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次期政権および議会に向けられたアカデミック
次期政権および議会に向けられたアカデミックコミュニティーの要望1 遠藤 悟 トランプ次期大統領については、大統領選直後にはアカデミックコミュニティーから懸念する声が上 がっているという報道が多く見られたが、選挙後の時間の経過とともに、アカデミックコミュニティー がトランプ政権とどのような関係を構築すべきかという論議が見られるようになっている。本稿におい ては大統領選後、アカデミックコミュニティーから発表された 2 通の書簡と 1 本の報告書を通して、ア カデミックコミュニティーがトランプ政権および議会に対しどのような点に懸念を持ち、何を期待して いるかについて紹介する。また、参考として Science 誌、Nature 誌の報道を通して周辺の情報を整理し 紹介する。 トランプ政権に対するアカデミックコミュニティーの懸念としては、大統領自身が政治経験を持たな いことにより予測することが困難であることに起因する面があるが、同時にこれまでの共和党のいくつ かの政策に対しアカデミックコミュニティーの間に反発が見られたことに起因しているという面もある。 このため、本稿で紹介するアカデミックコミュニティーによる要望もトランプ自身と言うよりはこれま での共和党の政策を意識したものも含まれている。 本稿で取り上げたアカデミックコミュニティーから示された要望の第一は、行政および立法のプロセ スにおける科学的な知見の反映である。連邦政府科学技術関連機関の要職に科学面の専門性の高い尊敬 される人物を充てること、また、政策決定は科学的知見というエビデンスに基づき行われることへの期 待が見られる。なお、後者については、オバマ大統領が就任時に発表した科学的公正性への取り組み、す なわち共和党のブッシュ政権時の政策決定への批判も背景にあると見ることができる。 また、これとの関連で、気候変動や他の環境関連の政策もアカデミックコミュニティーにとって大き な関心事であるが、その論点は現オバマ政権下における政権と共和党主導の議会との対立点における論 議とも言える。 研究開発予算は、アカデミックコミュニティーにとってもトランプ政権に対する大きな関心事項であ るが、トランプ自身の考えが明らかではないことに加え、歳出予算法の枠組みの中での議論であるため 具体的な要望とはなりにくい面がある。本稿で取り上げた書簡等においても科学研究の重要性を主張す ることにより資金配分の拡大を求めるという内容となっている。 ◎ アカデミックコミュニティーから大統領、議会へ宛てられた書簡や報告書 ◯ 学術団体等の機関の代表者からトランプ次期大統領に宛てられた書簡 全米科学振興協会(AAAS)を含む 29 の学術団体等機関の代表者により署名された書簡が 11 月 23 日 付けでトランプ次期大統領に送付されているが、その内容は以下のとおりである。 URL : http://www.aplu.org/members/councils/governmental-affairs/CGA-library/multisociety- letter-to-president-elect-trump-re-science-advisor/file (本 URL は公立大学・ランドグラント大学協 会のサイトのものであるが、他の署名者の機関のサイトにも掲載あり) 1 「米国の科学政策」ホームページ 2016 年 12 月 4 日掲載 1 (書簡の内容) ・米国の科学、工学、高等教育コミュニティーを代表し、第 45 代大統領である貴殿と貴政権と協力す ることへの期待を表明する。 ・大統領として貴殿は国家およびエネルギーの安全保障から、米国の経済的競争力、疾病治癒、そして 自然災害の対応まで幅広い国内外のチャレンジに直面すると見込まれる。これらのチャレンジは、そ れらへの対応の成功のために科学的知識と技術的専門性が必要という共通のことがある。 ・そのため我々はこれら重要な役割に必要な工学的、科学的、管理面および政策面の技能を持つ全米 か ら 尊 敬 さ れ る リ ー ダ ー を 大 統 領 科 学 技 術 顧 問 ( Assistant to the President for Science and Technology)の肩書を付した科学面の助言者に速やかに指名するよう要請する。上級の助言者が、国 家の主要なチャレンジに対応するための科学技術の効果的な利用法についての貴殿の決定を支援する ことができる。さらにその者は行政府における科学技術政策と人事に関する決定の調整を行うことが できる。 ・科学技術イノベーションの進歩の経済的利益に関する十分な報告がなされており、指導的なエコノ ミストは過去 50 年の米国の経済成長の約半分はこれによるものであるとしている。これまでの政府の 科学技術活動への投資は経済成長、雇用創出、グローバルな競争力、国家安全保障を強化した。同時に これらの投資は世界において比類のない米国の研究大学と国立研究所のシステムの構築を可能とし た。 ・我々は貴殿の最重要事項のひとつが、米国経済が強力で成長し続けることであることを確実にする ことであると理解している。もし、米国のグローバルな主導的地位を保持し、米国が現在直面している 経済面と国家安全保障面のチャレンジに対応しようとするならば、イノベーション、起業家精神、科学 と技術に対する強力な連邦政府支援の上に構築しなければならない。 ・このために我々は、貴殿の政権下での米国のイノベーション基盤の発展・繁栄と、上位の科学技術面 の職の候補者の提案についての道筋を構築することを支援するために、科学工学コミュニティーがど のように支援することができるかを議論するために、貴殿あるいは貴殿の政権移行チームと会合の機 会が持てることができれば感謝したい。 ・ご配慮に感謝し、ご返事を期待する。全米科学振興協会(AAAS)の Joanne Carney が会合と参加 者の調整を行う。 書簡に署名した 29 人が代表となっている機関 全米科学振興協会(AAAS)、米国機械工学学会(ASME)、米国天文学会(American Astronomical Society) 、心理科学協会(Association for Psychological Science) 、米国化学会(American Chemical Society) 、米国大学協会(Association of American Universities) 、米国地球物理学連合(American Geophysical Union) 、公立・ランドグラント大学協会(Association of Public and Land-grant Universities )、 米 国 医 学 生 物 学 工 学 機 構 ( American Institute for Medical and Biological Engineering) 、生命科学連合(Coalition for the Life Sciences) 、米国物理学機構(American Institute of Physics) 、海洋リーダーシップコンソーシアム(Consortium for Ocean Leadership)、米国物理学 会(American Physical Society)、社会科学協会コンソーシアム(Consortium of Social Science Associations)、米国生理学会(American Physiological Society)、科学会会長評議会(Council of 2 Scientific Society Presidents) 、米国微生物学会(American Society for Microbiology (ASM))、米国 生 態 学 会 ( Ecological Society of America )、 米国 植 物 生 物 学 者 会 ( American Society of Plant Biologists) 、米国実験生物学会連盟(Federation of American Societies for Experimental Biology) 、 米 国 社 会 学 会 ( American Sociological Association )、 生 物 学 研 究 救 出 ( Rescuing Biomedical Research)、合衆国北極研究コンソーシアム(Arctic Research Consortium of the United States (ARCUS))、リサーチ!アメリカ(Research!America)、SIGMA Xi (SIGMA Xi, The Scientific Research Society) 、SoAR 財団(SoAR Foundation) 、神経科学会(Society for Neuroscience) 、米国 細胞生物学会(The American Society for Cell Biology)、光学学会(The Optical Society (OSA)) ◯ 22 人のノーベル賞受賞者他の公開書簡 研究者個人が署名し次期大統領および共和党が多数党となる第 115 次議会に送付された書簡として、 22 人のノーベル賞受賞者を含む著名研究者と他の賛同する科学者が署名したものがある(11 月 30 日付 けブログでは計 2,300 人の科学者が署名したと記されているが、12 月 3 日時点でも追加して署名するこ とが可能となっている) 。書簡は憂慮する科学者連盟(Union of Concerned Scientists)のウェブサイト に掲載されており、その内容は以下のとおりである。 なお、憂慮する科学者連盟は、ブッシュ前政権の公的機関における科学的知見の不適切な取り扱いを 指摘し、オバマ大統領が就任直後にこれへの参照も含めた形で科学的公正性を明言したという経緯があ るが、本書簡においても当時のブッシュ政権に対する批判と共通した観点が含まれている。 22 人のノーベル賞受賞者他の公開書簡 URL : http://www.ucsusa.org/center-science-and-democracy/promoting-scientific-integrity/openletter-president-elect-trump#.WEKW7uT_rIU https://s3.amazonaws.com/ucs-documents/science-and-democracy/ucs-scientist-letter-to-trump-1130-2016.pdf 科学と人々の利益 トランプ次期大統領および 115 次議会への公開書簡 (書簡の内容) ・科学的知識は米国を強力で繁栄する国家とし、米国および世界中の人々の健康と福祉の改善に重要 な役割を果たしている。疾病の大流行から、気候変動、国家安全保障、技術イノベーションまで、我々 の政策が、不適切な政治的あるいは企業からの影響を受けない科学の知見に基づき形成された時に、 人々は利益を享受する。 ・この遺産の上に、置き去りにされた米国民を含む全ての人々に科学の利益を拡大させるために、連 邦政府は公共政策形成の主要なインプットとして科学を支援し、また科学に依存しなければならない。 人々の利益のために、政策決定者と一般の人々は同様に幅広い高い質の科学的情報へのアクセスを必 要としている。議会とトランプ政権が、科学が政策決定において果たす役割を強化するためにいくつ かの取るべき行動がある。 ・第一に、まず科学から始めるという強力でオープンな文化を創造すること。連邦政府機関は、意思決 定の重要な部分として科学面で尊敬される業績のある者により主導されるべきである。さらに、多様 3 性が科学を強力なものとすることから、政権の職にある者については、その宗教的背景、人種、性別、 性的指向に関わらず、全ての科学者の参画を歓迎し、また、奨励すべきである。 ・第二に、議会とトランプ政権はクリーン大気法(Clean Air Act)絶滅危惧種法(Endangered Species Act)といった人々の健康や環境の法律を強力な科学的基盤の上に保持すべきであり、連邦政府機関は これらの法律により定められた責務を効果的に遂行するために、自由に科学的データを収集し利用す ることが出来るようになるべきである。連邦政府機関はまた、科学的助言を与える政府の外の者の独 立性を保証すべきである。 ・第三に、議会とトランプ政権は現在の、および急激に生じる公衆衛生および環境の脅威への対応に、 科学的な公正性と独立性の高い基準を保つべきである。政策決定者と一般の人々は、望めば得られる かも知れない利益ではなく、最良の科学的エビデンスを知る必要がある。連邦政府により資金配分を 受けた科学者は政治やイデオロギーによる検閲や操作の対象となることなく、知見を発展、共有させ ることが出来なければならない。これらの科学者は制裁や報復の恐れなく、以下についての自由と責 務を保持するべきである。 ‐政治的あるいは民間部門の介入なしに研究を実施すること ‐自身の知見を率直に議会、一般の人々、同僚の科学者に伝えること ‐自身の研究を発表し、科学者コミュニティーに有意義な形で参画すること ‐科学に関する虚偽の発表、検閲、その他の誤用について公表すること ‐政府から発表される科学的、技術的情報が正しいことを確かめること ・最後に、議会とトランプ政権は、科学者が人々の利益のために研究を実施し、所属する機関のミッシ ョンに向けて効果的且つ透明性を持って業務を遂行できるよう適切なリソースを提供すべきである。 明らかとなる結果がある:この投資が行われなければ、子供達は中毒に晒されやすくなり、より多くの 人々が安全でない薬品や医療機器を使うこととなり、増大する異常気象や海面上昇への影響を最小限 に止めることが難しくなる。 ・これらの取り組みには、民主主義を強化し、科学の成果を全ての米国民と世界にもたらす活発な科 学活動が創造されることが必要である。科学コミュニティーはトランプ政権と議会の取り組みについ て建設的に関与し、また、緊密にモニターする用意が整っている。我々は今後も政策決定における科学 の役割の強化を推進し、それを弱めようと試みる者に対抗する責務があると考える。 ◯ 有識者による NIH に関する政策提言の報告書 生 物 医 学 研 究 関 係 の 12 人 の 有 識 者 に よ り 作 成 さ れ た 「 A Vision and Pathway for NIH Recommendations for the New Administration」報告書が発表されている(Science 誌によると発表日 は 11 月 14 日) 。同書は、Keith R. Yamamoto(カリフォルニア大学サンフランシスコ校副学長他の役職) が座長となり、Harold Varmas、Elias Zerhouni といった NIH 所長経験者を含む 12 人により構成され たワーキンググループにより作成されたもので、NIH に関する機構および政策が、研究とトレーニング、 そして健康の改善と疾病との闘いにおいて最高のインパクトを与えるようになるための提言が行われて いる。なお、発表された日は大統領選後であるが、次期大統領の氏名は記されていない。 報告書には、研究、トレーニング、NIH 所長の任命といった点から次期政権への提言が記されている が、以下においては「The First 100 days」の箇所の記述についてのみ記した。 4 A Vision and Pathway for NIH Recommendations for the New Administration における「The first 100 days」の記載内容 URL: http://www.nihvp.org/ 本報告書の主要な提言の中でも、新政権の最初の 100 日間において展開されることが期待される政 策として、以下の項目が挙げられる。 1. 本報告書に記載されたものを含む NIH の目標やアプローチを明らかにし実現させる NIH 所長を任 命すること 2. 政府、産業界、アカデミア、慈善団体、一般の人々や患者コミュニティーといったステークホルダ ーにより構成された、米国の継続的な科学研究とイノベーションの卓越性を確かなものとすること に向けた行動を明らかにするための「科学の力タスクフォース(Strength in Science Task Force) 」 を設置すること 3. 持続性を付与し、大胆な戦略を可能とする議会に提出する 5 年間の枠組みで繰り返す構造の専門的 判断に基づく予算について、NIH に作成・提出することを招請すること 4. 研究所間共同活動や NIH の部門を越えた研究活動を促進させるため、NIH の研究予算配分の共通 基金(Common Fund)を 5%に引き上げ、その資金の大半をそのような統合的な研究の支援に充て ること。 ◎ 参考1:Science、Nature 誌の論説 Science 誌および Nature 誌は次期大統領の政策や人事に関し多くの情報を発信しているが、以下にお いては、各誌の次期大統領に関する記事等のうち、包括的な観点から書かれた両誌の論説を取り上げ、本 稿筆者の理解に基づきそのポイントを記した。 ◯ Science 誌の論説 What now for science? Science 誌 2016 年 11 月 25 日号(2016 年 11 月 17 日ウェブ版掲載):のポイント 著者:Rush Holt 全米科学振興協会 CEO URL: http://science.sciencemag.org/content/early/2016/11/16/science.aal4180.full http://science.sciencemag.org/content/354/6315/947.full ・国家の科学の健全性は大統領個人の行動だけで決まるものではなく、大統領を含む全ての市民が科 学の利益と科学のインプットがある決定が成功へと導くものであることを理解すべきである。 ・多くの科学者の喫緊の関心は連邦政府科学関連の機関の予選であるが、 「歳出停止」の流れが変わる 可能性は小さい。 ・真に不確実性なこととして、新政権における科学面における助言の役割がある。トランプの望む経 済発展は科学の進歩なしに達成し得ないものである。トランプは尊敬される科学者か工学者から科学 顧問を選任するだけの賢明さはあると考えられるが、その科学顧問が多くの科学技術が関連する案件 に関与すべきである。 ・予算と科学的助言の他、データと研究者が自由に交流する他国との研究協力、連邦政府機関におけ る科学者の任用、連邦政府機関に所属する研究者の自由な発言、規制的政策関連政府機関における政 5 治的影響に先立つ科学的知見の公表、科学研究関連の活動に対する金融・税制等、科学の健全性に関し ては多くの決定すべき事柄がある。 ・最も重要なことは、次期政権がエビデンスに基づく決定を行うかである。トランプは広く受け入れ られている科学的事実と相容れない発言を行っている。新政権に科学的な実践を理解できる者が含ま れるかが問題である。 ・科学者が行うべきこととして、AAAS は科学を公共政策決定に組み入れられることを強く提唱する。 科学は党派的な活動ではなく、経済的、技術的利益のために政治的は相違の橋渡しできるものである。 科学者は気候変動、銃による暴力、オピオイド依存、漁業資源枯渇などの問題を明らかにしなければな らない。 ・大統領選は政治的エスタブリッシュメントへの拒絶と言われているが、これが確立された事実への 拒絶となってはならない。トランプ大統領が候補者であった時よりも事実を基盤とする者となること を望む。 ◯ Nature 誌の論説 Reality must trump rhetoric after US election shock (It is time for scientists and politicians alike to constructively engage with core issues — from climate change and energy independence to social inequality.) Nature 誌 11 月 16 日付論説(Editorial)のポイント URL: http://www.nature.com/news/reality-must-trump-rhetoric-after-us-election-shock-1.20980 ・トランプ政権下において米国がどの方向に向かうかを知ることはできない。 ・前月、本誌はトランプの大統領としての不適格性について論じたが、現在すべきことは問題に建設 的に対応することである。 ・トランプの当選は米国社会の現状を反映したものであり、研究者は技術やグローバル化を含めた米 国経済の不平等な側面を理解する必要がある。 ・反対者も妥協し、トランプが成功することが米国にとって必要であるが、上院の民主党が極端な政 策に反対するなどの対応も必要である。 ・多くのことはトランプが主要ポストに誰を指名するかによる。 ・環境保護庁の移行チームの Myron Ebell は科学研究の経験が無いが、研究者は関与を続け科学を無 視する動きがあれば反対すべきである。 ・選挙戦におけるトランプの主張は、必ずしも全てが実現できるものではない。 ・気候変動については、共和党の伝統的政策から脱し、現実を直視し人々の意見に耳を傾けるべきで ある。 ・世界はトランプがエビデンスと専門家の助言を尊重することを期待している。 ◎ 付録:Science 誌および Nature 誌による次期大統領および 115 次議会に関する主な報道 特定のテーマに関する懸念や期待 Science 誌、Nature 誌にはウェブ版を含めると既に多くの次期政権および 115 次議会に関する記事が 掲載されているが、以下においては、参考として人事、環境・気候変動、予算に関連する両誌の記事の中 6 からいくつかを紹介する。 ◯ 人事 ・人事全般 大統領選直後の 11 月 9 日付けの Scienceinsider には、行政府の主要な職務と議会の委員会メンバ ーに関する記事が掲載されている。行政府の科学関連機関については、6 年の任期を基本とした人事が 通例となっている NSF を除き、エネルギー省、航空宇宙局(NASA) 、国立保健研究所(NIH)、海洋 大気局(NOAA) 、国立標準技術局(NIST)の長の交代が見込まれていることが書かれている。また、 議会においては上下院の歳出委員会等の議員について報告されている。 <Science 誌ニュースサイト Scienceinsider 2016 年 11 月 9 日「The U.S. election is over. Who will hold key science leadership jobs?」http://www.sciencemag.org/news/2016/11/us-election-over-whowill-hold-key-science-leadership-jobs > Nature 誌のウェブサイトには、11 月 30 日付けで各連邦政府機関の政策と人事の見通しを取りまと めており、人事についても移行チームの構成に加え、各機関の長として指名が取りざたされている者 氏名も挙げられている(具体的な氏名は当該記事を参照されたい)。 < Nature 誌 ウ ェ ブ サ イ ト 「 Tracking the Trump transition, agency by agency 」 http://www.nature.com/news/tracking-the-trump-transition-agency-by-agency-1.21032 > ・研究福祉省(Department of Health and Human Services) 国立保健研究所(NIH)等の機関を書簡する健康福祉省の長官については、11 月 29 日に Tom Price 下院議員を起用することを表明したことが報告されている。オバマ大統領の医療改革や妊娠中絶に反 対の立場であるが、予算に関しては NIH をはじめとする機関に対する増額には肯定的であるとされて いる。 <Science 誌ニュースサイト Scienceinsider 2016 年 11 月 30 日「Trump’s pick to run HHS has researchers speculating on how science will fare」http://www.sciencemag.org/news/2016/11/trumps-pick-run-hhs-has-researchers-speculating-how-science-will-fare > ◯ 環境・気候変動 ・地球温暖化 パリ協定に関しては、Science 誌が温暖化ガス排出削減については 2025 年までに 2005 年の水準か ら 28%削減する目標は 2020 年までは撤回できないが、これに代わる手段として国連事務総長に向け て国連気候変動枠組み条約脱退の書面による通知を行うことがあるなど、トランプ大統領が取り得る 政策やその影響について報告している。 <Science 誌ニュースサイト Scienceinsider 2016 年 11 月 9 日「What Trump can—and can't—do all by himself on climate」http://www.sciencemag.org/news/2016/11/what-trump-can-and-cant-do-allhimself-climate > なお、地球温暖化に関してはこの記事以外にも様々な情報が流通しているが、見通しが必ずしも明 らかでない状況であるため、本稿においては上記記事を紹介する以外、特に取りまとめは行っていな い。 7 ・規制撤廃 次の議会において、オバマ政権下で 2016 年 5 月中旬以降に発出された規制について、1996 年議会 評価法(Congressional Review Act: CRA)に基づき撤廃される可能性があること報じられている。対 象となる規制には、水圧破砕の排水、北極における石油掘削、メタン排出削減等、環境関連のものも含 まれている。 <Science 誌ニュースサイト Scienceinsider 2016 年 11 月 15 日「Trump and next Congress could quickly erase scores of major regulations」http://www.sciencemag.org/news/2016/11/trump-andnext-congress-could-quickly-erase-scores-major-regulations > Nature 誌のウェブサイトにおいても 11 月 30 日付けのトランプ政権の政策見通し全般を伝える中 で上記と同様の環境保護庁による規制の撤廃の見通しについて報告されている。 < Nature 誌 ウ ェ ブ サ イ ト 「 Tracking the Trump transition, agency by agency 」 http://www.nature.com/news/tracking-the-trump-transition-agency-by-agency-1.21032 > ◯ 予算 ・研究開発予算全般 Science 誌は、トランプ政権下の研究開発予算は全体としては連邦政府の歳出法の上限設定により大 きな変化は起こりにくいとしているが、トランプ大統領がどのように変化をもたらす可能性があるか は未知数としている。ただし、必ずしも削減の可能性が高まるというものではなく、今後関係人事が決 定されることにより見通しが明らかになるであろうとしている。 なお、個別の予算についてこの記事では、オバマ政権下の上下両院の共和党の意見に相違があるこ とを指摘している。例えば NSF の地球科学、社会科学予算について下院科学宇宙技術委員会は予算削 減や制度改革を求めているが、上院は NSF の現状に肯定的な立場を取っており、議会内の動向も注視 すべき点としている。 < Science 誌 2016 年 11 月 18 日 「 Scientists start to parse a Trump presidency 」 http://science.sciencemag.org/content/354/6314/811 > Nature 誌のウェブサイトにおいても 11 月 30 日付けのトランプ政権の政策見通し全般を伝える中 で、各機関のトランプ政権下の予算の見通しについて報告している。 < Nature 誌 ウ ェ ブ サ イ ト 「 Tracking the Trump transition, agency by agency 」 http://www.nature.com/news/tracking-the-trump-transition-agency-by-agency-1.21032 > ・研究福祉省(Department of Health and Human Services) 人事の項に記したとおり健康福祉省長官として指名された Tom Price は NIH をはじめとする機関 に対する研究予算の増額には肯定的であると報じられているが、この記事においては、医療改革や胚 細胞との関連や NIH 所長の人事等も含めた見通しが記されている。 <Science 誌ニュースサイト Scienceinsider 2016 年 11 月 30 日「Trump’s pick to run HHS has researchers speculating on how science will fare」http://www.sciencemag.org/news/2016/11/trumps-pick-run-hhs-has-researchers-speculating-how-science-will-fare > 8