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糸状藻類を利用した実下水処理水の水質浄化効果

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糸状藻類を利用した実下水処理水の水質浄化効果
用水と廃水, 46(09)(2004) 掲載
糸状藻類を利用した実下水処理水の水質浄化効果
佐藤 修
川崎 豊
(埼玉県下水道公社)
1.はじめに
(財)埼玉県下水道公社荒川左岸北部支社(元荒川処理センター)のビオトープでは、毎年藻類の異常発生が起
こっており、見学者の下水処理に対するイメージ低下が懸念されている状況にある。
そこで、増殖力の強い糸状藻類を用いて、下水処理水がビオトープに流入する前段でリン除去等の処理を行い、
「環境に優しい自然浄化作用」の実現の可能性を調査したので報告する。
2.実験方法
Run2
P
藻培養槽
回転羽根
下水処理水
(原水)
処理水槽
水循環ポンプ
を投入し、砂ろ過した下水処理水(以下原水)を定
400
(右図)
。ビオトープの流れに生育していた糸状藻類
断面図
攪拌機
590
下水処理水
(原水)
460
同センターのビオトープ沿いに実験施設を設置した
Run1
断面図
藻培養槽
処理水槽
平面図
下水処理水
(原水)
1700
実験期間は 2001.2 から 2004.3 である。
これらの水槽での処理実験を継続して行い、週に 1
平面図
下水処理水
(原水)
1150
量注入して実験を開始した。
P
回水槽内での藻類の繁殖状態等を観察するとともに藻
藻培養槽
処理水槽
水循環ポンプ
藻培養槽
処理水槽
類の除去等のメンテナンス作業を行い、pH値、水温等
を測定した。また、定期的にリン等の測定を行った。
原水の水質はBODが低く生物的に分解が進行した状態であり、T―N、T―Pに対する無機態の窒素、リンの
割合が高い。このため藻類の繁殖に適した水質と推察された。また、この原水はリン制限である。
3. 結果
3−1 リンの除去
調査解析の結果T―P、PO4―Pとも除去効果が認められた。
夏期と春期の除去率の低下は、夏期は緑藻の微細浮遊藻類が増加した結果、光の透過率が落ち、光合成の効率が
悪くなること、
春期は発育する藻類の種類の変わり目で糸状藻類の生長が良好でないことが原因として考えられる。
実験施設に関してはT―P、PO4―PともRUN-2の方が年間を通して除去率が高かった。これはRUN-2
の方が淀む部分が無く、水の接触効率も高いことが原因と考えられる。
3−2 pH値の変動
原水のpH値の平均はほぼ中性であったが、処理水は弱アルカリ性となった。藻類の光合成による炭酸物質の吸
収によってpH値が上昇したと考えられる。夏期のpH値の上昇は光合成が活発に行われることを示している。
3−3 大腸菌群の除去
大腸菌群の除去効果が認められた。これは藻培養槽中にさまざまな原生動物が発育し、それらの捕食による除去
効果が得られたためと考えられる。
3−4 CODの除去
CODの除去効果がある程度認められた。これは水槽内に発生する好気性細菌の分解作用のためと推測される。
3−5 藻類中の窒素、リンの含有量
藻類の種類別に含まれるT―N、T−Pの分析を行った結果、同じ種類でもその含有量にかなりの違いが生じる
結果となった。
3−6 1年間におけるおもな藻類種の変遷
1
用水と廃水, 46(09)(2004) 掲載
通年にわたりさまざまな藻類が発育し、優占種が入れ替わるため、ほぼ年間を通して糸状藻類が認められた。
4.考察
4.1 リンの負荷量
T―P、PO4―Pとも処理後は低下するものの、リンの量は依然として多いといえる。より清澄な水質が要求
される場合は負荷量を低くする必要も生じるとみられる。
4.2 リンの除去量
本実験におけるリンの除去量は、既存の資料から得られたヨシ、キショウブ、その他の水生植物のものより高く
なっている。
4.3 藻類の増殖速度と藻類の除去
微生物の増殖速度は倍加時間あるいは比増殖速度として表される。本実験の結果から倍加時間を算出した。多く
の藻類に、
十分な光合成の機会を与え、
かつ藻類の遷移や腐敗を防ぐには藻量の低濃度運転が望ましいと考えられ、
これは糸状藻類が発育したら早めに除去するという管理につながる。
藻類の除去に当たっては倍加時間が1つの目安となると考えられる。
4.4 実用化への検討
自然に委ねその営力を発揮させる処理はその地域の環境等諸条件に適合している必要がある。藻類は処理のゼロ
エミッション系確立にも有利であり、
また種類の多さと増殖力の強さから様々な水質浄化に貢献すると考えられる。
以下実験を通して得られた知見からこの処理に必要な条件と処理施設の概略を述べる。
1)敷地面積に余裕がある場合、なるべく広いスペースに設置し不可を軽減させる必要がある。
2)太陽光が1日中注ぎ、落ち葉等入らない場所に設置する必要がある。
3)気温の変動を受けないように地表面以下に掘り下げて設置する必要がある。
4)稼働中は水がつねに緩やかに流動し、水の淀みがなく、必要に応じて流速が変えられる設備が必要である。
5)水槽内部の壁面、底面は糸状藻類の付着場所となるようにする必要がある。
6)機械化、自動化を念頭に置くと剥離、浮上した藻類を除去できるシステムが必要になる。
7)水の停滞場所が生まれぬよう、水全体が流動する水路のような構造(OD法が参考)にする必要がある。
8)処理水に浮遊藻類等の混入を防ぐため、ろ過装置等の付帯設備が必要である。
5.まとめ
砂ろ過した下水処理水中のおもにリンを除去するために循環ポンプ攪拌の角型水槽と攪拌機を取り付け、水の淀
みを防ぎ、水と藻類との接触効率を改善した機械攪拌の円形水槽を設置し、糸状藻類を生育させ延べ2年間の実験
を行った結果、以下のような知見を得た。
1)糸状藻類は継続して様々な種が入れ替わるので、年間を通し浄化され、リン等が除去されることがわかった。
2)平均除去量と除去率は接触効率を改善したRUN-2のほうが良好であったが、生育に最適な流速の把握まで
には至らなかった。
3)本実験での冬期から春期における藻類の倍加時間がわかった。
4)この処理により大腸菌群、COD成分も除去され、pH値は弱アルカリ性になることがわかった。
5)比較的低濃度の藻量での運転が重要であると考えられた。
6)季節の変わり目で微細浮遊藻類の発生が多い時期は、糸状藻類の生育も不十分となりリンの除去効果も低下
することがわかった。
2
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