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ため池の池底土を堤体遮水材として活用した事例
会員コーナー 【新技術】 ため池の池底土を堤体遮水材として活用した事例 角南 輝行 金丸 順一 馬場 亮 株式会社 ウエスコ 1.はじめに 農業用ため池は中国・四国地方を主とした瀬戸内地域 に多く、全国に約23万箇所あり、中でも、兵庫県が最も 多く、その20%近い約4万4千箇所を有している。この 兵庫県では、淡路島が最も多く、次に播磨地域が多い。 播磨地域は、雨が少なく年間平均降水量は1,100mm程度 (日本の年間平均降水量は1,800mm程度)である。この ような気象条件から、米作りにかかせない“水”を確保 するために人工的に造られた貯水池「ため池」が、約1 万箇所ある。 (図−1、2参照) この播磨地域の中でも、明石川から加古川にいたる (図−1)県別のため池箇所数 (香川県「農業用ため池ヶ所数調査」)1) 「いなみの台地」のため池群は、日本有数の分布密度を 誇り、地域の文化としても価値のあるものである。そこ で、兵庫県では、いなみのため池ミュージアム構想とし て、ため池を本来の水を貯留する施設としてだけでなく 洪水調整、景観形成、地域交流、文化資源、自然環境、 レクレーション空間等の多面的な機能を発揮させる施設 として整備し、水辺空間を核として「魅力いっぱいの地 域づくり」「新たな文化の創造」へと発展させようとし ている。 このような状況のもと、播磨地域のため池の多くは築 造年代が古く老朽化による漏水や堤体変形等の問題を抱 えており、改修が望まれている。しかし、近年、良質な 遮水性材料が減少しており、特に、都市部の改修工事に ついては、築堤材料を近傍から確保する事が困難な状況 にあり、さらに土取場の確保や、池底堆積土の処分、工 3) 事による周辺環境への影響など様々な問題が発生する。 (図−2)兵庫県内地域別のため池数 (兵庫県・水辺ネットワーク,いなみ野ため池ミュージア ム推進実行委員会:ため池再発見資料)2) そこで本稿は、ため池の改修で重要となる、築堤材料 のうち遮水性材料に浚渫した粗粒分主体の池底土を用 い、細粒粘土を混合して堤体を構築した事例を紹介す る。 役割を担っている。 2.改修地周辺の状況 対象とするため池は、兵庫県南部の播磨地域ほぼ中央、 加古川市に位置し、都市型の皿池構造のため池である。 本ため池周辺は加古川市の市街化区域に位置し、中学 校、小学校も近隣に位置する。よって、日常的な通行人、 学校への登下校等の通行人が多い。 当地区の北側は国道2号、南側には国道250号、さら 農業かんがい用ため池であり、農地約12.2haをかんがい にそれらを接続する県道が、峠池に沿って位置する。そ している。周辺は以前より宅地化が進み、大雨時には、 のため、車の通行量が極めて多く、慢性的な交通渋滞を 貯留池としての機能も有しており、地域防災上も重要な 引き起こしている。 (写真−1参照) 29 ←岡山 神戸→ (図−3)計画堤体平面図 堤体が市道を兼ねている (写真−1)地区の航空写真 3.改修工事の概要 本堤部分の改修工事は、平成16年度より実施され、平 成17年3月に堤体工164m、洪水吐機能を併せもつ取水 塔1箇所が完成している。堤高は3.7m、堤体勾配1:1.8、 貯水量は約48,000m3である。さらに、本堤部以外にも周 回道路や安全柵を設置する等の利活用施設を設置する予 定となっており、周辺の利活用施設の整備工事は、平成 20年度までに完成する計画である。 (図−3参照) (写真−2)改修前の堤体 現況堤防は、市道となっており、安全上計画堤体は腹 付け盛土形式とした。新設する堤体の管理用道路は、現 況堤防上の市道と分離した。 (写真−2、図−4参照) 4.池底粗粒土を活用した2つの新技術 (1)新技術・新工法の概要 改修工事には、次のような課題があった。 課題①:宅地が密集する市街地に位置し、周辺には学 校・病院等の公共施設が立地する。さらに、国 道2号等の幹線道路が近く、周辺一帯の交通渋 (図−4)計画堤体標準断面図 (表−1)池底土の土層断面図と物理特性 層厚 土層名 第1層 池底泥土 第2層 礫混じり砂 第3層 砂混じりシルト 第4層 シルト質砂礫 (写真−3)池底土の土層断面 30︱ARIC情報№84ー2007 細粒分 液・塑性 均等 土粒子の密度 含水比 係数 含有率 限界 ρs(g/cm3) w(%) FC(%) WL・WP(%) Uc ■会員コーナー 滞が慢性化している。 (表−2)粒度混合調整改良土の物理特性4) 課題②:ため池の堤体は市道を兼ね、重要な生活道路と して利用されている。 すなわち、掘削土砂の搬出及び材料土の搬入を抑制す る必要があること(課題①)と、堤体の掘削工事による 市道の通行制限が困難なこと(課題②)、の2点が技術 的課題である。 これら2つの課題に対し、工事に伴う交通渋滞、工事 土粒子密度(g/cm3) 最適含水比(%) 最大乾燥密度(g/cm3) D=90%の 乾 燥 密 度 (g/cm3) 粒調改良土 (Case ①) 2.672 21.9 1.518 粒調改良土 (Case ② ) 2.659 23.3 1.544 1.37 1.39 車両による交通事故等の社会的コストの低減を目指し、 浚渫した池底土を築堤材料として活用する工法とした。 池底土の掘削断面を(写真−3)に、池底土の土層断 面図と物理特性を(表−1)に示す。表層0.25mの第1 層は軟質な粘性土で、細粒分含有率Fc=86.1%、含水比 wn=41.8%である。以深に、砂礫(第2層)、砂混じりシ ルト(第3層)、シルト質砂礫(第4層)が分布する。 (表−1、写真−3参照) ここで、必要な材料土量3,500m3の確保のため第4層 (GL-1.0m)まで浚渫することになる。粗粒分が優勢な 池底土に、表層粘性土を加え粒度調整混合し、堤体遮水 材として活用する。 (図−5)粒度調整混合改良土の粒径加積曲線 (2)各工法の詳細について 1)粒度調整混合改良土の評価 第2層以深を混合した場合、FC=10∼40(%)であり、 第1層の粘性土もしくは高純度粘土(Clay)を混合する ことで粒度調整し遮水性を確保する。 第1のケース(Case①) 粒度調整土の混合割合は、表層粘性土と砂礫層を1:3の 割合で混合する。 第2のケース(Case②) Case①の試料に遮水効果を高めるために高純度粘土 (Clay)を湿潤重量比で5(%)配合する。 これら2つのケースで室内土質試験を実施する。 (図−6)締固め曲線4) また、高含水状態にある表層粘性土を混合した場合、 材料土は軟弱化し、施工機械のトラフィカビリティーが 確保できない。強度不足への対策としてセメント系固化 材を加えて土質を改良する。施工機械のトラフィカビリ ティーを確保するための目標強度をコーン指数qc=490 (kN/m2)とすると、必要なセメント添加量は80(kg/m3) となる。以上の条件で作成した試験試料(写真−4参照) の物理特性を(表−2)に示す。各供試体の粒度試験か ら得られた粒径加積曲線を(図−5)に、締固め曲線の 結果を(図−6)に示す。4) ①透水試験方法の工夫 通常の変水位透水試験では、固化処理した改良土は透 水性が低いため、完全に飽和させることが困難であり、 みずみちが生じやすく正確に透水係数を把握できない、 (写真−4)三軸透水試験に用いた供試体 (神戸大学) 31 試験を行う際の応力状態が明確でない等の問題点があ る。そこで、堤体内の土要素の透水性を正確に調べるた めに、堤体内での応力状態を供試体に再現できるよう三 軸セル機能を有した透水試験機を採用した。 ・供試体の作製方法 試料は、最大粒径を2mmに調整したものを使用した。 供試体は、内寸15.64cmの立方体のモールドに、締固め 度Dcが湿潤側90%以上となるように含水比を調整した試 料を入れ、単位体積あたりの締固めエネルギーが JIS1210・A-a法の規定値と等しくなるように締固めて作 製した。 (写真−4参照) ・装置および試験方法 (図−7)用いた三軸透水試験器5) 本試験では、(図−7)に示す三軸セルを用いた透水 試験装置を使用した。供試体を20cm(φ)×0.4mm(t) のゴムスリーブで包み、完全飽和供試体を所定の動水勾 (表−3)透水試験結果 配と拘束圧下に設定できることが特徴である。このこと 4) により、供試体側面の水みち防止や供試体応力状態の明 三軸等方圧密透水試験 粒調改良土 粒調改良土 (Case① ) (Case ②) 確化、完全飽和化など、透水性の実態を精度よく把握で きる。 試験方法は、まず供試体を二重負圧法により脱気した 後、通水を行い、背圧300(kN/m2)加えることによりB 三軸大型立方透水試験 粒調改良土 (Case①) 含水比 w(%) 28.1 27.5 28.77 透水係数 k(m/s) 2.62×10-8 4.63×10-9 2.27×10-6 値が0.96以上になるようにほぼ完全飽和させた。そして、 拘束圧200(kN/m 2)で等方圧密を行った後、変水位透 水試験を行った。変水位透水試験は、2本のビュレット 間の水頭差を利用して水を流した。そして、各々の時間 で供試体の上下の水頭を計測し、以下の式を用いて透水 係数を算出した(表−3参照) 。 { H1 ( / )}/ k= 2.303×a×hs×log H2 {2×As×(t1×t2) } ここで、aはビュレットの断面積、H1はt=t1の水頭差、 H 2はt=t 2の水頭差をあらわし、h s、A sはそれぞれ供試体 の高さ、断面積をあらわす。5) ②試験結果のまとめ 粒度試験の結果、粒度調整混合することによって、階 段粒径であったものが、粒度分布のよい材料に改質され ている。また、細粒分含有率も20%以上となり、 (表−3) に示すように、透水係数も2.62×10-8(m/s)を示し、遮 (写真−5)自走式土質改良機(コマツ社製) 水性材料の目標値:5.0×10-7(m/s)以下となった。さ らに、高純度粘土(Clay)を加えることで、細粒分含有 率が高まり、透水性は低くなる。 2)自走式土質改良機による粒度調整混合改良 本業務では築堤材料に粒度調整混合改良土を用いた が、透水性や強度に“ばらつき”の少ない均質な材料が 求められた。そこで、自走式の土質改良機を用いて施工 した(写真−5、図−8参照) 。 本工法はバックホウ混合改良に比べ以下の利点があ る。 32︱ARIC情報№84ー2007 (図−8)自走式土質改良機 (コマツ社:リテラ工法設計・技術資料より抜粋) 5) ■会員コーナー (イ)粒度調整改良土を作成する地点まで移動できるた め、施工ヤードを最小限にできる。 (ロ)固化材フィーダから、定量的に固化材を添加する ことができ、ソイルカッタ、ロータリハンマを用 いて均質に混合することが可能であり、 “ばらつき” の少ない均質な粒度調整混合改良土を作成できる。 現場にて築堤土を試験施工(写真−6参照)した結果 を(表−4)に示す。透水係数は、室内試験とほぼ近い 値を示し、トラフィカビリティーについても676 (kN/m 2)以上が得られ、施工重機の走行等にも問題が ない事を確認した。 5.総論と今後の課題 (写真−6)現場試験施工 (表−4)現場試験施工結果 (1)技術成果のまとめ 今回の事例では、以下の結果を得た。 (1)池底土(砂礫層)と表層粘性土を粒度混合調整し、 セメントを適量配合したものは強度面で満足できる 改良効果を確認した。すなわち、施工重機の走行に 必要なトラフィカビリティーを確保できた。さらに、 Case2の場合、高純度粘土(Clay)が水分を吸着す るため含水比が低下し、締固めが容易になり、強度 が高まる。 (2)Case2では、高純度粘土(Clay)を加えることによ 項目 セメント 系固化材 (kg/m3) 転圧回数 ( 回) コーン指数 qc(kN/m2) 透水試験 k(m/s) 粒調改良土 (Case①) 粒調改良土 (Case ②) 80 80 8 8 676 745 2.20×10 -8 9.00×10-9 り、細粒分含有率が高まり、遮水性向上効果を期待 できる。 (3)透水試験は、三軸透水試験機を用いることで、現場 と同様な応力状態における透水係数を把握する事が できた。このことから、厳密に粒度調整混合計画を 立てる事ができたと言える。また、現場透水試験結 果との相関性も高く、三軸透水試験機を用いた透水 試験は有効な手法であった。 (4)自走式土質改良機を用いることで、工期の短縮と省 力化を図れた。 (5)これら一連の粒度調整混合改良土を用いることで、 ダンプトラックの搬出入を伴わず、工事車両による 交通渋滞の軽減、排気ガスの抑制、交通事故の防止 (写真−7)改修前(平成16年3月17日) 等に寄与できた。特に都市部におけるため池改修工 事の良き先例になり得たと考えている。 (2)今後の課題 今後の課題としては、以下の項目が挙げられる。 (1) 築堤材料に用いる粒度調整混合した土の性状とし て、含水比、粒度分布に着目したデータの蓄積と、 それに伴う施工指針のための指標化が重要である。 (2)本事例では、岡山県産の高純度粘土(Clay)を混合 材料として用いた。天然に採取される粘土はその地 域の地質特性により化学的特性が千差万別である。 したがって、これら高純度粘土(Clay)の利用手法 (写真−8)改修後(平成18年7月31日) 33 について、適正に活用するため、事例収集とマニュ アル化が不可欠である。 6.謝辞 本業務を行うにあたり、神戸大学農学部教授内田一徳 農学博士に室内実験に関して指導を賜った。また、兵庫 県三木土地改良事務所からは種々の資料提供と現地にお ける施工中の協力を受けた。ここに厚くお礼申し上げ る。 引用・参考文献 1)香川県:農業用ため池ヶ所数調査資料 2)兵庫県・水辺ネットワーク、いなみ野ため池ミュー ジアム推進実行委員会:ため池再発見資料 3)福島伸二・北島明・石黒和男・池田康博・酒巻克 之・谷茂(2000):固化処理したため池底泥土の 盛土材への適用性の研究、土木学会論文集 4)高梨雄貴・内田一徳・中辻優香(2005):ため池 改良底泥土の力学特性、地盤工学研究発表会講演集 (CD-ROM) 5)松川哲也・内田一徳・河端俊典(2006):三軸セ ルを用いたため池改良土大型立方供試体の透水特性 に関する検討、地盤工学研究発表会講演集(CDROM) 34︱ARIC情報№84ー2007