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本文ファイル - 長崎大学 学術研究成果リポジトリ

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本文ファイル - 長崎大学 学術研究成果リポジトリ
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
Author(s)
源島, 福己
Citation
長崎大学留学生センター紀要, 21-22, pp.1-30; 2014
Issue Date
2014-06-30
URL
http://hdl.handle.net/10069/34790
Right
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http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
外国人留学生の留学目的の変容と
キャリア観に関する考察
源島 福己
Ⅰ.日本の留学生政策とキャリア教育
1.日本の留学政策
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の報告によれば、平成23年5月1
日現在の留学生数は138千人に達している。外国人留学生数の増加は一見順
調そうに見えるが、2008年に政府が新たに打ち出した2020年度を目途とした
留学生数を30万人にする計画との乖離は依然として大きく、達成への道のり
は決して容易なものではない。
現在日本で学ぶ外国人留学生の多くはアジア諸国からの留学生である。
138千人の内訳を出身国別に見ると、最も多いのは中国で88千人、次いで韓
国18千人、台湾5千人、ベトナム4千人、マレーシア2千人等と続いている。
しかしここ数年間外国人留学生数は伸び悩んでいる。その理由や背景とし挙
げられるのが、2011年の東日本大震災の影響特に原発の放射能漏れ事故、今
後の大地震発生への不安、尖閣諸島や竹島問題を巡る日中韓の政治的な対立
を巡る双方の国民感情の悪化等であり、これが留学生の主要な供給先である
中国、韓国、台湾からの留学生の増加を抑制しているものと考えられる。さ
らには昨今のグローバル化の進展により、世界的に英語によるコミュニケー
ション力の重要性が増している結果、中国や韓国のみならずアジア諸国にお
ける外国人留学生の主たる留学目的地は、豪州や米国、カナダ、英国、シン
ガポール等の英語圏に移りつつあり、漢字文化圏である日本のプレゼンスが
低下していることも背景にあると考えられる。
こうした状況の中で、日本は国をあげて留学生の受入拡大を図っている。
政府の意図は、大学教育との関連で言えば、留学生を増やすことで日本の大
学のグローバル化を進展させる、留学生への対応を通して既存の教育内容や
教育組織体制に変革、競争や刺激をもたらす、少子化に伴う若者の減少を考
えて世界中から優秀な留学生を国内に引き寄せる、それによって企業や社会
─ 1 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
の発展を担う人材の供給不足を解消する等にあると考えられる。従来日本政
府の留学生政策は、「留学生送り出し国の人材養成と友好関係の構築」を主
たる目的とするものであった。政府は留学生政策を「知的国際貢献」と位置
付け、①諸外国との相互理解の増進と友好関係の深化②国際社会に対する知
的影響力の強化③経済、社会構造の国際化 を推進してきたが、その後中央
教育審議会は留学生交流の意義について①相互理解と人的ネットワーク②国
際的な日本人の育成と開かれた社会の実現③日本の大学等の国際化、国際競
争力の強化④人材育成を通じての知的国際貢献と述べており、佐藤は政府の
留学政策が従来の「留学生は卒業後、自国の発展のために帰国してもらう」
というODA的発想から「優秀な留学生は日本に残ってもらう」という人材
確保型の発想に変わったと指摘している。(佐藤由利子「日本の留学生政策
の評価2010」)
このように政府の留学生政策は、留学生の人材育成による日本の発展途上
国への貢献から日本への定着や少子化を見越した人材供給の観点が強くなっ
ているが、これを実現していく上では、日本が留学生を惹きつけ留めるに十
分な社会環境を持っているかという問題もさることながら、日本にやってく
る留学生の留学目的や将来どの程度日本で就職し定着することに興味・関心
を持っているのかという留学生個人の側の見方も重要である。本研究はそう
した観点から、外国人留学生の留学目的やキャリア意識について調査したも
のである。
2.留学体験とキャリア形成
最近多くの日本の大学は、学生に対するグローバル人材育成の一環として
日本人学生に海外留学や海外インターンシップを勧め、短期から中長期に及
ぶ海外体験をカリキュラムに取り入れるようになってきた。海外での生活体
験は、大学での座学による講義だけでは身に付かない知識や異文化理解、多
面的なコミュニケーション能力等の発達にも効果的であり、将来の職業観に
結び付く多くの経験を提供してくれる可能性も大きい。私も自分自身が大学
の学部生時代に留学し、大いに成長感を感じた体験から、これまで大学での
人材育成における留学の重要性を強調してきた。(源島福己「大学生の留学
体験とキャリア形成」2013)。
私はこれまで大学時代の長期留学による社会人基礎力の発達やキャリア観
─2 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
形成への影響をテーマとして研究してきたが、その中で某公立大学における
教職員としてのキャリア教育の実践を踏まえて、短期の語学留学ではなく1
年間程度の長期留学が学生の成長面に及ぼす影響は大きいとした研究結果を
発表してきた。こうした成長感や能力感は、単に留学しなくてもインターン
シップやボランティア活動等を大学の授業やその他の社会体験と複合的・有
機的に組み合わせることでより効果的に発達させられるものと考えられる。
また実際に長期留学しても全ての学生がそうしたグローバル人材として期待
される意識や能力を形成できるとは限らないので、留学による社会人基礎力
形成への影響に関しては個人差が大きいことも認めざるを得ない。しかしな
がら中長期の留学は学問的な知識や語学力を身に付けられる一方で、異文化
コミュニケーションを通して多面的に物事を観察・理解し、自己目標に挑戦
する絶好の機会となる。その点で中長期の留学を上手く活用すれば、自己へ
の信頼が増しアルバート・バンデューラの言う自己効力感をより高めること
が可能であると考えられる。
私の研究では、留学を成功に導く要因として、学生が単なる語学の学習の
ためだけではなく、海外留学に夢や憧れを持ち、留学を自己変革の試みの一
つとして位置付け、留学先で何か具体的に目標を設定してチャレンジしたか
どうか、現地の生活や授業対応等の適応の面で苦しみや悩みを味わいそれを
どう乗り越えて目標に対する達成感を得たか等が重要な要因であることが明
らかになった。そのような成功体験を通して得た自分なりの生き方や生きて
いく上での自信、留学先で学んだ語学等が個人の自己効力感を高め、その後
の自己信頼につながり、帰国後の就職活動や進路決定にも積極的に取り組む
意欲や粘り強さに繋がっていた。(源島 福己「留学生における職業的レリ
バンスの認識に関する研究」2008、「大学生の海外留学と社会人基礎力の発
達」2009)
3.外国人留学生のキャリア認識とキャリア授業内容
本研究は、こうした従来の研究の成果の上に立って、外国人留学生がどの
ような留学目的やキャリア形成意識を持って来日しているかを調査する目的
で行った。今回の調査対象者には、来日間もない外国人交換留学生や卒業時
期がまだ先の学部正規留学生も多く含まれていることから、彼らの留学体験
によって形成された社会人としての能力観を問うものではなく、主として彼
─ 3 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
らの留学目的と将来のキャリア形成に必要な職業意識や職業感について調査
したものである。
 研究対象となった学生の特徴
今回の研究は、従来の私の研究との比較において幾つか異なる点がある。
まず一つ目は従来の研究対象となる学生が日本人から外国人留学生に代わっ
たことである。私の研究対象はこれまで海外留学に出る日本人学生であった
が、平成24年1月から長崎大学留学生センターに勤務し始めたことに伴い、
同年4月から2年間に亘って主にアジア諸国から留学してきた学生が研究対象
となった。その理由は、私の長崎大学での本来の職務が外国人留学生に対し
て日本の社会や文化について授業をすることになったことによる。その中
で、これまで私の専門領域であるキャリア関連の授業を通して、外国人留学
生の留学目的やキャリア観についてアンケート調査を行い、外国人留学生の
留学観とキャリア観の関係について明らかにしようと試みてきた。
当初長崎大学で留学生向けのキャリア教育を行うに当たっては、日本に留
学して正規の学生として学部に所属し、日本人学生と同様に3年次の後半か
ら就職活動に入る学生を想定し、日本人と変わらない就職への関心と日本語
能力の高い学生の受講を期待したが、現実に受講してくる学生の中には多く
の教育、工学や環境関連学部の学部生や海外の協定行からの1年以内の交換
留学生及び私費留学生が含まれていた。その点では、従来研究対象となった
日本人学生が、留学を終了して帰国した時点で直ぐに就職に入らなければな
らない状況を理解し、留学における言語能力の発達や異文化適応能力を就職
とある程度関係付けて考えることができたのと違い、外国人留学生の多くは
そうした差し迫った状況にはなく自己理解、職業知識、企業情報を含めて、
キャリア形成について具体的にイメージを持っていない者が多かった。
 キャリア関連授業内容
前述したように実際の授業で接した学生には就職に対する心構えがほとん
ど出来ておらず、また母国でキャリア教育を経験した留学生は少なかったた
め、日本で就職活動する予定のない外国人留学生にとっての授業への関心
は、日本の企業に向けた具体的な就職活動の知識ではなかった。そのため授
業内容はあまり就職活動を意識した実践的なものとせずに、日本における少
子高齢化がもたらす社会現象としての貧困や格差の問題、企業経営のグロー
─4 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
バル化と経営環境、特に1990年代のバブル経済崩壊後の景気の悪化と非正規
労働者の増加等の労働環境の変化、日本の若者が直面している厳しい雇用環
境、失業や離職・転職の問題、労働者の仕事の実態や現実、キャリアを維
持・形成していく上で必要な労働基準法の基本的な知識等に関して授業を
行ってきた。
またキャリア授業の中に外国人労働者にとっては日本企業で働く場合の礼
儀作法や職場以外での付き合い方といった常識的な内容も加えた。アンケー
ト調査でも明らかなように、外国人留学生が日本企業で働くとした場合に、
日本人社員との差別的待遇を受けないという点に強い関心を持つ。したがっ
て授業では、外国人留学生が将来日本で働く場合に自己の能力や意欲に帰す
べきことを認識せず誤った被害者意識を持たないように理解しておいて欲し
いと思われる諸点、すなわち業績評価は本人の能力、実績、勤務態度等に
よって多面的に行われた結果であり、それに伴う処遇差を単純に外国人に対
する国籍や人種による差別と誤解しないように、筆者の民間企業における海
外勤務体験や公的機関等での職業体験も踏まえて説明した。
Ⅱ.外国人留学生へのアンケート調査の目的と方法
1.目的
今回の研究目的の一つは佐藤の言う「優秀な留学生は日本に残ってもら
う」という政策的な観点に対して、外国人留学生の留学目的や意識の中にそ
もそもそのような考え方がどの程度あるのかを調査することであった。その
理由としては、日本の社会や大学側が留学生に残ってもらいたい、将来日本
企業で働いてもらいたいと思っても、留学生の側にそのような考えがないの
であれば、優秀な人材を国内に残すという留学政策の目的を最終的に達成す
ることはできないと思われるからである。その意味では双方の想いが一致し
ているのか、留学生が日本企業で働くことにどの程度強い興味関心を持って
いるのか把握しておくことは大事である。またそうした希望が留学生の間で
根強いのであれば、日本人学生同様な就職指導や日本企業との卒業後のマッ
チングを強化することは、留学生の確保に繋がるであろう。
2.主な調査内容と方法
本調査では今後長崎大学のグローバル化を進め外国人留学生の受入数を増
─ 5 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
加させる上で、外国人留学生がどうして長崎大学を留学先に選んだのか、そ
れは将来のキャリア形成の考え方や就職とどのように関係していたかを、
質問紙に回答させる形で行った。大きな質問項目を 1.海外に留学した理
由 2.日本を留学先とした理由 3.長崎県及び長崎大学を留学先に選択した
理由 4.留学目的や留学中にやりたいこと 5.就職観・職業観 6.留学と社
会人能力形成として、各項目に関してさらに具体的な質問を行った。(アン
ケート用紙別紙御参照)
今回は、日本の多くの大学が海外からの留学生を積極的に受け入れている
中で、日本を留学先に選んだ彼らの目的や理由、その中でも外国人留学生が
長崎大学に何を求め、何を期待し、何を評価して留学先として選択したの
か、それがキャリア観や将来の就職とどう関連しているのかを調査した。今
後できればこうした調査を継続し、長崎大学のみならず今後の地方大学のグ
ローバル化に向けた改革推進のための参考資料としていきたい。
今回採り上げたのは、2012年4月、2012年10月、2013年10月にそれぞれ外
国人留学生を対象としてアンケート調査を実施した上記1~5の内の1と5に関
するものである。調査は学部に所属する学生及び1年程度の交換留学生(そ
の中には私費留学生も含む)のみを対象として、2年間に亘って春学期と秋
学期の最初の授業の中で3回行ったが、調査の対象者の中に重複はなく、全
体として87名(男26、女61)の外国人留学生の情報を得ることができた。ア
ンケートの質問内容については読んでも理解できないものがないかどうかを
確認した上で記入させたものである。
集積したデータに関しては、男子学生に比べて女子学生の数が2倍以上と
なっているが、これは外国人留学生全体に占める男女比の本学における傾
向とも一致している。各質問項目に対して5段階評価として1~5の数字で評
価を依頼した。各評価点の意味は 5=強くそう思う、4=ややそう思う、3=
どちらとも言えない、2=あまりそう思わない、1=全くそう思わない とし
た。分析内容は、各項目に対する自己評価の内、最も強い5&4の評価のみを
抽出してまとめたものである。
3.調査結果
3回にわたるアンケート調査の結果は以下の通りである。
─6 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
Table1 2012年4月度調査対象者の数と特性(対象者20名)
性 別
学部 / 交換
台 湾
韓 国
中 国
オランダ
合 計
男(9)
学部生
交換留学生
0
1
2
1
1
2
0
2
3
6
女(11)
学部生
交換留学生
0
1
0
1
2
6
0
1
2
9
Table2 2012年10月調査対象者の数と特性(対象者42名)
性 別
学部 / 交換
台 湾
韓 国
中 国
フランス
マレーシア
タ イ
合 計
学部生
0
2
6
0
0
0
8
男(12)
交換留学生
0
1
3
0
0
0
4
学部生
0
2
6
0
2
0
10
女(30)
交換留学生
1
9
8
1
0
1
20
Table3 2013年10月調査対象者の数と特性(対象者25名)
性 別
学部 / 交換
台 湾
韓 国
中 国
合 計
男(5)
学部生 (5) 交換留学生 (0)
0
0
0
0
5
0
5
0
女(20)
学部生(11) 交換留学生 (9)
1
1
1
4
9
4
11
9
Ⅲ.海外留学の目的に関する分析
以下のデータは上記学生に対する各質問項目についてのデータを男女別に
まとめ、そこから得られた情報を基に、外国人留学生の留学目的について項
目毎に分析したものである。
─ 7 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
1- 2012年4月の調査データ
男(9)
女(11)
6( 67%)
10( 91%)
2.広く世界を見てみたい
9(100%)
11(100%)
3.海外に実際に住んでみたい
8( 89%)
9( 82%)
4.異文化交流がしたい
7( 78%)
10( 91%)
5.外国語(日本語)を勉強したい
7( 78%)
11(100%)
6( 67%)
5( 45%)
6( 67%)
8( 73%)
5( 45%)
8( 73%)
1( 11%)
2( 18%)
10.留学経験は就職に有利だから
7( 78%)
7( 64%)
11.自分の人生、学問や職業の目標を
見つけたい
8( 89%)
10( 91%)
1.レベルの高い外国の大学で勉強し
たい
6.外国大学の卒業資格や単位を取得
したい
7.自分の国を離れて、外から自分や
自国を客観的に見てみたい
8.自分を鍛えるために、より厳しい
環境で、一人で生活してみたい
9.自分の特別なテーマを研究するた
め
1- 2012年4月データの分析
各項目における調査結果から、外国人留学生の就職観やキャリア観につい
ては次のような男女間の特徴や傾向があるものと考えられる。
 アジア諸国から海外留学したいという理由の一つとして、自国の大学で
学ぶよりも「レベルの高い大学で勉強してみたい」という理由が考えられ
る。この点に関しては、男子の7割、女子の9割がそう考えており、数字で
見る限りでは、日本への留学に対する期待の一つは、より高いレベルの授
業を受ける体験にあることが分かる。その期待は男女比較では女子の方が
強い。
 「広く世界を見てみたい」という点は、男女とも全員が強くそう考えて
おり、外国人留学生は日本への留学による視野の拡大を期待している。
─8 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
 「海外に実際に住んでみたい」という希望は男女とも8割を超えており、
留学を通して海外生活をすることへの憧れが強い。
 「異文化交流」についての関心は、男子の約8割に対して女子学生は9割
を超えている。男子学生は工学部等に所属し技術や専門知識の習得に忙し
い者も多いため、女子学生に比べて異文化交流よりもそうした勉強面に関
心が高い者が多いのではないかと考えられる。
 留学目的の一つは通常「外国語の習得」にあると考えられる。その点で
は女子学生は全員が日本語の習得を留学目的の一つにしているのに対し
て、男子学生には日本語習得には強い関心がない者も含まれる。これには
所属学部が文系か理系かによっても語学に対する関心の強さも異なり、学
部によっては必ずしも日本語教育が重要でないと考える学生もいるものと
考えられる。
 外国の大学での卒業資格や単位取得は海外留学の大きな目的の一つと考
えられるが、この質問に対しては男子が約7割、女子が5割弱、全体では5
割強がそう考えているに過ぎない。特に交換留学生の履修後の単位は出身
大学によって互換されない、単位として認められないケースもあり、単位
取得に対するインセンティブはそれほど高くないのではないか。
 海外留学の一つの重要な体験として、授業や日常生活を通して様々な問
題や悩みに遭遇し、その中で自分自身を冷静かつ第三者的に客観的に見つ
め直すことが挙げられるが、男女共に約7割がそうした自己認識の向上に
期待を持っている。
 留学体験が自己鍛錬の場であるとする考え方は、男子学生で約5割に対
して女子学生は8割近くがそう考えている。一般的に一人暮らし等の環境
の変化に対する不安感は女子学生に強いことから、女子学生は留学体験で
困難な状況や問題に直面し、それに上手く対応することが自分の精神面を
強化してくれると期待しているものと考えられる。
 学部への留学生は、まだ3年生以下で卒業論文のテーマが決まっていな
い学生が多い。また留学の目的の中には卒業論文作成に備えた「自分なり
の研究テーマ」を探す目的は含まれていない。特に交換留学生であれば、
留学の機会を通してそのようなテーマ探しを目的としている者は多いので
はないかとも考えられるが、実際にはそのような学生は男女共にほとんど
見られない。
─ 9 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
 留学の主要な目的の一つに、日本での就職希望があるのではないかと考
えられる。そのことは別途の質問で明らかにするが、「留学は就職に有利
である」と考えている学生は男女共に約7割である。このことから外国人
留学生も留学体験が将来の就職に有利に働くと期待して留学していると言
えるであろう。
 留学は外国語習得や異文化交流を主な目的とすることが多いが、それが
人生や将来の生き方や職業発見に繋がる体験となることも多い。この点は
男女の9割が期待している。
2- 2012年10月の調査データ
1.レベルの高い外国の大学で勉強し
たい
2.広く世界を見たい
3.海外に実際に住んでみたい
男(12)
女(30)
8(67%)
17( 57%)
11(92%)
30(100%)
9(75%)
19( 63%)
11(92%)
30(100%)
8(67%)
28( 93%)
6(50%)
12( 40%)
8(67%)
19( 63%)
6(50%)
20( 67%)
2(17%)
4( 13%)
10.留学経験は就職に有利だから
8(67%)
25( 83%)
11.自分の人生、学問や職業の目標を
見つけたい
9(75%)
24( 80%)
4.異文化交流がしてみたい
5.外国語(日本語)を勉強したい
6.外国大学の卒業資格や単位を取得
したい
7.自分の国を離れて、外から自分や
自国を客観的に見てみたい
8.自分を鍛えるために、より厳しい
環境で、一人で生活してみたい
9.自分の特別なテーマを研究するた
め
2- 2012年10月データの分析
各項目における調査結果から、外国人留学生の就職観やキャリア観につい
ては次のような男女間の特徴や傾向があるものと考えられる。
─ 10 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
 レベルの高い大学で勉強してみたいという学生の比率は全体で6割であ
り、前回に比べて1割程度低下した。特に前回は女子学生の比率が前回の9
割から6割に大きく低下した。
 留学による視野の拡大については今回もほぼ男女とも全員がそう考えて
おり、比率は前回と変わらない。これは留学生に共通した最も重要な目的
の一つであると考えられる。
 留学目的の一つである海外に住んでみたいという思いは、前回の9割弱
から7割に低下している。このことは中国、韓国、台湾等で盛んとなった
反日行動も微妙に影響しているものと考えられる。
 異文化交流についてはほぼ全員が期待しており、男子学生において前回
より比率が上昇している。
 日本語を勉強したいという意欲は、男子で7割弱、女子で9割強となって
いる。前回に比べて男子学生が低下した。今回の調査では男子学生の三分
の一が日本語の習得にそれほど意欲を持っていないことを示している。
 単位取得や卒業資格への拘りに関しては、それを希望する割合は男子が
5割、女子が4割となっている。この数字は前回に比べて男子学生でさらに
低下しており、全体的に留学生の単位取得や卒業資格に対する関心は前回
よりも下がっている。
 留学は異なる環境に長期間身を置くことで自分を客観視する体験となる
が、前回の調査と同様に男女共に7割弱がそう考えている。
 留学を自己鍛錬の場や経験の機会として捉える考え方については、男子
が5割、女子が7割であり、前回に続いて女子学生にそのような見方が強い。
 留学において卒論等の研究テーマ発掘を目的とする者の数は男女共に2
割に満たない。また前回の数字とほぼ同じであることから、卒論のテーマ
等を探すことは外国人学生の留学目的にほとんど含まれていないことが分
かる。
 留学が就職に有利であるとする学生の比率は男子で7割、女子で約8割で
あり、今回は男女間で比率は逆転したが、全体の比率には大きな変化は見
られない。就職に有利であると考えることは、海外留学の大きなインセン
ティブや理由の一つになっている。
 留学中に自己の進路を考え、職業の方向性を見出そうとすることに関し
ては、前回は男女共に9割近い者が強い関心を示したが、今回は約8割と1
─ 11 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
割近くダウンしているものの、依然として多くの留学生が期待している点
である。
3- 2013年10月の調査データ
男(5)
女(20)
3(60%)
12(60%)
2.広く世界を見てみたい
2(40%)
16(80%)
3.海外に実際に住んでみたい
2(40%)
10(50%)
4.異文化交流がしたい
2(40%)
16(80%)
5.外国語(日本語)を勉強したい
3(60%)
17(85%)
3(60%)
8(40%)
2(40%)
10(50%)
3(60%)
11(55%)
1(20%)
3(15%)
4(80%)
15(75%)
2(40%)
12(60%)
1.レベルの高い外国の大学で勉強し
たい
6.外国大学の卒業資格や単位を取得
したい
7.自分の国を離れて、外から自分や
自国を客観的に見てみたい
8.自分を鍛えるために、より厳しい
環境で、一人で生活してみたい
9.自分の特別なテーマを研究するた
め
10.留学経験は就職に有利だから
11.自分の人生、学問や職業の目標を
見つけたい
3- 2013年10月のデータ分析
各項目における調査結果から、外国人留学生の就職観やキャリア観につい
ては次のような男女間の特徴や傾向があるものと考えられる。
 レベルの高い大学で学ぶことを目標に挙げた学生数は男女共に6割と前
回に比べて若干の比率低下が見られた。
 広く世界を見てみたいという点に関しては、男子4割、女子は8割とほぼ
全員がそうであった前2回の調査に比べて、特に男子学生に大きな比率低
下が見られた。
─ 12 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
 海外に住んでみたいという思いは男女共に半数程度であり、そのことは
外国人学生の留学にとっての大きな留学へのインセンティブになっていな
い。
 異文化交流に関しては男子が4割、女子が8割と男子学生の異文化交流に
関する興味関心が大きく低下した。
 日本語の勉強を目的に挙げる者の数では、男子が6割、女子が9割弱と
なった。前回に比べて男女共に日本語の学習意欲に大きな比率の変化はな
かった。
 卒業資格や単位取得希望については男子学生の比率は6割で若干増えた
が、女子学生は4割と前回に比べて変動はなかった。これは交換留学生の
中に女子学生が多く、彼女たちにはあまり単位への拘りがないことを示唆
している。
 異文化環境において自己を客観的に理解する経験への期待については、
男子が4割、女子が5割で、前回に比べて全体で2割近く低下した。
 留学を自己鍛錬の機会と見る考え方については、男女共に6割近いもの
の、女子学生の比率が前回よりもやや低下している。
 卒論等の研究テーマの探索に関しては、全体で2割以下であり、この比
率に大きな変動は見られない。依然として交換留学生の中に卒論等のテー
マ探しは留学目的にはほとんど含まれていない。
 留学が就職に有利であるとする考え方は、男女共に8割に近く、相変わ
らず高い。留学は就職するための目的の一つになっている。この比率に関
する前回からの大きな変化は見られない。
 留学によって自分の将来の生き方や職業の方向性を見つけたいという考
えは、男子が4割、女子が6割であり、一般的に将来の職業等に関して言え
ば、女子の方に未だ職業に関するイメージが形成されていないことを伺わ
せるものである。
Ⅳ.就職観・職業観についての分析
この質問の最大の狙いは、外国人留学生の中に母国での就職難を背景とし
て、将来日本で就職したいと希望する者が増えているのかどうかを検証し、
大学に於いて日本企業への就職支援を充実させることが今後留学生確保に結
びつくのかといった課題を検証することにあった。ここでは就職観・職業観
─ 13 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
が学部生と交換留学生ではどのように違っているのかを把握するために、
データをさらに細分化した。
1- 2012年4月データ
性 別
男(9)
女(11)
学生のステイタス
学部生
(3)
交換留学生
(6)
学部生
(2)
交換留学生
(9)
1.将来やってみたい仕事
がある
2
1
0
5
2.将来の具体的な職業に
ついてはまだ何も考えて
いない
0
1
0
1
3.将来は会社で働きたい
0
5
1
6
4.将来は自分でビジネス
を始めたい
3
0
2
2
5.大学卒業後は日本で働
きたい
1
3
1
3
6.将来は母国で働きたい
1
3
0
5
7.働くなら有名企業、大
企業、一流企業がいい
1
4
2
5
8.企業の規模は中小でも
よい
1
5
0
4
9.企業の知名度よりも、
自分の好きな仕事ができ
る会社を選びたい
3
6
2
8
10.給与その他の条件が良
い会社を選びたい
2
5
2
8
11.給与、待遇や出世で日
本人と差別されない会社
で働きたい
3
5
2
4
1- 2013年10月のデータ分析
各項目における調査結果から、外国人留学生の就職観やキャリア観につい
ては次のような男女間の特徴や傾向があるものと考えられる。
─ 14 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
 今現在、将来の何らかの仕事に就いて具体的にイメージできている学生
は男子で3割、女子で5割弱であり、男子は女子に比べて仕事への関心や職
業意識が相対的に低い。
 将来の職業に就いて全く何も考えていないとする学生は、男女ともに1
名ずつ含まれている。
 仕事観について調査したものであるが、働き方の問題として、会社勤め
を希望する者の割合は男子で5割、女子で8割となっている。
 一方組織に属した働き方ではなく、自由かつ独立して働きたいと考えて
いる者は、男女ともに3割台である。
 将来日本で働きたいと強く希望する者の割合は男女合わせて4割であ
り、女子の比率が若干低い。この調査からは留学生が全体としてそれほど
日本で働くことに強い希望を持って来日しているとは言えない。
 一方母国で働きたいと強く思っている学生も男女ともに4割台である。
将来働く場所には国内外に拘らずどこでも良いとする学生が多いか、ある
いは場所についてはまだ考えていないということであろう。
 一般的に日本の大学生の場合は、大企業、一流企業志向が強く、それが
就職難の一因ともなっているが、留学生の場合も男女ともに7割弱がその
ような強い希望を持っていることが分かる。将来の安定した仕事の確保や
留学体験や語学能力を活かす上でも、外国人留学生がそうした仕事に就く
機会が多いと期待される一流企業や大企業への就職に強い関心を持ってい
る。
 将来の就職先として、中小企業でもよいと答えた者の数は全体の5割で
ある。交換留学の男子学生6人の内の4人は、問い7.に対して大企業・一
流企業が良いと回答している一方で、中小企業でも良いかという問いに対
して5人が良いとしており、矛盾した答えともなっているが、留学生の本
音はできれば一流企業・大企業に就職したいが、上手く行かなければ仕方
がないので中小企業で我慢すると考えているのではないか。
 会社の知名度や規模よりも、自分が好きな仕事をしたいと答えた学生
は、男女ともにほぼ全員である。留学生はまだ就職活動を経験していない
段階なので、就職状況の厳しい現実認識ができておらず、このことから自
分が好きな仕事であることを職業選択、会社選択の中心に置いていると考
えられる。
─ 15 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
 会社選択や職業選択における優先順位として、給与が高いことやその他
の待遇面が良いことを重視する学生が多い。男女共に全員に近い学生にこ
の傾向が見られる。
 給与や出世等において日本人と差別されないことを重視する留学生の割
合は男子でほぼ全員、女子で約6割である。その点では男子の方が能力や
実績重視の評価や処遇を求める気持ちが強く、女子学生の方がその点では
より現実的で柔軟な考えを持っているものと考えられる。
2- 2012年10月データ
性 別
男(12)
女(30)
学生のステイタス
学部生
(8)
交換留学生
(4)
学部生
(10)
交換留学生
(20)
1.将来やってみたい仕事
がある
6
0
6
13
2.将来の具体的な職業に
ついてはまだ何も考えて
いない
1
0
0
2
3.将来は会社で働きたい
4
3
8
9
4.将来は自分でビジネス
を始めたい
4
0
2
5
5.大学卒業後は日本で働
きたい
7
2
3
5
6.将来は母国で働きたい
4
0
6
14
7.働くなら有名企業、大
企業、一流企業がいい
4
2
2
12
8.企業の規模は中小でも
よい
4
1
8
11
9.企業の知名度よりも、
自分の好きな仕事ができ
る会社を選びたい
4
3
7
17
3
2
8
16
10.給与その他の条件が良
い会社を選びたい
─ 16 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
11.給与、待遇や出世で日
本人と差別されない会社
で働きたい
7
3
9
18
2- 2012年10月のデータ分析
各項目における調査結果から、外国人留学生の就職観やキャリア観につい
ては次のような特徴や傾向があるものと考えられる。
 将来の職業イメージを持っている学生は男子で5割であるが、学部生に
多く交換留学生は今回いなかった。また女子では学部生、交換留学生共に
6割程度で全体的に職業イメージを持っている者が多い。
 将来の職業について全く考えていない学生は、男女ともに1割程度存在
する。
 仕事をする場合に、それが会社で働くことだと考えている学生は男女と
もに6割程度である。学部の女子は約8割と高い。日本に住んで日本人学生
が就職活動を行う様子を実際に見聞きする機会があることもこうした就職
観に影響していると考えられる。
 将来会社勤めではなく起業に興味がある学生は男子で3割、女子で2割程
度であり、この時点で組織に依存しない独立した働き方を希望する留学生
は少ない。
 将来日本で働きたいと希望する学生は男子で8割弱、女子で3割弱と男子
学生の比率が圧倒的に高い。特に学部の男子学生はほぼ全員が日本での就
職に強い関心を示している。
 一方で本国での就職希望者は男子で3割、女子で7割に近く、女子学生は
本国志向、男子学生は外国志向という特徴が見てとれる。
 大企業・一流企業志向については男女共にほぼ5割となっている。
 働く場所が中小企業でも良いとする者は男子で5割程度、女子では6割程
度おり、男女ともに一流企業・大企業をまず優先し、そこに行けない場合
は仕方なく中小でも良いと考えているようである。
 将来就職する際に企業の知名度や規模に拘る比率は、男子学生で約6
割、女子学生で8割となっており、女子学生の方に大手志向や安定志向が
強く見られた。多くの学生は就職活動未経験であり、仕事の知識や経験も
─ 17 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
ほとんどないことから、とりあえず企業イメージの良さや安定した大企業
への就職を希望しているものと考えられる。
 外国人留学生には、企業を選ぶ際に給与が高い、ボーナスが多いといっ
た企業を好む傾向が見られるが、今回の調査ではこのような処遇面を重視
して会社を選択する考え方は男子が4割、女子が8割となっている。男子学
生に比べて女子学生にそうした傾向が強く見られた。
 外国人留学生が日本企業で働く場合、給与や昇進等で不当な差別を受け
たくないという思いは強い。今回の調査でも男子、女子共に約9割の学生
が、外国人であることを理由として差別的な待遇を受けることに強い嫌悪
感を示している。
3- 2013年10月データ
性 別
男(5)
女(20)
学生のステイタス
学部生
(5)
交換留学生
(0)
学部生
(11)
交換留学生
(9)
1.将来やってみたい仕事
がある
1
0
3
3
2.将来の具体的な職業に
ついてはまだ何も考えて
いない
1
0
2
1
3.将来は会社で働きたい
1
0
7
3
4.将来は自分でビジネス
を始めたい
1
0
3
0
5.大学卒業後は日本で働
きたい
3
0
7
3
6.将来は母国で働きたい
1
0
1
5
7.働くなら有名企業、大
企業、一流企業がいい
2
0
6
4
8.企業の規模は中小でも
よい
1
0
6
2
9.企業の知名度よりも、
自分の好きな仕事ができ
る会社を選びたい
2
0
8
6
─ 18 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
10.給与その他の条件が良
い会社を選びたい
3
0
8
5
11.給与、待遇や出世で日
本人と差別されない会社
で働きたい
4
0
7
5
3- 2013年10月のデータ分析
各項目における調査結果から、外国人留学生の就職観やキャリア観につい
ては次のような特徴や傾向があるものと考えられる。
 前回の調査に比べて、すでに自分がやってみたい仕事があると答えた学
生は男子が2割、女子が3割と大幅にダウンした。職業イメージを持ってい
る留学生は男女ともに少数派である。
 将来の職業について全く考えていない者は全体の約2割である。このこ
とから学生は個人によって強弱はあるものの、何らかの形で職業や就職に
ついて考え、漠然とながらも夢や方向性を持っているものと考えられる。
 将来会社で働きたいと考えているのは、男子で2割、女子で5割である。
男女を比較した場合には、一般的に就職観に関して言えば女子学生の方に
強い企業志向がみられる。
 将来会社勤めではなく、自分で独立してビジネスを始めたいと考える学
生は男女で2割弱である。学生にとって働くことは基本的には会社等の組
織に属して働くことを意味しているようである。
 卒業後に日本で働きたいと考えている男子学生は6割、女子は5割であ
る。前回は男子学生の希望比率が圧倒的に高かったが、今回は男女の差に
大きな差は見られなかった。
 一方母国で働きたいという希望は男子で2割、女子は3割であり、学生に
は母国での就職難を反映して、留学先での就職希望が強まっているのでは
ないかと考えられる。
 働くなら大企業や一流企業というブランド志向は男子で4割、女子で5割
である。この比率は前回とほぼ同じであり、留学生も日本人学生と同様の
傾向を持っていると言える。
 一方で働く先が中小企業でも良いと考える者は男子で2割、女子で4割で
─ 19 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
ある。男女間の数字の比較で見る限り、女子学生により柔軟性が見られる。
 企業の知名度よりも自分の好きな仕事がしたいという考えは男子で4
割、女子で7割である。このことは一見ブランド志向と対立する考えのよ
うにも見えるが、男女とも自分の好きな仕事ができる会社が一番だが、で
きればそれが一流・大企業であればなお良いと考えているようである。
 学生にとっての大きな関心事は給料を含めた会社の処遇の良さである。
少しでも給料の高い会社で働きたいというのは留学生に共通した思いであ
り、男子が6割、女子では7割近くの者が給与その他の福利厚生を働く際に
重視している。
 人種や国籍によって給与や昇進等の待遇で差別されないという点は、
外国人留学生が強く意識し敏感になる点である。この点に関しては男子8
割、女子の約7割が強く希望しており、日本企業が留学生を採用する際に
注意しなければならない大きなポイントであると考えられる。
Ⅴ.外国人留学生の留学目的の変容とキャリア意識
1.留学目的の変容
上記Ⅳの分析は、主要な項目において留学生が最も強く意識していると思
われる評価点の4と5のみを抽出し、その背景や要因について分析を行った
ものである。調査対象期間は2年間であり、その間の対象人数が87名と少な
かったこともあり、これを以て最近の留学生の全体的な傾向であるとは言え
ないものの、特定項目に関しては大半の留学生が毎回共通して高い評価をし
ており、この時点での留学生の留学目的に関する主要な考え方を反映したも
のと理解しても良いと考えられる。その中の特徴を幾つか下記にまとめてみ
たい。
 まずアジアの大学から日本に留学する理由として、自国の大学よりもレ
ベルの高い大学で学んでみたいという希望が強いものと想定されるが、今
回の3回の調査ではそのような考えを持つ学生の比率は、毎回約6割程度と
やや高い傾向が見られた。また男子学生の比率には毎回安定した傾向が見
られたのに対して、女子学生の場合は1回目の調査において約9割がそう答
えいるものの、次回以降は比率が低下した。女子学生のこの点に関する比
率が大きく低下している点は気になるが、このことから、依然としてアジ
─ 20 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
アからの留学生の多くが日本への留学する理由として、高い学問レベルに
接することを期待していると言ってよいであろう。
 次に留学生の大きな留学目的は、何よりも見聞を広めることにあると考
えられる。男女や出身国、留学のステイタスに関係なく、留学に関する調
査項目2については、ほぼ全ての学生が最も高い評価点を与えており、留
学生に共通する最大の目的の一つと言って良いであろう。
 異文交流への意欲に関しては、男子学生の約8割、女子学生の9割以上が
強く希望しており、異文化交流に対する期待はかなり大きなものがある。
またそれと並んで日本語を勉強したいと言う意欲は日本留学の大きな目的
であると考えられるが、この点については平均で男子が7割、女子は9割で
あった。女子は日本語の学習に強い意欲を示したが、男子の学部生、交換
留学生の中には日本語を習得することにそれほど熱意や関心のない学生も
3割程度含まれている。
 卒業資格や単位取得に関しては、留学生の約半数が希望している。男女
比率別に見ると男子学生にやや高い傾向が見られた。また女子学生は毎年
5割を超えることはなく、全体として単位取得や卒業に強い関心や意欲を
持つ者は多いとは言えない。特に交換留学生の中には単位取得が目的では
なく、あまりそれを意識しないで授業に参加している者が少なくないが、
それは日本で取得した単位が自動的に互換される訳ではなく、必ずしも単
位が認定されるとは限らない科目もあることや、留学生科目の中には相当
難しい日本語の授業内容が含まれることもあるため、単位取得に至らない
と考えている留学生も多いのではないかと考えられる。このことは留学生
を確保する上で日本の大学がジョイントディグリーやダブルディグリーを
揃えれば、学生にとっては魅力的な留学の誘因になり得るのではないかと
も考えられる。
2.外国人留学生の職業観・キャリア観
次に留学と就職の関係を見てみると、日本同様韓国、中国、台湾等のアジ
ア諸国に於ける大学進学率の急激な上昇を背景に新卒の就職難が問題となっ
─ 21 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
ている中で、留学生の日本への留学目的の中に将来日本での就職を意識した
強いニーズがあるのではないかと予想されたが、実際の留学生には次のよう
な特徴が見られた。
 将来の職業についてこの時点で何をしたいかの明確なイメージを持って
いる学生は少なく、また卒業後日本で働きたいと考えている学生は男子学
生で5割、女子学生で3割程度であり、予想したほど多くない。特に交換留
学の女子学生は、1年以内に帰国することもあり、将来日本で働くことに
あまり興味関心がない。また学部に所属する留学生も5割弱とそれほど日
本で働く希望は強くない。これは日本企業が国際競争力を失いつつあるこ
とや日本経済が長い低迷からなかなか抜け出せない事を留学生が感じてお
り、日本で働くことにそれほど魅力を感じていないからではないかと考え
られる。また女子学生にとっては海外で働くことに対する社会的な制約が
強く、できれば親元にいて両親の面倒を見たいといった女性特有の考え方
も背景にあるものと考えられる。
 企業規模や知名度に関しては、大企業や一流企業で働きたいとする者の
比率は、男子女子共に約5割であり、中小企業でも良いとする者の数も男
女ともにほぼ同比率である。この数字自体は日本の大学生の考え方とあま
り大きな差はないようである。また将来の就職先について企業規模や知名
度に拘る者とそうでない者とは男女でほぼ同じような割合で存在する。一
方でほぼ全員が「知名度よりも自分の好きな仕事ができる会社を選びた
い」と回答している。大企業や一流企業への志向性を持つ学生が約5割い
ることを考えれば一見矛盾した回答にも思えるが、学生にとっては自分の
適性や能力について未知の部分が多い中で、好きな仕事をしたい、それも
有名企業や大企業であればなお良いと言う就職観が現れているものと考え
られる。このような職業観は、今問題となっている七五三現象すなわち若
者の就職後3年以内の早期離職、退職が大学生で3割に達しているという問
題とも将来関連してくる可能性を示唆しているとも考えられる。すなわち
外国人留学生の場合も日本人学生と同様に、一流企業・大手企業か否かに
関わらず、仕事や職場が気に入らない、楽しくないと感じれば、すぐに会
社を辞めてしまう可能性が高いということである。
─ 22 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
 最後に日本企業で働く場合、給与や昇進等の待遇面で国籍や人種を理
由として日本人と差別されたくないという意識は全体で約8割と高い比率
を示した。また男子の数字が女子に比べて1割近く高かった。通常であれ
ば、ほぼ全員の学生が日本人との処遇面での差別に反対すると考えられる
が、100%とならなかった背景としては、かなりの留学生がまだ日本語で
のコミュニケーション能力にそれほど自信を持っていないため、この段階
では日本人と同じレベルで仕事はできないという認識を持っており、それ
が日本企業で働く場合に処遇面での差をつけられても仕方がないという考
えにつながったのではないかと考えられる。
Ⅵ.外国人学生の留学観と日本の大学に於ける留学生受入れ増加への提言
 外国人留学生の英語圏大学志向
日本の大学が政府の外国人留学生30万人計画の達成に協力し今後も留学
生を増やしていく上で、中国、韓国、台湾は今後とも大きな人材供給の重
要なソースであり続けるであろう。漢字文化圏の中で学問的なレベルが高
いと思われている日本は、経営、工学、コンピューター分野や環境関連に
強く、その他にもアニメ、漫画、若者のファッション等の魅力的な文化を
持っており、アジアの非漢字文化圏の国々からの留学生を中心に、その他
の様々な国から留学生を集める可能性もある。しかし彼らの中で優秀且つ
経済的にも豊かな層の学生の多くは、英語で授業を受けられる豪州やシン
ガポール、さらには経済的な支援だけではなく、より高い授業レベルを提
供し就職や永住の機会が開かれた米国やカナダ等といった英語圏への留学
を希望しているようである。
 日本の大学の取組内容
こうした現状の下で、日本の大学が欧米や豪州等の諸大学に伍して留学
生を確保する目的で、日本の大学は政府とも協力しては奨学金の支給拡
大、地元で入学試験の実施、滞在期間や就労に関わるVISA条件の緩和、
安価で良質な学生寮の提供等官民挙げての協力体制を構築してきた。これ
を継続していくことは引き続き必要であろう。さらに最近では、卒業後の
就職支援の充実にも力を入れており、海外の留学生の母国での就職が日本
以上に厳しさを増している現実を考えれば、日本に来て手厚い就職支援を
─ 23 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
受けられることは、外国人留学生にとって日本へ留学するインセンティブ
になるであろう。しかしそのような施策は留学生数の確保には貢献しても
必ずしも留学生の質の確保に繋がらないリスクも存在する。経済的に豊か
になったアジア圏の学生が増加するにつれて、優秀な学生が日本以外の欧
米諸国、しかも英語圏の大学留学を目指す傾向が拡大していることを考え
れば、量の確保に狙いを定めた日本のやり方は将来行き詰るであろう。な
ぜなら日本企業ですら留学生確保のターゲットは日本に留学した学生では
なく、より優秀な留学生の多く集まっている国際競争力の高い欧米圏の大
学に留学した学生になっていくと考えられるからである。日本に留学して
いる学生は単に留学しやすかったから日本に留学したというイメージが強
くなると、日本企業にも留学生離れが起きる懸念もある。そういう意味で
は質を重視した留学生の確保が、回り道のようであっても、日本企業から
の評価を高め、就職や日本社会への定着を促す上で有効であろう。
 外国人留学生確保への提言
そのための提言として私が考えるのは、外国拠点の設置による広報活動
の活発化と外国人留学生の受入における面接の重視である。ペーパー試験
の結果はもちろん重要であるが、それをいくら高度化しても、質の良い学
生が集められるわけではない。入り口の段階で面接を十分に行うことは大
変な労力を要するが、手間暇かけて厳選したやる気のある優秀な留学生を
受け入れることができる。まさにそのことは日本の企業が人材の選抜にお
いてこれまでやってきた方法である。そうした学生を見抜く面接官の確保
についてはここでは論じないが、そのようなやり方が学生にとっても真に
選ばれたものとしての自覚とプライドを生み出し、来日後の真剣な授業参
加や日本社会への親近感を育むものと期待できる。また大学にとっても留
学生個人の顔が見えることで、卒業までの一貫した支援体制を構築するこ
ともできる。それは卒業後の留学生と大学との親密な関係構築にもつなが
り、大学への支援者を増加させるであろう。
もう一つは秋入学しかも9月からの入学を導入して、海外からの留学生
を受入れ易くすることである。日本の多くの大学の秋学期が10月からス
タートするために、セメスター制で9月~12月までを1セメスターとする多
くの海外の大学の学生にとっては、日本への学部留学をためらう大きな原
─ 24 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
因の一つになっているものと考えられる。もちろん秋入学に伴い取得した
単位の互換制度を実現することも必要であり、そのためには相互の時間数
や単位計算等の問題も解決しておかなければならない。ジョイントディグ
リーやダブルディグリーを導入することも学習意欲の高い留学生にとって
は留学の魅力を増加させるであろうが、特に途上国との大学においては質
の保証の問題があり、それは簡単な事ではない。まずは日本の大学にとっ
て、海外から外国人留学生の受入れ拡大には、入り口での学生の質の確保
を行い、経済的な支援を行い、何よりも教育制度面でグローバル化に向け
た9月入学を早期に実現すべきであると考える。
(留学生センター教授)
参考文献
・日本の留学生政策の評価(佐藤由利子 東信堂2010)
・留学生受入の手引き(株式会社 かんぽう 2012)
・日本における外国人留学生と留学生教育 鈴木洋子2011)
・日本の外国人留学生・労働者と雇用問題 守屋貴司 2011)
・近代日本海外留学の目的変容(辻 直人2010)
・多民族・多文化共生社会のこれから(移住労働者と連帯するネットワーク
2009)
・海外留学の理想と現実(浅井宏純2005)
・現代留学事情(加藤行立 2005)
・平成23年度外国人留学生在籍状況調査について(JASSO)
─ 25 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
≪資料≫外国人留学生アンケート調査
責任者:源島福己
長崎大学留学生センター教授
住所:長崎市文教町1-14
Tel:095-819-2238
E-mail: [email protected]
日付(西暦): 年 月 日
このアンケートは、あなたが留学先として日本の大学(特に長崎大学)を
選んだ理由、目的、就職観や職業観、自分の職業能力観について調査するも
のです。調査結果は今後外国人留学生を増やすための政策立案や学術研究や
授業等に使用します。あなたの個人情報は外部に公表しませんので、安心し
て正直に質問に答えてください。答え方は次の各項目について、( )の中
に1から5の数字を記入してください。(5=強くそう思う 4=ややそう思う
3=どちらとも言えない 2=あまりそう思わない 1=全くそう思わない)
個人属性データ
①氏名(カタカナ&英語): ,
②年令:
③性別: 男 or 女
④出身国:
⑤所属:1.学部生 2.大学院生 3.交換留学生(短期プログラム)
4.研究生 5.その他
⑥日本滞在歴: 年 月
⑦日本滞在予定期間: 年 月
⑧学部or専攻:
⑨TOEFL( 点)or TOEIC( 点)
⑩日本語検定( )級
─ 26 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
Ⅰ.海外留学した理由
1.レベルの高い外国の大学で勉強したい( )
2.広く世界を見てみたい( )
3.海外に実際に住んでみたい( )
4.異文化交流がしたい( )
5.外国語(日本語)を勉強したい( )
6.外国の大学の卒業資格や単位を取得したい( )
7.自分の国を離れて、外から自分や自国を客観的に見てみたい( )
8.自分を鍛(きた)えるために、より厳しい環境で一人で生活したい( )
9.自分の特別なテーマを研究するため( )
10.留学経験は就職に有利だと思う( )
11.自分の人生、学問や職業の目標を見つけたい( )
12.その他(自由記述):
Ⅱ.日本を留学先とした理由
1.生活が安全である( )
2.生活水準が高い( )
3.経済が発達している( )
4.学問の水準が高い( )
5.先進的な知識や技術を身に付けられる( )
6.物価や生活費が安い( )
7.自分の興味のある勉強ができる( )
8.専門性が身につく( )
9.日本語がたくさん勉強できる( )
10.日本の社会や文化についてもっと知りたい( )
11.学習環境が良い( )
12.国民や市民の印象が良い( )
13.奨学金が充実している( )
14.寮やアパート等の住宅環境が良い( )
15.食事が上手い( )
16.アルバイトをして学費を稼げる( )
17.日本人の友達をたくさん作りたい( )
─ 27 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
18.アメリカやヨーロッパの大学に行けなかったから( )
19.日本の漫画、アニメやファッションが好きだ( )
20.将来の職業や就職に有利だから( )
21.その他(自由記述):
Ⅲ.長崎県を留学先に選んだ理由
1.長崎県は外国との交流の歴史が長い( )
2.長崎県民は留学生に好意的である( )
3.東京、大阪や京都のような大都市圏より物価が安い( )
4.その都道府県よりも奨学金等の受入条件が良い( )
5.学習環境が他の都道府県に比べて良い( )
6.大都市にある大学より治安が良い( )
7.全体の学生数が少なく、少人数教育を受けられそうだ( )
8.親、教師や留学体験者等の強い勧めがあった( )
9.自分と同じ国から来た人が周囲に多い( )
10.地震その他の自然災害が少なさそう( )
11.自分の国に距離的に近い( )
12.飛行機や船の定期便があり、アクセスし易い( )
13.就職の機会が多そうだ( )
14.母国の大学と長崎大学に学生交流協定があるから( )
15.先輩学生の勧めがあったから( )
16.その他(自由記述):
Ⅳ.留学目的や留学中に最もやりたいこと
1.日本語の勉強( )
2.英語の勉強( )
3.その他外国語の勉強( )
4.専門的な勉強( )
5.特定のテーマに関する調査・研究( )
6.資格取得( )
7.旅行( )
─ 28 ─
長崎大学留学生センター紀要 第21号22号合併号 2014年
8.日本人との交流( )
9.文化やスポーツ活動への参加( )
10.ボランティア活動( )
11.たくさん友達や人脈を作る( )
12.インターンシップやアルバイト等の職業体験( )
13.その他:
Ⅴ.就職観・職業観
1.将来やってみたい仕事がすでにある( )
2.将来の職業を留学中に真剣に考え見つけたい( )
3.将来の具体的な職業についてはまだ何も考えていない、考えたくない
( )
4.将来はどこかの会社で働きたい( )
5.将来は会社勤めではなく自分でビジネスを始めたい( )
6.卒業後日本で働きたい( )
7.卒業後母国で働きたい( )
8.卒業後日本以外の外国で働きたい( )
9.将来日本に住んで日本企業で働きたい( )
11.将来日本に住みたいが、日本企業ではなく外資系企業で働きたい( )
12.将来は母国にある日本企業で働きたい( )
13.働くならとにかく有名企業、大企業、一流企業がいい( )
14.働くのに企業の規模は関係ない。中小企業でもいい( )
15.企業の規模や知名度よりも、自分の好きな仕事ができる会社を選びたい
( )
16.給与その他の条件が良い会社を選びたい( )
17.母国語が使える会社で働きたい( )
18.英語でコミュニケーションできる会社で働きたい( )
19.同じ国の人、知り合いや友人が多い会社を選びたい( )
20.給 与その他の待遇や出世で外国人として差別されない会社で働きたい
( )
21.母国に支店、工場や関連会社があり、将来そこで働ける会社を選びたい
( )
─ 29 ─
外国人留学生の留学目的の変容とキャリア観に関する考察
22.その他(自由記述):
Ⅵ.留学と社会人能力形成
1.留学中の勉強だけでは社会人としての能力は発達しないと思う( )
2.留学効果を高めるためにアルバイトやインターンシップを経験したい
( )
3.留学中に勉強や社会体験を通して将来の職業を考えたい( )
4.留学したことで社会人として必要な能力がより発達すると思う( )
5.留学は自分の職業発見によりつながると思う( )
6.その他(自由記述):
─ 30 ─
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