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歌は世につれ
つ れ づ れ ちゅうごく 徒然 中国 其之九拾七 歌は世につれ・・・ はらだ おさむ 二年前の急性肺炎のあと、医師の勧めではじめたボイストレイニング。 入団した女性数十名、男性数名のIコーラスがこのほど創立十五周年を迎 え、かのピアニスト・加古 隆がその音響効果を絶賛した地元の中ホール(4 20席)で記念演奏会を開催した。 パンフをみてはじめて知ったのだが、賛助出演のCV混声合唱団の初級コ ースとして誕生したこのIコーラス。団長兼指揮者のM女史はメンバーの半 数は後期高齢者に近づいたが、この十余年、鍛えぬいた歌声はいつまでも若々 しく、美しいとのたまう。80の手習い?で入団の当方にとっては、声の方 はともかく、落ちこぼれんとする身を支えていただいて、いまに至る。 入団半年足らずで地元の合唱祭に出演したあと、他の合唱団の熱唱を拝聴 していたが、そのフィナーレーのロシア民謡には心魅せられ、思わずブラボ ーと絶叫した。それが、CV混声合唱団であった。 ロシア民謡は、若いころ、うたごえ喫茶や労音などでなじみがあった。 その歌声は、青春の思い出にオーバーラップして、こころをゆさぶる。 M女史に裏口入門をお願いして、そのうちに慣れるでしょうと入部を認めら れたが、男女各十数名のメンバーは若いころからグリーや職場のコーラスで のどを競ってきたひとたち。ポケットに潜めたICレコーダーで聴くわが悪 声にウンザリしながら、過ごしてきた年余であった。 さて、この記念演奏会-プログラムを見ると、全6ステージ。両コーラスメ ンバーのわたしを含む3名は、全ステージ25曲を暗譜することに・・・。 終わりよければ、 ・・・ということで、その感想がテーマの「歌は世につれ・・・」 となる。 第二ステージ、男声合唱で「案山子」と「マイウエイ」を歌った。 「案山子」ははじめて耳にしたが、さだ・まさしのヒット曲の由。 1 77年11月のオンステージとあるから、かれこれ40年になる。 ♪・・・寂しかないか、友達出来たか、お金はあるか・・・♪のフレーズ が繰り返すこの歌で思い浮かぶのは、集団就職のこどもたちのことである。 いまではもう60歳をこえた人たちの青春の思い出であろうと、わたしは思 い込んでいたが、黒糖焼酎購入先の奄美の商店主は、奄美の3月は別れの 季節、こどもたちが島を離れて行く淋しい季節とメールを打ってきた。そ うか、就職や入学で子供たちと別れを告げることは、状況が変わっても、 いまでもあるのだ。 ♪・・・手紙が無理なら、電話でもいい・・・おふくろが、おまえの声 を待ちわびている・・・♪ この曲が、いまでも胸を突くのは、さだ・ま さしの、こうした詞とともに、胸にひしひしと沁み込んでくるその節回し であろうか。 第三ステージに移る。 CVの混声合唱である。 啄木の短詩についで、宮沢賢治の「風がおもてで呼んでいる」のあと、 谷川俊太郎作詞/松下 耕作曲の「信じる」を歌った。 ♪笑うときには大口開けて、怒るときには本気で怒る♪ではじまるこの歌 は、中段♪地雷を・・・踏んで、足をなくした・・・子供の写真・・・目 をそらさずに・・・黙って涙を流したあなたを・・・わたしは、信じる♪ と絶叫する。わたしは、このフレーズで、カンボジアの戦争のシーンを思 い浮かべていたが、どうであったのか。 調べてみると、この歌は2004年のNHK全国音楽コンクール中学校の 部の課題曲で、作詞も書き下ろしである由。わたしが思い浮かべたシーン はともかく、ホンネの部分で「信じる」ことを確かめようとする、きびし い歌である。 つぎに紹介する「聞こえる」 (岩間芳樹・作詞/新実徳英・作曲)は、今秋 の合唱祭で歌うべくこれから本格的なレッスンに入る、91年の同じくN HKの高校の部の課題曲。いまユーチューブで聴いているが、そのバスパ ートに出てくる映像は「天安門事件」 「ルーマニア革命」 「原油流出」 「ベル リンの壁崩壊」など、当時の国際政治事件そのものである。 1989年6月の北京のあの事件が、ルーマニアに飛び火し、さらには ベルリンの壁の崩壊から東西ドイツの統合、ソビエト連邦の崩壊などにつな がった。 わたしはそのとき、このうたのように「なにができるか教えてください」 2 と立ち止まれず、極東ロシアをめぐり、新潟空港に帰着したときマスコミ に囲まれてゴルバチョフの軟禁事件を知った。その後2~3年中国を取り 巻く諸国と中国の縁辺地区の探訪を繰り返していた。 しかし、高校生などは「世界が問いかけている」 「時代が話しかけている」 と感じつつも「なにもできないで膝をだいている」状況であったかもしれ ない、とも思う。 これらの事件から二十数年たったいま、このような詩句を口にするのは 何か違和感を覚えるが、どうしたものか。 第四ステージは、Iコーラスの寸劇を交えた日本の童謡と演歌まじりの オンステージであった。その稽古は歌よりも手間取ったが、舞台と観客席が 一番なじみ、なごんだシーンであったかもしれない。わたしは水戸黄門に扮 して登場している。 第五ステージは、ロシア民謡の数々。 ユーチュウブでみると、赤軍の合唱団もあるようだがこれはいつのものだ ろうか。ソ連邦成立以前のむかしの民謡?やスターリン時代の歌もあるが、 日本でもこうした歌は“うたごえ喫茶”時代をすごした老人たちだけの愛 唱歌になっているに過ぎないのか・・・。 中国でもいま、毛沢東賛歌や革命歌をうたう「ナツメロバー」もあるよう だが、こうした風潮を煽動したひとたちは、いま獄中でなにを思っている のであろうか。まさか「トランプ」のなりゆきに興じていることはあるま い。 大声を出す、これはストレス解消につながる。 あなたもいかがですか・・・。 (2016年5月9日 記) 3