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植物からガラスを作る

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植物からガラスを作る
植物からガラスを作る
-科 学 技 術 と 伝 統 技 術 の 融 合 に 向 け て 東京 都立科 学技 術高 等学 校
科学 研究 部
相川 幸平 、猪 股 悟 、原 田 一 太郎
はじめに
科 学 研 究 部 の 先 輩 た ち は 、こ れ ま で「 植 物 を 利 用
し た 環 境 浄 化 」の 研 究 に 取 組 ん で き ま し た 。私 た ち
の グ ル ー プ は 、そ こ か ら 学 び 植 物 が 吸 収 す る 二 酸 化
ケ イ 素 SiO 2 に 焦 点 を あ て て 、そ の 元 素 を 取 り 出 す こ
とでガラスをつくるという研究に取組みました。
また、都立科学技術高校のある江東区は、伝統
工芸技術である「江戸切子」の継承地域です。科
学 と 工 業 技 術 を 学 ぶ 私 た ち は 、地 元 の 伝 統 の 技・匠
「 江 戸 切 子 」を 学 び な が ら 、授 業 で 取 り 上 げ ら れ て
い る「 も の づ く り の 大 切 さ 」に つ い て 考 え ま し た 。
江戸切子
ススキ
1.課題の設定
植 物 が 化 学 物 質 を 吸 収 す る と い う こ と は 先 輩 た ち の 実 験 か ら 実 証 さ れ 、現 在 先 輩 た
ち の グ ル ー プ は 、重 金 属 を 植 物 に 吸 収 さ せ て 植 物 か ら 金 属 を 取 り 出 す 研 究 に 取 組 ん で
い ま す 。私 た ち は 、い く つ か の 植 物 が 持 っ て い る 性 質 の 中 で 、ス ス キ が 二 酸 化 ケ イ 素
( 以 下 、SiO 2 )を 吸 収( 含 有 し て い る )す る ? と い う 調 査 か ら 研 究 を 進 め ま し た 。そ
し て 、ス ス キ が SiO 2 を 吸 収 し て い る と す れ ば そ れ を 利 用 し た ガ ラ ス づ く り に 挑 戦 し ま
した。
実 用 的 な ガ ラ ス は 、 一 般 的 に け い 砂 ( け い 石 ) SiO 2
が 主 原 料 で 、 石 灰 石 CaCO 3 、
ソ ー ダ 灰 Na 2 CO 3 が 副 原 料 で あ り 、約 1400~ 1600℃ で 加 熱 、融 解 し 成 型 し て い ま す 。そ
の 主 原 料 を 自 然 界 の 植 物 か ら 取 り 出 し 、工 業 材 料 と し て の 有 効 利 用 を 考 え ま し た 。そ
し て 、地 元 の カ ッ ト グ ラ ス「 江 戸 切 子 」の ガ ラ ス 材 料 と そ の 技 法 を 学 ん で 、自 分 た ち
が自然から取り出した材料で、カットグラスを製作してみたいと考えました。
2.研究の目的とその内容
本 校 に は「 科 学 技 術 と 人 間 」と い う 科 目 が あ り ま す 。そ の 中 で は 人 間 の 生 活 に 必 要
不 可 欠 な 科 学 技 術 を 、縄 文 時 代 の 技 術 か ら 、現 代 の 最 新 の 技 術 ま で の 歴 史 を 機 械・電
気 ・ 化 学 の 各 分 野 で 学 ん で き ま し た 。 そ こ で は 縄 文 人 が 硬 度 の 高 い ヒ ス イ (硬 度 9)に
穴 を 開 け て い た こ と を 、 滑 石 (硬 度 1)を 利 用 し て 実 験 し 、 物 質 と し て の 堅 さ や 穴 あ け
の 技 法 に つ い て 学 ん で き ま し た 。そ し て 現 代 の 新 し い 技 術 の す ば ら し さ や 問 題 点 な ど
を学ぶことができました。そこで研究の目的を次のように考えました。
①科学技術の新しい発想と伝統の技術を結びつける。
②先輩たちの行った「植物を利用した実験」の応用研究を行う。
③ 自 然 界 か ら 、社 会 生 活 に 役 立 つ 工 業 材 料 の 利 用 を 考 え 、一 般 の ガ ラ ス と の 違 い を
明らかにする。
④基本的な化学実験をマスターし、最新機器を利用した分析が できるように する。
⑤ 名 工 の 技 法 を 学 び 、材 料 と し て の ガ ラ ス や「 江 戸 切 子 」の 素 晴 ら し さ を 体 験 す る 。
3.研究の方法
本 当 に 植 物 か ら 工 業 材 料( SiO 2 )と し て 利 用 で き る の か 検 討 が つ か ず 、先 輩 や 先 生
と も 検 討 の 結 果 、ま ず は ス ス キ を 採 取 す る こ と に し ま し た 。実 験 方 法 や 計 画 は 、春 か
ら 考 え て い ま し た が 、夏 を 過 ぎ な い と ス ス キ が 採 取 で き な か っ た の で 、次 の 順 序 で 実
験を始めることにしました。
① 自 然 界 に SiO 2 を 含 有 し て い そ う な も の は な い か・・・ス ス キ の ほ か 、砂 に 決 定 。
② ど の よ う に SiO 2 を 取 り 出 す か
・・・焼却、電気炉で融解。
③ススキ・砂を溶かし、型へ流す方法 ・・・セッコウ型、ステンレス
型、セラミ
ッ
④ 分 析 方 法・ カ ッ ト グ ラ ス と し て の 材 料 づ く り
ク
皿
・・・ 蛍 光 X 線 分 析 、電 子 顕 微 鏡
ス ス キ の 季 節 が く る ま で 、砂 か ら の ガ ラ ス 製 造 が 可 能 か を 実 験 し ま し た 。川 砂 と 学
校 に あ っ た 鋳 造 用 の 砂 の 2 種 類 の 材 料 を る つ ぼ に 入 れ バ ー ナ ー で 融 解 。次 に 別 の る つ
ぼ と 他 の 材 質 の 容 器 に 入 れ 、 電 気 炉 で 800~ 1000℃ と い う よ う に 温 度 を 変 え 、 原 料 が
融 解 す る 最 適 温 度 を 見 つ け だ し ま し た 。最 終 的 に は 1280~ 1400℃ で 融 解 し ま し た 。さ
ら に 一 般 に 利 用 さ れ て い る ソ ー ダ ガ ラ ス の 調 合 に あ わ せ て 、 Na 2 CO 3 と CaCO 3 を 砂 に 混
合し、融解しました。
ススキとススキ干し
蛍光X線分析
ス ス キ の 採 取 は 河 原 、線 路 の 土 手 に 部 員 全 員 で 何 度 も 出 か け 、ビ ニ ー ル 袋 い っ ぱ い
に ( 18L×10袋 ) 採 取 し ま し た 。 2 週 間 ほ ど 天 日 干 し を し て 、 自 然 乾 燥 さ せ 、 一 斗 缶
で 焼 却 し 、炭 化 し た 灰 を 集 め 粉 砕 し ま し た 。ガ ラ ス の 融 解 、流 し 込 む 型 と し て は 、る
つぼ、セッコウ、ステンレスを利用しました。
4.研究の結果
る つ ぼ や 電 気 炉 で 砂・ス ス キ の 灰 を 融 解 す る こ と で 、両 方 と も ガ ラ ス 状 に な っ て い
ま し た 。 高 温 で 融 解 す る だ け で も ガ ラ ス が 出 来 上 が っ て い た の で す 。 さ ら に 、 Na 2 CO
3 や CaCO 3 を 混 ぜ た 場 合 、 融 解 の 温 度 が 少 し 下 が っ た よ う で す 。
蛍光X線分析表
取り出したガラス
みんなの作品
表1
各ガラスの分析表
組成(%)
Pb Si Al
K
Fe
S
Ca
考
察
割れた窓ガラスの組成
-
52.3 8.6 3.5
0.8
1.7 32.9
江戸切子(一般用)
-
60.6 10.7 -
-
-
9.3 に 、 江 戸 切 子 の ク リ ス
-
4.3
2.7 タ ル は Pbを 含 む 。
江 戸 切 子 ( ク リ ス タ ル ) 42.7 30.7 3.9 14.3
川
砂 (融 解 前 )
組成から分かるよう
-
44.8 27.7 2.8 13.1 1.3
8.2
川 砂 (融 解 後 : ガ ラ ス )
-
39.8 24.3 6.8 15.8 1.1
9.3 よ り Siが 多 い 。
鋳 造 用 砂 (融 解 前 )
-
56.3 26.7 7.6
鋳 造 用 砂 (融 解 後:ガ ラ ス ) -
3.1
1.1
53.1 19.2 12.3 8.8
2.1
2
ススキは、乾燥した
も の で も38%とSiが 多
ススキ(生)
-
38.4
-
44.3 0.5
8.8
ス ス キ (焼 却 灰 )
-
25.5
-
47.5
1
1.7 21.1 晴 ら し い 色 だ っ た 。
25
-
34
5.6
ス ス キ( 融 解 後:ガ ラ ス ) -
組 成 (%)
川
4.1
鋳造用の砂は、川砂
砂 + Na 2 CO 3 + CaCO 3
7.2 く 、 ガ ラ ス に な る と 素
0.6 3 1 .
Pb Si Al K Fe S Ca
- 36.2 12.5 5.9 20.5 1.1 21.6
鋳 造 砂 + Na 2 CO 3 + CaCO 3
-
45.2 12.2
ス ス キ + Na 2 CO 3 + CaCO 3
-
19.6
ス ス キ + P b + N a 2 CO 3 + Ca CO 3
62.7
5.5
8
考
察
化合物を調合した結
6.8
1.4 24.3 果 で あ る 。 全 体 的 に 融
-
34.1 5.1
1.5 36.7 解 さ せ る 温 度 が 低 く な
-
13.9 0.62 6.22 8.67 り 、融 解 し や す か っ た 。
( 実 験 の 調 合 の 割 合 : 原 料 : Na 2 CO 3 : CaCO 3
( 実 験 の 調 合 の 割 合 : 原 料 : Pb: Na 2 CO 3 : CaCO 3
= 75: 15: 10)
= 25: 45: 20: 10)
型 取 り 、型 流 し は 、電 気 炉 の 温 度 を 2 ~ 3 時 間 か け て 徐 々 に 落 と し ま し た が 、る つ
ぼ ( 磁 性 ) は す べ て 割 れ 、 ス テ ン レ ス ( Cr+Ni) の 場 合 も ボ ロ ボ ロ に な り ま し た 。 そ
の 他 セ ラ ミ ッ ク を 含 め 、い ろ い ろ な 容 器 で 溶 解 さ せ た も の の 、容 器 に 溶 け 込 む 状 態 で
固 ま り 、離 型 剤 と し て ア ル ミ ナ を 利 用 し ま し た が 失 敗 で し た 。自 然 界 の 原 料 に 含 ま れ
て い る 金 属 元 素 の 溶 け る 温 度 (融 点 )は 、Fe(1535℃ )、Al(660℃ )、Si(1414℃ )、K(63℃ )、
Ca(848℃ ) な ど で あ り 、そ れ ぞ れ 温 度 が バ ラ バ ラ な た め 成 型 が 難 し い と 考 え ら れ 、今
後も研究が必要です。
5.成
果
実 験 か ら 、土 手 や 河 原 に 大 量 に 生 え て い る 植 物 の ス ス キ や 自 然 界 の 砂 か ら 、工 業 材
料 で あ る ガ ラ ス を 取 り 出 す こ と が で き ま し た 。砂 の 場 合 は 、け い 砂 の 存 在 が 予 想 で き
た の で 、ガ ラ ス が で き る か も し れ な い と い う 期 待 は も て ま し た が 、植 物 で あ る ス ス キ
からガラスができたことは、グループ全員・部員、先生方も驚いていました。
スス キは秋 には群 生し て生え てい ます。(自宅の 裏のス スキの 処理 に困っ てい る先
生 も い ま し た )今 回 は 、 2 週 間 天 日 干 し を し て 乾 燥 さ せ 、 焼 却 さ せ た 灰 を 粉 砕 し 、 さ
ら に 高 温 で 焼 却 し( 温 度 調 節 が 必 要 )ガ ラ ス を 得 る こ と が で き ま し た 。こ れ を 工 業 材
料 の 一 つ と し て も 利 用 で き な い で し ょ う か 。ま た 、カ ッ ト ガ ラ ス の 材 料 と し て の 利 用
を 一 つ の 目 的 に し て い ま し た が 、セ ッ コ ウ 会 社 や 東 急 ハ ン ズ 、他 校 の 先 生 に 聞 い て も
型としての材料が見つからずうまくいきませんでした。やはり自然界の植物です。S
i、 Ca、 Naな ど の 他 に Feな ど 多 く の 金 属 を 含 む た め に 、 色 が 違 う だ け で な く 、 一 般 的
なガラスの融解のようにはいきませんでした。
型 に す る 金 属 の 融 解 温 度 と ス ス キ ガ ラ ス の 融 解 温 度 、そ し て 成 型 を す る 温 度 等 、昨
年 の 春 か ら 計 画・準 備 し て き た 研 究 で す が 、も う 少 し 時 間 を か け て 、金 属 不 純 物 を 含
有しているススキガラスを成型できる材料の研究もしていかねばと考えています。
化 学 的 な 研 究 は 、一 つ の 結 論 を 得 ま し た が 、や は り も う 一 つ の 大 き な 経 験 は 、匠 の
技 を 体 験 で き た こ と で し た 。今 回 は 砂 、ス ス キ ガ ラ ス と も カ ッ ト を 入 れ ら れ る ほ ど の
形 を 作 る こ と が で き ま せ ん で し た 。今 後 形 と し て 残 せ る 自 然 ガ ラ ス を 作 り 、「 江 戸 切
子 」の 技 術 に 挑 戦 す る 予 定 で す 。そ の 時 ま で に カ ッ ト グ ラ ス の 材 料 に な る ス ス キ ガ ラ
ス材料を作成したいと思っています。
植 物 か ら 金 属 元 素 を 取 り 出 し 、工 業 材 料 と し て 利 用 す る と い う 研 究 は 一 歩 前 進 し ま
し た 。分 析 結 果 に 示 し た よ う に 、江 戸 切 子 で 利 用 さ れ る ガ ラ ス は 鉛 ガ ラ ス で す 。ソ ー
ダ ガ ラ ス で も よ い の で す が 、カ ッ ト し や す い (少 し 軟 ら か い )と い う 理 由 で 、カ ッ ト は
鉛 ガ ラ ス が 一 番 な の で し ょ う 。ガ ラ ス の 素 材 に よ っ て も 、カ ッ ト 技 術 に も 影 響 が あ る
ようです。
6.課
題
今 回 の 研 究 で 課 題 と な っ た の は 、ス ス キ や 砂 を ど の よ う な 容 器 で 融 解 し て ガ ラ ス を
得 、型 に 流 し 込 む か と い う こ と 。こ れ に 今 回 も っ と も 時 間 が か か り 、失 敗 の 毎 日 で し
た 。分 析 の 結 果 か ら 、Fe、Al、Si、K、Ca、S、な ど 様 々 な 金 属 の 存 在 が 確 認 で き ま し
た。ススキガラスに含まれる、金属の種類による融解(融点)の違いを考えながら、
試 薬 を 混 ぜ る 割 合 、融 解 に 適 し た 容 器 や 時 間 な ど を 検 討 し 、江 戸 切 子 に 利 用 で き る よ
う な 、質 の 良 い ガ ラ ス を 植 物( ま だ ま だ よ い 素 材 の 植 物 が あ る か も し れ ま せ ん )か ら
つくりたいと考えています。
実験2
動機と目的
実験2の最終目標は、透明な板ガラスにしました。
1
実験の下準備(ススキの用意)
前回同様に、私達の高校の近くの河川敷から刈ってきたススキを燃やして灰にし、材料
としました。以降、「ススキ灰」と表記する場合はこのススキを燃やして得られた灰を指
す事とします。注釈で(鉄分抜き)とした場合は、磁石を用いてススキ灰に含まれている
鉄分(砂鉄)を取り除いたものを指します。
2
実験方法
ススキ灰の他に酸化鉛(Ⅳ)、四ホウ酸ナトリウム、炭酸ナト
リウム、炭酸カルシウム、シリカゲル等を混合しるつぼや自作
した容器に入れ、加熱・融解させた後冷却・凝固させました。
混合中の試料
↑実験風景
実験1
るつぼとガスバーナーを用いてガラスを作る
まず最初に、「本当にススキ灰から透明なガラスを作ることが出来るのか」という事を
調べる必要がありました。最初はるつぼを用い、成型の事は考えずに実験を始 めました 。
以下はその実験データです。NO.は実験を行った順になっています。
「原料」というのはガラス作成の際に使用した物質のことで、単位はグラムです。
NO.1
原料
酸化鉛:6.7
四ホウ酸ナトリウム:4.0
ススキ灰:1.3
結果
○濃緑色のガラスが出来た。鉛が分離しているようで、直径 5mm程の鉛と見られる塊が
出来ていた。
NO.2
原料
酸化鉛:2.0
炭酸ナトリウム:0.5
炭酸カルシウム:0.3
ススキ灰:2.5
結果
○NO.1 に比べ、薄い緑色をしたガラスが出来た。NO.1 に同じく、鉛と見られるものが分
離している。
NO.3
原料
酸化鉛:4.5
ススキ灰:2.5
炭酸ナトリウム:2.0
炭酸カルシウム:1.0
四ホウ酸ナトリウム:4.0
結果
○薄い黄色のガラスが出来た。鉛が分離しているようだが、過去 2 回に比べ鉛の量が少な
い。
NO.4
原料
酸化鉛:4.0
ススキ灰:2.5
炭酸カルシウム:1.0
結果:
○黒くくすんだ色のガラスが出来た。火力が低かった事が原因と見られる。
NO.5
原料
酸化鉛:4.4
四ホウ酸ナトリウム:8.0
ススキ灰:2.5
結果
○クリーム色(?)になった。薬さじでかき混ぜすぎ、結果として温度が下がってしまっ
たのが原因と見られる。
NO.6
原料
酸化鉛:3.0
ススキ灰:2.5
炭酸ナトリウム:2.0
炭酸カルシウム:1.0
結果
○NO.4 と同じく、黒ずんだ色のガラスが出来た。火力が低かったためと思われる。
NO.7
原料
酸化鉛:4.7
四ホウ酸ナトリウム:4,0
ススキ灰:1.3
炭酸ナトリウム:2.0
結果
○結晶部分は黄緑色。クリーム色の部分については NO.5 の色に近い。
NO.8
原料
酸化鉛:4.7
四ホウ酸ナトリウム:4.0
ススキ灰:1.3
炭酸ナトリウム:2.0
炭酸カルシウム:2.0
結果
○黒ずんだガラスが出来た。火力が低かったためと思われる。
NO.9
原料
酸化鉛:6.7
四ホウ酸ナトリウム:4.0
砂(鋳造用):1.3
結果
○きれいな黄色のガラスが出来た。鉛の分離もほぼ無し。
NO.10
原料
酸化鉛:5.7
四ホウ酸ナトリウム:4.0
ススキ灰:1.3
シリカゲル:2 粒
結果
NO.1 と酷似している。コバルトに意味は無かったようである。
NO.11
原料
酸化鉛:4.7
四ホウ酸ナトリウム:4.0
ススキ灰:1.3
シリカゲル:5 粒
結果
NO.10 に比べて多少色は薄くなったが、まだ濃緑色と言える。鉛も分離していた。
・色に関しての考察
今回の調合した試料では写真の通り、完全に色を消し、透明な板ガラスを作ることは出
来なかった。全体的に緑がかった色をしたガラスが多かったのでコバルト(シリカゲルで
代用)を混合したが、結局色が消えることはなかった。
そこで、鉄分が原因で緑色を呈しているのではないかと思い、鉄分を取り除いた後電気
炉で原料を融解させ、鉄分を含まないガラスを作成することにした。
電気炉を使う理由はガスバーナーだと均一に熱を伝えることが困難な上に、自然冷却の
際にるつぼが割れてしまうからである。電気炉を使うことにより厳密な意味での対照実験
ではなくなるが、今回は時間がなかった上に、これに代わる方法がなかった。
・るつぼに関しての考察
どの試料でも一応はガラスが出来ることが確認出来た。しかし、下の写真のように試料
同士がうまく混ざっていないと熱がうまく伝わらず、原料が溶けないという事がわかった。
↑失敗作。熱を加えても溶けなかった
また、加熱が終わった後の冷却の段階でるつぼの底が抜けてしまった。急激な温度変化
が原因で割れてしまったと考えられる。徐々にバーナーの火を弱めて、熱疲労を防ごうと
試みたが、どうしても割れてしまった。しかし、火力が低かった NO.8 は割れずに成功し
た。
・鉛の分離
今回の調合した殆どの試料に、鉛の分離が確認された。るつぼで加熱した場合 に於て 、
途中でるつぼを振り混ぜても、鉛が分離してしまった。しかし分離したのは全てススキ灰
を用いた場合であり、ススキ灰の代わりに鋳造用の砂を用いた NO.9 では鉛の分離が殆ど
見られなかった。
以上が実験 1:るつぼとガスバーナーを用いてガラスを作るに関しての考察です。
時間及びるつぼのストックに制限があった為、細かい対照実験は行えませんでしたが
大体の感じはつかめてきたのでそれに基づき原料を決め、電気炉を使っての本格的なガラ
ス作成に入ります。
予備実験的な実験 1:に比べ、より完成度が高くなります。
実験 2
電気炉を用いてガラスを作る
・るつぼを用いた場合
電気炉を使ってガラスを作るに当たり、最初に今まで通りのるつぼを使って加熱するこ
とにしました。
加熱時間と温度設定は以下の通りです。
40℃から 3 時間かけて 1200℃まで上げ、30 分間保ったのち 12 時間かけて 40℃まで冷
ます。
るつぼは温度変化に弱く、ガスバーナーを用いると冷却時に割れてしまう事から、冷却
には長時間費やすことにしました。
以下は実際に加熱した試料の分量と写真です。今回はるつぼA、B、Cの 3 種類を同時
に加熱しました。
るつぼA
原料
酸化鉛:6.7
四ホウ酸ナトリウム:4.0
ススキ灰:1.3
炭酸ナトリウム:1.5
るつぼB
原料
酸化鉛:6.7
四ホウ酸ナトリウム:4.0
ススキ灰:1.3
炭酸カルシウム:1.5
るつぼC
原料
酸化鉛:6.7
四ホウ酸ナトリウム:4.0
ススキ灰:1.3
結果
上記の条件で加熱をしたが、るつぼ全ての底に穴が開き、ガラスが流れ出してしまった。
るつぼの下に敷いた素焼板は非常に目の粗い多孔質になっており、るつぼの底が均等に熱
せられなかったことが原因と思われる。ガラスの色は 3 種類とも薄い黄緑色で、鉛の分離
は確認されなかった。
・石粉粘土で作った容器の場合
るつぼでは容器が割れてしまうので代わりの材料を探したところ、石粉粘土が良いので
はという結果に行き着きました。石粉粘土なら電気炉の熱に耐えられる材質で出来たもの
を使用することが出来と考えたからです。さらに、ガラス完成後に水に入れることによっ
て石粉粘土を溶かし、ガラスをきれいに取り出せるという点においても、加工をしやすい
という点においても非常に優れていたからです。
温度・加熱時間は前回の電気炉を使用したときと同様です。
試料の混合は、ガスバーナーを用いたときに一番きれいに出来たNO.3 と同じものを使
用しました。また、前回の失敗を教訓に、下からも均一に熱が伝わるようにマッフルを台
の代わりにし、石粉粘土で作った容器を限りな空中に浮いている状態に近づけました。
結果
結果は、上記の写真の通りである。石粉粘土で作った容器が溶け、変形しているのがわ
かる。溶けたガラスは電気炉の底まで達して侵食していた。これは、石粉粘土が多孔質で
あることが関係しているようだった。溶けたガラスは多孔質である容器に染み込み、底を
突き破ってしまったのではないかと考えられる。
・改良した石粉粘土の容器の場合
上記の失敗を生かし、石粉粘土で作った容器に以下の処理を施しました。
○容器自体を厚く作る
○表面に原料を薄く塗り、仮焼きして表面にガラスをコーティングする。
原料
酸化鉛(Ⅳ):4.5
ススキ灰(鉄分抜き):2.5
炭酸ナトリウム:6
炭酸カルシウム:3
屑ガラス少々
結果
写真の通り中心に大きなひび割れが出来てしまった。コーティング自体は上手く出来た
が、ひびが入ってはガラスを注げないので断念した。理由としては粘土の乾燥 が足りず 、
中に残っていた水分が電気炉での加熱時に気化し、体積が増大し、ひずみが生じてしまっ
たことが原因だと思われる。
補足
屑ガラスを入れたのは原料の軟化点を下げてより低温でガラスが解けるようにするた
めである(原料に屑ガラスを混ぜておくと軟化点が下がるようです)。
・電気炉・銅版板を用いてのガラス作成
分量は先輩たちの残したデータを参考にしました。石粉粘土ではうまくいかなかったの
で、型に金属を使うことを考えました。銅板を入手することが出来たので下の写真のよう
に加工し、その中に原料を入れ、電気炉を使用し加熱・融解し、放冷・凝固させました。
一回目
実験条件
原料
・酸化鉛(Ⅳ):36
・炭酸カルシウム:24
・炭酸ナトリウム:48
・ススキ灰:20(鉄分抜き)
・屑ガラス少々
↑作成した銅容器
700 度まで加熱し、その後ゆっくりと放冷。
結果
下の写真 1 のようにタイル状になってしまった。強度なども可也あり、当初の目的とは
違うがタイルとしての利用も出来そうである。なお、ガスバーナーで過熱したところ、融
解した(写真 2)。
←写真 1
写真 2→
以上のことから今回は温度が足りなかったためにガラスが生成しなかったと考えられ
ます。
二回目
実験条件
原料
・酸化鉛(Ⅳ):27
・ススキ灰:15(鉄分抜き)
・炭酸カルシウム:18
・炭酸ナトリウム:36
800℃まで加熱し、その後ゆっくりと放冷。
結果
上の写真のようになった。
考察
固まってはいた。ガラスのような透明感はなかった。今回は温度は足りていま したが 、
ガラスのようなものは見受けられませんでした(原因は不明)。
三回目
実験条件
原料
・酸化鉛(Ⅳ):13.5
・ススキ灰:7.5(鉄分抜き)
・炭酸カルシウム:9
・炭酸ナトリウム:18
1100℃まで加熱し、その後ゆっくりと放
冷。
結果
右の写真のようになった。
今回は温度を高く設定しましたが、ガラスは出来ていませんでした。
原因はわかりませんが、実験 1 の結果から四ホウ酸ナトリウムを入れるとうまく出来るの
ではないかとも思えますが、今回は時間がないため対照実験を行うことが出来ませんでし
た。
最後に
先輩たちの実験のとおり、ススキからガラスは作れると結論付けられます。しかし、通
常のガラスとは勝手が違い苦戦するところが沢山あり、当初の目的は達成出来ませんでし
たが、いろいろと興味深い現象が観察できました。今後、多種多様な変化の原因の調査と
その機構について詳細な研究が必要であり、引き続き研究調査を行う予定です。
私 た ち は 都 立 科 学 技 術 高 校 で 新 し い 工 業 技 術・科 学 技 術 を 勉 強 し て い ま す 。そ し て
授業を通して「ものづくりの大切さ」についても考えてきました。
私 た ち の 部 活 動 は 、常 に 自 分 た ち で 考 え 、チ ャ レ ン ジ す る 自 由 な 部 活 で す 。決 め ら
れ 、与 え ら れ て 活 動 す る も の で は な い の で 時 間 は か か り ま す が 、今 後 も 地 元 の「 江 戸
切 子 」の 技 術 を 大 切 に 考 え な が ら 、自 然 界 に 豊 富 に あ る 原 料 か ら の 工 業 材 料 、ガ ラ ス
材料について研究し、有効利用できるよう研究していきたいと考えています。
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