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児童虐待への対応 - JIAM 全国市町村国際文化研修所
J IA M 誌 上講義 全国各地で多発している児童虐待。自治体における相談体制や担当機関同士の連携等について、 改めてそのあり方の点検が求められています。 今回は、平成21年度戦略的政策形成型研修「児童虐待への対応」においてご講演いただきまし た加藤曜子氏に、研修の内容を踏まえ、市町村等に求められる虐待対応の基本について、事例を 交えながら改めて誌上講義を行っていただきます。 児童虐待への対応 流通科学大学サービス産業学部医療福祉サービス学科 教授 加藤 曜子 はじめに 年以降の相談体制と、連携について改めて点 今年の春、各地域で虐待事件が多発した。 検をしてほしいと願う。 近隣が気付きながら通報をためらった、学 具体的にいえば、自治体内の子どもと親に 校が通告をためらった、家庭訪問をしたが気 かかわる担当機関同士が連携できているのか 付かなかった、ので発生してしまったと報じ どうか、また、自治体の相談体制が十分な体 られた。関係した自治体及び児童相談所は、 制で市民サービスに臨めているか、専任職員 乳幼児検診の家庭訪問を増やし、児童相談所 が複数配置され行政職と協力体制にあるか、 の保護体制の強化を打ち出した。 在職期間や転勤時期は適切かどうか、産休代 地域が必要以上に緊張をし、また、関係者 替要員との引き継ぎが十分かどうか。部署自 も神経をとがらせるとなると、子どもの泣き 身が十分働きやすいものになっているのかと 声でさえ通報されないかと親たちは、神経を いった点である。また、死亡事例検討報告書 すり減らしかねない。 で提言されている内容に即した研修などが開 安心して子育てできる地域作りに何が必要 かれているかという点である。 なのか、改めて児童虐待防止対応を検討した 本稿では、虐待対応の基本として5段階に い。 わけて、解説することにしたい。 児童福祉法第2条では自治体は子どもの福 童の家庭は、いくつかのリスク要因を背負い、 1. 市町村に求められる支援の第一歩 (第1段階 個人レベルでの支援者姿 勢) 生きにくさを抱えていた家族であったことを 虐待予防について、まず市町村で求められ 報告している。早期に発見すれば、守れたか るのは、その家族の危険困難度をチェックす もしれない子どもの「いのち」であり、すで るだけに終わらず、市町村の援助職であれば、 祉の責任者である。 国の死亡事例検証委員会報告では、対象児 に提出された第5次までの報告書では、繰り 「親たちはどういったところで子育てで困って 返し、自治体へ、早期対応、リスク要因を把 いるのか、あるいは訴えられなくてもどういっ 握し、支援をすることを提案し続けている 32 注1) 。 たことができていくのか」を考えていける姿 そういった報告書を自治体は、自分たちのも 勢をもつことである。一つの例をあげてみた のとして、共有できているのか。さらに2004 い。 国際文化研修2010夏 vol. 68 ば、日々生活に困るのだから文化的な最低限 事例は過去の典型的な重大事例を組みあわ 度の生活をしているとは言えないのではない せ、個人情報に配慮して作成した。 だろうかという疑問が出てくるが、保健師も 例1 家族の愛を経験しなかった実母が知 自分の役割だと思っていないから、それ以上 り合ってすぐに男性と同棲。子どもを出産 には進めていない。 し入籍、その後乳児はひどい傷を負ってし ここから学ぶ点は、家庭訪問をする担当者 まった。 は、保健師であれ、家庭相談員であれ、相談 若年出産のため、病院から連絡を受けて により、正確な情報、正確な事実に基づいて、 保健師がフォローをしていた。 家庭の生活を把握し支援につなげる点である。 3人家族の住居は一部屋で、必需品であ また、例にあげた家族は、地域で孤立的な生 る電機器具は故障していたという。保健師 活を送り、住居環境、経済苦、養育サポート は「父親は「職がなかったが、見つかった なしなどストレスを抱えていたハイリスクの ので、近々家を探す」と言い、母子関係に 家族であった。保健業務の担当外であるとす 問題はなかった」と報告していた。後に、 るならば、生活を支援するためには、日頃か 父親が失業していたことや父親も被虐待児 ら福祉との連携をとれる体制を作っておく必 であったことがわかった。 要があったのではないだろうか。 1)支援の意味 この数行で何を読み取られたであろうか。 家庭訪問をしていた保健師は、母子関係を中 心にした業務であるから、責任を果たしてい たと主張しつつ、その家庭の状況は気にはなっ ていた。しかし、虐待事件は発生した。何が、 この場合、足りなかったのだろうか。 保健師は気付いてはいたものの「家族3人 で一部屋では大変な暮らしであろう」「子ども が生まれたてで必需品がないのは不便に違い ない」 「育児支援者はいるのだろうか」とい う、生活の大変さに思いいたっていたか、と いう点である。引っ越しすると言っていたか ら、職が見つかったと言っていたから、だか ら、大丈夫だろうと判断してしまっていたの ではないだろうか。乳児を育てる中で「日々 の生活で何か困っていることがありませんか」 という姿勢と、十分に話を聴く姿勢が欲しかっ た点である 注2) 。 2. 市町村の取り組み(第2段階 子育 て支援の基本システムの充実化へ) 虐待予防の第一歩は、母子保健や親が自主 的に参加できる子育て支援が確実に地域で根 付くことにある。支援は妊娠前から始まり出 産後も継続していく。例を含めた0才児の多 くは、保育所に通っていない。親が育児スト レスに悩まされるのは、実は自信のなさから くる子育て不安や、子どもの泣き声であるこ とが多い。 そしてその背景をみると、周りに手助けや 相談する人がおらず、孤立的な生活を過ごし ている。孤立化を防ぎ、戸外への場所づくり として、「ひろば事業」が始まった。そこで母 親の悩みに気軽に相談にのってくれる職員が いれば、顔見知りになり自然に話せる。また 親がかつて虐待を受けた人であれば、「子ども はわざと自分を困らせているのだ」といった 思いや、「子どもには操られまい」といった、 自分がうけた気持ちをダブらせることになり、 2)連携の大切さ やさしくなれない場合も起こってくる注3)。そ 父親が仮に、職が見つかり稼働したとして、 のため、保育所利用でそういった気持ちの負 なおかつ生活必需品の電気機器が壊れていれ 児童虐待への対応 ・家庭訪問場面での対応例 担を軽減する。また、一時預かりで子と距離 国際文化研修2010夏 vol. 68 33 J IA M 誌 上講義 虐待予防としての子育て支援 第1グループ 孤立的ではなく、自分から働きかけられる人 機会を作り、仲間を求めていける場所を 提供してあげること。 仲間づくり・子育てネットづくり。 NPOへ関わっていける人・・リーダー養成へ 第2グループ 孤立的ではないが、活動的でもない。 近隣には子どもも少なく、遊び場も少な い。場を提供してあげる。場合により相談に のる。 (ひろば事業・サークルへのお誘い) 第3グループ 孤立的ではないが、遊び方、関わり方が 未熟である。 自分に自信を持てないでいる。子育てのノ ウハウ、あるいは一対一での親知識をサポー トする。ひろばで知り合い相談にも乗る。 (地域子育て支援センター情報) ( ) ( ) ( ) をおく、家事サービスを利用する、育児支援 虐待に取り組む先進国である英国では、「す の情報を提供しつづけることが虐待予防につ べての子どものために」としてのプログラム ながっている。子育て支援として6つの対象 を提出している。児童保護領域を強調しすぎ グループにまとめてみた。 ていたことから、家族支援を強調し、さらに 例2 孤立的な親子の場合、子育て広場へ 行って仲間づくりをしてはどうかと勧める 場合がある。孤立的で、やはり「子育て広 場へ行けば」と助言をされながらもついに 参加せずに、孤立化したまま虐待死させた 親がいた。母の供述で「勧められたが、発 達が遅れがちであった子を連れては行けな かった。まわりの目が気になっていたので」 とあった。 この場合には、第1グループの子育て支 援利用よりは、個別対応がまず必要で第6 グループの利用が考えられた。虐待予防と してどういった支援が適切なのかは、その 個々の事情に応じて考えていくことも必要 となる。この例では、保育所入所や療育フォ ローといったことが必要であったが、十分 に機能しなかった。 34 第4グループ 孤立的ではない。育児支援も仲間もいる が、実際に家事や子育てが困難なときが ある。 ファミリーサポート利用 一時預かり利用 第5グループ 孤立的ではなく、親自身も自覚がある が、貧困など、生活上でうまくいきにくいと 感じている。 (家庭相談や、公的相談貸付などの導入) 第6グループ 孤立しがちになりやすい親のために セ ル フ ヘ ル プ グ ル ー プ 支 援 (多胎児、アトピ ー支援)。 一対一での関わり 意図的な支援 1.親子教室・・・子どもの関わり方を学ぶ 2.グループ支援・・・ハ イ リ ス ク も 入 れ たより専門的な支援 国際文化研修2010夏 vol. 68 予防領域に力を注いでいる注4)。我が国では支 援の種類は多くはないが、保育所は古い歴史 があり、保健サービスも発展してきており、 さらに妊娠前からのサービス充実が課題と なっている。 3. 市町村の受理体制について(第3段 階 市民啓発、関係機関からの通告 の充実) 1)関係機関の虐待理解と市民への啓発 大阪で起きたn区の事件では近隣が気付き ながら、通報がなく、学校からもなかった。 子どもを救う第一歩が虐待通告や相談である ことを徹底するために、虐待通告については、 児童相談所の統一ダイヤル設置や広報の工夫 がされつつある。もちろん、強調すべきは、 通報は支援の一歩であり、地域は監視しあう ところではないということである。 かかってしまったなど、疲れが蓄積し爆発し 軽に相談できる場を市民に提供することにあ てしまう状況である。そのような場合に相談 る。心配だと近隣が気軽にのれる相談体制づ を受けるなら、今何に困っているのかを、さ くりが求められる。関係機関に対しては、研 らに困りそうなことは何かをも、共に考え、 修会を開くなど、虐待理解に努めることが必 親が疲れている場合には、レスパイト(休息) 要である。また市区町村は、一人窓口であれば、 を勧めることも可能となる。この場合には子 その人が留守の時に、十分に話を聞いてもら どもを一時保育や、一時保護を利用して親が えない。通告があれば、窓口の相談担当者は、 休めるようにする。早期に対応すれば、そこ その情報がどのような状況なのかを把握する。 で子どもも親も助かる。 自治体単位では相談担当者を2名から3名、 行政担当者を1名から2名が最低限必要では ないだろうか。 4. 要保護児童対策地域協議会の役割 (第4段階 機関連携・ネットワーク づくり) 2)通告をうける側の対応 要保護児童対策地域協議会は、通報後、市 電話で人が通告する場合、「大したことでは 町村がそのまま親子が暮らし続ける在宅方針 ない」と遠慮がちに話す場合もある。市町村 を決定した事例を対象に、支援ネットワーク 窓口では、通告受理の失敗例の多くは、「虐待 で親子をみていくために設置された。一機関 まではいかないだろう」「親が子育て熱心だか では支えきれない場合、複数の関係機関で支 ら大丈夫」と一人勝手に判断をしてしまう場 援ネットワークを作る体制である。 合である。複数対応が必要なのは、一人で子 目的の第一は「子どもの安全を守る」こと どもの安全を決定しないということである。 である。従来の市町村ネットワークと異なり 通告をうける相談担当者は、具体的には「た 法律によって協議会内での情報共有ができる いしたことであるのかないのか」どうか、中 が、協議会以外で情報持ち出しは禁じられる。 身をより具体的に把握する。例えば、5セン 協議会は、個別ケース検討会議、実務者会議、 チのあざが頭部にあり、年齢が乳幼児であれ 代表者会議の3層構造が典型である注5)。 児童虐待への対応 自治体の役割は、地域の暮らしを支え、気 ば、これは重度であり、現認しておく必要が ある。また重度以上であれば、児童相談所と 1)調整機関 協議し、緊急対応する可能性も出てくる。大 調整機関は、地域の家族に関係している機 阪市の医療機関では傷のリスク判断のマニュ 関や人と連携し支援ネットワークの要である。 アルを作成した。重要なのは、リスクの程度 また各会議の開催や、事例管理をし、機関調 や親の力がどの程度かをまず関係機関が把握 整をするところであり、市内の子どもの関係 し検討する力を身につけていくことである。 を把握し、連携する重要な役割を担う。組織 親の状況がどうなのか(母子の場合には、母 全体や機関の状況を十分理解しておき、さら が夜眠れないとか、疲れている場合には、発 に後に出てくる実務者会議の要として進行台 作的に害を加えている事件もある)。本当に親 帳を作成しておくなど、事務量も一定量ある。 が疲れていて助けを求めている時は、危機的 市町村では、相談業務と兼務してこの業務を 状態であり、正しく判断する力が低下してい こなしているところが多く、負担も大きい。 る。また事件で起こりやすいのは、孤立的な 本来は専任となる必要があるほどに重要な役 生活の中で、子どもが病気をしてようやく治 割を持つ。 りかけた直後、家族全員が風邪をひき、親も 国際文化研修2010夏 vol. 68 35 J IA M 誌 上講義 虐待事例の対応図 市民、関係機関・虐待者本人 通告・相談 市区町村 児童相談 母子保健相談 教育相談 情報 アドバイス 他機関紹介 終了 ハイリスク・特定 妊婦 相談のみ 虐待通告担当 受理 都道府県福祉事務所 児童相談所 一時保護所 一時保護委託 家庭裁判所 児童福祉施設措置 乳児院 児童養護施設 専門里親 調整機関 要保護児童対策地域協議会 代表者会議 (32機関前後) 実務者会議 (5機関から8機関) 措置解除 個別ケース検討会議 2機関から8機関(平均7-8人) 2)個別ケース検討会議(イメージ図) キーパ ーソン 保育所 市区町村 子育て支援課 ( 調整機関) 親 子 る機関同士が課題を共有していくということ 児童相談所 を意味する。「活用」することで、より質の高 い支援ができ、それが「子どもの安全」や成 生活保護課 長発達に関係していくという点である。 参考までに、著者がネグレクト事例(食事 病院 保 健センター *親が参加する場合もある。 を与えないなど、長時間放置をする、養育を 怠り、心身の発達に支障をきたす恐れがある など)について調査分析をした結果、個別ケー 要保護児童対策地域協議会で開かれる個別 ス検討会議を開催している場合には、そうで ケース検討会議は、公式の事例検討会である。 ない場合に比べ、支援サービスが提供される 会議というと、議事録をとり形式的な流れが 数の多いことが明らかになった。個別ケース イメージされがちであるがそうではない。 検討会議を開催しないで済む事例もあるが、 個別ケース検討会議は形式的なものではな 必要に応じて社会資源につなぐ場合には、協 く、生活環境で何が子どもの安全に必要なの 議して対応することで問題を軽減していると か、親はどのような問題を抱えているために いう効果が見られた。ネグレクト事例は外面 子どもに向き合えないのかについて、子ども 的には身体に傷をつくることのないために、 が所属する機関や親の関係機関が一堂に会し、 見過ごされたり、支援の優先順位が場合によ 情報を共有し、課題や役割分担を協議する。 り低くなりがちのために、慢性化する割合も また、その後親を会議に招いて、共に考える 多い。特に養育意欲が低い場合には、支援効 注6) 機会をつくる場合もある 36 身は、個別ケース検討会議を開いて、関係す 。 果が低く、また支援者との関係も悪い傾向が 「要保護児童対策地域協議会を活用する」こ 出てきている。地域で、どういった形で支援 とが推進されているが、「活用」の具体的な中 を役割分担しながら、子どもの成長発達を保 国際文化研修2010夏 vol. 68 →は事例の流れ 市町村 在宅支援決定 児童相談所 関 係 機 関 連 絡 (要 保 護 児 童 地 域 対 策 協 議 会 ) 第1回個別ケース検討会議 調 整 機 関 が 招 集 ア セ ス メ ン ト・援 助 計 画 関 係 機 関 役 割 分 担 次 回 会 合 予 定 関 係 機 関 は 、 個 別 事 例 ネ ットワ ー ク検 討 会 議 に 基 づ く役 割 に 応 じた 取 り 組 み 内 部 で の ア セ ス メ ン ト・計 画 実 務 者 会 議 ・調 整 機 関 第2回個別ケース検討会議 事 例 の 再 ア セ ス メ ン ト・援 助 計 画 変 更 等 関 係 機 関 役 割 の 確 認 次 回 会 合 予 定 必 要 に応 じて会 議 開 催 へ 事 例 に 応 じて 終 了 図 個別ケース検討会議の流れ 障していけるのか、さらに調査研究を進めた 注7) い課題である 。 例3 例1の虐待前のハイリスクだった状 態で、早期に保健・福祉連携体制が整って いたらどういった対応ができたか。調整機 関のもとで、低所得住宅を斡旋、保育所入 所、職業斡旋、さらに必要なら助産師のサ ポートを得るために、それぞれの担当課が ネットワークを組んで、支援ネットワーク ができあがった可能性もある。支援ネット ワークとは「生きやすさ」を目的にどの部 分のストレスを軽減し、親に力をつけていっ てもらうのか、計画を立て支援をしていく ことが地域の役割となる。 さらに個別ケース検討会議は、ケースの事 情に応じて開いていく内容のものであるため に、会議終了前には次回の日程を決めてお く。調査を実施したところ、頻度の高いとこ ろでは、人口40万人のところでは、年間200回 を超える個別ケース検討会議量をこなしてお り、きめ細かい家庭支援と児童虐待防止につ ながっている。 以下に示すように虐待事例は市町村におい 児童虐待への対応 虐待事例 通 報 ては、回数を重ねて検討する。 例4 親は理解力が低いため、子どもへの栄 養に無関心で、子どもの年齢が低く、体重の 増加について心身の発達面で経過を見ていく ことになった。養育家庭訪問事業を利用しつ つ、個別ケース検討会議を開き、主たる担当 者である市は担当保健師とともに家庭訪問を 実施。子どもの安全のために、定期的な会議 を開催し、親への支援体制を保健師とともに 整えていった。保健師は丁寧に2年間、親に 付き添い、保育所利用をするようになったの ちは、キーパーソンは、担当保育士に引き継 がれた。また、子どもは主任保育士が、親は 園長が関係作りをしている。個別ケース検討 会議は、当初は3ヶ月ごとであったが、その 後、半年ごとに定期的に開き、子どもの状態 を把握しつつ、親の支援も継続させた。 子ども(被虐待児)が児童福祉施設から帰 宅し、地域で暮らし始めるにあたっては個別 ケース検討会議を関係機関だけで開くことも 要保護児童対策地域協議会の役割である。退 所後、親子が安心して暮らし、虐待再発を防 国際文化研修2010夏 vol. 68 37 ぐため、児童相談所と要保護児童対策地域協 実務者会議でいろいろな子どもの問題が把 議会の役割分担や、情報の集約を調整機関が 握されつつある。ただ、課題は件数が増加し、 担う、子どもの所属機関の役割分担など連携 検討に十分な時間がとれにくくなっているこ 体制が重要視されている。事例に応じては親 とと、まったく実務者会議が機能していない も会議に参加し関係機関が集まって今後の対 ところがあるなど、地域差があることである。 応を検討、協議する試みも始まっている。 3)実務者会議 5. 代表者会議(第5段階 支援の フィードバックのために) 直接ケースを日々扱う関係機関が会して、 要保護児童対策地域協議会は、子どもの安 1ヶ月から3ヶ月ごとに全体の要保護児童ケー 全を優先させながらも、子どもと親の生活の スを検討していく会議である。著者が実施し 質を向上させるために利用されるものである。 た調査によると、実務者会議の運営は、進行 在宅で子どもが安心して暮らしていけるため 管理型、情報交換型、研修型に分かれた 注8) 。 受理件数が多い自治体では、要保護児童に対 が応援をする形をとる。 して、どの事例を優先的に支援していくのか 代表者会議は、年に1・2回開催するのが 検討し重症度で検討をする。また通常の実務 平均である。現在の代表者会議は、代表者に 者会議では新しく通告受理をした新規ケース 虐待理解を深めるために、調整機関が取りま や市が継続している事例について検討してい とめた活動内容を報告し、同時に、虐待理解 る。情報交換型は、比較的人口の少ない市町 に関係する講演会を実施している。また関係 村で採用され、事例検討をしている。 する機関がどのような取り組みをしているの 研修型は、ケースを見直すというよりは、実 かについて各機関が実践を報告するところも 務者への研修を実施していくという勉強会型 ある。ただし、その後機関が持ち帰って、協 である。それぞれの長所・限界もあり、試行中 議会の内容をどの程度報告・共有しているの のところも多い。また、実務者会議は、その構 かが重要な点である。代表者会議ではあらか 成員は教育委員会、保健所、児童相談所、保 じめ連絡を十分にしておき、代理をたてる。 健センターなど、地域により構成員が異なる。 また、形骸化しないためにも出席してために 進行型の構成員は5機関から8機関が参加し、 なったと思われるような工夫が、今後、必須 連携を強めている。実務者会議外で進行管理 である。都市によっては、代表者会議を実務 を児童相談所と実施している市もある。また、 者会議で課題にあがったことへの提案と決定 実務者会議とは別に運営会議を設け、開く会 をする場として認知をしている。そうなると、 議がうまく運ぶ工夫をしている市もある。 関係機関の出席率は高くなる効果をもたらす。 例5 実務者会議で、 「個別ケース検討会議 が必要」とした事例があった。その後、個別 ケース検討会議で検討された結果、不登校の 子が家庭相談員と学校の連携で、ようやく保 健室登校をし始め、病院連携にてネグレクト の親も治療が始まった。実務者会議の役割は、 このように、事例の経過を実務者でフィード バックさせ、その経過をケースマネージメン トしていくことである。 38 には、社会である要保護児童対策地域協議会 国際文化研修2010夏 vol. 68 また、代表者会議の中で、市として本年度は どのような取り組みをしていくのかといった 提案や、代表者会議をいくつかの部会に分け て、それぞれが研修担当や、児童虐待啓発な どを担当するなどの工夫や試みができていか ないかを提案したい。 おわりに 今後の課題 児童虐待防止法施行10年目、要保護児童対 対策地域協議会(任意設置の虐待防止ネッワー による死亡事例等の検証結果総括報告』 児童事例の検証に関する専門委員会報告 第 クを含む)は、2005年では、51.0%、2007年の 改正で、努力義務規定となった後、97.6%の 設置率(2009年4月現在)となっている。市 5次報告』(2009) 注2)虐 待をした親が求めるソーシャルワーカー は、基本的なことであるが、 「人として尊重 してもらえること」 「不公平に扱われない」 「よ 町村ネットワークモデル事業開始からの歴史 り支援的であること」という結果が出ている。 をもつ市では20年目を迎えた。その市におい ても児童虐待死亡事例が発生した。発生の背 景はいくつかあろうが、私見ではあるが、一 つには職員交代が連続したこともあると予測 『社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護 対人援助の基本である。 Sally Palmer, Sarah Maiter, Shehenaz Manji (2006)” Effective intervention in Child Protection Services: Learning from parents”, される。支援者側の不連続が予防を遅らせる Children and Youth Services Review, Vol. 28, ことは過去にいくつか事件として発生してい 812-824. る。 では、自治体としてどういった点で防げる かということを提言させていただくとすれば、 ①児童相談業務や調整機関部署は3年から5 年は勤務期間が必要であるということ、 ②児童相談業務や調整機関部署に転勤があっ ても、引き継ぎが工夫され、支援がとぎれ ないこと、 注3)ピーター・レイダー他『子どもが虐待で死ぬ 時』明石書店、2005年 注4)小林美智子・松本伊知朗「子ども虐待 介入 と支援のはざまで」明石書店、2007年 注5)日本児童福祉会「子ども・家族の相談援助を するために」2005年 注6)井上直美・井上薫編著「子ども虐待防止のた 児童虐待への対応 策地域協議会は5年目を迎える。要保護児童 めの家族支援ガイド」明石書店、2008年 注7)加藤曜子「要保護・ネグレクト児童の支援類 型化研究」報告書(2009年度 文部科学研 ③そのためには、調整機関のみならず、保健 や教育など主たる機関が例えば運営会議を 設けて少なくとも3人は常時ベテランが配 置され、助け合える体制にあること、 ④常に合同研修を実施し、機関同士が顔見知 究・基盤(C))2010年 注8)加 藤曜子他「実務者会議の実態分析」「平 成20年度要保護児童対策地域協議会の機能 強化に関する研究」報告書(主任研究加藤 2009年3月)こども未来財団 りとなっておく工夫、 などであろう。 協議会の歴史は5年未満のところがほとん どである。1年未満も多い。制度が整うには、 10年単位といわれている。自治体においては、 基本の体制が整えられ、人材が育成されるこ とが重要であり、予防・再発防止に力を注ぐ ことが未来の大人を育てることにつながる。 今後の市区町村の児童虐待防止への取り組み に期待したい。 −参考文献− 注1) 社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事 例の検証に関する専門委員会報告(2008.6) 『第1次から第4次報告までの子どもの虐待 講師略歴: 加藤 曜子(かとう ようこ) 府立大阪女子大卒業後、家庭裁判所調査官を経て、渡 米し児童・青少年問題に接し、予防の大事さを実感。 帰国後大阪市立大学大学院後期博士課程単位取得修 了。学術博士(大阪市立大学) 。 流通科学大学教授。児童家庭福祉・社会福祉援助技 術を担当する。 日本子ども虐待防止学会制度検討委員会委員、厚生労 働省社会保障審議会専門委員、奈良県児童虐待対策 検討委員、尼崎市社会保障審議会委員、兵庫県虐待防 止アドバイザー等の委員を務める。NPO法人児童虐待 防止協会理事。 家族・親支援、アセスメント、虐待防止地域ネットワー クが研究テーマである。 著書は「児童虐待リスクアセスメント」 (中央法規 2001) 「まずはわが子を抱きしめてー親子を虐待から 守るネットワークの力」 (朝日新聞社2002) 「市町村虐 待防止ネットワーク―要保護児童対策地域協議会へ」 (編著・日本加除出版2005) 。 「子どもを地域で守るネッ トワーク」 (編著・中央法規、2008)等。 国際文化研修2010夏 vol. 68 39