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がん患者の在宅ターミナルケアが直面する諸問題

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がん患者の在宅ターミナルケアが直面する諸問題
174
がん患者の在宅ターミナルケアが直面する諸問題
早 坂 裕 子
(「日本ホスピス・在宅ケア研究会」および「在
I はじめに
宅ケアを支える診療所ネットワーク」の名簿か
ら抽出)した単行本〔和田 2003〕に記載されて
がん患者が在宅でターミナル期を送ることの意
いた医師の中から,診療所を拠点に活動し,が
義を理解し,「家で死にたい」と訴える患者を支
ん患者の在宅ケアかつ看取り(在宅死)のサ
えている医師たちがいる。そして一部の医師た
ポートを行っていると回答していた 283 人を対
ちは,ケアを提供するだけではなく,在宅ケア
象とし,質問紙を使用した郵送調査を行った。
を支える NPO 法人(在宅ケアを支える診療所・
調査地域は全国にわたる。有効回答数 168 人
市民全国ネットワーク)を設立し,診療所同士の
(59.4 %)である。
ネットワーク化を図るとともに,がん患者の在宅
ケア実施医療機関データベースをホームページで
2 調査期間
公開し,患者への情報提供を行っている。
2003 年 8 月 18 日から 9 月 18 日である。
しかし,医師たちの実践に関する総合的な調
査は十分行われていない。特に診療所の医師に
3 調査内容
よる在宅ターミナルケアの現状,診療所同士や診
全体では,(1)調査対象者自身および対象者
療所と地域の病院そして福祉関係機関との連携
が経営・勤務する診療所,(2)在宅ターミナル
などについて,議論や提言の足がかりになる情
ケア,(3)関係機関との連携,(4)ケアチーム,
報が早急に求められている。
の 4 つのカテゴリーに分かれている。
そこで筆者は,2000 年にがん患者の在宅ター
ミナルケアを実施している診療所の医師たちへ
(1)調査対象者自身および対象者が経営・勤
務する診療所に関して
の調査を行い,その現状と医療,福祉,行政機
年齢,性別,主要な診療科目,がん患者の在
関などとの連携を中心に情報を収集し,分析し
宅ターミナルケアを始めてからの年数,有床・
た〔早坂 2002〕。その結果を踏まえて,2003 年
無床,有床の場合には病床数,無床の場合には
には「担当しているがん患者の社会・経済的な
緊急時の病床確保の方法について回答を求めた。
状況」を新たに加え,第 2 回調査を実施した。
(2)在宅ターミナルケアに関して
本稿は第 2 回調査の結果である。
「がん患者がどのような方法で各診療所が在宅
ターミナルケアを行っていることを知ったか」
II
研究方法
は複数回答で 6 項目の選択肢を採用し,コメン
ト欄を設けた。
1 調査対象者と調査方法 在宅ケアを実施している医師をリストアップ
「担当しているがん患者の社会・経済的な状況
について」は,①健康保険料の支払い困難,②
Autumn ’06
がん患者の在宅ターミナルケアが直面する諸問題
175
III 分析方法
医療費自己負担分の支払い困難,③自己負担の
増加を避けるためのサービス制限の要望,④生
活費が不足,⑤本人または家族が生活保護受給
分析にあたり,一部についてダミー変数を用
者である,⑥本人または家族が失業者である,
いた。対象者の性別は男性を 0,女性を 1 とした。
⑦借家(公営・民間の住宅)に住んでいる,そ
年齢は 31 ∼ 40 歳までを 1,41 ∼ 50 歳までを 2,
れぞれの項目に対して,1.頻繁にある,2.時々あ
51 ∼ 60 歳を 3,61 ∼ 70 歳を 4,71 歳以上を 5
る,3.たまにある,4.ほとんどない,5.全くない,
とした。がんのターミナルケアを始めてからの
の 5 件法で回答を求めた。また,コメントおよ
年数は 3 年未満を 1,3 ∼ 5 年を 2,6 ∼ 10 年を
び患者の社会・経済的な状況について気づいた
3,11 ∼ 15 年を 4,16 ∼ 20 年を 5,21 年以上 6
ことに関する自由記載欄を設けた。
とした。病床の有無については無床を 0,有床
「がん患者のターミナルケアを促進している要
因」「がん患者のターミナルケアを阻害している
要因」はそれぞれ複数回答で 10 項目の選択肢を
採用し,コメント欄を設けた。
を 1 とした。促進,阻害要因数は回答者が選ん
だ数を実数で投入した。
上記に基づき各項目ごとの単純集計と自由回
答の分類を行った。また調査項目相互の関連性
「がん患者や家族と関わる上で困難を感じたこ
を見た。本調査は回答のほとんどに順序尺度を
と」は医療関係・福祉関係に分け,それぞれの
使用しているため,スピアマンの順位相関係数
頻度を,1.頻繁にある,2.時々ある,3.たまにあ
による分析を行った。その際に頻度,程度が高
る,4.ほとんどない,5.全くない,の 5 件法で,
いほど数値が高まるように反転を施した。
またそれぞれの具体的な内容を自由記載すると
いう方法で回答を求めた。
さらに,以下のようにグループ間の差異を明
らかにするためにマン-ウィットニーの U 検定を
「ターミナルケアの知識,技術のフォローアッ
行った。第 1 に,担当しているがん患者の社会
プの必要性」は,1.大いにある,2.ある,3.少し
経済状況の東日本と西日本の地域差を検証した。
ある,4.ほとんどない,5.全くない,の 5 件法で,
第 2 に診療所の医師ががん患者や家族と関わる
またその領域について自由記載するという方法
上での困難度および診療所と関係機関との連携
で回答を求めた。
に関して,無床診療所と有床診療所との差異を
(3)関係機関との連携に関して
検証した。統計解析には SPSS 7.5 J を使用した。
がん患者の在宅ターミナルケアを行う際の関
IV 結果
係機関①診療所,②病院,③市町村の保健福祉
部(類似の部署)/福祉事務所,④都道府県の保
健福祉部(類似の部署),⑤在宅介護支援セン
ター,⑥ホームヘルパーステーション,⑦訪問
1 対象者自身および対象者が帰属する診療所
の概要
看護ステーション,との連携について,1.頻繁
「年齢」,「性別」,「ターミナルケアを始めてか
にする,2.時々する,3.たまにする,4.ほとんど
らの経験年数」,「主要な診療科目」,「有床・無
しない,5.全くしない,の 5 件法で,また連携
床」
,「病床数」について表 1 に示した。
する場合の内容について回答を求めた。さらに,
「無床診療所における緊急時の病床確保の方
①∼⑦以外の連携機関や職種の記入および連携
法」に関しては 84 件の回答が寄せられた。最多
についてのコメントを求めた。
(4)ケアチームに関して
現在の在宅ターミナルケアチームにおける職
種構成およびコメントの記入を求めた。
は「連携病院や後方支援病院に依頼する」29 件
である。「患者が以前入院していた病院や患者を
紹介した病院に依頼する」12 件,「近隣の病院」
11 件,「最期まで在宅でケアを行う」8 件ある。
病床の確保に関してはシステムが確立している
Vol. 42
季刊・社会保障研究
176
No. 2
表 1 対象者の属性
(年齢・年齢構成・男女別割合・有床/無床診療所の割合・経験年数・経験年数の構成,主要な診療科目)
年齢(n=167)
平均
最低年齢
最高年齢
年齢構成(n=168)
51.2 ± 7.5 歳
34 歳
82 歳
31 ∼ 40 歳
41 ∼ 50 歳
51 ∼ 60 歳
61 ∼ 70 歳
71 歳以上
無回答
有床/無床診療所の割合(n=168)
有床
無床
14.3 %(24 カ所)病床数平均 14.9 ± 5.9 床
最低病床数 2床
最高病床数 19 床
85.7 %(144 カ所)
6.0 %
42.9 %
42.9 %
6.5 %
1.2 %
(10 人)
(72 人)
(72 人)
(11 人)
(2 人)
0.6 %
(1 人)
男女別割合(n=168)
男性
女性
94.0 % (157 人)
6.0 % (10 人)
経験年数(n=165)
経験年数の構成(n=168)
平均
9.8 ± 5.5 年
最低経験年数 1 年
最高経験年数 31 年
3 年未満
4.8 % (8 人)
3∼5年
17.3 %(29 人)
6 ∼ 10 年 46.4 %(78 人)
11 ∼ 15 年 19.0 %(31 人)
16 ∼ 20 年 8.3 %(14 人)
21 年以上 2.4 % (4 人)
無回答
1.8 % (3 人)
主要な診療科目(n=168,複数回答)
内科
外科
小児科
麻酔科
88.1 %(148 人)
10.1 % (17 人)
9.5 % (16 人)
6.0 % (10 人)
消化器科 5.4 % (9 人)
整形外科
胃腸科
神経内科
リハビリテーション
5.4 %
4.8 %
4.2 %
3.6 %
循環器科
3.0 % (5 人)
地域もある。例えば東京都中野区では「在宅療
(9 人)
(8 人)
(7 人)
(6 人)
その他
6.7 % (28 人)
ていた」が全回答の 24.8 %(135 件)で最も多
養者緊急一時入院病床確保事業」があり,病床
い。「病院からの紹介」が 22.4 %(122 件),「訪
が確保されている。京都府では緊急医療システ
問看護ステーションからの紹介」18.0 %(98 件)
,
ムが確立されており,インターネットで空き病
床の検索が可能になっている。しかし少数では
あるが「病床が確保できない場合は救急車経由」
「患者同士の口コミ」15.8 %(86 件),「他の診
療所からの紹介」9.2 %(50 件)である。
「その他」に挙がっていた回答は 54 件である。
2 件,「連携病院が決まっていなければ手当たり
媒体としては「当院を紹介した雑誌もしくは新
次第,電話をかけて探す」1 件,「病院に依頼す
聞記事,書籍,報道番組」18 件,「インター
るが半数は返事がない」1 件など病床確保が困
ネット」15 件が多かった。また紹介機関もしく
難であるというコメントもみられる。
また「家で看取るので必要なし」というコメ
は職種では「ケアマネジャーからの紹介」8 件,
「行政からの紹介」4 件が多かった。
ントも 3 件あった。「近隣の緩和ケア病棟と連携
し,その病棟ができてから在宅死はほぼ皆無」1
件というコメントもある。
(2)担当しているがん患者の社会経済状況に
ついて
マン-ウィットニーの U 検定の結果,社会経済
2 在宅ターミナルケアに関して
(1)「がん患者はどのような方法で各診療所が
在宅ターミナルケアを行っていることを知った
か」
複数回答で「患者・家族のかかりつけ医をし
的な問題に関して,東日本,西日本の間に有意
差はみられなかった。
社会経済的な問題を感じたことがあるという
コメントは 36 件で,具体的には,「医療費の自
己負担増加によって,受診を抑制したり,サー
Autumn ’06
がん患者の在宅ターミナルケアが直面する諸問題
177
表 2 担当しているがん患者の社会経済状況 ―全体および地域別―
%:カッコ内は実数
全体
168 人
東日本
80 人
西日本
88 人
頻繁にある
0.6 (1)
1.3 (1)
0.0 (0)
時々ある
8.3(14)
8.8 (7)
8.0 (7)
たまにある
11.3(19)
11.3 (9)
11.4(10)
ほとんどない
47.0(79)
48.8(39)
45.4(40)
全くない
30.4(51)
26.3(21)
34.1(30)
2.4 (4)
3.8 (3)
1.1 (1)
1.1 (1)
困難
健康保険料の支払い困難
無回答
医療費自己負担分の支払い困難
頻繁にある
0.6 (1)
0.0 (0)
時々ある
8.9(15)
11.3 (9)
6.8 (6)
たまにある
23.2(39)
23.8(19)
22.7(20)
ほとんどない
42.9(72)
42.5(34)
43.2(38)
全くない
23.8(40)
21.3(17)
26.1(23)
0.6 (1)
1.3 (1)
0.0 (0)
無回答
自己負担の増加を避けるためのサービス制限の要望
0.0 (0)
0.0 (0)
0.0 (0)
時々ある
17.3(29)
17.5(14)
17.0(15)
たまにある
40.5(68)
45.0(36)
36.4(32)
ほとんどない
33.3(56)
27.5(22)
38.6(34)
全くない
7.7(13)
7.5 (6)
8.0 (7)
無回答
1.2 (2)
2.5 (2)
0.0 (0)
頻繁にある
2.4 (4)
2.5 (2)
2.3 (2)
時々ある
7.1(12)
5.0 (4)
9.1 (8)
たまにある
33.9(57)
36.3(29)
31.8(28)
ほとんどない
41.7(70)
41.3(33)
42.0(37)
全くない
11.9(20)
10.0 (8)
13.6(12)
3.0 (5)
5.0 (4)
1.1 (1)
頻繁にある
生活費が不足
無回答
本人または家族が生活保護受給者である
1.8 (3)
2.5 (2)
1.1 (1)
時々ある
17.3(29)
13.8(11)
20.5(18)
たまにある
39.3(66)
43.8(35)
35.2(31)
ほとんどない
21.4(36)
16.3(13)
26.1(23)
全くない
19.6(33)
22.5(18)
17.0(15)
0.6 (1)
1.3 (1)
0.0 (0)
頻繁にある
無回答
本人または家族が失業者である
3.6 (6)
3.8 (3)
3.4 (3)
時々ある
20.8(35)
20.0(16)
21.6(19)
たまにある
42.9(72)
48.8(39)
37.5(33)
ほとんどない
20.8(35)
16.3(13)
25.0(22)
全くない
11.3(19)
10.0 (8)
12.5(11)
0.6 (1)
1.3 (1)
0.0 (0)
頻繁にある
無回答
注) 1) Mann-Whitney U test 全て n. s.
2) 検定にあたっては無回答は計算から除いた。
3) 東日本:北海道から愛知,岐阜,福井までの1 都,1 道,21 県 西日本:京都,滋賀,三重以西の 2 府 22 県。
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季刊・社会保障研究
178
No. 2
ビス制限を希望しているケースが増えている」
一方,社会経済的な問題を感じたことがない
10 件,「介護保険の適用外の 65 歳以下の患者の
というコメントは 20 件で具体的には,「比較的,
場合はベッドのレンタル,入浴サービスなどが
経済的に恵まれた人が在宅ケアを行う傾向にあ
全額自己負担であるため経済的に苦しい立場に
る」5 件,「ホスピスや病院の差額ベッド料が高
いる」5 件,「患者の負担が増えないように実際
いので入院よりも在宅の方が経済的な負担が少
のサービス料よりも請求料を減らすなどの工夫
ない」5 件,「ターミナル期のがん患者は在宅の
をしている」「医療・介護の費用がかかるので生
期間が短いので特に経済的な問題はみられない」
活費をぎりぎりまで下げている」3 件である。
2 件,である。
しかし生活保護の対象となったとしても「医療
扶助があるため入院医療を選択することが多い」
(3)がん患者のターミナルケアを「促進して
というコメントにあるように,せっかく在宅ケ
いる要因」
「阻害している要因」について
アの意志があったとしても制度上,実現するの
がん患者のターミナルケアを「促進している
が困難という場合がある。
要因」「阻害している要因」についてコメントで
(n=168,複数回答)
76.8(129)
患者の在宅志向
73.2(123)
介護者がいる
51.2(86)
家族の在宅志向
33.9(57)
病院での在院日数制限による退院
32.7(55)
在宅ターミナルケアを行う医師の充足
27.4(46)
病名/余命の告知が行われている
18.5(31)
住宅の構造/空間の問題がない
10.7(18)
医療制度の完備
10.1(17)
福祉制度の完備
%:カッコ内実数
8.3(14)
その他
0
10
20
30
40
50
60
70
80
図 1 在宅ターミナルケアの促進要因
(n=168,複数回答)
76.2(128)
介護者がいない
54.2(91)
家族の大病院志向
42.0(79)
在宅ターミナルケアを行う医師の不足
45.8(77)
患者の大病院志向
30.0(47)
病名/余命の告知が行われない
20.8(35)
住宅の構造/空間の問題
14.9(25)
医療制度の不備
12.5(21)
福祉制度の不満
病院での在院日数制限による
退院後も他の施設の利用が可能
7.7(13)
%:カッコ内実数
11.9(20)
その他
0
10
20
30
40
図 2 在宅ターミナルケアの阻害要因
50
60
70
80
Autumn ’06
がん患者の在宅ターミナルケアが直面する諸問題
多かったのは,介護者についてである。「介護者
がいない」ということに関しては,「たとえば制
179
(5)「がん患者や家族と関わる上で福祉関係の
困難を感じた頻度」の回答も表 3 に示した。
度を充実させてホームヘルパーが 24 時間体制で
マン-ウィットニーの U 検定の結果,無床診療所
介護できればいいという問題ではない。いくら
と有床診療所との間に有意差はみられなかった。
福祉制度が整っても介護の中心となるのは家族
具体的な内容としては総数 33 件が挙げられて
であり,家族の在宅ケアに対する理解や熱意が
いる。「福祉制度の不備」,特に「介護保険制度
ないと在宅ケアは成立しない」とのことである。
において 65 歳未満の場合は介護保険の対象にな
らないこと」14 件が多い。「介護保険が適応さ
(4)「がん患者や家族と関わる上で医療関係の
困難を感じた頻度」の回答は表 3 に示した。
れないことで,介護用ベッドなどの使用が自費
負担となることから若年のがん患者の経済的負
マン-ウィットニーの U 検定の結果,無床診療所
担が重くなっている」など具体的な事例を挙げ
と有床診療所との間に有意差はみられなかった。
て指摘している人もいた。また介護保険の導入
具体的な内容としては総数 111 件挙げられて
を境にヘルパーやケアマネジャーがかかわる機
いる。「告知,インフォームドコンセントについ
会が増えているせいか「福祉関係者の医療に関
て」30 件,「介護者以外の家族の問題」10 件が
する経験および知識の不足」が 10 件ある。例え
多い。「告知,インフォームドコンセント」に関
ば「病気に対する理解のないヘルパーが間違っ
する主な内容は,「病状や予後を告知されていな
た指導を患者や家族にすることがあり,訂正に
い患者にどのように対応すればよいか」などで
手間がかかったり信頼関係が揺らぐ原因となっ
ある。「介護者以外の家族の問題」に関する主な
た」,「見守りができない福祉関係者が多く,す
内容は,「ふだんは介護に協力もせず在宅ケアへ
ぐに病院に入れたがる」などである。
の理解が不十分な遠方の親戚などが口を挟み,
在宅ケアが上手くいかなくなる」などである。
(6)「ターミナルケアの知識,技術のフォロー
表 3 医療関係,福祉関係それぞれの困難を感じた頻度
−全体および有/無床別−
%:カッコ内は実数
全体
168 人
有床
24 人
無床
144 人
頻繁にある
20.2(34)
20.8 (5)
20.1(29)
時々ある
35.1(59)
37.5 (9)
34.7(50)
たまにある
29.8(50)
29.2 (7)
29.9(43)
ほとんどない
11.9(20)
12.5 (3)
11.8(17)
全くない
0.0 (0)
0.0 (0)
0.0 (0)
無回答
3.0 (5)
0.0 (0)
3.5 (5)
8.3(14)
4.2 (1)
9.0(13)
時々ある
18.5(31)
20.8 (5)
18.1(26)
たまにある
25.0(42)
16.7 (4)
26.4(38)
ほとんどない
29.2(49)
37.5 (9)
27.8(40)
3.0 (5)
8.3 (2)
2.1 (3)
16.1(27)
12.5 (3)
16.7(24)
困難
医療関係
福祉関係
頻繁にある
全くない
無回答
注) 1) Mann-Whitney U test 全て n. s.
2) 検定にあたっては無回答は計算から除いた。
季刊・社会保障研究
180
無回答
8.3(14)
(n=168,複数回答)
ほとんどない
2.4(4)
Vol. 42
No. 2
136 件。最も多かったのが,「緊急時に在宅ケア
が困難な場合の対応や入院の依頼」43 件である。
次が,
「専門外の症状を呈した場合の診察・診療」
や「IVH カニューレ挿入などの処置の依頼」25 件
少しある
5.4(9)
である。また「家族の希望やレスパイトケアのた
めに入院を依頼する」も 19 件報告されている。
大いにある
54.2(91)
(3)「市町村の保健福祉部(類似の部署)・福
ある
29.8(50)
祉事務所との連携の主な内容」は回答総数 52 件。
%:カッコ内実数
最も多かったのが「生活保護の申請」13 件,
「患者の介護保険の申請および介護保険の認定審
図 3 ターミナルケアの知識,技術のフォローアップの必要性
査会の委員や主治医意見書などを通しての関わ
り」7 件である。
アップの必要性」の質問では,全体の 89.4 %
(大いにある・ある・少しあるという回答の合
計)の人が必要ありと考えている。
(4)「都道府県保健福祉部(類似の部署)との
連携の主な内容」は回答総数 6 件。具体的な内
容の記載があったのは 1 件のみで「保健師との
連携,難病相談や精神衛生相談などの利用,患
[フォローアップが必要な領域]
総数 142 件で医療面,精神面,その他に分け
者の紹介など」である。残りの 5 件は「連携の
必要性を感じない」という意見である。
られる。医療面で最も多いのが「疼痛緩和に関
して」の 63 件である。「栄養管理」が 16 件,
(5)「在宅介護支援センターとの連携の主な内
「褥瘡の処置」8 件,「呼吸困難への対処」6 件で
容」は回答総数 52 件。主な内容は,「ヘルパー
ある。精神面では 33 件あり,主に「面接技術に
の依頼」11 件,「介護用品のレンタル」7 件,
関するもの」と,「患者や家族の精神面でのサ
「患者情報についての照会,情報交換」4 件,
ポートに関するもの」が挙げられている。
「介護についての相談」5 件,などである。「地
域に存在感がなく機能していない」など,あま
3 関係機関との連携 り連携の必要性を感じていないという意見も 9
連携関係の主要なデータは表 4 に示した。
件あった。
(1)「診療所同士の連携の主な内容」は回答総
数 70 件。最も多かったのが,「患者が自分の専
(6)「ホームヘルパーステーションとの連携の
門領域外の症状を呈した場合に診察・診療を依
主な内容」は回答総数 51 件。福祉関係機関のう
頼する」21 件である。次が「休診時に往診など
ち最も連携しているところとなっており,主な
を依頼する」15 件である。一方,「連携できな
内容は「家族介護だけでは限界がある場合にヘ
い」「連携しない」という意見も 9 件ある。その
ルパーの導入を依頼する」16 件,「患者情報に
理由はさまざまであるが,前者は「地域での連
ついての照会や情報交換」15 件などである。
携体制の未整備」,後者は「他の医師との医療観
の違い」,
「患者の信頼に自分自身が応える義務」
,
などが挙げられている。
(7)「訪問看護ステーションとの連携の主な内
容」は回答総数 65 件。主な内容は,「患者情報
についての照会や情報交換」14 件,「訪問看護
(2)「病院との連携の主な内容」は回答総数
内容や患者の病状の確認と指示」6 件である。
Autumn ’06
がん患者の在宅ターミナルケアが直面する諸問題
181
表 4 診療所と各関係機関との連携 −全体および有/無床別−
%:カッコ内は実数
連携
全体
168 人
診療所
14.3 (24)
頻繁にする
時々する
22.0 (37)
たまにする
22.0 (37)
ほとんどしない
25.0 (42)
全くしない
15.5 (26)
無回答
1.2 (2)
病院
頻繁にする
40.5 (68)
時々する
38.1 (64)
たまにする
14.3 (24)
ほとんどしない
5.4 (9)
全くしない
0.6 (1)
無回答
1.2 (2)
市町村の保健福祉部(類似の部署)/福祉事務所
頻繁にする
8.3 (14)
時々する
8.9 (15)
たまにする
19.0 (32)
ほとんどしない
37.5 (63)
全くしない
24.4 (41)
無回答
1.8 (3)
都道府県の保健福祉部(類似の部署)
頻繁にする
0.6 (1)
時々する
3.6 (6)
たまにする
4.8 (8)
ほとんどしない
36.3 (61)
全くしない
53.0 (89)
無回答
1.8 (3)
在宅介護支援センター
頻繁にする
21.4 (36)
時々する
22.6 (38)
たまにする
19.6 (33)
ほとんどしない
19.0 (32)
全くしない
14.3 (24)
無回答
3.0 (5)
ホームヘルパーステーション
頻繁にする
26.2 (44)
時々する
33.9 (57)
たまにする
19.0 (32)
ほとんどしない
11.3 (19)
全くしない
7.1 (12)
無回答
2.4 (4)
訪問看護ステーション
頻繁にする
71.4 (120)
時々する
13.7 (23)
たまにする
6.5 (11)
ほとんどしない
3.6 (6)
全くしない
3.0 (5)
無回答
1.8 (3)
注) 1) Mann-Whitney U test 全て n. s.
2) 検定にあたっては無回答は計算から除いた。
有床
24 人
8.3
20.8
20.8
37.5
12.5
0.0
無床
144 人
(2)
(5)
(5)
(9)
(3)
(0)
15.3
22.2
22.2
22.9
16.0
1.4
(22)
(32)
(32)
(33)
(23)
(2)
25.0 (6)
54.2 (13)
8.3 (2)
12.5 (3)
0.0 (0)
0.0 (0)
43.1 (62)
35.4 (51)
15.3 (22)
4.2 (6)
0.7 (1)
1.4 (2)
8.3 (2)
0.0 (0)
12.5 (3)
62.5 (15)
16.7 (4)
0.0 (0)
8.3
10.4
20.1
33.3
25.7
2.1
0.0 (0)
0.0 (0)
4.2 (1)
50.0 (12)
45.8 (11)
0.0 (0)
0.7 (1)
4.2 (6)
4.9 (7)
34.0 (49)
54.2 (78)
2.1 (3)
25.0
16.7
12.5
20.8
16.7
8.3
(6)
(4)
(3)
(5)
(4)
(2)
20.8
23.6
20.8
18.8
13.9
2.1
(30)
(34)
(30)
(27)
(20)
(3)
12.5
37.5
33.3
8.3
4.2
4.2
(3)
(9)
(8)
(2)
(1)
(1)
28.5
33.3
16.7
11.8
7.6
2.1
(41)
(48)
(24)
(17)
(11)
(3)
54.2 (13)
25.0 (6)
8.3 (2)
4.2 (1)
4.2 (1)
4.2 (1)
(12)
(15)
(29)
(48)
(37)
(3)
74.3 (107)
11.8 (17)
6.3 (9)
3.5 (5)
2.8 (4)
1.4 (2)
182
Vol. 42
季刊・社会保障研究
No. 2
V 考 察
「訪問看護は在宅ケアの要」という意見が 24 件
も寄せられており,訪問看護の重要性が強調さ
れていた。
調査を通して,がん患者の在宅ターミナルケ
アを行う医師たちの理念と実践,そしてその立
(8)「その他の連携機関・職種」は 58 件が挙
場や直面する問題がある程度,明確化された。
げられている。連携機関としては薬局 8 件,老
がん患者の在宅ターミナルケアを阻害している
人施設(ショートステイ・デイサービス含む)4
要因として,介護者がいないこと,家族の大病
件など全体で 5 種類,職種としてはケアマネ
院志向,同業の医師の不足などが挙げられてい
ジャー,理学療法士それぞれ 7 件,ボランティ
る。また,がん告知が行われていないことと,
ア 6 件などとなっている。連携職種の方は全体
そのために患者自身が大病院での治療を志向す
で 17 種類あり,多彩な人々と連携がなされてい
ることなども指摘されている。
ることがわかる。
医師たちの多くはがん患者や家族と関わる上
で告知や大病院志向,医療への過度の期待や依
(9)「連携についてのコメント」の回答は総数
存などの困難を抱え,ターミナルケアの知識や
24 件。連携の必要性の有無について述べたもの,
技術のフォローアップの必要性を強く感じなが
連携の阻害要因について,連携に必要な事柄に
ら,日々の診療活動を行っていることが理解で
ついてがそれぞれ 8 件ずつある。必要性につい
きる。
ては医師の信条・理念などにより異なると思わ
「頻繁にする・時々する・たまにする」の合計
れる。多くの人の参加が望ましいという意見と,
でみると,連携面では病院との連携が 92.9 %と
むしろ少人数で行うほうがよいというものとに
最も多く,訪問看護ステーションとの連携も
意見が分かれている。
91.6 %が行っている。一方,ホームヘルパース
テーションとの連携は 79.1 %,診療所同士の連
4 ターミナルケアチームの構成メンバー職種
携は 58.3 %である。在宅介護支援センターとの
「現在の構成メンバーと職種」では医師,看護
連携は 63.6 %,市町村の保健福祉部との連携は
師,訪問看護師,保健師,ソーシャルワーカー,
36.2 %,県の保健福祉部との連携は 9 %であり,
ケアマネジャー,介護福祉士,ホームヘルパー,
福祉行政との連携が進んでいないもようである。
ボランティア,薬剤師などさまざまな職種が挙
げられていた。
その理由として挙げられていたのは,a)現行
の福祉制度は高齢者中心のものであり,がん患
者の利用可能なサービスは限られている,b)行
5 項目相互間の関係
政福祉関係者間の在宅ターミナルケアへの理解
スピアマンの順位相関係数による分析の結果
が得られにくい,c)福祉サービスの申請が複雑
を表 5 に示した。有意な相関が多くみられたの
であり承認までの事務処理の時間が長い,など
は,医療および福祉関係の困難について,各関
である。
係機関との連携に関して,であり,以下のよう
なことが明らかになった。
医療関係の困難を感じている人ほど福祉関係
の困難も頻繁に感じている。他の診療所や病院
また在宅ターミナルケアを受診している患者
の社会経済状況について,担当の医師の主観を
通してではあるが,その一端を把握することが
できた。
との連携をする人ほど,市町村の保健福祉部
具体的には,a)患者や家族が失業者(頻繁に
(類似の部署)/福祉事務所,都道府県の保健福
ある・時々ある・たまにあるという回答の合計
祉部(類似の部署),在宅介護支援センターなど
で 67.3 %)であったり,生活保護の受給者(同
福祉関係諸機関との連携を行っている。
58.4 %)であったりするケースが顕著である。b)
年
齢
.043
.157*
−.075
−.055
.057
.075
−.133
.128
.061
−.017
.009
−.126
.461**
経
験
年
数
阻
害
要
因
促
進
要
因
.026
.616**
.173*
−.044
.126
.034
.005
.114
.057
.147
.013
.077
.102 −.065
.030
−.006
.130
.134
.111
.094
.056
.043
.034
.007
.007 −.070
.037
.182*
.078
.038
−.030 −.026 −.017
医
療
関
係
の
困
難
福
祉
関
係
の
困
難
ロ
ー
ア
ッ
プ
の
必
要
性
技
術
の
フ
ォ
知
識
,
.389**
.114
.179*
.001
.199* −.022
−.060
.138
.073
−.065
.082
.062
−.083
.004 −.121
−.107 −.046
.057
−.021
.071
.126
−.010
.083
.053
診
療
所
同
士
の
連
携
.183*
.296**
.246**
.193*
.126
.007
病
院
と
の
連
携
.241**
.142
.145
.282**
.119
注) 1) Spearman Correlation :* p<0.05,** p<0.01
2) a :がん患者の在宅ターミナルケアを始めてからの年
b:がん患者の在宅ターミナルケアを阻害している要因の数
c :がん患者の在宅ターミナルケアを促進している要因の数
d:がん患者や家族と関わる上で医療関係の困難を感じる頻度
e :がん患者や家族と関わる上で福祉関係の困難を感じる頻度
f :がん患者のターミナルケアの知識,技術のフォローアップの必要度
g:連携の頻度。なお,市町村福祉とは,市町村の保健福祉部(類似の部署)/福祉事務所,都道府県福
祉とは都道府県の保健福祉部(類似の部署)の略である。
阻害要因 b
促進要因 c
医療関係の困難 d
福祉関係の困難 e
知識,技術のフォローアップの必要性 f
診療所同士の連携 g
病院との連携 g
市町村福祉との連携 g
都道府県福祉との連携 g
在宅介護支援センターとの連携 g
ホームヘルパーステーションとの連携 g
訪問看護ステーションとの連携 g
経験年数 a
市
町
村
福
祉
と
の
連
携
.490**
.290**
.261
.055
と
の
連
携
都
道
府
県
福
祉
.201*
.091
.024
セ
ン
タ
ー
と
の
連
携
在
宅
介
護
支
援
.261**
.058
表 5 属性(年齢、経験年数)
・在宅ターミナルケアの阻害要因・在宅ターミナルケアの促進要因・医療関係,
福祉関係それぞれの困難・ターミナルケアの知識,技術のフォローアップ・各関係機関との連携の相関関係
ホ
ー
ム
ヘ
ル
パ
ー
ス
テ
ー
.206**
シ
ョ
ン
と
の
連
携
Autumn ’06
がん患者の在宅ターミナルケアが直面する諸問題
183
季刊・社会保障研究
184
Vol. 42
No. 2
医療費自己負担分の支払いが困難な患者(同
会経済的な問題を多くの医師が認識している。
32.7 %)や,自己負担の増加を避けるために
しかし福祉関連機関との連携が不十分であり,
サービス制限を要望する患者(同 57.8 %)が存
是正が求められる。
在する。c)社会経済的な問題によって受診が遅
(平成 17 年 9 月投稿受理)
れる場合があり,中には悲惨なケースもある。
(平成 18 年 4 月採用決定)
介護保険の適用にならない比較的若い年代の
患者の場合の方が状況は深刻である。
厚生労働省は,65 歳以下のすべてのがんター
ミナル期の患者を介護保険の給付対象者として
謝 辞
本研究を行うにあたりデータ収集にご協力い
ただきました医師の皆様に感謝申し上げます。
認め,2006 年 4 月から適応させるという〔読売
新聞 2005,11 月 12 日〕。若年患者へのサービス
の拡大が期待できるが,本調査結果からも明ら
かになったように在宅医療と福祉の連携はあま
り進んでいない。
VI
結論
在宅ターミナルケアを受診するがん患者の社
引用・参考文献
早坂裕子(2002)「がん患者の在宅ターミナルケア
を実施する医師の調査」『日本醫事新報』4071,
pp.25-30。
読売新聞(2005,11 月 12 日)「40 ∼ 60 歳の末期が
ん患者,すべて介護保険対象」。
和田努(2003)『在宅ケアをしてくれるお医者さん
がわかる本』同友館。
(はやさか・ゆうこ 新潟青陵大学教授)
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