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イギリスにおける戦略的自治体の試み - Nomura Research Institute

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イギリスにおける戦略的自治体の試み - Nomura Research Institute
NRI Public Management Review
イギリスにおける戦略的自治体の試み
事業革新コンサルティング部
コンサルタント
小林
庸至
区があるのみでロンドンを代表する自治体が
1.はじめに
ない状態が続いていたが、2000 年にブレア政
行政は、厳しい市場環境にさらされていな
権によって GLA が設置され、再び二層制の
いため、サービスの質を高めたり、組織の効
地方行政が復活した(図表1参照)。GLA は、
率化を図ったりするインセンティブが働きに
以下の点で従来のイギリスの自治体とは異な
くい。そのため、行政評価の仕組みを導入し、
る新しいタイプの自治体である。
実施した政策や施策の評価結果をもとに、計
①イギリスで初めて市長公選制が導入された
画の修正・改定、実施体制の見直しを行う仕
②計画策定機能に特化し、住民に直接サービ
組み、いわゆる「Plan(計画)→Do(実施)
スを提供する執行機能を持たない
→See(評価)」のマネジメントサイクルを機
(但し、交通・経済開発・警察・消防に関
能させる必要がある。
しては、執行機能を担う組織を個別に設置)
近年、わが国の多くの地方自治体では、積
極的に行政評価の導入を進めている。しかし、
図表 1
ロンドンにおける地方行政の変遷
計画と評価指標がリンクしていないため評価
結果を計画にフィードバックできない、評価
報告書の作成が自己目的化してしまい評価結
果を活用できていない、計画が各部局からあ
がってきた目標の寄せ集めになっており戦略
1965∼86 1986∼2000
中央政府
中央政府
2000∼
中央政府
性に乏しいなどの問題点があり、サイクルが
有効に機能していない場合が多い。
本稿では、マネジメントサイクルが機能し
GLC
GLA
(Greater London
Council)
( Greater London
Authority)
ている例として、イギリスの GLA(Greater
London Authority)の事例を紹介し、わが国
区
区
区
の自治体においてマネジメントサイクルを機
( boroughs)
( boroughs)
( boroughs)
能させるための示唆を示したいと思う。
出所)野村総合研究所作成
GLA の組織構造を以下に示す(図表2参
2.GLAとは
照)。GLA は直接公選の市長と議会から構成
される二元代表制をとっており、市長と議会
イギリスでは、たびたび地方自治制度改革
が行われている。ロンドンにおいては、1986
の機能を支援する組織として GLA 本部が設
置されている。
年にサッチャー政権によって GLC(Greater
London Council)が廃止されて以降、33 の
NRI パブリックマネジメントレビュー May 2004 vol.10
−1−
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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図表2
GLAの組織構造
出所)野村総合研究所作成
市長にはこの提案を採用する義務はないなど、
1)市長
GLA 市長はイギリスで初めての公選市長
わが国の地方議会に比べ権限は限られている。
である。市長は、GLA の政策形成・決定、予
算案の編成、職員の選任などに非常に強い権
3)GLA本部
GLA 本部は、市長の政策形成機能、議会の
限を有している。
2000 年の第 1 回市長選では、労働党を離
監査機能を支援する役割を担っている。組織
れて無所属で立候補したケン・リビングスト
のトップは事務局長(chief executive)で、
ン(Ken Livingston)が初代市長に選ばれた。
その下に、政策形成のための調査研究や関連
任期は 4 年で、本年(2004 年)6 月に第 2 回
機関との調整を行う政策スタッフ(150 名程
の市長選が行われる。
度)、議会の監査機能を支援する議会スタッフ
(90 名程度)などが所属する。また、これと
は別に、市長の個人的な顧問として政策形
2)議会
議会は市長に対する監査機能を主に担って
成・決定に強い影響を及ぼす「政策アドバイ
いる。しかし、一部の議員は市長に任命され
ザー」や、個人秘書、プレス担当など市長の
て外部機関の執行を担っており、監査機能が
専属スタッフ(40 名程度)が所属する「市長
十分に発揮できるかどうか批判的な見方もあ
室(Mayor’s Office)」がある。GLA 本部全
る。また、市長に対するリコール権はなく、
体の職員数は 588 人(2003 年時点)である。
市長の決定に対して代替案を提示できるが、
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豊富な経験を評価されて採用された。その
4)外部機関
交通・経済開発・警察・消防に関しては、
他のスタッフも多様なバックグラウンドの
ロンドン全域を所管する 4 つの執行機関が設
持ち主が採用されている。一人ひとりの専
置され、これらは GLA の下部組織として位
門性が重視されるため、採用後のジョブロ
置づけられている。交通行政を担う「ロンド
ーテーションはない。
ン交通局(TfL)」と、経済開発や雇用の確保
を担う「ロンドン開発局(LDA)」の最高責
工夫2:政策課題ごとに政策チームを設置
任者は市長が務めている。また、警察行政を
GLA では、所管する分野ごとに固定的な
担う「首都警察局(MPA)」と防災行政を担
部局があるわけではなく、政策課題に応じ
う「ロンドン消防緊急事態計画局(LFEPA)」
て「政策チーム」を組織し、政策の検討に
の最高意思決定機関である委員会の委員の一
あたる。そのため、重視される政策課題が
部は、市長が議員の中から任命している。
変われば、それにあわせて政策チームが再
編される。そこで新たな人材が必要であれ
ば、その都度スタッフが公募される。この
3.政策形成・決定に関する組織構造上の工夫
ように、さまざまな政策課題に対応できる
ように柔軟な組織構造となっている。
中央政府は GLA の設立にあたり、コンサ
ルティング会社に委託し、ロンドンの新しい
自治体にふさわしい行政制度に関する調査を
工夫3:市長とそのブレインによりトップダウン
方式で意思決定
行った。その結果、民間コンサルティング会
GLA には、市長のブレインとして市長の
社が提案した「職員数 250∼300 人、年間予
政策形成に重要な役割を果たす「政策アド
算 2000 万ポンド程度の小規模で柔軟な組織」
バイザー」と呼ばれるポストが確保されて
との案が採用され、その案に沿って組織設計
いる。政策アドバイザーの人選は、実質的
が行われた 1 。GLA の組織構造には、政策形
に市長の独断で決めることができる。リビ
成能力を高め、意思決定の迅速化を図ること
ングストン市長は、市長選において選挙運
を意図した次のような工夫がみられる。
動の中核を担った自らの支持者を中心に、
人種、環境、都市再生などの専門家を政策
工夫1:専門性の高い人材を公募により登用
アドバイザーとして起用している。
GLA には定型業務はほとんどなく、政策
また、政策アドバイザーは、政策決定に
の立案や関連機関との協議が業務の中心で
おいても重要な役割を果たす。GLA におけ
あるため、スタッフには高い専門性が求め
る最高意思決定機関は、市長、事務総長、
られる。そのため、新卒の定期採用のよう
スタッフ部門のディレクター(5 名)、政策
な仕組みはなく、事務局長から一般のスタ
アドバイザー(5 名)の 12 名で構成される
ッフに至るまで、必要な知識・技能や給与
「 運 営 委 員 会 ( Mayor’s Management
などの条件を明示して公募される。現事務
Board)」であり、あらゆる提案は毎週開催
局 長 ア ン ソ ニ ー ・ メ イ ヤ ー ( Anthony
される運営委員会で合意を得る必要がある。
Mayer)は、行政および民間企業における
このように、公選市長が、自分の腹心の
1
GLA 設立当初、職員数は 250 名とされていたが、専門性の点でカバーしきれなくなってきたため、
2003 年時点では 588 名まで増加している。しかし、これでも一般の自治体に比べて小規模であるこ
とに変わりはない。
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人物を専属スタッフとして採用し、政策形
②長期的な方向性を示す「戦略計画」を策定
成に関与させる仕組みは、アメリカの大統
戦略計画には、具体的な目標と、目標の
領制や市長政治ではよく用いられる手法で、
達成度を評価するための定量的な業績指標
ニューヨークのジュリアーニ市長(1994∼
が示される。GLA は市長のトップダウンに
2001)やブルームバーグ市長(2002∼)も
よる意思決定が可能であるため、マニフェ
同様のスタッフを抱えている。このような
ストの内容を戦略計画に反映しやすい。実
仕組みは、市長の政策形成機能を高め、ト
際、リビングストン市長はマニフェストの
ップダウン方式による迅速な意思決定を可
中で「2010 年までにロンドン全域の交通量
能にするというメリットがある反面、政策
を 15%削減」と宣言しているが、これに対
形成・決定のプロセスが外部のみならず内
応して戦略計画で「混雑税の対象地域にお
部からも見えにくい、起用された人材が自
ける渋滞を 15%減らす」という目標を定め
治体のガバナンスに関する適性があるとは
ている。
限らない、などのデメリットもある。
③次年度の予算と事業計画をセットで示す
「予算・事業計画」を策定
戦略計画では長期的な(概ね 10 年)目
4.計画・評価プロセスにおける工夫
標が示されるのに対し、予算・事業計画で
は毎年度および中期的な(概ね 3 年)目標
1)GLAにおける計画・評価プロセス
が示される。予算・事業計画は、政策レベ
GLA では、市長選において発表したマニフ
ルではなく事業レベルの計画であるため、
ェスト(manifesto) をもとに 、 長期的な 目
指標としては、取り組みの進捗状況を客観
標を示す「戦略計画(Strategic Plan)」、短
的に把握できるよう、業務の実施期限が示
期・中期的な目標を示す「予算・事業計画」
される。
を作成する。また、取り組みの成果は、毎年
作成される「年次報告(Annual Report)」で
④一年間の取り組み内容と成果の達成度を
検証され、その結果をもとに次年度の方向性
評価する「年次報告」を作成
が定められる。
年次報告では、一年間に実現した成果(ア
ウトカム)と、成果の達成につながる GLA
①市長選においてマニフェストを発表
の取り組み内容(アウトプット)が示され
市長選において各候補者は当選後に実施
る。アウトカムの達成度は定性的な記述で
する政策をマニフェストとして発表する。
示され、アウトプットの達成度は「Yes/No
リビングストン市長は、2000 年の市長選で
(達成できた/達成できなかった)」で明確
発表したマニフェストの中で、
「 ホームペー
に示される。
ジを新しくし、london-mayor.com を創設」
「地下鉄運賃を 4 年間凍結」
「バス運賃を 4
年間凍結」
「警官を 2000 人増員」
「2010 年
2)計画・評価の実行性を高める工夫
GLA では、計画・評価のプロセスにおいて、
までにロンドン全域の交通量を 15%削減」
実行性を高めることを意図した次のような工
など、具体的な目標、定量的な目標やアウ
夫がみられる。
トカム的な目標を示している。
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工夫1:事業計画とあわせ、予算、達成期限、
が明示される(図表3参照)。これは、責任
の所在を明らかにして担当者の緊張感を高
達成の責任者を明示
予算・事業計画には、事業内容とともに、
めるとともに、責任に見合う予算を確保す
割り当てられた予算、達成期限、達成の責
ることで、計画の実行性を高めることを意
任を担う政策チームおよび責任者の個人名
図している。
図表3
計
予算・事業計画に示される目標(抜粋)
画
目
テムズ・ゲートウェイ(注:ロンドン東部に
建設予定の橋梁)の持続可能な開発と再生
担当:建築と都市問題対策チーム
(責任者:Richard Brown)
2012 年オリンピック候補地としての準備
担当:建築と都市問題対策チーム
政策サポートチーム
(責任者:Richard Brown)
工夫2:評価報告の中で、市民の声に対応す
標
2003∼2004 年
・LDA、TfL、中 央政 府、ロ ンド ン区、 その
他主要な関係者と協働しテムズ・ゲートウェ
イの開発推進のために取り組む(2003 年 9
月 30 日)
2003∼2006 年
・LDA、TfL、中 央政 府、イ ギリ スオリ ンピ
ック連盟と協働し、ロンドン東部でのオリン
ピック開催候補に向けて取り組む
示している(図表4参照)。事業レベルで市
民の要望を把握して、取り組みを行ってい
る取り組み内容を明示
年次報告の中で、当該年度にアンケート
る例は多いが、政策に対する市民の意識を
や協議等を通じて把握した市民の声に対し、
集約し、一対一対応で取り組みを示してい
どのような取り組みを行ったのかを一覧で
る例は珍しい。
図表4
目的と
優先事項
ロンドンを
より安全な
都市にする
ために
ロンドンの
都市再生を
リードする
ために
年次報告に示される市民の要望に対する対応(抜粋)
協議の性質/
協議される人
2003 年 ロ ン ド ン サ
ーベイ(注:GLA の
依頼により調査機関
の MORI が毎年ロン
ドン市民を対象に実
施するインタビュー
調査)
トラファルガー広場
の利用者約 1,000 人
を対象とした調査
(2002 年 10 月)
ロンドン市民の声
/キーメッセージ
ロンドン市民の 10 人に
6 人がロンドンの治安に
問題があると思ってい
る。
活動/戦略・開発政策
・その他の成果について
約 2,000 人の警察官が過去 2
年間に採用された。さらに
2004 年 3 月までに約 1,200
人採用する予定。
家庭内暴力対策戦略が実施
された。
利用者の 50%が交通問
題を最も大きな問題と
思っている。交通とアク
セスのしやすさは広場
にとって改善最優先課
題である。
トラファルガー広場の北側
は歩行者専用になった。
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工 夫3:評 価 報 告の中で、次 年 度 以 降の取り
(図表5参照)。これは、評価結果をフィー
ドバックして計画の見直しを行う「See」
組みを記述
年次報告では、当該年度の成果と取り組
→「Plan」の取り組みであり、マネジメン
み内容を定性的、定量的に記述するととも
トサイクルが機能していることを市民に明
に、その評価結果を踏まえて、次年度以降
示することを意図している。
に取り組むべき内容を具体的に示している
図表5
年次報告に示される当該年度の成果と次年度以降の取り組み(抜粋)
2002 年、2003 年にGLAが成し遂げたこと
2002 年 6 月、GLA はロンドンプランの草案を公聴の対象とした。この草案
の中で市長は、今後 15 年または 20 年にかけてのロンドンの再生・継続的発展
に関する目標を掲げた。各ロンドン区はこの計画に沿って自分たちの地域計画
を策定しなければならない。(以下、略)
2003 年、2004 年において達成を目指している計画
ロンドンプランの草案の広聴を完了させる。また、正式なロンドンプランの
作成に着手する。次に挙げるのは、広聴を経て作成された報告書に示された方
策である。
・ロンドンプランのガイドラインの作成
・ロンドンプランを進行管理するための情報活用方法の考案
・ロンドン整備データベースシステムの開発
・ロンドン区と共同で住宅供給量に関する研究の実施
・ロンドンプランの進行管理(以下、略)
5.わが国の自治体への示唆
流法」が成立し、行政と民間企業の間で人
以上、GLA の組織構造および計画・評価の
事交流を行う仕組みはできたが、数年後に
プロセスにおける工夫をまとめてきた。最後
戻ることを前提としており、これまでの出
に、GLA の取り組みのわが国の自治体への適
向と大きな違いがないのが現状である。官
用可能性を示唆したい。
民間および国・地方間の人事交流のあり方
を、完全な転籍をも含め、検討すべきでは
ないだろうか。
1)組織構造上の工夫
工夫1:専門性の高い人材を公募により登用
工夫2:政策課題ごとに政策チームを設置
欧米では、公務員の人材市場が確立して
わが国の自治体は計画策定とサービス提
おり、有能な人材はさまざまな省庁・自治
供の両方を担っており、同じ部署が政策形
体、時には民間企業で経験を積み、スキル
成とサービス提供の両方を行っている場合
アップしていく。ある自治体で経験を積ん
も多く、完全にチーム制に移行することは
だ人物が、別の自治体の上位ポストに転職
難しい。しかし、重要な政策課題について
できるような仕組みが成り立っているので
は、専門性の高い職員による時限的なチー
ある。
ムを結成して政策形成にあたることはでき
わが国でも、平成 12 年に「官民人事交
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るのではないか。
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工 夫3:市 長 とそのブレインにより、トップダウ
工夫2:評価報告の中で、市民の声に対応す
る取り組み内容を明示
ン方式で意思決定
GLA では、市長が強いリーダーシップを
わが国の自治体は、GLA と異なり、住民
発揮し、マニフェストに基づいて政策や目
に対して直接サービスを提供しているため、
標を決定している。しかし、わが国では、
自治体に対する住民の要望を把握しやすい。
首長がトップダウンで戦略を策定するので
把握した住民のニーズを組織内部で活用し、
はなく、各部局から寄せられる政策や目標
政策に反映させていくことはもちろんであ
を合わせて自治体の計画とすることが多い。
るが、どのように対応したのかを住民に対
しかし、そのようなやり方をした場合、部
して明示すべきではないか。わが国の自治
局の縦割りや所掌する事務範囲の中で目標
体の首長も直接公選で選ばれており、住民
が決められるため、重視すべき政策課題が
に対する説明責任は GLA 市長と同様に負
埋もれてしまう可能性がある。わが国の自
っているのである。
治体でも、首長がリーダーシップを発揮し
て、戦略決定に積極的に関わっていく必要
工 夫3:評 価 報 告の中で、次 年 度 以 降の取り
組みを記述
があろう。但し、ブレインの登用に関して
は、人選の妥当性、政策形成および政策決
わが国でも、行政評価制度を導入する自
治体は増えてきているが、評価制度が複雑、
定における透明性の確保が課題である。
評価結果を計画の見直しに反映させる仕組
みが設計されていない等の理由から、評価
2)計画・評価プロセスにおける工夫
をしただけで終わっているケースが多い。
工夫1:事業計画とあわせ、予算、達成期限、
評価は目的ではなく手段であり、評価が自
己目的化してしまっては意味がない。評価
達成の責任者を明示
計画と予算を連動させ、計画の実行性を
高める手法は「業績予算制度(Performance
と今後の取り組みの洗い出しはセットで行
うべきである。
based budgeting)」と呼ばれ、わが国でも
いくつかの自治体で導入が進んでいる。し
かし、責任の所在まで計画の中で明示して
いる例は見られない。GLA ではジョブロー
テーションがないため、担当者が他の部署
に移ってしまうことはないが、わが国の行
政組織では数年で担当部署を変わることが
多く、計画期間とジョブローテーションの
期間とは必ずしもリンクしているわけでは
ないため、責任の所在が曖昧になりがちで
ある。しかし、たとえ担当者が変わったと
しても、引き継ぎが行われていれば、担当
者が変わっても責任の所在が曖昧になるこ
とはないはずである。計画中に責任の所在
筆 者
小林 庸至(こばやし ようじ)
事業革新コンサルティング部
コンサルタント
専門は、公共政策、都市計画
を明示するのは、十分可能である。
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