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「持続性」を可能にする マルチ・ステークホルダー間の

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「持続性」を可能にする マルチ・ステークホルダー間の
日経CSRプロジェクト欧州視察レポート(1)
「持続性」を可能にする
マルチ・ステークホルダー間のバランス感覚
【本視察の訪問地】
EIRIS
(Ethical Investment Research Service)
サステナブル・アセット・マネジメント
(SAM)
英国を中心に機関投資家向けサービスを展開
ダウ・ジョーンズのSRI指標を作成する運用会社。
する代表的な非営利の独立系調査機関。
1983年に、
持続可能性の観点からの投資活動を専業とする
複数の教会と慈善事業団体によって設立。
初の資産運用会社として1995年に設立。
ユニリバー
90数カ国に事業展開し、
150を超える国々で食品・
家庭用品・日常生活用品を販売。
Lipton、
Dove、
Lux、
総論として――
CSRの根底にあるもの
Knorrなど数々の有名ブランドをもつ。
CSRを単に
「企業の社会的責任」
と訳すと、
違和
クリス・マースデン教授
感をもつ人々は少なくないだろう。
適正な訳語が
専門は、
「企業倫理」
「企業市民」
。
アムネスティ・
ないため、
CSRがそのまま使われているのが実情だ。
インターナショナルのビジネスグループ議長、
今回の視察では、
それが実感できた。
1970年代に
トラスティーズ
(ビジネスと人権に関わるウェ
日本が経験した企業と市民の対立という2極構
ブサイトを運営するNGO)
議長、
フランス国立
造ではない。
欧州で議論されているCSRは、
社会の
ポンゼショセ工科大学経営大学院客員教授、
ウ
「持続性」
を考えることだ。
社会が持続しなければ、
ォーヴィック大学ビジネス・スクール准教授。
企業も持続できない。
それゆえ、
持続可能な社会
カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト
企業の地球温暖化対策を機関投資家の立場か
への負荷を与えずにいかに利益を上げるかがCSR
の本質であり、
それが共通認識となっている。
ら推進する取り組み。
2003年10月に締め切った
第2回プロジェクトでは、
世界の主要な金融機
いかなる経済活動も環境に負荷を与えるものだ。
関95社
(運用資産総額約1,100兆円)
が参加した。
一方、
経済活動を否定しては生活していけない。
ビジネス・イン・ザ・コミュニティ
そこに、
マルチ・ステークホルダー論が大きな意
企業の市民活動を推進する団体で、
チャールズ
義をもつ。
従業員・株主・顧客・地域住民・取引先と
皇太子が総裁となり、
1982年に設立。
英国の上場
いったステークホルダー間の利害を一致させる
企業の80%以上が加盟。
のがCSRである。
どこかに犠牲を強いるビジネス
クレディ・スイス・グループ
モデルの
「持続性」
は疑わしい。
つまり、
利害調整
40年余の歴史を有する世界有数のファイナンシ
のキーワードが
「持続性」
だ。
なぜなら、
「持続性」
ャル・グループとして、
世界中で銀行、
証券、
資産
は長期的なリターンを目指すため、
利益相反を起
運用、
保険など、
幅広く金融ビジネスを展開。
こしづらい。
いずれかのステークホルダーが、
短
ロッシュ
期的リターンを求めだしたら、
バランスは取れな
人間の生活向上を図る医薬品の研究開発を使
い。
そうしたバランス感覚が、
長い歴史のなかで
命とするスイス系大手製薬会社。
創業以来、
「持
自然と社会のコンセンサスを得られているのが、
続性」
という概念がビジネスの一部として浸透
成熟した欧州の市民社会だろう。
している。
最新海外レポート
日本経済新聞社 広告局
田邉 雄
自由市場においては、
企業の資産である
「財」
「
、機
クリス・マースデン教授の講義ノー
トから――大きな政府の終焉と企業
の役割
械」
「
、工場」
「
、従業員」
などは市場で定義づけられ
アムネスティは、
「持続性」
を最大の関心事とし
たく市場で評価されてこなかった。
社会学的、
生
ている。
現世代の人々が次世代の人々の生活を犯
態学的な資本に関しては、
市場から離れたところ
すことなく、
開発を実施させることが重要だ。
自
で議論されてしまい、
企業評価のなかではまった
由市場そのものだけでは
「持続性」
を担保できな
く考慮されない。
政府が何かしない限りは、
すべ
いことは明らかだ。
むしろ、
自由市場は
「持続性」
てが企業から外部化されてしまう。
下図は、
従来
を侵す危険をはらんでいる。
型のモデルである。
る。
しかし、
社会資本や環境資本はこれまでまっ
図 Traditional Governance Model
※原文の意味を損なわないように和訳せず引用
【企画・制作】 日本経済新聞社広告局
日経CSRプロジェクト欧州視察レポート(1)
「持続性」を可能にする
マルチ・ステークホルダー間のバランス感覚
これは、
各国の政府が社会学的、
生態学的な問
題に関して責任をもって取り組むというモデル
である。
このモデルにおいて、
CSRは企業側の自由
裁量でおこなうものだ。
企業はビジネスをおこな
ううえで、
制約もなく自由に活動できる。
税金を
払ってさえいれば、
自社の利益のみを最優先でき
た。
しかし、
過去15年間に、
このモデルは汎用的で
はなくなった。
ベルリンの壁崩壊により、
2つの重要な変革が
起こった。
1つは市場が完全に自由化されたこと
であり、
もうひとつは、
国際化がなされたことだ。
それは、
IT技術の進展によるネットワーク化が推
進してきたものだ。
それとともに政府の力が弱化
している。
すなわち、
自由化、
国際化された市場に
おいて、
自国の産業が国際的競争力を保つために
は、
規制緩和や減税などのさまざまな施策を実施
しなければならないという現状がある。
それは、
従来的なモデルでなされてきたこと、
つまり、
社
会的、
環境的な配慮を政府ができなくなったとい
うことを意味している。
現在の世界経済のなかでは、
規則が曖昧になっ
ている。
政府が従来のようにルールをつくれなく
なった。
企業が以前より力をもっているというこ
とだ。
それと同様にNGOも力をもっている。
したが
って、
これまで国家間で推進してきたルールづく
りが不可能になりつつある。
それに対して、
企業
の力が強くなり、
社会的、
環境的な問題の解決は、
企業や市民社会
(NGO・NPO)
が担うようになった。
最新海外レポート
日本経済新聞社 広告局
田邉 雄
ビジネス・イン・ザ・コミュニティ設
立の背景――持続可能な社会と企業
市民
ビジネス・イン・ザ・コミュニティの使命は、
ビ
「持続性」
というと、
環境保全に話題が行きがち
そのために、
企業が社会に対して積極的な活動を
だが、
健全な経済活動の基盤となる社会資本も重
おこなわなければならない、
と主張している。
ビ
要な要素だ。
つまり、
安全、
安心、
教育、
衛生などだ。
ジネス・イン・ザ・コミュニティは、
チャールズ皇
長期的に見れば、
治安の悪化は、
大きな代償とし
太子が総裁を勤める非営利団体で、
社会への活動
て企業にのしかかってくる。
当然、
企業責任にお
を活発におこなっている。
チャールズ皇太子が重
いて、
社会への働きかけをおこなうわけだが、
そ
要な役割を担っているが、
もっと重要なことはビ
れが単なる義務感ではなく、
めぐりめぐって企業
ジネス志向型だということだ。
非営利団体なので、
の持続性にも大きく関わってくることを、
英国の
ビジネスの実践が目的ではないが、
企業間のネッ
ビジネス・リーダーたちが認識している。
ビジネス・
トワーク構築を使命としている。
その結果、
現在
イン・ザ・コミュニティ設立の背景には、
まさにそ
では、
英国の主要企業をはじめ、
720社が連携を図
うしたリーダーたちの総意がある。
っている。
ビジネス・イン・ザ・コミュニティは、
貧困層の
拡大による暴動が契機となり、
1982年に設立され
た。
当時、
ロンドン、
リバープール、
ブリストル、
リ
ーズといったイングランドの大都市で暴動が頻
発した。
原因は、
失業、
人種差別、
社会的な孤立な
どに対する人々の怒りだ。
暴動の発生を受けて、
実業界のリーダーが集まって会合をもった。
マー
クス&スペンサー、
ユニリバー、
カドバリー・シュ
ウェップスなどの有力企業のトップである。
彼ら
は、
これまでも、
人道的な活動やフィランソロピ
ーなどの地域貢献を長期間にわたってやってき
たことで知られる経営者たちだ。
会合では、
こう
した暴動の原因を解決しなければならないとい
う認識で一致した。
解決しないと、
英国の国際的
な競争力がそがれてしまうという危機感を共有
したわけだ。
【企画・制作】 日本経済新聞社広告局
ジネスが社会に与える影響を改善していくことだ。
日経CSRプロジェクト欧州視察レポート(1)
「持続性」を可能にする
マルチ・ステークホルダー間のバランス感覚
企業の責任論――リスク・マネジメン
トとビジネス・ケース
ユニリバーの話を聞くと、
CSRへの取り組みが、
CSRを
「ねばならぬ」
という発想から、
前向きな
ビジネスケースであり、
リスクマネジメントだ、
活動に転じるヒントをユニリバーに見た。
同社は、
ということが実感できる。
また、
スイスの製薬会
「自社が責任を持って事業活動を遂行すれば、
社
社ロッシュも、
長期にわたって成功できる会社が、
会に大きな影響を与える」
と強く意識しているよ
「社会」
や
「環境」
にもよい影響を与えると考えて
うだ。
つまり、
富をつくり分かち合うこと、
地元の
いる。
ロッシュの場合は、
「健康」
をテーマにしな
経済に貢献すること、
専門知識や能力を積極的に
がら、
「環境」
や
「社会」
への配慮を自社の使命とし
拡散していくことが、
CSRと捉えている。
以下、
同
ている。
社のプレゼンテーションから引用する。
たとえば、
発展途上国における衛生問題につい
「まず、
破産しないことこそCSRである。
ビジネ
てだが、
知的所有権を保有することによって、
発
スの持続性こそ一番の社会責任だ。
さらに、
持続
展途上国での支援を活発化している。
アフリカ南
可能な社会と企業の永続性とは、
完全に一体化さ
部の地域では、
マラリアやHIVに対して、
現地で投
れたものだと考える。
持続可能な農業でいえば、
薬されるように努力しているが、
ロッシュのステ
農産物がなくなってしまえば、
ビジネスにならな
ークホルダーが
「持続性」
を理解しているからで
い。
長期的な農業ビジネスの健全化がすべてであ
きることだ。
なぜなら、
知的財産は、
短期的思考か
る。
以前は、
ドアを閉めて密室でさまざまなこと
らは生まれにくく、
知的所有権を保持できるから、
が決定されていたが、
現代はそのようなことがま
現地での投薬も可能になるからだ。
かり通る時代ではない。
現代において、
短期的な
視点ではビジネスができなくなった。
企業がどの
来月は、
企業と各ステークホルダーと持続可能
ような基準をもって行動しているのかが、
消費者
な関係について、
ステークホルダーごとにレポー
をはじめ企業と関わる人々の観点として重要視
トする。
されている。
社員を守るとか、
廃棄物を最小限に
する、
などのCSRの重要な点は、
クオリティ・マネ
ジメントとも不可分で、
製品の質向上とも密接に
リンクする。
それゆえ、
長期的なビジネスとして
考えなければいけない」
。
最新海外レポート
(日経CSRプロジェクト 田邉雄)
日本経済新聞社 広告局
田邉 雄
持続性のためのバランス感覚が、
社会の
コンセンサスを得られている欧州社会
「ビジネスの持続性こそ一番の社会責任」
と
明言するユニリバーの本社
知的所有権を保有することで発展途上国での
支援を活発化しているロッシュ本社
【企画・制作】 日本経済新聞社広告局
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