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科目「実習」における教材研究

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科目「実習」における教材研究
沖縄県立総合教育センター 1年長期研修員 第45集 研究集録 2009年3月
<通信・制御>
科目「実習」における教材研究
―H8マイコンを利用した学習支援教材の作成―
沖縄県立美里工業高等学校教諭
宮
里
真 二
Ⅰ テーマ設定の理由
今日,家電製品や各種電気機器はもとより自動車のエンジン制御や玩具など身の回りにある多くの製品
が,マイコン(Micro Computer)制御を行うことで「多機能かつ分かりやすい操作」を実現している。マ
イコン制御は操作の確実性や品質の安定性,生産性の向上などが要求される産業界において,今後も多方
面での活用が増えていくものと思われる。さらに,省資源・省エネルギーが求められる現代社会において
は,携帯電話に代表されるように多機能かつ小型化や,エアコンや冷蔵庫の省電力化などマイコン制御は
環境負荷低減に継続的に貢献している。このように,現代社会においてマイコンの制御技術は必要不可欠
なものとなっている。マイコン制御を利用した製品の開発には,マイコンを機器に組み込むためのハード
ウェア技術およびプログラム開発技術が要求される。しかし,経済産業省独立行政法人 情報処理推進機
構による調査※1では,現在従事する組込みソフトウェア技術者約242,000人に対して不足している組込み
ソフトウェア技術者約88,000人と,人材の育成確保が課題となっている。
一方,高等学校学習指導要領では教科「工業」科目「実習」の目標に「工業の各専門分野に関する基礎
的な技術を実際の作業を通して総合的に習得させ,技術革新に主体的に対応できる能力と態度を育てる」
とあり,内容の取扱いについて「先端的技術の中から,基礎的な内容を選択して扱うこと」とある。「マ
イコンによる制御技術」の習得は,先端的技術の習得を通して主体的に対応する能力の向上や,ものづく
りの担い手として地域の産業界に必要とされる有為な人材の育成に有効と考えられる。
本校電気科では2,3学年の実習で有接点リレーによる制御実習やパソコンやハンディターミナルによ
るシーケンサを用いた制御実習を行っている。また,今年度はFA(Factory Automation)実習装置の更
新の中で,シーケンサによる制御に加えH8マイコンやPIC(Peripheral Interface Controller)を
用いた制御実習も新たに計画しており,実習手引書および指導書の整備が急務である。
マイコンによる制御実習をすることによって,生徒が身の回りのマイコン制御に対する興味・関心を高
め,マイコン制御技術への知識・技能を習得していくものと期待される。また,マイコン制御の総合的な
理解を深めるため,制御対象回路の製作を計画的に行うことで,ものづくりの醍醐味を感じ,より発展的
な知識・技能の習得に繋がっていくものと考えられる。さらに,更新予定の実習装置を早期より有効利用
できるようH8マイコンを利用した制御実習の教材開発と実習手引書の作成をしたいと考え本研究のテー
マを設定した。
※1
2008年版組込みソフトウェア産業実態調査(経営者・事業責任者向け調査)
Ⅱ 研究内容
1
C言語に関する知識の習得
私たちが通常使用する日本語や英語などの言語は,コンピュータが直接は理解できない。コンピュ
ータが理解できるのは電流が流れているかどうかだけである。当初はON=1,OFF=0など,1010010
という2進数の表示を使う機械語を利用することでコンピュータを動かしてきた。しかし,機械語は
人にとって大変理解しづらいものなので,理解し易いプログラム言語として機械語と1対1の関係を
もつアセンブリ言語が開発され使われるようになってきた。さらに,より理解しやすい言語としてB
ASICをはじめ,C,JAVAなど多くのプログラム用言語(高級言語という)が開発され,マイ
コンによる制御においても,高級言語が多く利用されている。今回はプログラムの理解が容易な高級
言語で,他校での利用やプログラムのみの学習など多様な環境下での利用の可能性も高く,多くの機
種へのプログラムの応用も比較的容易なC言語を用いて行う。表1に機械語,アセンブリ言語,C言
語の特徴を示す。
-1-
表1 各言語の特徴
機械語
命令コー
ドの例
特 徴
10110100
アセンブリ言語
MOV
E0,R0
C言語
(高級言語)
R0=E0
・2進数で作成さ ・機械語に1対1で対応した命 ・プログラムを短文で作成でき
れており分か
令文で作成してるため,マイ
る。
りづらい。
コンの動作の理解に繋がるが ・理解しやすく,多くのマイコ
・マイコンにその
プログラムが長くなる。
ンへの応用が可能。
まま転送可能。 ・ マ イ コ ン ご と に 表 記 が 違 う ・機械語に翻訳後に転送可能と
為,それぞれのアセンブリ言
なるため,手間がかかる 。
語を学ばなければならない。
・機械語に翻訳後に転送可能と
なるため手間がかかる。
また,C言語やアセンブラなどで作成したプログラムでマイコンを動かすためには,アセンブリ言
語やC言語で作成されたソースプログラムを機械語に翻訳する為のアセンブラ,コンパイラや,機械
語プログラムと標準ライブラリを関連付けるリンカ等が必要である。また,実行ファイルをマイコン
のCPU(Central Processing Unit)に書き込むためのライタなどのソフトウェアを用いてマイコ
ンがプログラムを理解し実行できるようにする作業が必要になる(図1)
。
図1 プログラムの書込み手順
2
組込み技術の基礎的知識の習得
(1) 組込みシステム
社団法人組込みシステム技術協会は,
「組み込みシステムとは,ある特定の機能を,その中にコ
ンピュータを組み込むことで実現したシステムのこと」※2と定義し,組込みシステムを用いて実
際に作られた機器を組込み機器,組込みシステムに使われるソフトウェアのことを組込みソフトウ
ェアと言っている。つまり,組込み技術はハードウェアとしての組込み機器とソフトウェアとして
の組込みソフトウェアから成り立っている。
現在,組込み技術は自動車,携帯電話や炊飯器などの身近なものから,飛行機,人工衛星や医
療器具など最も高い信頼性を要求される高機能製品,ATMや駅の改札機などのインフラ系システ
ムなど多種多様な分野で活用されている。これらはハードウェア,ソフトウェアともに処理速度,
信頼性などの性能レベルや小型軽量化を含めたシステムデザイン要求,コスト制限などを踏まえ専
用的な用途に合わせて開発されており,その開発には周辺機器を含めたハードウェア,ソフトウェ
-2-
アへの高度な知識や高い技術が要求される。
(2) ハードウェア
① 入力装置
スイッチが入ることで電流が流れるa接点スイッチ,電流が遮断されるb接点スイッチなどの
動作によって大別できるスイッチ類と,光・温度・湿度・加速度など現象の変化を検出し電気信
号に変換するセンサなどがある。
② 出力装置
発光ダイオード(以下LED)
・液晶画面などの表示装置やモータや空気圧・油圧などで機械
的な運動をするアクチュエータなどの他にもヒータやスピーカなど多くの出力装置などがある。
また,マイコンの出力信号は微弱なため直接出力装置を制御できない場合には,マイコンとアク
チュエータの間にドライブ回路を入れる必要がある。
③ 制御装置
マイコン本体のことで,演算機能の他に,入力装置や出力装置などの外部機器と信号のやりと
りを行うI/O(Input/Output)ポート,正確に決められた間隔で命令を行う場合に必要なタイ
マ機能,アナログ信号とデジタル信号の相互変換を行うA/D・D/A(Analog/Digital・
Digital/Analog)変換機能などを内蔵しており,代表的なマイコンとして本研究で使用するH8
マイコンやPIC,AVRなどがある。
(3) ソフトウェア
マイコンで制御するためには,あらかじめ決められた順序に沿って正確に効率よく作業を進め
るためのプログラミングが必要である。プログラミング言語は,機種ごとに対応するアセンブリ言
語と多くの機種へのプログラムの展開が比較的容易で,理解しやすい言語として開発された高級言
語のC言語やBASICなどが使用されている。
入力装置や出力装置の制御を行う組込み技術のプログラムにおいては,任意の入力信号のみを
選択するときに用いるマスク処理や,突発的に発生した優先順位の高い入力信号に対して現在処理
を行っているメインプログラムを一時中断し優先順位の高いプログラムを実行する割り込み処理な
どが用いられている。
また,現在の組込み技術に欠かせない性能として,要求された処理を定められた時間内で完了
するリアルタイム性がある。リアルタイム性を向上させるソフトウェア技術として,より多くの作
業のうち優先順位の高い作業を判断し,多くの作業を並列的に効率よく迅速に処理することで多機
能化を図ったITRONやWindows CEなどのリアルタイムOS(RTOS)などがある。
※2
「絵で見る組込みシステム入門」
社団法人組込みシステム技術協会・エンベデッド技術者育成委員会著より
3 H8マイコンに関する知識の習得
(1) H8マイコン実習装置
① H8マイコンについて
マイコンは演算を行うCPU,マイコンの演算速度を決定するクロック発振器,データの読み
出し専用のROM(Read Only Memory),データの読み書きが可能なRAM(Random Access
Memory),命令やデータの伝達を管理するバスコントローラ,デジタルデータとアナログデータ
の変換を行うA/D・D/A変換器,タイマ機能をつかさどるITU(16bit Integrated Timer
Unit)
,入出力装置とのデータの受渡し口になるI/Oポートなどから構成される。
外部機器とは,I/Oポートを通して接続され,スイッチやセンサ等からの入力,LED等表
示装置やモータなどアクチュエータへの出力を行う。今回使用するH8マイコン3048F-oneでは、
1ポートあたり4∼8ビットの入出力用端子を持っている。今回は全11ポートのうちポートA,
B,7の3ポートのみを使用する(図2)
。
H8マイコンは,ルネサステクノロジー社(以下ルネサス社)製の8/16ビットのマイコンチ
ップである(写真1)。
このH8マイコンシリーズは,汎用レジスタを多く持ち多様なプログラムに対応できるほか,
基本的な周辺機能を装備しているため,多くの企業からCPUボードや開発キットも発売されて
いる。
今回使用するH8マイコン3048F-oneは,5Ⅴ単一電源で駆動するので電源の確保が容易など
-3-
の特長を持つほか,安価で入手しやすい機種であるため,全国規模の大会であるマイコンカーラ
リー競技大会においても指定されるなど高校生の教育用として適した機種の一つである。
表示装置
入力装置
アクチュエータ
図2 マイコンの構成
② H8マイコン実習装置について
使用するCPUボードはマイコンカーラリーでも使用され
ている北斗電子製H8CPUボード(RY3048Fone TypeH)を
使用した。また,LEDやDIP(Dual In-line Package)
スイッチなど基本的な周辺機器を装備したルネサス社製実習
基板(MCR2003A)も配置し,制御対象装置が無い場合でも基
本的なプログラム実習が可能なように計画した。なお電源は,
写真1 H8マイコン
5V直流電源が必要なので,単3型乾電池4個を直列接続
で用意した。これらの装置は,安価で入手しやすく,比較
的実績のあるマイコンボードを活用することで各高校にお
いて導入しやすい構成を念頭に置き,決定した(写真2)。
(2) H8マイコンの総合開発環境High-performance Embedded
Workshop(以下HEW)の使い方の習得
総合開発環境とは,アセンブル言語やC言語で作成された
プログラムを実行ファイルに組み直すところまで効率よく行
うことができるプログラミングソフトである。
今回はルネサス社製HEW無償評価版を使用した。
また,HEWを使用できるマイコンはルネサス社製マイコ
ンチップに限られるが,トレーニングボードやマイコンカー
写真2 実習装置
ラリーをはじめ民生用・学習用を問わず多く
の場面でルネサス社製マイコンは使用されて
おり,HEWの使い方の習得は多くの面で役
に立つものである(図3)
。
4 プログラム設計および制御対象機器の製作
(1) LED点灯プログラム
ルネサス社製実習基板のDIPスイッチと
LEDを使用して,スイッチのON-OFFの組み
合わせによってLEDの点灯パターンが決定
するプログラムを作成する。このプログラム
によって,2進数と16進数の確認,I/Oポ
ートの設定方法の理解およびプログラムから
マイコンへの書込みまでの一連の操作の習得
を図る。
図3 HEW画面
-4-
(2) LED点滅プログラム
繰り返し命令を利用して,設定したパターンでLEDの点滅を行うプログラムを作成する。プ
ログラム課題を繰り返し行うことでHEWの使い方の定着を図る。
(3) LED回路製作
制御対象であるLED回路自体は
簡易な回路構成にすることで,回路
図の理解から実体配線図の作成,製
作と容易に展開できるようにした。
この製作では,はんだ付けをはじめ
とする電子回路製作技術の向上や電
子回路図の内容を理解する力の育成
を目指した。また,製作した回路を
写真3 LED回路(部品面,はんだ面)
マイコンで制御することを通して,
ソフトウェア・ハードウェア両面からマイコン制御について考える力を育成するとともに,ハード
ウェアである電子回路への興味・関心を高めることを狙いとする(写真3)。
(4) 直流モータ制御回路製作
直流モータは出力信号が微弱なマ
イコンからは直接制御できない。直
流モータの回転方向の制御を行うた
めにトランジスタを用いたHブリッ
ジ回路の製作を行う。Hブリッジ回
路の製作を通して,トランジスタな
どの電子素子の動作について学ぶと
ともに電子回路を理解する力の育成
写真4 直流モータ制御回路(部品面,はんだ面)
を図る。また,製作を通して回路図
から実体配線図の理解や半導体素子のはんだ付けなど,電子回路製作技術の向上を図る(写真4)。
(5) PWM(Pulse Width Modulation)制御プログラム
マイコンのタイマ機能であるITUを用いて直流モータをPWM制御するプログラムを作成す
る。このプログラムによって,PWM制御とマイコンのタイマ機能の理解およびモータの正転・逆
転の回転制御について理解を図る。また,PWM信号を作成する回路をソルダーレスブレッドボー
ド(以下ブレッドボード)を用いて作成することで,電子回路の試作方法を学び,電子回路への理
解を深めるとともに電子製作技術の更なる向上を図る。
直流モーター制御回路
ブレッドボード部
図4 PWM制御回路
-5-
5
実習手引書の作成
実習手引書の作成は,①マイコンによる制御技術,②総合開発環境HEWの操作方法,③電子回路
製作技術,の3点を総合的に習得できることを目指し,全7分冊構成で作成した。また,ワークシー
トをつけることで,課題を通して内容の確認を行えるようにした。
(1) 第1分冊,第2分冊
HEWの設定画面では,各画面ごとに説明を設け理解し易いようにした。また,LED点灯プ
ログラムの作成を通して,HEWの使用法の習得とC言語の基本事項の確認ができるようにした。
図6 第2分冊手引書(HEWの構造)
図5 第1分冊手引書(セットアップ)
(2) 第3分冊,第4分冊
LED回路の回路図を見て,実体配線図を作成する課題を設けることで,回路について考える
工夫をした。はんだ付けの手順を手引書とスライドの動画で説明できるようにした。また,製作し
た基盤の動作確認の留意点も示すことで,トラブルシューティングの方法も学べるようにした。
図8 第4分冊手引書(動作チェック)
図7 第3分冊手引書(はんだ付け)
-6-
(3) 第5分冊,第6分冊
トランジスタを使用した複雑な回路図の電流の流れが,視覚的に理解できるようにスライドのア
ニメーションで説明できるようにした。また,製作においては,細かい部分のはんだ付けを画像で
理解しやすいよう工夫した。
図9 第5分冊指導書(回路の製作)
図 10 第6分冊指導書(演習問題)
(4) 第7分冊
直流モータ正転逆転制御プログラムのwait値の割合を調整することでPWMの動作を模擬的に体
験させ,理解しやすいよう課題を設定した。ブレッドボード上のロジックICも含めたPWM制御
の電流の流れをスライドのアニメーションで説明できるようにした。ITUに関しても,マイコン
内部の動きをスライドのアニメーションで説明できるようにした。初めて使用するブレッドボード
の使い方が理解しやすいように手順毎に説明を示した。
図 11 第7分冊指導書(PWM回路)
図 12 第7分冊指導書(ブレッドボード)
-7-
Ⅲ 指導の実際
1
制御実習における指導計画
制御実習は,2,3学年に設定し,2学年で有接点による制御の基礎学習を実施し,3学年でPL
C(Programmable Logic Controller)を活用した制御実習を計画している。(
は検証授業,
は本研修で作成部分)
表2 制御実習における指導計画
学年
週
1
2学年
5単位
2
3
4
5
1
2
3
4
3学年
5
3単位
6
7
8
9
実
習
内 容
有接点リレーによるシーケンス制御の基礎Ⅰ
・ 展開接続図(シーケンス図)と電気配線図,タイムチャートと真理値表
・ 有接点リレーの構造とa接点,b接点
・ ON回路,NOT回路,AND回路,OR回路
有接点リレーによるシーケンス制御の基礎Ⅱ
・ 自己保持回路,インターロック回路
有接点リレーによるシーケンス制御の基礎Ⅲ
・ タイマ回路
有接点リレーによるシーケンス制御の基礎Ⅳ
・ 三相誘導電動機の正転・逆転制御
PLCによるシーケンス制御の基礎Ⅰ
・ システム構成,ラダー回路の作成法
・ プログラミング(ON回路,NOT回路)
PLCによるシーケンス制御の基礎Ⅱ
・ プログラミング(AND回路,OR回路,自己保持回路)
PLCによるシーケンス制御の基礎Ⅲ
・ プログラミング(インターロック回路,タイマ回路)
H8マイコンによる制御Ⅰ
・ マイコン制御の概要,H8マイコンの概要
・ 総合開発環境の取り扱い①
・ プログラミング(LED点灯回路)
H8マイコンによる制御Ⅱ
・ 総合開発環境の取り扱い②
・ プログラミング(LED点滅回路)
H8マイコンによる制御Ⅲ−①
・ LED基盤の製作
・ 製作基盤の動作確認
H8マイコンによる制御Ⅲ−②
・ 製作基盤のトラブルシューティング法
・ プログラミングの修正(自作した制御対象回路の点滅回路)
H8マイコンによる制御Ⅳ−①
・ Hブリッジ直流モータドライブ基盤の製作
・ 製作基盤の動作確認
H8マイコンによる制御Ⅳ−②
・ 製作基盤のトラブルシューティング法
・ プログラミング(直流モータ正転逆転制御)
H8マイコンによる制御Ⅳ
・ PWM制御,ITU(タイマ機能)
・ ソルダーレスブレッドボードの使用法
・ プログラミング(直流モータのPWM制御)
-8-
2
検証授業の実施
(1) 科目・単元名
教科 工業
科目「実習」
単元「H8マイコンによる制御」
(2) 単元設定の理由
① 教材観
今日,家電製品や各種電気機器はもとより自動車や玩具など身の回りにある多くの製品が,マ
イコン制御を行うことで「多機能かつ分かりやすい操作」を実現している。マイコン制御は操作
の確実性や品質の安定性,生産性の向上などが要求される産業界において,今後も多方面での活
用が増えていくものと思われる。しかし,マイコン制御を利用した製品の開発には,マイコンを
機器に組み込むためのハードウェア技術およびプログラム開発技術が要求されるが,人材が不足
しておりマイコン制御に関する知識・技能を習得した人材の育成が課題となっている。
これらのことを踏まえ,プログラム演習および制御対象回路の製作を通して,マイコン制御の
基礎的知識と技術を総合的に習得し,主体的に対応できる能力と態度の育成を図る。
② 生徒観
本校電気科の生徒は各種資格検定等の取得に積極的な生徒が多く,技能の向上に対する意欲の
高い生徒が多い。教育課程においては,2,3学年の科目「実習」において制御実習として,リ
レーによる有接点制御・PLC制御を行いシーケンス制御の基礎的知識および技能の習得を図っ
ている。また,生徒の中には3学年の科目「課題研究」において,
「マイコンカーラリーの製作」
に取り組み,H8マイコンによる制御技術の習得を図っている。これら,科目「実習」で学ぶ制
御技術の基礎的知識と科目「課題研究」で学ぶマイコン制御の応用技術の間の橋渡しとして,
「マイコン制御」の基礎的知識と技術を総合的に理解・習得させることで,制御技術およびもの
づくりへの興味・関心を高める。
③ 指導観
科目「実習」の制御実習を通して制御技術の基礎は習得しているが,C言語をはじめプログラ
ミングについての知識・技術が不足しているので,プログラミングの基礎的知識の習得を図る。
さらに,プログラミングと併せて制御対象回路の製作をすることで,ソフトウェア・ハードウェ
ア両面からマイコン制御に関する総合的な理解とものづくりへの啓発を図る。
(3) 本時の学習指導
① 主題名
H8マイコンによる制御Ⅲ−①
② 指導目標
制御対象回路の製作を通して,ハードウェアを意識したプログラム作成の意識を高めるととも
にものづくりへの興味・関心を高めていく。また,前時で作成したプログラムを修正して,今回
製作するLED回路を制御することでプログラム内容の理解を深め,マイコン制御の総合的な理
解力の育成を図る。
③ 目標行動
制御対象回路を製作し,マイコンにより点滅制御を行えるようプログラムの修正ができる。
④ 下位目標行動
アR 総合開発環境HEWの操作ができる。
イR 制御対象回路の回路図が理解できる。
ウ 制御対象回路の製作ができる。
エ 制御対象回路に合わせたプログラムの修正ができる。
オ 実習基板(MCR2003A)のLEDと自作した制御対象回路のLEDの両方の制御ができる。
(4) 評価の観点
評価の観点
評価の内容
①関心・意欲・態度 マイコン制御について関心をもち,実習に意欲的に取り組む事ができ
る。
②思考・判断
制御対象回路の回路図を理解し,製作した回路の動作確認チェックが
できる。
③技能・表現
はんだ付けができ,制御対象回路の製作ができる。
④知識・理解
16進数表示を理解し制御対象に合わせたプログラムが作成できる。
-9-
(5) 本時の展開
端
学習
展開
導入
10分
子
確
生徒の活動
教師の活動
学習の流れ
教師の活動および留意点
はじめ
本時の目標
③説明
生徒の活動
① 集合(あいさつ,出席確認)。
②これまでの学習内
②本時の学習内容を説明する。
容を再確認する。
③LEDの点灯原理の説明。
③LEDについて学
LED回路図の動作の説明。
④実体配線図を作成させる。
④配線図
認
補足
下位
評価の観
目標行動
点
イR
①
習。
④回路図をもとに実
イR
②
ウ
②
ウ
③
アR
エ
②
④
アR
④
体配線図を作図。
作図
⑤LED回路の製作手順の説明。
はんだ付けの留意点の確認。
⑤説明
⑤電子回路製作の基
本事項の確認。
ユニバーサル基盤への回路製作の指導。
・LED,抵抗の取り付け時の注意。
・コネクター取り付け時の注意。
補足
・配線時の注意。
⑥LED回
⑥LED回路の製作指導。
路の製作
・机間巡視。
展開
125分
にLED回路の製
・はんだ付けの個別指導。
⑦確認
⑥実習手引書を参考
No
作。
・はんだごてによる
やけど等に十分気
Yes
をつけながら製作
に取り組む。
⑧課題の説明
⑦製作したLED回路のチェック法の指
補足
プログラ
導。
ク
・目視によるチェック。
プログラムを動か
・テスターまたは5V電源使用しての通
してのチェック。
電確認。
ム修正
不具合があれば手
・前時に作成したプログラムを使用して
確認
Yes
No
⑦電子回路のチェッ
直し。
動作確認をさせる。
⑧課題を提示し,プログラム修正および動
作確認を行わせる。
オ
⑧総合開発環境HE
W上でプログラム
の修正後,動作確
課題の解説
認。
⑨本時の実習内容をまとめる。
まとめ
15分
⑨まとめ
おわり
⑨電子回路製作時の
次回の実習の説明をする。
留意点の確認,プ
実習室の清掃。
ログラム修正点の
②④
確認。
3
検証授業の考察
(1) 技術の習得について
制御技術の習得に関するアンケート結果から,質問①で当初I/Oポートについて知識の乏し
かった生徒たちがI/Oポートの設定方法ができるようになったことが表れている。また,質問②
でも設定ができる生徒の割合が増えており,この二つから大部分の生徒がマイコン制御において重
- 10 -
要な部分である,本体と外部機器との
データの伝達に関する技能は習得しつ
つあると思われる。しかし,両問いと
も「わからない」生徒がいるので2進
数 16 進数の理解と変換も含めた基本
部分を反復して習得できる工夫が必要
であると考える。
質問③では実習を通して,当初より
も自信を持ってはんだ付けが出来るよ
うになり電子工作に臨める準備が出来
たと思われ,今後の製作技術の向上等
の効果が期待できる。
(2) 制御技術等に関する興味・関心につ
いて
興味・関心に関するアンケート結果
から,質問④では大きな変化は見られ
ないが,もともとものづくりに対して
興味・関心の高い生徒達であることが
わかる。質問⑤と質問⑥の2つの問い
で,制御実習とマイコン制御に対して
質問を行ったが,「とてもある」の割合
が増えたことやアンケートの自由記入
欄での「もっと凄いものを作ってみた
い」「はんだ付けが楽しかった」など
の感想があったことなどから,製作を
含めたマイコン制御に興味・関心を抱
かせることができたと思われる。しか
し,質問⑥の問いで「全くない」の生
徒がいるので,その理由を検証し今後
凡
手引書の内容や時間配分,課題の検討
例
などを行いマイコン制御への興味・関
心を引き出せるよう手立てを講じてい
図 13 アンケート結果
く必要があると考える。
4 その他
本研究において,制御を行うマイコンのプログラミングと制御対象となる回路の製作の両面から制
御について考え,総合的な理解を図ることと,ものづくりへの興味・関心を高めることを狙いとして
いた。実際に授業を行ってみると,回路製作におけるはんだ付けなど実習機会の少ない作業の技能向
写真5 検証授業の様子1
写真6 検証授業の様子2
- 11 -
上の効果もみられた。今回の検証授業の内容は細かい作業が多く高い集中力が要求される授業であっ
たが,生徒達は高い集中力を持続し授業に臨んでいた。技能の向上が実習に取り組む姿勢を高める事
ができたと思われる。
Ⅳ まとめと今後の課題
1
まとめ
(1) 技術の習得について
本研究でマイコン制御やH8マイコンの知識の習得とともに,電子工作技術の指導についても
検討を重ねながら手引書を作成できたことは,実習指導を行っていくにあたり得るものが大きかっ
た。また,H8マイコンの機能およびHEWの操作方法の習得は,今後マイコンカーラリーなど生
徒の課題研究の指導を行う際には大きな自信となり,生徒のものづくりの指導の取り組みを推進す
ることができる。
(2) 実習手引書の作成について
プログラムだけでなく,制御対象回路の製作を行うことでソフトウェア・ハードウェアの両面
からマイコンによる制御について総合的に理解することができ,より実践的な実習手引書が作成で
きた。
実習手引書は以下の点に留意して作成した。
① 図や写真を多く取り入れ,視覚的に理解できるようにする。
② 各分冊ともスライドを作成し,説明時に手引書とともに利用する形をとる。
③ 課題の中で基本事項を繰り返すことで基礎力の定着を図るようにする。
また,本実習を導入するにあたり,実習装置の構成およびHEWとライタソフトの入手方法を
記載することで,円滑に実習準備ができるようにした教師用導入編を別冊として作成した。
(3) 学習指導の工夫
説明用スライドにアニメーションや動画を入れ,電子回路やマイコン内部での信号の流れにつ
いて理解しやすくすることでプログラムの内容への理解力も深まることが期待できる。
また,制御対象回路の製作とプログラミングを行うことで,作る楽しさと制御する楽しさを体
験させることが,科目「課題研究」等でのものづくりの創造性・発展性へとつながることと期待で
きる。
2 課題
(1) 授業の工夫について
指導計画を基に,授業を通して単元の時間配分や製作課題の内容,手引書やスライド等につい
て生徒や多くの先生方の意見を取り入れながら制御実習の全体的なバランスを調整し,改善を行い
たい。
(2) 発展分野との関わりについて
今回取り上げることのできなかった多くのマイコンの機能についても更に手引書を作成するこ
とで指導計画に応じて指導する機能を選択できるようにしていきたい。
また,科目「実習」のみならず,科目「課題研究」でもマイコン制御を取り扱う機会があるの
で発展的な指導が展開できるような教材を作成していきたい。
(3) 指導書の作成について
本研究においては生徒用実習手引書を作成したが,初めてマイコン制御を担当する教諭が指導
しやすいように補足説明や特に留意する事項などを生徒用実習手引書に追記した教師用指導書を作
成していきたい。
<主な参考文献>
社団法人組込みシステム技術協会 エンベデッド技術者育成委員会 2008
『絵で見る組込みシステム入門』 電波新聞社
山本秀樹 2008 『トランジスタ技術SPECIAL for フレッシャーズ マイコンのしくみと動かし方』
CQ出版社
横山直隆 2006 『C言語によるH8マイコンプログラミング入門』 技術評論社
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