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貧困を生み出す原因を探る 貧困の原因としての近代植民地支配 現在も

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貧困を生み出す原因を探る 貧困の原因としての近代植民地支配 現在も
祖国よ祈りをささげてほしい。運なく倒れた人々に、
凄まじい暴虐を耐え忍んだ人々に、
悲痛にうめく哀れな母たちに、
親や夫をなくした人々に、拷問に苦しむ囚われ人に。
そしておまえ自身に祈りを。いつの日かお前が救済されるように。
Mi Ultimo Adios 「最後の別れ」 ホセ・リサール
貧困を生み出す原因を探る
私たちが支援しているフィリピンも、16 世紀から 20 世紀半ば
私たちは、発展途上国(フィリピン)の貧困問題の解決に取り
まで、スペインと米国の植民地となり、第二次大戦中は日本軍
組んでいます。生活していくうえで最低限必要な基本的ニーズ
に占領されました。植民地支配の下、民衆たちは奴隷労働にも
が満たされていない貧しい人々にモノやサービスを提供し、ニー
等しい重労働に従事させられ、貧しい生活を余儀なくされました。
ズを満たしたり、基本的人権が侵害されている貧しい人々(特に
抵抗するものは拷問され、処刑されました。スペインの植民地
女性や子ども)の人権を擁護したりする活動をしています。
支配からの独立を求めて闘い、スペイン軍に捕らえられ処刑さ
同時に、私たちは発展途上国が貧しい原因を探求してきまし
れたホセ・リサールが、処刑される直前に書いた詩の一節(上
た。貧しい人々の基本的ニーズが満たされなかったり、基本的
掲「最後の別れ」)は、当時の心あるフィリピン人の祖国を思う気
人権が侵害されたりすることの痛みには、それを生み出している
持ちが率直に表現されています。
原因があると私たちは考えます。この痛みと痛みを生み出す原
このような、西欧を中心とする一握りの「北」の国々が、アジ
因の関係は、病気にたとえることができるかもしれません。病気
ア・アフリカ・ラテンアメリカといった「南」の地域を植民地として
の人は身体に痛みを感じます。痛みを感じている人は、痛みを
支配した世界的資本主義システムが、現在にまで至る「南」の
和らげる薬を必要とします。私たちの基本的ニーズを提供する
国々の貧困の原因だと私たちは考えます。このシステムの結果
活動や基本的人権を擁護する活動は、痛みを和らげる活動と
として、「北」の国々は豊かになり、「南」の国々は貧しくなったの
言えます。でも、痛みを和らげる薬は、痛みの原因をなくすもの
です。
ではありません。原因は相変わらずそこにあり、すぐに別の痛み
が現れます。貧困問題でも同じことではないでしょうか。私たち
は、痛みを和らげる活動を行いながら、痛みを生み出す原因を
明らかにし取り除くことをめざしたいと考えているのです。
現在も続く、支配の構造
2012 年 7 月 22 日、フィリピンのマニラ湾岸にあるスモーキ
ーマウンテン(ゴミ投棄場)で、10 人の子どもの母親である一人
の女性が射殺されました。彼女は、ごみを拾ってリサイクルショ
貧困の原因としての近代植民地支配
ップに売ることで生計を立てている住民たちのリーダーでした。こ
それでは、発展途上国の貧困は、どのように生みだされ、な
のゴミ捨て場の土地はフィリピン政府が所有しているものですが、
ぜ現代に至るも無くならないのでしょうか。私たちは、発展途上
政府はその土地を民間企業に売り渡すために、住民たちに立ち
国の貧困の原因を、歴史的に形成されてきたものだと考えます。
退きを迫っていました。住民たちは立ち退きに反対していました
15 世紀末に始まる、近代植民地支配がそれです。当初スペイ
が、殺された女性は立ち退きへの反対をやめるよう幾度となく
ン・ポルトガル・オランダが植民地を拡大し、その後 18 世紀イギ
脅しを受けていました。(詳しくは P5、P14 をご覧下さい。)
リスの産業革命を経て、フランス・ドイツ・アメリカ・イタリア・ロシ
2010 年に発足したフィリピン・アキノ政権は、公共投資に民
ア・日本各国で産業革命が組織され、資本主義的機械制大工
間資本を導入する「官民連携パートナーシップ」を通じて、鉄
業のもと植民地支配が再編成されました。つまり、資本主義的
道・道路・空港・港湾などインフラ整備を進めようとしています。
生産のために必要な原材料を確保するために、また大量に生
これに対し、日本国際協力機構(JICA)は、2010 年 3 月、フィリ
産される商品の販売市場を確保するために、イギリス以下の列
ピン政府との間で、「開発政策支援プログラム」(92 億 2000 万
強諸国が植民地を必要としたのです。
円)の円借款貸付契約に調印し、官民連携事業の制度整備の
実現等を支援してきました。また、2011 年 10 月には、日本の大
広がった民衆の抗議行動は、長期にわたって支配してきた独裁
手都市銀行が 50 億ドル(約 4000 億円)規模の投資ファンドの一
政権を連鎖的に崩壊させました。その背景には新自由主義の下
部を、フィリピンの官民連携(PPP)プロジェクトに投融資する意向
で蓄積された生活の悪化があります。米国では、オキュパイ・ウォ
を表明しています。
ールストリート(ウォールストリートを占拠せよ)運動が、「我々は
そうした中、スモーキーマウンテンが位置するマニラ北港の再開
99%だ」というスローガンを掲げ、大衆的広がりを見せました。最
発計画が「官民連携(PPP)プロジェクト」の1つとして、進められよ
も裕福な 1 パーセントが米国の全ての資産の 34.6 パーセントを所
うとしています。2011 年 1 月には、フィリピンの巨大複合企業で、
有しており、次の 19 パーセントの人口が 50.5 パーセントを所有し
日本の大手ビール会社も主要株主となっているサンミゲル社が、
ている(2007 年)という格差の拡大への異議申し立てでした。日
マニラ北港を運営するマニラ・ノース・ハーバー・ポート社(MNHP
本でも、フクシマ原発事故という大きな悲劇のあとでさえ、政府の
I)の株式 35%を取得し、約 200 億ペソ(約 374 億 6,500 万円)
官僚や電力会社が金儲けを基準として原発を継続しようとしてい
を投入して北港に一大物流拠点「サンミゲル・シティー」を構築し
ます。まさに、生命と生活の場よりも、金儲けが優先であることを
たい考えを表明しました。さらに 2012 年 2 月、フィリピン政府は
如実に示したわけですが、これに対し全国で数十万の人々が抗
MNHPI 社による「マニラ北港湾プロジェクト」を受理しました。149
議行動に参加しています。
億ペソを投資して、マニラ北港湾を 6 年かけて開発・運営する事
私たちは、貧困問題を解決し、支配の構造を変えるのは、政府
業で、新品の荷役機械設備の設置およびアップグレードされた情
や国連機関、企業や金持ちの設立する財団などではなく、世界
報技術(IT)システムの整備などが行われます。
中の貧しい人たち自身であり、世界中の貧困問題を解決したいと
女性の殺害は、こうした巨額の金が動く中で起こりました。
願う一人ひとりの市民であると考えています。
日本では、戦後の福祉国家化の中で、貧しい人たちや福祉政
第二次大戦後、かつて植民地だった諸地域は次々と政治的
策の対象となる人々は、個々に分断され地域とのつながりを失い、
独立をかちとり、自らの国家を作りました。その後、自分たちの国
社会の周辺に追いやられ、行政に救済される対象となってしまい
で生産する資源は自分たちのものであるという資源ナショナリズム
ました。さらに 90 年代以降の新自由主義の流れの中で、若年層
が強くなり、例えば石油産出国の支配層は世界的な金持ちとなり
を中心として貧困層が拡大しました。市場の論理の中で「負ける」
ました。他方、多国籍企業の投資を受け入れることを通じて輸出
ことを余儀なくされ、財政悪化が進む中で救済すらも行われない
産業育成を推進することで、韓国、台湾、香港、シンガポール、
存在へと追いやられてきました。
近年ではブラジル、インド、中国のように、植民地だった諸国の中
から成長の軌道に入る国々も生じました。
貧しい人々、貧しい人々と共に問題を解決したいと望む人々は、
自らの力を強くし、ネットワークを作り上げることを通じて、行政に
フィリピンでも、90 年代以降新自由主義的政策の下、開発の
「お任せして文句をたれる」存在から、自分で「引き受けて考え、
波が押し寄せました。けれども、それは、豊かなものがますます豊
行動する」主体へと自己形成する必要があります。議員や官僚に
かになり、貧しいものとの格差がますます広がるような「開発」でし
お願いするのではなく、議員や官僚を使いまわす主体になる必要
た。大土地所有制に支配される農村はますます困窮し、職を求
があります。市場をコントロールし、もう一つの生産・流通・消費の
めて都市に流れてくる人々がスラムを形成します。そして、貧しい
あり方を創りだす主体になる必要があります。貧しい者、貧困や環
中にあっても、基本的人権の実現を求めて立ち上がる人々が、
境問題やエネルギー問題、世界的な富の配分の不公平の解決
巨大な利権の圧力によって殺されてしまう。形は変われど、豊か
を願う者が、国境を越えてネットワークを形成し、共に新しい世界
な人々が貧しい人々を支配する構造は政治的独立後も変わって
を創り出す事が求められています。
いません。
私たちは、微力ながら、国内外の貧しい人々と共に、あるべきオ
支配の構造を変える
ルタナテイブな社会を考え、平和で、基本的人権が実現され、貧
このような支配の構造を変える必要があります。とても大変なこ
困のない社会をめざして活動していきたい、そうした社会の実現
とのように思われるかもしれません。でも、実際の動きは既に始ま
っています。「アラブの春」と呼ばれる北アフリカから中東にかけて
を願う世界中の人々と共に歩みたいと願っています。
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