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わが国医療サービスの国際展開促進に向けた課題と

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わが国医療サービスの国際展開促進に向けた課題と
社会動向レポート
わが国医療サービスの国際展開促進に向けた課題と展望
社会政策コンサルティング部
コンサルタント 清水 徹
わが国の医療法人による医療サービスの国際展開の動きが進んでいる。法規制や市場環境が異な
る海外で事業を展開するに当たっての課題を既存の取組みを基に整理するとともに、課題への対応
の方向性を検討した。
はじめに
近年、日本の医療法人や医療機器メーカー等
2014年3月には、医療法人の附帯業務として、
「海外における医療施設の運営に関する業務」
が、新興国を中心とした海外において、その国
が追加され、海外において医療施設を運営する
の医療機関に対する日本の技術・ノウハウの提
ために現地法人に出資することも一定の条件の
供、現地医療人材に対する教育を行ったり、さ
下で認められることとなった
(1)
。
らには現地の医療機関等と共同/あるいは単独
医療サービスの国際展開は、政治、経済、生
でクリニック、診断センター、総合病院などの
活水準、医療・公衆衛生水準、医療従事者・医
医療施設を建設するなど、医療サービスの国際
療機器・医療施設等に係る各種法規制、医療保
展開を行う動きが進んでいる。
険制度などの前提条件が異なる未知の領域での
医療法人独自の取組みに加え、政府において
も、経済産業省が、平成22年度補正予算より、
取組みであるため、実際に事業を進めるに当
たって困難に直面することも多い。
医療サービスの国際展開を行う事業者に対する
そこで、本稿では、既に医療サービスの国際
F/S 調査・実証事業への補助事業として国際展
展開を実施している事例及び経済産業省の「医
開の支援を行っており、「日本再興戦略」(改訂
療機器・サービス国際化推進事業」(平成25年
2014)
(2014年6月24日閣議決定)においても、
度又は平成26年度)において国際展開に向けた
「医療の国際展開については、他国における医
実証事業・需要調査に取組んでいる事例を基に、
師・看護師等の人材育成、公的医療保険制度整
国際展開に向けて事業者(主として医療法人)
備の支援や民間保険の活用の促進、一般社団法
が直面する主な課題を整理するとともに、課題
人メディカル・エクセレンス・ジャパン(MEJ)
への対応の方向性を検討した。
を活用した医療技術・サービス拠点整備などの
医療関連事業の展開を図るとともに、国際共同
1
けられている。
1. 医療サービスの国際展開の現状
臨床研究・治験の推進、日本で承認された医薬
以下は、実際に医療サービスの国際展開を
品・医療機器について相手国での許認可手続の
行っている事例及び経済産業省の事業において
簡素化等の取組をより推進する」ことが位置付
検討が進められているものを整理した図表であ
わが国医療サービスの国際展開促進に向けた課題と展望 
る(図表1~7 医療サービスの国際展開の実
プ(北原国際病院)による脳卒中後患者のリハ
施事例及び実証事業の事例)
。これを見てわか
ビリ等を提供するクリニックや、インドネシア
るように、医療サービスの国際展開には、施設
(ジャカルタ)における偕行会グループによる
整備を伴わないソフト面での国際展開と、クリ
ニック、診断センター、治療センター、病院建
設などの施設整備を伴うものがある。
透析治療等を提供するクリニックがある。
診断センターや健診センターは、CT、MRI
等の診断機器や、血液検査室等の検査設備を有
し、画像診断や内視鏡検査、検体検査などを行
(1)ソフト面での国際展開
ソフト面での国際展開の事業形態としては、
うものである。事業モデルは比較的単純だが、
高度な医療人材の確保が必要である。既に開設
現地の医療機関において、現地の医師や看護師、
されたものとしては、ロシア(ウラジオストク)
技士等に日本式サービスの提供に必要な技術指
における社会医療法人北斗による画像診断セン
導、機器の使用方法の教育研修を行ったり、遠
ターがある。
隔診断などのサービスを提供するものがある。
特定分野の治療センターは、透析、放射線治
教育を提供するものとしては、名古屋大学と
療などの特定分野の治療を提供するものであ
医療機器メーカー・医薬品メーカーによるコン
る。診断センター同様、事業モデルは比較的単
ソーシアムが日本から医師を派遣して、ベトナ
純だが、高度な医療人材の確保が必要である。
ムの医療機関において現地の医師に対して日本
病院建設は、事業スキームにもよるが、外来
式内視鏡診療のトレーニングを実施した例など
から入院まで総合的な医療を提供するもので、
がある。
事業規模が大きく、複数の診療分野における集
サービスを提供するものとしては、公益財団
患、多数の医療人材の確保・教育が必要となる
法人がん研究会が、中国の北京大学深圳医院と
ため、事業リスクは最も大きい。既に開設され
インドネシアの Gading Pluit Hospital に病理
たものとしては、インド(バンガロール)にお
(2)
遠隔診断サービス を提供した例などがある。
いて、セコム医療システムと豊田通商が現地の
こうした形態では、事業者が自ら施設整備や
キルロスカグループと共同で開設した総合病院
現地人材の雇用を行うことはないため、事業規
模や事業リスクは病院等を建設する形態に比べ
小さくなる。
などがある。
2. 国際展開に伴う課題
上述のとおり、これまでに複数の国際展開事
(2)ハード整備を伴う国際展開
ハード整備を伴うものとしては、クリニック、
業が進行しているが、海外における医療サービ
スの展開は、政治、経済、生活水準、医療・公
診断センター・健診センター、特定分野の治療
衆衛生水準、医療従事者・医療機器・医療施設
センター、病院の開設が挙げられる。
等に係る各種法規制、医療保険制度などの前提
クリニックは、外来診療や外来手術を中心と
条件が異なる未知の領域での取組みであるた
したサービスを提供するものである。病院を開
め、実際に事業を進めるに当たって困難に直面
設する場合に比べ、相対的に集患リスクや投資
することも多い。
規模は小さい。既に開設されたものとしては、
カンボジア(プノンペン)における KNI グルー
以下に、既存事例及び経済産業省の実証事業・
需要調査事業として国際展開に取組んでいる事
2
図表1 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例①
(既存の医療機関における教育・コンサルティング・サービス提供)
代表団体等
対象国 ・ 地域
事業概要
状況
公益財団法人がん研究会
中国・インドネシア
現地医療機関に対する病理遠隔診断を中心とした早期
発見診断サービスの提供
H25
社会医療法人春回会井上
病院
中国・インドネシア
現地医療機関における日本式睡眠時無呼吸症候群
(SAS) 診療システムの導入
H25・
H26
日本式歯科技工サービス ・ 歯科技工教育の提供
H25
中国 ・ 韓国
呼吸リハビリテーションの技術と関連するモノ ・ サービス
を現地医療機関でパッケージで導入する。
H25・
H26
香港・シンガポール
日本式のパースナライズド骨変形治癒矯正診療パッ
ケージの展開
H25
ASEAN ・ 中国
日本式高度健診サービスの事業化に向けた人材育成等
H25
タイ
日本の病理診断支援技術 ・ 装置 ・ ノウハウをとりまとめ
た 「高度病理診断支援プラットフォーム」 を構築し、 輸
出するとともに、 コンサルティングサービスを提供する。
H25
現地医師に対する日本式内視鏡診療のトレーニング
H25
株式会社ジーシー
帝人ファーマ株式会社
一般社団法人 JIGH
社会医療法人財団エムアイ
ユー麻田総合病院
日本電気株式会社
国立大学法人名古屋大学
中国
ベトナム
株式会社メディヴァ
ミャンマー
日本式乳がん診療パッケージ (医療機器 ・ 教育研修 ・
マネジメント) の普及
H25
MS&AD 基礎研究所株式会社
ミャンマー
日本製救急車 ・ 救急医療機器を備えた救急センターの構築
H25
日本式心臓カテーテル治療の教育
H26
日本式大腸検診システム (1 次スクリーニングした上で
の内視鏡精密検査) の普及
H25
テルモ株式会社
国立大学法人東京医科歯
科大学
サウジアラビア
ブラジル
(資料)各種公表資料よりみずほ情報総研作成
注:「状況」欄の年度は、経済産業省の「医療機器・サービス国際化推進事業」(平成25年度又は平成26年度)に取組んで
いる年度を意味する。
図表2 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例②(クリニック)
代表団体等
偕行会グループ
KNI グループ
医療法人葵鐘会
一般社団法人 JIGH
医療法人社団創友会
(資料)図表1に同じ
3
対象国 ・ 地域
事業概要
状況
インドネシア
2014年7月、 インドネシアのジャカルタにクリニック (カイ
コウカイ クリニック スナヤン) を開設。 診療科は総合内
科、 呼吸器内科、 小児科、 健康診断。
開設済
カンボジア
ベトナム
ミャンマー
UAE
2012年12月、 首 都 プ ノ ン ペ ン に ク リ ニ ッ ク (Kitahara
Japan Clinic)を開設。 脳卒中後患者のフォローアップ(医 開設済
師診察、 看護相談、 リハビリテーション) 等を提供。
日本式周産期医療を提供する産婦人科クリニックの開設
H25・
H26
日本式白内障診療クリニックの開設
H25
遺伝子がん診断と治療を目的としたクリニックの開設
H25
わが国医療サービスの国際展開促進に向けた課題と展望 
図表3 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例③(診断・健診センター)
代表団体等
対象国 ・ 地域
事業概要
状況
株式会社ドリームインキュ
ベータ
ベトナム
日本の医療機器と技術を導入した日本式健診センター
の設立 ・ 運営
H26
学校法人 国際医療福祉
大学
ベトナム ・ ミャンマー
遠隔画像診断 ・ 研修センター構築
H26
健診センターの設立
H25
カザフスタン
高度がん診断センターの設立 (現地資本と日系資本に
よる JV 方式)
H25
ロシア
現地法人との合弁により、 2013 年 5 月、 ウラジオストク
に北斗画像診断センターを設立。
開設済
株式会社日立製作所
インド
一 般 社 団 法 人 Medical
Excellence JAPAN
社会医療法人北斗
日本光電工業株式会社
ブラジル
日本式心臓検診サービスを行う専門施設の設立
H25
株式会社ドリームインキュ
ベータ
ベトナム
日本の医療機器と技術を導入した日本式健診センター
の設立 ・ 運営
H26
(資料)図表1に同じ
図表4 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例④(特定分野の治療センター)
代表団体等
対象国 ・ 地域
株式会社キャピタルメディカ
インドネシア
株式会社ネクサス
事業概要
状況
がん化学療法センターの設立 ・ 運営
H26
インドネシア ・ エジプト
先進的消化器 ・ 肝臓病診断の日本ジョイントセンター設
立
H25
タイ
日本の透析医療技術 ・ 運営管理ノウハウをパッケージ化
したソリューションを提供し、 将来的には日本型 (CDDS)
の透析センターの設立と、 合弁会社等の設立による透析
センター運営を目指す。
H25
透析センターの設立
H25
先端医療センターの設立
H25
医療法人仁友会北彩都病
院
医療法人財団松圓会
一 般 社 団 法 人 Medical
Excellence JAPAN
サウジアラビア
ロシア
(資料)図表1に同じ
例から、国際展開に伴い事業者が直面した主な
例も多いが、これらの事業では、相手国におい
課題を整理した(図表8 医療サービスの国際
て健診を受ける習慣がない、健診の意義が理解
展開の取組みにおいて事業者が直面した課題の
されていないといった課題に直面している例が
例)
。
ある。健診以外でも、呼吸リハビリテーション
が十分に認知されていないなど、展開しようと
(1)集患・市場開拓の推進
国際展開を行うに当たっては、集患が見込ま
れるかが重要なポイントである。既存の事業で
する事業が十分に認知されていないために、患
者の確保や市場開拓が思うように進まないとい
う課題に直面した例もある。
は、わが国が早期発見・早期治療に力を入れて
国際展開を行うに当たっては、展開しようと
きた経験を踏まえ、健診ビジネスの展開を図る
するサービスが現地の医療関係者、患者、政府
4
図表5 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例⑤(病院)
代表団体等
対象国 ・ 地域
事業概要
医療法人鉄蕉会
中国
青島市における日本式の病院の建設
社会医療法人財団慈泉会
相澤病院
中国
リハビリ病院の設立 ・ 運営
状況
H25
H25 ・
H26
KNI グループ
カンボジア
㈱ Kitahara Medical Strategies International (医療法人社
団 KNI の関連企業) は、日揮㈱、㈱産業革新機構とともに、
開設
合弁会社を設立し、 首都プノンペンに救命救急センター
準備中
の設立を目指す (2015年内開業目標)。 脳神経外科を中
心に、 一般内科、 健康診断などのサービスを提供予定。
特定非営利活動法人 国際
医療連携機構
ミャンマー
日本式総合病院の設立
セコム医療システム株式
会社、 豊田通商株式会社
インド
グリーンホスピタルサプラ
イ株式会社
バングラデシュ
医療法人いつき会
UAE
H26
2014年3月、 現地のキルロスカグループと共同で、 イン
ドのバンガロールに6つのコアセンター (脳神経センター、
心臓センター、 消化器センター、 整形外科センター、 腎・ 開設済
泌尿器センター、 女性 ・ 小児センター) 及び17診療科を
持つ総合病院を開設。 病床数は約300床。
日本の最新医療機器 ・ 医療技術 ・ ホスピタリティを具備
した医療施設を開設する
H25
日本式医療機関の設立
H25
(資料)図表1に同じ
図表6 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例⑥(出資)
代表団体等
対象国 ・ 地域
三井物産株式会社
シンガポール、
マレーシア、
トルコ 等
事業概要
状況
2011年5月、 アジア最大の病院持株会社の IHH ヘルス
ケア社に出資。 同社は2012年1月にはトルコ最大規模の
出資済
病院グループである Acibadem 社株式の60%を取得し、
中東地域へ事業基盤を広げている。
(資料)図表1に同じ
関係者にどの程度認知されているかを事前に確
確認することが必要である。
認することが必要である。
(3)医療機器・医療材料に関する許認可状況
(2)診療報酬の実態確認
現地の医療機関で日本式の医療機器の使用方
国際展開に当たっては、日本で使用している
法のトレーニングを提供する事業において、当
医療機器や医療材料を相手国でも使用すること
該機器を使用した診療に対する診療報酬点数が
が想定されるが、既存の事業では、医療機器の
低いため、サービス提供に必要な医療機器を現
許認可に時間がかかる、材料の調達に想定外の
地の医療機関が調達できず、サービスの拡大が
事務手続きが必要となるといった課題に直面し
見込めないという課題に直面した例もある。
た例もある。
国際展開を行うに当たっては、現地の診療報
酬を確認し、ビジネスモデルが構築できるかを
5
の把握
国際展開を行うに当たっては、使用したい医
療機器が現地において承認されているかなど、
わが国医療サービスの国際展開促進に向けた課題と展望 
図表7 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例⑦(その他)
代表団体等
対象国 ・ 地域
事業概要
状況
グリーンホスピタルサプラ
イ株式会社
バングラデシュ
日本の最新医療機器 ・ 医療技術 ・ ホスピタリティを具備
した医療施設を開設する
H25
日本式医療機関の設立
H25
医療法人いつき会
株式会社ジャパン ・ ティッ
シュ ・ エンジニアリング
UAE
中国 ・ タイ
自家培養表皮及び自家培養軟骨の製造設備の整備、
医療技術の指導 ・ 提供
H25 ・
H26
タイ
タイ王国への粒子線治療装置フルサポート輸出調査事業
H26
株式会社富士通総研
ベトナム
医療機関連携に活用可能な地域医療情報ネットワーク
に求められるサービスや導入の方向性の検討
H25
三菱重工業株式会社
インド
高度放射線医療支援ネットワークの構築
H26
医療法人鉄蕉会
(資料)図表1に同じ
必要な医療機器や医療材料に関する許認可の状
に留意が必要である。
況を確認しておくことが必要である。
(6)現地パートナーとの協力関係構築
(4)医療人材の確保
海外での事業展開に当たっては、外資規制に
既存の事業では、提供しようとするサービス
より現地法人との合弁会社を設立する必要があ
の認知度が低く、サービスの提供に必要な医療
る国も多い。それ以外でも、現地の医療機関等
人材の育成がなされていないという課題に直面
と提携をして事業を進める必要があることも多
した例も見られる。
い。しかし、既存の事業では現地パートナーが
国際展開を行うに当たっては、サービス提供
に必要な医療人材が確保できるかを確認するこ
とが必要である。
急遽出資を辞退するなど、現地パートナーとの
協力関係の維持が課題となった例もある。
国際展開を行うに当たっては、現地パート
ナーと組織同士で協力覚書を締結し、協力内容
(5)病院設立・営業等の許認可状況の把握
病院の設立・運営を行う場合には現地の自治
体などの規制当局から、病院の設立許可や営業
の大枠を確定しておくなど、現地パートナーと
の確実な協力関係を構築しておくことが必要で
ある。
許可を取得する必要があるが、既存の事業では、
そうした許認可の要件が法令上明記されていな
いため、事前に細部を詰められないといった課
題に直面した例もある。
国際展開を行うに当たっては、病院設立・営
業等に係る許認可を確認することはもとより、
許認可を得るためには現地の規制当局との交渉
(7)現地の建設事情の確認
開設準備の段階にまで到達しても、建設スケ
ジュールの遅れのために開業に遅れが生じた例
もある。
国際展開を行うに当たっては、現地の許認可
や建設事情も確認しておくことが必要である。
や場合によっては施設計画や事業計画の調整が
必要となることも念頭に置かざるを得ないこと
6
図表8 医療サービスの国際展開の取組みにおいて事業者が直面した課題の例
分類
内容
事業名 (課題が生じた国)
現地政府ががん対策に資源を注入して
いない。 国民も健診を受ける習慣と 「が
んを早期に発見すべき」 という意識が
醸成されていない。
病理遠隔診断を中心とした早期発見診
断の国際提供プロジェクト (インドネシ
ア)
呼吸器科医を初めとした医療者の呼吸
リハビリテーションの治療効果に対する
認識が不十分。
呼吸リハビリテーションシステムの技術
移転を活用した COPD 在宅ケア関連市
場顕在化に関する中国 ・ 韓国における
実証調査事業 (中国)
一般的に健診の意義が理解されていな
い。
日本の高度健診システム輸出による海
外医療サービスビジネス展開プロジェクト
(インドネシア)
(内視鏡診療トレーニングシステムの普
及プロジェクトを進めるに当たり) 経口内
視鏡の診療報酬が日本の数十分の一
(日本円換算で約1,000円) であり、 病院
が新たに器材を購入することが困難。
日本式内視鏡診療トレーニングシステ
ム普及プロジェクト (ベトナム)
日本式の健診を現地で体験してもらう計
画だったが、 日本で運用している健診
車には日本で認可された医療機器を搭
載しているためそのまま利用することは
できず、 インドネシア国内での使用を許
可された機器でしか健診業務を実施す
ることができなかった。
日本の高度健診システム輸出による海
外医療サービスビジネス展開プロジェク
ト (インドネシア)
医療機器の許認可に膨大な時間 (1年
半から2年) がかかる。
日本式 ・ 睡眠時無呼吸症候群診療サー
ビスの提供に向けた実証調査 (中国 ・
インドネシア)
(実証事業を進めるに当たり) 通関処理
のために従来では想定していなかった
書類が必要となり、 日本からの輸送を
断念し、 結果的に原材料調達の仕組み
を修正せざるを得ない事態が生じた。
中国 ・ タイ王国における再生医療実用
化プロジェクト (中国)
(4) 医療人材の確保
呼吸リハビリテーションを担う理学療法
士の育成がなされていない。
呼吸リハビリテーションシステムの技術
移転を活用した COPD 在宅ケア関連市
場顕在化に関する中国 ・ 韓国における
実証調査事業 (中国)
(5) 病院設立 ・ 営業
等の許認可状況
の把握
病院の設立や営業等の許可について、
法令に明記されていない部分は状況に
応じて総合的に判断されるケースが多
く、 仮定の話をしていても話が前に進ま
ない。
亀田先進医療 ・ 健診システム丸ごと輸
出 (中国)
(6) 現地パートナー
との協力関係構
築
現地病院及び日本側の医療法人の共
同出資により病院の設立を予定してい
たが、 現地病院が急遽出資を辞退。
リハビリテーション事業の中国展開に関
する実証調査プロジェクト (中国)
(7) 現地の建設事情
の確認
現地許認可、 建設スケジュールの遅れ
のため、 開業に遅れ。
バンガロールにおける総合病院建設 (イ
ンド)
※本事業は、 経済産業省事業ではなく、
事業者による独自の取組みである。
(1) 集患 ・ 市場開拓
の推進
(2) 診療報酬の実態
確認
(3) 医療機器 ・ 医療
材料に関する許
認可状況の把握
(資料)「平成25年度日本の医療機器・サービスの海外展開に関する調査事業(海外展開の事業性評価に向けた調査事業)」
における各報告書及び公表資料をもとにみずほ情報総研作成
7
わが国医療サービスの国際展開促進に向けた課題と展望 
新規に国際展開に取組む事業者で共有できるよ
3. 対応の方向性
うにすることも有用であろう。
医療サービスの国際展開を行うに当たって
また、これから国際展開を検討する事業者に
は、前述のとおり、多くの課題が存在する。こ
対して、既に進出を経験した事業者を紹介する
のような課題がある中で、医療サービスの国際
などのマッチングの仕組みを構築することも考
展開の取組みを推進するためにはどのような対
えられる。
応が必要だろうか。考えられる政策的な対応の
方向性を、以下に整理した。
(2)政府による側面支援
事業者の取組みを政府が側面支援することも
(1)事業者同士のノウハウ共有推進
必要である。ここでいう側面支援とは、
「①相
今後国際展開を予定する事業者の取組みを支
手国の政策担当者・医療関係者に対する日本の
援するためには、政府が、国際展開を進めるに
技術・ノウハウの伝達」を支援すること、「②
当たって留意すべきポイントや対応方策につい
医薬品・医療機器の承認手続きの簡素化」を推
て、既存の事業者のノウハウ共有を推進するこ
進することを指す。以下ではそれぞれについて
とが有用であると考えられる。具体的には、
「市
概説する。
場規模は十分か」、「使用したい医療材料や医療
機器は現地で入手可能か」、「医療人材は確保可
①相手国の政策担当者・医療関係者に対する日
能か」
、
「病院開設までにどのような許認可があ
本の技術・ノウハウの伝達
るか」など、海外で医療サービスを展開するに
既存の医療サービスの国際展開の取組みで
当たって必ず確認すべきチェックポイントや、
は、現地の医療関係者や患者に予防・早期発見
必要な情報の確認方法、相談先となる支援機関
の意識が浸透していない、健診の意義が理解さ
等を「医療サービスの国際展開ハンドブック」
れていない、呼吸リハビリテーションの考え方
などのような形でとりまとめ、国際展開に取組
が浸透してないなど、提供しようとする医療
んでいる事業者や今後取組む予定の事業者に提
サービスの意義が理解されていなかったり、日
供することが考えられる。
本式医療サービスの認知度が低いという課題が
同様に、進出先国ごとに、ノウハウを整理し、
あることが伺えた。
図表9 進出先国ごとに進出事業者間で共有することが望ましい情報(例)
テーマ
具体的情報
医療政策
・ 重点課題分野に関する情報
・ 規制に関する政策動向
医療保険制度
・ 公的医療保険、 民間医療保険の状況
・ 価格制度
現地法令
・ 医療法人設立に係る法規
・ 医療従事者に関する法規 (医師法、 看護師法、 薬剤師法等)
・ 医薬品 ・ 医療機器に関する法規、 監督機関、 承認期間
現地パートナー
・ 弁護士事務所、 税理士事務所、 公認会計士事務所、 コンサルティング事務所
(資料)みずほ情報総研作成
8
こうした状況の市場においてはすぐに事業化
②医薬品・医療機器の承認手続きの簡素化
日本式医療サービスの国際展開には、日本で
を進めることは困難であり、中長期的な視点に
立って、
日本式の医療サービスの意義の浸透や、
使用されている医療機器をそのまま海外で使用
認知度の向上を進めていくことが必要になる。
することが想定されるが、既存の事業者の取組
しかし、国際展開に取組む医療法人が単独で
みだけでは、日本で使用していた医療機器を海
数年にわたって日本式医療サービスの周知・浸
外で使用するに当たり、承認に時間を要すると
透を図るには限界があることから、政府として
いった課題があることも指摘できる。
こうした規制面での対応については、民間事
も医療法人の取組みをバックアップすることが
必要である。
具体的には、相手国政府の医療保健政策の担
面支援が期待される。具体的には、国際展開の
当者に対し、日本が生活習慣病の予防や、早期
相手国の規制当局との交渉を通じ、日本で既に
発見・予防医療に取組んできた経験や具体的な
認可を得た医療機器の登録手続を簡素化するこ
施策等を紹介し、医療政策レベルから、日本が
とである。既に、メキシコ政府との間では、メ
得意とする健康診断やがん検診などのサービス
キシコ政府において日本の薬事登録制度の同等
が受入れられやすい土壌整備を図ることが考え
性認定が行われ、日本で認可を得た医療機器の
られる。また、医療関係者に対しては、医療関
登録手続きの簡素化が実現しており、また、ブ
係者を日本の医療機関で受入れて研修を行い、
ラジルとの間でも2014年8月に医療・保健分野
または、海外の医療機関に日本の医療関係者が
における協力に関する覚書を締結し、日本の医
出向き、
日本式医療サービスを紹介することも、
薬品医療機器総合機構(PMDA)とブラジルの
認知度向上や現地技術者の育成に寄与するであ
国家衛生監督局(ANVISA)との間で、医薬品・
ろう。
医療機器の規制関係での協力を進めることが合
既 に ASEAN に 対 し て は、2013年12月 に 行
意されており、日本で認可を得た医薬品・医療
われた日・ASEAN 特別首脳会合において「健
機器の承認手続きの簡素化が進むことが期待さ
康イニシアチブ」が提唱されたことを受け、健
れる。
康寿命世界1位を継続しているわが国の経験・
このように、医療サービスの国際展開が見
知見を、希望する ASEAN 諸国に移転するため
込まれる国の規制当局との交渉を通じ、日本
に、
「健康的な生活習慣の促進」
、
「早期発見・
で認可された医薬品・医療機器の承認手続き
予防医療の推進」、「多くの人が医療サービスを
を簡素化する取組みを加速していくことが求
受けられる環境整備」といった項目での協力を
められる。
進めることが予定されている。
また、平成26年度からは、日本と医療分野
9
業者の自助努力には限界があり、政府による側
4. お わ り に ~ 民 民・ 官 民 の さ ら な る
連携を~
に関する覚書を締結している国等から、医療従
以上見てきたように、医療サービスの国際展
事者を研修目的で受入れる医療機関を支援する
開を円滑に進めるためには、
「民民の連携」、
「官
事業が進められている。
民の連携」という視点が必要である。
こうした取組みを継続・拡充し、国際展開の
「民民の連携」とは、これまでに国際展開に
相手国への日本式医療サービスの浸透を図って
取組んできた事業者の知見・ノウハウを、これ
いくことが求められる。
から国際展開に取組む事業者と共有することを
わが国医療サービスの国際展開促進に向けた課題と展望 
意味する。例えば、ある国での国際展開に成功
した事業者が有しているその国の制度、商慣行、
特有の現地事情などの留意点等の情報を、その
国にこれから進出を希望する事業者に伝達する
といったことが挙げられる。
一方、
「官民の連携」とは、政府と国際展開
に取組む事業者との連携である。日本政府側に
は、医療分野に関する覚書を署名した国との協
力推進や、ASEAN 健康イニシアチブに基づく
協力を推進したいという思惑がある。事業者が
国際展開を検討する際には、そうした動きと連
動した形で事業展開を行うことも一案であろ
う。一方、事業者側には、今後進出を進めたい
相手国政府に対する日本政府からのトップセー
ルスや前述したような側面支援などのニーズが
ある。日本政府としても、事業者側のそうした
ニーズを把握することが、相手国との協力や交
渉の効果的な推進に寄与すると考えられる。
わが国政府が医療サービスの国際展開を効果
的に促進するためには、民間の事業者間のノウ
ハウの共有や、政府による側面支援の取組みを
並行して進め、国際展開に取組む事業者を重層
的に支援することが不可欠と言えるだろう。
注
詳細については「医療法人の附帯業務の拡大につ
いて」
(平成26年3月19日医政発0319第4 号)及び
「医療法人の国際展開に関する業務について」(平
成26年3月19日医政発0319第5号)参照。
(1)
(2)
現地医療機関が患者の標本を採取し、標本又は標
本の画像をデジタル化したヴァーチャルスライド
画像データをがん研究会に郵送/送信し、がん研
究会が病理診断を行う。
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