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ジカウイルス感染症 愛知医科大学病院 感染症科 三鴨廣繁 2016 年8 月

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ジカウイルス感染症 愛知医科大学病院 感染症科 三鴨廣繁 2016 年8 月
ジカウイルス感染症
愛知医科大学病院 感染症科 三鴨廣繁
2016年8月にブラジルのリオデジャネイロで開催さ
れる第31回夏期オリンピックを前にして、中南米諸
国を中心に問題となっている ジカウイルス感染症
は、フラビウイルス科フラビウイルス属のジカウイ
ルス に よる 蚊 媒 介 感 染 症 で あ る 。 ジ カ ウ イルス
は、1947年にウガンダのZika forestのアカゲザルから
初めて分離されたウイルスである 。ジカウイルス感
染症は、2016 年1月25 日に世界保健機関(WHO )
が、ブラジルなど中南米で広がっている ジカウイル
スが、 南米・北米一帯に広がる可能性があると警告
した。さらに、WHOは、2016年2月1日に小頭症およ
びその他の神経障害の集団発生に関して「国際的に
懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC )」を
宣言した。これを受けて、日本でも2016年2月5日に
感染症法上の4類感染症に指定され、ジカウイルス病
と先天性ジカウイルス感染症に病型分類された。
ジカウイルス病は、 ミクロネシア連邦ヤップ島で
の流行(2007年)、フランス領ポリネシアでの流行
( 2013 年 ) 、 2014 年 に は イース タ ー 島 で の 流 行
(2014年)、ブラジルおよびコロンビアを含む南ア
メリカ大陸での流行(2015年)が発生している。一
方、日本では、現在までのところ、ポリネシア・ボ
ラボラ島滞在歴があった2例およびタイのサムイ島に
滞在歴があった1例の計3例が確認されているのみで
ある。
疫学
フランス領ポリネシアでのジカウイルス病 の流行
時、ギラン・バレー症候群の症例数の増加が報告さ
れた。2015年にはブラジル、エルサルバドル、 2016
年以降にはコロンビア、スリナム、ベネズエラ から
も同様の報告があり、ジカウイルス感染とギラン・
バレー症候群との関連が疑われている。
ブラジルでは、妊娠中のジカウイルス感染による
胎児の小頭症との関連が疑われている。 2015 年11
月17日、胎児が小頭症と確認された妊婦の羊水から
ジカウイルス遺伝子が検出され、 11月28日には出産
後まもなく死亡した小頭症の新生児の血液および組
織からジカウイルス遺伝子が検出された。 ブラジル
保健省は、ジカウイルス感染と小頭症の流行に関連
があると発表し、5000人近い小頭症が疑われる胎児
または新生児が報告されたとしている。しかも、ジ
カウイルスとの関連が疑われる小頭症児における眼
所見の異常も報告されている。
ジカウイルス感染症の臨床所見
ジカウイルス病の潜伏期は 2 ∼12 日(多くは2 ∼7
日)とされている。発症者は、主として軽度の発熱
(<38.5 ℃)、頭痛、関節痛、筋肉痛、斑丘疹、結
膜炎、疲労感、 怠感などを呈し、血小板減少など
が認められることもあるが、一般的に、他の蚊媒介
感染症であるデング熱、チクングニア熱より軽症と
いわれている。また、不顕性感染が感染者の約8割を
占めるとされる。
ジカウイルス病の感染経路
主たる感染経路は、蚊によるジカウイルスの媒介
であり、ヤブカ属に属するネッタイシマカやヒトス
ジシマカが媒介蚊として確認されている 。ヒトスジ
シマカは日本にも生息している。
その他の感染経路として、胎内感染の発生が複数
認められており、また輸血、性行為による感染が疑
われる事例も報告されている。性行為による感染も
疑われている。精液中のジカウイルスに関しては、
発症62 日後にPCR 法によりウイルス遺伝子が検出さ
れたとの報告があるが、性行為による感染がどの程
度の頻度で発生し、精液中にジカウイルスが どの程
度の期間残存するかについては、明らかな知見は現
在までのところ得られていない。
ジカウイルス感染症の診断方法
特異的な臨床症状・検査所見に乏しいことから、
ウイルス学的診断が決め手 となる。主要な検査方法
は遺伝子検査法によるウイルス RNAの検出(血液、
尿)である。ジカウイルス特異的IgM/IgGのELISAに
よる検出法も報告されている。 デングウイルス IgM
との交差反応が認められる症例もあるため、結果の
解釈には注意が必要である。中和抗体価を測定すれ
ばデングウイルス感染とジカウイルス感染は血清学
的に鑑別できる。急性期と回復期のペア血清での測
定が重要である。
我々はどのように対応すべきか
中央および南アメリカ大陸、カリブ海地域では今
後もしばらくはジカウイルス病の発生が続くことが
予想されるため、今後、前述した流行地からの帰国
者が国内でジカウイルス感染症と診断される症例が
発生する可能性も考えられるため、渡航地および渡
航地での活動内容に関する詳細な問診が重要とな
る。
ジカウイルス病は 、多くが軽症例であるが、母子
感染による胎児の小頭症との関連性、性交渉での伝
播の可能性が明らかなるまで、現時点では、可能な
限り妊婦および妊娠の可能性がある人の流行地への
渡航は控えた方が良いと言わざるを得ない。
今後は日本においても産婦人科や小児科を中心と
して小頭症の発生状況のモニタリングとその病因検
索支援が必要であると考える。また、輸血による感
染伝播を予防するため、海外からの帰国日から4週間
以内の献血自粛を遵守することも重要である。ま
た、ギラン・バレー症候群との関連性が疑われてい
ることは臨床医として認識しておく必要があると考
える。さらに、流行地から帰国した男性でパートナ
ーがいる場合は、妊娠中、あるいは妊娠の可能性の
ある女性と性行為を行う場合、帰国後28日間はコン
ドームを使用することが推奨される。ジカウイルス
病に合致する臨床症状を認めたか、ジカウイルス病
と確定診断した場合は、6か月間のコンドームの使用
を推奨される。
国内のヒトスジシマカがジカウイルスの媒介蚊と
なり、2014年のデング熱の国内流行と同様に輸入例
を発端としたジカウイルス病の国内流行が発生する
可能性は否定できない。
参考文献
1. IASR (2014年2月号). フランス領ポリネシア・ボラ
ボラ島帰国後にZika feverと診断された日本人旅行者
の2例.
2. IASR (2014 年10 月号). タイ・サムイ島から帰国後
にジカ熱と診断された日本人旅行者の1例.
3. PAHO/WHO. Epidemiological Alert-Neurological
syndrome, congenital anomalies, and Zika virus infection.
1 December 2015.
4. PAHO/WHO. Epidemiological Update-Neurological
syndrome, congenital anomalies, and Zika virus infection.
17 January 2016.
5. ECDC. Rapid Risk Assessment-Microcephaly in Brazil
potentially linked to the Zika virus epidemic. 24
November 2015.
6. WHO. Information for travelers visiting Zika affected
countries. 12 February 2016.
7. de Paula Freitas B, de Oliveira Dias JR, Prazeres J et al;
Ocular Findings in Infants With Microcephaly Associated
With Presumed Zika Virus Congenital Infection in
Salvador, Brazil. JAMA Ophthalmol. 2016 Feb 9. doi:
10.1001/jamaophthalmol.2016.0267.25.
8. WHO. Zika Situation Report – Zika and Potential
Complications. 12 February 2016.
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