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福井勝彦、加藤祐司、五十嵐弘昌、磯部裕成、吉田晃敏

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福井勝彦、加藤祐司、五十嵐弘昌、磯部裕成、吉田晃敏
日本医学写真学会雑誌 (2000.02) 38巻1号:P1~9.
共焦点レーザー走査検眼鏡(SLO)による眼底撮影の臨床的有用性第2
報(間接光による形態的検索)
福井勝彦、加藤祐司、五十嵐弘昌、磯部裕成、吉田晃敏
共焦点レ-ザ-走査検眼鏡(SLO)による眼底撮影の臨床的有用
性 第2報 間接光による形態的検索
福 井 勝 彦 1), 加 藤 祐 司 1), 五 十 嵐 弘 昌 2), 磯 部 裕 成 3), 吉 田 晃 敏 1)
旭 川 医 科 大 学 眼 科 学 講 座 1 ) ,釧 路 赤 十 字 病 院
眼 科 2 ) ,旭 川 医 科 大 学 脳 神 経 外
科 学 講 座 3)
Clinical Usefulness of Scanning Laser Ophthalmoscope for Taking Images of
the Ocular Fundus. Ⅱ ( A Method for Examination of Fundus Morphology by
Indirect Light)
Katsuhiko Fukui 1 ) , Yuji Katou MD,Ph.D 1 ) , Hiromasa Igarashi MD,PhD 2 ) . . , Akit
oshi Yoshida MD,Ph.D 1 ) ,
1)
Department of Ophthalmology Asahikawa Medical College
(2-1-1 Midorigaokahigasi Asahikawa 078-8510, Japan )
2)
Kushiro Red Cross Hospital
(21-14 Shineimachi Kushiro 085-0032,Japan )
3)
Department of Neurosurgery Asahikawa Medical College
(2-1-1 Midorigaokahigasi Asahikawa 078-8510, Japan )
: Abstract
We investigated the usefulness of a method for examining a protruding lesion o
n the yellow spot and for examining the morphology of the retinal surface using
the dark-field aperture of a scanning laser ophthalmoscope. The cases examined
were branch retinal vein occlusion, posterior uveitis, preretinal fibrosis and macu
lar hole. A diode laser at 780 nm was used for the beam, and imaging was perfo
rmed at an angle of
20 degrees using a ring aperture with a close aperture of
4 mm. Images taken using a dark-field aperture are made by blocking direct refl
ected light and only allowing indirect reflected light to pass through the ring ap
erture. In this method, the indirect reflected light causes a slight phase lag betw
een the flat part and protruding part retina due to refraction and diffraction on t
he uneven surface of the protruding part. And the image obtained from conversio
n by electrical signals of optical data collected in the light detector has a threedimensional-like appearance in that part due to very sharp contrast. This contrast
is further enhanced by using a long-wave diode laser beam.
For focus-shifting
observation of the retinal surface, this method enables three-dimensional-like rep
roduction of the uneven surface of the retina and provides useful clinical inform
ation.
Key word: dark-field aperture; dark-field mode; fundus photography, scanning la
ser ophthalmoscope; cystoid macular edema
Ⅰ. 緒 言
対物レンズを照明光学系と撮影光学系で共用する同軸照明方式や
撮影のみに使用する分離照明方式による従来からの眼底カメラ、瞳
孔領から眼底全体を照明し眼球の透光体越しに眼底からの反射光を
一 度 に 撮 影 1) す る た め 、眼 底 か ら の 散 乱 光 や 角 膜 や 水 晶 体 の み な ら ず
眼底カメラの光学系そのものからの反射はフレーアーやゴーストと
なり画像を低下させる。さらに中間透光体の前房、水晶体、硝子体
の濁りに起因したチンダル現象は、眼底に入射する光に比べて極め
て反射率の少ない眼底からの反射光を遮り眼底所見を不明瞭化させ
る。撮影系にレンズを使用せず、眼底をレーザー光で高速走査し、
その反射を高感度の光電子増幅管で捉えて画像に再構築する走査型
2-4)
レ ー ザ ー 検 眼 鏡 scanning laser ophthalmoscope( SLO) は 、検 出 器 の 前 に
点光源と共役な位置に絞りを設置することにより反射光から直接的
反 射 光 も し く は 間 接 的 反 射 光( 散 乱 光 )を 捉 え る こ と が 可 能 で あ る 。
レーザースポットの合焦点部位と共役な直接的反射光だけを小開口
径 ( open aperture) を 通 過 さ せ る 共 焦 点 方 式 ( confocal mode) 5,6) は 、
眼光学系による反射や散乱光の影響を受けにくくコントラストの高
い 眼 底 所 見 が 観 察 7-14) で き 、 開 口 径 の 大 き さ で 焦 点 深 度 を 変 化 さ せ る
ことができる。一方、リング絞りを通過ざせて間接的反射光を選択
す る 暗 視 野 方 式 で は 、 長 波 長 の レ ー ザ ー の 波 長 特 性 15-17) に よ り 網 膜 色
素上皮を透過し三次元構築の脈絡膜血管の観察に適しているが、そ
の 臨 床 的 な 有 用 性 と し て の 報 告 10) は 少 な い 。今 回 我 々 は 、暗 視 野 絞 り
を用いて黄斑部に隆起性病変を伴う疾患に対し、解像力の高い撮影
14)
倍 率 で 焦 点 を 移 動 す る こ と に よ り 網 膜 表 層 の 検 索 法 を 検 討 し た 。本
法 で は 、 SLOの 共 焦 点 絞 り に よ る 眼 底 観 察 と は 異 な る 所 見 が 得 ら れ 、
網膜表層の立体的観察に優れており、従来の眼底カメラによる画像
では観察できなかった新たな情報として間接光による形態的検索法
の有用性を報告する。
Ⅱ.対 象 と 方 法
1.対象
対 象 と し て 網 膜 静 脈 分 枝 閉 塞( 症 例 1)、後 部 ぶ ど う 膜 炎( 症 例 2)、
網 膜 前 線 維 症 ( 症 例 3) 、 黄 斑 円 孔 ( 症 例 4,5) の 症 例 を 対 象 と し た 。
2.撮影装置
撮 影 装 置 は 、ロ - デ ン ス ト ッ ク 社 製( Rodenstock,Ottobrunn, Germa
ny) の 走 査 型 レ ー ザ ー 検 眼 鏡 scanning laser opthalmoscope( SLO) で
行った。
3.撮影方法
SLOによる画像の検出方法は、レーザーで眼内を走査し焦点の
合った面だけを取り込まない。リング絞りは、絞りの中央を遮断す
ることで、焦点を合わせた部位からの反射光を遮断し、その前後か
らくる反射光および散乱光を選択して通過させて画像を形成する。
共 焦 点 絞 り と 暗 視 野 絞 り に よ る 撮 影 原 理 12.14) の 模 式 図 を 示 す( 図 1a)。
撮 影 光 源 と し て は 、長 波 長 の ダ イ オ ー ド レ ー ザ ー( 780nm)を 用 い 遮
断 径 は 4mmの リ ン グ 絞 り で 解 像 度 の 高 い 20度 の 撮 影 画 角 で 行 っ た 。
比較対照として眼底カメラによるカラー眼底撮影とフルオレスセイ
ン 蛍 光 眼 底 撮 影 お よ び SLOの 共 焦 点( 開 口 )絞 り に よ る 撮 影 を 行 っ た 。
カ ラ - 眼 底 撮 影 は 、広 角 撮 影 用 の キ ャ ノ ン 社 製 眼 底 カ メ ラ CF60-Z(Ca
non, Tokyo, Japan)、 も し く は ニ コ ン 社 製 RETINAPAN-45Ⅱ(Nokon, T
okyo, Japan) を 用 い た 。 フ ル オ レ セ イ ン 蛍 光 眼 底 撮 影 は フ ル オ レ ス
セ イ ン ナ ト リ ウ ム ( フ ル オ レ サ イ ト 注 射 液 1 号 ( Alocn Tex, U.S.A.)
500mg/5mlを 正 肘 静 脈 か ら 注 射 後 、既 存 の 方 法 に 従 い キ ャ ノ ン 社 製 の
CF60-Zも し く は 撮 影 画 角 30度 の カ ー ル ツ ァ イ ス 社 製 の 眼 底 カ メ ラ (C
arl Zeiss, Oberkochen, Germany)で 撮 影 を 行 っ た 。 SLOの 共 焦 点 絞 り
に よ る 撮 影 は 、 開 口 径 2mmを 用 い て 撮 影 画 角 40度 で 行 い 、 詳 細 な 観
察 に は 解 像 度 の 高 い 撮 影 画 角 20度 で 対 象 と な る 疾 患 の 病 変 部 が 最 も
鮮 明 に 写 し 出 さ れ る よ う に ア ル ゴ ン ブ ル ー( 488nm)、ヘ リ ウ ム ネ オ
ン ( 633nm) 、 ダ イ オ ー ド ( 780nm) の レ ー ザ ー 光 で 撮 影 を 行 っ た 。
( 図 2a)
Ⅲ. 結 果
1. 網 膜 静 脈 分 枝 閉 塞 症 ( 症 例 1)
網膜中心静脈の分枝が閉塞し、その支配領域に火炎状の出血が認
められた網膜静脈分枝閉塞症のカラー眼底写真を示す。水晶体の混
濁により眼底所見は不明瞭であったが黄斑部に病変が確認された
( 図 2 a) 。 フ ル オ レ ス セ イ ン 蛍 光 眼 底 撮 影 の 後 期 像 で は 、 火 炎 状 の
出 血 が 認 め ら れ た 下 耳 側 血 管 領 域 に 蛍 光 漏 出 お よ び stining( 組 織 染 )
が 観 察 さ れ た が 黄 斑 部 所 見 は 不 明 瞭 で あ っ た( 図 2b)。SLOに よ る ダ
イオードレーザーの暗視野絞りによる画像では、長波長の波長特性
で 間 接 光 を 捉 え る た め 脈 絡 膜 血 管 が 立 体 的 に 観 察 で き た ( 図 2c ) 。
一 方 、 解 像 度 の 高 い 20 度 の 画 角 で 網 膜 表 層 に 焦 点 移 動 し て 詳 細 に 詳
細に観察すると、黄斑部に不整円形の嚢腫状の黄斑浮腫が立体的に
観 察 で き た ( 図 2d) 。
2. 後 部 ぶ ど う 膜 炎 ( 症 例 2)
後部ぶどう膜炎のカラー眼底写真を示す。脈絡膜の炎症性疾患に
より虹彩毛様体炎が併発した症例で、中間透光体の硝子体は混濁を
伴 い 詳 細 な 眼 底 観 察 は 困 難 で あ っ た ( 図 3a) 。 フ ル オ レ ス セ イ ン 蛍
光 眼 底 撮 影 の 後 期 像 で は 、 黄 斑 周 囲 の 網 膜 毛 細 血 管 から の 透 過 性 亢 進
に よる 漏 出 液 から網 膜 神 経 上 皮 層 に貯 留 し、 中 心 窩 の周 囲 に 多 数 の 微 小
類 嚢 胞 腔 (microcystoid space)が散 在 した嚢 胞 様 黄 斑 浮 腫 が 観 察 で き
た( 図 3b)。SLOの ダ イ オ ー レ ー ザ ー を 用 い た 共 焦 点 絞 り に よ る 観 察
で は 、硝 子 体 混 濁 に よ る 散 乱 光 は 遮 断 網 膜 血 管 や 滲 出 斑 が 捉 え ら れ 、
さ ら に 黄 斑 部 が 楕 円 形 に 障 害 さ れ て い る 所 見 が 観 察 で き た( 図 3c)。
一方、暗視野絞りによる観察では、フルオレスセイン蛍光眼底撮影
で 捉 え ら れ た 黄 斑 部 中 心 窩 の嚢 胞 様 黄 斑 浮 腫 は 花 弁 状 の 形 態 を 示 し 、
それを取り囲んで黄斑部は隆起性を伴った浮腫として観察できた
( 図 3d) 。
3. 網 膜 前 線 維 症 ( 症 例 3)
病初期の網膜前線維症のカラー眼底写真を示す。本症は網膜のグ
リ ア 細 胞 18)が 網 膜 内 境 界 膜 の 断 裂 部 よ り 網 膜 表 層 へ の 細 胞 増 殖 が 原
因となり、膜の形成とともに増殖や収縮を病変とする疾患で、黄斑
部 に は 半 透 明 な 牽 引 を 伴 っ た 膜 様 物 が 観 察 で き た ( 図 4a ) 。 フ ル オ
レスセイン蛍光眼底撮影では、蛇行した黄斑部の毛細血管が明瞭に
観察でき、強く牽引された病巣部は造影初期で過蛍光を示し、造影
後 期 で は 、蛍 光 色 素 の 漏 出 が 観 察 さ れ た( 図 4b)。SLOに よ る 画 像 所
見は、網膜表層の観察に適した波長の短いアルゴンブルーの共焦点
絞 り に よ る 観 察 で は 、前 線 維 膜 が 明 瞭 に 観 察 さ れ た( 図 4c)。一 方 、
暗視野絞りによる観察では、線維膜の牽引により黄斑部の周辺部に
線 維 膜 の 収 縮 に よ る 線 状 の 網 膜 の 雛 壁 が 観 察 さ れ た ( 図 4d) 。
4. 陳 旧 性 の 黄 斑 円 孔 ( 症 例 4)
円 孔 底 に 黄 色 の 小 沈 着 物 と 円 孔 周 辺 に halo( 暈 ) を 形 成 し て い た
陳 旧 性 の 黄 斑 円 孔 の カ ラ ー 眼 底 写 真 を 示 す ( 図 5a) 。 フ ル オ レ ス セ
イ ン 蛍 光 眼 底 撮 影 で は 、 円 形 欠 損 し た 網 膜 を 透 見 (window defect) し
て 後 方 の 脈 絡 膜 背 景 蛍 光 が 観 察 で き 、円 孔 周 辺 部 の haloは 網 膜 色 素 上
皮 の 萎 縮 に よ り リ ン グ 状 の 淡 い 過 蛍 光 を 示 し た ( 図 5b) 。
SLOの 共 焦 点 絞 り に よ る 画 像 所 見 は 、散 乱 光 が 制 限 さ れ 、ヘ リ ウ ム ネ
オ ン レ ー ザ ー で は 、円 孔 縁 が 黒 く 輪 郭 の 明 瞭 な 2個 の 円 形 病 変 が 観 察
で き た ( 図 5c 左 ) 。 ま た 、 長 波 長 の ダ イ オ ー ド ー レ - ザ ー で は 、 に
よる共焦点絞りによる観察では、円孔を透見し円孔底の形状を明瞭
に 捉 え て い た ( 図 5c右 ) 。 暗 視 野 絞 り に よ る 観 察 で は 、 2個 の 円 形 病
変と円孔周辺部の薄い網膜剥離部の拡がりと表層を立体的に捉えて
い た ( 図 5d) 。
5. 後 部 硝 子 体 未 剥 離 の 黄 斑 円 孔 ( 症 例 5)
眼 底 に 境 界 明 瞭 な 横 経 約 300μmの 黄 斑 円 孔 の カ ラ ー 眼 底 写 真 を 示
す。黄斑部の後部硝子体は未剥離で硝子体の牽引により円孔縁の網
膜 が 隆 起 し 、 そ の 周 囲 に halo( 暈 ) と 周 辺 部 に 約 1.5視 神 経 乳 頭 横 径
の 大 き さ の 網 膜 神 経 上 皮 剥 離 部 が 観 察 で き た ( 図 6a) 。 フ ル オ レ ス
セイン蛍光眼底撮影では、円形欠損した網膜を透見して後方のの脈
絡 膜 背 景 蛍 光 が 観 察 で き た ( 図 6b) 。 ダ イ オ ー ド ー レ ー ザ ー の 共 焦
点 絞 り に よ る 観 察 で は 、円 孔 の 周 り の haloは コ く ン ト ラ ス ト が 高 く な
り、さらに、円孔周辺の網膜神経上皮の剥離部は正常網膜と明瞭に
区 別 さ れ た ( 図 6c) 。 暗 視 野 絞 り に よ る 観 察 で は 、 円 孔 周 囲 の 剥 離
した網膜神経上皮は円孔を中心として同心円上に配列した花弁状の
皺 襞 と し て 立 体 的 に 観 察 で き た ( 図 6d) 。
Ⅳ. 考 察
走 査 型 レ - ザ - 検 眼 鏡 scanning laser opthalmoscope( SLO) は 、 瞳
孔から入射するレーザースポットが小さく、羞明を軽減させて眼底
の 診 断 や 記 録 が で き た が 初 期 の SLOは 、瞳 孔 全 体 で 反 射 光 を 受 光 し た
ため散乱光の影響が大きく、画像の解像度に問題があった。散乱光
を 制 限 す る た め 共 焦 点 方 式 ( confocal mode) が S L O に 採 用 さ れ 、
点 光 源 と 共 役 な 位 置 に 開 口 絞 り (open aperture)を 設 置 す る こ と に よ
り、合焦点部位だけを画像として捉えることができ、コントラスト
の高い眼底画像を得ることが可能となった。さらに、開口径を変換
す る こ と も 可 能 で あ る 。 一 方 、 今 回 我 々 が 検 討 し た 暗 視 野 絞 り ( dar
k-field mode) に よ る 画 像 は 、 共 焦 点 絞 り と は 逆 に 、 口 径 の 中 心 部 を
遮 断 1)す る こ と に よ り リ ン グ 状 に 光 を 透 過 さ せ て 合 焦 点 部 位 か ら の
直接的反射光を遮断し、その周りの環は合焦点部位の前後からの直
接的反射光および間接的反射光(散乱光)を透過させることによっ
て形成している。すなわち、屈折率のゆるやかな勾配がある隆起性
の病変部では、合焦点部位の前後からの直接的反射光および間接的
反射光は網膜表層の凹凸面で屈折や回析を伴い、平坦な部位とに、
19,20)
の差が生じ、検出器である光電子倍像管で光の情報
わずかな位相
を電気的な濃度信号に変換した画像は、その部分に明暗のコントラ
ストがつき、立体感のある画像として観察される。さらに、近赤外
光のダイオードレーザーは波長特性により、中間透光体の混濁、黄
斑部網膜内のキサントフィル、網膜色素上皮細胞のメラニン色素を
透過し脈絡膜の深い層からの反帰光を得ることができ、その立体的
効果は、リング絞りの遮断経が大きいほど焦点深度が深くなる。そ
の結果、暗視野絞りでは、脈絡膜血管像の観察に適している、した
がって、この波長特性を網膜表層の形態を観察する目的で、高解像
度の画角で硝子体側に焦点を移動することによって黄斑部の嚢腫状
浮腫のみならず、黄斑部週毛細血管からの透過性亢進による漏出で
は、花弁状の隆起病変を立体的に観察することができた。また、網
膜前線維膜の牽引による網膜兵法の浮腫や線状の皺襞も観察するこ
と が で き 、変 視 症 の 自 覚 的 検 査 手 段 で あ る ア ム ス ラ ー チ ャ ト( Amsle
rr Charts)に よ る 、ゆ が み の 程 度 と の 比 較 や 病 状 の 経 過 観 察 だ け で
なく、硝子体手術の治療効果の判定にも有用である。、さらに、黄
斑円孔の症例では、円孔周辺部の薄い網膜剥離部の病巣部の拡がり
を正常の網膜とは明瞭に区別して捉えられ、比較暗点や変視症の原
因となる網膜表層の凹凸を観察することができた。これらのことよ
り、暗視野絞りによる眼底観察は、網膜表層の形態的検索に有用で
あると考えられた。
Ⅴ.ま と め
走 査 型 レ - ザ - 検 眼 鏡 scanning laser opthalmoscope( SLO) の 暗 視
野 絞 り (ring aperture)を 用 い て 、 黄 斑 に 隆 起 性 病 変 を 伴 う 疾 患 を 観 察
し網膜表層の形態的検索法を検討した。暗視野絞りによる画像は、
直接的反射光を遮断し間接的反射光を透過させることによって形成
している。本法では、合焦点部位の前後からの直接的反射光および
間接的反帰光は隆起部の凹凸面で屈折および回析を伴い、平坦部と
隆起部に位相の差が生じ光検出器で光の情報を電気的な濃度信号に
変換した画像は、その部分に明暗のコントラストがつき、立体感の
ある画像として観察される。その現象は、波長特性により長波長の
ダイオードレーザーでより明瞭なる。網膜表層に焦点を移動した観
察では、網膜表層の凹凸が立体的に再現されており、その画像情報
か ら 従 来 の 眼 底 カ メ ラ に よ る 画 像 や SLOの 共 焦 点 方 式 に よ る 画 像 で
は得ることのできない有用な情報が得られた。
本 論 文 の 要 旨 は 、 第 40回 日 本 医 学 写 真 学 会 で 発 表 し た 。
参考文献
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1 5) 福 井 勝 彦 , 加 藤 祐 司 , 五 十 嵐 弘 昌 : 脈 絡 膜 疾 患 に 対 す る 赤 色 光
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1 6) 福 井 勝 彦 , 加 藤 祐 司 , 五 十 嵐 弘 昌 : 脈 絡 膜 疾 患 の ス ク リ ー ニ ン
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18) 松 村 美 代 , 岡 田 守 生 , 白 川 弘 泰 , 荻 野 誠 周 : 特 発 性 黄 斑 上 膜 の
組 織 学 的 分 類 , 日 本 眼 科 紀 要 , Vol. 39, No. 4, 689-695, 1988.
19) 長 野 主 税 : 特 集 光 学 顕 微 鏡 の 基 礎 と 応 用 , 1. 顕 微 鏡 光 学 系 の
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20) 長 野 主 税 : 特 集 光 学 顕 微 鏡 の 基 礎 と 応 用 , 3. 新 し い 光 学 顕 微
鏡 と 最 近 の ア プ リ ケ ー シ ョ ン ,日 本 医 学 写 真 学 会 雑 誌 ,Vol.35,No1,
2- 7, 1997.
<図説>
図 1a SLOの 撮 影 原 理
レーザーを眼底の一点にに照明し、高速でX-Y方向に走査、焦
点面の反射光のみ検出し、それ以外はカットする。共焦点絞りは直
接的反射光を暗視野絞りは、間接的反射光を透過する。。
図 2a 網 膜 分 枝 閉 塞 症 の カ ラ - 眼 底 写 真 ( 症 例 1)
下耳側静脈分枝にが火炎状の出血が認められた。
図 2b フ ル オ レ ス セ イ ン 蛍 光 眼 底 写 真
蛍 光 漏 出 と stainingが 観 察 さ れ た が 、黄 斑 部( ↑ )の 浮 腫 は 不 明 瞭 。
図 2c 画 角 40度 の ダ イ オ ー ド に よ る 暗 視 野 絞 り を 用 い た 画 像( 遮 断 径
4mm)
脈絡膜血管が明瞭に観察できた。黄斑部(↑)
図 2d
画 角 20度 の 暗 視 野 絞 り に よ る 画 像 ( 遮 断 径 4mm)
網 膜 表 層 に 焦 点 移 動 す る と 黄 斑 部 に 隆 起 性 浮 腫( 矢 頭 )が 観 察 で き
た。
図 3a
後 部 ぶ ど う 膜 炎 の カ ラ - 眼 底 写 真 ( 症 例 2)
硝子体混濁を伴い眼底所見は不明瞭。
図 3b
フルオレセセイン蛍光眼底写真
嚢胞様黄斑浮腫(↑)が明瞭に観察できた。
図 3c ダ イ オ ー ド に よ る 共 焦 点 絞 り を 用 い た 観 察 。( 開 口 径 2mm)
血管や滲出斑および黄斑部病変(矢頭)が明瞭に観察できた。
図 3d 画 角 20度 の 暗 視 野 絞 り を 用 い た 観 察 ( 遮 断 径 4mm)
花弁状の嚢胞様黄斑浮腫(↑)と黄斑部の浮腫(矢頭)が観察で
きた。
図 4a 網 膜 前 線 維 症 の カ ラ - 眼 底 写 真 ( 症 例 3)
黄斑部には表面反射を伴った膜様物(↑)が観察できた。
図 4b フ ル オ レ セ セ イ ン 蛍 光 眼 底 写 真( 左:造 影 早 期 、右:造 影 後 期 )
線維膜の牽引による蛍光色素の漏出(↑)が観察できた。
図 4 c 画 角 40度 の ア ル ゴ ン ブ ル ー の 共 焦 点 絞 り を 用 い た 画 像 ( 開 口
径 2mm)
網膜表層に接着した前線維膜(↑)が明瞭に観察できた。
図 4d 画 角 20度 の 暗 視 野 絞 り を 用 い た 画 像 ( 遮 断 径 4mm)
嚢胞様黄斑浮腫と網膜の雛壁(↑)が観察できた。
図 5a 黄 斑 円 孔 の カ ラ - 眼 底 写 真 ( 症 例 4)
円孔底には多数の黄色の小沈着物が観察できた。
図 5b フ ル オ レ セ セ イ ン 蛍 光 眼 底 写 真
halo( 暈 : ↑ )は 過 蛍 光 を 示 し 、円 孔 部 に は 脈 絡 膜 背 景 蛍 光 が 観 察
できた。
図 5c 画 角 20度 の 共 焦 点 絞 り を 用 い た 画 像 ( 開 口 径 2mm)
(左)ヘリウムネオン:表層に2個の円孔病変(黒↑)が観察でき
た。
(右)ダイオード:円孔底(↑)の形状を明瞭に観察できた。
図 5d
画 角 20度 の 暗 視 野 絞 り を 用 い た 観 察 ( 遮 断 径 4mm)
円孔周辺部の網膜表層の凹凸が明瞭に観察できた。
図 6a 黄 斑 円 孔 の カ ラ ー 眼 底 写 真 ( 症 例 5)
halo( 暈 ) と 、 そ の 周 囲 に 薄 い 網 膜 剥 離 部 ( ↑ ) が 観 察 で き た 。
図 6b フ ル オ レ セ セ イ ン 蛍 光 眼 底 写 真
円孔部は脈絡膜背景蛍光が明瞭に観察できた。
図 6c ダ イ オ ー ド の 共 焦 点 絞 り に よ る 観 察 ( 遮 断 径 2mm)
網膜剥離部は花コントラストが高く明瞭に判別できた。
図 6d 画 角 20度 の 暗 視 野 絞 り を 用 い た 観 察 ( 遮 断 径 4mm)
剥離部網膜は菊花状の皺襞として立体的に観察できた。
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