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航空衛星データ通信における通信輻輳と伝送遅 時間特性

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航空衛星データ通信における通信輻輳と伝送遅 時間特性
研究報告
ELECTRONIC NAVIGATION
電子航法研究所報告
RESEARCH INSTITUTE PAPERS
№106 2003.11
№106 November
航空衛星データ通信における通信輻輳と伝送遅
石
出
明,藤
田
光
紘,北
折
2003
時間特性
潤
Transmission Delay Characteristics and Link Congestion
in Aeronautical Satellite Data Communication
Akira ISHIDE, M itsuhiro FUJITA and Jun KITAORI
Abstract
Satellite data communications have been introduced in some areas to provide the means for message exchange
between air traffic controller and pilot,and for aircraft surveillance in oceanic areas.Before the completion of the
standards on aeronautical satellite data communications by the International Civil Aviation Organization (ICAO),
we had conducted a series of flight experiments using INMARSAT satellites to validate the draft standards.In the
flight experiments,we evaluated the characteristics on transmission delay for various flight environments.In the
flight experiments, only one Aircraft Earth Station (AES) was used and the effect of traffic congestion on
transmission delay characteristics was not evaluated.
We reorganized the experimental equipment for the flight experiment and established a satellite data link
experiment system in the laboratory.The experiment system consists of four pseudo-AES,an experimental Ground
Earth Station (GES), fading simulators and experimental Air Traffic Control (ATC) equipment. This system
provides the environment where the transmission delay characteristics can be evaluated for multiple AES
environment in a practical satellite link condition.We also developed a computer simulation software to evaluate
the transmission delay characteristics for many AES environment. This report describes the transmission delay
characteristics for various traffic conditions obtained from the laboratoryexperiments using the satellite data link
experiment system and from the computer simulations.
ENRI Papers No. 106 2003
1
1.まえがき
て回線が混雑したときのデータ伝送特性の変化は評価で
きなかった。そこで,衛星実験用に開発した航空機地球
現在,洋上の航空管制において,地上の管制機関と航
局(AES),航空地球局(GES)
,地上装置を組み合わせ
空機の間の通話には主として短波の無線電話が用いられ
て室内実験のための衛星データリンク実験システムを構
ており,また洋上の航空機の監視にも短波の無線電話に
築した。衛星データリンク実験システムは ICAO の衛星
よる約1時間に1回の位置通報が用いられている。しか
データ通信に完全準拠し(言い換えると,インマルサッ
し,短波の無線電話は電離層の影響を受けてしばしば音
トシステム定義書の DATA-3に適合)
,航空通信ネット
質が劣化し,またチャネル数も十 とはいえない。また,
ワーク(ATN)に適合する性能をもつように改造した 。
航空機の位置監視能力も十 とはいえない状況である。
この衛星データリンク実験システムでは,4台の擬似
したがって今後の航空
AES を用意するとともに実際の衛星回線で生じる信号
通量の増加を えると,新たな
通信,監視方式が必要である。そこで,国際民間航空機
レベルの変動や熱雑音を模擬できるようにした。そして,
関(ICAO)では,新たな通信,監視方式として静止衛星
この実験システムを用いて,回線が混雑したときのデー
による通信とそれを利用した自動 従 属 監 視(ADS:
タ伝送特性を測定した。
Automatic Dependent Surveillance)を導入することと
本報告では,衛星データリンク実験システムについて
し た。そ し て,ICAO で は1988年 か ら 航 空 衛 星 通 信
述べるとともに,本実験システムを用いた実験及び計算
(AMSS:Aeronautical M obile Satellite Services)に
機 シ ミュレーション に よ り 伝 送 速 度600bps 及 び10.5
関する国際標準及び勧告方式(SARPs:Standards and
kbps で得られた様々な通信の輻輳状態における伝送遅
Recommended Practices)の策定を開始し,1995年に同
時間特性について述べる。なお,これまでに ICAO の
SARPs を発効した。
航空衛星データ通信基準に適合する衛星データ通信の伝
電子航法研究所では,1989年から ICAO の SARPs 案
送特性についての発表はあまりみられない。
に適合する衛星データ通信実験システムを開発し,イン
マルサット衛星を利用して衛星データ通信及び ADS の
評価実験を行い
2.実験システム
,ICAO での SARPs 案の検証を行っ
てきた。しかし,衛星実験では,航空機地球局(AES)
図1に衛星データリンク実験システムの構成を示す。
が1機のみであったので,複数の航空機が回線を 用し
実験システムは機上データ端末,DATA-3装置,
衛星デー
図1
2
衛星データリンク実験システムの構成
電子研報告 No. 106 2003
表1 データ通信方式
タ・ユニット(SDU:Satellite Data Unit)
,SDU 制御
部等で構成する擬似 AES,実験用 GES,コンピュータ,
管制端末,ADS 表示装置等で構成する実験用地上装置及
び衛星回線を模擬するフェージング・シミュレータで構
成される。この構成で ICAO の航空衛星通信の SARPs
またはインマルサットのシステム定義書(SDM :System Definition Manual)に規定された DATA-2及び
DATA-3のビット指向型のデータ通信を行うことができ
る 。ま た 室 内 実 験 で は 実 際 の 衛 星 回 線 で 発 生 す る
フェージングや雑音の影響を模擬するためにフェージン
グ・シミュレータを介して擬似 AES と実験用 GES を
図2 DATA-2のプロトコル構成
IF(Intermediate Frequency:中間周波)回線接続して
いる。
表1に本実験システムのデータ通信方式を示す。GES
から AES の回線では P チャネル,AES から GES の回
線では R 及び T チャネルと呼ばれるチャネルがある。P
チャネルは時 割多重(TDM :Time Division Multi方式である。R チャネルはスロット付アロハ方式
plex)
で,33 octet 以下のデータの伝送に用いられる。また,
T チャネルは予約時 割多元接続(TDMA:Time Divi-
図3 DATA-3のプロトコル構成
sion Multiple Access)方式で,34 octet 以上のデータ
の伝送に用いられる。変調方式,フレーム構成及びイン
タリーバ構成は伝送速度によって異なる。
図2に本実験システムで DATA-2のデータ伝送を行
う場合のプロトコル構成を示す。図3に本実験システム
で DATA-3のデータ伝送を行う場合のプロトコル構成
2.1 プロトコル構造
ENRI Papers No. 106 2003
を示す 。DATA-2と DATA-3のプロトコル構成上の違
3
いはサブネットワーク層の有無である。DATA-2にサブ
ネットワーク層を付加した DATA-3では後述するよう
な機能上の違いがある。以下に,サブネットワーク層の
機能について述べる。
サ ブ ネット ワーク 層 は 開 放 型 シ ス テ ム 間 相 互 接 続
(OSI:Open Systems Interconnection) に 準 拠 し た
コネクション型のパケットデータ伝送をサポートする。
サブネットワーク層の機能としては,データリンク層の
データ転送機能を用いて,エンド・システム間でトラン
スペアレントな(伝送する内容に関係なく,その内容を
改変しないで伝送することを意味する)データ伝送を提
供することである。論理呼(VC:Virtual Call)は AES
がログオンした後であれば,機上データ端末及び管制
図4 SNPDU 基本フォーマット
データ端末のどちらからでも設定あるいは開放できる。
サブネットワーク層は以下の3つの副層で構成される。
⒜ 衛星サブネットワーク・デペンデント(SSND:Satellite Sub-Network Dependent)副層
⒝
サ ブ ネット ワーク・ア ク セ ス( SNAc: SubNetwork Access)副層
⒞ インタワーキング(IW :Interworking)副層
衛星サブネットワーク・デペンデント(SSND)副層は
AES と GES の両方にあり,両 SSND 副層間で peer-topeer の伝送プロトコル制御を行う。SSND 副層間で転送
されるデータは SNPDU(Subnetwork Protocl Data
Unit)と呼ばれる。SNPDU はサブネットワーク制御情
報(SNPCI:Sub-Network Protocol Control Information)とサブネットワーク・サービス・データ・ユニット
(SNSDU:Sub-Network Service Data Unit)で構成
図5 Data SNPDU のフォーマット
される。図4に SNPDU の基本フォーマットを示す。
SNPDU の最大長は506 octet である。最初の2 octet は
ヘッダである。M ,D はそれぞれ M ビット,D ビットと
GES か ら AES の コ ネ ク ション 設 定 に 対 し て GES の
呼ばれる。これらのビットの
い方については Data
SSND 副 層 が 巡 回 で 割 り 当 て,128∼255を AES か ら
SNPDU の所で述べる。SNPDU タイプは,第3 octet 以
GES のコネクション設定に対して AES の SSND 副層
降に続くデータのタイプを示す。SNPDU のデータタイ
が巡回で割り当てる。
プには,Connection Request,Connection Confirm,
サブネットワークアクセス(SNAc)副層は地上サブ
Connection Released,Connection Release Complete,
ネットワークと機上サブネットワークの間のサブネット
Acknowledge,Interupt Data,Interrupt Confirm,
ワーク・アクセス・プロトコルを定義する部 である。
Reset,Reset Confirm,Flow Control(Suspend),Flow
例えば,GES が地上側通信ネットワークと接続された場
Control(Resume)及び Data がある。このうち,Data
合は ITU-T X.75
(網間接続手順)が,地上端末と接続さ
SNPDU はユーザーデータを伝送する SNPDU である
れた場合は ITU-T X.25
(網端末間接続手順)が用いられ
が,他は伝 送 制 御 用 の SNPDU で あ る。図 5 に Data
る。
SNPDU のフォーマットを示す。論理チャネル番号は,
インタワーキング(IW )副層は SSND 副層と SNAc
衛星サブネットワーク内の VC を識別するための番号
副層の間でパケットの橋渡しをする部 である。また,
で,0∼255の範囲の数字を 用する。通常,0∼127を
SSND で設定される論理チャネル番号と SNAc 副層で
4
電子研報告 No. 106 2003
設定される論理チャネル番号の対応付けも行う。付録Ⅰ
順番で AES から送信されたとき,
用されるチャネル
に DATA-2及び DATA-3の代表的な伝送シーケンスを
やデータリンク層で発生する再送等で順序が逆転し,
示す。
,
「あいうえお」
,「きくけこ」という順番
GES では「か」
で受信されても,エンド・システムにはこのままの順序
2.2 データリンク層及び物理層での処理
で送られる。しかし,DATA-3では,受信順序が送信順序
前節で述べた SNPDU はデータリンク層に送られる。
と違っても Data SNPDU のヘッダにある情報により補
データリンク層で SNPDU は P,R 及び T チャネルそ
正して「あいうえお」
,「か」
,
「きくけこ」という正しい
れぞれ異なるシグナル・ユニット(SU:Signal unit)の
順序にしてエンド・システムに送る。
組に作り直される。付録Ⅱに各チャネルの SU フォー
⑶ 大容量データの伝送
マットを示す。各 SU に収容できるユーザーデータの大
(サブネットワーク層の SNPDU
DATA-2では,LSDU
きさは付録Ⅱのように決められており,SNPDU をその
と同じ)単位でしかデータの伝送はできないため,エン
大きさに合わせて 割し,複数の SU に作り直される。P
ド・システム間で伝送できるデータの大きさは504 octet
チャネルでは,SNPDU の大きさが4 octet 以下のとき
までである。DATA-3では,Data SNPDU 単位でデータ
は LSU(Lone Signal Unit)に,4 octet を超えるとき
の伝送を行うため,エンド・システムから大容量のデー
は ISU(Initial Signal Unit)と SSU(Subsequent Signal
タを一度に送信することが で き る。す な わ ち,Data
Unit)に作り変えられる。T チャネルでは,P チャネル
SNPDU の1 octet 目にある M ビットを
と同じ ISU と SSU に作り変えられる。R チャネルでは,
によって,Data SNPDU がまだ連続しているか,それで
ISU と SSU は同一の SU フォーマットである。
終わりなのかを示す情報を相手方に受け渡すことができ
このようにして作られた SU の組は物理層に送られ
る。物理層で,SU の組は伝送信号フォーマット(付録Ⅲ
用すること
るので,データの大きさに制限なくエンド・システム間
でデータの伝送ができる。
参照)の決められたデータフィールドに収納され,変調
⑷ エンド・システム間の送達確認
されて衛星回線で伝送される。P チャネルの伝送信号は
DATA-2では,データリンク層までしかないためデー
連続信号であるが,R チャネルと T チャネルの伝送信号
タリンク層間で SU 単位のデータ送達確認が行われる。
はバースト信号である。
DATA-3では,サブネットワーク層があるため,さらに
Acknowledgement SNPDU を用いてエンド・システム
2.3 DATA2と DATA3の相違点
間のデータの送達確認ができる。このエンド・システム
DATA-2と DATA-3の大きな違いには,以下の4つが
間 の 送 達 確 認 は Data SNPDU の 1 octet 目 に あ る D
ある。
ビットを設定することにより行われる。
⑴ サブネットワーク層の有無
サブネットワーク層は DATA-2にはないが,DATA-3
2.4 DATA2と DATA3の混在データの振り け
にはある。このサブネットワーク層では DATA-2ではで
GES では,DATA-2と DATA-3の両方のデータ伝送
きなかったアドレッシングと複数論理呼の制御ができ
を取り扱うことができる。AES から伝送されるユーザー
る。アドレッシングとはエンド・システムから接続した
データが DATA-2か DATA-3のどちらなのかは,衛星
いエンド・システムを指定する機能である。この機能に
データリンク層において,受信された LSDU の先頭の2
より,複数のエンド・システムと同時に接続することが
octet をみて判断する。先頭の2 octet がすべて1の場合
できる。すなわち,
DATA-2ではあらかじめ決められた1
は DATA-2,それ以外の場合は DATA-3のデータと判断
エンド・システムとしか接続できないが,DATA-3では機
する。DATA-2のユーザーデータはインタワーキング副
上側も地上側も任意のエンド・システム間で同時に接続
層に,DATA-3のユーザーデータは SSND 副層に渡す。
することができる。
そして,DATA-2のユーザーデータからヘッダを除いて
⑵ データの順序補正
ログオン時に設定された VC を通して地上データ端末装
DATA-2では,AES や GES におけるデータの送信順
置(DTE:Data Terminal Equipment)に送られる。一
序がデータリンク層で起きる伝送の追い越しによって
方,DATA-3の ユーザーデータ は SNPDU の タ イ プ に
データの受信順序が送信順序と異なっても補正されな
従って呼設定,呼解放等の呼制御とデータ転送を行う。
い。たとえば,
「あいうえお」,
「か」,
「きくけこ」
という
ENRI Papers No. 106 2003
5
3.伝送遅
時間特性
3.1 DATA2と DATA3
表 2 は DATA-2と DATA-3に つ い て P,R 及 び T
チャネル(伝送速度600bps)で測定した伝送遅 時間の
例である。なお本報告で述べる伝送遅 時間は図1の擬
似 AES の機上データ端末と実験用地上装置の管制端末
の間のデータ伝送に要する時間を意味する。搬送波電力
対雑音電力密度比(C /N )はインマルサットの SDM の
規 定 値 で あ る35dBHz に 設 定 し た。伝 送 遅
時間は
図7
R チャネルのユーザーデータ長と伝送遅
時間
DATA-2より DATA-3の方が若干小さい。サブネット
ワーク層の処理が加わる
DATA-2より DATA-3方が
10.5kbps では DATA-2に設定した。3.1で述べたよう
大きくなると えられるのでこれらは実際とは逆の結果
に,DATA-2と DATA-3で伝送遅 時間に差はない。R
にみえる。しかし,これは本来 DATA-3用のプロトコル
チャネルの伝送速度はそれぞれ P チャネルの伝送速度
処理ソフトウェアを DATA-2で
と同じである。ユーザーデータ長の増加にしたがって伝
えるように少し改造
を加えたためにこのような逆転した結果になったもの
送遅
時間は増加する。伝送速度10.5kbps の場合ユー
で,本質的には両者にほとんど差はないと えられる。
ザーデータ 長200 octet 及 び408 octet で ス テップ 的 に
伝送遅 時間が増加しているのはフレーム数が増加した
3.2 伝送データの大きさと伝送遅 時間
ためである。なお,本報告において,ユーザーデータ長
⑴ P チャネル
の octet 数及び SU 数は設定値を表わす。Tチャネルで
図6に P チャネル(伝送速度600bps 及び10.5kbps)の
はこの SU 数に1を加えた値が実際の回線で伝送される
ユーザーデータ長に対する伝送遅
時間測定結果を示
す。この測定で伝送速度600bps では DATA-3,伝送速度
量となることに注意されたい。
⑵ R チャネル
図7に R チャネル(伝送速度600bps 及び10.5kbps)の
表2
DATA-2と DATA-3の伝送遅
時間
伝送 SU 数に対する伝送遅 時間測定結果を示す。この
測 定 で 伝 送 速 度600bps で は DATA-3,伝 送 速 度10.5
kbps では DATA-2に設定した。P チャネルの伝送速度
はそれぞれ R チャネルの伝送速度と同じである。SU 数
の増加に従って伝送遅 時間は増加する。
⑶ T チャネル
図8に T チャネルのユーザーデータ長に対する伝送
遅 時間測定結果を示す。この測定でいずれの伝送速度
図6 P チャネルのユーザーデータ長と伝送遅 時間
6
図8 T チャネルのユーザーデータ長と伝送遅 時間
電子研報告 No. 106 2003
でも DATA-3に設定した。どの伝送速度でもユーザー
算機シミュレーションのためのネットワークモデルの表
データ長の増加に従って伝送遅 時間は増加する。ユー
示例を示す。
ザーデータ長が大きくなるといくつかのユーザーデータ
1つの SAT で P チャネル2つ,R チャネルを8チャ
長でステップ的に伝送遅 時間が増加しているのはバー
ネル,T チャネルを4チャネル扱えるが,本シミュレー
スト信号の数が1つ増えたためである。伝送遅 時間は
ションでは P,R 及び T 各チャネルをそれぞれ1チャネ
各チャネルの伝送速度が大きくなるにしたがって伝送遅
ルに設定して1チャネル当たりの特性を求めた。このシ
時間は減少する。
ミュレーションでフェージングや雑音等の回線条件その
ユーザーデータ長231 octet(基本 ADS ブロック 11
ものを模擬することはできないが,一定の SU ロス率
octet を ATN で伝送するときのユーザーデータ長に相
を設定することは可能である。ここでは,ビット誤り率
当)
のときの伝送遅
として SDM で規定されている10 に相当する各チャネ
時間は,T チャネルの伝送速度600
(P 及び R チャネル:600bps)
約26秒,T チャ
bps の場合
ルの SU ロス率を設定した。この値は P 及び T チャネル
ネルの伝送速度1.2kbps の場合(P 及び R チャネル:
では0.001,R チャネルでは0.0015である。本シミュレー
600bps)約16.4秒,T チャネルの伝送速度10.5kbps の場
ションでは設定した AES 数に応じて順次 AES を GES
合(P 及び R チャネル:600bps)約11.2秒である。また
にログオンさせてデータ伝送を開始するという形式で行
T チャネルの伝送速度10.5kbps の場合(P 及び R チャ
う。そこでシミュレーションでは設定した数の AES が
ネル:10.5kbps)約6.7秒である。
すべてログオンし,データ伝送を行っている定常状態の
20000秒間を対象とした。
4.計算機シミュレーションと実験の結果の比較
4.2 伝送データ長と伝送遅 時間
4.1 計算機シミュレーションの方法
⑴ P チャネル
計算機シミュレーションは,プロトコルシミュレータ
図10に伝送速度600bps 及び10.5kbps の P チャネルに
OPNET(米国 MIL3社製)上に AM SS 評価用モデルプ
おけるユーザーデータ長に対する伝送遅 時間の変化を
ログラム ASET(米国 M ayflower 社製)を載せ,これを
示す。図には,実験と計算機シミュレーションによる値
改造して行った。 用した計算機は HP 社製のワークス
の両方を示す。この図から,計算機シミュレーションに
テーション(VISUALIZE C160)
である。
ASET でのネッ
よる結果は実験結果とほぼ一致していることがわかる。
トワークモデルは,AES ノード,GES ノード及び衛星
⑵ R チャネル
(SAT)
ノードからなる。計算機シミュレーションでは,
図11に伝送速度600bps 及び10.5kbps の場合 R チャネ
GES と SAT は1ノードずつ配置し,AES 数が4,10,20
ルのユーザーデータ長に対する伝送遅 時間の変化を示
及び30となるネットワークモデルを作成した。図9は計
す。図には,実験と計算機シミュレーションによる値の
両方を示す。この図から,計算機シミュレーションによ
る結果は実験結果とほぼ一致していることがわかる。
⑶ T チャネル
図11に 伝 送 速 度600bps 及 び10.5kbps の 場 合 T チャ
図9 ネットワークモデルの表示例
ENRI Papers No. 106 2003
図10 P チャネルのユーザーデータ長と伝送遅
とシミュレーションの比較
時間―実験
7
図11 R 及び T チャネルのユーザーデータ長と伝送遅
間―実験とシミュレーションの比較
図13 回線混雑時の T チャネル伝送例
(各 AES の平 伝送間隔60秒)
時
図12 回線混雑時の T チャネル伝送例
(各 AES の平
図14 回線混雑時の T チャネル伝送例
(各 AES の平 伝送間隔30秒)
伝送間隔120秒)
ネルのユーザーデータ長に対する伝送遅 時間の変化を
示す。図には,実験と計算機シミュレーションによる値
の両方を示す。この図から,計算機シミュレーションに
よる結果は実験結果とほぼ一致していることがわかる。
4.3 通信輻輳と伝送遅 時間
回線が混雑すると,回線上で伝送データが別の擬似
AES から送信された伝送データと衝突して失われてそ
の失われたデータの再送が発生する,または伝送データ
の衝突が起こらないように伝送データの送信待ちが発生
するという事象が起こる。その結果伝送遅 時間は増加
する。擬似 AES から実験用地上装置への回線で各擬似
図15 P チャネルのトラフィックと伝送遅 時間―実験とシ
ミュレーションの比較
AES から伝送データを送信するタイミングは一般的に
ランダムである。そこで,送信という事象が発生する確
て伝送遅 時間を測定した。
これらの測定では,
ユーザー
率
データの長さと平 伝送間隔を種々変えて混雑状態を制
布として通常用いられるポアッソン
(伝送間隔は指数
布に従って
布)各擬似 AES の端末から伝送
御した。
データを送信し,実験用地上装置で受信して伝送遅 時
図12∼14に T チャネルで13SU のデータをそれぞれ平
間を測定した。また,実験用地上装置から擬似 AES の回
伝送間隔120秒,
60秒及び30秒で伝送したときの伝送遅
線でも同様にポアッソン 布に従って実験用地上装置の
時間の測定結果例を示す。伝送間隔が小さくなり回線
管制端末から伝送データを送信し,擬似 AES で受信し
が混雑するに従って伝送遅 時間の増加の発生頻度が増
8
電子研報告 No. 106 2003
し,またその大きさも増していることがわかる。
のデータを伝送したときの伝送遅
時間の平
値をシ
図15は P チャネルで2SU のデータを伝送したときの
ミュレーションと実験で比較したものである。AES 数は
伝送遅 時間の平 値と95%値をシミュレーションと実
シミュレーションでは4,実験では1∼4である。ここ
験で比較したものである。このシミュレーションでは
で,トラフィックは AES から送信された T チャネルの
。
DATA-3に設定した(以降のシミュレーションも同様)
データ信号が回線を占める時間率(%)である。図19で
AES 数はシミュレーションでは4,実験では1及び4で
伝送遅 時間はトラフィック40%までシミュレーション
ある。ここで,トラフィックは GES から送信された P
(○印と△印)と実験(●印と▲印)はほぼ一致してい
チャネルのデータ信号が回線を占める時間率(%)であ
る。シミュレーション(○印と△印)と実験(●印と▲
印)の結果はよく一致していることがわかる。
図16∼18は R チャネルでそれぞれ 1∼3 SU の デー
タを伝送したときの伝送遅 時間の平 値と95%値をシ
ミュレーションと実験で比較したものである。AES 数は
シミュレーションでは4,実験では1∼4である。ここ
で,トラフィックは AES から送信された R チャネルの
データ信号が回線を占める時間率(%)である。シミュ
レーション(○印と△印)と実験(●印と▲印)の結果
はほぼ一致していることがわかる。
図19∼22は T チャネルでそれぞれ5,13,20及び30SU
図16 R チャネルのトラフィックと伝送遅
ミュレーションの比較(1SU)
時間―実験とシ
図17 R チャネルのトラフィックと伝送遅
ミュレーションの比較(2SU)
時間―実験とシ
ENRI Papers No. 106 2003
図18 R チャネルのトラフィックと伝送遅 時間―実験とシ
ミュレーションの比較(3SU)
図19 T チャネルのトラフィックと伝送遅
シミュレーションの比較(5SU)
時間―実験と
図20 T チャネルのトラフィックと伝送遅
シミュレーションの比較(13SU)
時間―実験と
9
5.1 AES 数と伝送遅 時間
図23⒜及び⒝は P チャネル(伝送速度600bps)で2 SU
のデータを AES 数を変えて伝送したときの伝送遅
時
間の平 値と95%値を計算機シミュレーションにより求
めたものである。AES 数が4,10,20及び30のそれぞれ
について示した。この結果によると,AES 数が4の場合,
トラフィックが約25%以上で伝送遅 時間が急激に増加
している。AES 数が10の場合,伝送遅 時間の急激な増
加が始まるトラフィックは約40%である。AES 数が20及
図21 T チャネルのトラフィックと伝送遅
シミュレーションの比較(20SU)
時間―実験と
び30の伝送遅 時間はほぼ一致し,伝送遅
時間の急激
な増加が始まるトラフィックはどちらも約50%である。
図24⒜及び⒝は R チャネル(伝送速度600bps)でそれ
ぞれ1 SU のデータを AES 数を変えて伝送したときの
伝送遅 時間の平 値と95%値を計算機シミュレーショ
ンにより求めたものである。AES 数が4,10,20及び30
のそれぞれについて示した。図24⒜及び⒝から,伝送遅
時間の急激な増加が始まるトラフィックの最小値が
AES 数によって変化する様子がよくわかる。AES 数が
20や30の伝送遅 時間はほぼ同じになり,トラフィック
90%までどちらも伝送遅
時間の急激な増加は起きな
い。
図22 T チャネルのトラフィックと伝送遅
シミュレーションの比較(30SU)
時間―実験と
図25⒜及び⒝∼26⒜及び⒝は T チャネル(伝送速度
るが,それ以上では実験では急激な増加を示しているの
に対してシミュレーションではゆるやかな増加を示して
いる。図20では伝送遅
時間はトラフィック50%までシ
ミュレーションと実験はほぼ一致しているが,それ以上
では実験では急激な増加を示しているのに対してシミュ
レーションではゆるやかな増加を示している。図21及び
22では両者はほぼ一致している。図19と20でシミュレー
ションと実験で大きなトラフィックに対して伝送遅 時
間の増加の割合に差がでた原因は,実験では VC の re-
図23⒜
AES 数と P チャネルの伝送遅 時間平
値
図23⒝
AES 数と P チャネルの伝送遅 時間95%値
set,release により伝送遅 時間が増加しているのに対
して,シミュレーションではそれがないためではないか
と えられる。
5.シミュレーション結果
実験システムでは航空機数4機までの評価はできる
が,それを超える機数についてはできないので,実際の
運用環境である多数機の場合については計算機シミュ
レーションで評価を行った。以下にその結果について述
べる。
10
電子研報告 No. 106 2003
図24⒜ AES 数と R チャネルの伝送遅 時間平
値
図26⒜ AES 数 と T チャネ ル の 伝 送 遅
SU)
時間平
値(30
図24⒝ AES 数と R チャネルの伝送遅 時間95%値
図26⒝ AES 数 と T チャネ ル の 伝 送 遅
SU)
時 間95%値(30
600bps)でそれぞれ5及び30SU のデータを AES 数を変
えて伝送したときの伝送遅 時間の平 値と95%値を計
算機シミュレーションにより求めたものである。各図で
は AES 数が4,10,20及び30のそれぞれについて示し
た。T チャネルの場合は,どのユーザーデータ長でも P
及び R チャネルと違って AES 数の違いによる伝送遅
図25⒜ AES 数と T チャネルの伝送遅
時間平
値(5SU)
時間の差はみられない。
これらの結果から,AES 数を30程度にすればシミュ
レーションにより多数機の場合に近いデータ伝送特性を
評価できると えられる。
5.2 伝送速度と伝送遅 時間
⑴ P チャネル
図27に伝送速度600bps と10.5kbps の P チャネルにお
いて26SU(199 octet)のデータを伝送したときのトラ
フィックに対する伝送遅 時間の変化を示す。なお26SU
という長さは伝送速度10.5kbps における1インタリー
図25⒝ AES 数と T チャネルの伝送遅
時間95%値(5SU)
バブロックに相当し(表1)
,最も 用頻度が高いと想定
されるので選択した。AES 数は30である。図では,伝送
ENRI Papers No. 106 2003
11
図29 P チャネルのトラフィックとスループット(26SU)
図27 P チャネルのトラフィックと伝送遅
時間(26SU)
図28 P チャネル(10.5kbps,26SU)伝送時の R チャネルト
ラフィック
遅
時間を平
値と95%値で示す。伝送速度600bps で
図30 R チャネルのトラフィックと伝送遅 時間
は,トラフィック約70%まで伝送遅 時間はゆっくり増
加する。一方,伝送速度10.5kbps では,トラフィックが
図30に伝送速度600bps と10.5kbps の R チャネルにお
約60%を超えると,
伝送遅 時間は急激に増加する。10.5
おいて1 SU のデータを伝送したときのトラフィックに
kbps の方が600bps よりも小さいトラフィックで伝送遅
対する伝送遅 時間の変化を示す。AES 数は30である。
時間の急激な増加が起こるのは,同一のトラフィック
図では,伝送遅 時間を平 値と95%値で示す。伝送速
では,メッセージ数が10.5kbps の方が多く,したがって
度600bps では,トラフィックの増加に従って伝送遅 時
ACK を伝送する R チャルネルのトラフィックが大きく
間はゆっくり増加する。一方,伝送速度10.5kbps では,
なるためと
トラフィックが約40%を超えると,伝送遅
えられる(図28)。
図29は,
この場合のスルー
プットの変化を示す。ここで,スループットは GES から
時間は急激
に増加する。
AES に正しく伝送された P チャネルのデータ信号が回
図31に R チャネルのスループットとトラフィックの
線を占める時間率(%)である。スループットは,伝送
関係を示す。ここで,スループットは AES から GES に
速度600bps では約80%,伝送速度10.5kbps では約60%
正しく伝送された R チャネルのデータ信号が回線を占
で頭打ちになっている。このようにスループットが頭打
める時間率(%)である。同図には比較のためスロット
ちとなるのは,後述するように R チャネルのスループッ
付アロハ方式の理論値を示した。シミュレーションによ
トが制約されるためと
るスループットは,伝送速度600bps の場合理論値とほぼ
えられる。
⑵ R チャネル
一致するが,伝送速度10.5kbps の場合は,理論値に対し
R チャネルにおける SU 数は1∼3個の範囲である。
て少し低下している。図32は,R チャネル伝送時の P
そこで以下に,その最小と最大となる SU 数についてシ
チャネルのトラフィックと伝送遅 時間(平 値)を示
ミュレーションを行った結果を述べる。
す。P チャネ ル の ト ラ フィック は R チャネ ル の ト ラ
12
電子研報告 No. 106 2003
図31 R チャネルのトラフィックとスループット
図34 R チャネルのトラフィックとスループット
図32 R チャネル(10.5kbps,1SU)伝送時の P チャネルト
ラフィックと伝送遅 時間(平 値)
図35 R チャネル(10.5kbps,3SU)伝送時の P チャネルト
ラフィック及び伝送遅 時間(平 値)
する伝送遅 時間の変化を示す。AES 数は30である。図
では,伝送遅 時間を平 値と95%値で示す。伝送速度
600bps では,トラフィックの増加に従って伝送遅 時間
は ゆっく り 増 加 す る。伝 送 速 度10.5kbps で は,ト ラ
フィックが約70%までは600bps 以下でゆっくりと増加
している。しかし,トラフィック約70%を超えると,伝
送遅 時間は急激に増加する。
図34に R チャネルのスループットとトラフィックの
関係を示す。ここで,スループットは AES から GES に
正しく伝送された T チャネルのデータ信号が回線を占
図33 R チャネルのトラフィックと伝送遅
時間(3SU)
める時間率(%)である。同図には比較のためスロット
付アロハ方式の理論値を示した。伝送速度600bps と10.5
フィックとともに増加しているが,伝送遅 時間はほぼ
kbps のいずれの場合も,シミュレーションの結果は理論
一定で P チャネルは混雑していないことを示している。
値に対して少し低下している。これは理論値ではすべて
し た がって,伝 送 速 度10.5kbps で R チャネ ル の ト ラ
同一のデータ長(1 SU)を仮定しているのに対してシ
フィックが増加するとともに伝送遅 時間が急激に増加
ミュレーションでは再送データの長さが1 SU から3
するのは R チャネルでの伝送データの衝突による伝送
SU まで混在するために伝送効率が低下したと
データの再送によるものと えられる。
る。
えられ
図33に伝送速度600bps と10.5kbps の R チャネルにお
図35は,R チャネル伝送(10.5kbps)時の P チャネル
いて3SU のデータを伝送したときのトラフィックに対
のトラフィックと伝送遅 時間(平 値)を示す。P チャ
ENRI Papers No. 106 2003
13
ネルのトラフィックは R チャネルのトラフィックとと
もに増加しているが,伝送遅
時間はほぼ一定で P チャ
ネルは混雑していないことを示している。したがって,
伝送速度10.5kbps で R チャネルのトラフィックが増加
するとともに伝送遅
時間が急激に増加するのは R
チャネルでの伝送データの衝突による伝送データの再送
によるものと えられる。
また,伝送データが1 SU の場合(図30)と3 SU の場
合(図33)を比較すると前者の方が後者より R チャネル
のトラフィックに対して伝送遅
時間の増加率が大き
い。これは,R チャネルのトラフィックが同一である場
合,1 SU の場合より3 SU の場合の方が伝送データ単
位(1 SU または3 SU)では平 の伝送間隔が大きくな
図36 T チャネルのトラフィックと伝送遅 時間(30SU)
るため衝突する割合が少なくなり,伝送データの再送頻
度が減少するためと えられる。
⑶ T チャネル
図36に 伝 送 速 度600bps と10.5kbps の T チャネ ル に
おいて30SU のデータを伝送したときのトラフィックに
対する伝送遅
時間の変化を示す。この30SU という長
さは基本 ADS ブロック(11 octet)を ATN で伝送する
ときの伝送データ長にほぼ相当するので選択した。AES
数は30である。伝送遅
時間は伝送速度10.5kbps では
600bps に 比 べ 低 く なって い る。伝 送 速 度600bps 及 び
10.5kbps ともにトラフィックが増加するにしたがって
緩やかに増加する。伝送速度600bps ではトラフィックが
図37 T チャネル(10.5kbps,30SU)伝送時の P チャネルト
ラフィック
約60%を超えると急激に増加しているが,伝送速度10.5
kbps ではトラフィックが約85%までゆっくり増加して
いる。
図37に伝送速度600bps 及び10.5kbps の P チャネルの
トラフィックと伝送遅
時間(平
値)を示す。P チャネ
ル の ト ラ フィック は T チャネ ル の ト ラ フィック が 約
80%になるまでゆっくりと増加しているが,その値は最
大約8%である。また伝送遅
時間は T チャネルのトラ
フィックに対してあまり変化はない。したがって P チャ
ネルは T チャネルの伝送遅
時間増加にあまり影響し
ていない 。
一方,図38に示すように,R チャネルのトラフィック
は伝送速度10.5kbps では最大約7%であるが,伝送速度
図38 T チャネル(10.5kbps,30SU)伝送時の R チャネルト
ラフィック
600bps では最大16%に近くなっている。前⑵項で示した
ように,R チャネルではトラフィックが少なくても伝送
データの衝突・再送は発生しており,トラフィックが増
この図のように伝送速度10.5kbps に比べ伝送速度600
加するにしたがって顕著になる。したがって,伝送速度
bps の方が R チャネルのトラフィックの増加率が大き
600bps 及び10.5kbps い ず れ の 場 合 も 図38に 示 し た R
いため T チャネルのトラフィックが少なくても T チャ
チャネルのトラフィックで衝突・再送は発生している。
ネルの伝送遅
14
時間の増加に影響していることがわか
電子研報告 No. 106 2003
る。ま た 伝 送 速 度10.5kbps で は,T チャネ ル の ト ラ
フィック が 約85%ま で T チャネ ル の 伝 送 遅
時間の
ゆっくりとした増加に影響している 。
時間は比較的ゆるやかに増加するが,10.5kbps の
ときは1SU のときより緩やかな増加を示した。伝送
遅
時間の増加は主として R チャネルでのデータ
の衝突・再送によるものと
6.あとがき
えられる。
⑶ T チャネルの場合,伝送速度600bps のとき伝送遅
時間はトラフィック約40%から大きく上昇する
本報告では,ICAO の航空衛星データ通信の基準に適
が,10.5kbps のときはトラフィック約85%までゆっ
合する衛星データリンク実験システムによる実験評価と
くり増加した。伝送遅
計算機シミュレーションによる評価で得られた通信輻輳
チャネルにおけるデータの衝突・再送による影響と
時のデータ伝送特性について述べた。
時間の増加は主として R
えられる。
P,R 及び T チャネルにおいて伝送速度600bps 及び
ATN では伝送情報が小さくても上位層のヘッダが付
10.5kbps のときの伝送データの大きさに対する伝送遅
加されるためユーザーデータ長は大きくなるので,伝送
時間を定量的に明らかにした。伝送遅
時間は伝送
速度は10.5kbps とすることが望ましい。また,伝送速度
データが大きくなるに従って増加する。また伝送速度が
10.5kbps でも通信輻輳により伝送遅
時間は増加する
大きくなるに従って伝送遅 時間は減少する。代表的な
ので,GES の運用に当たっては P,R 及び T チャネルの
伝送遅 時間の測定値は下記の表に示す通りである。
数と回線のトラフィックの関係を十
慮する必要があ
る。
参 文献
[1]
石出明,藤田光紘,新美賢治, 崎文孝,湯川清,
“自動従属監視(ADS)実験システムの開発と実
験”,信 学 論(B-Ⅱ),Vol.J78-B-Ⅱ, No.5, pp.
366-373,1995.
[2]
石出明,藤田光紘,新美賢治,
“飛行実験による航空
衛星データ通信の伝送誤り特性測定”,
電子航法研究
所報告,No.104,pp.1-17,2003.8.
[3]
INMARSAT,”INMARSAT Aeronautical System
次に P,R 及び T チャネルにおいて伝送速度600bps
及び10.5kbps のときの通信輻輳に対する伝送遅
時間
を定量的に明らかにした。その結果をまとめると以下の
通りである。
Definition Manual”
[4]
飯田尚志編著,“衛星通信”
,オーム社,1997.
[5]
田畑孝一,
“OSI―明日へのコンピュータネットワー
ク”,日本規格協会,1987.
⑴ P チャネルの場合,伝送速度600bps 及び10.5kbps
[6]
石出明,藤田光紘,新美賢治,
“飛行環境における航
ともにトラフィックが60%を超えると伝送遅 時間
空衛星データ通信の伝送遅
は急激に増加する。P チャネルのトラフィックに対
究所報告,No.104,pp.18-31,2003.8.
する伝送遅
時間特性”
,電子航法研
時間の増加率は10.5kbps の方が大き
い。伝送遅 時間の増加とスループットの頭打ちは
主として R チャネルにおけるデータの衝突・再送に
よる影響と えられる。
⑵ R チャネルの場合,データが1 SU のとき伝送速
度600bps ではトラフィックの増加に従って伝送遅
時間は比較的ゆるやかに増加するが,10.5kbps の
ときはトラフィック約30%から急激に増加する。し
かし,データが3SU のとき伝送速度600bps では1SU
のときと同様にトラフィックの増加に従って伝送遅
ENRI Papers No. 106 2003
15
付録Ⅰ DATA-2と DATA-3の代表的な伝送シーケンス例
図A―1
16
DATA-2によるデータ伝送シーケンス例
電子研報告 No. 106 2003
図A―2
ENRI Papers No. 106 2003
DATA-3によるデータ伝送シーケンス例(D ビットが0の場合)
17
図A―3
18
DATA-3によるデータ伝送シーケンス例(D ビットが1の場合)
電子研報告 No. 106 2003
図A―4
ENRI Papers No. 106 2003
DATA-3によるデータ伝送シーケンス例(M ビットが0と1の場合)
19
付録Ⅱ SU フォーマット
図A―5 P チャネルの LSU フォーマット
図A―7 P/T チャネルの SSU フォーマット
図A―6 P/T チャネルの ISU フォーマット
図A―8 R チャネルの ISU/SSU フォーマット
20
電子研報告 No. 106 2003
付録Ⅲ 伝送信号フォーマット(伝送速度600bps)
図A―9 P チャネル
図A―10 R チャネル
ENRI Papers No. 106 2003
21
図A―11 T チャネル
(注)P
:伝送制御用 P チャネル
R
:伝送制御用 R チャネル
P :データ伝送用 P チャネル
R :データ伝送用 R チャネル
ACK:肯定応答
PACK:P チャネル ACK
RACK:R チャネル ACK
TACK:T チャネル ACK
CR,CC,CQ,CF,CA,IC,DT,RR:X.25のデータパケット
UW :Unique Word
SU:Signal Unit
LSU:Lone Signal Unit
ISU:Initial Signal Unit
SSU:Subsequent Signal Unit
AES ID:AES アドレス
GES ID:GES アドレス
Q number:優先度
Reference No.:データ番号
Sequence No.:SU 番号
CRC:誤り検出符号
D/R:Direct Link Service と Reliable Link Service の種別
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電子研報告 No. 106 2003
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