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福田哲也ゼミナール 経済9期生 小林 雄 瀧下 恵理 本間 恵子 渡邉 清美
卒業論文概要 旅行業界 ~JTB と近畿日本ツーリストと H.I.S.~ 福田哲也ゼミナール 経済9期生 小林 瀧下 本間 渡邉 雄 恵理 恵子 清美 旅行業界 ~JTB と近畿日本ツーリストと H.I.S.~ 私たちは「旅行が好き」 、 「他の産業や地域の発展につながる重要な産業だから」という理 由から、「旅行業界」をテーマとして取り上げた。 なりわい 旅行業界とは文字通り「旅」を生業とする業界である。この業界を知るには「旅」とは何 か、「旅」がいつから商品になったのかを知っておく必要がある。 旅とは、家を離れてよその土地を訪ねることであり、動機によって「必要に迫られてする 旅」 (「生活上必要とされる旅」、 「権力に強制される旅」)と「自ら好んでする旅」の 2 つに 分類できる。 旅は、人類の誕生と共に行われていたと考えられ、時代の変化と共に旅の主流も変化して いった。発生当時は、「生活上必要とされる旅」が主流であったが、国家の成立により「権 力に強制される旅」へ変化した。室町時代になると、宿の発達や貨幣の流通などにより、 「自 ら好んでする旅」が増加したが、当時は信仰による社寺の参詣が主な目的であった。今日 のような観光旅行が発達したのは江戸時代に入ってからである。それでも、旅とは生涯を かけた大事業であり、稀有の人生経験であった。そのため、当時の観光旅行は人々にとっ て、大きな感動と喜びを与えてくれたことから、人々の中に広がっていき、今日まで成長、 発展してきたと考えられる。 では、旅を商品として扱うようになったのはいつからだろうか。それは約 100 年前の 1905 年のことである。その内容は、列車の団体割引を利用した高野山や伊勢神宮を参拝する旅 行の斡旋であった。これを考えたのは日本旅行の前身である「日本旅行会」で、日本で初 めての旅行会社である。 日本旅行会を皮切りに誕生した旅行会社は、団体旅行を中心に取り扱っており、旅行業の 役割は旅行者に代わって交通機関などの手配を行う「機能の代替」であった。その後 1964 年に海外旅行が自由化されると、パッケージツアーという新しい商品が出現し、旅行業に 「造成・販売」という機能が備わった。そして消費者の旅行経験が豊富になった近年では、 消費者のニーズが多様化・個性化し、それに伴って旅行業に旅行者の多様なニーズに応え られる商品を「企画・提案」する役割が求められるようになってきている。このように時 代と共に、旅行業はその役割を変えている。 近年旅行業の取扱総額は、長引く不況に加え 2001 年の米国同時多発テロや 2003 年の SARS、鳥インフルエンザの影響などによって大きく減少した。その後は回復傾向にあるが、 成熟期を迎えている旅行市場で各社が成長していくには、企業努力が必要である。 そこで私たちは、今後旅行業がどのような方向性をもつべきかを知るために、旅行業誕生 以降の歴史を踏まえながらその動向をみていき、そこからみつけた課題をキーワードとし て出した。 キーワードの 1 つ目は、 「訪日外国人旅行者の獲得」である。海外旅行市場と国内旅行市 場は伸び悩みの状態となっている。そこで私たちは、徐々に市場が拡大している訪日外国 人旅行市場に成長の可能性があると思い、訪日外国人旅行者の獲得に力をいれていくこと が課題になると考えた。 2 旅行業界 ~JTB と近畿日本ツーリストと H.I.S.~ キーワードの 2 つ目は、 「多様化・個性化するニーズへの対応」である。かつては団体旅 行が主流であったが、消費者の旅慣れと共に個人旅行へと旅行形態が変化してきた。また、 ありきたりのパッケージツアーに飽きた消費者が、行ったことのない地域や新しい体験を 望むようになってきた。そこでこれからの旅行業は、消費者の視点に立って多様化・個性 化するニーズに応えられる旅行商品を企画・提案していくことが課題になると考えた。 キーワードの 3 つ目は、 「店舗販売の強化」である。消費者の情報収集力が高まっている 現在では、ネット会社の成長は看過できないものになっている。そこで店舗を中心に旅行 商品を販売している既存の旅行会社は、ネット会社との差別化が必要となってきた。そこ で、私たちはネット会社に対する既存旅行会社の強みは店舗であると考え、店舗販売の強 化をしていくことを課題とした。 キーワードの 4 つ目は、 「新たな収益源の確保」である。市場の成熟期に加え長引く不況 によって旅行市場が伸び悩んでいる現在は、旅行関係機関の手数料に頼った収益源では企 業の成長は厳しいものとなっている。そこで私たちは手数料に頼らない新たな収益源を確 保することが課題になると考えた。 続いて、旅行業界に参入している企業を取り上げる。 私たちは業界シェアの結果から、業界 1 位の JTB、業界 2 位の近畿日本ツーリスト、業 界 5 位の H.I.S.の 3 社を取り上げることにした。そしてこの 3 社の比較や歴史から各企業 の特徴を述べる。 まず 3 社の企業概要を比較すると、注目すべき 3 つの相違点があった。 1 つ目は会社の規模だ。JTB は他 2 社に比べ、多くの従業員数とグループ企業を持ってお り、JTB の規模が大きいことがわかった。 2 つ目は店舗数の違いである。H.I.S.は店舗数が少ない。しかし、2 位である近畿日本ツ ーリストの約 4.5 倍を売上げており、少ない店舗で多くの売上高を得ていた。 3 つ目はアプローチする市場の違いである。3 社のとも旅行事業で主な売上を得ているが、 JTB と近畿日本ツーリストは国内旅行で、一方 H.I.S.は海外旅行で主な売上を得ていた。 続いて、各社の歴史を追いながら特徴を述べる。JTB は 1912 年に日本初の旅行斡旋業者 として前身であるジャパン・ツーリスト・ビューローを創業した。その後、1964 年のパッ ケージツアー販売や 1988 年の CI 計画導入など業界初となる試みを行ってきた。そして、 現在では新グループ経営体制に移行することで効率を向上させると共に、多方面にも活躍 の場を広げている。 近畿日本ツーリストは前身である関急旅行社を創業した当初は旅行業を行っていなかっ た。しかし、旅行業を始めてからは団体旅行者から支持を得て成長してきた。その後、同 業他社との合併や提携を積極的に行い、現在では CI 計画の実行や事業再編に取り組み効果 的かつ効率的なマーケティングを行っている。 H.I.S.は 1980 年に前身であるインターナショナルツアーズを創業した。創業当初から「海 外旅行」 ・ 「若者向け商品」を軸に事業を行ってきた結果、創業から 28 年しか経過していな 3 旅行業界 ~JTB と近畿日本ツーリストと H.I.S.~ いにも関らず業界 5 位に位置しており、成長が著しい企業である。現在は広告戦略を積極 的に行い、幅広い顧客からの支持獲得を狙っている。 次に視点を変え、企業の財務状況から分析を行い、企業の特徴を明らかにする。ここでは、 各社を成長性、収益性、安全性の観点からみていく。 まず JTB をみていく。JTB は、6 ヶ年で取扱総額は減少しているが、売上高、総資本営 業利益、経常利益は増加している。このことから、旅行事業は衰退傾向にあるが、それ以 外の事業によって成長している。収益性の観点からみると、利幅と効率のバランスのとれ た戦略を展開しており、収益力は、業界の平均的な水準である。また、JTB の収益は主に 原価に影響を受けやすいことがわかった。安全性の観点からは、未清算旅行券による流動 負債の増大の影響を受け、短期的な支払い能力が低いことが明らかになった。また、負債 に頼った資本形態のため長期的な安全性も悪い。以上が財務面からみた JTB の特徴である。 次に近畿日本ツーリストをみていく。近畿日本ツーリストは、取扱総額、売上高、総資本、 営業利益、経常利益のすべての項目で減少しており、衰退傾向にあることがわかる。また、 売上高の減少によって人件費率や減価償却費率の増加を引き起こしており、従業員や資産 を有効に利用できていないことが明らかとなった。収益力は特に効率の悪さから低くなっ ている。安全性の観点からみると、短期的な支払い能力は JTB 同様、未使用旅行券によっ て低くなっている。また、長期的な安全性はクラブツーリズムの営業譲渡により一時的に 改善したが、まだ良好な水準には達していない。以上が近畿日本ツーリストの財務面から みた特徴である。 最後に H.I.S.をみていく。H.I.S.は、取扱総額、売上高、総資本、営業利益、経常利益の すべての項目において、増加しており、成長している。また、収益力は高効率戦略によっ て高く、その要因は、関係子会社への投資の成功や店舗販売の好調である。安全性の観点 からみると、短期的にも長期的にも安全な水準に達している。以上が H.I.S.の特徴であり、 財務面の問題はないことがわかった。 では、業界の動向から得たキーワードと、企業分析と財務分析から得た企業の特徴がうま く対応しているかみていき、その結果から課題を出す。 キーワードの「訪日外国人旅行者の獲得」と「多様化・個性化するニーズへの対応」、 「店 舗販売の強化」は、対応できている。しかし、JTB と近畿日本ツーリストは財務的に不安 があり、「店舗販売の強化」の見極めが必要である。 また、 「新たな収益源の確保」は、JTB と近畿日本ツーリストはイベント事業を新たな収 益源として、H.I.S.は旅行に付随するサービスを新たな収益源として対応している。しかし、 旅行事業が伸び悩んでいる近年では H.I.S.の対応は不足している。 こうしたキーワードに対する 3 社の対応から、みえてきた各社の課題を出していく。 JTB の課題は「店舗販売の強化」だ。分社化したことで専門性に特化することができ、 ビレッジ汐留やロイヤルロード銀座など新店舗を開設している。しかし、JTB は財務分析 で述べたように、長期的安全性が悪い。よって JTB は多く持っている建物を有効利用する 4 旅行業界 ~JTB と近畿日本ツーリストと H.I.S.~ 「スクラップ&ビルド」などの工夫をしていくべきである。 近畿日本ツーリストの課題は、「店舗販売の強化」と「新たな収益源の確保」だ。店舗販 売の強化として新コンセプトの店舗づくりをしている。しかし、安全性が悪いにも関わら ず固定資産を増やすことは良くないため、まずは従業員の教育など低コストでできること から強化していくべきである。新たな収益源の確保としてイベント・コンベンション事業 に取り組んでいる。財務面からみるとどの分析でも評価が低いため、根本である収益をあ げることが必要となる。よって、投資すべき事業と抑える事業を見極め、予算・人事を配 分していくべきである。 H.I.S.の課題は、「訪日外国人旅行者の獲得」と「新たな収益源の確保」だ。訪日外国人 旅行者を獲得するために、多数ある海外支店を通じてニーズリサーチを行うべきである。 新たな収益源では旅行に付随するサービス以外に、海外で行う記念式典や新商品発表の企 画・運営などイベント事業等で収益を得ていくべきである。 以上が本論文の概要である。 5 決算書類にもとづく企業の経営戦略分析 -自動車業界- トヨタ自動車・本田技研工業・日産自動車 の戦略を明らかにする 卒業論文概要 福田哲也ゼミナール 経済学部 9 期生 稲垣 裕晃 田尾 綾香 出口 公平 松田 将吾 自動車業界 ~トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車~ 概要 1.論文の背景と目的 自動車産業とは、日本が世界に誇れる産業であると共に、日本一の企業「トヨタ自動車」 が存在する産業でもある。また、CM や新聞などの広告でもよく目にし、今や私たちの生 活に無くてはならない産業となっている。私たちはこの自動車産業に注目し、日本の自動 車メーカーがどのような戦略で活動を行っているのかを明らかにしたいと考えた。しかし、 日本の自動車メーカー全社の分析を行うには莫大な時間と労力を必要とするため、私たち は売上高上位 3 社の「トヨタ自動車(以下、トヨタ)」 「本田技研工業(以下、ホンダ)」 「日 産自動車(以下、日産) 」を対象に分析を行うことにする。この 3 社の戦略を分析・比較 することで、それぞれの特徴や取り組みの違いを見つけると共に、課題を提示することで 3 社の今後の展望を探ることを目的とする。 2.業界及び企業の概要 (1)業界概要 業界概要では、日本の自動車業界が生まれてから、どのように成長して、現在はどのよ うな状況にあり、どのような問題を抱えているのか、その要因から自動車業界としての取 り組みまでを探る。 1904 年に初めて純国産の自動車が生産されてから現在まで、特に 1950 年代から始まっ た大量生産・大量販売体制の確立により日本の自動車産業は急速な発展を遂げてきた。国 内のみならず海外の企業とも資本・業務提携や技術供給を行い、今や世界中で生産される 自動車の 4 台に 1 台は日本車だと言われ、日本の重要な産業(基幹産業)となった。 しかし、急成長を遂げてきた自動車業界であるが、現在では少なからず問題も抱えてい る。まず、国内売上の減少である。これは、自動車の平均使用年数の延長、ガソリン価格 の高騰、交通発展、自動車の魅力がなくなったことなどで起こった国内市場の縮小が要因 に挙げられる。次に、地球環境に対する問題である。これは、大気汚染や地球温暖化を主 に取り上げており、自動車が排出する排気ガスや二酸化炭素が主な要因であることがわか る。最後に、安全に対する問題である。これは自動車業界の使命とも言われており、自動 車が増え続ける中で自動車メーカーがどのように安全を確保するかを模索していることが わかる。これらの問題に対して、自動車業界全体はどのように取り組んでいるのかを調べ る。 国内売上の減少に対しては海外市場への進出を行うことで売上を確保し、北米、アジア、 そして近年の成長が著しい BRICs(新興国)に対して積極的な進出がある。地球環境に対 する問題では、燃費の向上やクリーンエネルギー車の開発を進め、環境に優しい車作りを 目指している。安全対策では、事故のない社会を目指すために、自動車産業全体で安全装 置の開発に積極的に取り組んでいる。この努力により道路交通事故による死亡者数は年々 減少しており、成果を出している。 (2)企業概要 企業概要では、私たちが取り上げるトヨタ、ホンダ、日産の 3 社がどのような企業であ るかを理解する。 1 自動車業界 ~トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車~ 概要 トヨタ自動車 トヨタの現在の代表者は渡辺捷昭、資本金は 3,970 億円、従業員数は 69,478 人(連 結:316,121 人)、連結売上高は 26 兆 2,896 億円、事業内容は自動車、金融、その他(住宅・ GAZOO・情報通信・マリン等)である。 創業は 1933 年で、創業当初から戦後までは主にトラックの製造を行っていた。1960 年 代に始まった品質管理(TQC)を行う経営手法は「トヨタ生産方式」として世界中で研究 対象にされるなど多くの注目を得ている。さらに、1997 年に発売したクリーンエネルギー 車の「プリウス」が 2007 年に 100 万台を突破するなど、生産台数世界第 1 位の地位を磐 石のものとしている。現在では、クリーンエネルギー車の開発や海外企業との技術提携、 共同生産を積極的に行い、不得意分野をなくす動きを見せている。 本田技研工業 ホンダの現在の代表者は福井威夫、 資本金は 860 億円、従業員は 26,583 人(連結:178,960 人)、連結売上高は 12 兆 28 億万円、事業内容は四輪事業、二輪事業、金融、汎用事業で ある。 創業は 1946 年で、創業当初は自転車用補助エンジンを主に製造していたが 1948 年に二 輪車業界へ、1962 年に四輪車業界へ進出する。1974 年に CVCC エンジンでマスキー法を 世界で初めてクリアし、1981 年には世界初の自動車用ナビゲーションシステムを開発する など先進技術の開発を積極的に行った。現在でも 2000 年に本格的二足歩行ロボット 「ASIMO」を、2003 年には全てが自社製の飛行機「ホンダジェット」を発表するなど、 積極的に新規分野への進出を果たしながら今日に至っている。 日産自動車 日産の現在の代表者はカルロス・ゴーン、資本金は 6,058 億 13 百万円、従業員数は 31,453 人(連結:180,535 人)、連結売上高は 10 兆 8,242 億円、事業内容は自動車、金融である。 創業は 1911 年で、戦前は乗用車の販売を行い、戦時中は軍用トラックや航空エンジン の製造を行う。戦後は戦前と同様に、乗用車の製造を行う。1998 年には経営難から約 2 兆円の有利子負債を抱えてしまうが、1999 年にフランス「ルノー」と資本提携を行い、経 営再建計画「日産リバイバルプラン」を行うことで負債を完済し経営復活を果たす。2008 年にはクリーンエネルギー車であるクリーンディーゼル車の販売を開始し、また、NEC との技術提携で電気自動車の開発にも取り組むなど、クリーンエネルギー車の開発に積極 的である。現在は自社の技術力では補えない部分で分野の違う様々な企業と技術提携を行 いながら、日産らしい商品の開発を行っている。 3.経営戦略分析 (1)企業分析 企業分析では、企業概要で理解した 3 社の現状を分析し、経営戦略を探る。 3 社は国内売上高ベースで見ると、トヨタが 2 社に 3 倍以上差をつける売上を上げてい る。これは国内販売網の多さと、投入車種の多さが主な要因である。次に海外での売上高 を見ると 3 社のいずれも、日本より他地域での伸びが売上に大きく貢献していることから、 2 自動車業界 ~トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車~ 概要 業界概要で述べたように海外での売上が中心である。次に 3 社の事業別割合を見ると 3 社 それぞれによって事業内容が異なるが、トヨタは自動車事業の規模が大きいだけに、それ に付帯する金融事業も大きい。ホンダは元々二輪車事業を行っているので、四輪事業以外 では二輪の事業割合が大きい。また、四輪車の北米やアジアでの売上高増加が付帯する金 融事業も大きくしている。日産は近年、欧州での自動車事業が好調なために付帯する金融 事業も大きくなっている。 (2)財務分析 財務分析では、3 社の財務諸表から読み取れる情報を利用して、成長性、収益性、安全 性の視点から企業の戦略を探る。 成長性分析では、トヨタは業界平均以上の成長力を誇っている。ホンダと日産は業界平 均以下の成長力である。 収益性分析では、トヨタは業界平均以上の収益力であり、3 社の中では最も収益力が高 く、利幅の高い高付加価値型戦略である。ホンダは平均値において全て業界平均を上回っ ているが、変化率では全て業界平均以下の伸び率を示す。トヨタとは対象的に高効率型戦 略である。日産は 3 社の中で最も収益力が低く、高効率型戦略である。 次に安全性分析の短期的な支払能力は、3 社とも比率が減少しており支払能力が高いと は言えない。しかし、業界平均と比較すると業界としてもこのような動向であるため、必 ずしも危険であるとは言えない。トヨタの総合的な安全性は最も低い。ホンダは、業界平 均以上の安全性がある。日産は、総合的な安全性は最も高い。 これら 3 つの視点から評価した結果、トヨタとホンダは業界平均以上に優れた財務体質 であり、日産は業界平均以下の財務体質であることがわかる。 4.戦略課題 ここまで業界概要、企業概要、経営戦略分析を見てきたが、ここで業界の動きと企業の 動きが同じ方向に向いているかを見ていく。 国内販売の減少に対してはモーターショーへ出展したり、若者向けの自動車を発売する などの対策を採っているが世界的な金融危機や不景気など世相の影響もあり、自動車メー カーだけでの解決は困難な状況である。しかし、業界の動きと同じように海外市場への進 出を行うことで売上を確保し、特に BRICs(新興国)への進出を積極的に行っている。だ が、現時点で世界中の企業が進出している新興国において十分なシェアを獲得していると は言えない。環境問題に対しても、業界の動きと同じように 3 社ともクリーンエネルギー 車の開発を積極的に行っている。しかし、実際に一般販売されているクリーンエネルギー 車は一部であり、開発コストの削減やインフラ整備を行っていく必要がある。 5.まとめ 自動車業界は現在、世界的に注目されている環境問題対策や新市場の開拓など機会に恵 まれている面と、国内の車離れという脅威にさらされた面を併せ持っている。特に、海外 市場での為替変動リスクによる損失を補うためにも国内市場の活性化は必要不可欠である。 この機会と脅威の環境対策という機会において、トヨタは特にハイブリッド技術で先行 3 自動車業界 ~トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車~ 概要 している。ホンダは燃料電池車、日産はクリーンディーゼル車と、それぞれ得意とする技 術を投入することで機会を活かそうとしている。新興国への進出も、現地工場の建設や現 地販売会社との業務提携を結ぶなど、シェア拡大に向けて積極的に取り組んでいる。車離 れの脅威に対しては、3 社モーターショーに出展したり、若者向けの車作りを行っている。 中でも、トヨタはお台場のパレットタウンやトレッサ横浜など複合商業施設への店舗出店 を進めており、若者の関心を集める努力をしている。 このように自動車業界を取り巻く環境は年々厳しくなっているが、3 社ともできる限り の取り組みを行い、成長を続けようとしている。自動車業界は日本の基幹産業であるため、 今後も日本経済を牽引していくだろう。取り巻く環境が厳しくなっているが、これらの機 会や脅威に対してどのように対応していくのか、これからも注目していきたい。 4 ハンバーガー業界~日本マクドナルドとモスフードサービス~ (飯島・石井・岡村・櫻井) ハンバーガー業界 卒論概要 (石井紘介) 本論文では、ハンバーガー業界とその売上高シェアランキングの第 1 位と第 2 位である 日本マクドナルドホールディングス(以下日本マクドナルド)とモスフードサービスにつ いてとりあげる。業界概要でハンバーガー業界をはじめとするファーストフード業界と外 食産業の位置関係を示した上で、外食産業が抱える問題点と現状を明らかにしていく。続 いてハンバーガー業界の歴史をみていくことで理解を深め、近年のハンバーガー業界の原 状と取り組みについてみていく。そして、企業概要で両社を比較することにより特徴を顕 著にし、それを構成するに至るまでの企業の歩みについてみていく。最後に、財務分析と 企業分析の観点から経営戦略分析を行う。財務分析では企業の現状や強み・弱みを数字で 明らかにしていき、企業分析で企業の経営戦略を示すことによって、企業の課題と展望を 提案する。 それでは業界概要から説明していく。外食産業は様々な部門から成り立っており、ハン バーガー業界をはじめとするファーストフード業界は「その他飲食」にあたる。ハンバー ガー業界はファーストフード業界の一部であり、ファーストフード業界は外食産業の一部 であることから、ハンバーガー業界とファーストフード業界と外食産業は多くの点で共通 する。そこで、外食産業がどのような業界であるのかを説明し、ファーストフードの特徴 をみていくことで、ハンバーガー業界に対する理解を深めていく。まず、外食産業の説明 に入る前に、外食とはどのようなものであるかに触れておく。外食が始まった時期は歴史 的に遡ると、古代ローマや中国の漢の時代だと言われている。その当時は単に食べ物や飲 み物を提供するだけだったが、次第に、命を守る役割や政治的な役割も果たすようになっ た。そして現在は、レジャーとしての利用や、家族の団らんの場などとして利用されてお り、外食は食事と共に、食を通じて時間を楽しく、有効に過ごすための空間を提供してい ることがわかる。 次に外食産業の市場規模の推移についてみてみよう。1975 年に 8 兆 5773 億円であった 市場規模が 1997 年には 29 兆 702 億円まで拡大した。この背景には、高度経済成長による ライフスタイルの変化と、それまで生業的、家庭的だった外食産業がフランチャイズチェ ーン(以下 FC)とセントラルキッチンによって有望なビジネスとして見られるようになっ たことの 2 つがあげられる。しかし、1998 年以降は景気停滞などによって縮小傾向にあり、 従業員不足も深刻な問題となっている。 さらに、ファーストフード業界についてみていく。経済産業省の商業統計によると客単 価が 700 円未満、料理提供時間が 3 分未満、セルフサービス方式を導入しているという 3 つの条件を満たしているものがファーストフードとされている。客単価が 700 円未満とい う低価格帯での販売や、料理の提供時間を 3 分未満にすることを実現するため、ファース トフード業界は経営の合理化を図っている。そして、それがファーストフードの特徴であ り強みだと言える。 1 ハンバーガー業界~日本マクドナルドとモスフードサービス~ (飯島・石井・岡村・櫻井) 次にハンバーガー業界の歴史に移る。ハンバーガー業界の歴史では、アメリカにおける ハンバーガーの発祥と、全米に広がるまでの経緯を、米マクドナルドを中心にみていき、 日本におけるハンバーガー業界の誕生とその発展をみる。 続いてハンバーガー業界の現状をみていく。近年、外食にかける費用は減少し、消費が 低迷している。しかし、その一方で食料品支出に対する外食費の割合は落ちていない。そ れは、雇用報酬の低下などにより消費が低迷している一方で、女性の社会進出や単身世帯 の増加などで外食に対する需要は依然としてあるといえる。また、ファーストフード業界 の全店売上、既存店売上の推移をみてみると、スクラップアンドビルドで出店計画を見直 すことで既存店売上を向上させており、客数の伸ばすことで成長していることがわかった。 そして、このような現状に対してハンバーガー業界はお得感の演出や、食事以外での来店 を促すことで客数の向上につなげている。 ここまで業界概要をみてきた。それにより、外食の提供するものとは食事だけではなく 空間も提供していること、ファーストフード業界は合理化をすることによって安さやスピ ードを強みとしていることがわかった。また、外食産業は消費が衰退しており厳しい状況 に立たされているが、その一方で女性の社会進出や単身世帯の増加により依然として外食 に対する需要がある。そして、客数の向上が成長するうえで重要だということがわかった。 ハンバーガー業界は客数を向上させるため、お得感を演出することや、食事目的以外の利 用を促すなどの取り組みを行っている。 ここからは企業概要に移る。日本マクドナルドとモスフードサービスはハンバーガー業 界の売上高シェアランキング第 1 位と第 2 位であるが、日本マクドナルドが約 71%のシェ アを持っているのに対し、モスフードサービスは約 16%とその差は大きい。日本マクドナ ルドとモスフードサービスの戦略にはどのような違いがあるのだろうか。日本マクドナル ドが繁華街型店舗展開、直営店中心経営、低価格、経営効率改善によるコスト削減を強み としている。一方モスフードサービスは 2 等地戦略、FC 中心経営、日本人に合う味、多角 化経営を強みとし、日本マクドナルドとは異なった戦略をとっていることがわかる。 これらの戦略は財務分析においてどのように表れているのだろうか。財務分析では成長性、 収益性、安全性の 3 つの観点から両社を分析していく。 成長性では、日本マクドナルドは全の指標において上昇傾向であり、順調に伸びている。 一方モスフードサービスは売上高以外減少傾向であり、売上高も直営店と FC 店の売上高を 合計したチェーン全店売上高を見ると下がっている。 収益性では 2005 年から 2007 年にかけて両社の総資本経常利益率(以下 ROA)が逆転して おり、それは何故起こったのかということを中心にみていく。収益性分析の大元の指標で ある ROA を、利幅をみる売上高経常利益率と効率をみる総資本回転率に分解すると、ROA の逆転理由は利幅にあることがわかった。日本マクドナルドは売上高の上昇と、それに伴 う売上高原価率の改善がされているため、ROA が上昇していた。一方モスフードサービス は、人件費などの販売費及び一般管理費の上昇によって ROA が下降傾向にあった。それら 2 ハンバーガー業界~日本マクドナルドとモスフードサービス~ (飯島・石井・岡村・櫻井) の原因により日本マクドナルドとモスフードサービスの ROA は逆転したのである。日本マ クドナルドの ROA は上昇傾向にはあったものの、ハンバーガー業界自体の ROA が外食産 業平均と比べて低かったことから、両社共に改善の必要がある。 安全性分析では日本マクドナルドの短期的な支払い能力が低く、固定比率も低かったため 危険であるということがわかった。一方モスフードサービスは全ての指標で良好な値を示 しており、安全性は高いということがわかった。 以上のことをまとめると、日本マクドナルドは成長傾向にあり、収益性は低いものの改 善されつつある。そして、安全性の改善が課題としてあがった。一方モスフードサービス は衰退傾向にあるうえ収益性も減少傾向にあり、このままでは安全性にも影響がでてくる ことが懸念される。 財務分析では数値で近年企業がとっている戦略をみてきたが、これから行う企業分析では 近年の両者が実際にどのような戦略を行っているのかを探っていく。日本マクドナルドは、 客数向上を狙った戦略をとっている。ブランドをいかしたグローバライズ戦略、低価格戦 略、時間帯別戦略が主な軸となっているが、それ以外にも、直営店から FC 店への転換によ り収益性や安全性の改善や、e-マーケティングによるマーケティングの効率化を行おうとし ている。 モスフードサービスは、成長性が鈍化しており、今まで強みだった味、2 等地、FC 展開、 多角化の優位性が薄れている。そのため、3 ヵ年の中期経営計画「V.I.P.21」(Value Innovation Plan21)を 2005 年 4 月から開始した。その柱となるのはファストカジュアル 化、関連事業の黒字化、さらなる海外進出の 3 つである。しかし、海外進出以外はうまく いっておらず、FC 店オーナーはファストカジュアル化にかかった費用の負担を全て負うこ ととなった。そこで、主力ハンバーガーの刷新やクーポンの配布、スーパーバイザーの増 加など新たな計画を打ち出した。 最後に、これまで見てきたとこから浮かび上がる両社の課題と展望を提案する。 日本マクドナルドは現在好調である。しかし、今後は日本での市場拡大は見込みにくい。 日本マクドナルドは海外に進出できないので国内で生き残るためには、ターゲットの拡大 が必要である。また、現在は財務分析で述べたように好調ではあるが、その一方で FC 店や 社員に大きな負担がかかっている。つまり、社員や FC 店の負担を軽減しつつターゲットの 拡大も行わなければならない。この二つの課題を解決するために、私達が提案する戦略は 「ポイントカード制度」の導入である。お得感を前面に出すことで来店頻度の向上につな げる。また、ポイントカードは e-マーケティングを利用できるためインフラは整っており、 ポイント割引もホールディングスが負担することによって FC 店や社員の負担軽減につな がるのではないかと考えた。このように負担を軽減しつつ、ターゲットを拡大できるよう な戦略を打ち出していけるかどうかが日本マクドナルドの今後の成長の鍵となってくる。 モスフードサービスは、海外進出はうまくいっているが、それ以外の戦略は、 「お得感の 演出」という動向に合っていない。そのため成長性も収益性も悪化している。クーポンは 3 ハンバーガー業界~日本マクドナルドとモスフードサービス~ (飯島・石井・岡村・櫻井) お得感の演出に相当するが、マクドナルドのように効率化できていないため、販促費によ る収益悪化の影響の方が大きかった。そのため、どのように客数を向上させるかが課題で ある。そこで私達が提案する戦略は、商品を絞ることによってコストの削減を行い、作業 効率も向上させること、そして、1 種類のセットに絞って値下げを行い、その値下げする商 品を毎月変えることで客数を向上させるという 2 つの戦略である。クーポンによる値下げ は客数向上の効果はあったので集客力向上には大きな効果が期待できる。値下げをする商 品を 1 種類に絞ることによってクーポンよりコスト負担を軽減でき、毎月値下げをする商 品が変わるので固定客増加も狙うことができる。このように、抜本的な改革をしつつ、客 数を向上できるかどうかが、モスが今後立ち直れるかの鍵となってくる。 4 卒業論文概要 上杉 美希 中田 麻理 三好裕太郎 『財務諸表から見る家電量販店業界の経営戦略分析』 はじめに 本論文の構成は、まず家電量販店業界の業界概要を明らかにする。そして、取り上げる ヤマダ電機、エディオン、ケーズホールディングス、コジマを比較検討していくために、 各社の企業概要を明らかにし、財務分析を行う。財務分析では成長性分析、収益性分析、 安全性分析、キャッシュフロー分析を行い、企業の財務面での長所、短所、特徴を明らか にする。最後に業界概要、企業概要、財務分析を基に、各社の経営戦略分析を行い、課題 の提案や、業界の展望を推測する。 業界概要 ・家電量販店の歴史 家電量販店が増える中で日本大型電気店連合会(NEBA)という組織が設立された。NEBA 会員企業は地域ごとに均等に勢力を保ち、会員企業同士の競争などは存在しなかった。し かし、NEBA 非会員であるヤマダ電気、コジマ、ビックカメラ、ヨドバシカメラ等が全国 展開や低価格販売をすることで、家電量販店業界の牧歌的な雰囲気を打ち破り、現在の低 価格競争が当たり前の家電量販店業界が誕生した。 ・家電量販店業界の現状 家電量販店店頭に並ぶ製品はほとんど同じである。そのような状況の中、他社との差別 化を図るべく、様々なサービスの導入や、他事業への参入、自社製品の開発などを行って いる。しかし、価格競争に打ち勝つことこそが顧客確保につながるので、各社とも原価を 抑えるべく、M&A を行い企業規模の拡大を目指している。 ・メーカーに対して強い立場の家電量販店 家電量販店は大量仕入が基本となり、メーカーとしては家電量販店との取引が主となっ た。家電量販店が大型化することで、メーカー側は家電量販店の細かい要求を断れなくな るほどの交渉力を得た。 1 企業概要 ・ヤマダ 2005 年 2 月には家電量販店として初めて売上高 1 兆円を達成し、同年 7 月、家電量販店 で初の全都道府県進出を果たした。ヤマダはこれまで郊外に店舗を構えることが多かった が、近年では「LABI」という都市型大型店舗のブランドを設立した。 ・エディオン 2002 年 3 月、デオデオとエイデンが共同で設立した。その後 M&A を積極的に行い、店 舗数では業界第 1 位、売上高は 8,000 億円を超え、ヤマダに次いで第 2 位である。 ・ケーズ 2004 年にギガス、八千代ムセン、2005 年には四国のビッグ・エスを買収して勢力を拡大 していった。売上高販管費率を抑えるローコスト経営が順調で、同業他社が 17~20%近辺 であることに比べて、ケーズは直近 5 ヵ年平均で、13.50%であり、とても低く抑えられて いる。 ・コジマ 2001 年には家電量販店として初めて売上高 5,000 億円超を達成した。しかし 2002 年に ヤマダに売上高日本一の座を明け渡す。2008 年 3 月に全都道府県への出店を果たすがコジ マの成長は進んでいない。 財務分析 成長性分析 経営分析の一手法で、売上や利益、増益率などの成長を時系列で把握することにより、 企業の将来性、競争力を検証することができる。 ・ヤマダ 総資産、営業利益、経常利益、店舗数、従業員数、全ての指標で増加傾向にあり、順調 に企業規模が拡大している。 ・エディオン 総資産や店舗数、従業員数といった指標は順調に拡大しているが、営業利益、経常利益 の成長は低調である。 ・ケーズ 営業利益、経常利益は毎年増加しているが、ヤマダやエディオンに比べ増益率で劣って いる。ゆっくりと確実な成長を遂げているといえる。 ・コジマ 全ての指標で減少傾向もしくは横ばいでの推移を示しており、業界全体が成長する中で まったく成長していない。 2 収益性分析 企業がどれだけ儲けているのか、どのように儲けているのか、を図るための指標とその 指標に基づく比較検証のことである。企業の収益構造は高付加価値型と高効率型に区別す ることができ、高付加価値型は利益率が高い。また、高効率型は利益率が低いが、その分 値段を安く設定し、多く売るという戦略である。高付加価値型の戦略をとっている企業は 利益率が高く、高効率型の戦略をとっている企業は回転率が高い。 ・家電量販店業界 他の流通業と比べたとき家電量販店業界は高効率型の収益構造である。つまり、利益率 の低い業界であるといえる。また 4 社に回転率の差をほとんどない。 ・ヤマダ 家電量販店業界内では高い利益率を示していて、高付加価値型の経営を行っているとい える。その要因は企業規模を活かした安値仕入れである。 ・エディオン 利益率でヤマダに差をつけられている、その要因は販売管理費率が高いことであり、特 に給与手当てという、人件費にあたる費用が他社に比べ高い比率を示している。 ・ケーズ 企業規模はエディオンに比べ小さいがは利益率では近い数値を示している。その要因は 確実なローコスト意経営にあり、販売管理費率が低く抑えられている。しかし、近年広告 費等が増加傾向にある。 ・コジマ 利益率が低い。その要因は売上原価が他社に比べた高いことで、メーカーに対しての交 渉力が弱いように推測される。 安全性分析 企業の財務健全性を評価するための分析のことで、企業の短期的支払い能力、資本調達 の安全性、設備投資の安全性の 3 つの観点から分析していく。 ・ヤマダ 短期的支払い能力で良好な数値を示し、設備投資の安全性でも特に問題は見られなかっ た。しかし、資本調達の安全性低いものである。ただし、家電量販店業界が全体的に資本 調達の安全性において低い数値を示していることから大きな問題とは見られない。 ・エディオン 短期的支払い能力、資本調達の安全性、設備投資の安全性すべてにおいと大きな問題は みられない。また安全性が改善傾向にある。 ・ケーズ 短期的支払い能力、資本調達の安全性、設備投資の安全性すべての指標で危険とされる 数値を示していて、安全性の改善が求められる。 3 ・コジマ 家電量販店業界が全体的に資本調達の安全性において低い数値を示しているが、その中 でもコジマは際立って危険とされる数値を示している。 キャッシュフロー分析 キャッシュフローとは、現金収支のことで企業活動全般に関わる収入や支出の現金部分 だけを示すものである。 営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフロー、フリー・キャ ッシュフローを企業ごとに分析する。 営業キャッシュフローとは、売上や仕入などの営業活動によって生じた資金収支のこと をいう。投資キャッシュフローとは、営業活動を行っていくために、土地や建物といった 長期的に使うことを目的とした現金投資支出のことをいう。財務キャッシュフローとは、 株式の発行や融資による資金調達や配当金の支払などの財務金融活動によりもたらされる 現金収支を表している。フリー・キャッシュフローとは、営業キャッシュフローから投資 キャッシュフローを控除して求められ、企業の資金創出能力を表している。 ・ヤマダ、エディオン、ケーズ ヤマダ、エディオン、ケーズの 3 社はキャッシュフローの動きが似ている。営業キャッ シュフローで黒字は出せているが、それを大きく超える投資をしている。そのために財務 金融活動で現金を用意している。資金調達能力が高いという評価もできるが、その反面、 安全性に問題があるという見方もできる。 ・コジマ コジマは営業キャッシュフローが赤字である。負債を増加させることで負債の支払いと S &B を行っている。新たな投資が行えず、営業利益で毎年赤字を出しているように、利益に 結びついていない。 経営戦略分析 ・ヤマダ ①ローコスト経営 一人当たり売上高を高い水準で維持するために、様々なコスト圧縮を実現し、低価格で 販売しても利益が残る構造になっている。 ②大型店舗展開 企業規模を活かした大型店舗を商圏人口 30 万人以上のエリアで積極的に展開しようとし ている。 ③スモールメリット 大型店舗では難しい顧客一人ひとりに対する決め細やかなサービスを可能にする、小型 店舗の FC 展開を事業の柱としている。 4 ・エディオン ①サービス 商品売上時の取扱説明サービスの徹底や、きめ細かい時間指定配送メニューの充実など に取り組んでいる。また、即日修理・持ち込み修理体制の充実などに取り組んでいる。 ②オリジナル商品 エディオンにしかないオリジナル商品の開発・販売を行っている。今後も、オリジナル 商品の開発を強化し、ニーズにあった商品を開発していくとしている。 ③小型 FC 店舗 小型 FC 店舗は、5~20 坪程度の「家電のコンビニ」である。事業内容は電池、電球など 消耗品の販売や、地域密着型の訪問活動である。 ④M&A とストアブランド グループ会社の特長を最大限に発揮するため、ストアブランドは各社の名称を継続して 使用している。また、仕入・組織・システムの統合などにより効果を最大限に引き出し、 さらなる効率性の追求を目指す。 ・ケーズ ①ムリをしない、急がない経営 会社が高い目標を設定すれば社員にムリをさせることになり、コンプライアンスの意識 低下に繋がるとも考えている。またこの経営方針は、社員の離職率低下に繋がっている。 ②ローコスト経営 人件費を抑えるために効率化を図るというのがケーズのローコスト経営である。また、 広告宣伝費や仕入、POS データの管理も一括して行い、無駄なコストは一切省いているの だ。 ③業務提携 都市型店舗に強みを持つヨドバシカメラとの業務提携関係にある。都市型店舗に強いヨ ドバシカメラ、ビックカメラに戦いを挑んだ、ヤマダ、エディオンに対し、ケーズは協力 関係を結ぶことを選択した。 ・コジマ ①完全直営主義 コジマは完全直営主義を貫いている。店舗運営を本部が一括して行うためサービスが全 国一律で、商品購入時だけでなく、アフターサービスまで細かい対応が可能である。 ②法人向けサービス 全国 47 都道府県に出店したことを最大限活かすために、コジマが始めた事業が法人向け ビジネスサービスである。 5 卒業論文概要 即席麺業界 小久保 奈菜子 曽我 美千子 津山 剛 目次 1 はじめに 2 業界概要 3 企業概要 4 財務分析 5 企業分析 5-1 経営理念 5-2 経営戦略 (1)日清食品 (2)東洋水産 6 戦略課題 7 終わりに 1 はじめに 安藤百福氏が開発した即席麺という商品は、 2008 年現在世界で 900 億食消費されている。 この市場に参入する企業の経営戦略や、特有の課題を明らかにするために本論文に取り組 んだ。 2 業界概要 まず、業界が取り扱っている即席麺の説明から述べていく。 即席麺とは手間をかけず簡単に食べられる加工食品のことである。その即席麺は、主食 性、簡便性、保存性の3つの特性があり、単価も安く手軽に食べられる。その為、世代も 国籍も関係なく、多くの人に親しまれている食品である。 次に、世界で初めて即席麺を開発した安藤百福の生涯をみていく。安藤が即席麺を生み出 す経緯は、過去に食の大切さを痛感した事が大きく関わっている。また過去にみたラーメ ンの屋台に並ぶ人々の行列や、厚生省に麺を研究することを勧められたこともあり即席麺 を開発するまでに至った。 次に、即席麺が誕生してからどのように発展したのかをみていく。即席麺の誕生は、1958 年に日清食品の創業者安藤百福が、世界で初めて即席麺を開発したことから始まった。後 に「魔法のラーメン」と消費者から大きな支持を受け、そこに目をつけた多くのメーカー が市場に参入してきた。生産量が増えるにつれて、消費者からは味や品質に対しての要望 が生まれたので、業界は様々な生産工程を追求した。その結果、即席麺はスープ別添え方 式や和風麺、ノンフライ麺など、多様なバリエーションが生まれていく。その後、業界は 業界内で意見や情報交換を図れる委員会の設立、即席麺は海外や宇宙食にまで進出してい く。 また、即席麺の現在の現状をみると、平成 18 年度の市場シェアは日清食品、東洋水産、サ ンヨー食品、エースコック4社で市場を占め、寡占状態となっている。寡占状態に至るま では業界内は多くのメーカーが参入し、売上を争っていた為、厳しい企業間戦争により撤 退した企業も多く、勝ち残ったメーカーで市場を寡占し現在までに至る。また、即席食品 の品質向上や製造技術改善に関する調査研究等を目的とした委員会が業界にある為、競争 する一方で助け合いながら成長しているといえる。 しかし、即席麺業界の痛手となる原材料価格高騰の影響で、麺の主原料の小麦粉、容器、 重油など必要な材料費が全て値上げとなった。それにより、国内の即席麺業界は 2008 年 1 月出荷分から商品を約 7%~11%の価格改定を実行し、原材料価格高騰の対策をとった。 2008 年度末にかけて原材料価格高騰は終わったが、今後も加工食品メーカーにとって看過 できないリスクである。そこで消費者離れの対策として経営の多角化、少子高齢化対策と して海外進出を挙げる。 3 企業概要 即席麺業界は寡占業界である。従って、市場を占有している企業の数も 4 社と少ない のだが、シェア占有率を見ると、上位 2 社が以下 2 社を大きく引き離していることがわ かる。一位の日清食品ホールディングスは 50.1%と市場の約半分を占めており、続く東 洋水産のシェア 20.2%を合わせると 70.3%と市場の約 7 割を占めていることになる。以 上のことから日清食品ホールディングスと東洋水産を、業界をリードする企業と考え、 企業概要ではこの 2 社について述べていく。 はじめに日清食品ホールディングスについて述べていく。日清食品ホールディングス には「革新者」という言葉がぴったり当てはまる。即席麺は日清食品の創始者である安 藤百福により開発されたものであり、開発から現在に至るまで、宇宙、健康、環境など、 即席麺事業をさまざまな分野と結びつけ、業界全体を進化・発展させてきたからである。 今日に至るまでの即席麺の発展を日清食品ホールディングスとその創始者である安藤 百福の努力なしには語ることができないといっても過言ではない。日清食品ホールデ ィングスは即席麺業界の基盤を作った企業なのである。 続いて東洋水産について述べていく。東洋水産は元々水産加工業者として設立され たため、日清食品ホールディングスに比べ、水産加工業やチルド・冷凍食品など事業 内容の幅が広いことが特徴である。また、海外メキシコでは日本でシェアトップの日 清食品を押さえてシェア第一位である。 4 財務分析 財務分析では、財務諸表から日清食品と東洋水産の財政状態と経営成績を分析する。 成長性分析では、日清食品、東洋水産ともに売上高の成長を果たせていない事が明らか となった。日清食品が平成 18 年に、明星食品を買収した事による上乗せがあるのみで ある。両社のシェアは平成 18 年には、国内即席麺市場において合計で 70%に達してお り、市場の成長性が低い事を示している。 収益性分析では、日清食品が売上高経常利益率の高い高付加価値型の収益構造、東洋 水産が総資産回転率の高い高効率型の収益構造をしている事が分かった。また、日清食 品は明星食品買収から収益性を落としており、その改善が課題であると言える。一方、 東洋水産はコスト削減により、収益性を徐々に改善できている。 安全性分析では、両社とも自己資本比率、固定比率、当座比率の指標で安全といえる 基準を満たしている事が分かった。資本構造、支払能力共に、両社とも危険性は見当た らない。特に、東洋水産の安全性に関する指標は、近年改善傾向にある。日清食品は明 星食品を買収してから、安全性の指標が悪化しているが、安全といえる基準は依然満た している。 キャッシュフロー分析では、両社の営業キャッシュフローが安定している事が分かっ た。安定してキャッシュを生み出せる堅実な事業を行っていると言える。日清食品は、 明星食品買収に多くのキャッシュフローを割いている。ただし、明星食品買収に投じた キャッシュの多くは、利殖目的の有価証券の形で保有していた。東洋水産はキャッシュ フローの多くが社債償還などの有利子負債圧縮に割かれていて、固定資産への投資は少 ない。これが、収益の成長性の低さと、安全性の改善の要因となっている。 5 企業分析 5-1 経営理念 日清食品ホールディングスの経営理念について見てゆく。経営理念とは企業の長期的・ 普遍的な価値観や存在理由を体現するもので、これを示すことによって企業は長期的な目 標を明確にでき、社員は働く目的を共有できるようになるのである。日清食品の経営理念 は創始者安藤百福によって掲げられた 3 つの標語から成り立っており、食を人々の生活の 基本と考え、食を通して人々の幸せを願う気持ちが反映されている。 次に東洋水産の経営理念について見てゆく。東洋水産は顧客第一主義に基づいた経営理 念を掲げている。経営理念に沿って企業価値を高めることが、顧客満足のみならず会社、 株主、従業員等全ての利益増大につながると認識し、具体策へ移す姿勢が伺える。 5-2 経営戦略 経営戦略とは、企業が存続と成長のために立てる基本的な方針である。日清食品と東洋 水産がこれまでどのような経営戦略を採って来たかを分析する。 商品戦略の面から見ると、日清食品は新機軸の商品を開発する新規開拓戦略である。こ れは、マーケティング、研究開発、広告宣伝に多くの経営資源を投下し、高い価格帯で販 売する戦略である。日清食品の高付加価値型の収益構造の要因である。東洋水産は、既存 の市場に価格訴求で販売する戦略である。東洋水産の高効率型の収益構造の要因である。 既存の市場の多くは日清食品が開拓した市場である。 成長戦略の面から見ると、日清食品は明星食品の買収など規模を拡大させる傾向にあ る。また、他の加工食品分野にも意欲を示している。事実、シリアルや冷凍食品には、 すでに参入している。東洋水産は、収益拡大への意欲は低く、コスト削減により収益性 を改善させる戦略を採っている。 6 戦略課題 最後に日清食品、東洋水産の共通の課題をあげてから、各社の経営戦略とそれぞれの課 題を挙げていく。 両社共通の課題は食費が増大している新興国の市場開拓である。両社とも国内即席麺事 業の成長性が低い事が、これまでの分析で明らかとなった。市場が成熟しているだけでな く、少子高齢化の影響で長期的に縮小が予測される。そこで、海外進出が戦略的な課題と なってくる。特に市場が成長している新興国の開拓は重要であると考えられる。 日清食品の課題は、商品戦略の根幹とも言える新規開拓にある。即席麺市場では、チキ ンラーメン、カップヌードルの様な大型の新規開拓商品を開発する事が、高い競争力につ ながる。そのような大型の新規開拓商品を開発する事が日清食品の課題である。また、日 清食品は明星食品を買収してから、連結ベースで収益性が悪化している。明星食品の収益 性の改善も課題である。 東洋水産は、価格訴求に頼った販売戦略をとる。これは、他社が開拓した市場に参入す るフォロワー戦略と関係がある。価格訴求のため、原材料高騰などのリスクに脆弱と考え られる。また、国内のシェアは 2 位ではあるが、20%しかない。1 位の日清食品の 50%と は倍以上の開きがある。シェアの拡大も課題である。 7 おわりに 即席麺業界においてシェアを 2 分する日清食品と東洋水産を研究対象とした。 まず、両社の商品戦略が大きく異なる事が明らかとなった。日清食品は新規開拓を軸 とした戦略をとり、東洋水産はフォロワー戦略を軸とする戦略をとる。 次に、財務分析から、両社の収益構造が対極的である事が分かった。これは商品戦略 の違いによるもの考えられる。また、日清食品は明星食品の買収など短期的に収益性を 悪化させる投資にも積極的である。一方、東洋水産は投資に消極的であった。売上高が 伸びないながら、コスト削減で利益を伸ばす戦略をとっていた。 最後に、即席麺業界の展望について述べる。即席麺業界の国内市場の成長性は低く、 両社は国内即席麺市場以外に成長戦略を練らなければならない。経営資源を活用できる 他の加工食品事業と海外即席麺事業への参入が現実的である。特に、成長性の面から海 外即席麺市場が有望とされる。海外進出、特に成熟前の市場への参入が明暗を分けると 言える。