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許可された自立
許可された自立
~占領期インフォメーション番組におけるメッセージの変容~ メディア研究部
宮田 章 1945 〜 52(昭和 20 〜 27)年の占領期,NHKラジオで盛んに放送された「インフォメーション番組」は,当初,
占領軍や,その指導下にある官庁等から聴取者・国民に発信される多分に教示的・啓蒙的メッセージを伝えるも
のであった。その内容を一言で言えば「アメリカの指導の下で民主的で豊かな日本の実現を目指す」というもので
ある。しかし,放送法が成立し,NHK が相対的に独立性を増した 1950 年 5月以降,そうした教示的・啓蒙的な
メッセージは減少し,代わって聴取者・国民に「自分で考えてもらう」ため,事実・現実に即した「考える材料」を
提供する,非教示的メッセージが増加する。本稿は『時の動き』というインフォメーション番組の内容から,1950
年 5月前後のメッセージ内容の変化を具体的に明らかにするものである。
なお,目下の現実をどのように捉え,どのように考えるべきかを,放送者が聴取者(視聴者)
・国民に教示する
50 年 5月以前のインフォメーション番組に支配的な特徴は,初期の『日本の素顔 』など,啓蒙的と評される後年
のテレビ・ドキュメンタリーに受け継がれており,戦後日本の放送ドキュメンタリーの展開において見逃せない一
傾向を形成するものである。
番組である。インフォメーション番組とは占領
1 はじめに
軍=CIE の強い指導の下,
“国民に徹底さすべ
まだ連合軍による占領下にあった 1950(昭
き重要事項 1)”
の伝達を目的として,占領期に
和 25)年 5月2日,放送法が公布され,6月1日
盛んに制作・放送されたラジオ番組群で,一
からの施行に伴って NHK は現行の特殊法人へ
時は“インフォメーション・アワー”と称する帯
と生まれ変わった。放送法は「放送の自主自
番組枠が月曜から日曜まで設けられ,夜 8 時か
律」
「健全な民主主義への貢献」を旨とするも
ら8 時半のゴールデンアワーにインフォメーショ
のであったが,一方で占領は継続中(52 年 4月
ン番組がずらりと並んだこともあった。各番組
解除)であり,占領軍,とりわけその中でメディ
は,目下の現実をどのように捉え,どのように
ア政策を取り仕切るCIE(民間情報教育局)の
考えるべきかを,占領政策に則って聴取者・国
意向に反する放送は実質的には困難であった。
民に教示することを主な内容としていた。占領
本稿は占領期,放送法施行の前後で NHK
政策への理解・協力を訴えるプロパガンダ番
の放送内容がどのように変化したかを具体的に
組の性格を色濃く帯びていたこのインフォメー
検討するものである。材料とするのは当時「イ
ション番組は,NHK が「自主自律」を旨とする
ンフォメーション番組」と呼ばれていたラジオ
放送局として生まれ変わった時,その内容にど
80
APRIL 2015
んな変化を起こしたのだろうか。本稿の目的は
これを明らかにすることである。
占領軍とその統治機関は極めて強大かつ周
2 先行知見
2-1 インフォメーション番組とは
到な軍事・政治権力であった。戦後の放送は
管見の限り,インフォメーション番組に注目
その強力な指導の下に,ほぼゼロから育成さ
した体系的な研究は見当たらない。ただ『20
れ,5 年後の放送法の成立を機に一応の自立
世紀放送史 』やその底本となった『日本放送
を許された。中でも,目下の現実をどのように
史』
(共に NHK 編)等には,インフォメーショ
捉え,どのように考えるべきかを放送するイン
ン番組やそれが伝えようとした“インフォメー
フォメーション番 組は,占領軍=CIE がいわ
ション”について概括的に述べた記事が散見さ
ば「手塩にかけて」育成を行った番組領域で
れる。今回の資料の検討に入る前に基本情報
あった。その「育成期」から「自立期」へのメッ
としてこれらの記事をまとめておこう。
セージ内容の変化を知ることは,後年展開し
戦後において,聴取者・国民に「目下の現
た日本の放送ドキュメンタリーを考える際の大
実をどう捉え,どう考えるべきか」を教示する
きな手がかりとなるであろう。なぜならインフォ
タイプの番組は終戦直後から存在したが,そ
メーション番組は日本の放送ドキュメンタリー
れらを「インフォメーション番組」と呼び始め
の重要な源流の一つだからである。
「目下の現
たのは,1948 年1月に“インフォメーション・
実をどう捉え,どう考えるべきか」を教示する
アワー”と呼ばれる月〜日の帯番組枠(午後 8
一時期のインフォメーション番組のスタイルは,
時から 8 時半放送)が創設されてからのことと
「啓蒙的」と言われるある種の放送ドキュメンタ
2)
リーに受け継がれていった 。
検討の具体的材料としては,1950(昭和 25)
考えられる。月曜には『新しい農村』,火曜に
『労働の時間』,水曜に『問題の鍵』
(48 年 4月
に『社会の窓』と改称),木曜に『産業の夕』,
年の 4 〜 6月に制作・放送されたインフォメー
金曜には各地域放送局が制作する『ローカル
ション番組『時の動き』
(1948.1 〜 52.11)8 本
ショー』,土曜は『家庭の話題』,そして日曜が
分の放送台本を用いる。筆者が今回,NHK
『時の動き』であった。これらの番組の基本的
放送博物館の図書・資料ライブラリーで閲覧し
性格とその演出方法について『20 世紀放送史』
たものである。この番組では,6月の放送法施
は次のように記す。
行にひと月先立つ 50 年 5月から占領軍=CIE
“番組はいずれもCIE から指示されるキャン
による番組制作へのコントロールが緩められた
ペーン項目,例えば,政治教育,選挙,人権
が,その緩和以前と,緩和以後双方の番組内
擁護,食糧増産,石炭産業,野菜と魚,農地
容を検討することができる貴重な資料である。
改革,住宅復興,公衆衛生,証券の民主化な
どを主題にして,寸劇,現場録音,ストレート・
(なお本 稿中,
“ ”内は番組のナレーションと参考
書籍 類からの引用,
『 』は番 組名と番 組内のインタ
ビュー,
「 」は筆者による強調表現である。また,引
用に際しては,新字体,現代かなづかいにした)
トーク,インタビュー,対談,解説などを織り
込んで構成された。占領政策を反映して,民
主主義思想の啓発とともに,産業復興を促進
するという色彩の濃い放送であった 3)”
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81
この記述を要約すると,
“インフォメーショ
な民主主義への貢献をうたう放送法の施行に
ン”とは,CIE が指示する,目下の現実につい
よって,NHK は戦前生まれの社団法人から現
てのキャンペーン項目を主題とする情報であり,
行の特殊法人へと生まれ変わったが,これに
その目的は民主的で産業が復興した日本の実
ひと月先立って,占領軍=CIE は NHKによる
現であったということになる。
『日本放送史』に
キャンペーン項目の自主的な選定を許したので
よると,キャンペーン項目は,官庁や公益団体
ある。52 年11月号に長谷によって書かれた前
等が,国民に知らしめてほしいと送ってくるも
掲の『放送文化』の記事は,キャンペーン項目
ので,その中からCIE が放送にふさわしいもの
の自主的な選定によって“キャンペイン・シート”
4)
を選定した 。時には CIE自身が発意した項目
は“目的も内容も一変した”としている 7)。ただ
も含まれたことだろう。NHK で実際にインフォ
し,その“一変”ぶりを具体的に示す記述は,
メーション番組の制作を担当するのは社会課
この『放送文化』の記事にも『日本放送史』に
という部署であったが,その古参メンバー,長
も見つからない。
谷耕作によって書かれた『放送文化』の記事
5)
本稿は『時の動き』というインフォメーション
によれば,
“キャンペインとはもともと軍隊用語
番組の台本資料を検討する。それは 50 年 4 〜
の「城砦を攻略する」という意味であり”,キャ
6月に放送された 8 回分の番組内容を示すもの
ンペーン項目は“キャンペイン・シート”という
で,キャンペーン項目の選定主体が CIE から
文書の形で CIE からNHKにいわば 下げ渡さ
NHKに移った 50 年 5月を真ん中に挟むもので
れた。占領政策と結び付いた諸項目が記された
ある。50 年 5月前後でその“インフォメーショ
“キャンペイン・シート”は“至上命令的な圧力”
ン”にどんな変化が生じたのかを具体的に解
を持っていたという。端的に言えば“インフォ
メーション”とは「民主的で豊かな日本の実現」
き明かすことが可能である 8)。
なお,現代の日常言語において,インフォ
を目指して目下進行中の諸政策,諸改革に対し
メーションとは「情報,報道,知らせ」を意味
て,ほぼ異論を許さない立場から国民の理解
する言葉であるが,先行知見からは“インフォ
と協力を求めるものであり,インフォメーション
メーション”の意味が,番組が主題として「伝
番組とは,そうした“インフォメーション”を,
えたいこと,訴えたいこと」であることがわか
様々な演出方法を駆使して国民に周知・徹底さ
る。日常言語で言えば「メッセージ」である 9)。
せようとする番組だったということになる。
本稿では,インフォメーション番組が主題とし
ところで,この“インフォメーション”とイン
て「伝えたいこと,訴えたいこと」,すなわちイ
フォメーション番組の性格は,50 年 5月から変
ンフォメーション番組が発信するメッセージと
化したとされる。やはり『日本放送史』によれ
いう意味で,
“インフォメーション”と表記する。
ば,この月から放送でのキャンペーンを希望す
る項目は,官庁や公益団体等からCIEを通さ
2-2 『 時の動き 』についての先行知見
ず直接 NHKに送られ,その中からNHK が自
『時の動き』という番組についての先行知見
主的にキャンペーン項目を選定することになっ
としては,
『日本放送史 』に次のような記事が
6)
た 。50 年 6月1日, 放 送 の自主自 律と健 全
82
APRIL 2015
ある。
“日曜日の『時の動き』は,刻々と起こるいろ
なお『時の動き』は 1948.1 〜 52.11(第 1 期と
いろな社会事象・政治的事件などをあらゆる角
する),1953.4 〜 53.11( 第 2 期 ),1954.11 〜
度からとらえて,平易に解説しようとする番組
59.3(第 3 期)の 3 期にわたって放送されてお
で,そのためには,あらゆるラジオ的な演出形
り,例えば第 1 期と第 3 期は別番組と言ってよ
式が駆使された。毎回だいたい四つのキャンペ
いほどに性格・内容が異なる11)。今回の資料
イン題目をとり上げ,これをそれぞれ週間の事
は第 1 期の,それも1950 年の一時期における
件の中に具体的に織り込み,これらの事件を
『時の動き』を語るものであり,決して『時の動
短い音楽でつなぎながら,解説をつけていくと
き』全般をカバーするものではないことをおこと
いう構成をとっていた。それぞれの事件は,寸
わりしておく。
劇・現場録音・対談など,いろいろな形式で取
り扱われた。
(略)いわば,立体的なニュース
解説ともいえるこの番組は,インフォメーション
=アワーの中でもっとも手のこんだものであり,
また,もっとも話題を呼んだ放送の一つであっ
た
10)
”
3 台本に見る外形的情報
表 1 は今回の台本資料(写真 1)が示す『時
の動き』8 本の各回について,その放送日と制
作スタッフ,内容項目名をまとめたものである。
要約すると『時の動き』とは毎回 4つほどの
まず放送日が,50 年 4 〜 6月であることは重
キャンペーン項目を取り上げて,それを“週間
要である。8 本の内訳は4月に放送されたもの
の事件の中に織り込”んだ上で,様々な演出手
が 2 本,5月が 4 本,6月放送分が 2 本である。
法を駆使して解説する番組であったということ
50 年 5月にキャンペーン項目選定の主体が CIE
になる。最後の一文は『時の動き』という番組
からNHKに移った影響は,どの時点で,どの
が,作り手の側でも,また聴き手の側でも重
ように及んだかが注目される。
視されたインフォメーション番組だったことを示
していよう。
最後に『時の動き』という番組の外形的な基
本情報を示しておこう。
放送時間は毎週日曜日の夜 8 時半から9 時
までの 30 分間。放送波は第 1 放送であった。
台本の表紙(写真 2)には,この番組が副題
を持たず,各回が“第 115 輯”
“第 116 輯”といっ
た通算放送回数を示す番号で区別されたこと
が見える。このことは『時の動き』という番組
(第 1 期)が,同時期に放送されていた『社会探
訪』や『社会の窓』のように1本 1本の作品性を
1948 年1月,第 1 放送午後 8 時からの30 分
標榜していなかったことを示すものである。ま
番組として一斉にスタートしたインフォメーショ
た同じく表紙に記されている制作スタッフ名を
ン番組の多くが,その後廃止されたり,放送の
見ると,この番組が企画,脚本,演出各業務
曜日や放送時刻,放送波の変更をしばしば受
の担当者たちによって協業的に制作されていた
けたのに対し,この『時の動き』は放送時刻の
ことが読み取れる。
小さな変更(当初午後 8 時開始が 8 時半開始に
中身について言うと,表に見るように,各回
なった)しか受けず,占領が解除された年であ
は時事問題(目下の現実を問題化したもの)を
る1952 年の11月まで毎週,制作・放送された。
扱う4 〜 6 個の項目によって構成されており,
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今回の 8 本には全部で 39 項目が含まれている。
写真 1
各項目は内容的に独立していて相互の連関性
は薄い。したがって番組内容の検討は項目ご
とに行われる必要がある。
番組は毎回次のようなナレーションで始まっ
た。
“絶え間なく移り変わる社会の動きを捉え,
問題の要点をお知らせする『時の動き』第〇
輯”。
写真 2
4 教示的インフォメーションと
非教示的インフォメーション
今回の『時の動き』8 本に含まれる39 項目に
ついて,項目ごとの内容を表 2(p100 〜 101)
にまとめた。これらの項目のほとんどは,問題
の所在を示す導入部,その後の説明・解説部,
最後の結論部が比較的明確に分かれているが,
基本的にはその順番に沿って,どういう内容が
表 1 50 年 4 〜 6 月の『時の動き』の概観
放送日
企画
脚本
演出
項目名
50.4.23
反町
(第 115 輯)
井上 上山,入江
1. サーカス等での年少者労働問題, 2. 外国人の日本観光の印象, 3. 火災や地震に強い住
宅を,4. 暴力団一掃に協力を,5. 鉱工品貿易公団経理課員の巨額横領事件
50.4.30
重田,反町
(第 116 輯)
井上 上山,入江
1. ソ連抑留者の未帰還問題,2. 労働組合の全国組織の必要性,3. 街頭で働く年少者,4. パ
ン,うどんなど主食の一部自由販売に
50.5.7
重田,川崎,
井上 入江
(第 117 輯) 反町
1. 海上の密輸・密貿易問題,2. 改正税法について, 3. 賃金不払い問題深刻, 4. 新憲法 3
周年,5. 渡米していた財界人・永田清氏に聞く
50.5.14
重田,川崎,
井上 入江
(第 118 輯) 反町
1. 小作契約は文書で,2. 白い羽根街頭募金に協力を,3. 安物買いに注意,4. 少年たちの
野球熱,5. 講和問題をめぐる吉田首相と南原東大総長との論争
50.5.21
重田,川崎,
井上 入江
(第 119 輯) 反町
1. 参議院選挙で一票を生かそう,2. 中小企業への融資枠,3. ニューヨークに貿易事務所
開設,4. 南海にマグロ漁区拡大,5. 住宅金融公庫発足へ
50.5.28
重田,川崎,
井上 入江
(第 120 輯) 反町
1. 都市計画に協力を,2. 月賦販売について,3. 山林火災を防ごう,4. 渡米していた池田蔵
相の「おみやげ」をめぐる観測,5. 参議院選各党皮算用
50.6.4
重田,川崎,
井上 入江
(第 121 輯) 反町
1. 綿製品と砂糖,自由販売へ第一歩,2. 産業合理化に努力を,3. 米兵に暴行した「民主
民族戦線結成準備会」メンバーに重刑,4. 吉田自由党総裁の選挙公約発表,5. 参議院選
挙投票日,6.「 外交白書」発表とダレス氏来日決定
50.6.11
重田,川崎,
井上 入江
(第 122 輯) 反町
1. 参議院新勢力分野と今後の展望,2. GHQ が共産党幹部 41 人を公職追放指令,3. 飲酒
の功罪,4. 夏を迎えて赤痢菌に注意
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どのような演出手法で語られたかを記したもの
取る。声優の一人が“そう言えば,ああいう
である。以下の論述の根拠となるものなので是
子どもたちがいなくなりましたね”とつなぎ,
非一覧されたい。
解説者が“それは昭和 23 年に制定された労
以下,本節では,39 項目の中から二つの項
目を取り上げ,その内容から,対照的な性格を
持つ二つのタイプの“インフォメーション”が存
在することを示したい。
働基準法の年少者保護規定によるものです”
と本題に入る。
Ⅱ(説明・解説部):解説者と複数の声優が交
互に労働基 準法の条文を読み上げながら,
満 15 歳未満の子どもを使役してはならないこ
4-1 教示的インフォメーション…
「サーカス等での年少者労働問題 」を
例として
とが説明される。さらに酔っぱらいの父親が
まず,50 年 4月23日に放送された第 115 輯の
見人が子どもの労働契約を結んだり,賃金を
トップ項目である「サーカス等での年少者労働
受け取ったりすることが禁止されること等も知
問題」を見てみよう。
らされる。
この項目の内容は以下のように要約すること
子どもの給金をもらいにくる寸劇を挟んで,再
び解説者と「声」の掛け合いの中で,親や後
Ⅲ(補足・結論部):昨年の違反件数が年間 10
ができる。
万件に上るという統計が紹介され,労働省年
Ⅰ(導入部)
: まず男女声優による寸劇で,サー
少労働課長の談話(録音)で,年少者の保
カスで働く少女“千代ちゃん”が風邪を引い
護が使用者の利益にも一致することが語られ
て今日の演技を休みたいが,強欲な親方が
る。最後に結論として解説者が次のように結
『お前を拾って育てたのは誰だと思ってるん
ぶ。
“新憲法が基本的人権を認めている時,
だ 』と無理に出演させようとする話が語られ
労働基準法による年少労働者の保護を守る
る
(写真 3)
。短い音楽を挟んで,解説者が“寂
ことは,育ち行く子どもたちの基本的人権を
しそうな顔に精一杯の作り笑いをうかべてい
守ることでもありましょう。やがて国際社会
た(サーカスの)子どもたちの姿です ”と引き
への参加が許される時までに,こうした事か
らも気持ち良い社会を作りあげておきたいも
写真 3
のであります ”
(この後ブリッジ音楽が流れて
次の項目へ)。
Ⅲの最後の解説に明らかなように,この項目
が発信している“インフォメーション”は「子ど
もの人権擁護」の一環として労働基準法の年少
者保護規定を紹介し,聴取者・国民にその遵
守を求める“インフォメーション”である。
この項目のキャンペーンを依 頼してきたの
は,Ⅲの補足部で談話を寄せている労働省年
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少労働課長であろう。それが CIE によってキャ
ンペーン項目に選定され,キャンペーンシート
4-2 非教示的インフォメーション…
「 講和問題をめぐる吉田首相と南原
の一項目として記載され,
『時の動き』の制作
東大総長との論争 」を例にして
現場に下げ渡されたと思われる。官庁が発意
次に,先述とは対照的な性格を持った“イン
したキャンペーン項目を CIE が放送するにふさ
フォメーション”を発信している項目を紹介しよ
わしいと認定し,放送者(NHK)がこのキャン
う。50 年 5月14日に放送された第 118 輯の 5つ
ペーン項目を主題とした“インフォメーション”
めの項目である「講和問題をめぐる吉田首相と
を放送したのである。その内容はつまるところ,
南原東大総長との論争」である。
「15 歳未満の子どもの人権を擁護すべきだ」と
この項目の内容は以下のように要約すること
教え示すものであった。このように,放送者が
ができる。
目下の現実の一領域について聴取者に「○○
Ⅰ(導入部):解説者が,自由党の議員総会で
すべきだ」等の表現で,特定の行動や考え方
吉田首相が“次のように述べたと伝えられま
の指針を与える“インフォメーション”を「教示
す ”と話を起こし,続けて「声」が,全面講
的インフォメーション」と呼ぶことができる。
和論を唱える南原東大総長について“国際問
この「15 歳未満の子どもの人権を擁護すべき
題を知らぬ曲学阿世の徒”と評したという吉
だ」という教示内容は,
「15 歳未満の子どもを
田首相の発言内容を正確に伝える。
“いくら
使役してはいけない」という否定の教示にもな
なんでも曲学阿世はひどい”という「声」のリ
る。つまり「○○すべきだ」という言い方(勧奨)
アクションを挟んで,この吉田首相の発言に
は,
「××してはいけない」という言い方(否定)
反発する南原総長の声明と,更にそれに対
の裏返しである。また,この教示内容は「15 歳
する吉田首相の発言をそれぞれ「声」が伝え
以上なら使役してもよい」という許可の意味にも
る。以上を受けて解説者が“この問題は参
取り得るだろう。教示内容のうち,
「○○すべき
議院選挙を前にしての事だけに国民に波紋
だ」という勧奨の意味,あるいは「××しては
を投げかけております ”と引き取って議題の
いけない」という否定の意味,更に「△△して
設定を行う。
もよい」という許可の意味のうちどれに重点が
Ⅱ(説明・解説部):Ⅰを受けて複数の「声」が
あるかは,
“インフォメーション”をめぐる現実の
それぞれ,
『何と言っても全面講和が理想だ 』
文脈の中で判断するしかない。この項目では,
として全面講和を支持する者と,
『いやそれ
15 歳未満の子どもを使役する違反例が後を絶
は観念論だよ』として単独講和を支持する者
たないという状況の中で“インフォメーション”
とに分かれて議論を戦わせる(写真 4 )
。解
が発せられているから,その重点は「使役して
説者は議論には加わらず進行に徹し,
“こうし
はいけない」という否定と,その裏返しとしての
て国民の講和問題に対する関心も高まってき
「人権擁護」の勧奨にあると考えられる。15 歳
たようですが,ここでこの問題に関して私た
以上を働かせることは当時,当たり前に行われ
ちはどう考えるべきかを読売新聞論説委員の
ていたことであったから,この場合,許可の意
喜多村浩氏に伺ってみました”とつなぐ 12 )。
味はあまり問題にならなかったと言えるだろう。
Ⅲ(結論部):
『この問題は政府ももっと堂々と
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写真 4
は「あとは自分で考えてください」と突き放して
いるのである。この項目が発信している“イン
フォメーション”は,目下の現実の一領域につ
いて「○○すべきだ」
「××してはいけない」
「△
△してもよい」といった判断を聴取者自身に行っ
てもらうために提示する「考える材料」である。
その具体的内容は,講和問題について新たに
発生した吉田・南原両氏の論争という出来事と,
二人がそれぞれ主張する単独講和,全面講和
両論についての整理された情報である。
このように,放送者が聴取者に提供する「考
資料を提供して世論を喚起すべきだ 』とする
える材料」としての“インフォメーション”を「非
喜多村氏の談話(録音)が流れ,最後に解説
教 示的インフォメーション」と呼ぶことができ
者が“こうしてクローズアップされてきた講和
る。放送者は,特定の時事的現実に関する聴
問題は今後益々大きな問題に広がっていくで
取者の行動や考え方(この場合は講和問題に
しょう”と結ぶ。
ついてどんな意見を持つかということ)につい
て勧奨も否定も許可も行わない。そうした行動
この項目が発信している“インフォメーショ
や考え方の指針を決定するのは聴取者であっ
ン”の性格を検討してみよう。Ⅲの結論部の大
て,放送者は「考える材料」を提示するにとど
意は,講和問題が,国民がよく議論するべき
まるのである。
重要な問題であり,実際そうなっていくであろ
うということである。しかしこの項目は,この
問題を国民がどう考えるべきであるかというこ
とを教示しない。Ⅱの最後で解説者は“この問
5 教示的インフォメーションを
発する諸項目とその特徴
題(講和問題)について私たちはどう考えるべ
この節では全 39 項目の中から,
「サーカス等
きか”を喜多村氏に尋ねるが,喜多村氏はそれ
での年少者労働問題」のように教示的インフォ
について直接答えず,政府は国民にもっと考え
メーションを発している項目をすべて取り上げ
る材料を提供すべきだと述べるのみである。つ
て,その内容から教示的インフォメーションに
まり,この項目は前節で見たように目下の現実
ついての考察を深めたいと思う。表 3 は 39 項目
について「○○すべきだ」とか「××してはいけ
の中で,教示的インフォメーションを発している
ない」と明示的に教え示す
“インフォメーション”
と考えられる25 項目についてまとめたものであ
を発していない。Ⅰで吉田首相と南原総長の論
る。項目番号①〜㊴は表 2 に記したものと同じ
争という出来事を伝えて講和問題という議題を
である。さしあたり各項目とその“インフォメー
設定し,Ⅱでは単独講和論と全面講和論をそ
ション”の内容に注目されたい。
「分類」欄の
れぞれ端的に紹介して議論を整理するが,Ⅲで
A1,A2 については後で詳しく説明する。
APRIL 2015
87
表 3 教示的インフォメーションを発信している項目
項目番号 /
放送日
項目
“インフォメーション ”の内容
勧奨 否定 許可 分類
① 4.23
サーカス等での年少者労働問題
15 歳未満は使役禁止,子どもの人権を擁護しよう。
○
○
A1
② 4.23
外国人の日本観光の印象
道路が悪い。駅が汚い。これらを改善しよう。
○
○
A1
③ 4.23
火災や地震に強い住宅を
古いボロ屋は危険,地震や火災に強い住宅を。
○
○
A1
④ 4.23
暴力団一掃に協力を
遠慮やかばい立ては無用,一致協力して暴力団を一掃
しよう。
○
○
A1
⑤ 4.23
鉱工品貿易公団経理課員の巨額横領事件
税金の横領はけしからん。公団の厳重な監査を。
○
○
A1
⑥ 4.30
ソ連抑留者の未帰還問題
未帰還者の家族の悲痛な声を聞け。問題解決のため
一丸となろう。
○
○
A1
⑦ 4.30
労働組合の全国組織の必要性
労働組合運動の合理化のため,産業別の全国組織結
成を。
○
○
A1
⑧ 4.30
街頭で働く年少者
街頭で働くかわいそうな年少者たちに法律に基づく保
護を。
○
○
A1
⑨ 4.30
パン,うどんなど主食の一部自由販売に
パンやうどんなど主食の一部が自由販売に。
⑩ 5.7
海上の密輸・密貿易問題
多発する海上の犯罪取り締まり強化に理解と協力を。
○
○
⑪ 5.7
改正税法について
新税制,青色申告に協力を。
○
⑫ 5.7
賃金不払い問題深刻
賃金不払いは労働基準法違反。きちんと払おう。
○
○
A1
⑬ 5.7
新憲法 3 周年
憲法の精神はまだまだ実現途上,私たちは不断の努力
を。
○
○
A1
⑮ 5.14
小作契約は文書で
人間関係に遠慮せず,文書による小作契約の締結を。
○
○
A1
⑯ 5.14
白い羽根街頭募金に協力を
赤十字の活動に理解を,募金に協力を。
○
⑰ 5.14
安物買いに注意
デフレの世相,買い物の際は,値段だけでなく品質や
重量にも注意。
○
⑳ 5.21
参議院選挙で一票を生かそう
来る参議院選挙で一票を生かそう。
○
㉓ 5.21
南海にマグロ漁区拡大
GHQ が旧南洋群島海域の日本漁船操業を許可。大漁
を期待。
○
㉔ 5.21
住宅金融公庫発足へ
住宅金融公庫への申し込みを勧奨,資格や申込方法を
説明。
○
㉕ 5.28
都市計画に協力を
立ち退きをしぶったりせず,合理的な都市計画に積極
的な協力を。
○
○
㉗ 5.28
山林火災を防ごう
マッチ一本に注意して山火事予防に協力を。
㉚ 6.4
綿製品と砂糖,自由販売へ第一歩
綿製品と砂糖について販売統制の一部撤廃。
㉛ 6.4
産業合理化に努力を
経済復興と輸出振興のため,どの企業も産業合理化の
努力を。
㉜ 6.4
米兵に暴 行した「民主 民 族戦 線 結成準備 連合軍将兵への暴行は“遺憾の一言では言い尽くせな
会」メンバーに重刑
い事”
。
㊴ 6.11
夏を迎えて赤痢菌に注意
赤痢患者増加中,感染予防に努力を。
これら25 項目は,その“インフォメーション”
○
A1
A2
A1
○
A2
A1
○
A2
A2
○
A1
A2
○
○
○
A2
A2
A1
○
A1
○
A1
関である。表 3 からは,これらの“インフォメー
が,目下の現実に関する聴取者の行動や考え
ション”のほとんどが,こうした統治機関に送
方について,特定の指針を与えているもので,
られてきたキャンペーン項目を元にしていたこ
何らかの行動や考え方を勧奨したり,否定した
とが容易にうかがわれる。今回の台本資料に
り,許可したりしているものである。それぞれ
は,それぞれの項目がどの官庁のキャンペーン
の項目は勧奨,否定,許可といった教示的情
であったかは記されていないので推測は控える
報の中の少なくとも一つを発信している。
が,①,④,⑩,⑫,⑬ではそれぞれ所轄官
こうした勧奨や否定や許可を発信している主
庁である労働省,警視庁,海上保安庁,労働
体は,占領軍を元締めとする官庁等の統治機
基準局,最高裁判所の担当者や責任者が直接
88
APRIL 2015
番組に出演し,
“インフォメーション”の伝達に
⑬,⑮,⑯,⑳は,民主国家を担う良き市民
一役買っている。
としての心構えの設定を行っている。民主国家
占領軍を元締めとする各統治機関は,特定
を担う良き市民は,新憲法が定める責任ある国
の現実領域について国民に行動や考え方の指
家の主権者として(⑬,⑳),封建的な人間関
針を与えるために,勧奨や,否定や,許可といっ
係から脱却し(④,⑮),子どもや労働者の権
た教示的情報を盛り込んだ「キャンペーン項目」
利を擁護し(①,⑧,⑫),赤十字の活動を理
を作成した。こうしたキャンペーン項目は,4
解し(⑯),犯罪には決して手を染めない(⑤,
月までは CIEに,5月以降は NHKに直接送ら
⑩),そういう心構えを持たなければならない。
れ,その中から放送にふさわしいと選ばれたも
こうした心構えの原点が,⑬で「3 周年」を祝わ
のが,制作現場のスタッフによる演出を施され
れる新憲法である。⑬で,解説者は“前途に
て“インフォメーション”として放送されたので
光明を見失おうとした人々に明るい希望を与え
ある。
たもの,それが憲法であったのです”と述べて,
基本的人権の尊重や,男女同権等,社会全体
さて,これらの教示的項目は,その教示が
に新たな理念を示した新憲法の内容を確認し,
行動についての教示だけでなく,聴取者の内
その諸理念の実現のため国民に“不断の努力”
心の領域まで及んで,行動の前提となる心構え
を求めている。
の設定(マインドセッティング)を行っているグ
次に②,③,⑦,㉕,㉛,㊴は,豊かで清潔
ループと,基本的に具体的な行動についての
な社会を実現するための心構えの設定を行う
教示にとどめ,内心の領域には深く立ち入らな
ものである。
“伝染病発生の程度は一国の文化
いグループとに分けられる。まず前者のグルー
のバロメーター”だと感じ(㊴)
,道 路や駅が
プを書き出してみよう。25 項目中18 項目ある。
外国人観光客から見ると貧弱で不潔なことを
①サーカス等での年少者労働問題,②外国
知り(②)
,都市計画や,防災に配慮した住宅
人の日本観光の印象,③火災や地震に強い住
の必要性を理解し(③,㉕)
,産業復興のため
宅を,④暴力団一掃に協力を,⑤鉱工品貿易
には合理的な労使関係が必要であることを知
公団経理課員の巨額横領事件,⑥ソ連抑留者
り(⑦)
,やはり産業復興のためには生産方式
の未帰還問題,⑦労働組合の全国組織の必
を近代化する不断の努力が必要であること
(㉛)
要性,⑧街頭で働く年少者,⑩海上の密輸・
をよく理解しなければならないのである。
密貿易問題,⑫賃金不払い問題深刻,⑬新憲
新しい民主国家を担う良き市民となるための
法 3 周年,⑮小作契約は文書で,⑯白い羽根
心構え,また豊かで清潔な社会を実現するた
街頭募金に協力を,⑳参議院選挙で一票を生
めの心構え,これらを総じて,
「民主的で豊か
かそう,㉕都市計画に協力を,㉛産業合理化に
な日本の実現」という目標達成のために必要な
努力を,㉜米兵に暴行した「民主民族戦線結
心構えということができよう。更に言えば,
「民
成準備会」メンバーに重刑,㊴夏を迎えて赤痢
主的で豊かな日本の実現」という目標には「ア
菌に注意
メリカの指導の下での」という大前提が存在す
上記 18 項目の中で,①,④,⑤,⑧,⑩,⑫,
ることも理解しなくてはならなかった。米兵に
APRIL 2015
89
暴行したという共産党系活動家に重刑が下っ
領域には深く立ち入らず,専ら具体的な行動に
たことを伝え,連合軍将兵への暴行は“遺憾
ついて,勧奨,否定,許可などの教示を行っ
の一言では言い尽くせない事”と教 示する㉜
ている項目群である。25 項目中 7 項目ある。
は,
「アメリカの指導の下での」という大前提の
確認を聴取者の内心に強く求めている。
⑥の「ソ連抑留者の未帰還問題」については
⑨パン,うどんなど主食の一部自由販売に,
⑪改正税法について,⑰安物買いに注意,㉓
南海にマグロ漁区拡大,
㉔住宅金融公庫発足へ,
少し詳しく述べておこう。この項目は,捕虜送
㉗山林火災を防ごう,㉚綿製品と砂糖,自由販
還という戦後処理についてのもので,㉜と同じよ
売へ第一歩
うに「民主的で豊かな日本の実現」以前の問題
まず⑨,㉓,㉚の 3 項目は「△△してもよい」
を扱っている。内容の詳しい紹介は割愛する
という許可の意味が 前面に出た項目である。
が,導入部から結論部まで,未帰還者家族の
心構えには言及せず,聴取者にとって新たに具
悲痛な想いを描く寸劇がいくつも登場し,
“ぜひ
体的な行動領域が開かれたことを教示してい
政府でも何とか力を入れてください”という「声」
る。残る4 項目は,新税制施行に伴う青色申
に応えて,ソ連との折衝にあたっている引揚庁
告について説明・勧奨する⑪,デフレの世相
長官の談話が続く。官民一丸となって問題解決
の中での買い物の注意点を教示する⑰,住宅
にあたる構えが示されるわけである。結論部で
金融公庫への申し込みを勧奨し,資格や手続
「速やかに捕虜送還を完了すべきだ」と訴えられ
き方法を説明する㉔,山火事防止のため,マッ
ているのはソ連当局であるので,少し見えにくく
チ一本の取り扱いに注意せよと呼びかける㉗で
なっているが,この項目が,主たる
“インフォメー
ある。これらは特定の行動について極めて具
ション”として聴取者 ・国民に発信しているの
体的な勧奨を行うものであるが,その前提とな
は,
「未帰還者やその家族の悲痛な想いを受
る心構えについては深く立ち入らない。
け,官民一丸となってソ連に速やかな捕虜送還
これら7 項目も究極的には「アメリカの指導
を訴えよう」という心構えの勧奨である。この
の下での民主的で豊かな日本の実現」を期して
⑥を含めると,ここまで紹介した項目群は総体
いる。しかしA1に分類した項目のように,心
として,
「アメリカの指導の下,ソ連とは捕虜送
構えを説くことから始めるのではなく,また,
「ア
還問題において厳しく対峙しながら,民主的で
メリカの指導の下での民主的で豊かな日本の実
豊かな日本の実現を目指そう」という大きな心
現」という目標の中でもとりわけ「経済的に豊
構えの設定を聴取者・国民に対して行っている
かな日本の実現」を目指して,そのためになす
と言える。各項目は,この大きな心構えの特定
べき具体的な行動について教示を行っている。
の部分をそれぞれ担当し,実際の行動にも言及
「経済的に豊かな日本の実現」のために,官庁
しながら聴取者・国民を教示しているのである。
等が設計した具体的な制度や許可事項を聴取
これら18 項目を表 3 の「分類」欄に「A1」と
者・国民に伝え,それに応じて行動するよう教
記した。
示しているのである。
次のグループに移ろう。教示的インフォメー
ションを発するもう一つのグループは,内心の
90
APRIL 2015
表 3 の「分類」欄にはこの 7 項目を「A2」と記
した。
以上,教示的インフォメーションを発してい
ティング)を行う「A1」のタイプと,心構えにつ
る25 項目について,その特徴を検討した。こ
いてはとやかく言わず,主として「経済的な豊
れらの項目が発する“インフォメーション”は,
かさの実現」のための具体的・実務的な行動
目下の現実のそれぞれの領域について,聴取
について教示する「A2」のタイプに分けられる。
者の行動や考え方に特定の指針を与えるもの
で,特定の行動や考え方を勧奨したり,否定
したり,許可したりしているものである。その
ほとんどは占領軍を元締めとする官庁等の統
6 非教示的インフォメーションを
発する諸項目とその特徴
治機関から依頼されたキャンペーン項目を元に
この節では全 39 項目の中から,
「講和問題を
していると考えられ,内容は基本的に,
「アメ
めぐる吉田首相と南原東大総長との論争」のよ
リカの指導の下での民主的で豊かな日本の実
うに非教示的インフォメーションを発している項
現」を目指して目下進行中の諸政策,諸改革
目をすべて取り上げて,その内容から非教示的
に対して,ほぼ異論を許さない立場から,聴取
インフォメーションについての考察を深めたい。
者の理解と協力を求めるものである。なお,こ
表 4 は 39 項目の中で,非 教 示的インフォメー
の 25 項目は,その教示内容が聴取者の内心に
ションを発していると考えられる14 項目につい
まで及んで,様々な心構えの設定(マインドセッ
てまとめたものである。さしあたり各項目とそ
表 4 非教示的インフォメーションを発する項目
項目番号 /
放送日
項目
“インフォメーション ”の内容
分類
⑭ 5.7
渡米していた財界人・永田清氏に聞く
渡米してドッジ,シャウプ両氏とも会見した日本ゴム社長・永田氏の
談話(録音)。番組としての解説はなし。
B2
⑱ 5.14
少年たちの野球熱
少年たちの野球熱の是非を,青少年の不良化防止の観点から考え
る。
B1
⑲ 5.14
講和問題をめぐる吉田首相と南原東大総長との論争
吉田首相と南原東大総長の論争を伝え,全面講和,単独講和両論
を整理した形で紹介する。
B2
㉑ 5.21
中小企業への融資枠
資金繰りに悩む中小企業向けに融資条件を細かく説明する。
B1
㉒ 5.21
ニューヨークに貿易事務所開設
アメリカが開設を許可。日本製品の見本を示して,マーケティングを
行う等,事務所の業務を紹介。
B2
㉖ 5.28
月賦販売について
月賦販売のしくみや,売る側・買う側双方から見た特徴を整理する。 B1
㉘ 5.28
渡米していた池田蔵相の「おみやげ」をめぐる観測
池田蔵相のいくつかの談話から,噂されるアメリカから日本経済へ
の「おみやげ」を推測する。
B2
㉙ 5.28
参議院選各党皮算用
投票日 1 週間前の各党皮算用。
B2
㉝ 6.4
吉田自由党総裁の選挙公約発表
付加価値税の実施見合わせなど吉田自由党総裁が選挙戦中に発表
した 5 項目の財政経済政策を紹介,整理。
B2
㉞ 6.4
参議院選挙投票日
投票日当日を含む選挙戦終盤のレポート。
B2
単独講和を志向する「外交白書」の情報を整理し,単独講和に向け
た米特使ダレス氏の来日決定を伝える。
B2
参議院新勢力分野と今後の展望
参議院選後の各党幹部の談話,今後の展望。
B2
㊲ 6.11
GHQ が共産党幹部 41 人を公職追放指令
マッカーサー指令の読み上げと「やむをえない」とする政府の反応,
終戦以来の共産党の歩みと,最近のコミンフォルムによるソフト路線 B2
批判などを紹介。最後は
“国民一人ひとりの判断が一層重要”とする。
㊳ 6.11
飲酒の功罪
飲酒の功罪について,それぞれの論を紹介。
㉟ 6.4
㊱ 6.11
「外交白書」発表とダレス氏来日決定
B1
APRIL 2015
91
の“インフォメーション”の内容に注目されたい。
「分類」欄に記した B1,B2 については後で詳し
メーション”はいずれも教示性を持つものでは
ない。また,これらとは別に,参議院選挙の
情勢や結果を伝えた㉙,㉞,㊱のように,官庁
く説明する。
ここで“インフォメーション”として提示され
等の依頼によらず,NHK が独自に発意し,放
ているのは,勧奨や,否定や,許可といった教
送したと考えられる項目が非教示的項目におい
示的言説を抜きにした目下の現実についての情
て数多くなっていると言えよう。
報(=考える材料)である。教示的項目におい
ては,聴取者が放送で接するのは,占領軍を
さて,ここに示した14 項目は,それぞれが題
元締めとする官庁等の統治機関が予めキャン
材とする時事的な現実の性格によって二つのグ
ペーン項目の形に仕上げた目下の現実について
ループに分けることができる。一つは,時事的
の情報パッケージ(教示)であったが,非教示
ではあるが,聴取者もしばしば見聞きすること
的項目においては,聴取者は放送で,勧奨も,
のあるいわば周知の事実・現実を出発点にして
否定も,許可も含まない目下の現実についての
聴取者に
「考える材料」
(=非教示的インフォメー
情報に接するのである。放送日を見ると,こう
ション)を伝えるグループであり,もう一つは,
した非教示的インフォメーションは 5月になっ
聴取者が今まで見聞きしたことがない新たな事
て初めて登場したことがわかる。
実・現実,つまりニュースを出発点にして聴取
前節では教示的項目のほとんどが官庁等か
者に「考える材料」を提供するグループである。
ら送られてくるキャンペーン項目を元にしていた
まず,周知の事実・現実を出発点とするのは
ことを見た。非教示的項目においても官庁等か
らのキャンペーン項目が元になっていると考え
られる項目がいくつか存在している。例えば⑱
次の 4 項目である。
⑱少年たちの野球熱,
㉑中小企業への融資枠,
㉖月賦販売について,㊳飲酒の功罪
と㉑がそうである。⑱は警察庁が後援する少
これら 4 項目の題材となっている事実・現実
年野球大会の開催を伝え,青少年非行防止の
は,いずれも当時の社会の中でよく知られてい
観点から少年たちの野球熱を論じるが,野球
た時事的現実であった。少年たちの間で野球
が場所を取って他の子が遊べないという「声」
が流行し,デフレの世相下,中小企業は資金
も伝えて,結論としては少年たちの野球熱を
繰りに苦しんでいた。同じデフレ下,月賦販売
勧奨も否定もしない非教 示的項目になってい
が流行し始めてもいる。酒はようやく手に入り
る。㉑は経済官庁が設定したと考えられる中小
やすくなり,消費量は急増していた 13)。それぞ
企業への融資枠について伝えるが,情報を整
れの項目は,こうした周知の現実について,㉖
理するだけで勧奨は行わない。非教示的項目
のように,その仕組みや流行する理由を考えて
において,官庁等から依頼された項目を放送
みたり(分析),㉑のように,そのことへの対策
する場合は,その教示性を抜いて放送してい
を提 示したり(対策提 示),⑱や㊳のように,
るのである。他に㉒や㉖,また㊳も官庁等か
そのことの是非を両論併記スタイルで考えてみ
らのキャンペーン項目を元にした可能性を感じ
たりしている(是非の検討)。繰り返すが,題
させる項目であるが,発信している“インフォ
材となっている事実・現実そのものは,聴取者
92
APRIL 2015
もよく見知っていることであった。したがって,
実現」を,今後もアメリカの指導の下に行うか
放送者が聴取者に提供する「考える材料」とし
否かという戦後の根本問題に関わる重大ニュー
ては,単なる事実・現実紹介から一歩も二歩
スであった。
も立ち入った情報である必要がある。放送者
㉘以降の 7 項目は,講和問題を最大の争点
は聴取者の最終判断を侵害しない範囲で,事
として 50 年 6月4日に投票された参議院選挙を
実・現実を解釈・整理して,聴取者に「考える
一つの中心として,次々に起こった新たな事実・
材料」を提供しているのである。
現実をそれぞれの項目の核として伝えるもので
これら4 項目を表 4 の「分類」欄に「B1」と記
した。
ある。選挙情勢とその結果は㉙,㉞,㊱で伝え
られているが,この選挙戦中,㉘と㉝は,アメ
次に,聴取者が今まで見聞きしたことがな
リカや政府によって,
「おみやげ」や増税見送り
い新たな事実・現実(ニュース)を出発点とし
といった国民に対する経済的な「アメ」が検討
て聴取者に「考える材料」を提供するグループ
されていることを報じた。この参議院選挙で与
を紹介しよう。以下の10 項目である。
党は勝利し(㊱),その直後の 6月6日,GHQ
⑭渡米していた財界人・永田清氏に聞く,⑲
は日本共産党幹部の公職追放(いわゆる「レッ
講和問題をめぐる吉田首相と南原東大総長と
ドパージ」)を指令する(㊲)。㉟が伝える単独
の論争,㉒ニューヨークに貿易事務所開設,㉘
講 和に向けたダレス特 使の来日は 6月21日,
渡米していた池田蔵相の「おみやげ」をめぐる
東アジアの冷戦構造を決定づけた朝鮮戦争が
観測,㉙参議院選各党皮算用,㉝吉田自由党
勃発するのは 6月25日である。1950(昭和 25)
総裁の選挙公約発表,㉞参議院選挙投票日,
年 6月が戦後史の大きな節目であったことがよ
㉟「外交白書」発表とダレス氏来日決定,㊱参
くわかる。
『時の動き』という番組はこの節目に
議院新勢力分野と今後の展望,㊲ GHQ が共産
際し,聴取者の「考える材料」として,次々に
党幹部 41人を公職追放指令
発生する事実・現実とそれを整理した情報(=
⑭は台本資料に永田氏の談話内容(録音)
が記載されておらず,
“インフォメーション”の
非教示的インフォメーション)を精力的に発信
したと言えよう。
詳細は不明だが,その前説から,渡米した永
以上,ニュースから出発して聴取者に「考
田氏が当時日本の経済政策について大きな発
える材料」を提供している10 項目を表 4 の「分
言力を持っていたドッジ氏やシャウプ氏と会見
類」欄に「B2」と記した。
した内容の報告とわかるので,このグループと
した。聴取者がそれまで見聞きしたことのない
さて,以上のような非教示的インフォメーショ
出来事を含む談話であろう。㉒も,アメリカ発
ンは,聴取者にできるだけ自由に判断してもら
の新情報で,ニューヨークに開設されたばかり
うための「考える材料」であり,特定の立場に
の貿易事務所の仕事ぶりを伝えるものである。
偏ることなく幅広い情報を取材して,提供する
⑲の「講和問題をめぐる吉田首相と南原東大
ことを趣旨とするものであったが,この時代に
総長との論 争」については既に述べた。講和
はそこにはっきりとした限界があったことを指摘
問題をめぐる論争は「民主的で豊かな日本の
しておかねばならない。すなわち,占領軍とそ
APRIL 2015
93
写真 5
のはやむをえない”という談話を「声」が読
み上げ,解説者がそれを引き取って“共産党
は終戦以来どんな道を歩んできたか,そし
てなぜこんな指令が発せられるようになっ
たかを一瞥してみましょう”とこの項目での
議題を設定する。
Ⅱ(説明・解説部):1945(昭和 20)年 10 月に
幹部たちが一斉に釈放されて以来の共産党
の戦後の歩みを紹介する。占領軍によって
“いわば育成された共産党(解説者)”が次
第に勢力を拡大したこと,幹部の野坂参三
の政策への批判は不可能であった。前節で教
氏が“愛される共産党論”を説いたこと,一
示的項目に分類した㉜では,米兵への暴行事
方で平市警察署占拠事件,三鷹事件(いず
件について解説者が“遺憾の一言では言い尽く
れも 49 年)など共産党員が関わったとされ
せない事”と述べ,
“我国としては先ず占領下に
る刑事事件が起こっていること,また 50 年
あるという冷厳な事実を思い起こすべきであり
1 月にコミンフォルムが,野坂 氏のソフト路
ましょう”と教示した。一方,この節で非教示
線を批判したこと等が伝えられる。
たいら
的項目に分類した㊲では,50 年 6月6日,7日
Ⅲ(結論部):解説者が今後の共産党の出方が
にGHQ が電撃的に発令したレッドパージにつ
注目されると述べ,最後は“政府は国民の意
いて報じている(写真 5)。この項目では,幹
志をよく見極めることが望まれますし,また
部たちが追放指令を受けた共産党について一概
国民としてもその土台となる一人一人の判断
に否定せず,バランスに配慮して「考える材料」
が一層重要なのではないでしょうか”と結ぶ。
を提示しているように見える。しかし追放指令
そのものの是非は議題化されていない。GHQ
GHQ による追放指令そのものの是非が議題
の指令の是非についてあれこれ言うことはでき
化されていないことは,導入部の議題設定(ア
ないのである。少し紙数を食うが,㊲の内容を
ジェンダセッティング)に明らかであろう。結論
簡単に紹介する。
部で解説者は国民一人一人の判断の重要性を
Ⅰ(導入部)
:解説者が,6 月 6 日と 7 日のマッ
説くが,放送が聴取者に「考える材料」として
カーサー指令が,徳田球一氏以下日本共産
提示しているのは,追放指令そのものの是非
党幹部 41 名を公職から追放するよう命じた
を考えるための材料ではなく,指令を所与のも
と伝える。直後の「声」が“これで共産党はも
のとして是認した上での共産党についての様々
う何もできなくなるんでしょうか”
“いや,政
な参考情報である。
「アメリカの指導の下で」
党としてはちゃんと残っているんです ”とや
という大きな教示の枠組みの中での,非教示
り取りする。岡崎官房長官の“西ヨーロッパ
的インフォメーションと言えるだろう。目下の現
陣営の一員である以上,反共的立場をとる
実について聴取者・国民に「自分で考えてもら
94
APRIL 2015
う」といっても,そこには「占領軍=CIE が許
ンフォメーション”の元になるキャンペーン項目
容する範囲で」という限界があった,と言わね
の選定が CIE の手を離れ,NHKに委ねられ
ばならない。⑲で見たように,講和問題につい
たことがどのような影響を及ぼしたかを検討す
ては全面講和の可能性も含めて「考える材料」
ることである。おさらいをしておこう。当初キャ
が示されたが,レッドパージの是非について
ンペーン項目のほとんどは占領軍を元締めとす
「考える材料」は提示されなかった。それはお
る官庁等の統治機関から依頼があったもので,
そらく,聴取者・国民が「考える必要がないこ
その中から放送として取り上げるものが選定さ
と」とされたのである。
れた。4月まではこの選定を CIE が行っていた
が,5月以降は NHKに任せられた。5月以降
以上,非教示的インフォメーションを発する
も官庁等がキャンペーン項目を依頼してくる状
諸項目についてその特徴を検討した。これらは
況に変わりはなかったが,それを放送するか否
目下の現実についての行動や考え方を聴取者自
か,またそれを具体的にどういう内容で放送す
身に決定してもらうために,
「考える材料」を提
るかは NHKに委ねられ,放送内容の責任は
供している項目群であり,5月になって初めて出
NHKにあるという体制に変わったのである。
現している。これら14 項目は,取り扱っている
更に 5月以降は第 6 節に見たように NHK が独
時事的現実が,聴取者もしばしば見聞きしてい
自に発意し,放送する項目も大いに増えたと考
るような周知の現実である場合と,聴取者が初
えられる。
めて見聞きする新たな現実(=ニュース)を含む
場合とで二つのグループに分けられる。それぞ
これら4つの項目タイプが,4月(第 115 輯,
れ,特定の立場に偏ることなく幅広く事実・現
116 輯),5月前半(第 117 輯,118 輯),5月後
実に取材して,聴取者に「考える材料」を提供
半(119 輯,120 輯 ),6月( 第 121輯,122 輯 )
しようとしているが,そこには占領軍とその政策
という半月ごとの 4つの期間においてどう分布し
を批判することができないという限界があった。
ているかをまとめると表 5 のようになる。
非教示的インフォメーションといえども,
「アメリ
カの指導下で」という大きな教示の枠組みから
はみ出すものではなかったのである。
7 結論:各項目タイプの時期別分布と
その考察
A(教 示的項目)が 時 期が降るほど減 少し
(9 →7→ 5 → 4)
,その裏返しにB(非教示的項目)
が増加している
(0 →3→ 5 → 6)ことがわかる。A
表 5 各項目タイプの時期別分布(1)
N=39
4月
5 月前半 5 月後半
6月
(n=9) (n=10 ) (n=10 ) (n=10 )
A1
(n=18)
8
5
2
3
A2(n=7 )
1
2
3
1
A2,B1,B2 の各項目タイプが,50 年 4 〜 6月
A 全体(n=25 )
9
7
5
4
の時系列の中でどのように分布するかを明らか
B1
(n=4 )
0
1
2
1
にし,そのことの意味を考察する。時系列で
B2(n=10 )
0
2
3
5
の分布を見ることの目的は,50 年 5月から“イ
B 全体(n=14 )
0
3
5
6
この節では第 5 節,第 6 節で分 類した A1,
APRIL 2015
95
の減少の主因は A1の激減(8 → 5 →2 →3)であ
多数となる。このB2 の増加は,前節で触れた
り,Bの増加の主因は B2 の伸長(0 →2 →3 → 5)
ように,50 年 6月が講和問題を争点とする国政
である。こうした傾向は既に 5月前半に現れ,
選挙やダレス氏の来日決定,レッドパージなど
以後,ほぼ一本調子で進行していく。
戦後史の節目をなす大きな出来事が相次いだ
5月半ばに区分点を置いて,4月〜 5月前半
特別な時期であったことにもよるかもしれない。
の前半 期(第 115 輯〜 118 輯)と5月後半〜 6
しかし,A1の減少と,B2 の増加という傾向自
月(第 119 輯〜 122 輯)までの後半 期に分け,
体は,表 5に示されているように既に 5月前半
各期に属する項目数をほぼ同数(前半19 項目,
期から始まる一貫したトレンドと言える。多事多
後半 20 項目)にしてみても,傾向は変わらない
端だった 6月に B2 の増加傾向がより促進された
(表 6)
。
と言えるかもしれないが,傾向自体はそうした
前半 期に,Aは19 項目中16 項目(84%)を
偶然によるものではないと言えるだろう。
占めていたが,後半期には,20 項目中 9 項目
いったんまとめよう。
『時の動き』は CIE が
(45%)にほぼ半減した。この裏 返しに B が 3
キャンペーン項目を選定していた 50 年 4月まで
項目(16%)から11項目(55%)に急伸している。
は教示的項目,中でも聴取者の内心の領域に
前半期は教示的項目が圧倒的な多数(19 項目
まで介入して,その心構えから教示を始めるグ
中16 項目)であるが,後半期は非教示的項目
ループ(A1)がほとんどであった。しかし,5
が過半数を占めるようになった(20 項目中11項
月にキャンペーン項目の選定主体が NHKに移
目)
。Aの減少の主因は A1の激減である。前
ると,A1を主体とする教示的項目は減り始め,
半 期に19 項目中13 項目(68%)を占めていた
後半期にはほぼ半減する。代わってニュースの
A1は,後半期には 20 項目中 5 項目(25%)にま
紹介を出発点として聴取者に「考える材料」を
でその数を減らした。A2 が後半期にむしろ増
提供するB2を主体とする非教示的項目が多数
加している(3 → 4)ことを考え合わせるとA1の
を占めるようになった。52 年11月の
『放送文化』
減少ぶりは一層際立つ。
の記事は,50 年 5月以降,キャンペーン項目の
一方,B1(1→3)
,B2(2 → 8)は共に後半期
自主的な選定によってキャンペーンシートの“目
に増加している。中でもB2 は後半期に 20 項目
的と内容は一変した”とするが,
『時の動き』と
中 8 項目を占め,単独の項目タイプとして最も
いう番組における“一変”の内容は上記のよう
なものであったと言えよう。
表 6 各項目タイプの時期的分布(2)
N=39
5 月後半〜 6 月
(n=20 )
さて,教示的項目の減少,とりわけA1の激
減をもう少し詳しく検討すると,
“一変した”も
のがより明確に判明する。後半期には A1の中
A1
(n=18)
13
5
A2(n=7 )
3
4
でもとりわけ「民主国家を担う良き市民たれ」
16
9
という教 示がほぼすっぽり抜け落ちるのであ
B1
(n=4 )
1
3
る。
B2(n=10 )
2
8
第 5 節で見たように A1は「アメリカの指導の
B 全体(n=14 )
3
11
下での民主的で豊かな日本の実現」を目指す
A 全体(n=25 )
96
4 月〜 5 月前半
(n=19)
APRIL 2015
心構えの設定から教示を始める18 個の項目群
であるが,やはり第 5 節(p89 〜 90)で検討し
項目タイプの時期的分布から得られる知見と
して次のことが指摘できるだろう。
たように,それらは,その内容から三つのサ
50 年 5月以降,
『時の動き』という番組が発
ブグループに分けることができる。このサブグ
信する“インフォメーション”から,教示性が大
ループの時期的分布を見ると,前半期に多数
きく後退し,非教示性が増大した。とりわけ
「民
を占めていた「民主国家を担う良き市民たれ」
主国家を担う良き市民たれ」と訴える教示的イ
と訴える項目が後半期に激減しているのに対
ンフォメーションが激減した。
し,
「豊かで清潔な社会の実現」を訴える項目
これらの変化は放送法の成立を機に NHK が
や,
「アメリカの指導の下での日本」を訴える項
占領軍=CIEに対して自立性を増したことに対
目の数は変わらないのである。表 7 にまとめて
応しており,素直に見れば,こうした変化を望
みよう。
み,実行した主体は NHKであると考えられる。
表 6 に見たように,A1は前半期に13 項目あっ
ただし一方で,占領軍=CIE が NHKを指導し,
たのが,後半 期には 5 項目に減った。この減
その意に反する放送が実質的に困難である状
少分は専ら「民主国家を担う良き市民たれ」と
況は継続していた。前節で見たように,レッド
教示するタイプの減少(9 →1)によるものであ
パージの是非のような問題は議題として提示さ
る。同じA1の中でも「豊かで清潔な社会の実
れず,聴取者・国民が「自分で考える」ことは
現」を訴える項目(3 → 3),
「アメリカの指導の
できなかった。本節で見た“インフォメーショ
下での日本」を訴える項目(1→1)は減ってお
ン”の性格の変化,すなわち,教示から非教
らず,後半期のA1は専ら「民主国家を担う良
示への転換という変化は,あくまでも占領軍=
き市民たれ」という教示だけが,ほぼすっぽり
CIE が,「日本人が自分で考えてもよい」と許可
抜け落ちる格好となっている。ちなみに後半期
した領域でのことであったと言わなければなら
に唯一「民主国家を担う良き市民たれ」と訴え
ない。
る⑳は「参議院選挙で一票を生かそう」という
最後に“インフォメーション”という言葉の代
わりに,日常言語の「メッセージ」という言葉を
ものである。
使って本稿の結論を短くまとめてみよう。
表 7 A1 タイプを更に細目に分けた場合の
時期的分布
N=18
4 〜 5 月前半
(n=13)
5 月後半〜 6 月
(n=5)
①,④,⑤,⑧,
「民主国家を担う良き市民
⑩,⑫,⑬,⑮, ⑳の 1 項目
たれ」
と訴える項目
(n=10)
⑯の 9 項目
『時の動き』という番組が聴取者に発信した
メッセージの性格は,50 年 5月に題材となる項
目の選定主体が CIE からNHKに移ったことに
伴って大きく変化した。5月前半までのメッセー
ジは占領軍を元締めとする官庁等の統治機関
が,
「アメリカの指導の下での民主的で豊かな
「豊かで 清 潔な社会の実
現」を訴える項目(n=6)
②,③,⑦
の 3 項目
㉕,㉛,㊴
の 3 項目
日本の実現」という目標達成のために,目下の
現実をどう捉え,どう考えて行動すべきかを,
「アメリカの指導の下での
⑥の 1 項目
日本」を訴える項目(n=2 )
㉜の 1 項目
聴取者・国民に教示するものが大半を占めて
いたが,5月半ば以降は,同じことを聴取者自
APRIL 2015
97
身に決定させるために,
「考える材料」を提供
的メッセージが盛んに放送されたが,放送法
する非教示的メッセージが多数を占めるように
成立を機に,教示を離れ,聴取者・国民に「考
なった。この変化に伴って特に減少したのが
える材料」を提供する方向に変わっていった。
聴取者・国民に「民主国家を担う良き市民たれ」
占領軍=CIE が許容する範囲内であったとは
と訴える教示的メッセージである。ただし,こ
いえ,このことは,放送者にとっては明らかな
の変化の中でも「アメリカの指導の下で」とい
自由裁量領域の拡大を意味していた。統治機
う大きな教示の枠組みは揺るがなかったと言え
関の教示によらず,目下の事実・現実に依拠し
る。これらの変化(と不変化)は,放送法成
て,偏らない「自主自律」の立場から,幅広く
立によって NHKの自立性が相対的に増大する
聴取者・国民のために「考える材料」を提供す
中,占領軍=CIE がそれを許可する形で起こっ
るという地点に立った時,放送者の前に広大な
たものである。
フロンティアが拓けたと考えられる。
一方,聴取者・国民にとって「目下の現実を
どう捉え,どう考えるか」を判断するのは自分
8 おわりに
自身になった。いわば「大人」として扱われる
放送には「目下の現実をどう捉え,どう考え
ようになったのである。もはや放送で「心構え」
るのか」という,聴取者(視聴者)
・国民の現実
を説教されることはなくなり,目下の現実につ
認知に深く関与する領域がある。一般的には
いて,より加工度の少ない,より直接的な情報
それはニュースやドキュメンタリーであり,こう
に,より多く接することができるようになった。
した放送領域は,統治者にとっても国民にとっ
これは間違いなく一つの自由の獲得であった。
ても極めて重大な意味を持つものである。本
ただ,そのことは同時に,判断主体,決定主
稿は,インフォメーション番組という占領期の
体としての負担を背負い込むことでもあった。
ラジオ番組群にこうした放送領域の原型と呼ぶ
本稿は,戦後の放送とそのオーディエンスとし
べきものを見出し,統治者が放送によって,国
ての日本国民が,この自由とそれに伴う負担に
民の現実認知のあり方を教示・育成し,相対
向けて,最初の一歩を踏み出した瞬間の様相
的な自立を許可するまでの様相を,具体的な
を切り取ったものとも言えよう。
番組資料に即して初めて明らかにしたものであ
最後に付け加えると,教示性は 50 年 5月以
る。今回用いた『時の動き』というインフォメー
降もなくなったわけではない。本稿が検討した
ション番組は,後年展開する放送ドキュメンタ
範囲で言うと,
「豊かで清潔な社会を実現する」
リーの祖先とも,またニュースを素材とした様々
心構えを説くA1の一部のタイプや,同じような
な情報番組の祖先とも言える存在であった。
目的のために,官庁等が設計した具体的な制
『時の動き』というインフォメーション番組が
度や許可事項を伝え,それに応じて行動する
発信していたメッセージの内容と,その時期的
よう教示するタイプ(A2)は後半期にも健在で
な傾向の変化は前節までに示した通りである。
あったし,何より「アメリカの指導の下で」とい
初めは統治者によって「アメリカの指導の下で
う教示が,非教示的メッセージの限界を画する
の民主的で豊かな日本の実現」を目指す教示
大枠として存在し続けていた。そればかりでは
98
APRIL 2015
ない。50 年 5月から遥かに時期が降った後で
も,
「目下の現実をどう捉え,どう考えるか」と
いうことに関与する放送領域において,様々な
教示的メッセージが新たな意匠を凝らして現れ
注:
1)日本放送協会編(1948)
『昭和 23 年版ラジオ年
鑑』p15
2)
『日本の素顔』の近代啓蒙的性格に着目したも
のとして,丹羽美之(2001)
「テレビ・ドキュ
たと筆者は考えている。ただ,1950 年におい
メンタリーの成立―NHK『日本の素顔』
」
『マ
て教示性は,非教示を旨とする全般的な放送
スコミュニケーション研究』
(59)164-177,ま
の建前のもとで,
「隠れることを覚えた」と言っ
てよいだろう。
た宮田章(2014)
「シリーズ『日本の素顔』と
戦後近代―テレビ・ドキュメンタリーの初期設
定―第 1 回 現実が「コンテンツ」になった時」
50 年代前半以降,
「目下の現実をどう捉え,
どう考えるか」ということに関与する放送領域
では,録音構成によるラジオ・ドキュメンタリー
が開花した。いずれ紹介したいと思うが,
“デ
ンスケ”を提げて,全国津々浦々に取材に出
かけた人々からは,
「民主国家を担う良き市民
たれ」という教示を番組制作者として内面化し
た,溌剌たる主体の息吹きを感じ取ることがで
きる。また,初期テレビ・ドキュメンタリーを
代表する『日本の素顔』
(1957〜 64)も教示性
の検討抜きには語れない番組である。筆者は
2014 年,
『日本の素顔』全 306 回を概観した
14)
が,近代啓蒙の教示的メッセージに満ちた初期
の『素顔』は,今回見た教示的なインフォメー
ション番組の再来のように感じられる。そして,
本誌 2014 年 8 月号 24-57 が挙げられる。
3)NHK 編(2001)
『20 世紀放送史』上巻 p230
4)NHK 編(1965)
『日本放送史』下巻 p67
5)長谷耕作(1952)「キャンペインはどう扱うべ
きか」
『放送文化』11 月号 10-11
6)NHK 編(1965)
『日本放送史』下巻 p67
7)長谷(1952)p11
8)NHK 放送博物館に保管されている台本資料は
管見の限りこの 50 年 4 〜 6 月のものだけであ
る。
9)松村明編(2006)『大辞林第三版』(第 3 版),
三省堂
10)NHK 編(1965)
『日本放送史』上巻 p725
11)当時刊行されていた NHK の社会番組担当者の
機関誌『ネットワーク』によると第 3 期(54.11
〜 59.3)の『時の動き』は,
第 1 期のようなニュー
ス解説番組ではなく,一つのテーマを掘り下げ
ていく『社会の窓』のような作品性を持ったラ
ジオ ・ ドキュメンタリーである。放送は週 4 回,
そうした初期の『素顔』が,60 年の安保闘争を
地方局の制作者も盛んに参加した。なお『ネッ
機に,非教示性を標榜する
『素顔』によって取っ
トワーク』は最近新たに紹介された文書資料で
て代わられるという展開も,ここに見たインフォ
メーション番組の展開とよく似ているように感じ
られるのである。
ある。岡田元(2015)
「社会番組機関誌『ネッ
トワーク』〜ラジオからテレビへ 番組制作者
の記録〜(放送史料 探訪)」本誌 2015 年 3 月
号 82-83 を参照されたい。
(みやた あきら)
12)この時代には,NHK の番組に新聞社の記者や
論説委員が出演することがよくあった。今回の
資料では,この項目の他に第 121 輯の「吉田自
由党総裁の選挙公約発表」で朝日新聞論説委員
が登場している。
13)国税庁の統計による。
14)前掲宮田(2014)
APRIL 2015
99
表 2 50 年 4 〜 6 月の『時の動き』項目と内容
番号
1
放送回
項目
第 115 輯
サーカス等での年少者労働問題
(4 月 23 日放送)
内容
サーカスで親方にこき使われる子どもを描く寸劇を導入にして,労働基
準法の年少者保護規定を「 声 」と解説で説明。15 歳未満は使役禁止,子
どもの基本的人権を守ろうと結ぶ。
2
第 115 輯
外国人の日本観光の印象
日本を訪れた外国人の声や,「ニホンタイムス 」に載った外国人の日本
観光の印象を紹介。道路を改善し,駅を掃除するなどして外国人の日本
観光を促進しようと結ぶ。
3
第 115 輯
火災や地震に強い住宅を
ボロ屋を嘆く寸劇から始まって,「 声 」と解説で新しい家をどしどし作
るべきこと,その際は地震や火災に強い「 文化住宅 」をと述べる。
4
第 115 輯
暴力団一掃に協力を
最近行われた警視庁による一斉取り締まりを伝えた後,“ 後のたたり ”
をおそれて,警察への情報提供をしぶったり,かばったりする住民感情
を寸劇で紹介。最後は“ 私たちは一致協力して三等街のダニ一掃を ”と
訴える。
5
第 115 輯
鉱工品貿易公団経理課員の巨額横
領事件
若い経理課員が他の課員とも共謀して 8,000 万円を横領した事件の詳細
を「 声 」と解説で伝える。公団の“ 組織的欠陥 ”にも言及。公団職員の
録音も交え,最後は“ 厳重な監査を望みたいものであります ”と結ぶ。
6
第 116 輯
ソ連抑留者の未帰還問題
(4 月 30 日放送)
ソ連が捕虜送還を“ 完了 ”したと発表したことを受けて,未帰還者を待
つ家族の悲痛な想いを寸劇で紹介。ソ連との交渉を担当する引揚庁長官
の録音も交え,この問題が一日も早く解決されねばならないと訴える。
7
第 116 輯
労働組合の全国組織の必要性
小さな会社の労働組合に,“ あっちからも指令,こっちからも指令 ”が
来て困惑する寸劇を交えながら,産業別の全国組織が必要ということを
「 声 」と解説で述べる。
8
第 116 輯
街頭で働く年少者
電車の中の少年靴磨きを描いた寸劇を導入にして,街頭に働く年少者た
ちに児童保護法や労働基準法の立場から保護策が講じられるべきだと
「 声 」と解説で述べる。
9
第 116 輯
パン,うどんなど主食の一部自由
販売に
10
第 117 輯
海上の密輸・密貿易問題
( 5 月 7 日放送 )
飲食店で主食を出すことが禁じられていた時代,パンやうどんなど主食
の一部について自由販売になったことを知らせる。レストランでの寸劇
を導入にして,飲食店営業臨時規制法の改正を説明。最後は“ 近頃明る
い話題と言えましょう ”と結ぶ。
海上保安庁の巡視船が隠岐島沖で密輸船を追う寸劇を導入にして,朝鮮
や台湾方面で海上密貿易が盛んなことを指摘。取り締まり強化のため
の海上保安法改正を説明して,
“ 私たち国民の積極的な協力が望まれる ”
と結ぶ。
11
第 117 輯
改正税法について
税金が一部還付されたことに驚く家庭の寸劇から,「 声 」と解説で改正
税法の内容を説明。特に青色申告制度について国税庁調査課長の録音を
交えて詳しく紹介。合理的な税制確立のために協力しようと訴える。
12
第 117 輯
賃金不払い問題深刻
給料をもらえず,街頭で物売りをする工員を描いた寸劇を導入にして,
統計を材料に中小企業を中心に賃金不払いが深刻なことを伝え,監督官
も登場して不払いが労基法によって罰せられることを説明する。
13
第 117 輯
新憲法 3 周年
憲法 3 周年に際し,基本的人権の尊重,男女同権などの精神を「 声 」と
解説であらためて強調する。そうした精神がまだまだ現実に浸透してい
ないことを描く寸劇や「 憲法の番人 」最高裁長官の談話の後,“ 今後と
も私達は不断の努力によりこの輝かしい憲法によって,一層平和な国家
建設の努力をしたいものであります ”と結ぶ。
14
第 117 輯
渡米していた財界人・永田清氏に
聞く
渡米して,日本の経済政策に大きな影響力を持つドッジ,シャウプ両氏
などと会談して帰国した日本ゴム社長・永田清氏に話を聞く。「 声 」と
解説で前説をした後は永田氏の談話の録音のみ。
15
第 118 輯
小作契約は文書で
(5 月 14 日放送)
小作契約を文書にしておかなかったために生まれるトラブルを寸劇で
紹介。契約を 3 通の書面にし,1 通を農地委員会に,残る 2 通を地主と
小作人で 1 通ずつ保管せよと述べる。最後は“ こうしたことからも農村
民主化の芽が出てくるのであります ”。
16
第 118 輯
白い羽根街頭募金に協力を
日本赤十字社の街頭募金の趣旨を「 声 」と解説で説明。福井地震の時の
看護婦達の献身的な活動を紹介した後,“ 進んで募金に協力したいもの
であります ”と結ぶ。
17
第 118 輯
安物買いに注意
街頭での投げ売りを描く寸劇を導入にし,「 声 」と解説で「 安物買いの
銭失い 」にならぬよう気をつけようと述べる。パンを買う時には目方に
も注意。
18
第 118 輯
少年たちの野球熱
野球少年たちが練習中に見かけた泥棒を捕まえたという話から始めて,
少年たちの野球熱の是非を「 青少年の不良化防止 」の観点から考える。
19
第 118 輯
講和問題をめぐる吉田首相と南原
東大総長との論争
全面講和を主張する南原総長を“ 曲学阿世の徒 ”と非難した吉田首相の
発言問題から出発して,「 声 」で全面講和論と単独講和論を端的に紹介。
読売新聞論説委員の解説( 録音 )を入れて,最後は“ 今後ますます大き
な問題として広がっていくでしょう ”と結ぶ。
100
APRIL 2015
20
第 119 輯
参議院選挙で一票を生かそう
(5 月 21 日放送)
あの手この手の選挙戦術を紹介する寸劇を導入にして,選挙戦の模様を
紹介。有権者一人あたり 25 円の税金で賄われていると述べ,一票を生
かせと呼びかける。
21
第 119 輯
中小企業への融資枠
資金繰りに悩む中小企業への融資枠「 見返り資金 」や,何社かが協同組
合を作って銀行融資を受けやすくする例などを寸劇を交えて紹介する。
22
第 119 輯
ニューヨークに貿易事務所開設
日本は敗戦によって在外の貿易事務所を失っていたが,50 年 2 月から
アメリカでの事務所開設が漸次許可となった。「 声 」と解説による前説
の後,ニューヨークの事務所との国際電話録音を聞かせる。
23
第 119 輯
南海にマグロ漁区拡大
24
第 119 輯
住宅金融公庫発足へ
25
第 120 輯
都市計画に協力を
(5 月 28 日放送)
“ 南海に群れなすマグロ ”を描いた寸劇を導入にして,GHQ が旧南洋群
島海域での日本漁船の操業を許可したことを説明。“ 大漁旗をなびかせ
て帰港してくる事を心から期待するものです ”と結ぶ。
借家住まいのつらさを訴える寸劇を導入にして,近く住宅金融公庫が発
足することを伝え,申し込み方法等を「 声 」と解説で詳しく説明する。
道路や線路の予定地になっているのに立ち退かない人がいる例を寸劇
で紹介。“ 合理的な都市計画に対しては私達は進んで協力しなければな
らないでしょう ”と結ぶ。
26
第 120 輯
月賦販売について
月賦販売が最近盛んなことを紹介。デフレの世相の中,業者の在庫処理
と買い手の希望が合致したと「 声 」と解説で説明する。
27
第 120 輯
山林火災を防ごう
山火事への警戒を訴える。ヘリコプターから散水して消火するという方
法を夢物語として描く寸劇の後,マッチの取り扱いに注意しようと結
ぶ。
28
第 120 輯
渡米していた池田蔵相の「 おみや
げ 」をめぐる観測
渡米していた池田蔵相がアメリカで日本経済への「 おみやげ 」をもらっ
てきたのではないかという憶測が参議院選挙を前に盛んになる。帰国し
た池田氏のいくつかの談話録音を解説でつないで真相に迫ろうとする。
29
第 120 輯
参議院選各党皮算用
投票を 1 週間後に控えた参議院選に対する各党幹部の皮算用を録音で紹
介。解説でつなぐ。「 声 」はわずか。
30
第 121 輯
綿製品と砂糖,自由販売へ第一歩
( 6 月 4 日放送 )
寸劇の中で,浴衣や砂糖が手に入りやすくなったこと等が描かれ,その
後,「 声 」と解説で自由販売への展望が語られる。
31
第 121 輯
産業合理化に努力を
アメリカの技術雑誌を研究して“ 近代的生産方式 ”を確立したある自転
車メーカーの成功譚がほぼ全編寸劇スタイルで語られる。“ こうした産
業の合理化は…経済復興と輸出の振興のためどの企業でもやらなけれ
ばならない事なのであります ”と結ぶ。
32
第 121 輯
米兵に暴行した「 民主民族戦線結
成準備会 」メンバーに重刑
5 月 30 日に皇居前広場で起こった占領軍下士官への暴行事件の軍事裁
判で被告 8 人に重労働 5 〜 10 年の判決。“ 連合軍が占領を始めてから
連合軍の将兵に対する初めての暴行事件 ”に対し,解説は“ 遺憾の一言
では言い尽くせない事 ”と述べる。
33
第 121 輯
吉田自由党総裁の選挙公約発表
選挙戦中,吉田自由党総裁( 首相 )が付加価値税の実施見送りなど 5 項
目の財政経済政策を発表。その内容について「 声 」と解説がいくつかの
立場から語り,最後は朝日新聞論説委員が“ 国民生活にどんな影響があ
るか ”という視点から解説( 録音 )する。
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第 121 輯
参議院選挙投票日
投票日当日の放送。選挙戦終盤,各候補者が「 秘術 」を尽くすさまを寸
劇で紹介した後,投票者の声( 録音 )を 3 人聞かせ,結びは“ どんな結
果が出るか,それはもう幾日のご辛抱 ”。
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第 121 輯
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「 外交白書」発表とダレス氏来日決定
第 122 輯
参議院新勢力分野と今後の展望
(6 月 11 日放送)
政府が「 外交白書 」を発行し,単独講和を求める希望を表明したこと,
また対日講和を担当するダレス氏の来日が決定したことを伝える。大田
外務次官の談話( 録音 )あり。
参議院選の結果を受けて,今後の動向を読もうとする。各党幹部の談話
( 録音 )の後,海外の反応も紹介する。
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第 122 輯
GHQ が共産党幹部 41 人を公職追
放指令
GHQ の“ 劇的な強硬措置 ”を伝え,戦後の共産党の歩みを徳田球一氏
の声( 録音 )も交えて振り返る。コミンフォルムによるソフト路線批判
も紹介し,共産党の今後の出方を注視したいと述べる。
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第 122 輯
飲酒の功罪
人生の節目に酒はつきものという寸劇の後,飲酒の是非をいくつかの
録音談話を使って論じる。酒好きの著名人から政治家,メチルアルコー
ルで中毒死した人の遺族まで。最後は“ 酒は飲むもの飲まるるものに非
ず ”と結ぶ。
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第 122 輯
夏を迎えて赤痢菌に注意
赤痢菌があちこちに潜んでいるという寸劇を導入にして,今年の赤痢患
者が昨年同期の倍に上っていることを伝える。最後は“ 伝染病の発生の
程度は一国の文化のバロメーターです ”と結ぶ。
APRIL 2015
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