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人力飛行機交流飛行会 2013 開催報告
人力飛行機交流飛行会 2013 開催報告 ∼ The Flight Exhibition of Human Powered Aircraft 2013 ∼ ■開催目的 開催目的としてまず、人力飛行機を制作するチーム間や一般の方々の技術的・人的な交流の促進。二 つ目に参加チームのモチベーション向上からなる組織内部の技術伝承と発展。三つ目に参加チームの発 木下詩織(東北大学大学院 工学研究科), 氏家義弘(筑波大学大学院 システム情報工学研究科), 鈴木悠斗(東海大学 OB), 岡田光博(名古屋大学大学院 理学研究科), 有竹博紀(東海大学 工学部), 小畠拓也(京都大学 工学部), 外間洋平(東北大学大学院 OB), 後藤雄一朗(横浜国立大学大学院 OB) 展によるスカイスポーツ業界の活性化が挙げられます。 日本においては、鳥人間コンテスト選手権大会(鳥コン)の影響により人力飛行機の製作活動がたい へん盛んです。しかし、鳥コンには出場枠に限りがあり、出場出来ないチームも存在しています。人力 ■交流飛行会とは? 飛行機を作製するチームの多くは、鳥コンに向けて活動するのが主目的であるので、落選した場合、チー ムの運営自体に支障をきたすことも有るのが現状です。またチーム同士の技術的・人的な交流は、学生 交流飛行会とは、人力飛行機の「フライト&機体展示」を行うことを通して、人力飛行機に関わる人た 同士の交流会が年に二回あるのみであまり活発に行われてきませんでした。 ちの人的・技術的な交流を促進する目的で 2010 年から開催されています。毎年改善を行い、参加者から は高い評価を頂くことが出来ています。今年度(2013)も交流飛行会を企画、8 月 31 日(土)早朝、静 そこで、学生・社会人チームが合同フライト及び機体展示を行うイベントとして、今年度も人力飛行 岡県にある富士川滑空場にて実施し、260 名近くの参加者が集まりました。 機交流飛行会を実施致しました。ここに「航空技術」読者の方々にもご報告させていただきます。 32 航空技術 No.709〔14-04〕 人力飛行機交流飛行会 2013 開催報告 33 ■運営&開催に向けての準備 ■安全対策 運営メンバーは、人力飛行機の製作経験を有する学生有志がメインとなっており、東北地方から関西 実際の航空機の運用も安全第一で行われることと思 地方に渡る広い地域に散在しています。全員がミーティングの為に集合するのは困難であったので、メー いますが、人力飛行機の場合も然りです。その具体的 ルや電話、インターネット上のファイル共有サービスなどを利用し、お互いの状況を密に把握すること な安全対策を行う上では、「事故を未然に防ぐこと」 に努めました。 と「万が一、起きてしまった時の被害を最小限に食い 止めること」の二つが大きな柱になっています。 会議では企画内容改善、運営方法や安全対策について話し合い、2013 では安全審査点、観客による投 票点の導入、機体展示の内容増加を行いました。 ▲当日の機体の安全チェック。事前に各チームで安全対策を施 すようにしてもらっているので、特に問題なくスムーズに終了 することができた。会の安全は、運営側だけでなく、参加者側 の努力・協力も必要となる。 ◆イベント内容の決定◆ 企画内容は、 「機体組み立て見学&部品展示」「飛行展示」「機体展示&交流会」という基本形を維持し つつ、面白く安全な方向に発展させるべくイベント内容の決定を行いました。 特に飛行展示では、これまでも簡単な競技(飛行する機体からの物資投下の精度を競う)を行ってき ています。今回はそれに加え、目標の的を複数へ増やす、飛行展示に観客投票による加点を行うといっ ◆事故を未然に防ぐための手段◆ たルールを追加致しました。他にも安全審査を点数化し飛行展示のポイントに加点。より安全な機体製 これに関しては、出場チームの各機体の安全確保の 作のノウハウを持って来年の制作に臨んで頂くため、審査内容について参加チームへフィードバックを ため、強度試験や試験飛行の結果などを報告して貰っ 行いました。 ています。加えて、当日の飛行前にも、チェックリス トを元に運営側で各チームの機体状態を確認しまし 更に、飛行展示をせず、機体の地上展示のみでも参加できるように運営方法を変更しました。これは、 飛行出来ていないチームに対してこそ門戸を開き、技術的・人的な交流を促進するという目的からです。 た。 ▲▼当日の機体安全チェックの一コマ。理科大 ( 上 )、静 大 ( 下 ) のプロペラ回転試験に運営メンバーが立会い、駆 動系に異常が無いか確認している。 また、風に弱い人力飛行機のフライトを安全に行え るよう事前に 天候判断規範 を作成。当日の実施判 ◆開催場所・時期の決定◆ 断はこれに則り、気象庁 05 時、12 時、17 時発表の 場所は、静岡航空協会様のご協力により富士川滑空場を使用させて頂きました。この滑空場は人力飛 気象予報をもとにスタッフ間のミーティングで決定す 行機の試験飛行に多用されており、運営側・参加者にとってのコストや実績を考慮した結果です。日程は、 ることになっています。 滑空場の使用予定が少なく、夏季休暇中で人が集まり易いことを勘案し、2013 年 8 月 24 日を第一候補 とし、31 日を予備日としました。 最後に参加者の安全を確保するため、事前申し込み を必須とし、注意事項を事前に配布し、予め注意事項 の伝達が行えるように配慮しています。 ◆参加チーム・見学者の募集◆ 今年は、東京理科大学「ACM」・静岡大学「ヒコーキ部」 、電気通信大学「UECwings」が飛行展示。 東洋大学「人力飛行機を大空に飛ばす会」が機体展示で参加することとなりました。 広報に関して、Web や Twitter などを利用して一般の方々に対しての広報も行いました。実際に航空 関係に携わる技術者の方々と人力飛行機製作チームとの交流も促進したいとの想いからです。特に、日 ◆万が一の場合も被害を最小限に押さえる◆ 本航空技術協会様には広報誌「航空技術」2013 年7月号に開催予定の広告を掲載して頂き感謝しており 万が一に備え、全員が保険に加入するように手配しました。更に運営側でも、赤十字社や消防の上級救命 ます。以上の広報活動の結果、一般の方、技術者の方にも参加していただけました。 講習を受講し、一次救命措置や応急救護を行えるスタッフを数名確保するなどしました。また、突発的な自 然災害や急病人等にも対応できるように、避難経路や手順も予め検討しました。 34 航空技術 No.709〔14-04〕 人力飛行機交流飛行会 2013 開催報告 35 ■当日の様子 以上のような準備・計画を行った上で、交流飛行会を 8 月 31 日 ( 土 ) に実施しました。当初は 24 日の開催 を予定していましたが、天候が悪く、予備日の 31 日へ順延しました。 ◆会場の設営・準備◆ 開催が決定されたため、運営スタッフは前日の 23 時に会場の富士川滑空場に到着し、まず天候や滑走路の 状態を確認しました。その後、ボランティアの方々と協力して本部や受付のテントを設営するなど会場の準備 を行いました。 ▲機体の組み立てを見学する参加者の方々。他チームの機体をここまでじっくり見られる機会は、関係者でも そう多くはない。実物を見ながら、製作したチームの人間に質問できる貴重な機会。さながら人力飛行機の見 本市。 ▲午前0時:本部テント組み上げと計画の確認。ここで会全体 ▲午前 2 時ごろ:北部テント受付。受付はボランティアの方々 の指揮とプロペラ・ギアボックス・操舵幹・電子基板といった にお願いしている。参加者にも何らかの形で「会を共に作る一 機体部品の展示を行う。今回はボランティア人数が不足したた 員」となってもらう事で会はより優れたものとなる。見学者の め、協力して下さる方を募集しながらの運営となった。 方々が続々と到着、順次受付をしてもらう。最終的に 100 人以 上の方が見学に訪れた。 ◆機体組み立て見学と部品展示◆ 競技参加チームが機体を組み立てている間、見学者がそれを見学できるようにしました。他チームの機体組 み立てを間近で見学できることは少ないので、貴重な機会になったと思います。実際に参加者からは「勉強に ▲垂直尾翼と操縦系統の組み立てを行う電通大チーム。一つ一つの ▲電通大のコクピット組立風景。分割した機体は右奥の様なラック パーツを丁寧に組み立てていく。 に収納。ボルト、ナットや電子部品は手前の様なグローブボックス なった」「参考にする」等の声が多く聞かれました。 に小分けしそれらをトラックの荷台に積み込んで運搬する。 ▲トラックから機体の積み下ろしを行う理科大チーム。抵抗を減ら ▲静岡大学ヒコーキ部の主翼接合の様子。主翼が低い位置にあって すために人力飛行機の主翼はアスペクト比が極端に大きく、翼幅が もスムーズな作業を行う為、台車を用いている。 ▲車のヘッドライトや懐中電灯の明かりを頼りに機体を組み立て。 約 20 ∼ 30m と小型旅客機と同程度の大きさとなる。そのため、飛 朝の凪の時間に飛行するために夜のうちに組み立てを行う。 行場までの運搬には分解・トラックへの積込・組立が必要だが、そ の方法はチームによって異なる。各大学の違いを見るのも面白い。 36 航空技術 No.709〔14-04〕 人力飛行機交流飛行会 2013 開催報告 37 ●部品展示● 大勢の見学者が見つめる中で、東京理科大学 ACM、静 岡大学ヒコーキ部のフライトが行われました。理科大チー ムは、安定した離陸と飛行の後に、しっかりと狙いを定 めての物資投下を行い高ポイントをマーク。しかし、操縦 系統トラブルに見舞われ、惜しくも主翼から接地しました。 本部テント脇に部品展示のコーナーを設け、技術交流の機会を設けました。複数チームの部品を比較しながら見る ことができます。各部品の説明ポスターも用意し、見学者に分かりやすいように配慮しました。 ▲離陸滑走を開始する静岡大チーム。今年で 3 回目の参加とな るが着実な進歩を重ねている。今後の活動が楽しみである。 ▲本部テント脇の部品展示スペース。人力飛行機チームの学生 ▲駆動系パーツの仕組みについて情報交換を行う参加者。実際に だけでなく、滑空機チームや社会人も多数参加し交流を深めた。 モノを見ての話が出来る為、有意義な質疑応答が行われていた。 静岡大チームは、本会での飛行に初成功(昨年までは 滑走のみの結果)し、物資投下もやり遂げました。どち らのチームも力を出し切った素晴らしいフライトを行った ようです。着陸後には、各チームの健闘を讃え、会場内 から拍手が送られました。 ▲理科大チームのフライトの様子。標的への物資投下を今行おう ▲順調に思われた理科大チームのフライトだが、終盤で操縦系統の とするところ。大勢の見学者の目前でフライトが行われる。 トラブルにより右主翼から着地。事前の安全管理のおかげで怪我人 はいなかった。来年の「鳥コン」でのリベンジを期待したい。 東京理科大 ACM 「彩雲」 昨年度より鳥コン優勝経験のある社会人チームの方からの指導を受 け、飛躍的に実力を伸ばしている東京理科大学 ACM。機体は、高翼・ トラクター方式とコンベンショナルな構造で高速で飛行できるように 設計されています。操縦系統は、ワイヤーリンケージです。 ▲鳥人間コンテスト優勝経験もある社会人チーム「Team F 」の ▲社会人チーム「Team F 」の自作計器。手の平サイズの自作基 駆動系パーツの展示。パイロットの脚力は、炭素繊維強化複合 盤に GPS、速度計、舵角計などを搭載し、実際の航空機と同等 材(CFRP)製のドライブシャフト、アルミ製ギア BOX を通して、 のレベル。ロガー (記録装置)を搭載し、ノート PC に接続すれば、 プロペラまで伝達されるようになっている。 飛行試験での飛行状態分析も出来るようになっている。 1位 投下距離:4.5m、飛行距離 154 m 全長:8.7(m)、全幅:24(m)、重量:36(kg)、機速:8.0(m/s) 静岡大学ヒコーキ部 「Pentas」 低翼・トラクター式、長距離飛行に重きを置いて設計されている機体 です。操縦系統はフライ・バイ・ワイヤで主翼にフラッペロンを搭載し、 より操縦性を高めています。2011 年度より 3 回目の参加で遂に定常 ■機体調整と飛行展示 飛行を成功させ、技術・運用ノウハウの蓄積を感じさせるフライト内 容でした。 機体安全チェックを終えた飛行展示参加チームは、午前 5 時半頃、それぞれ滑走路の半分を使用しての短距離飛行 および滑走試験を行いました。これは、飛行展示を行う前 に機体の状態をしっかりと確認してもらう事により、トラブ ルを減らす狙いです。 そして午前 5 時半、飛行展示参加 2 チームの機体を滑走 路南側のスタート位置まで誘導し、飛行展示を開始しまし た。フライト順は富士川飛行場に到着した順とし、東京理 科大学 ACM、静岡大学ヒコーキ部となりました。 全長:8.9(m)、全幅:30.6(m)、重量:38(kg)、機速:7.1(m/s) 電気通信大学 UECwings 「Lagopus」 片持ち主翼の高翼機。奇をてらわずコンベンショナルな設計。飛行展 示の予定でジャンプ飛行には成功していましたが一歩間に合わず。 ▲午前 4 時半:開会式を兼ねて見学者向けにスタッフから 走 10 点、離陸 10 点、飛行 100 点 ( 定 常 飛 行 60 点、飛 行距 離 最 大 40 点 )、 着陸 80 点 ( ソフトランディング 40 点、 狙い着陸 40 点 )、 投下物得点 ( ターゲッ ト 1 つにつき最 大 150 点、2 ヵ所をそ れぞれ狙ったボーナス点 100 点 ) とい う内訳になっている。 全長:7.9(m)、全幅:23(m)、重量:38(kg)、機速:8.5(m/s) の挨拶と注意事項の再確認を行った。 *飛行展示の点数は 600 点満点とし滑 38 2 位 投下距離:8.4m、飛行距離 50 m 3 位 投下距離:なし、飛行距離:なし 飛行展示では、パイロットの操縦技術 向上を狙い簡単な競技を行います。内容 としては、事前の安全審査点、飛行距離 と物資の投下、投票による加点とボーナ スポイントという 4 つの合計ポイントを競 航空技術 No.709〔14-04〕 うものとなっています。 東洋大学 人力飛行機を大空へ飛ばす会 「箭」 フレームに汎用性を持たせセッティングの幅が広く取れる様になっ ています。加工精度に問題なく、テストフライトを重ねる事で充分 に飛行可能であると感じました。 人力飛行機交流飛行会 2013 開催報告 全長:10.0(m)、全幅:33(m)、重量:42(kg)、機速:6.8(m/s) 39 地上展示 ◆機体展示&交流会◆ 飛行展示が終了した午前 7 時頃から、3 チームの機体を滑走路中心部に集め機体展示及び参加者の交流会を 行いました。参加者の間で活発に質疑応答が行われていました。実際に機体を囲んで会話が出来るので、人的に も技術的にも密度の高い交流が期待されました。 ▲機体展示の様子。機体組み立て見学の時と違い、実際に飛行したのを見た後では、参加者の出場チームへの質問する内容も違ってくる。 ◆閉会式&撤収◆ 交流会と機体展示の終了後、7 時 30 分に閉会式 を開始しました。閉会式では、飛行展示の記録発表 及び表彰と、交流飛行会代表からの終わりの挨拶、 最後に集合写真の撮影が行われました。 ▲閉会式での表彰の様子。どのチームも素晴らしい機体で、交 流飛行会に参加してくれた。その努力と成果に会場からも拍手が 送られた。 閉会式後は機体の解体と撤収作業を開始すると同 時にアンケートの回収を行いました。機体の解体・ 撤収作業が終了すると、参加チーム及び交流飛行会 運営スタッフにより滑走路点検が行われ、午前 9 時 には参加者全員の撤収を完了しました。 ■最後に 今年も人力飛行機交流飛行会を企画・実行し、怪我人なく無事に終了することが出来ました。幾つかの課題も 残りましたが、このような会を継続して行っていくことが、鳥人間コンテストの競技レベルの維持・向上、出場す るチームの技術的向上や新たな人力飛行機のコミュニティの創出など、人力飛行機に携わる多くの人たちの為に なると考えています。また、学生に航空工学やプロジェクトマネジメントを体験させる絶好の機会を提供していく 場になり得るとも考えています。 今回、会を運営し、実行するに当たって困難な問題もありましたが、当日にボランティアをしていただいた方々 をはじめ、多くの方々にご協力やアドバイスを頂き、成功することが出来ました。この場を借りてお礼申し上げます。 有難うございました。今後も交流飛行会を見守って頂けるよう、皆様にお願いいたします。 <交流飛行会関連リンク集> ・人力飛行機交流飛行会スタッフ公式 BLOG http://hpahikoukai.blog.fc2.com/ ・鳥人間コンテスト & 人力飛行機ファンサイト「Trimania X」 交流飛行会 2013 広報ページ http://www21.atwiki.jp/trimaniax/pages/281.html 40 航空技術 No.709〔14-04〕 人力飛行機交流飛行会 2013 開催報告 41