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詳細 - 日本心理学会
日心第70回大会(2006) 中国における大学生社会的スキル 尺度(ChUSSI)の有効性に関する研究 ○毛 新華・大坊郁夫 (大阪大学大学院人間科学研究科) Key words: 大学生社会的スキル尺度 中国 有効性 目 的 中国では、自文化に基づく社会的スキル尺度が必要である にもかかわらず、開発されていない。この現状を踏まえ、毛 (2005)、毛・大坊(2005a, 2005b)は一連の研究を通して、中国の 大学生を対象に、中国大学生社会的スキル尺度(ChUSSI)(以下、 オリジナル尺度と略す)の開発を試みている。 尺度開発の際、再テスト法を用いて尺度の信頼性を検討し たところ、4 つの因子(f1:相手の面子、f2:社交性、f3:友人への 奉仕、f4:功利主義)の前後の相関が検証できたものの、各因子 の合成得点に変動があった(毛・大坊, 2005b)。また、再テス トのサンプルデータを用いた因子分析では、オリジナル尺度 の構造とは同一ではなかった。その原因の 1 つとしては、再 テストのサンプル数の少なさ及びサンプルの偏りによる因子 構造の不安定性にあると考えられる。 そこで、本研究では、尺度の応用にとって問題と言える因 子合成得点の変動を払拭するために、オリジナル尺度と異な るサンプルを用いて、尺度の有効性を検討する。 方 法 調査対象 2006 年 3 月、中国大連市にある 2 つの大学で、 心理学に関する授業に受講する大学生 442 名を対象に質問紙 調査(以下 test と略す)を実施した。そして 4 週間後、同じ回 答者に同じ質問紙を用いて調査(以下 retest と略す)を行った。 二回目の欠席者や test-retest のそれぞれにおいて著しく欠損 値の多いサンプルを削除し、最終的に対応できたサンプルは 406 名(男子 170 名, 女子 236 名; 文系 235 名, 理系 171 名; 平 均年齢 20.38±1.11)であった。 質問内容 毛・大坊(2005b)で使用された尺度(中国の若者 の社会的スキル尺度候補項目リスト 96 項目;非言語的な感情 の表出性を測定する感情的コミュニケーション尺度(ACT); 若者の社会的スキル測定する(KiSS-18);日本人の対人的コン ピテンスを測定する日本的対人コンピテンス尺度(JICS))を用 いた。さらに、今回、回答者の回答動機をチェックするため に、MPI の L 尺度を用いた。その他、調査対象者の性別、年 齢、学部、学年、兄弟の有無、親友の数、恋人の有無の回答 も併せて求めた。 結 果 と 考 察 因子分析 毛・大坊(2005b)で得られた尺度をオリジナル尺 度とし、test の調査のデータを用いた因子分析の結果をそれ と比べると、3 項目は変動があった。しかし、3 つの項目のい ずれも二つの因子に負荷しており、2 番目の負荷がオリジナ ル尺度の傾向を示している。同じ方法で、retest のデータでの 因子分析の結果をオリジナル尺度と比べて、変動のあったの は 1 項目だけであった。retest は test と比べて、4 項目は変動 したが、そのうちの 3 項目がオリジナル尺度のレベルの値を 示した。test、retest を通して、変動のあった 4 項目のいずれ においても、二つの因子に負荷していて、二番目の負荷はオ リジナルに近い値を示している。これらのことにより、オリ ジナル尺度→test→retest の 3 回の調査を通して、尺度作成し た当初の因子構造は一貫していることが確認された。なお、3 回調査の各因子の因子寄与の一貫性 f1(4.66→4.12→5.03)、 f2(3.07→2.57→3.02)、f3(1.43→2.06→1.86)、f4(1.55→1.34→ 1.63)も確認できた。 信頼性 4 因子の test での信頼性係数は.86、.83、.62、.68 で、retest のは.91、.87、.74、.75 であり、オリジナル尺度 の.89、.86、.72、.70 とそれぞれ対応している。 既存尺度との相関 test-retest を通して、因子と既存尺度との 相関関係はほぼオリジナル尺度での相関関係を再現していた。 以上のことから、今回のデータはオリジナル尺度の特徴を 再現することができ、そのデータを用いた尺度の有効性の検 討が可能であると判断される。 その他の変数から見た回答の信頼性と妥当性 「親友の 数 」、「 恋 人 の 有 無 」 の 回 答 の test-retest 間 の 相 関 係 数 は.85、.90(p<.001)であり、十分な一致が見られる。なお、親 友を多く (6人以上)持つ大学生は親友が少ない大学生(5 人 以下)より、 「f2:社交性」と「f3:友人への奉仕」の二因子での 得点が有意に高くなっている。また、現在、恋人と交際して いる大学生はそうでない大学生と比べて、 「f3:友人への奉仕」 因子での得点が有意に高くなっている(表 1)。 表 1 親友の数・恋人の有無による各因子合成得点の変化 親友の数 恋人の有無 ( 5人 以 下 と 6人 以 上 で 区 切 る ) 因子 調査 区分 少ない f1 f2 f3 f4 多い t検定 なし あり t検定 n.s. 128.73 (16.37) 129.02 (15.74) n.s. 129.33 (16.84) n.s. test 128.32 (16.54) 130.05 (15.72) retest 128.29 (16.39) 129.56 (16.31) n.s. 127.97 (16.04) test 64.85 (13.67) 68.41 (13.48) 2.53* 66.28 (13.30) 66.85 (14.34) n.s. retest 65.73 (13.38) 68.72 (12.94) 2.07* 66.31 (12.72) 68.48 (13.80) n.s. test 36.72 (5.96) 38.19 (6.10) 2.17* 36.94 (6.00) 38.02 (6.02) 1.70 retest 36.43 (6.24) 37.68 (5.62) 2.01* 36.43 (5.92) 38.07 (6.03) 2.58* test 19.81 (6.24) 20.21 (5.77) n.s. 20.00 (6.39) 20.03 (5.38) n.s. retest 20.12 (5.71) 20.51 (5.92) n.s. 20.27 (5.84) 20.42 (5.64) n.s. † †p < .10; *p < .05 ( )は標準偏差 テスト前後のお 相よ 関び 合成得点 の変化4 因子の test-retestの相関については, f1:相手の面子は .81,f2:社交性 は.88,f3:友人への奉仕は .74,f4:功利主義は .80 であった (す べてp<.001) 。 また、 test-retest因子 の合成得点 の比較では, f1: 相手の面子 (t = -0.80, p=.42),f2:社交性 (t = 1.59, p=.11),f3:友 人への奉仕 (t = -1.55, p=.12),f4:功利主義 (t = 1.67, p=.09)の得 点の明確な 変化は認められなかった 。また、参考として、 KiSS -18は.84、 ACTは.79( すべて p<.001) だと高い相関も確認 された 上、 因 の 子合 成得 点 には 変 化が 認 めら れ なか っ た (KiSS -18(t = -0.62, p=.53);ACT (t = 1.10, p=.27))。 ま と め 本研究では、 十分なサンプル数 を確保した 上、 test-retestの 検討 を通して、 中国大学生社会的スキル尺度 (ChUSS I)の有効 性を確認し た。今後、この尺度は中国人大学生を対象とす 社会的スキルトレーニング (SST) において、 有効な 指標とする ことが期待でき る。 (MAO Xinhua, DAIBO Ikuo)