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巻 頭 言

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巻 頭 言
岩手県生涯学習振興協会
会報
第 36 号
平成 26 年 12 月 26 日発行
儲けが出たら、東京ドームにイチローを見に行こ
う」の呼びかけに、高校生 12 人が奮い立った。農
巻 頭 言
業経験豊かな高齢者の支えの下に、休耕地を活用
したサツマイモ畑には、住民約 100 人が集まり、
初年度の益金は 35 万円ほどとなったという。
いらすと
生涯学習・社会教育が目指すもの
結局、東京ドームは福岡ドームに変更となった
県立生涯学習推進センター
が、明確な目的・目標の下に「金にならない仕事
佐 藤 公 一
に限って」よく人が集まり、以後焼酎の原料とな
所 長
るサツマイモ栽培は継続され、自治公民館として
「生涯学習・社会教育がめざす具体のゴールが
の自主財源額は右肩上がりに増えていく。
見えにくいのではないか」という素朴な疑問が私
▽
わくわく運動遊園建設
にはある。それは、個別・各領域項目のゴールと
荒地と化していた工場跡地を草刈から始め、持
いうのではなく、何かしら「生きる」うえでめざ
ち合わせの資材と住民それぞれが持つ得意技(知
すゴールのかたちのようなものを意味する。
識や技術)を結集し、電気工事以外の作業は、全
10 月下旬、そのヒントを探しに四国と九州を訪
て住民の力だけで担い、集いの広場の諸施設が建
れる機会に恵まれた。その一端を紹介したい。
か のや
く しら
設された。
やなぎだに
鹿児島県鹿屋 市串良 町 柳 谷 地区。そこは人口
300 人余りの電車もバスも通らない高齢化率 40%
を超える小さな農村集落である。地元の人々は、
そこを通称「やねだん」と呼ぶ。
今から 18 年前、それまで 1 年交代で通常 65 歳
前後の人に任されてきた自治公民館長に、当時 55
▽
とよ しげてつろう
歳の豊重哲郎氏が抜擢されたことから話は始まる。
土着菌の製造・販売
集落内では畜産が盛んで、平成 13 年当時は、牛
が 500 頭、豚は 7,000 頭飼育されており、その糞
尿の悪臭は集落全体を悩ませていた。それを解決
に導いたのは、好気性の微生物「土着菌」である。
種菌を発酵させ、住民が交代で約 1 か月間毎日撹
拌して製造を進め、これを餌に混ぜて食べさせる
ことにより悪臭の苦情はなくなり、さらには、評
判を聞きつけた周辺の家畜農家への販売や土質改
良剤としての活用にもつながり現在に至っている。
▽
自主財源の確保
私がお邪魔した時も、宮崎県から来たという老
豊重館長がまず志したのは、
「行政や補助金に頼
夫婦が、200 ㎏を 2 万円(100 円/㎏)で購入して
らないこと」であった。引継ぎ時の会計の残高(余
いった。土着菌の販売額は、年間 200 万円に上る
剰金)は、わずか 1 万円。
「サツマイモづくりで
という。
1
▽ 「やねだん」が教えてくれること
「これは、地域づくりの事例だろう…」と思わ
れるだろう。その通りである。では、これらの取
組は、我々が担う生涯学習・社会教育とは一線を
画しているのだろうか?
残念ながら、これらの取組に、生涯学習・社会
▽
集落全戸にボーナス支給
教育行政がどんな形で貢献しているのかについて
自主財源確保の取組は、プライベートブランド
は、把握できなかった。むしろ、私が訪ねた時は、
焼酎「やねだん」をも生み出し、年々益金も増え
鹿児島県庁の新人職員の研修会がやねだんを会場
ていった。豊重館長の下に進められた取組が 10
に土日の 2 日間にわたって行われており、メイン
年目になった平成 18 年、余剰金が 500 万円に達
の豊重氏のほか、迎賓館の住人の若手画家が講話
したため、集落全戸(122 戸)に 1 万円のボーナ
をしている最中であった。前夜は、豊重氏の後を
スを支給することが決まった。当時の記録ビデオ
担っているやねだんのリーダー達と夜を徹して語
によれば、支給するボーナス袋は一つ一つが住民
り合ったという。行政の方が学ぶ一方なのである。
によって手作りされ、書道の心得のある高齢者が
地域を変えていくには相応の財源がどうしても
一人一人の名前を記し、特に高齢の方には、豊重
必要だ。補助金は未来永劫ではない。その段階か
館長からのメッセージ文がしたためられた。公民
ら住民の力を結集させ、一人ひとりが真に生かさ
館に一堂に会して行われた支給の集いのようすか
れるならそれ以上のことはない。豊重氏は、それ
らは、決して 1 万円の額に対する喜びではなく、
を人海戦術とか感動体験の共有と表現するが、所
みんなで力を合わせ、支えあいながらここまで来
属感と達成感と一体感と金がついてくる。
たという喜びの分かち合いの会のように見えた。
氏は、地域活動で最も難しいのは「人集め」だ
翌年は、住民の声をふまえ、益金の活用は高齢者
と言う。命令参加型でなく自主総参加、説得では
宅の緊急警報装置設置(18 か所:この装置のお蔭
なく納得。そのためにも、住民のフルネームと顔
でこれまでに 3 人の命が救われた)や足腰の弱い
を覚え笑顔を最優先とするよう常に心がけている。
高齢者のためのシルバーカー貸与に向けられた。
また、これほどのリーダーであっても、当然「豊
▽
重嫌い」は存在した。彼はそれを「北風」ではな
空き家を迎賓館に
高齢化や人口減少による空き家現象は、やねだ
く「お日さまの心と情熱」で変えてきた。
んも例外ではなかったが、豊重館長は、アーティ
正に、地域課題を受け止め、その解決のための
スト(画家、陶芸家、写真家、彫刻家等)の卵を
種々の取組は 18 年途切れることなく続いている。
全国から募集し、住民みんなで古民家の空き家を
帰り際、豊重氏は現在の構想を話して下さった。
改修し、迎賓館と称してそこに受け入れ、活動を
「高齢者は、自分の終わり方(死に方)を心配し
支援する取組を始めた。住民が多様な芸術に触れ、
ている。遠くで暮らす子どもに迷惑をかけたくな
子どもたちの興味関心を高める機会としては十分
いんだよ。だから、今度は自治公民館を葬祭場と
な環境であり、正に文化の薫りある集落に変わっ
しても使えるように改造する。もちろん宿泊施設
てきている。
も備えてね。そして、もう一つ。地元の子どもた
ちの返還不要の 100 万円の奨学金を考えている。
総会で承認されたら、すぐに取り組む…」
地域課題の解決だのニーズに応えるだのと、す
まし顔で語る自分が少し恥かしい気持ちになった。
2
当協会の前会長で、県教委社会教育課長等を歴任された高橋寛氏より、これまでの本県社会教育のあゆみにつ
いて振り返っていただきます。今号は第4話です。
岩手の生涯学習物語(実践期編)
第四話
「生涯教育推進事業」の巻
元岩手県教育委員会事務局社会教育課長
髙 橋
寛
昭和 46 年度社会教育行政の基本方針に登場した「生涯学習」は昭和 50 年代に入り
いよいよ実践期に入ります。今回はその先駆けとなった「生涯教育推進事業」のお話です。
岩手の生涯教育は新しい社会教育の発展のために生み出された実践理論です。
生涯学習推進体制の整備
3.県民の生涯学習推進体制を整備するため県内関
岩手の生涯学習は昭和 46 年度社会教育行政の基本
係機関団体、特に県庁関係機関の協力を得て「生
方針に「生涯学習態勢の整備充実」として打ち出さ
涯教育推進会議」を設置し、今後の岩手の生涯学
れ、
「生涯の各時期に応じた学習の場と機会の充実に
習の基本的方向を明らかにする。
努める」というものでした。しかも当初は「生涯学
みなさん、どうですか、なかなかの意気ごみでし
習の状態と勢いをつける」という判断から「態勢」
ょう。事実、私達は新しい時代を切り開くため「や
という言葉を用い、その決意を示すものでした。
らんかな」の気概でした。
やがて3年後には「態勢」から「体制」と変化し、
「生涯学習体制の整備充実」となり、具体的には生
生涯教育推進事業の導入
涯の各時期に応じて社会教育事業を再編成し、その
こうして、昭和 57 年度から国の補助事業「生涯教
推進体制を整備するというものでした。
育推進事業」が導入され、岩手の生涯学習はいよい
しかも、この考え方の底には県民の自主的主体的
よ実践期に入ったのです。
な学習活動を支えて行こうとする、いわば市民の学
この生涯教育推進事業の内容は次のようなもので
習権を保障するという崇高な理念が横たわっていた
した。
ように思われます。
1.生涯教育推進会議の設置
県教委内に設置し3年計画で今後の生涯学習の
生涯学習推進プロジェクト
基本的方向を定める。
このような生涯学習の推進に昭和 56 年度新たな変
2.生涯教育データバンクの整備
化が訪れます。文部省が生涯教育を都道府県レベル
県民の生涯学習推進に関わるデータを3年にわ
で積極的に推進するため、新たに「生涯教育推進事
たり集積しデータバンクを設置する。
業」を開発し補助事業としたのです。
3.広域事業の開発
当時の社会教育課長大光実氏はこの状況に対応す
高校大学並びに専門研究機関施設と連携し、市
べく社会教育課内に「生涯学習推進プロジェクトチ
町村の枠を超えて県民に専門的な学習の機会を提
ーム」を発足させ、今後の岩手の生涯学習をどのよ
供する。
うに推進すべきか検討させたのです。私もその一員
この事業の成果は画期的なも
でした。
のでした。その後の岩手の生涯学
その検討結果の要点は次のようなものでした。
習推進の基盤をつくり、新規事業
1.岩手は県民の自主的主体的学習を積極に推進す
の開発を齎し、県民の学習機会の
るという観点から「生涯学習」の理念に立つ。
充実に貢献し、一部は国の生涯教
2.県民の生涯の各時期に応じた学習の機会の充実
育をリードするものでした。
のため、国の補助事業「生涯教育推進事業」を
そのお話は次の号で。(続く)
導入し新規事業を開発する。
3
2 月 5 日・6 日の2日間、県立生涯学習推進センタ
ーにおいて研究発表会が開催されます。
皆様のご参加をお待ちしております。
今年度も総会・懇親会を同封(会員のみ)のご案内に
【テーマ】
「連携・協働でつくる社会教育」
より開催することとなりました。皆様方には、万障お
【講 演】5日(木)13:20~14:50
繰り合わせのうえ、ご出席くださるようお願いします。
「連携・協働で育む地域の力」
【期 日】平成 27 年 2 月 5 日(木)
~さまざまな主体が集う
【場 所】花巻温泉 ホテル千秋閣
プラットフォームづくり~
【総 会】時間 午後 5 時 30 分~
香川大学生涯学習教育研究センター
【懇親会】時間 午後 7 時~
センター長
※ 会費
日帰り 8,000 円、宿泊 11,000 円
清國 祐二 氏
【ポスターセッション】15:00~16:30
(教職員互助会利用券を持参の方は 10,000 円)
【研究発表】6日(金)9:30~12:00
○「市町村との連携による研修の充実方策に関する研究」
なお、参加の可否につきましては、同封しました返信用はが
○「震災復興のための NPO 等との連携に関する調査研究
きにてお願いします。
(1月 23 日(金)必着)
当協会の事業でもある「生涯学習推進フォーラム」
-行政と NPO との協働の可能性をさぐる-」
が今年度は金ケ崎町にて下記により開催されます。
教育振興運動も今年で 50 年目を迎えました。この
皆様のご参加をお待ちしております。
記念大会が下記により開催されます。
【テーマ】
「生涯教育による人づくり・まちづくりを
これまでの取組を振り返り、そしてこれからの運動
推進するための課題とは」
の方針を確認するため、ぜひご参加ください。
【日時】平成 27 年 1 月 15 日(木)13:30~16:00
【テーマ】
「 つむぐ つなぐ 教育振興運動 」
【場所】金ケ崎町中央生涯教育センター 大ホール
~これまでの取り組みをつむぎ、5者の思いをつ
【内容】① 特別講義 ~地域をフィールドに!生活レベ
なげよう~
ルでの課題解決を!~
講師
岩手大学教育学部長
新妻
【期 日】平成 27 年1月 16 日(金)
二男 氏
【会 場】盛岡市民文化ホール・大ホール(マリオス)
【記念講演】「岩手と共に」
② パネルトーク ~想い出話、ほら吹き話で語
講師 IBC アナウンサー 菊池 幸見 氏
る金ケ崎町生涯教育への期待~
③
※
【事例発表】
連携事業紹介
1 学校・家庭・地域の連携による取組
参加される皆様については、受付にて「振興協会会員」とお知ら
2「復興教育」
「震災からの復興」
「いわて型コミュニティ・
せくださるようお願いします。
スクール構想」の取組
3 全県共通課題「読書活動の推進」の取組
助言者 岩手大学教育学部 学部長 新妻 二男 氏
当協会の元監事で県教委社会教育課課長
お願い
補佐や上田小学校長等を歴任された小水内
邦子様が、これまでの永年にわたる教育へ
の功労により
平成 26 年度会費(2,000 円)納入について、振込をよろしく
を受章されま
お願いします。(未納の方には振込用紙を同封いたしました。
した。謹んでお祝い申し上げます。
岩手県生涯学習振興協会
平成 26 年度会費納入について
行き違いの場合は、お許しください)
*会計処理上1月 30 日(金)までのご入金をお願いします。
会報 第 36 号
平成 26 年 12 月 26 日 発行
花巻市北湯口 2-82-13 (岩手県立生涯学習推進センター内)
4
電話 0198-27-4555
FAX
0198-27-4564
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