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シカゴ米連邦準備銀行による経済アウトルック・シンポジウムについて(2)
調 査 報 告 シカゴ シカゴ米連邦準備銀行による経済アウトルック ・シンポジウムについて(2) 2015 年 12 月 4 日、米国イリノイ州シカゴ市にあるシカゴ連邦準備銀行(FRB, Federal Reserve Bank of Chicago)において、第 29 回目となる経済アウトルック・シンポジウム が開催された。シンポジウムでは、例年、様々な分野の有識者から翌年の分野別の景気見 通しについて説明が行われる。今回は、前回に引き続き、鉄鋼分野及び経済予測の分野に ついて、シンポジウムでの説明内容や提供資料の図表等を用いて、議論の内容を紹介する こととしたい。 なお、会場となったシカゴ FRB は建物内にマネー・ミュージアムを併設しており、FRB の業務やお金にまつわる展示や無料の館内見学ツアーを行っている。筆者は以前、サンフ ランシスコ FRB の館内を見学させてもらったことがあるが、普段は見られないお金の流れ やドルの歴史など大変興味深い展示であった。シカゴ以外の FRB にも同様の施設があるた め、もし訪問機会がある場合は、ぜひとも見学をおすすめしたい。見学は平日限定、無料 である。 (写真)シカゴ連邦準備銀行の看板(ミュージアム入り口付近) 1.鉄鋼産業の見通しについて (説明者:Robert Dicianni,氏、アルセロール・ミタル USA 社 MA 分析マネージャー) (1)経済動向 米国の GDP 成長率は 2015 年は+2.4%、2016 年は+2.6%が見込まれており、2009 年のリーマンショック以降のプラス成長が拡大しながら続くものと予想されている。ま ― 9 ― 調査報告 シカゴ た、鉱工業生産指数(IP)についても、2015 年は+1.3%、2016 年は+1.6%と成長が 見込まれており、経済全体としては上向きであることを示している。 【出典】プレゼン資料より(データ元)米商務省 図1:米実質 GDP 成長率(年別)の推移 一方で、鉱工業生産指数(IP)については、リーマンショック後の回復時期において は、経済成長の割合に比べ、より高い成長率で推移している。2015 年の第1四半期から その傾向は無くなっている。他の通貨に比べて強いドルの影響やエネルギー関連の投資 活動が低下していることを受けての状況であり、悪い傾向と言えるため、注意が必要で ある。なお、2016 年の IP の見通しは、消費者による消費が成長を促進させ、エネルギ ー関連投資の低下は序々に和らぐとの見通しから、プラスとされている。 【出典】プレゼン資料より(データ元)米 FRB(2007 年ベース) 図2:米鉱工業生産指数(Industrial Production Index)(年別)の推移 ― 10 ― 調査報告 シカゴ 更に、ISM 製造業景気指数(ISM PMI)の推移を見ると、50%の水準を超えている ためプラス成長を継続しているものの、2015 年に入ってからの月ごとの推移は明らかな 低下傾向であり、10 月の結果は分岐点の 50%をかろうじて上回った 50.1%と先行きが 懸念される。 【出典】プレゼン資料より(データ元)米供給管理協会 図3:米 ISM 製造業景況指数(PMI)の推移(月別) (2013 年 1 月~2015 年 10 月) (2)ユーザー産業の動向 次に鉄鋼の主な需要先である産業の動向について見ていきたい。まず、建設分野につ いては、非常に堅調な動きをしており、2016 年の見通しは明るい。米住宅着工件数を見 ると、2015 年は 111 万戸(前年度比 11%増)と見込まれており、2016 年はふた桁増の 130 万戸(同 17%増)と予想されている。また、非住宅建設についても 2010 年から拡 大傾向が継続している。リーマンショック以前の水準までは戻っていないため、建設分 野向けの鉄鋼需要を牽引するとみられる。 ― 11 ― 調査報告 シカゴ 着工件数(左軸) 千件 前年度比(右軸) 年 【出典】プレゼン資料より(データ元)米供給管理協会 図4:米住宅着工件数(月別) 自動車市場はご存知のとおり好調な状況である。安価なガソリン価格による追い風も あり、自動車販売台数の増加している。また、販売台数の増加に伴い、北米での自動車 生産台数も伸びている状況である。実際、2015 年は北米での販売台数、生産台数とも過 去最高が見込まれており、非常に好調であるといえる。 自動車市場の動向の詳細については先ほどの自動車分野の発表に譲るが、自動車の平 均使用年数は 11.5 年と長くなっており、今後の買い替え需要が見込まれることや住宅及 び非住宅建設分野の好調がピックアップトラックの販売増の後押しをすること、雇用市 場の改善により、更に自動車購入者層が増加することなどを踏まえると、今後もプラス の方向に動く要因が多い。 また、トラック市場の需要も旺盛である。但し、エネルギー市場の低迷や鉄鋼輸送の 現象などによってトラック需要の成長はすでに止まっており、現在が需要のピークにあ ると見られている。また、トラックドライバー不足もそれに拍車をかけている。今後は 次の需要拡大局面と想定される 2019 年~2020 年までは需要が低迷すると予想されてい る。政府による環境規制が行われる 2020 年に向けて買い替え需要が発生すると想定さ れている。 ― 12 ― 調査報告 シカゴ 単位:千台 年 【出典】プレゼン資料より(データ元)ACT Research 図5:中・大型トラックの生産台数推移(年別) 一方、エネルギー分野向けの鉄鋼需要については、エネルギー価格の低迷の影響か ら、エネルギー関連向け設備投資は休止しており、大きく減少している。パイプライ ン用鋼管と油井管の需要を見てみると、シェール開発による需要増があった 2014 年 は、12.3 百万トン(パイプライン鋼管:4.2 百万トン、油井管:8.1 百万トン)であっ たものが、2015 年は 8.3 百万トン(パイプライン鋼管:4.4 百万トン、油井管:3.9 百 万トン)、2016 年は 6.7 百万トン(パイプライン鋼管:3.5 百万トン、油井管:3.2 百 万トン)と見込まれており、今後も厳しい状況が継続すると思われる。 百万トン パイプライン鋼管 百万トン 油井管(OCTG) 年 年 【出典】プレゼン資料より(データ元)Preston Pipe and Tube Report 図6:エネルギー市場向けの鉄鋼需要(年別) ― 13 ― 調査報告 シカゴ (3)鉄鋼需要の動向 以上の各需要分野等の動向を踏まえ、2016 年における各分野の鉄鋼需要の方向性につ いては以下の図7のとおりと予想されている。 2016 年はすぐに需要が拡大する局面にはないものの、多くの鉄鋼需要産業はリーマン ショック後の回復段階の途上にあると考えられることから、鉄鋼需要は緩やかな拡大が 見込んでいる。自動車向けは 2016 年も引き続きの需要増が期待できる。但し、この状 況がいつまで続くかは注視する必要がある。住宅・非住宅建設についても需要増が見込 まれる。特に、非住宅建設向けには 2 百万トンの需要増が見込んでいる。他、電気や電 気モーター向けも需要増を期待できる。また、機械向け、インフラ向けなどは横ばいを 見込んでいる。 一方、エネルギー向けの需要についは減少傾向が継続すると見ている。但し、2015 年 の減少の割合に比べると、その下がり方はより緩やかになると思われる。 分野 需要動向 自動車 ↑ 住宅建設 ↑ 非住宅建設 ↑ 機械 → 電機 ↑ 電気モーター ↑ インフラ建設 → エネルギー ↓ 鉄鋼在庫 → 【出典】プレゼン資料より(データ元)アルセロール・ミタル USA 社 図7:鉄鋼需要分野別の 2016 年の需要予想 図8は、米国の鉄鋼消費の推移を示したものである。直近では、2013 年は 106 百万シ ョートトン(前年比+1%)、2014 年の鉄鋼消費は 118 百万ショートトン(前年比+12%) とリーマンショック後の回復基調の中で順調に推移してきた。2015 年は残念ながら、114 百万ショートトン(同-3%)とマイナス成長が見込まれている。一方、2016 年は 116 百万ショートトン(同+2%)と若干のプラス成長が見込まれている。 (※1 ショートト ン=907.18474 キログラム) ― 14 ― 調査報告 シカゴ 単位:百万ショートトン(左軸) 年 【出典】プレゼン資料より(データ元)米鉄鋼協会(AISI) ・アルセロールミタル社 図8:米国鉄鋼需要の推移及び見通し(年別) (4)世界の鉄鋼市場と素材について 世界全体でも多くの市場で鉄鋼需要の成長は低迷すると見られている。世界鉄鋼協会 の発表によると、2015 年の世界鉄鋼需要の見通しは 1,513 百万トン(前年比 1.7%減)、 2016 年は 1,523 百万トン(同 0.7%増)とされており、2016 年は横ばいと見られる。 百万トン 対前年比(右軸、%) 年 【出典】プレゼン資料より(データ元)世界鉄鋼協会(WSA)短期アウトルック 図9:世界の鉄鋼需要の推移及び見通し(年別) ― 15 ― 調査報告 シカゴ 特に注視をしたい国・地域は中国と EU である。世界の鉄鋼生産及び消費の半分程度 を占める中国の影響は大きく、中国経済がソフトランディングをするかどうかは非常に 重要である。また、欧州における政治リスクやそれにともなう経済の安定性にも注意を する必要があると思われる。 2015年見通し 2016年見通し NAFTA(北米) EU ロシア等CIS諸国 中南米 中国 世界全体 【出典】プレゼン資料より(データ元)世界鉄鋼協会(WSA)短期アウトルック 図10:鉄鋼需要の成長率(2015 年/2016 年)(地域別) 2.米国経済に対する有識者の見通し (説明者:William Strauss 氏、シカゴ連邦準備銀行 シニアエコノミスト) 前回の報告で述べたが、本シンポジウムでは、参加者が来年(2016 年)の GDP 成長率、 投資指数、貿易額、鉱工業生産指数、石油価格、失業率などの経済指標の予想を提出し、 シカゴFRBが、その結果をまとめて報告する面白い取り組みを行っている。参加者の知 識に差があるため、指標としては使えないものの、参考までにその概要を報告をしたい。 本年は、金融機関、金融コンサルティング会社、製造業、流通、大学、政府機関などの 35 名の参加者から、2016 年の予想が提出された。図 11 はその中央値である。 ― 16 ― 調査報告 シカゴ 2016 年の名目GDP成長率については、すべての参加者がプラス成長を予想。その割合 は 1.1%増~5.3%増と幅があったが 4%台の予想者が多く、中央値は 4.3%であった。鉱工 業生産指数は、1.1%減から 9.1%増まで幅があったが、ほぼすべての参加者がプラス成長を 見込み、中央値は 2.0%増であった。多くの指標でプラス成長とされているが、予測という ことで、希望的観測も含まれているものと思われる。 2014 年 2015 年 2016 年 (実績) (予測) (予測) 名目GDP成長率(%) 3.90% 3.30% 4.30% GDP価格指数(%) 1.30% 1.20% 1.80% 実質GDP成長率(%) 2.50% 2.20% 2.60% 個人消費(%) 3.20% 2.90% 2.70% 設備投資(%) 5.50% 3.00% 3.50% 民間設備投資(%) 5.10% 8.00% 7.70% $78.20 $56.00 $58.10 ▲$463.60 ▲$550.00 ▲$610.20 政府支出及び投資(%) 0.40% 1.30% 1.40% 鉱工業生産指数(%) 4.40% 0.00% 2.00% 16.4 17.4 17.6 住宅着工件数(百万件) 1 1.13 1.24 原油価格(ドル/バレル) $73.16 $45.00 $53.25 失業率(%) 5.70% 5.00% 4.90% インフレ率(%) 1.20% 0.40% 1.90% 1年物国債利率(%) 0.15% 0.39% 1.04% 10年物国債利率(%) 2.28% 2.25% 2.70% 在庫品増加(十億ドル) 貿易収支(十億ドル) 自動車販売台数(百万台) 【出典】プレゼン資料より(データ元)FRB シカゴ 図11:GDP 及び主要経済指標の予想値(参加者予測中央値) ― 17 ―