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第2章 東京の計画に対する評価(PDF/1.47MB)

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第2章 東京の計画に対する評価(PDF/1.47MB)
第二部 第2章
東京の計画に対する評価
第2章
~ 東京の計画に対する評価 ~
本章では、東京が IOC に提出した、申請ファイル及び立候補ファイルの 2 つの開催
計画並びにその内容を説明したプレゼンテーションに対して、IOC 等から寄せられた
評価について記載する。
また、東京の計画に対する IF からの評価もあわせて記載する。
373
第二部 第2章
東京の計画に対する評価
第2章
第1節
東京の計画に対する評価
申請ファイルに対する評価
【ポイント】
○ 東京が、宿泊施設、選手村、安全対策(セキュリティ)、環境、イ
ンフラ等で高く評価され、総合評価順位 1 位で、立候補都市に選定さ
れた。
1
申請ファイルとワーキンググループ・レポート
申請ファイルとは、IOC から出された「動機、コンセプト及びレガシー、
政府による支援、財政、会場、宿泊施設、輸送、安全対策(セキュリティ)、
一般的条件、世論及び経験」等に関する質問に対し、各申請都市が書面で
回答する大会開催計画である。
IOC に提出された申請ファイルは、IOC 委員、IF 代表、専門家等 13
名から構成されるワーキンググループにより評価、順位付けされ、IOC 理
事会に報告される。
IOC は、このワーキンググループ・レポートを踏まえ、立候補都市を選
定する。
2 立候補都市の選定 ~東京が総合評価第1位を獲得
(1) 7 都市が選定の対象
2016 年第 31 回オリンピック・パラリンピック競技大会の開催地に
立候補を申請していた都市(申請都市)は、東京、マドリード、シカゴ、
ドーハ、リオデジャネイロ、プラハ、バクーの 7 都市であった。
(2)
4 都市が立候補都市に選定
IOC は、申請ファイルの評価結果に基づき、東京、マドリード、シカ
ゴ、リオデジャネイロの 4 都市を立候補都市に選定した。
(3)
東京が 1 位となった総合評価
総合評価順位は、1 東京、2 マドリード、3 シカゴ、4 ドーハ、5 リ
オデジャネイロ、6 プラハ、7 バクーであった。
なお、上記からも明らかなように、4 位のドーハが落選し、5 位のリ
オデジャネイロが立候補都市に選定されている。その確たる理由は定か
ではないが、開催日程が IOC の指定した 7 月 16 日から 8 月 31 日ま
ででなかった(ドーハの計画では、10 月 14 日から 30 日までであっ
た)ことが理由の一つであると考えられている。
374
第二部 第2章
東京の計画に対する評価
(4)
東京が主に評価された点
○ 宿泊施設
既存客室数が IOC 要求基準(40,000 室)を大きく超過
○ 選手村
射撃とサッカー予選を除くすべての競技会場が半径 8km 圏内と
会場配置計画が極めてコンパクト
○ 安全対策(セキュリティ)
十分な警備資源と経験を保有
○ 環境
緑地の増加、再生水利用、排出ガス規制等により総じて良い環境
○ インフラ
高密度で効率的な鉄道インフラと高速道路ネットワーク
2016年大会申請都市の評価結果 < 最高点の高い順に記載 >
番
号
判断基準
ウ
エ
イ
ト
内 容
○招致に対する政府、自治体の支援の状況
政府保証、法的問題、
1
○大会開催に伴う法的問題の有無
世論
○世論調査の結果 等
(70)
(15)
(15)
2
○既存の輸送インフラの充実度
○計画中の輸送インフラの実現可能度
○空港
○メディアセンターの立地条件・後利用 等
(51)
(34)
(5)
(10)
5
3 競技会場
○既存施設の利用度
○新設会場の実現可能性
○会場配置の合理性と新設会場の後利用 等
(35)
(35)
(30)
4
4 オリンピック選手村
○立地条件(会場までの移動距離)
○コンセプト(宿泊施設数、建物の構造 等)
○大会後の後利用
(40)
(40)
(20)
3
2 一般的インフラ
5
環境面における状況 ○環境の現況(緑化、大気 等)
○大会開催が環境に与える影響
及び影響
6 宿泊施設
(40)
(60)
○大会関係者の宿泊施設 部屋数 (80)
(40,000室以上)の確保 宿泊構想 (20)
1
最高
最低
マドリード
9.0
7.5
○大会期間中の輸送コンセプト
○各施設間の距離と移動時間
(50)
(50)
7.9
7.9
7.5
東京
2
8.8
8
安全確保及び
安全対策
○大会期間中の安全対策(警備体制 等)
○申請都市及び国内で過去10年間 数 (60)
に開催した主な国際競技大会 質 (40)
10 財政
○大会開催を可能とする財政能力
○政府による支援の可能性
○国の格付け 等
3
○計画全般と大会が各都市に残す
レガシーの全体的な見解
3
2
8.0
7.9
11 全体計画とレガシー
7.2
6.7
マドリード
9.0
8.0
東京
8.6
平均点
8.5
375
シカゴ
7.9
7.1
8.0
7.0
8.5
5.4
5.5
8.0
6.7
7.0
6.0
ドーハ
7.7
5.5
6.5
ドーハ
7.1
5.5
6.6
シカゴ
8.0
6.5
7.2
5.0
ドーハ
7.4
6.5
6.9
5.8
バクー
8.1
6.8
7.6
5.6
5.5
シカゴ
7.8
5.3
4.6
6.0
6.0
6.3
5.0
6.0
6.4
6.0
7.4
5.4
バクー
5.1
5.6
5.5
7.2
4.4
6.0
4.4
4.8
4.8
プラハ
4.0
5.8
5.0
5.3
4.4
バクー
6.4
3.8
バクー
6.4
4.8
バクー
5.0
プラハ
5.6
4.8
バクー
プラハ
5.0
2.6
7.0
プラハ
6.7
4.2
バクー
プラハ
6.4
4.9
バクー
プラハ
6.1
3.2
プラハ
リオデジャネイロ
7.5
3.8
バクー
プラハ
5.8
4.3
5.6
プラハ
リオデジャネイロ
6.8
5.0
7.7
ドーハ
7.0
6.7
リオデジャネイロ
リオデジャネイロ
7.7
4.2
最低
プラハ
プラハ
ドーハ
7.6
最高
プラハ
リオデジャネイロ
7.0
5.7
6.0
リオデジャネイロ
6.4
最低
7.4
リオデジャネイロ
シカゴ
8.0
5.3
7
バクー
シカゴ
リオデジャネイロ
7.9
6.2
7.2
ドーハ
8.3
シカゴ
7.4
6.9
シカゴ
リオデジャネイロ
8.0
5.8
8.6
最高
リオデジャネイロ
ドーハ
マドリード
6.5
5.5
7.4
最低
7.9
リオデジャネイロ
マドリード
6.0
7.8
8.1
6.0
シカゴ
7.0
8.4
7.8
最高
6
シカゴ
7.0
7.4
バクー
東京
9.0
6.4
最低
8.5
マドリード
マドリード
8.0
8.3
8.2
7.5
東京
8.5
7.0
5
東京
ドーハ
8.8
7.1
8.0
6.8
8.6
東京
ドーハ
8.6
最終結果
(総合評価)
8.2
最高
シカゴ
9.4
シカゴ
マドリード
5.5
8.2
東京
8.5
7.0
ドーハ
7.4
9.8
最低
ドーハ
7.4
8.8
東京
8.2
7.5
シカゴ
9.6
9.0
過去に開催した
9
スポーツ大会実績
7.6
6.9
8.7
マドリード
3
8.7
マドリード
7.6
9.0
7.3
東京
8.7
4
ドーハ
東京
8.9
東京
5
最高
マドリード
東京
8.9
最低
8.8
マドリード
8.8
3
最高
3
リオデジャネイロ
マドリード
8.9
10.0
7 輸送構想
2
3.0
バクー
4.8
3.9
4.3
第二部 第2章
東京の計画に対する評価
第2節
競技会場計画に対する IF の評価
~東京は4都市中最も早く同意書を取得
【ポイント】
○ 東京の大会計画は、IF から高い評価を得るとともに、4 都市の中で
最も早く 26 競技の IF すべてから、競技会場計画に対する同意書を取
得した。
立候補ファイルに記載する競技会場については、その会場を使用すること
に対する各 IF の同意書を取得して IOC に提出する必要がある。
IF に接触する方法としては、①日本に招聘する、②IF 本部を訪問する等
のほか、③国内外で行われる国際大会等の機会を利用して訪問、説明する等
の方法がある。
③国内外の国際大会では、すべての競技の IF が集まるオリンピック・パ
ラリンピック競技大会が最大のものであり、時期の面でもオリンピック・パ
ラリンピックの開催時期は立候補都市選定直後であり、具体的な交渉を開始
する良いタイミングである。今回の招致活動中に開催された北京大会は、日
本から近いこともあり、この機会を最大限に活用した。
IF との調整は、北京大会後も継続して行われたが、特に屋外競技の場合
は、体育館等で行われる屋内競技と異なり、競技会場予定地の具体的な環
境・条件を確認する必要があり、IF を日本に招聘するケースも発生した。
海外で開催される国際競技大会も貴重な接触の機会であり、開催地に出張
して接触を試みたケースもある。
半径 8km圏内にほとんどの競技会場を集中させた東京の競技会場計画
は、アスリートが移動のストレスを感じることなく競技に集中できることを
第一に考えた結果である。このコンパクトな会場配置は、各 IF から高い評
価を受けた。充実した宿泊施設も、各 IF の期待に十分応えるものであった。
こうした高評価を背景に、東京は 4 都市の中で最も早く 26 競技の IF す
べてから、競技会場計画に対する同意書を取得した。
さらに、パラリンピックの競技会場計画に関しては、同意書の取得及び
IOC への提出は義務付けられていないが、任意で IPC に説明を行い、同意
書を取得し IOC に提出した。
(参考)4 都市が全 IF から同意書を取得した旨発表した期日
東京
平成 21(2009)年 1 月 9 日
リオデジャネイロ
同年 1 月 12 日
マドリード
同年 1 月 20 日
シカゴ
同年 1 月 29 日
376
第二部 第2章
東京の計画に対する評価
第3節 立候補ファイルの評価
1 IOC 評価委員会による評価
【ポイント】
○ 東京は、高評価の一方、課題も指摘された。
○ 報告書の要約の最終部分に「招致の主要関係機関から提供された関
係資料や情報、プレゼンテーションの質」に関する記載があり、東京、
シカゴは「質が高い」、マドリードは「質にばらつきあり」と評価さ
れた一方、リオは「非常に質が高い」と記載された。
○ リオは、セキュリティ等開催計画・能力の欠点を国を挙げて克服す
る姿勢を訴えたこと等により、2016 年までには改善が期待できると
の印象を IOC に与えることができた。
○ 今後招致活動を行う際の計画策定においては、IOC 評価委員会報告書
の指摘から得られた教訓を踏まえ、IOC からどう受け止められるかという
点を十分考慮し、より完成度の高い内容としていく必要がある。
(1)
IOC 評価委員会報告書の公表
立候補ファイルとは、IOC から出された 17 項目の質問に対し、各立
候補都市が書面で回答する大会開催計画である。
IOC 評価委員会は、IOC 委員、IF 代表、アスリート代表及び財政、環
境、輸送の専門家等 13 名で構成されており、各立候補都市が提出した
立候補ファイルの内容を検証するため、それぞれの立候補都市を訪問し
て質疑応答や会場視察等を実施し、大会計画の優れた点や課題とすべき
点について、IOC 評価委員会報告書として報告する。
IOC 評価委員会報告書は、評価委員全員の一致した意見であり、全
IOC 委員に送付されると同時に公表され、IOC 総会において IOC 委員
が開催都市を選定する際の参考にされる。
なお、この報告書は、立候補都市間の優劣をつける目的のものではな
いため、立候補都市選定時とは異なり、数値による評点をつけていない。
(2)
高評価の一方、課題も指摘された東京の計画
この IOC 評価委員会報告書の中では、東京は、環境を最重視した大
会理念、コンパクトな大会計画、4,000 億円の基金を始めとした強固
な財政基盤、充実した輸送システム等について、高く評価された。なお、
計画段階からのアスリートの積極的な参画について記述があったのは、
東京のみであった。
一方、世論の支持率が比較的低いこと、既存会場のいくつかは新設会
場と区分すべきこと、選手村の敷地が狭いこと、選手村やオリンピック
スタジアム周辺の交通が課題であること等が指摘された。これらについ
ては、IOC 評価委員会の訪問時にも十分説明したところであるが、残念
ながら IOC の理解が得られていなかったことが判明したため、十分対
377
第二部 第2章
東京の計画に対する評価
応可能で問題ない旨を記述した文書を IOC に提出した。
ア
東京が特に高く評価された点
事
項
評価内容
全体評価
質の高い立候補ファイルとプレゼンテーション
開催理念
世界を結ぶオリンピック・パラリンピックの開催理念、
環境を重視した計画
環境
「10 年後の東京」計画と整合し、都市や社会に良い
影響
財政
政府と東京都による財政保証と 4,000 億円の開催準
備基金等安定した財政力
マーケティング
計画と収入目標額が極めて妥当で実現性が高い
競技会場
半径 8km 圏内にほとんどの競技会場が配置される極
めてコンパクトな大会計画
セキュリティ
極めて優れたセキュリティ体制と大会に必要なレベル
の安全を提供する能力
輸送システム
世界でも最大かつ効率的な公共交通機関を有し、大会
関係者の効果的な輸送を提供
イ
東京が課題と記載された点
事
項
課題点
世論の支持率
世論の支持率が比較的低い(東京 56%、全国 55%)
競技会場の分類区分
既存会場のいくつかは、新設会場としての分類が適当
選手村の敷地面積
選手村の敷地面積の大きさについて懸念
ホテル客室料金の上限 ホテル客室料金の上限保証期間が不十分
保証期間
輸送
選手村とオリンピックスタジアム周辺の交通が課題
(3)
他の立候補都市の評価
他の 3 都市についても、各々、評価された点と課題が指摘された。
ア
シカゴ
持続可能な環境・社会・スポーツのレガシーや都市の中心 8km圏
内に存在するコンパクトな計画等が優れていると評価された一方で、
連邦政府の財政保証が得られていない点や交通インフラの不足等が
課題として指摘された。
378
第二部 第2章
東京の計画に対する評価
イ
リオデジャネイロ
政府主導による招致活動や世論の強力な支持等が優れていると評
価された一方で、クルーズ船を利用した宿泊の確保や効率的な輸送計
画等が課題とされた。なお、セキュリティについても課題とされつつ、
近年の地域ぐるみの取組については一定の評価をされる等、これまで
の努力や今後の改善に期待する内容となっている。
ウ
マドリード
世論の強力な支持や非常にコンパクトな大会コンセプトによる効
率的な運営等が優れていると評価された一方で、関係者間の役割分
担・責任等が不明確な点、国内アンチ・ドーピング規定と国際規定と
の整合性等が課題とされた。
(4)
4 都市が横一線
IOC 評価委員会報告書では、その要約の最終部分に「招致の主要関係
機関から提供された関係資料や情報、プレゼンテーションの質」に関す
る 4 都市共通の記載があった。これらは計画の質そのものを問う内容で
はなかったが、東京、シカゴについては「質が高い」、マドリードにつ
いては「質にばらつきあり」と評価された一方、リオは「非常に質が高
い」と記載された。
また、リオは、セキュリティ等、開催計画・能力の欠点を国を挙げて
克服する姿勢を IOC に訴えたこと等により、2016 年大会時までには
改善が期待できるとの印象を IOC に与えることができた。
その結果、IOC 評価委員会報告書の発表により、開催計画・能力の優
劣については立候補都市が横一線に並ぶ混戦模様となった。
(5)
IOC 評価委員会報告書を踏まえた今後の課題
東京として最高の計画を策定して提出したという自負はあったが、結果と
して前述のような指摘を受けた。
競技会場の区分の考え方についての指摘等を見ると、都市側の見方と IOC
側の見方が必ずしも一致しないことがあることがわかった。(詳細はP232
第一部第 4 章第 12 節参照)
万全の説明をしたつもりであっても、異なる理解をされたという事実を謙
虚に受け止め、今後招致活動を行う際の計画策定においては、こうした教訓
を踏まえ、IOC からどう受け止められるかという点を十分考慮し、より完成
度の高い内容としていく必要がある。
379
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