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若者の労働と教育をめぐる課題
若者の労働と教育をめぐる課題 本田由紀 (東京大学大学院教育学研究科教授) 1 若者の労働の問題 • 正規・非正規に分断され、正規は過度の長時間 労働、非正規は低賃金と雇用の不安定性という 形でいずれも働き方の適正さ(decent work)を喪 失←ジョブなきメンバーシップ/メンバーシップな きジョブという両極端さ • 非正規・無業となった者のキャリア展望が閉ざさ れる • 企業内での若年層の人材育成機能の低下がも たらす技能伝承の弱体化、高度専門人材の不 足 • 違法行為と「泣き寝入り」の蔓延 2 若者の教育の問題 • 労働や社会生活全般に対する教育の「意義」の希薄 さ ・職業教育機関の量的少なさ、地位の低さ ・精神主義的なキャリア教育の普及 • 若年人口の減少も一因として大学進学率は上昇→大 学内部の格差化・多様化の進行 • 高校、特に普通科内部においても格差化がいっそう 進行←義務教育段階から学力保障が形骸化、家庭 が持つ諸資源の多寡が子世代に直接的に影響 • 学業成績や進学実績など数値化されやすい一元的指 標による管理や競争の強化→不登校・中退 3 教育と労働の関係性の問題 • 「新規学卒一括採用」の根強さと量的縮小 ↓ • 一定層が不可避的に非正規・無業に(特に高卒で顕 著) • 卒業年の求人状況が人生を大きく左右 • 曖昧な採用基準がもたらすマッチングの非効率性、早 期離職 • 特に大卒については早期化・長期化が大学教育を阻 害 • 「新規学卒一括採用」から外れた者への支援の手薄 さ 4 教育と労働の新たな関係 • 教育は労働に対して二つの面で「意義」の向上が求め られる ・労働への〈適応〉:職業に関わる知識・技能 ・労働の問題状況への〈抵抗〉:労働法および労働者の 権利に関する知識と実践方法 • 労働の世界において、正規・非正規間で両極端になっ ている「ジョブ」と「メンバーシップ」のバランスの回復を 通じた適正な働き方の拡大 • 教育と労働の接続における内容的関連の強化と時間 的余裕(試行の余地)の拡大 • 教育と労働との隙間に落ちた層に対する公的支援の 拡充 5 【現状】 労働 教育 正社員 教育の職業的意義が希薄 非正社員 無業 就職活動 【目指すべきあり方】 労働 教育 (正社員) 教育の職業的意義を向上 専門的な知識・技能に応じて 処遇がなされる労働市場 (非正社員) 就職活動・適職探索 就労体験・社会体験 など (時期・期間は多 様でありうる) リカレント教育 セーフティネットの構築 (生活支援と職業訓練・就職支援) 6 具体的な提案(ラディカルなものを含む) • 専門高校を増設するとともに、大学に対して入学者選抜に専門高 校枠を設けることを要請し、専門高校から大学への進学機会を拡 大させる • 大学教育において職業と関連の強い学部・学科・専攻を拡大する とともに、教育内容の「意義」を継続的に確認するための卒業生 フォローアップ調査を認証評価に組み込む • 中学校以上の教育機関において労働法教育を義務付ける(労働 組合、労働法曹、労働NPO等との連携を奨励する) • 義務教育段階から各学年における習得水準を示し、それに達しな い児童生徒に対して補充的な指導を行う(学習支援には地域の教 育NPOや大学生ボランティアなどの連携を奨励する) • 新規学卒者の採用活動は卒業年度の1月以降とすることを法制 化する • 企業は労働者の採用時に当該労働者の担当する職務の内容・範 囲を書面で明記した契約を交わすことを法的に義務付ける(企業 内での配置転換や昇格等の際には改めて契約を結ぶ) 7 • 同一内容の職務を担当する正規雇用者と非正規雇用者の賃金を 同水準とすることを企業に対して法的に義務付ける、あるいは非 正規雇用者の場合は賃金にプレミアを設ける • 長時間労働を抑制するために、残業代の割増ではなく労働時間・ 休息時間そのものを法的に規定する • 雇用形態を問わず、すべての労働者の労働時間に応じた社会保 険料を企業は負担する • 全卒業者は公的機関(ハローワーク、サポートステーション等)に 登録し、ジョブカードの交付を受けるとともに、就労相談、合同会 社説明会、職業訓練プログラム、生活支援を受ける権利をもつ • 教育訓練機関におけるOff‐JTと企業現場におけるOJTを組み合わ せた形式の職業訓練プログラムを求職者向けに拡充する • 産業別ないし職業別の労働者団体・労働組合に対して①当該分 野の知識・技能の体系化と各レベルに対応した最低賃金水準の 作成、②研修プログラムの策定・実施、③職業紹介機能を備える ことを要請し、それら団体・組合への労働者の加入を促進・奨励す る • 不登校・中退やひきこもりの若者に対して「居場所」と就労への漸 次的移行を提供する公的機関やNPOを拡充し、地域の公益的活 動を割り当てる 8