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サービス再考 - Nomura Research Institute
05-NRI/p2-3 05.4.17 13:54 ページ 2 MESSAGE サービスの品質が、気にさわるこの頃であ る。近くのレストランは、空席があるにもか かわらず、客の行列をわざわざ作らせて気に とめる様子がない。また別の食事処では、昼 食時間限定サービスを注文時には受け付け、 支払い時にはサービス時間が過ぎているので 通常料金を取ることに何のためらいもない。 ホテルでは過剰支払い請求をしているにもか サービス再考 かわらず、客のクレームに「だったらお客様 の言われるとおりにお支払い下さい」と取り 付く島がない。 何やらサービスの品質が怪しくなり始めて いる。サービスとは何かを弁えないまでも、 自らのミスに気づいたとき、せめて客に謝り 理事 玉田 樹 の一言が言える歯車が回って欲しいと願う。 サービスは無形のため、“相対”“非移転” などの性格をもつ。サービス事業者は、常に 相対で顧客に対応できるようにするために、 毛細血管サービスとでもいうべききめ細かさ が要求される。また、サービスを顧客に買っ てもらうために、高いノウハウを有すること が要求されるが、非移転の法則をもつため、 このノウハウは顧客にサービスを実行しても 減ることはない。したがって、ノウハウは高 ければ高いほど顧客に満足を与え続ける可能 性をもつ。結局、サービス事業は、“きめ細 かな高いノウハウ”が必要条件となる。 しかし、高いノウハウが属人レベルにとど まっていては、企業規模のサービス事業はお ぼつかない。そこで、必要条件たるきめ細か な高いノウハウを、できるかぎり“標準化” することが不可欠となる。これが、サービス 事業の十分条件である。 2 知的資産創造/2005年 5月号 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2005 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 05-NRI/p2-3 05.4.17 13:54 ページ 3 しかし、必要条件であるきめ細かな高いノ 新しいサービスのイノベーションは、“怒 ウハウと、十分条件である標準化は相容れな り”から発現することが多い。10分1000円の いところがある。矛盾するといってもいいだ 床屋QBハウスは、キュービーネット創業者 ろう。標準化すればするほどきめの細かさは 小西國義会長の怒りから始まった。「1時間 失せ、高いノウハウの発露ができにくくなる もかかって4000円も払っているが、御用聞き からである。逆に、きめ細かさを重視すれば が来ればそれに対応し、電話が鳴ればそれに するほど標準化が困難になる。 出るので、床屋のサービスは1時間のうち半 サービス事業を行おうとする者には、きめ 分ぐらいしかない。一体何のために時間を無 細かな高いノウハウたる“品質”とその標準 駄にし、高い金を払っているのか」という怒 化という、矛盾する両方の条件を同時に高め りが、QBハウスのビジネスを開発させた。 る努力が求められるゆえんである。コスト意 外国語教育のNOVAの場合も同様である。 識むきだしの雇用形態をとる冒頭のレストラ 猿橋望代表は、国内の大学に見切りをつけ海 ンやホテルは、両方の条件に遠く及ばない。 外留学を決意し、レコード教材などで独学し て渡仏した。ところが、行けば何とかなると 野村総合研究所が2003年2月に生活者を対 の思いは、すぐ、どうにもならないに変わっ 象に行ったサービスへの満足度調査によれば たという。言葉が通じず、友人ができない。 (回答数1869)、47のサービスのうち満足度が 「日本に語学を学ぶ環境が整っていたら」と 低いワースト7は、消費者金融、パチンコ、 の“悔しさ”がバネになって、外国語会話教 病院、駐車場、不動産仲介、質屋、銀行であ 室を始めることになった。 る。わけても銀行は、サービスの水準が低い、 いずれの場合も、既存サービス産業の枠に 従業員・職員の対応が悪い、利用したいとき とらわれず、怒りや悔しさをバネにしてサー に混雑しているなど、他のサービスに比べ桁 ビスの品質と標準化という矛盾を乗り越え、 違いの不満の理由が存在する。 新しい業態を定着させた。 確かに、銀行の混雑は度を過ぎているよう に思える。不良債権処理の過程で、銀行店舗 日本のサービス産業は、サービスの品質と やATM(現金自動預け払い機)が極端に少 標準化という相矛盾する性質を制御できなか なくなった。稼働時間にATM がまま故障し ったため、幼稚産業に近いところがあり、生 ていることが、これに輪をかけている。緊張 産性が低いといわれてきた。しかし、こうし 感を欠いた雇用形態では標準化がアダとな たサービス産業に、怒りや悔しさを原動力と り、ATM に長い行列ができていることを見 したイノベーションが彷彿と湧き起こる日も て見ぬふりをして、銀行は反省の色少なく、 近い。その芽を捉え育成するために、政府に 国営企業のようにカウンターの向こうの広い は、既存サービス産業の規制が及ばない、新 スペースにゆったり陣取って仕事をしている しい分類の産業として育てるという姿勢が求 のである。 められる。 (たまだたつる) サービス再考 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2005 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 3