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インドネシアにおける オイルパーム・プランテーションの問題

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インドネシアにおける オイルパーム・プランテーションの問題
インドネシアにおける
オイルパーム・プランテーションの問題
~
バイオ燃料の視点から
~
20427274
国際学部国際学科
牧田東一ゼミ
若月
1
美沙
目次
P4
■
序章
■
第1章
オイルパーム・プランテーションとアブラヤシについて
P5
第1節
オイルパーム・プランテーションについて
P5
第2節
パーム油について
P8
第3節
バイオ燃料とは
P12
■
第2章
オイルパーム・プランテーション開発における環境社会問題
P13
第1節
森林生態系の大規模な消失
P13
第2節
森林火災
P14
第3節
違法伐採の併発
P18
第4節
経済の問題
P18
第5節
地元住民の権利の問題
P20
第6節
中核農園システムの問題
P21
第7節
労働問題
P21
第8節
バイオ燃料の問題
P23
■
第3章
P25
解決にむけて
第 1 節 パーム油の持続可能性を探る国際的な取組み
P25
第2節
生産側への提案
P25
第3節
需要側への提案
P26
第4節
フェアトレードの推進
P27
第5節
バイオ燃料の可能性
P27
2
■
■
終章
環境保全に対する意識改革
参考文献リスト
3
P28
序章
日本は実に多くのものを熱帯林のある国から輸入している。熱帯木材やエビにはじまり、
天然ゴム、バナナ、アルミニウム、木炭、製紙用チップ、天然ガス、スパイスなどである。
日本の生活は、熱帯林から輸入されるものと、密接な関係があるといえる。しかし、熱帯
林の問題を、自分たちとは無関係な問題と考えてしまいがちである。日本の生活を支える
ために熱帯林で問題が生じているとしたら、自分たちは何もしないまま熱帯林とそこに暮
らす人びとを犠牲にして、この豊かな生活を続けていてはいけないのではないか。日本の
消費者は、このことを知るべきであり、考えるべきである。
熱帯林から輸入されるモノのなかに、パーム油というアブラヤシからとれる植物性油脂
がある。マレーシアとインドネシアが世界全体の 8 割を生産しており、世界の多くの国々
に輸出され、日本でもあらゆるものに利用されている。日本では輸入されたパーム油のう
ち約 7 割が油脂として食品加工されて使われており、ビスケットなどのショートニング、
マーガリン、スナック菓子やインスタント麺の揚げ油などに使われていたり、冷凍食品な
どにも含まれている。そして、残りの約 3 割が、洗剤やシャンプーなどの家庭用洗剤、化
粧品などにも使われている。このように、パーム油は日本の生活のなかで多く使われてい
るが、実際に油としての姿を見ることがないため“見えない油”といわれている。それほ
ど、パーム油の存在は知られていない。
オイルパーム・プランテーションは、森林伐採や森林火災といった問題を引き起こす原
因になる。さらに、プランテーション開発は、森林伐採のように一時的な形で行なわれな
い。一度プランテーション開発が始まると、企業は全ての植物を切り尽くした後も土地を
離れずに、アブラヤシだけを植林して半永久的にそこに留まる。そのため、先住民との問
題や争いがたえない。他にも、オイルパーム・プランテーション開発には多くの問題や課
題がある。その中には、労働者の低賃金や児童労働や危険な農薬の使用といった問題があ
る。また、それらのプランテーションは、中核農園という特長を持っている。これがさら
に、プランテーションを“緑の監獄”にする要因である。
パーム油が使われている洗剤は、よく“地球にやさしい洗剤”というキャッチフレーズ
で店頭にならんでいる。確かにパーム油の洗剤は、下水に流したときに環境への負担が合
成洗剤に比べて少ない。しかし、その生産地では、あきらかに“地球にやさしい”とはい
えない光景が広がっている。環境問題を意識してその洗剤を購入しても、その行為は逆に、
生産地の環境破壊や人権侵害につながってしまっている。また、パーム油は、バイオ燃料
(バイオディーゼル)の原料ともなる。バイオ燃料は、石油に替わる新しいエネルギーと
して注目を集めている。地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出量削減に役立つとい
われ、バイオ燃料は、まさに夢のエネルギーといった表現がつかわれている。しかし、そ
4
の扱いによっては、現代の救世主にも、悪魔にもなるという。なぜなら、バイオ燃料の利
用には、まだまだ課題が多く残されているからである。バイオ燃料のメリットばかりを強
調し、残された課題に目を向けなければ、たちまちに悪魔の燃料となり、人類の生存にか
かわる大きな問題となる。20 世紀は石炭や石油などの化石燃料により、世界経済は大きく
発展した。そして、21 世紀には、バイオ燃料という新しいエネルギーが注目を集めている。
しかし、石油の代替燃料として、今までの石油と同様にあたかも無限にあるかのような意
識でバイオ燃料を捉えていいのだろうか。現在の環境問題は、石油という限りあるエネル
ギーを湯水のごとく使う人々のライフスタイルが原因ではないだろうか。バイオ燃料とい
う新しいエネルギーを検討することを通じて、新しいライフスタイルを考えていく必要性
について考えたい。
5
第1章
オイルパーム・プランテーションとアブラヤシについて
1 オイルパーム・プランテーションについて
具体的な問題点をあげる前に、オイルパーム・プランテーションとはそもそもどういっ
たものなのか説明したい。
①オイルパーム・プランテーションの歴史
オイルパーム・プランテーションが作られた経緯は、19 世紀のヨーロッパにさかのぼる。
当時、産業革命を経たヨーロッパ人の生活は徐々に向上していた。工場で働く労働者が増
え、工場の労働で油まみれ汗まみれになった身体を洗うという習慣が、労働者の間に普及
し始めた。それにつれて、石けんの需要も急速に伸びた。1881 年には、イギリスの年間で
の石けんの生産量が 20 万トンにも達した。このころイギリスにあったリーバ・ブラザーズ
社(現在のユニリーバ社)が、そのシェアを急速に伸ばしていた。当初、リーバ・ブラザ
ーズ社は、石けんの材料にココヤシを使っていた。しかし、その後ココヤシよりもはるか
に品質のよいアブラヤシがベルギー領のコンゴに存在することがわかった。同社は、すぐ
さまベルギー植民地当局に協力を求め、野生のアブラヤシによるパーム油の摂取に乗り出
した[岡本 2002:8]。
20 世紀初頭、リーバ・ブラザーズ社がベルギー植民地当局と手を組み、パーム油の摂取
に乗り出したことにより、コンゴの村々のそれまでの平穏な暮らしは大きく変化すること
となった。リーバ・ブラザーズ社に雇われたベルギー兵は、村人を集め武器で脅して、ア
ブラヤシの採集を命じた。古くからこの地方のジャングルには、多くのアブラヤシの原材
林が多く散らばっていた。村人が集めなくてはならないアブラヤシのノルマはとても多く、
一日中ジャングルを駆け回って集めても、その量を満たすのは非常に困難だった。命令に
従わない者はみせしめとして殺され、決められた量のアブラヤシを採取できなかった者は、
鞭打ちの罰を受けた[岡本 2002:8]。
その後、リーバ・ブラザーズ社は野生のアブラヤシの採集をやめ、より多くのアブラヤ
シが安定して手に入る大規模なオイルパーム・プランテーションへと転換した。そして、
雇い兵の監視のもとで、地元住民が、男女関係なく、プランテーション内の過酷な労働を
強いられていった。イギリスの植民地のマレーシア同様、オランダの植民地であったイン
ドネシアのオイルパーム・プランテーションもまた、他の地域から農園労働者を大量に連
れてきて、奴隷のように働かせることによって発展してきたものである[岡本 2002:8]。
②インドネシアのオイルパーム・プランテーションの歴史
インドネシアのオイルパーム・プランテーションの歴史は、スマトラ島を中心にオラン
6
ダによる植民地時代に大きく発展した。スマトラでは、東海岸地域にたばこ、ゴム、アブ
ラヤシなどのオランダ資本の農園企業が続々と入植していった。オランダに征服され、支
配下となったスマトラの諸土候国の土候(スルタン)は、農園企業から税収を受け取るこ
とで利益を得たが、先住民族のバッタク人は、土地を奪われ窮乏していった[岡本 2002:
72]。
オイルパーム・プランテーションには、広大な土地と大量の労働力が必要である。当時、
ジャワ島は世界一人口の密度が高く、すでに人口問題も起ころうとしていた。そこで、オ
ランダ政府は、このジャワ島の過剰人口問題とスマトラのプランテーションでの労働不足
の問題をあわせて解決しようと、ジャワ人の強制的移民を計画した。この移民は、表向き
は自由意志による合法的な契約に基づくものとされていたが、実際には郷土を離れたがれ
ない無知な農民を詐欺的に拉致したものであった。ジャワ人が労働力として好まれたのは
人口が多いという理由と、彼らの穏やかで従順な性格も大きな要因だったと言われている。
この人口問題と労働不足の問題があわさったことにより、移住政策が本質的には解決され
ず、むしろ複雑かつ拡大してしまった[岡本 2002:73]。
インドネシアでアブラヤシの大規模栽培が始まったのは、1901 年のことである。プラン
テーション面積は、1916 年の 1,272ha から 1938 年には 9 万 2,307ha に拡大した。栽培技
術と加工技術の問題が解決され、1938 年には西アフリカ諸国を抜いて世界一の輸出国にな
った。日本軍政時代は、食糧生産に重点を置いたため、アブラヤシ栽培面積は 16 パーセン
ト減少し、世界的な需要も減少した。また、戦争のため海上輸送の安全確保が難しく、輸
出量は減少した。1945 年から 1948 年の独立戦争時代には、農園の破壊が進み、農園はオ
ランダが奪回した。1950 年 8 月 15 日に、インドネシア共和国は独立をはたす。1957 年に
は、全ての外国人所有の農園を接収し国有化した。そして、農園経営者として国軍幹部を
配置する。さらに、現場でも労働者と軍が協力しあっていることを示すため、軍属労働者
を配置した。しかし、軍属労働者の役割は、農園労働者の仕事振りや労働運動を監視する
ことだった。農園労働者の土地の分与を求める声を抑え込んだり、労働者の共産化を防い
だりと、この国有化の時代は生産的にも政治的にも不安定であり、インドネシアは生産国
第1位の座をマレーシアに譲ることとなった[岡本 2002:73]。
③プランテーションのシステム
その後、インドネシアに中核農園と呼ばれるシステムが導入された。岡本は、このシ
ステムについて以下のように述べている。
「1976 年、インドネシア政府は世銀のプログラムとして中核農園(PIR:Perkebunan Inti
Rakyat)システムのパイロットプロジェクトを実施し、その後、このシステムを推進して
いった。中核農園システムは、国営または民間農園企業が中核(Inti)となる農園と搾油工
場を持ち、その周囲に 1 戸あたり栽培面積 2ha、居住・食料栽培面積 1ha を与えられた小
農(Plasma:参加農家)を配置する。中核企業は小農に対して栽培指導、農業資材の提供
などを行い、収穫物は中核企業が買い取る。小農は土地代も含めてこれら供与されたもの
7
を借入れ金として収穫後 12~15 年をかけて返済するという仕組みである。中核となる農園
と小農の面積分は 20:80 と規定されていたので、小農育成とのコストとリスクが大きかっ
たことから、当初中核となるのはほとんど国営企業であった [岡本 2002:73-74]。」
「1984 年には民間企業がアブラヤシ栽培に参入する場合には、中核農園の形態と採るこ
とが義務づけられた。さらに 86 年には、移住型中核農園(移住計画と結びついた中核農園、
PIR_TRANS)制度が義務づけられた。(中略)小農の中心となるのは、移住者の他に農園
事業が行われる地域に住む農民や移動耕作農民である。政府はこれまで移動耕作農民に対
して定住政策を進めてきたが、移住型中核農園はそれをさらに推し進めるプログラムの一
つになった。小農となる国内移住者と地元農民の割合については移住大臣が定める。さら
に、民間企業との参画を促すために、中核となる農園と小農の面積割合を当初の 10 年間に
限って 40:60 とした [岡本 2002:74]。」
インドネシア政府が中核農園システムを推進することによって、アブラヤシ農園の中核
企業を大企業グループが占めるようになった。それは、以下のような理由による。
「アブラヤシは約 25 年間収穫できるが、最初の収穫までに 3~5 年、最盛期が 10 年
~15 年後で資本回収までに長期間を要するうえ、小農(契約農家)育成のための技術
指導や栽培資材などの貸付資本、農地開拓の費用など、新規開発には莫大な資本を必要
とする。大統領令でも、中核となるのは大企業であると規定されている [岡本
2002:75]。」
また、国内大資本にとってアブラヤシ産業は、利潤追求の面からとても有利である。な
ぜなら、原料供給のための農園業だけでなく加工業としても利潤が得られ、原料を安定的
に供給することができるからである。このように、政府と企業の関係は成り立っていた。
さらに政府は、外国資本によるアブラヤシ産業を生産までにとどめ、油の精製や分別は拒
否していた。そのため、加工業は国内の民営農園が占めることになった。つまり、国内の
民間企業は外国資本との競争にさらされることなく、政府から保護をうけつつ利潤を伸ば
していった。
2パーム油について
オイルパーム・プランテーションで栽培されているのはアブラヤシという植物である。
そのアブラヤシから取れる油をパーム油という。パーム油には果肉からとれるパーム油と
種子からとれるパーム核油がある。一般的には、この両方を合わせてパーム油と呼ぶ。
①需要
パーム油は、2004/2005 年に大豆油を抜き世界の植物油量第 1 位になった。今後も需
8
要が増すと予測される(表6参照)。パーム油が売れる理由は、以下の 7 点である。まず
第 1 は、パーム油が植物油脂類のなかで 1、2 位を争う安価であること。第 2 は、あらゆ
る油脂の中で一番収穫量があること。1ha あたり 3.475kg で、これは大豆の 10 倍以上、
菜種の 8 倍以上に相当する。第 3 は、年間を通じての安定収穫が可能なこと。第 4 は、
精製後に酸化しにくいこと。第 5 は、食品の風味を変えない唯一の油なので加工食品に
うってつけであること。第 6 は、パキスタンなど中近東ではその宗教的理由から、ブタ
を初めとする動物性の油よりもパーム油が好まれること。第 7 は、
「地球にやさしい」ブ
ームでイメージ戦略できるなどである[岡本 2002:11]。また、近年では、新しくバイオ
マス燃料(バイオディーゼル燃料)の原料としての利用法が注目されている。
②輸出量と生産量
植物油の国際貿易量は 2004/2005 年には 4,600 万トンを少し上回り、植物油生産量の約 40
パーセントに当たる。その内訳は、パーム油、パーム核油、ヤシ油の 3 油種の熱帯油脂が総貿易
量の 65 パーセントを占めている。さらに、パーム油は全体の 78 パーセントが、パーム核油は 53
パーセントが、輸出に振り分けられている。そのため、輸出志向が強い植物油といえる(表 8)。パ
ーム油は大豆、菜種、落花生のような通常の状態で長期に保管できる種子からの油と違い、果肉
から採るため腐りやすく通常の状態では流通できない。そのため、果肉から抽出された状態で流通
させる必要がある。
9
マレーシアとインドネシアは、世界のパーム油生産量の 85 パーセントを占めている (表
7) 。「アブラヤシは、赤道北緯・南緯 12 度から 15 度の範囲で多温多湿の熱帯地域が栽
培に適している [岡本 2002:12]。」とあるように、この 2 カ国はアブラヤシが育つ環境
によく適している。マレーシアは生産量の 90 パーセント以上、インドネシアでは 70 パー
セントが輸出に振り分けられている。「現在、生産量世界一のマレーシアは、サラワク州
を除いて耕地面積がすでに飽和状態に近いと言われていることや、生産コストがインドネ
シアよりも高いことから、国土面積で勝るインドネシアが今後、面積的にも生産量の面で
も、マレーシアにとって替わるのは確実であると予測される [岡本 2002:71]。」(表 9
参照)
10
③日本の需要
日本の植物油の総供給量は、2005 年度で約 260 万トンにのぼる。これは、ひとりが 1 年
間におよそ 20kg の植物油を消費していることになる。パーム油、パーム核油は、日本では
第 3 位の供給量である。パーム油は、その 70 パーセント以上が食用に、30 パーセント未
満が工業用に利用される(表 10 参照)。
11
④日本での利用用途
主なパーム油の利用用途は以下の通りである。食用としては 8 点、工業用としては 2 点
あげられる。まず食用の第 1 は、単体油としての利用法である。これは、主に揚げ油に使
われる。例としては、インスタントラーメンや揚げ菓子、外食店での揚げ油などである。
第 2 は、乳化状油脂である。これは、コーヒー用クリーム、ホイッピングクリーム、デザ
ートホイップなどである。第 3 の粉末状油脂は、ケーキミックス、即席スープ、カレーの
素など調味食品用の粉末調味料である。第 4 は、加糖マーガリン。第 5 は、ホイップ型マ
ーガリン。第 6 は、低カロリースプレッドである。第 7 は、ビスケットの練り込み用油脂
やサンドクリーム用油脂、スプレーオイル用油脂、ケーキ用アイシング、ジャム、ママレ
ード、バタークリーム、カスタードクリーム、チョコレート用油脂、アイスクリーム、ド
ーナッツ、ドレッシングなどである。第 8 は、冷凍食品、レトルト食品、惣菜などである [岡
本 2002:9]。
工業用は、まず工業用硬化油としての利用法である。これは、油脂に水素添加処理をし
たものである。石けんや合成洗剤用の界面活性剤の原料にもなるが、その 80%前後が分解
用油脂の原料になる。第 2 は、分解用油脂である。脂肪酸やグリセリンの原料になるなど、
その用途は多岐に渡る。例えば、塩エビ安定剤、プラスチック、金属石けん、繊維、ゴム、
燃料、ゴム・タイヤ用加硫促進剤、界面活性剤、研磨剤、樹脂、燃料・インク、医薬品、
化粧品、潤滑油、爆薬などである。パーム油の成分は、肌への乗りがいいとのことで、口
紅などの化粧品にも利用されている。これらあげたものは、全てでないにせよ、高い確率
でパーム油が使われている [岡本 2002:9]。
12
3バイオ燃料とは
バイオ燃料とは、植物性の物質を利用して作られる動力用の燃料のことである。
「バイオ
燃料」と言ってもいろいろな形態がある。バイオエタノール、バイオエタノール混合ガソ
リン、バイオディーゼル(バイオディーゼル燃料)などと区別して呼ばれている。バイオエタ
ノールは、サトウキビやトウモロコシといった植物資源を発酵させエタノールとして利用
する。同じアルコールのメタノールも、同じように植物資源からの製造だが、それも含め
バイオエタノールと呼んでいる。自動車用のガソリンに替わる燃料として注目されている。
バイオディーゼルは、パーム油などの植物油、食用の廃油などからメチルエステルなどを
作り、これを動力用燃料として利用するものである。軽油の代替燃料として注目されてい
る。
バイオ燃料は、そのままエンジンで燃やしたり、化石燃料系のガソリンや軽油と混ぜて
利用されることもある。バイオ燃料の混合比率をバイオエタノールであれば「E」、バイオ
ディーゼルであれば「B」で表す。例えば、バイオエタノール 100%であれば「E100」と
表示されるし、軽油と混合してバイオディーゼルが 10%含まれているのであれば「B10」
と表示される。
バイオ燃料は近年の注目度から、石油に替わる新しいエネルギーのような印象を受ける
が、実際はそうではない。20 世紀初頭に開発されたフォード自動車の T 型自動車の当初の
燃料はエタノールであった。エンジンもエタノールを前提として設計されていた。しかし
当時、エタノールはお酒として使用されていたため、多額の税金がかけられており、ガソ
リンよりも高かった。その後、石油産業の発展によりガソリン車が発達する。バイオディ
ーゼル燃料も、初めに使われた燃料はピーナッツオイルであった。他にもさまざまな植物
油で動かすことを検討していた。しかし、その後の石油産業の発展により、安く効率的な
石油燃料を利用することになったのである。
13
第2章
オイルパーム・プランテーション開発における環境社会問題
オイルパーム・プランテーション開発には、多くの環境社会問題が生まれる。
1森林生態系の大規模な消失
オイルパーム・プランテーションの開発には、広大な土地が必要とされる。そのため、
森林が破壊され、森林生態系の大規模な消失につながる。
西アフリカが原産地のアブラヤシは、赤道をはさんで北緯・南緯 12 度から 15 度の範囲
の高温多湿の熱帯地域で栽培される。熱帯地域とは、北回帰線と南回帰線の間のことを言
う。そこには、豊かな降雨に恵まれ、主として常緑樹からなる熱帯雨林が分布している。
熱帯雨林は、大気中の二酸化炭素を吸収し、酸素を放出する。また、土壌を固定して侵食
を防ぎ、少ない栄養分の流出を防いでいる。そのため、伐採されると侵食が起こり、洪水
が起きやすくなる。土中の栄養分は速やかに流れ出てしまう。熱帯雨林は地球の陸地の 6
パーセントを覆っているにすぎないが、世界中の動植物の半分以上の種が生息していると
考えられている。インドネシアの陸地面積は、181,157 ヘクタールである。そのうち 88,744
ヘクタールを熱帯雨林が占める。日本の陸地面積が 37,652 ヘクタールであるから、実に 2
倍以上の面積の熱帯林をもつ。
オイルパーム・プランテーション開発に適した土地は、様々な動植物が生息し、豊かな
生物多様性を有している。しかし、この熱帯林がプランテーションに転換されると、8 割か
ら 10 割の哺乳類、爬虫類、鳥類がいなくなるといわれる。インドネシアでは、様々な動植
物の生命が脅かされている。熱帯林を守る行動が起きなければ、生態系は次第に退化、縮
小していくだろう。生態系の保護は、外部の団体に責任を負わせることはできないし、イ
ンドネシアの政府だけに任せられる問題でもない。保護するためには、オイルパーム・プ
ランテーションに関わる全ての人の協力が必要である。それゆえ、訓練や教訓、持続可能
なプランテーションの復興が必要なのである。
①生存が脅かされている生物
◇霊長類◇
全体のおよそ 90 パーセントの霊長類は、熱帯に生息している。霊長類は、植物の受粉や
種子散布の手助けをするなど、生態系において重要な役割を担っている。霊長類は、病気
や事故にあわなければ、60 年以上も生きることができる。しかし、その霊長類が、生息地
である熱帯林の減少で絶滅の危機に瀕している。熱帯林を伐採し森林を切り開いたことに
より、ハンターが生息地に簡単に侵入できるようになったことが、事態に拍車をかけてい
る。また、1994 年の大規模な山火事によって、多くのオラウータンが死亡している。イン
14
ドネシアで生存を脅かされている霊長類は、15 種にもなる。
◇サイ◇
インドネシアには、スマトラサイとジャワサイが生息している。ジャワサイは、サイの仲
間で最もまれな種で、インドネシアとベトナムの 4 ヶ所にわずか 60 頭以下が生息している
だけである。しかし、森林伐採や山火事により、生息地が失われている。スマトラサイの
数もまた減少している。そのため、より活発な保護活動が必要とされている。
◇コウモリ◇
オオコウモリ類は、東南アジアの森林に生息している。森林伐採や山火事のため、生息地
は破壊されている。コウモリは、温帯から熱帯地域にかけて広く生息しているが、赤道付
近で最も多様化している。絶滅が危惧されている種は、32 種にものぼる。
◇植物◇
東南アジアの熱帯林は、著しく多様化した植物群からなっている。しかし、インドネシア
で生存が脅かされている種が 264 種にのぼっているように、このままでは森林伐採と火災
が原因で、2050 年には全滅の危険性がある。
インドネシアで生存を脅かされている種の数
霊長類
大型ネコ類
15
爬虫類
有蹄類
6
両生類
28
げっ歯類
8
無脊椎動物
33
コウモリ類
46
32
鳥類
植物
31
121
264
インドネシアでの種の密度(100 万ヘクタールあたりの種の数)
哺乳類
81
鳥類
271
爬虫類
両生類
91
50
植物
5,196
(『絶滅危惧動植物の世界地図』より)
2森林火災
オイルパーム・プランテーションの開発のためには、最初に原生林の開拓・整地を行っ
て苗を植える必要がある。アブラヤシ栽培に関する一般的な実用書では、伐採の方法とし
て、まず火を使うことが進められている。アブラヤシの木に深刻な被害をもたらすシロア
リの駆除のためにも、徹底的に焼き払われる。さらに、火を使った整地の手段は、木の根
を引き抜く作業よりずっと安上がりであるため、多くの企業は火を使った開拓を行ってき
15
た。また、アブラヤシは植えて 25 年が経過すると、生産性が落ちるため植え替えられえる。
この植え替えでも、古くなったアブラヤシの除去に火が使用されることがある。このよう
な整地のあり方が、森林火災を引き起こす一つの大きな原因である
1997 年から 1998 年にインドネシアに発生した火災では、国立公園 12 万 6,000ha を含む
約 80 万 7,000ha の森林が焼失、750 万人が煙害による健康被害を受けた。それだけでなく、
この森林火災で発生した煙塵が航空機墜落事故を起こすなど、隣国のシンガポールやマレ
ーシアにも被害が及び、国際問題に発展した。国際林業研究センター(CIFOR)、国際アグ
ロフォレストリー研究センター(ICRAF)、米国農林省による共同調査の結果、多くの森林
火災がパルプとパーム油の企業の位置と一致していた。さらに、46 パーセントから 80 パー
セントの火元が、プランテーション企業の敷地内で発生し、このうち 4 分の 3 がオイルパ
ーム・プランテーション企業であった。この森林火災をきっかけに、インドネシア政府は
整地の際に火を使うことを禁止する法律を制定した。しかし、法律で禁止されても森林火
災は続いている。2005 年、スマトラ島で大規模な森林火災が発生。深刻な煙害がおこり、
大気汚染指数が危険水準である 500 を突破した。
WWF インドネシアの調査によると、インドネシア・スマトラ島のリアウ州で、2005 年
1 月 24 日から 2 月 21 日の 4 週間のうち、多い週で 2,863 ヶ所のホットスポット(火災発
生場所)を確認することができた。この 4 週間のうち、非常に多くのホットスポットが確
認され、それは伐採が禁じられているはずの保護価値の高い森林にもおよんでいた。ホッ
トスポットのいくつかは、アジア最大級の製紙会社である APP 社および APRIL 社の伐採
許可地域の中やその周辺にも分布している。この調査期間にリアウ州内で観察された森林
火災のうち、40 パーセントが APP あるいはその関連会社の伐採許可地域内および周辺で発
生していた。
これらは、あきらかに法律が意味をなしておらず、違法な火入れが行なわれている結果
である。法律による取り締まり強化の必要性が考えられる。しかし、法律の強化によって
森林火災は防げたとしても、火を使わなければ、除草剤や殺虫剤が大量に使われ、新たな
問題がうまれる。それでなくとも、オイルパーム・プランテーションには大量の農薬が散
布されている。法律強化は大きな課題の一つだが、それにより、全てが解決するわけでは
ない[参考文献を書いてください]。
WWF インドネシアの調査の表
インドネシア・スマトラ島のリアウ州の、2005 年 1 月 24 日から 2 月 21 日の 4 週間での
16
ホットスポット
2005 年 1 月 24 日
2005 年 2 月 1 日
17
2005 年 2 月 7 日
2005 年 2 月 14 日
18
3違法伐採の併発
オイルパーム・プランテーション開発が違法伐採を併発する場合が多い。その理由は 2
つあげられる。まず第 1 は、プランテーション開発における道路開発により、奥地での違
法伐採を可能にしてしまったこと。第 2 は、パームオイル・プランテーション開発という
名目で開発権だけを得て、森林伐採を行なう場合である。皆伐した跡地は放置され、プラ
ンテーション事業は行なわない、こういった企業がインドネシアには非常に多い。
森林の転換が最も進むインドネシアでは、森林伐採権を取得するよりも、プランテーシ
ョン開発許可を取得するほうが容易にできる。西カリマンタン、中部カリマンタン、東カ
リマンタンとリアウにおいて、土地の転換権利を取得したのにもかかわらず開発を行なわ
ないとして、州政府は 200 以上の企業の開発許可を取り消したという例もある。インドネ
シアのパーム油関連企業は、伐採企業、木材加工企業、パルプ紙産業を牛耳る財閥に支配
されており、プランテーション開発に名を借りた木材の収奪も指摘されている。
インドネシアでは私有地として登記されてない土地にある森林が、すべて国有林に分類
される。国有林は、生産林、保安林、保全地域(国有公園や森林公園など)、転換可能な生
産林(転換林)に区別される。政府の規制によれば、農園経営による作物生産は、農業や
その他の目的に転換することの許された転換林においてのみ可能となる。プランテーショ
ン開発に使用される土地は、この転換林に限定されている。しかし、商業を目的とした土
地利用の申請が年々増加すると、それに応じるために転換林の面積が 2000 年の 800 万 ha
19
から 2002 年には 1,400 万 ha へと増加している。また、州政府は森林の種別をつけるとき、
森林局は森林が劣化したという証拠があれば許可をだす。このため、実際には天然林を土
地の使用許可を申請しないまま伐採し、後から申請を行なうというようなケースもある。
4経済の問題
オイルパーム・プランテーション開発の受益者は、労働者や周辺地域ではなく、大企業
や役人であることが多い。企業は開発の際に得た木材を無料で手に入れ、利益を得ること
ができ、役人は企業からの献金を得る。
①モノカルチャーによる地域経済と生活の不安定化
プランテーション開発により単一農作となると、農村の生活が外部の経済的影響を受け
やすくなる。オイルパーム・プランテーションは、ゴムのプランテーションと違い資本集
約的な産業であり、外部の資本によって開発が行なわれる。ゴムは、小規模面積における
栽培や他の土地利用との組み合わせが可能であり、収穫や販売も外部機関に依存しないた
め、個人またはコミュニティで自立的に営むことができる。しかし、オイルパーム・プラ
ンテーションはそうはいかない。小規模のプランテーションは、搾油工場がある大資本プ
ランテーションに依存せざるを得ない。そのため、利益の大部分は地元に還元されず、大
企業に行くため、他の地域の資本家に利益が流れてしまう。
従来の農村社会では、森林の土地からの収穫物を直接食料としたり、市場で売るなどし
て、生計と収入に役立てていた。その森林がなくなり、モノカルチャーのプランテーショ
ンになるのは、自家消費する農作物が減少し、現金収入への依存が高まる。しかも、収入
源が国際マーケットに左右されやすく、パーム油は価格の変動によって他の植物油で代替
できるためリスクが高いという指摘もある。
②外資参入の規制撤廃
インドネシア政府は、パーム油の過剰供給を懸念して、1997 年 3 月にアブラヤシ農園部
門への海外からの投資を認めない方針も採っていた。しかし、1998 年 1 月の IMF との合
意によって外資参入の規制は撤廃された。参入申請は、そのほとんどがマレーシア資本で
ある。
③混合造林法の発布
これは地目を林地としたままで、そのうちの 40 パーセントまではプランテーション作物
を栽培しても良いという法律である。プランテーションによって植物が変化しても、地目
は林地のままであり、データ上の森林面積は変わらないことになる。
20
5地元住民の権利の侵害
プランテーション開発にあたり、土地をめぐる紛争が多く起こっている。インドネシア
には、先住民族や森から生活の糧を得ている人々が大勢いる。彼らは、森で狩りをしたり、
林産物を採集をしたり、焼畑をしたりして暮らしている。それぞれの村で、村人たちが森
林の保護林や共同利用林、個人利用林などに区別していて、その利用方法、利用できる林
産物などに様々な制限を設けて暮らしている。一般的にこのような決まりは、どの場所に
も設けられている。こういった地域では、慣習法に基づいて、共同体で土地を占有してい
る。慣習法とは、インドネシアの習慣や伝統の基本理念として、
「和合の精神(ムシャワラ)」
と「相互扶助(ゴトン
ロヨン)」とがあり、インドネシア人の生活基盤となっている。こ
れらは自治農村の生活様式から発生したもので、現在でも全国的に共同生活の場で生きて
いる。慣習法(アダット)は絶対的な法律として守られていて、アダットはその土地その
土地に古くからある慣習からきているものである。そのため、日本のように正確な土地測
量や私的土地占有についての土地台帳が存在しない。
開発される土地の多くは、このように利用されている土地や森林である。インドネシア
の農地法では、共同体が占有している土地の存在は認めているものの、国家の利益がまず
優先されると定めている。そのため、森林の 90 パーセント以上が政府の国有地に定められ
ており、そこに暮らす人びとの存在を無視して林地区分が決められてきた。住民にしてみ
れば、自分たちが昔から住んでいた地域が、いつのまにか保護林や生産林に定められてし
まった状態である。プランテーション開発の森林伐採権や産業造林事業が住民の合意のな
いまま設定されたり、開発の際の企業の土地調査に不備や無視されたりすることで、住民
と企業の間で紛争が絶えない。
また、住民と企業の対立だけでなく、旧住民と新住民との民族対立も起こっている。イ
ンドネシアは 250 から 350 のエスニックグループからなる多民族国家である。オイルパー
ム・プランテーションの中核農園システム制度は、移民政策の一部となっている。新たに
プランテーションができると、その土地に新しい住民がやってくる。土地や森を奪われた
旧住民にとって新住民は敵であり、自分たちの土地と仕事を奪うライバルでもある。この
制度によって、民族対立が各地で起こる事態となってしまった。
6中核農園システムの問題点
パームオイル・プランテーションの新規開発には、莫大な資金を必要とする。なぜなら、
パームオイルは約 25 年間収穫できるが、最初の収穫間までに 3 年から 5 年、最盛期が 10
年から 15 年と、資本回収までに長時間を要するからである。また、小農育成のための技術
指導や栽培資材などの貸付資本、農地開拓の費用などの資金も必要となってくる。そのた
め、中核となる企業は、資金のある大企業グループでパームオイル・プランテーションの
運営を占めることとなった。しかも、供給のプランテーションとしての利益だけでなく、
加工業と合わさることにより、原料を安定的に供給し加工できるという有利な状況ができ
21
あがった。さらに、インドネシア政府は外国資本に対して、生産段階への参加は歓迎して
いたが、加工業への参加は拒否していた。そのため、国内の農園民間企業は、外国資本の
競争にさらされることなく運営できた。また資金も、世界銀行やアジア開発銀行といった
国際金融機関から有利な条件で借り入れられた。これらの利潤により、大企業による中核
農園システムは推進していった。しかし、同時にそれは、企業の優位性と弱い立場の小農
という問題を生み出すこととなった。
この中核農園システムには、労働力はすでに用意されている。そのため、プランテーシ
ョン農業が労働集約的で機械化が難しいとしても、労働力を心配する必要はなった。中核
企業は、小農から収穫物を買うのであって、労働に対する対価を払う必要はない。小農に
とって収穫物の価格が利潤の全てとなる。これは、あきらかに小農が不利な立場である。
政府は、企業が収穫物を全て買い取ってくれるという点で小農に利点があるとしている。
しかし、パームオイルの果実は、収穫後の保存が効かない作物という難点がある。小農は
早急に企業に引き取ってもらわないと品質が落ちるという弱い立場になる。そのため、品
質や価格を決める企業が有利なのだ。
7労働問題
プランテーションにおける労働問題として、低賃金労働、危険で劣悪な労働環境、苛酷
なノルマ、児童労働、農薬等による健康被害、不法労働者の搾取、多発する事故等の問題
などが指摘されてきている。
①プランテーション労働者
パーム油企業は、搾油工場部門とプランテーション部門に分けられる。プランテーショ
ン部門は、農園長をピラミッドの頂点として、管理官、アシスタント長、アシスタント、
現場監督(各区間毎)、作業監督(収穫、施肥、農薬散布、除草などの作業毎)、正規農園
労働者、日雇い労働者で構成されている。プランテーションはとても閉鎖的であるため、
外部からプランテーション労働者の暮らしぶりを知るのは難しい。1998 年、スハルト政権
崩壊後、改革・民主化の流れが加速し、基本的に労働団体の結成は自由になっている。し
かし、プランテーションにおいては、他の産業と比べて労働者の近代化・民主化が遅れて
いる。労働組合をあげても、国営農園には農園労働組合が、民営の農園には全国農園組合
が存在こそしているが、労働者の利益よりも農園企業の利益を第一に考えていると言って
も良いレベルである。また、この 2 つの労働組合以外の労働団体は非合法扱いで、プラン
テーション労働者の団体として認められていない。
最下層にいる日雇い労働者は、農園企業と正式な雇用関係を結んでいないため、労働組
合に参加する資格すら与えられていない。この日雇い労働者の多くは女性である。その理
由は、男性よりも従順であることや、同じ作業の繰り返しを辛抱強くできると見られてい
るからである。ほとんどの従業員や一般労働者の妻と子どもたちが、夫の少ない稼ぎを補
22
うために日雇いとして働いている。国営・民営問わず、プランテーション労働者の収入は
非常に少ない。ほとんどのプランテーションで、その地域や州の最低賃金以下の賃金しか
払われていない。例えば、2001 年北スマトラ州の最低賃金は月額 34 万 500 ルピアなのに
対し、プランテーション労働者の賃金は月額 26 万 5,000 ルピアという規定になっている。
プランテーション労働者は、本来受け取るべき収入の 22 パーセントがカットされているこ
とになる。
プランテーションのあらゆる種類の作業に対して、普通の水準以上のノルマが課せられ
ている。多くの女性が日雇い労働者にならざるをえないもう一つの理由である。農園の現
場監督が一方的に決めたノルマを達成する為に、正規労働者たちは自分の妻と子を巻き込
まざるを得ない。ノルマを達成できなければ、賃金がカットされ農園企業が決めた制裁を
受けることとなる。通常よりも厳しいノルマを労働者に科すことで、浮いた分を現場監督
は自分の収入として懐に入れている。
②農薬汚染
パーム油の生産時には、先進国ではすでに使用が禁止されている除草剤のパラコートな
どの薬品が使用され、周辺地域の汚染やプランテーション労働者や周辺住民の健康被害を
もたらしている。パラコートは毒性の強い除草剤で、ほんの少し肌に触れたり吸い込んだ
りしただけで鼻血や咳がでたり、死に至ることもある。農薬の散布を行なう労働者や農薬
を散布したばかりの農地で働く労働者は、健康の危険にさらされている。
8バイオ燃料の問題点
インドネシア政府は石油に代わる代替燃料としてバイオ燃料事業を強化している。2007
年 5 月 25 日、インドネシアとマレーシアはパーム油の生産において、年間で合計 1,200 万
トンのパーム油を代替燃料バイオディーゼルの生産に割り当てることに合意した。この合
意により、パーム油プランテーションに対する環境・社会問題がさらに加速するのではと
懸念されている。さらに、インドネシアでは、バイオディーゼルを 10%添加した軽油の試
験運用を開始した。2007 年に国内 8 ヵ所に民間企業と共同で、アブラヤシやサトウキビを
原料にしたバイオディーゼル製造工場を建設する方針である。合計の年間生産量は約 4 万
8000 トンを見込んでいる。総投資額は 10 兆ルピア(約 1200 億円)にもなる。また、バイ
オ燃料生産に関して金利減免や税制優遇措置を設け、現地企業のほか日本の大手商社など
外資系企業にも投資を促す。2010 年までに燃料消費量の 10%をバイオ燃料に置き換える方
針である。
① 食料生産への影響
現在、世界中でバイオ燃料ブームが起きており、それが原因で食料価格の高騰を招いて
いる。バイオ燃料の原料であるパーム油や、トウモロコシ、サトウキビなどの食用作物に
23
ついては、ブームのままにバイオ燃料としての需要が急激に拡大すれば、その国際価格が
上昇し、食糧需要との競合が生じることが懸念される。まだパーム油の食糧需要との競合
はさほど明るみにはなっていないが、このまま生産を増やせば、米国のトウモロコシやブ
ラジルのサトウキビのような問題がでるのはあきらかである。
<米国:トウモロコシの問題>
米国では、トウモロコシを主な原料にする代替燃料エタノールの生産ブームがおきてお
り、ほかの農作物からトウモロコシに転作する動きが加速している。豊作なのにトウモロ
コシの価格は、前年度の 2 倍近く高騰している。それは、収穫されたトウモロコシの約 2
割が(5 年前の 2 倍以上)がエタノール生産に回されている。中西部の農村はエタノール特
需にわき、農地も値上がる傾向にある。また膨大な資金を運用するヘッジファンドや年金
基金なども、ブームに乗って土地を資産に振り分けており、その傾向に拍車がかかってい
る。
<ブラジル:サトウキビの問題>
ブラジルはサトウキビからつくられたバイオエタノール利用の先進国であり、世界最大
の砂糖生産・輸出国である。それが今や、その砂糖生産の半分が燃料用エタノールの生産
と切り替わっている。ブラジルの 2005 年のエタノール生産量は 160 億リットルを超えてい
る。世界の砂糖生産量のちょうど 1 割がエタノールにシフトしているため、砂糖価格は倍
増している。
これらの問題は、輸入する国にも大きな影を落としている。実際に日本でも、輸入穀物
の高騰による価格変動の影響をうけている。2007 年から、マヨネーズ、食用油、肉製品、
カップ麺、お菓子などで、メーカーによる値上げの発表が後をたたない。
② 新たな環境破壊
バイオ燃料は植物を原料とするため、安定的に大量に確保するには広大な耕地が必要で
ある。さらに、オイルパーム・プランテーション自体が広大な土地を必要とするため、こ
のままバイオ燃料の製造をしていけば、環境破壊はさらに進んでいく。
③ 新たな社会問題の惹起
急速なバイオ燃料製造の拡大は、新たな社会問題、特に貧困層に影響を及ぼすことにな
る。
現在、発展途上国における人口増加が言われているなか、世界の穀物備蓄量は、過去 34
年間で最低基準にある。明らかに食糧危機が予測される状況において、世界の人口 66 億人
のうち 8 億人の裕福な自動車所有者と食料の消費者とが、その状況に悪影響を及ぼしてい
る。また、このまま 8 億人が絶えず燃料を必要とし続ければ、穀物価格の上昇は避けられ
24
ない。そんななか、世界のもっとも貧しい 20 億人は所得の半分以上を食べ物に費やしてい
る。そのような状況において、穀物価格の上昇はすぐさま、生死の問題とかかわってくる。
食糧価格が上昇すると、低所得の穀物輸入国で飢餓がまん延し、政治情勢に不安が広がる
危険性が高まる。そして、この不安定さは、世界全体の経済発展の崩壊へとつながる恐れ
がある。
また、インドネシアにおけるオイルパーム・プランテーションの社会問題も、急速なバ
イオ燃料製造の拡大により、さらに深刻化すると予想される。
25
第3章
解決にむけて
1
パーム油の持続可能性を探る国際的な取組み
~RSPO~
第 2 章で述べた問題に対応すべく、パーム油をめぐる多様なステークホルダーによる「持
続可能なパームオイルに関する円卓会議(RSPO)」が 2003 年に発足した。持続可能な円
卓会議とは、Roundtable on Sustainable Palm Oil の略で RSPO と表す。RSPO には、生
産者(農園)、加工業者(搾油、精油)、消費財生産者、小売業者、銀行・投資家、環境・自然
保護 NGO、社会・開発関連 NGO などが加盟している。2005 年に開催された第 3 回円卓
会議において、持続可能なパーム油を実現するための原則が承認された。
持続可能なパーム油の 8 原則
原則1
透明性のコミットメント
原則 2 適用法令と規則の
原則 3 長期的な経済的・財政的実行可能性へのコミットメント
原則 4 生産者および加工業者によるベスト・プラクティスの利用
原則 5 環境に関する責任と自然資源および生物多様性の保全
原則 6
生産者や工場によって影響を受ける従業員および個人やコミュニティに関する責
任ある配慮
原則 7 新規プランテーションの責任ある開発
原則 8 主要な活動分野における継続的な改善へのコミットメント
2
生産側への提案
REPO の「持続可能なパーム油のために原則と基準」を守る。特に下記は重要であると
考える。
① プランテーション開発に当たって、保護価値の高い森林からの転換を行なわない。
②
開発にあたっては、各国の法制度に基づいた開かれたプロセスによる環境社会影響
評価を行う。開発企業は、先住民族の慣習地や、保護価値の高い森林などの調査を
十分に行い、その情報を公開し、行政側は環境社会影響評価の内容及びプロセスの
審査を十分行う。
③
地元コミュニティの権利を尊重し、十分に情報を提供した上での自由意志に基づく
事前の合意を得る。
④
人権、労働条件に関する国内法、国際的な基準を守る。
⑤
あらゆるプロセスにおいて、火入れを行なわない。
26
⑥
3
排水管理、危険農薬の不使用、農薬の削減と統合的管理を行う。
需要側への提案
(1)企業への提案
①
食品加工やトイレタリー製品などのパーム油を扱う企業は、自社において使用して
いるパーム油の生産地について、可能な限り確認を行なう。
②
パーム油を扱う企業と商社は、取り扱うパーム油の生産が RSPO の原則の基準が守
られているかどうか、確認を行なう。その確認をするにあたり、必要だった場合は、
地元住民や現地の NGO 等から情報収集を行なう。
③
確認によって得た情報を消費者に公開する。
④ 生産者に RSPO 原則と基準を守ることを働きかける。また、RSPO 原則と基準を守
って生産を行っている生産者からの購入を優先させる。必要に応じて、生産者の環境
社会配慮の促進のための支援を行う。
例えば、生態系の保全や排水管理、廃棄物の有効利用などである。
⑤ 積極的に、RSPO など持続可能なパーム油の生産や調達を目指す会議に参加すること。
植物原料が一概に環境に優しいというような誤解を与えるような呼称は避けること。
(2)小売業・消費者・消費者団体・NGO への提案
①
関連企業に「企業への提言」のような行動をとるように働きかける。
②
「企業への提言」のような取組を行っている企業を積極的に評価し、優先的な購買
を行う。
(3)行政への提案
①
植物原料が一概に環境に優しいというような誤解を与えるような呼称は避ける。
②
今後予測されるバイオマス燃料の輸入拡大に先立ち、国産もしくは消費者地域産の
バイオマス燃料の優先、未利用部位や廃棄物等の利用促進、破壊的な農地開発の回
避、生産地及び加工過程における環境・社会影響のへの配慮が必要であることを明
確にする。これらについて検討と整理を行い、情報を出すこと。
③
急激なバイオマス資源の需要拡大に生じる可能性がある環境社会問題を回避・低減
するという視点にたって、持続可能なバイオマス資源利用を促進するための国際的
な議論をたてていく。
④
行政機関は使用する製品やサービスについて、②で述べたような考慮がされている
持続可能なバイオマス資源を積極的に採用する。
4フェアトレードの推進
27
バイオ燃料の普及は、環境破壊だけではなく新たな社会問題を引き起こしている。また、
自動車をはじめとしてバイオ燃料を主に消費するのは先進国である。このまま、バイオ燃
料が拡大することは、今の貧困問題を助長させる可能性が高い。これを克服するためには、
政府間における取り決めなど、国際的な取り組みが必要であろう。また、企業取引におい
てはフェアトレードを推進させることが重要である。フェアトレードとは、「貧困のない公
正な社会をつくるための、対話と透明性、互いの敬意に基づいた貿易のパートナーシップ」
を指す。
フェアトレードを確保するためには、まず生産者として意識を持つばかりではなく、関
係先の選定やビジネスモデルにおいて事前に十分話を持つことが必要である。また、それ
に関連し、フェアトレードに関心がある NGO に関与してもらうことも重要である。
4バイオ燃料の可能性
(1)有機物の有効利用
ガソリンの代替となるエタノールは、さとうきびやとうもろこしなどから作られている。
廃材を使った木質系エタノール生成も実用化がみえている。また、軽油の代替となるバイ
オディーゼル燃料はパーム油、菜種、ひまわりから作られている。理論的には、動植物由
来の有機物であれば、バイオ燃料が生成される可能性がある。
① 食べ残しの有効利用
現在、日本では食料自給率が低下しているにもかかわらず、食べ残しが問題となってい
る。廃棄食料の有効利用はさまざまな試みがなされているが、バイオ燃料への転換もその
一つの方法である。
② 昆虫・微生物の利用
植物とならんで、大量に飼育できるのは昆虫や微生物である。また、植物に比べて微生
物であれば、成長も早いはずであり、生産効率も高いと考えられる。これらから取れる有
機物の有効利用が考えられている。
(2)栽培面積の確保
① 遊休地・遊休耕地の有効利用
これは国内外の遊休地・遊休耕地を有効的に利用していく方法である。農林水産省によ
ると、2004 年度における日本の遊休耕地(耕作放棄地)は約 38 万ヘクタールとなってお
り、日本の耕地面積の 10 パーセントにあたっている。これは採算が合わない、農業従事者
が不足しているなどといった問題により放置されているものである。そのためには、バイ
オ燃料の採算性の向上や、NPO・市民団体といった新たな、かつ採算性を問わない従事者
による燃料植物の栽培が必要である。
28
② 都市栽培
バイオ燃料製造の採算性を上げるには大量の耕地が必要である。しかし、これをすぐに
確保するのは容易ではない。また、食料への影響、新たな環境破壊、新たな社会問題を引
き起こす可能性が高い。ならば、都市部であれば屋根の上に緑を植えて緑化したり、街の
花壇において燃料植物を栽培したりと、小さな規模でバイオ燃料をつくる。都市近郊にお
いてもわずかな面積を利用していく。
③ 3 次元モデル
耕地面積(2 次元)では、その栽培面積に限界がある。3 次元であれば有効面積(体積)
を広げることができる。植物であれば、建物の壁面や棚などであれば多段に作付けを行う
ことができる。また、微生物・昆虫を利用すれば飼育空間を立体的に利用可能である。水
生生物であれば、海洋や湖、沼などを利用することができる。
29
終章
パーム油の持続可能な開発のためには、世界全体で個人のライフスタイルや企業行動を
変えていかなければならない。バイオ燃料ならば、個人のライフスタイルでできることは、
自動車はバイオ燃料を使用するばかりではなく、家で使用するのは太陽光や風力といった
他の再生エネルギーを使うこと。また、自動車の運転においてもエコ運転をすることであ
る。また、バイオ燃料を使用する人やその他のエコロジーに努める人は、世間から尊敬さ
れ評価される必要があると筆者は考える。物の価値は人々が決めるものである。バイオ燃
料のブランド力を高めるのである。最近、エコセレブと称して、ハリウッドスターがハイ
オブリット車でアカデミー賞にあらわれると話題になっている。このように、社会的に尊
敬され、憧れをもつ人々や層にバイオ燃料を象徴して使ってもらい。そのイメージを、そ
のままバイオ燃料の消費者に与えられればいいと思う。
なにより重要なことは、人々の意識改革である。「地球に優しい」といった表現にながさ
れることなく、パーム油の生産地で起こっている問題を理解し、一人一人が環境保全に対
して自己でできることをする。その商品の利用自体を環境保全に対する自己目的とするの
ではなく、持続可能な循環社会を作るための手段として捉えることが重要である。それが、
生産者、需要者の企業や消費者の意識に根付けば、持続可能なパーム油の生産は可能であ
ると考える。
参考文献
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北沢洋子(1989)『暮らしのなかの第三世界』聖文社
桑野知章(2005)『油脂⑨』幸書房
桑野知章(2006)『油脂②』幸書房
桑野知章(2006)『油脂⑤』幸書房
桑野知章(2006)『油脂⑨』幸書房
Mac Mackay, Richard /[著] 武田正倫/訳 川田伸一郎/訳(2005)
『絶滅危機生物の世界地図』
丸善
岡本幸江(2002)『アブラヤシ・プランテーション
開発の影』日本インドネシア NGO ネ
ットワーク
岡本幸江(2004)『インドネシアの森は誰のもの?』日本インドネシア NGO ネットワーク
渡辺弘之(2002)『熱帯林の保全と非木材林産物』京都大学学術出版会
30
参考HP
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http://www.wwf.or.jp/
日本植物油協会HP
http://www.oil.or.jp/kyoukai/gaiyou.html
農林水産省HP
ライオンHP
外務省 HP
http://www.maff.go.jp/
http://www.lion.co.jp/index2.htm
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/indonesia/index.html
31
Fly UP