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中東諸国における原子力発電の動向と 日本にとって

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中東諸国における原子力発電の動向と 日本にとって
中東諸国における原子力発電の動向と
日本にとってのインフラ輸出戦略
和光大学 経済経営学部教授
大学院研究科委員長 岩 間 剛 一
中東諸国をはじめとして原子力発電推進の動き
等の限られた国を除いて,世界全体においては,
は変わらない
中東諸国,アジア諸国をはじめとして原子力発
今から3年前に起こった東日本大震災の影響
電推進政策に大きな変化はない。むしろ,世界
から,日本においては,原子力発電に関する「安
的な電力需要の増加と,それに伴う恒常的な電
全神話」が崩壊し,原子力発電推進政策への見
力不足の状況において,1ヵ所で100万キロワッ
直しが議論されている。2014年4月時点におい
ト~160万キロワットという一定量のまとまっ
ても,日本において原子力発電所の稼働はゼロ
た発電を行える原子力発電の重要性は強まって
の状況にあり,現在は九州電力の川内原子力発
いる。中東諸国においては,建設中,計画中を
電所の再稼働に向けての審査が行われているも
含めて合計12基,1,244万キロワットもの原子力
のの,2014年夏における原子力発電所の再稼働
発電所建設計画が進められている(図表2)。
は,見通せない状況にある。欧州諸国において
も,福島第一原子力発電所の事故を踏まえて,
産油国である中東諸国にとって魅力ある原子力
ドイツをはじめとした国々は脱原子力発電政策
発電
へと舵を切っている(図表1)
。
国内に豊富な石油・天然ガス資源を持つ中東
しかし,ドイツをはじめとした一部の環境保
諸国が,原子力発電所建設に力を入れる政策は,
護への考え方が根強い国,シェール・ガス革命
奇異に感じられる読者もいるかもしれない。実
によって,天然ガス価格が下落し,天然ガス火
際に,現状の中東諸国における電力は原油生産
力発電の経済性が原子力発電を追い越した米国
に随伴する天然ガスを燃料として天然ガス火力
(図表1)欧州諸国の一部における脱原子力発電政策
原子力推進政策の見直し国
国 名
概 要
ドイツ
8基を即時停止し,残りの9基も2022年までに廃止
イタリア
原子力発電所再開計画を国民投票で否決
スイス
国内5基の原子力発電所を2034年までにすべて廃止
ベルギー
国内7基の原子力発電所を2025年までにすべて廃止
出所:各種新聞報道
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中東協力センターニュース
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(図表2)世界における原子力発電所建設計画
世界の原子力発電所計画2013年時点(単位:万キロワット,基数)
地域名
運転中
建設中
計画中
合計
北 米
12,082(123)
120(1)
1,066(9)
13,268(133)
西 欧
11,928(117)
335(2)
586(4)
12,849(123)
アジア
9,025(117)
5,329(51)
5,853(49)
20,208(217)
CIS
3,942(45)
1,226(13)
2,055(20)
7,223(78)
中東欧
1,215(19)
306(5)
338(3)
1,859(27)
中南米
436(6)
215(2)
0(0)
651(8)
アフリカ
194(2)
0(0)
187(2)
381(4)
中 東
0(0)
240(2)
1,004(10)
1,244(12)
合 計
38,823(429)
7,771(76)
11,091(97)
57,686(602)
出所:IAEA(国際原子力機関)統計
発電が中心である。さらに,生産された原油の
の割合で増加しており,このまま国内で生産さ
1割は石油火力発電の燃料として利用されてい
れている石油・天然ガスの国内消費を増加させ
る。中東諸国においては,高度経済成長と国民
ると,貴重な外貨獲得源である石油・天然ガス
のライフ・スタイルの向上によって,電力と淡
輸出余力が減少してしまう(図表4)。
水が不足している。そのため,天然ガスを燃料
例としては,図表4のように,石油火力発電
と し て,発 電 と 海 水 の 淡 水 化 を 同 時 に 行 う
を1年間100万キロワット稼働させると,年間
IWPP(海水淡水化・発電事業者)事業が,日
143万トンもの石油を燃料とする必要がある。こ
本企業を中心に進められている(図表3)
。
れを1バレル100ドルで換算すると,100万トン
しかし,中東諸国にとっては,原子力発電の
÷50×365×100=7億3,000万ドル(約800億円)
意味は大きい。その理由として,第1に中東諸
もの石油輸出額の減少につながる。100万キロワ
国においては,急速な人口の増加,エアコンの
ット級の原子力発電所の建設費は5,000億円程
普及等によって,電力需要が,年率10%~15%
度であることから,年間21トンしか利用しない
(図表3)中東産油国における IWPP 事業
中東産油国
日本企業
総事業費
サウジアラビア
双日
2,000億円
UAE
住友商事
1,200億円
UAE
丸紅
2,650億円
クウェート
住友商事
1,450億円
カタール
三井物産,中部電力,四国電力
4,000億円
オマーン
丸紅,中部電力
1,200億円
出所:各種新聞報道
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中東協力センターニュース
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ウランの燃料コストと比較すると,6年~7年
筆者紹介
1981年東京大学法学部卒業,東京銀行(現三菱東京
UFJ銀行)入行,東京銀行本店営業第2部部長代理(エ
ネルギー融資,経済産業省担当),東京三菱銀行本店産
業調査部部長代理(エネルギー調査担当)。出向:石油
公団(現石油天然ガス・金属鉱物資源機構)企画調査部
(資源エネルギー・チーフ・エコノミスト),日本格付研
究所(チーフ・アナリスト:ソブリン,資源エネルギー
担当)。2003年から和光大学経済経営学部教授(資源エ
ネルギー論,マクロ経済学,ミクロ経済学)。東京大学
工学部非常勤講師(金融工学,資源開発プロジェクト・
ファイナンス論),三菱 UFJ リサーチ・コンサルティン
グ客員主任研究員,石油技術協会資源経済委員会委員
長。
*著書「資源開発プロジェクトの経済工学と環境問題」,
「ガソリン本当の値段」,「石油がわかれば世界が読め
る」,その他,新聞,雑誌等への寄稿,テレビ,ラジ
オ出演多数
で原子力発電所建設の資金が回収でき,しかも
貴重な石油・天然ガスを外貨獲得源として,21
世紀半ば以降も利用することが可能となる。中
東産油国における産業構造の高度化が進められ
ているといっても,現時点においては,中東産
油国の国家財政の8割~9割は,石油・天然ガ
ス収入が占めており,石油・天然ガスの輸出余
力を持つことは,中東諸国にとって経済的,財
政的に重要な意味を持っている。
第2に,サウジアラビアをはじめとしたGCC
(湾岸協力会議)諸国は,スンニー派が多数を占
め,シーア派が中心のイランがブシェールの原
子力発電所の稼働を,2012年9月に本格的に始
めていることから,中東地域における安全保障
国,英国,フランス,ドイツと,中国,ロシア
バランスの均衡からも,原子力技術を持つこと
が一枚岩となって,イランの核開発を完全に止
が重要である。イランは,欧米先進国による経
め,中東における地政学リスクを除くことが難
済制裁にもかかわらず,核兵器への転用が可能
しい状況となっている。それに対して,UAE
なウラン濃縮を続けている。2013年11月にはウ
(アラブ首長国連邦)をはじめとした多くの中東
ラン濃縮活動を縮小する見返りとして,米国を
諸国は,日本との間において原子力協定を締結
はじめとした6ヵ国は,原油の輸出禁止は続い
し,核兵器への転用の可能性があるウラン濃縮,
ているものの,一部経済制裁を緩和している。
核燃料の再処理,プルトニウムを含む核燃料の
しかし,ウクライナ情勢の緊張化もあって,米
製造は行わないとし,あくまで,核不拡散,原
(図表4)エネルギー源別消費量比較(単位:トン)
出所:電気事業連合会統計
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中東協力センターニュース
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子力の平和利用を進めようとしている。
日本は,
燃料,石油化学原料は,石油である可能性が大
2014年4月4日に,日本から原子力発電所を輸
きい。それに対して,発電とは,単純な熱エネ
出することが可能となる前提である原子力協定
ルギーから水蒸気タービンを回して発電する原
をUAE,トルコとの間において締結し,国会を
理は,原子力発電から石油火力発電まで,まっ
通過している。日本は,これまでにも,米国,
たく同じである。とするならば,原子力の平和
英国,中国,韓国,ロシアとの間において原子
利用,貴重な石油と天然ガスの日本への安定供
力協定を締結し,原子力発電輸出ビジネスを強
給という両面からも,中東における原子力発電
化する姿勢である。
の推進は,重要な意味を持っている。
第3に日本にとっても,中東諸国が,石油・
天然ガスの輸出余力を持つことは,重要な意味
大きな可能性を持つ中東の原子力発電
を持っている。
現在の人類が持つ技術において,
上述のように,今後中東アフリカ諸国は,電
自動車,航空機をはじめとした輸送用燃料,多
力需要が大きく増加し,その電力をどのように
様な石油化学製品を製造する原料として,石油
調達するかが大きな課題である(図表5)。
ほど優れたエネルギーはない。中東の石油があ
特に,中東産油国以外の国内に石油・天然ガ
るからこそ,東京-ニューヨークをノン・スト
ス資源が豊富に存在しない,トルコ,ヨルダン,
ップで飛行することが可能であり,多様で高機
エジプトをはじめとした非産油国にとっては,
能な石油化学製品が,日本のみならず,世界の
エネルギー安全保障上からも,燃料輸入が少な
国民生活を,より豊かなものとしている。そう
くて済む原子力発電は大きな魅力である。トル
した貴重なエネルギーを,大量かつ安価な生産
コの場合も,ウクライナ情勢を受けて,ロシア
コストで供給できる地域は,中東産油国しか考
産天然ガスへの過度の依存から脱却するという
えられない。イラクの未開発油田,米国におけ
エネルギー安全保障上の問題と,トルコ経済の
るシェール・オイルの登場によって,今後100年
課題である貿易収支を改善するうえで,同じ地
以上にわたって,自動車をはじめとした輸送用
震国である日本の高度な原子力技術に期待して
(図表5)電力需要の伸びる中東・アフリカ諸国
出所:IEA(国際エネルギー機関)統計
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中東協力センターニュース
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(図表6)中 東をはじめとした途上国における
原子力発電所新設計画
の新設が行われる可能性があると IEA(国際エ
ネルギー機関)は予測している(図表6)。
原子力発電所新設計画2013年
国 名
原子力発電所新設計画
中 国
2020年までに56基を新設
日本国内における原子力発電再稼働及び原子
インド
2020年までに18基を新設
力発電輸出ビジネスに消極的な議員を多く抱え
サウジアラビア
2032年までに16基を新設
る民主党政権から,原子力発電の再稼働と原子
UAE
2030年までに8基を新設
力発電輸出ビジネスに前向きな自民党政権に政
トルコ
2023年までに12基を新設
権交代し,原子力発電ビジネスを取り巻く環境
イラン
2030年までに20基を新設
エジプト
2025年までに4基を新設
ベトナム
2030年までに14基を新設
ポーランド
2014年は日本の原子力輸出拡大の時代に
は大きく変貌している。日本は以前の自民党政
権時代に原子力発電の海外輸出を国家戦略と位
置づけていた。しかし,2011年3月11日の東日
本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故に
2020年に2基を新設
ブラジル
2030年までに4基を新設
南アフリカ
2029年までに6基を新設
ヨルダン
2040年までに4基を新設
よって,唯一稼働していた関西電力の大飯原子
力発電所の3号機と4号機の2基の稼働も停止
し,2014年4月時点において稼働している原子
力発電所は,まったくない,そのため,日本は
出所:各種新聞報道
発電電力量の88%を,LNGをはじめとした火力
発電に依存している(図表7)。
いる。2020年には2,000万キロワットを超える発
日本の10電力企業の燃料費は年間7兆円に達
電能力の不足が生じると見込まれている UAE
し,日本の火力発電の比率上昇が,2011年,2012
をはじめとした中東諸国においては,2030年ま
年,2013年における,日本にとっての,年間11
でに7,500万キロワットに達する原子力発電所
兆円を超える巨額の貿易赤字と国富の流出の大
(図表7)日本の電源構成(%)2012年度
出所:電気事業連合会統計
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中東協力センターニュース
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(図表8)日本の化石燃料の輸入額(単位:兆円)
出所:財務省貿易統計
きな要因となっている。日本にとって最大の輸
する技術を維持・発展させることは,日本のみ
入品目は石油とLNG(液化天然ガス)をはじめ
ならず中東諸国をはじめとした世界のエネル
とした化石燃料である
(図表8)
。政府の試算で
ギー安全保障上も重要な責務であるとしている。
は,原子力発電所の稼働停止により,年間3兆
円を超える国富が流出するとされている。
日本の成長戦略の柱である原子力発電輸出
貿易立国である日本の貿易赤字の縮小,エネ
ビジネス
ルギー基本計画立案の前提となる原子力発電の
安倍首相による2度にわたる中東諸国への訪
位置づけは,電力業界,都市ガス業界をはじめ
問により,トルコ,UAE(アラブ首長国連邦)
とした日本のエネルギー業界全体にとっても重
と相次いで,原子力発電輸出の前提となる,原
要な課題であり,
2014年は,自民党政権のもと,
子力の平和利用を内容とする原子力協定を締結
積極的な原子力発電ビジネスの1年となる可能
し,さらにサウジアラビア,インド等とも原子
性が大きい。2013年6月14日に閣議決定された
力協定合意を目指している。日本は,BWR と
エネルギー白書においても,民主党政権におけ
PWR の技術を持つ東芝-ウェスティング・ハ
る原子力発電ゼロという政策は,非現実的とし
ウス連合,BWRの技術を持つ日立-ゼネラル・
て白紙に戻されることとなり,安価で安定した
エレクトリック連合,PWR の技術を持つ三菱
エネルギーとしての原子力発電の再稼働が視野
重工業-アレバ連合という BWR(沸騰水型軽
に入っている。2014年4月11日に閣議決定され
水炉)と PWR(加圧水型軽水炉)の両方の技
たエネルギー基本計画においては,原子力発電
術を持ち,原子力発電における設計,建設,稼
は重要なベースロード電源と明確に位置づけ,
働,保守,管理のすべてを行える唯一の企業連
発電コストの安価な原子力を安全に扱い,原子
合を誇っている。日本の原子力メーカーは,ト
力技術者の技術の維持・向上をはかり,核燃料
ルコ,フィンランドをはじめとして,次々と原
サイクルの技術開発を進め,世界における核拡
子力発電輸出ビジネスの受注に成功している
散を防止するうえでも,日本が原子力発電に関
(図表9)。
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中東協力センターニュース
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(図表9)日本の原子力発電ビジネスの海外展開
日本の原子力輸出ビジネス2013年
国 名
原子力発電所ビジネス概要
トルコ
三菱重工業とアレバの企業連合が FS の正式合意
ベトナム
日本企業連合が第2期を受注,企業は未定
ヨルダン
三菱重工業とアレバの企業連合が受注活動
リトアニア
日立製作所が65億ドルの受注内定,しかし国民投票は6割反対
フィンランド
東芝が優先交渉権を獲得
米 国
東芝-WH が AP1000を建設中,日立-GE が ESBWR の採用
英 国
東芝が原子力発電事業社ニュージェネレーションの株式取得
英 国
日立製作所が原子力発電事業者ホライズンを買収
出所:各種新聞報道
世界全体として見れば原子力発電推進が今後も
しかし,世界においては,原子力発電は基幹エ
日本では,福島第一原子力発電所事故の影響
ネルギーとして,2012年の一次エネルギーの4
もあって,
原子力発電推進には慎重な声があり,
%を占めている(図表10)。
脱原子力発電への意見も根強い。特に,福島第
もちろん,この30年間で見ると,1979年のス
一原子力発電所の廃炉と除染のコストが巨額に
リー・マイル島事故,1986年のチェルノブイリ
達し,日本において原子力発電所の稼働が,ほ
事故,2011年の福島第一原子力発電所事故と,
とんど停止している状況において,原子力発電
3度にわたるメルト・ダウン(炉心溶融)を起
の輸出を行う政策に対して,
反対する声もある。
こし,ドイツをはじめとした一部の欧州諸国は
(図表10)世界の一次エネルギー割合(%)
出所:BP 統計2013年6月
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中東協力センターニュース
2014・4/5
脱原子力発電に舵を切っている。もともと,チ
いては中国,インド,アジア諸国,中東諸国等,
ェルノブイリ事故を契機として,原子力発電に
原子力発電を増設もしくは新設する国が多い。
対して反対論の根強いドイツにおいては,2022
原子力発電が,世界全体として今後も推進され
年までに原子力発電所を全廃することを決めて
る理由は,第1に人口の増加,高度経済成長に
いる。もっとも,ドイツの場合には,欧州諸国
伴って電力需要が急速に増加している新興国に
間において網の目のような送電線網が系統連携
おいては,小さな面積で100万キロワット~160
されており,不足した電力は,フランスが原子
万キロワットという大規模な発電ができる原子
力発電によって作った電力を輸入するという,
力発電の魅力は大きいこと。特に,中東諸国に
一面では原子力発電に依存した矛盾したエネル
おいては,人口が急速に増加しており,このま
ギー政策を行っていることが,現実である。太
までは,サウジアラビアにおいてさえ,2050年
陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーを
には石油の輸出余力が消失するという見通しも
普及させるために導入された固定価格買取制度
ある(図表11)。
(FIT:フィード・イン・タリフ)によって,こ
第2にウラン燃料というわずかな量の燃料で
の10年間にドイツにおける電気料金が2倍にな
大きな電力を作れることは,外貨の流出を防ぎ,
ったことから,発電コストを引き下げるために
エネルギー源の多角化によるエネルギー安全保
石炭火力発電を増強し,環境先進国であるはず
障につながること。特に,原油生産量が大きく
のドイツの炭酸ガス排出量は,逆に増加してい
ない一部の中東諸国においては,経常収支の改
る。
善に大きく貢献する。第3に核分裂によるエネ
しかし,上述のように脱原子力発電,原子力
ルギーであるために,原理的に発電時に炭酸ガ
推進政策の見直しを掲げる国は,むしろ少数派
スを排出せず,地球温暖化問題の有力な解決策
である。世界全体に目を向けると,先進国にお
になること。等が挙げられる。世界においては,
いてはフランス,英国,新興経済発展諸国にお
2013年1月時点で,429基,合計3億8,823万キ
(図表11)中東産油国の人口見通し(単位:千人)
出所:国連人口推計
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中東協力センターニュース
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(図表12)世界の原子力発電状況
国 名
運転中原子力発電所万KW(基数)
原子力発電シェア
設備稼働率
米 国
10,606(104)
19.40%
89.91%
フランス
6,602(59)
76.90%
76.09%
日 本
4,958(54)
27.50%
59.16%
ロシア
2,319(27)
16.00%
73.09%
ドイツ
2,137(17)
27.30%
76.69%
韓 国
1,771(20)
39.00%
英 国
1,195(19)
18.00%
中 国
911.8(11)
1.90%
インド
378(17)
2.60%
76.69%
30%
出所:世界原子力発電協会統計
ロワットと,2012年比2基,376万キロワット増
に炭酸ガスを排出しないこと,石油,石炭と比
もの原子力発電能力が稼働している。米国にお
較して,極めて少ない量の燃料によって,大量
いては,シェール・ガス革命による天然ガス火
のエネルギーを生産できるというエネルギー密
力発電の増強が進んでいるものの,
現在も104基
度の高さが挙げられる(図表13)。
の原子力発電所が稼働する世界最大の原子力発
エネルギー密度が高いということは,大きな
電大国である(図表12)
。
面積を必要とせず,大量のエネルギーを生産で
きることを意味する。原子力潜水艦が,1年に
原子力は使い方によってクリーンで優れた
もわたって,燃料を補給することなく潜行して
エネルギー
航行できるのも,原子力エネルギーが,少ない
原子力というエネルギーは,放射能リスクが
重量で大量のエネルギーを放出できるからであ
あるものの,エネルギーとして優れた点は,核
る。標準的な原子力発電所の目安として100万キ
分裂によるエネルギーであることから,原理的
ロワットの出力が挙げられるが,太陽光発電に
(図表13)エネルギー別エネルギー密度比較(単位:メガジュール/KG)
原子力エネルギー密度比較(単位:メガジュール/キログラム)
エネルギー源
エネルギー密度
リチウムイオン電池
1
乾燥木材
15
石 炭
29
天然ガス
37
ガソリン
47
ウラン
66,000,000
出所:資源エネルギー庁統計
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中東協力センターニュース
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(図表14)ライフ・サイクルで見た炭酸ガス排出量
出所:資源エネルギー庁統計
必要な面積は山手線の内側,風力発電の場合に
料の価格高騰の抑制,世界的なエネルギー安全
は,太陽光発電の3倍もの面積が必要であり,
保障の向上,地球温暖化問題への貢献が,行わ
日照量の豊富な中東諸国とは異なり,国土の狭
れると見通している。石油火力発電所の場合に
い日本では現実的な大規模発電は,原子力発電
は,100万キロワット級で1基当たり1,500兆円
が最適である。さらに,ライフ・サイクルで見
であるのに対して,原子力発電所の建設投資額
た炭酸ガス排出量も,原子力発電が一番少ない
は1基当たり5,000億円と巨額のビジネスとな
(図表14)
。
る。そのため,重電メーカー,部品メーカー,
発電所の建設,廃棄までも含めた,全体の炭
建設企業にとって,大きな魅力のある事業であ
酸ガス排出量は,原子力発電は,地球環境に優
る。今後も中東,アフリカをはじめとした新興
しいと考えられている太陽光発電,風力発電よ
国を中心に電力需要の大きな伸びが見込まれて
りも少なく,地球温暖化対策への,一つの切り
いる(図表15)。
札といえる。
途上国の急速な電力需要の伸びに対して,短
期的かつ安定的に電力を供給できるのは原子力
原子力発電ビジネス市場の将来性と中東諸国と
発電であり,今後も電力需要の変動に柔軟な対
の関係強化
応が可能なミドル電源は,中東産油国から供給
世界の原子力発電所は,
現時点においても400
される天然ガス火力発電が中心となるものの,
基以上稼働しており,今後は2035年までにアジ
安定的に基礎となる電力を供給するベース電源
アだけでも200基,市場規模100兆円,世界全体
は,原子力発電となる可能性が大きい。その意
で400基,市場規模200兆円の巨大な原子力発電
味では,アジア諸国のみならず,中東諸国にお
ビジネス市場が見込まれる。IEA(国際エネル
いても,原子力発電所の建設計画が進められ,
ギー機関)も,
2035年までに少なくとも200基以
新興国における原子力発電所新設計画が相次い
上の原子力発電所の新設が行われ,原子力発電
でいる。日本は,トルコのシノップ地区におけ
所の新設によって,石油をはじめとした化石燃
る 原 子 力 発 電 所 建 設 計 画 の フ ィー ジ ビ リ テ
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中東協力センターニュース
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(図表15)世界の電力需要見通し(単位:兆キロワット時)
出所:IEA 統計
ィー・スタディーの枠組みをトルコ政府と三菱
訓に,世界一の品質と安全運転のノウハウを強
重工業が2013年10月30日に正式合意した。シノ
みとしている。米国も,核不拡散の観点から,
ップ原子力発電所は,
4基合計440万キロワット
日本企業の原子力技術の維持・発展を求めてい
の PWR(加圧水型軽水炉)であり,総事業費
る。特に,原子力発電の経験が不足している中
は2兆円に達する。また,日本は政府の支援の
東諸国においては,単純な価格の安さだけでは
もと,UAE,サウジアラビアとの間において原
計れない安全性の問題に日本は中東諸国からの
子力発電所の受注活動を行っている。東芝は,
期待に十分に応えられる。トルコも,原子力発
グループ企業である米国のウェスティング・ハ
電所の新設を日本企業に発注した理由として,
ウス社とともに,日立は米国の GE とともに,
日本の技術と安全性を信頼し,トルコにおける
サウジアラビアの原子力発電所建設受注を目指
原子力発電所建設への日本の協力を挙げてい
している。政府も,原子力発電輸出の前提とな
る。日本は,ヨルダンをはじめとした中東諸国
る原子力協定締結への交渉をサウジアラビアと
の技術者に原子力発電の人材育成で貢献してい
進めている。
る。単なるモノの売り切りではない,日本の官
今,中国,ロシア,韓国等は,価格の安さを
民一体となった,資金支援,人材育成,保守,
武器に,国家と企業が一体となって,資金支援,
管理をトータルで含めた原子力発電輸出ビジネ
武器供与とパッケージによって,中東諸国に対
スの展開は,日本の原子力メーカーの業績拡大,
して熾烈な原子力発電販売商戦を展開してい
インフラストラクチャー輸出戦略に貢献するだ
る。日本も,政権交代によって,日本の成長戦
けではない。電力不足に直面する中東諸国の電
略の有力な手段として原子力発電輸出ビジネス
力問題解決に寄与し,中東諸国の国民生活をよ
に本腰を入れ始めた。日本は,政府による政策
り豊かにするとともに,中東諸国の石油・天然
金融,債務保証,貿易保険,基礎となる原子力
ガス輸出余力を拡大させ,日本をはじめとした
協定締結等を推進し,40年以上にわたって原子
世界のエネルギー安全保障にも好ましい影響を
力発電を続け,福島第一原子力発電所事故を教
与えるのは間違いないのである。
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中東協力センターニュース
2014・4/5
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