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中小企業IT化推進計画Ⅱ

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中小企業IT化推進計画Ⅱ
中小企業IT化推進計画Ⅱ
∼「業務改善のためのIT化」から「経営革新のためのIT利活用」へ∼
平成16年3月22日
中小企業庁
目次
はじめに
1
第1章 基本理念
1 競争力強化と経営革新の実現に向けて
(1)経営戦略を前提としたITの利活用
(2)ITを活用した競争力強化
(3)ITを活用した新市場開拓や創業促進
2 中小企業におけるIT利活用の現状と課題
3 IT導入への対応の遅れがもたらす影響
4 競争力強化と経営革新の実現に向けたIT利活用のステップ
2
2
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2
3
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7
8
第2章 中小企業におけるIT利活用の方向性
1 企業活動におけるIT利活用の方向性
2 方向性
(1)『設計・製造』
(2)『小売・流通』
(3)『顧客・サービス』
(4)『契約・決済』
(5)『社内情報』
3 IT利活用における成功のポイント
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第3章 中小企業のIT化推進の支援方策
1 中小企業が取り組むべき方策
2 公的機関が取り組むべき支援方策
(1)国
(2)地方公共団体
(3)中小企業支援機関等
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24
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資料1 中小企業のIT化推進の支援方策
1 IT利活用を促進するための人材育成
2 アドバイス・コンサルティング
3 高度なIT利活用のための支援
4 資金供給の円滑化
5 情報提供
資料2
用語集
はじめに
2001年1月の e-Japan 戦略の策定以来、インターネットやパーソナルコンピュ
ータの着実な普及等を受けて、情報技術(IT)の利用が急速に進展している。特に、
インターネット接続可能な携帯電話やモバイル端末の普及は、企業活動を拡大する道
具(ツール)として広く利用されるようになっている。
このような背景のもと、中小企業におけるIT利活用も本格的な展開を迎えつつあ
る。安価で、高機能で、利用可能なITが普及したことにより、従来、中小企業では
導入コストが高く断念していた情報機器の導入や独自の情報システムを構築するこ
とも可能となりつつある。安価なブロードバンドの発達により、インターネットを顧
客とのコミュニケーション強化の手段として活用したり、ASPサービスのようなI
Tサービスを必要な時に必要なだけ活用できるような環境も整いつつある。電子商取
引の制度的な基盤整備の進展と相まって、e-Japan 重点計画の中で示されている「平
成15年度末において中小企業のおおむね半数程度が、インターネットを活用した電
子商取引等を実施できること」という基盤整備の目標は達成された。
インターネットなどのITは、中小企業にこそ変革をもたらすものと期待される。
インターネットは、規模は小さいが専門性が高く行動力に富む中小企業や個人を融合
し、大企業に勝る創造性やコラボレーションの実現を可能とする。インターネットは、
中小企業の持つ機動性や意志決定の速さなどを発揮する場となるものと期待される。
我が国経済を支える中小企業が、これまで以上にITを利活用することにより、既
存の問題や課題を打開し、ITによる経営革新を実現することで、中小企業が持つ強
みを発揮することができるものと考えられる。高度なIT利活用により、中小企業が
取り組む経済活動の範囲が拡大し、「元気で、活力のある中小企業」が創出されるも
のと期待される。
一方で、急速なIT化の進展にキャッチアップができず取り組みが遅れている中小
企業も存在している。例えば、従来、電話やFAX等で行っていた受発注処理に対し
て、取引先から取引コスト削減、業務のスピードアップ、精度向上等を目的としてイ
ンターネット受発注処理への切り替えを求められるものの対応できない企業も出て
きている。IT化への対応の遅れは、さらなるコストダウンを求める取引先から選別
されることにもつながりかねない。IT化への対応は、あらゆる業種・業態・規模の
中小企業に不可欠な時代になりつつある。
本計画では、基盤整備という当初の目標を達成したことから、次なるステップとし
て、中小企業における高度なIT利活用を推進するために5つの方向性を取り上げて
いる。本計画で示す方向性は、中小企業がIT利活用を推進するにあたり、あくまで
も参考として示したものにすぎない。さらなるIT利活用を展開しようとする中小企
業、そして、これからITを活用して経営革新を進めようとする中小企業が取り組む
上で、1つの視点として活用されることを望む。
1
第1章 基本理念
1
競争力強化と経営革新の実現に向けて
デフレ経済が長期化し、我が国経済の発展を支えてきた中小企業を取り巻く経営環
境は厳しい状況となっている。ダイナミズムに富む存在である中小企業は、新製品開
発等、イノベーション活動をもたらし、我が国経済再生の先導役として期待されてい
る。しかしながら、我が国全体としての開業率は、高度成長期の 1960 年代以降は高
い水準を保っていたものの、1989 年以降は開業率が廃業率を下回る水準となり、長期
的動向としては低下傾向にある。
このような経済環境の下、インターネットなどのITを利活用することにより、成
長を続けている中小企業も存在している。特に、インターネットのブロードバンド化
や利用し易いITの普及は、業種・業態・規模によらず利用可能な経営資源として、
多くの中小企業に自社単独でのみならず、水平的展開による新たなる機会や挑戦する
場を提供し、変革をもたらすものと期待される。
(1)経営戦略を前提としたITの利活用
「ITを導入しさえすれば現場の生産性や営業力が向上するはず」と期待し、IT
投資を行ったものの、実際には競争力強化や経営革新に結びついていない企業も多い。
ヒト・モノ・カネといった経営資源に乏しい中小企業においては、IT投資は経営
判断そのものに直結している。貴重な経営資源から捻出したIT投資を企業の競争力
強化や経営革新につなげていくためにはどのようにすればよいのか。
ITの利活用に成功しているとされる企業の多くは、ITの活用を先に特定するの
ではなく、その企業全体における経営戦略や業務のあり方について検討を行った上で
IT導入を行っている。
経営者は、自社のノウハウや経営資源について、その強み弱みを再認識し、市場で
の役割と自社の核となる強みを明確にする必要がある。この核を中心とした適切な経
営戦略を構築することが極めて重要である。
「作業現場における無駄をそのままにしておいてITを導入したとしても、無駄込
みの自動化になってしまう」「業務革新、業務改善をやらないとITは何の意味もな
い、むしろお荷物になりかねない」という言葉にあるように、各工場や事業所など局
所的な改善・改革の場合においても、企業活動全体の最適化を念頭に置いて取り組む
ことが肝要である。
(2)ITを活用した競争力強化
品質向上や納期短縮に係る明確な経営戦略を持って、自社の持つ高度な技術力やノ
ウハウをITと融合させ、新たな高付加価値を創出していくことが重要である。こう
した高付加価値の創造は自社に競争力強化をもたらすとともに厳しい国際経済競争
2
環境下で発展していくための不可欠な要素となっている。
また、ITの導入により、現状業務の無駄を排除し、コストを徹底的に削減するこ
とにより競争力を強化することが可能である。
「ネットワークを介して設計図面の共有化により開発期間の短縮が可能になった」
「顧客情報や経営情報を社員全員で共有化することができ、営業力を強化することが
できた」など、これまで非効率な作業であった業務に対してITを活用することによ
り業務効率や生産性の向上が可能である。徹底した無駄の排除が新たな競争力の源泉
となり、新たな価値創造につながる。
(3)ITを活用した新市場開拓や創業促進
これまで大手企業の下請であった中小製造業が、自らのアイデアや技術を商品化し
て、インターネットを通じた新しい販路の確保をすることで直接企業や一般消費者と
取引を行うことを可能とし、より高付加価値な事業に転換している取り組みも現れて
いる。
また、インターネットは、起業して間もないベンチャー企業や、技術力は持ってい
るが販路開拓に活路を見いだせない中小企業にとって、規模や地域性という制約条件
を打破し、新たなる成長のきっかけを与える。創業間もないベンチャー企業でも、イ
ンターネットのネットショップに出店し、独自のサービスや製品を提供することによ
り新しい市場を開拓し急成長しているところも多い。インターネットは、企業規模と
いう制約条件を払拭し、起業・創業におけるハードルを低下させている。
機動性や意志決定の速さなどを発揮する中小企業は、より一層のIT利活用を図る
ことで、企業の壁を越えた形でのコラボレーションを可能とし、新たなる付加価値を
創造することが期待される。特に、インターネットなどのITは、規模は小さいが専
門性が高く行動力に富む中小企業を結びつけ、変革をもたらすものと期待される。
競争力を強化し、経営革新を実現するための手段として、ITをどう経営に取り込
み、どのように利活用していくのかが、中小企業経営者の経営課題として問われてい
るのである。
2
中小企業におけるIT利活用の現状と課題
(1)IT導入の現状
<基盤整備>
インターネットの急速な普及、パソコン等の情報機器類の低価格化、操作性の向上
などにより、中小企業におけるIT導入が着実に進展している。
パソコン導入、インターネット導入、電子メールについては、8∼9割の中小企業
に導入が進んでおり、情報基盤整備はほぼ完了しつつある。企業内への情報機器類の
3
導入が進むのと呼応して、社員に対するIT教育・研修も半数の企業で実施されてい
る。
<情報システム>
業務処理に用いる情報システムについては、事務業務の効率化を目的として、会計
管理・販売管理・人事管理などにおける導入が進んでいる。
まだ、数割の企業に留まっているが、顧客情報や営業情報の共有化や事務処理の簡
素化・効率化を実現する社内情報システムの導入も進みつつある。グループウェアに
よる事務連絡や文書共有、モバイルでの業務報告システム(日報)などへの対応も進み
つつある。
<電子商取引>
パソコン導入、インターネット導入、電子メールの普及拡大により、企業間取引に
おいて電子データ交換を行っている企業も多い。電子メールなどによる取引先からの
見積書の入手や受発注に関する情報交換など、ネットワークを介した電子商取引は多
くの企業で行われている。実際、受注・発注や見積等のデータを電子メール等の手段
により企業間や一般消費者等とやり取りしている場合を含めると、電子商取引を実施
している中小企業は7割に達する。
企業間における電子データ交換の主な取引相手としては、受注企業が最も多くなっ
ている。受注企業からのリードタイム短縮への要請に対応するために、インターネッ
トや専用線を使った電子データ交換も進みつつある。受注から納品までの過程におい
て、受注企業と自社間での生産計画に関する情報共有を進めて対応しているところも
多い。
<ITサービス>
インターネットが普及したことにより、様々なITサービスを利用する環境も整い
つつある。インターネット上の調達サイトからの文具などの物品調達や、自社の製品
を売買するマーケットプレイスやポータルサイトへの登録を行っている企業も多く
なりつつある。
また、ネットバンキング(決済・口座振替)、取引先の信用与信の検索サービスな
ども利用されつつある。従来、サービス提供先に出向く必要があったり、対面やFA
Xなどでしかで受けることができなかった情報やサービスを、インターネット上で利
用する環境が提供されつつある。
<電子政府・電子自治体>
現在、電子政府・電子自治体の構築が進みつつあり、公共工事を中心として電子入
札・電子調達の導入が進展しつつある。建設業など一部の業種を中心として、電子証
明書を発行する電子認証サービスを利用する企業が増加傾向にある。
また、電子申請や電子納税、電子申告などが国、都道府県、市町村で本格的に導入・
普及する方向にあり将来的にこうした動きに対応する必要性が高まりつつある。
4
(2)IT導入の効果と評価
<期待と現実>
IT導入に対しては、9割の企業で経営活動におけるITの重要性について認識し
ている。IT導入の効果については7割の企業で効果が現れている。
中小企業におけるIT導入への期待については、事務業務等の定型業務の生産性向
上、顧客ニーズの迅速、的確な把握、商品・サービスの高度化による顧客満足度の向
上、顧客や取引先との緊密な連携が多い。
しかしながら、実際に期待した効果として得られているのは事務業務等の定型業務
の生産性向上に留まっている。顧客ニーズの迅速、的確な把握、商品・サービスの高
度化による顧客満足度の向上、顧客や取引先との緊密な連携については期待と実現の
ギャップも大きい。
<経営トップ>
IT導入効果がでている企業ほどIT化推進責任者が経営トップである割合が高
い傾向にある。IT導入を成功させるためには、経営トップ自らが積極的に関与する
ことが重要である。また、IT導入の効果がでている企業ほど、経営活動におけるI
T導入の位置付けが高い。
<IT投資への意向>
IT導入については9割の企業で経営活動において重要であり、7割の企業で導入
効果があるとしている。今後のIT投資については6割の企業で続けていく意向を持
っている。
特に、IT導入で効果がある企業ほど、IT投資を積極的に進める傾向にある。
(3)IT利活用における問題と課題
<人材>
中小企業におけるIT化の最大の課題は人材である。対応する専門の人材不足、従
業員のITリテラシ(情報活用能力)不足が顕在化している。また、外部の専門家の
協力を仰ぎたいところであるが適切なアドバイザー等の確保が困難とする中小企業
も多い。
IT化の効果をあげるためには、できるだけ多くの社員のITリテラシ向上に努め
ることが必要となっている。IT化推進にあたっては、社員全員の参加や協力が不可
欠である。社内のグループ活動の活用など、各企業においてIT導入をどのように進
めるべきか課題も多い。
<IT投資>
多くの中小企業において、IT導入に対して評価してはいるものの、IT投資に見
5
合う効果が得られない場合も多く、IT投資については評価できない、IT投資の方
法が分からないという状況にある。また、IT化を進めれば進めるほどIT関連の投
資額が増大する、ITの進展が早いために開発したシステムの改修サイクルが短くな
るなどの状況も起きている。
<ブロードバンド>
e−Japan戦略により全国レベルで、安価なネットワーク環境が整いつつある
が、地方都市や中山間地域の一部では、安価なブロードバンドの接続環境を利用でき
ない状況に置かれている。現在も中小企業の4割は、電話回線によるダイヤルアップ
接続、ISDNを利用している。
<情報セキュリティ>
情報セキュリティについては、まだ中小企業においては意識や位置付けが低い。今
後は、情報セキュリティへの関心を高めることが重要であると考えられる。
あらゆる情報システムがネットワークに接続されるようになると、コンピュータ・
ウィルスによる被害が自社のみならず取引先企業の企業活動にも影響を及ぼす可能
性がある。
また、電子商取引が本格的に普及するに従い、インターネット特有の問題である「な
りすまし」
「盗聴」
「データの改ざん」
「否認」といった課題への対応が必要とされる。
ネットワークを介した電子商取引の拡大や顧客情報の電子化が進みつつあるが、顧
客情報の流出などが発生した場合には企業存続を左右するような深刻な社会的責任
を負わなければならないこともありうる。中小企業においても、個人情報・プライバ
シー保護への対応が要請される。
出典:中小企業庁委託調査「中小企業におけるIT利活用に関する実態調査」
(平成15年12月)
より引用。
6
3
IT導入への対応の遅れがもたらす影響
ITの進展が早く、また、これまでとは違った知識や経験を求められることから、
人材不足に悩む多くの中小企業では、積極的なIT利活用を図るための業務の見直し
やIT投資に躊躇している企業も多い。
しかしながら、今後ますます顧客である一般消費者や取引先のIT化は進展するも
のと予想され、このような環境変化に対応した経営の見直し、競争力強化策の実施や
その場面でのITの利活用の遅れは企業経営に大きな影響を与えるものと考えられ
る。
○競争優位性の低下
中小製造業では、これまで原材料費や人件費等の経費縮減など経営合理化を通じて
コストダウンを強力に推進してきた。しかしながら、安価な輸入品の流入や親企業の
海外移転などが続く中、価格競争のみでは限界も多い。
今後も経営の合理化を推進するため、引き続きコストダウンへの取り組みは必要で
あるが、一方で単なる価格競争から脱却するため、これまで培ってきた高度な技術力
やノウハウとCAD/CAM等のITを上手く融合することで、納期短縮や品質向上
など新たな高付加価値を創造していくことが必要である。
今後、こうした高付加価値の創造などにより、単なる価格競争からの脱却を図って
行かなければ、厳しい国際競争環境下で自社経営の発展を図って行くことは困難であ
る。
○商品・サービス開発力の低下による取引縮小
デフレ経済を迎え、消費者の購買行動は大きく変わりつつある。顧客のニーズや販
売チャネルは急速に多様化しており、これらの情報処理にIT化は不可欠なものとな
っている。小売業や顧客サービスにおいて、IT利活用を上手く進める企業と未活用
の企業では、顧客情報の収集・分析力に大きな格差が生ずることとなる。これは、商
品開発力の低下を招くだけでなく、ひいては顧客満足度の低下を招き、サプライチェ
ーンを前提とする顧客や取引先からの選別を受け、取引が縮小する可能性がある。
○事務処理コストの増大
大手企業や取引先においてあらゆる業務のIT化が進展しつつある。企業間におけ
る情報のやり取りのIT化が進む中、企業内部における業務処理が従来のままであれ
ば、返って事務処理の煩雑化・非効率化を招くことが想定される。事務処理のIT化
への対応の遅れは、事務処理においても効率化を求める大手企業や取引先から選別を
受ける可能性がある。
○IT投資の効果減少
貴重な経営資源を投入した情報システムであっても、IT化を行った各業務や導入
したシステムの連携がなければ、せっかくのIT投資も十分な効果を得られないもの
となる可能性が高い。個別にIT化を進めると有益な情報が連携されないばかりか、
2重、3重の情報管理が発生する。こうした非効率なシステムは経営者の迅速で適切
な経営判断を妨げ受注機会損失等を招く可能性がある。
7
4
競争力強化と経営革新の実現に向けたIT利活用のステップ
中小企業におけるIT化の取り組み段階について、その取り組みのレベルによりI
T導入段階である「基盤整備」
、IT利活用による「業務改善」
「経営革新」の3つの
段階に分けることができる。
「基盤整備」の段階とは、IT化を進めるパソコン、インターネット、電子メール
等の情報ツールの導入と、使いこなすためのITリテラシ強化の段階である。従来、
手作業で行っていた業務処理の一部をIT化することにより効率化を実現している。
また、顧客との連絡を電子メール等で行うことにより、コミュニケーションを迅速
化するなど初期導入におけるIT化の効果は大きい。多くの中小企業はこの「基盤整
備」の段階にある。
「業務改善」の段階とは、個別業務システムの構築や社内におけるグループウェア
の導入等企業内部におけるシステム構築を進める段階である。「業務改善」では、特
定業務におけるIT化となるが、「基盤整備」の段階に比べ、IT利活用により、さ
らに多くのメリットを得ることができる。
「経営革新」の段階とは、社内の経営資源の活用や企業間取引などに情報システム
やネットワークシステムを積極的に利活用することにより、企業活動全体の経営革新
やその最適化を実現し、“真”のIT利活用のメリットを得られる段階である。この
段階では、多くの業務が統合され、IT利活用のメリットを最大化することができる。
各段階のIT利活用においては、顧客・取引先との企業間取引におけるIT化及び
社内におけるIT化の両面から取り組みが必要となる。
中小企業のIT利活用を推進するためには、こうした各段階に応じた支援策を講じ
る必要がある。
「基盤整備」の段階にある企業に対してはIT利活用に関する啓発・導入支援のた
めの「情報提供」「研修・セミナー」が中心となる。また、IT導入を支援するため
に「リース、融資、税制」などの資金面での支援も必要である。
「業務改善」の段階にある企業に対しては、単なるIT導入から一歩進んで、コス
トダウンやスピードアップなどIT利活用による業務改善を実現できるような「アド
バイス・コンサルティング」が有効である。また、IT利活用による効果を維持・充
実するために「リース、融資、税制」などの資金面での支援、中小企業が利用しやす
い業務用アプリケーションの開発支援も必要となる。IT投資を継続することで、競
争力の強化を図るとともに、新しいビジネスモデルへの展開も可能となる。
「経営革新」の段階にある企業に対しては、さらなるステップアップを支援するた
めに、対象とする業務の特性に応じた最適な業務モデル(ベスト・プラクティス)を
実現するための支援を行う。
8
競争力強化と経営革新の実現に向けたIT利活用のステップ
<IT利活用 の3段階モ デル>
経営革新
IT利 活用段 階
業務改善
IT導 入段階
IT化の段階
施策
情報提供
人材育成・啓蒙
アドバイス
コンサルティング
基盤整備
IT導入
IT利活用
基盤整備
業務改善
経営革新
情報ツールの導入、
使いこなすための
ITリテラシ強化
企業内部における
システム構築
社内の経営資源、
企業間取引など
企業活動全体の最適化
ポータルサイト、メールマガジン等による情報提供
ITセミナー、IT研修、 eラーニング等
専門家(ITコーディネータ、中小企業診断士等)派遣等
IT経営革新モデル事業
モデル開発
リース
融資、税制
IT貸付、IT投資促進税制等
各施策とも全ての段階において適用されうるものであるが、各施策の狙いや目的、各段階でのニーズ・効果の大きさを勘
案して区分した。
9
第2章
中小企業におけるIT利活用の方向性
1
企業活動におけるIT利活用の方向性
本計画では、中小企業におけるIT利活用による競争力強化と経営革新を実現する
先導的な取り組みとして、
『設計・製造』
『小売・流通』
『顧客・サービス』
『契約・決
済』『社内情報』の各企業活動におけるIT利活用の方向性を取り上げる。
まず、『設計・製造』における方向性として、高付加価値な新製品の開発、工程管
理・品質管理等質の向上へのIT利活用を実現する「ものづくりとITの融合による
差別化」について取り上げる。
次に、『小売・流通』における方向性として、企業間を越えた信頼関係による企業
間取引連携を実現する「情報共有・情報開示」を取り上げる。
そして、『顧客・サービス』における方向性として、顧客満足度やサービス品質の
向上を通じた「顧客との新たな接点、ビジネスチャンス拡大」を目指す、ブロードバ
ンドを活用した新たな価値創出について取り上げる。
また、中小企業における経理業務等の変革を実現するために、
『契約・決済』にお
ける方向性として「電子契約、電子手形」を取り上げる。
最後に、自社の経営情報を把握し、顧客ニーズへの迅速な対応を実現するために、
『社内情報』における方向性として、あらゆる情報をマネジメントする「スピード経
営」を取り上げる。
基本理念に沿って、これらの方向性による先導的な取り組みを増やすことにより、
中小企業における高度なIT利活用を促進し、我が国経済を支える中小企業の生産性
の向上、高付加価値サービスの実現、競争力の向上を目指すこととする。
10
∼「業務改善のためのIT化」から「経営革新のためのIT利活用」へ∼
●2001年1 月の「e−Jap an 戦略」の策 定以来、 インタ ーネットやパ ー ソナル コンピュ ータの 急速な普 及等 を受けて、情 報技術(I
T)の利用が着 実に 進展。
●急速な情 報化の 進展に キャッ チアッ プできな い中小 企業 も存在。情 報技術(IT)への 対応の 遅れは 取引先 から選別され る こと
にもつながりか ねない。
●情報化 への対 応は業 種・業態・規模 を問わ ず中小企 業にとり 不可欠な 時代に。
ITは、中小企業 にこそ
変革 をもた らすもの と
期待。中小企 業の持 つ
機動性・迅速 性や意 志
決定の速さな どを発揮
する 場。
<基本理念>
経営戦略を前提としたITの利活用
ITを活用した競争力強化
ITを活用した新市場開拓や創業促進
ITは、規模は小さ いが
専門性の 高く、行動力
に富 む中小 企業や 個
人 を融合し、 大企業 に
勝る創造 性や コ ラボ レー
ションの実 現が可 能。
中小企業における高度なIT利活用の5つの方向性を呈示
設計・製造
小売・流通
顧客・サービス
契約・決済
社内情報
中小企業のIT利活用の各段階
(「基盤整備」「業務改善」「経営革新」)
に応じた支援策
●IT利活用 を促進 する た めの人 材育成
●アドバ イス・コ ンサ ルティング
●高度なIT利活 用のた めの支援
●資金供 給の円 滑化
●情報提 供
『IT利活用による競争 力強化 と経営 革新』 を実 現
我が国経済を支える中小企業が、これまで以上にITを利活用することにより、
既存の問題や課題を打開し、中小企業が持つ強みを発揮。
「元気で、活力のある中小企業」を創出し、新しい市場の開拓や創業を促進するものと期待。
11
2 方向性
(1)『設計・製造』
ものづくりとITの融合による差別化
∼高付加価値な新製品の開発、工程管理・品質管理等質の向上へのIT利活用∼
実現したい目標
我が国の中小製造業が有している製造技術やものづくりに、CAD/CAM等のI
T利活用を加えて、高付加価値な新製品や試作品などの開発機能の強化を実現する。
IT導入への対応の遅れがもたらす影響
中小製造業では、これまで原材料費や人件費等の経費縮減など経営合理化を通じて
コストダウンを強力に推し進すめてきた。しかしながら、安価な輸入品の流入や親企
業の海外移転などが続く中、価格競争のみでは限界も多い。
単なる価格競争から脱却するため、これまで培ってきた高度な技術力やノウハウと
CAD/CAM等のITを上手く融合することで、納期短縮や品質向上など新たな高
付加価値を創造していくことが必要である。
今後、これまで培ってきた高い技術力を発揮できるようなIT利活用を図らなけれ
ば、技術力のある中小企業でも、厳しい国際競争環境下で自社経営の発展を図って行
くことは困難である。
IT利活用のモデル
金型の設計における納期短縮・品質向上(CAD/CAM)<製造業>
CAD/CAMと製造工程を直結することで、リードタイムの短縮ならびに品質向
上を実現。これまで培ってきた自社のノウハウを、CAD/CAMデータに情報とし
て加えることにより、付加価値の高い設計・製造を可能とし、他社製品との差別化を
実現する。高い技術力に加えIT利活用により、オンリーワンを実現し、単なる価格
競争から脱却する。
ノウハウ
付加価値の高い製造・
設計を実現
独自技術力+IT
CAD
独自製造データ
匠の技術力
経験
12
価格競争からの脱却
印刷会社における技術・ノウハウの体系化・標準化によるミスの削減(パッケージソ
フト、独自機能の自社開発)<印刷業>
熟練技術者のノウハウを最大限に活用し、印刷の各工程における手順をルール化、
ミスなどの事故情報のデータベース化を進めることで、人手で行っていた単純作業に
おけるミス発生を大幅に減少することができ、質の高い工程管理を可能とする。
システム導入は自社業務に適合していなければ最大の効果を発揮することができ
ない。中小企業においては、情報システムの独自開発を行うことは費用や人材、時間
の面から困難であることが多いが、市販のパッケージソフトに、自社開発の工程管理
システムを連動させることにより、導入効果の高い独自システムを構築することが可
能となる。
市販のパッケージ
単純作業の
ミス防止
各工程の手順
+
質の高い
工程管理
ルール
独自データベース
事故情報
印刷物
XML
キーワード
CAD/CAM、電子受発注、技術やノウハウの体系化・標準化、XML
13
(2)『小売・流通』
情報共有・情報開示
∼企業間を越えた信頼関係による企業間取引連携を実現∼
実現したい目標
企業間を越えた信頼関係を構築し、情報共有・情報開示を行うことで、自社そして
取引先も含めた共創関係を作りだすことができる。調達・製造・販売・在庫管理等の
情報を交換することで、市場ニーズへの即応を図り、連携する各企業の効率化を実現
する。
IT導入への対応の遅れがもたらす影響
デフレ経済を迎え、消費者の購買行動は大きく変わりつつある。中小小売業・卸売
業では顧客や取引先等のサプライチェーンの中で、情報化に迅速に対応していかなけ
れば、商品情報力、コストダウン等の実現が困難となるばかりか、サプライチェーン
を前提とする顧客や取引先からの選別を受け、取り残される可能性がある。
IT利活用のモデル
靴下卸売店における販売情報の共有化による在庫削減(SCM)<卸売業>
製・配・販において生産、在庫情報等を情報ネットワークで結び情報の共有化を行
うことにより、在庫削減などビジネスプロセス全体の最適化を図る。
各店舗のPOSデータ(販売情報)をインターネット経由で集計し、取引先のメー
カーに公開。メーカーは販売データを見て自ら追加生産すべき数を判断し、直ちに生
産にかかる。こうした「売れた分だけ作ってもらう」体制を構築することで、小売、
メーカーにおける在庫の大幅削減を行う。
情報の共有化
オープン化
製・配・販のネットワーク化
SCM
製造
流通
小売
生産計画の見直し、
最適化
流通在庫の圧縮
顧客ニーズ対応
店頭在庫の圧縮
14
アパレル店における検品作業・棚卸作業の効率化(ICタグ)<小売業>
ICタグを活用することにより、店頭在庫等の検品作業・棚卸作業等を効率化し、
物流コストや在庫削減の効果をあげることが可能となる。ICタグは、現段階では導
入費用が高いものとなるが、比較的高額な商品の在庫管理業務への導入は中小企業で
も実現可能である。
また、ICタグを活用して、企業内部の業務処理コストの削減を図るだけではなく、
取引先も含めた企業間取引への適用を図ることにより更なる効果をあげることが期
待される。
ICタグのような先端技術の導入にあたり、業務の抜本的な見直しや既存システム
との連動を図ることにより、中小企業でも革新的な導入効果の実現を可能とする。
ICタグの活用
ICタグ
検品作業・棚卸作業の効率化
業務の大幅効率化
在庫削減
欠品防止
キーワード
SCM、ICタグ、POS、電子受発注、情報の共有化・オープン化、顧客・生産同
期化生産モデル、ebXML、EDI
15
(3)『顧客・サービス』
顧客との新たな接点、ビジネスチャンスの拡大
∼ブロードバンドはあらゆるモノを結び付け、新たなる価値を創出∼
実現したい目標
インターネットは、中小企業に顧客と直接対話し、接触する機会を提供する。従来、
規模の小さい中小企業では取引先(チャネル)の拡大を図ることが困難であったが、
インターネットを活用することで、自社の持つ技術力やサービスに関する情報発信が
容易となり、独自のブランドを構築することが可能となる。また、顧客情報を活用す
ることで、顧客ニーズの発見、新規需要の創出や顧客満足度の向上を可能とする。
IT導入への対応の遅れがもたらす影響
顧客ニーズや販売チャネルは急速に多様化しており、これらの情報処理にIT化は
不可欠なものとなっている。顧客サービスにおいて、IT利活用を上手く進める企業
と未活用の企業では、顧客情報の収集・分析力に大きな格差が生ずることとなる。こ
れは、商品開発力の低下を招くだけでなく、ひいてはサービスレベルの低下をまねき、
販売力が弱体化することとなる。
IT利活用のモデル
タクシー会社における配車サービスの高度化(GIS、GPS)<運輸業>
業務ノウハウを取り込んだCTI対応顧客管理・配車システムとインターネット予
約システムを開発する。GPSを使い、インターネットより受付/配車/タクシーへの
指示という流れを自動化する。顧客までの配車時間を短縮し、顧客満足度とサービス
向上を実現する。
GPS/GIS
配車時間の短縮を実現し、顧客サービスの
向上に寄与
車両運行管理システム
配車指示
配車指示
CTI
顧客管理システム
インターネット予約システム
を活用した配車予約
顧客の位置情報から、最も近くにいる車に
対して、自動的に配車指示
モバイル
16
工務店における営業効率化と顧客への情報提供(ホームページ)<建設業>
インターネットを通じて注文住宅の計画から着工、完成までの詳細な情報を顧客別
のページに掲載し、施主と建築会社間で情報共有を図ることにより高い顧客満足度の
獲得を実現する。顧客との新たなチャネルを持つことにより、顧客との信頼関係を強
化し、顧客が顧客を紹介するビジネスモデルを構築し、営業の効率化を図る。また、
顧客に提供する情報を施工業者と建設会社間での現場進捗管理としても活用するこ
とで質の高い管理業務を実現する。
顧客への 情報提 供に よる
サー ビス向上
現場進捗 管理へ の活用
建築会社
施主
現場進捗 管理システム
イン ターネット経由の
施工状況 の確認
作業報告と して登録。そ の情報 を
顧客用に 再利用
施工業者
キーワード
GIS、GPS、顧客管理システム、工程管理システム、CTI、モバイル
17
(4)『契約・決済』
電子契約、電子手形
∼変わる中小企業の経理業務∼
実現したい目標
我が国中小企業における商取引の特性を反映した、電子決済サービスの普及を促進
し、中小企業における決済業務の高度化や財務体質の強化を推進する。電子決済や電
子契約に対応することで、顧客への新たな決済手段による市場開拓と決済業務の効率
化が期待される。
また、小口決済の手段としてICカードによる電子マネーの普及が進んでいる。中
小企業においても、特に販売・サービスの分野において、電子マネーへの対応を推進
する。
IT導入への対応の遅れがもたらす影響
企業内部の情報処理について、総務・経理業務部門についても生産性向上が求めら
れている。電子契約や電子手形など新しい電子決済サービスが普及すれば、取引先と
の決済業務に要する業務処理コストを減らすことができる。今後、これらの決裁サー
ビスに対応していかなければ、決済業務の処理コスト削減が実現できないばかりか、
電子決済を前提とする顧客や取引先からの選別を受け、取り残される可能性がある。
IT利活用のモデル
電子契約による契約手続き、受発注の迅速化(電子契約)<建設業>
電子署名法、IT書面一括法により電子署名による電子契約が法制度面では可能
となっている。インターネット上での電子署名による契約手続きを実現し、契約業務
の効率化を実現する。中小企業においては、小口・多頻度発注が多いため、契約手続
きや注文書等のやり取りが実際に商取引行為に前後することが多い。電子契約により、
中小企業における契約業務の高度化や適正化を実現する。
電子認証 局
電子契約 書
電子証明 書
による 押印
電子証明 書
による 押印
電子契約 書
契約書保 管
契約締結 に係わ る事 務業
務の効率 化
契約書保 管業務 の効率 化
安全・セキュリテ ィ確保
18
郵送・持参費 用の コスト削
減
電子手形(電子決済)の活用による決済業務の効率化(電子手形)<共通>
中小企業への金融サービスの効率化は遅れている。中小企業向け電子手形サービス
が普及することにより、中小企業における決済業務を効率化することが可能である。
金融機能のIT化ないしはITを活用した新たな金融サービスの利用により、中小
企業の財務体質の改善を実現する。
取引コス トの 削減
手形管理 業務の 効率化
資金調達 手段の 多様化
B社
A社
電子手形
の譲渡
電子手形
による 支払 い
電子手形
○○○株式会社
¥*,***,***
電子認証 局
○○○株式会社
¥*,***,***
・電子署名(押印)
・情報の流れ
・電子署名(押印)
・情報の流れ
期日での
決済(引落)
C社
電子手形セ ンタ ー
・期日での決済(入 金)
・割引
資金決済
E金融機 関
D金融機関
キーワード
電子契約、電子手形、電子マネー、電子入札、電子商取引(EC)
19
(5)『社内情報』
スピード経営
∼あらゆる情報をマネジメントする∼
実現したい目標
中小企業こそ顧客ニーズや市場動向に応じた機動性の高い経営の実現が求められ
る。社内における顧客情報や物流データ、生産データなどあらゆる情報を活用するこ
とで、スピード経営が可能となる。スピード経営により、商品・サービス開発力の向
上を図り、受注機会損失の防止や業務効率化、徹底的な無駄の排除を実現する。
IT導入への対応の遅れがもたらす影響
顧客や取引先とのIT化が進むなか、各システムの情報が個別に管理され、有益な
情報が連携されていないばかりか、重複して情報を管理する場合も出てきている。そ
のため、多額のIT投資を行っても効果が十分にあがっていないことも多い。社内に
おける情報共有・情報流通を変革しなければ、受発注業務や在庫管理業務において、
非効率となるばかりでなく、経営者の迅速な経営判断を阻害し受注機会を逸すること
になりかねない。
IT利活用のモデル
食品製造会社における経営情報と顧客情報の一元化によるスピード経営(基幹業務統
合管理システム)<製造業>
顧客管理システム、在庫管理システム、生産計画システムなど複数の基幹系システ
ムを統合することにより、経営情報の一元化を実現し、スピード経営を実現。
各システムが統合的に管理されているため、受発注データと生産計画との連動が可
能となり、受発注業務の効率化、過剰在庫の削減、受注機会損失の防止等を可能とす
る。
顧客管理システ ム
受発注業 務の効 率化
営業情報の共有
在庫管理システム
グル ープウエア(スケジュ ールな ど)
経営情報 の一元 化
工程管理 の効率 化
人員配置 の適正 化
過剰在庫の削減
生産計画システ ム
20
訪問介護サービスにおけるサービス提供の抜本的効率化(顧客データベース)<医
療・福祉>
顧客データベースを活用することで、サービスの質の向上を実現し、高い顧客満足
度を得ることが可能となる。
また、顧客データベースと連動した事務処理システムにより介護報酬計算等の介護
サービスに関わる事務処理の大幅な効率化を実現することができる。
介護スタッフ、配食サービスなどの業務にも顧客情報を活用し、分析を行うことで、
サービス利用者へのよりきめ細かい介護サービスの提供を目指す。
利用者ニーズへの対応
介護サービスの質の向上
利用者に最適な
ケアプランの作成
訪問介護サービス
事業者
ケアプラン作成
顧客
データベース
介護報酬計算など
事務処理の効率化
配食サービス
利用者の好みに応じた配食
配送ルートの見直し
キーワード
基幹業務統合管理システム、ASP、モバイル、グループウェア
21
3
IT利活用における成功のポイント
方向性におけるIT利活用成功事例のポイントを整理すると下記のようになる。I
T利活用で成功を収めるためには、経営者自らがIT化の必要性について理解を深め、
経営改革とIT化の同時進行と共に、中小企業支援施策の活用、外部専門家の活用等
を行うことが重要である。
○経営者が必要性を理解し、自ら積極的に関与すること
・ ITに関する高度な知識やスキルは、必ずしも必要ではない。むしろ、企業
戦略として、将来何を実現したいのかを具体的に描き、システム構築の担い
手に伝えることが重要である。
・ 中小企業におけるIT投資は、厳しい経営環境の中、経営判断が必要である。
・ 経営者自らが、IT化の必要性を理解し、積極的に関与することで、有効な
IT利活用が実現する。
○経営課題を解決する手段としての“IT利活用”を図ること
・ 「具体的に何を解決したいのか」、経営課題を明確にした上で、真に必要かつ
効果のある分野へのITの積極的な利活用を行うこと。
・ IT利活用を「手段」と割り切り、「目的化」しないこと。
○IT化における推進担当者の育成と従業員の意識改革
・ ITに興味を持つ人材を登用し、育て、任せることが重要である。
・ 最初はITに詳しくなくても、導入する対象業務を熟知していれば、効果あ
るIT化が実現でき、無用なIT投資を防ぐことができる。
・ これまで手作業で行ってきたものがIT化により抜本的に効率化される等、
体感できるIT化を進めることで、従業員の意識改革を促進することも重要
である。
○先進技術と経験・技・匠の組み合わせによる実現
・ IT利活用を進めている中小企業で、大企業でも未導入の先進技術により効
果をあげている事例が見受けられる。抜本的に改善したい業務やサービスを
実現するために、先進技術を活用することで、差別化を図ることができる。
・ 導入にあたっては、先進技術だけではなく、自社でこれまで培ってきた経験・
技・匠などとの関係を充分に整理した上でうまく組み合わせることにより効
果を着実なものとしている。
○外部専門家(ITコーディネータ等)の活用
・ IT化を進めるにあたり、ITコーディネータ、中小企業診断士等の外部の
専門家を活用することで、IT化をより効果的に進めていることが多い。
・ 社内人材の確保が難しい中小企業においては、経営課題とITの双方に通じ
た外部専門家を活用することで、短期間に、適切な課題解決が可能となる。
22
第3章 中小企業のIT化推進の支援方策
中小企業におけるIT利活用を推進することにより、我が国経済の発展を支えてき
た中小企業の「強み」を発揮し、経済再生に大きく貢献することが期待される。
しかしながら、IT利活用を推進するにあたり、人材、資金、情報など経営資源が
不足している中小企業は多い。
このため、国としては、IT利活用により競争力向上や経営革新への挑戦を行う中
小企業を支援すべく、IT化推進の支援方策を講じていくこととしている。
しかしながらIT利活用は、まず中小企業自らが積極的に取り組むことが必要であ
る。その上で、国、地方公共団体、都道府県等中小企業支援センター、商工会、商工
会議所、中央会等は、IT利活用に取り組む中小企業を支援するとともに、個々の企
業では整備することができないIT化のための環境づくりを進めていく。
1
中小企業が取り組むべき方策
IT利活用を推進するにあたり、経営者自身がその必要性を理解し、積極的に関与
することが必要である。ITに関する高度な知識やスキルは、必ずしも必要ではない。
むしろ、企業戦略として、将来何を実現したいのかを具体的に描き、システム構築の
担い手に伝えることが重要である。
IT利活用を進めるにあたり、
「具体的に何を解決したいのか」、経営課題を明確に
した上で、真に必要かつ効果のある分野へのITの積極的な活用を行うことが肝要で
ある。
また、IT利活用にあたっては、従業員、取引先など情報連携を行う多くの関係者
への働きかけが不可欠である。IT化における推進担当者の育成を積極的に行い、従
業員の意識改革をする必要がある。
IT化の進展は非常に早い。社内人材の確保が難しい中小企業においては、経営課
題とITの双方に通じた外部専門家を活用することで、短期間に、適切な課題解決が
可能となる。IT化を進めるにあたり、ITコーディネータ、中小企業診断士等の外
部の専門家を活用することで、IT化をより効果的に進めることも必要である。
2 公的機関が取り組むべき支援方策
(1)国
国の支援方策は、IT利活用に関する情報提供、パソコン、インターネットなどの
IT導入支援や高度なIT利活用への支援が中心となる。
IT化を進める中小企業者の中にはどのようにIT利活用を進めるべきか悩むケ
ースが多い。中小企業が積極的にIT利活用を行い、経営革新を実現できるようIT
利活用の事例、制度の広報などの情報発信・情報提供を進める。
電子商取引に必要な基盤が整備されつつあるが、今後は、電子商取引の特性を踏ま
えた企業信用情報の入手・提供、与信、決済、クレーム処理、取引保険、電子認証、
セキュリティの確保等の機能について、中小企業が活用しやすいように整備していく
23
ことが重要である。
また、電子認証等の基盤を活用し、電子契約や電子手形といった新たなサービスの
利用促進を図ることで、中小企業における業務処理の効率化を実現する。
標準化された商品コードやビジネスプロトコル(企業間取引時の商品の呼び方や注
文帳票、価格交渉や支払い方法等業務上の取決め)の開発普及、中小企業が共通して
活用可能なソフトウェアのモデル開発普及など中小企業のIT化に向けた基盤整備
を推進する。
政府系金融機関を通じた融資等IT化に必要な資金を提供することが求められる。
人材については、経営者に対するIT研修を進めるとともに、経営革新とIT化に
関してバランスよく的確なアドバイスを行える人材の活用・育成に取り組む必要があ
る。
(2)地方公共団体
各地方公共団体は、地域における中小企業のIT化推進の担い手でもある都道府県
等中小企業支援センターを通じて、IT関連のセミナー・研修の実施、専門家の派遣、
窓口相談、人的ネットワークの構築等の事業を必要に応じて推進する。
更に都道府県等中小企業支援センターを中心として、地域中小企業支援センター、
商工会、商工会議所、中央会等の地域や業界等に密接に関連した支援機関とネットワ
ークを構築することにより、地域の特性や業界の実状に応じたIT化を支援すること
が望まれる。
また、地域において中小製造業に対する技術相談等を実施している公設試験研究機
関は、中小企業によるCAD/CAMの活用等ものづくり分野におけるIT活用の促
進に努める必要がある。
(3)中小企業支援機関等
地域に密着した商工会、商工会議所、業種別組織等の支援を行う中央会等の支援機
関は、中小企業に対し、その業種・業態毎にIT化の目標・導入段階等に応じたきめ
細かい実践的な研修や、経営に対するアドバイスを行うことが必要である。
業種横断的な会員が参加している商工会、商工会議所、中央会等の支援機関が中心
になって、電子認証等中小企業が電子商取引を活用していくため、必要な基盤を整備
する課題に取り組むことも求められている。
インターネットへ接続する中小企業が急速に増加しているが、業種・業態が多様な
中小企業にとって使いやすいインターネット上で稼働する共通的なソフトウェアが
必ずしも開発・普及されていない。電子商取引を円滑に推進していくため、業界毎に
あるいは異業種間で連携して行う取り組みに対して、中小企業団体中央会等が中心的
役割を果たしていくことが求められている。
中小企業IT化支援施策・制度の成果を更に発揮するためには、公的機関の支援施
策・制度とそれを活用する中小企業間の潤滑油の役を担う専門家の活躍が期待される。
24
資料1
1
中小企業のIT化推進の支援方策
(平成16年度)
IT利活用を促進するための人材育成
事業名
実施内容
実施機関
実践的 IT 研修の実施
都道府県等中小企業支援センターが、中小企業団体等と連携を図り、中小企業経営者等を対
都道府県等中小企業支援
象に、インターネットを活用した電子商取引等の実施のための実践的な IT 研修を必要に応じ
センター
て実施する。
経営指導員等 IT 研修の実施
中小企業大学校が、商工会・商工会議所の経営指導員等に対して、必要に応じて IT 指導スキ
中小企業大学校
ルを付与する研修を実施する。
支援体制強化情報ネットワーク整
商工会等の経営指導員が行う、経営指導を効果的・効率的に実施するため、相談事例、人材
備推進事業
情報等をデータベース化し情報の共有化を図る。
IT セミナー等の開催
都道府県等中小企業支援センターが、中小企業団体等と連携を図り、中小企業経営者等を対
都道府県等中小企業支援
象としたセミナーを IT コーディネータ等の専門家を活用しつつ、必要に応じて開催する。
センター
2
全国商工会連合会
アドバイス・コンサルティング
事業名
実施内容
実施機関
戦略的情報化投資活性化支援事業
経営戦略とIT双方に通じた専門家(ITコーディネータ等)を活用し、中小企業にとって
国
(ITSSP)
ビジネスモデルとなりうるようなIT投資を促進する。
IT 推進アドバイス事業
中小企業総合事業団が、中小企業の依頼に応じ、IT 導入に関する専門家(IT コーディネータ
等)を派遣する。
資料 1-1
中小企業総合事業団
3
高度なIT利活用のための支援
事業名
実施内容
実施機関
IT 活用型経営革新モデル事業
地域企業のITを活用した経営革新を促進するため、地域でモデルとなりうる企業間連携ネ
国
ットワーク・システム等の開発・導入を行う中小企業者等に対して経費の一部を補助すると
ともに、その成果の普及活動を実施する。
中小商業ビジネスモデル策定支援
中小商業者や中小商業団体が行う IT 活用等、近年の社会的要請に対応した新たなビジネスモ 国
事業
デルに必要な実現可能性調査や情報収集分析システムの導入等経営革新に資するモデル的な
実証実験事業を支援する。
中小企業技術基盤強化推進事業
ものづくりに携わる熟練技能者が保有する技能の客観化・マニュアル化・デジタル化の促進
新エネルギー・産業技術
CAD/CAM/CAE の統合に向けた共通フレームワーク(プラットフォーム)の構築により中小製
総合開発機構
造業の IT 化を推進する。
4
資金供給の円滑化
事業名
実施内容
実施機関
IT 貸付制度(低利融資)
情報技術の普及変化に関連した事業環境の変化に対応するための情報化投資の促進を図るた
中小企業金融公庫、国民
めに必要な資金を貸し付けます。また、その際には、都道府県等中小企業支援センターが派
生活金融公庫、商工組合
遣する IT コーディネータ等の専門家の診断・助言を活用することができる。
中央金庫
戦略的情報化機器等整備事業(リ
戦略的な情報化を進めるため、全国中小企業情報化促進センターが指定するリース会社から
全国中小企業情報化促進
ース)
情報化機器等を低リース料率でリースを受けることができる。
センター
IT 投資促進税制
全ての企業(青色申告企業)が行う自社利用の IT 投資に対して、10%の税額控除と取得財産
国
の 50%の特別償却の選択を認める制度を創設。特例として、資本金 3 億円以下の企業に関し
ては、税額控除を対象にリース(リース料金総額の 60%)も含める。
※法人税額の 20%を上限、超過分は一年分繰り越し可能。
資料 1-2
事業名
特許関係料金減免制度
実施内容
実施機関
研究開発型中小企業等を対象に、審査請求料・特許料軽減措置を講ずることにより、中小企
国
業の経営革新や新事業創出を支援する。
5
情報提供
事業名
実施内容
実施機関
e-中小企業庁&ネットワーク事業
中小企業支援機関との連携の下、メールマガジン等を活用して中小企業者及び創業予定者に
国
対し、最新の施策情報を直接発信するとともに、中小企業者等からの経営相談や意見を受け
付ける。
ポータルサイトの整備(J-Net21) 中小企業に関する情報の総合的な管理・検索を可能とする中小企業専門のポータルサイト
中小企業総合事業団
(J-Net21)を運営し、中小企業支援担当者及び中小企業者が必要な情報を容易かつ迅速に入
手できるワンストップサービスとしての情報提供支援の充実を図る。
IT活用指針データベース作成事 ITに積極的に取り組み、成果をあげている中小企業の事例を収集してデータベース化し、
業
中小企業総合事業団
インターネットにより発信するとともに、IT化のための手順及びチェックポイント等の情
報を付加したマニュアルを作成する。
経営実態把握サポートサイトの構
CRD(中小企業信用リスクデータベース)等を活用し、中小企業が経営実態を自己判断できる
築・運営
システムを構築し、ネット上(J-Net21)で公開し自由な利用に供する。具体的には、自社の
中小企業総合事業団
財務情報等をインプットすると、自社のデフォルト確率や経営上の問題点の指摘を受けるこ
とを可能とする。
中小企業情報化対策調査委託事業
中小企業の情報化、特に IT 化を推進するため、IT 投資事例を収集し、調査・分析を加え、 国
投資を行う上での問題点等を整理し、広く中小企業者に普及する。
資料 1-3
資料2
用語集
用語
ITコーディネータ
解説
経営戦略策定からIT投資の企画・調達、更にはシステムの開発・運
用に至る全てのプロセスで一貫して経営者をサポートすることができ
る人材。特定非営利法人 IT コーディネータ協会が研修及び認定。
IT書面一括法
書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律
の整備に関する法律(平成 12 年法律第 126 号)
。
ICタグ
IC チップを内蔵したタグ。この中に個別の識別情報等を格納し
ておくことで、電波を利用し、接触することなく近接した距離
において格納されたデータを読み書きすることが可能となる。
ERP
Enterprise Resource Planning の略。企業全体を経営資源の有
効活用の観点から統合的に管理し、経営の効率化を図るための
手法・概念のこと。
EDI
Electronic Data Interchange(電子データ交換)の略。異なる
企業間で、受発注や決済などの取引に関する情報を広く合意さ
れた規約に基づきコンピュータを介して交換すること。
ASPサービス
Application Service Provider の略。ビジネス用のアプリケー
ションソフトをインターネットを通じて利用するサービス。利
用者は、ASPサービスを提供する事業者と契約して利用する
ことができる。
XML
eXtensible Markup Language の略。データをネットワーク経由
で送受信するための言語で、独自のタグを指定できる言語の一
種。
ebXML
electronic business XML の略。ebXML は、受発注や見積もりな
どビジネス上のデータ交換の手順や表現形式に関する標準を定
め、一つのシステムですべての取引先に対応できるようにする
ことを目的としている。世界規模での企業間電子商取引におけ
る XML のビジネス利用に関する標準仕様を定義する団体、また、
同団体によって規定される技術標準。
CAD
Computer Aided Design の略。建築物や工業製品の設計にコン
ピュータを用いること。
CAM
Computer Aided Manufacturing の略。工場の生産ラインの制御
にコンピュータを応用すること。
グループウェア
情報共有やコミュニケーションの効率化をはかり、グループに
よる協調作業を支援するソフトウェアの総称。主な機能に、電
子メール機能、電子会議室機能、電子掲示板機能、ワークフロ
ー機能などがある。
資料 2-1
用語
SCM
解説
Supply Chain Management の略。IT を使って物の流れを把握し、
最適化する管理システムのこと。
GPS
Global Positioning System の略。人工衛星から送られてくる
電波を利用して地上の位置を三次元的に求める測位システムで
あり、米国が整備しているもの。
GIS
Geographic Information System の略(地理情報システム)
。位
置に関する情報をもったデータ(空間データ)を総合的に管理・
加工し、視覚的に表示できる高度な分析や迅速な判断を可能に
する技術。
CTI
Computer Telephony Integration の略。電話や FAX をコンピュ
ータシステムに統合する技術。サポートセンター、お客様相談
室など、顧客に電話で応対するコールセンター業務に広く利用
されている。
電子商取引
中小企業におけるIT利活用に関する実態調査では、
「電子商取
引」を「商取引に伴う一連の業務・行為(販売、生産管理、在
庫管理、設計管理、購買、物流管理、会計管理、原価管理、人
事・給与管理)のうち一部でもコンピュータを介したネットワ
ーク上で行っていること」と定義している。この定義に従えば、
一連の業務・行為の 1 つでも、ネットワークに接続されたコン
ピュータを活用したものがあれば「電子商取引の実施」に該当
する。例えば、受注・発注や見積等のデータを電子メール等で
やり取りしている場合も電子商取引の実施に該当する。
電子署名法
電子署名及び認証業務に関する法律(平成 12 年法律第 102 号)。
ポータルサイト
インターネットに接続した際に最初にアクセスする Web ペー
ジ。分野別に情報を整理しリンク先が表示されている。
マーケットプレイス
Web サイトを通じて売り手と買い手を結び付ける電子市場のこ
と。
資料 2-2
Fly UP