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口頭表現力向上を目指したマルチカードによる英語応答練習

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口頭表現力向上を目指したマルチカードによる英語応答練習
口頭表現力向上を目指したマルチカードによる英語応答練習
English Interaction Practice with Multi-card for Improving Oral Communication Skills
早稲田大学 法学部 教授
原 田 康 也 ([email protected])
1. は じ め に
筆者は英語教育の本質は英語運用力の向上にあるという立場から早稲田大学法学部にお
ける授業実践を進めて来たが、授業の実際的な効果を(肯定的にせよ否定的にせよ)定量
的に裏付ける客観的指標を得ることが従来は困難であった。しかし、音声認識技術を活用
し 、 電 話 で の 受 験 を 通 し て 英 語 の リ ス ニ ン グ ・ ス ピ ー キ ン グ の 技 能 を 測 定 す る PhonePass
SET-10
1
を採用することで、授業内容の客観的な見直しが可能となった。本発表では、
その概略と具体的な対策の一部について報告する。
2. 法 学 部 に お け る こ れ ま で の 授 業 実 践 ( 総 合 英 語 )
法学部では、1 年生は 1 コマ必修自動登録、もう 1 コマ選択自動登録(総合・講読・表
現 演 習 な ど の 種 別 を 選 択 す る が 、 ク ラ ス は 選 択 で き な い )、 2 年 生 は 2 コ マ 選 択 必 修 ( 自
由 に ク ラ ス を 選 択 で き る )、 3・ 4 年 生 は 選 択 科 目 と し て 要 卒 単 位 に 算 入 さ れ る 英 語 科 目 を
受講できるほか、学年に関わらず選択できる要卒単位外の自由科目としても英語科目が設
置されている。
帰国生も含めた各種学生が混在する一年生必修の総合英語
2
においては、英語の聴解力
の向上を中心的な目標として授業を設計している。英語によるニュース放送を 5 分程度録
画したビデオクリップを素材として、メモをとりながら数回視聴し、途中に他の教材によ
る 基 礎 練 習 を 交 え 、 授 業 の 最 後 30 分 で は 、 ニ ュ ー ス の 話 題 を 一 つ 、 お よ そ 30 秒 か ら 60
秒程度の内容を英語のまま書き起こすという作業を中心として授業を進めてきた。
3. PhonePass SET-10 の 実 施 と 結 果
2000 年 度 か ら 2002 年 度 ま で の 3 年 間 の 経 験 を ま と め る と 、 SET-10 を 受 験 し た 法 学 部 生
のスコアについて、概略以下のような傾向が見られる。
i)
3
2.0 か ら 8.0 の 総 合 ス コ ア の う ち 、 3.5 を 下 回 る の は 小 数 ( 1 割 前 後 以 下 )、 4.5 を
上回るのは 2 割前後程度。
ii)
5.5 を 上 回 る も の は 、 比 較 的 ( 2、 3 年 を 上 回 る ) 長 い 英 語 圏 の 生 活 経 験 を 持 つ 場
合が多い。
iii)
学 生 ご と の ス コ ア は 、 1 回 目 と 2 回 目 で は 0.2 前 後 の 向 上 を 示 す 場 合 が 多 い が 、 そ
のあとはおおよそ安定している。
4. 2002 年 度 に お け る 授 業 内 容 の 手 直 し
今後の集計と大規模な追実験が必要な段階であるが、学習活動のデザインについて重要
1
参 考 文 献 [1]・ [2] の ほ か 、 http://www.ordinate.com を 参 照 さ れ た い 。
2000 年 度 の 受 講 生 の TOIEC 公 開 試 験 ス コ ア は 200 点 台 の 後 半 か ら 900 点 前 後 に ま で 分
布していた。
3 2002 年 ま で は 総 合 点 は 最 低 2.0 点 か ら 最 高 8.0 点 ま で 、 小 数 点 以 下 1 桁 目 ま で の 2 桁 で 表
示 さ れ 、 測 定 標 準 誤 差 は 0.2 と 報 告 さ れ て い る 。 2002 年 の 冬 か ら 試 験 の 内 容 の 一 部 と ス コ
ア 表 示 が 変 更 さ れ 、 ス コ ア は 20 点 か ら 80 点 ま で の 二 桁 で 表 示 さ れ る こ と と な っ た 。
2
な示唆が得られている。受験対策などの影響も含めて英語はそれなりに勉強してきたが、
リスニングの訓練を全くしてこなかった学生を中心的な対象として想定して学習活動を構
成していたつもりであったのに、そうした学生には大幅なスコアの上昇は見られず、一部
の帰国生に際立った向上が見られたことが大きな反省材料となった。
1990 年 代 半 ば 過 ぎ よ り 教 材 と し て CNN Headline News を 使 用 し て い る が 、 英 語 の レ ベ
ル・アナウンサーのスピード・内容的になじみにくい点など、学生から不満の声が聞こえ
て い た 。 ま た 、 1998 年 度 ま で は 大 学 初 年 度 生 が 身 に つ け る べ き 基 本 的 な 語 彙 習 得 に 向 け
て の 訓 練 を 行 っ て い た が 、 1998 年 度 後 期 か ら 基 本 語 彙 習 得 の た め の 訓 練 が お ろ そ か に な
り つ つ あ る こ と を こ の 数 年 自 覚 し 始 め た と こ ろ で も あ っ た 。 PhonePass そ の も の に つ い て
は、受講生のアンケート結果や授業中の反応から総合的に判断すると、英語の質問にすぐ
に英語で応答しなければならないことが「難しさ」につながっているように見受けられた。
特に、最後の自由応答設問については、日本語でも答えられないという意見が特徴的に見
られた。
こ う し た 点 に 対 応 す る た め 2002 年 度 の 後 期 に マ ル チ カ ー ド を 利 用 し た 応 答 練 習 を 行 っ
た 。 SET-10 の 最 後 の 問 題 で あ る open question の 内 容 に 相 当 す る 質 問 を 多 数 用 意 し 、 名
刺サイズのカードに印刷して、3 人ずつのグループにわかれた学生に配布した。各グルー
プの学生は交代で質問者・回答者・タイムキーパーとなり、質問者がカードに印刷された
質 問 を 2 回 読 み 上 げ た 後 8 秒 待 っ て か ら 回 答 者 が 答 え は じ め 、 そ の 時 点 か ら 30 秒 後 に 回
答終了とし、質問者とタイムキーパーが回答に対する評価を記録シートに記入するという
形 式 で 練 習 を 行 っ た 。 応 答 の 話 題 と し て は 、 SET-10 の 課 題 に お お よ そ 相 当 す る 類 似 問 題
の ほ か 、 入 門 的 な 自 己 紹 介 の 話 題 、 早 稲 田 大 学 の 日 常 生 活 に 密 着 し た 話 題 、 TOEFL CBT の
writing topics を そ の ま ま カ ー ド 化 し た も の も 使 用 し た 。
5. 考 察
マルチカードを利用した応答練習を行うことで、テキストの音読がコミュニケーション
の 基 礎 訓 練 と し て 重 要 で あ る と い う 英 語 教 育 の 基 本 的 認 識 の 再 確 認 が で き た ほ か (1)質 問
者だけがカードを見て、応答者・タイムキーパーはカードを見ることができないため、情
報 落 差 が 自 然 に 成 立 す る (2)質 問 者 ・ タ イ ム キ ー パ ー も 評 価 の た め 回 答 の 聞 き 取 り に 集 中
す る 必 要 が あ る (3)カ ー ド に よ る 応 答 練 習 に お い て は 、 質 問 者 は 音 読 だ け を 担 当 す る た め
一 般 的 な ペ ア 学 習 に 比 べ て 負 荷 が 低 く な り 、 よ り 活 発 な 応 答 に な る (4)カ ー ド を 用 い た ゲ
ーム的な課題であるため、応答までの制限時間など、現実的な対話状況に近い応答訓練が
可能となるなど、今後の英語学習活動のデザインに向けて、さまざまな興味深い点が明ら
かとなった。
6. 参 考 文 献
[1]
Bernstein, Jared and Harada, Yasunari, "Automatic Measurement of Spoken
English Skills: consistent benchmarks for English learning," 大 学 英 語 教 育 学 会 第
4 1 回 全 国 大 会 , 41th Annual Convention of the Japan Association of College
English Teachers, 2002 年 9 月 8 日 .
[2] 原 田 康 也 ,「 電 話 を 利 用 し た 英 語 リ ス ニ ン グ ・ ス ピ ー キ ン グ 自 動 テ ス ト : 早 稲 田 大 学
法 学 部 1 年 生 の ス コ ア か ら の 考 察 」 , 信 学 技 法 TL2002-41 (2002-12), pp49-54, 電 子 情
報 通 信 学 会 , 2002 年 12 月 6 日 .
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