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対談内容(PDF:1MB)
堺市にふさわしい大都市制度についての対談会 財団法人堺都市政策研究所では、まちづくりに関する調査研究を実施しております。こ のたび、その研究の一環として、堺市における大都市行政制度や広域行政制度のあり方に ついて、行政学、公共経済学、法社会学、財政学等を専門に研究されている4人の学識経 験者をお招きし、平成24年3月17日に「堺市にふさわしい大都市制度について」という議 題で対談会を実施いたしました。 対談者(50音順) 阿部 昌樹氏(大阪市立大学大学院 法学研究科教授) 新川 達郎氏(同志社大学大学院 総合政策科学研究科教授) 村上 睦氏(大阪学院大学 経済学部教授) 吉田 素教氏(大阪府立大学 経済学部准教授) 司会者 宮本 勝浩(関西大学大学院 会計研究科教授) (財団法人 堺都市政策研究所 理事長) 1.二重行政について ……… 1 2.住民参加について ……… 19 3.二重行政と大阪経済衰退の関係性について ……… 25 4.前半のまとめ ……… 29 5.堺市の発言力について ……… 31 6.財政と税源について ……… 35 7.アイデンティティについて ……… 41 8.大阪都構想を一言でいうと ……… 45 9.まとめ ……… 49 補 論:詳細説明 ……… 53 1.二重行政について [宮本理事長] 今日はお休みのところ、お忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。 それでは、堺市にふさわしい大都市制度についての対談会を開催させていただきたいと思 います。 まず、最初に大阪都構想についてこれまでいろいろなメリットがあるんだよ、と言われ ているわけですけれども、その中で、まず、最初に二重行政が解消されるとか改善される という意見をとりあげてみたいと思います。まずご専門の立場から阿部先生にお聞きした いと思いますが、これにつきまして何かご意見ございますのでしょうか。 [阿部先生] そもそも二重行政という言葉は、明確 に定義が定まったものではありません。 大阪府と大阪市が類似の行政を実施して いることは疑う余地のない事実ですが、 それらの類似行政のどこまでを二重行政 という言葉で捉えるのか、それ自体が問 題です。また、最近では新川先生も参加 された府の研究会で、大阪府と大阪市と の関係では二重行政よりもむしろ二元行 政が問題であるという指摘もなされておりますので、そのことも踏まえて、何が問題なの かを考える必要があります。 一つ例を挙げますと、大阪には大阪市営住宅もあれば大阪府営住宅もあります。府も市 も公営住宅を管理しているのですから、類似行政が存在していることは明らかです。その 点をとらえて、公営住宅の管理を府と市が別々に行っているのは非効率なのではないか、 公営住宅の管理を府か市のどちらかに一元化すれば、より効率的に管理できるのではない かという指摘がなされていますが、業務の重複が非効率を生んでいる可能性は確かにある だろうと思います。同じようなことは、大阪市の産業創造館と大阪府のマイドームおおさ かが、それぞれに中小企業支援行政を行っていることについても当てはまります。両者が より密接に連携すれば、より効率的に、また、より充実した中身の濃い中小企業支援がで きるのではないかという指摘にも、頷けるところがあるように思われます。 それに対して、私自身の利害もかかわっていますので言いにくいのですが、大阪市も大 阪府も大学を持っているということを考えたときに、二つの大学が競い合って、それぞれ がより多くの成果を出そうと努力するというような、二つあることのメリットもあるので 1 はないかと思います。 もちろん、大学に関しても、教職員への給与の支給や物品の調達のようなバックオフィ ス的業務が、それぞれの大学で別々に行われているのは非効率だと言われればその通りな のかもしれませんが、二つあって、相互に競い合うことによって生みだされるプラスの効 果も、軽視すべきではないだろうと思います。実は、同じことは公営住宅の管理や中小企 業支援行政などにも当てはまるのかもしれません。結局のところ、二つあることによって 生じる競争が生みだす相乗的な効果と、二つあることによって生じる非効率との、どちら をどれだけ重視するかによって、府市が類似行政を実施していることに対する評価は異な ってくるのではないかと思います。 [宮本理事長] ありがとうございます。新川先生はいかがでしょうか。 [新川先生] まず、基本的に阿部先生の今のお話に ついては私自身特に異論は実はないので す。特に大阪府と大阪市の間での問題と いうことで言うと、私自身大阪府の自治 制度研究会に関わって、二重行政という ふうにいわれる直接、権限が重なること で大阪市の独自性が活かされないという ような、そういう問題については実はほ とんど解消されてきているのです。これ は土地区画整理組合の許認可制にしてもそうですし、多く法律上残された問題も府市の間 の議論で解消されてきたということがございました。従って、法的な問題というよりは、 むしろ阿部先生からお話があったように、類似の機能を持っているということをどう考え るのか、というのが恐らく政治的には焦点になってきているのではないかと思っています。 ただ、行政学的な観点でこの問題を観た場合、私どもがむしろ研究会を通して問題だな というふうに思ったのは、単に府と市が同じようなことをやっているというよりは、大阪 という一体的であるべき大都市圏で、大阪市内という地理的な区域と大阪市を抜いたそれ 以外の大阪府という地理的な区域、このそれぞれに、それぞれの大都市行政を実は大阪市 と大阪府がそれぞれにやってしまった。しかも、その両者の間が緊密に連携を取って政策 的に整合性を持って運営されていれば良かったのですが、実はどうもその節がない。それ は、広域的な観点からの交通体系の整備であるとか、あるいは経済拠点の整備であるとか、 といったような、言ってみれば260万人の大阪市民だけではなくて800万人の大阪府民、場 合によっては1500万人の近畿圏の課題になるような政策的論点があるはずなのです。とこ 2 ろが、これに影響のあるような政策に関わる問題というのが実は、府の区域は府の区域、 市の区域は市の区域と分断をされた形で実は大都市圏政策というのが進められてきたので はないか。というのが実は二元行政という言い方をした問題提起でもありました。従って、 二重行政よりはこの二元行政をどう解消するのか、ということが、実は大阪府自治制度研 究会での議論の中心でした。私が関わっていた2011年まではそのはずだったんですがその 後どうなったかというのはご存じの通りです。それとの関係で、少し、今いわれている二 重行政について言えば、基本的には類似の行政を府市統合という形で一体化をしようとし ておられる。これ自体は実は、阿部先生からもご指摘があった通り、行政上の一元化によ る効率、それから規模の経済という点からも一定の効果は見込める。ただし、規模の不経 済という問題が同時に発生をしますので、大きくなることでかえって肥大化によるデメリ ットというのが発生しないか、という非効率の問題も同時に発生をする。それから、もう 一つ重要なのは、府と市がそれぞれ独自に動いてきたことで、それぞれの政策、施策が豊 かに展開をされてきた可能性もある。たとえば今、文化行政について一体化が進められて いますけれど、府と市がそれぞれどうするのかではなくて、いっしょにやるとなったとき に、大阪文化みたいなものを逆に一つでやった方がうまくいくのか、あるいはいろんな観 点で議論した方がいいのか……これは、この社会の豊かさというのをどういうふうに確保 していくか、大学とか教育機関も同じですけれども、そういう豊かさみたいなものをどう 考えるのかというのが、実は今の類似行政の議論の中で少し欠けているかな、というよう な、そういう印象は持っております。 [宮本理事長] ありがとうございます。ちょっと専門とは違うかもしれませんが、村上先生は何かお考 えはございますか。二重行政とか、今、新川先生がおっしゃった二元行政とかについて… …。 [村上先生] 専門が少し異なりますので、「大阪府と 堺市の今後の連携について(報告)」とい う堺市の政令指定都市移行に係る連携・ 協調検討部会の報告書を読ませていただ きました。そこに、二重行政の定義とし て、二点あげられ、第一は行政サービス の重複、第二は施策に類似性があり、適 切に連携が図られれば、効果があるのに、 協力がなされず、別個に施策が実施され ていることが挙げられています。第二の定義は類似の施策が実施されていても、連携が図 3 られるのであれば、二重行政にはならないと解されると思うのですが、それでいいのか、 連携が図られるということは一つになるということなのか、二つ存続しても協力しあって いれば二重行政にはならないのかと素朴な疑問を感じました。具体的な項目を見ますと、 教育・文化・生活の項目で、同じような目的の資料館、博物館があるように見受けられま すが、相互連携を図っていくということで、二重行政の定義からはずされているように思 えました。単に協力するか否かだけで、二重行政であるか否かを判断するのは適切なのか という疑問です。存続には時代のニーズ、施策の重要性など、別の観点からの評価基準が 入ってくるのではないでしょうか?具体的な課題整理を全体として見ると、二重行政と声 高に主張するほどのものがそんなにあるとは思いませんが、若干は重なり合うところが、 残されているように感じました。次に、二元行政についてですが、ご指摘のとおり、たし かに、競い合えば、豊かさという面から実り豊かなものが生み出されるということはあろ うかと思います。しかし同じ施策を広域自治体と基礎自治体が区域を分けて行うというの はおかしいのではないかと思います。たとえば、母子福祉施策については、都道府県と政 令指定都市はその所管区域ごとに実施ということですので、まさに、二元的な施策だと思 います。また、市街地再開発事業は認可の権限を堺市に移譲することに協議を進めるとあ り、認可、勧告、助言、援助を一本化することは望ましいと思いますが、このような事業 はどちらが担うべきなのか、広域的な視点が必要なのではないかという気がします。政令 指定都市になったことで、広域的な事業の権限が移譲されるわけですが、今回の都構想で 見直しが必要になってくるのではないかと思います。都の中に、政令指定都市があるとい うのはまさに二元行政ではないでしょうか。地方分権は住民がその地域に対してどれだけ の誇りをもっているか、愛着をもっているかということに帰すると思います。堺市出身の 方々にお聞きすると、堺は大阪とは違うと必ず言われます。堺市をそのまま残すのであれ ば、広域的な施策は返上せざるをえないのではないかと思います。 [宮本理事長] 次に、吉田先生からご意見をいただきます。 [吉田先生] 発言の前に、まず、本日の私の説明に 関しまして、次の三点のことを断わらせ て下さい。一つは、私はこの中で一番若 輩だと思います。しかし、諸先生方を前 にして恐縮ではありますが、自身の見解 は遠慮なく述べさせていただきたく存じ ます。次に、日本人がしばしば陥る「イ デオロギー(思想・観念)」による訴えで 4 はなく、あくまで「論理的」説明を、併せて、できる限りデータを用いた「定量的」説明 をさせていただきます。最後に、社会・経済のことのみならず、日本と世界の歴史、文化、 民族性、さらに現代日本人の精神性を踏まえたうえで説明させていただきます。 それでは、説明に入らせていただきます。まず、いわゆる「大阪都構想(以下、都構想) 」 を考える際に地方経済・地方政治・地域行政のレベルでのみ議論すると、この構想が抱え ている問題・背景が全く分からないということを認識しなければなりません。今、日本人 が考えなければいけないことは、地域レベル(ミクロ)の話ではなく、“社会全体の統治 をどうしていくべきか”ということであります。その際には世界の統治の在り方を考えて 日本の統治の在り方が、日本の統治の在り方を考えて地方の統治の在り方がようやく分か るものです。多くの国民の方々は都構想と言われると、さも大きな話、目線の高い話と感 じられるかもしれませんが、実は、この構想では話が小さ過ぎ、かつ、目線が低過ぎるの です。この指摘をご理解いただくため、ここでは前後半に分け説明します。前半は、多く の日本人が正確に理解していない(誤解している)「社会の客観的な姿」と「公的セクタ ーの運営と民間経営との違い」について、後半は、「なぜ、日本人は社会の客観的な姿を 理解していないのか?」について説明します。 それでは前半から始めます。都構想という地方統治の話を議論するに際しては、迂遠な ようですが、まず、世界経済、世界各国の財政、日本経済、日本財政等の客観的な姿を定 量的に、つまり、“正確に理解する”ことから始めなければなりません。そのため、以下、 世界と日本の現状をデータに基づき説明させていただきます【※詳細説明1参照】 。 第一に、日本は「世界最大の(対外)純資産国」であります。そして、その純資産額は約 270兆円(2009年末)にのぼります(2位中国:約170兆円) 。 第二に、日本は世界有数の黒字国(経常収支黒字国)、すなわち、国全体で観た場合、 “所得(付加価値獲得額)>消費”の状態であり、その黒字額と黒字率(対名目GDP)は 約10∼25兆円,約2.0∼5.0%(2000−2009年)にのぼります(アメリカ、イギリス、フラン ス等は赤字国)。 これが民間企業、家計、政府部門の全部門を合計した場合の日本のストックとフロー面 の実力です。しかし、一般的には、国内の1セクターに過ぎない一般政府部門(国+地 方+社会保障基金)の長期債務が約1,230兆円(2009年度末)である、一般政府部門の単年 度赤字(財政赤字)が約45兆円(2009年度)であるという情報ばかり流布されており、多 くの国民はこうした基本情報を理解しておりません。ちなみに、大阪府や大阪市の財政困 窮状況はよく流布されておりますが、大阪経済自体は、国全体の話と同様に、約4.9兆円の 黒字(2005年)です(昔に比べて日本における大阪経済のウエイトが低下したとはいえ、 大阪は日本の冠たる都心地域ですから当然です) 。 以上の二つの情報からでも、日本は“国全体としては毎年「貯蓄」している状態で、そ の累積により世界一の(対外)純資産国になっている”ことが分かります。この日本社会 のマクロ経済状況が理解できれば、細かい波及効果等を抜きにした場合、もし、国民が 5 “政府部門の財政赤字(国債、地方債発行等)が問題だ”と思うのであれば、“政府が民間 部門から税金をちゃんと取ればいい”ということになります。つまり、国を構成する各セ クターである「民間企業」、「家計」、「政府」間で、所得(付加価値)の分配を変えればい いだけです。その分配を変えても、国全体で「黒字」ということは不変ですから。なお、 補足説明を一つしておきます。国債が大量発行されているのに日本がギリシャのようにな っていない本質的理由は“日本が経常黒字国のため、国債が基本的に国内で吸収されるか ら(民間セクター黒字>公的セクター赤字) ”であります。 第三に、日本は、韓国、スイスと並んで、「OECD国中最も小さな政府」であります。 「一般政府財政規模(対名目GDP比)」(2006年)と「公務員数規模(対労働力人口数比)」 (2005年)の二指標を観ると、日本は前者が約36%、後者が約5%(イギリスは約44%、約 15%)となっています。多くの国民の方々がお持ちの“日本は社会主義国のように大きな 政府である”というイメージは真実とは真逆なのです。 第四に、OECD各国の国民負担率((税負担+社会保険料負担)/名目GDP 1)を観てみ ましょう。実は、日本のこの指標は29.65%(2009年)となっており、OECD34カ国中24番 目の大きさです(OECD平均は35.35%;イギリスでも36.36%)。このように日本はマクロ 的には国民負担率が低いことが分かります。しかし一方で、多くの国民の税・社会保険料 負担感は重い。これら二つの事実からは「税・社会保険料負担額と負担能力のバランス」 を再考する必要があることが示唆されます。 第五に、 「格差問題」について説明します。日本の「相対的貧困率 2」を日本、アメリカ、 イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンという主要先進6カ国間で比較してみると、 日本は14.9%で2番目に格差が大きい国(1位アメリカ:17.1%)となっています。次に、 日本の完全失業率を観ると、15∼24歳では9.4%(2010年)、25∼34歳では6.2%、その他の 年齢グループでは全て5.0%以下となっており、若年層ほど厳しい環境にあります。 第六に、世界各国における「所得(フロー)、資産(ストック)の分布状況」を観てみ ましょう。初めに、先進各国における上位1%の富裕層が国民所得中、アメリカでは約 20%(2008年)、イギリスでは約15%(2007年)、日本とフランスは約10%(2005年、2006 年)の所得を稼いでいます。また、世界全体の総資産(金融+有形財産:2000年)につい て、世界のトップ10%の資産家の国籍は、1位:アメリカ(25%)、2位:日本(20%)、 3位:ドイツ(8%)となっています。続いて、日本における総資産分布状況の推移を観 ると、トップグループである「4,000万以上の保有者」の割合(対日本人全体)は1999年の 20.8%から2004年には24.9%に増加(第2グループ「3,000万円以上4,000万円未満」の割合 も9.1%から10.1%に増加)。また、60歳以上世代が保有する資産の割合(対総資産)は 46.1%から53.3%に増加しています。 1 一般的には分母に「国民所得」を持ってくる。しかし、ここでは、全経済活動に対する負担の割合を掴んでい ただくために、分母にGDPを持ってきました。 2 所得が所得分布における中央値所得の50%に満たない人々の割合。 6 これら第五、第六で説明したデータからは、世界的に所得・資産格差が、さらに、日本 では所得・資産両面における世代間格差も拡大してきていることが分かります。 第七に、労働分配率(雇用者報酬/国民所得)が2001年の74.2%から2007年の69.5%まで 一貫して低下してきたこと、国全体では黒字である(前述)が、その黒字を生み出す主役 が貿易収支から所得収支に変わってきたこと(前者4.0兆円の黒字、後者12.3兆円の黒字: 2009年)、いわゆる「BIS規制」により、世界的に活動する銀行に関して、その融資が自己 資本(8%以上を要求される)の一定倍までに制限されるようになったこと、現在国債等 は安定的に消化されていることなどを踏まえると、日本企業は銀行融資よりも内部留保に 依存した投資行動へシフトしてきたこと、「信用収縮のリスク」に備えての手元資金確保 の意向が強まったこと(特に中小企業)、投資に回らない内部留保は政府部門の赤字(財 政赤字)のファイナンス(国債等の購入)に回っていることが推察されます。 第八に、日本は1993年以降(1996、1997、2005、2006年除く)一貫して、GDPギャップ がマイナスの状態(社会の総供給能力>総需要)にあります。この経済状況下では、一般 的に、「非自発的失業」が存在し、物価はデフレ傾向に陥ります。また、政府部門の赤字 (財政赤字)削減を単なる歳出カットにより実現しようとすると、日本の総需要はさらに 縮小します。その結果、当該ギャップがさらに拡大し、「非自発的失業」はさらに増加し、 デフレ傾向に拍車がかかることになります。当該手法により財政赤字削減を実施する政治 家も多数存在しますが、適切な手当てもなしにこれを行えば“他人を生活困窮や死に追い やる”こととなります。このことを全国民はしっかり認識しなければなりません。 ここで非常に示唆に富む歴史上の実話を紹介します。江戸幕府が明治新政府に倒された とき、旧幕臣の多くは失業の危機に直面しました。そこで、勝海舟はそれら失業の危機に あえぐ旧幕臣を救うために、すなわち、飯を食わせるために、静岡においてお茶産業を興 し、そこに多くの旧幕臣を抱えました。この逸話からは、単に歳出カットをするだけの者 は到底政治家とは呼べず、ここでの勝海舟のように、国民にちゃんと飯を食べさせるため に、「資源の適切なる再配置」を行う者こそを政治家と呼ぶべきことが分かるでしょう。 この点、現代の政治家の方々には是非とも肝に銘じていただきたいものです。 第九に、「公的セクターの運営と民間企業の経営の違い」について説明しておきましょ う。民間セクターが扱う財は「私的財」(消費のコストと消費からの便益が同一個人に帰 属する財)であり、当該財については、市場を利用して、各個人・各企業が自らの「欲望」 にのみ従ってその取引を行うと効率的な資源配分が実現します。一方、公的セクターが扱 う財は「公共財」(道路など)であり、当該財は財の便益が一人にだけではなく、同時に、 複数の人間に及ぶという性質を持っています。また、個人で当該財の利用(消費)のため の費用を負担すると、便益に比して負担額が大き過ぎる財でもあります。よって、この財 の供給を市場に任せると、皆に必要な財であるにもかかわらず、その供給量がゼロ(もし くは過小供給)になってしまうのです。そこで、役所が各人の便益量、供給コスト、効率 性と公平性に配慮した税額(社会保険料含む)等を予測しながら、なるべく非効率を生み 7 出さないように公共財供給をしているのが実態です。しかし、各個人が必要と考える公共 財量はその個人の「選好」と「予算制約」(公共財の費用負担額やその個人の所得額等か ら構成)によりバラバラであるため、国民それぞれが役所の公共財供給は非効率 3と感じ ることとなります。しかしながら、こうした事実を踏まえると、少なくとも、前述の各フ ァクターの予測技術をトレーニングしていない人材、予測技術を用意していない組織では、 公的セクターを運営できないことはご理解いただけるでしょう。一部の政治家、マスコミ 等が好んで使う“こんなこと民間では有り得ない”という発言は社会メカニズムを理解し ていない故の発言といえます。 それからもう一つ。公的セクターは社会にとっての最後のセーフティー・ネットであり ます。民間企業が何かの判断ミスを犯しても、このセーフティー・ネットの存在により、 大きな社会損失の発生を回避できる可能性が高いです。しかし、最後のセーフティー・ネ ットである公的セクター自身が判断ミスを犯した場合、究極的な社会損失が発生します 4。 行政にコミットする者は“公的セクターの判断ミスは人々に生活困窮や死をもたらす”と いう畏怖の念を常に持っておかなければなりません。また、一般の国民もこの事実を認識 しておく必要があります。公的セクターと民間セクターはその社会的役割が違うのです。 多くの日本人はここで説明した社会の客観的な姿と社会メカニズムを理解しておりませ ん。ただし、この理由として、後半に説明する本質的理由とは別に、それらを国民に伝え る立場にある政治家、国・地方の役所、研究者(私も含む)、マスコミがその役割を果た していないことが挙げられます。この役割が十分に果たされない場合、多くの国民は本来 の意思決定と異なる決定を行う可能性が高くなります【※詳細説明2参照】。現下のよう に、国民が、日本全体の姿をさておき、財政状況の悪さだけを聞かされたら、社会に「魔 女狩り 5」的状況が出現するのは明らかです。すなわち、生活環境の悪化原因を社会メカ ニズムに基づき思考するのではなく、「イデオロギー」(ここでは特定の誰かを悪者にする 思い込み)による「公的セクター・バッシング」が発生することとなります 6。しかしな がら、社会の一面(ミクロ)だけを説明する手法(一部の政治家やマスコミの手法)と異 なり、ここで行った、論理と定量的データに基づく社会メカニズムの説明を踏まえると、 短絡的な当該バッシングは社会の重要インフラ(ソフト・ハード両面)を破壊する可能性 が高いことをご理解いただけるでしょう。また、仮に多くの国民が公的セクターに悪感情 を持っていたとしても、GDPギャップの現状からは、単なる公的セクターの歳出カットや 3 ただし、勤務態度問題や、現状の技術で望まれる効率性を満たす業務システムが導入されていない問題などが 存在する場合、それらの問題は、別途、改善していかなければならないのは当然である(以下、同趣旨部分にお いて、スペースの関係上、当該注は入れませんが同様にご理解下さい) 。 4 この点については、東日本大震災以降発生した各種の危機事象が理解を助けるでしょう。 5 中世末期から近代にかけてヨーロッパ等で行われた。 6 もちろん、公的セクターにおける個別の問題点は、別途、改善していかなければなりません(以下、同趣旨部 分において、スペースの関係上、当該注は入れませんが同様にご理解下さい) 。 8 公務員の削減(新規採用抑制含む)は、さらなるデフレや労働市場の超過供給状況 7の進 行を招く可能性が高いといえるでしょう。さらに、公的セクターの三大機能、「資源配分 機能」(市場では対応できない公共財・サービスの供給)、「経済安定化機能」、「所得再分 配機能」、を理解すれば、公的セクターの守備範囲の縮小(日本は元々狭い)は、本質的 に、経済的に豊かな人よりも困窮している人の状況をより悪化させる可能性が高いことも ご理解いただけるでしょう。単なる「憂さ晴らし」では経済全体のパイの縮小に繋がりま す。よって、今後は、社会的影響力の大きいテレビ等のマスコミ、政治家、役所、著名な 研究者等が、率先して、国民に“(一部分ではなく)社会メカニズムの全体像を正確に伝 える”ことこそが社会の健全な発展(どの経済主体にとっても中長期的には得な状況)を 実現させるでしょう。ちなみに、スウェーデンでは“情報は究極の公共財”という理解の 下、情報公開が徹底されています(オンブズマン制度も国費で運営)8。現在、経済のグ ローバル化が伸展しております。だからこそより一層、日本人全員が世界の経済システム と日本経済・社会の状況(現時点では諸外国に比べ良好、しかし、所得・資産両面におけ る格差、世代間格差が拡大)を正確に理解したうえで、「分かち合い」の気持ちを持ち、 先の勝海舟の話と同様に、日本が有する付加価値や人材等の資源を有効活用し、産業構造 の転換、ソフト・ハード両面から必要な社会的インフラの整備、街やコミュニティのファ イン・チュー二ングを適切に図っていくことが必要でしょう。そのことが国民の生活を守 り、財政の立て直しにも繋がるでしょう【※詳細説明3参照】 。 次に、後半、日本人が「社会の客観的な姿」を理解していない理由についてです。 前半で説明しましたとおり、アメリカにおいても、所得、資産の偏在化が進んでいます。 そこで、富裕層ではないアメリカの人々は、昨年(2011年)秋以降、“We are 99%.”、 “Occupy Wall Street.”と叫び、ウォール街でデモを行ったのです。しかも、ノーベル経 済学賞受賞のスティグリッツ教授はこのデモを正当なものであると評価し、自らそのデモ に参加しました。私はアメリカのガバナンスには諸々意見を持っていますが、“さすがに アメリカ人は大局観があり、意思表示すべき対象をしっかり理解しているな”と感心しま した。一方、日本の国民の多くは、相変わらず、公的セクター・バッシングを続けており、 基本的に行動のべクトルがおかしいといえるでしょう。現在、日本人ならびに全世界の 人々に突きつけられている問題は“人類が未だ統治方法を見出していない経済システム (グローバル経済)にどのように対応していくか”ということです。近年、西欧や中東の デモ・暴動、ギリシャの国債問題等が発生していますが、これらは現在の経済システムに 起因している部分が大きいのです。 さて、大陸の民族は大局観を持っています【※詳細説明4参照】。一方、多くの日本人 は「大局観」を持っていないため、聞き心地の良い「イデオロギー」に与し易い傾向にあ 7 非自発的失業者が多数存在。 8 北岡孝義(2010) 『スウェーデンはなぜ強いのか』PHP新書。 9 ります。では、なぜ、大局観を持ちえていないのか?それは、日本の文化が「アニミズム」 の文化であるからだと考えます。では、なぜ、アニミズムなのか?それは、太古以来、日 本列島の自然が豊かであり自然そのものが付与してくれる付加価値(GDP)の量が膨大、 つまり、予算制約が緩かったため、日本人は「自然と共存しながら目の前のことをコツコ ツ頑張るという文化」を育んできました。しかし、その一方で、大陸の民族に比べ、「大 局観」、「因果関係を踏まえる論理的思考」、「定量性を重んじる思考」の獲得は弱かったと 考えられます。そして、このことが、日本人が「社会の客観的な姿」を能動的に理解しよ うとしない本質的理由と考えられます。このような特性の下では、多くの国民は「イデオ ロギー」に与し、政治においてある種のフィーバー現象が生じ易くなります。 寡聞とは存じますが、残念ながら、現在、社会全体のメカニズムを踏まえたうえで、川 上から川下まで順を追って都構想を議論するという状態になっていません。いわゆる「二 重行政や二元行政」という局所的な議論に終始してしまっています。しかし、それでは問 題の本質を見誤る可能性が高いので、本日は、是非とも、社会メカニズムを踏まえたうえ での意見を述べさせていただく所存です 9。都構想の中身については、後ほど、順に論じ させていただきます。 [宮本理事長] いろんな意見が出ましたけれども、基 本的に先ほどからご意見を賜っておりま すと、新川先生、阿部先生がおっしゃっ ておられます二重行政や二元行政は、な んとか解消とか改善していかないといけ ないね、ということは言えるわけですね。 ただ、たとえば、先ほど新川先生もおっ しゃいましたように、堺にとってみると 二重行政というのは、実は大阪府と大阪 市の間の関係ほどそんなにたくさんあるわけじゃあないという意見がありました。と言い ますのは、堺市の場合、一般市から中核市になってさらに政令指定都市なったという過程 の中で、一応きちっと精査した状況の下で、二重行政を排除していこうという形で政令指 定都市になった。だから、大阪市と大阪府ほど二重行政があるわけじゃあないんですよ、 という意見があります。実は、政令指定都市になる前に、大阪府と堺市の幹部の方々がお 集まりになって相談したときに、基本的に二重行政はありませんね、という結論になって いるんですよね。そうしますと、堺市にとっては二重行政があるから大阪都構想で一元化 9 このような一見偉そうな見解を示すのは個人的には恐縮至極です。しかし、研究者の社会的役割には“社会問 題を国民に分かり安く説明する”ことも含まれますのでご理解のほど宜しくお願い致します。 10 しようとかと言われると、大阪市とは事情が若干違うんですよ、と言う意見もあるんです が、新川先生はこのことについてどう思われますか。 [新川先生] 私自身、政令市に移行するというプロセスで少しお手伝いをさせていただいた経緯がご ざいました。その中で、かなりの程度、府と市の間で整理もされ、実態的には府の施設等 も…府の方が相当引き上げられたという経緯もあって…逆に堺市の場合は、政令市になる ことで、ずい分と府との関係が区域的にはきれいに整理をされたという経過があるという ことは承知をしております。別の言い方をしますと、本来の政令市らしい政令市の権限と いうのを堺市が保障されるようになったということでもありました。逆に、そのことが何 を生み出すかということについて言えば、従って私自身は二重行政の問題よりはむしろこ れから二元行政の問題というのが出てくる可能性はあるな、というふうには思っておりま す。そのときに恐らく問題になりますのは、一つはやはり産業基盤、港湾でありますとか、 あるいは基盤的な施設整備であるとか、という点で、堺市が内向きに大阪府あるいは大阪 都が堺市域を外して外向きになったときに、この両者の間で利益の相反が起こりうるので はないか、ということが一つ懸念としてあります。もう一つは、高齢問題を中心にして、 堺市でもこれからいよいよ福祉的な部分での負担がどんどん増えていくということがござ います。そうなったときに、逆に全ての権限を委ねられた少子高齢社会対応というのが、 ほんとうに堺市単独でできるのかという問題を含めて二元的にやってしまう、そうした場 合に別々に分けてしまうことのデメリットというのを逆に考えていくべきですし、そうい う段階に来ているのではないか、と思います。ただ、堺市の場合は、まだ政令市になって あまり時間が経っておりません。そこまで問題が顕在化していない、ということではない かと思っております。 [宮本理事長] 阿部先生は、堺市と大阪府の二重行政というのは、大阪市と大阪府ほど、ないのではな いかという議論があるについてはどうですかね。 [阿部先生] 先ほど公営住宅の話をしましたが、大阪府営住宅は、府内の基礎自治体の区域ごとの戸 数を見ると、堺市内に建てられているものが最も多いのではないかと思います。その一方 で、堺市営住宅もありますから、堺市内では大阪府と堺市が類似の行政を実施している例 はないとは言えないはずです。同じことは、中小企業支援行政にも当てはまります。堺市 は、市としての独自の中小企業支援施策を展開しておりますが、それと大阪府が実施して いる中小企業支援施策とは整合性が取れているのか、両者の間に無駄な重複はないのか、 といったことも問題にする余地はあるだろうと思います。 11 それから、これは新川先生がおっしゃったことと関係するのですが、二重行政あるいは 二元行政という批判は、法律で実施が義務付けられている事務ではなく、その外側にある 任意事務と呼ばれている事務に関わるものです。ある種の事務を、府も市もその実施を法 律上は義務付けられていないにもかかわらず、府も市も実施していることが、二重行政あ るいは二元行政として批判されているわけです。産業政策もしくは地域振興施策、要する に地域の経済成長にかかわる事務は、その多くが、そうした任意事務です。小さな基礎自 治体でも、その自治体の区域を活性化させることを目指して、独自の経済成長戦略を立案 し、実施するということは、ごく一般的に行っています。堺市でも、臨海部に企業を誘致 することによって堺市の区域全体を活性化しようという戦略を立て、それを実施していま す。そうした堺市が堺市として、内向きというか、堺市民の利益のために立案し、実施す る経済成長戦略が、より広域的な観点から立案された経済成長戦略、それが大阪府あるい は大阪都のものなのか関西州のものなのかはともかくとして、その広域的な経済成長戦略 と十分に整合性が取れていない状況が生じたときに、それは、やはり二元行政なのではな いか、あるいは二重行政なのではないか、そこに非効率が生じているのではないかという 問題は当然生じてくるはずですし、実は今でも生じているのかもしれません。たとえば、 関西全体の利益を重視する観点に立ったとき、シャープの工場が堺市に立地していること は本当に望ましいことなのか、関西のどこか別のところに立地した方が、関西経済への貢 献はより大きくなるのではないかといったことは、潜在的には問題となりうるのではない かと思います。要するに、今のところ顕在化してはいない潜在的な二重行政もかなりある のではないかと考えております。 [宮本理事長] ありがとうございます。先ほど、吉田先生は、まず大局的な見方が大切だというところ から議論に入られましたけれど、今話しに出ています大阪府と大阪市の二重行政の話、ま たは大阪府と堺市の二重行政について何かご意見ございますか。 [吉田先生] ここでは次の二点を説明させていただきます。前半は、「大阪府と堺市の二重行政」と 「大阪府と大阪市の二重行政・二元行政」に関する評価について、後半は、「国・地方統治 の有るべき姿」について説明します。 それでは、まず、前半の説明です。先日、堺市が政令市に変わる際の、「大阪府と堺市 の連携の在り方に関する報告書 10」を拝見しました。当該報告書からは、大局的に観た場 10 堺市の政令指定都市移行に係る連携・協調検討部会(平成18年3月30日) 「大阪府と堺市の今後の連携について (報告)」。 12 11、大阪府と堺市の間で、不必要な二重行政が生じないように、非常に丁寧に調整がな 合 されたことが理解できました。一方、大阪府と大阪市につきましては、両者の間には不必 要な二重行政、二元行政が存在し、これまでの大阪府と大阪市間の縄張り争いに決着を着 けねばならないとの意見を聞きます。しかし、そのような意見には“税金で給料貰って仕 事しているのに甘えるな!”と言うべきでしょう。タックス・ペイヤーで、かつ、主権者 (プリンシパル)である国民・府民・市民からすれば、代理人(エージェント)に過ぎな い大阪府と大阪市は、定量的な予測をしたうえで、「社会厚生を維持・向上させる統治方 法」に関する議論を論理的に行い、自治体間での調整などは平常業務として粛々と終わら せてもらわないと困ります。そうでないと、国民・府民・市民は機会費用を払わされるば かりです(公務員の勤務時間が不必要な調整業務に充てられ行政効率が低下する結果、社 会厚生が大きく毀損される)【※詳細説明5参照】。結局、都構想というものを別途打ち出 さなくても、大阪府と大阪市も「大阪府・堺市方式」で調整すれば済むと考えられます。 次に、後半の「国・地方統治の有るべき姿」について説明します。「大阪府・堺市方式」 には、今後の国・地方統治の在り方を考える際に非常に示唆に富む調整が含まれています。 その調整とは、堺市が政令市に変わる際に、「堺泉北港(国際拠点港湾)」を堺市に移管せ ずに大阪府に残したことであります。今、日本の地方分権論議では、上位政府から下位政 府 12への権限・財源の移譲の話が多く、また、地方側の意見が多く発信されています。し かし、日本が直面している課題に対応していくためには、実は、下位政府から上位政府へ の権限の返上も必要なのです。 この議論を深めるために、次の三つの事実を説明させていただきます。 第一に、日本は「単一制国家」であるにもかかわらず、国と地方のウエイトを観ると、 既に、「連邦国家」と同程度に、地方のウエイトが大きくなっています【※詳細説明6参 照】。具体的には次のとおりです:日本の広域自治体である都道府県(以下、県)の平均 人口2,716.1千人(2006年)は連邦国家であるカナダの州、オーストラリアの州の平均人口 に匹敵;日本の「国家公務員数比率(対公務員総数(中央+地方))」(2006年)15.8%は連 邦国家であるドイツ、カナダ、アメリカ並み;日本の「国(中央政府)の歳出比率(対総 歳出(中央+地方) )」(2009年)26%は連邦国家であるアメリカの38%をも下回る。 第二に、世界各国では、国(中央政府)による地方統治のシステム及び地方が国統治に 参画するシステムがしっかり敷かれています【※詳細説明7参照】。例えば、フランスで は各地方政府に国からの地方長官が置かれ、地方自治体を監督しています。ノルウェーで は、県議会選出知事とは別に、国任命知事が基礎自治体の予算の監督等を実施。スウェー デンでは、広域自治体のエリアと同範囲のエリアを管轄する国の出先機関が管轄内の自治 11 ミクロの観点では諸々課題もあると存じます。しかし、その点はここでの本旨から外れるので置いておきます (以下、同趣旨部分において、スペースの関係上、当該注は入れませんが同様にご理解下さい) 。 12 法律上は国も各地方自治体も同等。ここでは、説明の便宜のためにこのように表現しています。 13 体の活動を調整。ドイツでは、国会の上院にあたる連邦参議院議員は各州政府の代表で構 成され、州が連邦の統治に参画。 このように、世界では、国(中央政府)による地方監督と国・地方間の連携により、国 全体と各地域の統治を実施しています。そして、そのような統治方式を執っている理由は “外政と内政は不可分一体”、“国行政と地方行政は不可分一体”であり、両者が効率的に 一体化して、はじめて、効率的な社会統治ができるからです。このことは社会における各 事案を具体的に考えていけば、“様々な仕事、制度、自然環境はあらゆる所でリンクして いる”ということは誰にでも理解できることでしょう。最近日本で流行っている安直な 「外政・内政二分論」 、「国・地方二分論」は危険です。 第三に、「経済のグローバル化」がもたらす問題についてです【※詳細説明8参照】。前 述のとおり、現在、経済活動はグローバル化し、全世界をその活動領域としております。 そして、現在、世界で主流の経済システムは「自由市場・資本主義経済」であり、当該シ ステムは、原理的に、全世界を通じて所得・資産両面での格差を拡大させます。当該シス テム下では、カネ、モノほど移動が自由ではない、かつ、特別なスキルのない平均的な労 働者は相対的に不利な状況に追い込まれていくことになります。欧米や日本において高失 業率が継続することも無理からぬところです。また、当該システムは、国境を越える資本 移動の大きさとその速さから、1990年代後半のアジア通貨危機、2008年のリーマン・ショ ック等に代表されるように、各国経済に必要以上の変動を与えてしまいます 13。 それでは、どうして、世界各国はこの経済システムがもたらすデメリット部分を解消・ 緩和させる有効策を打てないのでしょうか?その答えは「世界政府」が存在しないことに 尽きるでしょう 14。経済活動の範囲と政府の統治領域が同じであれば、その領域の社会厚 生の最大化を図るように、その領域内での経済活動がもたらす弊害に対して事前策を講じ ることも、また、経済活動の結果、多くの人々が看過しかねると考える富の偏在が発生す れば、政府が介入し、「厚生経済学の第二基本定理」に則り、効率性と公平性のバランス を考えながら所得再分配という事後策を打つこともできます。しかし、現在、「世界政府」 なる公的セクターは存在しませんから、世界は当該システムによる経済活動に適切に対応 できていません。この理屈は「日本の統治」と現在問題となっている「EUの統治」を比 較すると理解し易いでしょう 15。日本では、経済活動における東京への一極集中が問題と なっていますが、国の統治自体はEU全体と比較して安定しています。なぜなら、日本国 内においては、日本政府(国)が存在し、各種チャンネルを通じて、国内の経済格差の是 正を図っているからであります。一方、EUは金融政策の統合を図ったにもかかわらず、 13 2000年代におけるバルト3国経済の急激なアップ・ダウンも同様。 14 「世界政府」というとある種イデオロギー的に捉えられるかもしれませんが、これは、あくまで論理的考察の 帰結であります。その点ご理解下さい。 15 なお、EUとは、そもそも、ヨーロッパ各国が個別で世界経済に相対するよりも、協同した方が効率的である という考えから設立されたものであります。 14 財政政策の統合は図っておりません。すなわち、前述の事前策と、日本列島の東京と同様 に、EU地域のドイツに偏在化した富を分配する事後策を実施する政府が存在しません。 これらの具体例を踏まえると、「日本経済と日本政府」、「EU経済とEU政府(未完成)」、 「世界経済と世界政府(存在せず)16」が対になっていることが分かるでしょう。以上の 内容をまとめると、経済活動はグローバル化している一方、人類はそれを上手くコントロ ールする術を未だ有していない(現在主流の経済システムは、例えるなら原子力技術と同 様です)。そして、この経済システムの前では、“各国政府は(上位政府のない下で)地方 自治体化する”こととなります。 以上の説明を踏まえ、私が、提案する国・地方の統治の在り方は“地方(自治体)から 国(中央政府)に移譲すべき仕事(権限)を『大政奉還』し、挙国一致の効率的統治体制 を構築すべき”というものであります。ここで奉還の対象は、地方が持っている権限中 「地域間外部性(国全体への正負の波及効果)が大きい仕事」であります。なお、ここで 大政奉還という歴史的呼称を使うことをお許し下さい。私は、先人が血を流して紡いで来 られた歴史に付された呼称を、現代人が軽々しく口にするのは不敬極まりないと考えてい ます。しかし、現在の混沌とした社会情勢の下、本日お伝えする内容をなるべく多くの 方々に明確に理解していただくべきと考え当該呼称を用いました。この点ご容赦下さい。 それでは、この改革案の内容を説明していきます【※詳細説明9参照】。まず、当該案 を提示する理由から説明します。その根本理由は、「経済のグローバル化」、「少子高齢化 のさらなる伸展」、「自然災害」、「地球環境問題」の四大課題に効率的に対応することにあ ります。経済のグローバル化の下では、民間企業と各個人がグローバルに活躍するための、 かつ、国内の各地域生活を維持するための社会的インフラ(ソフト・ハード両面)を、同 時に、効率よく整備・供給していかなければなりません(地球環境問題への対応も同様)。 また一方、前述のとおり、グローバル経済や多発する自然災害のもたらすリスクやショッ クをなるべく大きな母集団で分散(シェア)させていくことが社会全体でのコスト最小化 に繋がります。そのためには、都構想やその先に位置付けられている道州制等を実施する ことにより、国力を漫然と分散させることは危険でしょう。イデオロギー的地方分権論に 与するのではなく、「地域間外部性が大きい仕事」(外部性:ある経済主体の行動が他主体 に正負の影響を及ぼすこと)に関しては国全体で結束して対応し、一方、少子高齢化等の 伸展に伴い需要がさらに高まるであろう「対人サービスの供給」等に関しては地方で効率 的に対応するというように、各公共財・サービスの影響範囲や供給の効率性を併せて考慮 し、メリハリの利いた社会統治を行っていくことが必要です。なお、このように国、地方 の仕事を整理することで、現在地方自治体が感じている、国からの補助金や監督に起因す る不満も緩和されていくことが予想されます。 16 現在、世界政府は存在しておりませんが、G7やG20の枠組みで政策協調に取り組んでいます。しかし、G7や G20は、上位政府たる中央政府が存在しない状態で、個別独立した地方自治体化した各国が寄り集まっている状 態です。よって、完全なる政策協調が難しいのが現状です:中林伸一(2012) 『G20の経済学』中公新書他参照。 15 次に、その具体的内容についてです。一つに、現在縦割りとなっている国の出先機関を ヨーロッパ各国が実施しているように、統合して、「政府の総合出先機関(各地方庁)」を 設置します。そして、そこに、都道府県、政令市が有している、県域、地域を越えて正負 の外部性を発揮する問題へ対応する仕事(権限)を「奉還(移譲)」します。関西(近畿) では、大阪府等の府県、大阪市、堺市等の政令市から地域を越える問題へ対応する仕事を 関西(近畿)庁(仮称)へ奉還します。奉還される仕事としては、国家の背骨となる交通 インフラ(国際戦略港湾、拠点空港、高規格幹線道路、高規格鉄道網、広範囲水系網等) の整備・管理、地域間外部性が大きい産業政策、社会保障政策、国土保全・防災・危機管 理行政、公衆衛生・環境政策等はイメージし易いでしょう。そして、残存した大阪府、大 阪市、堺市は「大阪府・堺市方式」に則り事務配分を行う(他都道府県も同様)。また、 政令市以外の府下市町村はこれまでどおり基礎的自治体として住民に身近な行政を担う。 さらに大阪府は府下市町村の補完役も担う。このようにして、国(国出先機関)、都道府 県、政令市、その他市町村の機能と組織を整理・再構築していくべきでしょう。 一つに、国総合出先機関に仕事を委譲するだけでなく、地方自治体から職員(人材)も 移譲します。都道府県・政令市の職員は、国家公務員と同等の採用試験(Ⅱ種以下)をク リアしていますから、これら地方公務員と国家公務員の親和性は高いと考えられます。広 域行政の点で「地方分権」を主張している組織や職員の方々は社会問題の広域対応の必要 性を実感されておられる訳です。また、前述のとおり、日本の都道府県は既に連邦国家の 州並みの規模を有していることから、県域を超える外部性に対応する仕事は、本来、国の 仕事と考えられます。例えば、原発問題と琵琶湖の管理の関係性を考えた場合、これは関 西地域ではなく国家レベルの問題でしょう。よって、都道府県や政令市に現在勤務されて おられ、県域を越えた広域行政に従事することを希望されている職員の方々には、地域と いう(相対的に)小さな領域ではなく、是非とも、「国」を背負って仕事をしてもらいた いと考えます。 一つに、「公務員制度の改革」も必要でしょう。現在、地方公務員は自治体毎に採用さ れていますが、これをフランスのように、国全体での一括採用に改め、かつ、公務員を身 分ではなく「資格化 17」します。その際、国家公務員も同時に身分ではなく資格化させま す。その結果、自治体間や国・自治体間で労働配置の適正化、社会需要に合致しない組織 維持インセンティブの減少、組織の不当な命令に対処する個別職員が抱えるリスクの軽減 が図られるでしょう。また、現状の「(国家公務員の)経験者採用システム 18」を拡充し、 (希望する)地方公務員出身者がより上位の国家公務員へキャリア・アップするための門 戸を少しでも開けておくことも必要でしょう 19。 17 もちろん、資格化に際しては、労使間交渉に関する丁寧な制度設計も必要となるでしょう。 18 人事院編(2011) 『平成23年版公務員白書』第1章。 19 国や地方だと言っていますが、公的セクターというものは、結局、国、地方関係なく、有機的に結合し、総体 として効率的に機能する必要があります。そして、行政に携わるうちに、より広範な視野での仕事を希望される 16 一つに、行政組織の再編に合わせて、国会における「参議院」改革(国統治における衆 議院と参議院の機能分化)も必要でしょう。フランスやドイツのように、国のいずれかの 機関で地域間の利害調整をする必要があるでしょう。そこで、参議院を国総合出先機関の 統治領域から選ばれる地方の代表者、地方自治体(都道府県・市町村)の代表者、各分野の 有識者などから構成するように改めます。この改革の結果、国統治において南関東の意思 決定が重視される現状を改め(東京一極集中の是正)、各地方の意向を反映し、かつ、日 本の総合力を無駄なく利用できることが可能となるでしょう。また、道州制における、道 州政府間の水平的利害調整の困難さ(国際政治・経済における国家間協調と相似)を想起 すると、ここで提示したシステムの有効性がご理解いただけるでしょう。 [宮本理事長] ありがとうございます。村上先生、何か先ほどちょっと堺のことを言われましたけれど、 基本的には、やはり二元行政というのは好ましくはないというふうに考えておられますか。 [村上先生] その競い合うということの意味合い、それによってプラスの面は確かにあると思うんで すけれども、やはり決められた予算の中で、非常に無駄が生じているんではないかと思い ます。 職員の方も出てこられるでしょう。そのため、公務に携わる誰にでも、(たとえ狭き門でも)希望する行政組織 への転身の機会は与えられるべきでしょう。 17 18 2.住民参加について [宮本理事長] これまで二重行政とか二元行政の話をしていただいたんですけれども、もう一つはです ね、大阪都の中に入れば、30∼50万人程度の区割りにして、その区長さんを選挙で選ぶ、 と言われています。そうすることによって区の中の人が今まで以上に住民参加できるんだ、 と言われているんですけど、これにつきまして今の状態よりもベターオフになるのか、今 の状態なら区民は参加できていないのか、何かそのへんも含めてご議論いただきたいんで すけれども。阿部先生いかがでしょうか。 [阿部先生] 現在の大阪都構想では、堺市の区域には特別区は設けず、堺市は政令指定都市のままと するということになっているようですが、かつての構想では、堺市を三つくらいに分割し て大阪都の特別区にすることになっていました。三つの特別区ということですと、現在の 七つの行政区よりも区の数は少なくなり、それに伴って、一つひとつの区の面積と人口規 模は当然大きくなります。したがいまして、堺市が分割され、大阪都の特別区になった場 合の区の自治というのは、今の堺市の行政区よりも大きな規模の区の自治です。この点を まず押さえておく必要があるだろうと思います。 その規模で、区長や区議会議員を選挙によって選出し、選ばれた区長や区議会議員を中 心として区の自治を実施していくことになるわけですが、それと引き換えに、堺市長や堺 市議会議員を選ぶという市の自治はなくなります。堺市がなくなるのですから、当然のこ とです。問題は、特別区の自治と政令指定都市の自治との、どちらを選ぶかです。小さけ れば小さいほどいいと言い切れるのかどうか。それよりも、むしろ、堺市は一体であり、 堺市民はみな堺市民としてのアイデンティティを強く自覚していて、堺市としての自治こ そが重要であると考えているはずであり、そうした市民意識を尊重すべきなのか。私は堺 市民ではないので実際のところはよく分からないのですが、大阪都の特別区の住民になっ て区の自治に参与するよりも、堺市民として堺市の自治に参与したいという人は、少なく はないだろうと推測しています。 それからもう一つ、自治とは、あるいは住民参加とは、選挙で区長や区議会議員を選ぶ ことに尽きるのかどうか、あるいは、それが核心であって、それ以外は周辺的なものに過 ぎないのかということも、よく考える必要があります。今日では、それぞれの地域でNPO などが様々な公益活動を自主的に展開していますし、自治会や町内会も様々な活動を行っ ています。考え方によっては、それらの活動も、自治であり住民参加です。そうした選挙 制度の外側で行われている公共的な事柄への関わりを、自治ないしは住民参加の一つのあ り方として肯定的に評価するとしますと、代表を選挙で選ぶことこそが自治であり住民参 19 加であって、選挙のないところに自治や住民参加はありえないといった議論は、一面的す ぎるということになるのではないかと思います。 [宮本理事長] 同じ問題について新川先生はどのようにお考えでしょうか。 [新川先生] そうですね、今回の議論の具体的なところとは別に、こうした自治の単位を小さくして いこうという改革自体は、住民自治を充実させていく、そして、できるだけ身近に決定で きることは身近なところで決定していく、という“近接性の原理”、これをやはり基本的 に押さえておかないといけないのだろうというふうに思っています。そういう原則に合っ た小規模な自治というのを実現できる区政ということであれば、それはそれで意味は大き いのではないか、というふうに思っています。 従って、行政区というのは行政上の単位 でもありますが、それに留まらずどこまで住民参加的な、あるいは住民自治的な側面とい うものを加えられるか、で、その価値が決まってくる、とそんなふうには考えています。 ところが、これまでの政令市の行政区というのは、大阪市の場合もそうですし、実は堺市 の場合もそうなのですが、ややもすれば市役所の出先機関、出張所といったような位置づ けが多くございました。もちろん、いろんな市民参加の担い手としてここを通じて……と いうことはあるのですが、やはりそれは市としての市民参加であって、どこまで地域とか 行政区が身近なところの問題を身近で解決する自治的権能を有しているべきか、という観 点に立って検討されてきていたかといわれると、私自身には疑問が残っている、というこ とがございます。 そういう意味では、今回の大阪都構想で目指されている特別自治区や地域自治区的なも のが、ほんとうに住民自治を実現しようということであれば、それはそれとして非常に大 きな意味があるのではないか、そんなふうに思っています。従って、そういうふうな住民 の自主的な地域づくりに関われるような行政区というか、あるいは特別自治区のようなも のをほんとうにつくっていけるのであれば、そういう区の制度というのを具体的に構想し ていかなければなりませんし、私自身はそれをつくっていく必要があるのではないか、と いうふうに思っています。そのときに、ポイントはやはり阿部先生からもありましたが、 一つは区の規模というのをどう考えるか。今、考えられているような中核市規模というの が、ほんとうに適正な規模なのかどうか、非常に難しいところがあります。市町村合併が、 実は人口規模でいうと特例市や中核市の規模というのを目指して進められたということが あって、しかし、それはほんとうにそれぞれの地域の住民にとって自治というものを充実 させることにつながったかどうか、いろいろ議論があるところです。そういう反省も踏ま えて考えていかないといけないことだろうと思います。もちろん、行政上の合理化や効率 化の必要性というのはありますから、まずはそこから入って、そして市民参加を考えてい 20 くという、そういう道筋もあるのかもしれません。そうかもしれませんけれども、少なく とも住民参加とか自治ということをなしにして、この問題を考えていくというのは、これ は相当問題があるだろう、と思っています。そういう点で、こういう区制度を根本的に改 革するとすれば、阿部先生もおっしゃいましたけど、形式的には公選区長、公選区議会を 設ける必要がありますし、この仕組というのは、住民自治、住民参政の基本ですので、こ こをやらないと、やはり、どうにもならないだろうというのが、大きな前提としてありま す。ただし、もう一つ重要なのは、それだけで住民自治の問題というのをすべて充足でき るか、というと実はそうではない。むしろ、今、身近なコミュニティレベルでの自治とい うことが大きく注目を浴びていますし、そこでの自主的な地域づくりということが言われ ている。また、そういうところで活躍をするコミュニティ組織やNPO組織というのが増え ている。そういう視点での自治というのをどう積み上げていくことができるか、それを受 け止められるような特別自治区の仕組になるかどうか、というのが逆に問われているよう な気がします。その意味では、本来の意味で住民が自治を担い、そして、自治をいっしょ にパートナーシップ型でつくっていくような、そういう特別自治区になっていければ、こ れはこれとして一つの理想かな、というふうに思っていますが、さて、どうなるのでしょ うか、というところです。 [宮本理事長] ちょっとご専門とは違うとは思いますが、村上先生、何かこれに関してご意見ございま すか。 [村上先生] 日本経済新聞に堺市の区長さんが地域のニーズをくみ上げて活動されているという記事 が掲載されておりました。そうしたかたちで、地域に密着した活動がなされるのであれば、 そのようなかたちでもいいのかとも思います。ただ、東京都の区長は公選制ですので、住 民との距離が短いということを実感しております。たとえば、大田区のいきつけの寿司屋 の店主は地域の活動に熱心で、区長に中学の体育館の修理を直訴したら、すぐに応じてく れたとか、大田区の商店街でのみ使える割引商品券を発行して、地域振興を図ってくれて いるとか、いつも、区長のことが話題にあがります。また、区議会議員の選挙のときは、 あいつは○○中学出身とか、どんな主張をしているとか、客同士で結構話題にのぼり、地 域が非常に熱くなっております。そういうのをみると、公選制というのは、悪くないとい う気がしています。しかし、それに代わりうるものが全くないのかと言われれば、さきほ ど阿部先生がおっしゃったNPOや自治会などもありましょうし、冒頭の例のような代替す るものはありうるのではないかと思います。 21 [宮本理事長] 吉田先生は、大きいところから観ないといけない、と言われていますが、区割りでだん だん小さくしてという形とはちょっと視点が違うのかもしれませんが……。 [吉田先生] いいえ違いません。私は、社会の一面だけを観るのはダメ、そうではなく、社会メカニ ズム、すなわち、上部、中部、下部構造それぞれの社会的機能・役割と互いのリンク関係 を認識したうえで統治制度の改善を考えるべきと指摘させていただいております。よって、 下部構造である基礎的自治体の機能・在り方も考えています。 さて、ここでは、次の四点を説明させていただきます。一つは意思決定と予算制約の話、 一つは都構想案にかかるコストの話、一つはそのコストと東日本大震災との関係性、最後 の一つは健全な地方分権論についてです。 第一に「意思決定と予算制約」についてです【※詳細説明10参照】。この世の中に、予 算制約(資源制約、所得制約)がないのであれば、なるべく小さな集団で意思決定するこ とが望ましいでしょう。なぜなら、その方がより個々人の欲求に近い意思決定がなされる 可能性が高まるからです。しかし、意思決定集団を小規模にすればするほど、一般的に、 行政に係る1人当たりの負担コストが増えるという問題が発生します。つまり、地方自治 体を細分化するほど、社会全体での負担コストは増加します(市町村合併とは逆の話) 。 第二に、「都構想にかかるコスト」についてです【※詳細説明11参照】。(平成23年度に) 大阪府議会の協議会において、都構想を実現した場合の財政コスト増加額の試算が報告さ れています 20。当該試算では、大阪市内24区を東京都の特別区のように自治体化した場合、 国から大阪地域に追加的な地方交付税が交付されることとなり、公的セクター全体で約 1,200億円の追加的財政コストが発生するとされています。つまり、都構想が実現すると、 日本の他地域から大阪地域への追加の財政移転が発生してしまうということです。また、 大阪市域における小規模自治体の新設が認められると、他の政令市地域でも同様の希望が 出てくるかもしれません。その場合、公的セクター全体では、1,200億円の何倍かの追加的 財政負担が必要となります。このように、当該構想がもたらす追加的財政負担は、大阪府 民、大阪市民、堺市民だけでなく、国民全体で増税か起債発行で賄わなければなりません (つまり、民間セクターの余剰の一部を小規模自治体新設・運営費用に回すということ)。 前述のとおり、日本全体では約13兆円のフロー黒字(経常収支黒字:2009年)があります が、この値と比較して、かつ、原子力発電所停止に伴う鉱物性燃料輸入額の増加等も考慮 に入れたうえでこの追加的財政負担の是非を考えなければなりません 21。結局、当該構想 20 「大阪府議会:大阪府域における新たな大都市制度検討協議会報告書」 (平成23年9月30日)。 21 ただし、ここでは、問題の理解を助けるために、追加的財政需要の発生がもたらす経済波及効果、経済成長に ついては言及していません。もし、このような効果が見込まれる場合は、もちろん、当該効果も含めて議論する 必要はあります。 22 は大阪だけで自己完結する話ではないことがご理解いただけるでしょう。当該構想は大阪 だけではなく日本全体でしっかり議論し、全国民に、その是非を問う必要があるのです。 第三に、「都構想にかかるコストと東日本大震災との関係性」についてです。2011年3 月に発生した東日本大震災がもたらした被害は甚大としか言いようがありません。多くの 方々が尊い人命を亡くされたことに対して、ただご冥福をお祈りすることしかできません。 ですが、ここでは、残された我々が考えなければならない当該震災からの復興について考 えたいと思います。まず、当然のこととして、この復興は東日本地域の人達だけではなく 全国民が背負っていかなければなりません。そこで、国の復興費用想定を観てみると23兆円 22 となっております。しかし、失われた国富の総額や本来得られたであろう逸失利益をトー タルで考えた場合、本来、全国民でシェアすべき費用負担額はさらに大きなものになるの ではないかと推察します。現在の日本は、前述したグローバル経済、少子高齢化、自然災 害、地球環境への対応問題とは別に、この復興問題に至急取り組む必要があるのです。当 該復興問題の深刻度やその膨大なコストをしっかり勘案したうえで、都構想により生じる 追加的財政負担の是非を議論しなければならないでしょう。なお、当該構想実現により費 用低下効果があるとの主張もなされますが、前述の協議会での報告書では、分析に基づく その全体効果額が明示されていませんでした。ただし、水道事業費の低下効果額約1,900億 円、ゴミ焼却施設の更新コスト抑制効果額約800億円という数値は見つけることができま した。しかし、もし大阪府と大阪市の事務調整によりこの費用低下が可能となるなら、都 構想を持ち出すまでもなく、地方自治法や民法の規定に則り、至急、共同で当該事業を執 行すべきでしょう。そうしないと、府、市ともに、地方財政法第4条の「余剰経費支出禁 止」規定に実質的に反していることになります。 第四に、「健全な地方分権論」についてです【※詳細説明12参照】。現在、公共財・サー ビスにおいて重要性が増してきているのは「対人サービス」です。その理由として大きく 二つの要因が考えられます。一つは「少子高齢化の伸展」です。もう一つは「公」(コミ ュニティ)の縮小・崩壊です。日本は、元々、「民」と「公」と「官」(国(中央政府)や 地方自治体等の公的セクター)により社会が構成されていました。しかし、明治以降、経 済活動の進展に合わせて、多くの国民が元の居住地域から都心部等に配置換えされ続けた 結果、各地域の「公」が縮小・崩壊してしまいました。そのため、対人サービスのウエイ トが高かった、かつての公の守備範囲も官が担わなければならなくなってしまったのです。 近年重要性を増してきた対人サービスの供給については、基礎的自治体(市町村)の役割 が大きいです 23。なお、当該サービスの供給は各地域の特性に合わせた方が効率的となる 可能性が高いので、この供給部分に関する地方分権を議論していくことは健全な地方分権 論議と考えられます。これまで、私が国・地方全体での統治の在り方を説明してきたため、 22 日経新聞(2012年3月11日) 。 23 なお、社会保障の中でも、対人サービス供給以外の、例えば、後期高齢者制度の運営などは市町村を超えたレ ベルで担うこととなります:後期高齢者医療制度に関する事務は都道府県単位の広域連合が担ってます。 23 「地方分権」に否定的だと思われたかもしれませんが、そうではありません。私は、分権 が効率化を促す領域については、もちろん、そうすべきと考えています。一方、私が地方 分権議論において危機感を抱いている部分は、「地域間外部性が大きい仕事」まで分権す べきという主張がなされる点であります。日本の課題を的確に理解したうえで、国(国出 先機関)、都道府県、市町村がそれぞれの機能と役割を踏まえた地方分権議論(一部、上 位政府への奉還を含む)を行っていくべきでしょう。 [宮本理事長] ありがとうございました。大きな視点から観ていくことが大切だと言われたように思い ます。 24 3.二重行政と大阪経済衰退の関係性について [宮本理事長] ちょっと話を変えますが、今まで二重行政、二元行政があったんで大阪が衰退してきた という意見があります。長い目で見たら、それで東京一極集中になったと。従って、大阪 都にしたら経済もよくなるんじゃないか、と言われる人もあるんですけど、これは経済的 な側面から見て正しいかどうか。まず、吉田先生いかがですか。 [吉田先生] それは、大きな誤解ではないでしょうか。 (全員爆笑) それでは、大阪経済衰退の原因を、二つの面から、一つは世界の主流経済システム、一 つは産業変遷の因果関係の面から考察させていただきます。 第一に「世界の主流経済システム」についてです。前述のとおり、現在の世界における 主流経済システムは「自由市場・資本主義経済」です。このシステムの主役は「資本」で あり、資本とは生来的に際限ない自己増殖を図る存在です。そして、資本が効率的に増殖 するためには、ヒト、カネ、モノ(情報含む)が集積している環境が好都合となります。 そのため、当然、世界的に、ヒト・カネ・モノの集中化が進みます。日本では、東京一極 集中の弊害と言われますが、世界各国でも同様に一極集中が発生しています。例えば、隣 国の韓国では、かつてはソウルとプサンがちょうど日本の東京と大阪と同様の関係でした が、現在はソウルへの一極集中状態となっています。現在の経済システムの下では、公的 セクターが大規模な付加価値、資産の再配置でもしない限り、東京への一極集中を是正す ることは難しいでしょう。 第二に、「産業変遷の因果関係 24」についてです。大阪は1900年代初めから第二次世界 大戦以前まで“東洋のマンチェスター”と呼ばれ、東京を上回る工業生産規模を誇ってい ました。大阪産業の変遷の因果関係を考察するため、まず、こうしたかつての大阪の経済 的隆盛の要因をいくつか列挙してみましょう。一つは、大阪は古代から、日本海海運、瀬 戸内海海運を要する流通の拠点地域であったこと。一つは、戦国時代を統一した信長・秀 吉の時代に、近畿地域(特に秀吉時代には大阪(坂))が再度日本の政治・経済の中心地 として復権し、大阪において「資本」蓄積が進んだこと。一つは、明治政府により、大阪 に軍需工場が置かれたこと。一つは、江戸時代から大阪平野が綿花の産地であったこと。 一つは、(江戸時代中期以降に衰退はしたものの相対的には)人口集積地であったこと。 一つは、渋沢栄一等の近代日本経済界のリーダー達により大阪に紡績会社が設立されたこ と。なお、第二次世界大戦後のけん引役の一つとしては、政府による臨界部への重化学工 24 阿部武司(2006) 『近代大阪経済史』大阪大学出版会、稲葉祐之(2008)「江戸期大坂の都市ビジネス:なぜ大 坂は天下の台所になったのか」Policy Exchange 他参照。 25 業立地政策が挙げられるでしょう。 続いて、現在の大阪経済の地盤低下の要因をいくつか列挙してみましょう。一つは、第 二次世界大戦中に、政府により、ヒト・モノ・カネが東京圏に集中させられたこと。一つ は、大阪平野が関東平野や濃尾平野より狭いこと(基幹産業が輸送用機械工業などへシフ トしていく際に立地条件的に不利になったと推察される)、一つは、工場三法(工場制限 法、工場再配置促進法、工場立地法)の施行により、工場集積地である大阪から他地域へ の工場移転が促進されたこと。 これらの因果関係の考察を踏まえると、経済・産業の興亡には、経済システムの在り方、 地政学的諸条件、歴史的移行過程、国(中央政府)の産業政策などが大きく寄与している ものと考えられます 25。そうすると、経済変遷の因果関係分析をきっちり行わずに、大阪 経済衰退の原因を大阪府と大阪市の二重行政や二元行政に帰着させてしまうことには論理 的な妥当性が見られません。なお、政令市の存在が経済成長にマイナスとする制度的衰退 論に一言。こうした仮説を立てることは可能でしょうが、当該仮説に対しては、「愛知県 と名古屋市」が有力な反例となる可能性が高いでしょう。大阪府、愛知県ともに政令市が 存在しますが、大阪経済が(足許を除き)長きに亘り衰退してきたのに対し、名古屋経済 は長く発展し続けてきましたから。 [宮本理事長] 村上先生、いかがですか。東京と大阪におられて、東京に一極集中になっていますよね。 [村上先生] 東京一極集中の要因はいろいろ言われておりますけれど、一番大きいのは許認可の権限 が東京にあることだと思います。次に、情報の早さ、取りやすさだと思います。 [宮本理事長] 情報の速さとか多さね。必ずしも二重行政とか二重の…… 二元行政のせいではないと言われるのですね…… [村上先生] ないと思います。 [宮本理事長] ご専門とはちょっと違うかもしれませんが、新川先生、いかがお考えですか。 25 経済・産業の興亡には、国の経済・産業政策が大きく寄与してきた歴史的事実があります。これらを踏まえる ことは、産業政策における「地域間外部性」の理解を助けるでしょう。 26 [新川先生] 実は、この問題は、大阪府で議論していたときも経済学の先生方、財政学の先生方で議 論があったんですが、実は二重行政とか自治の仕組とかと大阪の経済停滞は関係ないでし ょうというのが、基本的な認識でした。それは、先生方から今、話があった通りです。で すから、実は経済停滞の問題というのも地方自治の統治機構の問題と関わらせる議論とい うのがどこまで有効なのか、というのを逆に考えていかざるを得ないですね、という、そ んな議論になりました。そのときにも前提となったのが、吉田先生からもありましたよう に、経済問題というのは、やはり日本の統治機構問題ですし、あるいは日本のマーケット 政策の問題に関わってきていて、しかもそれは日本だけで議論できる話ではなくて、むし ろグローバル化する経済の中のインパクトで大阪の相対的な位置も決まってくるので市場 経済、特にグローバル化した市場経済の中で生きていこうとすれば仕方がないところがあ る。逆に、ほんとうにそれがイヤなら市場を閉ざしてしまうしかないでしょう、という議 論までしたところでした。 そういうことを踏まえた上で、しかし、じゃあ手をこまねいているのか、ということが あって、そのときに今まで大阪でやれてなかったということが何かあるだろうか、という ことは少し議論しましたのでご紹介させていただきます。そこは、やはり制度的に何か対 応できるのではないか、そういう可能性のチャンスはあるかもしれないということです。 ですから、衰退現象を逆転させるところまで行くかどうかは分かりませんけれども、少な くとも地方の側から、こういう経済問題に対して何か将来に向けての一手を打っていく、 突破口を何か探していく、つくっていく、そういった先導的な開発投資というのをしてい く、そういう可能性はなくはないだろうと考えました。今まで実は、そういう観点で大阪 というのが総力を挙げて、そういう問題に対処してきたということは実はなかったんじゃ ないか、という反省がそこにはありました。つまり、経済拠点の開発にしても、あるいは ベイエリアの開発にしても結局はそれぞれの地域の多元的な利益のバランスの上で開発を して来られてしまった。従って、キタもミナミも、あるいは阪も神も、あれもこれも見な がらやってきてしまった。結局は、全体として出来あがったものというのは極めて非効率 で、結局は世界の規模に見合わない、そういう基盤しか出来なかったじゃないか、そうい う反省があったわけです。従って、そういう基盤型の投資だけで経済停滞が何とかできる という話ではなくて、むしろ、そういうものを一つ突破口にして、あるいはそんな基盤す らないところを何とかすることで可能性を引き出すということが有り得るのではないか、 そんな議論を実はしました。そのことが出来るということのために府と市の力というのを 併せることが出来ないだろうか、そういう観点で実は議論してきたのですが、実際にそう いうふうにやったからといって成果が出るというふうには誰も確言できない、確実にそう だということは言えないということを前提にして、そういう議論をしていたということを ちょっとご紹介させていただきました。 27 [宮本理事長] ありがとうございます。阿部先生もちょっとご専門からは遠いかもしれませんが、どう でしょうか。 [阿部先生] グローバル化というのは、何よりもまず、経済ないしは企業活動のグローバル化です。 したがいまして、現在のグローバル化した社会においては、世界規模で比較して見たとき の、それぞれの地域の利点、たとえば港湾の利用しやすさ、空港の利用しやすさ、人的資 源つまり労働力の確保のしやすさなどが、企業の立地に影響を及ぼすことは確かだろうと 思います。そして、企業が立地を決定するに当たって考慮するような要因をパブリックセ クターが操作する余地はゼロではないし、その効果もゼロであるとは言い切れないだろう と思います。たとえば、大阪港や関西国際空港の企業活動にとっての利便性を高めること が、グローバル化した企業の大阪への誘致に貢献する可能性はないとは言えませんし、企 業活動にとっての利便性の向上を目指して、さらに追加的な公共投資を行うことが、地域 の経済成長戦略としてまったくナンセンスなのかというと、そうとも言い切れません。た だ、その効果が投資に見合ったものになるのかどうかというと、かなり疑問があります。 ソウルや香港も同様にグローバルな観点からの企業誘致を展開しているわけですから、大 阪で企業誘致のための公共投資を行うことの効果は、国際競争にさらされた結果、微々た るものに終わってしまうかもしれません。私は経済学や経営学が専門ではないので細かい シミュレーションはとてもできないのですが、自治体が実施する公共投資がグローバル化 した企業の立地に及ぼす効果は、さほど大きなものではないのではないかという気がいた します。 [宮本理事長] ありがとうございます。 28 4.前半のまとめ [宮本理事長] これで前半を終わらせていただきたいと思います。まとめさせていただきますと、まず、 二重行政というのは、二元行政も含めてですけれども、大阪府と大阪市というのにはかな りのものがある。それは、改善、解消の方向に進めなければならないであろう。また、非 効率なものがあったら効率化を図るべきであるということだと思います。大阪府と堺市に ついても若干の二重行政は残っているけれども大阪市と大阪府ほど二重行政や二元行政が 大きいわけではなかったと言えると思います。それから、いわゆる区制度にして、区長を 選挙で選ぶということは、身近な区長や区会議員を選ぶということについては、住民のい わゆる行政に対する意識を変えるかもしれないし、いいことである。ただし、全体から観 ないといけないし、吉田先生がおっしゃったように、非常にコストがかかる可能性もあり ますよ、というふうなことも言えるということですね。それから、大阪の経済の衰退は二 重行政や二元行政ではなくて、もっとグローバルなところから観ないといけない、という とことですね。これは私もそうだろうと思います。ただ、府と市を一元化することによっ て、たとえば大規模な投資であったり、都市計画だったり、経済政策をやるということは、 ある程度効果があるかもしれない、ということも言えるというご意見もありました。ただ し、これが二重行政があったから大阪の経済が衰退したということは、言えないというの は、みなさんのご意見で、私もその通りだと思います。 ちょっと離れますけど、社会主義経済が崩壊しましたよね。市場経済に今まで社会主義 であったソ連や中国が入ってきましたね。市場経済にグローバルに、20億人くらいの人間 が市場経済の世界に入ってきたわけですよ、グローバル自由市場の世界の中にね。それら の国の供給能力というのは、コストが安くて、労働力が安価ですから、大量に安いものを つくる国々が世界市場に出てきたわけですね、東南アジアも含めて。ですから、今まで日 本のレベルでつくっていたものよりもクオリティは悪いかもしれないけれど、安いものが できるようになってきたわけです。他方、非常に人口が増えてきている中で、需要者も急 増してきたわけです。その結果、安ければそれでいいと言う需要者と品質の高いものがい いという需要者の二方向がはっきりしてきたわけです。それに対して、日本はこれだけ生 産者、需要者が増えている中で、生産システムを変えていかないといけなくなったという ことです。その変換がうまくできなかったのがここ20年ほどであったと思うのです。吉田 先生の言うことがよく分かるんですが、大阪だけがどうこうしたところで、完全にまた元 通り復活して、たとえば“東洋のマンチェスター”ですよ、というふうになるか、という のは私自身も難しいなと思っています。従って、世界の市場経済の流れの中で、我々の住 んでいる大阪とか関西、日本というものを観ていかないと、小さなところだけ議論してい っても、なかなか解決策は見出せないんじゃないかな、という気がしています。今までご 29 議論いただきましたが、私はよく分かったし、勉強になって、非常にありがたかったと思 います。この後は、後半ということで、堺市がもし仮に大阪都に入った場合には、どんな ふうなメリット、デメリットが有るかということを具体的にお話していただければ、と思 っています。 30 5.堺市の発言力について [宮本理事長] それではよろしゅうございますか。後半のお話をお願いしたいと思います。今度は具体 的に堺の中の話に入って行かしていただきたいな、というふうには考えております。 まずですね、先ほど阿部先生がおっしゃいましたように、現段階では大阪都構想の中に 堺市は入っていませんので、これは仮に将来入っていった場合にはどうなるのか、といっ たお話になろうかと思います。まず、大阪都の中に堺市が入って、それで行政が行われる 場合にはですね、たとえば、堺市の発言力とかで、それから都市の整備とか、こういうも のに対して、プラスになるのかマイナスになるのか、またどういう影響が出てくるのか、 ということをちょっとお話していただきたいと思うんですけれども。 まず、最初に、こういう問題に詳しい新川先生、いかがでしょうか。 [新川先生] 今の大阪都構想そのものは、最初にみなさまからもありましたように、どんな形になる かよくわからないので、堺市がそこに入ってどうなるのかというのが非常に難しいのです が、一応、東京都のようなものを念頭において、そこでの特別区のようなものを念頭にお いて、形としてはそういうものの中に大阪都の特別自治区が旧大阪市の中にいくつかあり、 そして堺の旧市域にいくつかの特別自治区……どう合区、分区するかは別ですが……が入 っていくというイメージでお話をさせていただきたいと思います。 仮に堺市が大阪都構想に乗った場合、具体的に起こるのは市役所そのものが上下両方向 に解体されて都に吸収される部分と区の行政に再編をされるという方向に分かれます。お そらく東京都タイプで考えていきますと大規模な基盤的な事務、大規模施設に係わるよう な事務……要するに消防とか病院とかですが……こういうものに関しては都に、福祉や教 育(義務教育が中心)ですが、こうしたものについては区に再編をされていくことになる と思います。そのときに区の規模と権限については、今のところ特別自治区について中核 市程度といわれていますので、それが一応基準にはなるのかなというふうに考えています。 さて、堺がそうなったときに、実は堺市というのは大阪都の中に堺市の職員が入っている という状態と、それから各区に分かれて、三つくらいの区に分かれて堺市の職員が入る、 という状況が考えられることになります。そのときに、堺という発想が出てくるかという と、実は、初期は残っているかもしれませんが、大阪都という発想はいずれ出来上がるに しても堺というのは名前や形や文化あるいは地名、拠点として残るかもしれませんが、行 政上の発想としてはなくなっていく、というふうに考えざるを得ません。そのときに、実 際に堺というものを受け継ぐのは区、特に旧堺市を中心にした区が堺の伝統とか文化の維 持をしていく、そういうイメージを持たざるを得ないだろうというふうに思っています。 31 それ以前の区への事務への大幅な権限移譲と統合、そして、その区のある種の自治、自立 ということ、その運営ということは一方で考えられますけれども、もう一方では、現在の 堺市の区域での一体的な行政というものは当然なくなっていくという方向になろうかと考 えられます。ただ、ここも大阪都構想自体の不分明さもありますので、実際にどういう区 になり、また、堺市の職員が大阪都・区に入ったときにどうなるのかは、もう少し考えて みないといけないところも多いかと思います。 [宮本理事長] 分かりました。阿部先生、いかがですか。 [阿部先生] 堺市の発言力ということですが、堺市がなくなってしまったら、堺市としての発言など というものはそもそもありえないということになるはずです。別の言い方をすれば、代表 される堺市がなければ、誰かが堺市を代表して発言することもできないし、したがって、 堺市の発言力といったものも考えられないということです。 もちろん、現在の堺市の区域内に暮らしている方が、住んでいる区域の立場に立って発 言するということはあり得ます。新川先生は、行政の内部でということで、現在の堺市の 職員が大阪都や特別区の職員になった場合についてお話されたわけですけれども、それと ともに、大阪都の都議会議員について考える必要があります。現在の堺市の区域から選出 される大阪都議会議員は、どのように、また、どの程度、地域の利害を大阪都政に反映さ せることができるのかという問題です。そうした地域の発言力は、現在の堺市の区域から 選出される議員の総議員数に占める割合や、選ばれた議員が、それぞれの所属政党を超え て、地域の代表として連携できるかどうかといったことによって大きく異なってくるだろ うと思います。また、堺市民というアイデンティティが、堺市がなくなった後にも保たれ るかどうかも、大阪都における議会政治の中での地域の発言力を大きく左右するのではな いかと思います。 [宮本理事長] ありがとうございます。吉田先生、いかがですか。 [吉田先生] ここでは、都構想を実現した場合の、各自治体の将来像について説明させていただきま す。大阪市と堺市をより小さな自治体に分割した場合、結局、各自治体は均質的な自治体 となっていくと予想されます(地域毎に特色を目指したつもりが、実際には同種の自治体 ばかりとなる可能性は高い)。そして、分割前に比べて、トータルの財政負担は増加する 可能性が高いです。また、現在、東京都の23特別区については、“23区バラバラではなく、 32 かつての東京市に戻した方がよい”との意見が東京商工会議所より出されております 26。 この予想と東京での意見の本質的根拠は次の二つです。一つは、ほとんどの自治体は“お 金がない”こと。日本の各自治体は、おおむね、“財政需要額を当該自治体の独自収入だ けでは賄えない状態”にあります。しかし、これは別におかしな話ではなく、経済の東京 一極集中が東京の経済・商業地域等への税源集中をもたらしているに過ぎません。そうな ると、税源集積地以外の自治体は財源不足状態に陥ります。そこで、国が地方交付税制度 (国税収が基本原資)を使って、財源偏在状況の是正を図るということになります。しか し、多くの自治体は、この制度により、ようやく必要財源を確保できるだけですから、ほ とんどの自治体では標準的な行政サービスを行うだけで精一杯、つまり、どの自治体もあ まり特徴がないという結果となります 27。もう一つは、各地区の役割分担と有機的結合が 生み出していた効率性の崩壊です。一つの自治体として効率的に機能していた自治体を分 割してしまうと、この効率性が破壊される一方で、行政組織はトータルで肥大化していま すから、分割前よりも総コストは大きくなります。 世界の各都市に目を転じると、当該構想の反例となる可能性が高い都市があります。例 えば、ベルリン(ドイツ)。ベルリンは大阪市と堺市を合わせた面積よりも大きな面積を 持ち、かつ、人口は両市の合計程度の都市であります。そして、ベルリンの下部には十二 の行政地区が存在しますが、それらは自治体ではありません(課税権、立法権なし)。あ るいは、ニューヨーク(アメリカ)。ニューヨークは面積が大阪府の約0.6倍強、人口規模 が大阪府の約0.9倍強です。そして、ニューヨークの下部には五つの行政区が存在しますが、 それらは自治体ではありません(課税権、立法権なし、区議会なし)28。このように、世 界の各都市には当該構想の志向とは異なる様々な統治形態が存在しますから、大都市の在 り方については、もっと、地に足を着けた議論を進めて行く必要があるでしょう。 以上より、人口規模約84万人で各区の役割分担のうえに成立している現堺市をバラバラ にしてしまうと、トータルで観て、非効率化する可能性は高いでしょう。 [宮本理事長] なるほど。村上先生は何かこれに対してお考えはございますか。堺市の発言力とか堺市 の都市整備とか、そういうものについて……。堺市の影響力というものは残って、今のま まと同じようになるかどうか、ですよね、大阪都に入っていった場合に……。 [村上先生] 大阪都に入って行って区になった場合、堺市の発言力はその区の中で、地域に密着した 26 東京商工会議所(2008) 「道州制と大都市制度のあり方:東京23区部を一体とする新たな「東京市」へ」 。 27 そもそも、行政に対して、サービス供給の効率化ではなく、熟慮なしに、サービス内容自体の特徴を求めると 不必要な財政需要が生じる可能性が高まります。 28 「大阪府議会:大阪府域における新たな大都市制度検討協議会報告書」 (平成23年9月30日)。 33 ものにとどまると思います。旧堺市全体ではなく、区の住民の要望に沿ったものとなると 思います。公選制であれば、それは反映されると思いますが、大阪都全体の観点が優先さ れる可能性が高く、区になることのメリットがどこにあるのかがよくわからないのです。 ただ、堺市のまま残ろうとすれば、広域的なものはあきらめざるを得ないのではないか。 どちらを取るかということになるのではないかと思いますが… 都区財政調整協議の概要 などを見ていますと、緊急避難的な状況が生じた場合、市であった方が、調整がすんなり いくようにも思われます。 [宮本理事長] ありがとうございます。 34 6.財政と税源について [宮本理事長] また、ちょっと話を変えましてですね、先ほどからお伺いしていますけれど、大阪都の 中に入った場合に……という仮定の話でございますけれども、財政といいますか税源とか についてお話を伺いたいのですが、これは地方財政ご専門の先生お二人に今日はお越しい ただいていますので、詳しくお伺いしたいんですけれども。大阪都に入った場合に、堺市 の将来の財政、税源、そういうものについてはどのような影響が出るだろうかということ をお伺いしたいのですが、まず吉田先生、お願いできますでしょうか。 [吉田先生] 仮に、日本全体で観てコストがかかることを是とした上で、都構想が実施されるとしま しょう。その場合、東京都の都区財政調整制度のような財政調整制度が導入されるはずで すから、その財政調整制度が想定する範囲内の行政を行うのであれば、現在の東京都特別 区と同様の財政運営がなされるものと考えられます。 [宮本理事長] たぶんですね、東京都は区レベルで手に入った税収の3割から4割が都の方に上がって いると思います。それをまたどういうふうに配分するかが問題になるわけですね。応分の 配分がきちっとなされるかどうかということに危惧を持ってらっしゃる方もいらっしゃる わけです。つまり、どういうことかと申しますと、堺というのは割りと今まで財政的に、 経済的にはよかった。ところが、大阪市なんか大変ですよね、それでそちらの方の補填に 堺市の財源が使われるんじゃないかな、という考えがあるわけです。たとえば、私、試算 してみたんですけどね、今までのいわゆる地方の借金がありますね、地方債のような…… それを一人当たりで割ってみますとね、今、堺市は43万円くらいの負担になるんですよ。 大阪市は107万円くらいなんですね。これをいっしょにしますよ、というと、その大阪市 の負担分も堺市の方々がある程度カバーリングしないといけない、というふうなことにな った場合に、堺市の人たちとしては、“えっ!そんなこと聞いてないよ”ということにな るかもしれない。ですから、そういう、いわゆる税源とか財政のバランスも考慮した上で、 大阪都構想に堺が入っていった場合、メリット、デメリットというのを議論すべきではな いかな、というふうに思うんですけど。村上先生、いかがでしょうか。 [村上先生] 今現在の債券発行残高を問題にしておられるのだと思いますが、両市の財政規模と債券 残高の比較とか、大阪市と堺市の昼間人口、夜間人口の相対的な比率を勘案すると、1人 35 当たりで見た場合の、大阪市の悪さは少し割引してみることができるのではないでしょう か?大阪市の方が、財政力指数ではいい値を示しています。堺市は臨海部など、企業の進 出がありますけれど、夜間人口の方が多いという意味で、大阪市のベッドタウンという位 置づけになります。このまま、高齢化が進んでいくと、将来的には堺市だけでは逆に厳し くなることも考えられます。大阪市が企業の集積をいかして、アジアの活力を取り込むこ とができ、経済力を回復させることができれば、逆転もありうるのではないかと思います。 [宮本理事長] なるほどね。新川先生はご専門とは少しずれているかもしれませんが、ご関心あると思 いますので、将来そうなった場合の税源や財政とかについて、いかがでしょうかね。 [新川先生] これも新しい都の制度がどうなるか、ということで、ほんとうに分からない話になって 恐縮なのです。一応これも現在の東京都の都区財政調整制度をベースに考えざるを得ない ということで、そちらから考えてみますと、先ほどご指摘の通り現在の都区財調、基本的 には都が調整をして、各区、特別区に配分をするという基本的な方向です。それ自体の合 理性もありますし、もう一方では、それに対する各区の不満というのも非常に大きい。結 局のところが、財政の自治というのが特別区23区については事実上ないんだ、という主張 でもあります。そういうところで、責任のある自治というのはできないだろうというのが、 併せてそこでの主張でもあります。 もう一方では、都区財調もそうなのですが、完全な財政調整の仕組にはなっていないと いう問題があります。それは、東京でいえば中央3区とそれ以外の問題、実は大阪の場合 にも北区、中央区辺りを中心にした、企業が集積をしているところでの税収とそれ以外の ところの格差は非常に大きゅうございます。ここの調整をどうするのか、ということを考 えたときに、単純に都区財調型の調整をしても、それを全部埋めきれないという問題があ ります。加えて、その中に堺市が入っていったときに、現在の比較的堅調な堺の税収とい うことを考えたときに、これを西成その他の非常に悪いところとのバランスで考えていく と、実は損をするのではないか、というのはまさにご心配の通り、ということになるだろ うと思います。従って、大阪全体での一体化というのは、税源の配分ということを考えて みたときに、現在の堺市民にとって必ずしもプラスにはならない、むしろマイナスになる 公算の方が高いだろうというふうに思っています。もちろん、それは逆に、一人当たりは 減ってもトータルでこの大阪都市圏が発展をすればよろしい、という議論が前提にはなる だろう、ということですが、それに対しましても、税の動きだけ見ててもそういう問題を どう乗り越えていくかというのは、この一体化の議論の中では非常に大きなポイントです。 それから二点目に気になりますのは、やはり現在の府も市もそうなんですが、たくさんの 負債を抱えておられます。堺市は、実はこの10年くらい私自身も関わらせていただいて、 36 ずい分と行革は、やらせていただきました。その点ではかなり整理をされてきている状態 です。がんばって改革をしてきたところが、また、重い負担のあるところに入ってしまう のか、という議論は感覚的には、理解できます。マクロ経済学的には最終的にバランスが 取れていればいいのですから、どうってことないと言えば、どうってことないのですが。 少なくともそういう負債というのをどういうふうに考えていくのか、というのが一つ大き な問題です。実は、この点は大阪府の研究会でも問題になって、実質的には府と市の負債 の帰属と償還の処理については、これを一体的に処理する仕組を別途設けざるを得ないだ ろう、そうしないとその処理について納得のいくバランスのいい解決法というのはないん じゃないか、ということで、それぞれの財政状況に応じた負担でもって共通の負債を解消 していくという、そういう手法を考えざるを得ないのではないか、ということが検討の方 向でございました。 それから、負債だけではなくて資産をどう分割をするのか、配分をするのか、こちらも 実は、それぞれに非常に大きな資産を各自治体は持っておられます。土地建物など簿価は 低いのですが、市場価格でいうと相当な金額になります。これを新しい府に帰属させるの か、あるいは特別自治区に帰属させるのか、あるいは別の仕組で管理・運営していくのか。 今、大阪市の場合では、交通局をどうするのかという問題がありますけれど、こういう公 営企業の施設も含めて、その資産をどう整理し、それぞれの行き先、受け皿を考え、しか も、どう管理をしていくのか、こういう問題をクリアしていかないといけない。そのとき に、堺市が今お持ちの資産というのを府に行く部分、そして区に行く部分、そしてそれ以 外に堺市として何がしか別の目途としてこれを持っておかないといけない部分というのを どう考えていくのか。このあたりは、難しい連立方程式を解いていくような議論をしてい かないといけないのではないか、というふうに思っています。 [宮本理事長] ありがとうございます。阿部先生、いかがですか。 [阿部先生] 税というのは、言うまでもなく、役所が仕事をするためのお金です。大阪都構想は、産 業基盤の整備などの広域性がある事務事業は都に集約することによって、基礎自治体と広 域自治体との間の事務事業の振り分けを現在よりもクリアにすることを、重要な目的とし ています。そうした基礎自治体と広域自治体との間の事務事業の振り分けが徹底されます と、基礎自治体がこれまで実施してきた事務事業のうちで、産業基盤の整備に関わるもの は広域自治体である都に移管されて、その分、基礎自治体が実施する事務事業は減少しま す。要するに、基礎自治体の仕事が減るということです。そうしますと、仕事が減るのだ から仕事をするためのお金は少なくていいでしょうということになるはずです。実際、大 阪都構想では、特別区と都との間の税源配分に関して、そのような発想をしているようで 37 す。また、現在は東京都と特別区にのみ適用されている都区財政調整制度もそういうもの です。問題は、堺市、あるいは堺市を分割して作られる特別区は、現在の政令指定都市と しての堺市が実施している事務事業よりも少ない範囲の事務事業だけを担っていくことを よしとするのかどうかという、その点だろうと思います。 [宮本理事長] ありがとうございます。吉田先生、何か付け足していただけることはありますか。 [吉田先生] それでは、二つ補足説明をさせて下さい。一つは、堺市にとって都構想は損か得か?も う一つは、現在、公的セクターにおいて、国(中央政府)がしっかり統治しないことがも たらす弊害についてです。 第一に、「堺市にとって都構想は得か損か?」です。現在の堺市や堺市民にとって、大 阪都に入って得か損かは「短期的厚生」と「中長期的厚生」のどちらを考えるのかにより ます。前者を考える場合、後者は無視しても、堺市や堺市民にとって“短期的に受益が負 担を上回る”ように制度設計をすることができれば「得」とできるでしょう。例えば、大 阪都の財政調整交付金配分基準を現大阪市よりも現堺市にとって財政上有利になるように 設計する、また、財政負担の重い仕事は大阪都に移管するなどを行えば、短期的利益を得 ることはできるでしょう。しかし、国・地方の統治を中長期的に観て効率的に機能するよ うにしなければ、この「得」は早晩得られなくなるでしょう。結局、社会全体を効率的な ものにすることでしか、「通時的な予算(総所得)の最大化」は達成できません。そのた め、日本が直面する四課題に効率的に対応できるよう、前述の「大政奉還」案を実施する 必要があるでしょう。 第二に、「国(中央政府)がしっかり統治しないことがもたらす弊害」についてです。 この点に関しては、最近地方で起こった2つの有名な政策事例を用いて説明します。 一つは、名古屋市をはじめとする「減税政策」です。現在、国は、国から地方への財政 移転の柱である「地方交付税」について、本来必要な交付原資を確保できない状況に陥っ ています(その理由はこれまでの説明を参照されたい)。そのために、国は、各自治体に、 交付税の不足分を「臨時財政対策債」(赤字地方債の一種)の起債収入でファイナンスさ せている状態です 29。しかし、この財政運営方式では、国・地方全体、国民全体で、現在 の現役世代の負担を将来世代に先送りしていることになります。そして、話題の名古屋市 は住民税減税を実施する一方、臨時財政対策債を約300億円(2009年度)発行しておりま す。私は研究者として、この件について、総務省に、「公的セクター全体のファイナンス 29 よく主張される公務員給与引き下げ政策の是非も説明しておいた方が理解を助けるとは思いますが、時間の関 係上、それは別の機会とします。 38 の現状を踏まえて、さらに、他の多くの自治体が同時に減税政策をとった場合も想定し、 各自治体の減税政策の是非を考え、場合によっては適切な指導や監督をして下さい」と (口頭ですが)意見具申しました。しかし、寡聞かもしれませんが、この件に関して国が 能動的に行動した旨の情報は得ておりません。 ところで、この問題は後日ある顛末を迎えました。国は「地方税税率の税率変更に関す る住民直接請求制度の導入」を計画していたのですが、各自治体から「減税要求による財 政運営の困難化」を危惧する意見が多く出され、当該計画の先送りを決定しました 30。 もう一つは、「大阪府本庁舎のWTCビル移転政策(以下、WTC案)」です。大阪府は、 地方自治法(国法)第4条「地方自治体の庁舎の位置は、住民の利用に最も便利であるよ うに、交通の事情、他の官公署との関係等について適当な考慮を払わなければならない」 との規定が存在するにもかかわらず、決定していた大手前庁舎の耐震補強計画を棚上げし、 WTC案を練り始めました。なお、当該案の推進理由の一つは“WTC案は本庁舎整備コス トが安い”点にありました(ただし当該コスト計算にも疑義あり)。ここで、この問題の 理解を助けるため、地理面・交通面の事実を説明します。WTCは大阪府の人口重心(大 阪市生野区鶴橋)から約10km離れた場所にあります(人口重心とWTC間の距離を反対に 取ると生駒山の麓に達する)。一方、大手前庁舎は人口重心と梅田、難波、天王寺の重要 ターミナルにも近接しています。当該案が出た当初、大阪府の委員会委員の任にあった私 は、その委員会において、“中核公共施設(重要インフラ)である府本庁舎の整備・設置 に際しては、庁舎整備費用だけでなく、社会全体での総コスト(アクセス・コストや機会 費用等を含む)を予測する必要あり。また、危機発生時コストが高過ぎる案は必要条件を 満たさない”と指摘しました。併せて、“WTC案に有利な仮定の下でも、総コストでは、 WTC案は大手前案よりも約500∼1,000億円(ケースによる)高くなる”との試算結果(期 間50年)も提示しました 31。もし、どうしてもWTC案を実施する意義があるとするなら、 大阪府はWTCへの移転が総コストを上回る便益をもたらすことを、論理的、定量的に示 す義務があります(この行政手続きを欠くと効率的な意思決定は成立しない)。当時、こ の問題は話題となっていましたから、国もその内容を認識していたはずです。しかし、私 の知る限り、国は国法の規定と整合しないこの政策案に対する指導は行っておりません。 ところで、この問題も後日ある顛末を迎えました。昨年の東日本大震災の後、WTCの 耐震脆弱性が明らかとなり、WTCへの本庁舎機能の移転にはストップが掛かりました。 そして、大阪府は今後30年間で本庁舎整備に必要な財政負担(総コストではない)が約 1,200億円に膨らむとの見通しを示しました(一方の耐震補強案は約770億円であった)32。 以上、二つの政策事例から得られる教訓は、一つは、公的セクターにおける意思決定は 30 日本経済新聞(2011年12月14日) 。 31 当該試算はあくまでラフな試算に過ぎませんが、問題の本質は掴めます。また、当該委員会においては、私が 作成した説明用資料と試算結果資料が配布されております。 32 日本経済新聞(2011年9月6日) 。 39 社会メカニズムを十分理解したうえで、(アニミズム文化が陥り易い)局所最適化ではな く、全体最適化を図らなければならないこと。もう一つは、国は、社会全体の効率性を考 え、地方を指導・監督すべきところはしっかりすべきであること。 [宮本理事長] はい、わかりました。ありがとうございます。 40 7.アイデンティティについて [宮本理事長] それではですね、次にこういう話にしていただきたいのですが。先ほども、村上先生か ら出ましたように、大阪都に入った場合、堺市のアイデンティティがなくなるんじゃない かと……。 たとえば、中世の古い世界地図に日本が載っていて、日本の都市で載っているのが、都、 京都ですね、あと堺と鹿児島、その三つしか載っていないんですよ。要するに大阪なんか なかったんです。堺がもの凄くそのときから評価されていたということです。宣教師のガ スパル・ビネラとかルイス・フロイスとかは、日本の堺はベニスだと非常に評価してくれ ていました。先ほど、村上先生の話にあったように、堺の人間はそういうプライドが結構 あったんですけどね。 これが大阪都に入って、堺の名前は、堺の何区とかいう形で残るかもしれませんが、こ れではやはりアイデンティティが弱くなるんじゃないかな、というふうなことを心配され る方もあります。 それともう一つ、即そこに関係するわけではありませんが、先ほど吉田先生もおっしゃ たように、堺が区割りになった場合に逆にいろんな面でコストが増えませんか、というこ とを心配する人もいるのです。つまり、小さくなればなるほどコストがかかるというわけ です。東京の特別区でも一つの区に40人から50人くらいの議員さんがいるわけです。今、 堺が52人かな、これが三つの区になると、ものすごく増えるわけですよ。それに合わせて 職員さんも必要になってくる、とかいうことになる……。そうなると、効率化を図るとい いながら、もしそうなった場合には、逆にコストが増えるんじゃないかな、という面もあ りますので、それについてどなたでも結構ですので、ご発言いただけたらと思いますが、 まず、吉田先生、いかがですか。 [吉田先生] 前述のとおり、大阪市、堺市を分割して、より小規模な自治体を新設した場合、トータ ルの財政コストは増加するでしょう。やはり、日本全体の経済状況、公的セクターの財政 状況を考えて、国・地方の統治の在り方を考えていかなければならないと考えます。 さて、ここでは、もう一点、「歴史的経緯を踏まえる重要性」について説明させて下さ い。日本では、統治の問題を考える際に、「初期条件」とか「移行過程」を無視する傾向 が強いですが、これは危険です。国、地方の形というのは、その国の民族性、文化、歴史 等に規定されています。例えば、国家の形態、「連邦国家」と「単一制国家」も、これら 要因に規定されています。日本は単一制国家でありますが、日本と人口・面積規模や経済 力が比較的近いドイツは連邦国家であります。その理由として、現在のドイツ領内では、 41 中世から近代にかけて、領邦国家という小国が分立していた歴史を挙げることができます。 現在のドイツの起点となるドイツ統一は1871年に成されたに過ぎません。一方、日本は、 古代において、既に、「大和朝廷」として統一国家を形成しております(ここでは隼人、 蝦夷、アイヌ等の論点には触れない)。こうした歴史的経緯があるため、現時点で考えれ ば、比較的近しい状況にある両国の国家体制が異なってくるわけです。多くの日本人は大 局観を持つことが苦手であるため、歴史的経緯を踏まえた因果関係の理解も苦手です。し かし、今後この弱点を改めていかないと、改革の際に、一見非効率そうだが実は効率的な システムを全て破壊しかねません。未知・未修得のメカニズムを軽視する傾向が強い「近 代合理主義」の陥穽に陥ってはなりません。 そこで、堺市についてです。堺は中世、いや、古代から継続して日本有数の経済・産 業・貿易都市であり続けてきました。そうした歴史的経緯の中で、堺はそのアイデンティ ティを育んできました。よって、歴史・伝統・文化が当該地域の価値観のある部分を構成 している事実を踏まえると、都構想により、そのアイデンティティを安直に断ち切ること は非効率性をもたらす可能性が高いでしょう【※詳細説明13参照】 。 [宮本理事長] はい、ありがとうございました。村上先生、いかがですか。 [村上先生] 私も今のご意見のとおりだと思います。確かに、コストはかかると思います。コストを とるか、住民の意思の反映された基礎自治体をとるかですね。ただ住民というのは、欲し いもの、受益に関しては要求が大きいのですが、負担に関しては極力避けようと致します。 要求ばかりが増えて、非常にコストが大きくなるという惧れがあります。そのことと、住 民が自分がこの地域を創っているというタックススペイヤーとしての自覚をもつ、参加意 識を持つということとは二律背反ですね。 [宮本理事長] では、新川先生、いかがですか。 [新川先生] そうですね、一つはやはり、一般的に小規模な自治にしていけばいくほど、コストは増 えるというのは、それはその通りで、これは地方交付税交付金の仕組一つとってもそうな ので、まさにそういう構造なんです。ただし、そのときに問題は、それは現在の地方制度 のフレームの中でそうなるということです。言ってみれば自治が本来そういうコストを必 要としているかどうかというのは、また別の議論だということなのです。先ほどから出て いますように、従来型の国家とか官ではなくて、むしろ、地域住民による公(おおやけ) 42 のようなものが本来、成立するとすれば、そこでの民主主義のコストは、地域のその住民 たち自身によって担われるはずです。いわば自分たちの自治を自らのコスト=負担で運営 をしていくのが基本だとすれば、自然村の自治になってしまうわけですが、逆にその範囲 でしかやれないし、やれることしかやらないということになるはずです。そういう自治の 世界というのを、いわば日本の社会の基層基盤として、もう一度つくっていくというのが、 ひょっとすると国のレベルでの機能不全に陥っている統治構造に対して、日本社会という のを変えていく観点になるのではないでしょうか。大災害に関連してよく言われているよ うな地域のレジリエンス(回復力)とかあるいはリダンダンシー(冗長性)とかといった ような、そういう観点からも重要なのではないか、と逆に考えているところがあります。 従って、一見、行政制度として無駄な重複する構造になりうる可能性がありますが、もう 一度足元のところから、こういう自治をつくり直すということが重要ですし、そのための 基礎とか基盤というのをそれぞれの地域で考え直していくということが大事だということ です。 そういう観点でいうと、実は堺というのは諸先生方からもありますように、ほんとうに 自治という点では有利な歴史的、文化的伝統を持っておられます。しかし、それを近代化 や、近代的な地方制度の枠組の中で、どんどんと自ら脱ぎ捨ててこられたところもあるの ではないか、というふうにも思っています。要するに近代的な法制度の枠に合わせるとい うことのために、いわば堺らしくもない選択をしてきたかもしれない、ということですね。 合併やあるいは政令指定都市というのも、ひょっとするとそういうことなのかもしれませ ん。そういう経緯にもかかわらず、なお堺が持っている、こういう歴史や文化、伝統とい うのも基盤に置いた堺の自治というのを逆につくっていくチャンスというのが、この都構 想の中でありうるとすれば、それはそれとして一つ堺の選択肢かもしれない、というふう に思いながらお話を聞いておりました。 [宮本理事長] ありがとうございます。阿部先生、いかがでしょうかね。 [阿部先生] 自治のコストということに関してですが、地方自治法では地方議会の議員には報酬を支 給しなければならないことになっていますが、法律の規定を離れて考えますと、地方議会 の議員は無報酬の名誉職でもいいはずです。実際、ドイツなどでは市町村議会の議員は無 報酬の名誉職です。また、日本でも、堺市の市会議員はかなりの額の議員報酬を支給され ていますが、小さな市町村では、市町村議会議員になっても議員報酬だけでは暮らしてい けないというところは少なくありません。報酬がかなり低い額におさえられているのです。 それをもっと徹底して、議員は無報酬の名誉職であり、議員になることはボランティアと しての社会貢献なのだと割り切ってしまえば、議会運営のコストは大幅に圧縮できます。 43 また、そもそも基礎自治体がどの範囲の事務事業を担うかによって、基礎自治体を運営す るためのコストは変わってきます。たとえば、生活保護は国が、国の出先機関によって、 国の責任で実施するということにすれば、自治体の負担は大幅に減少します。そうしたこ とを踏まえますと、そもそも基礎自治体はどのような事務事業を担うべきなのか、そして、 その事務事業をどういうシステムで実施すべきなのかについては、まだまだ考える余地が あるのではないかと思われます。これまでは補完性の原理が強調され、基礎自治体にでき ることはできるだけ基礎自治体に任せるべきであるという論調が強かったですけれども、 たとえば生活保護のような、ナショナルミニマムを保障することが主目的で、それぞれの 自治体が独自性を発揮する余地がほとんどないような施策についても、補完性の原理に立 脚した議論をしていいのかどうか、考え直す必要があります。 それから、堺市のアイデンティティということに関してですが、混ぜ返すつもりはない のですが、中世の自治都市の堺は、区域的には、今の堺市よりもずっと小さかったのです。 その自治都市・堺のアイデンティティが、現在では、泉北地域に住む方々にも共有されて いるというのは、少々信じがたいことです。また、大阪市と堺市の境界となっている大和 川は、付け替えによって現在の流れになったもので、少し付け替える位置を変えていたら、 大阪市と堺市の境界も、現在とは異なっていたはずです。そうしたことを踏まえますと、 市のアイデンティティというのは、半ば偶然的な歴史的経緯によってつくられたものであ って、歴史の中で変わっていくものでもあると考えられます。そうだとしますと、今の堺 市のアイデンティティにどこまでこだわるべきかということも、長期的な観点から考え直 していく必要があるかもしれません。 [宮本理事長] はい、ありがとうございました。今までの先生方のお話を伺っていますと、基本的に基 礎自治体の仕事をどうするかによって違いますけれども、いわゆる行政のレベルを下に下 げていって単位を小さくすると、ある程度コストはかかるんじゃないか、というお話です ね。それと、アイデンティティについては、やはり今、お話もありましたように、堺のア イデンティティを持っている人もいるし、また先ほど言われましたように、泉北地域など は外から入ってきた人も多いので、そういうものはないよ、という人もいらっしゃるかも しれませんね。大阪都に入った場合の堺の発言力にしても、基本的には大きな中に入って いくから若干弱まるかもしれないけれども、その中である程度きちんとした形で発言をし ていくということが大切ですし、それからやはり議員の数にもよってきますけれど、発言 力が大事じゃないかな、というようにお伺いいたしました。 44 8.大阪都構想を一言でいうと [宮本理事長] 正直言いまして、堺の中でも大阪都構想というのは一般の市民の人たちとお話していて も、はっきり分からないんだと言う方が多いのです。しかし、今、マスコミで騒がれてい るから大阪都構想の中に入ったらいいのか、入らない方がいいのかいろいろ議論なされて いるわけです。つまり、大阪都構想というのは具体的にどんなものか、ということをよく 市民の方から聞かれるんですけれども、先生方が、大阪都ってこんなもんだよ、というこ とをもし簡単な言葉で言っていただけるとしたら、どういうふうに表現でできるかという ことを先生方からお答えをいただきたいのですが。いや、言えないよ、というのも一つの 答えだと思いますけれども、新川先生、いかがでしょうかね。 [新川先生] 今言われている大阪都構想は、現状でいえば、東京都と23特別区の仕組みを、大阪市の 区域で実施しようというものだと考えていいでしょう。もちろんいろんな改善が施されよ うとしていますが、基本は都区制度だということです。従いまして、大阪市の区域につい ては大阪府と市が一体化して、広域自治体と基礎自治体の両方の役割を一元的に果たして いくことになります。その中で特別自治区とされる従来の大阪市の行政区は、これまでよ りは大きな権限を与えられますが、一般の市町村よりも自治権を制限された団体というこ とにならざるを得ないと思います。 ところで、実は、大阪府自治制度研究会では、都制度が焦点ではなく、その根本にある 大都市制度問題の検討をしてきました。大阪における大都市制度の問題点を明らかにし、 それを解決できる制度を広域自治体である大阪府の側から構想しようとしてきたのです。 私自身は大阪のこういう広域自治体としてのあり方について2003年とそれから今回と二 回、関わってきました。その両方で一貫して言ってきたのは、広域自治体というのは一体 何なのか、要するにどういう役割を果たしてくれるか、統治構造上、そして行政サービス 上、そして地域の自治ということを考えていく上で最適なのか、ということでした。結論 から言えば、こうした広域自治体、それを都と呼ぼうが新都と呼ぼうが構わないわけです けれど、それ自体の役割というのは、極めて限定的で調整的な役割というのが基本にはあ るんだろうということです。そして、実際の仕事というのは基礎自治体、あるいは市町村 レベルの自治体の仕事として考えていく方が合理的だろうし自治的だと考えています。た だし、市町村がどんな仕事も全部できるわけではなくて、むしろ、集約した方がいいとい うケースも多いので、そこはむしろ市町村の権限を広域自治体に委託をするという、そう いう観点で整理ができないか、というのがこれまでの発想でした。ですから、広域自治体 あるいは都というものは、元々、自治体ではあってもそれ自体の役割というのは市町村調 45 整的なものというのが基本で、その中で、市町村の要請に応えて広域調整や場合によって は一部の事務の実施を担っていく、その場合にもあくまでも広域的に処理しなければなら ない事務であっても、市町村が水平連携で処理できるものは、除外されるべきです。単独 の市町村がそれぞれいくら水平的に連携しようとしても限界があるような、あるいは利害 の調整が最終的におぼつかないようなケースについて、こうした広域自治体というのは機 能していく、そんなイメージで考えていました。従って、大阪都といってみなさんがいろ いろ夢を膨らませておられるようですが、私自身の持っております、こういう広域自治体 の姿というのは、実は極めて、仕事としては限られた業務をやる自治体、そして市町村を ベースにした自治の仕組の運営の中で、そのお手伝いをする役割、そういう位置づけをし てきた、ということです。 [宮本理事長] ありがとうございました。阿部先生はどのように……。市民の方から、どういうことで すか、と聞かれた場合……。 [阿部先生] 私は、最近はあまり言われなくなったことなのですが、橋下維新の会代表が大阪都構想 を掲げた比較的初期の段階で繰り返していた“指揮官を一人にし、財布を一つにする”と いうことが、大阪都構想の本質なのではないかと考えております。何のために“指揮官を 一人にし、財布を一つにする”のかと言いますと、大阪を活性化させるためです。そのた めに、一人の指揮官の下で、一つの経済成長戦略を立案し、その戦略を実施するために、 一つの財布から集中的に資金を投下していく。そうした地域の経済成長戦略を一元的に実 施していく制度的な仕組を構築することが、大阪都構想のコアなのではないかと考えてお ります。 一元化された経済成長戦略は、ある意味で効率的ですし、スケールメリットを伴ったも のになるだろうと思います。その一方で、たとえば、堺市としては堺市の区域内に立地し てほしい工場が、大阪都の区域全体を見据えた効率的な土地利用という観点から、別のと ころに誘致されるといったことが、必ず生じてくるだろうと思います。部分最適と全体最 適は、しばしば矛盾します。堺市にとって最も望ましい状態は、大阪都にとっては望まし くない状態であるということが起こるわけです。同様に、吉田先生が強調されていたよう に、大阪都にとって望ましい状態が日本全体の利益には反しているといったことも起こっ てくるはずです。大阪都構想というのは、そうしたことを踏まえたうえで、大阪という区 域において経済成長戦略を一元化し、その区域での最適化を目指す、そのための方策であ ると考えています。したがって、当然のことながら、大阪都構想の下では、個々の基礎自 治体が、もっぱらその基礎自治体の区域の利益を考えて何らかの施策を立案し、実施する、 その可能性は小さくなります。それをよしとするのか、それとも、やはり堺市は堺市の区 46 域をよくするために、独自の施策を立案し、実施していくべきであるという立場をとるか によって、大阪都構想の評価は、かなり異なってくるのではないかと思います。 [宮本理事長] はい、ありがとうございます。吉田先生は、いかがですか。 [吉田先生] それでは、都構想という発想の立位置を理解していただくために、次の二点について説 明させていただきます。一つは、国・地方の統治のあるべき論(再論)、もう一つは、歴 史(の推移)が教えてくれる改革の意義についてです。 第一に、「国・地方の統治のあるべき論(再論)」です。地方の広域行政の在り方として は、前述の「大阪府・堺市方式」や「愛知県・名古屋市方式」でよいと考えます。この両 事例は、“府県と政令市が、事務調整のうえ、不必要な二重行政を回避”、“府県は政令市 他市町村の機能を補完”という特徴を有しております。ただし、これは別に特別なことで はなく、主権者たる国民・地域住民の代理人である役所としては当然なすべき義務(債務) です。よって、大阪府と大阪市も、これら方式に則り、粛々と当然の仕事をしなければな りません。ちなみに、愛知県知事は、現時点では、大阪都構想と異なり“名古屋市は解体 しない”33と主張しています。なお、私が提案する「大政奉還」案の理解を助けるために、 奈良県知事の発言を紹介しておきます。同知事は、新聞紙上 34で、 「グローバル化が生ん だ格差解消のため、各国の中央政府が果たす役割の重要性は増している。必ずしも地方分 権という国際情勢ではない」、「日本でもインフラ整備の面で、地域間格差の解消に向けて もっと国が全体を案分してほしい。地方には雇用と医療・健康を守る責任と権限をもらい たい。ただし、人の移管は不要だ」と発言されておられます。この発言は傾聴に値します。 また、最近よく使われる「都市間競争」という考え方についても論評しておきます。実 は、都市間競争社会は、資本至上主義者にとって、一番好都合な社会となります。財政学、 地方財政の中でよく出てくる、「底辺への競争:Race to the Bottom」という理論があり ます。この理論では、各地方政府が自地域の短期的厚生のみを考え、資本や人材等の生産 要素を自地域に呼び込むために、地方政府間で、「補助金競争」や「租税競争」を仕掛け 合う結果、どの地域の行政も非効率な歳入・歳出水準に陥り、全ての地域が疲弊(共倒れ) していく、一方、行動の自由度が高い(経済的優位にある)資本や人には付加価値がどん どん蓄積されていくというメカニズムを説いています。この理論をご理解いただければ、 前述の「世界各国の地方自治体化現象」も理解し易くなるでしょう。現在、経済のグロー バル化の下、この底辺への競争が世界レベルで起きていますから、弱体化した中央政府の 下での「都市間競争」には十分に気を付けなければなりません【※詳細説明14参照】 。 33 毎日新聞(2012年3月6日) 。 34 日本経済新聞(2011年2月22日) 。 47 ところで、私は、論理の展開上、これまで日本のアニミズム文化のマイナス面を説明し てきました。しかし、本当は、アニミズム文化(自然に感謝と畏怖の念を持ち人もまた世 界・自然の一部という考え)の下、中長期的な社会厚生最大化のため、「真摯に努力する けど分かち合う文化」こそが、世界統治の基本文化になる可能性が高いと考えています。 日本は、「アニミズム文化」を保持しつつも「大局観」を修得し、世界統治に貢献してい かなければならないでしょう。 第二に、 「歴史(の推移)が教えてくれる改革の意義」についてです【※詳細説明15参照】 。 昨今、「改革」論者が、明治維新になぞらえ「維新」を標榜しながら、「地方分権」を主張 しています。そこで、歴史の推移から、 「明治維新における改革」の本来の意義を観ておき ましょう。まず、中世・「室町時代」から始めます。室町時代は地方政府である守護大名 の力が強く、 (実質の)中央政府である室町幕府の力が弱かったため、最終的に、究極の地 方分権時代である「戦国時代」に突入しました。戦国時代は地方領主(地方政府)同士の 付加価値の奪い合いが日常化しており、大きく社会厚生が毀損されていました。そこで、 信長がこうした分権的経済活動を止めさせ中央集権化を図りました。その後、江戸時代は、 幕藩体制の下、日本流の経済成長を遂げ、また、ある程度の地方分権が伸展しました。し かし、長期の安定を誇った江戸時代も、ヨーロッパで産業革命が起こり、その力を基にイ ギリス等の西洋列強が再び世界各国に進出をはじめたことにより終焉を迎えます。つまり、 幕藩体制的分権統治を終了させ、明治維新政府により、再度、中央集権化が図られること となりました。このように、戦国時代から明治維新にかけての改革は、分権的経済活動に よる弊害の是正と世界統治の変化への対応を目的とし、国力を効率的に結集させるための ものでした。すなわち、中央集権化(国力の効率的結合)を図るためのものでした。 日本人は、先人が「血」という最も重いコストを払いながら紡いできた歴史から、もっ と統治の知恵を虚心坦懐に学ばなければなりません。現在、日本が直面する課題について も、先人が膨大なコストを払いながらも残してくれた「歴史という巨大なデータベース」 (実験経済学の実験結果とも考えられる)が解決策の根本を教えてくれるはずです。 [宮本理事長] はい、わかりました。村上先生、いかがでしょうか。一言でいえば……。 [村上先生] 大阪都とは地域全体に関することを担う機関であって、対外的・国際的な対応も担うべ き存在であると思います。通商は本来国が一元的に担うべきだと思いますが、関西の地理 的なメリットを活かしてアジアの活力を取り込むことが期待されていると思います。 [宮本理事長] ありがとうございます。 48 9.まとめ [宮本理事長] 最後に一言というふうなことございましたら、どうでしょう、阿部先生。 [阿部先生] “大政奉還”というのは、おもしろい発想だとは思います。けれども、私はずっと地方 自治の研究をしてきまして、それぞれの市町村の職員が自分の住んでいる地域を良くした いと願って、そのためにがんばる、そのがんばりを、あちこちで見てきました。国のため ではなくて、地域のためにがんばっている市町村の職員が、全国各地にたくさんいます。 東日本大震災の被災地の市町村では、本当に過労死寸前の状態で仕事をしている職員の方 もいます。そういう一所懸命的な、地域に根を張って、地域のためにがんばる職員を、私 は評価したいですし、そうした職員が基礎自治体の団体自治をきちんと担っていくような 制度的な仕組を、何としても保障していく必要があると考えています。優秀な人材がすべ て東京に行ってしまうと地方は冷え込みます。地方にも優秀な、がんばる人が残ってほし いし、そのための仕組は今後も維持し、より強化していくべきであると考えています。 [宮本理事長] 新川先生、最後に一言……。 [新川先生] 一つはやはり、諸先生からもありましたように、今の国の仕組をどう考えるのか、とい うことです。残念ながら、いろいろご指摘の通り、必ずしもうまく働いていないですし、 これにどれだけ改革の手を加えてもうまくいくかどうか、ということについて、私はどう も保証のしようがないな、と思っているところはあります。その意味では、国の負担とい うものをどこまで軽く出来るのか、というのが一つの大きな命題になってきていますし、 それに替わるような統治の仕組、そしてもう一方では統治をされる側の国民の仕組という のをつくっていく必要があって、その担い手として地方制度、地方自治というものがある のではないか、と考えています。もちろんそれが全てとは申しません。民間にも役割があ って、もう少しプライベートな活動の持っている公共的な意味とか、公的な意味での市民 の活動というものがありまして、そういうものの価値もあると考えているのです。ですが、 重要な国の仕組を組み替えていくときの主たる担い手の一つとして地方自治を考えたいと いうふうに思っています。そのときに、今の都道府県、そして市町村の仕組がそれに応え られるかというと、残念ながら現行の行政権限、財政権限の下で、その枠内で動かそうと しても、これには相当限界があって、そうすると、どう組み替えていくのかというのは、 49 非常に大きな論点になってくる。私自身は、一つは道州制型の仕組と大都市圏域の仕組、 そして基礎自治体の仕組というのを、これからどう考えていくのか、この三相くらいで考 えていく必要があるし、そうした観点から組み立て直していく必要があるのではないか、 そんなふうに思っていますし、大阪都構想というのはそれが意味を持ってくるとすれば、 実は道州制や大都市圏をどうするか、そして、市町村をどうするか、ということとの文脈 の中で、実はこの大阪都構想の意義というものがはじめて出てくる、と考えています。大 阪都構想は、大阪それ自体をどうするかとかには、あんまり役に立たない、大阪都構想自 体あんまり意味はないかな、とか半分思っているところも、実はあるんです。そういう点 では、これからの日本社会を引っ張っていく、都市圏でのモデルとしてこの大阪都構想と いうものを考えたいですし、地方制度改革を先導していくその意味というのを、今のとこ ろいろいろご批判もありますけれども、やや長い目で考えていく必要があるのではないか だろうか、そういうふうに思っています。この点では、これからの大都市制度のあり方、 あるいは、その中でも身近な自治の仕組のあり方、そうしたマイクロな観点からの組み立 てと大枠としての国制や地方制度というのをどう位置づけていくのか、その両方の攻め口 というか切り口、そこからアプローチをしていく必要があるかな、というふうに思いなが ら今日お話を聞いておりました。 [宮本理事長] ありがとうございました。村上先生、最後に一言ございますか。 [村上先生] 私は、もともと道州制がいいと思っておりました。ただ、道州制に行くまでに、町村を どうするのか、市であれば州でなんとかいけると思うんですが、町村問題をどのように解 決するのかというところがネックになっていて、でも、この橋下さんが、いわゆるそこに 行くまでの過程の一つとしてというふうに言われていたので、もう一つの切り口なのかな とは思っておりました。 [宮本理事長] わかりました。それでは、最後に吉田先生。 [吉田先生] それでは、最後に四点話しさせて下さい。まず第一に、日本人の「公共心」(パブリッ ク・マインド)の劣化についてです。私は大阪府内に住んでおりますが、駅前の階段や歩 道橋の欄干の上(下は歩道)等に、しょっちゅう、空き缶や空き瓶が置かれて(捨てられ て)います。そこで、私は放置しておくと危険なものはできるだけ拾って回収箱に捨てる ようにしています。こういう空き缶等の放置について、それを行った人は論外ですが、そ 50 れを看過していくその他の人々にも問題があるでしょう【※詳細説明16参照】。この例か らは、日本人が「公共心」を、また、ある行為が生み出す結果を考える「想像力」を喪失 しつつあることが推察されます。“情けは人の為ならず”という諺にありますように、日 本人は、“他者の利益のために行動することが、回り回って、結局、自分の利益になる” という、本当の意味での(経済学が教える外部性を考慮に入れた)効率性を理解していた はずなのですが、もしアニミズム文化が生み出したこの行動原理・統治の知恵を思い出せ なければ、皆で、共倒れしていくことになるでしょう。 次に、第二として、“国民に世界経済、日本経済、日本財政に関する正しい情報を伝え ること”を、再度、お願いしたいです。本日説明させていただいたデータを入り口として、 地に足を着けた意思決定、真摯なる努力、必要な分かち合いを実践していけば、よりよい 未来に辿り着けると考えられます。 第三に、「社会科学や人文科学の専門家の見解を聞く必要性」についてです。多くの人 は病気やケガをするとお医者さんに診てもらい治療を受けます。なぜなら、お医者さんは、 長い修行の結果、一般の人々よりも、人体メカニズムをより理解しているからです。しか しながら、社会のガバナンスに問題が生じたとき、日本は諸外国と異なり、長い修行の結 果、社会メカニズムをより理解している社会科学者や人文科学者の見解を必ずしも聞こう としません(ちなみに、スウェーデンやイタリアでは経済学者が首相)。しかし、今後は、 社会・経済の諸問題についても、まず、先入観を排したうえで、社会メカニズムの専門家 の見解を聴くこと、続いて、その見解を踏まえたうえで、価値観、論理、定量的予測に基 づく議論を展開していくように改める必要があるでしょう【※詳細説明17参照】 。 第四に、都構想の先にある「道州制」に関する補足説明です。私が以前行った財政シミ ュレーション分析(定量的予測)では、道州制に移行して、自立的に財政運営が行えるの は東京州(現東京都のみで構成される州)のみであり、南関東州も、東海州も、関西州も 自立できないという結果 35になりました。 最後に一つ余談を。先日まで、NHKスペシャルで「ヒューマン:なぜ人間になれたの か」という番組が放送されておりました。その中で、“人間の脳には他人が幸せになると 自分も幸せを感じるメカニズムが内在する”という脳科学の研究結果が紹介されておりま した。私は自然科学の素人ではありますが、この研究結果は本日私がさせていただいた話 とあらゆる所でリンクしているのではないかと考えているところです。 以上です。説明全般に関して、説明不足の点があることは承知しております。ただし、 時間の関係上そうなってしまった点があることをご理解いただけると幸いです。また、自 分の考え中、点検・改善すべき点については今後の研究課題とさせていただきます。拙い 説明にもかかわらず、最後までお聞き下さりどうもありがとうございました。 35 橋本恭之・吉田素教(2006) 「経済教室:道州制への視点(上)」日本経済新聞(2006年2月2日)、橋本恭 之・吉田素教(2004)「地方財政改革と道州制の可能性について」財務総合政策研究所Discussion Paper Series 04A-12. 51 [宮本理事長] はい、ありがとうございました。まだまだ、お話をしたいと思っておられるとは存じま すが、特に吉田先生はお話したいことあるようですが、だいたい予定していた時間が来ま したのでこの辺で対談会を終わらせていただきます。でも、今日はほんとうに有意義なご 議論をしていただきまして、私も勉強させていただきまして、非常にありがたかったと思 っております。本日はいろいろご議論いただきまして、ほんとうにありがとうございまし た。 52 補論:詳細説明 詳細説明1:世界経済・財政・社会、日本経済・財政・社会の客観的(本当の)姿 36 第一に、日本全体での「金融資産・負債(ストック)」の状況について。実は、日本は 「世界最大の(対外)純資産国」であり、その純資産額は約270兆円 37(2009年末)にのぼ る(2位は中国で約170兆円、3位はドイツで約114兆円;一方、アメリカ、イギリス、フ ランス、スペイン等の先進諸国は純負債国)。これが、民間企業、家計、政府部門の全部 門(の金融資産・負債)を合計した場合の日本のストック面の実力である。しかし、一般 的には、日本国内の一つのセクターに過ぎない一般政府部門(国+地方+社会保障基金) の長期債務が約1,230兆円(2009年度末)38であるという情報だけが流されている。 第二に、日本全体での「単年収支(フロー)」の状況について。日本は世界有数の黒字 国(経常収支黒字国)、すなわち、国全体で観た場合、毎年の「所得(付加価値獲得額)」 が「消費」を上回っている状態であり、その黒字額と黒字率(対名目GDP)は約10∼25兆 円,約2.0∼5.0%(2000−2009年)39にのぼる。2009年におけるOECD 40 34カ国中黒字国は 日本、ドイツ、スウェーデン等11カ国;一方、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、 スペインを含む残り23カ国は赤字国 41。これが、民間企業、家計、政府部門の全部門を合 計した場合の日本のフロー面の実力である。なお、この黒字状況は1980年代当初から一貫 している。しかし、このフロー面においても、一般的には、一つのセクターに過ぎない一 般政府部門の単年度赤字(財政赤字)が約45兆円(2009年度)42であるという情報だけが 流布されている。ちなみに、大阪府や大阪市の財政困窮状況はよく報道されるが、大阪経 済自体は、日本全体の話と同様に、約4.9兆円の黒字(2005年)43である(落ち着いて考え れば当たり前で、大阪は現在でも日本有数の都心地域である)。なお、ギリシャ国債問題 について一言。ギリシャは対名目GDP比11%(2009年)の経常赤字国。それゆえ、ギリシ ャは、日本と異なり、国債等を外国に買ってもらう(海外から借金する)しかない。よっ て、当該借金が恒常化するとデフォルト危機を迎えることになる。日本とギリシャの財政 赤字は意味が違う点に注意されたい。 第三に、日本の「政府(公的セクター)規模」について。OECD各国の「一般政府財政 規模(対名目GDP比)」(2006年)と「公務員数規模(対労働力人口数比)」(2005年)の二 36 吉田素教(2009) 「日本経済と日本財政の本当のすがた」『経済学・経営学・法学へのいざないⅡ』大阪公立大 学共同出版会 参照。 37 日本銀行国際局(2011) 「2010年末の本邦対外資産負債残高」他参照。 38 内閣府(2011) 『平成23年版経済財政白書』第1章 他参照。 39 財務省「国際収支統計」 。 40 経済協力開発機構:世界の先進国で構成されている。 41 OECD. StatExtracts : http://stats.oecd.org/ 42 西田安範編著(2011) 『図説日本の財政平成23年度版』第3章 東洋経済新報社 他参照。 43 大阪府『平成17年大阪府産業連関表』 。 53 指標を観ると、日本は、どちらの指標から観ても、韓国、スイスと並んで、「OECD国中、 最も小さな政府」となっている。日本は財政規模が約36%、公務員数規模が約5% 方、「最も大きな政府」であるスウェーデンは前者約54%、後者約28% 44。一 45。ちなみに、スウ ェーデンはOECD中最も大きな政府の国であるが、経常収支をみると、ノルウェー 46、ス イスに次ぐ第3位のパフォーマンス、対名目GDP比約7.0%の経常黒字を誇る(2009年)。 当該データからは、多くの国民が有する“日本は社会主義国のように大きな政府”という イメージは真実と真逆。 第四に、日本の「国民負担率」について。OECD各国の国民負担率((税負担+社会保 険料負担)/名目GDP 47)を観てみる。日本の値は29.65%(2009年)48でOECD34カ国中 24番目の大きさ(下から11番目)。ちなみに、OECD平均は35.35%、トップ2のデンマー ク:49.01%、スウェーデン:47.19%、アングロ・サクソン系のイギリス:36.36%、アング ロ・サクソン系のアメリカ:24.28%。当該データからは、日本は国民負担率が低いことが 分かる。 第五に、「格差問題」について。日本全体の「相対的貧困率 49」を一般政府部門による 所得再分配前後で、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンという 主要先進6カ国間で比較してみる。すると、日本は、所得再分配前26.9%(2000年代半ば)50 と3番目に格差が大きい国(1位ドイツ:33.6%)であるところ、所得再分配後14.9%で2 番目に格差が大きい国となる(1位アメリカ:17.1%,3位ドイツ:11.0%、最下位スウェ ーデン:5.3%)。続いて、日本の各年代における格差の状況について。初めに、「雇用者の 年代別年間収入に関するジニ係数 51の時系列変化」を観てみる。各年代における変化の方 向は同じなので、例として、30∼34歳の雇用者年間収入のジニ係数の時系列変化を観てみ ると、1982年の約0.27から2007年には約0.3まで上昇 52している。次に、 「完全失業率」の 年代間格差を観てみる。2010年時点で、15∼24歳では完全失業率が9.4%、25∼34歳では 6.2%、その他の年齢グループでは全て5.0%以下というように、若年層ほど就業環境が厳し い 53状況にある。 44 ちなみに、一般国民から、いわゆる天下り先等と批判の的とされる傾向にある、独立行政法人や公益法人等の 外郭団体における職員数込みで見ても、当該数字は約7∼8%(労働運動総合研究所(2011) 「公務員人件費を「2 割削減」した場合の経済へのマイナス影響と、その特徴について」等参照)に過ぎない。ここまで広義に捉えて も、OECD諸国中、下から3∼4番目の低水準である。 45 OECD(2009) “Government at a Glance 2009.” 46 財政規模は中程度の約40%だが、公務員数規模はスウェーデンと並びトップクラスの約28%。 47 一般的には分母に「国民所得」を持ってくる。しかし、ここでは、全経済活動に対する負担の割合を掴むため に、分母を名目GDPとした。 48 OECD(2011) “Government at a Glance 2011.” 49 所得が所得分布における中央値所得の50%に満たない人々の割合。 50 OECD. StatExtracts : http://stats.oecd.org/ 51 不平等度を測る指標:0のとき完全平等、1のとき完全不平等。 52 厚生労働省『平成23年版労働経済白書』第3章。 53 総務省「労働力調査(平成23年平均(速報)結果) 」。 54 第六に、世界各国における「所得(フロー)、資産(ストック)の分布状況」について。 初めに、先進国各国における上位1%の富裕層が全所得の何%を稼ぐかを観る。すると、ア メリカ:約20%(2008年) 、イギリス:約15%(2007年) 、日本とフランス:約10%(2005年、 2006年)となっている。また、世界の全金融資産の約40%が全世界人口の1%にも満たない 富裕層(100万ドル(約7,700万円)以上の金融資産を持つ)に集中している 54。次に、金 融資産と有形財産を含む総資産(2000年)について、世界のトップ10%に属する資産家の 国籍を観てみる。すると、1位:アメリカ(25%)、2位:日本(20%)、3位:ドイツ (8%)となっている。さらに、トップ1%では、1位:アメリカ(37%)、2位:日本 (27%) 、3位:イギリス(6%)55。続いて、日本における総資産分布状況の推移について。 資産保有分類上トップグループである「4,000万以上の保有者」の割合(対日本人全体)は 1999年の20.8%から2004年には24.9%に増加。第2グループである「3,000万円以上4,000万円 未満」の割合も9.1%から10.1%に増加。一方、これ以下のグループの割合は全て減少。また、 60歳以上世代が保有する資産の割合(対総資産比)は46.1%から53.3%に増加 56。 第七に、「労働分配率」と企業の「内部留保」について。まず、労働分配率(雇用者報 酬/国民所得)の時系列変化を観ると、2001年の74.2%から2007年の69.5%まで一貫して低 下 57(ただし、2008年、2009年は74.1%に上昇) 。なお、資本金規模別にみると、中小企業 (資本金1億円未満の企業)が約80%前後で推移している一方、大企業(資本金10億円以上) では約65%から約54%へ急落している 58 。なお、労働分配率変化の要因分解によれば、 2000年度前半の分配率低下は「雇用者1人あたり人件費の低下」、「従業員数減少」、「付加 価値の低下」が大きく寄与していることが分かる 59。なお、 「経済活動のグローバル化」 の伸展に伴い、「海外売上高比率」や「外国人持ち株比率」が上昇すると、労働分配率が 低下する傾向にあること 60、また、日本の上場企業パネルデータを用いた分析では、外国 人株主の影響が強い企業ほど賃金が低くなる傾向にあることが実証されている 61。 次に、企業の「内部留保」について。企業の「内部留保比率(対総資産比)」と「手元 資金比率(対総資産比)」の2000∼2010年にわたる推移を大企業、中小企業別に観る。す ると。大企業は、内部留保比率は約14%から約20%に上昇、手元資金比率は約11%から約 9%に低下。中小企業は、前者・後者とも同じような動きをしており、約15%前後から約 54 日本経済新聞(2011年11月13日) 。 55 United Nations University, World Institute for Development Economics Research(2006) “Pioneering Study Shows Richest Two Percent Own Half World Wealth.” 56 三井トラスト・ホールディングス(2006) 「調査報告:資産富裕層の実像に迫る」(調査レポート2006・夏、 No.54)。 57 内閣府「平成21年度国民経済計算のポイント」 。 58 厚生労働省『平成23年版労働経済白書』第1章。 59 厚生労働省『平成23年版労働経済白書』第3章。 60 内閣府(2011) 『平成23年版経済財政白書』第2章。 61 野田知彦・阿部正浩(2010) 「労働分配率,賃金低下」 (内閣府経済社会総合研究所) 。 55 20%弱に上昇 62。 ここで、合わせて五つの事実を考える。その内の一つは、「国民経済計算」における制 度部門別のフロー収支の状況 63である。2009年度で観てみると、非金融法人企業が19.7兆 円の黒字、金融機関が3.0兆円の黒字、家計が27.2兆円の黒字、対家計民間非営利団体が0.3 兆円の黒字、一般政府が44.7兆円の赤字。国内トータルでは、15.3兆円の黒字(統計上の 不突合含む)となっている。つまり、民間セクターの黒字が公的セクターの赤字をファイ ナンスし、国全体では余剰があるという状況。 次の一つは、日本の「経常収支の内訳」について。日本は、1980年代当初から一貫して、 経常収支黒字を続けてきたが、その内訳を観れば日本の儲け方が変わってきたことが分か る。簡単化のため、経常収支の二大柱である「貿易収支」と「所得収支」に絞って説明す る。日本は過去長らく、貿易収支黒字、すなわち、日本国内で生産した付加価値の余剰を 海外に(純)輸出することによる黒字が経常収支黒字の主役であったが、2005年から、こ の主役の座が所得収支、すなわち、日本が行った海外投資に関する収益(リターン)に変 わった。2009年においては、前者:4.0兆円の黒字、後者:12.3兆円の黒字となっている 64。 次の一つは、2007年夏以降の世界的金融危機の下、内部留保が日本の上場企業の倒産確 率を減少させる要因として有意であったという実証分析結果 65が存在すること。 次の一つは、2000年代前半は、大幅な「貨幣乗数(マネーサプライ/マネタリーベース) 」 の低下(2000年の約10から、2004年は約6まで低下 66)が起こったこと。すなわち、信用 収縮(金融機関による貸出しの回収)が発生した。 最後の一つは、「バーゼル合意」、いわゆる「BIS規制」について。この規制が1992年度 末から国際的に適用され始めたが、この規制により、国際的に活動している銀行は自己資 本(8%以上を要求される)の一定倍までしか融資することができなくなった 67。なお、 当該規制において、内部留保は自己資本とされている。 この第七で説明した事実を総合的に勘案すると、日本企業は銀行からの融資よりも、よ り内部留保に依存した投資行動を取るようになってきたこと、「信用収縮のリスク」に備 えて、手元資金を確保しておこうという意思が強いこと(特に中小企業)、投資に回らな い内部留保は政府部門の赤字(財政赤字)のファイナンス(国債等の購入)に回っている ことが推察される。そして、民間セクターの黒字(余剰付加価値)により、公的セクター の赤字(財政赤字)をファイナンスしても、国全体では黒字が残っている。しかし、近年、 その黒字を、国内生産により産み出した付加価値の余剰の(純)輸出により稼ぐよりも、 海外投資からのリターンにより稼ぐように変化してきたことは注視しておく必要あり。 62 内閣府(2011) 「今週の指標No.988企業の内部留保の動向」 。 63 内閣府「平成21年度国民経済計算のポイント」 。 64 財務省「国際収支統計」 。 65 福田慎一他(2010) 「2つの金融危機とわが国の企業破綻」日本銀行ワーキングペーパーNo.10-J-16。 66 内閣府(2004) 『平成16年版経済財政白書』第1章 他参照。 67 菊池英博(2001) 「新BIS規制に対する日本の戦略的対応」『経営論集』第11巻第1号,pp.85-112 他参照。 56 第八に、日本の「GDPギャップ」の推移について。日本は1993年以降(1996、1997、 2005、2006年除く)一貫して、GDPギャップがマイナスの状態 68にある。つまり、日本経 済においては供給能力が需要を上回っている状態にある。経済がこのような状況にあれば、 一般的には、「非自発的失業」が存在し、物価はデフレ傾向に陥る。この経済状況下で、 政府部門の赤字(財政赤字)削減を単純なる歳出カットにより実現しようとすると、日本 全体の総需要はさらに縮小し、GDPギャップの乖離がさらに拡大する。そうすると、「非 自発的失業」はさらに増加し、デフレ傾向に拍車がかかる。公的歳出カットを主たる手段 として財政赤字削減を図る政治家も多数存在するが、そのような手法による財政赤字の瞬 間的改善であれば、他人が生活困窮し、また、死に直面する事態になっても構わないと考 える冷酷な人間になれば誰でもできる。そうではなく、現在の日本経済・財政においては、 世界経済の状況ならびに日本経済と社会の状況を正確に理解したうえで、人材等の資源と 付加価値の適切なる利用方法を考えることこそ肝要である。 第九に、「公的セクターの運営と民間企業の経営の違い」について。国民の多くが公的 セクターよりも民間企業の方が効率的に仕事をしていると考えているが、その本質的な理 由を述べると次のとおり。民間企業は、その扱う財が「私的財」であり、かつ、その財の 資源配分(利用量決定)を「市場」(人類にとって非常に便利なツール)を使って行える。 私的財とはその財消費のコストとその消費から得られる便益が同一個人に帰属する財であ り、この私的財については、各個人が自らの「欲望」にのみ従って、それを市場で取引す ることが効率的な資源配分を生み出す。一方、公的セクターが扱う財は「公共財」である。 この公共財は非常に厄介な性質、“財の便益が一人にだけ帰着する(一つの財は一人しか 消費できない)のではなく、同時に、複数の人間に及ぶ(共同利用できる)”、“当該財の 利用(消費)のための費用を個人で負担すると、財利用による便益に比して負担額が大き 過ぎる”、“もしその財が社会に存在しない場合、多くの人が生活に支障を来す”という性 質を有する。例えば、公共財として、道路を考えてみよう。道路がないと誰しも生活が成 り立たないが、個人で道路を用意するにはそのコスト負担が大き過ぎる。このため、こう した財の供給を市場に任せていると、皆に必要な財であるにもかかわらず、その供給量が ゼロ(もしくは過小供給)になってしまうのである。こうした公共財を皆が納得するよう に供給することは非常に困難である。なぜなら、各個人が必要と考える公共財量は、その 個人の「選好」と「予算制約」(公共財の費用負担額やその個人の所得額等から構成)に より、バラバラだからである。つまり、ある個人が効率的だと考える供給量が他の人にと っては過剰となる。これが、各国民が役所は無駄なことばかりしていると感じる根本原因 である。公的セクターの仕事を理解するには、まず、この根本原理を理解する必要がある。 このように、公共財の利用量は市場を利用して決定できないために、役所が各人の便益量、 公共財供給にかかるコスト、効率性と公平性に配慮した税額(社会保険料含む)などを予 68 内閣府「経済財政白書(各年度版) 」。 57 測しながら、なんとか、公共財・サービスの供給をしているのが実態である。よって、前 述の各ファクターの予測技術をトレーニングしていない人材、予測技術を用意していない 組織では、公的セクターを運営できないことは明らかであろう。 詳細説明2:民主主義成立のための4つの必要条件 適切なる民主主義のためには、最低でも、次の4つの条件が必要。 1)国民に社会に関する正確な情報が提供されていること。 2)国民が社会メカニズムの概略を理解していること。 3)国民各人が自分の短期的欲求にのみ従い意思決定するのではなく、他者のことや将来 のことも考慮したうえで、意思決定をすること(なぜなら、民主主義の意思決定対象 は、市場で資源配分可能な私的財ではなく、「外部性」を有する公共財・サービスの 必要量だから)。 4)「イデオロギー」の言い合いではなく、公開の場での、価値観、論理、定量的予測に 基づく議論が担保されていること。 詳細説明3:増税政策の留意点 現在、国全体では増税論議がなされている。日本の現在のマクロの経済状況(経常収支 黒字や世界一の(対外)純資産国である等の状況)を踏まえた場合、政府部門の赤字(財 政赤字)を削減するため、つまり、国債発行等による将来世代への負担の先送りを回避す るためには、増税も一つの手段と考えられる。しかし、その際、政府は「付加価値の分布 状況」をよく吟味し、また、各経済主体(個人も企業も)が税負担回避という短期的利益 に基づく行動にのみ走らないように、国民に、「日本(あえて冷徹な言い方をすれば集団 的リスクシェア装置)が確固として存在することから、各経済主体が享受する中長期のメ リット」を真摯に説明したうえで、税・社会保険料負担と負担能力の適切なバランスにつ いての案を提示することが肝要。このような国民間の相互理解・合意の形成は、各経済主 体の活動に与える歪みを抑制し、社会厚生損失の最小化に資するであろう。 詳細説明4:大陸の民族が有する大局観 大陸の民族は大局観を持ち、ものごとの「因果関係」を「論理的」に、かつ、「定量的」 に捉えようとする習性を持っている。では、なぜそうなったのか?それは、大陸の自然が 付与してくれる付加価値(GDP)が過少だったからと推察される。自然が付与してくれる 付加価値が少ない場合、常に、社会全体を俯瞰的にとらえ戦略的に行動しないと、自分も、 自分の家族も、自分が属する民族も生存できなかったものと考えられる。そのため、大陸 の民族は、常にベターな判断を下せるように、 「大局観」、 「因果関係を考える論理的思考」 、 「定量性を重んじる思考」を育んできたのであろう。 58 詳細説明5:大阪府と大阪市の仕事に関する留意点 仮に、大阪府と大阪市の間でいがみ合い、縄張り争い、不必要な二重行政、二元行政が 本当にあったとしても、そのような理由により、府と市が主権者(国民・住民)に対する 義務(債務)である公共サービスの供給に関する調整をできないという話は通用しない。 大阪府と堺市間では不必要な二重行政を回避するよう丁寧な調整が実行されている事実と の相対比較からも、二元行政等の理屈は通らない。そして、論理的に考えると、“大阪府 と大阪市の職員が大阪府域住民の厚生上昇という価値観を共有している”と仮定すれば、 当然、府と市間での調整はできるはず。もし、調整という平常業務ができないとすれば、 その原因は、当該仮定の不成立、もしくは、公的セクターを運営するための、府と市の責 任感と能力の欠如に帰着する。また、このような府と市の債務不履行は、主権者である国 民・住民に多くの機会費用を強いるという形で社会的損失を生み出す。 詳細説明6:諸外国における国と地方のウエィト(比重) ここでは、説明の便宜上、連邦国家の州政府を地方政府・自治体に分類している。しか し、連邦とは「State(邦;国)」である州の連合体であるため、単一制国家における地方 政府・自治体と本来同等には扱えない政府である。この点留意されたい。 まず、「地方自治体の人口規模」について。日本の広域自治体である都道府県(以下、 県)の平均人口は2,716.1千人(2006年)である。一方、連邦国家、カナダの州の平均人 口:2,482.3千人(2005年)、オーストラリアの州の平均人口:2,513.6千人(2004年)と、日 本の県とほぼ同等の人口規模。ただし、アメリカとドイツの州の平均人口は、前者:日本 の県の2倍強、後者:2倍弱。さらに、単一制国家である、フランス、イタリア、イギリ ス、スウェーデンにおける日本の県に相当する広域自治体の平均人口は日本の県の2割前 後の規模。また、フランス、イタリアには日本の県相当の広域自治体の上位にさらに広域 自治体が存在するが、それらの平均人口は日本の県のそれとほぼ同規模 69。 次に、「国(中央政府)と地方政府の公務員数比率(対公務員総数(中央+地方))」 (2006年)について。単一制国家のフランスやイギリスの国家公務員比率:50%前後、一 方、連邦国家のドイツ:16.5%、カナダ:13.6%、アメリカ:13.0%。その中で日本は15.8% となっており、国家公務員の少なさは連邦国家レベル 70。ただし、単一制国家中スウェー デンは14.7%で日本と同等。 次に、「国と地方政府の歳出比率(対総歳出(中央+地方))」(2009年)について。単一 制国家のフランスやイギリスの国歳出:約50∼60%、一方、連邦国家のドイツ:19%、カ ナダ:16%、アメリカ:38%。その中で日本は26%となっており、国歳出規模の小ささは 連邦国家レベル 71。ただし、単一制国家中スウェーデンは29%で、日本と同等。 69 宮本憲一・鶴田廣巳編著(2008) 「セミナー現代地方財政Ⅱ」序章 勁草書房。 70 OECD(2009) “Government at a Glance 2009.” 71 総務省「一般政府支出(社会保障金を除く)の対GDPの国際比較(2009) 」。 59 次に、「地方政府歳入における補助金比率(対総歳入)」(2000年)について。単一制国 家のフランス:35.5%、イギリス:70.1%、一方、連邦国家のドイツでは、州:18.3%、州 の下部の地方政府:35.2%、アメリカでは、州:21.9%、州の下部の地方政府:38.6%。そ の中で日本は37.7%となっており、補助金比率については、連邦国家の州並みではなく、 各国の地方政府並み 72。ただし、単一制国家中スウェーデンは19.4%で、日本より地方の 財政自立度は高い。 一点補足。単一制国家にもかかわらず、スウェーデンは地方分権度が高い。その理由と して、人口規模が約925万人(大阪府並)と小さいこと、中間層のボリュームが大きいこ と、社会メカニズムを理解したうえで理に適ったガバナンスがなされていることなどが考 えられる。 詳細説明7:諸外国における国と地方の統治の在り方(統治の知恵)73 まず、イギリスでは、地方税収の総歳入に占める比率は約14.3%(2000年)と相当低い 74 ;また、各地域に政府事務所(国(中央政府)の出先機関の統合事務所)を設置。フラン スでは、国会の上院は地方団体を代表する議員により構成;各地方政府に国からの地方長 官が置かれ地方自治体を監督;教師、警察官は国家公務員;国が地方税収も徴収;地方公 務員の採用は、自治体毎ではなく、国全体で一括採用;地方公務員は身分でなく資格であ るため、自治体間ないしは国と自治体間での移動も可能。ノルウェーでは、県議会選出知 事とは別の国任命知事が基礎自治体の予算の監督等を実施。スウェーデンでは、広域自治 体のエリアと同範囲のエリアを管轄する国の出先機関が存在し、国の事務を行うとともに、 管轄内の自治体の活動を調整;当該機関の長官は国が任命、ただし、当該機関の委員会委 員は広域自治体が選出;自治体間の水平調整機能を含む平衡交付金制度。ドイツでは、連 邦参議院(国会上院)議員は各州政府の代表で構成され、州が連邦の統治に参画;連邦は 州上級行政庁へ代理人の派遣が可能;連邦から州への連邦委任事務あり;州の独自税率設 定権なし;連邦からの垂直型の財政調整交付金と州間の水平的財政調整交付金が存在。カ ナダ、ニュージーランドでは、公務員が休職のうえ、議会議員選挙に立候補可能(当選す れば公務員は失職) 。 このように、諸外国では、国(中央政府)と地方(地方政府)は互いに連携をとりなが ら国全体ならびに各地域の統治を実施、何らかの方法で国が地方を監督、地域間の利害調 整を行う機関を設置していることなどが理解できる。 72 宮本憲一・鶴田廣巳編著(2008) 「セミナー現代地方財政Ⅱ」序章 勁草書房。ただし、日本の値は、吉田が 「地方財政統計」、「国民経済計算」より算出。 73 財務省財務総合政策研究所(2006) 「主要外国における国と地方の財政役割の状況」他参照。 74 宮本憲一・鶴田廣巳編著(2008) 「セミナー現代地方財政Ⅱ」序章 勁草書房。 60 詳細説明8:世界における主流の経済システム 私見では、アメリカやイギリスの経済システムを「自由市場・資本主義経済」、日本: 「低度混合市場経済 75」 、スウェーデン:「高度混合市場経済」、中国:「社会主義・市場 経済」と分類。そして、現在、世界的に主流である自由市場・資本主義経済システムでは 資本が主役であり、資本自身が全世界から最も増殖し易い地域を選んで、つまり、必要な 生産要素を(中長期的な適正価格かどうかは考慮せずに)最安値で入手できる地域をわた り歩いていく(私はこのシステムを「焼畑農業経済」と呼称)。また、当該システムでは、 各経済主体が、非常に短期のキャピタル・ゲインを得ようと、各財・金融市場で投機的行 動を取ることもある。また、当該システムにおける、国境を越える資本移動の大きさとそ のスピードの速さから、当該システムは各国経済に必要以上の変動を与えてしまう:例え ば、1990年代後半のアジア通貨危機、2000年代におけるバルト3国経済の急激なアップ・ ダウン、2008年のリーマン・ショック等。 詳細説明9:国・地方統治の代替案 もし、ここで提案した国・地方統治の改革案に問題がある場合、本来、国(中央政府) が責任を持つべき部分における国の責任あるガバナンスの実現を担保するため、法定受託 事務を機関委任事務へ戻す等、国・地方関係を一部地方分権一括法施行以前の姿に戻した うえで、現行体制のまま統治を続けることが次善の策であろう。現在の日本の諸問題の原 因は統治制度より、基本的に「人」の問題:「責任感(他者への思いやり)の欠落」と 「社会メカニズムの理解に基づく、因果関係の分析能力の不足」に起因しているのだから。 詳細説明10:意思決定と予算制約 通常の財・サービス供給と費用の関係(費用関数)を想定すると、財・サービスの供給 に関して、供給量がゼロからある量までの領域では「規模の経済」が働く。そのため、意 思決定集団を小規模にすればするほど、一般的に、行政に係る1人当たりの負担コストが 増えるという問題が発生する。もし、その小集団が富裕層の人ばかりで構成されておりそ の集団の所得が無尽蔵であれば、この負担コスト増加は問題とならないかもしれない。し かし、現実にはそのような集団は存在せず、この負担コスト増加問題が「予算制約問題」 として顕在化してくる。このように予算制約がある現実社会では、たとえ、利他的な(他 地域の厚生も考慮に入れる)他地域から財政援助を受けることができたとしても、結局、 国財政ならびに国経済全体での予算制約が存在するため、意思決定集団の際限ない小規模 化は不可能であり、そうした細分化は社会全体の負担コストを増加させる。 75 「混合市場経済」とは、市場の限界を認識したうえで、市場が効率的資源配分機能を発揮できる領域は市場に 任せ、それ以外の領域は公的セクターによる運営・統治が行われる度合が高いシステム. 61 詳細説明11:都構想にかかるコスト 現在の大阪市内24区を東京都の特別区のように自治体化した場合、日本の公的セクター 全体が負担する追加的財政コストは約1,200億円となる 76。その理由は次のとおり。大阪市 内の24区を自治体化すると、多くの区では、当該区の財政需要額が税収を核とする独自収 入を上回る状態となる。そのため、財源不足区には、国から「地方交付税交付金(以下、 交付税)」が交付される。この交付税交付額は、現行の大阪市(一本)体制では380億円で、 一方、都構想実現後、すなわち、大阪市内24区が自治体化後、24区トータルで約1,556億円 となり、差し引き約1,200億円の増加となる。しかし、実は、このように交付税が大阪地域 に追加交付されたとしても、北区や中央区を除く多くの区は財源不足状態のままである。 そのため、交付税や財源超過区からの超過財源徴収により集めた財源等を原資とする「都 区財政調整制度」を新設したうえで、大阪都から当該財政調整制度に基づく交付金を各区 へ交付することにより各区の財政需要を賄うこととなる。このように、都構想が実現する と、地方交付税制度を経由して、日本の他地域から大阪地域への追加の財政移転が発生す る。この点留意されたい。 詳細説明12:民間の税・社会保険料負担増加の根本原因 本来、地域住民は名目対価(金銭)の支払いではなく、労務提供(による支払い)によ り、協同して公を支えてきた。しかし、官がその領域を担うとなると、税・社会保険料を 元手にして、財・サービス供給体制を構築するしかない。その結果、民間の税・社会保険 料負担は増加することになる。この事実は、育児や介護を想起すれば理解し易いであろう。 詳細説明13:アイデンティティと効率性:ドイツの例から ドイツはアメリカやカナダのように広大な国土を持っているわけではないのに、なぜ、 連邦国家のままなのか? 経済学者・財政学者として推察すると、その理由は次のとおり。 長い時間をかけて育まれてきたアイデンティティを同じくする(領邦国家体制に起源を持 つ)州を廃止し単一国家に移行することは、却って、非効率を生み出す可能性がある。人 間の選好のうち歴史・伝統・文化により規定される部分が地域間で大きく異なる場合、地 域間で外部性を発生させる問題は別として、地域内で収まる問題への対応は、当該地域に 任せた方が効率的(地方分権の考え方の基本:分権化定理 77) 。そして、堺が他の地域と 比べて、歴史・伝統・文化により規定される独自のアイデンティティを有する場合には、 堺にもこの論理があてはまる。 76 「大阪府議会:大阪府域における新たな大都市制度検討協議会報告書」 (平成23年9月30日)。 77 Oates, W. E.(1972)Fiscal Federalism, New York: Harcourt Brace Jovanovich.(米原淳七郎他(1997) 『地 方分権の財政理論』第一法規出版) 62 詳細説明14:市場原理による社会経営の論理的帰結 一般的には、“市場は特定の価値観を前提とせずに、公平に、資源を配分するツール” だと理解されているであろう。しかし、市場については、外部性を有する財(公共財)の 配分には使えないという欠点の他に、“市場はある特定の価値観の下で運営されている” という事実も理解しておくべきである。その価値観とは“裕福な人をより重視し、貧しい 人をより軽視する”というものである(この事実は理論的に証明済 78) 。そのため、市場 による資源配分の論理的帰結は“持てる者はより富み、持たざる者はより窮す”である。 私的財配分における市場の有効性は誰しも認めるところだが、市場の成立原理から必然的 に生み出される当該結果を放置しておくことは多くの人々にとって好ましくない。そのた め、政府がこの部分に介入し、社会を維持するために適切な所得再分配を行っているので ある。現在のグローバル経済においては、「世界政府」が存在しない中、こうした市場を 可能な限り利用しようとの考えが主流となっている。経済のグローバル化、市場、資本主 義が社会にもたらす利点は認めるとしても、その欠点に対応し、何とか日本に住まう人々 が食べていく(生きていく)ためには、「大政奉還」し、国・地方の一体性を高め、世界 と融通無碍に渡り合っていかなければならないと考えられる(都構想や道州制では目線が 低い)。 詳細説明15:歴史(の推移)が教える改革の意義 昨今、「改革」論者が、明治維新になぞらえて「維新」を標榜しながら、地方分権を主 張している。そこで、歴史の推移から、「明治維新における改革」の本来の意義を観てお こう。 まず、日本の歴史上、最も「地方分権」されていた「戦国時代」について考察する。こ の時代は小説、ドラマ等でよく取り挙げられる現代人にとって人気がある時代だが、本当 は、日本国内で約1世紀に亘って殺し合いを続けていた「最も不幸な時代」である。では、 何故このような究極の分権時代に突入してしまったのか?それは、鎌倉幕府に代わって設 立された室町幕府が(実質的 79)中央政府として(鎌倉、江戸幕府と比べ)非常に脆弱で ある一方、道州制度における道州と同様に広大な領地を持つ、幕府の家臣たる守護大名、 細川氏、山名氏等の勢力が強かったからである。結局、室町幕府(中央政府)は守護大名 (地方政府)を統制し切れなくなり、日本を二分する応仁の乱が勃発、最終的に、中央政 府が機能しない戦国時代へ突入したのである(道州制の下での統治は室町幕府による統治 に近いものになる可能性が高い) 。 続いて、日本人に人気の高い信長・秀吉・家康の時代から明治維新にかけての時代を考 78 Negishi, T(1960) “Welfare Economics and Existence of an Equilibrium for a Competitive Economy”, Metroeconomica, Vol.12, Fasc.Ⅱ-Ⅲ, pp.92-97. 79 本来の中央政府である朝廷が存在するため。 63 察する。信長の時代(戦国時代)は、事実上、中央政府が機能していなかったため、地方 領主(地方政府)同士の付加価値の奪い合いが日常化していた。そして、その下では、武 士階級も領民階級等も非常に不安定な生活を余儀なくされた。当然、この統治体制では、 大きく社会厚生が毀損されることになる。そこで、まず、信長が経済政策・外交政策・軍 事行動を駆使して、各戦国大名や寺社勢力が行っていた分権的経済活動を止めさせ、中央 政府のガバナンスの下での経済活動に改めていった。また、この時、世界は大航海時代の 只中にあり、スペイン、ポルトガルという二大強国が全世界を植民地化する勢いで極東ア ジアにもその勢力を伸ばしてきた。実際、両国は、トルデシリャス条約とサラゴサ条約に より、(両国にとっての)新領土の分割方式を取り決めており、その条約の対象には日本 も含まれていた。そして、こうしたヨーロッパによる日本への脅威を防いだのが、信長が 基礎を作った中央政府を引き継いだ、秀吉・家康である。最終的にはスペインの覇権が崩 壊し、ヨーロッパによる極東アジアへの進出は一旦小休止となったため、暫時、日本にと っての安定期、つまり、江戸時代が到来した。世界からの圧力が止んだ江戸時代は、幕藩 体制の下、日本流の経済成長を遂げ、また、幕府は存在するもののある程度の地方分権が 伸展した。しかし、長期の安定を誇った江戸時代も、ヨーロッパで産業革命が起こり、そ の力を基にイギリス等の西洋列強が再び世界各国に進出をはじめたことにより終焉を迎え た。つまり、幕末に黒船が来航し、幕藩体制的分権統治が終わりを告げ、明治維新政府に より、再度、中央集権化が図られることとなった。 このように、戦国時代から明治維新にかけての改革というものは、分権的経済活動の弊 害を是正するため、また、日本全体に影響を及ぼす圧力に対して、国力を効率的に結集し 対応する、かつ、圧力に対してより大きな母集団でリスクシェアを図るためになされたも のであった。なお、日本の歴史上、いわゆる「大」改革をやってのけた人物・グループを 列挙すると、聖徳太子・蘇我氏、天武天皇、源頼朝、信長・秀吉・家康、薩摩・長州を初 めとする維新勢力などを挙げることができる。そして、これらの人物・グループが行った 改革とは、どれも、国難に対応するため、分権的意思決定を改め、相対的に中央集権化を 図るというものであった。 以上の歴史認識を踏まえると、「改革・明治維新」と「地方分権」の間に論理的整合性 がないことが理解できるであろう。 詳細説明16:公共心の喪失:もう一つの事例 先日、ある歩行者が歩道に停めてあった自転車を倒していく場面に遭遇しました。その 自転車は倒れて歩道をほぼ塞いでしまいました。私はその状況を少し離れたところで観て いましたが、自転車を倒した当人はそれを放置していきました。この人は論外です。しか し、その直後に、そこに年配の方が二人連れで来られ、一方の方が“起こしていこか?” ともう一方の方に尋ねられたところ、その方が“そんなん触ったら私が倒したみたいに思 われる”と返答し、結局、その方々は自転車を避けながらその場を立ち去っていかれまし 64 た。そして、結局、私がその場へ行き、自転車を起こし歩道の通行スペースを確保しまし た。その時、私は面倒臭く、かつ、怖い世の中になったとしみじみ感じました。 詳細説明17:諸外国における社会科学とガバナンス EUの経済危機に際して、イタリアでは、経済学者のマリオ・モンティ氏が首相の任に 就いた。また、相対的に良好な経済パフォーマンスを続けているスウェーデンのフレドリ ック・ラインフェルト首相も経済学者である。ここで、誤解がないように申し上げる。私 は経済学者等の社会科学者や人文科学者を政治的指導者に担ぎ出すことを主張しているの ではない。そうではなく、日本は安易に「イデオロギー」的主張に流れ過ぎるから、それ を是正するために、「大局観」、「因果関係を考える論理的思考」、「定量性を重んじる思考」 を取りいれたうえで議論を展開していかなければならない。そして、そのためには、社会 科学者や人文科学者の論理的・定量的見解を先入観なしに聞くことの必要性を主張してい るだけである。 さて、これまでも相対比較の対象としてきたスウェーデンの統治はよく検討する価値が あると考えられる。スウェーデンは「大きな政府」のため「計画経済」の国と誤解されて いるかもしれない。しかし、詳細に観てみると、“市場を使えるところは徹底して使う、 市場が使えないところはしっかり公的セクターが担う”という冷徹なほどの合理主義に基 づく社会統治がなされている国であり、しかも、先進国の中でも経済パフォーマンスはト ップ・クラスである。なお、市場を厳格かつ徹底的に利用する点では、アメリカ以上に市 場原理主義の国でもある 80。 80 北岡孝義(2010) 『スウェーデンはなぜ強いのか』PHP新書 他参照。 65 対談者紹介(50音順) 阿部 昌樹(あべ まさき) 大阪市立大学大学院 法学研究科教授 学歴 1983年 京都大学 法学部 卒業 1988年 ノースウェスタン大学 大学院政治学研究科 修士課程修了 1989年 京都大学 大学院法学研究科 基礎法学専攻 後期博士課程中途退学 職歴 1989年 京都大学 助手 1992年 大阪市立大学 助教授 2001年 大阪市立大学大学院 教授 研究分野 法社会学 ・市民運動と法の動員に関する研究 ・地方分権の法的側面に関する研究 ・近年のアメリカ合衆国における法理論の展開についての研究 主な著書・論文 『ローカルな法秩序』(勁草書房・2002年) 『争訟化する地方自治』 (勁草書房・2003年) 「自治基本条例の普及とその背景」都市問題研究61巻4号(2009年) 新川 達郎(にいかわ たつろう) 同志社大学大学院 総合政策科学研究科教授 学歴 早稲田大学 第一文学部 卒業 同大学大学院政治学研究科博士後期課程 修了 職歴 1981年 財団法人東京市政調査会 研究員 1987年 東北学院大学法学部 助教授 1993年 東北大学大学院情報科学研究科 助教授 1999年 同志社大学大学院総合政策科学研究科 教授 研究分野 行政学、地方自治論、公共政策論 ・政府改革の研究 ・情報政策に関する研究 ・近代における都市行政制度の形成に関する研究 ・準政府機関の機能分析とその改革に関する国際比較研究 主な著書・論文 行政と執行の理論 行政とボランディア 中央省庁改革 比較官僚制成立 村上 睦(むらかみ むつみ) 大阪学院大学 経済学部教授 学歴 1968年 関西学院大学 経済学部 卒業 1970年 大阪大学 大学院 経済学研究科 修士課程 修了 大阪大学 大学院 経済学研究科 博士課程 単位取得 満期退学 関西学院大学より学位授与博士(経済学) 職歴 フィールド・マーケティング研究所 研究員 66 (財)日本生産教育協会経営行動研究所 主任研究員 山梨学院短期大学 経営学科 助教授 大阪学院大学 経済学部 助教授 大阪学院大学 経済学部 教授 研究分野 財政学、国際課税論 ・経済活動のグローバル化と課税 主な著書・論文 多国籍企業と移転価格税制 教育費支出と補助金の役割:日米比較を中心として 企業立地と地域の活性化:忍野村における農工法適用を事例として 吉田 素教(よしだ もとのり) 大阪府立大学 経済学部准教授 学歴 1992年 名古屋大学法学部 卒業 1999年 大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程 入学 2002年 大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程 中途退学 職歴 1992年 大阪府庁入庁(1998年まで在職) 2002年 日本学術振興会特別研究員、大阪府立大学経済学部 助手 2005年 大阪府立大学経済学部 講師 2008年 大阪府立大学経済学部 准教授 研究分野 財政学、公共経済学、経済政策 ・自治体歳出配分行動の効率性について ・国・地方の行財政制度改革についてのシミュレーション分析 ・各地域産業の生産効率性について 主な著書・論文 『自治体歳出配分行動の政策評価』中央経済社,2007年 「地方公共財に関する住民効用関数の地域別推定」 『日本経済研究』第54号,pp.39-62,2006年 「三位一体改革による財政への影響と効果」 『地方財政』第44巻第12号,pp.125-147,2005年(共著) 司会者紹介 宮本 勝浩(みやもと かつひろ) 関西大学大学院 会計研究科教授 財団法人 堺都市政策研究所 理事長 学歴 1968年 大阪府立大学 経済学部 卒業 1970年 大阪大学 大学院経済学研究科 博士課程中途退学 2003年 経済学博士(神戸大学) 職歴 1970年 大阪府立大学 経済学部助手 1991年 大阪府立大学 大阪府立大学経済学部教授 2005年 公立大学法人大阪府立大学副学長 2006年 関西大学大学院会計研究科教授 研究分野 国際経済学、理論経済学、経済波及効果分析 主な著書 「市場経済移行論」共著、世界思想社、2002。 「移行経済の理論」、中央経済社、2004。 「会計教育方法論」共著、関大大学出版部、2007。 67 堺市にふさわしい大都市制度について 発 行 平成24年(2012年)3月 発 行 所 財団法人堺都市政策研究所 〒590-0078 堺市堺区南瓦町3番1号 堺市役所高層館20階 TEL. 072-228-0254 FAX. 072-228-0284 URL http://www.sakaiupi.or.jp/ E-mail [email protected] 印刷製本 有限会社扶桑印刷社