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平成21年度海洋研究開発機構研究報告会 JAMSTEC 2010 地球システムの解明に果たすJAMSTECの役割 平成22年2月24日 東京国際フォーラムホールB5 独立行政法人 海洋研究開発機構 平成21年度海洋研究究発機構研究報告会JAMSTEC2010 地球システムの解明に果たすJAMSTECの役割 13:0 0 −13:1 0 1 3:1 0 −13:4 0 開会 挨拶 ●海 洋 機 構 の 目指 す もの 今脇 資郎( JA M ST EC 理事) 【第 1 部 】 地 球 環 境 変 動 の 解 明 に 挑 む 13:4 0 −13: 1 0 ● ます ます 北 へ −海洋地球研究船「 みらい」 が拓く日本のための北極海研究− 猪上 淳 ( 地球環境変動領域 主任研究員) 14:1 0 −14:4 0 ●海 洋酸 性 化 と生物 圏 への 影響 豊福高志 ( 海洋・ 極限環境生物圏領域 チームリーダー) 14 : 4 0 −15 :10 休憩 ・ ポ ス ター セ ッシ ョン 【第 2 部 】 海 溝 型 地 震 ・防 災 研 究 の 最 前 線 ●東 海 、 東南海、 南 海地 震 の被 害 軽 減 を 目指 して 15:1 0 −15:3 0 15:3 0 −15: 5 0 −海溝型巨大地震・ 津波に備える地震・ 津波観測監視システムの開発− 金田 義行 ( 地震津波・ 防災研究プロジェクトリーダー) ●南 海掘 削 計 画 の進 展 斎藤実篤 ( 地球内部ダイナミクス領域 チームリーダー) 15 : 5 0 −17 : 25 ●パ ネ ルデ ィス カ ッシ ョン「 地震 ・ 防 災研 究 の最 前線 を 語 る」 司会: 平朝彦 ( J A M ST EC 理事) パネリスト: 越智 繁雄( 内閣府参事官( 地震・ 火山・ 大規模水害対策担当) ) 、 津田和夫( 和歌山県危機管理局長) 、 田村 和子( 科学ジャーナリスト) 、 金田義行( JA M S TEC ) 、 斎藤 実篤( JA M STEC ) 17:2 5 −17: 3 0 閉会 挨拶 ご挨拶 址立行政法人海洋研究開発機構は、昨年4月より第2期中期計画を開始いたしました 第1期中期計画では、地球を、海洋を中心とした1つのシステムとして保え、「海洋を通じ て地球を知る」ことをモットーに、地球環境変動の解明や海洋生命圏を理解するための研究開 発を推進して参りましたが、第2期中期計画ではこれをさらに進展させ、「地球を知る」とと もに「地球と共生する」ために、人類の生存にとって不可欠な、海洋が深く関わる諸問題の解 決に積極的に貢献していきたいと考えております 具体的には.第2期中期計画における当機構が果たすべき使命として、「海洋が関わる地球 環境変動、巨大海溝型地震、津波等海洋由来の自然災害、海洋・極限環境に広がる生物圏に関 する研究を肺進し、安全安心の確保や社会の発展に資する知見、情報を提供する」ことと「海 洋に開する研究を革新的に推進するための基盤技術の開発を進め、その活用を通して、国民生 活や産業の活性化に貢献する」ことを掲げました また、その達成のため、柔軟かつ効率的な 組織体制の整備、産学連携、理解増進、人材育成、業務の効率化等に取り組んで参ります 今回の研究報告会「JAMSTEC2010」は.第2期中期計画を開始して初めての成果報告とな りますが、副題のとおり「地球システムの解明に果たすJAMSTECの役割」として、「地球環境 変動の解明に挑む」、「海溝型地震・防災研究の最前線」という2部構成でご報告いたします 第1部では、北極海の海氷の減少、海洋の酸性化に関する最新の研究成果、第2部では、本年 1月から実海域ヘの敷設を開始した海底ケーブルネットワーク(DONET)の取り組み、世界初の ライザーシステムによる科学掘削を実施した南海掘削計画の進展についてご紹介します また. 第2部では、国や地方自治体の防災担当者、科学ジャーナリストの皆様をお招きして「地震・ 防災研究の最前視を語る」と題したパネルディスカッションを行い、地震・防災研究に対する ユーザーからの視点も交えてご議論していただきます. パネルディスカッションを通して.ユ ーザー、行政.研究開発主体の相互の理解を深めるとともに、頂載したご意見については、今 後の研究開発の進め方に反映させていきたいと考えております 当機構を取り巻く現下の状況は大変厳しいものがございます。政府全体では独立行政法人の 抜本的見直しが行われようとしておりますが、これらの状況を踏まえながら業務の合理化・効 率化をよりいっそう進めつつ、社会に貢献できる成果を上げられるよう努力して参ります 今後とも皆様のご支援ご協力を賜りますようお願い申し上げ、巻頭のご挨拶とさせていただ きます 独立行政法人海洋研究開発機構 理事長 加藤 康宏 地球システムの解明に果たすJAMSTECの役割 平成21年度海洋研究開発機構研究報告会JAMSTEC2010 目 次 ■海洋機構の目指すもの 理事 今脇資郎 4 第 1部】地球環境変動の解明に挑む ■【 ・ますます北へ ! −海洋地球研究船 「 みらい」が拓く日本のための北極海研究− 6 地球環境変動領域 主任研究員 猪上 淳 ・ 海洋酸性化と生物圏への影響 海洋・ 極限環境生物圏領域 チームリーダー 豊福高志 8 第2 部】海溝型地震 ・防災研究の最前線 ■【 ・ 東海、東南海、南海地震の被害軽減を目指して −海溝型巨大地震 ・ 津波に備える地震 ・ 津波観測監視システムの開発− 地震津波・ 防災研究プロジェクトリーダー 金田義行 ・ 南海掘削計画の進展 地球内部ダイナミクス領域 チームリーダー 斎藤実篤 10 12 ・ パネルディスカッション 「 地震 ・ 防災研究の最前線を語る」パネリス ト紹介 ■平成21年の主な成果 ・ 地球環境変動領域 14 16 ・ 地球内部ダイナミクス領域 20 ・ 海洋 ・ 極限環境生物圏領域 24 ・ 地震津波 ・ 防災研究プロジェクト ・IPCC 貢献地球環境予測プロジェクト 29 31 ・システム地球ラボプレカンブリアンエコシステムラボユニット ・ アプリケーションラボ 33 ・ むつ研究所 35 37 ・ 高知コア研究所 39 ・ 海洋工学センター ・ 地球シミュレータセンター 41 43 ・ 地球情報研究センター データ統合 ・ 解析グループ ・ 地球情報研究センター 国際海洋環境情報センター 46 48 ・ 地球深部探査センター 50 JAM STEC における知財活用の主な取り組み JAM STECの主要施設 ・ 設備 JAM STECの組織 賛助会員名簿 52 54 55 56 平成21年度海洋研究開発機構研究報告会JAMSTEC2010 海洋機構の目指すもの 理 事 今脇 資郎 独立行政法人海洋研究開発機構(以下「海洋機構」) 地球内部変動研究センター、極限環境生物圏研究セ は、2004年4月からの最初の「中期目標・中期計 ンターの四つの研究センターを改組して、研究部門 画」を、数々の成果を挙げて2009年3月に終了し、 に、地球環境変動領域(図1)、地球内部ダイナミ 4月に第2期の「中期目標・中期計画」をスタート クス領域(図2)、海洋・極限環境生物圏領域(図3) させた。文部科学省から示された中期目標では、 の三つの研究領域を設けた。各研究領域には、数個 「海洋機構は,海洋に関する我が国および世界にお の研究プログラムを設け(図の〇印付き研究課題が ける真の中核的研究開発機関たることを目指し、国 各プログラム名に対応)、さらに各研究プログラム 家基幹技術を始めとする海洋に関する基盤的な技術 のもとに、具体的な研究テーマを設定し、それを実 開発力や、海洋科学技術に関する基礎的な研究開発 行する研究チームを編成した。その際、研究プログ 力を着実に強化し、その成果を国民・社会に還元す ラムや研究領域を横断して連携する研究チームを、 ることを基本としながら、海洋に関する基盤的研究 研究者の自由な発意を尊重して設置した。研究チー 開発、それらに係る成果の普及および活用の促進、 ムは、今後の研究の展開に従ってフレキシブルに再 海洋に関する学術研究に関する協力、新たな海洋立 編されることになる。海洋機構全体の組織の概略は、 国を支える人材育成の取組等を総合的に行うことに この冊子の巻末に示されている。 より、海洋科学技術の水準の向上を図るとともに海 今回の組織再編では、このほか、巨大海溝型地震 洋に関する学術研究の発展に資する事業を重点的に のリアルタイムモニタリングシステムの開発や、 展開していくものとする。これらの事業により、地 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第5次 球温暖化等の地球環境問題への対応、地震・津波等 評価報告書への対応など、国などが主体的に推進す の自然災害による被害の軽減、知識の深化・拡大に る研究開発プロジェクトに貢献するために「リーデ よる社会経済活動の発展・国民生活の質の向上等に ィングプロジェクト」(組織)を設けた。また、こ 貢献することが期待されている。」とされている。 れまでの成果を統合し体系化するとともに海洋科学 その中で、海洋科学技術に関する基盤的研究開発で の新しい体系の構築を目指した研究や、研究開発と は、(1)地球環境変動研究、地球内部ダイナミク 社会との相互啓発および接続的連携によりイノベー ス研究、海洋・極限環境生物圏研究、および海洋に ションの実現を目指す研究などを実施するために 関する基盤技術開発の四つの研究開発プロジェクト 「ラボシステム」を導入した。さらに、海洋機構が からなる重点研究開発領域、(2)統合国際深海掘 取得した各種データやサンプル等に関する品質管理 削計画(IODP)の総合的な推進、および(3)研究 や保管・公開などを行うとともに、社会などのニー 開発の多様な取組の三つの目標が設定されている。 ズに応える付加価値型プロダクトを作成するために これらの中期目標の達成に向けて、海洋機構は 地球情報研究センターを設置した。 2009年4月に、特に研究分野に関する大幅な組織 そのほかの、海洋地球研究船「みらい」の母港と 改編を行った。すなわち、それまでの地球環境観測 しての業務と海洋物質循環の研究を行っている「む 研究センター、地球環境フロンティア研究センター、 つ研究所」、世界中で採取された海底コアの保管と コアサンプルの提供および地下生命圏 などに関する研究を行っている高知コ ア研究所、国家基幹技術など海洋に関 する基盤技術の開発や海洋調査研究船 の運航を担当する海洋工学センター、 地球深部探査船「ちきゅう」を運用し IODPの総合的な推進を担う地球深部探 査センター、世界トップクラスのベク トル型超並列スーパーコンピュータを 運用する地球シミュレータセンターな どは、これまでの事業を継続・発展さ せている。 海洋機構が2008年2月に策定した長 期ビジョン「海洋地球のフロンティア 図1:地球環境変動領域 への新たな挑戦」では、「海洋機構が対 象としている海洋および地球には、今 なお人類に残された大きな未知のフロ ンティアが広がっている。海洋機構は これまで、海を探り、地球を知り、さ らにはその未来を予測することを目指 した研究と、それに必要な技術開発を 積み上げてきた。今後さらにフロンテ ィアへの挑戦を続けていき、地球と生 命についての科学的知識を飛躍的に増 大させ、人類の行方の羅針盤を示し、 社会経済のありように資する知的貢献 をなすとともに、地球環境の保全、防 災、資源確保など人類の生存にとって 図2:地球内部ダイナミクス領域 不可欠な、海洋と地球に関わる諸活動 の推進に積極的に貢献したいと考え る。」としている。 海洋機構は、これまでの国からのサ ポートによって、7隻の大型海洋調査 研究船、地球深部探査船「ちきゅう」、 地球シミュレータなど、世界でも他に 類を見ない研究インフラストラクチャ ーを備えている。これらの優れたイン フラを、国内外の研究者とともに最大 限に活用して、「海洋地球のフロンティ アへの新たな挑戦」をモットーに、海 洋地球に関する研究開発において世界 をリードするCenter of Excellence(COE) になることを目指している。 図3:海洋・極限環境生物圏領域 「第1部」 ますます北へ! −海洋地球研究船「みらい」が拓く 日本のための北極海研究− 地球環境変動領域北半球寒冷圏研究プログラム寒冷圏気候研究チーム 主任研究員 猪上 淳 2009年9月、海洋地球研究船「みらい」はその観 したノルウェー砕氷船による航海でこれまで遭遇し 測史上最北の北緯79度にまで到達し、これまで経験 たことのない程の猛烈な低気圧が発達していました した中で最も寒い−10℃以下の環境で観測活動が行 (図2)。この高・低気圧のペアは場所こそ多少違い われました(図1)。厚い氷を割ることができない耐 ますが、夏季の海氷最小面積の更新年(2005年や 氷船「みらい」でも観測範囲をより北へ広げること 2007年)と類似した気圧配置だと言えます。実際、 が可能となってきたことは、裏返せば、海氷減少な 私たちが海氷上に設置した漂流ブイは上述の気圧配 どに象徴されるように、北極圏の気候が急激に変化 置によって形成される風系で9月中旬から急に動きが していることの表れとも言えるでしょう。 速くなり、ブイの一つは10月中に北極海から流出し ここ数年の北極圏の急激な変化には、高・低気圧 てしまいました。 活動が果たす役割が大きいことが分かってきました。 このような高・低気圧の発達・維持過程を観測す 夏季の高・低気圧活動が変調することによって、北 ることは時間・空間スケールの問題からこれまで困 極海上の特異な風系が海氷減少をもたらすこと、陸 難でした。しかし「みらい」の観測範囲が広がるこ 域での降水増加に伴う永久凍土の融解など、同時多 とにより、他国の砕氷船では不可能な「みらい」独 発的な変化が私たちの観測網で捕らえられています。 自の観測が実現し始めました。例えば、図3は2009 2009年も太平洋側の北極海では海氷上に停滞する高 年10月に観測された太平洋側北極海で急激に発達す 気圧が「みらい」に寒気をもたらした一方、大西洋 る小低気圧(Polar Low)の中心部をドップラーレー 側の北極海(バレンツ海)では当研究チームも参加 ダーによって捕らえた様子です。大気の状態(気温 図1:2009年9月20日。北緯79度での観測を終えて薄氷域を南下する「みらい」。北上時の航跡は結氷し始めていた。 や風速)と海洋の状態(水温や塩分)を同時に観測 測網を敷いて、中・長期的な環境変動の監視と実態把 することによって、このような擾乱がどのように発 握を行っており、北極海の観測もその一翼を担ってい 達するのか、海氷が無い暖かい海洋が露出すること ます。極域での観測は困難ではありますが、急激な変 によって発生しやすくなってきたのか、海氷が出来 化を把握するためにも観測基盤が必要不可欠な地域で づらい環境がさらに加速されるのか、などが鮮明さ す。「みらい」は北極海で海洋・大気を総合的に観測 れつつあります。 できる日本で唯一の研究船です。研究者のみならず、 太平洋側の北極海では海氷減少が顕著ですが、大 「みらい」に実装されている多数の観測機器、その機 西洋側でも海氷が少ない場所があります。それは前 能に熟知している観測技術員、研究者の意向に柔軟に 述のノルウェーとロシアが面しているバレンツ海で 対応できる船員、これらの連携によって「みらい」が す。ここは暖かく塩分の高い重い水が北極海へ沈み 担うサイエンスは今後ますます広がります。 込む海域として知られています。私たちの研究によ り、この海域の秋口の海氷面積が小さいと、東アジ アのその冬は低温化する傾向があることが分かって きました。これは結氷時期の11月を中心に海洋が大 気を急激に暖めることにより、シベリア上空を通過 するジェット気流を大きく南北に蛇行させ、北極海 の寒気がシベリア地方に流れ込みやすくなるからで す。日本への影響が大きかったのは2005/06年の 「平成18年豪雪」です(直前の北極海の海氷面積は当 時の最小値を記録)。2009年も北極海全体の海氷面 積は2007・2008年に比べて大きかったもののパレ ンツ海付近は小さい状態でした。2009年12月中旬は 西日本で平年よりも3度程度寒く、年末にかけては北 日本・北陸地方を中心に大雪に見舞われたことから 北極海の海氷の影響が現れている可能性もあります。 私たちが住む日本の気候は低緯度や高緯度の影響 を受けながら変化します。海洋研究開発機構地球環 図2:2009年の「みらい」とノルウェー砕氷舶「Lance」 (JAMSTEC研究者乗船)の航跡と、漂流ブイPOPSの軌跡。 海氷分布は9月20日、海面気圧は9月16日から10月15日 までの平均値。 境変動領域では陸域を含む熱帯や中・高緯度にも観 図3:「みらい」のドップラーレーダーによって観測された小低気圧 の中心部。場所はアラスカ沖。 図4:「みらい」による北極海上での高層気象観測。 「第1部」 海洋酸性化と生物圏への影響 海洋・極限環境生物圏領域 チームリーダー 豊福 高志 近年、大気中の二酸化炭素濃度が増加することによ る。海洋生物には、炭酸カルシウムを主成分とする殻 って、海洋の化学組成が変化し、そこに生息する生物 と生態系に深刻な影響を与える可能性が指摘されてい や骨格を持つものも多いが、pHの低下が進行すると 炭酸カルシウムの形成が抑制されるため、直接的に影 る。化石燃料を燃焼したときに生じる二酸化炭素の約 響を受けることが室内実験などで確かめられている。 4分の1は最終的に海に吸収されている。そして、海 一例を上げれば、有孔虫という原生生物は、海洋にお 水に溶解した過剰な二酸化炭素は、海洋が本来持つ緩 ける主要な炭酸カルシウムの生産者であるが、有孔虫 衝能力を超え、徐々にではあるが確実に海洋を酸性側 は細胞内のpHを上昇させて石灰化を制御しているこ とが最近の研究によって明らかになった(図1)。も へ変化させている。これを海洋酸性化と呼び、地球温 暖化と並んで、人為起源の二酸化炭素に起因する、世 界的な環境問題として注目を集めている。 これまであまり問題視されていなかったが、海洋酸 し海洋酸性化が進んだ場合、石灰化部位のpHをうま く制御できず、成長が阻害される可能性がある。また 深海におけるその場観察の結果、海洋酸性化の影響は 性化はすでに始まっている。海水を含む、水溶液の酸 性、アルカリ性は、水素イオン指数(pH*)で示され る。pHが7のときが中性で、これよりも低い値は酸 性、高い値ではアルカリ性である。現在の平均的な海 水のpHは約8.2で弱アルカリ性である。しかし、実 はこの値はすでに人類が排出した二酸化炭素を海洋が 吸収した結果、産業革命以前と比較して、約0.1低下 している。言い換えれば、現在の海洋は、産業革命以 前に比べ「酸性化している」と言えるのである。そし て現在、大気中の二酸化炭素濃度はかつて無いほどの 割合で年々増加しており、それに伴って海洋酸性化が 急速に進行することが懸念されている。IPCC第4次 報告によれば、2100年には海水のpHが7.6∼7.9程 度まで低下するという予測が報告されている。pHが 0.1低下すると海水中の水素イオン濃度は約1.25倍上 昇する。そのため、pHが0.3低下することは、海水中 の水素イオン濃度が現在の約2倍にもなってしまうこ とを示している。 海洋酸性化がこのまま進行すると、海洋の生物圏に も大きな影響を与えることが危惧されるが、当機構の 研究によってもその影響の一端が明らかになりつつあ 図1:有孔虫という原生生物が炭酸カルシウムの殻を石 灰化するときのpHの分布。蛍光指示薬を取り込ませ、 pH分布を可視化した。左斜め下の殻がつくられる部位 (上の写真では半透明に盛り上がって見える)でpH値が 高い(Toyofuku et al.,2009MS)。 殻を持たない生物へも波及することも予想されてい る(図2)。海洋表層には翼足類という小さな浮遊性の 巻貝が生息している。アカチョウチンクラゲという 種は、この貝殻の表面に付着して成長することが知 られている。もし、海洋酸性化が進行し、翼足類が 成長できなくなると、このクラゲも生育できなくな り死滅する。実は、このクラゲの成体には他の甲殻 *水素イオン指数 水溶液の酸・アルカリの程度は、水素イオン濃度によって 記載できる。例えば中性の場合の水素イオン濃度[H+]は 0.0000001(mol/L)=10−7(mol/L)となる。これでは煩雑であ るので、小数点以下の桁数が幾らであるのかを表すために、 [H+]の常用対数を負にした水素イオン指数pHとして、次式 で表される。 pH=−log[H+] このようにすれば、中性のpHは7として簡便に示すことが 山来る。 類などが生育するための住み処や、様々な生物の幼 生にとってゆりかごとなっている。そのため、クラ ゲが死滅するとこれら生物の生息も困難になる可能 性があり、ひいては生態系全体に負の連鎖現象が発 生することも予想される。昨年末には、北極海カナ ダ海盆域での観測の結果、海洋酸性化と海氷融解に よる淡水化の二重の影響によって、この海域では炭 酸カルシウムの殻を持つ海洋生物にとって石灰化が 困難な環境になっていることが発見された(図3)。 以上のように海洋酸性化は将来の出来事ではなく、 いままさに深刻化している現在進行中の環境問題で あることを浮き彫りにした。 2010年は国際生物多様性年でもあり、海洋におい ても生物多様性の理解とその維持が喫緊の課題であ る。海洋酸性化も海洋生物圏に影響を与えることが 懸念されているが、まだ解明されていない部分も多 い。今後、海洋観測=現場観察=室内実験を通してさ らに知見を蓄積し、海洋酸性化が生物圏に与える影 響を解明すると共に、どのような対策が可能である かという点についても積極的に貢献していきたいと 考えている。 図2:深海クラゲの生態とその役割。海洋生物が相互に依存 しながら生息していることがわかる。(Lindsay et al.,2008) 「第2部」 東海、東南海、南海地震の被害軽減を目指して −海溝型巨大地震・津波に備える 地震・津波観測監視システムの開発− 地震津波・防災研究プロジェクト プロジェクトリーダー 金田 義行 マグニチュード8を超える海溝型巨大地震。この 震では約32時間で東南海地震・東海地震が南海地 海溝型巨大地震は、多くの場合2004年のスマトラ 震に先行して発生)といった多様性が見られます。 大津波地震のように、強い揺れだけでなく大きな津 これらの地震は震源域が陸域に近いことから強い地 波を伴う事が知られています。日本周辺では、東海 震波はもとより、大津波も短時間で沿岸粋に襲来し 地震、東南海地震ならびに南海地震がその代表的な ます(図1)。 地震です。これらの海溝型巨大地震は、フィリピン では、次の南海トラフの海溝型巨大地震にどのよ 海プレートが西南日本下に沈み込むことにより形成 うに備えるか?これは日本の地震防災の最大級の課 された南海トラフ周辺を震源域とした地震で、その 題です。地震津波・防災研究プロジェクトでは、下 再来周期はおよそ100年から150年です。想定され 記の2つの地震研究プロジェクトを進めています。 る東海地震は東海沖から陸域に至る範囲が、東南海 第1は「地震・津波観測監視システムの構築」で 地震は紀伊半島沖熊野灘が、南海地震は紀伊半島潮 す。これは、東南海地震の震源域に地震計や水圧計 岬沖西方から四国足摺岬沖に至る範囲が震源域とし て考えられています。これらの地震の発生様式は、 を備えた稠密な観測点を構築するものです(図2)。 各観測点を海底ケーブルで繋いでリアルタイムで東 ほぼ同時発生(宝永地震:1707年)や、時間差発生 南海地震の震源域(地震の巣)で進行している様々な (1944年/46年の東南海・南海地震では約2年の 現象を捉え、これらの情報をもとに地震発生予測の 差をもって東南海地震が先に発生、1854年安政地 高精度化や、東南海地震が発生した場合に、早期に 図1:南海トラフ海溝型巨大地震震源域 地震や津波を検知することで、緊急地震速報への貢 る東南海地震震源域の掘削が実施されています。そ 献が期待されています。 の掘削坑内に観測装置を設置し、地震・津波観測監 平成22年度からは機能を向上させた「地震・津 波観測監視システム」を南海地震の震源域へ展開す る予定です(図3)。 視システムと繋ぐことで3次元的なリアルタイムモ ニタリングシステムの開発も進められています。 さらには、「地球シミュレータ」や「次世代スパ 第2は「東海、東南海、南海地震連動性評価研究」 コン」を用いた地震発生予測モデルの高度化や地 です。このプロジェクトは多くの大学や研究機関の 震・津波による構造物・都市の被害想定の予測精度 参加・協力のもとに、次の南海トラフ海溝型巨大地 向上が期待されています。 震に備えるため、理学的研究と工学的研究を連携し、 研究成果を実際に防災・減災施策に活用するための プロジェクトです(図4)。これらの地震研究プロジ ェクトは文部科学省からの委託研究として実施され これらの研究成果を総合化して次の海溝型巨大地 震に備えることが必要不可欠です。 「天災は忘れたる頃来る」(寺田寅彦)、がしかし被 害軽減は可也(金田私見)。 ています。また、地球深部探査船「ちきゅう」によ 図2:地震・津波観測監視システム (巨大地震の巣リアルタイムモニタリング) 図3:地震・津波観測監視システムの拡張 (将来のシステム整備構想) 図4:連動性評価研究プロジェクト概要 (地震発生メカニズムの解明から防災研究に至る研究 南海掘削計画の進展 −地震発生帯の理解へ向けて− 地球内部ダイナミクス領域南海掘削研究チーム チームリーダー 斎藤 実篤 阪神・淡路大地震から15年が経過した。この15年 5ヶ月間で7地点でのライザーレス掘削に成功した。 で地震・地殻変動観測網の整備、観測装置の進歩、 最大の成果は、津波の発生に関与する分岐断層を世 断層研究、地震理論など、地震に関する研究は大き 界で初めて貫通掘削し、ミリメートルスケールでの く進展し、GPSによる高精度地殻変動の検出や超低 活動的すべり面が特定されたことである。この分岐 周波地震領域の発見など目覚ましい成果が次々と生 断層は195万年以降現在まで活動が続いており、地 み出された。しかし、超深度掘削・断層直接観測に 震に伴う斜面崩壊の証拠も得られている。また、孔 よる地震準備過程の実像を得なければ、地震研究の 内検層により地震発生帯上方における応力方向が復 決定打は生まれない。 元され、地震準備過程における地殻浅部の応力状態 世界有数の海溝型巨大地震発生域である南海トラ フは、地震活動履歴が明らかであり、かつ地球深部 が明らかとなった。さらに熊野海盆南縁部での掘削 によりメタンハイドレート賦存層が同定された。 探査船「ちきゅう」で地震発生領域に到達可能とい う点で重要な研究対象となっている。1944年に発生 した東南海地震が今後30年以内に再来する確率は6 0%以上といわれ、南海掘削研究は緊急性の高い研 究プロジェクトでもある。 南海トラフ地震発生帯掘削計画(NanTroSEIZE)は、 紀伊半島沖の地震発生帯掘削による地震発生メカニ ズムの鮮明を目的としており、統合国際深海掘削計 画(IODP)の枠組みの中で2007年以降4段階(第1∼ 第4ステージ)に分けて実施される(図1、2)。 第1ステージの成果 南海掘削第1ステージは2007年秋に開始され、約 図1:南海掘削計画の掘削点と海溝型巨大地震(東南海 地震)の位置関係 図2:南海掘削計画の掘削測線断面図 が確認されると船上は興 奮と歓喜に包まれ、研究 者と技術者の士気は最高 潮に高まった。待ちに待 った玄武岩の回収の瞬間 である。 第322次研究航海は南 海トラフへ沈み込む前の 四国海盆の堆積物と基盤 岩の採取を目的とした約 40日間の航海であった。 図3:ライザーパイプを海中に降下する様子 四国海盆の堆積層はやが て南海トラフに持ち込ま れ一部は付加体を形成 し、残りは地下深部に持 ち込まれる。その初期状 態を知るために2地点で 図5:第322次研究航海で 得られた約20万年前の玄 武岩層と泥岩層の境界部 の掘削が行われた。第1 地点(掘削点COO11)で は、あと200mあまりを 残して目的の深度に達す 図4:孔内地震波探査を共同で実施するために海底地震計 を「ちきゅう」掘削海域周辺に投下する深海調査研究船 「かいれい」 第2ステージ第319次研究航海 ることができなかったが、第2地点(掘削点CO012) では海底下540m付近で見事基盤の玄武岩層と堆積 層の境界部に到達することができた(図5)。この玄 武岩層は海底下6km以深の地震発生帯に持ち込ま 2009年に実施された第2ステージの輝かしい成果 れると、深部流体の影響を受けて破壊し地震を起こ は、海洋科学掘削史上初のライザー掘削の成功であ すことが想定されている。東南海地震で破壊する岩 る。ライザー掘削技術とはライザー管による泥水循 石の初期物質を我々は手にしたことになる。今後の 環で地層圧をコントロールし、より安全日より深く 分析や実験によってこの地震初期物質の研究が多い 掘削することができる技術であり、第319次研究航 に進展することが期待される。 海で海底下1600mを超える深度までのライザー掘削 を達成した(図3)。この航海ではライザー機能を駆 今後の計画と展望−未知のプレート境界固着域へ 使した多くのチャレンジングな計測や実験が行われ、 2010年には南海掘削計画のメインターゲットであ ほぼすべてのミッションが成功した。循環泥水に含 る海底下7kmのプレート境界へ到達すべく、掘削点 まれるガスの採取・分析、地殻応力・水理試験、2 COO02でのライザー掘削がいよいよ開始する(図2)。 船式孔内地震波探査(図4)などである。本航海に この第3ステージには3年以上の年月を要し、孔内 より地震発生帯掘削研究は新たなフェーズへ突人し、 観測所の設置と海底ケーブルへの接続、地殻変動監 海底下7kmの大深度ライザー掘削による地震発生帯 視を行う第4ステージへ向け、南海掘削計画は正念 到達へ大きく踏み出した。 場を迎える。強潮流海域かつ変動地質帯という過酷 な条件のもとでの超深度掘削は容易ではない。学術 第2ステージ第322次研究航海 2009年10月2日午前3時。回収されたコアライ ナーが研究区画に搬送され、それが玄武岩である事 的に価値が高く緊急性の高いこのプロジェクトを必 ず成功させたいという強い使命感と熱意をもち研究 者と技術者が一体となって取り組んでいる。 第2部パネリスト紹介 パネルディスカッション 「地震・防災研究の最前線を語る」 司会 平 朝彦 海洋研究開発機構 理事 テキサス大学大学院博士課程修了。高知大学、東京大学海洋研究所を 経て、2002年から海洋研究開発機構地球深部探査センター長、さらに 2006年より理事を務める。現在、開発推進部門を担当。プレート沈み 込み帯における付加作用の研究で、2007年に日本学士院賞受賞。深海 掘削に長く参画しており、IODPと「ちきゅう」の総合的推進に中心的 な役割を果たしている。 パネリスト 越智 繁雄 内閣府政策統括官付参事官(地震・火山・大規模水害対策担当) 1983年建設省入省。建設省大臣官房技術調査室技術管理官、国土交通 省河川局治水課事業管理室長などを歴任し、2009年より現職。平成5 年∼8年にかけてJICAチーフアドバイザーとして中国へ派遣。東海地 震や東南海・南海地震、首都直下地震などの大規模地震対策、火山災 害、大規模水害対策などを担当。文部科学省の地震調査研究推進本部 専門委員、気象庁の火山噴火予知連絡会幹事などを務める。 パネリスト 津田 和夫 和歌山県危機管理局長 1974年和歌山県庁入庁。1995年の阪神・淡路大震災時、消防防災課 防災班長として支援を担当。2005年より消防保安課長、2007年より 総合防災課長を歴任し、2009年より現職。 パネリスト 田村 和子 科学ジャーナリスト 1962年お茶の水女子大学卒業後、社団法人共同通信社入社。社会部、 科学部記者、1989年科学部長、論説委員、1998年論説副委員長を歴 任し、2000年定年退社。2007年まで客員論説委員(生命科学、環境 防災科学、科学技術政策)、2004年より2008年まで京都大学、新潟 大学の経営協議会委員、2008年より大学共同利用機関法人自然科学研 究機構経営協議会委員、日本科学技術ジャーナリスト会議会員。 パネリスト 金田 義行 海洋研究開発機構 地震津波・防災研究プロジェクトリーダー 1979年東京大学理学部研究科大学院地球物理専攻修士課程修了、理学 博士。専門は地震学。海洋研究開発機構にて海溝型巨大地震研究を推 進し、地震津波・防災研究プロジェクトのプロジェクトリーダーとし て文部科学省から委託研究「地震・津波観測監視システムの構築」な らびに「東海、東南海、南海地震に関する連動性評価研究」プロジェ クトの指揮をとる。著書に「先端巨大科学で探る地球」(東東大学出版 会)がある。 パネリスト 斎藤 実篤 海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域 チームリーダー 海洋地質学者。1993年以来海洋掘削航海に7度参加し、海底の柱状試 料や孔内計測データを用いた地層解析により、世界各地の変動帯ダイ ナミクスを解明。統合国際深海掘削計画 (IODP)による南海トラフ地 震発生帯掘削計画では「ちきゅう」に2度乗船し、2009年には第322 次研究航海で首席研究員を務め、国際研究チームを指揮した。 平成21年の主な成果 地球環境変動領域(RIGC) Argo観測網で捉えられた太平洋低塩分化 2000年から開始されたArgo計画は、海洋の水温 す。海水温の上昇は、海水の熱膨張による海面高度 や塩分をリアルタイムで観測するArgoフロートを 全球に展開するプロジェクトです。フロートに装備 の上昇や海氷の融解を引き起こし、また台風活動に された浮き袋をふくらませたりしぼませたりするこ て、海洋上層での塩分も変化します。つまり海洋は、 とで浮力を調整し、浮き沈みを繰り返すことが可能 大気・海洋間の水循環・輸送の変化についても記憶 で、水温・塩分センサーを搭載し10日に1回水深 しているのです。 2000mから表層まで浮上しつつ観潮を行います。 得られたデータは衛星を経由して陸上に送信され、 Argoフロートデータを用いて表層塩分変動を調 査したところ、ここ30年ほどの間に表層の塩分が 品質管理を行いインターネット上で即時公開されて 大きく変化しており、元々塩分の高い海域ではより います。そのデータは誰でも無料で利用することが 高塩分に、低塩分の海域ではより低塩分になってい できます。国際協力のもと、現在3000台を超える ることがわかりました。海水は、主に降水・蒸発に Argoフロートが世界中の海で自動観測を続けてい ます。 よってその塩分が変わります。つまり、地球全体の 降水・蒸発の分布に変化が起こっていることになり 地球規模の気候変動に対して、海洋はとても重要 ます。例えば、熱帯域などの元々雨の多い地域では な役割を見たしています。これは、海洋は大気と比 雨が多くなり、雨の少ない海域ではより少なくなっ 較して蓄えている熱と水の量が非常に大きいためで てきているのです。日本の気候に強い影響を与えて す。特に、近年の温暖化に伴って生じた熱の大部分 いる北太平洋の亜寒帯域(40°N以北)でも顕著な は海中の中・上層部で吸収されると考えられていま 低塩分傾向が現れています。この海域は、元々降水 も影響します。一方で、降水・蒸発量の変化によっ 図1:2009年12月現在の全世界で稼働中のArgoフロートについて、投入した国別に色分けされ ている。稼動フロート数は3198本であり、27の国と地域で投入されている。日本の国別フロート 稼動本数は世界で2番目であり、Argo計画を主導する立場にある。(Argo Information Centerより) のほうが蒸発よりも多い海域であり、年間平均降水 水・蒸発量の差の約2%に相当します。また、これ 量と蒸発量の差は約700mmです。観測された塩分 の変化は、降水量の変化に換算すると、約12mm らの結果は地球規模での水循環が強まっていること を意味し、温暖化等の気候変動により降雨量が変化 増加したことを示しています。これは、年平均降 した可能性を示唆しています。 図2:フロートの観測サイクル。投入後、沈降、1000m での漂流、2000mからの水温・塩分観測(浮上上海面 通信の一連の仕事を、]0日間で1回行う。これを電池寿 命が尽きる(およそ3∼4年)まで行うことができ、1 つのフロートによって約150回観測を実施する。 図3:歴史的データ(1960−1989年)による全球表層塩分平均値(黒線)に基づき、Argoフロート データ(2003−2007年)による全球表層塩分平均値から求められた塩分偏差。寒色域は平均的な塩 分値より低塩分化している。北太平洋では全般的に低塩分化傾向にある(Hosoda et al.,2009)。 熱帯海洋研究における観測とモデルの協調 −インド洋ダイポールモード現象− 1.インド洋ダイポールモード現象とその予測 インド洋では、不規則ながら数年おきにインド洋ダ 連続して発生したIODの極めて希なケースも予測に成 功しています。 イポールモード現象(IOD)と呼ばれる現象が起こりま す。太平洋熱帯域のエルニーニョ現象(ENSO)に似て、 2.インド洋のブイ網による観測 これはインド洋東部(スマトラ島沖)の海面水温が低 現実の海では、IODが顕著に現れる東部インド洋に く、インド洋西部(アフリカ東方沖)が高くなる現車で、 おいて、係留ブイ網により海洋内部の水温や流れの変 5・6月頃発生し、10月頃に最盛期を迎え、12月頃 化の長期に亘る観測が続けられており、データは衛星 に減衰します(図1)。発生すると世界各地で大雨、早 経由でリアルタイムに得られ、IODに伴う海洋内部の 魃、猛暑などの異常気象を引起こす傾向があり、日本 変動もよくとらえています(図3)。特に、2006年と を含む東アジア域でもIOD現象が夏期の猛暑等の原因 2007年に共通するのは、IODが始まる8月頃より以 となることが示唆されています。実際、2006年の 前の5月頃に、海中では躍層付近で既に冷却が始まっ IODはアフリカ東部沿岸諸国で洪水、オーストラリア ており、これはIODの前兆現象の可敵性があります。 で早魃が起こり深刻な被害をもたらしました。 また、2006年のIODの海面水温低下の原因をさぐ 従来、その発生予測は困難でしたが、JAMSTECの るため、海面付近の混合層に着目してそこでの熱収支 先端的大気海洋結合モデル(SINTEX−F1)により2006年 を観測データから計算してみました(図4)。これによ 発生のIODは前年の11月の時点で発生の予測に世界 れば、この海域の海面水温は海面熱フラックス(海面 で初めて成功し(図2)、その後2007・2008年と3年 での日射・放射や大気との潜熱・顕熱の交換による熱 図1:上;典型的なIOD時(2006年8−11月)の海面水温 と海上風の偏差。スマトラ沖の2つの黄点は係留ブイ観 測点。下;赤い実線はIODの指標を示し、1を超えると 正のIOD状態(2006年1月∼2007年2月)。上図で東西 の四角い領域の平均表面水温(黒実線)で示しその差が IODの指標で、1を超えるとIOD状態となる。 図2:上;2006年7月にSINTEX−F1モデルを用いて行っ た同年9∼11月の平均的な海面水温偏差の予測結果。 下;人工衛星で観測された2006年8月未から9月初めに かけてのインド洋域での海面水温偏差。2006年のIOD 発生に伴い、インドネシアのスマトラ島、ジャワ島沖 で通常よりも水温が低下していることが観測されてい る(下図の黒線円内)。SINTEX−F1の予測結果は、同様 のIODの発生を精度良く再現している(上図の黒線円 内)。SINTEX−F1によるIODの発生は、2005年11月から 開始した予測結果にも現れていた。また、2007年およ び2008年にもIODが発生したが、これらもSINTEX−F1 は予測に成功している。 の出入り)により概ね決まりますが、IOD期間は、こ 一方で、モデルは観測網を設計する上でも不可欠に れと異なり水平移流が主要因となっています。すなわ なっており、モデル上でどの地点にブイを設置すれば ち、IOD時には他から冷たい水が運ばれて海面水温の 対象とする現象が最も効果的に把握できるかなど定量 低下が起きており、スマトラ沿岸で湧昇した冷水がこ 的な検討も可能となっており、モデルと観測の協調は の海域に広がり水温が低下する過程を示しています。 非常に密接になってきています。JAMSTECでは、モ これは、ラニーニャ時の東部太平洋で赤道帯の表層下 デル研究と観測研究の両者を精力的に行い、気候変動 の冷水が湧昇する鉛直熱輸送で海面が冷却される過程 予測研究の総合的な発展に寄与しています。 と異なる冷却メカニズムを示唆するものです(図5)。 3.観測とモデルとの協調 上記の解析はブイ観測のほか衛星等の観測データも 併せて総合的に解析していますが、観測から得られる 知見は、IODの発生メカニズムの理解を深めてくれま す。これ以外にも観測データに基づき熱帯域で顕著な 季節内変動や太平洋のENSOの影響も調べて理解を深 める必要があります。一方、予測モデルの結果を解析 したり、様々な条件下を変えて計算し、結果を検討す ることにより、IODの発生や衰退のメカニズムの詳細 を調べることが出来ます。また、これらの解析により 得られた知見をモデルに反映させれば、予測の信頼性 は向上すると期待されます。現在はモデルによる予測 実験結果の検証が、リアルタイムの観測データにより 可能になっており、今種の短期的な気候変動の予測研 究の著しい進展が期待されます。 図3:スマトラ沖(5S,95E)設置の係留ブイ観測による海 面下(海面−300m深)の水温偏差の時間−深度断面。 IODの前に起こる5月頃の躍層付近の冷却(緑破線)に注 意。上・下段はそれぞれ2006・2007年分(下段白抜き 部分は観測値のない部分)。 図4:スマトラ沖(5S,95E)係留ブイ観測等から計算され た海面水温の変化(黒実線)に対する各々の熱輸送過 程の寄与。上段;海面フラックス(赤い実線、ピンク の帯は誤差範囲)。中段;水平移流れの効果(緑の実践、 薄い緑の帯は誤差範囲)。下段;海面フラックスと水平 移流の効果の和(黒太線、灰色の帯は誤差範囲。上段 の図右上の矢印はIOD期間を示す)。 図5:太平洋のENSO(ラニーニャ時)とIOD(+)時の 赤道海域東部の海面冷却の原因の違いの模式図。上; ラニーニャ時は赤道帯で広く表層下の冷水が湧昇する 鉛直輸送が主。下;スマトラ沿岸で湧昇した冷水が水 平移流で運ばれ冷水域となる。 地球内部ダイナミクス領域(IFREE) 沈み込んだ太平洋プレートの断裂 た。本研究によってスラブも図2Bのように日本海 スタグナント・スラブ 溝−伊豆・小笠原海溝会合点の下で縦に裂けているこ 最大の海洋プレートである太平洋プレートは年間8 とが初めて明らかになった。 ∼10cmのスピードで西北西に移動し、その一部は千 島海溝、日本海溝、伊豆・小笠原海溝かち日本の下へ 裂け目の証拠 と沈み込んでいる。これらマントルへと沈み込んだプ それではスラブの裂け目が明らかとなった証拠を詳 レート(スラブと呼ぶ)は地震波トモグラフィーとい しく見ていこう。2つの地震学的証拠が矛盾なく裂け う手法によって可視化することができる。地震波トモ 告の存在を裏付けている。 グラフィーで得られる断層写真は地震波の伝わる速度 の違いを表す。地球表面で冷やされて内部に沈み込ん (1)トモグラフィーによる高速異常のすきまと、 だスラブは周囲よりも低温となり、トモグラフィーで 断裂面の発見 は地震波速度が平均よりも速い領域となる。 西太平洋域の地震観測網のデータを解析するなどし 日本の下へと沈み込んだスラブは、はじめは水平か て日本付近で地震波トモグラフィーの分解能を向上さ ら測っておよそ30∼45°の角度で沈み込んでいるが、 せた結果、日本海溝−伊豆・小笠原海溝会合点下の深 深さ500∼700kmに達すると折れ曲がりほぼ水平に伸 さ300∼350kmよりも深いところで、スラブを示す びている。水平に伸びた部分は地震波トモグラフィー によって初めて発見されて「スタグナント・スラブ 地震波高速異常のすきまがあることが分かった(図3 (滞留スラブ)」と名づけられた。本研究では、スラブ 参照)です。高速スラブは東から西に行くにしたがい が横たわる前に断裂を起していることを明らかにした。 深くなっている。東経139度ではほとんど裂け目は見 矢印)。図4は子午線にそった断面図(終始点は図3B られないが、深くなった東経137、135度では裂けて スタグナント・スラブの裂け目 いるのがはっきり分かる。 図1のように日本海溝と伊豆・小笠原海溝は「く」 斜めに沈み込んでいるスラブの内部では地震が起き の字型に曲がってつながっている。この曲がった海溝 るが、高速異常のすきまは過去に地震が起きていない から沈み込んだスラブもまた「く」の字型に変形して 「震源のすきま」と一致する。この「高速異常のすき いる。そのようなスラブが深さ500∼700kmで水平 ま」と「地震のすきま」の一致はその間にスラブがな に曲がるためには、会合点でスラブは裂けて隙間を作 いことを明確に示している。 る(図2A)はずだが、これまでその実態は不明だっ また、スラブが裂けてできた断裂面で反射した地震 図1:日本付近の地形図。日本海溝と伊豆・小笠原海溝は「く」の字に曲がってつながっている。 波が日本のHi−net地震観測網(防災科学技術研究所) によって捉えられた。これらの証拠は、スラブが日本 の下で滞留する手前で断裂していることを強く示すも のである。 (2)現在進行中の裂け目 沈み込むスラブ内で起こる深発地震の震源メカニズ ムからスラブ内の応力場を推測することができる。日 本海溝および伊豆・小笠原海溝から沈み込んだスラブ は全体的には沈み込む方向に沿った圧縮場になってい る。これは沈み込んだスラブが自重で下に落ちようと しているのに対して、深さおよそ700kmにある上部− 下部マントル境界で下部マントルへと沈み込むのを妨 げられているからである。しかし深さ350kmの裂け目 の先端付近では周囲と異なる震源メカニズムを示して おり、局所的にスラブの走向に沿った横方向の張力場 になっていることがわかった。このような地震が起き ているということは現在でもスラブの亀裂が進行して いることを意味している。先に述べたように「く」の 字に折れたスラブが横たわることにより断裂が起き、 裂けたスタグナント・スラブが別々の方向に進むとと もに裂け目が浅い方向へ伝わっている様子がわかった。 断裂スラブの発見は2009年5月には米国科学誌サ イエンスに掲載された。また、国内でも大きな反響を 図3:日本付近下のP波速度異常。暖色は低速異常、寒 色は高速異常を表す。地表で冷やされたプレートは高 速異常として表れる。紫点は震源を示す。矢印が見つ かったスラブの裂け目。(B)の直線は図4の断面の位置 を表す。 呼び、NHK科学番組「サイエンスZERO」の2009年科 学十大ニュースにも選ばれた。 図2:スラブの裂け目の模式図。(A)「く」の字に折れて いるスラブは水平に曲がるためには裂けらざるをえない。 (B)日本の下に沈み込むスラブの裂け目のイメージ。 図4:子午線にそった地表から深さ800kmまでの鉛直 断面図(位置は図3B参照)。スラブが裂けている部分を 矢印で示してある。 「ちきゅう」による南海トラフ地震発生等掘削 2009年までの成果と今後の展開 間隙率・地震波速度など)の現場計測を行う一方、断 層付近での地殻変動・地震活動・間隙圧など、固着 や地震発生機構に重要な影響を与える物理量の長期 遠州灘沖から四国沖の南海トラフは、フィリピン モニタリングを行うことが目的である。最終目標地 海プレートが西南日本弧の下に沈み込むプレート境 点は、紀伊半島沖合100km、水深2000m、海底か 界である。プレート境界をはさんで、両プレートが ら7000m下の、東南海地震の震源断層固着域であ 押し合っている状態であるが、境界をなす断層面の る(図1、図2)。 一部が固着、つまりピンで留めた状態になっている 地球深部探査船「ちきゅう」による最初の科学掘 ため、その周囲には特に歪が集中する。固着した部 削として、南海トラフ地震発生帯掘削の第一ステー 分が100−200年に一度「破壊」して歪が解消され、 ジ3航海が、熊野沖にて2007年9月から2008年2 マグニチュード8クラスの海溝型巨大地震が発生す 月までの約5ヶ月間実施された。付加体先端部デコ る。地震の発生−伝播−停止の過程は、地震波や津波 ルマ、地震断層から上方に分岐して海底に達する断 データの解析、岩石破壊実験、陸上での地震断層露 層浅部、そして熊野海盆上において、南海トラフ付 頭調査や掘削孔内での観測などから明らかにされつ 加体を横断して8サイトで掘削を行った。付加体で つある。 は砂泥互層が激しく変形・破砕しており、掘削や試 しかしながら、海溝型巨大地震発生の仕組みを理 料回収が困難であった。 解するためには、固着域そのものの精査が必須であ プレート境界から分岐して海底に達する断層を海 るとの認識に立ち、2003年に開始されたIODP(統 底下260−300mで貫通し、断層物質を採取した。断 合国際深海掘削計画)の枠組みの下、NamTroSEIZE 層をはさんで年代が逆転していること、また斜面堆 (ナントロサイズ;南海トラフ地震発生帯掘削研究) 積物の年代分布から、この断層の活動度を推定する プロジェクトが実施されている。掘削による地震断 重要な証拠が得られた。一方付加体先端部では、プ 層からのサンプルリターンと断層近傍の物性(密度・ レート境界と考えられる前縁断層を海底下400−438 図1:NanTroSEIZEによるこれまでの掘削地点。COO01∼COO08までがステージ1(2007年 実施)、COO09以降がステージ2 (2009年実施)。実線コンターは1944年東南海地震の震源 域(アスペリティ)。点線コンターは超低周波地震が起こると考えられている地域(Ito and Obaraによる)。矢印はフィリピン海プレートの本州に対する相対運動ベクトル。 mで貫通し、角礫岩や断層がウジが回収された。 地震発生サイクルを物理現象として理解するため 広域応力場を推定するため、孔内検層による孔壁 に、面的に展開した観測点を、本掘削プロジェクト 画像やコア試料解析を行った。その結果、現在活動 で設置する断層現場観測点と統合し、モデル化する 的な南海トラフ付加体内部の断層付近では、プレー ことが欠かせない。 ト収束の方向と最大圧縮の方向がほぼ一致している 今後は、2010年以降、約3年かけて、地震断層固 が、その陸側にあり現在は付加が起こっていない熊 着域(海底下7km)に到達し、断層岩採取、孔内物 野前弧海盆では、プレート収束の方向に伸張してい 性計測などを実施する予定である。さらに孔内長期 ることが分かった。 モニタリングを実現すべく、JAMSTECを中心として 2009年5月から10月までの5ヶ月間、Nan 開発が進行中である。 TroSEIZE第2ステージ掘削が実施され、プレート固 着域上部(図1のCOO09)へのライザー掘削が行わ れた。コアのみでなく、カッティングスによる年代 決定や層序学、泥水検層、孔内での間隙圧・応力計 測や2船によるオフセット・ウォータアウェイ式垂 直地震探査(VSP)、分岐断層浅部(COO10)での孔 内長期圧力計測の開始など、地震発生帯理解のため の新たな試みに挑戦した(図3)。さらに9月に実施 された掘削航海では、引き続いて、沈み込む前の物 質と状態把握のために、四国海盆上での掘削 (COO11,COO12)が実施された。COO12では、四国 海盆の堆積層だけでなく、その下の海洋地殻玄武岩 の採取に成功した。 掘削と平行して、付加体や地震発生帯の調査・研 究も進展している。例えば、国土地理院のGPSネッ トワークGEONET、防災科学技術研究所の孔内地震 ネットワークHi−net、海底での広帯域地震計による 機動観測などにより、周期10秒から1年以上といっ た長周期の変動が、固着域の周辺で時折起こってい ることが分かってきた。このようなネットワーク観 測を海底に拡張するため、DONETによる海底ケーブ ル観測網設置が現在JAMSTECにより進行中である。 図3:第319航海で実施された、オフセットVSP(垂 直地震探査)準備中の光景。手前はJAMSTECの調査 船「かいれい」で、東北大学所有の海底地震計を投 入するところ。奥が地球深部探査船「ちきゅう」。 デリック上部(高さ120m)が霞んでいる。 図2:熊野沖南海トラフ付加体・地震発生帯の地震探査断面とステージ1での掘削地 点。NT2−11B、NT1−01A、NT1−07Aは、それぞれCOO09,COO11,COO12に対応する。 海洋・極限環境生物圏領域(Biogeos) 海洋・極限環境生物圏領域は、旧極限環境生物圏研究センターおよび旧地球内部変動研究センターの一 部を母体として、2009年4月に発足した新しい研究領域です。「惑星地球、生命、環境が織りなす地球シ ステムの成り立ち、しくみ、そして進化を埋解する」ことを目標として、生物学、微生物学、化学、地球 化学、地質学を始めとする60人を超えるサイエンティストが海洋生物多様性研究、深海・地殻内生物圏研 究、海洋環境・生物圏変遷過程研究の3つのプログラムに所属して、研究を行っています。研究を通じて、 1)海洋を中心とした生物圏の構造・進化の解明 2)海洋・極限環境生物の生態・機能の解明 3)地球環境変動との相互作用の予測評価 4)生物資源の探索、産業への応用 を行い、人類社会に貢献することを目指しています。 海洋生物多様性研究プログラム 真核生物の起源に迫る 地球環境の変化が大きな問題となっています。生物 真核生物の細胞小器官は、原核生物が、真核生物の が環境とどのような関係を持って分布し、また環境を 祖先に共生することで成立したと考えられます。化学 変化させているのか、その影響は進化にどのように反 合成細菌がシロウリガイに共生するメカニズムをゲノ 映されているのか、ということを研究することは、環 ム解析から研究するなかで、この共生によって真核細 境の変化が将来、生物や生態系に与える影響を予測す 胞が出来たときと同じような現象(共生細菌のゲノム る上で重要です。海洋生物多様性研究プログラムでは、 の縮小進化)が起きたらしいことが分かってきました。 海洋とりわけ深海に生息する様々な生物に注目して、 生物の分布や量を決める要因や生物の多様性を生み出 すメカニズムを明らかにすることを目的に研究に取り 組んでいます。また、それらの研究を通じ役立つ機能 を有する海洋生物の利用を推進します。今年度の具体 的な成果の例を以下に示します。 中・深層生態系の多様性と環境変化 アカチョウチンクラゲの幼生は、浮遊性巻き貝の殻 (図、翼足類)に付着し、このクラゲ自身も他のクラゲ の幼生(図、ポリプ)や甲殻類の生息場所に利用されま す。海洋酸性化は、巻き貝の殻を溶解させ、これら生 物の絶滅連鎖を引き起こします。この生物間相互作用 は、化学合成生物群集にも見られ、生物多様性を支え るメカニズムとなります。海洋の重要性を、生物多様 性条約COP10などを通じ提示したいと考えています。 高圧環境への適応機構を細胞膜の物性から探る 高圧下における細胞膜の物性を、深海由来の好 圧性細菌と浅海の対照菌株とで比較しました。そ の結果、好圧性細菌では膜が剛直で圧力作用を受 けにくいのに対し、対照菌株の膜は高圧下で容易 に圧縮されることがわかりました。このことは、 膜構造の維持が深海環境への適応に重要である可 能性を示唆しています。 態系」に対して、生物学の枠組みを超えた多面的な学 術アプローチによる研究を展開し、その相互作用のメ カニズムについて解明しようとしています。また、こ の「暗黒の生態系」には、我々がこれまでに知らなか ったような微生物や生物、常識を覆すような化学反応 や生物機能が隠されています。これらの微生物や生物、 その機能を探索・開発し、有効利用に結び付けられる ような研究も推進します。 2009年度の成果概略: 深海は有用酵素の宝庫 深海生物から、新規のラムダカラギナーゼ、寒天 深海・地殻内生命圏研究プロジェクト 分解酵素(アガラーゼ)、トレハロースを合成する (i)1977年に東太平洋海膨にて、深海熱水活動が発見 されて以来、深海熱水系は、地球で最も活動的な 酵素系、難溶性物質を水溶性にする糖転移酵素など、 暗黒の生態系を支えていると考えられてきました。 多数の有用酵素を発見し、実用化を推進しています。 しかしながら一方で、世界中でどんどん新しい深 昨年度は、高分了DNAをアガロース電気泳動ゲルか 海熱水系が見つかるにつれ、それぞれの熱水系に ら高効率で回収するための耐熱性アガラーゼを(株) ニッポンジーンより製品化しました。 は、驚くべき程多様な微生物及び生物の生態系が 形成されていることがわかってきました。しかし その原動力についての一般解は、誰にもわからな かったし、わかるにはどうすればいいかも多くの 研究者は答えを持っていなかったのが現状です。 我々、深海・地殻内生命圏研究プロジェクトでは、 10年以上にわたって、新しい暗黒の極限環境生態 系を探索・開拓する一方で、その答えを模索しつ つ研究を行ってきました。その一つの一般解とし て、プレカンブリアンエコシステムラボラトリー と共同で、熱水系における暗黒の生態系の規模や 組成を決定づける最大の要因が、熱水に含まれる 無機還元物質と酸化的な海水との混合域における 深海・地殻内生物圏研究プログラム エネルギーポテンシャルであることを環境の解析 プログラム目標: 結果という証拠とともに示すことに成功しました。 「地球が生命に満ちあふれた肴有な惑星」に成り得 (ii)一方、地球最大の暗黒の生態系と考えられている た本当の理由は未だよくわかっていません。またその 本当の理由を知ることができれば、20世紀後半から、 深部海底下環境では、生きた暗黒微生物の活動は 極めて低く、直接的な証拠、特に生きた微生物の 我々現在に生きる人間にとっての大きな知的好奇心対 培養は、ほとんど成功していません。2009年度に 象となりつつある「太陽系を含めた宇宙における生命 は2年近く我慢して待ち続けた環境工学的フロー の可能性や存在条件」を明らかにする重要な手がかり リアクター培養法により、これまで培養できなか にもなるでしょう。我々、深海・地殻内生物圏研究プ った海底下メタン菌を初めとする地殻内微生物の ログラム(Extremobiosphere Research Program)は、 この命題に対して真正面から挑みたいと思います。深 培養に成功しました。海底下堆積物中に、莫大な 海・地殻内生物圏研究プログラムでは、これまで見過 ているのはよく知られています。またその多くは、 ごされる傾向にあった太陽光に依存しない地球深部に 海底下メタン菌によって作られたメタンであるこ 潜む「地球生命」相互作用システムに注目します。そ とも知られています。しかし、そのメタン菌がど れは、地球表層の豊かな生態系に対して、「暗黒の生 のような種類でどのようにメタンを作り出してい 態系」と呼ぶことができるでしょう。この「暗黒の生 るかは、そのメタン菌が培養できない限り、本当 エネルギー資源であるメタンハイドレートが眠っ の意味でわからないのです。我々の研究は、この に変えるのです。それによってセルロースを利用でき 分野の研究の未来の光になるでしょう。 る微生物の潜在能力を開拓する可能性が飛躍的に増大 しました。ナノセルロースファイバー培地によって、 環境メタゲノム解析研究プロジェクト 暗黒の生態系から多くの新規セルロース分解菌が分離 最近、メタゲノムという単語を耳にする機会がある されうる事が分かりました。これはセルロースからの 人も多くなってきたのではないでしょうか?これは、 バイオエタノールへの応用研究への道筋を切り開く画 従来の微生物学のように、微生物を実験室で培養分離 期的な成果と考えています。またその利用可能性が高 し、その性質を調べることで自然環境中での機能やふ く評価され、企業との共同製品開発を開始しました。 るまいを議論したり、使える機能だけ利用したりしよ うとするのではなく、「そんなことしてたら一体いつに 海洋環境・生物圏変遷過程研究プログラム なったら微生物の集団が理解できるかわかりません。 地球生物学研究チーム もっと近道があるはずでは?」という考えから編み出 生物地球化学研究チームでは、環境中に含まれる された、環境中の微生物のすべてのゲノムを解析して バイオマーカーと呼ばれる指標性をもつ有機分子を しまおうという方法論です。考えは素晴らしいですが、 用いた地球環境の研究をしています。これは、微生 いかにもアメリカ人好みの「まずはやってしまえ」的 物を含む各種生物の種類や機能に特異的な分子を探 な研究です。そういうわけで、なかなか見所はありま し出し、それを用いて地球環境に関わる様々な問題 すが、実際やるとなると多くも問題点が噴出してきま にアプローチするという新しい分野です。例えば、 す。我々環境メタゲノム解析研究プロジェクトでは、 海水中や堆積物中に含まれている有機分子は無数に 活動が極めて低く、生きた微生物の培養するのが極め あり、その多くが構造決定すらされていません。こ て難しい海底下暗黒微生物を理解する為、このメタゲ の「宝の山」から目的に合った有益な分子を探し出 ノムによる解析を目指していますが、クリアすべき問 し、そしてその生埋生態や生化学的な特徴を利用し 題を一つ一つ克服してきました。2009年度には、海底 た環境指標の開発を行うなど、新しい研究法や新た 下環境の環境メタゲノム解析から得られる大量の情報 な視点をもつ成果がどんどん生まれつつあるダイナ から、重要な原理をマイニング&アウトプットするた ミックな分野です。さらに分子生物学や生化学とい めの情報生物学的解析法をようやく形作ることができ った分野とクロスオーバーする分野でもあり、この ました。そのスキームに沿って、下北沖深部海底下堆 異分野間の交流が新たな可能性をさらに広げていま 積層の環境メタゲノム解析から、その海底下微生物圏 す。当研究チームではこの手法を武器にして、地球 のゲノミックス的特徴を見出しました。来年は勝負の 科学のさまざまな問題に焦点を当てて研究してきま 年です。 した。特に最近は 日光合成色素クロロフィルと、その分解生成物であ ソフトマター応用研究プロジェクト 暗黒の生態系には、我々がこれまでに知らなかった ような微生物や生物、常識を覆すような化学反応や生 物機能が隠されています。これらの機能を探索・開発 し、有効利用に結び付けられるような研究を掘り起こ すのがソフトマター応用研究プロジェクトです。 2009年度には、地球上最も大量に存在する未利用有 用物質資源であるセルロースのソフトマター研究を推 し進め、ナノセルロースファイバー培地を開発しまし た。セルロースが未利用である大きな理由は、勿論化 学物質としての頑丈さもあるのですが、実はそのファ イバーの大ききも大きな理由です。同じ植物でも藁は 腐りやすく、丸太は腐りにくいのと同じです。ナノセ ルロースファイバー培地は、化学処理により丸太を藁 るポルフィリンを用いた過去の光合成生物の復元 2)古細菌が合成するテトラエーテル脂質を用いた 地球深部生物圏の探査 3)アミノ酸の窒素同位体比を用いた食物網解析と, 海底下の微生物活動の評価 能で種々の環境情報を取得できる非破壊コアロガー “TATSCAN”シリーズ、また、岩石や化石試料からマ 4)バイオマーカーの放射性炭素年代,窒素安定同 イクロメートル単位の高分解能で化学分析用の試料を 位体比,炭素安定同位体比,水素安定同位体比 を用いた古環境の解明 採取できる高精度マイクロミル装置“Geomill326”、と などを行っています。生化学の知識を応用した地球 ち、高精度マイクロミル装置“Geomill326”については、 科学は、教科書すらない新しい分野で、広大な未知 JAMSTECの研究成果の付加価値として、また、技術開 の領域が残されています。 発の研究成果の社会貢献を推進するための一環とし いったユニークな研究開発を行いました。これらのう て、実用化に成功しました。現在の地球科学分野のニ 地層から読み解く地球生命圏史研究チーム ーズにマッチした技術開発成果として期待されます。 地層から読み解く地球生命圏史研究チームでは、主 に海洋掘削で得られた地層(コア試料)をもちいて、 地球生物学研究チーム:深海底における物質循環 高精度かつ新奇な分析技術による研究ツールの開発を 深海底は海底面の90%を占めることから、深海底 通して、従来の地球科学の枠組みにとらわれない新し で起きている諸過程は、地球表層の物質循環を考察 いサイエンスを推進しています。2009年は、コア試 する上でも重要です。これを担っているのは、微生 料を破壊することなくマイクロメートル単位の高分解 物・原生生物・多細胞生物などの底生生物です。底 生生物に消費されなかった有機物は砕屑物粒子と共 に埋没し、地層として固定されていきます。我々は 深海の堆積物−水境界における物質循環と生物活動 の関係を理解するために、堆積物断面の酸素濃度を 時系列的に観測する二次元酸素オプトード装置を開 発し、相模湾初島沖水深1,170mの海底に設置し、世 界的にも最長にあたる、2008年1月21月から1月 31日までの10日間、1時間間隔で観測を行いました。 装置の電源は、JAMSTECの初島ステーションから供 給し、ステーションからオプトードまでのケーブル 実用化に成功したマイクロミルシステム“Geomill326”. 民間企業および金属切削等他分野への応用が期待されて いる。 展長は、ROVハイパードルフィンを用いました。測 定の結果、海底の堆積物断面における酸素濃度のプ ロファイルは数時間のオーダーで変動していること 図a:水深2,000mまで設置可能な自作二次元酸素オプトードを搭載したランダー(着底装置)。深海ステーションから の電源供給を受けて、長期間(∼1年)に渡って深海堆積物断面の酸素濃度を自動的に記録することができる。図b: 相模湾初島沖深海ステーション近傍の水深1,170mの地点で6日間の長期観測を行った結果。堆積物断面の様子を白黒写 真で示し、その上に溶存酸素濃度を色で示した。右側カラーバーで示すとおり、赤いほど酸素に富み、青から黒にかけ て酸素が減少する。堆積物断面の赤い線は、6日間の観察期間中に移動したから生物の痕跡を示す。酸素が枯渇した場 所でも多くの生物が活動していることが観察によって立証された。 が明らかになりました。特にゴカイなどの生物活動 の影響は大きく、ポンプのように海水を堆積物中に 引き込むことが分かりました(図X−b)。また驚くべ き事に、酸素が検出されない深度(深さ10∼30mm) においても底生生物が活発に移動しています。これ までの継続的な観察結果から、海底の堆積物−水境 界では、化学環境が時間的にも空間的にも大きく変 動することが明らかになりつつあります。その変動 には生物活動も大きく関わっている一方で、化学環 境に応じて生物が適応しており、相互に影響し合っ ているという海底像が得られました。今後硝酸塩な どのプロファイルや、嫌気環境に生息し有機物消費 に貢献している微生物などの活性を明らかにし、堆 積均−水境界での環境勾配と、多様な代謝適応を明 らかにしていきます。 同位体生態学研究チーム:生物間相互作用の研究 海洋生態系はさまざまな生物群集から構成され ており、被食−捕食のような生物間の相互作用の上 に成り立っています。しかし、海洋の生態系を構 成する生物間の関係は大変複雑で、われわれは先 端的な安定同位体分析技術と生態・生化学・進化 生態学的な解析をあわせて行うことで、食物網構 造を中心とした海洋生態系の構造と海洋生物の共 生系の仕組みを明らかにすることを目指していま す。まず、海洋生物のアミノ酸の窒素同位体から 栄養段階を明らかにし、海洋生態系の食物網構造 を明らかにします。この解析により、複雑な海洋 生態系の物質循環解明に貢献できます。さらに、 遺伝子から代謝機能を推定するとともに、代謝物 質の流れを安定同位体から明らかにし、共生を介 した生態や進化を理解します。このような分析を 行うことで、被食−捕食による物質の流れや、共生 系内での物質のやり取りを理解し、海洋生態系を 構成する海洋生物の進化や共生現象を介した環境 への適応様式を明らかにすることができます。当 研究チームは、海洋生物多様性研究プログラム、 海洋環境・生物圏変遷過程研究プログラム、地球 環境変動領域の研究者で構成され、本年度から新 たにスタートしました。現在、化学合成生態系の シロウリガイやシンカイヒバリガイに関する研究 を開始しています。 複雑な食物網構造の解明 地震津波・防災研究プロジェクト 文部科学省は、これから30年以内に東海地震域でマグニチュード8以上の巨大地震が起こる確率が87%、 東南海地震は60∼70%、南海地震は50%と発表しています。そしてこれらの地震が連動して起きた場合の 被害想定額は日本の国家予算に迫る81兆円にも上ると見積もっています。海溝型巨大地震に如何に備える かは日本の最重要課題の1つです。 この問題に立ち向かうぺく、地震津波・防災研究プロジェクトでは国の要請を受け、地震津波の早期検 知を可能とするシステム開発、震源域の詳細な地殻構造の解明、地震発生のシミュレーション研究等を実 施しています。以下に、これらの研究開発の概要をご紹介いたします。 地震・津波観測監視システム(DONET) 平成18年度に文部科学省の委託を受け、東南海地震 学、東京大学、京都大学、名古屋大学、高知大学ならび に防災科学技術研究所等の連携により開始されました。 の想定震源域である紀伊半島沖熊野灘の海底に高精度な このプロジェクトでは、日向灘から東海域の南海トラ 地震・津波センサーを20基設置し、これらをネットワ フ全域に広く高密度に海底地震計を展開して詳細な地殻 ーク化した地震・津波観測監視システムを構築し、防災 構造の調査観測を実施し、南海トラフの地殻構造をモデ 減災に生かす地震研究に着手しました。 ル化し、コンピュータシミュレーションにより大規模な 平成22年1月より総延長250kmの海底ケーブルの敷 地震発生現象を高精度で再現する事を目指しています。 設および無人探査機によるセンサーの設置作業が始ま さらに地震に伴って発生する津波の予測研究も実施して り、3月末には試験的に運用を行い、22年強制こ全ての います。 センサーがネットワーク化され、本格的な運用を行う予 定です。 各センサーからのデータは、三重県尾鷲市古江町の陸 上局から専用回線で防災科学技術研究所、気象庁および 大学等の関係機関にもリアルタイムで送られ、緊急地震 速報や津波警報の高精度化、迅速化の実現および地震発 生予測モデルの高度化に役立つものと期待されています。 また、平成22年度からは第2期計画として、南海地 震の震源域をターゲットとした地震・津波観測監視シス テムの構築が始まる予定です。 東海・東南海・南海地震の連動性評価研究 平成20年度から文部科学省の委託を受け、東海地震、 東南海地震、南海地震が連動して起こる可能性の評価を 目的とした研究プロジェクトがJAMSTECの他、東北大 今年度の研究成果としては、南海トラフ西南端の不均 質性の発見により日向灘地震が南海地震に連動して起る 可能性が示唆された車が挙げられます。 また、このプロジェクトでは国、地域行政、ライフラ ンを設置し、地震、津波データは気象庁や防災科学技術 イン企業等が参加する地域研究会を開催し、研究の最新 研究所および各関係機関へリアルタイムでデータ配信を 知見を実際に防災減災施策に生かすとともに、地域から 行っています。これらの観測データはWEB上で一般にも の地震調査研究に対する要望、ニーズ等を汲上げる場と 公開しています。(http://www.jamstec.go.jp/scdc/を参照) して地域研究会を活用しています。 ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究 東北日本の日本海側や内陸には局所的に地殻の変形 が集中する「ひずみ集中帯」と呼ばれる地域が存在し ています。ここでは平成16年に新潟県中越沖地震、19 年に能登半島沖地震と新潟県中越沖地震など大きな被 害を伴った地震が発生しています。このため文部科学 省は平成20年度より、ひずみ集中帯の活構造の全体像 を明らかにし、震源断層モデルを構築するプロジェク トをスタートさせました。JAMSTECは、このうちの日 本海東縁部の地殻構造調査研究を担当しています。 長期孔内計測技術開発 地球深部探査船「ちきゅう」の掘削孔に地震計、傾斜 計、歪み計、温度計等の各種センサーを設置し、 DONETのネットワークに接続することにより、巨大地 震を発生させる海底下のプレート境界域の変動を長期に わたりモニタリングすることができ、地震発生時にはよ り早く地震に関する詳しい情報を得ることが可能となり ます。そのためには地上の一千数百倍の圧力と170∼ 180℃の過酷な環境でも長期間安定した観測を寛現する ためのセンサーやデータ伝送技術開発が不可欠です。 リアルタイム深海底観測システム フィリピン海プレートと北米プレートの境界域に当た る相模湾初島沖に、平成5年、地震、津波や海水温の他、 映像で海底の変化の様子を監視する「深海底総合観測ス テーション」を設置し、運用を始めたのを皮切りに、高 知県室戸沖、北海道釧路・十勝沖等にも観測ステーショ 海底に設置され、数ヶ月 にわたって自然地震、制 御地震を記録する海底地 震計 IPCC貢献地球環境予測プロジェクト IPCC貢献地球環境予測プロジェクトは、文部科学省の委託研究「21世紀気候変動予測革新プログラム」、 および環境省の委託研究「地球温暖化に係る政策支援と普及啓発のための気候変動シナリオに関する総合 的研究」の一部を実施しており、温暖化予測モデルの高度化、予測不確実性の低減、自然災害に関する影 響評価などの研究を行い、想定されるIPCC第5次評価報告書への寄与と、気候変動対応の政策へ科学的基 礎を提供することを目的としています。本プロジェクトの主な研究内容やこれまでの成果をご紹介します。 「地球システム統合モデルの開発」 「データ同化手法を用いた初期値化による 人為起源の二酸化炭素(CO2)の排出による地球温 暖化が進行しています。最近の研究では、今世紀中 近未来気候予測」 に大気中のCO2濃度を一定濃度に安定化することがで きたとしても、その後百年以上にわたって地球温暖 の気候を予測する実験が始まっています。気候モデ ルを用いた予測には不確実性がつきものですが、過 化とそれに伴う海面の上昇が続くと言われています。 去数十年における海洋の水温と塩分をモデルに与え また、地球温暖化が進めば、CO2を吸収する海面の条 件や、森林や土壌といった陸域生態系、栄養塩やプ ておき(データ同化)、実際に起こった変動を再現 ランクトンに関する海の生態系にも影響を与えるた と、異なる初期値から数回の予測を行い、誤差の幅 め、人為起源CO2排出量だけに注目していたのでは、 を統計的に処理する手法(アンサンブル予測)によ CO2の安定化は達成できない可能性があります。そこ で、地球システム統合モデル(図1)を開発して、西 り、不確実性の低減と定量化を図っています。 暦2300年までの地球温暖化予測実験を行い、CO2安 定化シナリオの下での、長期的な地球環境変化の予 では、PDO(Pacific decadal oscillation、太平洋十年規 模変動)と呼ばれる変動を5∼8年程度予測すること 測を試みています。また、大気中のCO2濃度を安定化 に世界で初めて成功しました(図2)。より高精度な させる上で許容される人為起源CO2排出量を評価しま す。地球環境変化予測の結果を用いて、予測の不確 手法の開発と高分解能気候モデルを用いることによ 定性の評価・低減のための実験や、自然災害分野へ 指して研究が続けられています。 高分解能の気候モデルを用いた20年から30年先 しておくことで予測の精度を上げる手法(初期値化) 分解能が比較的低い気候モデルを用いた先行実験 り、さらなる長期間の予測と地域的な気候予測を目 の影響評価を行う予定です。 「全球雲解像モデルによる現実的な マッデン・ジュリアン振動、台風の再 現と予測」 熱帯で発生する雲は大気大循環の駆 動源として地球全体の気候の形成に影 響を及ぼすなど、地球環境の決定に大 きな役割を果たしています。熱帯の雲 は組織化して、水平スケール10kmか ら数1000kmにおよぶ積乱雲、積雲ク ラスター等の階層構造を形成します。 また、熱帯の雲集団の中から熱帯低気 圧・台風が生まれ、世界各地に大きな 図1:地球システム統合モデルの概念図。 災害をもたらします。 地球温暖化予測に使われてきた今までの気候モデ ルは水平解像度が100km程度で、熱帯の雲を直接解 像することはできないため、「雪パラメタリゼーショ ン」という半経験的な手法に頼らざるを得ず、これ が気候予測の不確定性の大きな要因となっていまし た。このような困難を打破するために、われわれは 水平格子間隔を数kmとする全球雲解像モデル 「NICAM」を開発しました。NICAMでは、熱帯の雲 をパラメタリゼーションに頼ることなく直接解像し ます。 NICAMにより、熱帯の雲をまるで人工衛星の雲画 像のように忠実に再現することが可能になりました (図3)。個々の積乱雲から積雲クラスター、さらに従 来の気候モデルでは再現が難しかったマッデン・ジ ュリアン振動に伴う巨大雲集団までの熱帯の雲の階 層構造を、ほぼ現実に再現しました。また、熱帯の 雲集団から熱帯低気圧が発生する事例を現実とほぼ 同じタイミングで再現することができました。 NICAMは地球温暖化予測の不確定性の低減に貢献 することが期待されています。NICAMにより、将来 の地球温暖化時の雲や降水のふるまいについて、あ るいは将来の台風の発生数や強度について、今まで の気候モデルよりもより信頼性の高い予測結果を得 られることが期待されています。 図3:2006年12月29日0時の衛星画像(上)と同時刻 のNICAMによるシミュレーション結果(下)。マッデ ン・ジュリアン振動による雲活動や「イソベル」と名付 けられた台風がNICAMによって再現されている。 図2:(左上)PDOに現れる海洋上層水温分布。(右上)将来予測実験におけるPDO パターンに対応した位相変化。初期値化を行った場合は2005年以降正から負へ向かう 位相変化が予測された。(下)海洋上層水温の予測可能期間。青線で囲んだ部分は PDOの変動が大きい場所を示しており、5−8年程度の予測が可能であることがわかる。 システム地球ラボ: プレカンブリアンエコシステムラボユニット ラボ憲法前文: 「地球が生命に満ちあふれた希有な惑星」に成り得た真の原理を明らかにすることは、人類に共通 する最大の知的好奇心対象であり、「太陽系を含めた宇宙における生命の可能性や存在条件」を知る 最も重要な手がかりとなる。その原理の答えとして、地球と生命の誕生から初期進化過程においてす でに、地球と生命が「マントル−海洋大陸−大気−生命」、すなわち「地球−生命」、の相互作用システム 体として発生し、機能・進化し続けてきたことが挙げられる。その原始地球生命システムの初期進化 とは、原始地球環境の変動と生命を支えるエネルギー獲得系(代謝系)の相互作用の壮大な試行錯誤 (大実験)の歴史である。従来の地球科学分野の研究においては、地質(化石)記録が明瞭な多細胞 生物の出現とそれ以降の顕生代と呼ばれる過去約6億年間の「地球−生命」の相互作用システムにスポ ットが当てられることが多かった(例えば、カンブリア大爆発や大量絶滅)。しかしながら、「地球− 生命」の相互作用システムのほとんどあらゆるメカニズムは、6億年より遥か以前(先カンブリア代) に既に完成されていた。このメカニズムの進化こそ、「地域が生命に満ちあふれた希有な惑星」に成 り得た本当の理由であり、「先カンブリア大爆発」と呼ぶべき地球と生命の進化における最大の出来 事であった。 本研究プロジェクトでは、この原始地球生命システムの初期進化(先カンブリア大爆発)の解明を 目的とする。本プロジェクトでは、海洋の限定された場から始まった「UltraH3リンケージ」から、 汎地球的な海洋環境への進化・伝播過程(光合成システムの獲得とエネルギー代謝の多様化)に至る 先カンブリア代の全ストーリーを、海洋研究開発機構のもつ研究ポテンシャルを最大限活用し、解明 してゆくことを命題する。 深海・地殻内生命圏研究プロジェクト は地殻最深部や上部マントルにしか存在しないよう 現世の地球において、最古の生態系(ハイパース な超マフィック岩ではなく、当時の海洋地殻に豊富 ライム)がインド洋「かいれい」フィールドに生き に分布していたであろう「コマチアイト」が水素生 残っていると言う発見が2004年日本ラボラトリー 成を支えていたと予言した。「コマチアイト」によ の高井らによって発表され、その後、本ラボラトリ る水素生成は理論的には可能であることは間違いな ー創設時メンバーの間で、何故「かいれい」フィー いが、実際、太古の岩石「コマチアイト」を用いて ルドには生き残ったのであろうかという熱い議論が 水素生成を確かめた研究は皆無であった。プレカン 行われた。その議論のなかで出された一つの結論が、 ブリアンエコシステムラボでは、500℃、600気圧 「超マフィック岩(かんらん岩)−熱水活動−水素生成 まで高温高圧条件で熱水実験が可能なシステムを構 −ハイパースライム」リンケージというものの存在 築し、また、30億年前の噴出したばかりの新鮮な が必要条件ではないかというウルトラエッチキュー 「コマチアイト」の再生を行い、300℃、50気圧で ブリンケージ仮説であった。2006年に発表された 「コマチアイト」を3ヶ月以上熱水変質させた。反 この仮説には、約40億年前の最古の生態系誕生と 応中、生成された水素濃度を測定したところ、反応 繁栄について言及した冥王代・太古代モデルと、現 開始1ヶ月で、ハイパースライム形成に闘値と考え 世にまで存続を可能にした現世モデルについて言及 られる1mMを突破した。最終的には、3mM程度の したモダンリンケージの二つのモデルがあった。 水素を生成し、ハイパースライムを支えるに充分の 2009年度には、まず、「かいれい」フィールドにお 水素生成能があることが明らかとなった。これは、 けるモダンリンケージが証明された。詳細な海底地 冥王代・太古代ウルトラエッチキューブリンケージ 質観察や試料採取によって、「かいれい」フィール の正当性を証明する極めて大きな成果である。 ドに「かんらん石はんれい岩の熱水変質によって生 あとこれらの成果に加えて、2009年度は、招聴 成された高濃度の水素が熱水に供給され、その水素 研究員上野雄一郎氏による、「太古代地球大気にお によって超好熱メタン菌を一次生産者とするハイパ ける硫化カルボニルの知られざる大きな役割」につ ースライムが支えられている」ことが、地質・岩石 いての研究がPNAS誌に掲載されたり、しんかい 学と熱水化学の熱力学的シミュレーションの両面か 6500を用いたインド洋航海にて、インド洋3番目、 ら証明された。これは現世におけるウルトラエッチ 4番目となる新しい熱水活動域を発見したり、多く キューブリンケージの初めての証明である。 の成果を挙げている。また中村謙太郎研究員が日本 一方、約40億年前の最古の生態系誕生と繁栄に ついて言放した冥王代・太古代モデルでは、かんら ん岩やかんらん石はんれい岩といった現世の地球で 地球化学会研究奨励賞を受賞。吉崎もと子研究生が ポスター賞を受賞。華やかな成果が上がっている。 アプリケーションラボ(APL) アプリケーションラボは、研究と社会との相互的啓発及び持続的連携によるイノベーションの実現 を目的に、(1)「気候変動応用ラボユニット」を設置し、気候変動等の画期的な観測・予測・検証シ ステムの構築による気候変動・海流予測の応用研究ならびに情報の提供・検証に関する研究開発、 (2)全球雲解像モデルによる熱帯及び東アジア域での気象予測・応用情報の提供・検証、(3)対流 圏オゾン拡散モデル等による大気化学変動予測・応用情報の提供・検証から得られた研究成果を、社 会に広く、直接的に利用するための仕組みづくり含めた研究開発を推進しています。 APLは2009年度からスタートし、日本のみならず世界的な展開を含め、研究成果の応用、利用分 野を広げつつあります。今回は、本年度のハイライトとなる研究開発活動であるJST−JICA地球規模課 題対応国際科学技術協力事業プロジェクトとして採択された研究:「気候変動予測とアフリカ南部に おける応用」の概要をご紹介いたします。 気候変動予測を実社会に具体的に応用すること ます(http://www.jst.go.jp/global/index.htmlより抜 は、過去にIPCCレポートなどの策定を決定したこ 粋)。本プロジェクトは、南アフリカに焦点を当て、 とで知られる世界気候会議の第三回会議(2009年8 その特徴的な気候変動の予測や予測を担うモデルの 月ジュネーブにて開催)において決議声明として採 研究開発、さらに局所的な、例えばケープタウン域 択され、世界的に大変重要な注目を集めるテーマと やリンポポ域などの地域密着型の気象・気候変動予 なっています。この世界的展開は、APLの目的と軌 測モデルの研究開発、地球シミュレータを使用した を一にするものです。APLでは,これまでインド洋 先端的モデルの研究開発を、現地の研究者とともに ダイポールモードやエルニーニョの予測研究で世界 連携して推進するものです。また、現地における農 をリードしてきた研究成果を、日本のみならず、気 業試験所等との連携により、詳細な観測データを入 候変動リスクに対して脆弱な環境にある世界の様々 手し、それらを予測モデルの初期値として、あるい な地域の行政や産業活動、例えば農業、水管理等に、 は検証データとして用いることにより、予測精度の 実際に応用、利用するための研究開発を開始してい 向上を目指します。気候変動予測の成果は、携帯電 ます。 話やインターネットにより地域の住民、農業関係者 JST−JICA地球規模課題対応国際科学技術協力事 などに広く発信する予定です。プレトリア大学、ケ 業は、“開発途上国のニーズを基に、地球規模課題 ープタウン大学との連携も予定されています。学術 を対象とし、将来的な社会実装の構想を有する国際 的な共同研究に加えて、学生向けのレクチャーや研 共同研究を政府開発援助(ODA)と連携して推進し、 究者の相互交流も計画しており、人材育成支援に関 地球規模課題の解決および科学技術水準の向上につ しても積極的な展開を予定しています。 ながる新たな知見を獲得すること”を目的としてい 図1:基本的気候変動モードの発見とその予測、および社会へのデータ提供までの流れ 図2:気候予測データの様々な分野への応用可能性 むつ研究所(MIO) 海で起きている環境変化を探る本州最北端の研究所 今日、人間活動による地球の温暖化や化石燃料によって放出される二酸化炭素が海水に溶け、酸性化する ことによってもたらされる変化が危惧されています。青森県むつ市にあるむつ研究所(図1)では開所以来、 地球環境に関わる研究を行っている海洋地球研究船「みらい」の母港として「みらい」の活動を支援すると ともに海洋に関わる研究の普及に努めています。また、北太平洋の西部亜寒帯循環域において海洋表層の二 酸化炭素濃度および海洋中の炭素循環に関わる物質を測定し、その経年変化をとらえる試み(北太平洋時系 列観測研究)を行っています。2009年度からは北海道大学大学院水産科学研究院と連携してむつ研究所が 面する津軽海峡沿岸域水産業をはじめとする生活と直結した環境変化を捉える活動も始めています。 むつ研究所の研究活動 から中層において年々溶存全二酸化炭素濃度が増加 海洋の生物生産活動および大気−海洋間の物質交 していました。この増加速度のまま進むと冬季に大 換が活発である西部北太平洋に観測定点を設定し 気と接する表面の分圧と推測される表面混合層最深 (図2)、同海域の二酸化炭素吸収能力とそのメカニズ ム、海洋内での輸送過程の観測研究を行っています。 部の二酸化炭素分圧は2020年頃には約420μatmと なり、大気の二酸化炭素が現在の速度で増加した時 同海域は季節変動が非常に大きな海域なので様々な の分圧と等しくなることが予測されました(図4b)。 季節の海洋観測が必要です。そのため海洋観測船に また、時系列観測点K2に係留したセジメントトラッ よる季節毎の観測に加え、様々な自動観測装置、試 料捕集装置(セジメントトラップ、海水自動採取装 置)を搭載した係留系を設置し(図3a)、数時間から 数日の間隔でデータおよび試料の自動取得を行って います。また、観測の効率化を図るための手法開発 も同時に行っています。 研究成果 北太平洋時系列観測研究 陸上の植物と同じように海洋表層の植物プランク トンは光合成によって栄養塩(窒素)と共に二酸化 図1:むつ研究所外観 炭素を固定します。植物を動物が食べ、動物のふん や死骸が粒子(マリンスノー)になり炭素は時間を かけて海底に向かって輸送されます(図4a)。海洋表 層から深海まで様々な自動観測装置の結果から西部 北太平洋は基礎生産力に対する輸出生産力の割合 (輸出生産率)が他の海域に比べて高く、また表層で 固定された二酸化炭素が水平輸送されることなく深 海に迅速に輸送されていることが明らかになりまし た(図3b)。 定点観測から得られた溶存全二酸化炭素濃度を測 定・解析したところ表面混合層最深部(温度極小層) 図2:西部北太平洋亜寒帯循環域の時系列観測点K2とKNOT プに捕集された表層から中深層へ輸送される沈降粒 子を解析したところ粒子中のケイ酸塩(オパール) と炭酸カルシウムの比が年々減少している傾向が見 出されました(図4c)。 効率的な観測手法の開発 文部科学省の受託研究、地球観測システム構築推 進プラン「海洋二酸化炭素センサー開発と観測基盤 構築」により、全球の二酸化炭素の収支を明らかに するために1年間自動で観測可能な漂流型の二酸化炭 素センサー(図5a)を開発しました。平成20年5月 には本開発機器をラブラドル海に放流し、約半年間 の二酸化炭素分圧を得られることを示し、今後、全 球の直接観潮の可能性を示しました(図5b)。また、 国立極地研究所の協力により南極海、ケルゲレン海 台付近にも放流し、海氷の張り出し時期までデータ が取得されました。 図3:時系列観測点K2に設置された自動採水器と深度的30m の硝酸+亜硝酸態窒素の季節変動 a:時系列観測係留系 b:水深35mの硝酸+亜硝態窒素の季節変動とセジメント トラップに捕集された有機炭素フラックスの季節変動 図4:時系列観測点における温度極小層から 計算した冬季海水中二酸化炭素濃度分圧と沈 降粒子中のオパール/炭酸カルシウム (CaCO3)の経年変動[Wakita et al.,投稿中、 Honda et al.,投稿準備中] a:海水中の炭素輸送過程 b:冬季における大気中CO2と海水中CO2の 経年変動 C:沈降粒子中のオパール/炭酸カルシウム比 図5:むつ研究所によって開発された漂流型自動二酸化 炭素分圧測定装置とラブランドル海での測定結果 a:開発された漂流型自動二酸化炭素分圧測定装置 b:ラブランドル海での測定結果 高知コア研究所(KOCHI) 「コア試料」研究の世界的拠点としての躍進 高知コア研究所は、世界的に注目される研究成果をあげるとともに、世界3大コア保管施設の1つとし での役割を果たし、またIODP・JAMSTECコア試料キュレーション活動など、国際的な研究拠点としての躍 進を続けています。一方、地元中学校等への出前授業、施設一般公開および国立大学との合同シンポジウ ム等の多様な活動を通じて、研究活動が広く理解される「先端研究拠点」として活動しています。 地震断層研究グループ 南海・東南海地震発生メカニズムの解析を目指して IODP南海掘削計画により掘削された断層帯のコア 試料を用いて、断層帯の力学的性質の測定を行って います。また地下深部環境下の様々な岩石物性を測 定するための装置の開発にも取り組んでいます。 南海トラフの巨大地震発生帯直上域COO09サイトの掘削 孔のワイヤライン検層により、主応力方向は沈み込みプ レートの方向と一致していることが明らかになりました。 同位体地球化学研究グループ 海洋環境変動を知るための新手法の開発 生物炭酸塩(サンゴや有孔虫など)の高精度同位 体分析に基づき過去の海洋環境変動を明らかにする ための手法開発を行っています。 過去の海水温変動を推定するための新手法として炭 酸塩のマグネシウム同位体比に注目し、高精度分析法 の開発を行って、さまざまな炭酸塩を分析しています。 深海サンゴの分析結果からは、世界に先駆けてマグネ シウム同位体比の温度依存性を確認しました。 南海掘削試料を用いた室内摩擦実験の結果。分岐断層がデコ ルマと比較して地震時に滑る可能性が高いこと(図1)、断 層内部の間隙流体が地震滑りを促進させる効果があること (図2)が明らかになりました。 断層掘削孔内の応力測定 地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP南海掘 削第319次航海に参加して,孔内検層データやコ ア試料をフルに活用して地層中の応力状態の解明 を試みています。 炭酸塩と海水のマグネシウム同位体比 また、海洋のpHの指標となる炭酸塩のホウ素同位 体比を、高精度に測定する新手法を開発しました。 科学支援グループ 研究サポート技術開発 従来の方法に比べ数倍の精度で測定が可能になり、 研究環境整備や分析技術開発を適して、*高知コア 過去の海洋の酸性化と大気中のCO2濃度との関わり等 の研究への応用が期待されます。 センター内外の研究者が求める研究支援サービスを 提供しています。地球化学研究支援では同位体分析 手法を開発し、微生物研究支援では新たなDNA抽出 法検討をし、研究者への提供および学会での発表を 行いました。また、日本地球掘削科学コンソーシア ム(J−DESC)と協力し、 IODP研究者の乗船前 トレーニングや乗船 後の研究支援や若手 同位体測定用のホウ素試料(左図の丸の中)とサンゴの測定例 研究者育成のための コア解析スクールを コア同位体解析スクールの様子 地下生命圏研究グループ 開催しました。 自動微生物カウントシステムを構築、南海トラフ地 震発生帯掘削試料の微生物細胞を計測中 世界のキュレーション拠点との連携強化 海底下堆積物中に存在する微生物細胞の自動計数 世界中からの試料リクエストの評価、試料採取およ を行うため、スライド搬送装置を備えた顕微鏡シス び発送業務を滞りなく進めるなど、IODP世界3大コア テムを構築しました。昨年開発したDNA蛍光染色に 保管施設としての実績を国内外の研究者に示しました。 よる励起波長の特性に基づいて検出、計数する手法 米国の科学掘削船 と組み合わせ、南海トラフ地震発生帯掘削試料中に Joides Resolution号が 存在する微生物の数を計測中です。 実施した第323次公 開で得られたコア試 料のサンプリングパ ーティーを米国コア 管理乗船者と共同し て実施しました。 約40名の研究者が参加した Exp323サンプリングパーティー JAMSTECコア試料キュレーション −利便性の向上を目指して− 冷凍コアの無菌切断法の開発 JAMSTECの調査船舶で採取されたコア試料は高知コ 微生物実験用に冷凍保存してあるコアを融かすこ アセンターで保管・管理され、順次、一般への公開が となく、無菌的に切断する方法を開発しました。こ 進められています。現在、コア試料に微化石を用いた れにより、生物試料にダメージを与えることなくコ 堆積年代情報を加えることによって、利用者がこれら ア試料の分配、保管などを適切に行うことが出来る の情報を基にして、研 ようになりました。 究・教育をよりよく進 められるように計画し ています。また、コア 試料を用いた地下圏微 生物研究の発展を目指 して、試料の保管方法 の検討が進められてい 微生物研究向けサンプルの採 取・保管方法について、技術的 ます。 な検討を行っています。 *高知コアセンターは、高知大学海洋コア総合研究センターと海洋研究開発機構高知コア研究所が共同して運営している施設の愛称です 海洋工学センター(MARITEC) 海洋工学センターは、海洋に関係する先進的技術の研究開発、船舶・観測機器・研究施設設備の運用・ 管理・機能向上などの研究支援、及び、技術者の育成に関する活動を行っています。 基盤技術開発について ピュレータ技術について新機構ハンドの構造モデ ①次世代型巡航探査機技術の開発 ル設計、画像技術について全周囲画像システムの 長時間・長距離の自律無人航走が可能で、熱水鉱 性能特性試験を行いました。今後、開発した要素 床など鉱物資源の調査や資源探査装置等の搭載が可 技術を適用した大深度高機能無人探査機の実証機 能な次世代型巡航探査機の開発を実施しています。 建造を目指します。 21年度、動力源に関する開発として、高信頼高効 率燃料電池について1000時間にわたる長時間発電 ③先進的海洋技術研究開発 を実現しました。また通信技術について、音波が水 次世代の海洋観測・探査に必要な先進的基盤技術 中で有する位相共役波としての特性を利用した水平 の研究開発を実施しています。21年度、次世代海洋 方向300Kmの長距離通信に成功しました。また観 プラットフォームの構造材として炭素繊維強化プラ 測技術について、音波による広域精密観測が可能な スチックと金属の複合材料を利用した軽量かつ高強 合成開口ソーナーを開発し、自律型無人探査機「う 度な耐圧容器の試作、陸上と海洋をシームレスに繋 らしま」に搭載して深海底の明瞭な音響画像を捉え ぎ高度な遠隔観測を可能とする超高速通信・測位テ ることができま レメトリの研究開発、700mの距離を80kbpsの音響 した。今後、開 信号で通信する近距離高速通信の実験、深海生物追 発した要素技術 求調査ロボット「PICASSO」で撮影された海中映像 を適用した次世 を超高速インターネット衛星「きずな」を利用して 代型巡航探査機 リアルタイム中継する洋上船舶伝送実験、レーザー の実証機建造を を利用した水中 目指します。 次世代型巡航探査機 ②大深度高機能無人探査機技術の開発 通信の基礎研究、 アラウンドビュ ーカメラを応用 7,000m以深の大水深で海底探査など高精度な重 して周辺観察性 作業を可能とする次世代型の大深度高機能無人探 能を格段に向上 査機の開発を実施しています。21年度、大深度潜 させる研究等を 航に関する開発として、高強度浮力材の試作、母 行いました。 「きずな」で海上からつくばへ伝送 した無人探査機のカメラ映像 船と探査機を繋ぐ高強度軽量ケーブルの試作、水 中部の回転するケーブルドラムに用いる光ロータ 学術研究に関する船舶の運航等の リー・ジョイント 協力について の評価を実施し ました。また、 平成16年に東 京大学海洋研究 推進システムに 所から移管され ついて傾斜面走 た学術研究船 「白鳳丸」、「淡青 行推進モデルの 試験、作業マニ 大深度高機能無人探査機 丸」について、 「淡青丸」 研究船共同利用運営委員会が策定する計画に基づき、 す。自律型無人探査機「うらしま」は公募航海とし 運航・管理を行っています。21年度、「白鳳丸」はベ ての運用を開始しました。 ーリング海やインド洋からケープタウンにかけての 航海を含む258日の運航日数を、「淡青丸」は277日 の運航日数を予 定しています。 また観測技術員 を配置して両研 究船の観測等業 「しんかい6500」 務を支援してい ます。 「白鳳丸」 研究調査船、深海調査システム等の供用について ①研究調査船 研究調査船の「なつしま」、「かいよう」、「よこす か」、「かいれい」、「みらい」については、外部有識 者を含む海洋研究推進委員会が利用研究課題を公算 「うらしま」 して策定した運航計画に基づき、運航・管理を行っ ています。また、運航に際して必要な漁業関係者等 との調整、他国排他的経済水域内での調査許可取得 ③海洋観測ブイの運用 のための内外調整等を行っています。さらに、外部 西太平洋でTRITONブイ15基を、インド洋で小 資金による受託航海を実施する他、一般公開、体験 型・軽量タイプのm−TRITONブイ3基を運用し、取得 乗船を実施しています。成果報告会も毎年実施して したデータをイ おり、22年3月2日から2日間、東京海洋大学で ンターネット等 「Blue Earth′10」を開催致します。各船の21年度の運 で公開していま 航日数は、「なつしま」は285日、「かいよう」は す。21年度、極 288日、「よこす 域に近い南大洋 か」は265日、 で運用するブイ 「かいれい」は の開発に着手し 290日、「みらい」 ました。 m−TRITONブイ はチリや北極海 研究者および技術者の養成と への航海を含め 資質の向上について 250日を予定し ています。 「よこすか」 潜水業務者への潜水訓練、地球深部探査船「ちき ゅう」乗船者へのヘリコプター水中脱出訓練、海洋 潜水調査船や無人探査機などの機能向上に取組ん 技塾での支援技 術員への技術研 でいます。21年度、有人潜水調査船「しんかい6500」 修等、乗船研究 は耐圧殻内外の信号ケーブルを接続する光電気複合 者への洋上安全 コネクタの試験装備を行うとともに、推進用装置の 訓練を実施して います。 ②深海調査システム 応答性能を向上させるための改良を実施します。無 人探査機「ハイパードルフィン」は地震・津波観測 監視システムのケーブル展張に向けて準備を進めま 地球シミュレータセンター(ESC) 地球シミュレータセンターは、地球シミュレータを用いた研究部門である旧地球シミュレータセンター と、地球シミュレータやその他のスーパーコンピュータ・機構内各種業務システム・基盤ネットワークの 管理運用、地球シミュレータの利用推進を行う旧計算システム計画・運用部とがひとつになった組織とし て2009年4月に新たに誕生しました。 地球シミュレータについて 地球シミュレータは、2002年の運用開始から2 (Triad)per system(多重負荷時のメモリアクセス 速度)とGlobal FFT(高速フーリエ変換の総合性能) 年半の間、TOP500スーパーコンピュータランキン の2指標;実際のシミュレーション計算により近い グで1位に認定され、その性能によって地球科学な プログラムで性能を評価する)。 らびに関連科学技術の発展に多くの貢献をしてきま した。2009年3月には新システムへの更新が完了 マルチスケールモデリングの研究 し、131TFLOPS(1TFLOPSは毎秒1兆回の浮動小 地球上の気象や気候現象は、大気、海洋、陸面、 数点演算速度)の理論ピーク性能と高い実効性能で、 海氷、生態などの自然環境に加え、人間活動から排 様々な物理現象が複雑に絡み合う気候変動や地球温 出される多くの化学物質など、それらの複雑な相 暖化などの海洋地球科学分野を中心としつつ、産業 互作用を通して成り立っています。マルチスケール 利用等を含め幅広く研究開発に利用されています。 モデリング研究グループは、その複雑な現象を様々 地球シミュレータは、2009年のHPCチャレンジ なスケールで捉え、また或るスケールで起こる現象 アワードクラス1の性能測定で、世界第3位の性能 が別のスケールにおいてどのような影響を及ぼしあ を達成しています(4指標のうち、EP STREAM うかを考え、気象・気候現象の予測に向けたシミュ レーションの精度向上を目的に研究開発に取り組ん でいます。全球、日本領域、都市域など、それぞれ の目的と時空間スケールのシミュレーションが可能 な、かつ地球シミュレータを最大限に活用できる、 非静力学大気・海洋結合シミュレーションコード (MSSG:メッセージ)を開発し、応用に向けて 高精度化を進めています。 図1:地球シミュレータ(ES2) 地球シミュレータ ( E S) 地球シミュレータ (ES 2 ) (2 009 年3月運用停止) 総 CP U 数 総メモリ容量 5 1 20 C P U 12 80 C P U 10 T B 2 0T B 4 0T F lo p s 13 1T F lo p s 総 ス ト レー ジ 容 量 940TB 2. 0PB テープアーカイブ 容量 1. 8PB 理論性能 導入時 期 2002年 3 月 2009年 3月 図2:雲を構成するひとつひとつの粒子やそれらの衝突、 相変化を考えてシミュレーションにより再現された雲のよ うす。雲の詳細なモデルは降雨過程へ影響を与える。 高度計算表現法の研究 地球流体シミュレーションの研究 シミュレーションデータをグラフィカルに表現す 地球流体シミュレーション研究グループでは、気 る科学的可視化技術は、シミュレーションを視覚的 候変動とその予測可能性の理解を向上するためのシ に把握するための必要不可欠な手段です。シミュレ ミュレーション研究を行っています。 ーション技術と車の両輪の関係にあるこの可視化技 ここでは、大気の高低気圧擾乱や海洋中の微細な 術は、シミュレーション技術と同歩調で高度に発展 渦も表現できるほどの高解像度で20数年間計算し することが求められます。 た大気海洋結合モデルによるシミュレーション結果 高度計算表現法研究グループは、地球シミュレ を紹介します。モデルのシミュレーション結果は、 ータを用いた大規模シミュレーションによって得 丁寧に観潮データと比較しその精度と特徴が明らか られる膨大なデータを高速に可視化し効率よく有 にされて初めて、個々の現象を研究するための有効 用な情報を引き出すための、大規模並列可視化、 なデータとなり得ます。 仮想現実可視化(図3)、可視化表現法、および知的 図5に示したように、モデルは北太平洋の顕著な 可視化(図4)等の先進的な可視化手法の研究を進め 気候変動の一つである北太平洋十年規模変動を現実 ています。 的に再現することに成功しました。この気候変動は 十年規模で入れ替わる大規模な海面水温のシーソー パターンで特徴づけられます。すなわち北西太平洋 の日本東方海上が冷たい(青色の陰影)とき、アラ スカ湾から東部熱帯太平洋にかけての北米西海岸沖 図3:仮想現実可視化装置BRAVEによる地球ダイナモシミ ュレーションの3次元可視化の様子。仮想空間内でのリア ルタイム等値面再構成を実現させるために汎用GPU処理 (GPGPU)を併用して高速化を実現した。 図5:北太平洋十年規模変動のシミュレーション結果(左) と観測結果(右)の比較 図4:地球磁気圏MHD(磁気流体力学)シミュレーションによって計算された磁場構造の可視化。 知的可視化の代表的な手法であるビジュアルデータマイニングによって、地球磁気圏ダイナミク スに影響を与える特徴的な磁力線の自動的な抽出や、3次元トポロジーの分類を行っている。 の海域が暖かく(赤∼黄色)なります。またこのよ 新たな視点からの企業との共同研究 うな海面水温偏差は、冬季のアリューシャン低気圧 地球シミュレータセンター協力のもと、当機構地 の弱化を伴います。モデルと観測との良い一致は、 球内部ダイナミクス領域の阪口 秀チームリーダー 本大気海洋結合モデルが気候研究にとって有用な道 らと株式会社DNPファインケミカル(代表取締役 具であることを示しており、現在、当機構の地球環 社長 戸塚 巌男)は、平成17年度よりインキの 境変動領域や大学との協力のもと、精力的に解析が 複雑な運動をコンピュータヒに再現するための技術 進められています。 に関する共同研究を行い、このたび世界に先駆けて インキのシミュレーションソフトウェアのプロトタ シミュレーションの応用研究 イプを開発しました。 世界最高クラスの性能を持つ地球シミュレータの このプロトタイプにより、従来の数値流体力学的 産業界での研究・開発、設計・製造への活用を促進 手法では扱うことが困難だったインキの複雑な振舞 するため、文部科学省より補助を受けた先端研究施 いのシミュレーションが可能となり、印刷の品質管 設共用促進事業を実施しています。 理向上につながるとともに、地殻・マントルが連動 して流れたり割れたりするシミュレーション等への 産業利用の事例: JR東日本 新幹線の更なる高速運転を実現する 幅広い応用につながることが期待されます。 (6/18(木)プレス発表より) ためには、速度の約6乗に比例して増大する空力騒 音の低減が非常に重要な課題となっています。この 地球シミュレータの有償利用制度について 問題を解決するためには騒音の発生メカニズムその 地球シミュレータの成果は原則として公表されます ものを突き止め、解決する必要があります。図は、 が、成果を公表する必要のない有償利用制度を設けて 地球シミュレータによるPS207型パンタグラフの います。この制度では、ユーザのプログラム開発支援、 変動流速分布と表面圧力分布の計算例です。風洞実 チューニング等の技術支援も行っています。さらに、 験等では困難とされる詳細な音源部位の情報が得ら 地球シミュレータでのシミュレーションが当該研究・ れ、今後の低騒音化設計に役立てられることが期待 開発、設計・製造に適応するかの事前評価のための無 されます。 償利用制度(Trial Use)を用意しています。 図6:PS207型パンタグラフの計算例。赤い部分が大きな音源となっている事が分かる。 (平成20年度「地球シミュレータ産業戦略利用プログラム」利用成果報告書より) 地球情報研究センター(DrC) 地球情報研究センターは、JAMSITECが取得するデータやサンプル情報の管理・公開機能を整備すると共 に、データの統合により新たな価値を生み出す付加価値データや教育・研究および社会経済のニーズに対 応した実利用プロダクトの作成・提供を行うこととなどを目的に2009年4用こ発足しました(図1組織図 参照)。データ技術開発運用部は横浜研究所においてデータやサンプル情報の受領、保管、品質管理ならび に付加価値プロダクトの作成を、国際海洋環境情報センターは沖縄県名護市においてデータ・映像情報の 公開と理解増進活動を行っています。 データ技術開発運用部 データ統合・解析グループ 海洋データの管理・公開 2007年に制定した「データ・サンプルの取り扱 図1:地球情報研究センターの組織図 いに関する基本方針(データポリシー)」に従い、 JAMSTECの船舶・潜水調査船で得られたデータや 温・塩分や航跡データの新規公開なども行いました。 サンプルの管理・公開を着実に進めました。乗船研 また過去航海のクルーズレポートについてもサイト 究者向けにはデータ・サンプルの取り扱いをわかり での公開を進めました。サンプルについては、岩石 やすく解説したクイックリファレンスを作成しまし サンプルの管理・提供を実施している他、岩石の取 た(図2)。 得情報や分析データを公開するGANSEKIデータベー 船舶取得データについては、海洋基礎生産の品質 スを運用し、国際的なポータルサイトとの連携も開 管理済みデータの公開、潜水調査船の取得した水 始しました。堆積物コアサンプルについては高知コ ア研究所と連携してコアデータサイトにて分析デー タの公開を進めました。2009年は生物サンプルに関 する生物サンプル取扱細則の運用を開始し、JAM− STECの航海で取得した生物サンプルのメタデータを 新たに構築した海洋生物サンプルデータベースで公 開しました(図3)。潜水調査船が取得した画像につ いては深海画像データベースの機能を強化し、イン 図2:データ・サンプル取扱のクイックリファレンス 図3:生物サンプルデータベース デックスでの検索が可能となりました(図4)。 付加価値・実利用データの創生 JAMSTECの様々なデータサイトやデータベース 異種の地球観測データ、さらにはそれらとシミュ で公開されているデータやサンプルを一ヶ所でまと レーションモデルとを融合した統融合データベース めて検索するためのデータ検索ポータルについて とそれを用いた付加価値プロダクトの創生に取り組 は、海域に加えて観測期間や航海番号、観測項目な んでいます。現在は、海洋データ同化プロダクトと どとの組み合わせ検索ができるようになりました。 海洋低次生態系プロダクトの作成、海底観測網デー タと陸上地球観測データの融合データベース化、さ 海洋生命情報バンクの公開 海洋・極限環境生物圏領域海洋生物多様性研究プ らには、海洋低次生態系プロダクトと水産資源デー タの融合による実利用開発を進めています。 ログラムと協力して、深海生物に関する統合データ 提供サイト「海洋生命情報バンク(BISMaL)」を公 データ統合・解析システム 開しました。また、国際共同プロジェクト「海洋生 データ統合・解析グループでは東京大学からの受 物のセンサス(CoML)」等と連携して海洋生物情報 託業務としてデータ統合・解析システムを実施して システム(OBIS)とのデータ共有を準備しています。 います。これまでに気候変動分野での海洋再解析デ また、海洋生命情報バンクと海洋生物サンプルデ ータベースの連携を進めています。 ータ、水循環分野での氷河インベントリやアジア域 格子点降水量データセット、生態系分野での生態系 連動マップなどの試験的なデータセットを作成し提 供しました。また、ユーザアンケートを実施して利 用者のニーズの把握にも努めました。 現在は、東京大学に導入されたデータ統合・解析 システムに各種データを投入するための前処埋シス テムを構築するほか、投入用データセットの整備を 進めています。さらに、観測データと数値モデルを 用いて得られた海洋再解析データを用いて水産資源 管理情報を創生する技術について開発を進めていま す。たとえば、アカイカ卵稚仔の生残率を適水温域 と流動場の情報から視覚的に調べることができる粒 子追跡ツールを構築し、1月生まれと9月生まれの 挙動を比較することにより、1月生まれの方が生残 率が高いことを確かめました(図5)。 図4:深海画像データベースのインデックス検索画面 図5:粒子追跡で調べたアカイカ卵稚仔の生残率 (赤:卵稚仔の軌跡、水色:生残適水温域 左:1月生まれ、右:9月生まれ) 地球情報研究センター 国際海洋環境情報センター(GODAC) 1.国際海洋環境情報センターについて 地球情報研究センターの情報発信の拠点である国 際海洋環境情報センター(GODAC:ゴーダック)は、 沖縄県名護市豊原にあります。GODACの施設は、名 護市が推進する沖縄県北部地域での情報通信関連企 業の誘致、雇用創出及びマルチメディア分野の人材 育成促進を目的として整備され、JAMSTECが2001 年より運用業務を開始しました。2009年11月24日 には創立8周年を迎えています。 図1:GODAC外観 GODACでは、貴重な深海映像等の資料のデジタル 化、整理保存(デジタルアーカイブ)、Webによる 提供を進めるとともに、海洋科学技術の理解増進の ための施設・設備の無料開放や各種イベントの開催 を行っています。 2.デジタルアーカイブとデータ公開 JAMSTECが保有する「しんかい6500」などの潜 水調査船、無人探査機などにより撮影された貴重な 深海の映像をデジタル化し、関連情報や映像の説明 (インデックス)を付けて深海映像データベースで広 く公開しています。またJAMSTECが発行する「Blue Erath」などの刊行物や、航海報告(クルーズレポー ト)、潜水調査船の航跡図などのデジタル化・公開も 図2:深海映像データベースの公開映像 行っています。 2001年の開所以来、ビデオテープ約1万3千本分 の深海映像をエンコードし、映像アーカイブとして 保存しました。インデックスを付けて公開している 深海映像(図2)は約2万1千ショットとなってい ます。また、文書情報(約8万7千ページ分)のデ ジタル化・公開処理を行いました。 また2009年に公開された海洋生命情報バンク(図 3)への生物情報の登録を開始しました。さらに JAMSTECが採取した生物サンプルの取得情報を公開 する海洋生物サンプルデータベース(本年度に新規 公開)へ既存データの移行を実施しました。さらに 図3:BISMaLで表示した生物情報の例 JAMSTECが深海底から採取した岩石サンプルの取得 情報や化学分析データ等を公開する岩石サンプルデ ータベースの機能向上を実施しました。 3.沖縄県における海洋科学技術の理解増進と 地域貢献としての普及啓発活動 GODACでは、海洋科学技術の理解増進を目的とし て、講義室や映像システム等の各種施設・設備の開 放を行うともに、施設一般公開(図4)やセミナー (開所以来32回開催)を開催しました。 図4:施設一般公開の様子 来館者数は、2001年11月24日の開所以来、 2009年11月末現在で約9万1千人に達しています。 また、海に関する普及啓発活動として、ビーチコ ーミング、海洋観測実習、プランクトン観察などの 海洋教室(通算9回、2009年度3回)、夏休み・春 休み期間のうみの工作教室や、GODAC所有の水中T Vカメラロボット「ニライカナイ150」による操縦 体験などを実施しました。 さらに、沖縄のサンゴ礁海域の日々の姿を写真や水 中TVカメラロボットで撮影した映像などを公開し、 研究者だけでなく青少年や一般の方々にサンゴ礁を理 解していただくことを目的に開設した「サンゴ礁ネッ トワークWebシステム」(URL:http://coral.godac.jp/) で、現在までに約450件の写真や映像を公開すると ともに、子供向けのサンゴ礁紹介ページ「さんごき 図5:「さんごきっず」 っず」(図5)や、JAMSTECの研究成果である「石 西礁湖における調査・研究」ページを新たに開設し ました(図6)。 2009年度は、10団体25の職場体験学習・インタ ーンシップを受け入れるともに、子供の科学する力 を養成し、同時に子供を取り巻く大人の環境整備を 目的とした内閣府の「沖縄県子供科学力養成塾事業」 に協力しました。 図6:「石西礁湖における調査・研究」 地球深部探査センター(CDEX) 南海トラフ地震発生等掘削計画 ステージ2の成果 地球深部探査船「ちきゅう」は統合国際深海掘削 で計測できなかったような孔内での現場応力測定 や、ライザー掘削の特徴であるカッティグス(掘り 屑)やガスの分析なども、コア採取とは別に新たに 計画(1ODP:Integrated Ocean Drilling Program) の一環として、2007年9月より南海トラフ地震発 実施しました。 生帯掘削計画を実施しています。本計画では、東南 ●2船式地下構造探査の成功 海地震等の巨大地震震源と想定される紀伊半島沖熊 野灘の巨大地震発生帯を掘削し、地質試料の採取や 掘削孔内計測を実施することにより、プレート境界 断層における地震発生条件及び地震・津波発生過程 の解明を目的としています。本計画は全体を4段階 「ちきゅう」と深海調査研究船「かいれい」の2 船を用いた孔内地震波探査(VSP:Vertical Seismic Profiling)を実施し(図2)、孔井下に位置する地震 発生断層を孔内のセンサーで、はっきりと観測する ことができました。この孔内地震波探査から得られ (ステージ)に分け、ステージ1を2007年9月21 る知見により、掘削可能深度を超えた地震発生断層 日から2008年2月5日まで実施しました。本年度 は引き続きステージ2を図1の4地点(赤字で表示) の研究が可能となります。 において実施しました。 南海トラフ地震発生帯掘削計画ステージ2では、 2回の研究航海(第319次研究航海:2009年5月 10日∼8月31日、第322次研究航海:2009年9月 1日∼10月10日)を実施し、以下のような成果を 得ました。 1lODP第319次研究航海 ●科学掘削史上初のライザー掘削に成功 掘削地点NT2−11(巨大地震発生帯直上域)で、 図2:2船式による地下構造探査 科学掘削史上初となるライザー掘削により水深 2,054.0mの地点で、海底下1,603.7mまでの掘削に 成功しました。ライザー掘削機能を駆使し、これま 図1:南海トラフ地震発生帯掘削計画ステージ2掘削地点 ●巨大分岐断層の掘削とモニタリング 掘削地点NT2−01において、津波発生に関する主 要な断層である巨大分岐断層を、海底下約400mに おいて掘り抜きました。掘削孔は孔壁の保護(ケー シング)を施し、将来的な長期孔内計測の実施に向 けて、簡易計測装置を設置し、連続的な温度と圧力 の観測を開始しました。また、LWD(掘削同時検 層)により、広域応力場の推定も行いました(図3)。 2.IODP第322次研究航海 ●伊豆・小笠原弧からの火山性物質の供給を確認 およそ500万年∼1100万年前の地層から火山性 の粗粒堆積物が多数発見されました。これらの火山 性堆積物は、掘削地点から東方に位置する火山列 図3:プレートにかかる応力の分布 ●海底下を流れる2種類の「地下水」の検出 地層中に含まれる水を分析したところ、起源が異 なると考えられる2種類の流体を検出しました。 (伊豆・小笠原弧)から海底に広がる海底谷や海底 扇状地を経由して西方へ運び込まれたことを示唆し ています(図4の復元図参照)。 ●堆積岩と枕状玄武岩溶岩の境界層の採取 掘削地点NT1−01において、水深3,510.7m、海 底下540m付近で基盤の岩石(玄武岩層上部)の回 ●西南日本からの堆積物の供給を確認 中期中新世(およそ1100万年∼1600万年前) 収に成功しました。これらの岩石は、やがて巨大地 の地層に認められる砂岩は陸上起源の鉱物を多く るプレート境界部分の引っかかり(アスペリティ) 含み、さらにその下部には西南日本起源の厚い火 山性堆積物が堆積していました。このことから、 の一部になると考えらます。今後、これらの岩石の 岩石鉱物学的・物理的性質を解明することにより、 大量の堆積物が日本列島から供給されていたと考 巨大地震発生帯で起こる破壊現象の理解に大きく寄 えられます。 与することが期待されます。 震発生帯に持ち込まれ、地震発生の原因と考えられ 図4:掘削によって判明した掘削地点付近の形成史 JAMSTECにおける知財活用の主な取り組み 知的財産・産学連携の概要 知的財産の保有状況 特許 特許出願 中 知的財産収入の推移 国内 外内 73 15 56 84 商標 12 商標出願 中 8 − プ ログラム著作物登録 13 − 大学・研究機関との連携の状況 【連 携 大 学 院 】 ① 東洋大学 (工学研究科、生命科 学研 究科、 学際 ・融合科学研究科) ② 立教大学 (理学研究科) ③ 東京海洋大学 ( 海洋科学技術研 究科 ) ④ 明治大学 (理工学研究科) ⑤ 東京工業大学 ( 生命理工学研究 科、 総合理工学研究科、情報理 工学研究科 ) ⑥ 横浜市立大学 ( 生命ナ ノシステ ム科 学研究科) ※H 2 0 年度までは国際総合科学 研究科 ⑦ 東海大学 (海洋学研究科、海洋 学部 ) ⑧ 神戸大学 (理学研究科、 自然科 学研 究科、海事科学研究科) ⑨ 高知大学 (総合人間 自然科学研 究科 ) ⑩ 広島大学 (全研究科) ⑪ 九州大学 (総合理工学府 ) ⑫ 北里大学 (水産学研究科) ⑬ 東京大学 (新領域創成科学研究 科) ⑭ 東北大学 (理学研究科) ⑮ 横浜市教育委員会 (横浜市立横浜サイエ ンスフロンテ ィア高等学校) 機関 連携 】 A 会津大学 (地球シミュレータによる研究の地域社会への活用) B 神戸大学、兵庫県立大学 (次世代スパコンを用いた教育研究) C 九州大学 (海洋ロボットの研究開発と応用) D 宇宙航空研究開発機構 (データの相互活用) E 理化学研究所 (最先端・ 高性能汎用スーパー コンピュータの開発利用) F 海上技術安全研究所 ( 海洋研究開発分野) G 石油天然ガス・ 金属鉱物資源機構 (海洋資源分野) H 国立科学博物館、神奈川県立生命の星 ・地球博物館 (海洋生物データベース) i 産業技術総合研究所 (包括的協力) J 東京海洋大学 (海洋科学技術における連携教育 ・研究) K 日本分析センター (分析分野) L 東京等6 機関 (気候変動の影響に関する連携研究) M 北海道大学大学院水産科学研究院 (むつ研究所との包括的協力) N 横浜国立大学 (包括的協力) JAMSTECにおける知財活用の主な取り組み ∼海から見たイノベーション∼ 研究成果の実用化割例集 微少領域の地球科学から金属加工まで∼マイクロミルの実用化 サンゴの化石に含まれる有孔虫などの微化石を精密に取り出すために研究者が自ら 開発した装置を製品化した。島根大学との共同研究の成果であり、地元企業に実施許 諾している(特許第4203860号他)。 コンピュータ制御により、1/1000mm単位の切削加工が可能であlり、大学等の研 究機関向けに好調な売れ行きを見せている。 現在、金属やガラスなども加工できるように改良中である。 名 称:Geomill326 許諾先:合資会社いずもWeb 発売日:平成20年4月 開発者:海洋・極限環境生物圏領域 坂井三郎 深海バイオ研究から生まれた有用酵素とタンパク質大量生産技術 「しんかい6500」を用いて駿河湾水深2,406mから採取され茫海底泥から得られた 微生物より発見された耐熱性寒天分解酵素を遺伝子研究用試薬として製品化した。寒 天分解酵素と新たに開発したタンパク質大量生産技術を試薬会社に実施許諾している (特許第4334361号他)。 大きなDNA断片を損傷少なく容易に回収し、遺伝情報解析や機能解析を効率的に 実施できるため、大学等の研究機関向けに好調な売れ行きを見せている。 名 称:Thermostableβ−Agarase(耐熱性寒天分解酵素) 許諾先:株式会社ニッポンジーン 発売日:平成21年4月 開発者:海洋・極限環境生物圏領域 秦田勇二、大田ゆかり他 GPU用3次元超高速個別要素法プログラム「DEMIGLACE」 数値シミュレーションによる地殻ダイナミクス研究の成果から、GPU用3次元高速個別 要素法プログラムを開発した(特許出願中)。 本ソフトウエアは、従来GPU演算には不向きとされていた粒子計算のパイプライン処 理型超並列計算を可能としたものである。また、GPUは演算と可視化を同時に行うため、 これまでにスパココンを利用した計算では実現し得なかったステアリング機能を併せ持つ ため、手持ちのパソコンにGPUボードを追加するだけで、流体、固体にかかわらずあらゆ る物質の仮想実験をスパコン並みの演算速度で大規模長時間シミュレーションができる。 名 称:DEMIGLACE 販売元:JAMSTECよりプログラム等の実施許諾により提供 発売日:平成21年6月 開発日:地球内部ダイナミクス領域 阪口秀、西浦泰介 深海コンテンツの活用 有人潜水調査船で最も深く潜航できる「しんかい6500」や超高感度ハイビジョン 撮影が可能な無人探査機「ハイパードルフィン」、深海生物追跡調査ロボットシステ ム「PICASSO」などを保有・運用しており、世界有数の深海コンテンツを有してい る。このようなコンテンツを活用し、Blu−rayやDVDなどの映像作品、書籍、ゲー ム、模型などの制作に協力している。 また、深海の映像や写真などのコンテンツ自体の提供も行っており、テレビ番組 や雑誌、水族館や科学館等で活用されている(有償/無償)。 JAMSTEC 独立行政法人海洋研究開発機構 事業推進部推進課 JAMSTECの主要施設・設備 船 舶 地球深部探査船「ちきゅう」 海洋地球研究船「みらい」 長 さ 幅 :2 1 0 . 0 m :3 8 . 0m 舶 底 か ら の 高 さ :1 3 0 m 乗 員 数 :1 5 0 名 総 トン 数 :5 7 , 0 8 7 トン 長 さ 総 トン 数 乗 員 数 就 航 年 最 大 掘 削 水 深 :2 , 500 m ドリルス トリング長 :1 0 , 0 00m :2 0 0 5 年 就 航 年 支援母船「よこすか」 深海調査研究船「かいれい」 長 さ 総 トン数 乗 員 数 就 航 年 : 10 6 . 0 m :4 , 5 1 7 トン :6 0 名 : 19 9 7 年 長 さ 総 トン数 乗 員 数 就 航 年 海洋調査船「かいよう」 長 さ 総 トン数 乗 員 数 就 航 年 学術研究船「白鳳丸」 長 さ 総 トン数 乗 員 数 就 航 年 : 10 5 . 2 m :4 , 4 3 9 トン :6 0 名 : 19 9 0 年 海洋調査船「なつしま」 :6 1 . 5 m :3 , 3 5 0 トン :6 0 名 : 19 8 5 年 長 さ 総 トン数 乗 員 数 就 航 年 :1 2 8 . 5m :8 , 6 8 7 トン :8 0 名 : 19 9 7 年 : : : : 10 0 . 0 m 3 , 9 9 1 トン 8 9 名 19 8 9 年 学術研究船「淡青丸」 長 さ 総 トン数 乗 員 数 就 航 年 :6 7 . 3 m : 1, 7 3 9 トン :5 5 名 : 19 8 1年 : : : : 5 1. 0 m 6 1 0 トン 3 8 名 19 8 2 年 潜水船・探査機 有人潜水調査船 深海巡航探査機 3000m級無人探査機 7000m級無人探査機 「しんかい6500」 「うらしま」 「ハイパードルフィン」 「かいこう7000II」 最大潜 航深 度 乗 員 数 長 さ 空 中 重 量 :6 :3 :9 :2 , 500m 名 . 5 m 6. 7 トン 深海曳航調査システム 「ディープ・トウ」 最大潜航 深度 最 大航 走 距 離 長 さ 空 中 重 量 :3 , 5 0 0 m :3 0 0 k m 以上 : 1 0 .0 m :約 1 0 トン 最大 潜航深度 長 さ 空 中 重 量 長 さ 空 中 重 量 : 4 ,0 0 0 ・ ∼ 6 ,0 0 0 m : 3 .5 m :1 .0 トン 最 大潜 航 深度 :( ランチ ャー)1 1 , 00 0 m (ビークル) 7 , 0 00 m 長 さ、 空 中重 量:(ランチャー ) 5, 2 m 、5 . 8 トン (ビー クル) 3 . 0 m 、3 . 9 トン 施設設備 「地球シミュレータ」 最 大潜航深 度 :3 , 0 00 m :3 . 0 m :3 . 8 トン プ ロセ ッサ 数 ノ ー ド数 ピーク性能 主記憶容 量 ユ ー ザ デ ィ ス ク容 量 :1 2 8 0 個 :1 6 0 台 :1 3 1 テ ラ フ ロ ップ ス :2 0 テ ラ バ イ ト :1 . 5 ペ タ バイ ト 「潜水訓練プール」 「高圧実験水槽」 「超音波水槽」 「コア保管庫」 JAMSTECの組織 ■理事長 ■理事 ■監事 [研究部門] 地 球 環 境変 動領 域 開発・推進部門 海洋工学セ ンター 海洋環境変動研究プログラム 先端技術研究プログラム 熱帯 気候変動研究プログラム 応用技術部 北半球寒冷圏研究プログラム 研究船運航部 物質循環研究プログラム 地球シミュ レータセ ンター 地球温暖化予測研 究プログラム 情報システム部 短期 気候変動応用予測研究プログラム シミュレーション高度化研究開発プログラム 次世代 モデル研究プログラム シミュレーション応用研究開発プログラム 地 球 内 部 ダイ ナ ミクス 領域 地球 内部 ダイナ ミクス基盤研究プログラム 地球 内部 ダイナミクス発展研究プログラム 地球情報研究センター データ技術開発運用部 国際海洋環境情報センター 地球深部探査センター 海 洋 ・極 限環 境 生物 圏 領域 企画調整室 海洋生物多様性研 究プログラム 運用管理室 深海 ・地殻内生物 圏研究 プログラム 技術開発室 海洋環境 ・生物圏変遷過程研究プログラム IO DP 推進 ・科学支援室 環境保安グループ 地 震 津 波 ・防災 研 究 プ ロジ ェ ク ト 事業推進部 lP C C 貢献 地 球 環境 予 測 プ ロジ ェク ト 推進課 シス テ ム地 球 ラ ボ 広報課 国際課−ワシン トン事務所 プ レカンブ リアンエコシステムラボユ ニッ ト ア プ リケ ーシ ョン ラボ 気候 変動ラボユニ ッ ト む つ研 究所 研究 グルー プ 研究推進グル ープ 管理課 高知 コ ア研 究 所 研究 グルー プ 科学 支援 グループ 管理課 研 究支 援部 支援 第 1 課 支援第 2 課 図書館課 運営管理部門 経営企画室 企画課 技術企画室 報道室 法人統合準備室 総務部 総務課 人事課 施設課 職員サポー ト課 横浜管理施設課 東京事務所 法務 ・コンプライアンス室 経理部 経理課 財務課 契約第 1 課 契約第 2 課 安全 ・環境管理室 監査室 賛助会員名簿 独立行政法人海洋研究開発機構の研究開発につきましては、次の賛助会員の皆さまか ら会費、寄付をいただき、支援していただいております。(アイウ工オ順) 株 式 会 社 IH I J F E ア レ ッ ク株 式 会 社 株 式 会 社 アイ ・エイチ ・アイ マ リンユナイテッ ド 株 式 会 社 ジー エ ス ・ユ ア サ テ ク ノ ロ ジー ニ ッセ イ 同和 損害 保 険株 式 会 社 日本 S G I株 式 会 社 株式会社アイケイエス 財団法人塩事業センター 日本海洋株式会社 ア イ ワ 印 刷株 式 会 社 有 限 会 社 シス テ ム 技 研 日本 海 洋 掘 削 株 式会 社 株式会社アク ト シナ ネ ン 株 式 会 社 日本 海 洋 計画 株 式会 社 株 式 会社 ア サ ツ ー デ ィ ・ケイ 清 水 建 設 株 式会 社 日本 海 洋 事 業株 式会 社 朝 日航 洋 株式 会社 シ ュル ンベ ル ジ ェ株 式 会 社 社 団 法 人 日 本 ガ ス協 会 ア ジア 海 洋株 式会 社 株式会社商船三井 日本 興 亜 損 保 保 険株 式 会 社 ア ル フ ァ水 工 コ ン サル タ ン ツ 社団法人信託協会 日本 サ ル ヴ ェ ー ジ株 式 会 社 泉 産 業 株 式会 社 新 日本 海 事 株式 会 社 社 団 法 人 日 本 産業 機 械 工 業 会 株 式 会 社 伊藤 高壓 瓦斯 容器 製 造 所 新 日鉄 エ ンジ ニ ア リン グ 株式 会 社 日 本 水 産 株式 会 社 株 式 会社 エ ス ・イ ー ・エ イ 須賀工業株式会社 日本 電 気 株 式会 社 株 式 会 社 江 ノ 島 マ リン コー ポ レー シ ョン 鈴 鹿 建 設 株 式会 社 日本 ヒュ ー レ ッ ト ・パ ッ カー ド株 式 会 社 株 式 会 社 N T T デー タ ス プ リ ン グエ イ トサ ー ビ ス株 式 会 社 日本 マ ン トル ク エ ス ト株 式会 社 株 式 会 社 N T T デー タ C C S 住 友 電 気 工 業株 式 会 社 日本 無 線 株 式 会 社 株 式 会 社 N T T フ ァシ リテ ィー ズ 清進電設株式会社 日本郵 船 株式 会 社 株 式 会 社 M T S 雪 氷研 究所 石 油 資 源 開 発 株式 会 社 株 式会 社 間組 有 限 会 社 エ ル シ ャ ン テ 追浜 セ ナ ー ア ン ドバ ー ン ズ株 式 会 社 濱 中 製 鎖 工 業 株式 会 社 株式会社 O C C 株 式 会 社 損 害 保 険 ジ ャパ ン 東 日 本 タ グ ボ ー ト株 式 会 社 沖 電 気 工 業株 式会 社 第一設備工業株式会社 株 式 会 社 日立 製作 所 株 式 会 社 海洋 総合 研 究 所 大成建設株式会社 株 式会 社 日 立 プ ラ ン トテ ク ノ ロ ジー 海 洋 電 子 株式 会社 大 日本 土 木 株 式 会社 深 田 サ ル ベ ー ジ 建設 株 式 会 社 株 式 会社 化 学 分析 コ ン サル タ ン ト ダイ ハ ツ デ ィー ゼ ル 株式 会 社 株式会社フジクラ 鹿 島 建 設 株式 会社 大 陽 日酸 株 式 会 社 富 士 ゼ ロ ック ス株 式 会 社 株 式 会 社 川崎 造船 有限会社田浦中央食品 株 式会 社 フ ジ タ 株 式 会 社 環境 総合 テ ク ノ ス 高 砂 熱 学 工 業 株 式 会社 富 士 通株 式会 社 株式会社関電工 株式会社竹中工務店 富 士 電機 シ ス テ ムズ 株 式 会 社 キ ー ウ ェア ソ リュ ー シ ョ ンズ 株 式 会 社 株式会社竹中土木 物 産 不動 産株 式会 社 株 式 会社 キ ュ ー ビ ック ・アイ 株 式 会 社 地 球 科 学総 合研 究所 古 河 総 合 設備 株 式会 社 共 立 イ ンシ ュラ ン ス ・ブ ローカ ー ズ 株式 会 社 中国塗料株式会社 古 河 電 気 工 業株 式会 社 共 立 管 財 株式 会社 株式会社鶴見精機 古 野 電 気 株式 会社 極 東 貿 易 株式 会社 株 式 会 社 テザ ック 松 本 徽 章 株式 会 社 株 式 会 社 き ん でん 寺 崎 電 気 産 業 株 式 会社 マ リメ ック ス ・ジ ャ パ ン株 式 会 社 株式会社熊谷組 電気事業連合会 株 式 会 社 マ リン ・ワ ー ク ・ジ ャパ ン ク ロー バ テ ック株 式会 社 東亜建設工業株式会社 株 式会 社 丸 川 建 築設 計事 務 所 株 式会 社 グ ローバルオー シャンデ ィベ ロップメン ト 南海交通株式会社 株 式会 社 マ ル タ ン 京 浜 急 行 電鉄 株式 会社 洞 海 マ リ ンシ ス テ ム ズ株 式 会社 株 式 会 社 マ ル トー K D D I株 式 会 社 東 京 海 上 日動 火 災 保 険株 式会 社 三 鈴 マ シ ナ リー株 式 会 社 株式会社ケンウッ ド 東 京 製 鋼 繊 維 ロ ー プ 株式 会 社 三 井 住 友 海上 火 災保 険株 式 会 社 株 式 会 社 構造 計画 研 究 所 東 北 環 境 科 学 サ ー ビ ス 株 式 会社 三 井 石油 開 発 株式 会 社 神 戸 ペ イ ン ト株 式 会社 東洋建設株式会社 三 井 造船 株式 会社 広 和 株 式 会社 株式会社東陽テクニカ 三 菱重 工 業株 式 会 社 国 際 気 象 海洋 株式 会社 東 洋 熱 工 業 株 式会 社 株 式 会社 三 菱 総 合研 究 所 国 際 警 備 株式 会社 有限会社長澤工務店 株 式会 社 森 京 介 建築 事 務 所 国 際 石 油 開発 帝石 株 式 会社 株式会社中村鉄工所 八 洲 電機 株 式 会 社 国 際 ビ ル サ ー ビ ス 株 式 会社 西 芝 電 機 株 式 会社 郵 船 商事 株 式 会社 五 洋 建 設 株式 会社 西 松 建 設 株 式 会社 郵 船 ナ ブ テ ック 株式 会 社 相 模 運 輸 倉庫 株式 会 社 日油 技 研 工 業株 式 会社 ユ ニ バ ー サ ル 造 船株 式 会 社 佐 世 保 重 工業 株式 会社 株 式 会 社 日産 ク リエ イ テ ィ ブサ ー ビ ス レコー ドマ ネ ジメ ン トテク ノロ ジー株 式会 社 三 建 設 備 工業 株式 会社 ニ ッス イ マ リン 工 業株 式 会 社 平成22年1月現在 平成21年度 海洋研究開発機構研究報告会 J A M S TE C 2 01 0 地球システムの解明に果たすJAMSTECの役割 独立行政法人海洋研究開発機構 http://www.jamstec.go.jp/ 平 成 2 2 年 2 月 2 4 日 海洋研究開発機構