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世界の地域別水道事業民営化率
Ⅶ.国際化 水道ビジネスは、従来、世界的に見ても公共セクターが担ってきた。し かしながら、1989年の英国イングランド、ウェールズの水道民営化以来、 従来から公共からの受託の形で民間ビジネスが育成されてきたフランス企 業の活動と合わせて、国際マーケットが形成され、水道ビジネスの国際的 な動きが活発化している。 我が国の水道分野の国際的な活動は、政府開発援助(ODA)を中心に 国際協力の範疇で行われてきている。タイ、インドネシアなど東南アジア を中心に、資金面、技術面の両面から非常に深い関係を持つ国も少なくな い。 1.水道民営化の国際情勢 1989年のイングランド・ウェールズの上下水道事業民営化、フランスの150 年の公設民営方式の歴史などを背景に、英仏を中心に大規模民間水道企業が水 道事業の国際化、民営化を牽引する状況にある。 世界の地域別水道事業民営化率 欧州 英国 フ ラン ス ス ペ イン ド イツ ア フ リ カ ア ジ ア ・豪 州 日本 北米 中南米 チリ ア ル ゼン チン ブラジ ル 0 20 40 60 80 100 以下の出典より氏岡氏作成 英仏独:Finger&Alouche, Water Privatisation, p.192, 2002 スペイン:P.Bravo, Empresas Privadas con Sed de Agua, Su Dinero, No.176, 1999 中南米:D.Owen,Investing in Latin American Water Sector, Delphi International, その他:Financial Presentation by Vivendi Environnement (2001) 水道民営化状況は、地域的に大きな違いがある。現時点で完全民営水道事業 の形態が見られるのは、英国イングランドと米国のごく一部などに限定されて おり、様々な官民連携のビジネスモデルの進行を総称して水道民営化と解する のが妥当であろう。英仏に加え、イタリア、スペインなどで国際マーケットに 進出する水道企業(次図参照)が出てくる反面、エンロンの破綻(電力をスタ ートに上下水道、廃棄物処理等へ事業拡大)やウェールズの完全民営化からN PO管理の水道へ事実上の公営水道への転換、アトランタの水道事業の民間委 託の撤回などで見られるように、水道民営化の動きの揺り戻しによる公営化も 見受けられる。 世界の主要水道会社 起源 主要株主 供給人口 OND EO 仏 S uez (100 % ) 1億 2000万 人 V eo lia W ater 仏 V eo lia E n viron m ent(旧 V ivendi) (100 % ) 1億 1000万 人 T ham es W ater 英 R W E (100% ) 4300万 人 A gu as B arcelon as 西 O ndeo / S uez / E nd esa (24.3% / 1.5 % / 11.8% ) 3500万 人 SAUR 仏 B ou ygues (100% ) 3100万 人 U nited U tilities 英 ロン ドン 株 式 市 場 上 場 2800万 人 S evern T rent W ater 英 ロン ドン 株 式 市 場 上 場 2200万 人 A m erican W ater W orks 米 R W E (100% ) 1300万 人 A ng lian W ater G roup 英 ロン ドン 株 式 市 場 上 場 1200万 人 C anal de Isab el II 西 マ ド リ ー ド 市 (100 % ) 1200万 人 ACE 伊 ロ ー マ 市 / ミ ラ ノ 株 式 市 場 上 場 (51 % /4 9% ) 1200万 人 B erlinw asser 独 ベ ル リ ン 市 / V ivendi / R W E (50 % / 22 .5% / 22.5% ) 1100万 人 各社広報資料より氏岡氏作成 2.我が国の水道分野の国際協力 世界の水問題については、2000年9月の国連ミレニアム・サミットで採択さ れた「ミレニアム開発目標(Millenium Development Goals)」において、「環境 の持続可能性確保のため、2015年までに安全な飲料水を継続的に利用できない 人々の割合を半減する」という目標を掲げている。また、第3回世界水フォー ラムにおいて、日本の ODA による水分野協力の取り組みとして「日本水協力 イニシアティブ」を発表した。内容として、2003年度予算政府案において「水 資源無償資金協力」を創設160億円を計上、上下水道の大規模施設に低利子の 円借款(有償資金協力)を実施、2003年度以降5年間で上下水道分野の千人の 人材育成を柱に、日米水協力イニシアティブ、水分野での日仏協力などを挙げ ている。 このように世界的な水問題が取り沙汰され様々な国際宣言等がまとめられる 中、世界第2位の ODA 供与国である日本は、水供給分野においても各種方策 により ODA を実施してきている。具体的には、無償資金協力、有償資金協力 といった資金協力、資本整備の分野、開発調査、専門家派遣、研修受入等の技 術協力の分野に分類される。 我が国の水道分野の国際協力では、タイ、インドネシア、フィリピン、マレ ーシアなどの東南アジア、ケニア、エジプトで大きな実績がある。タイについ ては、バンコク首都圏水道の資金援助を我が国がほぼ全面的に担い、水道技術 訓練校の建設・運営、アジア工科大学等を通じた研究・教育レベルでの協力と 広範な範囲での協力関係を築いてきている。 ○水道分野・政府開発援助実績(平成9∼13年度) ・無償資金協力 89件 851億円 ・有償資金協力 40件 3900億円 ・開発調査等 100件 ・専門家派遣 159人 ・研修員受入 576人 (概況)我が国の飲料水・衛生分野の ODA 実績は、全 ODA 実績の約6%と、 DAC 加盟国でもオーストリア、ルクセンブルグに次いで高率となっ ている。飲料水・衛生分野の二国間 ODA で年間約10億ドル(供与額 ベース)と、この分野の世界全体の ODA 実績の約1/3を日本が担 っている。 3.WTO、ISO 等の動き WTO においては、サービス貿易の自由化が一つの焦点として議論されてい る。世界的に見て公共セクターによるサービス提供が一般的であった水道分野 は、サービス貿易の範疇で議論されることはなかったが、水道の国際民間マー ケットが拡大するなか、環境サービスの一つとして議論の対象とすべきとの提 案が EU を中心になされており、水道サービスを環境サービスのカテゴリーに 入れ議論するかどうかも含めて議論されているところである。 ISO においては、上下水道のサービス規格を策定すべく作業が進んでいると ころである。ISO は国際 NGO の一つであり、民間自身が民間のために民間規 格を作る機関として設立されているもので、ここで策定される規格も業界自主 規格との位置づけであるが、加盟国各国の規格(例えば JIS 規格など)策定に おいては ISO 規格を基礎とすること等が求められるものである。現在、用語、 上水道、下水道、顧客管理の4分野により作業が進められており、2006年7月 の発行を目指している。