...

7. 2 年目 平成 26 年度「スマイルキャンプ」の成果と課題 1 安心と協同

by user

on
Category: Documents
20

views

Report

Comments

Transcript

7. 2 年目 平成 26 年度「スマイルキャンプ」の成果と課題 1 安心と協同
7. 2 年目 平成 26 年度「スマイルキャンプ」の成果と課題
1 安心と協同について
日常を離れて自然の中で過ごすキャンプにおいて、子どもたちの「安心」をどう作ればよいか。
それは、キャンプ当日よりずっと前から始まっている。チラシを見たり、知り合いに聞いたりして問い
合わせて来る方は、いろいろなためらいを抱えている。参加申し込みをした後も家族総がかりで子ども
の身体的・心理的準備が必要になってくる。初めての参加であれば尚のこと、
「キャンプ中、辛くなっ
たら途中でも帰れる」という保証がないと参加できない子もいる。参加者には、事前調査票を書いて返
送してもらうが、健康状態はもちろん特性や要望等に関しても記入する欄を設け、電話での追加聞き取
りも行い、質問や心配な点についてはできる限り把握して対応を考えた。
事前調査を踏まえて、担当メンタルフレンド(以下MF )やグループ編成について実行委員と相談し
ながら決めると、MF の顔写真入りの手紙で「会えるのを楽しみにしています」と子どもへメッセージを
伝えた。プログラムの流れをすごろく風にしたプリントや宿泊するバンガローの内観・外観の写真等を
添えた案内文も、初めての場所をイメージする手がかりになるよう郵送した。
キャンプ当日、保護者と一緒に到着した子どもたちは、初めて担当のMF と出会う。MF は子どもに
合わせてボールで遊んだり砂浜に下りて行ったりする。この緩やかなスタートが大切で、車から下りて
来ない子がいた場合も、挨拶と自己紹介をしたらMF は近くにいるようにする。キャンプへの入り方は子
どもによってそれぞれで、その流れの方向やスピードにMF は寄り添い、スタッフは見守りながら待つ。
コミュニケーションのとり方もそれぞれである。MF に対して最初から積極的に話をする子もいれば、
声かけに答える形の子、返事や反応はないが相手が何を言うのか気にしている子等、会話の内容だけ
ではなく、表情や行動から気持ちを推測することが重要である。また、好きな物やこと、人などが心の
支えになっている場合もある。家から持ってきたゲーム機や保護者の携帯、お気に入りのキャラクター、
サッカーをすること、一緒に来た家族。子どもにとってのそれらの意味を汲み、尊重することは大切で、
コミュニケーションの媒介としても役立つ。
子どもたちがキャンプに来た目的は楽しむためであり、子どもが楽しいと感じなければ意味がない。
一人ひとりの楽しみを保証するために、このキャンプの場合、不安への対応、参加の仕方を自分で決め
ること、オプションを選べること等を考えた。
不安への対応と言っても、日常生活の中で子どもが苦手としている不安要素を取り除くという意味で
はない。また、活動がうまく進むように大人側の不安要素を取り除くという意味でもない。一人ひとりの
子どもがその子なりに活動を楽しめるように、不安を乗り越える手助けをする。例えば、これから何が
始まるのか、見通しをもてない不安を解消するために構造化や視覚支援を積極的に取り入れた。活動
の途中でも作業手順や順番を整理し、わかりやすくするには、話して説明するだけでなく書いて提示す
る、やってみせる等の方法が有効である。
参加の仕方はMF と一緒に子どもが自分で決めた。調理活動一つをとってみても、皆とは別の場所
でMF と野菜を切った子、バンガローでMF とおしゃべりを楽しんでから団子づくりに戻ってきた子、薪
で熾した火の番をした子、卵の白身と黄身をきれいに分けたがった子等、子どもによっていろいろな参
加の仕方があった。活動の中で自分なりの楽しみ方を探す子どもたちの気持ち、何を誰とどこでしてみ
たいという気持ちをMF は受け止めてくれた。しかし、そうは言っても、役割分担のある活動は、個人
が分担を果たさなければグループとしてのゴールにたどり着かない。調理活動ならば料理が完成しな
いのである。子どもたちは活動の場所をいったん離れても戻ってきたし、やり手のない分担を進んで引
き受けてくれる子もいて、
それほど困った事態にはならず、少しの補助でおいしい夕食ができあがった。
30
個人観察票の「自分の役割を果たす」が良かったのは、彼らが協力してくれた証拠であろう。
活動を集団で楽しむために、主な流れの中にオプションを準備した。オプションは、活動にバリエー
ションを与え、受け入れ度をアップする。最初から示すものは、ある程度選択肢があった方がやりやす
い子のために役立つし、個性を生かす場面も創出する。また、明示しなくても準備し変更の余地を考え
ておくことは、
「○○はしたくない」と言う場合の代案となる。これらの場面には、自分で選んで決める
こと、選んだことをMF やスタッフに伝えること、
「こうできないか」と交渉すること、折り合いをつけるこ
と、といったコミュニケーションやレジリエンスの力を育てるきっかけがいくつも含まれている。
「協同」は、まずその時その場を一緒に共有する「共同」から始まる。
「集合」も「整列し静かに話
を聞く態勢をつくる」ではなく、
「目に見える範囲にいる」という状態からである。そもそも、なぜ「集
合」しなければならないのか。伝達が目的なら別の方法がある。集まることが苦手な子どもたちには、
「~したいから集まる」という動機づけが必要で、
「遊び」の要素を取り入れるのも一つの方法である。
共同から協同への発展、つまり集団として何かを協力して行うためには、MF やスタッフ等大人との
関係づくりからスタートする。子どもの感情の動きや欲求から発する言葉(たとえそれがマイナスイメー
ジの言葉であっても)を受け止め、
「やってみたいと思うこと」はできるように検討し、できなくても代案
を一緒に考える。そこにいる大人のことを、働きかけてみる価値があり、意思疎通ができる相手だと感
じて初めて、子どもたちは自分から関わろうとし、要望を伝え、一緒に楽しみたいといろいろなものを見
せてくれるようになる。信頼できる大人としっかり遊び、その大人を媒介にして新しい人間関係や子ども
同士の関係が広がっていく。キャンプ中の様子で言えば、顔なじみのMF を媒介に活動を楽しみ新し
いMF ともうまく付き合えるようになった例、MF とスタッフと子どもが一緒になって自由時間のサッカー
を楽しみ「いつもは蹴るだけだけど、初めて試合ができた」と言った子どもの例、イライラをMF に表
明することで実行に移さず、次第に皆が集まる方に意識を向けて他者への発信が増えていった子どもの
例等がある。
子ども同士の関わりは、活動外の時間に見えることが多かった。磯で生き物を探しながら、砂浜で穴
を掘りながら、MF とゲームの話をしていたら等、好きなことをしている時に近くにいた子と始まったコミ
ュニケーションからつながりがうまれていく。人間関係では、近づき方と同時に距離のとり方の問題もあ
るが、その時その場での子どもの気持ちにMF が寄り添い、時にはクッションになり、時には仲介役に
なった。
このキャンプにおいて「集団」や「グループ」は、まず「個人」の安心をしっかり下支えするもので
なくてはならない。その上で、
「あの人がやっていることを自分もやってみたい」と意欲ややる気を個人
に吹き込むような働きが表れるのである。
2
挑戦について
プレキャンプでの「安心と協同」を土台に、メインキャンプでねらった「挑戦」については2 つの意
味がある。1 つは、自然や活動に対する「挑戦」であり、もう1 つは、子どもが抱える個々の課題に
対する「挑戦」である。どちらも、子どもが普段よりも力を出す必要がある点では共通している。9 人
の内4 人が宿泊型のキャンプは初めてだったことや、感覚的に過敏な特性をもつ子どもにとっては日常
生活よりも五感への刺激が大きい点等、子どもたちは確かに普段以上の力を出していただろう。しかし、
「挑戦」というテーマに今回のキャンプはまだまだ手が届いていなかった。
その理由としてはまず、活動の幅が狭かった点である。海の活動を例にとるならば、活動の場とした
海は浅く一番小さな子どもでも余裕で足がつき、あらかじめ決められた内容以外の選択肢がなかった。
MF やスタッフは一緒に活動するのではなく見守りに回った。子どもたちは海の活動が大好きで、用意
31
されたものを楽しみながらも物足りなさを感じていたようだ。子どもの伸びに場の設定や活動内容が追
いついていなかったのである。安全を最優先させた結果なのだが、安心して挑戦させられるような工夫
を「時間」
「場所」
「道具」の面からも考えて組み立てなければならない。
もう一つの理由としては、子どもたち一人ひとりの「挑戦」が何か、スタッフがその成長を見て取る
ための視点が明確ではなかった点である。子どもたちが「自分なりにどこまでがんばろうとしているの
か」、折り合いをつけなければならない場面で「自分なりにどうしてみたのか」をそばにいる者が気づ
き、うまくフィードバックすることで、子どもの達成感や自己肯定感につなげていく。また、それには子
どもたちに「どう挑戦させていくか」
「どういうふうに選択させていくか」というスタッフ側の研修や準備も
必要になってくる。自然の中の体験を通して、いつもはできないことができてしまった新しい自分を発見
し、自分自身の可能性に気づくことは大きな成長である。
3
プログラムについて
プログラムの骨組みとしては、昨年度の反省をもとに今年度は、午前一つ午後一つの活動にし
夜はできるだけ軽い活動で「動」から「静」への流れを心がけた。また、自由時間はゆったりと
1 時間取った。
その上で、プレキャンプは子どもとMF との信頼関係を築くことを第一に考え、MF と2 人組で活動に
参加することを基本とした。また、日常の快適な生活から離れ、子どもたちが屋外生活にどの程度適応
できるのかを見るために、海活動・野外炊飯・バンガロー泊というキャンプ場を中心としたプログラム
を組んだ。調理活動を中心に構造化の導入を試み、海への抵抗感が強い場合やカレーが苦手な場合
に備えて選択肢を準備し、コミュニケーション場面を生むためのミニ活動としてアイス交換会を行った。
メインキャンプでは、プレキャンプと同じ活動を基本としながら、グループでの取り組みを増やした。
海をもっと楽しむために加えた磯の生き物観察は、2 ヵ月半ぶりに再会するMF とのアイスブレイキング
も兼ねた。プレキャンプで子どもたちに好評だったドラム缶風呂はメインキャンプにも残し、夜の暗さの
中でろうそくの灯りを味わいながら1 日を振り返るためにペットボトルランタンも取り入れた。
意図して長く取った自由時間中、子どもたちは自分の体調に合わせて休養をとったり、MF とサッカ
ーやおしゃべりをしたりして過ごした。ずっと一緒にいたMF は、子どもたちが自分で自分のペースをコ
ントロールできるようになってきたと感じていた。自由時間に限らず、このキャンプでは「隙間の効用」
という面があった。食堂での朝食、
「出会いのつどい」が始まる前や「別れのつどい」が終わった後の
遊び等、活動外のところで子ども同士の関係が生まれ、折り合いをつける場面が見られたのである。
子どもたちの間に何が始まり、誰に関わっていこうとしているかをスタッフが見て取り、そこにコミュニ
ケーションや社会性の向上につながる「種」を拾いたい。その上で、何と意図してどう声をかけるか、
大人がどう動いて見せるか、その結果子どもはどう反応したのか? 例えば、大人から遊び始めそこに子
どもたちが加わることでつながりを作っていくこともできる。
意欲を高めるという点では、子どもが活動内容に
ついて自分たちで決める部分があってもよかったと
いう指摘があった。
3 年目にあたる来年度は、2 年間のキャンプで
得た知見をもとに、発達障がいのある不登校傾向
の子どもにとって、自然体験活動はどのような意味
があるのか、企画・運営にあたりどのような視点や
工夫、配慮が必要かをまとめていく予定である。
32
Fly UP