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現代日本語「自己実現」の使われ方に関する 基盤的考察

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現代日本語「自己実現」の使われ方に関する 基盤的考察
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現代日本語「自己実現」の使われ方に関する
基盤的考察
—テキストマイニングの手法を用いた質的データの分析—
A Basic Study on the Use of “Ziko-Zitsugen”
which is the Modern Japanese Word
Meaning Self-Actualization and/or Self-Realization
:An Analysis on Qualitative Data Based on the Text Mining Method
佐々木 英和
SASAKI Hidekazu
はじめに
筆者は、素朴な問題意識から「自己実現」という言葉を解明してみようと思い立ち、これに関して
20 年近く情報・資料収集を積み重ねてきた。そして、それにより多くの知見が得られるとともに、
知見どうしの相乗効果がもたらされて、当初には予想もしない結果が得られることもあった1)。
だが同時に、これまでの筆者なりの先行研究がかえって先入見を生み出してしまい、ときには研究
的発想を不自由にしてしまうという問題が出てくるということも、率直に認めざるをえない。そこで、
本稿では、筆者のこれまでの研究成果をいったん脇に置いて、
「自己実現」についての知識が白紙に
近い状態からはじめるというスタンスを取りたいと考える。極端に言えば、あまりに白々しいという
誹りを受けることを覚悟してでも、あたかも「自己実現」という日本語をはじめて知ったかのような
スタンスで論文を執筆していきたいというわけである。すなわち、本稿は、この言葉の使われ方につ
いて、基盤レベルまで掘り下げて改めて考察し直そうとするものである。
それでは、そのためには、どうするか。筆者は、昨年度の時点で、新聞データベースを活用して、
自己実現概念についての量的分析を試みた2)。この作業は、筆者にとって新鮮な発見を多数もたらし
てくれた。たとえば、筆者の予想以上に「自己実現」が「女性の生き方」の問題と極めて密接に関係し
て内実を展開させていることが判明するなど、新たな研究的領野が開拓された。本稿は、昨年行った
作業との連動性を念頭に置きつつ、テキストマイニングの手法によって「自己実現」に関する質的デー
タを分析し直そうとするものである。そこでは、昨年も用いた新聞データベースの読売新聞社「ヨミ
ダス」を用いることになるが、今年については具体的な記事内容が直接の分析対象となる。
なお、本稿において用いる新聞記事の引用部分について、「自己実現」および他のキーワードをア
ンダーラインで目立たせていることを事前に断っておく。
Ⅰ 日本語「自己実現」に関する質的データの収集・分析手順
本稿の研究目的は、現代的な日本語だとみなせる「自己実現」について、厳密とは言い切れないま
でも、実証的精度を高めていっそう明確にしていこうとするものである。その具体的な研究手順とは、
226
新聞データベースにより日本語「自己実現」に関する基本情報を収集し、集積した質的データについ
てテキストマイニングソフトを用いて分析していくことである。抽象的に言い換えると、新聞に掲載
された諸々の文章という質的データを量的に蓄積し、その量的特徴に着目することを基盤として、質
的な側面に関する考察を深めるという変則的なやり方になる。
A 「テキストマイニング」に関する基本的説明
本稿で用いる「テキストマイニング」という手法は、
「データマイニング」という技術を「テキストデー
タ」つまり文書情報に応用したものである。そもそも「データマイニング “Data Mining”」の「マイニン
グ “Mining”」とは “採掘のこと” すなわち “鉱山から宝物を掘り当てる作業のこと” を意味するが、“デー
タマイニングとは、大量のデータの山から、有用な知識や情報を見つけること” である3)。したがって、
“単なる検索や分類整理とは異なり、複数の文書データの内容を総合的にとらえることで初めて得られ
る知見を抽出するための内容分析の技術”
として定義することが可能な「テキストマイニング “Text
4)
Mining”」によって得られる成果には、
「発見的(= heuristic)
」であることが自ずと期待される。さらに、
ここで「発見的である」という言い方をしたことについて、研究対象の全体を量的に見通すことを前提
としているので、
「たまたま発見的であった」という域にはとどまらない含蓄があると考えてよい。
本稿で用いるテキストマイニングソフトは、株式会社野村総合研究所が分析コンサルティングを行
う上で開発した “TRUE TELLER-Ver5.5” である5)。本稿では、このソフトを用いて、定型化されてい
ない諸々の文章の集まりの中から、自己実現研究にとって価値の高い情報を掘り起こすという目的の
実現のために、自然言語解析の手法を用いて、単語やフレーズに分割された言葉などを対象として、
単語の出現頻度や相関関係などに着目しながら有用な情報を抽出しようとするわけである。なお、本
ソフトの基本画面のイメージは、【図表 1-1】のような具合である。
【図表 1-1】テキストマイニングソフトの基本画面
227
B 質的データの入力ルールの設定
本稿で「質的データ」という呼び方をしているものの大本は、新聞記事の中の見出しや文章などで
ある。それらは具体性が高く定型化されていないために、抽象化された数字や記号のように四則演算
により扱うことが不可能なものである。しかし、そういったデータでも、単語やフレーズなどに細か
く分割することにより、量的な次元で取り扱うことが可能になる。そこで、テキストマイニング解析
を行う準備作業としては、自然文を表計算ソフト(Microsoft Excel など)に入力するということが要求
される。そうすると、本稿の前提として最も重要なことは、質的データの入力ルールを的確かつ明確
にすることだと言いきってよい。というのは、テキストマイニングは、入力された情報について、量
的把握をバックボーンにしながら、質的に把握することを支援するツールであるため、このルールを
どのように定めるかによっては、テキストマイニングによる解析結果が大きく変わってきてしまうか
らである。その意味では、入力ルールのあり方は、本研究の妥当性を保証できるか否かの生命線に位
置する。
第一段階では、質的データの「量的取り扱い」に関する基本ルールを決める必要がある。これにつ
いては、書かれた記事の種類を基準にするのでなく、実際に一般読者の目にふれる頻度がどれくらい
ありうるかを基準にしたい。たとえば、新聞記事データベースから「自己実現」を取り出す際に、ほ
ぼ全く同じ記事が全国版朝刊・夕刊と地方版朝刊において反復される場合、それについては重複して
入力する。極端に言えば、同じ記事が 10 回出てきたら 10 件の入力がなされることが適切な処理だと
いうわけである。
第二段階として、質的データの「質的取り扱い」に関する基本ルールを明らかにする必要がある。
鉄則として明示したいことは、可能最大限ではなく必要最小限を明らかにすることである。言い換え
れば、前後の文脈が断ち切られてしまう可能性を考慮しつつも、あえて「自己実現」という単語その
ものに集中した分析が可能となるようにしたいわけである。
形式的に言うならば、「自己実現」という単語を含む一文のみを取り出すようにすることが原則で
ある。この場合の「一文であること」の意味とは、間接話法で表現して従属節に該当する文章が長
くなってしまう場合はもちろん、直接話法によりカギ括弧「」で示された引用部分も従属節である
とみなして、その全体を入力対象とすることである。また、本のタイトルや見出しなどについては、
句読点 “。” が存在しないけれども、そのタイトルや見出しに該当する部分の全体を一文として扱うこ
とにする。
だが、このような単純なルールを適用していくことについて、実際の文例に当たっていくと、事態
は決して一筋縄では行かないことがわかる。このことに関しては、実際に入力作業を行う際に出てく
る数々の問題について、具体例を示しながら詳しく論じていきたい。
一方では、一文が長くなりすぎて、他の文章の長さと比べてバランスを欠いてしまう入力データが
出てくる可能性がある。まず、誰かの発話部分の中に「自己実現」を含む1文があるだけにすぎない
のに、その一文を含めて合計2文以上が存在して入力データが長くなってしまう可能性がある。また、
インタビュー形式の記事において、インタビューされた人の発言がカギ括弧「」で囲まれているとき
には、仮に5文以上の文章が入っていたとしても、それらの全部を引用部分とみなして従属節扱いに
することになるが、この場合には、インタビューされる人の発言がカギ括弧「」で囲まれていなけれ
さえすれば、短い一文の引用で済んでいたはずだという矛盾が生じてしまうのである。
他方では、一文があまりに短すぎて、内実がほとんど明らかにならない場合がある。たとえば、
228
“Q
働くとは、どういうことだと思いますか?” という問いに対して、“A「自己実現」。自分の存在
” と回答している新聞記事(2002 年 7
意義を確認すること。(鈴木伸一・県立吾妻高就職開拓協力員)
月 6 日付け、東京朝刊、群馬西)があるが、基本ルールに則れば、“「自己実現」。” という文章が入力さ
れるだけである。これでは、
「自己実現」の件数が増えても、その内実に関する情報については、み
すみす捨ててしまうことになる。
この例はいわば「最短」とも言えるものだが、他にも「もったいない」と評価せざるをえないサンプ
ルが出てくるという問題が生じる。たとえば、“健康は、そのものが目的ではないと思います。自己
”(1999 年 9 月 4 日付け、東京朝刊)という二つの文章において、“自
実現の手段として考えてほしい。
己実現の手段として考えてほしい” という一文だけを取り出しても、「何かが自己実現の手段になり
うるものだ」ということがわかるのみで、「健康が自己実現の手段となりうるものだ」という重要な指
摘をみすみす見逃すことになり、それにより「健康」というキーワードが最初から存在しなかったか
のような扱いになってしまう。
さらに、代名詞を用いている文章において、代名詞の内容を明らかにしないと、入力データとして
ほとんど意味をなさない。“それにこそ自己実現の喜びがあった”(1993 年 1 月 25 日付け、東京朝刊)
と言っても、
「それ」の内容を明示しないと、この文それ自体の主題が不明確なままである。ここでは、
「自己実現」と「喜び」とが接続しやすいという相関関係が確認できたにすぎないのである。
こういった例を挙げ出すと、一文のみの入力では不十分に思われる。前後の文章を適宜補うという
柔軟性がある方が実を得られることも確実であろう。逆に、形式主義が優先されすぎるために、複数
の文章が一文扱いされるのもバランスが悪い。だがそれでもやはり、こうした問題点を承知しつつも、
ルールを杓子定規で採用することにして形式主義を貫き、恣意的な判断が入る余地を最小限にとどめ
たい。というのは、どのデータをどの程度の分量まで入力するかのルールが曖昧になって収拾がつか
なくなってしまうことのほうが、研究者のデータ収集の仕方に恣意性が混じったことになり、テキス
トマイニングによって得られた結果の正当性を損なう危険性が高まるからである。ここでは、「最善」
にはほど遠いが、
「悪くはない」という選択を自覚的に行う。機会を改めて、将来的に入力ルールを
変えて研究を進める可能性が出てくることを考慮しつつも、今回は「余分なノイズ」を排除し「必要最
小限」を明らかにしていくことに集中する。
C テキストマイニング分析を行う際の質的データの扱い方
テキストマイニングソフト “TRUE TELLER-Ver5.5” を用いてデータ解析を行うに当たって、少しで
も有益な情報を効率的に得るための事前の操作が可能である。これについて、前もって示しておく。
第一に、このソフトでは、新たな単語の登録が可能である。本ソフトの初期設定では、
「自己」と「実
現」とが分かれて解析結果が出てしまうので、「自己実現」という単語を新たに登録した。
第二に、出現頻度の多い単語についてランキングを行う際に、分析上はほとんど意味をなさな
いと思われる単語について分析対象から外すことができる。この操作により、意味のありそうな
単語が上位にランクされる可能性が広がる。本ソフトの初期設定では「削除単語」として句読点な
どが事前登録されているが、それ以外に、項目の見出しなどに用いられがちな「1」、「2」、「3」
「これ」
、「それ」、「あれ」の代名詞を、単語ランキングの結果に反映しないように
といった数字や、
設定した。
第三に、このソフトでは、事前に同義語が登録できる。本稿を執筆するに当たって、このソフトで
229
同義語として扱ったものを一覧表にして示すと、
【図表 1-2】であ 【図表 1-2】同義語として統一した
単語の一覧
る。たとえば、「女」や「おんな」及び「彼女」という表記が出てき
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た場合、「女性」という単語と同義とみなして、「女性」という単語
に引っくるめられる形で数量がカウントされるというわけであ
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Ⅱ 日本語「自己実現」それ自体の用いられ方の特徴
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開始してみよう。まずは、「単語ランキング」というやり方で、テ
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それでは、実際にテキストマイニングソフトを用いて、分析を
ランキングを作成してみたい。次ページの【図表 2-1】は、本稿の
分析対象とした全データ(915 文、943 件)を母体として、用いら
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れる頻度の多いものから順に並べた「単語ランキング」を、全品詞
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示すにとどめている。なお、このソフトでは、形容動詞や副詞に
ついては、形容詞グループに一括する形になっていることに注意
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を促しておきたい。
A 「自己実現」という単語そのものの基本的な使われ方
データ収集の方法が、「自己実現」という単語を含むものであるのだから、当然の結果として、「自
己実現」という単語がもっとも多く出てくる。だが、このソフトでは、「自己実現」という単語が単独
で用いられていない場合について別扱いされているものがあり、「自己実現(否定)」(名詞の単語ラ
ンキングの 67 位)と「自己実現型」(名詞の単語ランキングの 61 位)について確認する必要がある。つ
まり、「自己実現」という言葉が単独に用いられるとき以外の用法に注目すべきだということである。
テキストマイニングソフト “TRUE TELLER-Ver5.5” では、「意味属性」という言い方で「否定/疑問
/要望/理由/可能/不可能/容易/困難/状況/文末」などに分類された文法的・意味的位置づけ
に準じた文章の分類が自動的になされる。次々ページの【図表 2-2】は、あらかじめ「自己実現」と「自
己実現(否定)」と「自己実現型」を取り出した上で、こうした意味属性の状況を一覧できるようにした
ものである。ここでは、この3つの項目の日本語としての用いられ方を考察していきたい。
まず、【図表 2-2】の中の「自己実現」の項目で「否定」に相当するものがカウントされていないのは、
それに該当する項目が「自己実現(否定)」として別立てで独立して扱われているからであるという点
を確認しておこう。実際、「自己実現(否定)」と表示されているものは、「自己実現できない」、「自己
実現をさせてあげられない」、
「自己実現だけではない」、
「自己実現のためだけではない」というように、
「自己実現」に対して否定的な係り受けがなされている文章表現を指している。文例としては、“子供
を持てない夫婦にとって不妊治療は福音だが、子供を持たないと自己実現できない社会こそ問題”
(1990 年 2 月 16 日付、東京朝刊)、“仕事だけが自己実現ではない”(1994 年 1 月 27 日付、東京朝刊)、“女
性自身の自己実現のためだけではなく、国民の健康を守る社会的使命を最後まで果たすためにも、支
230
【図表 2-1】全体および品詞ごとの単語ランキング
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※ 同じ順位のものについても、1 位から 70 位まで機械的に並んだ状態になったままの表である。
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【図表 2-2】「自己実現」という表現を含む単語の使用状況
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援が必要です”(2005 年 9 月 17 日付、大阪朝刊)などが挙げられる。
また、「自己実現」という日本語が「理由」という位置づけで用いられている(38 件)ものとして本ソ
フトで分析されている場合について、具体的中味を閲覧してみると、そのほとんどが「目的」という
意味合いで用いられている事例で占められていることが確認できる。たとえば、“通過儀礼とは、人
が一生に何度か経験する、自己実現のために乗り越えねばならない重要なハードルです”(1991 年 9
月 10 日付、大阪朝刊)、“そのために「専門分野の勉強を続けている」という人も6割を超えており、
働く女性は自己実現のために相当、努力していると言える”(1999 年 3 月 29 日付、東京朝刊)、“自己
実現のために、生涯努力を続けるつもりですよ”(1995 年 3 月 31 日付、東京夕刊)
、“兼元さんは、よ
く言われる「自己実現のために働く」という考え方には興味がないという”(2009 年 2 月 14 日付、東京
朝刊)などに見られるように、「自己実現のために何をするか」ということが論点になっている。いさ
さか勇み足になりかねない言い方をすれば、
「何が自己実現か?」という概念追求を進めることを棚
上げしたまま「自己実現することそれ自体が究極目的・至上課題である」とでもいうような「自己実現
至上主義」的性格すら、これらの例から読み取れるのである。実際、「とにもかくにも自己実現する
ことが大切だ」とでもいうべき思想が、現代語の「自己実現」が抽象的性格を保ちながら魅力を放たせ
ることに寄与しているとも考えられよう。
一方、「自己実現」が「可能」という位置づけで用いられていると分析されている 30 件の文章を個別
具体的に確認すると、「自己実現できる可能性」が様々な局面で話題に上っていることが判明する。
たとえば、“若者たちは、自己実現できる場、自己探しを続けている”(1995 年 8 月 12 日付、東京朝刊)、
“仕事を通して自己実現できるから、子育てに過剰で、一方的な代償を求めなくてすんだ”(2000 年 8
月 28 日付、大阪朝刊)、“物価が安いというだけで目的地を選ぶのではなく、自己実現できるのはど
こかで選び、希望の国に合わせて資金計画を立てる”(2004 年 10 月 17 日付、東京朝刊)、“育児中の社
員が利用できる短時間勤務制度など、仕事と子育ての両立支援策を12月までにまとめる意向を示し、
「子育ても仕事もしながら、自己実現できる社会をつくりたい」と訴えた”(2007 年 6 月 25 日付、大阪
朝刊、セ奈良)など、「自己実現」をめぐって「できるか、できないか」の「可能性」をめぐる二者択一
が重要な論点となっているということが示唆される。
実際、このことを逆方向から裏付けるように、「自己実現(否定)」を含んだ文章の全 14 件のうち 11
件が「不可能」という位置づけを持つものであるという数字が出ている。ただし、「自己実現」が「それ
自体の不可能性」として扱われることはほとんどなく、たとえば “働くことでしか自己実現できない
人が多いため、収入を得ることに目的が移り、これまでの組織運営が様変わりする場合も考えられる”
(2006 年 6 月 14 日付、大阪朝刊)
、“それなりに時間をかけて練習しないと自己実現できない点で、退
職された方にはもってこいの趣味です”(2007 年 8 月 17 日付、東京朝刊)といった表記のように、「可
能性の裏返し」として「不可能性」が強調された言い方がなされていることが大半である。
では次に、「自己実現」に「型」という言葉が接続した「自己実現型」という表現は、どのような用い
232
“ 1〉明確な目的を持ってアルバイトで日々の糧を得る「自
られ方をされがちなのだろうか。たとえば、
〈
己実現型」〈2〉正社員志望を抱いてアルバイトを続ける「将来不安型」〈3〉将来もアルバイトを続け
ようという「継続型」
〈4〉将来は家庭に入りたいと考える女性など――の四タイプに分け、このうち「将
来不安型」が四割を占めるとみる”(2000 年 7 月 5 日付、東京朝刊)というような類型化に象徴される
ように、社会事象の分析スタイルとして「自己実現」という表現が用いられる手法がある程度まで一
般化していることが確認できる。とはいえ、
「自己実現型」の内実が確定しているわけでは決してない。
たとえば、“収入一辺倒でない「自己実現型」の転職が増えたのが「バブル後」の特徴だという”(1996
年 5 年 1 日付、大阪夕刊)というように生産活動の次元で「自己実現型」という言葉が用いられるときと、
“自分の生活スタイルや好みを大事にする、こうした「自己実現型消費」は若年層に顕著だが、今回は
堅実志向が強いといわれる30歳代女性で57%にのぼったことから、「消費拡大の胎動ではないか」
(小村智宏・三井物産戦略研究所研究員)との見方も出ている”(1999 年 10 月 9 日付、東京朝刊)とい
うように消費活動の次元で「自己実現型」という言葉が用いられるときとでは、その意味を決して同
じであるとはみなせないであろう。
B 「自己実現」との「係り受け」の度合いが強い単語
「自己実現」という言葉そのものの使われ方を明らかにするた 【図表 2-3】「自己実現」と係り受け
関係の強い単語の一覧
めには、「係り受け」に注目する必要がある。テキストマイニン
グソフトでいう「係り受け」とは、厳密な意味での日本語文法的
なものではないが、対象とする単語に対する直接的な相関関係
が強い場合というような意味合いがある。これについて出現件
数の多いものから順に上位 10 位まで示して一覧表にしたものが、
【図表 2-3】である。そこで、これらの単語のうち、「自己実現」と
いう日本語が出てくるがゆえに出現するとみなせるものについ
ては、「係り受け重要単語」として位置づけて分析・考察してい
く価値があるだろう。
順位
係り受け関係
件数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
自己実現- 図る
51
自己実現- 場
47
自己実現- 目指す
44
自己実現- 女性
23
自己実現- できる
20
自己実現- 求める
19
自己実現- 個人
19
自己実現- 果たす
15
自己実現- 欲求
14
自己実現- 考える
11
まず、動詞では、「図る(はかる)」、「目指す(めざす)」、「でき
る」、「求める」、「果たす」に関わる係り受けが目立つ。「自己実現−図る(はかる)」(51 件)の例とし
ては、“臨教審後になると、子供たち、生徒たちの自己実現を図る場としての機能が求められてきた
ように思う”(1994 年 11 月 15 日付、東京朝刊)
、“ノーマライゼーションはデンマークの知的障害者の
運動が源流で、障害の種類や程度に関わりなく、障害者が人間としての可能性を追求でき、自己実現
をはかりうる場を日常生活のレベルで展開することをうたった理念である”(1998 年 4 月 16 日付、東
京朝刊)といった表記がある。「自己実現−目指す(めざす)」(44 件)の例としては、“モノの充足は、
精神的な豊かさ、自己実現をめざしての生きがい、自らの感性を大事にするマイライフの充実へ、と
価値観を変化させる”(1989 年 1 月 24 日付、東京朝刊)とか、“自己実現を目指して研さんを重ね、社
会の負託に応えうる人格の形成と完成を培う”(2007 年 4 月 7 日付、西部朝刊、山口)などを挙げられる。
「自己実現−できる」(20 件)の例としては、“女性がわがままにならない程度に自己実現ができ、社
会に入っていける、仕事ができる " 緩み " があっていい”(1987 年 8 月 10 日付、東京朝刊)
、“公約とし
て、1億円の基金を設けて社会貢献活動に取り組む市民への資金提供や、教育を通じて自己実現がで
きるように、意欲のある学生に対する奨学金制度の新設を掲げる”(2008 年 1 月 15 日付、東京朝刊、
233
4
長野)など、「自己実現ができる」というふうに「自己実現」が主語になった文章が多数存在する。「自
己実現−求める」(19 件)については、“飢えを知らない若者は、押しつけの管理をきらい、自己実現
を求めている”(1974 年 12 月 22 日付、東京朝刊)や “少子高齢社会の到来や高学歴化の流れのなか、
女性も「家族のため」に生きるだけでなく、強く自己実現を求めるようになってきた”(1999 年 6 月 18
日付、東京朝刊)などのように、当時の社会意識を状況把握として説明した文章が多くを占める一方で、
“仕事の中に自己実現を求めるべきだ”(2005 年 4 月 6 日付、東京夕刊)という当為的意見を社会的に
表明したものもある。「自己実現−果たす」(15 件)については、“生徒個々の資質や能力の程度に応
じたそれぞれの看護の分野で看護職者として社会に貢献し、自己実現を果たすことができるから、目
的意識さえしっかりしていれば偏差値は問題ではない”(1993 年 9 月 30 日付、東京朝刊)、“成熟社会
を生きる今の若者が夢という言葉からイメージするのは、「他人とは違う特別な存在」になって「自己
実現」を果たすことなのだという”(2005 年 3 月 26 日付、東京夕刊)というように、「自己実現」へと到
達することが将来的目標として位置づけられがちな傾向にある。
このような具合にして日本語「自己実現」に直に係り受けして随伴する傾向の強い動詞について複
数ピックアップしてみて判明する顕著なことは、日本語「自己実現」は、すでに現実化している状態
としてよりも将来的に現実化していこうとする目標や理想として扱われがちな概念であり、現在的と
いうより未来的なものだということである。逆の言い方をすれば、「自己実現」とは、現時点では現
実化できていないからこそ目的化するものであり、将来的に現実化できるかどうかが気になる事柄で
あって、「現実態」というより「可能態」として把握される傾向が顕著なものである。
次に、名詞に注目すると、「場(場所)」、「女性(おんな、女、彼女)」、「個人」、「欲求」が上位に位
置する係り受け対象の単語である。「自己実現−場(場所)」(47 件)については、“固い言葉で言えば、
、“職場は、単に稼ぐ場
休みは自己実現、自己開発の場でもあろう”(1988 年 4 月 28 日付、東京朝刊)
所か、自己実現の場か”(2006 年 3 月 28 日付、東京朝刊)のように、「場」が単なる空間的な意味合い
を超えて「場面」を意味することが多いことが確認できる。「自己実現−女性」(23 件)については、“自
らの性をうたい、肉体をうたい、家族や社会を詠む――女性たちの自己実現への希求は八〇年代、短
歌の世界においても一つの潮流となった”(1992 年 7 月 30 日付、大阪朝刊)
、“徐々に解消されつつあ
るとはいえ、企業社会は、女性が自己実現するにはまだほど遠い状態なのである”(1998 年 4 月 28 日付、
東京夕刊)といった例に顕著なように、「自己実現の主体」として女性が主題化されるパターンが極め
て多い。ここで注目しておきたい係り受け関係は、「女性を自己実現させる」というような「女性の対
象化」を意味するものではなく、「女性が自ら自己実現する」といった「女性の主体性」を大前提とした
ニュアンスの表現が圧倒的に多いということである。また、「自己実現−個人」(19 件)の係り受け関
係については、“個人の自己実現を抑圧する機能とすらなってしまった近代社会システムを再編成す
る道は何か”(1992 年 11 月 9 日付、東京朝刊)というように社会の現況を把握するあり方も散見され
る一方、“仕事と家庭と地域のバランスの上に立って個人の自己実現ができる社会”(2001 年 7 月 14 日
付、東京朝刊、石川 2)、“個人の自己実現と個性・能力の伸長、創造性の涵養(かんよう)”(2003 年 1
月 12 日付、東京朝刊)、“韓国の英才教育振興法第1条には「才能が優れた人物を早期に発掘し、生ま
れ持つ潜在力を啓発できるよう、能力と素質に合う教育を実施し、個人の自己実現と国や社会の発展
に寄与することを目的とする」とある”(2006 年 4 月 5 日付、東京朝刊)のように、理念の次元で「個人」
と「自己実現」との関係を提案する文章が目立っている。言い換えれば、「個人のあるべき姿」に関す
る提案的キーワードとして「自己実現」が位置づいている。
234
さて、「自己実現−欲求」(14 件)の係り受けに注目することによって、他とは異なる特徴を指摘で
きるが、それは「自己実現の出典」に相当する内容が明示される文章が見受けられることである。た
しかに、“学校、家庭、友人関係など、思い通りにならないストレスを抱える中で、
「芸能人のように
スリムになりたい」
「細身の服を着たい」といったささいな自己実現への欲求が、無理なダイエット
に走るきっかけになるとされる”(2006 年 8 月 25 日付、東京夕刊)、“自己実現への欲求は、認知症の
老人も障害者も等しく持っている”(2008 年 2 月 5 日付、西部朝刊)というように、「欲求」が日常用語
として用いられているにすぎない場面も多い。だが、“その一つは、米国の心理学者アブラハム・マ
ズローは人間の欲求には「生存欲求」の第一段階から「自己実現欲求」の第五段階まであるとしている
が、我が国のほとんどの消費者の欲求水準は第五段階に達していることだ”(1991 年 3 月 31 日付、東
京朝刊)、“「人々の欲求は生存の欲求から自己実現の欲求まで段を追って上昇する」とするマズロー
の欲求段階説をまつまでもなく、ライフラインの完備だけで満たされるものでないことは明らかだ”
(1995 年 9 月 1 日付、東京朝刊)
、“アメリカの心理学者の理論を取り上げ、
「現代の子どもたちは、家
庭や学校に安全安心の欲求すら持てないのに、集団帰属や自己実現の欲求が持てるはずがない。大人
は少なくとも、この場所にいてもいいんだという安心感を子どもたちに持たせるべき」と提言”(2005
年 7 月 12 日付、東京朝刊、秋田 2)といった例のように、アメリカの心理学者のマズローが「自己実現」
を理論化する際に「欲求」を中軸に位置させていたことが強く反映されている。
なお、係り受けという意味では、顕著に「自己実現」との関係が指摘できそうな形容詞は特に抽出
されなかった。
Ⅲ 日本語「自己実現」と同時に用いられる単語
本稿では、主題となる単語(本稿の場合は「自己実現」)とともに用いられている単語について、「お
供として付き従っている」というイメージをこめて「随伴的単語」と呼ぶことにする。このような単語
を分析・考察することにより、直接的とは言えないまでも間接的なつながりから「自己実現」という
用語の実質が見えてくることもあろう。
A 随伴的単語の頻度の全体像
先にも示した【図表 2-1】を改めて見てみると、ランキング1位の「自己実現」を含む一文は全体で
895 件あり、出現頻度 94.91%となるが、一文の中に2回以上「自己実現」という単語が出てくること
もあり、この単語の出現数は 905 回になる。ここで、
「自己実現」という単語が圧倒的に頻出するのは、
「自己実現」という単語を含む文章を抽出しようとした以上、当然の帰結である。よって、
「自己実現」
という単語以外で、目立って出てくる言葉に注目する必要がある。その際、順位とともに、出現頻度
にも注目するならば、それは、テキストの総件数に対するテキストの出現件数の割合を示しており、
百分率で表されている。本稿が対象としたものでは、文章は 895 件だが、総件数が 943 件であり、こ
の数字 943 件が分母になって、出現頻度が出される。
まず、品詞ごとに分ける前の状態を確認しておくと、トップ 10 については、2位が「社会」(名詞、
112 件、頻度 11.88%)、3位が「ある」(動詞、105 件、頻度 11.13%)、4位が「人(人々)」(名詞、102 件、
頻度 10.82%)、5位が「自分」(名詞、101 件、頻度 10.71%)、6位が「仕事」(名詞、88 件、頻度 9.33%)、
7位が「女性(おんな、女、彼女)」(名詞、85 件、頻度 9.01%)、8位が「場(場所)」(名詞、76 件、
235
頻度 8.06%)、9位が「持つ」(動詞、62 件、頻度 6.57%)、10 位が「目指す(めざす)」(動詞、61 件、
頻度 6.47%)となっていて、上位の多くを名詞が占めることが確認できる。これに対して、頻繁に用
いられている形容詞(形容動詞・副詞も含む)については、最上位を占めるものでも、「様々だ(さま
ざまだ、色々だ、多様だ)」(33 件、頻度 3.50%)が、全品詞の頻度ランキングのうち 25 位に位置する
にすぎない。このように、「自己実現」と随伴して目立って用いられる特徴的な単語のほとんどを名
詞が占めることを抑えておく必要がある。裏を返せば、諸々の名詞に注目して分析することが、
「自
己実現」の内実を理解する上では有効だということになる。
B 名詞における随伴的単語の出現頻度の状況
全期間(1918 年∼ 2009 年)を対象として、名詞のみ取り出して行った単語ランキングに注目してみ
ると、「自己実現」(905 回出現、頻度 94.91%)以外では、2位が「社会」(138 回出現、頻度 11.88%)、
3位が「人(人々)」(111 回出現、頻度 10.82%)、4位が「自分」(121 回出現、頻度 10.71%)、5位が「仕
事」(102 回出現、頻度 9.33%)、6位が「女性(おんな、女、彼女)」(106 回出現、頻度 9.01%)、7位
が「場(場所)」(83 回出現、頻度 8.06%)、8位が「子供(子ども、子、児童)」(69 回出現、頻度 6.15%)、
9位が「教育」(69 回出現、頻度 5.51%)、10 位が「能力」(51 回出現、頻度 5.20%)となっていて、以
下 11 位には「人生」(46 回出現、頻度 4.67%)と続く。
まず何より、2位の「社会」という単語の頻出度合の高さは、この単語が係り受け重要単語とはみ
なされなかったことと照らしあわせてみても特筆に値する。具体的な文章に当たってみると、基本的
には、“少子高齢社会の到来や高学歴化の流れのなか、女性も「家族のため」に生きるだけでなく、強
く自己実現を求めるようになってきた”(1999 年 6 月 18 日付、東京朝刊)という表記のように、「自己
実現」と「社会」とが特に直接的な関係を持つこともなく、同時に一文の中で用いられているにすぎな
い場合が多い。だが、「自己実現」と「社会」とが何らかの正負の関係性を持っていることが明らかな
文例も相当に存在している。一方では、“高齢社会の将来像として「生涯を通じて自己実現を達成で
きる社会」などをあげ、健康作りや在宅・施設サービスの拡充など施策の方向性を示した”(2000 年 2
月 24 日付、東京朝刊、栃木 A)といった記事のように、
「社会」の性質を形容する表現の一部として「自
己実現」が用いられることが多い。だが他方では、“ひと昔前まで、日本人に根強くあった「国のため、
社会のため」といった意識が薄れはじめ、自分自身の生き方、充実感を最優先させる「自己実現型」の
人間が生まれ始めている兆しではないかというのだ”(1987 年 3 月 19 日付、東京夕刊)と述べた記事や、
“かつては、「社会の役に立ちたい」との動機で始める「社会貢献型」のボランティアが多かったが、最
近では「友だちが欲しい」「自分を再発見したい」という「自己実現型」が主流”(1993 年 8 月 17 日付、
東京夕刊)といった表記のように、「自己実現」があたかも「社会」と対比的・対立的な関係に位置する
かのように把握されている文例も数多いのである。いずれにせよ、「社会」が「自己実現」の随伴的単
語として見せる極めて多様な姿については、改めて体系的に整理する機会を持つ必要があろう。
また、5位にランクされている「仕事」という単語は、「自己実現」の重要な一面を語る上で欠かし
てはならないキーワードである。実際、「自己実現」の中心的手段として「仕事」を位置づけることが
暗黙の前提になっている場合すら多く、“
「仕事の中でこそ自己実現が図れる」は、71―74 歳では 71%
もあるのに、35―39 歳では 48%”(1997 年 10 月 20 日付、東京朝刊)、“さらに趣味や特技を仕事に結
びつけて自己実現を図るノウハウも示している”(2004 年 1 月 27 日付、東京夕刊)
、“競争に勝つ自信
もないし、自分のしたい仕事を通じて自己実現するのも難しい”(2008 年 7 月 31 日付、東京朝刊)といっ
236
た表記に見られるように、「自己実現の手段としての仕事」という事例は、枚挙に暇がないほど頻出
する。さらに、「社員」
(19 回出現、頻度 2.01%)、「企業」(18 回出現、頻度 1.91%)、「会社」(20 回
出現、頻度 1.80%)などや、
【図表 2-1】に示していないものも含めて、
「組織」(13 回出現、頻度 1.38%)、
「職業」(12 回出現、頻度 1.17%)、
「職場」(10 回出現、頻度 1.06%)、
「就職」(9 回出現、頻度 0.95%)、
「産業」
(5 回出現、頻度 0.53%)、「転職」
(5 回出現、頻度 0.53%)などの諸々の単語を視野に入れて
総合的に判断すると、
「仕事」が「自己実現」の随伴的単語としていかに重要かが再確認できるのである。
他にも、6位にランクされている「女性(おんな、女、彼女)」は、先に見たように係り受け重要単
語の一つでもあることを踏まえると、
「自己実現」の内実の多様性を確認する上で極めて重要な主題
を構成する単語だと言える。たとえば、“男性が利益や名誉を追求するのに対し、女性は夢や自己実
現を求め、地域への貢献を考える”(2001 年 5 月 14 日付、東京夕刊)という一文のように、「男性」と
の対比で「女性」が主題化されることが頻繁にある。また、8位の「子ども」や 17 位の「育児(子育て)」
(37 回出現、頻度 3.50%)と同時に用いられる形で「女性」が主題化されている文例も多い。たとえば、
“ 個」を重視する時代に育った今の女性は、母親であるということだけでは満足できず、育児以外の
「
場所で自己実現を図りたいという気持ちが強い”(2005 年 5 月 7 日付、大阪朝刊、徳島)という表記は、
「社会とのつながり」という文脈において「女性の自己実現」へと展開していくものにもなっていて、
結果的に「仕事」というキーワードとも絡みあうことになることが多い。
なお、3位にランクされている「人(人々)」という単語は、主題が何であれ頻繁に用いられる単語
だと言えるのに対して、4位にランクされている「自分」は、「自己実現」を主題とするがゆえに頻繁
に用いられる運命を辿った日常用語だとみなしてよい。たとえば、“自分にあるものを生かして、自
己実現しようと頑張ることが大切じゃないかしら”(2001 年 2 月 24 日付、大阪夕刊)といった一文には、
「自分」が「自己実現」を語る際の前提に位置する随伴的単語であることが読み取れよう。それどころか、
“ 顔のない日本」とか「集団主義の国」などといった評のある中で、ひたすら「自分らしさ・自分なり
「
の個性」など自己実現を追い求める若者の姿は頼もしい”(1995 年 7 月 13 日付、東京朝刊)、“自分も
変われるかもしれない、自己実現ができるかもしれないと思った”(2000 年 10 月 14 日付、東京朝刊、
福島 2)といった幾つかの記事の中の文章に象徴されるように、「自分」という単語は「自己実現」を定
義する際の中心に位置するキーワードの役割を果たすことすらあるのである。
C 動詞における随伴的単語の出現頻度の状況
全期間(1918 ∼ 2009 年)を対象として、動詞のみ取り出して行った単語ランキングに注目してみる
と、1位が「ある」(117 回出現、頻度 11.13%)、2位が「持つ」(65 回出現、頻度 6.57%)、3位が「目
指す(めざす)」(62 回出現、頻度 6.47%)、4位が「考える」(59 回出現、頻度 6.15%)、5位が「図る」
(59 回出現、頻度 6.04%)、6位が「思う」(62 回出現、頻度 5.83%)、7位が「求める」(55 回出現、頻
(36 回出現、頻度 3.61%)、9位が「する」(32 回出現、頻度 3.39%)、10 位
度 5.73%)、8位が「働く」
が「生きる」(35 回出現、頻度 3.29%)となっている。
先にも見たように、「自己実現」という単語に直につながるような係り受けを見せる「図る」や「求め
る」については注目しなければならない。他方で、「ある」や「持つ」といった動詞は、英語で言う「Be
動詞」や「Have 動詞」に該当し、主題が「自己実現」であろうとなかろうと頻繁に用いられる日本語だ
と考えてよい。同様に、「する」という動詞も、英語の “do” や “play” に該当するものであり、日常的
に頻繁に用いられる単語である。さらに、「考える」や「思う」も、主題が何かであるかにかかわらず、
237
日常的に頻繁に用いられる。よって、これらの動詞は、特徴的な係り受けが無い限りは、「自己実現」
に特有の随伴的単語だとは考えにくいので、取り急ぎ除外しておいてよい。
しかしながら、8位の「働く」という単語には注目すべきである。というのは、先に名詞の項目で「仕
事」という項目の多さに注目する必要があったが、その関係で言えば、
「自己実現」という単語が「仕事」
や「働く」という文脈で用いられる度合いが高いという考え方が補強されているからである。たとえば、
“家庭を優先させつつ自己実現のために仕事をしたいと考える普通の主婦にこのような働き方は好都
合だし、その後のステップになる”(1989 年 6 月 26 日付、東京朝刊)、“特定分野のエキスパート職は、
近年、職員の間で自己実現可能な働き方を重視する傾向が強まっていることから創設する”(2006 年
1 月 5 日付、西部朝刊)といった表現の中に、「自己実現」と「仕事」および「労働」との正の連動性を読
み取ることができる。ただし一方で、“まじめに働いてきた障害者に遊ぶ楽しみを知らせ、それを通
じて、受け身ではない自己実現の力をつけてもらいたい”(1996 年 6 年 15 日付、東京朝刊)という表
現に見られるように、
「働くこと以外を媒介とした自己実現」の可能性が探られていることも補足し
“ 仕事=自己実現」
ておきたい。また、
「働き方」という課題は「生き方」にも自ずとつながっていくが、「
の洗脳 生きる意味求める現代人”
(2007 年 2 年 21 日付、東京朝刊)という表記に象徴されるように、
「働
く」という単語は、10 位にランキングされた「生きる」という動詞とも相当に連動していると考えてよ
い。
D 形容語における随伴的単語の出現頻度の状況
全期間(1918 年∼ 2009 年)を対象として、「形容詞」(形容詞はもちろん形容動詞・副詞も含んだ形
容語)のみ取り出して行った単語ランキングに注目してみると、1位が「様々だ(さまざまだ、色々だ、
多様だ)」(34 回出現、頻度 3.50%)であり、2位が「大切だ(重要だ、大事だ)」(31 回出現、頻度 3.29%)、
3位が「新しい(新ただ)」(29 回出現、頻度 2.86%)、4位が「多い」(27 回出現、頻度 2.86%)、5位
が「豊かだ」(26 回出現、頻度 2.76%)、6位が「ない」(23 回出現、頻度 2.44%)、7位が「強い」(22
回出現、頻度 2.33%)、8位が「必要だ」
(16 回出現、頻度 1.59%)、9位が「高い」
(13 回出現、頻度 1.38%)、
10 位が「少ない」(10 回出現、頻度 1.06%)と「積極的だ」(10 回出現、頻度 1.06%)と「大きい」(11 回
出現、頻度 1.06%)となっている。
ここで注目すべきは、「様々だ(さまざまだ、色々だ、多様だ)」という形容語が1位にランクされ
たことに象徴されるように、「自己実現」が「多様性」に関連した文脈で用いられがちなことである。
たとえば、“学校は、上昇志向の手段としての「将来の投資」の場から、今を十分に、かつ多様に生き
ることをも求める「現在の自己実現」の場へと、その性格を変えつつある”(1996 年 2 月 6 日付、東京
朝刊)という一文からは、自己実現それ自体が多様性を内包した概念であることが示唆される。また、
“色々な個性を持つ人が自己実現を”(2001 年 4 月 4 日付、大阪朝刊、広西北)というキャッチフレー
ズ的な見出しからは、
「自己実現に至るための筋道」には個々人が多様であることが必要条件である
という主張が見え隠れしていると言える。他にも、「自己実現の結果」として「多様化」が生じる可能
性といった諸々のパターンを意識しつつ「多様性」というテーマを深めていくべき余地が残されてい
るのである。
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まとめにかえて
本稿には、結果的に筆者の従来の仮説的成果が補強されたという側面もあったが、漠然と感じてい
たことについて明確な根拠を得ることができたという面もある。そして、これらは、テキストマイニ
ングという手法を用いたからこそ発見し確信できたことである。むろん、テキストマイニングが万能
薬だというわけではないので、この手法を用いても明るみに出せないことが多々あることは言うまで
もない。だが、筆者は、テキストマイニングソフトの限界性を強調する資格があるほど、本稿ではそ
れを使いこなして研究を行ったわけではない。機会を改めて、この手法を用いた別の研究成果を発表
することになろう。
−注・引用文献−
1)たとえば、「自己実現」という日本語が、第二次世界大戦前の時期に「国家のための自己犠牲」と
いう意味合いを持たされたことがある。これの具体的展開については、筆者は、以下の報告書など
で論述している。佐々木英和『「自己実現」言説の歴史社会学−特に思想の輸入・受容過程に焦点を
当てた実証研究−』
(平成 17 ∼ 20 年度 科学研究費補助金 基盤研究 ( C ) 課題番号 17530605 研究成
果報告書)、2009 年。
2)佐々木英和「自己実現概念の歴史的変容を実証するための予備的考察−データベース分析を目安
として生かした発見的研究−」、宇都宮大学教育学部編『宇都宮大学教育学部紀要』第 61 号第 1 部、
2011 年 3 月所収、145 ∼ 158 頁。
3)石井一夫『図解 よくわかるデータマイニング』、日刊工業新聞社、2004 年、i 頁。
4)那須川哲哉『テキストマイニングを使う技術/作る技術』、東京電機大学出版局、2006 年、1 頁。
5)このソフトを用いてテキストマイニングについて解説した入門書としては、以下を参照のこと。
三室克哉・鈴村賢治・神田晴彦『顧客の声マネジメント―テキストマイニングで本音を「見る」』、オー
ム社、2007 年。
(平成 23 年 10 月 3 日受理)
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