Comments
Description
Transcript
廃棄物のグローバルリサイクルシステム
廃棄物のグローバルリサイクルシステム −アジア圏における廃家電製品のリサイクルシステムを事例として− 小泉 國茂・周 ●生・小幡 範雄 要 旨 一般廃棄物の自治体処理・処分や産業廃棄物の広域移動抑制の視点から、廃棄物が発生する近傍での処理・処分が望ましい とされてきた。そのために、「再生資源の利用と促進に関する法律」の制定以降に施行された各種リサイクル法は国内でのリ サイクルを前提に法制化されている。しかし、貿易のグローバル化の進展に伴い、資源の最大限利用とゼロエミッションを究 極目標とする、廃棄物の国際間移動を伴うグローバルリサイクルシステムを構築することが重要であると考える。本研究では グローバルリサイクルシステムの概念を提唱すると共に、日本の廃家電製品のアジア圏におけるリサイクルを事例として、グ ローバルリサイクルの適正化を実現するための要因について分析し、その判定因子を整理した。 Ⅰ.はじめに なかった。廃棄物処理施設の高度化、建設費の高騰など により、廃棄物処理の観点から、近年は廃棄物の広域処 理が一般化している 2)。この発想法をアナロジーして、 環境問題は、Think global & then act locally.が良いと されている。鉱物資源採取による環境破壊防止、枯渇性 リサイクルの観点から、エコタウン構想に見られるよう 資源の資源循環、環境汚染物質の再資源化という視点で な、広域リサイクルが広まりつつある3)。本研究は資源 見ると、ローカルなリサイクルに限定せず、グローバル 循環の視点から見て、国際間貿易が進展する中で上記の なリサイクルの選択が良い場合も有りうるとの仮説を立 ようなローカルリサイクル、広域リサイクルシステム以 てた。この仮説を立証するために、2001年4月に施行さ 外に、国際間貿易に適した国際間リサイクルがあり、そ れた家電リサイクル法の対象4家電製品をケーススタデ れらをサブシステムとして内包するグローバルリサイク ィとして調査した。その結果、グローバルなリサイクル ルシステムを提唱するものである。 は避けた方がよい場合と、グローバルなリサイクルを進 地方自治体内、または企業内部のリサイクルはローカ める方が、地球益にとって良い場合があることが判明し ルリサイクルであり、県外処理は広域リサイクルで、廃 た。細田衛士8)、永田勝也9)らはアジア圏での資源循環 電池、廃家電リサイクル、エコタウンなどが該当する。 ネットワーク展開の必要性を提唱しているが、具現化す しかし国際間貿易が進展し、アジアなど海外に生産が移 るために検討すべき諸因子についてまでは言及されてい 転され、逆輸入された商品が主流になりつつある現在で ない。本論文では、始めに廃棄物のグローバルリサイク は、日本国内だけではリサイクル材料の用途先が開拓で ルシステムの概念を示し、次に家電4製品を事例として その実施の適否判定のために検討すべき因子について検 グローバルリサイクル 討した。さらに、商品別、部品別に具体的な提案も行っ 広域リサイクル ローカルリサイクル 生産 た。 究極目標:ゼロエミッション 種類 ローカル リサイクル 消費 Ⅱ.グローバルリサイクルシステムの定義と方式 広域 廃棄 1.グローバルリサイクルシステムの定義 グローバル 物質移動範囲 実施例 地方自治体内 食品リサイクル 都道府県間 家電リサイクル 国際間 船舶リサイクル リサイクルが成立するに必要な最小4条件の一つは、 再生品の需要が存在することとされている1)。再生品の 図1 グローバルリサイクルシステム概念図A(エリア図) 需要について、地理的な条件は従来あまり議論されてこ −43− 政策科学 11−1,Sep. 2003 きず、廃棄物として焼却されたり、埋め立て処理される の」「C.日本でリサイクルし、再資源材料を輸出、海 現象が生じる。資源を必要としている生産国に使用済み 外で再利用するもの」の3つが考えられる。 商品、または再資源化材料を輸出したり、生産国でなく Aは、資源量は最大であるが、最終残査のシュレッダ とも資源を必要としている国に資源を循環させるシステ ーダストも多くなり、輸出先の環境汚染リスクも高くな ムをグローバルリサイクルシステムと名付けた。図2に る恐れがある。Cは環境汚染リスクが最も少なく、嵩張 グローバルリサイクルシステムの概念を物質フロー図で らないため、輸送用船舶航行時に発生する二酸化炭素排 示した。 出による環境負荷は小さいが、再資源化のコスト面では MD:国内再使用量 WC:廃棄物量 WG:余剰再資源化量 D :国内生産/消費量 WG のパイプを結合すること により、ゼロエミッションを 実現する 天然資源採取量 VP VC WG WC いる。矢印の大きさは、資源の移動量を示す。資源の移 するという短所がある。 2)カントリー方式 輸出E MD 図中の濃い矢印は動脈流を、薄い矢印は静脈流を示して 動量が大きいと、それに伴う輸出先での廃棄物量も増大 国内生産量PC 製品輸入量 P I 高い人件費のもとでは不利になる。Bはその中間である。 図4は、生産国、消費国、リサイクルを実施する国の D 間の資源移動例を示している。いずれの国にも国内生産、 国内消費、国内リサイクルはあるが、モデル化するため 生産国 国際間物質移動パイプ 消費国 省略している。資源を輸入(または輸出)する誘因とし 図2 グローバルリサイクルシステム概念図B(物質フロー) て2つがある。 ①旺盛な国内需要があり、資源を必要としている国への 実際には廃棄物フローも生じるが、概念を理解しやす 資源循環(中国など)。 いよう単純化し省略している。 ②資源需要は高くないが、人件費が安くリサイクルコス トが安い国への資源移動(インドなど)。この場合は 2.グローバルリサイクルの方式 雇用には結びつくが、環境汚染を引き起こすエコダン グローバルリサイクルシステムには、①廃棄物の形態、 ピングの危険性がある。 ②リサイクルを実施する国、③再資源材料を必要として 天然資源 生産国 いる国により、大きく2つの方式に分類することができ 消費国 る。 1)マテリアル方式 循環する廃棄物の形態として、「A.廃棄物本体を輸 SP 出、海外でリサイクル・再利用するもの」 、「B.廃棄物 の部品輸出・部品を海外でリサイクル・再利用するも 生産国(ASIA) VP MR 廃棄物SC 消費国(日本) 天然資源 VC 再生資源MP 再生資源MC WC 廃棄物SR リサイクル国 E 廃棄 形態 本品 部品 再生材 廃棄物SP PI 資源 廃棄 MP SP Max Min 大 中 小 図4 リサイクル実施図による分類 Ⅲ.グローバルリサイクルの家電製品への 適用事例 大 中 小 廃棄物SC 1.貿易構造に見る再生資源の需給ミスマッチの発生 日本の家電産業の海外生産の進展4)と共に、日本国内 図3 廃棄物の形態による分類(物質フロー) −44− 廃棄物のグローバルリサイクルシステム(小泉・周・小幡) だけで再生資源を循環させるには限界がある5)。家電リ 表1 家電製品4品目の素材構成(製造年1993年) サイクル法施行の枠組み法である「再生資源の利用と促 [単位:%] 進に関する法律」が制定された1991年のテレビの輸入台 品 目 鉄 銅 アルミ プラスチック ガラス 数比率は20%であった。現在廃家電としてリサイクルさ エアコン 49 18 8 14 − れているのは、この頃に生産された物である。テレビは ブラウン管式テレビ 12 3 1 26 53 現在輸入台数比率は90%を越えている。国内でリサイク 冷蔵庫 49 4 1 43 − ルされた再資源化材料(供給元)の再使用先が海外(需 2槽式洗濯機 60 3 2 37 − 要先)に移ったため、円滑な資源循環ができていない。 出典:平成6年度新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究 図5に輸入比率の推移を表した。 3.商品構造に見る再生資源の需給ミスマッチの発生 テレビだけでなく、冷蔵庫の輸入台数比率は2001年で 36%、洗濯機は30%と3年連続で2桁の増加をしている。 ブラウン管式テレビは日本国内での生産は激減し、替 わりに付加価値の高いPDP(プラズマディスプレイパ て30%が輸入品と考えられる。 ネル)や液晶テレビに変わりつつある。現在、日本国内 輸入比率(%) エアコンは台数統計値はないが、金額ベースから推定し 120 100 80 60 40 20 0 の廃テレビの中心である廃ブラウン管を再資源化して カラーTV 洗濯機 冷蔵庫 も、使用先の国内テレビ工場では需要が殆ど無いという 現象が生じている 4)。ただしテレビに限定されており、 他の家電製品には当てはまらない。表2のパネルの主成 分はガラスであるが、半導体と一体構造で分離不可能で あるとしている6)。 1 9 9 1 1 9 9 3 1 9 9 5 1 9 9 7 1 9 9 9 2 0 0 1 表2 PDP、液晶テレビの素材構成 鉄 図5 輸入台数比率推移 出典:家電産業ハンドブックH12,H13年版・家電製品協会発 行より(’95より液晶カラーTV含む) 銅・アルミ パネル プラスチック その他 PDP 5∼20 8∼25 30∼40 5∼15 25∼30 液晶 15∼30 0∼0.2 15∼35 30∼45 5∼25 出典:環境省HP、産業構造審議会・環境部会・廃棄物リサイ クル小委員会・電気・電子機器リサイクルワーキンググルー プ・家電製品協会資料3−1、平成14年11月7日 家電4製品の場合、日本メーカの東南アジアの工場か らの逆輸入品が大半である。今後は世界の工場として力 を付けた中国メーカからの輸入が増加するものと思われ 4.現状の家電リサイクルシステム る。 1)再商品化率 実態を裏付ける事例として、2002年11月14日に開催さ 2001年4月に施行された家電リサイクル法は、家電メ れた産業構造審議会・廃棄物リサイクル小委員会では、 ーカーが試算した再商品化率を達成できるか、動向を見 家電製品協会から有害物質の鉛を含むブラウン管ガラス 表3 再商品化率の基準値 カレットを海外生産工場に輸出・再使用したい旨の要請 [単位:%] が政府になされた6)。有害物質の輸出にはバーゼル条約 再商品化等 により、政府間の承認が必要だからである。廃棄物のグ 基準値(2001年) 60 ローバルリサイクルの必要性を立証する一事例である。 試算値(2008年) 実績値(2001年) 2.廃家電製品の素材構成 表1に家電製品4品目の素材構成を示した。 テレビはガラスが多いが、他は鉄、プラスチックが多 い。エアコンは材料単価の高い銅、アルミが多い。 エアコン テレビ 冷蔵庫 洗濯機 55 50 50 80.1 85.5 87.3 81.9 80 78 61 56 達成済み −8% −26% −26% (再商品化率=再商品化によって得られた部品、原材料の総重 量/廃棄物の総重量)(基準値出典:特定家庭用機器再商品化 法施行令、平成10年政令第378号)(実績値出典:家電産業ハン ドブック平成14年版P262、家電製品協会発行)(試算値出典: 家電リサイクル法Q&A、中央法規P99) −45− 政策科学 11−1,Sep. 2003 表4 リユース・リサイクルの例 極める必要がある。家電製品はプラスチックの構成比が 高く、プラスチックの再商品化動向はグローバルリサイ グレード リサイクルの種類 クルの適否とも関係してくる。表3はプラスチックの回 最高 リユース 収率を90%としたときの試算値15)(家電リサイクル法施 (再使用) 行7年後)を、基準値(施行開始時点の実力値)、実績 高 マテリアル リサイクル 値(施行後1年後の実績値)と比較したものである。 冷蔵庫、洗濯機の再商品化率は低位に留まっており、 大型破砕機による破砕を主体とした日本のリサイクルセ ンターの再商品化技術の限界を示している。 2)プラスチックのリサイクル 家電リサイクル法の正式名称は「特定家庭用機器再商 品化法」であるが、内容は「再商品化等」と呼ばれ、広 冷蔵庫コンプレッサ部品→ 冷蔵庫コンプレッサ部品 洗濯槽→樹脂素材→洗濯槽 (シャープ) (クローズドR) ブラウン管(鉛含有)→ マ テ リ ア ル R カスケード リサイクル い範囲で「再商品化」を定義している 7)。「再商品化」 は、マテリアルリサイクルを指し、「再商品化等」は、 廃家電のリサイクル事例 低 カレット→ブラウン管(松下) 再 洗濯槽→樹脂素材→ 商 洗濯機の底台(松下) 品 冷蔵庫庫内部品→樹脂素材 化 →冷蔵庫底面部品(松下) 等 洗濯槽→樹脂素材→雑貨、 の おもちゃなど ブラウン管(鉛非含有)→ 範 カレット→路面材原料 囲 サーマルリサイクルも含むものとしている(第2条第1 サーマルリサイクル 項、第2項、第3項)。従って、法律で言う再商品化に 洗濯槽→原油の替わりに 熱源として使用 はリユースはもとより、マテリアルリサイクル、サーマ ルリサイクルが含まれる。サーマルリサイクルはプラス チックに対してのみ適用されるものである。マテリアル 5.海外に流れる中古家電製品 リサイクルには、元の素材からのグレードの劣化程度に 表5 中古家電名目の廃家電輸出台数推定値[単位:千台] より、いくつかの段階があり、カスケードリサイクルと 廃棄台数 中古比率 リサイクルセンター 引取率 輸出比率 f 逆算値 e 予測値 a 推定値 引取台数d 2001年実績値 f=d/a 100-(b+f) 2001年 b 呼ばれている。 LCAで環境負荷の低い物を高グレードとした。サー マルリサイクルは評価が定まっていないので無評価とし エアコン 3,378 5% 1,334 39% 66% た。 テレビ 9,175 5% 3,083 34% 61% 2008年の再商品化率試算値に到達するには、日本の中 冷蔵庫 4,210 5% 2,191 52% 43% だけで資源を循環させる現在のリサイクルシステムは、 洗濯機 4,719 5% 1,930 41% 54% 合計 21,482 5% 8,538 40% 55% グレードの低いリサイクルにとどまる可能性が高い。 グレードの高いマテリアルリサイクルを追求するため 引取台数d出典:家電産業ハンドブック:家電製品協会・2002 年版.P262 には、人件費が安く手分解が可能で再商品化率の向上が 期待できかつ、資源需要の旺盛な国へのグローバルリサ 表5に2001年度に廃棄されると試算された廃家電製品 台数7)と実際に処理された台数を示した。廃棄台数予測 イクルシステムが有効である。 値から(リサイクルセンターの引き取り台数+国内中古 原油 中間材料 樹脂材料 製品 市場推定値)を差し引いた台数が、海外に中古家電製品 廃棄 として流出した台数と推定される。中古家電として海外 マテリアル リサイクル に輸出された台数が、廃家電製品の55%を占めているこ サーマル リサイクル とは、表6の廃棄理由の実態調査結果から推定して、海 外に廃棄物を輸出しているのではないかと、疑いをもた 滝(カスケード)のように、 純度の高い用途先から、 低い用途先に落ちていく れている5)8)。ここでは不法投棄台数、その他の処理ル ート台数は僅かであるとして計上していない。 図6 プラスチックのカスケードリサイクル 表6の(100−故障理由による廃棄率)が、中古家電 −46− 廃棄物のグローバルリサイクルシステム(小泉・周・小幡) 表6 家電製品の買い換え理由(1997年調査) (%) 故障 上位移行 住居変更 100-故障 源採取時の環境負荷、⑥生産時の環境負荷、⑦環境倫理 4)製造メーカーの立場 エアコン 57.6 18.3 15.8 42.4 ①海外生産移転の動向、②商品構造の変化、③再資源化 テレビ 87.9 7.3 0.9 12.1 技術、④再商品化率、⑤廃棄物輸出による環境汚染リス 冷蔵庫 69.7 16.2 2.6 30.3 ク、⑥廃棄物輸出または輸入による国際的なイメージダ 洗濯機 80.5 13.8 2.2 19.5 ウン、⑦再資源化材料の用途先(需要)、⑧中古家電の 海外流失時の製品補償問題、⑨中古家電流通による国内 出典:経済企画庁消費動向調査(平成10年12月) 需要動向、⑩高グレードリサイクル として利用可能であるとすると、12∼42%で、加重平均 5)消費者の立場 すると22%程度であるから、残りの33%(55%−22%) ①消費者が負担する再商品化料金、②消費者の消費行動 は中古家電ではなく、廃家電が輸出されているものと思 と意識変化(買い換え抑制など)、③不法投棄問題 われる。リユースは環境負荷低減のために有効であるが、 表7は、廃家電リサイクルを海外で実施した場合の、 必ずしもリユース目的だけのために輸出されているので 日本(出し手)と海外該当国(受け手)の利害得失を基 はないことが、問題である。海外で適正な廃棄物処理が に、適否判定因子をまとめたものである。表中の番号は、 実施されているとは想定し難く、正しいグローバルリサ 上述の1.政策立案に必要な適否判定因子の各項目番号 5)8) 。特に、エアコン、冷蔵庫のフロ と一致している。また、表中で、日本の環境技術の輸出 ンはオゾン層破壊物質であり、国内で正しい回収と破壊 を期待できるとしているが、冷蔵庫断熱材中のフロンの イクルが望まれる 5)13) が行われなければならない 回収技術、材料の判別技術などを指している。消費者負 。 担料金は、中国、東南アジアなど人件費の安い所でリサ Ⅳ.グローバルリサイクルシステム適否判定因子 イクルするため、現行料金より安くなると考えられる。 家電リサイクル法が、製造メーカ、経済産業省、環境 表7 廃家電リサイクルを海外で実施した場合の利害得失 省、地方自治体、消費者団体、学識経験者などを交えて Ⅰ . 出 し 手 の メ リ ッ ト Ⅲ.出し手のデメリット 検討されたように、廃家電製品のグローバルリサイクル (日本) 日 本 を実施する場合にも、両国間の当事者の利害得失を配慮 し、最適な環境政策を立案する必要がある。筆者らが考 える因子を次項にまとめた。 1.政策立案に必要な適否判定因子 1)産業政策と経済的側面 ①貿易構造の変化、②家電産業政策、③静脈産業の産業 (日本) 1.再商品化率が高まる(4) 1.廃棄物輸出によるイメー ④ ジ悪化(4)⑥ 2.高グレードの再商品化 2.国内リサイクル工場雇用 が可能(4)⑩ 減(1)③ 3.消費者負担料金が安く 3.バーゼル条約抵触の危険 なる可能性がある(5)① 性(2)③ 4.フロン回収技術の海外 4.企業の環境意識低下の危 移転(4)③ 険性(3)⑦ 5.リサイクル装置輸出 5.低料金時の消費者の環境 3) 政策と雇用、④エコタウンなどへの補助金問題 、⑤中 古家電輸入に対する国内産業保護政策などの産業政策、 ビジネス機会増(4)⑪ 意識低下(5)② Ⅱ . 受 け 手 の メ リ ッ ト Ⅳ.受け手のデメリット ⑥廃棄物の需要と国際市況9)、⑦再資源化技術輸出ビジ ネス 2)法律面 ①家電リサイクル法の将来動向、②諸外国の法律、③国 際条約(バーゼル条約) 3)環境負荷面 ①輸送時による環境負荷、②再資源化材料と廃棄物の定 義(ガラスカレットは廃棄物か、再資源化材料かなど) 、 (海外) 海 (海外) 1.資源の確保(3)⑤ 1.リサイクル時に土壌・河 2.日本の環境技術の習得 川汚染問題の可能性が高 まる(3)④ ができる(1)⑦ 3.製造エネルギーコスト 2.リユース品流出による地 場家電産業への打撃(4)⑨ が少なくて済む(3)⑤ 排出量が減少する 4. C O 2 外 (3)⑥ 5.雇用が拡大する(1)③ ③廃棄物の形態、④リサイクル処理時の環境負荷、⑤資 −47− 政策科学 11−1,Sep. 2003 Ⅴ.おわりに 雇用機会の創出については、国内の家電リサイクル施設 で2001年度に1,700名が新たに雇用されたと環境省が報 告している16)。経済産業省は、日本の産業の新たな取り 欧州は、廃棄物処理については経済ブロック圏内で広 組みとしてエコタウン構想に基づき、特定リサイクル施 域処理する方式を採っている8)。アジア圏として廃棄物 設に助成金を負担しているが3)、政策転換の必要性も認 のグローバルリサイクルを具現化する環境政策の立案が 10) 急がれる。本研究の成果は、廃棄物のグローバルリサイ 識されている 。 クルシステムの概念を提唱したことと、実現のための具 2.廃家電への適用−適否判定事例 体的な方式を示したことである。また、適用事例として 家電4製品の具体的なグローバルリサイクルシステム 家電4製品のグローバルリサイクルシステムについて考 方式を表8で示した。前項で述べた環境政策立案に必要 察した。その研究の成果は環境政策立案のための適否判 な適否判定因子の中から、2001年の再商品化率実績(表 定因子を整理し、商品ごとに具体策を提案したことであ 3)をもとに、再資源化技術、有価物としての価値、環 る。本提案が実現すると次のメリットがあると考えられる。 境面を重視し、更に詳しく検討した結果である。例えば、 (1)グローバルリサイクルにより、資源循環が促進さ エアコンの再商品化率実績は80%で最も高く、輸出先の れ、資源採取・自然破壊の防止、資源枯渇への対応がで 国で残査(シュレッダーダスト)が最も少ないこと、嵩 きる。 (2)有害物質を含んだ資源のクローズド化が促進され、 張らないので海上輸送による二酸化炭素排出が少ないこ 環境汚染リスクが減少する。 と、アルミ、銅など有価物としての価値が高いことから、 (3)グレードの高いプラスチックリサイクルが実現で A.廃家電本体輸出方式を提案した。ただし、現状の再 商品化率では、残査が多いので、90%達成条件を付した。 きる。 14) 手分解が可能な中国では到達可能な数値である 。テレ 本研究の目的は、枯渇性資源の資源循環を最大化する ビは再商品化率も高いが、プラスチックにダイオキシン の原因となる臭素が難燃材として混入されているので、 こと、かつその実施にあたって環境汚染を最小にするこ 日本でサーマルリサイクルすることが正しいと判断し、 と、すなわちゼロエミッションを究極的な目標とする最 ブラウン管中の鉛入りカレットに限定して生産国に循環 適な環境政策を立案し具現化することである。その適用 すべきであるとした。洗濯機は表3の再商品化率実績が 事例として家電リサイクルについて考察した。日本の家 低いことからA方式を避け、有価物の価値の高い銅を含 電リサイクル法は、法律の施行5年後に見直すことにな むモーターとプラスチックのみを輸出するB、C2方式 っている。後払い制度などの見直しと合わせ、経済のグ ミックス案を提案した。冷蔵庫は、嵩張るので海上輸送 ローバル化への対応、生産と廃棄の時間軸の遅れにより による二酸化炭素排出負荷が高いこと、再商品化率が低 生じる諸問題、中古家電輸出に名を借りた廃棄物輸出問 く残査がでること、断熱材フロンの回収技術を持たない 題も解決する必要がある。また廃家電製品だけではなく、 国への本体輸出は避けるべきであると判断し、A方式を 枯渇性資源を使用する商品の貿易とリサイクル政策を一 避け、B、C2方式ミックス案を提案している。 元化し、国内法、諸外国の法律、国際法の整合性をはか る研究を進める必要がある。 表8 家電4製品のグローバルリサイクル推奨方式 製品 A.本体輸出 謝辞:本研究は文部科学省の助成により行われたもの B.部品輸出 C.再資源材輸出 であり、ここで記して謝辞を述べたい。 エアコン 再商品化率90%の場合 テレビ ブラウン管ガラス 冷蔵庫 コンプレッサー プラスチック 洗濯機 モータ プラスチック 参考文献 1)植田和弘:「廃棄物とリサイクルの経済学」有斐閣、1992 年、P.50 2)田中 勝:『「廃棄物の広域処分をめぐって」の特集にあ A:廃家電製品本体輸出、B:資源価値の高い部品のみ輸出 C:日本で再資源化後材料輸出 たって』廃棄物学会誌、Vol.2.No.3.、1991年、P.188-190 3)経済産業省『ゼロエミッション構想推進のための「エコタ ウン事業」について』 −48− 廃棄物のグローバルリサイクルシステム(小泉・周・小幡) 4)小泉國茂:「日本の製造業の海外生産移転による影響と今 年3月14日 後の政策」工業経営研究学会、「工業経営研究」第15巻、 業の国際的展開の方向」〈アジア圏での資源循環ネットワー P.48-52、1999年 5)小泉國茂:論功「家電リサイクル法の成立過程と現状課題」 環境経営学会、「サステナブル・マネジメント」第1巻、第 クの展開・シンポジウム講演〉、2003年3月14日 12)貴島康智:「製造メーカーの取り組みと課題」−特定家庭 2号2001年、P.91-102 用機器再商品化法(家電リサイクル新法)の施行を前にして− 6)環境省ホームページ、産業構造審議会・リサイクル分科 廃棄物学会誌、Vol.10. No.5、1999年、P.343-349 会・家電リサイクル法審議会、家電製品協会資料3−1、平 成14年11月7日、http: 11)小林哲郎:「家電産業のグローバル化と家電リサイクル事 13)「家電リサイクル法におけるフロン対策の強化について」 産業構造審議会、環境部会、廃棄物・リサイクル小委員会、 //www.env.go.jp/recycle/index.html 7)豊島厚二:「家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化 電気・電子機器リサイクルワーキンググループ、平成14年11 法)の概要」─循環型経済社会の実現に向けて─廃棄物学会 月 誌、Vol.10. No.5、1999年、P336-342 14)東京大学・安井研究室「市民参加型リサイクル研究会」、 8)細田衛士:「廃電気・電子機器の処理 日本主導で世界標 2002年3月朝日新聞記事 準を」日本経済新聞社〈経済教室記事〉、2003年2月28日 15)「特定家庭用機器廃棄物の処理について」生活環境審議会 9)永田勝也:「アジア圏での資源循環ネットワークの展開・ 廃棄物処理部会特定家庭用機器処理基準等専門委員会報告 パネルディスカッション」、2003年3月14日 【参考資料】、平成11年4月20日 10)貞森恵祐:「リサイクル政策の現状と課題」〈アジア圏で 16)環境省報道発表資料、平成15年4月18日、「家電リサイク の資源循環ネットワークの展開・シンポジウム講演〉、2003 ル法施行状況について」 −49−