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アルマイト
アルマイト 2001年 火曜班 ●はじめに 私たちは日頃たくさんのアルミニウム製品に囲まれて過ごしている。自動車、航空機、 鉄道車両、缶飲料、建築資材など様々な製品がみられる。比重の小ささ (鉄の 7.87、 銅の 8.90 に対して 2.70)をはじめとして、加工性、電気伝導性、非磁性に優れたアルミ ニウムは工業材料として鉄に次ぐ生産量と需要 量を誇っている。しかし単体金属とし てのアルミニウムは反応性に富むので、用途にあわせて様々な加工が施される。そ の中の一つとして陽極酸化処理がある。 そこで私たち火曜班は陽極酸化処理を通し てアルマイトへの理解を深めていきたい。 ●原理 <アルマイト> アルミニウムは大気中において速やかに酸化アルミニウムの皮膜を形成し、その厚 さは 0.1μ mぐらいにまで達する。この酸化皮膜を「自然酸化皮膜」と呼 ぶ。しかしこ れ以上は酸化せず、アルミニウムは表面を保護された状態になり錆びることはない。 この酸化皮膜を人工的により厚く安定につける陽極酸化処理を 施すことにより、ア ルミニウムの美観や耐食性、耐磨耗性、絶縁性などの表面特性を高めることができ る。 陽極酸化処理は、硫酸やクロム酸、シュウ酸水溶液などを電解浴とした電解槽に電 極としてアルミニウムを浸し、これを直流あるいは交流で電気分解を行うこと で、金 属表面に 5~100μ m厚の緻密な酸化アルミニウム皮膜を得る処理である。この生成 物あるいは工程そのものを「アルマイト」と呼ぶ。「アルマイト」 という言葉は、アルミニ ウムとエボナイトから作られた日本における商品名である。 通常「アルマイト」は耐食性を持つとされるが、この酸化皮膜はまだ耐食性を持たない。 なぜならこの酸化皮膜の表面は多孔層となっているためである。(文献によると直径 0.01~0.05μ mの孔が 1μ m2 あたり 60~800 個空いているとされる。)そのため「封孔 処理」を施して耐食性を持たせる。 <封孔処理> 電気分解直後の酸化皮膜は多孔質のAl2O3 であり、このままでは耐食性が不十分で ある。そこで電気分解後のアルミニウム電極を沸騰水中あるいは加圧水蒸気中で 5 ~10 分程度処理する。すると皮膜表面はベーマイト(Al2O3・H2O)あるいはバイヤー ライト(Al2O3・3H2O)といった結晶水を含んだ組成となり、耐食性・耐磨耗性が向上す る。 <酸化皮膜の成長> 酸化皮膜が成長するか否かは酸化アルミニウムに対する電解浴の溶解作用の強さ に左右される。電解浴が中性の場合、浴が電気分解によって生成した酸化アルミ ニ ウムを溶解する力は弱く、アルミニウム表面には陽極酸化による緻密な薄い酸化皮 膜(バリヤー層)のみができる(図1)。バリヤー層のみの酸化皮膜をバリ ヤー型酸化 皮膜と呼び、バリヤー層の厚さは陽極酸化する時の電圧に比例するといわれる(およ そ 14Å/V)。高電圧で陽極酸化すればより厚いバリヤー型酸 化皮膜ができることに なる。 一方、電解浴が酸性あるいは弱塩基性である場合、電気分解によって生成した酸化 アルミニウムは同時に電解浴によって溶解され、バリヤー層の上部に多孔質層 をも った酸化皮膜を形成する(図1)。つまり質量の増加と同時に減尐も起こっているので ある。このような酸化皮膜を複合型酸化皮膜と呼ぶ。この皮膜は微細 な孔があるた め、陽極酸化に必要な電圧は孔の底からアルミニウム地金までの距離、つまりバリ ヤー層の厚さに依存する。そして長時間電気分解することでより 厚い酸化皮膜が得 られる。 図1.バリヤー型皮膜と多孔質型皮膜 <脱脂> 金属表面に付着した油脂分を取り除く。有機溶剤で洗浄する方法や塩基性溶液に浸 す方法などがある。本実験では、水酸化ナトリウム水溶液にアルミニウム板を浸すこ とで金属表面の自然酸化皮膜の溶解も兼ねている。 *アルミニウムの塩基性水溶液への溶解 2Al+2OH-+6H2O ―→ 2[Al(OH)4]-+3H2 ・・・・・・(1) *酸化アルミニウムの塩基性水溶液への溶解 Al2O3+2OH-+3H2O ―→ 2[Al(OH)4]-・・・・・・(2) <酸化皮膜の着色法> ・染色法 上述のとおり電気分解直後の皮膜表面には微小孔が多数存在する。孔の内壁は活 性で、染料が接触すると孔の内面に吸着される。染料には一般に有機染料が用いら れる。有機染料が水和すると負電荷をもち、正に荷電した酸化皮膜表面に容易に引 き付けられるからである。 *染色時の酸化皮膜表面での反応 Al2O3+H2O ―→ Al2O2(OH)++OH- ・・・・・・(3) ・自然発色法 電気分解と同時に電解質アニオンが酸化皮膜中に吸着されることにより着色する。 電解浴の組成や浴温、電流密度、電解時間などが着色する色に影響を及ぼす (硫 酸で無色、シュウ酸で淡黄色など)。電解質には水に対する溶解度が高く、解離度が 大きく、多孔質の皮膜を形成しやすい有機酸が用いられる。 ・電解着色法 多孔質皮膜の孔の底へ電気分解によって金属、または金属化合物を析出させて着 色する。皮膜生成後に目的とする金属塩を含む別の電解槽で電気分解する。 *電気分解中の陽極での反応 2Al+3H2O ―→ 6e-+Al2O3+6H+ ・・・・・・(4) *電気分解中の陰極での反応 2H++2e- ―→ H2 ・・・・・・(5) ●実験1 シュウ酸を電解浴としてアルマイトを作成した。また、このアルマイトを染色法により着 色させた。 <器具・試薬> 電源装置、テスター、マントルヒーター、ビーカー、温度計、シュウ酸、硫酸、アルミニ ウム板、エリオクロムブラックT指示薬(EBT)、水酸化ナトリウム <操作> I. III. 2枚のアルミニウム板を5%水酸化ナトリウム水溶液に浸し、アルミニウム表 面から気体が発生するまで静置した。 水洗したアルミニウム板を電極として、5%シュウ酸水溶液を電解浴として電 圧 30V で電気分解した。 アルミニウム板を電解槽から取り出し水洗した後、EBT を加えた水溶液に浸し IV. V. て 60~70℃で 10 分間静置した。 水洗したアルミニウム板を沸騰水に浸して 10 分間煮沸した。 アルミニウム板に付いた水を拭き取り乾燥させた。 II. ●結果1 電気分解の間、電流はほぼ電解時間に比例して増加した。陰極から水素が発生した が、陽極からの気体発生は見られなかった。また、陽極側のアルミニウム板で 電解 槽に浸した部分が淡黄色に着色した。テスターで測定したところ、淡黄色部分は絶縁 体であった。EBT 水溶液に浸したところ、陽極側のアルミニウム板は 濃紫色に、陰極 側のアルミニウム板は薄紫色にそれぞれ着色した。しかし沸騰水に浸すと陰極側の 色だけが落ちた。 ●考察1 陽極からは気体が発生しなかったことから、アルミニウムは陽極酸化されたといえる。 抵抗値の測定からは酸化皮膜の絶縁性が確かめられた。EBT による染色 から微小 孔の形成も確かめられた。電流が増加したのは、電解の初期に形成されたバリヤー 層がその後電解液に溶解され、抵抗が減尐したためであると考えられ る。 この実験を電極のアルミニウムを換えて同じ電解槽を用いて繰り返し行ったところ、ア ルミニウムに着色が見られなくなった。電気分解中に電解槽から匂いがしたことから、 シュウ酸が揮発し濃度が低くなり皮膜に取り込まれるシュウ酸アニオンの量が減尐し たためだと考えられる。 また初期の条件より高い電圧で電気分解をしたところ、アルミニウム板の中央部分、 液面のあたりでアルミニウムが溶けて穴が開いてしまった。溶解槽の攪拌をしなかっ たために局部的に温度が上昇し、電解浴の持つ溶解力が高まったためであると考え られる。 ●実験2 電解浴に硫酸を用いて実験を行い、シュウ酸法によるアルマイトとの違いを観察した。 また電解途中で 10 分毎に陽極のアルミニウム板の質量を測定し、その変化を観察し た。 <操作> I. II. III. IV. 2枚のアルミニウム板を5%水酸化ナトリウム水溶液に浸し、アルミニウム表 面から気体が発生するまで静置した。 水洗したアルミニウム板を電極として、20%硫酸水溶液を電解浴として電流1 Aで電気分解した。また電解中の浴温を 25℃程度に保った。 水洗したアルミニウム板を沸騰水に浸して 10 分間煮沸した。 アルミニウム板に付いた水を拭き取り乾燥させた。 ●結果2 陽極のアルミニウム板の質量は電解開始後 30 分間の増加の後、減尐に転じた。また 実験で得られたアルマイトは灰色であった。次頁に陽極の質量変化をグラフにして示 した。なお、封孔処理によってアルマイトの質量は 1.854gから 1.874gへと増加した。 ●考察2 グラフからは電解の前半で質量の増加量が逓減し、後半で質量が減尐に転じたこと が分かる。前半の現象はアルミニウム表面に複合型皮膜が形成されたために起 こ った、アルマイトと電解浴との接触面積の増加によるものと考えられる。後半での質 量の減尐幅がほぼ同じことは接触面積が一定である、つまり皮膜が新しく 生成され た分と同じだけの皮膜が電解浴との界面で溶解し、皮膜の厚さが変化していないも のと考えられる。 ●実験3 実験2と同様に電解浴には硫酸を、さらに低温(10℃以下)で電気分解することで、強 固な酸化皮膜を作成した。また、この実験で得られたアルマイト、未処理のアルミニウ ム、実験2で得られたアルマイトの3つを用意しアルカリに対する耐食性能を比較し た。 <操作> I. II. III. IV. V. 2枚のアルミニウム板を5%水酸化ナトリウム水溶液に浸し、アルミニウム表 面から気体が発生するまで静置した。 水洗したアルミニウム板を電極として、20%硫酸水溶液を電解浴として電流1 Aで電気分解した。また電解中の浴温を 10℃以下に保った。 水洗したアルミニウム板を沸騰水に浸して 10 分間煮沸した。 アルミニウム板に付いた水を拭き取り乾燥させた。 酸化皮膜のできた部分を5%水酸化ナトリウム水溶液に浸し、未処理のアルミ ニウム、実験2で得られたアルマイトとの表面の変化の違いを観察した。 ●結果3 電解開始後1時間を経過してもなお陽極のアルミニウム板の質量減は見られなかっ た。また実験で得られたアルマイトは実験 2 と同様に灰色であった。陽極の質量変化 をグラフ2として示した。なお、封孔処理によってアルマイトの質量は 1.979gから 1.989 gへと増加した。 耐食性能を比較するため 3 枚の金属板を水酸化ナトリウム水溶液に浸したところ、未 処理のアルミニウムは速やかに気泡を発生させた。2分後には、室温で生成 された アルマイトの表面からセロハンのようなものが剥がれていくのが観察かれた。一方、 低温で生成されたアルマイトは時間が経過しても水酸化ナトリウムと 反応しなかっ た。 ●考察3 この過程は一般に硬質酸化処理と呼ばれるものである。実験2と比較すると皮膜の 溶解がかなり抑えられたことが分かる。50 分からの 10 分間は浴温が 10℃を超えてし まったため溶解量が増加し、アルミニウム板の質量増加が抑えられてしまった。 封孔処理による質量の増加は実験2(室温)で+1.08%、実験3(低温)で+0.51%で あった。これは室温で形成された皮膜の方が表面積が大きいこと を意味するが、原 因として多孔質層の孔が深いのではなく孔の直径が大きいのではないかと考えられ る。孔の直径が大きいと考えると、実験3で観察されたセロ ハンの剥がれるような現 象は、孔が完全に塞がれなかったため皮膜内部が腐食され表面の多孔質層が剥が れ落ちたものと思われる。 また、この実験では電解槽の温度を一定にするため槽の攪拌をしたところ、一時的に 電流が減尐した。この原因として以下のことが考えられる。電圧・電流がと もに大き いとき、ジュール熱によって電極表面の浴温が局部的に高くなり、そこにさらに大きな 電流が流れる。しかし槽の攪拌によって浴温のムラが解消され電流が減尐する。 ●おわりに 当初、無色の酸化皮膜を得るには硫酸が不可欠だという思いがあったため、シュウ 酸法によって無色の酸化皮膜が得られたことは意外であった。しかし実験機材 の都 合で、硬質酸化皮膜における耐磨耗性など他の性質が調べられず、耐食性しか調べ られなかったことは残念である。化学反応における温度の重要さを改めて 思い知ら され、良い経験になった。 ●参考文献 『アルミニウム新時代』 神尾彰彦 工業調査会 『アルミニウムのおはなし』 小林藤次郎 日本規格協会 1985 『電解法による酸化皮膜』 馬場宣良 槇書店 1996 『表面処理-科学と技術』 佐々木良夫 大日本図書 1994 『アルマイトの電気化学』 佐藤敏彦 軽金属出版 1982 『アルマイト理論』 佐藤敏彦 軽金属出版 1980 『陽極酸化』 浅原照三 朝倉書店 1969 『金属の酸化皮膜とりん酸皮膜』 エス・ヤ・グリリヘス 日ソ通信社 1993 1986