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光ファイバー先端部高温発生によるレーザー加熱推進機

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光ファイバー先端部高温発生によるレーザー加熱推進機
H25 年度宇宙輸送シンポジウム STEP-2013-074
光ファイバー先端部高温発生によるレーザー加熱推進機
○近藤圭佑(東海大・院),原嘉宏,浜田裕史,大澤隼(東海大・学),堀澤秀之(東海大・工)
Keisuke Kondo, Yoshihiro Hara, Hirofumi Hamada, Hayato Osawa, Hideyuki Horisawa
(Department of Aerospace Engineering, Tokai University)
Abstract
Studies on a novel microthruster with fiber tip heat source excited by a semiconductor laser were conducted. In the field of
laser medical technology, the high temperature source formed by laser is used for the skin surgery. One of the technologies to
form high temperature heat source is fiber tip heat source excited by a semiconductor laser. This study aimed at the development
of the small and high performance propulsion system applied this technology. In this report, the thermal simulations are
conducted to optimize the condition and the development of the prototype was also conducted.
1.
はじめに
である.この技術はレーザーによって,生体の切除や切
年間に打上げられる超小型衛星の数は年々増加傾向に
断を行うレーザー医療の分野において利用されており,
あり,特に 2013 年は 92 機の超小型衛星が打上げられ,
図1に示した Jeisys 社の Plasma Lipo に代表されるように
前年の 33 機と比較し,急激に増加した.今後も予測によ
既に医療分野では実用化されている.
れば,商業利用が拡大し,打上機数ベースで平均年 23.8%
の成長が見込まれている.1) 実用利用の拡大や衛星技術
の向上を背景として,衛星ミッションの多様化・高度化
に進んでおり,ミッション需要に対応するため,各国で
超小型衛星搭載用の推進機の開発が進められている.
一方で,超小型衛星はリソースが非常に限られており,
搭載機器はシステムサイズや消費電力の面で強い制約を
図 1 Jeisys 社 Plasma Lipo
受ける.一方で推進機は厳しい制約の中でミッション要
求を満たす推進性能を発揮しなければならない.本研究
Jpn. J. では,このような課題に対し,新たに半導体レーザーに
Appl. Phys. 52 (2013) 052501
よる光ファイバー先端部高温発生を用いたレーザー加熱
原理としては,まず,図 2 のように光ファイバー先端
T. Fujimoto et al.
部にレーザーの吸収剤として酸化チタンを融着する.
Table I. Specifications of semiconductor laser source and optical fiber.
推進機を提案し,その概念を実証実験結果について述べ
Light source
Semiconductor laser
る.
Wavelength ! (nm)
Power P (W)
2.
TP fiber
980
1–30
Operation mode
CW
Laser
irradiation
Fiber
光ファイバー先端部高温発生
On time 1–1000 ms
2.1 光ファイバー先端部高温発生技術
Quasi-CW
repeat
Off time 1–1000 ms
Optical fiber
SiO2 fiber, Multimode
Core diameter ’ (!m)
400
Exit
Powder sheet made of TiO2
図 2 光ファイバーへの酸化チタンの融着
Fig. 1. (Color online) Conceptual drawing of fiber tip processing with
光ファイバー先端部高温発生は,半導体レーザーによ TiO2 powder.
NA って光ファイバーの先端部に高温の熱源を形成する技術
0.2
the temperature at the tip and a comparison of fusing
models.21–26) The detail of physics in absorption coefficient
change in optical fibers dependent on their temperature has
27)
酸化チタン粉末のシートに光ファイバーの先端部を接
(a)
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触させ,レーザーを照射することで光ファイバーの先端
部に酸化チタンが融着される.酸化チタンが融着された
状態で,レーザーを照射すると,光ファイバー先端部の
酸化チタンがレーザー光を吸収し,加熱される.これに
より,光ファイバーの先端部に高温源が形成される.高
温源の温度は,2.2 項で後述するように藤本らが行った赤
外線放射計測による温度測定の結果によると,最高で約
3000K 以上に到達することが報告されている.2)
2.2 ファイバー端面の温度解析
図 4 解析結果と実験結果の比較
ここでは,まずファイバー端面の温度を熱解析により
求めた.図 3 に熱解析の条件を示す.
解析結果の傾向は実験による温度測定の結果と良く一
致しており,0.18 [s]において温度は最大となる.実験で
は最高温度が約 3000 [K]であるのに対して,解析では
3500 [K]以上となっているが,これは解析においてファイ
バー側面からの熱的損失を考慮していないためと考えら
れる.また,ファイバー径をそれぞれ 100 [μm],10 [μ
m]とし,レーザー光強度を 0.3 [W],0.003[W]とした結果
図 5 を示す.熱入力の継続時間や解析時間間隔は同様で
図3 熱解析条件
ある.
光ファイバーを石英ガラス製の円柱としてモデル化し,
その端面にレーザー光強度に相当する熱入力があると仮
定し,光ファイバーの端面及び端面から光ファイバー内
部に一定距離離れた位置の温度推移を解析した.熱入力
は,図 1 に示した機器の動作条件から一定の熱入力が 0.18
[s]継続し,その後,熱入力はないものとして 0~0.3 [s]ま
で 0.02 [s]の計算間隔で解析を行った.なお,光ファイバ
ーの周囲境界条件は断熱的と仮定した.ファイバーのコ
ア径は 400 [μm],熱入力は 6 [W]としている.
熱解析の結果と実験による温度測定の結果 2)を比較し
たものを図4に示す.
(a) ファイバーコア径 100 [μm],
レーザー光強度 0.3 [W]
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ーを挿入する.レーザー端面にレーザー光の吸収体とな
る物質を継続的に供給する必要があるため,液体推進材
にレーザー光のアブソーバとして機能する物質を混合し,
推進材とともに光ファイバーの先端部に供給する.光フ
ァイバーを通して,レーザーを照射すると,アブソーバ
がレーザー光を吸収し,加熱され,液体推進材を加熱す
る.生成された高温ガスはノズルを介して,熱力学的に
加速され,推力を得る.
液体推進材を用いるため,固体推進材と比較して推進
の貯蔵・供給に関わるシステムは複雑であるが,一方で
スラスタヘッドの構造は非常に単純であり,低電力で高
い推進性能を得る事ができる.
(b) ファイバーコア径 10 [μm],
レーザー光強度 0.003 [W]
図 5 ファイバー端面の熱解析結果
3.2 概念実証実験
推進機の概念を実証するため,図 7 に示すような簡易
的な実験モデルを構築した.
図 5(a) (b)両方の場合において,ファイバー端面の最高
到達温度が約 3000K となっており,ファイバーコア径を
細くすることにより,より低消費電力で高温源を形成で
きる可能性が示唆された.
3.
レーザー加熱推進機
図 7 実証実験
3.1 推進原理
本研究では,2 節で述べた光ファイバー先端部高温発
生を用いたレーザー加熱推進機を新たに提案する.推進
推進材の貯蔵部の底部に配管(φ0.85 [mm]) を挿入し,
機の概念図を図 6 に示す.
重力により推進材を滴下する.半導体レーザー (808
[nm])に接続されたコア径 400 [μm] の光ファイバーを介
して,レーザー光を照射することで液体推進材が加熱さ
れる.レーザーは CW で運用し,出力は 10[W] とした.
推進材には水を用い,アブソーバとして黒色塗料を添加
している.また,実験は大気圧環境下で行われた.図 8
にその結果を示す.
図 6 推進機の概念図
推進機の構造としては,推進材の流路内に光ファイバ
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熱的であると仮定して,配管の出口面における温度を解
析により求めた.なお解析には,Autodesk Simulation CFD
を使用した.解析結果を図 10 に示す.
図 8 概念実証実験の様子
実験の結果,蒸気の生成が確認され,3.1 項の原理を用
いて,推進材を加熱できることを確認した.しかし,流
量が無制御であるため,レーザー強度に対して流量が大
きく,気化するためにレーザー光強度を 10 [W]要した.
図 10 熱流体解析の結果
3.3 熱解析
3.2 項で述べたように,概念実証実験においては,流量
図 10 より,レーザー光強度 3W とした場合,推進材流
が必要以上に大きく,推進材の気化に大きなパワーを要
量が 8.3 [mg/s]の場合では出口端面において水の温度が
した.そのため,熱解析により,最適な推進材流量とレ
沸点である 100 [℃]に達せず,推進材を気化できないこと
ーザー強度の最適化を試みた.図 9 に解析のモデルを示
がわかる.一方で,推進材流量を小さくし,1.6 [mg/s]と
す.
した場合,推進材の出口面温度は 100 [℃]に達し,推進材
を気化できることがわかる.
一方で,定常的な熱源を仮定しているのにも関わらず,
時間 10~15 [s]の間において,一度上昇した温度が下降す
る現象が見られる.この原因は分かっておらず,またこ
のモデルでは液相のみを取り扱い,気液混相流を考慮で
きていないため,今後さらに 2 相流を考慮に加えたモデ
ルで解析を行う必要がある.
3.4 推進材流量及びレーザー光強度の最適化
図 9 熱解析モデル
3.3 項の解析結果を確認するため,実験を行った.図
11 に実験装置図を示す.
2.2 項における熱解析と同様にコア径 400μm の光ファ
イバーをモデル化し,その端面にレーザー光強度相当の
熱源があると仮定した.ここでは,その周囲に径 0.85
[mm]の配管を想定し,内部には推進材として液体の水が
一定流量で流れているとする.配管内壁の境界条件は断
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まとめ
超小型衛星への推進機搭載を目的として,新たに光フ
ァイバー先端部高温発生を用いたレーザー加熱推進機の
概念を提案し,その検証や基礎的な実験を行った結果に
ついて報告した.
光ファイバー先端部高温発生は医療技術として用いら
れているものであり,実験により数 W 程度でも局所的に
3000 [K]以上の高温を得られることが明らかとなってい
図 11 実験装置図
る.また,さらに熱解析により,ファイバーコア径を細
3.2 項と同様のステンレス製の配管(内径 0.85mm)に半導
くすると,高温領域が小さくなるものの,1 [W]以下の低
体レーザー(808nm)に接続された光ファイバー(コア
電力でも高温源が形成できる可能性が示唆されており,
径 600[μm])を挿入した.本実験では点滴装置を用いて
超小型推進機の熱源として最適であると考えている.
推進材流量を制御し,水に黒色塗料を添加したものを推
この技術を用いて,液体推進材を加熱することにより
進材として使用した.ここでは,レーザー光の強度は 3
推力を得るレーザー加熱推進機の概念を提案し,その概
[W]とし,流量を変化させ,気化せずに出口面から排出さ
念が有効であることを実験的に確認した.また,解析と
れる液量を調べた.その結果を表1に示す.
実験の両面から最適なレーザー光強度と推進材流量の最
適化を試みた.
表 1 推進材流量及び
現時点では,解析モデルが非常に単純であり,また実
流量
未蒸発液量
残量比率
験データも不足しているため,今後も継続してレーザー
[mg/s]
[mg/s]
[%]
光強度と推進材流量の最適化を行うとともに,推進機の
9.3
8.8
95
実験モデルを改良し,推進性能の測定なども行っていく
3.6
1.8
51
1.7
0.6
36
0.95
0
0
予定である.
参考文献
1)
Market Assessment”, (2014)
表1より流量が 9.3 [mg/s]では 95%が十分に加熱され
ず,液体のまま排出されてしまうが,流量を 0.95 [mg/s]
まで減少させると,気化されずに排出される液量が 0 と
なり,十分に加熱がなされていることがわかる.
熱解析の結果と比較すると,レーザー光強度が 3 [W]
Spaceworks Enterprize, Inc., “2014 Nano/Microsatellite
2)
T. Fujimoto et al., “Development of A Semiconductor
Laser Based High Temperature Fine Thermal Energy
Source in an Optical Fiber Tip for Clinical Applications,”
Jpn. J. Appl. Phys., 52 (2013)
の場合,解析では推進材流量が 1.6 [mg/s]の場合でも推進
材が完全に気化される結果が示されていたが,実験では
推進材流量が 1 [mg/s]の場合で完全に推進材が気化した.
これは,解析では配管内壁からの熱的損失やレーザー光
の物質に対する吸収率を考慮していないため,解析結果
の流量よりもさらに推進材流量を小さくする必要があっ
たと考えられる.
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