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高スピン有機化合物
ディビジョン番号 6 ディビジョン名 有機化学 大項目 13. 有機化合物の構造と物性 中項目 13-4. 物性有機化学 小項目 13-4-5. 高スピン有機化合物 概要(200字以内) 高スピン有機化合物は通常スピン多重度が3(ト リプレット)以上の有機化合物である。安定ラジ カル、ラジカルイオン種等を上手く組み合わせて 高スピン有機化合物 安定な高スピン有機化合物を合成することがで きる。三重項カルベン、ナトレン、励起状態等の 不安定な化学種も高スピン有機化合物である。特 徴として、磁性をもち磁性体の構成成分となりえ る。相転移や外的な刺激により磁性が変化する化 高スピン有機化合物の分子機能: ○磁性体(バルク)の構成成分 ○磁気メモリー 合物もある。 現状と最前線 高スピン有機化合物は一般にはスピン多重度が3以上の有機化合物であるが、例えばラジカル 種(スピン多重度=2)が、強磁性的分子間相互作用により一次限鎖を形成した場合、鎖とし てみれば高スピンポリマーである。スピンの関与する物性開発分野(高スピン化学、分子磁性 分野)において、分子内か分子間かを厳密に区別することはあまり意味が無いので、ここでは 区別せずに記述する。ここ数十年の間に以下のようなの著しい発展があった。 ○ 極めて高いスピン多重度をもつ高スピン有機化合物の合成(A:岩村、伊藤、工位) ○ 安定ラジカルの分子間相互作用による純有機強磁性体が見出された(B:木下) 。 ○ ラジカル種あるいは高スピン有機化合物を金属のもつスピンと組み合わせて種々の有機 無機複合磁性体が合成された(C: Gatteschi, D: 岩村、井上) 。 ○ デカメチルフェロセンーTCNE の磁性(E: Miller) ○ C60-TDAE(Tetradimethylaminoethylene)の磁性(F: Wudl) ○ Mn ポルフィリンーTCNE の磁性 (G: Miller) ○ 単分子磁石の発見(Mn12:Gatteschi, Hendrickson) ○ 数十ケルビンの転移温度をもつ有機弱強磁性体(H:Rawson) ○ 強い分子間相互作用をもつチアジルラジカル種の室温相転移(双安定性,磁気メモリーへ の可能性) (I:阿波賀) ○ 単分子磁石の発展(J:古賀,K:山下,L:大塩) ○ 外部刺激による磁性のスイッチング(M:松田, N: 中辻) ○ ラジカルと励起三重項種の相互作用による高スピン励起状態の検出(O:山内、P:手木) ○ 磁性伝導体(Q: 小林) ○ 純有機フェリ磁性化合物(R:細越,S:塩見) ○ 大きな強磁性相互作用を示す室温高スピン化合物及び金属錯体(T:岡田:U:石田) ○ 純有機高スピン分子における磁気抵抗の検出(V:菅原) その他にも、スピンクロスオーバー現象、TCNE-V 錯体の磁性等、主として金属磁性錯体が関与 する重要な発見があったが、有機化合物の関与する場合を主として取り上げた。 3 H H 3 + ON NO tBu (hfac)2 + * M ON A n R NO2 3H NO O * N tBu Mn(hfac)2 O N tBu 2 N O C B Me Me tBu 3 Me Fe Me Me C60-TDAE TCNE Me Me Me Mn-Porphyrin TCNE Me Me D E N S N S N Co N N N N O * * N Fe O ClO4 SCN J I Ph Ph O N N Zn N R N or N S Se + Se S Se Se S 3C 60 FeBr4 Q But O N O R tBu O N N+ O NS NS F F N+ O- N O F F O N N+ O- UV F F F F O N S S N+ O- M P N N+ O- O F S hv Vis O N N N O O NO N O 4 N F H F F S (NN)1,2 O -+ ON S Ph Ph O O N+ O- 3 N O N NO N + N O L K 3 CH3(CH2)6 (MeOH) Fe * n F F O N * Fe O N N ClO4 O N F G SCN N S N F NC F O N - N+ O S Ph N + N Ph T O O N N+ O N M N L N O tBu S Se + S S Se S N N+ O L U V 将来予測と方向性 ・5年後までに解決・実現が望まれる課題 本分野の主眼が物性開発にあることは普遍であろう.有機化合物であることにこだわらない有 機無機複合的な物質開発はさらに加速するであろう.新規な物質の出現により大きく物性は変 化するため予測は難しい.高い(室温あるいはそれ以上の)転移温度をもつ磁気材料としての 物質開発がさらに望まれる.本分野は,ラジカルイオン対の関与する化学発光,電荷分離状態 とも関係しているため,それらと関係した研究も行われるであろう. ・10年後までに解決・実現が望まれる課題 これらの研究の中から実用化が可能な磁性材料が開発されることが望まれる. キーワード 不対電子,スピン多重度,磁性,磁気メモリー (執筆者: 岡田 惠次)