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ネットワーク配信映像の視聴品質推定技術
ユーザ視聴品質 通信ネットワーク利用放送技術 映像品質推定技術 MPEG-2ストリーム 特 集 ネットワーク配信映像の視聴品質推定技術 はざま ネットワーク配信映像においてユーザの体感する視聴品質レベルでサービ しんいち わたなべ 間 伸一 /渡部 ス品質劣化を回避するためには,アプリケーションレイヤでの対処が必要と かたやま なります.本稿では,MPEG-2 TS(Transport Stream)を対象として通信ネッ 片山 頼明 まさる 優 よりあき トワーク利用放送におけるユーザ体感レベルの視聴品質推定技術と大規模配 NT Tコミュニケーションズ 信時の利用方法を紹介します. 映像サービス品質の保証 現在,世の中で提供されているブ ロードバンド環境(IP網)を利用した エンドユーザ環境(端末性能,アクセ ③ コマ飛び ス回 線 ) によって, またアプリケー ④ 乱れ ションと映像符号化特性によって個々 ⑤ 映像レートの低減 に異なる状態として現れます. ⑥ 映像+音声が音声だけ 映像配信サービスはほとんどがベスト 映像の劣化状態を次に示します. エフォートサービスであり,ユーザの視 ① 映像の停止 聴品質が保証されているサービスは皆 ② ブロック歪 映像品質の評価 ユーザ視聴時における映像品質を保 無といえます.しかし,今後は高画質 で安定した高品質の映像配信サービ 表1 アプリケーションレベルの制御 スが要求されてくると考えられます. またサービスが普及してくると大規模 動的な映像レート変更:帯域変動に合わせて映像レートを変更 階層符号化:混み合ってきたら,基本符号だけで再生 ! サービスレベルの変更 重要フレームの優先転送 配信に対応するさまざまな課題が出て コンテンツ内容や状況に応じた優先フレーム転送 くると考えられます. 通信ネットワーク利用放送での映像 配信サービスにおいて,エンドユーザ の体感する視聴品質の劣化は,配信 " サービス変更 輻輳時には,映像+音声を音声だけとする # 動的転送レート変更 映像レートは変えず転送速度を変える.送れるときに大量に送る $ エラー訂正 FEC(Forward Error Correction)方式など % アドミッション制御(受付け制御) 新規受付の拒否など サービスシステム,配信ネットワーク, 表2 ネットワークレベルの制御 <ステップ1> 品質劣化の“予兆”検出 視聴品質に基づいた負荷分散 ! サーバ負荷分散 (サイト内,サイト間) Proxy対応 " サーバ切替 # 他経路への負荷分散 <ステップ2> $ 経路切替 品質劣化の原因・個所の特定 <ステップ3> 図1 品質劣化の回避 品質劣化事前回避のための迂回制御など − 非優先フローのレートだけ低下し,すべてが劣化することを防止 % 優先制御(パケット廃 棄,遅延時間の両方) 品質劣化の事前回避制御 − & 帯域確保 ' トラヒックシェーピング ( 網内セッション保持制御 サービスグレードを複数設定し,グレードごとにCDN (Contents Delivery Network)を構築 RSVP(Resource reSerVation Protocol)など − 主に障害対策 NTT技術ジャーナル 2005.7 59 通信ネットワーク利用放送技術 ビットストリーム 0 1 1 0 1 0 0 1 1 0 1 シーケンス S H GOP S H GOP I B B P ピクチャ GOP B P B B 0 1 0 0 0 0 1 0 1 1 0 1 … S H GOP B P S H … B … B GOP S H GOP P … スライス1 スライス2 スライスn スライス MB MB MB MB MB MB MB MB MB MB マクロブロック Y1 Y2 Y3 Y4 ブロック Cb Cr マクロブロックは輝度(Y)と色差(Cb ,Cr)のブロック SH:Sequence Header GOP:Group Of Pictures I:I ピクチャ(Intra picture) P:Pピクチャ(Predictive picture) B:Bピクチャ(Bi-directional predictive picture) MB:Macro Block 8 ライン B スライスは1つのピクチャを帯状に 断片化したもので,最大長は画面の幅 8 画素 (a) MPEG ビットストリームのデータ構造 エラー発生 Iピクチャ ビットストリーム Bピクチャ Bピクチャ Pピクチャ 0 1 1 0 1 0 0 1 1 0 1 エラー発生個所 … Bピクチャ Bピクチャ … 0 1 0 0 0 0 1 0 1 1 0 1 エラーの内容(影響時間) シーケンス GOP 複数GOPの欠損(1秒∼) GOPの欠損(500 ms) Iピクチャ GOPの欠損(500 ms) Pピクチャ Pピクチャおよび前後のピクチャ欠損(167 ms∼467 ms) Bピクチャ Bピクチャの欠損(33 ms ∼66 ms) スライス スライスの欠損(帯状ノイズ)(33 ms) マクロブロック ブロック スライスの一部欠損(帯状ノイズ)(33 ms) スライスの一部欠損(帯状ノイズ)(33 ms) … 影響 大 小 ※1:30フレーム/秒,GOP=IBBPBBPBBPBBPBBとした場合 (b) 符号化方式と品質劣化事象 図2 符号化方式の特性 証するサービスを実現するには,何ら の体感する映像品質の評価は「主観評 分野のハイレート映像に関する取り組 かの方法で品質劣化を回避する必要が 価」といい,主観評価実験により人の みはまだ行われていないのが現状です. あります(図1,表1,2).そのた 実視聴で測定されていますが,この手 客観評価を行う場合,例えばパケット めにはユーザの視聴体感品質を客観的 間は膨大で,リアルタイムに評価され ロス率が高いから単純に視聴品質が悪 に測定する必要があります.映像品質 るものではないため,システム化するに いということにはなりません.冒頭述 評価手法として,原画像と評価画像 は何らかの客観的指標による品質測定 べたさまざまな環境要因と符号化方式 を比較して品質を測定する技術の取り 技術の確立が望まれています. の特性を考慮する必要があります.符 組みは進んでいますが,原画像を参照 しかし,映像品質客観評価法の標 号化方式の特性としてMPEGビットス できないユーザ端末において,映像品 準 化 機 関 ( VQEG: Video Quality トリームのデータ構造上のエラー発生 質を測定することは困難です.ユーザ Experts Group)においても,通信 個所による映像品質への影響度合を 60 NTT技術ジャーナル 2005.7 特 集 図2(a),(b)に示します.また映像とし システムを組み立てる必要があります. アルゴリズムの概念を図 5 に示しま てデコードされた結果発生するエラー 提案方式では映像再生前に,MPEG-2 す.本方式の特徴は原画像との比較を 事象と主観品質の一例を図3に示し の部分デコードを行い,部分デコード 行わず,MPEG-2 TSビットストリー ます.客観品質評価手法が確立する 時のエラー情報から再生時の映像品 ムの解析結果から映像品質を推定す と,映像品質管理が容易になり,製品 質を推定します(図4).この部分デ ることにあります〔NR(Non Refer- 開発も進展し,映像配信サービスの品 コードは完全デコードの約20∼30%の ence)法〕 . 質保証が可能となります. 時間で済むため,本方式が確立する と,非常に軽いソフトウェアを実装し 符号化方式の特性と品質評価 配信方式の特性と品質評価 てリアルタイム品質評価を行えるよう 受信端末と配信サーバ間で再送や帯 ユーザが実際に体感する品質は,符 になります.現在,プロトタイプを開 域変更などのストリーミング制御機能 号化方式にも依存しているため,符号 発し,品質推定アルゴリズムの改良に が存在しないMPEG-2において,UDP 化方式の特性に合わせて,品質評価 取り組んでいます.本方式の基本的な (User Datagram Protocol)を用い てストリーミング配 信 を行 う場 合 , ネットワークの輻輳でフレームが廃棄 エラーなし されると,欠落した情報がそのまま 主観品質 ユーザの視聴品質に影響を及ぼします. 5 しかし,前述のとおり,廃棄されたフ 劣化が分からない コマ落ち(1コマ) レーム情報によってその影響度は大き 4 劣化が分かるが 気にならない く異なります. そこで,廃棄されたフレーム情報を 頻繁なブロックノイズ 解析して,I,P,Bのどのピクチャが欠 2 落したかを把握し,劣化継続時間を計 劣化が邪魔になる 算することで,品質推定を行う方式を 図3 エラー事象と主観評価 提案しています. エラーあり 再生映像 元映像 デコード装置 エンコード装置 デコード装置の前で処理することにより, デコード装置の改造が不要 視聴品質測定装置 視聴品質測定アルゴリズム 部分デコード処理によって,高速動作 とソフトウェアでの実装が可能 部分デコード 1 ネットワーク 0 1 ビットストリーム エラータイプA 重み=1 エラータイプB 重み=2 エラータイプC 重み=3 ・パケットロス ・パケット遅延 推定視聴品質 エラータイプによる重み付けによって, 視聴品質推定の精度向上が可能 図4 映像ビットストリームからの品質推定 NTT技術ジャーナル 2005.7 61 通信ネットワーク利用放送技術 図6はUDPレイヤ情報からユーザの 視聴品質を推定する概念を示してお り,廃棄されるUDPフレーム1∼5の I B B P B B … 内容によって推定される劣化継続時間 B B P B B I から品質推定を行います. エラー発生フレーム ユーザ環境と品質評価 部分デコード情報 TCP(Transmission Control Pro推定品質評価値 tocol)を用いてストリーミング配信を 行う場合,ネットワークの輻輳でフ 推定値算出式 エラーコンディション値 図5 映像ビットストリームを用いた品質推定アルゴリズムの概念 レームが廃棄されても,TCPの再送機 能で復元されるため,ストリーミング データは廃棄されません(図7) . RTP Seq=5 TS TS TS TS TS TS TS TS TS TS TS TS TS UDP RTP Seq=4 TS TS TS TS TS TS TS UDP RTP Seq=3 TS TS TS TS TS TS TS UDP RTP Seq=2 TS TS TS TS TS TS TS UDP RTP Seq=1 TS は,ネットワークの輻輳等で揺らぎが UDP ユーザの視聴品質が劣化する要因 発生し,再生端末でのデコードにデー PES PES PES タが間に合わなくなり,音声や映像の 一時停止やコマ飛び状態が発生する ES ことにあります.したがって,TCPフ Iピクチャ Bピクチャ Bピクチャ Pピクチャ Bピクチャ Bピクチャ Pピクチャ ロー制御と再生端末の再生用バッファ を考慮して,図7に示すようなデコー ダに渡る前の「バッファ時間(W(t))」 を計算し,推定した再生用バッファの 枯渇状態から品質推定を行う方式を 1 2 3 4 5 I B B,P B B,P 500 ms 66 ms 467 ms 66 ms 367 ms 当該パケット欠落時の劣化継続時間 提案しています. RTP:Real-time Transport Protocol Seq:Sequence PES:Packetized Elementary Stream 図6 UDPレイヤ情報を用いた品質推定 大規模配信時の映像サービス品質 管理 前述の品質評価手法は,ユーザ端 末ごと,もしくは配信フローごとに品 質情報の収集・推定を行い,ユーザの 体感する視聴品質を把握するものです. 配信サーバから の映像パケット 再生用 バッファ デコーダ 画面表示 一方,数千万規模の大規模な配信 サービスを行う場合,配信サービスシ プレーヤ バッファ時間(W(t)) 再生端末内 ステム系全体として効果的に品質管理 を行う必要があるため,次の方式を提 案し,検証を行っています. ① 前述の品質評価手法を用いて ユーザごとの視聴品質状態を収集 する. 62 NTT技術ジャーナル 2005.7 ・再生用バッファ内に映像パケットが残っていれば再生を継続 ・TCP では再送機能によりパケット廃棄が品質劣化に直接つながらない W(t):再生用バッファ内に残っている映像パケットによる バッファ時間 図7 TCPレイヤ情報を用いた品質推定 特 集 将来像 故障対処 リアルタイムQoS管理 超高精細映像対応のQoS管理を実現 ・SLA対応 ・エンコーダでQoS情報登録 コンテンツA コンテンツB 品質情報 (統計) 大規模ユーザQoS管理を実現 ・視聴品質情報の統計情報で品質推定 ・ネットワーク情報含む総合情報で故障個所特定 ・モジュール構成による効率的な設備 視聴品質 測定装置 配信 サーバA 端末ごとの品質測定(詳細)を実現 ・デコーダ標準で品質推定機能を搭載 ・多様な配信方式に対応 ・劣化ピクチャ,ポジションを特定 →文字情報等の部分劣化抑止にも応用 配信 サーバB 配信 サーバC 配信 サーバD エリアA 品質情報 QoS:Quality of Service SLA:Service Level Agreement ユーザ端末 ユーザ端末 ユーザ端末 ユーザ端末 :良好 :劣化予兆 :劣化 図8 大規模配信時の視聴品質管理 ② 劣化・劣化予兆・良好の3値 で視聴品質状態を管理する. ③ 故障個所を推定するための情報 (ユーザ・エリア・コンテンツ・配 信サーバ)を収集する. 応のリアルタイムQoS管理まで可能に なると考えられます. 今後の予定 本稿で説明した技術開発は,現在, 品質情報の収集を階層化して 情報通信研究機構(NICT)の委託 行い,品質しきい値を用いた品質 研究「通信ネットワーク利用放送技術 情報の統計処理により視聴品質 に関する研究開発(平成15年度拡充 状態を把握する. 課題)」課題ア「ユーザ視聴品質検出 ④ ⑤ 品質情報メッセージの共通化に より,配信プロトコル等に非依存 とする. この方式を用いることで,数千万規 技術」の中で取り組んでいます. 本年秋には視聴品質劣化検出から 故障対処までの一連のフローについて 委託研究グループと共同で総合実験を 模の映像配信サービスにおいて,ユー 行う予定です. ザごとの視聴品質情報から映像配信シ ■参考文献 ステム系としての視聴品質管理を効果 (1) 井芹・掛札・田丸・岩崎・間・片山:“デコ ード前ビットストリームを用いた映像品質自 動測定アルゴリズム,”2004IE. (2) 間・渡部・柳本・片山:“UDPレイヤによる MPEG-2ストリーミング視聴品質の推定方 法,”2005信学ソ大,B-11-5,2005. 的に行うことが可能となります.将来 的には,図8に示すように端末ごとに 詳細な品質測定が可能となり,大規模 映像配信環境での故障個所特定のた めのQoS管理および超高精細映像対 (左から)渡部 間 優/ 片山 頼明/ 伸一 IPネットワーク上の映像品質管理技術は 映像符号化技術の応用とともにブレークス ルーを起こす予感がします.皆様も注目し てください. ◆問い合わせ先 NTTコミュニケーションズ システムエンジニアリング部 TEL 03-6800-4605 FAX 03-3519-9083 E-mail [email protected] NTT技術ジャーナル 2005.7 63