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NRI KNOWLEDGE INSIGHT - Nomura Research Institute

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NRI KNOWLEDGE INSIGHT - Nomura Research Institute
NRI KNOWLEDGE INSIGHT
1
2014 JAN. VOL.32
ICT 市場の
新たな成長機会
携
帯電話やインターネットアクセスなど通信ネッ
トワークサービスが飽和状態に近づく一方、ス
マートフォンの普及に伴い、コンテンツ配信やソー
シャルメディアといった新たなサービス市場が急速な
加速する個人・企業の
3D プリンター活用
光谷好貴
Yoshiki Koutani
M2M 市場
小島健一
Kenichi Kojima
ウェアラブル端末のインパクトと
市場化への課題
中山太一郎
Taiichirou Nakayama
BtoC EC 市場
田中大輔
成長を遂げている。そのなかで ICT 市場は、コンテン
Daisuke Tanaka
ツやアプリケーションなどの上位階層や、スマートデ
社会保障・税の番号制度がもたらす
影響と展望
バイスに代表される次世代ハードウェアに軸足を移し
ながら、他産業との融合領域に成長機会を求めようと
している(
「IT ナビゲーター 2014 年版」より抜粋)
。
こうした市場認識のもと、本特集では、まず、製造
業との融合のなかで大きな成長機会を掴みつつある、
3D プリンター、M2M、ウェアラブル端末の3テーマ
について論考している。
プラットフォームに関しては、EC(電子商取引)
が堅調に拡大していることから、4本目では、EC 市
場の最新動向と市場拡大要因について解説している。
安倍政権になってからは、ICT 市場に何らかの影響
を及ぼす法制度が次々と具体化しており、5本目・6
本目には、社会保障・税の番号制度とクール・ジャパ
ン政策を取り上げ、それぞれがもたらす影響と事業機
会について読み解いている。
本誌に掲載されているあらゆる内容の無断転載・
複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権
法および国際条約により保護されています。
Copyright ⓒ 2014 Nomura Research Institute,
Ltd. All rights reserved. No reproduction or
republication without written permission.
小林慎太郎
Shintaro Kobayashi
クール・ジャパンの行方
~世界は日本を再発見できるか~
中林優介
Yusuke Nakabayashi
NRI K NOWLEDGE INSIGHT
2014 JAN. VOL.32
Copyright ⓒ 2014 Nomura Research Institute,
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断
Ltd. All rights reserved. No reproduction or
転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の
著作権法及び国際条約により保護されています。 republication without written permission.
1
加速する個人・企業の 3D プリンター活用
光谷好貴
1
ICT・メディア産業コンサルティング部 コンサルタント
3D プリンターとは
まで増大する(図表1)。また、潜在利用
データを販売することも可能であり、個人の
都度調整された新しい義手をプリントするこ
ていたが、それが形状データに置き換わる
近年、小規模なITベンチャーが優れたサー
者数(現在の3Dプリンターの企業利用を
データ作成者を育成することで自社サービス
とが可能となる。
ことで、現物を送る手間や時間が不要となり、
ビスを提供している例が増えている。その背
含む)は約500万人と推計しているが、こ
の普及拡大を図る狙いがあるとみられる。
また、臓器など生体の3Dプリントである
歯科技工物を求めている顧客へ即座に提
景には、大量のサービスが提供される現状
バイオプリントも先端事例の1つとして挙げら
供することが可能になる。このような変化は
に対して、消費者がより「自分に合ったもの」
れる。2012年12月に、世界で初めて3Dバ
先に述べたようにオーダーメイド性の高い領
を求めるようになったことがあげられる。
イオプリンター の 開 発 に 成 功 し た 米
域で生じやすく、海外では「補聴器」の生
上記の変化は、多くのITリソースを個人
が安価に扱えるようになる「ITのパーソナ
3Dプリンターとは、専用ソフトウェアで作
れは2013年の推計値(約11万人)と比べ
成された3次元CADデータや3次元CGデー
て50倍近くになる。なお同アンケートでは、
「3D
タなどをもとに、立体物を造形する機器を
プリンターがどんなものであるか知っている」
4
指す。造形方式や機種によっても異なるが、
との回答が67%に達しており、認知度から
3Dプリンターの特性のうち、重要なのは「個
Organovo* 社と、3次元データ作成ソフトの
産拠点を集中させている例もある。
一般的には、入力された3次元データを設
も利用者数拡大の端緒が見て取れる。
別性」と「スピード」であると考えられる。
有力企業である米Autodesk* 社が連携を
③金型に関する3Dプリンター活用
衣服における「オーダーメイド」に代表され
るように、これまでも時間やお金をかければ
計図として材料となる素材(樹脂、石膏、
金属他)を積み上げていくことで立体物を
形作るため、内部に空洞があるものや複雑
3
利用者数拡大のハードルと
近年の動向
「個別性」と「スピード」を
両立する3Dプリンター
個別性の高いものを作成することは可能で
6
7
ル化」が実現したことによるものと捉えられ
発表するなど、この領域は今後更なる発展
11
精密部品などの設計を手がけるスワニー*
るが、3Dプリンターの普及によって「モノづ
が期待されている。
では、プラスティック部品製造に使う金型そ
くりのパーソナル化」が生じた場合、ITサー
のものを3Dプリントすることに成功している。
ビスが辿ったような変化が再現される可能
「プリントしたいものがない」「データを作る
きるところに3Dプリンターを用いる意義がある。
5
という特徴を持つ。
スキルがない」といったハードルが少なから
たとえばラピッドプロトタイピング*3の領域
3Dプリンターに関する話題は、IT関連の
ず存在するが、そのような問題に対して、
ニュースを取り扱うメディアなどでは毎日のよ
使用する樹脂の組合せと熱処理によって実
性がある。つまり、誰もが大量生産品を求
用に耐えうる金型の作成を実現しており、
めるのではなく、
「より自分に合った製品」
3Dプリンターは、これまで実現できなかっ
多品種少量生産が求められる分野での製
を求めるようになり、前述の「カスタマイズ
では、米マイクロソフトがタブレットPC「サー
たソリューションを生み出す。具体的には、
作コスト削減につながる。
消費」のようなトレンドがより顕著になって、
近年ではいくつかの解決策が登場している。
フィス」を開発した際、3Dプリンターを用い
下記のような変化が生じ始めている。
他にも、3次元データより砂型をダイレクト
市場の「超ロングテール化*12」が進むので
うに取り上げられている。本稿では、注目
米国の「Nervous System*1」というサイ
て300以上のプロトタイプ(試作品)を製作
①ユーザー自身による生産
に作りだすことを実現した企業も登場しつつ
はないか。そうなれば、多様なニーズに対
を浴びる3Dプリンターの利用者数予測とそ
トでは、ウェブアプリケーション上でアクセサ
していたことが話題になった。
「個別性」と「ス
シ ン セ サイザ ー を 開 発・ 販 売 する
あり、少ない工数と費用で鋳型を製造する
して即応できる小規模なモノづくりベンチャー
の背景となる動向・事例を紹介する。
リーの3次元モデルを表示させ、簡単な操
ピード」の点で、製品の試作はまさに3Dプ
Teenage Engineering* は、 取り外し可 能
例は今後も増えてこよう。
がこれまで以上に活躍するようになるだろう。
作で自由に形状、サイズが変更できる。そ
リンターが活用されやすい領域である。
な部品を3次元データの形式で公開しており、
④製造プロセス全体の改革を目指したコン
3Dプリンターの持つ意義は、
「個人が趣
の結果に応じて自動的に料金が計算され、
オーダーメイド性が求められる分野としては、
ユーザーは好きな部品をダウンロードし、プ
サルティング
味でモノづくりできるようになる」というだけ
な形状をしたものについても、部品の接着
による継ぎ目なしに作り上げることができる
2
3Dプリンターの潜在利用者数
3Dプリンターを活用するうえでは、例えば、
あった。それが簡単に、かつ素早く実現で
製造プロセスへの影響
8
そのまま3Dプリントの依頼ができる。何もな
医療分野もまた典型例となる。たとえば、
リントできるようにしている。
米IBMは2013年7月に、3Dプリンターを
にとどまらない。
「モノ」に対する消費者意
野村総合研究所は、2013年7月に15~
いところから3次元データを作成することは
3Dプリントした緊急気道確保のためのチュー
野村総合研究所著『なぜ、日本人はモノ
用いたモノづくり革新支援のためのコンサル
識の変化は今後も進むと考えられるが、製
69歳を対象にインターネットアンケートを実
難しいが、このように初心者向けに簡素化
ブが1歳8カ月の乳児の生命を救った米国
を買わないのか 1万人の時系列データでわ
ティングサービス開始を発表した。複数の製
造プロセスを進化させ、消費者の変化に対
施し、2018年までの3Dプリンターの国内利
されたCADを提供することにより、3次元デー
の例がある。重症の気管支軟化症により気
かる日本の消費者』* では、生活者1万人
品の組立工程に対し、3Dプリンターやロボッ
応した製品を新たに生み出そうとする製造
用者数(企業利用含む)を予測した。そ
タ作成スキルのない層へのリーチも可能とし
管が潰れ、呼吸困難を引き起こしていたそ
を対象としたアンケートをもとに消費のトレン
トによる製造の可能性を調査し、コスト削減
業にとって、3Dプリンターは、必要不可欠
れによると、2018年時点では約85万人に
ている。
の乳児は、数年で生体に溶け込んで消滅
ドを分析しているが、その中で「カスタマイズ
効果が見込めることを確認したうえで、それ
なツールとしての意義を有している。
また、日本の
する生体適応プラスティックで作られたチュー
消費」を注目すべきトレンドの一つとして取り
らを用いたサプライチェーンの改革プランを
DMM.com* で
ブによって、自発的な肺呼吸が可能になった。
上げている。ユーザー自身に生産をゆだねる
製造業向けに提案している。
も3Dプリントサー
義手・義足の分野で3Dプリンターを活
ことは、
「自分らしさ」を追求する消費者ニー
ビスが提供され
用しようとしている例も存在する。個人向け
ズに対応するための一つの回答となりうる。
ているが、そこ
3Dプリンターメーカーである米Makerbot*4
②生産拠点の一極化による人的・時間的
6
では初 心 者 向
は3次元データ共有サイト「Thingiverse* 」
コスト削減
パーソナルコンピューターの登場は個人
け動画がアップ
上で公開された「Robohandプロジェクト」
歯科技工物を製作・販売する企業であ
の活動の幅を飛躍的に拡大させ、コンピュー
ロードされている。
を運営している。これは、3Dプリントが可
るデンタス* では、日本各地の技工所から
ターやネットワークを用いた数多くの技術・
同サービスでは
能な義手の3次元データによる設計図を、
送られてくる歯型データをもとに、3Dプリンター
文化を生み出した。このように、3Dプリンター
3次 元データの
誰でも入手、加工することができるオープン
を用いてかぶせものや詰め物などの樹脂モ
がもたらすモノづくりのパーソナル化もまた新
購入だけでなく、
ソースの形式で公開することを目的としており、
デルを作り、それを用いて金属製の鋳物を
たに多様な文化を生み出す可能性を秘め
個 人 が 作 った
実現すれば、子どもの成長に合わせてその
作りだしている。これまでは歯型そのものを送っ
ている。
2
図表1:3Dプリンターの国内利用者数予測
䟺୒ெ䟻㻃
84.5
90.0
80.0
70.0
57.8
60.0
50.0
38.3
40.0
24.8
30.0
16.1
20.0
10.0
7.8
10.8
0.0
2012
2013
2014
出所:NRI「ITナビゲーター2014年度版」
02
2015
2016
2017
2018
5
9
10
パーソナル化されるモノづくり
*1 http://n-e-r-v-o-u-s.com/
*2 http://www.dmm.com/ *3 rapid prototyping:極めて短い期間で試作を行うこと
*4 http://www.makerbot.com/
*5 http://www.thingiverse.com/
*6 http://www.organovo.com/
*7 http://www.autodesk.com/
*8 http://www.teenageengineering.com/
*9 2013年7月に東洋経済新報社より発行
*10 http://www.dentas.jp/
*11 http://www.swany-ina.com/
*12 ロングテール:売れ筋ではなく販売機会の少ない商
品であっても、アイテム数を幅広く取り揃えることで、総
体としての売上げを大きくする販売方法。インターネット
を介した通信販売によって成立するビジネスモデルといえる。
03
NRI K NOWLEDGE INSIGHT
2014 JAN. VOL.32
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1
M2M 市場
小島健一
ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタント
通信形態を指す概念である。電話やPHS
による情報の取得、②ネットワークを介した
は、解析手法以前に「M2Mを使って何をす
などを使って人同士が行う通信、あるい
データの収集、③データ分析による知見の
るか」を検討することに注力すべきである。
多くの情報を吸収し、より広範な成果をもた
できる情報の解釈の幅はたかが知れてい
は人と機械の間で行う通信は含まれな
導出、④知見を活用したサービス提供の
実際、高度なデータ解析を踏まずとも、顧客
らすことができるようになる。
ることが多く、探索的なアプローチにあたっ
小 松 製 作 所の遠 隔 情 報 確 認システム
い。潜在的にはあらゆる端末に通信機能
4つのステップが存在する。
に価値を提供するのに役立つ仕組みを構築
③人材の壁~データを情報へと昇華させる
ては、複数の部門の協力を交えて実施し
「KOMTRAX」
、ダイキン工業の空調機器
が付加され、M2Mシステムの構成要素
その中で、昨今生じた大きな変化は、
している事例は多くある。例えば、ダイキン工
解析力の強化~
ていくことが望ましい。
の遠隔監視システム「エアネットⅡサービス
となっていく可能性があるが、その範囲
②のデータの収集段階における920MHz
業は1994年からM2Mを用いて空調機器の
いわゆる「ビッグデータ時代」で注目職
システム」をはじめ、以前より「M2M(マ
はまだ流動的である。現時点でM2Mが
帯無線の本格開放である。
遠隔監視を行う「エアネットⅡサービスシステ
種となった「データ・サイエンティスト」は、
シン・トゥ・マシン)
」と呼ばれる仕組みは
適用されつつある主要な領域は、エネル
当初、センサーネットワークやスマートメー
ム」を提供しているが、故障を予知するロジッ
これまでは企業として特に必要としてきた職
5
存在したが、昨今のビッグデータへの期待
ギー、セキュリティ、自動車、流通、医
タの新しいアプリケーションで用いる無線
クは、長年サービス担当が蓄えてきたノウハ
種ではなく、必ずしも社内にそうした人材を
エンドユーザー企業は、M2Mを真に活
に伴い、改めてM2Mが注目されるようになっ
療・ヘルスケアの5つである。
周波数帯は、950MHz帯が割当てられて
ウをベースとしており、特に高度な解析を実
抱えているケースは多くない。そうした状況
用すべく事業の転換が求められるが、その
てきている。新聞・雑誌等で取り上げられ
国内における市場は、2012年度にお
いたが、国際協調、国際競争力の強化の
施している訳ではない。同システムの価値は、
を受けて、多くのITベンダーは、データ・サ
ための課題は多く、活用以前に息切れする
1
ビッグデータによって改めて
着目されるM2M
せず、全社的に活用を検討することで、より
機能分化した組織の中で、1つの部門で
M2M普及のため、ベンダー
に求められる要件
る機会も増え、例えば、三菱重工業の発
いては1,355億円であったが、その後は
観点から、総務省は2012年7月25日に新
高度な解析による故障予知よりもむしろ、稼
イエンティストが行うようなM2Mデータを活
ことが危惧される。
電プラントにおける遠隔監視サービスは、
「MT
エネルギー領域の成長に牽引される形で、
たに920MHz帯を解禁した。それによって、
働状況の見える化による省エネ効果を顧客
用した高度な統計解析サービスを提供して
一方、M2Mの仕組み提供者であるベン
法(マハラノビス・タグチ法)
」という名前と
2018年には1兆円を超える規模に達する
M2Mにおけるデータの到達性、データ収
に提示することにある。顧客の課題意識へ
いる。とはいえ、M2Mにおいてすべてが統
ダーにも変革が必要である。多くのベンダー
ともに、パターン認識技術を活用した異常
と推計される(図表1)。なお、最近は、
集の信頼性が向上する他、通信およびモ
の着目と、それをシンプルに解決する手段を
計的に処理できるとは限らない。マーケティ
は、エンドユーザー企業に対して過去の導
診断のしくみについて詳細に解説されている。
農業や工作機械など、新しいアプリケー
ジュールのコストが安価になった。こうした
構築したことが、提供価値となっている。
ング領域において行われる大量の取引情
入事例を紹介しているが、実際に提供して
本稿では、以上のようなM2Mへの期待
ション領域が拡大されている。市場の本
流 れを受けて、2013年 の「WIRELESS
“解析”というキーワードが先行しがちな
報に基づく顧客理解のための解析とは異な
いる価値は、端末やネットワークなどのイン
を踏まえ、市場の動向、さらにはM2Mを
格的な立ち上がりはより長期スパンで見
JAPAN M2M/ビッグデータEXPO」で
M2Mの活用ではあるが、このように解析を
り、M2Mで扱う情報は、外的要因の影響
フラで閉じるケースがほとんどである。エン
利用するエンドユーザー企業の課題意識に
る必要があるが、これら領域における
は、多くのベンダーが920MHz 対応のモ
する前に事業としての目的を再度確認するこ
を強く受け、定義されたモデルでは説明で
ドユーザー側の置かれている状況を鑑みれ
ついて説明したい。
M2M活用の期待は大きい。
ジュールを展示した。
とで、M2Mから得られるデータをより簡易に
きないことも多い。例えば、同じ時期に作
ば、ベンダー側には、単なるインフラ以外
活用することができる。
られた機械であっても、メンテナンスのされ
の価値を提供することが求められるのでは
②組織の壁~M2Mの全社的活用~
方によって、故障発生の時期や部位等が
ないだろうか。例えばM2Mで取得したデー
M2Mで取得したデータは、機械の品質を
大きく異なってくる。M2Mで扱われるデータ
タについても、気象や交通などの公共デー
2
3
M2M 市場推移
データ収集の変化がもたらす
ワイヤレスM2M市場拡大への期待
4
エンドユーザー企業の
課題意識
M2Mとは、モノ(機械・機器)同士
M2Mのシステムやサービスが、利用者(社
M2Mは、市場の拡大とともに、広範な
向上させる形でフィードバックされることが多く、
の量は、取引情報などのマーケティングデー
タをはじめとするオープンデータと掛け合わ
が通信する仕組み、ないしはそのような
会)に価値を提供するまでには、①センサー
製造業から着目されるようになったが、そ
情報システム部門や品質保証部門の中で閉
タと比較すると、さほど多くはないため、生デー
せることで、新たな示唆を得ることができよう。
の本格利用に向けては3つの障壁がある。
じたものになる。そうした場合、データが持
タを見ながら適宜データを掛け合わせてみ
米国や英国に比べると、オープンデータが
①戦略の壁~ビジネスモデルの構築~
つ潜在的に有益な情報が会社として認知さ
るなど、試行錯誤による探索的なアプロー
利用しやすい形で整備されているわけでは
製品のデジタル化が進み、多くの機械メー
れなかったり、または、断片的な分析しかさ
チを実施することが可能である。
ないが、このような状況下においてこそ、
カーでは、顧客の事業所等に設置した自
れなかったりする問題が生じる。こうしたデー
野村総合研究所が2013年9月に実施し
利用価値の高い情報を整備し、分析基盤
社製品の稼働情報を取得しやすくなってい
タから会社にとって有益な情報を抽出するに
た「企業情報システムとITキーワードに関
として提供することができれば、エンドユーザー
る。ただ、その情報を何に用い、どのよう
は、全社的な取組みへと昇華させることが
する調査」においても、データ分析担当者
企業のM2M活用を促進することが期待で
に収益に還元していくかに関するビジネスモ
必要となる。
に求められる資質としては、「統計知識・
きる。ひいては、ベンダー自身にとっても収
デルを構築できている企業はまだ少ない。
例えば、先述の小松製作所のKOMTRAX
高度なデータ分析を行う能力」以上に、
「業
益基盤の強化につながる。
取得したデータをいかに解析するかといっ
は、元々は建機の盗難防止用に開発され
務知識を持ち、データ分析に基づく仮説
上記のような事業環境が整備されること
た統計的手法にスポットライトが当たってい
たオプション装置であったが、その情報を
立案と検証を行い、業務改善を提案する
によって、今後、有効なM2Mアプリケーショ
るのが現状であろう。
全社的に活用することで、生産計画への見
能力」をより重視する結果が得られた。また、
ンが開発され、ITサービス産業の成長を
筆者は、本来、M2Mでは事業の目的に
直しや債権管理といった間接部門の業務
データ分析の際には、可能な限り複数の
支えていくことが望まれる。
合う情報の収集と解析がなされるべきである
効率化にも貢献している。
部門(特に現場部門)を交えて検討を進
と考える。その意味において、ユーザー企業
M2Mから得た情報を、特定部門の財と
めていくことが重要である。現在のように
図表1:M2M市場規模予測
12,000
䟺൦ළ䟻
11,704
䛣䛴௙
1,993
༈⒢䝿䝜䝯䜽䜵䜦
10,000
9,323
Ὦ㏳
⮤ິ㌬
8,000
7,105
䜿䜱䝩䝮䝊䜧
94
438
385
1,081
䜬䝑䝯䜲䞀
6,000
5,157
7,713
3,445
4,000
2,377
2,000
0
1,355
2012ᖳᗐ
2013ᖳᗐ
2014ᖳᗐ
出所:NRI「IT市場ナビゲーター2014年度版」
04
2015ᖳᗐ
2016ᖳᗐ
2017ᖳᗐ
2018ᖳᗐ
05
NRI K NOWLEDGE INSIGHT
2014 JAN. VOL.32
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1
ウェアラブル端末のインパクトと市場化への課題
中山太一郎
1
ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタント
数億台の市場ポテンシャルを
持つ個人用デバイス
できる。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)
にポケットやカバンから一々取り出す必
ており、購入障壁は低下している。
ともいう。「Google Glass(グーグル )」、
要はない。
一方で、アンケートによると、消費者
このようなウェアラブル端末が普及する
のモバイルヘルスケア端末に関する認知
「MOVERIO(エプソン)」などが発表・
図表2:ウェアラブル端末の購入障壁(利用意向の高いユーザ)
近年、個人用ポータブルデバイスの主役
発売されている。
と、ユーザーがスマートフォンを直接操作
度 は 約23%で、 ス マ ー ト グ ラ ス の 約
であったスマートフォン市場が成熟化する中、
2013年度の国内のウェアラブル端末の販
する機会は大きく減少する。ユーザーイン
40%、スマートウォッチの約30%と比較
新たにウェアラブル端末が注目されている。
売台数は、2012年から相次いで投入され
ターフェースの主役はスマートフォンから
しても低く、「消費者への認知拡大」が
ウェアラブル端末とは、明確な製品定義
ているモバイルヘルスケア端末、2013年に
ウェアラブル端末へと徐々に移行するであ
市場拡大への最初の取組み課題となる。
はないものの、近年製品化されているものは、
投入されたスマートウォッチを中心に、合計
ろう。そして、スマートフォンは、高い情
市場拡大が進み、多数のメーカーが参
概ね「身体につけ、スマートフォン等の機
で23万台程度になると推計される。2014
報処理能力と外部との通信機能を持つ端末
入するようになれば、その後は高度なサー
器と通信連携することでユーザーの利便性
年には、開発が噂されている「iWatch(アッ
として、複数のウェアラブル機器を繋ぐハ
ビスや機能性による差別化が進むと想定
を向上させるデバイス」といえる。
プル)
」やGoogle Glassの発売が見込まれ、
ブへと役割が変化すると考えられる。
される。たとえば、ソフトバンクモバイ
また、ウェアラブル端末は個人用財であ
市場が徐々に立ち上ると予想される。その
このようにインパクトの大きいウェアラ
ルが2013年に開始した「ソフトバンク
るだけでなく、頭・腕・指・足などの身体
後も、各社から製品が投入されることで競
ブル端末であるが、2013年に実施したNRI
ヘルスケア」では、端末、情報管理、医
され、デザインやブランドも重要になる。
することで、特定の人間を監視追跡する
部に装着するものであるため、一人で複数
争が激しくなり、機能向上・用途提案・価
アンケートによると、消費者の利用意向は
師・看護師等への24時間無料電話健康
アンケートによれば、ウェアラブル端
ことが問題視されている。このような懸
端末を保有することが想定される。そのため、
格低下が進んで、2018年には475万台に達
2割に満たない。普及するにはどのような
相談をパックで提供している。
末に非常に関心が高い層の2割以上が、
念に関して、カナダ・EUのプライバシー
最終的には国内では最大数億台、世界で
すると見込まれる。
課題を乗り越える必要があるのだろうか。
デザインが大きな購入障壁であると回答
関連当局は共同でグーグルに対して質問
している。特に、時計は装飾品の一種と
状を送っており、グーグルもまた当面は
して認識されているため、スマートウォッ
顔認識機能を搭載しない方針を明らかに
チ で は「デ ザ イ ン(約37%)
」 や「ブ ラ
している。モバイルヘルスケア端末も、
用途が明確なモバイルヘルスケア端末
ンド(約25%)
」に対する意識が他の端
個人の健康状態という重大な個人情報
はその数倍の市場ポテンシャルを期待する
ことができる。
ユーザーインターフェースを担うウェアラブル端末と
ハブ化が進むスマートフォン
4
ブル端末は大きく次の三種類である。
2
1つ目は、スマートウォッチと呼ばれる腕
これらのウェアラブル端末が台頭する
現在発売されているモバイルヘルスケ
とは対称的に、現在発売されているスマー
末に比べて高くなっている。
を、どのように使用・管理するかという
ことが大きな課題となっている。
現段階で製品化が進んでいるウェアラ
3
モバイルヘルスケア端末は
「認知」「サービス高度化」が課題
スマートウォッチやスマートグラスの
普及障壁は「用途開発」と「デザイン」
出所:NRIが実施したアンケート調査より
時計型の端末である。スマートフォンと連携
ことで最も影響を受ける既存のデバイスは、
ア端末は、ダイエットやスポーツのため
トウォッチ、スマートグラスは、メール
今後は、メガネやアパレルにみられる
し、受信したメールやSNSの更新記事をディ
同じ個人用ポータブルデバイスのスマー
の活動量計測といった用途が既に明確で
や検索結果の表示などスマートフォンの
ように、サイズや形の違いにバリエーショ
スプレイに表 示するなどの機 能を持つ。
トフォンであろう。ウェアラブル端末は、
ある。そして、これらの領域には、一定
延長・補完であることは否めず、なぜウェ
ンを持たせるべく、個々人の形状的な特
「SmartWatch2 SW2(ソニー)
」
、
「Pebble
スマートフォンと比較して、入出力面で
のニーズがあることが知られている* 。
アラブル端末を購入しなければならない
徴や嗜好に合わせた対応が必要になる。
(Pebble)
」などが発売されている。
高い利便性を発揮する可能性を秘めている。
価格も「Fitbit One(Fitbit)
」の9,980円
か、という購入の動機づけが曖昧である。
そして、エレクトロニクスメーカーには、
6
2つ目は、モバイルヘルスケア端末と呼ば
たとえば、スマートウォッチは手首と
をはじめ、1万円未満の製品も発売され
そのため、「ウェアラブルならではの用
従来のカラーバリエーションに加え少量
ウェアラブル端末は、まだ立ち上り前
れる、腕や服などにつけて歩数・体温・
いう見やすい位置に
途開発」が普及に向けた最大の鍵となる。
多品種の商品開発・生産・在庫管理など
の市場であり、状況は日々変化している。
睡眠状況など、装着者の健康に関わる情
情報を提示している
ところで、1社で多種の用途開発を行
が求められることになろう。
人々の生活がより便利で快適なものとな
報の収集を行う機器である。腕に装着する
し、一部には骨伝導
ブレスレット型が多いが、スマートウォッチが
スピーカーが設置さ
検討が不可欠となる。そのためにはまず、
情報提示に重きを置いているのに対して、
れているものもある。
企業が参加しやすい開発環境の整備が必
モバイルヘルスケア端末は情報の取得に重
また、
「MYO(Thalmic
要になるが、この点についてグーグルでは、
きを 置 いている 点 が 特 徴 で ある。
「UP
Labs)
」や「Ring(ロ
Google Glass向けアプリ開発者へ開発環
プライバシー対策も、大きな問題であ
のか、さらに健全な発展を実現するため
(Jawbone)
」
、
「Fuel Band SE(ナイキ)
」
グ バ ー)
」はジェス
境を提供するほか、ツイッター上でも用
る。たとえば、Google Glassでは目元の
にどのような法制度・仕組みが必要にな
などが発売されている。
チャーという直感的
途に関するアイデア募集を行っている。
カメラで容易に他人を撮影することがで
るのか、今後も注視していく必要がある。
3つ目は、スマートグラスと呼ばれるメガ
な入力手段で操作で
以前から指摘されていることであるが、
きる。撮影者本人にとっては何の意味も
ネ型の端末である。目元にあるディスプレイに、
きる。いずれも、ス
ウェアラブル端末は、常に身につけてい
無い画像であったとしても、それらのデー
メールや道案内等の情報を提示することが
マートフォンのよう
るため、装着感やファッション性が重視
タを収集し顔認識技術などを用いて分析
06
1
図表1:ウェアラブル端末市場予測
(万台)
うには限界があるため、多くの企業の開発・
おわりに
るために、ウェアラブル端末に関連する
5
「プライバシー規制」が
障壁となる可能性も
業界に何が求められているのか、また、
当該市場を本格的に立ち上げるために関
連業界は何に取り組まなければならない
*1 矢野経済研究所の調査によると、歩数計・活動量計の
2011年の国内販売台数は400-500万台である
07
NRI K NOWLEDGE INSIGHT
2014 JAN. VOL.32
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1
BtoC EC 市場
田中大輔
1
ICT・メディア産業コンサルティング部 上級コンサルタント
BtoC EC市場の規模は
2018年に20兆円へ
楽天によるスタイライフの買収(2013年
けられるようになるため、人々はより
EC市場11.5兆円のうち、ショールーミ
トフォン や タブ レット端 末 の 普 及、 ②
いない。ARASL全体をカバーしたサービス
3月)
、ドコモによるマガシークの買収
ECを利用しやすくなると期待される。
ングが行われた市場規模は、2.3兆円に
SNS、クラウドサービスの普及、③測位技
を提供することで、顧客をきちんと自社につ
達することになる。
術の発展、の3つが顧客を店舗へ効率的・
なぎ止め、継続的な利用を促すことができる。
ショールーミングは、リアル店舗にとっ
効果的に誘導し、かつ、それらの動きや
「ショールーミング」の功罪
てみると、ECサイトが自社の商品棚に「た
成否をきちんと測定することを可能にした
だ乗り」しているように見える。自社の
ことで、これまでの手法が新たな段階へと
(2013年3月)のように、既存のファッ
野村総合研究所の推計によると、BtoC
シ ョ ン EC サ イ ト を 大 手 企 業 が 買 収 す
EC市場の規模は、2012年度は10.2兆円
る例のほか、KDDI による origami への
であった。今後は、年率13%程度の成長
出 資(2013 年 4 月 )、 ゾ ゾ タ ウ ン を 運
2
を引き続き維持し、2018年度には20.8兆
営するスタートトゥデイによるブラケッ
店舗などのリアルチャネルにおいて商
店頭で商品を試し、販売員から説明も聞
発展したものがO2Oである。
5
円まで上昇すると予測している(図表1)
。
トの買収(2013年7月)など、ベンチャー
品の現物を確認したにもかかわらず、そ
いたのに、ECサイトで購入されてしま
上記の概念に従えば、メールニュース
O2Oは、ネットを活用して顧客をリアルへ
生鮮食品を含む食品や、衣類・靴など
企 業 が 提 案 す る 新 た な EC 形 態 へ の 投
こでは商品を購入せず、携帯電話や自
うと、店舗と販売員のコストはむだになっ
やブログでの新商品紹介などもO2Oの
誘導する、という概念であるが、誘導する
のファッション関連商品のEC利用が伸
資も盛んである。
宅のパソコンからECで購入することを
たと感じられるからだ。
範疇となるし、近距離での無線通信技術
方向としては、マスメディアなどのリアル媒体
びるほか、今後は医薬品にも広がる見込
また、ファッション分野を中心に、無
「ショールーミング」と呼んでいる。実
しかしながら、消費者があちこちの店
「ニア・フィールド・コミュニケーショ
を用いてECサイトへ誘導したり、ネットで情
みである。
料返品サービスが広がりつつあることも、
際の店舗が、商品販売の場ではなく、単
で商品を比較し、値踏みすること自体は、
ン(NFC)
」など最新の技術を用いて、
報を配信し、店頭だけでなくコールセンター
生鮮食品は、インターネットで注文を
市場の拡大を後押ししている。衣類や靴
なるショールームとなってしまう状況を
ECが普及する以前からよく行われてき
より効果的に店舗へ誘導する方法も、さ
での販売を促進する方法もある。
受けて自宅まで配送する「ネットスー
は、生地の質感やサイズなどが画像だけ
指す造語である。
たことである。複数の店舗で価格を確認
まざまなものが検討・試行されている。
このように、O2Oから発展、またはそこ
パー」を提供する企業が増えることと、
では伝わりにくいため、実際に手に取り、
これまでも、たとえば価格.comなど
し、値下げ交渉を行う消費者はこれまで
これらを包括的に含んだO2Oの市場規
での着想を受けて、ネット、リアルを問わず
ECサイトで購入した商品の即日配送や
試着して購入することが一般的であり、
のサイトで、商品価格を比較した結果を
も存在しており、それがスマートフォン
模は、2012年度に30兆円に達しており、
さまざまなチャネルから顧客にアクセスし、
翌日配送のインフラが整備されることが
ECサイトでの購入に抵抗がある人も多
店頭での価格交渉の材料にする、という
の利用で誰でもやりやすくなっただけの
新たな技術やサービスの登場と、それを
最終的に実店舗かECサイトで購入してもら
追い風となろう。現在、多くの大手スー
かった。無料返品サービスは、購入して
行動は一部の消費者により行われていた。
こと、とも言える。家電量販店などでは、
受け入れて利用する消費者の増加によ
うアプローチを「オムニチャネル・マーケティ
パーでは、既にネットスーパーに参入し
から一定の期間内(30日程度が一般的)
現在では、消費者が店頭でECサイトの
ショールーミングに対抗すべく、リアル
り、今後もさらに拡大すると予想される。
ング」と呼んでいる。
ており、今後も都市部を中心に利用が増
であれば、返品、交換を無料で受け付け
価格をスマートフォンで検索して店頭価
でもネットでも自社店舗から購入しても
えると見込まれる。いまのところ、利用
る仕組みである。アマゾンやゾゾタウン
格と比較し、店頭より安ければその場で、
らえるよう、自社のECサイトの利便性
者は20代から30代の共働き世帯や子育
などの大手ECサイトや、靴専門サイト
または自宅へ帰ってから、ECで購入す
向上に注力している。このように、消費
て世帯が中心であるが、各社がサービス
などが同サービスを提供している。これ
るという購買行動が増加している。
者の行動の変化に合わせて、自社の販売
4
認知の向上に努めていることから、徐々
により、消費者は、MサイズとLサイズ
アマゾンやグーグルなどの大手ネット
チャネルも見直していく必要がある。
NRIでは、O2Oでのマーケティングモ
利用してもらい、その後再利用してもらう
に利用者層は拡大していくことになろう。
の服を両方買って自宅で試着し、サイズ
企業は、スマートフォン用の商品価格検
デルとして「ARASL」を提唱している。
ためにコンタクトを持ち続ける、というサイ
衣類・ 靴などのファッション分野につ
の合わないほうを返品することが可能に
索アプリを提供している。このアプリを
ARASLとは、
「Attention(認知)
」
、
「Reach
クルを実現することである。
いては、大手ECサイトが強化を進めている。
なる。店頭購入に劣らないサービスを受
使えば、ECサイトだけではなく、近隣
図表1:BtoC EC市場規模推移
出所:NRI「ITナビゲーター2014年度版」
08
O2Oからオムニチャネルへ
O2Oを含む、より上位の概念となるが、
ARASL ~O2Oでの
マーケティングモデル~
ここでも、上記のARASLモデルは成立す
る。重要なのは、顧客に上手にアプロー
チし、店舗やECサイトへ誘導して購入・
のリアル店舗も含めた価格比較が簡単に
3
行える。このようなアプリの普及により、
インターネット(オンライン)での情報を
の頭文字を取ったものであり、商品やサー
要となる。すでに家電量販店が対応を始
リアル店舗とECサイトとの競争環境は
もとに、リアル(オフライン)店舗などで消
ビスをネット上で認知してから店を訪れ
めているように、リアル店舗とECサイトを
激しさを増すことになろう。
費活動を行うことや、それに向けたマーケティ
て購入・利用し、周囲の人々に感想や評
十分に連携させた上で、他の店舗やEC
野村総合研究所では、ECで購入した
ング手法を、オンライン・ツー・オフライン
価を広げつつ、商品などが気に入れば再
サイトと競争していく体制を作ることが可
商品やサービスについて、購入前にリア
(O2O)と呼ぶ。古くはクリック・アンド・
度利用する、という一連の流れを示して
能である。そのためには、消費者に対し
ル店舗で実物の確認をしたかどうか、そ
モルタル(Click and mortar)と呼ばれて
いる。
てECサイトあるいはリアル店舗への動線
の行動様式を調査した。その結果、家電・
いたが、オンラインであるインターネットを
現状では、ARASLの要素すべてを一
をわかりやすく提示することが不可欠であ
AV機器やパソコンでは30%以上が、また、
用いて広告や販促を行い、オフラインであ
貫して提供できている企業は少ない。特
る。さらに、それだけでなく、ネットとリア
EC全体でも約20%が、ショールーミン
る実際の店舗へ誘導し、商品やサービス
に、
「来店する」
、
「購入する」という行
ルで販売方法、顧客管理、マーケティン
グ後の購買であることが分かった。この
の購入、利用を促す、という発想自体は
動を把握することと、次回の来店を促す
グ情報の共通化など、ARASL 全体で両
比 率 を 元 に す れ ば、2012年 度 のBtoC
決して新しいものではない。しかし、①スマー
しくみを連携させて備えることができて
者を連携させていくことが重要である。
O2Oの活用は今後も進む
(誘客)
」
、
「Action(購入・利用)
」
、
「Share
オムニチャネルは、前述のショールーミ
(共有)
」
、
「Loyal(再利用)
」のそれぞれ
ングへの対抗策という意味でも非常に重
09
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1
社会保障・税の番号制度がもたらす影響と展望
小林慎太郎
ICT・メディア産業コンサルティング部 上級コンサルタント
行政機関が、国民の一人ひとりに番号を
①付番
務先の変更時など一人の個人に複数の番
なる。住基カードは、本人の顔写真がな
しかし、番号法の成立によって、この
ICカードリーダーを取得し、パソコン
付与して特定の個人を識別する番号制度
健康保険証やクレジットカード、ポイ
号が発行されることがあったため、年金
くても発行でき、また市町村毎にデザイ
状況が大きく変化する可能性が出てきた。
などにセットアップする必要がある。カー
は、多くの国では、年金、医療、税務分
ントカードなど、私たちは日常的にさま
記録問題の温床となった。しかしながら、
ンが異なるなど、公的な身分証明書とし
まず、住基カードの後継となる個人番号
ドや電子証明書の取得が無償になって
野などで利用され、不可欠な社会インフラ
ざまなカードを利用し、そのほとんどに個
番号法に基づく個人番号は住民登録され
ては不十分な要素が多々あった。しかし
カードは、希望する住民すべてに無償で
も、ICカードリーダーを購入する費用
となっていながら、日本にはこれまで導入さ
人利用者を識別するための番号が付与され
た時から原則、唯一無二性が確保される。
個人番号カードでは、このような点が見
交付され、公的個人認証サービス用の電
は発生するため、消費者が自宅でICカー
れてこなかった。しかし足かけ4年の長きに
ている。しかし、番号法で新たに付番され
直され、顔写真付き、全国共通のデザイ
子証明書も標準搭載されることになって
ドを読み取る環境をいかにして整備する
わたる検討を経て、ついに番号制度に関
る番号は、こうした番号とはまったく異なり、
個人番号は、常に新しい基本4情報
ンとなって、運転免許証と同等の効力を
いる。加えて、番号確認や身分証明のた
かが、今後の課題となる。
【最新の基本4情報と関連づけられる】
連する4法* (以下「番号法」という。
)が
「悉皆性(住民票を有する全員に付番)
」
「唯
(氏名、生年月日、性別、住所)とひも
有する身分証明書として活用することが
めにさまざまな場面で利用できることに
かつて国税庁は、この課題を解決し、
2013年5月末に成立・公布され、にわか
一無二性(一人1番号で重複の無いように
づけられている。一般の利用者登録の場
できる。住基カードを身分証明書として
なっていることから、同カードの取得者
国税の電子申告(e-Tax)の利用率を高
に制度導入にともなう生活への影響や対応
付番)
」
「最新の基本4情報(氏名、住所、
合、引越や結婚などによって登録時の個
受け入れてこなかった事業者も、個人番
は大幅に増加するものと見込まれる。
めるために、電子申告を行う納税者に対
について、マスメディアで取り上げられるよう
性別、生年月日)と関連づけられている」
人の属性情報に変更が生じても、個人が
号カードは、採用できそうである。
個人番号カードに搭載される電子証明
して5,000円の税額控除を実施したこと
という性質を有している。
申し出ることのない限り、修正されるこ
また、個人番号カードには、インター
書には、署名用の他に、利用者証明用
があった。住基カードの取得やICカー
とはない。しかし、個人番号は住民登録
ネット上で本人確認を行う際に利用する
(ウェブサイトへのログイン用)のもの
ドリーダーの購入にかかった費用を還付
1
になった* 。
2
今回導入される番号制度は、初期段階
【悉皆性】
では、主に社会保障と税に関する極めて限
健康保険証やクレジットカードのよう
とリンクしているため、最新の基本情報
「公的個人認証サービス」に必要な電子
が新たに加わる。そして、これまで行政
するという名目である。今回も同様の施
定された行政手続に適用される。個人番
に、民間企業、行政機関にかかわらず、
と関連づけることが可能となっている。
証明書が標準搭載される。これにより、
機関の手続に限定されていた公的個人認
策が取られる可能性はあるかもしれない。
号の民間利用はおろか、行政機関におい
個人が繰り返して利用するサービスを提
②情報連携
インターネット上で行われる本人確認が
証サービスによる本人確認が民間事業者
また、利用端末についても、今後はスマー
ても指定された業務以外で番号を利用する
供する場合、通常は利用者識別用の番号
番号制度では、個人番号を利用する行
必要な手続などが簡素化すると期待される。
にも開放されるなど、公的個人認証サー
トフォンやタブレット端末の利用が主流に
ことはできない。番号利用範囲の見直しは
が発行される。ただし、こうした番号は、
政機関が、それぞれ情報を収集して、別々
なってくることを留意すべきである。ICカー
法施行後3年以降であるため、当面、事
サービス利用を希望する個人が登録する
に管理する。個人番号とそれに結びつく
例えば、オンラインで銀行口座を開設
ドリーダーの導入においても、こうした端
業者や行政機関は、番号を取り扱う新た
際に発行されるため、すべての国民に付
情報を管理する行政機関同士で情報を交
2
ビスの利用用途は大きく広がる。
する場合、これまでは、インターネット
末の利用を想定した施策が必要になる。
な事務手続きに追われ、番号の活用は先
与されることはない。
換する場合は、情報連携のための専用の
前述のとおり、個人番号カードは、対
経由で申請しても、別途、郵送やファッ
番号制度は、予定であれば、2016年
の話のように捉えられている。
番号法では、わが国で住民票を有する
情報システム「情報提供ネットワークシ
面での本人確認用に住基カードの券面を
クスで、運転免許証のコピーや住民票の
から利用が開始される。同制度は、我々
しかし、番号制度には、我々の社会・
限り、すなわち、市町村に住民登録がさ
ステム」を経由して行う。この際、個人
一新して発行される見込みである。また、
写しを、本人確認用に提出する必要があ
の社会・経済活動に確実に影響を及ぼす
経済活動に大きな影響を及ぼす要素が埋
れている限り、その全員に個人番号が付
番号の代わりに、各機関がそれぞれ個人
インターネット上の本人確認で利用する
り、サービスを利用できるようになるま
だけでなく、民間企業に対して、様々な
め込まれており、法律の施行後に広がるビ
与される。この点がこれまでの付番方法
に割り当てた符号を情報提供ネットワー
公的個人認証サービスについても、大き
でに日数を要していた。もし銀行が公的
ビジネスチャンスを生み出す可能性があ
ジネスチャンスも小さくない。本稿では、番
との大きな違いである。
クシステムが変換し、個人の情報が相互
く改善が図られる予定であり、これは民
個人認証サービスを採用することになれば、
ることから、関連する企業においては、
に提供される仕組みとなっている。
間ネット事業者にとって、自社サービス
即日の口座開設が可能となる。同様に、
法律の成立した今年から、施行に備えて
号制度の仕組みを概観し、個人番号カード
【唯一無二性】
個人番号カードの
ネット利用の可能性
の利用可能性について解説する。なお番
ポイントカードなど一般の利用者登録
このように番号制度では、個人番号に
の利便性向上に活用できる機会となろう。
携帯電話の申込やクレジットカードの新規
情報を収集し、賢く利用するため準備を
号法には、民間企業などに付番する「法
では、番号の記載されたカードを紛失し
関する情報を1箇所に集めて管理する、
<大きく改善される公的個人認証サービス>
発行の申込など、これまで対面での確認や
進めることが望まれる。
人番号」の創設・取扱いも規定されてい
た場合には、新しい番号で登録し直すこ
いわゆる「集中管理方式」はとっていな
公的個人認証サービスは、これまで住
別送による本人確認書類の提出が求められ
るが、本稿では対象としない。
ともあるが、番号法では、一人1番号で、
い。すなわち、国家による国民の情報の
基カードのICチップに、4 情報(氏名、
ていた手続においても、公的個人認証サー
重複の無いように付番される。
一元管理ができない構造となっている。
性別、生年月日、住所)を含む電子証明
ビスが有効な代替手段となり得る。
*1 「行政手続における特定の個人を識別するための番号の
かつての公的年金記録においては、勤
③本人確認
書を格納し、行政機関の電子申請手続に
同サービスの利用が促進されれば、利用
本人確認は、対面、非対面(インター
おける署名などに用いられるように提供
者からすれば利便性が飛躍的に向上するこ
するための番号の利用等に関する法律の施行に伴う関係法律
番号制度は、①付番、②情報連携、
ネット上)ともに、ICカードが中心的
されてきた。しかし、用途が少なく、手
とになり、民間企業側にとっても新規顧客
③本人確認の3つの仕組みで構成され
な役割を果たす。番号制度の創設によっ
数料もかかるため* 、同サービスはこれ
の獲得に大きく寄与することが期待される。
いう愛称で呼ぶことが多い。
て、従来あった住民基本台帳カード(住
まで国税の電子申告(e-Tax)など、特
<課題はICカードの読取り環境>
さらに、電子証明書を搭載しようとするとさらに500円の手数
基カード)が廃止され、かわりに「個人
定のニーズのある利用者以外にはほとん
公的個人認証サービスを利用するため
料がかかる。
番号カード」が新たに発行されることに
ど浸透していなかった*4。
には、個人番号カードを読み取るための
6月30日現在「住民基本台帳カードの交付状況」
)
。
1
番号制度の3つの仕組み
図表1:番号制度の3つの仕組み
䐖௛␊
る社会基盤と捉えられる(図表1)
。以
下では、それぞれの仕組みについてポイン
トを述べる。
10
䐗᝗ሒ㏻ᦘ
䐘ᮇெ☔ヾ
3
利用等に関する法律」
「行政手続における特定の個人を識別
の整備等に関する法律」
「地方公共団体情報システム機構法」
「内閣法等の一部を改正する法律」の4法をいう。
*2 マスメディアでは、番号法のことを「マイナンバー法」と
*3 住基カードを発行するには500円の発行手数料がかかる。
*4 住基カードの普及率は5%程度とされている(平成25年
11
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クール・ジャパンの行方
~世界は日本を再発見できるか~
中林優介
1
ICT・メディア産業コンサルティング部 副主任コンサルタント
組を放送することを定める「プライムタイムア
して3つ目は、文化輸出としての側面である。
けではない点は注意が必要である。
ウまたはライセンスの提供に止まらず、共同
アニメも幅広く知られている。
クセスルール」である。
韓国文化を浸透させることにより、政治・
②加工貿易型
製作やキャラクター展開など、継続的に収
特に日本に対して好意的な印象を持ち、
これら2つのルールは1990年代に既に
経済的に対象国との間で友好的な関係を
2つ目は海外の素材等を導入し、自国で
益を産み出す事業を行っていくことが必要と
日本のコンテンツ産業と言えば、アニメ・
アジアの中でも成長市場である東南アジアは、
廃止となっているが、この規制の影響により、
築きあげることができる。日本でも、かつて「お
最終製品化を行い、他国へと輸出を図って
なる。
漫画・ゲームが3大コンテンツであるが、近
経済発展とともに日本コンテンツ消費量の増
ハリウッドの映画制作会社がTV番組(主に
しん」が外務省の文化無償協力として世界
いくモデルである。例えばハリウッドでは日本
年では、伝統的な文化や工芸と融合した新
加が見込まれることから、輸出先として大き
ドラマ)の制作にも注力するようになり、映
60カ国以上に輸出され、日本に対する各
のホラー映画のリメイク権を安価で購入し、
しいタイプのコンテンツもまた海外での展開
な期待が寄せられている。
画とともに米国の映像コンテンツを世界中
国の印象を向上させたが、韓国では、そ
ノウハウを以って世界でヒットするコンテンツ
が期待されている。
しかしながら、これらの国では既に米国や
に展開させることに成功した。
れと同等以上の効果を狙って、国と事業者
に仕立て上げ、リメイク権の100倍以上の収
5
例えば、イタリアの自動車メーカーである
韓国などの海外コンテンツが流入しており、
②マーケティング力(韓国のケース)
が一体となったコンテンツ輸出に力を入れ
益を生み出すことがある。加工貿易型では、
コンテンツ産業の海外進出や日本コンテン
フェラーリのデザイナーをイタリア人以外で
後発となる日本としては、明確な方針や戦略
マーケティングの面で見習うべき先行例と
ている。
単に制作をして最終製品として仕上げるだけ
ツの海外展開を支援する取組みは、先述し
初めて任された奥山清行氏は、今や、カー
が必要不可欠であり、進出は決して容易で
しては、韓国が自国産のドラマを「韓流ドラ
ではなく、収入を生む領域を見極め、そこ
たクール・ジャパン推進機構だけではない。
デザインだけでなく、伝統工芸品である鉄
はない。
マ」として輸出を推進していることがあげら
1
ついに本格化する
日本コンテンツの海外展開
「ドラえもん」や「ポケモン」といった日本の
から戦略的にどう付加価値を出していくかが
官民ファンドの先駆けである産業革新機構
重要である。
は、2012年2月に、エンターテインメント作
③現地化型
品の企画・ 開発を行う(株)All Nippon
それでは、日本コンテンツの海外展開に
3つ目は日本のコンテンツを現地化するこ
Entertainment Works(ANEW)を設立し、
に達している* 。
はどのようなアプローチがあるか、ここで3つ
とにより、ヒットに結び付けるアプローチである。
また、2012年5月にはニフティと連携して日本
例えば 米 国ではTBSの 人 気 番 組である
のコンテンツを海外に提供する(株)グロザ
瓶や、農業機械のデザインなどを手掛け、
れる。韓国産TV番組(主にドラマ)の世
独自のデザイン性を切り口に活躍の場を広
界各国への輸出金額は2010年に約150億
4
円であり、日本への輸出規模は約80億円
日本コンテンツの
海外展開に向けた課題
日本コンテンツ海外展開の今後
~日本は世界に再発見されるか~
日本コンテンツの
海外展開パターン
加賀屋は、日本の伝統的価値観である「お
3
もてなし」を武器に台湾に進出している。
日本コンテンツの海外展開に向けた課題
特に、インドネシア、ベトナム、ミャンマー
のパターンに整理してみたい。
安倍政権の「第3の矢」である「日本再
として、かねてからコンテンツ制作力とマー
といった新興国を含む東南アジア地域では、
①そのまま輸出型
興戦略Japan is Back」のなかでは、
「クール・
ケティング力の2つが指摘されてきた。こうし
日本文化の影響が強かったが、今は韓国
1つ目は「おしん」や「風雲たけし城」
フジテレビの「料理の鉄人」を「アイアンシェ
また、放送分野では日本のテレビ番組の
ジャパン」を推進するために、多様な生活
た課題の解決に向けて、それぞれ米国と韓
ドラマの積極的輸出により、韓国文化の影
に代表される、日本で人気が出たコンテン
フ」として現地化させ人気を博している。最
海外展開促進を目的として、2013年8月に一
産業の積極的な海外展開を支援することが
国の取組みが参考になると思われる。
響が色濃く表れている。かつては米国の影
ツを"そのまま輸出"するモデルである。ただし、
近では、講談社がインド版の「巨人の星」
般社団法人放送コンテンツ海外展開促進機
構(BEAJ)が設立された。
日本コンテンツの海外展開は、これまでは
げている。日本を代表する温泉旅館である
3
「SASUKE」を「ニンジャ・ウォリアー」に、
スを設立した。
謳われており、その最たる動きが、官民ファ
①コンテンツ制作力(米国のケース)
響が強く、文化輸出が難しいと言われてき
文化無償や番組輸出のみでは、認知度は
として「スーラジ・ザ・ライジングスター」を
ンド「海外需要開拓推進機構(クール・ジャ
米国のコンテンツ産業の輸出比率は約
たフィリピンですら、韓国コンテンツは浸透
高まっても、それが収益に直接結び付くわ
展開している。現地化型では、単にノウハ
パン推進機構)
」の設立である。同機構は
18%であるのに対し、日本の輸出比率はそ
し始めている。
2013年11月25日に発足されたばかりであるが、
の約3割の5%に過ぎない* 。米国の輸出
韓国はこれらアジアの新興国に対して、
概ね20年の存続期間のなか、将来的に
比率がこれだけ高まった理由として、ハリウッ
日本向けの10分の1程度の低価格で、戦
は1,000億円規模のファンドをもとに、クー
ド映画やテレビドラマなど、個々のコンテン
略的かつ積極的な輸出を行っており、この
ることにより、これまで多くの日本企業が突破
ル・ジャパン振興のための長期的な投資を
ツに競争力や魅力があることは言うまでも
点も、マーケティング力を検討する上で大い
できなかった世界展開の壁を打ち破ることが
行う予定である* 。
ないが、それ以外にも、1970年に制定さ
に参考になる。
期待される(図表1)
。かつてマルコ・ポー
れた2つのルールが多大な影響を及ぼして
ところで、韓国はなぜこのような低価格
ロが「黄金の国ジパング」を発見したように、
いることは看過できない。
戦略を取ることができるのであろうか。大き
コンテンツをきっかけに世界が再び日本を発
1つは、放送局が自主製作番組をシンジ
く分けると、3つの理由があげられる。1つ
見することを期待したい。
ケーション市場(放送コンテンツの2次流
目は、これらの新興国では今後の経済成
日本のコンテンツ市場は、米国に次いで
通市場)に流通させることを義務付け、大
長によって、コンテンツの市場拡大が見込
世界第2位の規模を誇っており、とりわけアニ
手放送ネットワーク以外の制作会社の権利
めることから、当初は低価格でも将来的に
メやドラマは世界各国でも高い評価を受けて
を、大手放送ネットワークが保有することを
価格上昇が見込めることである。2つ目は、
いる。日本と地理的・文化的に近い関係に
禁じた「フィンシンルール」であり、もう1つは、
放送コンテンツを梃子に化粧品・家電製品
ある東アジア、東南アジア地域においては、
「お
プライムタイムにおいて、一定割合で3大ネッ
といった韓国ブランドの消費財に対するプ
しん」など日本のドラマに関する受容性は高く、
トワーク(ABC、CBS、NBC) 以 外の番
ロモーション効果が見込めることである。そ
1
2
12
日本コンテンツの
海外における立ち位置
2
個別展開の域を出なかったが、これらの企業・
図表1:世界展開の壁を打ち破るための構図
団体に主導され、まさに「3本の矢」のよう
に取りまとめられ、組織的な取組みに昇華す
*1 設立当面は、15社から出資を受けた75億円と、政府
からの500億円をもとに事業をスタートする。
*2 「放送コンテンツの海外展開について」
(総務省2013
年12月)
、金額
*3 野村総合研究所著『ITナビゲーター2014年版』
は、1ドルを100円と換算
13
NRI K NOWLEDGE INSIGHT
バックナンバーのご案内
Vol.21 2011年11月号
「新たな金融事業モデル構築に向けて」
第一号案件が上場した「プロ向け市場」TOKYO AIMの今後
河野 愛
ダイレクト時代の金融対面チャネルの提供価値
2014 JAN. VOL.32
1
日系デベロッパーにとっての中国不動産開発の課題
~商業施設開発への対応~
荒木康行
Branch Insight
韓国の5大グループの2012年における経営戦略
張朱希(ジャン・ジュヒ)
片平希望
東日本大震災を踏まえた地震保険制度の再構築
野崎洋之
冬の時代を耐え忍び、攻めに転じるノンバンク業界
中島芳徳
Vol.24 2012年5月号
「ヘルスケア産業を取り巻く環境変化と事業機会」
ヘルスケア産業を取り巻く環境変化
山田謙次
「これからのICT・メディア市場で何が起こるのか」
モバイル市場
~スマホ普及の機会と脅威~
北 俊一
ECの新潮流
田中大輔
コンテンツ配信市場の変化と影響
三宅洋一郎
電子書籍市場
前原孝章
ソーシャルメディア市場の隆盛
松尾大輔
メカトロニクスを部品メーカーの競争力向上に活かす
マテリアルでグローバル競争に勝ち残るためには
自動車の軽量化の進展と自動車産業の変化
日本企業がイノベーティブな開発現場をとり戻すための引き算改革
開発機能現地化の要諦
EMS の活用による新興国向けモノ造りの課題と改革の方向性
韓国自動車部品メーカーの事業変革の展望
海外BtoB ビジネスにおける直販営業機能の確立
顧客のトータルカーライフ視点による
統合マーケティングの中国での展開可能性
岸本隆正/藤浪 啓
赤木 斉
池幡 諭
向井 肇
新興国のヘルスケア市場での参入・成長戦略
梅澤幸平
ヘルスケア産業の新興国展開に関する政策動向
清瀬一善/小松康弘
ASEANの経済発展とHealth & Beauty市場の事業機会
高藤直子
Branch Insight
三星電子の次世代成長目標「グローバルB2B市場攻略」
安重寅(アン ジュンイン)
Vol.27 2012年11月号
「先駆的な取組みからみた金融機関の可能性」
プライベートバンカーの信頼を取り戻すために
米村敏康
OKINAWA J-Adviser「地域型」上場スキームを活用した地元経済振興
飯野正文
地域の構造変化に対応が求められる金融機関
~エリアマーケティングアプローチの必要性~
堀内隆明
杉山 誠
ポストアナログ放送時代の映像サービス市場展望
寺田知太
ビッグデータビジネスの興隆と課題
鈴木良介
医療情報化に関する戦略・施策動向と期待領域
工藤憲一
Branch Insight
インド市場への進出
~バイイングパワーの弱いマスマーケットに集中せよ~
金星樹(キム・ソンス)
Vol.23 2012年3月号
「インフラ関連業界の動向」
次世代電力システムの鍵を握るデマンドレスポンス
Vol.25 2012年7月号
「新興国の変化を捉える~事業機会の獲得に向けて~」
台湾を活用した海外展開の優位性と課題
張 正武/田崎嘉邦
韓国5 大グループの新事業推進戦略
崔 創喜
製造業の進出先として再評価されるフィリピン
水野兼悟
中国内需獲得のための経営戦略
皿田 尚
M&Aによる事業拡大が本格化するインド
中島久雄
注目すべきラテンアメリカの発展
韓 相薫
小林敬幸
藤田誠人
岡崎啓一
金キョン煥/尹 明洙
趙 ケイ
介護サービス市場の現状と市場参入時のポイント
高沢美恵子
Vol.29 2013年4月号
「激動の時代を生き抜く自動車産業」
変革が求められる日本の電機産業
中川隆之/中島崇文
製薬産業を取り巻く環境変化と事業機会
Vol.22 2012年1月号
Vol.26 2012年9月号
「構造変革に立ち向かう製造業」
Vol.28 2013年1月号
「ICT 市場に新たな変革を創出するエンジン」
BtoC EC 市場
インドを活かしたサプライチェーン構築
坂本遼平
Vol.30 2013年7月号
「海外連携を強化する台湾」
台湾を活用した日本企業の海外展開
田崎嘉邦
自由経済モデル区制度の狙いとその活用機会
小長井教宏
アジアスマートハブとしての台湾の活用
―製造業における台湾経由での中国・アジア新興国向け事業拡大―
佐々木健一
日系非製造業における日台連携のメリット
平山直人
田中大輔
O2O(Online to Offline)市場とO2Oソリューション
伊部和晃
ビッグデータの活用が期待される5つの領域
鈴木良介
プライバシー保護法制の展望とパーソナルデータ活用の方策
小林慎太郎
“3Dプリンタ”は、日本に「21世紀の産業革命」をもたらすか?
寺田知太
Vol.31 2013年10月号
「ASEAN市場を読み解く」
消費市場としての注目度が高まるASEAN市場
倉林貴之
成熟化というキーワードで捉える“面”としてのASEAN
新美 佑
ASEAN主要5カ国の消費者の実像
八浪 暁
Health & Beauty業界における日系企業の取組み
伊藤 剛
高藤直子
米国におけるデマンドレスポンスアグリゲータの現状と今後
現地企業とのパートナーシップ成功の鍵
佐藤仁人/滝雄二朗
長尾良太
急拡大する国内デマンドレスポンスの事業機会
加福秀亙
電力子会社改革のあり方
樋詰伸之
スマートコミュニティ
~巨大都市開発市場の攻略に向けて~
小口敦司
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15
コンサルティング事業本部のご紹介
常務執行役員 本部長
此本臣吾
執行役員 副本部長
村田佳生
パートナー
青嶋 稔
パートナー
雨宮正和
パートナー
太田一郎
パートナー
三﨑冨査雄
グローバル事業企画室
室長
松井貞二郎
コンサルティング事業推進室
室長
中島 済
名古屋オフィス代表
奥田 誠
大阪オフィス代表
武井基純
業務管理室
室長
鳥谷部史
経営コンサルティング部
部長
西川義昭
業務革新コンサルティング部
部長
森沢伊智郎
経営情報コンサルティング部
部長
村上勝利
IT 事業推進部
部長
高野裕康
グローバル製造業コンサルティング部
部長
近野 泰
インフラ産業コンサルティング部
部長
松本 哲
ICT・メディア産業コンサルティング部
部長
桑津浩太郎
消費サービス・ヘルスケアコンサルティング部
部長
中川 理
金融コンサルティング部
部長
宮本弘之
公共経営コンサルティング部
部長
立松博史
社会システムコンサルティング部
部長
神尾文彦
野村総合研究所ソウル
社長
崔 創喜
野村総合研究所(上海)有限公司
董事長(会長)
葉華
総経理(社長)
皿田 尚
同 北京支店
負責人(支店長)
梅 松林
野村総合研究所台湾有限公司
社長
張 正武
マニラ支店
支店長
高岡真紀子
野村総合研究所タイ
社長
水野兼悟
ノムラ・リサーチ・インスティチュート・インディア
社長
中島久雄
モスクワ支店
支店長
岩田 朗
ロシア代表
大橋 巌
理事・副センター長
松野 豊
コンサルティング事業本部
清華大学・野村総研中国研究センター
1
2014 JAN. VOL.32
NRI KNOWLEDGE INSIGHT 2014年1月号 Vol.32
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編集事務局宛にご連絡ください。
バックナンバーは弊社ホームページにてご覧い
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編集事務局
株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部
グローバル事業企画室
東京都千代田区丸の内 1-6-5 丸の内北口ビル
TEL:03-5533-2266 FA X:03-5533-2414 E-mail:[email protected]
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