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放たれた「三本の矢」のゆくえ

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放たれた「三本の矢」のゆくえ
日時:2013年7月20日
場所:甲南大学甲友会館
<甲南大学総合研究所講演会>
放たれた「三本の矢」のゆくえ
- アベノミクスとグローバリゼーション -
甲南大学大学院会計専門職専攻長
河 﨑 照 行
1
プロローグ
☆ 本講演の課題
安倍政権の経済政策が「アベノミクス」と称され,日本経済再生の切り札とされて
いる。その柱となるのが,「三本の矢」といわれる経済政策である。「大胆な金融政
策」,「機動的な財政政策」,「民間投資を喚起する成長戦略」がこれである。これら
の矢は,「日本経済の再生」という的(まと)を見事に射抜くことができるのであろう
か。「アベノミクス」の経済政策を分かり易く解説しながら,企業活動のグローバリゼ
ーション(国際化)の真の意味と,「三本の矢」のゆくえを考えてみたい。
☆ 本講演のポイント
①
②
③
④
⑤
「アベノミクス」と「三本の矢」の淵源
日本経済再生のシナリオ ~ 「三本の矢」の意味 ~
アベノミクスの理想的なシナリオの道筋
グローバリゼーションの前提としての「文化の地域性」
グローバリゼーションを基盤とした成長戦略の実践
2
Ⅰ
「アベノミクス」と「三本の矢」
の
淵 源
3
1 「レーガノミクス」
☆ アメリカのレーガン政権(1981年~1989年)が掲げた自由主義経済政策
☆ 「レーガン(Reagan)」の名と,経済を意味する英語「エコノミクス(economics)」を組み合
わせて,その経済政策を「レーガノミクス(Reaganomics)」と称した。
☆ 「市場原理」と「民間活力」を重視し,軍備を拡張(「強いアメリカの復活」)する一方,「
歳出削減」と「減税」による刺激政策を実施
☆ レーガノミクスのシナリオ:
「富裕層の減税による貯蓄の増加と労働意欲の向上」・ 「企業減税と規制緩和による
投資の促進と供給力の向上」
「経済成長の回復により歳入の増加」・ 「福祉予
算の抑制による歳出の削減」(「小さな政府」の実現)
「金融政策によるインフレ
ーションの抑制」
「歳出配分を軍事支出に転換」(「強いアメリカ」の復活)
☆ レーガノミクスの帰結:
① 貯蓄率の低下とそれに伴う設備投資の停滞
② 財政赤字の拡大と対外債務の増大(「ふたごの赤字」)
2 「三矢の教え」(「三本の矢」の教え)
☆ 戦国武将の毛利元就が,その子である毛利隆元・吉川元春・小早川隆景に授けたとさ
れる教え
☆ 「一本の矢は簡単に折れるが,三本まとめてでは折れにくい」ことから,一族の結束を
説いた教え
☆ 史実ではなく,元就が発した「三子教訓状」が元となった逸話
4
Ⅱ
アベノミクス
の
「三本の矢」
5
Ⅱ-1 「三本の矢」の概要
☆ 10年間の平均で,名目GDP成長率3%程度,実質GDP成長率2%の実現
☆ 10年後に1人当たり名目国民総所得の150万円以上の拡大
一の矢
大胆な金融政策
① 2%の物価安定目標(インフレタ
ゲット)
② 無制限の量的金融緩和
日本経済
の
再生
(デフレ脱却)
二の矢
機動的な財政政策
☆ 過去2番目の規模の補正予算
案(13兆1千億円)
三の矢
民間投資を喚起する成長戦略
①産業の新陳代謝の促進
②人材力強化・雇用制度改革
③立地競争力の強化
④クリーン・経済的なエネルギー受給実現
⑤健康長寿社会の実現
⑥農業輸出拡大・競争力強化
⑦科学技術イノベーション・ITの強化
6
1 一の矢
大胆な金融政策
7
Ⅱ-1-1 大胆な金融政策
(1) 政府・日銀の「共同声明(Joint Statement)」(2013年1月22日 内閣府 財務省 日本銀行)
要 点:
① デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け,政府および日本
銀行の政策連携を強化し,一体となって取り組む。
② 日本銀行は,物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする。日本銀行は,金融緩
和を推進し,これをできるだけ早期に実現することを目指す。
③ 政府は,機動的なマクロ経済政策運営に努めるとともに,革新的研究開発への集中投入,イノベ
ーション基盤の強化,大胆な規制・制度改革,税制の活用など思い切った政策を総動員し,日本
経済の競争力と成長力の強化に向けた取組を強力に推進する。
④ 経済財政諮問会議は,金融政策を含むマクロ経済政策運営の状況などについて,定期的に検
証を行う。
(2) 「量的・質的金融緩和」の導入(2013年4月4日 日本銀行)
要 点:
(1) 「量的・質的金融緩和」の導入
日本銀行は,消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を,できるだけ早期に実現する
ため,「量・質ともに次元の違う金融緩和」(異次元の金融緩和)を行う。
① マネタリーベース・コントロールの採用
② 長期国債買入れの拡大と年限長期化
③ ETF・J-REITの買入れの拡大
④ 「量的・質的金融緩和」の継続
(2) 「量的・質的金融緩和」に伴う対応
① 資産買入等の基金の廃止
8
② 銀行券ルールの一時適用停止
③ 市場参加者との対話の強化
Ⅱ-1-2 最近の金融市場の動向
(出典)日本総合研究所「為替相場展望」日本総合研究所調査部(2013年6月)(http://www.jri.co.jp/report/medium/publication/exchange)
9
Ⅱ-1-3 あなたと越えたい甘利越え?!
甘利越え
作詞:吉崎達彦(エコノミスト)
天城越え
作詞:吉岡治
作曲:弦哲也
隠しきれない デフレ香が いつしか日本に 染みついた
誰かに盗られる くらいなら バルブを起こして いいですか
値乱れて サプライズ 九十九折り 常連の買い
株上がり 円落ちる
肩の向こうに あなた 兜町(しま)が燃える
何があっても もういいの くろだ(黒田)と燃える 火をくぐり
あなたと 越えたい 甘利越え
(隠しきれない 移り香が) (いつしかあなたに しみついた)
(誰かに盗られる くらいなら) (あなたを殺して いいですか)
(寝乱れて 隠れ宿) (九十九折り 浄蓮の滝)
(舞い上がり 揺れおちる)
(肩の向こうに あなた・・・ 山が燃える)
(なにがあっても もういいの) (くらくら燃える 火をくぐり)
(あなたと 越えたい 天城越え)
口を開けば 異次元と 刺さったままの 三本の矢
2%で居たって 寒いけど 嘘でもつかれりゃ あたたかい
委員会 満票で 小夜時雨 本石町
売らんでも 売らんでも
株価うらはら あなた 兜町(しま)が燃える
戻れなくても もういいの くろだ(黒田)と燃える 地を這って
あなたと 越えたい 甘利越え
(口を開けば 別れると) (刺さったままの 割れ硝子)
(二人で居たって 寒いけど) (嘘でも抱かれりゃ 暖かい)
(わさび沢 隠れ径) (小夜時雨 寒天橋)
(恨んでも 恨んでも)
(躯うらはら あなた・・・ 山が燃える)
(戻れなくても もういいの) (くらくら燃える 地を這って)
(あなたと 越えたい 天城越え)
走りドル 迷いユーロ 年度末 甘利会見
売らんでも 売らんでも
株価うらはら あなた 兜町(しま)が燃える
札が割れても もういいの くろだ(黒田)と燃える 地を這って
あなたと 越えたい 甘利越え
(走り水 迷い恋) (風の群れ 天城隧道)
(恨んでも 恨んでも)
(躯うらはら あなた 山が燃える)
(戻れなくても もういいの) (くらくら燃える 地を這って)
(あなたと 越えたい 天城越え)
(出典)「替え歌『甘利越え』が兜町で人気とか」 『永田町時評』NewsSun No.1609(http://27234091.at.webry.info/201305/article_1.html)
10
2 二の矢
「機動的な財政政策」
11
Ⅱ-2-1 財政政策の矢継ぎ早の公表
① 1月11日 「日本経済再生に向けた緊急経済対策」(財政支出10.3兆円,事業規
模20.2兆円)
→ 1月15日 24年度補正予算案 (2月26日 成立)
② 1月29日 25年度予算政府案
③ 1月29日 25年度政府税制改正大綱 (3月29日 税法成立)
Ⅱ-2-2 24年度補正予算の骨子
①
②
③
④
⑤
ベンチャー企業等による新事業創出
異業種間連携等による新事業創出
中小・小規模事業者の新事業展開・事業再生
天然資源権益の確保
我が国企業の海外展開(M&A,アジアインフラ整備)
12
Ⅱ-2-3 25年度予算の骨子
1 民間投資の喚起による成長力強化
① 省エネ・再エネの研究開発支援
・ 太陽光発電のための革新的新素材の技術開発
・ 火力発電所から排出されるCO2の分離・回収など
② 研究開発推進のための環境整備(「3つのシステム改革」)
・ 研究大学における高度な研究スタッフや技術者など支援人材の雇用の
安定
・ 独法運営費交付金の活用による長期の研究資金の確保
・ 大規模な産学連携研究開発の実施
③ iPS研究を含む医療関連分野におけるイノベーション推進
④ 基幹的交通インフラ等の整備推進(大都市圏環状道路など物流ネットワーク
の整備,国際コンテナ戦略港湾の機能強化等)
2 中小企業・小規模事業者への支援
① 中小企業・小規模事業者によるものづくり技術の高度化に資する研究開発
② 中小企業・小規模事業者の事業再生を含めた経営支援,資金調違の円滑
化
3 日本企業の海外展開支援等
① 映像コンテンツ等の日本製品の販路拡大,観光客等の誘致拡大(クール・ジ
ャパン)
② 日本の優れた技術・サービスの活用によるインフラの輸出等を推進
13
Ⅱ-2-4 25年度税制改正の骨子
① 民間投資の喚起と雇用・所得の拡大
・ 国内の設備投資を促進するための税制措置
・ 環境関連投資(再エネ・省エネ投資)促進税制の拡充
・ 企業のイノベーションを促進するための研究開発税制の拡充
・ 雇用・労働分配(給与等支給)を拡大するための税制措置
② 中小企業対策・農林水産業対策
・ 中小企業の交際費課税の特例の拡充
・ 商業・サービス・農林水産業を営む中小企業等の店舗改修等のための設備投
資を促進する税制措置
③ 人材育成・雇用対策
・ 祖父母からの教育資金の一括贈与について,贈与税を非課税とする措置を創
設
④ 金融資本市場の活性化等
・ NISA(少額投資非課税制度)の創設
・ 金融所得課税の一体化(金融商品間の損益通算範囲の拡大等)
(出典)池田篤彦氏(近畿財務局長)の講演資料「日本経済の現状と課題」(2013年6月18日)に基づいて作成
14
3 三の矢
「民間投資を喚起する成長戦略」
15
Ⅱ-3-1 成長戦略の分野と内容
分野
項目
目標と内容
①産業の新陳代謝の促
進
・
・
・
・
新しい税制やリース制度で設備投資を促進
ネットで資金調達する「クラウドファウンディング」
過剰供給業種に再編の指針
政府出資ファンドの支援に基準
・
・
・
・
投資額を3年で1割増やして70兆円
開業率・廃業率を10%台に引き上げ
合併・統合を支援して過当競争を防止
支援の範囲や手続きを透明化,安易な救済の防止
②人材力強化・雇用制度
改革
・
・
・
・
転職支援金を大幅に増額
働く場所や仕事を限定した正社員の普及
2017年度に待機児童ゼロ
外国人の受け入れ優遇制度を拡大
・
・
・
・
失業期間6ヶ月以上の人を5年で2割減
自分の生活に合わせて働きやすく
女性の就業率を7年で5ポイント上昇
優秀な研究者や技術者,経営者の増加
③立地競争力の強化
・ 国家戦略特区の創設
・ 羽田空港の国際線を年3万回増枠
・ 規制緩和で外国人向けの医療・教育・住まいを改善
・ 海外とのアクセスを改善して便利な都市に
④クリーン・経済的なエネ
ルギー需給の実現
・ 温暖化ガス排出25%削減の目標撤回
・ 石炭火力発電所の建設・原発再稼働
・ 再生可能エネルギーの普及
・ 企業の環境対策の負担の軽減
・ 電力の安定的な調達
・ 保安規制の緩和,環境アセスメントの期間短縮
⑤健康長寿社会の実現
・ 先進医療のすばやい評価
・ 医療開発の司令塔「日本版NIH:National
Institutes of Health)」を設立
・ 一般医薬品のネット販売の解禁
・ 外部機関の活用,難病の治療で選択肢を増加
・ 省庁をまたがる基礎・臨床研究,実用化を一本化
・ 幅広い分野の対面義務の見直し
⑥農業輸出拡大・競争力
強化
・ 農地集約で生産コストを削減
・ TPP,日韓FTA(自由貿易協定),日EU・EPA(自
由貿易協定)を推進
・ 東南アジア向けビザの発給の容易化
・ 都道府県が小さい農地をまとめ,大規模農家に貸与
・ 輸出入額に占める自由貿易比率,18年に70%
・ 訪問外国人を1000万人に
・ 総合科学技術会議を研究の司令塔
・ 独自予算を確保,事務局の強化
⑦科学技術イノベーショ
ン・ITの強化
(出典)「日経新聞」(2013年6月24日)朝刊・特集
16
Ⅱ-3-2 日本経済再生に盛り込まれた主要施策
イノベーション
投資・創業 産業の新陳代謝
リース手法を活用した設備投資制度
企業資金によるベンチャー投資促進
女 性 就労への環境づくり
待機児童解消のための受皿整備
育児休業期間の延長(3年へ)
技術・IT 新技術・新事業の創出
総合科学技術会議の司令塔的機能拡充
ビッグデータの利用などIT活用
インフラ 次世代インフラの整備
インフラ長寿命化への対応
公共施設管理における民間活用の拡大
日本経済再生
戦略
通 商 貿易の拡大
TPP(環太平洋パートナーシップ)交渉参加
日中韓・日EU等のFTAの推進
国際展開 輸出・交流の活発化
国際競争力強化(首相のトップセールス等)
ビザ発給要件緩和,クールジャパン推進
対外オープン
チャレンジ
雇 用 人材力強化
雇用移動支援助成金の拡大
民間人材ビジネスの活用強化
立地戦略 国家戦略特区
戦略特区における規制緩和・優遇税制
戦略特区における外国人受入環境整備
若 者 就業をサポート
インターンシップ機会の充実
就職活動期間の後倒し(3か月程度)
医 療 健康長寿社会
医療品・医療機器開発を加速させる規制改革
医薬品ネット販売規制の緩和
エネルギー クリーンで経済的なエネルギー
電力システム改革(参入・料金の自由化)
火力発電等の環境アセスメント迅速化
農 業 攻めの農林水産業
6次産業化の推進,企業の農業参入促進
農地の集約化・有効利用
(出典)高田創「成長戦略,次は民間の出番だ」『リサーチTODAY』みずほ総合研究所(2013年7月12日),1頁に基づいて作成
規 制 改 革
17
「日本再興戦略」のアクションプラン
(1) 日本産業再興プラン
(2) 戦略市場創造プラン
(3) 戦略市場創造プラン
18
(出典)首相官邸「新たな成長戦略 ~「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」を策定!~(http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seicho_senryaku2013.html)
Ⅲ
経済再生のシナリオ
19
Ⅲ-1 循環のシナリオ
2つのシナリオ
理想的なシナリオ
最悪のシナリオ
・ デフレ対策におけるアナウンスメント効果
↓
・ 円高修正(円安誘導)・株価上昇
↓
・ 輸出企業の利益増加
↓
・ 雇用拡大・所得増加
↓
・ 消費拡大・インフレ期待の高まり
↓
・ 物価上昇(インフレ率2%へ向けて)
↓
・ 内需産業の利益増加
↓
・ デフレ対策におけるアナウンスメント効果
↓
・ 円高修正(円安誘導)・株価上昇
↓
・ 補正予算のために大量の国債を発行
↓
・ 消費税増税による景気減速・税収減
↓
・ 財政規律の悪化による国債と円の信認低下
↓
・ 国債価格の下落と過度の円安
↓
・ 経済再生失敗と食料品・資源価格の上昇
↓
本格的な景気回復
スタグフレーション
(1) 悪い物価上昇にならない(賃金上昇に繋がらない懸念)
☆ 実体経済の体質強化のための取り組み (成長戦略)
・ 付加価値生産性の向上
・ 物価上昇と賃金上昇の好循環
・ ビジネスモデルの転換
(2) 悪い金利上昇にならない(財政破綻,銀行の財務健全
性の毀損の懸念)
☆ 財政健全化に向けた取り組み
・ 財政健全化目標達成のための中期財政計画の策定
20
・ 社会保障・税の一体改革の推進
最悪のシナリオとな
らないためには?
(出典)とはサーチ「アベノミクスとは」(http://www.toha-search.com/keizai/abenomics.htm)に基づいて作成
Ⅲ-2 潜在GDPと実際のGDP
(出典)池田篤彦氏(近畿財務局長)の講演資料「日本経済の現状と課題」(2013年6月18日)
21
Ⅲ-3 長期国債利回りの推移
(出典)経済産業省『平成25年版通商白書』経済産業省(2013年),208頁。
22
Ⅲ-4 中小企業の景況見通し
☆ 中小企業の景況は,昨年末頃から一貫して改善傾向を見せていたが悪化に転じ、その他の指標も全て悪化。
☆ 依然として、円安等による景気回復の実感は得られていないという声が多く、逆に原材料高、燃料高などコスト増加要
因によるデメリットが顕在化、価格転嫁ができずに一層の収益悪化を懸念する報告も増え、予断を許さない状況。
23
(出典)全国中小企業団体中央会「中小企業月次景況調査」(2013年6月20日)
Ⅳ
グローバリゼーション
と
文化の地域性
24
Ⅳ-1 「文化」(culture)の概念
☆ 『国民百科事典』:「文化とは,人間が他の動物とも共有する純生物学的行動以外の生活行動の総
体をさす。つまり,人間の生活のしかたのうち,学習によってその社会から習得した行動様式全体を
文化と考えるのである」。
→ 文化 = 学習によってその社会から習得した行動様式全体
☆ 英国の人類学者タイラー(Taylor, Edward B.)の定義:「広く民族学で使われる文化,あるいは文明
の定義とは,知識,信仰,芸術,道徳,法律,慣行,その他,人が社会の成員として獲得した能力
や習慣を含むところの複合された総体のことである」。
☆ 社会人類学者ホフステード(Hofstede, Geert)の定義:文化概念を「狭義」と「広義」に区分
→ 「『文化』はいくつかの意味を持つ言葉であるが,それらはすべて土を耕すというラテン語の語
源から派生したものである。たいていの西洋の言語では,『文化』は『文明』または『精神の洗
練』を意味し,とくに,教養や芸術や文学のように洗練された精神によって生み出されるものを
意味する。これは『狭い意味の文化』であ(る)。」
→ 社会人類学では,『文化』は考え方,感じ方,行動の仕方のパターンを総称するものである。
→ (広い意味の)文化 = 行動の仕方のパターンの総称
★ 「文化とは,人間社会の規約の上に育まれた知識,習慣,しきたり,モラルといったものの集積であ
って,その集団においてそれを構成する成員の意識の中にとけ込んで緩やかに慣習法的なレベル
にまで高まったものの集合」
→ 「何らかの知識が模倣,学習,反復,対立,適応という過程を通じて,次第に安定的となり,集
団の成員の共通意識にまで高まったときに『文化化』したとされる。」
(出典)
(注1) Taylor, Edward B., Primitive Culture:Researches into the Development of Mythology, Philosophy, Religion, Art, and Custom, Kessinger Pub. Co.,
p.1.(E・B・タイラー,比屋根安定訳『原始文化』誠信書房,1962年)
(注2) Hofstede, Geert, Cultures and Organizations:Software of the Mind, McGraw-Hill International(UK) Limited, 1991 (G・ホフステード,岩井紀子・岩井
八郎訳『多文化世界:違いを学び共存への道を探る』有斐閣,1995年,4頁。)
25
Ⅳ-2 あなたは 東洋人? それとも 西洋人?
実験1
実験2
26
実験1
(出典)リチャード・E・ニスペット『木を見る西洋人 森を見る東洋人』(ダイヤモンド社,2004年),159頁。
27
実験2
28
(出典)リチャード・E・ニスペット,前掲書,161頁。
Ⅳ-3 「グローバリゼーション」の意味
☆ トムリンソン(Tomlinson, John)の定義:「グローバリゼーション」とは,「近代の社会生活を特徴づけ
る相互結合性と相互依存性のネットワークの急速な発展と果てしない稠密化を意味する」として,「複
合的結合性」という概念を重視している。
→ グローバリゼーションは,「文化的差異を最小化」することとされ,「文化の普遍的習慣を円滑に
機能させること」にその本質的特徴を求めることができる。
→ その場合,結合性は「地球全体を包み込むものであり,したがって,ある種の『単一性』を意味
する」と同時に,グローバルという言葉には,「全体性」や「包括性」という意味があり,「単一の
方向に進む」暗黙の力が備わっている。
☆ 「グローバリゼーション」の留意点:
→ 「単一性が『画一性』や『統一性』へと移行してしまわないように気を付けながら,単一性という
意味合いを念頭に置いて考えることである。」
→ 「画一性」と「統一性」に向けての警鐘
★ 「グローバリゼーション」の真の意味:
「人間生活のさまざまな社会的・文化的差異が相互作用を伴いながら,全一体のなかに複合的に融
和した状態」
→ 「世界が単一の社会的・文化的環境」になることと,「画一性」や「統一性」とを混同してはならな
い
→ 「グローバリゼーション」とは,「さまざまな文化概念が複合的に結合され融和することによって
形成された全一体」であり,必ずしも文化の「画一性」や「統一性」を意味するものではない。
(出典) Tomlinson, John, Globalization and Culture , The University of Chicago Press, 1999.(ジョン・トムリンソン,片岡信訳
『グローバリゼーション:文化帝国主義を超えて』青土社,2000年)
29
Ⅳ-4 会計分野のグローバリゼーション
* 「確定決算主義」とは,確定した決算報告
(計算書類上の利益額)に基づき,税務
上の課税所得が算定されることをいう。こ
れは,日本の会計文化ともいえるもので
あり,法制度上の明確な理論的根拠を有
している。
連結会計
国際型会計モデル
(IFRS)
国際型会計モデル
と
日本型会計モデル
の
一致領域
時価会計
税効果会計
確定決算主義*
日本型会計モデル
(Traditional J-GAAP)
30
Ⅴ
企業活動
の
グローバル化
31
Ⅴ-1 日本企業の海外現地生産比率(製造業)
(出典)内閣府「平成 24 年度企業行動に関するアンケート調査結果」(2013年1月),33頁。
32
Ⅴ-2 日本企業の海外進出への取り組みと課題
(出典)ジェトロ「2012年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」 日本貿易振興機構(2013年3月28日),3頁。
33
Ⅴ-3 海外進出の現状
(1)海外進出: 海外事業意欲は引き続き旺盛なるも,やや低下し落ち着きを見せる。
・ 海外事業(新規投資、既存拠点の拡充)の今後(3年程度)の方針につき,「拡大を図る」が低下
(69.2% ← 2011年度調査73.2%)。
・ 中小企業の「拡大を図る」も低下(65.9% ← 2011年度調査71.4%)。
・ 海外事業の拡大を図る理由は,「海外での需要増加」が最多(75.6%)で,11年度調査(72.4%)
から上昇。次点は「国内需要の減少(56.8%)」で,11年度調査(42.6%)から上昇。他方,「円高
の影響(17.4%)」は11年度調査(24.1%)から低下。特に,中小企業の「円高の影響(14.9%)」
は11年度調査(23.4%)から大きく低下。
・ 海外事業の縮小・撤退または今後も海外事業を行わない理由は,中小企業は「経営資源(資金
、人材、競争力)がない」が最多(41.3%)で,以下「国内需要重視(38.9%)」,「リスクが大きい(
33.3%)」が続く。
・ 海外ビジネスを行う際の考え方は,「国内・海外で適切な機能を保っていきたい」との回答が最
多(48.0%)。中小企業の場合は「国内に留まり海外需要は輸出で取り込みたい」との回答が第
2位で28.0%(大企業は6.6%)。
(2)新興国ビジネス環境:ビジネスチャンスは大きいが,人件費の上昇がリスク
・ 海外(新興国等)の需要増加に対する評価は高いが,ビジネスリスクについて,中国は「政情リ
スク」「知財保護」「人件費」など7項目で回答率が20%超え。ミャンマーは「インフラ」「法制度」な
ど5項目で20%超え。
・ 10年度調査との比較では,「人件費が高い,上昇」が大幅に上昇(タイ30.1% ← 19.8%,イン
ドネシア21.0% ← 4.5%など)。
(出典)ジェトロ「2012年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」 日本貿易振興機構(2013年3月28日)
(http://www.jetro.go.jp/news/releases/20130328918-news)
34
エピローグ
☆ 「アベノミクス」に対する期待
① 安倍政権の成長戦略である「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」が公表され,これでアベノ
ミクスの「三本の矢」が出揃った。
② 今後は,これらの成長戦略に盛り込まれた個々の政策がいかに着実に実行されるかが重要
なカギとなっている。
③ 従来の経済政策は,主として「サプライサイド」に働きかける措置であったことから,実質成長
率が潜在的成長力を超えことができなかった。
④ グローバル化した経済環境の下では,「日本のイノベーション力」(技術力や文化)を世界へ
向けて発信することが重要である。海外の技術や文化を一方的に受け入れることが,グロー
バリゼーションではない。
⑤ 日本経済の再生は,政府と民間が一体となって「日本再興戦略」に取り組むことであり,「イノ
ベーション」や「チャレンジ」といったキーワードに代表される成長戦略が,単にかけ声に終わ
らないことを期待したい。
35
ご静聴ありがとうございました。
皆様のますますのご発展を
祈念しております。
36
Fly UP