値を求めデータ単位をそろえた 上でモデル化を行う。 このように重回帰モデルは,後述の HSI モデルとは異なり,環境要因間の影響度を定量 化することが可能である。 この他にもデータを対数変換してからモデル構築を行えば,乗法でのモデル構築も可能 である。 ② HSI モデル HSI モデルとは,対象とする生物の生息に関わる環境要因を抽出し,各要因の適性指標 SI を用いて適性度を点数化し,生息地環境の適性指数 HSI として評価するものである(新 保ら,2000;高山ら,2003)。適性指標 SI は,環境要因と対象生物の生息適性との関係を モデル化したもので,0~1の値を取る。 - 20 - ここでは,大型海藻類の被度と環境要因との関係から散布図を作製し,大型海藻類の被 度が環境要因に対して最大となる点を結ぶように定める方法を採用する。このように算出 された SI は,各環境要因についての藻場の形成し易さを数値化した指標となり,0.0~1.0 の数字で表現される。藻場の形成が不可能な条件では 0.0(被度0%),最適な藻場形成条 件では 1.0(被度 100%)となる(長谷川ら,2007)。 HSI の算出には幾何平均法,加算要因法,限定要因法など(長谷川ら,2007;北野ら, 2007;田中,1998;長谷川ら,2011)が提案されているので,必要に応じて手法を選択す る。各手法の特徴を第Ⅱ-2-3 表にまとめた。 第Ⅱ-2-3 表 HSI モデルの SI 統合式の特徴 統合手法 特 徴 算術平均法 (Arithmetic mean) すべてのSIが必ずしも必要でなく,どれか一つでもあれば それなりにハビタットとして機能する場合に用いる方法であ る。HSIが0となるにはすべてのSIが0となる必要がある。 幾何平均法 (Geometric mean) SIのいずれかが0であるとハビタットの価値が0となるよう な場合に用いる方法である。 限定要因法 (Minimum function) もっとも低いSIの値が,ハビタット全体の価値を限定する ような場合に用いる方法である。植物の栄養素でもっとも欠 乏しているものがその植物の成長を制限するという「リー ビッヒの最小律」と同様の概念である。 加算要因法 (Additive function) 個々のSIがお互いの不足を補う場合に用いる方法である。 例えば,リスの餌として,ドングリやクルミ等の異なった種類 の餌の状態をSIとして設定した場合などが当てはまる。合 計が1を超える場合には,最高値を1とした相対値に換算す る。 以下に,算術平均法を用いた例を示した。 ある地点(水深 A m,流速 B m/s,基質粒径 C mm)の適性指数を算術平均法(HSIAA) で求めた場合は以下の式を用いる。 HSI AA SI n / n SI A SI B SI C / 3 ・・・式-4 ここで,SIA は発電所建設前の水深と被度,SIB は発電所建設前の流速と被度,SIC は発電 所建設前の基質粒径と被度との関係から求めた SI 値である。 - 21 - また,ある地点の環境要因が発電所建設によって水深 A’m,流速 B’m/s,基質粒径 C’ mm に改変された場合の適性指数を算術平均法(HSIAA’)で求めた場合は以下の式を用 いる。 HSI AA' SI n / n SI A' SI B ' SI C ' / 3 ・・・式-5 ここで,SIA’は発電所建設後の水深と被度,SIB’は発電所建設後の流速と被度,SIC’は発 電所建設後の基質粒径と被度との関係から求めた SI 値である。 ③ その他のモデル HSI モデルや重回帰分析モデルの他にも海藻の現存量を予測する本多のモデル(本多, 1996)や大塚のモデル(大塚,2006)が提案されている。いずれのモデルも海藻の現存量 を光合成と呼吸,枯死を合わせた量で表現するモデルで,海藻の現存量を時系列で捉える ことや環境変化に対応した現存量の変化を捉えることが可能である。しかし,海藻の培養 実験等の室内実験結果から成長速度等のデータを取得する必要がある。 現存量の変化予測モデルで用いられる関係式を以下に示した。 dB V D G dt ・・・式-6 ここで,B は海藻の現存量,t は時間,V は海藻の正味の成長速度,D は海藻の正味の枯 死量,G は食害生物による摂餌速度を示す。 * ロジット変換:比率データ P を目的変数としたモデルを構築する場合,z=ln(P)-ln(1-P) をロジット変換と呼ぶ。ここに,ln は自然対数(e を底とする対数)である。 3)予測の実施 藻場適地評価モデルを用いて,海岸構造物における藻場形成の可否を予測する。予測に は,発電所建設によって変化が見込まれる要因の選定とその変動を推定した上でモデルに - 22 - 組み込む必要がある。ここでは,重回帰分析モデルによる予測方法を解説する。 (1)発電所構造物建設によって変化が見込まれる環境要因とその変動推定方法 藻場適地評価モデルの構築の際にモデルの中に組み込む必要があると判断された環境要 因については,発電所建設後の変化の予測が必要となる。また,組み込む必要が無いと判 断された環境要因でも,水温のように発電所建設によって海藻の生残に大きく影響を与え る可能性がある因子についても変化の予測が必要となる。また,以下に,発電所構造物建 設によって変化が見込まれる環境要因について,その変動の推定方法について解説した。 ① 水深 人工リーフ,護岸構造物などの海岸構造物には藻場が形成される可能性がある。大型海 藻類にとって,水深は重要な環境要因となるため,工事図面等から施工後の水深情報を収 集する。 ② 流動 発電所構造物建設前の流動環境と建設後の流動環境は,地形の改変と温排水の取放水影 響によって変化する。建設後の流動環境は,模型実験や流動シミュレーションモデル(坂 井ら,2004)によって予測することが可能である。 ③ 温度 温排水の放水にともない,放水口近傍では発電所建設前に比べて海水温が上昇する。そ のため,温排水拡散予測シミュレーションモデルを用いて温度上昇範囲と温度上昇幅を推 定する(和田・角湯,1975;坂井・水鳥,1994;水鳥ら,2006)。 ④ 基質粒径 天然海域の基質区分は,海洋調査マニュアル(海洋調査協会,1998)等により,区分法 が示されている。発電所建設によって構築される構造物は,安定度が高い。そこで,基質 の大きさと空隙の状況を加味しながら,構造物の基質は安定度の高い天然基質と同等とし て扱う。 ⑤ その他 発電所建設によって藻場形成に係わる環境要因が変化する可能性がある場合は,その要 因について変化の予測を行う。 - 23 - (2)藻場形成効果の予測 藻場適地評価モデルを構築する際に,モデルの中に組み込む必要があると判断された環 境要因と,発電所建設によって海藻の生残に大きく影響を与える可能性がある環境要因を 用いて予測を行う。 発電所建設後の大型海藻類の被度は,選択された環境要因を用いて,以下に示す重回帰 モデルを用いて算出する。ここでは,ある地点の環境要因が発電所建設によって水深 A’ m,流速 B’m/秒,基質粒径 C’mm に改変された場合の算出方法を示す yˆ A' a B' b C ' c d ・・・式-7 ここで, ŷ は重回帰分析によって求められた大型海藻類の被度計算値, a , b , c は「水 深」,「流速」,「基質粒径」の偏回帰係数, d は 定数項である。 モデルを使用した予測の結果,選定した海岸構造物の藻場形成効果が十分でないと判定 された場合は,構造物の設置位置・時期の変更,構造物形状の工夫,構造物の嵩上げ等に よって藻場形成効果に改善が見られるか,再度モデル計算を行って検討する。 例として,構造物を嵩上げすることを検討し,藻場造成を期待する構造物の環境要因が 水深 E m,流速 Fm/秒,基質粒径 Cmm に改変された場合(嵩上げにより水深と流速のみ 変更された場合)の算出方法を示す。 yˆ Ea Fb Cc d ・・・式-8 ここで, ŷ は重回帰分析によって求められた大型海藻類の被度計算値, a , b , c は「水 深」,「流速」,「基質粒径」の偏回帰係数, d は 定数項である。 なお,本予測モデルは天然藻場からの距離が十分近い場合に適用できる手法である。そ のため,周辺に藻場が存在しない場合や,波浪条件から天然藻場からの種の供給が期待で きない場合には予測精度が低下することに留意する。 - 24 - 3.補強技術の検討 藻場適地評価モデルによって,藻場の形成効果が十分でないと予測される場合,以下の 補強技術の適用を検討する。 1)構造物の付帯工事 検討した海岸構造物では海藻類の着生面積が少ないと判断された場合は,着生面積を拡 大するような付帯工事を検討する。動物の生息も含めてビオトープ(生物生息場)の拡大 に向けた構造物様式の代表例を第Ⅱ-3-1 図に示した。 第Ⅱ-3-1 図 ビオトープ拡大に向けた構造様式(例)(海洋生物環境研究所,1993) - 25 - 設計に当たり,構造物建設後の光,付着基質,水の動き等の環境要因を基に,潜堤の天 端面,防波堤の法面の水深や,構造物の規模,構造物の設置位置を決定する。大型海藻類 の生育と環境要因との関連については, 「2.藻場形成効果の予測」の中の「1)現地調査 の実施」に記載したので参照されたい。 構造物の表面形状に着目すると,構造物基盤表面の突起形状が角度 90 度以上であるとカ ジメの着生が良くなり(寺脇,1988),コンブ科の藻場造成ブロックには大きな粗さの起伏 等に加えて,小さな穴や溝の微少地形のある形状が有効である(綿貫ら,1987)ことが知 られている。また,周辺の天然海域で明確な磯焼けが発生していない場合でも,基質空隙 が藻場形成の重要な阻害要因になる可能性がある(長谷川ら,2011)。そのため,藻食動物 の食害影響を受けにくいように,基質空隙を無くすような構造にするなどの設計を行うこ とを検討する。 2)大型海藻類の入植促進 検討した構造物の近傍に種苗供給源となる藻場がなく,海藻類の入植が遅れることが懸 念される場合は,スポアバッグの投入,海藻の移植等による入植促進を検討する。 (1)スポアバッグの投入 スポアバッグによる入植促進技術とは,成熟した海藻を袋に詰めて藻場造成を期待する 場所に設置する手法のことを指し,藻場造成に広く用いられている(芹澤ら,2005)。袋に 詰める海藻は成熟する直前程度が望ましい。また,大型海藻類の成熟時期は,種類や海域, さらには局地的にも異なるため,研究機関に問い合わせて採取時期を決めることが望まし い(水産庁,2009)。 スポアバッグを海底から高くあげれば,拡散範囲を広くさせることができるが,反面, 造成場所に対して十分な密度で着生できなくなる。このため,高さはできるだけ低くし, 集中して海藻のタネを着生させ,生残率を高めた方がよい。スポアバッグの設置密度につ いては,設置個数の多い方が,着生率が高くなる傾向がある(水産庁,2009)。 スポアバックの模式図を第Ⅱ-3-2 図に示した。 - 26 - フロート 成熟母藻 胞子または幼胚 ブロック・土嚢 第Ⅱ-3-2 図 スポアバックの模式図(水産庁,2009) (2)母藻の移植 母藻移植は,海藻のタネをもつ母藻(そのもの,またはその一部)を対象場所へ移植, あるいは投入して,そこから海藻の種を藻場造成面に拡散させる方法である(木下ら,2006)。 移植ブロック法は,母藻をコンクリート製ブロックなどの基質に固定後,岩盤や藻礁等 に設置する方法で,母藻は数年にわたって生育するため,海藻のタネの長期に亘る拡散が 期待できる(水産庁,2009)。母藻を基質に固定する方法は,瞬間接着剤を用いる方法(木 下ら,2006)や水中ボンドで固定する方法(平田ら,1990)がある。 (3)種苗の移植 種苗の移植は,種苗ロープに大型海藻類を種付けし,成長させたものをコンクリートブ ロックに固定する方法である。 3)食害生物の除去および侵入防止対策 ウニ類等の底生性の食害動物に対しては,ダイバーによる潜水除去が磯焼けした藻場の 回復に効果をあげる(吾妻ら,1997;荒武ら,2010)。アイゴやブダイ等の植食性魚類に対 - 27 - しては,刺し網等で漁獲・除去することが対策として考えられるが,これらの動物の生活 史や生態は十分な知見がないため対策が困難である。 保護したい藻場を籠で囲み植食性魚類やウニ類の進入を防止する方法として食害防止籠 による対策がある。籠の目合いは対象とする植食性動物の種類と大きさから決定する。食 害防止籠は海底に長期間設置されていると,付着生物によって籠の中の光が不足し,籠内 の藻場に悪影響を与える。そのため,定期的なメンテナンスが必要となる。 - 28 - 4.予測結果の検証(藻場形成経過の追跡調査) 藻場形成効果の予測結果を検証するため,藻場形成の経過を追跡調査する。この際,近 傍の天然岩礁域の藻場に対照区を設定することが望ましい。 海岸構造物の施工中ないしは完成後から,海岸構造物上に形成される藻場が安定した状 態となるまでの複数年にわたって藻場の形成経過を追跡調査する。この際,近傍の天然岩 礁域の藻場に対照区を設定することが望ましい。 1)調査区の設定 調査区は,調査対象となる範囲に測線や方形枠を配置することで設定する。一般的な藻 場分布の調査では,海藻群落の水平分布について,目視により相観を把握(環境省自然環 境局生物多様性センター,1999)することによって,測線や方形枠の配置を決定する。 しかし,海岸構造物における藻場形成経過の追跡調査では,多くの場合,海藻類の生育 がほとんど無い状態から開始することになるので,海藻群落の相観に基づいて調査区を設 定することはできない。そこで,対象とする海岸構造物の形状や設置位置,それに伴って 想定される環境傾斜などに基づいて,調査区を設定する。 第Ⅱ-4-1 表に,調査区の設定方法の種類と特徴を示した。 第Ⅱ-4-1 表 設定方法 ランダム配置法 測線法(系統配置法) 固定枠法 メッシュ法 調査区設定方法と特徴 取得データの特徴 統計解析が可能 環境傾斜に沿った解析が可能 より正確な時系列解析が可能 調査範囲全体の把握が可能 労力の大小 多くの場合に大 調整可能 調整可能 場合によって大 備考 場の条件が一様な場合に適する 調査範囲から代表的な場所を抽出 調査範囲から代表的な場所を抽出 調査範囲全体を対象 (1)ランダム配置法 方形枠等を用いて,複数の観察区を,調査範囲内にランダムに配置することで,取得デ ータの統計解析を可能にすることができる。調査範囲内の海藻群落の分布や場の環境条件 が一様と見なせるか,一様と見なせる部分ごとに区切ることができる場合には適するが, 調査範囲内に環境条件のばらつきや傾斜があるような場合には,それらをカバーして統計 - 29 - 解析を有効にするために,より多数の方形枠を設定する必要があり,より多くの労力を要 することになる。 (2)測線法(系統配置法) 線状ないしは帯状の観察区を,調査範囲内の代表的な場所を選んで,水深等の環境傾斜 に沿って設定することで,環境傾斜に沿った連続データを取得することができる。また, 方形枠を,測線に沿って任意の間隔(起点からの距離,水深等)で配置することもある。 この方法では,測線の設定数によって,投入する労力を調整することができる。 (3)固定枠法 調査範囲内の代表的な場所を選んで,毎回,同じ場所に方形枠を配置することで,より 正確に時系列的な比較ができる。また,海藻類を個体識別することができれば,個体ごと の時系列データを取得することができる。この方法では,方形枠の設定数によって,投入 する労力を調整することができる。 (4)メッシュ法 調査範囲をメッシュに分けて,各メッシュを観察単位として調査することで,調査範囲 全体の状態を把握することができる。この方法は,調査範囲の規模によっては多くの労力 を要することから,次に示す調査項目のうち,大型海藻の被度のみに限定して実施する等 の検討が必要となる。 2)調査項目の選定 調査項目は,海藻類の分布,生育量,成長や成熟の状態を把握するもので,一般的な藻 場分布調査では,目視観察によって現場で記録する方法と生育している海藻類を刈り取っ てから実験室等で計測する方法があり,多くは併用される。海岸構造物における藻場形成 経過の追跡調査では,継続して同じ場所を繰り返し調査することから,調査項目は非破壊 的である必要がある。従って,ここでは,目視観察による調査項目を採用する。 以下に,目視観察による調査項目の種類と特徴を示す。 - 30 - (1)被度分布 被度は,目視観察によって海藻類の生育量を記録する項目で,海藻類の生育状況を上方 から見下ろして,海藻類が海底面を覆う面積を種類ごとに記録する。観察値は,通常,百 分率(%)や被度階級で表す。 藻場形成経過の調査では,藻場の主要な構成種となる大型多年生海藻類(コンブ類,ア ラメ・カジメ類,ホンダワラ類等)に対象を限定して観察を行い,調査範囲内での被度分 布を記録することとすると,効率的に藻場形成の経過を把握することができる。 (2)群落構造(階層構造,種組成) 群落構造は,一般的な藻場分布調査では,大型海藻からなる藻冠層,小型海藻からなる 下草層,殻状海藻からなる基面層の3層からなる階層構造(環境省自然環境局生物多様性 センター,1999)を表すことが多い。 しかし,藻場形成の経過においては,小型海藻と殻状海藻が着生面の取り合いで競合す るようにみられることから,藻場形成経過の追跡調査では,小型海藻の下草層と殻状海藻 の基面相をあわせて一つの層(下生え層)として扱う。従って,ここでの群落構造は,藻 冠層と下生え層の2層構造とする。 群落構造の調査では,生育する海藻類の種ごとの被度を観察して,藻冠層と下生え層に 分けて,それぞれの種組成(被度組成)を記録することで,藻場が形成される初期から安 定した状態(極相)への遷移過程を藻場の構造的な変化として把握することができる。 群落構造の調査を詳細に実施するには大きな労力を伴うことから,藻場形成経過の追跡 調査では,方形枠等の観察区の設定数によって,投入する労力を調整する必要がある。 (3)個体群構造 個体群構造は,海藻種を選定して,全長組成等を記録するもので,取得データを経時的 に比較することで,選定した海藻種の入植時期,生育期間,脱落時期等を推定することが できる。 藻場形成経過の追跡調査では,藻場を構成する大型海藻の主要な種を選定して,方形枠 - 31 - 等の観察区において全長組成等を観察,記録する。この調査を詳細に実施するには,大き な労力が伴うことから,投入できる労力によって方形枠等の観察区の設定数を検討する必 要がある。 3)調査結果の評価(調査頻度と完了の目安) 調査頻度は,藻場の繁茂期(春季)と衰退期(秋季)の年2回とする。また,形成され る藻場の主要な構成種について,繁殖期や入植期等が分かっている場合は,それらを考慮 して調査の実施時期や頻度を設定することもできる。 調査期間は,海岸構造物の施工中ないしは完成後から,形成される藻場が安定した状態 となるまでの複数年にわたる必要がある。 周辺海域に天然岩礁域があれば,そこの藻場は形成開始から充分な時間(年数)が経過 しているとみられることから,この海域における藻場の安定した状態(極相)として扱う ことができる。そこで,水深や波当たり等の条件が,海岸構造物の条件を含む範囲あるい は同等とみられる場所に対照区を設定し,これと群落構造等を比較することによって,海 岸構造物に形成される藻場の安定した状態について,成否を判断する。 なお,このような対照区を設定することは,気象,海象等の不測の変化による藻場形成 過程への影響を察知する上でも必要である。 対照区が設定できない等のやむ終えない場合は,調査結果を経時的に検討して,取得デ ータの変化が一定の範囲内に安定してきた時あるいは周期的な変化(季節変化等)を示す ようになった時をもって判断することになる。 4)予測結果の検証のまとめ 一般的には,調査範囲がランダム配置法の適用条件を満たすことは稀であるので,測線 法(系統配置法)ないしはメッシュ法によって,大型海藻類(コンブ類,アラメ・カジメ 類,ホンダワラ類等)の被度分布を調査するとともに,固定枠法によって,群落構造や個 体群構造を調査する。また,調査頻度は,藻場の繁茂期(春季)と衰退期(秋季)の年2 回とする。 調査完了の目安となる藻場の安定した状態(極相)は,対照区を設定した天然岩礁域の - 32 - 藻場の状態と比較することによって判断する。やむを得ない場合には,取得データの経時 的な変化から判断することになる。 なお,予測結果の検証(藻場形成経過の追跡調査)の結果から,対象として海岸構造物 の藻場形成効果が,予測結果(および目標)を満たさないと判断された場合は,活用手順 を必要な段階(「1.目標の策定」,「2.藻場形成効果の予測」,「3.補強技術の検討」) まで遡って再検討を実施する。 - 33 - Ⅲ.事例調査 海岸構造物を造成中の発電所周辺海域をモデル地点として,活用手順に沿って,現地調 査等を実施した。 1.目標の策定 発電所立地の環境保全に海岸構造物における藻場ビオトープの形成を活用するために, 藻場形成に適した海岸構造物を選定するとともに,対象海域に応じた海藻種を選定した。 1)モデル地点の概要 中国電力(株)島根原子力発電所の周辺海域をモデル地点として,主要な調査海域に設 定した。第Ⅲ-1-1 図に示すように,島根県松江市の日本海沿岸に立地する。 第Ⅲ-1-1 図 調査海域の位置 - 35 - 島根原子力発電所では,3号機増設にあたって海岸工事が行われ,消波ブロックを積み 上げた緩傾斜護岸が造成された。また,冬季波浪に対する護岸保護を目的として,大規模 な人工リーフを造成した。護岸工事完成後の海域の概要を第Ⅲ-1-2 図に示した。なお,図 中の工事区域には,人工リーフの天端面,法面と,周辺の消波ブロックを含む。 3号機 1・2号機 第Ⅲ-1-2 図 調査海域の概要(護岸工事の概要) 人工リーフは,天端面で長さ約 400m,沖出し 100~120mで,一期~三期工事区に分け て,平成 18~21 年度に順次完成した。この人工リーフは,本来機能としては冬季の波浪に 対する護岸保護を目的としたもので,藻場造成を目的としたものではないが,護岸構造物 の藻場形成効果に加えて,藻場面積の拡張が期待できるため,これの天端面を主要な調査 対象とした。 人工リーフの断面模式を第Ⅲ-1-3 図に示した。この人工リーフは,捨て石でマウンドを 造り,沖側を消波ブロック法面とし,天端を 20tのエックス型ブロックで被覆している。 この天端や法面が着生基質となって,藻場が形成されると考えられた。 - 36 - 人工リーフ 長さ100~120m 長さ120m 防波護岸 13~15m TP-8~10m 被覆ブロック(20t型). P-8m~10m 新型消波ブロック 消波ブロック 第Ⅲ-1-3 図 T.P-15~-25m 人工リーフの断面(模式) 2)海域特性 World Ocean Atlas(2001)データ,松江地方気象台のデータ,島根原子力発電所(2号機) 修正環境影響評価書および島根原子力発電所(3号機)環境影響評価書に収録されている データ,中国電力株式会社が島根原子力発電所沖で観測を行っている波浪観測データを基 に海域環境特性を把握した。 水温:島根原子力発電所(2号機)修正環境影響評価書から,1976 年1月~1979 年 12 月までの輪谷湾水深1mにおける観測結果を第Ⅲ-1-4 図に示した。調査期間中に最も月平 均水温が高くなるのは8月で 26.6℃,最も月平均水温が低くなるのは2月で 12.2℃であっ た。また,月最高水温がもっとも高くなるのは8月で 28.7℃,月最低水温がもっとも低く なるのは2月と3月で 11.6℃であった。 輪谷湾 水深1m 月最高水温 月平均水温 35 月最低温度 ( 30 水 温 25 ) ℃ 20 15 10 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 第Ⅲ-1-4 図 輪谷湾水深1mにおける月別水温 - 37 - 塩分:World Ocean Atlas1/4 度グリッドデータの発電所前面海域表面塩分では,年平均 は 33.8 台であった。また,春季は 34.4 台,夏季は 32 台,秋季は 33.5 台,冬季は塩分が 34.3~34.4 で,夏季に低下する傾向があった。 潮位:発電所に近い境験潮所の潮汐調和定数から,主要四分潮の合計振幅でも 16.6cm で,発電所周辺海域における潮位変化は小さいと推測される。島根原子力発電所(3号機) 環境影響評価書に記載された 1995 年9月~1996 年8月の輪谷湾の潮位は,平均,最高, 最低が,それぞれ T.P.+0.21m,T.P.+0.81m,T.P.-0.40mであった。 波浪:松江地方気象台が鹿島沖の水深 47m地点で 1984~2006 年に行った観測結果の月 平均をまとめて,第Ⅲ-1-1 表に示した。有義波高は,1月が最大で 1.81m(周期 7.1 秒), 6月が最小で 0.52m(周期 5.2 秒)であり,年平均値は 1.02m(周期 6.1 秒)であった。 最大波は,1月に最大 3.0m(周期 7.1 秒),6月に最小 0.89m(周期 5.2 秒)で,冬季に 高く,夏季に低くなる傾向があった。中国電力株式会社が島根原子力発電所沖で実施した 観測結果では,1977 年4月~1996 年3月の観測期間で,最大有義波高が 5.80mであった。 波向は,北北西および北の出現頻度が高く,年間でそれぞれ 36.7%,32.7%であった。 第Ⅲ-1-1 表 鹿島沖の波浪観測結果 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 年平均 波高 (m) 1.81 1.57 1.20 0.83 0.57 0.52 0.54 0.58 0.84 1.00 1.31 1.67 1.02 周期 (秒) 6.9 6.1 波高 (m) 3.00 2.60 2.01 1.41 0.98 0.89 0.90 0.96 1.40 1.67 2.20 2.78 1.71 周期 (秒) 6.1 有義波 7.1 6.8 6.3 5.8 5.3 5.2 5.3 5.5 6.0 6.2 6.6 最大波 7.1 6.7 6.3 5.8 5.3 5.2 5.3 5.6 6.0 6.2 6.6 6.9 流動:島根原子力発電所(3号機)環境影響評価書に記載された発電所前面海域水深3 mの流れの観測結果(1995 年夏季~1996 年春季)では,四季を通じて汀線に平行な北東流 および南西流が卓越して,流速 10cm/秒未満の出現頻度が高くなっていた。また,周期性 はほとんど認めらなかった。 - 38 - 藻場分布:島根原子力発電所(2号機)修正環境影響評価書,島根原子力発電所(3号 機)環境影響評価書の測線調査の結果では,大型多年生海藻のクロメとノコギリモクが優 占的に出現した。島根原子力発電所(3号機)環境影響評価書の測線調査(1995~1996 年 の四季調査)の結果から,クロメ,ノコギリモクの被度と水深の関係を,それぞれ第Ⅲ-1-5 図,第Ⅲ-1-6 図に示した。ここで,被度階級1は被度5%未満,2は5~24%,3は 25~49%, 4は 50~74%,5は 75~100%を指す。 春季 夏季 秋季 冬季 3.5 3 被 度 階 級 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 水深(m) 第Ⅲ-1-5 図 クロメの被度階級と水深との関係 春季 夏季 秋季 冬季 3 2.5 被 2 度 1.5 階 級 1 0.5 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 水深(m) 第Ⅲ-1-6 図 ノコギリモクの被度階級と水深との関係 - 39 - 20 22 クロメは,水深4~10mで高い被度を示す傾向がみられ,被度5~50%未満であった。 ノコギリモクは,水深8~20mで高い被度を示す傾向がみられ,被度5~50%未満であっ た。 藻場が形成される海岸構造物に選定した人工リーフは,天端面が水深8~10mであるの で,クロメとノコギリモクの混生群落に適する水深帯で,この2種をあわせた被度は,5 ~100%未満で合った。一般に,アラメ・カジメ類とホンダワラ類が同程度に混生する水深 帯では,水平面にホンダワラ類が,傾斜面,直立面にアラメ・カジメ類が多く生育する傾 向がみられることから,人工リーフ天端面ではノコギリモクが主体で,クロメが混じる藻 場になると推定される。 3)目標の策定のまとめ 藻場が形成される海岸構造物として,人工リーフが選定された。藻場の海藻種は,ノコ ギリモクが主体でクロメが混じると推定された。人工リーフ天端面は,長さ約 400m,沖 出し 100~120mであるので,形成される藻場面積の目標は,40000~48000 ㎡に設定した。 生育量の目標は,クロメとノコギリモクの被度をあわせた値として,既往知見からは被度 5~100%未満に設定されたが,後に「2.藻場形成効果の予測」で実施した現地調査の結 果を受けて被度 50%以上に再設定した。 - 40 - 2.藻場形成効果の予測 モデル地点で実施した現地調査の結果を解析することによって,当該海域の藻場適地評 価モデルの構築し,人工リーフの藻場形成効果を予測した。なお,人工リーフは天然の藻 場からの距離が十分近く,種の供給には問題ないと判断された。 1)現地調査の実施 モデル地点の天然岩礁域において,藻場の空間分布と環境要因の現地調査を実施した。 (1)藻場調査 藻場分布調査の結果から,人工リーフの西側と東側において,汀線を基点として水深 20 mまでに,岸沖方向(浅深方向)の調査測線を設定した。調査測線は,第Ⅲ-2-1 図に示す ように8本で,潜水目視観察によって大型海藻の被度,水深,底質を記録した。なお,基 点および終点はGPSで測位した。 調査結果を第Ⅲ-2-2~9 図に示した。いずれの測線においても,クロメとノコギリモク が高い被度で出現し,主要種となった。 東防波堤 L1 L3 L4 L2 L8 L5 宮崎鼻 L6 島根原子力 L8 発電所 L7 第Ⅲ-2-1 図 藻場の空間分布調査の測線 - 41 - 平島 調査年月日:2008年9月9日 基点からの距離 (m) 100 0 測線: L1 200 0 水 10 深 20 (m) 30 被度% 凡 例 :岩盤 :転石中 :転石大 :転石小 :砂 100 エゾノネジモク エンドウモク イソモク クロメ ノコギリモク マメタワラ ヨレモク ヤツマタモク オオバモク 第Ⅲ-2-2 図 測線1における底質と大型海藻被度の分布(平成 20 年9月) - 42 - 調査年月日:2008年9月9日 基点からの距離 (m) 100 0 測線: L2 200 0 水 10 深 20 (m) 30 被度% 凡 例 :岩盤 :転石中 :転石大 :転石小 :砂 100 トゲモク ナラサモ オオバモク イソモク ヤツマタモク アカモク ジョロモク エビアマモ ヨレモク クロメ ノコギリモク ホンダワラ フシスジモク マメタワラ 第Ⅲ-2-3 図 測線2における底質と大型海藻被度の分布(平成 20 年9月) - 43 - 調査年月日:2008年9月6日 基点からの距離 (m) 100 0 測線: L3 200 0 水 10 深 20 (m) 30 被度% 凡 例 :岩盤 :転石中 :転石大 :転石小 :砂 100 ナラサモ エゾノネジモク ヨレモク アカモク ヒジキ ヤツマタモク アキヨレモク エビアマモ マメタワラ イソモク エンドウモク オオバモク クロメ ノコギリモク 第Ⅲ-2-4 図 測線3における底質と大型海藻被度の分布(平成 20 年9月) - 44 - 調査年月日:2008年9月9日 基点からの距離 (m) 100 0 測線: L4 200 0 水 10 深 20 (m) 30 被度% 凡 例 :岩盤 :転石中 :転石大 :転石小 :砂 100 ナラサモ ヨレモク イソモク ヤツマタモク アカモク クロメ ノコギリモク エビアマモ 第Ⅲ-2-5 図 測線4における底質と大型海藻被度の分布(平成 20 年9月) - 45 - 調査年月日:2008年9月7日 基点からの距離 (m) 100 0 測線: L5 200 0 水 10 深 20 (m) 30 被度% 凡 例 :岩盤 :転石中 :転石大 :転石小 :砂 100 アキヨレモク イソモク エゾノネジモク ヨレモク エビアマモ ヤツマタモク マメタワラ クロメ ノコギリモク ジョロモク 第Ⅲ-2-6 図 測線5における底質と大型海藻被度の分布(平成 20 年9月) - 46 - 調査年月日:2008年9月7日 基点からの距離 (m) 100 0 測線: L6 200 0 水 10 深 20 (m) 30 被度% 凡 例 :岩盤 :転石中 :転石大 :転石小 :砂 100 イソモク ヤツマタモク マメタワラ クロメ オオバモク ノコギリモク エビアマモ ヨレモク アカモク ジョロモク 第Ⅲ-2-7 図 測線6における底質と大型海藻被度の分布(平成 20 年9月) - 47 - 220 調査年月日:2008年9月8日 基点からの距離 (m) 100 0 測線: L7 200 0 水 10 深 20 (m) 30 被度% 凡 例 :岩盤 :転石中 :転石大 :転石小 :砂 100 ヨレモク ヤツマタモク トゲモク エビアマモ ジョロモク イソモク クロメ ノコギリモク フシスジモク ホンダワラ オオバモク マメタワラ エンドウモク アカモク 第Ⅲ-2-8 図 測線7における底質と大型海藻被度の分布(平成 20 年9月) - 48 - 300 調査年月日:2008年9月8日 基点からの距離 (m) 100 0 測線: L8 200 300 0 水 10 深 20 (m) 30 被度% 凡 例 :岩盤 :転石中 :転石大 :転石小 :砂 100 ナラサモ ヤツマタモク トゲモク エビアマモ イソモク オオバモク クロメ ホンダワラ ノコギリモク ヨレモク マメタワラ 第Ⅲ-2-9 図 測線8における底質と大型海藻被度の分布(平成 20 年9月) - 49 - 320 (2)環境要因調査 藻場形成に係わる環境要因として,水深分布,付着基質,水の動き,種間競合,水温, 塩分を選定して,調査を実施した。 ① 水深 藻場調査の実施時に調査海域に設定した測線上の水深データをスキューバ観察により取 得した。当該海域は周辺に大型河川が存在しないため,場所ごとの濁り等の影響は少ない ことが予想され,水深は光環境を反映していると考えられた。 調査対象海域全体の水深分布については,ナローマルチビーム測深機(SEABAT9001S)を 用いて測定を実施し,1mメッシュの水深分布を求めた。ナローマルチビーム測量で得ら れた等深線図を第Ⅲ-2-10 図に示した。 第Ⅲ-2-10 図 島根原子力発電所前面海域の水深分布 - 50 - ② 付着基質 水深と同様に,調査測線上の付着基質データをスキューバ観察により取得した。 調査対象海域全体の付着基質分布は,サイドスキャンソナー(SYSTEM3000)の反射強 度から推定した。また,サイドスキャンソナーの推定が正確に行われているかを確認する ため5地点において採泥器(スミス・マッキンタイヤ型)により表層土を採泥し,基質性 状を目視観察した。サイドスキャンソナーデータから推定された基質分布を第Ⅲ-2-11 図 に示した。 第Ⅲ-2-11 図 島根原子力発電所前面海域における底質分布図 ③ 水の動き 当該海域では,冬季における高波浪による引きはがし効果が藻場形成に重要な要因にな ると予想されたため,数値シミュレーション解析による解析を行った。計算に使用したモ デルの詳細は「参考4. 数値モデルによる流れ場の算定」に示した。 - 51 - ④ 種間競合 当該海域に優占して出現するクロメとノコギリモクは同水深帯で競合するため,クロメ (ノコギリモク)が特異的に出現する場所ではノコギリモク(クロメ)の被度が極端に低下す ることが想定された。そこで,藻場適地評価モデルを構築する際は,クロメとノコギリモ クの被度を合算した「合算被度」を予測することとした。種別被度と合算被度の関係を第 Ⅲ-2-12 図に示した。 種別の被度分布 実際の藻場分布 ノコギリモクの被度 クロメとノコギリモクの合算被度 第Ⅲ-2-12 図 種別被度と合算被度の関係 ⑤ 水温 二号機から放水された温排水が人工リーフ天端面や周辺の天然藻場に到達する影響や, 湧き水および陸上からの流入によって地点間の水温が変化しないかを確認するため,人工 リーフ天端および天然岩礁域の水深 10mの位置に水温ロガーを設置して温度影響を測定 した。水温計の設置場所を第Ⅲ-2-13 図に示した。 - 52 - B ●:メモリー式水温計 A C 宮崎鼻 人工 リーフ 黒崎湾 第Ⅲ-2-13 図 水温計の設置位置 ⑥ 塩分 湧き水および陸上からの流入によって地点間の塩分に変化がないかを確認するため,水 温塩分計(CSTD)を用いてA~D地点で船上より測定を行った(第Ⅲ-2-14 図)。 (m) 20m 宮崎鼻 A B C 人工リーフ 20m D 東防波堤 片句 島根原子力 発電所 10m 調査対象領域 御津 0 第Ⅲ-2-14 図 500m 塩分の測定位置 2)藻場適地評価モデルの構築 (1)環境要因の選択 測定を行った,水深,付着基質,流速,種間競合,水温,塩分の中から,モデルに使用 - 53 - する環境要因を選択した。 水温と塩分に関しては,温排水や陸上からの淡水影響による違いは地点間で無視できる 程度であった。そこで,水深,付着基質,流速,種間競合を考慮して藻場適地評価モデル を構築した。 解析には重回帰分析モデルを用い,目的変数に「クロメ被度」および「ノコギリモク被 度」の合算値である「クロメ・ノコギリモク合算被度」を選択し,説明変数には「水深」 「付着基質(岩盤,岩盤転石,転石,砂混じり転石)」「流速」を選択した。なお,クロメ・ ノコギリモク合算被度,水深,付着基質は平成 20 年9月に実施した測線調査(L1~L8)に おいて潜水目視観察で取得した値を用い,流速は数値モデルで算出した計算値を用いた。 ただし,クロメ・ノコギリモク合算被度は特定の範囲の値(この場合0~100%)を取るデ ータであるため,ロジット変換した。また,付着基質の観測値は数値データではなく「岩 盤」,「転石」,「砂混じり転石」といった質的データであったため,ダミー変数*1 を導入し た。数値モデルで流速を求める際は,音響測深器(SEABAT9001S)による水深図を基に算出 したことから,特に水深5m以浅の浅海部分では,地形の形状によって調査船が調査海域 に侵入することが出来ず,水深データを取得できなかったため,流速値を算出することが できなかった。モデル構築は,流速値が算出できた地点のデータを使用して行った。 重回帰分析モデルでは,各要因間の影響度を次式のように,モデルによる予測値と観測値 の誤差が最小となる値を算出することで算出することが可能である。 yˆ ax1 bx2 cx3 d ・・・式-1 Q i2 ( yi yˆ i ) 2 ・・・式-2 ここで, x1 , x2 , x3 は「水深」,「流速」,「基質粒径」の説明変数, a , b , c は「水深」, 「流速」,「基質粒径」の偏回帰係数,d は定数項,yi は目的変数である大型海藻類の被度, ŷ は重回帰分析によって求められた大型海藻類の被度計算値,εi はモデルによる計算予 測値と観測値の誤差である。 解析に当たり,使用するデータに異常値が無いか検討した結果,2地点の流速値に外れ 値が認められた(スミルノフ・グラブス検定*2)ため,この2地点のデータは除外して検 - 54 - 討を行った。 計算の結果,説明変数には「水深」,「流速」を選択し,「水深」は二次関数とするモデル の精度が最も良好であった。計算に用いた目的変数と説明変数の相関行列と重回帰式,モ デル精度をまとめたものを第Ⅲ-2-1 表に示した。モデルの解析精度を示す自由度修正済み 決定係数は 0.58 となり,比較的精度の高いモデル構築が可能であることが示された。 第Ⅲ-2-1 表 重回帰分析モデルのまとめ 流速値 流速値 水深2乗値 水深 合算被度 1 0.1168 0.1485 -0.1629 水深2乗値 0.1168 1 0.9825 -0.3656 [重回帰式] 説明変数 偏回帰係数 標準偏回帰係数 F値 P値 流速値 -2.3623 -0.2459 13.2243 0.0005 水深2乗値 -0.0429 -3.9036 118.2236 0.0000 水深 0.9771 3.6302 101.3720 0.0000 定数項 -4.1242 水深 合算被度 0.1485 -0.1629 0.9825 -0.3656 1 -0.2416 -0.2416 1 判定 [**] [**] [**] [精度] 決定係数 R2 = 自由度修正ずみ決定係数 R2’= 重相関係数 R = 自由度修正ずみ重相関係数 R’ = T値 標準誤差 偏相関 単相関 -3.6365 0.6496 -0.3512 -0.1629 -10.8731 0.0039 -0.7464 -0.3656 10.0684 0.0971 0.7203 -0.2416 -7.7531 0.5319 0.5902 0.5772 0.7683 0.7597 このモデルを用いて,L1~L8 の観測値を予測した。第Ⅲ-2-15 図に観測値とと計算予測 値を示した。なお,本図では基点から沖方向に水深毎の観測値と計算値を示している。 L-4 での予測値と観測値におおきな差があるが,L-4 ではサザエ網による海底の攪乱が調 査期間中に確認されているため,この影響によるものだと推察された。 - 55 - 被度(%) 被度(%) 90 50 観測値 計算予測値 45 40 観測値 計算予測値 80 70 35 60 30 50 25 40 20 30 15 10 20 5 10 0 0 13 14 15 16 17 18 19 L-1 被度(%) 20 2 水深(m) 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 水深(m) L-5 被度(%) 90 80 観測値 計算予測値 70 観測値 計算予測値 80 70 60 60 50 50 40 40 30 30 20 20 10 10 0 0 7 8 9 10 水深(m) L-2 被度(%) 6 11 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 L-6 18 19 20 水深(m) 被度(%) 90 80 観測値 計算予測値 70 観測値 計算予測値 80 70 60 60 50 50 40 40 30 30 20 20 10 10 0 0 7 8 9 10 11 12 13 14 L-3 被度(%) 15 17 18 4 19 水深(m) 5 6 7 8 9 10 11 L-7 12 13 14 15 16 17 水深(m) 被度(%) 40 100 観測値 計算予測値 35 観測値 計算予測値 90 80 30 70 25 60 20 50 15 40 30 10 20 5 10 0 0 17 18 L-4 19 第Ⅲ-2-15 図 20 水深(m) 4 5 6 7 8 9 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 L-8 観測値と計算値(L1~L8) - 56 - 水深(m) 3)予測の実施 (1)発電所構造物建設によって変化が見込まれる環境要因とその変動推定方法 発電所建設に伴って変化が予測される環境要因は,水深,付着基質,流速である。温排 水による水温上昇影響に関しては,二号機,三号機の放水口ともに深層放水であることか ら,影響は軽微であると考えられたため,モデルによる予測では影響を考慮しなかった。 水深に関しては,工事図面等から計画水深を求め,藻場適地評価モデルに組み込むこと とした。付着基質に関しては,安定度の最も高い岩盤として藻場適地評価モデルに組み込 むこととした。流速に関しては,「(2)環境要因調査」で説明した数値シミュレーション モデルを用いて,発電所建設後の流速を予測して藻場適地評価に組み込んだ。 (2)藻場形成効果の予測 構築した藻場適地評価モデルを用いて,人工リーフを含む調査海域全体のノコギリモク とクロメの合算被度を予測した。評価結果を第Ⅲ-2-16 図に示した。この結果から,人工 リーフ全体のノコギリモク・クロメ合算被度は 70±10%が推定された。 人工リーフ予測範囲 凡例 被度:評価式1(波浪計算ケース3:平均値) <セル値> 75 - 100% 50 - 75% 25 - 50% 5 - 25% <5% 0 出現せず 第Ⅲ-2-16 図 100 200 400 600 800 メートル 藻場適地評価モデルによる評価結果 - 57 - *1 ダミー変数:回帰分析の精度を向上させるために導入される仮の変数。ある 1 個の変数 X が m 個のカテゴリーを持つとき,これを m 個の変数 D1,D2,...,Dm で表したもの。 *2 スミルノフ・グラブス検定:データが正規分布を従っているときに,外れ値を検出でき る手法の一つ。 - 58 - 3.補強技術の検討 藻場形成効果の予測を実施したところ,人工リーフ全体のノコギリモク・クロメ合算被 度の予測結果(70±10%)が,策定した目標値(50%以上)を満たしたことから,補強技 術の検討は実施しなかった。 - 59 - 4.予測結果の検証(藻場形成経過の追跡調査) 調査対象となる人工リーフは,第Ⅲ-4-1 図に示すように,一~三期工事区に分けて,平 成 18~21 年度に順次完成した。平成 18 年度に完成した一期工事区では平成 19 年度秋季か ら,平成 20 年度に完成した二期工事区では平成 21 年度春季から,平成 21 年度に完成した 三期工事区では平成 22 年度春季から,春季と秋季の年2回の調査を実施した。このうち, 春季調査は主要な海藻種の繁茂期として,秋季調査は衰退期として調査を実施した。 20m 宮崎鼻 片句 御津 H21完成 人工リーフ 20m 黒崎湾 東防波堤 片句 H18完成 H20完成 島根原子力 発電所 輪谷湾 湯戸浜 平島 10m 御津 0 第Ⅲ-4-1 図 500m 人工リーフ一~三期工事区 一~三期工事区の天端面は,第Ⅲ-4-2~4 図に示したように,20tのエックス型ブロッ クで被覆されている。天端面の縦と横に番号を付すことで被覆ブロックを識別することが できたので,このブロックを観察単位として,固定枠法とメッシュ法を応用して調査区を 設定した。また,調査項目は,次の2通りとした。 1)群落構造調査:固定枠法として,毎回,図中に赤で示した被覆ブロックにおいて, ほぼ決まった位置に 50cm×50cm の方形枠を置き,枠内に生育する海藻類の種別の被度等を 測定して,群落構造(種組成)を記録した。各被覆ブロックの調査結果は,「横番号-縦番 号」で示し,繰り返しがある場合は丸付き番号を付した。 2)被度分布調査:メッシュ法を応用し,被覆ブロックを単位として大型海藻の種別被 度を測定して,天端面全体の被度分布を記録した。 - 60 - 20m 宮崎鼻 片句 御津 H21完成 人工リーフ 20m 黒崎湾 東防波堤 片句 H18完成 H20完成 島根原子力 発電所 湯戸浜 輪谷湾 10m 平島 御津 0 第Ⅲ-4-2 図 1 2 3 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 4 5 6 7 一期工事区天端面の被覆ブロック配置と枠観察ブロック位置 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 25 143 115 114 83 37 38 72 25 24 122 121 75 74 26 25 124 123 75 74 26 25 121 120 72 71 25 24 119 118 71 70 24 23 123 120 74 71 26 23 123 120 76 73 27 24 125 122 76 73 27 24 122 119 73 70 26 23 120 117 72 69 25 23 22 124 119 75 70 27 22 124 119 77 72 28 23 126 121 77 72 28 23 123 118 74 69 27 22 121 116 73 68 26 22 21 126 119 77 70 28 21 125 118 76 69 28 21 125 118 78 71 29 22 127 120 78 71 29 22 124 117 75 68 28 21 122 115 74 67 27 21 29 20 127 118 78 69 29 20 126 117 77 68 29 20 126 117 79 70 30 21 128 119 79 70 30 21 125 116 76 67 29 20 123 114 75 66 28 20 30 19 128 117 79 68 30 19 127 116 78 67 30 19 127 116 80 69 31 20 129 118 80 69 31 20 126 115 77 66 30 19 124 113 76 65 29 19 16 149 120 119 87 86 54 53 19 18 81 50 47 18 15 148 121 118 88 85 55 52 20 17 32 17 130 115 81 66 32 17 129 114 80 65 32 17 129 114 82 67 33 18 131 116 82 67 33 18 128 113 79 64 32 17 126 111 78 63 31 17 80 51 46 19 14 147 122 117 89 84 56 51 21 16 33 16 131 114 82 65 33 16 130 113 81 64 33 16 130 113 83 66 34 17 132 115 83 66 34 17 129 112 80 63 33 16 127 110 79 62 32 16 36 16 12 140 118 111 86 79 52 45 20 13 146 123 116 90 83 57 50 22 15 35 17 11 139 119 110 87 78 53 44 21 12 145 124 115 91 82 58 49 23 14 35 14 133 112 84 63 35 14 132 111 83 62 35 14 132 111 85 64 36 15 134 113 85 64 36 15 131 110 82 61 35 14 129 108 81 60 34 14 34 18 10 138 120 109 88 77 54 43 22 11 144 125 114 92 81 59 48 24 13 36 13 134 111 85 62 36 13 133 110 84 61 36 13 133 110 86 63 37 14 135 112 86 63 37 14 132 109 83 60 36 13 130 107 82 59 35 13 33 19 9 137 121 108 89 76 55 42 23 10 143 126 113 93 80 60 47 25 12 12 134 109 87 62 38 13 136 111 87 62 38 13 133 108 84 59 37 12 131 106 83 58 36 12 32 20 8 136 122 107 90 75 56 41 24 9 142 127 112 94 79 61 46 26 11 38 11 136 109 87 60 38 11 135 108 86 59 38 11 135 108 88 61 39 12 137 110 88 61 39 12 134 107 85 58 38 11 132 105 84 57 37 11 31 21 7 135 123 106 91 74 57 40 25 8 141 128 111 95 78 62 45 27 10 39 10 137 108 88 59 39 10 136 107 87 58 39 10 136 107 89 60 40 11 138 109 89 60 40 11 135 106 86 57 39 10 133 104 85 56 38 10 30 22 6 134 124 105 92 73 58 39 26 7 140 129 110 96 77 63 44 28 9 40 9 138 107 89 58 40 9 137 106 88 57 40 9 137 106 90 59 41 10 139 108 90 59 41 10 136 105 87 56 40 9 134 103 86 55 39 29 23 5 133 125 104 93 72 59 38 27 6 139 130 109 97 76 64 43 29 8 41 8 139 106 90 57 41 8 138 105 89 56 41 8 138 105 91 58 42 9 140 107 91 58 42 9 137 104 88 55 41 8 135 102 87 54 40 8 28 24 4 132 126 103 94 71 60 37 28 5 138 131 108 98 75 65 42 30 7 42 7 140 105 91 56 42 7 139 104 90 55 42 7 139 104 92 57 43 8 141 106 92 57 43 8 138 103 89 54 42 7 136 101 88 53 41 7 3 2 131 127 102 95 1 61 37 15 132 113 83 12 135 110 86 67 64 61 31 34 37 18 128 115 79 15 131 112 82 12 134 109 85 66 63 60 31 34 37 18 128 115 81 15 131 112 84 68 65 32 35 19 130 117 81 16 133 114 84 68 65 32 35 19 127 114 78 16 130 111 81 65 62 31 34 18 125 112 77 15 128 109 80 64 61 30 18 33 15 9 4 137 132 107 99 74 66 41 31 6 69 62 35 30 3 136 133 106 100 73 67 40 32 5 44 5 142 103 93 54 44 5 141 102 92 53 44 5 141 102 94 55 45 6 143 104 94 55 45 6 140 101 91 52 44 5 138 99 90 51 43 5 68 63 34 31 2 135 134 105 101 72 68 39 33 4 45 4 143 102 94 53 45 4 142 101 93 52 45 4 142 101 95 54 46 5 144 103 95 54 46 5 141 100 92 51 45 4 139 98 91 50 44 4 99 67 64 33 32 1 69 38 34 3 46 3 144 101 95 52 46 3 143 100 94 51 46 3 143 100 96 53 47 4 145 102 96 53 47 4 142 99 93 50 46 3 140 97 92 49 45 3 35 2 145 100 96 51 47 2 144 99 95 50 47 2 144 99 97 52 48 3 146 101 97 52 48 3 143 98 94 49 47 2 141 96 93 48 46 36 1 146 99 50 48 1 145 98 96 49 48 1 145 98 51 49 2 147 100 98 51 49 2 144 97 95 48 1 142 95 94 47 1 99 50 1 96 65 29 34 18 129 116 80 129 100 97 66 36 31 130 128 101 96 98 70 17 24 122 121 73 26 27 13 141 117 112 85 25 48 25 72 71 14 142 116 113 84 26 49 73 23 124 121 75 22 125 120 76 15 27 82 24 123 122 74 26 27 28 放 水 口 500m 104 103 102 71 37 70 43 6 47 2 48 1 49 141 104 92 147 98 97 55 49 43 6 140 103 91 146 97 54 43 6 140 103 93 56 50 44 7 142 105 93 56 44 7 139 102 90 53 43 6 137 100 89 52 42 6 2 1 144 143 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 発電所側 発電所側 発電所側 発電所側 発電所側 20m 宮崎鼻 片句 御津 H21完成 人工リーフ 20m 黒崎湾 東防波堤 片句 H18完成 H20完成 島根原子力 発電所 輪谷湾 湯戸浜 平島 10m 御津 0 500m 第Ⅲ-4-3 図 二期工事区天端面の被覆ブロック配置と枠観察ブロック位置 - 61 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 発電所側 発電所側 発電所側 20m 宮崎鼻 片句 御津 H21完成 人工リーフ 20m 黒崎湾 東防波堤 片句 H18完成 H20完成 島根原子力 発電所 輪谷湾 湯戸浜 平島 10m 御津 0 500m 第Ⅲ-4-4 図 三期工事区天端面の被覆ブロック配置と枠観察ブロック位置 また,第Ⅲ-4-5 図に示したように,人工リーフ近傍の天然岩礁域において,波当たり等 の条件が人工リーフの条件に近いと想定される場所を選んで,汀線から水深 20mの範囲に 調査測線を設定して対照区とした。ここでは,調査測線に沿って種ごとの被度分布を記録 するとともに,水深7,9mに各2個の 50cm×50cm の固定枠を設けて群落構造(種組成) を記録した。 測線 宮崎鼻 20m 宮崎鼻 片句 御津 人工リーフ 20m 黒崎湾 黒崎湾 片句 東防波堤 H18完成 H20完成 島根原子力 発電所 輪谷湾 湯戸浜 平島 10m 御津 0 第Ⅲ-4-5 図 500m 天然岩礁域に設定した対照区の調査測線位置 - 62 - なお,藻場に対する食害が懸念される藻食動物のウニ類は,この海域においては岩棚等 に偏在的に生息がみられた。上記の藻場の調査の際に,随時,生息状況を観察,記録した が,ウニ類の生息域と藻場の分布域との間に関係は認められなかった。このことから,こ こで実施した予測結果の検証では,ウニ類に関する調査は,特に行わないこととした。 1)群落構造調査 第Ⅲ-4-6~9 図に,対照区(天然岩礁域)藻場の群落構造調査結果を示した。 天然岩礁の藻場を構成する大型海藻としては,ノコギリモクが主要な種で,これにクロ メが混じることがあるとみられた。被度で見る限り,明瞭な季節変化はみられず,不規則 な変化があったが,おおむね 60~80%の範囲であった。下生えとなる小型海藻としては, 殻状海藻のサビ亜科が,ほぼ 100%を占めた。天然岩礁域の藻場は,形成が開始されてか ら充分な時間(年数)が経過していると想定できることから,この藻場の状態を,この場 における極相として扱う。 120 ノコギリモク オオバモク 100 マメタワラ 被度(%) 80 ヤツマタモク イソモク 60 クロメ アカモク 40 ワカメ 20 測定無し 0 1 秋 2 秋 3 春 4 秋 5 春 H20 H19 H21 6 秋 7 春 8 秋 H22 測定無し 春 9 H23 秋 10 サビ亜科 120 イワノカワ科 100 ウミウチワ シマオウギ 被度(%) 80 ウスカワカニノテ 60 ピリヒバ モサズキ属 40 その他の海藻 20 測定無し 0 1 秋 第Ⅲ-4-6 図 2 秋 H19 春 3 H20 4 秋 春 5 H21 秋 6 春 7 H22 秋 8 測定無し 春 9 H23 秋 10 対照区(天然岩礁域)藻場の群落構造(種組成),水深7m①枠 上図,大型海藻;下図,小型海藻 - 63 - 120 ノコギリモク オオバモク 100 マメタワラ 被度(%) 80 ヤツマタモク イソモク 60 クロメ アカモク 40 ワカメ 20 測定無し 0 1 秋 H19 2 秋 3 春 H20 4 秋 5 春 H21 6 秋 7 春 8 秋 H22 測定無し 春 9 H23 秋 10 サビ亜科 120 イワノカワ科 100 ウミウチワ シマオウギ 被度(%) 80 ウスカワカニノテ 60 ピリヒバ モサズキ属 40 その他の海藻 20 測定無し 0 1秋 第Ⅲ-4-7 図 H19 2 秋 春 3 H20 4 秋 春 5 H21 秋 6 春 7 秋 8 H22 測定無し 春 9 H23 秋 10 対照区(天然岩礁域)藻場の群落構造(種組成),水深7m②枠 上図,大型海藻;下図,小型海藻 120 ノコギリモク オオバモク 100 マメタワラ 被度(%) 80 ヤツマタモク イソモク 60 クロメ アカモク 40 ワカメ 20 測定無し 0 1 秋 2 秋 3 春 4 秋 5 春 H20 H19 H21 6 秋 7 春 8 秋 H22 測定無し 春 9 H23 秋 10 サビ亜科 120 イワノカワ科 100 ウミウチワ シマオウギ 被度(%) 80 ウスカワカニノテ 60 ピリヒバ モサズキ属 40 その他の海藻 20 測定無し 0 1 秋 第Ⅲ-4-8 図 2 秋 H19 春 3 H20 4 秋 春 5 H21 秋 6 春 7 H22 秋 8 測定無し 春 9 H23 秋 10 対照区(天然岩礁域)藻場の群落構造(種組成),水深9m①枠 上図,大型海藻;下図,小型海藻 - 64 - 120 ノコギリモク オオバモク 100 マメタワラ 被度(%) 80 ヤツマタモク イソモク 60 クロメ アカモク 40 ワカメ 20 測定無し 0 1 秋 3 春 2 秋 5 春 4 秋 H20 H19 H21 6 秋 7 春 H22 測定無し 春 9 8 秋 H23 秋 10 サビ亜科 120 イワノカワ科 100 ウミウチワ シマオウギ 被度(%) 80 ウスカワカニノテ 60 ピリヒバ モサズキ属 40 その他の海藻 20 測定無し 0 1秋 第Ⅲ-4-9 図 H19 春 3 2 秋 H20 春 5 4 秋 H21 秋 6 春 7 H22 測定無し 春 9 秋 8 H23 秋 10 対照区(天然岩礁域)藻場の群落構造(種組成),水深9m②枠 上図,大型海藻;下図,小型海藻 人工リーフ一期工事区における群落構造調査結果の一例を,第Ⅲ-4-10 図に示した。 120 100 ノコギリモク オオバモク マメタワラ 被度(%) 80 60 40 ヤツマタモク イソモク クロメ アカモク ワカメ 20 0 1秋 120 100 H19 秋 2 春 3 H20 秋 4 春 5 4 秋 春 5 H21 秋 6 春 7 秋 6 春 7 H22 秋 8 春 9 秋 8 春 9 H23 秋 10 サビ亜科 イワノカワ科 被度(%) ウミウチワ 80 シマオウギ 60 ウスカワカニノテ ピリヒバ 40 20 モサズキ属 その他の海藻 0 1秋 2 秋 H19 第Ⅲ-4-10 図 春 3 H20 H21 H22 H23 秋 10 人工リーフ一期工事区藻場の群落構造(種組成),5-1①枠 上図,大型海藻;下図,小型海藻 - 65 - この例では,工事完成翌年の秋季調査の時点で,ノコギリモクの入植がみられ,時間経 過とともに被度が上昇し,工事完成後3年目の秋季調査では,ほぼ 100%に達した。その 後、不規則な変化やクロメの入植がみられたが,ノコギリモクとクロメの2種で,被度 60 ~100%で推移した。下生えの小型海藻は,藻場形成初期には複数種の入植,生育がみられ たが,徐々に殻状海藻のサビ亜科の被度が上昇して,工事完成後4年目春季調査以降,被 度 60~100%を示し,他の小型海藻種はほとんどみられなくなった。 別の2例を,第Ⅲ-4-11~12 図に示した。 大型海藻については,第Ⅲ-4-10 図の例とほぼ同様の推移がみられたが,下生えの小型 海藻については,2年目の春季調査で,第Ⅲ-4-11 図の例ではウミウチワが,第Ⅲ-4-12 図の例ではモサヅキが高い被度で出現した。その後,3~4年目以降,殻状海藻のサビ亜 科の被度が上昇した。 120 100 ノコギリモク オオバモク マメタワラ 被度(%) 80 60 40 ヤツマタモク イソモク クロメ アカモク ワカメ 20 0 1 秋 120 100 H19 2 秋 春 3 H20 4 秋 春 5 4 秋 春 5 H21 秋 6 春 7 秋 6 春 7 H22 秋 8 春 9 秋 8 春 9 H23 秋 10 サビ亜科 イワノカワ科 被度(%) ウミウチワ 80 シマオウギ 60 ウスカワカニノテ ピリヒバ 40 20 モサズキ属 その他の海藻 0 1 秋 2 秋 H19 第Ⅲ-4-11 図 春 3 H20 H21 H22 H23 秋 10 人工リーフ一期工事区藻場の群落構造(種組成) ,12-1①枠 上図,大型海藻;下図,小型海藻 - 66 - 120 100 ノコギリモク オオバモク マメタワラ 被度(%) 80 60 40 ヤツマタモク イソモク クロメ アカモク ワカメ 20 0 1 秋 120 100 2 秋 3 春 4 秋 5 春 4 秋 春 5 H20 H19 H21 6 秋 7 春 秋 6 春 7 H22 8 秋 春 9 秋 8 春 9 H23 秋 10 サビ亜科 イワノカワ科 被度(%) ウミウチワ 80 シマオウギ 60 ウスカワカニノテ ピリヒバ 40 20 モサズキ属 その他の海藻 0 1 秋 2 秋 H19 第Ⅲ-4-12 図 春 3 H20 H21 H22 H23 秋 10 人工リーフ一期工事区藻場の群落構造(種組成),25-21②枠 上図,大型海藻;下図,小型海藻 固定枠の多くは,以上の3例のいずれかと同様の経過を示したが,一部の固定枠では, 第Ⅲ-4-13 図に示したように,大型海藻の入植,生育が遅れる場合があった。 この例では,完成後5年目でも大型海藻の被度が 20%前後であった。下生えの小型海藻 では,2年目の春季調査でウミウチワが高い被度を示し,この状態が3年目まで続いた。 その後,複数種の生育がみられるようになり,この状態が5年目の秋季調査まで続いた。 以上のことから,ここで調査対象とした人工リーフの天端面には,固定枠によってばら つきはあるものの,ノコギリモクを主要な構成種とし,主要な下生えをサビ亜科とした藻 場が形成されると考えられた。 - 67 - 120 100 ノコギリモク オオバモク マメタワラ 被度(%) 80 60 40 ヤツマタモク イソモク クロメ アカモク ワカメ 20 0 1 秋 120 100 春 3 2 秋 H20 H19 4 秋 春 5 4 秋 5 春 H21 秋 6 春 7 6 秋 7 春 H22 秋 8 春 9 8 秋 春 9 H23 秋 10 サビ亜科 イワノカワ科 被度(%) ウミウチワ 80 シマオウギ 60 ウスカワカニノテ ピリヒバ 40 20 モサズキ属 その他の海藻 0 1 秋 3 春 2 秋 H20 H19 第Ⅲ-4-13 図 H21 H22 H23 秋 10 人工リーフ一期工事区藻場の群落構造(種組成),17-11①枠 上図,大型海藻;下図,小型海藻 2)被度分布調査 対照区(天然岩礁域)における大型海藻の被度分布の一例を,第Ⅲ-4-14 図に示した。 0 測点: L3 10 20 30 基点からの距離 (m) 40 50 60 70 80 調査日:2011年 8月 5日 90 100 110 120 130 140 150 160 170 180 190 200 0 水 深 (m) 10 20 30 被度% 凡 例 :岩 盤 :転石 :転石 中 :転石 : 砂 100 ナラサモ アキヨレモク イソモク マメタワラ オオバモク クロメ エビアマモ ヤツマタモク ノコギリモク 第Ⅲ-4-14 図 対照区調査測線の海底地形と大型海藻の被度分布 - 68 - 測定を行った水深0~20mの範囲で,主要な大型海藻のうち,ノコギリモクは水深5~ 9mで被度 50~80%,水深 10~18mで被度 30~40%を示した。また,クロメは水深5~ 7mで被度 10~20%,水深8~20mで被度 20~40%を示した。 人工リーフ天端面に相当する水深8~10mでは,ノコギリモクが被度 40~60%,クロメ が被度 30~40%を示し,この2種で被度 80%以上であった。 目標の策定において人工リーフに形成される藻場の主要な構成種と推定され,群落構造 調査の結果からもそのように確認されたノコギリモクについて,被度分布の経時変化を第 Ⅲ-4-15 図に示した。 - 69 - 工事中 2007年10月 護岸 工事中 2008年6月 護岸 工事中 2009年6月 護岸 工事中 2009年9月 護岸 2010年6月 護岸 2010年9月 護岸 2011年8月 護岸 ノコギリモク 2011年9月 凡例 75%以上 50~75%未満 25~50%未満 5~25%未満 5%未満 護岸 第Ⅲ-4-15 図 人工リーフ藻場におけるノコギリモク被度分布の経時変化 - 70 - この被度分布から,被度階級別にブロックを計数した。被度階級別ブロック数の経時変 化を,第Ⅲ-4-16~18 図に示した。一期工事区においては,工事完成翌年の秋季調査時に 70%程度のブロックでノコギリモクの生育がみられたが,ほとんどが被度5%未満であっ た。2年目以降,被度5%以上のブロックが 70%前後を占めるようになり,3年目秋季調 査では被度 50%以上のブロックが 40%程度,4年目以降には被度 75%以上のブロックが 50%を超えるようになり,一期工事区全体としては,被度の平均が 70%以上となった。 120 被度 100 ブロック数割合(%) 0% 80 5%未満 60 5~25% 40 25~50% 50~75% 20 75%以上 0 凡例 第Ⅲ-4-16 図 秋季 H19 春季 秋季 H20 春季 秋季 H21 春季 秋季 H22 春季 秋季 H23 一期工事区におけるノコギリモク被度階級別ブロック数の経時変化 120 被度 100 ブロック数割合(%) 0% 80 60 5%未満 5~25% 40 25~50% 50~75% 20 75%以上 0 凡例 第Ⅲ-4-17 図 秋季 H19 春季 秋季 H20 春季 秋季 H21 春季 秋季 H22 春季 秋季 H23 二期工事区におけるノコギリモク被度階級別ブロック数の経時変化 - 71 - 120 被度 100 ブロック数割合(%) 0% 80 60 5%未満 5~25% 40 25~50% 50~75% 20 75%以上 0 凡例 第Ⅲ-4-18 図 秋季 H19 春季 秋季 H20 春季 秋季 H21 春季 秋季 H22 春季 秋季 H23 三期工事区におけるノコギリモク被度階級別ブロック数の経時変化 3)予測結果の検証のまとめ 以上のように,固定枠法によって藻場の群落構造を調査し,メッシュ法の応用によって 主要な大型海藻の被度分布を調査することにより,藻場が形成される海岸構造物に選定さ れた人工リーフにおける藻場形成の経過を追跡することが可能であった。 そして,この人工リーフでは,ノコギリモクを主体とした藻場が形成され,おおむね工 事完成後4年目以降に,群落構造が周辺の天然岩礁域の藻場と同等の状態(極相)となり, 大型海藻の被度階級 75%以上のブロックが天端面の 50%以上を占め,人工リーフ全体とし ては,大型海藻の被度の平均が 70%を超えるようになったことから,藻場形成効果の予測 結果(量的目標達成)が検証された。 - 72 - 引用・参考文献 吾妻行雄・松山恵二・中多章文・川井唯史・西川信良(1997).北海道日本海沿岸のサンゴ モ平原におけるウニ除去後の海藻群落の遷移.日本水産学会誌,63(5),672-680. 秋本泰・片山洋一・松村知明・村田愼司(2009).日本全国の藻場分布.月刊海洋,41(11), 598-604. 荒武久道・佐島圭一郎・清水博・南隆之・山田和也・吉田吾郎(2010).核藻場造成による ガラモ場復興試験.核藻場造成によるガラモ場復興試験報告書,252,pp.1-29. 有賀祐勝(1983).アラメ・カジメの生理特性.南西海区水産研究所,19-27. 飯倉敏弘・杜多哲・北村章二(1985).藻場の水理と物質の集積.大型別枠研究「マリーン ランチング計画」,pp.103-111. 殖田三郎(1929).ほそめこんぶの発生と温度との関係に就て.水講試報,24(5),174-180 愛媛県(1982-1986).二神島保護水面管理事業調査報告書. 大分県(1982-1986).保護水面管理事業調査報告書. 太田雅隆(1988).アラメ・カジメの配偶体の生長と成熟ならびに幼胞子体の生長に及ぼす 水温の影響.海生研研報,88202,1-29. 大谷清隆・大西光代(1995).北海道南西沿岸のこんぶ生産量の春ニシン漁獲量と沿岸水温 による重回帰分析.海の研究,4,175-185. 大塚耕司(2006).室戸沿岸の磯焼け海域を対象とした海洋深層水放流影響の予測.日本水 産工学会春季シンポジウム要旨集,43(1),21-33. 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79 - 2.課題主担当者(平成 24 年3月現在) 道津 光生 財団法人海洋生物研究所 中央研究所 青山 善一 〃 〃 海洋環境グループ 嘱託 山本 正之 〃 〃 海洋環境グループ 総括研究員 長谷川一幸 〃 〃 海洋環境グループ 主査研究員 - 80 - 海洋環境グループマネージャー 参考1.藻場を構成する主要種の生態特性 海藻類は,種によって,地理的分布特性,空間的(鉛直的,水平的)分布特性を有して いる。このことから,目標を策定するにあたっては,海岸工事が計画される海域の地理的 位置,藻場の形成基質とする海岸構造物の設置水深や形状に基づいて,形成される藻場の 種類と主要な海藻種を推定する。 岩礁性の大型多年生海藻を主体とする藻場としては,コンブ場,アラメ・カジメ場,ガ ラモ場(ホンダワラ類の藻場)が検討の対象となる。これらの藻場を構成する主要な海藻 種について,生態特性を次に示す。 a コンブ場 コンブ場は,北海道沿岸から茨城県北部沿岸までの太平洋岸と青森県沿岸までの日本海 岸にみられる(水産庁,2007)。コンブ場の主要種について,生態特性の概要を参-1-1 表 に示した。なお,成熟期,発芽期は,海域の地理的位置や環境条件によって変化すること があるので,ここでは一つの目安として示した。 参-1-1 表 種 a-1 マコンブ a-2 リシリコンブ 成熟 - Saccharina japonica - Saccharina ochotensis a-3 オニコンブ - Saccharina diabolica a-4 ミツイシコンブ - Saccharina angustata a-5 ナガコンブ - Saccharina longissima a-6 チヂミコンブ - コンブ場主要種の生態特性概要 発芽 生育期間 地理的分布 12~3月 2年生 室蘭以南~津軽海峡福島 青森県~茨城県北部 12~3月 2年生 北海道の日本海北部 オホーツク海沿岸 12~3月 2年生 北海道の厚岸以東の太平洋沿岸 根室海峡,羅臼地方 - 3年生 日高地方,白糠函館地方 岩手県北部 - 2年生 北海道の釧路以東太平洋沿岸 3年生 - 2年生 北海道の日本海北部,オホーツク海 空間的分布 - - 静穏な場所 - - - Saccharina cichorioides a-7 カラフトトロロコンブ - - 2年生 Saccharina sachalinensis a-8 ガッガラコンブ - Saccharina coriacea a-9 トロロコンブ - 12~2月 2年生 6~7月 3年生 - - 北海道のオホーツク海中南部 根室海峡各地 北海道の釧路以東太平洋沿岸 - 静穏な場所 北海道の釧路以東太平洋沿岸 - 室蘭~函館,津軽海峡沿岸,松前小島 青森県下北半島と岩手県宮古市重茂 知床東岸,色丹島,国後島 - Saccharina gyrata a-10 ガゴメコンブ - Saccharina sculpera a-11 アツバスジコンブ - 2~5月 2年生 3年生 - - - Cymatheere japonica a-12 ネコアシコンブ - Arthrothamnus bifidus - 多年生 北海道の釧路以東太平洋沿岸 ~5年目 - 主として川嶋(2004)から a-1 マコンブ Saccharina japonica 葉状部は,一般に長さ 1.5~2.5m,幅 15~25cm だが,深所ではときに長さ5~10m, 幅 40cm になる。発芽は 12~3月で,2年生。北海道では,室蘭以南から津軽海峡福島ま で,本州では,青森県より茨城県北部まで分布する。 - 81 - Saccharina ochotensis a-2 リシリコンブ 葉状部は,長さ 1.5~2.5mでときに3mを超える,幅 13~20cm になる。発芽は 12~3 月で,2年生。北海道の日本海北部,オホーツク海沿岸に分布する。 a-3 オニコンブ Saccharina diabolica マコンブよりもやや大型で,静穏な場所によく生息する傾向がある。発芽は 12~3月で, 2年生。北海道の厚岸以東の太平洋沿岸,根室海峡,羅臼地方に分布する。 a-4 ミツイシコンブ Saccharina angustata 葉状部は,長さ3~8m,幅7~15cm になる。3年生。北海道では,日高地方を中心に, 白糠函館地方までの各地,本州では,岩手県北部に分布する。 a-5 ナガコンブ Saccharina longissima 葉状部は,長さ4~12m,ときに 15m以上、幅6~18cm となる。2年生と3年生。北 海道の釧路以東太平洋沿岸に分布する。 a-6 チヂミコンブ Saccharina cichorioides 葉状部は,長さ 70~120cm,希に 200cm,幅 10~16cm となる。2年生。北海道の日本海 北部,オホーツク海に分布する。 a-7 カラフトトロロコンブ Saccharina sachalinensis 葉状部は,チヂミコンブとほぼ同じで,生息場所によって幅が 20cm を超えることがあ る。2年生。北海道のオホーツク海中南部,根室海峡各地に分布する。 a-8 ガッガラコンブ Saccharina coriacea 葉状部は,長さ2~5m,ときに7m,幅 10~20cm となる。12~2月の冬季発芽群と 6~7月の夏季発芽群があり,前者は2年生で後者は3年生。北海道の釧路以東太平洋沿 岸に分布する。分布域はナガコンブと重なるが,生息水深はやや深く,静穏な場所を好む。 a-9 トロロコンブ Saccharina gyrata 葉状部は,生息地によって,長さ2~4m,幅7~15cm の細長いものから,長さ1~1.5 m,幅 20~30cm の幅広いものまで変化する。北海道の釧路以東の太平洋沿岸に分布する。 a-10 ガゴメコンブ Saccharina sculpera 葉状部は,幅の狭いものと広いものがあり,長さ 1.5~2m,幅 15~30cm、ときに 40cm 以上となる。発芽は2~5月で,2年生と3年生がある。北海道の室蘭から函館までの太 - 82 - 平洋、津軽海峡沿岸と松前小島、本州の青森県下北半島と岩手県宮古市重茂に分布する。 分布域はマコンブと重なるが,生息水深がやや深い。 a-11 アツバスジコンブ Cymatheere japonica 葉状部は,長さ 1.5~2m,幅 30~40cm となる。北海道の知床東岸,色丹島,国後島に 分布する。 a-12 ネコアシコンブ Arthrothamnus bifidus 1年目の葉状部は,長さ 50~100cm,幅3~5cm で,成長すると葉状部基部の両縁に耳 たぶ状の突起(耳形体)を形成して,これから1枚ずつの葉片を切り出す。この2枚の新 葉が伸び始めると1年目の葉状部(旧葉)は基部から脱落して,結果として2枚の新葉か らなる2年目の葉状体となる。2年目の葉状部は,長さ 1.5~2m,幅5~8cm となる。 多年生で,5年目まで確認されている。北海道の釧路以東太平洋沿岸に分布する。 以上,a-1~12 は,主として川嶋(2004)を参照して記述した。 b アラメ・カジメ場 アラメ・カジメ場のうち,アラメ場は岩手県から高知県東部までの太平洋岸と京都府の 日本海岸から長崎県の東シナ海岸まで,カジメ場は千葉県から宮崎県までの太平洋岸と島 根県の日本海岸から長崎県東シナ海岸までみられる(水産庁,2007)。アラメ類とカジメ類 が同所的に分布する場合は,基本的には,アラメ類が浅所で,カジメ類が深所でみられる (寺脇・新井,2004)。アラメ・カジメ場の主要種について,生態特性の概要を参-1-2 表 に示した。なお,成熟期,発芽期は,海域の地理的位置や環境条件によって変化すること があるので,ここでは一つの目安として示した。 参-1-2 表 種 b-1 アラメ b-2 サガラメ Eisenia bicyclis Eisenia arborea b-3 カジメ Ecklonia cava b-4 クロメ Ecklonia kurome b-5 ツルアラメ Ecklonia stolonifera アラメ・カジメ場主要種の生態特性概要 成熟 秋~冬 発芽 - 生育期間 地理的分布 4~6年 岩手県以南~静岡県相良 九州北西部~丹後半島(日本海) 9~11月 2~3月 7~8年 静岡県相良~紀伊半島,大阪湾 淡路島南部~室戸岬付近 夏~秋 冬 3~4年 房総半島~九州沿岸(太平洋) 淡路島,鳴門~丸亀付近 隠岐~対馬 7~9月 2~3月 - 東京湾 潮岬~宮崎中部(太平洋,瀬戸内海) 天草諸島~新潟県南部 11月頃 - 5~6年 津軽海峡~本州(日本海) (青森) ~九州平戸島付近 空間的分布 水深0~9m 水深0~15m 水深2~30m 水深2~13m 水深5~25m 主として寺脇・新井(2004)から - 83 - b-1 アラメ Eisenia bicyclis 寿命は4~6年で,藻長1~2mに達する。主に,秋から冬にかけて成熟する。太平洋 岸では,岩手県以南の東北,関東,東海(静岡県相良付近まで),日本海岸では,九州北西 部(長崎県以北)および山陰地方の京都府丹後半島までで,水深0~9mに分布する。 宮城県から茨城県では,潮間帯縁辺部の谷,岩棚,溝などの複雑な地形で,波が常にあ る場所に生息する。千葉県から静岡県では,潮間帯下部から水深5mまでの岩礁上に密生 するが,潮間帯から水深の浅い順に,また,同水深帯なら湾奥部から湾口部にかけて,ホ ンダワラ類,アラメ,カジメの順で優占種が交代し,分布の下限はカジメによって制限さ れている。 b-2 サガラメ Eisenia arborea 寿命は7~8年で,藻長1~2mに達する。9~11 月頃に成熟し,2~3月に発芽体が 肉眼でみられるようになる。静岡県相良付近から紀伊半島,大阪湾および淡路島南部,鳴 門,紀伊水道沿岸から室戸岬付近までで,水深0~15mに分布する。 b-3 カジメ Ecklonia cava 寿命は3~4年で,藻長2~3mに達する。主に,夏から秋にかけて成熟し,冬に発芽 体が肉眼で見られるようになる。発芽体は,母藻の群落から 500m以上離れてもみられる が,100m以内で出現密度が高い。太平洋岸では,房総半島以南で断続的に九州沿岸まで, 瀬戸内海では,淡路島および鳴門から丸亀付近までの四国北岸に,日本海沿岸では,隠岐 から対馬まで断続的で,水深2~30mに分布するが,波浪などの流動が小さい環境を中心 に2~5mでアラメと混生する。 b-4 クロメ Ecklonia kurome 7~9月に成熟し,2~3月に発芽体が肉眼で見られるようになる。主に,紀伊半島潮 岬から宮崎中部までの太平洋岸および瀬戸内海,天草諸島以北の九州西岸の東シナ海から 新潟県南部までの日本海岸で,水深2~13mに分布する。 千葉県館山湾の岩盤上では,水深1mまではヒジキ,2~3mではオオバモク,4~7 mではアラメ,8~13mではクロメが優占する。広島湾大野瀬戸では,水深0~3mでク ロメが優占し,1年生のタマハハキモクとワカメが混生する。日本海沿岸では,地形的に 冬季季節風による波のうねりから遮蔽される大きな瀬の南側や海水流動の弱い深所に生息 - 84 - する。 b-5 ツルアラメ Ecklonia stolonifera 寿命は5~6年で,11 月頃に成熟する(青森沿岸)。他のアラメ・カジメ類と異なり, 匍匐根の先端から新たな葉状体が栄養繁殖的に生じる。津軽海峡から本州日本海岸,九州 平戸島付近までで,水深5~25mに分布する。 以上,b-1~5 は,主として寺脇・新井(2004)を参照して記述した。 c ガラモ場 ガラモ場は,日本各地の沿岸でみられる(水産庁,2007)。ガラモ場の主要種について, 生態特性の概要を参-1-3 表に示した。なお,成熟期,発芽期は,海域の地理的位置や環境 条件によって変化することがあるので,ここでは一つの目安として示した。 参-1-3 表 種 c-1 フシスジモク c-2 ヒジキ 成熟 春~初 ガラモ場主要種の生態特性概要 発芽 - Sargassum confusum - - Sargassum fusiforume c-3 イソモク 春~夏 - 夏 - 冬~初 - - 本州,四国,九州 - - 本州中部~四国,九州,東シナ海 Sargassum hemiphyllum c-4 ノコギリモク 生育期間 地理的分布 多年生 北海道南部,三陸沿岸(太平洋) 日本海沿岸,瀬戸内海,東シナ海 多年生 北海道南部~沖縄,香港 (根部) 多年生 関東地方以南(太平洋) 青森県~南九州(日本海) - 東北を除く本州,九州,四国の沿岸 Sargassum macrocarpum c-5 トゲモク 空間的分布 漸深帯上部 潮間帯下部 潮間帯下部 ~漸深帯 低潮線付近 ~水深20m - Sargassum microcanthum c-6 タマハハキモク - Sargassum muticum c-7 ヤツマタモク 春~初 - 初夏 - Sargassum patens c-8 マメタワラ Sargassum piluliferum c-9 オオバモク - - 多年生 本州,四国,九州 (基部) 多年生 三陸沿岸を除く本州,四国,九州 (茎部) - - 低潮線 ~水深1m 静かな場所 - - 漸深帯上部 Sargassum ringgoldianum c-10 ヨレモク 春~初 - - 春~初 - 多年生 Sargassum siliquastrum c-11 ウミトラノオ Sargassum thunbergii 関東地方~四国(太平洋) 北海道~九州(日本海) 日本全沿岸 - 潮間帯中部 ~下部 主として吉田(2004)から c-1 フシスジモク Sargassum confusum 雌雄異株で,春から初夏にかけて成熟する。多年生で,漸深帯上部に大きな群落をつく る。日本海沿岸,瀬戸内海と東シナ海に広く分布し,太平洋岸では北海道南部と三陸沿岸 に分布する。 c-2 ヒジキ Sargassum fusiforume 雌雄異株で,主枝(直立部)は成熟後に脱落するが,匍匐する繊維状根は越年して次の 年に直立部を生じる。北海道南部から沖縄,香港まで分布して潮間帯下部に顕著な群落を - 85 - つくるが,潮汐の少ない日本海沿岸には稀となる。 c-3 イソモク Sargassum hemiphyllum 雌雄異株の多年生で,春から夏にかけて成熟するとともに,匍匐根の先に新しい茎を生 じて栄養的にも繁殖する。太平洋岸では関東地方以南,日本海沿岸では青森県以南から南 九州まで分布し,やや波当たりの弱い岩礁の潮間帯下部から漸深帯にかけて生息する。 Sargassum macrocarpum c-4 ノコギリモク 雌雄異株で,夏に成熟する。東北地方を除く本州,九州,四国の沿岸に分布し,低潮線 付近から水深 20mくらいまでの範囲に生息する。 c-5 トゲモク Sargassum microcanthum 冬から初春に成熟する。本州,四国,九州に広く分布する。 Sargassum muticum c-6 タマハハキモク 本州中部から四国,九州,東シナ海にかけて分布し,低潮線付近から水深1mくらいま での浅いところで,波の弱いやや静かな場所に生息する。 Sargassum patens c-7 ヤツマタモク 雌雄異株で,春から初夏に成熟する。主枝は成熟後に脱落するが,基部は多年生となる。 本州,四国,九州に広く分布する。 c-8 マメタワラ Sargassum piluliferum 初夏に成熟し,高さ5cm に達する茎が多年生となる。三陸沿岸を除く本州,四国,九州 の沿岸に広く分布する。 c-9 オオバモク Sargassum ringgoldianum 関東地方の個体と西日本の個体では形体が異なることから,紀伊半島から西の個体群を 亜種として区別し,ヤナギモク S. ringgoldianum subsp. coreanum とされている。漸深帯 上部に群落をつくる。 c-10 ヨレモク Sargassum siliquastrum 雌雄異株で,春から初夏にかけて成熟する。太平洋岸では,関東地方から四国まで,日 本海沿岸では,北海道から九州まで広く分布する。 c-11 ウミトラノオ Sargassum thunbergii 雌雄異株の多年生で,春から初夏にかけて成熟する。日本全沿岸に分布し,潮間帯の中 - 86 - 部から下部に帯状の群落をつくる。 以上,c-1~11 は,主として吉田(2004)を参照して記述した。 - 87 - 参考2.藻場を構成する主要種の生活史と成熟時期 コンクリートブロック等の藻場が形成される面が,主要な海藻類の入植時期に合わせて 設置されると,藻場形成がより速やかになされると考えられる。海藻類の入植時期は,種 ごとの生活史や成熟・繁殖時期によって決まるが,海域の地理的位置および環境条件によ って変化することがあるので,注意を要する。 1)コンブ場 コンブ類の生活史を参-2-1 図に示した。 参-2-1 図 コンブ類の生活史(川嶋,2004) 肉眼的大きさの葉状体は胞子体で,成熟すると遊走子を放出する。遊走子は着底すると, 発芽,成長して雌雄別で顕微鏡的大きさの配偶体となる。雌性配偶体に形成された卵は, 雄性配偶体から放出された精子と受精し,その場で発芽,成長して肉眼的大きさの胞子体 となる。 コンブ類の胞子体には,冬季発芽群と夏季発芽群がみられるが,いずれも前年秋に前世 代の胞子体から放出され,着底した遊走子に由来する(川嶋,2004)。 - 89 - 2)アラメ・カジメ場 アラメ・カジメ類は,コンブ類とほぼ同様の生活史を示す。カジメの生活史を参-2-2 図 に示した。 参-2-2 図 カジメの生活史(寺脇・新井,2004) 肉眼的大きさの胞子体では,成熟すると子嚢斑が形成され,そこから遊走子を放出する。 遊走子は着底すると,発芽,成長して雌雄別で顕微鏡的大きさの配偶体となる。雌性配偶 体に形成された卵は,雄性配偶体から放出された精子と受精し,その場で発芽,成長して 肉眼的大きさの胞子体となる。 アラメでは主として秋から冬にかけて,サガラメでは9~11 月頃,カジメでは主に夏か - 90 - ら秋にかけて,クロメでは7~9月に子嚢斑が形成される(寺脇・新井,2004)。 ツルアラメの生活史を参-2-3 図に示した。他のアラメ・カジメ類と同様に,遊走子から 発芽,成長した配偶体による有性生殖で胞子体が造られるとともに,仮根部から発出する 匍匐根の先端などから新たな胞子体が栄養繁殖的に生じる。 参-2-3 図 ツルアラメの生活史(能登谷,2003) 3)ガラモ場 ガラモ場を構成するホンダワラ類の生活史を,参-2-4 図に示した。 参-2-4 図 ホンダワラ類の生活史(小河,1987) - 91 - 藻体が成熟すると生殖器床がつくられ,ここに卵と精子が形成される。卵は受精すると その場で発芽,成長して幼胚となってから放出される。着底した幼胚は,成長を続けて母 藻と同じ藻体となる。 ホンダワラ類の成熟期には,種類によって,春季成熟型,夏季成熟型,秋季成熟型の3 型の大別があるとされているが,海域の地理的位置や環境条件による変化がみられること から,既往知見等によって工事計画海域ごとに検討されねばならない。 - 92 - 参考3.藻場形成に係わる環境要因 藻場形成に係わる重要な環境要因について,本手順書で取り扱う大型多年生海藻類(コ ンブ類,アラメ・カジメ類,ホンダワラ類)との係わりを以下にまとめた。 1)光 コンブ類:マコンブ配偶体の成長,成熟,芽胞体の発芽,成長は5klux*1 以上で速く, 栄養塩が不足していなければ 10klux までは照度が高い方が良い(船野,1973;中久・小竹, 1978;三本管ら,1986)。 アラメ・カジメ類:アラメの配偶体の成長は水温 15℃,1klux で最大となる。この水温 では 10klux まで成長は変わらないが,水温が 20℃以上になると強光阻害が現れる。1klux 以下では,水温によらず成長しない(Ohno,1969)。アラメの芽胞体の成長は3~3.5klux で適照度となる(中久,1981;月舘,1980)。アラメの幼体・成体では水温 20℃,10klux で光飽和となる(有賀,1983)。カジメの幼体・成体では,水温 20℃において 10klux で光 飽和に達する(有賀,1983)。 ホンダワラ類:ホンダワラ類の生育水深は種によって異なるため,適照度範囲は異なる が,生育段階別の成長は幼胚期2klux 以上,幼体期5klux 以上,成体期5~10klux 程度 である(日本水産資源保護協会,1992)。 2)付着基質 コンブ類: コンブ類は天然では主に移動や転倒に対する安定度の高い転石や岩盤に着生 している。比較的大きな波浪にも移動しないコンクリートブロック(船野,1973)や合成 繊維ロープ(日本水産資源保護協会,1992)にも着生する。 アラメ・カジメ類: アラメ・カジメは天然では比較的波浪の強い海域に生育するため, 主に移動や転倒に対する安定度の高い大礫以上の基質や岩盤に着生している(今野,1977)。 合成繊維ロープや木,ガラス,花崗岩,石灰藻の上でも着生可能である(須藤,1948)。基 質が泥等で覆われると着生が阻害され,その影響限界は堆積厚(カオリン)0.05mm 程度で ある(中久,1980;1981)。 ホンダワラ類: ホンダワラ類は天然では主に移動や転倒に対する安定度の高い大礫以上 - 93 - の基質や岩盤に着生している。合成繊維ロープやコンクリートブロックにも着生可能であ る(須藤,1965;富山,1981)。アラメ・カジメと比較すると波浪の弱い海域に生息するの で,特に 1 年生の種類では基質の安定度のやや低いものにも着生する(今野,1977)。 3)温度 コンブ類:マコンブの配偶体は 15℃以下で成熟し,10℃以下で最も早期に幼胞子体に発 達する(能登谷,1983;藪・安井,1988)。また,ホソメコンブの発生適温は6~9℃(植 田,1929),リシリコンブ・ホソメコンブの発生適温は1~10℃(木下,1947)である。リ シリコンブの生育温度上限は 15.5℃(木下,1947)で,マコンブ,オニコンブ,ホソメコ ンブおよびナガコンブについても 18℃では成熟が阻害される傾向が見られる(岡田・三本 管,1980)。 アラメ・カジメ類:アラメ配偶体の成長の上限温度は 24℃,幼胞子体では 10~20℃で高 い成長を示すが,22℃以上では成長低下が顕著となる。生育上限水温は,配偶体で 30℃, 幼胞子体で 29℃である(馬場,2010)。アラメ・カジメとも配偶体および幼胞子体の成長 は 20℃で最も速い。25℃では成熟には至らない(太田,1988)。 ホンダワラ類:ジョロモクが 20~25℃(光量 100~180μmol/㎡/s),アカモクとヨレモ クが 25℃(100μmol/㎡/s),ヤツマタモクが 25℃(100~180μmol/㎡/s),フシスジモク が 25℃(180μmol/㎡/s),ヒジキ,イソモクおよびマメタワラが 25~30℃(100~180μmol/ ㎡/s)であった。ジョロモク,アカモク,ヨレモクは水温 30℃で成長率の低下が著しい。 発芽体の生育上限温度はヤツマタモクが 34℃,フシスギモク,ヒジキ,イソモク,アカモ ク,マメタワラ,ヨレモク,ジョロモクが 32℃である(馬場,2007)。発芽体の生育上限 温度は,ジョロモクとアカモクが 31℃,フシスジモク,ヒジキ,イソモク,マメタワラ, ヨレモクが 32℃,ヤツマタモクが 33℃であった(馬場,2011)。 4)塩分 コンブ類:コンブ類の生育帯での塩分は,マコンブ 31.1~33.9,ミツイシコンブ 32.0 ~34.0,リシリコンブ 29.3~34.7,ホソメコンブ 33.3~34.5,ナガコンブ 31.6~33.5p である(人日本水産資源保護協会,1992)。 - 94 - アラメ・カジメ類:アラメの優良な藻場が保全されている海域の塩分は 31.2~34.6 の範 囲である(愛媛県,1986;大分県,1986)。カジメの優良な藻場が保全されている海域およ びカジメの移殖試験の結果から,32.0~34.8 の範囲でカジメは成長することが示された (愛媛県,1986;大分県,1986)。 ホンダワラ類:マメタワラの適塩分域は,幼胚,幼体で 24.6~31.1,成体では 32~34 (最適塩分 32.9)で生存可能範囲は 39,<15 である。ヤツマタモクの最適塩分は 24.7 で, 生存可能下限は<22 である。アカモクの最適塩分は 32 で,生存可能下限は<15.7 である。 ヨレモクの生存可能範囲は>27.4,<21.9 である。オオバモクの生存可能範囲は>5 である(日 本水産資源保護協会,1992)。 5)水の動き コンブ類:コンブ類の生育場所およびその近傍における流速は,種類によって異なるも のの,最高値で 20~85cm/秒,高い頻度で起こる値で 5~30cm/秒である(日本水産資源保 護協会,1992)。 アラメ・カジメ類:アラメ・カジメはホンダワラ類より波浪の強い場所に出現し,アラ メの方がカジメよりも波浪の強いところに生育する(今野,1978)。アラメ・カジメの生育 している場所では平均波高 0.5~2.5mの頻度が高く,最大波高は6~8m程度である(水 産庁,1988)。 ホンダワラ類:アカモク幼胚のガラススライドへの着生数は3~4cm/秒の流速のとき最 大である(飯倉ら,1985)。海水流動の強い場所に出現する順は,ウミトラノオ・ヒジキ→ タマハハキモク・アカモク・ヤツマタモク・イソモク→ホンダワラ・アズマネジモク→ヨ レモク・トゲモク→マメタワラ・ジョロモク→オオバモク・ノコギリモク・アラメ→カジ メである(今野,1985)。 6)藻食動物による食害 コンブ類:東北北部・北海道太平洋沿岸,北海道オホーツク海沿岸,北海道日本海沿岸 で,ウニ類による食害が報告されている(秋本ら,2009)。コンブ類に対する藻食動物とし て,キタムラサキウニがもっとも知られている。波浪が強いと摂食影響は低減し,キタム - 95 - ラサキウニの摂食限界流速は 0.4m/秒(川俣,2001)である。 アラメ・カジメ類:九州・本州南部太平洋沿岸,関東・東北南部太平洋沿岸,瀬戸内海 沿岸で,ウニ類の食害が報告されている(秋本ら,2009)。また,アイゴ,ブダイなどの植 食性魚類も,アラメ・カジメ類に対する藻食動物として,食害影響が報告されている(桑 原ら,2006)。地形条件や波浪環境によって,アイゴによる食害が低減する可能性がある(木 下,2009)。 ホンダワラ類:九州・本州南部太平洋沿岸,関東・東北南部太平洋沿岸,東北北部・北 海道太平洋沿岸,北海道オホーツク海沿岸,北海道日本海沿岸,瀬戸内海で,ウニ類によ る食害が報告されている(秋本ら,2009)。特に,南方海域では,アイゴ,ブダイなどの植 食性魚類による食害とガンガゼによる食害が,磯焼けの継続要因だと考えられている(桑 原ら,2006)。 *1 lux:照度の単位で表された光と,エネルギー単位で表された光量との間では,次のよう な関係が近似的に成り立つ(西澤・千原,1979)。 1lux ≒ 6×10-6ly/min(太陽光) 1g/cal/cm2 = 1ly 1einstein = 52×103g・cal(可視部の平均として 550nm の波長を考慮した場合) - 96 - 参考4.数値モデルによる流れ場の算定 藻場藻場ビオトープ形成に影響を与える水の動きは高波浪時の流速として以下の式を用 いて算出した。 多相流の連続式 F1 F2 F1 u F1 v F1 w F2 u F2 v F2 w 0 t x y z x v z (1) 運動方程式 n x u u u u P 2 u 2 u 2 u 1 2 2 2 u v w x y z t F11 F2 2 x x y z 1 2 2 (2a) 2 v 2 v 2 v n y v v v v P 1 w g u v 2 2 2 t x y z F11 F22 x x y z 1 2 2 (2b) w P 2 w 2 w 2 w w w w 1 n z u v w t x y z F11 F22 x x 2 y 2 z 2 1 2 2 (2c) 1 sign F1 F2 1 2 1 sign F1 F2 2 (2d) 体積率輸送式 u v w F1 F1 u F1 v F1 w 0 F1 z t x y x y z F2 1.0 F1 (3a) (3b) ここに,t は時間, F1 と F2 は気相と液相の流体体積率,u, v, w は x, y, z 方向の流速, P は圧力, 1 と 2 は気相と液相の密度, 1 と 2 は気相と液相の粘性係数,g は重力加速 度, は表面張力係数, は界面の曲率,nx, ny, nz は x, y, z 方向の界面法線ベクトル である。 本解析では,運動方程式を2段階 projection 法により解いた。第1段階では,圧力項を 除いた運動方程式により中間速度場を求めた。第2段階では,中間速度場を用いて圧力ポ アソン式から圧力値を求め,この圧力場により速度場を補正して1時刻後の流速値を算定 した。そして,1時刻後の流速値を用いて流体率 F の移流方程式を解いて,界面輸送の計 - 97 - 算を行った。 数値計算の最大波高と有義波高は,ナウファス鳥取とナウファス浜田の平均値とした。 最大波の諸元は,ナウファス鳥取,ナウファス浜田は 2003 年 1 月の観測データ,有義波の 諸元はすべて 2001 年の 1 月の観測データに基づいて算定した。 境界条件は,計算領域の沖側(X=0から 6000m, Y=2655m, Z=水深)が造波境界,側方の両 端(X=0と 6000m, Y=0~2655m, Z=0~水表面)が Free Slip 条件,岸側(X=0から 6000m, Y= 汀線, Z=0m)が Free Slip 条件,底面(X=0から 6000m, Y=0~2655m, Z=底面)が No Slip 境界,上端((X=0から 6000m, Y=0~2655m, Z=90m)が Free Slip 条件とした。 沖側境界では,式(4)で与えられる微小振幅波の水粒子速度を与えた。 u H cosh k (z h ) cos(kx t ) 2 sinh kh (4) ここに,H は波高, は角周波数,k は波数である。 側方境界は,気相と液相の両相において境界上での各変数の勾配を0とする Free Slip 条件とした。 du dw dv 0, 0, 0 dx dz dy (5) 岸側境界は,気相と液相の両相において境界上での各変数の勾配を0とする Free Slip 条 件とした。 du dw dv 0, 0 0, dx dz dy (6) 底面境界は,液相の境界上での各変数を0とする No Slip 条件とした。 - 98 - u=v=w=0 (7) 計算領域の上端の境界は,気相の境界上での流速の勾配を0とする Free Slip 条件とした。 なお,上端境界の気相の圧力 P は気体の密度と重力加速度と静水面から上端境界までの積 により算定し,上端境界に与えた。 du dv dw 0, 0, 0 dx dy dz (8) - 99 -