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期待と消費
研究レポート
No.146
October 2002
期待と消費
― 期待所得・期待インフレなど諸期待が消費に与える影響
主任研究員 長島 直樹
富士通総研(FRI)経済研究所
【 要 旨 】
不良債権処理や公的部門改革の加速は重要だが、現在直面している“構造的な需給ギャ
ップ”を放置したままでは、改革進行の摩擦が大きく、スムーズにいかない可能性が高い。
理想的なのは、財政負担に依存することなく近年低調な消費需要を底上げしながら一気に
構造改革を加速するシナリオではなかろうか。消費不振の背景には高所得者層・団塊世代
の消費萎縮がある。特に団塊世代は貯蓄志向を強めるライフサイクルに入っている上、将
来期待の低下が追い討ちをかけている可能性がある。
本稿は上記のような問題意識に基づいて、期待所得、期待インフレ、所得リスクといっ
た期待・リスク要因が平均消費性向にどのように影響を及ぼしているのか検証を試みたも
のである。所得階層別に分析した結果、以下のような観察結果が得られた。
① 消費性向との関連を考える上で重要なのは、期待所得や期待インフレといった期待であ
って、これらを所得増加率や物価上昇率の実現値と置き換えて考えることはできない。
② 散布図でみると、消費性向は低所得者層では期待所得、所得リスクに影響を受け、高所
得者層では期待所得、期待インフレに影響を受けている。
③ 関数推計及び時系列分析からは、すべての所得階層で消費性向が期待インフレの影響を
受けている、との結論になる。
④ したがって、共通の結論は「高所得者層の消費性向は期待インフレが高まると上昇する」
ということである。マクロ経済への影響を試算すると、期待インフレが 1 ポイント上が
ることによって消費は 2.5 兆円増え、GDP は約 0.5%増加する。
団塊世代がライフサイクル的に消費を抑制していると推測される現状で、上記の分析結
果を踏まえれば、
「期待インフレを高めることによって団塊世代の消費を前倒しする」とい
う政策インプリケーションが得られる。具体的には「所得税減税と高額消費に対する消費
税増税の段階的実施」というポリシーミックスが有効である。直間比率の是正と同時に、
追加的な財政負担に依存せずに消費需要の前倒しが行われることが期待できる。
長島 直樹
[email protected]
【 目 次 】
Page
-------------------------------------------------------------------------------
1
Ⅱ.消費における期待の役割 ------------------------------------------------------------
5
Ⅰ.はじめに
(1) 期待とは何か ―― 先行研究、データなど ――
(2) 期待所得
(3) 期待インフレ
(4) 所得リスク
Ⅲ.期待を含む関数推計 ------------------------------------------------------------------ 14
(1) 通常の推計
(2) 長期的関係 ―― 時系列分析から ――
Ⅳ.政策的インプリケーション --------------------------------------------------------------- 17
(1) 消費税率の段階的引き上げ
(2) 所得分配上の視点から
(3) 最適課税論の視点から
(4) 簡素な税制という視点から
(5) 政策の実効性 ―― インフレ目標つき金融量的緩和策との比較 ――
(6) 政策の合理性
(参考文献) ---------------------------------------------------------------------------------- 23
(分析に関する補足説明) ---------------------------------------------------------------- 24
期待と消費
Ⅰ.はじめに1
―― 日本経済の現状:需給ギャップとデフレーション ――
日本経済は 2002 年秋現在、
「構造的な需給ギャップ」に直面している。通常、需給ギャ
ップというと、景気循環に伴う短期的な現象と理解される。しかし、97 年初に消費税増税
前の駆け込み需要期を別にすれば、92 年以降約 10 年にわたって需給ギャップはマイナス
(デフレギャップの状態)に陥っている2。景気循環からみると、例えば 95∼96 年度は回
復期に相当し、実質成長率も 4%を超えていた。それでもギャップがマイナスということは、
直面する需給ギャップを循環的というよりはむしろ構造的とみなすべきことを示している。
近年、問題視されるデフレーション(一般物価の継続的な下落)も需給ギャップの拡大
によってもたらされている側面が強いのではなかろうか。もっともデフレーションの原因
については学者の間でもコンセンサスはなく、多くの要因が絡み合っている可能性もある。
しかし、図表 1 や時系列分析の結果(図表 2)からみられるように、需給ギャップがデフレ
ーションに影響を及ぼしている可能性は高い。
(図表 1)需給ギャップ率と一般物価の推移
8
(%)
6
4
2
0
-2
-4
需給ギャップ率 (内閣府の推計による)
GDPデフレーター(内閣府「国民経済計算」)
消費者物価
(総務省「消費者物価指数」)
(四半期データ)
-6
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01
1
本稿をまとめるにあたって、岩村充(早稲田大学)
、西村清彦(東京大学)
、深尾光洋(慶應大学)の各
教授から貴重なコメントを頂戴したことに感謝したい。ただし、本稿に残された誤りはすべて筆者のみの
責任である。
2 需給ギャップの推計は内閣府による。推計方法の詳細は内閣府(2001)
、あるいは新堂(2002)を参照。
1
(図表 2)時系列分析からみたデフレーション
① 時系列モデルと因果性検定
VAR モデル――GDP デフレーター(対前年比上昇率、%)
、マネーサプライ(M2+CD 平残の対
前年比上昇率、%)
、需給ギャップ率(%)
、輸入物価(対前年比上昇率、%)の 4 変数。ラグは
4 期。推計期間は 1980 年 1−3 月期∼2002 年 1−3 月期。モデルは Toda-Yamamoto(1995)に
従って、外生変数としてタイムトレンド、及びその 2 乗を含める VAR とする。これによって単
位根や共和分関係を考慮せずに、因果性の検定を行うことができる。BIC 基準により、ラグの長
さを 1 期としている。
F値
p値
① 過去のマネーサプライの係数=0
1.2337
0.2702
② 過去の需給ギャップの係数=0
8.7439
0.0042
0.04615
0.8305
帰無仮説
③ 過去の輸入デフレーターの係数=0
② 上記 VAR モデルに基づくインパルス応答関数
Response of PGDP to One S.D. Innovations
0.20
需給ギャップ率
0.15
マネーサプライの伸び
0.10
0.05
0.00
輸入物価上昇率
-0.05
1
2
3
4
5
6
8
7
9
10
11
12
(注)M:マネーサプライ、GAP:需給ギャップ率、PIM:輸入デフレーター(定義は上記①と同じ)の
各要因が、GDP デフレーターにどのように影響を及ぼすか、時間軸に沿って描いたもの。横軸は時
間(単位は四半期)。短期的には需給ギャップが、長期的にはマネー要因が物価に大きな影響を与え
る様子が示された。輸入要因の影響は無視しうるほど小さい。例えば、需給ギャップ率が 1%プラス
方向に動くと、GDP デフレーターが 3 四半期後に 0.15%ポイント上昇することを示す。
2
不良債権処理、公的部門の改革など、いわゆる“構造改革”は重要な課題に違いないが、
構造的な需給ギャップが拡大する中では、改革遂行は困難になる。一時、マスメディアを
中心に、構造と景気の政策的優先順位を巡って二律背反であるかのような議論も散見され
たが、最近では両者が相互に関連し合っているとの理解が広がってきた。確かに構造問題
はいくら強調しても強調し過ぎることのないほどに重要である。しかし、一時的であれ構
造的であれ、需給ギャップが負の方向に拡大すれば、不良債権の増加、生産性の低下3が同
時に起こる可能性が極めて高い。つまり、需要不足は構造問題をより深刻にする側面を持
つ4。こうした状況では、中長期的に需要を底上げしながら、金融機能の正常化や制度改革・
組織改革を実施するのが現実的な政策対応であろう。
しかし、巨額の公的債務の累積と財政破綻の危機に瀕している現状で、公的需要に依存
することはできないし、公的需要は公的金融なども含め、その過剰が構造問題の温床にな
っている一面を持つ。不足しているのは民間需要、特に消費需要である5。これは、所得階
層別では高所得者層、世代別には団塊の世代から高齢者層、といった平均してみれば比較
的余裕のある所得階層が消費萎縮とも言える状況に陥っていることが大きく寄与している。
P. Krugman は「家計の貯蓄率が 5%ポイント下がれば、日本経済における大半の問題は解
消する」
(クルーグマン、2001)と指摘している。ただ、どのように消費浮揚を図るかは難
問である。Krugman はインフレ目標値の導入によって、期待インフレ率を上げることが重
要であるとした。
本稿は GDP の 6 割弱を占める個人消費を扱う。需給ギャップ解消のためには「消費が増
えた方がよい」が、
「所得が増えれば消費は増える」では循環論法に陥る6。しかし、可処分
所得のうち消費に回す割合(平均消費性向)が上がれば、所得が一定でも消費は増える。
消費性向が上昇する条件はいくつか考えられる。例えば、資産価格の下落や住宅ローン等、
債務負担の実質的増加といったバランスシート要因が影響している可能性は高い。また、
供給側の質的向上が需要喚起につながるという側面もあろう。しかし、本稿では消費者の
将来期待が重要であると考え、消費性向と期待の関係を扱うものとする。
この考え方に対して、2つの反論を検討しよう。1つは「住宅ローンなどを抱える余裕
のない消費階層が貯蓄や資産を削って消費に回すとしたら、明日の生活を犠牲にしている
3
生産性の変化は生産側の技術変化であり、本来は供給曲線のシフト等として理解されるべきだが、供給
曲線の推定は通常、識別問題などによって困難である。そこで、インプットに対するアウトプット(産出
高や付加価値生産高)を事後的に計測された生産性と考えることがある。ここでは、このように事後的に
計測された生産性が低下する、という意味で使っている。
4 例えば、一橋大学の渡辺努教授は「不良債権処理は経済再生の必要条件であって十分条件ではない」と
指摘している(未定稿「不良債権処理」
)
。
5 設備投資を重視する立場もあるが、設備投資は景気変動と連動して短期的に大きく変動する。したがっ
て、本稿では、
“構造的な”需給ギャップをもたらしている主要因は“構造的に”低調な個人消費であると
考える。また、消費の底上げは設備投資の底上げにもつながる。
6 マクロベースで所得が増えることは需給ギャップを縮小することと同義であり、そのために消費を増加
させるという問題意識が議論の出発点になっているので。
3
に過ぎず、厚生は低下するのではないか」という批判である。これはもっともだが、本稿
の問題意識は、あくまで余裕のある消費階層(つまり高所得者層)の消費性向を上昇させ
ることにある。低所得者層に関する分析も行うが、これは高所得者層との対比を目的とす
るものである。図表 3 に見られるように、高所得者層(階層 5)の平均消費性向は 93 年以
降、顕著に低下していることがわかる7。
(図表 3)所得階層別にみた平均消費性向の推移
(%)
90
階層1(低所得者層)
階層2
階層3
階層4
階層5(高所得者層)
88
86
84
82
80
78
76
74
72
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
(注)総務省「家計調査報告」による。季節性を除去するために 4 期移動平均をとった。
今 1 つの批判はさらに本質的である。それは「所得不変のまま消費性向を上昇させるこ
とは、将来の消費を前倒ししているに過ぎず、中長期的での効果は皆無である」というも
のである。この批判に対しては2種類の考え方があろう。まず、批判の論拠を否定する予
備的貯蓄の存在である。消費者は「生涯の効用最大化を図るように消費を平準化し、すべ
ての資産を使い尽くす」ライフサイクル仮説に厳密には従わず、予備的な貯蓄を行うと考
えるのが通常である。また、将来不安やリスクが高まると、予備的貯蓄が増加することを
示す小川(1991)などの実証研究もある8。もう 1 つの考え方は、
「消費の前倒しに過ぎな
いが、それでもこれは必要かつ望ましい変化である」とするものである。本稿は後者の考
え方に立つ。つまり、高所得者層は団塊の世代を中心に分布しており、かつ彼らのライフ
サイクルが退職前の数年間に相当しているため、退職後に備えて貯蓄志向を強めていると
7
例えば、東京大学の西村清彦教授は、低所得者層の消費不振は流動性制約、高所得者層は“買い疲れ”
と表現している。本稿での理解は若干異なるが、所得階層によって消費抑制の理由が異なるという点では
共通している。
8 予備的貯蓄は将来の消費のための原資とは別に行う貯蓄を意味している。ただ、貯蓄のうちどの程度を
予備的貯蓄とみなすべきなのかについては十分に研究されているとは言えない。予備的貯蓄の割合が小さ
ければ、消費の前倒しに過ぎないとする批判に答えたことにはならないであろう。
4
考えられる。もしそうであれば、今後数年程度は高所得者層による構造的な貯蓄率高止ま
り(消費性向の低迷)が続く公算が大きい。その後彼らの消費性向が高まるため9、マクロ
全体で消費を前倒しすることは中長期でのスムージング効果を持つことを意味する10。
Ⅱ節では期待を内容ごとに吟味し、それぞれ消費性向との関連を所得階層別に明らかに
する。Ⅲ節では消費性向を説明する関数推計と時系列分析を紹介する。最後にⅣ節では、
得られた結論を整理し、政策的なインプリケーションを考察したい。
Ⅱ.消費における期待の役割
(1) 期待とは何か ―― 先行研究、データなど ――
期待とはどのようなものか。本稿では個人消費を考えているので、消費行動に影響を与
える期待、あるいは将来予想の内容を特定することが必要である。これまでの研究をみる
と、例えば小川(1991)は、所得リスクに関する分析を行った。貯蓄率関数を推計した上
で、所得リスクの増加が予備的貯蓄を高めるとの結論に達している。また、土居(2001)
は 1990 年代を分析対象に含めると、所得リスクに加えて雇用リスクを考慮する必要がある
ことを指摘している。日本銀行のエコノミストにも所得変動リスクや期待インフレ、実質
金利に関する一連の研究がある11。
しかし、
消費と期待の関係に関する分析は多くなく、特に日本の実証分析に至っては 1990
年以降、上記の数点を数えるに過ぎない。これは、期待に関するデータが限定されている
ことと期待の内容特定が必ずしも容易でないことが原因であると思われる。
データは内閣府「消費動向調査」から今後半年間の「収入の増え方」、
「物価の上がり方」
を尋ねた項目が利用でき、本調査もこのデータを用いている。また、期待の内容に関して
は、期待所得、期待インフレ、所得リスクを考察対象とする。期待所得とは、収入の増え
方を 5 段階で聞いたものであり12、内容的には所得増加率の方向性に対する予想である。期
待インフレは、物価の上がり方の方向性を 5 段階で聞いたものであり13、物価上昇率の方向
性に関する予想ということができる。所得リスクは期待所得のばらつき(標準偏差)をと
っている。本来であれば、所得の期待成長率の確からしさ(信頼区間幅の平均など)を所
得リスクと定義すべきであるが、このデータは得られないため、小川(1991)同様、個々
人の予想の確度が低下することは、平均値の分散が拡大することになる、という考え方を
踏襲した。期待の内容として、もう 1 つ考えられるのはインフレリスク(期待インフレの
ばらつき)であるが、平均消費性向との関連が見られなかったため、今回の分析対象とは
9 日本の高齢者は貯蓄志向が強い、とする調査結果が多いが、50 代よりも 60 代の方が低貯蓄率であるこ
とも事実である。
10 ほかに、個々の消費者がすべてライフサイクル仮説に従っていても、マクロでは経済成長や人口構成の
状況に従って正の貯蓄が生じうる、という点にも注意が必要である。
11 中川(1998)
、中山、大島(1999)
、中川、大島(2000)
、白塚(2001)などがこれに相当する。
12「5:大きくなる、4:やや大きくなる、3:変わらない、2:やや小さくなる、1:小さくなる」の 5 段階。
13「1:低くなる、2:やや低くなる、3:変わらない、4:やや高くなる、5:高くなる」の 5 段階。
5
していない14。
以下、期待所得(所得増加率の方向性に関する予想)
、期待インフレ(物価上昇率の方向
性に関する予想)、所得リスク(期待所得のばらつき)がどのような推移をたどり、平均消
費性向とはどのように関連しているか、所得階層別に見てみよう。
(2) 期待所得
まず、期待所得の推移をみると(図表 4)
、高所得者の期待(所得増加率の予想)は低所
得者のそれを常に上回っていることがわかる。また、いずれの所得階層でも、期待はバブ
ル崩壊後急落し、94∼95 年に回復した後、再度低下傾向をたどっている様子も確認できる。
期待所得と平均消費性向の関連を示したのが、図表 5 の散布図である。低所得者層にお
いて、より強い相関が認められるが、両所得階層とも明確な正の相関が観察できる。平均
消費性向、つまり可処分所得のうち消費に回す割合が期待所得に依存するのは、期待所得
が生涯所得(あるいは恒常所得)と相関していると考えれば理解しやすい。つまり、現在
の消費性向の高い人(家計)は、生涯所得に比しては特別に消費水準が高いことにはなら
ない。消費性向が所得増加率の実現値とはあまり相関しない(図表 6)ことからも、期待所
得を生涯所得と関連付ける解釈が支持されるのではなかろうか。
(図表 4)期待所得の推移
(5段階評価の平均値)
3.2
3.1
3.0
2.9
2.8
2.7
2.6
2.5
2.4
全体
低所得者層
中間所得者層
高所得者層
2.3
82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 200020012002
14
また、土居(2001)のように雇用リスクを考慮するという考え方もある。しかし、雇用リスク(雇用環
境:職の安定性や見つけやすさについての今後の方向性に関する予想)は期待所得と所得リスクに分解で
きると考え、重複を避けるため、今回の分析対象としなかった。
6
(図表 5)期待所得と平均消費性向
(低所得者層のケース)
2.5
y = 0.8783x + 0.0876
R2 = 0.7229
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
-2.0
-2.5
-2.5
-2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
(高所得者層のケース)
2.5
y = 0.8151x + 0.0619
2
R = 0.6189
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
-2.0
-2.5
-2.5
-2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
(注)横軸が期待所得、縦軸が平均消費性向である。いずれも、比較を容易にするために基準化した
数値になっている。期間は 1982 年 4-6 月期∼2002 年 1-3 月期の四半期データ(サンプル数 80)
7
(図表 6)所得増加率の実現値と平均消費性向
(低所得者層のケース)
4
y = 0.3378x + 0.0068
R2 = 0.1122
3
2
1
0
-1
-2
-3
-4
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
(高所得者層のケース)
4
y = 0.3041x + 0.0385
R2 = 0.0922
3
2
1
0
-1
-2
-3
-4
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
(注)横軸が実質可処分所得増加率(前年比、%)
、縦軸が平均消費性向である。いずれも、
比較を容易にするために基準化した数値になっている。期間は 1982 年 4-6 月期∼2002 年
1-3 月期の四半期データ(サンプル数 80)
。いずれの所得階層も高い相関は見られない。
8
(3) 期待インフレ
図表 7 は期待インフレの推移を所得階層別に示したものである。観察されることを列挙
すると、①低所得者層の期待インフレ(インフレ見通しの方向性)は高所得者層のそれを
常に上回っている、②89 年の消費税導入、97 年の同税率引き上げの直前に期待インフレは
急上昇している、③税制変更は一時的な現象であるにもかかわらず、期待インフレには制
度変更の影響が持続的に現われている(元のトレンドにはなかなか戻らない)―― ことが
わかる。
期待インフレと平均消費性向の関連を示すのが図表 8 の散布図である。低所得者層では
両者の関係は弱い半面、高所得者層では比較的明瞭な正の相関が見て取れる15。しかし、期
待インフレを消費者物価上昇率の実現値で置き換えると(図表 9)
、高所得者層でも関係が
曖昧になってくる。
以上、期待所得、及び期待インフレと消費性向の関連を調べたが、期待所得は所得階層
によらず、消費性向と明確に関連している一方、期待インフレは高所得者にとって重要な
要因であると考えられる。また、期待を実績値に置き換えると、いずれのケースも関係が
弱まることから、重要なのは期待所得、期待インフレといった期待であり、これらを単純
に所得増加率や物価上昇率の実績値に置き換えることはできないこともわかる16。
(図表 7)期待インフレの推移
(5段階評価の平均値)
4.3
4.1
3.9
3.7
3.5
3.3
全体
低所得者層
中間所得者層
高所得者層
3.1
2.9
2.7
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99 200020012002
単回帰の決定係数が 0.4966 であるので、相関係数は約 0.7 となる。
消費者物価指数(CPI)の代わりに消費デフレーターを使用すべき、との意見もあるが、結果は大同小
異である。
15
16
9
(図表 8)期待インフレと平均消費性向
(低所得者層のケース)
2.5
y = 0.428x + 0.0521
R2 = 0.1631
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
-2.0
-2.5
-3.0
-2.0
-1.0
0.0
1.0
2.0
3.0
(高所得者層のケース)
2.5
y = 0.7387x + 0.0932
2
R = 0.4966
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
-2.0
-2.5
-2.5
-2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
(注)横軸が期待インフレ、縦軸が平均消費性向である。いずれも、比較を容易にするために基準化した
数値になっている。期間は 1982 年 4-6 月期∼2002 年 1-3 月期の四半期データ(サンプル数 80)
10
(図表 9)消費者物価上昇率の実現値と平均消費性向
(低所得者層のケース)
2.5
y = 0.4257x + 0.0785
R2 = 0.18
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
-2.0
-2.5
-2.5
-2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
(高所得者層のケース)
2.5
y = 0.5161x + 0.0952
R2 = 0.2646
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
-2.0
-2.5
-2.5
-2.0
-1.5
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
(注)横軸が消費者物価対前年上昇率の実現値、縦軸が平均消費性向である。いずれも、比較を
容易にするために基準化した数値になっている。期間は 1982 年 4-6 月期∼2002 年 1-3 月
期の四半期データ(サンプル数 80)
。高所得者層でも相関が曖昧になる。
11
(4) 所得リスク
期待所得(所得増加率の方向性)のばらつきを所得リスクと考えると、その階層別推移
は図表 10 のようになる17。観察されることは、①低所得者層の所得リスクは高所得者層の
それを常に上回っている、②低所得者層では、バブル崩壊後上昇し、その後一時落ち着い
たものの、94 年頃から一貫して上昇傾向にある、③高所得者層ではバブル崩壊後にも比較
的安定していたが、98 年以降、低所得者層の後を追うように所得リスクが高まっている―
―などである。
所得リスクと平均消費性向は図表 11 に示すとおりである。低所得者層ではかなり強い負
の相関18が観察される一方、高所得者層では両者の関係がほとんど見られない。これまで考
えてきた諸要因の中で、平均消費性向に影響を与えている要因を整理すると、①期待所得
は所得階層によらず重要である、②期待インフレは高所得者層において重要だが、低所得
者層には重要でない、③所得リスクは低所得者層において重要だが、高所得者層には重要
でない、④所得、インフレとも実現値よりも期待が重要である――ということになる。
(図表 10)所得リスクの推移
(標準偏差)
1.6
1.5
全体
低所得者層
中間所得者層
高所得者層
1.4
1.3
1.2
1.1
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
17
94
95
96
97
98
99 200020012002
小川(1991)では期待所得をと期待インフレをそれぞれカールソン・パーキン法によって数値変換した
後、それぞれの分散を合計して所得リスクと定義している。本稿ではその方法はとらず、期待所得(5 段
階)の分布から標準偏差を計算している。その理由は、①カールソン・パーキン法の仮定が強過ぎ、適用
には躊躇されること、②同方法では却って原データの情報量を失ってしまうこと、③期待所得は概念的に
は名目値だが、実際には名目書得よりも実質所得との相関の方が強く、被験者が名目値を意識して答えて
いるかどうか疑わしいこと、④所得リスクとして実質値の分散を採用するのが適当だとしても、期待所得
と期待インフレには高所得者層を中心に強い相関があるため、両者の和をとるのは適当でない――などの
理由による。ただ、小川(1991)の時点では上記①、②、④の根拠は強くなかったと思われる。
18 単回帰の決定係数が 0.668 であるので、相関係数は 0.817 となる。
12
(図表 11)所得リスクと平均消費性向
(低所得者層のケース)
(%)
90
y = -9.2096x + 94.251
R2 = 0.6681
89
88
87
86
85
84
83
82
81
期待所得の標準偏差
80
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
(高所得者層のケース)
(%)
82
81
80
79
78
77
76
75
74
73
期待所得の標準偏差
72
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
(注)横軸が所得リスク(期待所得の標準偏差)
、縦軸が平均消費性向(%)の 4 期移動平均である。
数値になっている。期間は 1982 年 4-6 月期∼2002 年 1-3 月期の四半期データ(サンプル数 80)
13
Ⅲ.期待を含む関数推計
(1) 通常の推計
前節で考えた諸要因(諸期待)を説明変数として、平均消費性向を説明するのがここで
の目的である。3 つの定式化を考えたが、いずれも所得階層を 3 階層に分けた上で同時推計
している19。以下の定式化による推計結果の概略は図表 12 のようになる。
(定式化①)
APCj=α+β1j(mj)+β2j(mrj)+β3j(pj)+εj(j=L,M,H で各所得階層に対応)
APCj:平均消費性向
mj:期待所得
pj:期待インフレ mrj:所得リスク(期待所得の標準偏差σ)
εj:誤差項
(定式化②)
定式化①に実質可処分所得を説明変数として加えたもの
(定式化③)
定式化①にタイムトレンドを説明変数として加えたもの
(図表 12)推計結果のサマリー
低所得者層
中間所得者層
推計パラメータ(p値)
高所得者層
定式化①
推計パラメータ(p値)
期待所得
47.28(0.0001)
12.46(0.0002)
8.01(0.0221)
期待インフレ
4.01 (0.0039)
2.95 (0.0023)
4.39(0.0026)
所得リスク
25.17(0.0012)
4.63 (0.0463)
-0.05(0.4949)×
定式化②
推計パラメータ(p値)
期待所得
4.22(0.3441)×
4.22(0.0781)
3.25(0.1626)×
期待インフレ
2.63(0.0063)
2.64(0.0004)
3.28(0.0038)
所得リスク
-1.95(0.3890)×
-1.53(0.2615)×
-3.97(0.0976)
実質可処分所得
-0.45(0.0000)
-0.18(0.0000)
-0.14(0.0000)
定式化③
推計パラメータ(p値)
期待所得
21.78(0.0541)
1.68(0.3001)×
-3.65(0.1719)×
期待インフレ
0.19(0.4471)×
0.40(0.3197)×
1.86(0.0707)
所得リスク
14.20(0.0451)
0.78(0.3713)×
-2.92(0.1761)×
タイムトレンド
-0.11(0.0000)
-0.09(0.0000)
-0.13(0.0000)
推計パラメータ(p値)
推計パラメータ(p値)
推計パラメータ(p値)
推計パラメータ(p値)
推計パラメータ(p値)
* ×は 10%水準で統計的に有意でないことを示す。
詳細は(分析に関する補足説明)を参照。所得階層に分割することで truncation(データ切断)が起こ
ると考えられるが、ここで扱っているのは時系列データであり、実際には時間の経過につれて所得階層の
所得分布は大幅にオーバーラップしてくる。このため、truncation(正確には期待を示す諸説明変数が所
得に依存しているという意味で incidental truncation)は推計結果に大きな影響を及ぼさないと考えられ
る。ここで問題となるのはむしろ、時系列データのトレンド、単位根問題である。そこで、次項で時系列
分析を行い、通常の推計との結果比較を示している。
19
14
期待所得、期待インフレ、所得リスクによって平均消費性向を説明した定式化①は前節
において散布図から確認したことと符合している。各推計パラメータは高所得者層の所得
リスクを除いて統計的に有意である。ただ、実質所得水準を含む定式化②では、期待所得、
所得リスクの推計パラメータが多重共線性などの影響から有意でなくなってしまう。期待
インフレのパラメータは依然有意だが、定式化①よりはやや小さめになる。定式化③はタ
イムトレンドを含む定式化だが、中間所得者層では多くの推定パラメータが不安定になる
ものの、高低両端の所得階層についてはほぼ散布図から予想される結果になる。これらの
関数推定の結果から概ね言えることは、所得階層によらず「期待インフレが上昇すれば消
費性向も上向く」ということである。
パラメータ推定値の解釈を兼ねて、期待インフレ上昇のマクロ経済へのインパクトを試
算してみよう。期待インフレ率が CPI 換算で 1%上がったときのマクロ経済へのインパク
トを見積もると、消費の押し上げ効果が約 2 兆 5000 億円、GDP 換算で約 0.5%となる(図
表 13)
。
(図表 13)期待インフレ率 1%上昇のマクロ経済への影響
平均消費性向
名目消費額/年
消費のシェア
低所得者層
83%
276 万円
12.8%
中間所得者層
77%
416 万円
57.7%
高所得者層
73%
639 万円
29.5%
マクロの名目消費:283,4 兆円(2001 年度)
期待インフレが CPI 換算で 1%ポイント上昇すると、
パラメータ 消費性向 1%当たり
消費増加額
対消費比 対 GDP 比
低所得者層
2.63
4,373 億円
0.26 兆円
0.09%
0.05%
中間所得者層
2.64
2 兆 1,234 億円
1.30 兆円
0.46%
0.26%
高所得者層
3.28
1 兆 1,452 億円
0.95 兆円
0.34%
0.19%
2.51 兆円
0.89%
0.50%
合計で
(注)期待インフレのパラメータは定式化①、定式化②ですべて統計的に有意となっているが、より小さ
め推定された定式化②に基づいている。パラメータはアンケートによる 1 段階に対するものであり、
80 期時系列の分布から CPI に換算すると約 3%に相当する。
(2) 長期的関係 ―― 時系列分析から ――
上記の推定は各時系列変数が定常過程であることを前提としたものである。ただ、諸変
15
数が単位根を持つ(I(1)過程である)とする仮説は多くの場合棄却できない20。そこで、諸
変数は非定常な単位根過程であることを前提に、時系列分析を実施し、上記のような通常
の推定結果と比較検討することが望ましいであろう。
具体的には VECM (Vector Error Correction Model)を推定することによって、平均消費
性向に対する各変数の影響を時間軸に沿って計測している。この結果、高所得者層、低所
得者層に共通の現象として、①期待インフレの上昇は平均消費性向を高める効果がある、
②期待所得、所得リスクの影響は判然としない、③実質可処分所得の水準が上がると、消
費性向は下がる――という観察結果が得られた。これらは先に実行した通常の関数推計で、
実質可処分所得を加えた定式化②と同様の結果である。したがって、通常の関数推計、時
系列分析双方からわかることは、期待インフレが消費性向を決定する上で重要な役割を果
たしているのではないか、ということである。例えば、高所得者層のケース(図表 14)に
よると、期待インフレがある期に 1 ランク(CPI 換算で 3%程度)高まると、平均消費性向
は半年から 3 四半期後にかけて 0.3 ポイント程度高まる。また、その影響は減衰せず永続的
である21ことを示している。
(図表 14)平均消費性向に影響する諸要因 ―― 高所得者層のケース ――
平均消費性向の変化
Response
to One S.D. Innovations
期待所得変化の影響
Response of APCH to YDEH
所得リスク変化の影響
Response of APCH to SDYDEH
0.4
0.4
0.2
0.2
0.0
0.0
-0.2
-0.2
-0.4
-0.4
-0.6
-0.6
-0.8
-0.8
-1.0
-1.0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
期待インフレ変化の影響
Response of APCH to PEH
0.4
0.2
0.2
0.0
0.0
-0.2
-0.2
-0.4
-0.4
-0.6
-0.6
-0.8
-0.8
-1.0
-1.0
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
10
11
12
所得水
準変化の影響
Response
of APCH to RYDH
0.4
1
2
12
1
20
2
3
4
5
6
7
8
9
単位根検定の結果、共和分関係の推定など実施した時系列分析の詳細は(分析に関する補足説明)に示
している。
21 ただし、共和分が他のパターンになる可能性もあり、多くの可能性を比較検討する必要はある。
16
Ⅳ.政策的インプリケーション
(1) 消費税率の段階的引き上げ
これまでの調査結果を列記すると、以下のようになる。
① 消費性向との関連を考える上で重要なのは、期待所得や期待インフレといった期待であ
って、これらを所得増加率や物価上昇率の実現値と置き換えて考えることはできない。
② 散布図でみると、消費性向は低所得者層では期待所得、所得リスクに影響を受け、高所
得者層では期待所得、期待インフレに影響を受けている。
③ 関数推計及び時系列分析からは、すべての所得階層で消費性向が期待インフレの影響を
受けている、との結論になる。
④ したがって、共通の結論は「高所得者層の消費性向は期待インフレが高まると上昇する」
ということである。
⑤ マクロ経済への影響を試算すると、期待インフレが CPI 換算で 1%ポイント程度上がる
ことによって、消費は 2.5 兆円増え、GDP は約 0.5%増加する。
以上の結果から、消費性向を引き上げるための政策的インプリケーションはどのような
ものだろうか。税制によるのであれば、期待インフレを引き上げるために、消費税率を段
階的に引き上げることが考えられる。ただ、実質的な購買力を維持しないと(期待)所得
効果が負に働くため、実際には「所得税減税と消費税増税の段階的な実施」
、というポリシ
ーミックスが必要になる。Martin Feldstein も同様の議論をしたが22、氏の主張はいったん
消費税率を(例えば 1%まで)下げてから段階的に引き上げる、というものである。しかし、
期待インフレの観点からこの政策を点検すると、
「消費税率を一時引き下げる」とアナウン
スした時点で、期待インフレが下がり、実際に引き下げられるまでの間、極度の消費不振
に陥ることが予想される。この意味で、消費税率は下げずに段階的に引き上げていく必要
がある。そして実質所得の維持は、事前の消費税減税ではなく、あくまで所得税減税によ
って行うべきである。しかし、この「所得税減税と消費税増税の段階的実施」というポリ
シーミックスはいくつかの問題点を抱えている。
(2) 所得分配上の視点から
まず、所得分配上の問題がある。所得税減税の恩恵は高所得者層に偏り、消費税増税は
逆進性が強まるという意味で、低所得者層の負担をより増大する。一時的な緊急非難措置
であれば、所得格差の拡大も致し方ないかもしれない。しかし、構造的な消費需要不足に
対する中長期的な政策を念頭においているため、格差拡大への圧力が持続することは避け
るべきである。
22
2002 年 1 月 3 日付日本経済新聞「経済教室」など。消費税のほか、設備投資減税等にも言及している。
17
そこで考えられるのは、高額単価の消費に限定して消費税率の引き上げを行うことであ
る。もともとの問題意識は余裕のある消費者の消費性向を引き上げることであった。そし
て、所得税減税の恩恵が高所得者層に厚くなるのは不可避である。これに対応して、消費
税増税の影響が高所得者層中心に及ぶためには、高所得者が多く消費し、低所得者が少な
く消費する商品の税率を上げる方法しかない。
例えば、消費単価 1 万円以上の消費支出に対して、毎年 1%ポイントずつ消費税率を引き
上げる一方、1 万円以下の消費支出に対しては税率を 5%に据え置くことが考えられる。こ
のケースで、1 万円以上の高額消費の割合を、耐久財、半耐久財の 2 分の 1、サービスの 3
分の 1 と仮定すると、消費支出(2001 年度は 283 兆円)の構成比は耐久財(8.3%)、半耐
久財(10.2%)
、非耐久財(25.4%)
、サービス(56.2%)なので、年間約 1 兆円程度の増税
となる23。これに見合う所得税減税の体系はどのようになるだろうか。例えば、現行 4 段階
の所得税率を毎年 10%ずつカットする定率減税を実施すれば、約 1 兆円の減税に相当する24。
(3) 最適課税論の視点から
しかし、「高額消費に対する消費税増税と所得税減税の段階的実施」というポリシーミッ
クスについては、最適課税に反するのではないかという疑念が生じる。最適課税論が説く
ところによれば、Excise tax(物品税、消費税などの個別間接税)においては、資源配分の
歪みをなるべく小さくする税率体系が要請される。これによって、課税による消費者効用
の損失を最小限に抑制するという発想である。このためには、価格弾性値の小さい財は高
率の、大きい財は低率の課税が望ましい。従来から、高額消費には選択的消費支出が多く
含まれるため価格弾性値は高い、逆に低額消費は基礎的消費の割合が高いため価格弾性値
は低いと考えられている。もしもこれが事実であれば、
「高額消費に対する税率引き上げ」
は最適課税に反する。
しかし、生活必需品の価格弾性値が低いという想定は、近年の日本人の消費行動に即し
て考えると疑問も残る。マスメディアやマーケティング担当者などがしばしば指摘するの
は、「最近の消費者は必需品をなるべく安く買って、自分にとってこだわりのある消費に対
してはお金を惜しまない」ということである。もしこの通りであれば、必需品よりも高額
消費の方が、価格弾性値が低いことになる。そうであれば、高額消費の消費税率を段階的
に引き上げることは最適課税の考え方にも即しており、この政策が現在の消費者行動を大
きく変化させることにはならない。
そこで、高額消費と低額消費を分類した統計がないため、総務省「家計調査報告」の項
23
高額消費の割合についてはもう少し綿密な調査が必要になる。また、ここでは期待インフレの視点を扱
っているので、益税など消費税システムの問題全般に関する考察は行っていない。
24 所得税率を毎年 10%ずつカットすることは、
すなわち現行 10%、20%、---の税率は 1 年後に 9%、18%、
---、2 年後に 8%、16%、---となることを意味している。定率減税と税収額(減税額)の関係について、国税
庁「民間給与の実態」
、同「申告所得の実態」などを使って試算した例として、長島(1998)がある。
18
目を基礎的消費項目と選択的消費項目に分類することによって推計を試みた25。つまり、選
択的消費支出は基礎的消費支出に比べて高額消費の割合が高いことを前提にしている。価
格弾性値は図表 15 のようになり、選択的消費の価格弾性値は基礎的消費のそれよりも低い
ことがわかる。これは高所得者層、低所得者層に共通した現象である。
(図表 15)消費項目と価格弾性値
低所得者層
高所得者層
選択的消費支出
▲0.13
+1.27
基礎的消費支出
▲1.48
▲3.32
(4) 簡素な税制という視点から
「高額消費に対してのみ消費税率を引き上げる」ということに対して、本来簡素である
べき税体系をいたずらに複雑にしはしないか、との懸念もあろう。確かに、単一税率に比
べて複雑であることは否めない。しかし、食料品などに軽減税率を適用している国は、
OECD28 カ国中 25 カ国に上る。単一税率の国はデンマーク(25%)
、ノルウェー(23%)
など 3 カ国に過ぎない。また、日本も高額な飲食費、宿泊費に対して特別地方消費税を課
していた経緯もあるが、特に混乱は見られなかった26。
また、消費税体系を複雑にしている主な要因は複数税率であることよりも、むしろ帳簿
方式に基づく簡易課税制度であると考えられる。さらに、この制度が毎年変動する事業主
体の売上額に応じて適用されるか否かが決められることも問題を複雑にしており、消費者
の支払った消費税が事業者に残る益税や便乗的な価格転嫁の温床にもなっている。このよ
うな帳簿方式に基づく簡易課税制度を廃し、インボイス方式を導入すれば、税率は 2 本立
てになっても、むしろ税の透明性は向上するのではなかろうか。
(5) 政策の実効性 ―― インフレ目標つき金融量的緩和策との比較 ――
そもそも、消費税率を段階的に引き上げることによって期待インフレ率は実際に上昇す
るであろうか。まず、期待に働きかけることが現実的か否かという点であるが、これまで
にない政策を実行するという意味で、期待インフレの動きに不確実性があることは否定で
きない。しかし、図表 7 で示したように、経験的には消費税導入や税率引き上げ前に期待
インフレが上昇し、その後なかなか減衰しないことが確認されている。したがって、政府
が「毎年、税率を 1%ポイントずつ引き上げる」ことをコミットするならば、消費者にとっ
ては持続的な期待インフレの上昇に結びつく可能性が高い。また、商品に価格転嫁が行わ
25 基礎的消費項目と選択的消費項目の分類は新堂(2002)と同様。推計の詳細は(分析に関する補足説明)
を参照。
26 1 人当たり 5000 円以上の飲食費、1 人 1 泊 1 万 5000 円以上の宿泊費に対して、3%の付加的消費税が
課税されていたが、2000 年 3 月をもって廃止された。
19
れる限り、その実現を段階的に確認していくことになる27。
これをインフレ目標値の導入のような金融政策と比較するとわかりやすい。少なくとも
消費者はインフレ目標やその達成手段としての量的緩和に関して、政策の進捗状況を日常
生活の中で確認することはできない。ある時点で急速にインフレ期待、及び現実のインフ
レが高進する可能性が高いのではなかろうか。概念図で示すなら、下記の図表 16 のように
表される。インフレ目標つき量的緩和については期待インフレが高進する時期が不明であ
り、いったん高まり始めると一気に上昇する可能性がある。一方、消費税率の段階的引き
上げは期待インフレが小刻みに高まることが予想される。
(図表 16)
「インフレ目標つき金融量的緩和」と「消費税率の段階的引き上げ」
(金融の量的緩和)
(消費税率の段階的引き上げ)
期待インフレ
期待インフレ
時間
時間
(6) 政策の合理性
最後に、
「高額消費に対する消費税増税と所得税減税の段階的実施」というポリシーミッ
クスの合理性を再点検してみたい。この政策は消費者の期待形成の構造と密接に関連して
おり、これに関してはさらに綿密な調査が必要になるが、ここでは期待と実現値の時差相
関(図表 17)をみることによって、いくつかの推察を行いたい。
期待所得は過去の長期間にわたって所得の実現値との相関がある。一方、期待インフレ
は近い過去及び近い将来としか相関がないことがわかる。これは双方の所得階層に共通に
観察されることである。したがって、「所得に関する期待は長期間かけて形成されるのに対
して、インフレに対する期待形成は短期間のうちに行われる」ということが推察される。
これが意味することは、期待所得に働きかけるには長期間かかる、したがって困難である
半面、期待インフレは比較的短期のうちに形成されるという意味で、政策が影響を与えや
すいということである。また、経験的には消費税導入や引き上げ前に期待インフレが上昇
しており、いったん上昇した期待インフレが減衰する(もとのトレンドに戻る)のに時間
がかかっている。
27
ただし、最終的にその商品の価格がどうなるかは需給によって決まるであろう。
20
(図表 17)期待と実現値の時差相関
(期待所得と所得実現値)
0.6
(時差相関係数)
0.5
0.4
低所得者層
高所得者層
0.3
0.2
0.1
0.0
-0.1
-12 -11 -10 -9 -8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
0
1
2
3
4
5
6
7
8
(期待インフレと所得実現値)
0.6
(時差相関係数)
0.5
0.4
低所得者層
高所得者層
0.3
0.2
0.1
0.0
-0.1
-12 -11 -10 -9 -8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1
次に、高額消費にターゲットを絞って税率引き上げを行うことについて、先に最適課税
論の視点から考察したが、別の観点からも見てみよう。図表 18 は期待インフレと分野別価
格の相関を示したものである。期待インフレは基礎的消費項目よりも選択的消費項目の価
格と相関が高いことがわかる。高額消費が選択的消費項目に多く分布していることを前提
にすれば、高額消費支出の税率を引き上げることは、期待インフレに影響を及ぼしやすい
ことも想像されるであろう。この意味でも、高額消費への増税には合理性がある。
21
(図表 18)期待インフレと分野別価格
2
P1NORM
P1NORM
相関係数=0.526
0
-2
→ 期待インフレ
-4
-3
-2
4
-1
0
1
2
3
相関係数=0.328
PELNORM
P2NORM
2
0
-2
→ 期待インフレ
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
高所得者層
4
相関係数=0.556
2
0
-2
→ 期待インフレ
-4
基礎的消費の価格上昇
基礎的消費の価格上昇
P2NORM
選択的消費の価格上昇
選択的消費の価格上昇
低所得者層
4
-3
-2
4
-1
0
1
2
3
PEHNORM
相関係数=0.323
2
0
-2
→ 期待インフレ
-4
-3
PELNORM
-2
-1
0
1
2
3
PEHNORM
その他、長期的に望ましいのは直接税への過度の依存からの脱却し、直間比率を是正す
ることではないか、ということも「所得税減税と消費税増税」の根拠になり得る。また、
現在の消費不況を団塊世代のライフサイクル的な要因が寄与していると理解するなら28、政
策期間をあらかじめ特定できるメリットもある。つまり、10 年間この政策を実施すれば、
団塊世代が消費性向を上げるライフサイクルに入るであろう。したがって 10 年後に高額消
費の税率が 15%になった時点でこの政策を打ち切る29ことを予めアナウンスすることがで
きる。政策実行の具体的な方式についてはもっと深い議論と検証が必要になるし、望まし
い税体系については、様々な角度から包括的に検討しなければならない。
しかし、直間比率を段階的に変更することによって、追加的な財政負担なしでも中長期
的な消費需要を底上げすることができる、あるいは団塊世代の消費支出を前倒しできる可
能性があることは重要な示唆を含んでいると思われる。
28
団塊世代の消費・貯蓄行動がマクロ経済に及ぼす影響については、別途分析する必要がある。ここでは、
団塊世代の平均所得が他の世代よりも高いことから、高所得者層の消費萎縮を同世代のライフサイクルと
結びついた構造的な現象という面があることを踏まえて議論を行っている。世代別の所得を調査した例と
して、例えば野村総合研究所(2001)は、世帯主が 40 代の家計では家計の平均年間所得が 686 万円、60
代では 586 万円であるのに対して、団塊世代が世帯主だと 804 万円であるという調査結果を示している。
29 それ以降は高額消費の税率 15%、低額消費は 5%で基本的に固定される。その後の税率改定、高額消費
の限界値改定は経済情勢を見ながら行うことになる。
22
(参考文献)
・ 小川一夫(1991)
「所得リスクと予備的貯蓄」経済研究 Vol.42, Apr., 1991
・ 小西砂千夫(1997)
「日本の税制改革」有斐閣
・ 白塚重典(2001)
「望ましい物価上昇率とは何か?:物価の安定のメリットに関する理
論的・実証的議論の整理」日本銀行金融研究所(2001.1)
・ 新 堂 精 士( 2002 )「消費 に お ける 供 給要 因 につ い て 」富 士 通総 研 研究 レ ポ ート
(forthcoming)
・ 土居丈朗(2001)
「貯蓄率関数に基づく予備的貯蓄仮説の検証」ESRI Discussion Paper
Series No.1(March 2001)
・ 内閣府(2001)
「平成 13 年度年次経済財政報告」財務省印刷局
・ 内閣府(1983 年∼2001 年)
「消費動向調査」財務省印刷局
・ 中川忍(1986)「不確実性下の消費者行動 ―― 不確実性の理論とその定量化 ――」
日本銀行調査統計局 Working Paper 98-6
・ 中川忍、大島一朗(2000)
「実質金利の低下は個人消費を刺激するのか? ――実証分析
を中心に ――」日本銀行調査統計局 Working Paper 00-2
・ 長島直樹(1998)
「大型恒久減税の選択肢」富士通総研 Discussion Paper 98- No.20
・ 中山興、大島一朗(1999)
「インフレ期待の形成について」日本銀行調査統計局 Working
Paper 99-7
・ 日本リサーチ総合研究所(2000)「現代消費者の意識と態度 ―― 家計防衛と高度な選
択をする消費者像」大蔵省印刷局
・ 野村総合研究所(2001)
「続・代わり行く日本人」
(野村総合研究所広報部)
・ フェルドスタイン(2002)
「税制でデフレ克服」日本経済新聞(経済教室欄)2002.1.3
・ Atkinson, A., Stiglitz, J., (1987) “Lectures on Public Economics”, McGraw-Hill,
pp366-393 (The Structure of Indirect Taxation)
・ Carlson, A. and Parkin M., (1975) “Inflation Expectations” Economica, Volume 42,
1975, pp123-138
・ Hayashi, F., (1997) “Understanding Saving: Evidence from the United States and
Japan” The MIT Press, pp289-329
・ Mirrlees, J. (1986) “The Theory of Optimal Taxation” in “Handbook of Mathematical
Economics, vol3” edited by Arrow, K., and Intriligator, M.
・ Ramsay, F. (1927)“A Contribution to the Theory of Taxation” The Economic Journal
・ Toda, H.Y. and Yamamoto, T., (1995) “Statistical Inference in Vector Autoregressions
with Possibly Integrated Processes” Journal of Econometrics 66, pp225-250
23
(分析に関する補足説明)
<1> 期待と消費性向 ―― 通常の関数推計について ――
(1)考え方、定式化
平均消費性向(APC)に対する期待所得、期待インフレ、所得リスクの影響を所得階層別に推計するの
が目的。例えば、小川(1991)は貯蓄率関数の推計に所得リスク(期待所得の分散)を説明変数として取
り入れたが、期待所得、期待インフレ、所得リスクすべての影響を計測した例はない。また、所得階層に
よって明らかに違いが出ることが 2 変数間の散布図から予想できる。土居(2001)は所得リスクの係数が
最近のデータでは有意でないとし、雇用リスク(雇用の見通しの平均)を説明変数として採用した。しか
し、実際には雇用リスクは期待所得と強い相関がある。所得リスク(期待所得の分散)だけで説明できな
いのなら、まず期待所得(の水準平均)を説明変数として採用するのが自然であると考えられる。
(定式化①)
APCj=α+β1j(mj)+β2j(mrj)+β3j(pj)+εj
(j=L,M,H で各所得階層に対応)
APCj:平均消費性向
mj:期待所得
mrj:所得リスク(期待所得の標準偏差σ)
pj:期待インフレ
εj:誤差項
として、各階層のパラメータ推定値(β1j,β2j,β3j の計 9 個のパラメータ推定値)を SUR に
よって同時に推計する(各階相間の誤差の相関を利用する)。1982 年第 2 四半期∼2002 年
第 1 四半期の時系列データを用いる。また、APC j には季節性があるので、季節ダミーを説
明変数に加える。基本的には、小川(1991)
、土居(2001)の考え方を踏襲しているが、単
独で期待インフレを取り込んでいるところがこの定式化の特徴。理論的には実質金利だが、
中川(1999)などによって、日本の消費・貯蓄関数に実質金利を取り入れると、統計的に有
意にならないことが実証されている。しかし、期待インフレが変化してもフィッシャー効果
が働くなら実質金利の変化は相殺される可能性がある(実際、期待インフレと名目金利には
強い性の相関がある)。よって、これまでの実証研究で実質金利の影響が否定されたとして
も「期待インフレが消費性向を左右する」という現象と矛盾するものではない。
(定式化②)
定式化①に実質可処分所得を説明変数として加えたもの
(定式化③)
定式化①にタイムトレンドを説明変数として加えたもの
24
(2)パラメータ推計結果
(定式化①)
低所得者層
定数項
期待所得
期待所得のばらつき
期待インフレ
Q2
Q3
Q4
推計パラメータ
-7 3 .5 3
4 7 .2 8
2 5 .1 7
4 .0 1
-6 .8 3
-9 .9 1
-1 4 .1 5
t値
p値
0 .0 3 5 7
0 .0 0 0 1
0 .0 0 1 2
0 .0 0 3 9
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
推計パラメータ
3 8 .5 8
1 2 .4 6
4 .6 3
2 .9 5
-8 .7 2
-9 .4 8
-1 5 .0 0
t値
p値
0 .0 0 0 3
0 .0 0 0 2
0 .0 4 6 3
0 .0 0 2 3
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
推計パラメータ
4 6 .5 0
8 .0 1
-0 .0 5
4 .3 9
-7 .8 4
-7 .6 5
-1 5 .1 3
t値
4 .4 1
2 .0 5
-0 .0 1
2 .8 8
-9 .0 6
-8 .8 0
-1 8 .1 5
p値
0 .0 0 0 0
0 .0 2 2 1
0 .4 9 4 9
0 .0 0 2 6
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
R 2a d j
R2
0 .8 9 6
0 .9 0 4
DW( 低 所 得 )
D W (中 間 所 得 )
1 .3 5 6
1 .4 7 8
DW ( 高 所 得 )
1 .2 4 7
-1 .8 3
3 .9 8
3 .1 5
2 .7 4
-8 .3 6
-1 2 .2 1
-1 7 .9 3
中間所得者層
定数項
期待所得
期待所得のばらつき
期待インフレ
Q2
Q3
Q4
3 .6 1
3 .7 2
1 .7 0
2 .9 2
-1 5 .0 1
-1 6 .3 4
-2 6 .6 5
高所得者層
定数項
期待所得
期待所得のばらつき
期待インフレ
Q2
Q3
Q4
(定式化②)
低所得者層
定数項
期待所得
期待所得のばらつき
期待インフレ
実質可処分所得
Q2
Q3
Q4
推計パラメータ
1 0 7 .6 1
4 .2 2
- 1 .9 5
2 .6 3
- 0 .4 5
- 4 .7 7
- 5 .5 2
- 1 .9 3
t値
2 .8 9
0 .4 0
-0 .2 8
2 .5 6
-9 .5 9
- 8 .0 3
- 7 .7 4
- 1 .4 0
p値
0 .0 0 2 6
0 .3 4 4 1
0 .3 8 9 0
0 .0 0 6 3
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
0 .0 8 2 2
推計パラメータ
8 8 .2 3
4 .2 2
- 1 .5 3
2 .6 4
- 0 .1 8
- 5 .8 7
- 6 .7 2
- 4 .8 5
t値
8 .2 7
1 .4 3
- 0 .6 4
3 .5 0
- 9 .5 4
- 1 1 .7 9
- 1 3 .6 9
- 4 .2 8
p値
0 .0 0 0 0
0 .0 7 8 1
0 .2 6 1 5
0 .0 0 0 4
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
推計パラメータ
9 2 .2 6
3 .2 5
- 3 .9 7
3 .2 8
- 0 .1 4
- 1 .8 5
- 4 .8 4
- 0 .7 5
t値
中間所得者層
定数項
期待所得
期待所得のばらつき
期待インフレ
実質可処分所得
Q2
Q3
Q4
高所得者層
定数項
期待所得
期待所得のばらつき
期待インフレ
実質可処分所得
Q2
Q3
Q4
8 .4 6
0 .9 9
- 1 .3 1
2 .7 5
- 8 .0 5
- 1 .9 2
- 6 .7 4
- 0 .4 0
p値
0 .0 0 0 0
0 .1 6 2 6
0 .0 9 7 6
0 .0 0 3 8
0 .0 0 0 0
0 .0 2 9 2
0 .0 0 0 0
0 .3 4 4 8
R2adj
R2
0.949
0.954
DW( 低 所 得 )
DW(中 間 所 得 )
1.789
1.7888
DW(高 所 得 )
1.6839
(*) 濃いシャドーは有意水準 10%で統計的に有意でない、また薄いシャドーは有意水準 5%
で統計的に有意でないことを示す。
25
(定式化③)
低所得者層
定数項
期待所得
期待所得のばらつき
期待インフレ
タイムトレンド
Q2
Q3
Q4
推計パラメータ
2 5 .1 6
2 1 .7 8
1 4 .2 0
0 .1 9
- 0 .1 1
- 7 .3 8
- 1 0 .1 4
- 1 4 .4 7
t値
p値
0 .2 9 3 8
0 .0 5 4 1
0 .0 4 5 1
0 .4 4 7 1
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
推計パラメータ
8 5 .8 8
1 .6 8
0 .7 8
0 .4 0
- 0 .0 9
- 9 .1 4
- 9 .8 1
- 1 5 .2 3
t値
p値
0 .0 0 0 0
0 .3 0 0 1
0 .3 7 1 3
0 .3 1 9 7
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
推計パラメータ
9 7 .2 3
- 3 .6 5
- 2 .9 2
1 .8 6
- 0 .1 3
- 8 .0 8
- 8 .0 7
- 1 5 .6 8
t値
8 .1 0
-0 .9 5
-0 .9 4
1 .4 9
-7 .5 2
- 1 2 .2 6
- 1 2 .0 9
- 2 4 .7 9
p値
0 .0 0 0 0
0 .1 7 1 9
0 .1 7 6 1
0 .0 7 0 7
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
0 .0 0 0 0
R2adj
R2
0 .9 3 5
0 .9 4 2
DW( 低 所 得 )
DW(中 間 所 得 )
1 .7 8 1
2 .6 3 7
DW(高 所 得 )
1 .9 9 5
0 .5 4
1 .6 3
1 .7 2
0 .1 3
-5 .0 7
- 1 0 .2 5
- 1 4 .3 9
- 2 1 .1 7
中間所得者層
定数項
期待所得
期待所得のばらつき
期待インフレ
タイムトレンド
Q2
Q3
Q4
7 .7 8
0 .5 3
0 .3 3
0 .4 7
-8 .3 0
- 2 1 .1 9
- 2 2 .8 5
- 3 7 .0 5
高所得者層
定数項
期待所得
期待所得のばらつき
期待インフレ
タイムトレンド
Q2
Q3
Q4
(*) 濃いシャドーは有意水準 10%で統計的に有意でない、また薄いシャドーは有意水準 5%
で統計的に有意でないことを示す。
<2> 期待と消費性向 ―― 時系列分析について ――
(1)単位根検定:ADF t テスト
時系列データでは変数が単位根過程にあるかどうか、あるいは変数の Integration order(和分のオーダ
ー)がしばしば問題になる。極端なケースでは、I(1)どうしの変数で回帰を実行し、残差も I(1)であると、
見せかけの回帰に過ぎないことになってしまう。実際に、本稿で使用している変数について単位根検定を
実行すると、以下のようにほとんどが「I(1)である(単位根がある)」という帰無仮説を棄却できない。し
たがって、これらの変数が I(1)であるとして、共和分関係を調べるなど、時系列分析を試みなければなら
ない。
タイムトレンドを含むケース:
Δyt=α+δ(time)+ρyt-1+γ1Δyt-1+γ2Δyt-2+--+γpΔyt-p+εt
タイムトレンドを含まないケース:
Δyt=α+ρyt-1+γ1Δyt-1+γ2Δyt-2+--+γpΔyt-p+εt
26
タイムトレンドを含むケース
変数
平均消費性向:全体
同:低所得者層
同:中間所得者層
同:高所得者層
期待所得:全体
同:低所得者層
同:中間所得者層
同:高所得者層
所得リスク:全体
同:低所得者層
同:中間所得者層
同:高所得者層
期待インフレ:全体
同:低所得者層
同:中間所得者層
同:高所得者層
実質可処分所得:全体
同:低所得者層
同:中間所得者層
同:高所得者層
BICによる
CriticalValue=-3.41(5%)
結論 ラグの長さρ推定値 t値 帰無仮説I(1)を
I(1)
3
-0.588
-2.267
受容
I(1)
3
-0.457
-1.872
受容
I(1)
3
-0.785
-2.610
受容
I(1)
3
-0.750
-2.537
受容
0
-0.156
-2.289
I(1)
受容
0
-0.276
-3.205
I(1)
受容
0
-0.153
-2.154
I(1)
受容
I(0)
0
-0.317
-3.527
棄却
I(1)
4
-0.266
-2.521
受容
I(0)
0
-0.305
-3.411
棄却
I(1)
0
-0.235
-2.644
受容
2
-0.220
-1.641
I(1)
受容
I(1)
0
-0.215
-2.748
受容
0
-0.212
-2.652
I(1)
受容
I(1)
0
-0.225
-2.856
受容
0
-0.181
-2.542
I(1)
受容
I(1)
3
-0.005
-0.067
受容
3
0.011
0.118
I(1)
受容
3
0.014
0.193
I(1)
受容
3
-0.195
-1.548
I(1)
受容
タイムトレンドを含まないケース
変数
平均消費性向:全体
同:低所得者層
同:中間所得者層
同:高所得者層
期待所得:全体
同:低所得者層
同:中間所得者層
同:高所得者層
所得リスク:全体
同:低所得者層
同:中間所得者層
同:高所得者層
期待インフレ:全体
同:低所得者層
同:中間所得者層
同:高所得者層
実質可処分所得:全体
同:低所得者層
同:中間所得者層
同:高所得者層
BICによる
CriticalValue=-2.86(5%)
結論 ラグの長さρ推定値 t値 帰無仮説I(1)を
I(1)
3
-0.060
-0.802
受容
I(1)
3
-0.206
-1.874
受容
3
-0.088
-1.002
I(1)
受容
I(1)
3
-0.099
-0.818
受容
I(1)
0
-0.025
-0.636
受容
0
-0.055
-1.133
I(1)
受容
I(1)
0
-0.026
-0.598
受容
I(1)
2
-0.017
-0.312
受容
2
0.001
0.019
I(1)
受容
0
-0.075
-1.370
I(1)
受容
I(1)
0
-0.073
-1.106
受容
I(1)
2
-0.072
-0.624
受容
0
-0.112
-1.774
I(1)
受容
I(1)
0
-0.124
-1.809
受容
I(1)
0
-0.119
-1.883
受容
0
-0.083
-1.517
I(1)
受容
I(1)
5
-0.118
-2.278
受容
I(1)
4
-0.130
-1.863
受容
5
-0.119
-2.123
I(1)
受容
3
-0.258
-3.354
I(0)
棄却
(2)共和分と VECM
では、
(1)で推計した関数関係を時系列分析の視点から再検討するとどのようになるだろうか。共和分
検定、VECM(Vector Error Correction Model:誤差修正モデル)
、Impulse Response(インパルス応答)
といった手法によって検証を試みる。
27
平均消費性向(APC)
、期待所得(YDE)
、所得リスク(SDYDE)
、期待インフレ(PE)の 4 変数で
共和分関係をテストした。以下、低所得者層、高所得者層に分けて結果を示す。上記の変数の末尾に L(低
所得者層)、H(高所得者層)を付して変数が該当する所得階層を示している。
(低所得者層)
・ ラグの次数
まず、ラグ次数を決める。通常の VAR をレベルで推定すると、BIC(Schwarz Criteria)はラグ次数 2
で最小(Schwert にしたがって pmax=integer part of{12(T/100)1/4}=11 として)
。
・ 共和分ランク
以下は Johansen の方法による rank test の結果
LR(trace statistic)= −
k
∑ ln(1 − λ )
i = r +1
i
k : number of var iables, r = 0,1,..., k − 1
(λi is the ith l arg est eigenvalue)
ただし、下表の Critical Value は Osterwald-Lenum(1992)による(Johansen&Juselius(1990)
によるものではない。また、LR 統計量(trace statistic)は Johansen の提唱した maximum eigenvalue
statistic とは異なる)
。
Sample: 1981:1 2002:1
Included observations: 77
Series: APCL YDEL SDYDEL PEL RYDL
Exogenous series: Q2 Q3 Q4
Warning: Rank Test critical values derived assuming no exogenous series
Lags interval: 1 to 2
Data Trend:
Rank or
No. of CEs
None
No Intercept
No Trend
None
Intercept
No Trend
Linear
Intercept
No Trend
Linear
Intercept
Trend
Quadratic
Intercept
Trend
61.05027
74.83507
84.34742
91.33611
93.62194
94.17390
61.05027
80.79159
91.13304
98.12660
102.8666
104.9101
63.43869
83.17961
93.35875
99.73460
104.4651
104.9101
Log Likelihood by
Model and Rank
0
1
2
3
4
5
46.94835
67.57955
78.99707
82.43553
83.42447
84.01097
46.94835
69.26823
82.82116
90.19758
93.58539
94.17390
28
Schwarz Criteria by
Model and Rank
0
1
2
3
4
5
1.601215
1.629470
1.897042
2.371862
2.910306
3.459203
1.601215
1.642022
1.910541
2.339490
2.872038
3.477296
1.516997
1.723081
2.040137
2.422743
2.927502
3.477296
1.516997
1.624779
1.976713
2.415606
2.913033
3.480500
1.737025
1.788405
2.088142
2.486666
2.927927
3.480500
L.R. Test:
Rank = 1
Rank = 1
Rank = 0
Rank = 1
Rank = 1
(③)
(④)
(①)
(②)
この結果、共和分のランクはたかだか 1 であることがわかる。
・
共和分関係(共和分ベクトル)
rank=1 に対応するモデルで、共和分関係を列挙すると、
①
APCL
1.000000
Log likelihood
②
APCL
1.000000
Log likelihood
③
APCL
1.000000
Log likelihood
④
APCL
1.000000
Log likelihood
YDEL
-20.62563
(14.2239)
67.57955
SDYDEL
-33.64911
(17.9531)
PEL
-21.89899
(18.4054)
RYDL
0.490437
(0.26769)
YDEL
-809.1944
(2699.98)
69.26823
SDYDEL
-597.0972
(2010.38)
PEL
-59.55708
(190.029)
RYDL
-1.781592
(7.37428)
YDEL
-417.4979
(397.718)
80.79159
SDYDEL
-291.2493
(282.648)
PEL
19.60217
(20.6295)
RYDL
-2.589933
(2.79081)
@TREND(81:2)
0.580433
(0.53923)
C
1442.681
YDEL
-419.4787
(401.241)
83.17961
SDYDEL
-292.6715
(285.168)
PEL
19.68407
(20.7906)
RYDL
-2.603145
(2.81496)
@TREND(81:2)
0.612465
C
1448.744
C
2918.459
(10131.8)
上記のうち、これまでの想定に符号条件がすべて当てはまる関係は見当たらないが、①は所得リスク
(SDYDEL)を除き、当てはまっている。
・ VECM(誤差修正モデル
上記の①に基づいて誤差修正モデルを推定した(詳細省略)。
29
・ Impulse Response
上記の VECM に基づいて APC に対する Impulse Response を描くと以下のようになる。
Response to One S.D. Innovations
Response of APCL to YDEL
Response of APCL to SDYDEL
1.0
1.0
0.5
0.5
0.0
0.0
-0.5
-0.5
-1.0
-1.0
-1.5
-1.5
10
20
30
40
50
60
10
Response of APCL to PEL
20
30
40
50
60
Response of APCL to RYDL
1.0
1.0
0.5
0.5
0.0
0.0
-0.5
-0.5
-1.0
-1.0
-1.5
-1.5
10
20
30
40
50
60
10
20
30
40
50
60
(ショックが波及する順番:RYDL PEL APCL YDEL SDYDEL の順とした)
この結果を見ると、低所得者の平均消費性向に対して正の影響を与えるのは、期待インフレのみ、負の
影響を与えるのは期待所得、所得リスク、実質可処分所得になる。
通常の VAR モデルにタイムトレンドとその 2 乗を外生変数として含めて、Impulse Response を描くと
以下のようになる。
Response to One S.D. Innovations ± 2 S.E.
Response of APCL to YDEL
Response of APCL to SDYDEL
0.8
0.8
0.6
0.6
0.4
0.4
0.2
0.2
0.0
0.0
-0.2
-0.2
-0.4
-0.4
-0.6
-0.6
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
Response of APCL to PEL
4
5
6
7
8
9
10
11
12
10
11
12
Response of APCL to RYDL
0.8
0.8
0.6
0.6
0.4
0.4
0.2
0.2
0.0
0.0
-0.2
-0.2
-0.4
-0.4
-0.6
-0.6
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
30
2
3
4
5
6
7
8
9
この結果によれば、低所得者層の平均消費性向に長期的に見て正の影響を与える要因は、期待所得、期
待インフレであり、短期的に正の影響を与えるのは実質可処分所得であることになる。所得リスクは長期
的に見れば負の影響になる。期待所得と実質可処分所得に関しては、VECM による結果と大きく食い違っ
ている。共通しているのは、長期的には期待インフレがプラスに作用すること、所得リスクがマイナスに
作用することである。
(高所得者層)
・ ラグの次数
低所得者層のケースと同様の方法でラグ次数を決める。通常の VAR をレベルで推定すると、BIC
(Schwarz Criteria)はラグ次数 2 において最小となる(Schwert にしたがって pmax=integer part of
{12(T/100)1/4}=11 として)
。
・ 共和分ランク
低所得者層のケースと同様、Johansen の方法による。
Sample: 1981:1 2002:1
Included observations: 77
Series: APCH YDEH SDYDEH PEH RYDH
Exogenous series: Q2 Q3 Q4
Warning: Rank Test critical values derived assuming no exogenous series
Lags interval: 1 to 2
Data Trend:
Rank or
No. of CEs
None
No Intercept
No Trend
None
Intercept
No Trend
Linear
Intercept
No Trend
Linear
Intercept
Trend
Quadratic
Intercept
Trend
-106.4310
-93.06358
-85.25334
-81.84473
-78.96129
-78.21501
-106.4310
-91.68524
-82.09164
-74.56807
-71.36711
-69.02235
-104.1346
-89.47438
-80.21351
-72.69288
-69.58071
-69.02235
Log Likelihood by
Model and Rank
0
1
2
3
4
5
-129.7095
-104.2127
-95.03124
-88.95832
-87.75373
-87.73962
-129.7095
-103.3640
-90.33416
-82.72806
-79.33967
-78.21501
Schwarz Criteria by
Model and Rank
0
1
2
3
4
5
6.189730
6.091607
6.417258
6.823650
7.356493
7.920257
6.189730
6.125976
6.408082
6.831065
7.363598
7.954930
5.867159
6.084085
6.445352
6.920947
7.410183
7.954930
5.867159
6.104697
6.476056
6.901182
7.438584
7.998225
6.089579
6.272924
6.596512
6.965302
7.448597
7.998225
L.R. Test:
Rank = 1
Rank = 1
Rank = 0
Rank = 0
Rank = 0
(①)
(②)
この rank test の結果、共和分のランクはたかだか 1 であることがわかる。
31
・ 共和分関係(共和分ベクトル)
上記の結果に対応したモデルによる共和分関係は、以下のようになる。
①
APCH
1.000000
YDEH
-20.15517
(12.7060)
Log likelihood
②
APCH
1.000000
-104.2127
Log likelihood
-103.3640
YDEH
80.65903
(172.234)
SDYDEH
18.93776
(26.3979)
PEH
2.619732
(7.84427)
RYDH
0.252434
(0.14844)
SDYDEH
7.358261
(46.8188)
PEH
-30.40036
(55.5072)
RYDH
0.084522
(0.25732)
C
-430.7483
(702.093)
①は PEH(期待インフレ)以外は符号条件が合っている。一方、②は YDEH(期待所得)以外は符号
条件が合っている。よって、双方の誤差修正モデルを推定する(詳細省略)
・ Impulse Response
①の共和分関係に基づく VEC を推定し、Impulse Response を描くと以下のようになる(ショックが
波及する順番は RYDH PEH APCH YDEH SDYDEH の順で、低所得者層のケースと同一である)
。
Response to One S.D. Innovations
Response of APCH to SDYDEH
Response of APCH to YDEH
0.4
0.4
0.2
0.2
0.0
0.0
-0.2
-0.2
-0.4
-0.4
-0.6
-0.6
-0.8
-0.8
-1.0
-1.0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
1
12
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
11
12
Response of APCH to RYDH
Response of APCH to PEH
0.4
0.4
0.2
0.2
0.0
0.0
-0.2
-0.2
-0.4
-0.4
-0.6
-0.6
-0.8
-0.8
-1.0
-1.0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
32
2
3
4
5
6
7
8
9
10
この結果、高所得者層の平均消費性向に対して長期的に正の影響を与えるのは、期待インフレであり、
負の影響を与えるのは期待所得と実質可処分所得である。所得リスクはほぼ中立的である。
②の共和分関係に基づく VEC を推定し、Impulse Response を描くと以下のようになる(ショックが波
及する順番は RYDH PEH APCH YDEH SDYDEH の順で、①のケース及び、低所得者層のケースと同一
である)
。
Response to One S.D. Innovations
Response of APCH to YDEH
Response of APCH to SDYDEH
0.4
0.4
0.2
0.2
0.0
0.0
-0.2
-0.2
-0.4
-0.4
-0.6
-0.6
-0.8
-0.8
-1.0
-1.0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
Response of APCH to PEH
4
5
6
7
8
9
10
11
12
10
11
12
Response of APCH to RYDH
0.4
0.4
0.2
0.2
0.0
0.0
-0.2
-0.2
-0.4
-0.4
-0.6
-0.6
-0.8
-0.8
-1.0
-1.0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
4
5
6
7
8
9
上記の結果で見ると、高所得者層の平均消費性向に長期的にプラスの影響を及ぼすのは、期待インフレ
であり、短期的には期待所得もプラスに作用し得るものの、長期ではマイナスになる。実質可処分所得、
所得リスクは長期的に負の影響を及ぼす。
通常の VAR モデルにタイムトレンドとその 2 乗を外生変数として含めて、Impulse Response を描くと
以下のようになる。これを見ると、長期的に平均消費性向に対して正の影響をもたらすのは期待インフレ
であり、この点では上記 2 つの結果と整合的である。
Respon se to One S.D. Innovations ± 2 S.E.
Response of APCH to YDEH
Res ponse of APCH to SDYD EH
1.0
1.0
0.5
0.5
0.0
0.0
-0.5
-0.5
-1.0
-1.0
-1.5
-1.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
Response of APCH to PEH
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
11
12
Re sponse of APCH to RY DH
1.0
1.0
0.5
0.5
0.0
0.0
-0.5
-0.5
-1.0
-1.0
-1.5
-1.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
33
3
4
5
6
7
8
9
10
<3> 基礎的消費と選択的消費の価格弾性値
Johansen の共和分テストなど実施した時系列分析の手法は前項と同様(詳細略)
。
・
C1L(低所得者層の選択的消費)
,C2L(低所得者層の基礎的消費)
,C1H(高所得者層の選択的
消費)
,C2H(高所得者層の基礎的消費)別にそれぞれ実質可処分所得と相対価格だけで考える。
・
OLS の関係を共和分の視点から再検討することが目的
・
消費、所得は自然対数をとって考える
結果は以下の通り。
① C1L について
Ln(C1L)=0.90ln(RYDL)-0.13(p1/p)-0.46
(4-quarters lag model)
Ln(C1L)=0.71ln(RYDL)-1.44(p1/p)+1.70
(8-quarters lag model)
② C2L について
Ln(C2L)=0.55ln(RYDL)-1.48(p2/p)+2.70
(4-quarters lag model)
Ln(C2L)=0.62ln(RYDL)-2.52(p2/p)+3.42
(8-quarters lag model)
③ C1H について
Ln(C1H)=0.81ln(RYDH)+1.27(p1/p)-1.53
(4-quarters lag model)
Ln(C1H)=0.97ln(RYDH)+1.21(p1/p)+-2.35
(8-quarters lag model)
④ C2H について
Ln(C2H)=0.91ln(RYDH)-3.32(p2/p)+2.90
(4-quarters lag model)
Ln(C2H)=0.88ln(RYDH)-3.00(p2/p)-2.71
(8-quarters lag model)
(観察されること)
・
低所得者層:所得弾性値は C1 に対する方が C2 よりも高い。逆に価格弾性値は C2 に対しての方
が高い。
・
高所得者層:所得弾性値は C1、C2 で大差ない。価格弾性値は C1 で逆符号。C2 に対する価格弾
性値は非常に高い。低所得者層と比べても高い。
・
OLS 推計によっても、同様の観察結果が得られる。
34
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